説明

潤滑基油の製造方法

フィッシャー・トロプシュ合成誘導原料と石油誘導原料との混合物に対し、接触的流動点降下処理を行うことによりパラフィン含有量が75〜95重量%の基油を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラフィン含有量が75〜95重量%の基油の製造方法に向けたものである。
【背景技術】
【0002】
WO−A−0246333には、621℃より高い沸点を有するT95%点のフラクションを溶剤脱蝋し、更に621℃より低い沸点を有するT95%点のフラクションを接触脱蝋して、2種の粘度グレードの基油を製造する方法が記載されている。これら2種のフラクションは、フィッシャー・トロプシュ誘導フラクションである。この高沸点のフラクション又は低沸点のフラクションは、任意にスラック蝋、原油の蒸留物、原油の脱アスファルト残留油であってもよい。
【0003】
NL−C−1015035には、フィッシャー・トロプシュ誘導原料に水素化異性化工程を行って、該原料から基油を製造する方法が記載されている。水素化異性化工程の流出流を蒸留して、沸点が380℃より高温の残留物を得ている。この残留物に対し、白金及びフェリエライトを含む触媒を用いて接触脱蝋処理を行う。
【0004】
US−A−6294077には、ZSM−5及び白金からなる触媒を用いた接触脱蝋処理が記載されている。
US−A−6025305は、フィッシャー・トロプシュ蝋原料をまず水素化異性化する方法を開示している。次に、水素化異性化の流出流は燃料及び潤滑油に分離される。この刊行物には、流動点降下処理は開示されていない。
【0005】
US−A−2002/0146358には、フィッシャー・トロプシュ誘導蝋原料の水素化異性化法が記載されている。水素化異性化工程の流出流を蒸留して、炭素原子数が20以上の塔底フラクションを得ている。この塔底フラクションには接触脱蝋処理を行ってよい。
【0006】
WO−A−0157166には、フィッシャー・トロプシュ蝋から得られた高度パラフィン系基油を自動車エンジンの潤滑油配合物に使用することが記載されている。実施例は、このような配合物がエステルでも構成されることを例証している。この特許の記載によれば、エステルは添加剤溶解力のような他の所望特性を付与するために添加される。
【0007】
WO−A−0157166に示されるような潤滑油配合物にエステル補助(co−)ベース液を使用するのは、このようなエステル補助ベース液が幅広く入手できず、したがって高価になるので望ましくない。添加剤溶解力は、パラフィン含有量の少ないパラフィン系ベース原料を用いることにより、改良できる。このような基油は、石油誘導蝋を水素化異性化し、次いで溶剤又は接触脱蝋工程を行うことにより製造できる。このような方法の欠点は、例えばスラック蝋のような出発石油誘導蝋が容易に得られないことである。更にこの種の蝋は、本発明のような所望の基油を作るのに必要な所望の多量のパラフィン含有量に必ずしも達していないかも知れないからである。
【特許文献1】WO−A−0246333
【特許文献2】NL−C−1015035
【特許文献3】US−A−6294077
【特許文献4】US−A−6025305
【特許文献5】US−A−2002/0146358
【特許文献6】WO−A−0157166
【特許文献7】EP−A−699225
【特許文献8】EP−A−649896
【特許文献9】WO−A−9718278
【特許文献10】EP−A−705321
【特許文献11】EP−A−994173
【特許文献12】US−A−4851109
【特許文献13】EP−A−0909304
【特許文献14】EP−A−1137741
【特許文献15】EP−A−1392799
【特許文献16】EP−A−1311651
【特許文献17】WO−A−9802502
【特許文献18】WO−A−0027950
【特許文献19】WO−A−9500604
【特許文献20】EP−A−0883664
【特許文献21】EP−A−0863963
【特許文献22】EP−A−776959
【特許文献23】EP−A−668342又はEP−B−668342
【特許文献24】US−A−4943672
【特許文献25】US−A−5059299
【特許文献26】WO−A−9934917
【特許文献27】WO−A−9920720
【特許文献28】AU−A−698392
【特許文献29】WO−A−9410264
【特許文献30】EP−A−0582347
【特許文献31】WO−A−9220759
【特許文献32】WO−A−9201657
【特許文献33】US−A−4859311
【特許文献34】WO−A−9718278
【特許文献35】US−A−5053373
【特許文献36】US−A−5252527
【特許文献37】US−A−4574043
【特許文献38】US−A−5157191
【特許文献39】WO−A−200029511
【特許文献40】EP−B−832171
【特許文献41】WO−A−9802503
【特許文献42】WO−A−9410263
【非特許文献1】Lubricant Base Oil and Wax Processing,Avilino Sequeira,Jr,Marcel Dekker Inc.,New York,1994,p119〜150のChapter 6
【非特許文献2】Ryland,Lloyd B.,Tamale,M.W.及びWilson,J.N.,Cracking Catalysts,Catalysis;第VII巻、編集Paul H.Emmett,Reinhold Publishing Corporation,New York、1960、pp.5−9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来法の欠点がない、パラフィン含有量が75〜95重量%の基油が得られる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、以下の方法により達成される。フィッシャー・トロプシュ合成誘導原料と石油誘導原料との混合物に対し、接触的流動点降下処理を行うことによりパラフィン含有量が75〜95重量%の基油を製造する方法。
【0010】
出願人は、接触的流動点降下処理を行う前に、比較的少量の石油誘導原料をフィッシャー・トロプシュ誘導原料と混合すると、所望の特性を有する基油が得られることを見い出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
石油誘導フラクションは、原則として、基油の沸点範囲を有すると共に、非パラフィン系化合物を含有するいかなるフラクションも使用してよい。このため、通常、蝋はノーマルパラフィンの大部分を構成するので、このような原料の蝋含有量は一般に少ない。蝋含有量は、メチルエチルケトン/トルエンの50/50(容量/容量)混合溶剤を用いて−27℃で測定して、好適には50重量%より少なく、好ましくは30重量%より少ない。なお更に好ましくは実施態様では、蝋含有量は非常に少なく、このような原料は、−10℃未満、更に好ましくは−15℃未満の流動点によって説明するのが良い。
【0012】
石油誘導フラクションは、フラクション中の芳香族、硫黄及び窒素の含有量を低下させると共に、粘度指数のような所望特性を改良するため、水素化処理工程を行ったものを使用するのが好ましい。水素化処理工程については、水素化処理後、任意に水素化分解工程を行ってもよい。このような方法は、例えば石油誘導真空蒸留物又は脱アスファルト油から基油を製造する際に行われる。
【0013】
石油誘導原料中の芳香族化合物含有量は、好ましくは0〜20重量%、ナフテン系化合物の含有量は、好ましくは15〜90重量%である。これらの含有量は、本明細書の実施例3に記載した方法のような周知の方法により測定できる。
【0014】
極めて関心のある石油誘導原料は、燃料の水素化分解器の塔底フラクションである。本発明に関連する燃料の水素化分解とは、ナフサ、ケロシン及びガス油を主生成物とする水素化分解法を意味する。沸点が370℃を超える水素化処理−水素化分解の原料中のフラクションが、370℃未満の生成物に転化するフラクションの重量%として定義する転化率は、通常、50重量%を超える。本発明方法で使用できる塔底フラクションを生成し得る可能な燃料水素化分解法の例は、前述のEP−A−699225、EP−A−649896、WO−A−9718278、EP−A−705321、EP−A−994173及びUS−A−4851109に記載されている。
【0015】
他の関心のある石油誘導原料は、基油専用の水素化処理器−水素化分解器で得られるフラクションである。このような水素化処理器−水素化分解器で得られる主生成物の沸点は基油の沸点範囲である。通常、この方法は、原料の転化率30重量%未満、更に通常、20〜40重量%の範囲で行われる。したがって、この石油誘導原料は、脱蝋前にこのような方法で得られる高沸点フラクションである。
【0016】
燃料の水素化分解は、予備水素化処理工程及び続いて水素化分解工程よりなる2工程で操作することが好ましい。水素化処理工程では、硫黄及び窒素は除去され、芳香族はナフテンまで飽和される。
【0017】
なお更に好ましい供給原料は脱蝋油である。脱蝋油の流動点は好ましくは−10℃、更に好ましくは−15℃未満である。脱蝋は、溶剤又は接触脱蝋が可能である。飽和物含有量は好ましくは90重量%より多く、更に好ましくは95重量%より多く、最も好ましくは99重量%より多い。硫黄含有量は好ましくは0.03重量%未満、更に好ましくは0.01重量%未満、なお更に好ましくは0.001重量%未満である。このように硫黄及び窒素含有量が少なく、しかも飽和物の含有量が多い脱蝋油を使用すると、本発明方法の流動点降下工程実施後、追加の水素化仕上げ工程を必要としない利点がある。そうすると、接触脱蝋は、続く水素化仕上げ工程で必要な高圧で行う必要がない。これに対し、水素化仕上げは、40〜70バールという更に好ましい低水素圧範囲で実施できる。石油誘導脱蝋油自体が好ましくは100バールを超える水素圧で行った水素化仕上げ工程を含む方法で作られていれば、このような水素化仕上げ工程は省略できる。この水素化仕上げ工程の例を以下に説明する。
【0018】
この油は原油供給原料の真空蒸留物又は脱アスファルト化真空残留物から出発するか、或いはスラック蝋のような蝋原料から出発して作られる。この場合の方法は、硫黄及び極性化合物を好ましい範囲に減少させる水素化処理工程を含む。粘度指数は好ましくは80〜150であるが、良好な結果は粘度指数80〜120の油で達成される。
【0019】
この油のT10重量%回収点は好ましくは200〜450℃、更に好ましくは300〜420℃であり、T90重量%回収点は好ましくは300〜550℃、更に好ましくは400〜550℃である。このように広範な沸点範囲の油を使用すると、得られる基油のイソパラフィン含有量を、100℃での動粘度が2cStと低い値の低粘度グレードから、100℃での動粘度が15cStと高い値を含む高粘度グレードまで、両クレード用に低下できることが見い出された。
【0020】
脱蝋油は、例えばLubricant Base Oil and Wax Processing,Avilino Sequeira,Jr,Marcel Dekker Inc.,New York,1994,p119〜150のChapter 6に記載されるような周知の方法で得られる。好ましい広範な沸点範囲の油は、各種粘度グレード、好ましくはAPIグループII又はIIIの各種粘度グレードの基油を混合することにより製造できる。この方法で使用可能な油を生成する方法は、例えばEP−A−0909304、EP−A−1137741、EP−A−1392799、EP−A−1311651に記載されている。好適な脱蝋油は、例えばシェルのXHVI−4、XHVI−5.2及びXHVI−8基油製品又はエクソンモービルのVisom基油グレード及びそれらの混合物である。本発明で使用される基油を生成する可能な工業的方法は、エクソンモービルのMSDW(商標)/MAXSAT(商標)型の方法で、この方法は芳香族が1重量%未満、硫黄が1ppm未満で、粘度指数が120より大きく、流動点が−15℃未満の基油を生成すると言われる。
【0021】
前記記載に適合する更に好ましくは脱蝋油は、前述のような燃料の水素化分解器の塔底フラクションを接触脱蝋し、次いで水素化仕上げ工程を行って得られるものである。この方法を説明した刊行物は、例えばWO−A−9802502、WO−A−0027950、WO−A−9500604、EP−A−0883664及びEP−A−0863963である。
【0022】
本発明の流動点降下処理に前述のように脱蝋油を加える更なる利点は、例えば蝋、極性化合物、硫黄又は窒素のような油中の望ましくない化合物が前記処理により更に減少できることである。更に他の利点は、最終基油の沸点範囲特性、流動点及び/又は粘度が脱蝋条件の制御及び脱蝋処理で得られる生成物を更に任意に蒸留することにより、簡単な方法で制御できることである。このような脱蝋油の添加は、本発明方法において広範な各種脱蝋油を使用可能にするので有利である。例えばこれらの油を、100%フィッシャー・トロプシュ誘導原料の脱蝋後又は最終蒸留後にブレンドする場合、石油誘導ブレンド用成分には、例えばNoack揮発減量及び粘度のような、かなり厳しい特性規格が必要であった。したがって、本発明方法によれば、前記特性を有する広範な各種脱蝋油の使用が可能となる上、所望のパラフィン含有量及び特にNoack揮発減量及び流動点のような他の所望の基油特性を有する基油が得られる。
【0023】
フィッシャー・トロプシュ誘導原料は、好ましくは、水素化異性化されたフィッシャー・トロプシュ蝋である。このような原料は、周知の方法、例えばいわゆる商用Sasol法、商用シェル中間蒸留物法又は非商用エクソン法で得られる。これらの方法及びその他の方法は、例えばEP−A−776959、EP−A−668342、US−A−4943672、US−A−5059299、WO−A−9934917及びWO−A−9920720に記載されている。これらの文献に記載されるように、この方法は一般にフィッシャー・トロプシュ合成及び水素化異性化工程を含んでいる。本発明方法の原料に使用される水素化異性化フィッシャー・トロプシュ原料の製造方法は、以下の工程:
(a)フィッシャー・トロプシュ生成物を水素化分解/水素化異性化する工程、
(b)工程(a)の生成物を、蒸留により少なくとも1つのガス油フラクションと、本発明による高沸点のフィッシャー・トロプシュ誘導原料とに分離する工程を含む。
【0024】
工程(a)で原料として使用されるフィッシャー・トロプシュ生成物は、好ましくは、フィッシャー・トロプシュ生成物中の炭素原子数60以上の化合物と炭素原子数30以上の化合物との重量比が少なくとも0.2で、フィッシャー・トロプシュ生成物中の化合物の30重量%以上が炭素原子数30以上の化合物である生成物である。
【0025】
出願人は、この比較的重質の供給原料に対して水素化分解/水素化異性化工程を行うことにより、工程(a)の原料を基準として計算して高収率のガス油が得られることを見い出した。更なる利点は、両燃料、例えばガス油及びフィッシャー・トロプシュ誘導原料が1つの水素化分解/水素化異性化工程方法で製造されることである。本発明の好ましい実施態様では、工程(b)においてフィッシャー・トロプシュ誘導原料より高沸点のフラクションが単離され、工程(a)に再循環される。
【0026】
更なる利点は、比較的重質の原料に対し工程(a)を行なうことにより、既に特定含有量のシクロパラフィンを含むフィッシャー・トロプシュ誘導原料が製造されることである。
【0027】
工程(a)で使用される比較的重質のフィッシャー・トロプシュ生成物は、炭素原子数30以上の化合物を更に好ましくは50重量%以上、なお更に好ましくは55重量%以上含有する。更に、フィッシャー・トロプシュ生成物中の炭素原子数60以上の化合物と炭素原子数30以上の化合物との重量比は、更に好ましくは少なくとも0.4、なお更に好ましくは少なくとも0.50である。好ましくはフィッシャー・トロプシュ生成物は、ASF−α値(Anderson−Schulz−Flory連鎖成長ファクター)が少なくとも0.925、好ましくは少なくとも0.935、更に好ましくは少なくとも0.945、なお更に好ましくは少なくとも0.955のC20+フラクションを含有する。
【0028】
フィッシャー・トロプシュ生成物の初期沸点は、400℃以下の範囲であってよいが、好ましくは200℃未満である。少なくとも、炭素原子数4以下の化合物及びその沸点範囲の沸点を有する化合物は、いずれも工程(a)でフィッシャー・トロプシュ合成生成物を使用する前に、フィッシャー・トロプシュ合成生成物から分離することが好ましい。以上、詳細に説明したフィッシャー・トロプシュ生成物は、本発明で定義した水素化転化工程を行っていないフィッシャー・トロプシュ生成物である。したがって、フィッシャー・トロプシュ生成物中の非分岐化合物の含有量は80重量%を超える。工程(a)では、このようなフィッシャー・トロプシュ生成物以外に、更に他のフラクションも処理してよい。可能な他のフラクションは、好適には工程(b)で得られる任意の高沸点フラクション、該フラクションの一部及び/又は本発明方法の流動点降下処理で得られるような規格外の基油フラクションであってよい。
【0029】
このようなフィッシャー・トロプシュ生成物は、前述のように、比較的重質のフィッシャー・トロプシュ生成物を生成するいずれの方法によっても得られる。フィッシャー・トロプシュ法の全てが必ずしもこのような重質生成物を生成するとは限らない。好適なフィッシャー・トロプシュ法は、WO−A−9934917及びAU−A−698392に記載されている。これらの方法は、前述のようなフィッシャー・トロプシュ生成物を生成できる。
【0030】
フィッシャー・トロプシュ生成物は、硫黄及び窒素含有化合物を含有しないか、或いは極めて微量含有する。これは、殆ど不純物を含まない合成ガスを使用するフィッシャー・トロプシュ反応で誘導された生成物に普通のことである。硫黄及び窒素水準は、一般に現在、硫黄に対しては2ppm、窒素に対しては1ppmをそれぞれの検出限界とする限界未満である。
【0031】
フィッシャー・トロプシュ反応の反応生成物中に存在する若干の酸素化物を除去すると共に、オレフィン化合物を飽和させるため、フィッシャー・トロプシュ生成物に対して任意にマイルドな水素化処理を行ってもよい。このような水素化処理はEP−B−668342に記載されている。水素化処理工程のマイルド性は、この工程での転化程度が好ましくは20重量%未満、更に好ましくは10重量%未満として表わされる。ここで転化率は、370℃よりも高い沸点を有する原料が、370℃より低い沸点を有するフラクションまで反応する該原料の重量パーセントとして定義する。このようなマイルドな水素化処理後、炭素原子数4以下の低沸点化合物及びその沸点範囲の他の化合物は、工程(a)で使用する前に、流出流から除去することが好ましい。
【0032】
工程(a)の水素化分解/水素化異性化反応は、水素及び触媒の存在下で行うことが好ましい。触媒は、この反応に好適であるとして当業者に公知のものから選択できる。幾つかの触媒については以下に詳細に説明する。このような触媒は、原則として、当該技術分野でパラフィン分子の異性化に好適であるとして当該技術分野で公知のいずれの触媒であってもよい。一般に好適な水素化転化触媒は、非晶質シリカ−アルミナ、アルミナ、弗化(fluorided)アルミナ、モレキュラーシーブ(ゼオライト)又はこれら2種以上の混合物のような耐火性酸化物担体上に水素化成分を担持してなる触媒である。本発明の水素化転化工程に適用される好ましい種類の触媒は、水素化成分として白金及び/又はパラジウムを含む水素化転化触媒である。極めて好ましい水素化転化触媒は、非晶質シリカ−アルミナ(ASA)担体上に白金及びパラジウムを担持して構成される。白金及び/又はパラジウムは、担体の全重量に対し元素として計算して、好適には0.1〜5.0重量%、更に好適には0.2〜2.0重量%存在する。両方存在する場合、白金対パラジウムの重量比(元素として計算して)は、広範な限界内で変化してよいが、好適には0.05〜10、更に好適には0.1〜5の範囲である。ASA触媒上の好適な貴金属の例は、例えばWO−A−9410264及びEP−A−0582347に開示されている。弗化アルミナ担体上の白金のような他の好適な貴金属基触媒は、例えばUS−A−5059299及びWO−A−9220759に開示されている。この種の触媒は好ましくはモレキュラーシーブを含有せず、更に好ましくはゼオライトβを含有しない。
【0033】
好適な第二の種類の水素化転化触媒は、少なくとも1種の第VIB族金属、好ましくはタングステン及び/又はモリブデンと、少なくとも1種の第VIII族非貴金属、好ましくはニッケル及び/又はコバルトとを水素化成分として含む触媒である。通常、両金属は酸化物、硫化物又はそれらの組合わせで存在する。第VIB族金属は、触媒の全重量に対し元素として計算して、好適には1〜35重量%、更に好適には5〜30重量%の量で存在する。第VIII族非貴金属は、担体の全重量に対し元素として計算して、好適には1〜25重量%、好ましくは2〜15重量%の量で存在する。特に好適であることが判っている、この種の水素化転化触媒は、弗化アルミニウム上にニッケル及びタングステンを担持してなる触媒である。
【0034】
非硫化物形態で使用できる好ましい触媒は、第VIII族非貴金属、例えば鉄、ニッケルを、第IB族金属、例えば銅と共同で酸性支持体上に担持して構成される。この触媒の表面積は、水吸着法で測定して、200〜500m/gm、好ましくは0.35〜0.80ml/gmの範囲であり、また嵩密度は約0.5〜1.0g/mlである。好ましくは触媒支持体は、アルミナが約30重量%未満、好ましくは5〜30重量%、更に好ましくは10〜20重量%の量で存在する非晶質シリカ−アルミナである。またこの支持体は、バインダー、例えばアルミナ、シリカ、第IVA族金属酸化物、及び各種粘土、マグネシア等、好ましくはアルミナを少量、例えば20〜30重量%含有してもよい。
【0035】
非晶質シリカ−アルミナ微小球体の製造については、Ryland,Lloyd B.,Tamale,M.W.及びWilson,J.N.,Cracking Catalysts,Catalysis;第VII巻、編集Paul H.Emmett,Reinhold Publishing Corporation,New York、1960、pp.5−9に記載されている。
【0036】
この触媒は、溶液からこれら金属を支持体上に同時に含浸し、100〜150℃で乾燥し、次いで空気中、200〜550℃で焼成して製造される。第VIII族金属は約15重量%以下、好ましくは1〜12重量%の量で存在し、一方、第IB族金属は、通常、これより少量、第VIII族金属に対して、例えば1:2〜約1:20の重量比の量で存在する。
【0037】
通常の触媒を以下に示す。
Ni、重量% 2.5〜3.5
Cu、重量% 0.25〜0.35
Al−SiO重量% 65〜75
Al(バインダー)重量% 25〜30
表面積 290〜325m/gm
細孔容積(Hg) 0.35〜0.45ml/gm
嵩密度 0.58〜0.68
【0038】
他の種類の好適な水素化転化触媒は、ゼオライト材料、好適には少なくとも1種の第VIII族金属成分、好ましくはPt及び/又はPdを水素化成分として含有するゼオライト材料をベースとする触媒である。好適なゼオライト材料としては、ゼオライトβ、ゼオライトY、超安定Y、ZSM−5、ZSM−12、ZSM−23、ZSM−35、SSZ−32、フェリエライト、ゼオライトβ、モルデナイト、及びSAPO−11、SAPO−31のようなシリカ−アルミノホスフェートが挙げられる。好適な水素化異性化触媒の例は、例えばWO−A−9201657に記載されている。
【0039】
工程(a)では、原料は触媒の存在下、高温高圧下で水素と接触させる。温度は通常、175〜380℃、好ましくは250℃より高く、更に好ましくは300〜370℃の範囲である。圧力は通常、10〜250バール、好ましくは20〜80バールの範囲である。水素は、ガスの1時間当り空間速度 100〜10000Nl/l/hr、好ましくは500〜5000Nl/l/hrで供給できる。炭化水素原料は、重量の1時間当り空間速度 0.1〜5kg/l/hr、好ましくは0.5kg/l/hrを超え、更に好ましくは2kg/l/hr未満で供給してよい。水素と炭化水素原料との比は、100〜5000Nl/kgの範囲が可能で、好ましくは250〜2500Nl/kgである。
【0040】
1パス当り370℃よりも高い沸点を有する原料が、370℃より低い沸点を有するフラクションまで反応する原料の重量パーセントとして定義する、工程(a)での転化率は、好ましくは少なくとも20重量%、更に好ましくは少なくとも25重量%であるが、好ましくは80重量%以下、更に好ましくは75重量%以下である。前記定義で使用される原料は、工程(a)の全炭化水素原料であり、したがって工程(b)で得られるような高沸点フラクションを任意に再循環させた分も含まれる。
【0041】
工程(b)では工程(a)の生成物は、1つ以上のガス油フラクションと、 好ましくはT10重量%が200〜450℃の沸点範囲にあるフィッシャー・トロプシュ誘導原料とに分離される。フィッシャー・トロプシュ原料から、これより高沸点のフラクションを分離する場合、該原料のT90重量%は好ましくは300℃〜、好ましくは430℃〜550℃である。この分離は、ほぼ大気圧条件、好ましくは1.2〜2バラの圧力で第一蒸留により行うことが好ましく、第一蒸留により、工程(a)生成物の高沸点フラクションからガス油生成物と、ナフサ及びケロシンフラクションのような低沸点のフラクションとが分離される。好適には95重量%以上が370℃より高温の沸点を有する高沸点フラクションは、更に真空蒸留工程で、これより高沸点のフラクションを分離してもよい。真空蒸留は、好適には0.001〜0.05バラの圧力で行う。
【0042】
工程(b)の真空蒸留は、特定範囲の沸点を有すると共に、基油最終生成物の規格に関連する動粘度を有する所望のフィッシャー・トロプシュ誘導原料が得られるように、操作することが好ましい。フィッシャー・トロプシュ誘導原料の100℃での動粘度は、好ましくは3〜10cStである。
【0043】
石油誘導原料とフィッシャー・トロプシュ誘導原料との混合物は、好適には基油生成物の所望粘度に相当する粘度を有する。この原料混合物の100℃での動粘度は、好ましくは3〜10cStである。好適な蒸留物フラクションのT10重量%は、200〜450℃、好ましくは300〜420℃の沸点範囲であり、T90重量%は、300〜550℃、好ましくは400〜550℃の沸点範囲である。混合物中の石油誘導原料のフラクションは、好ましくは5重量%より多く、更に好ましくは10重量%よりも多く、かつ好ましくは50重量%未満、更に好ましくは30重量%未満、なお更に好ましくは25重量%未満である。勿論、混合物中の石油誘導原料の実際の含有量は、該原料のパラフィン含有量に依存する。混合物中の硫黄含有量は50ppm未満、及び/又は窒素含有量は、10ppm未満が好ましい。
【0044】
接触脱蝋又は流動点降下処理とは、処理毎に基油の流動点が10℃より大きく、好ましくは20℃より大きく、更に好ましくは25℃より大きく降下することと理解する。
【0045】
接触脱蝋又は流動点降下処理は、触媒及び水素の存在下で原料混合物の流動点を前記規定したように降下させるいかなる方法でも実施できる。好適な脱蝋触媒は、モレキュラーシーブ及び任意に第VIII族金属のような水素化機能を有する金属を組合せた不均質触媒である。モレキュラーシーブ、更に好適には中間細孔サイズのゼオライトは、接触脱蝋条件下で蒸留物基油前駆体フラクションの流動点降下に良好な触媒能力を示した。中間細孔サイズゼオライトの孔径は、好ましくは0.35〜0.8nmの範囲である。好適な中間細孔サイズゼオライトは、モルデナイト、ZSM−5、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、SSZ−32、ZSM−35及びZSM−48である。他の好ましいモレキュラーシーブは、シリカ−アルミナホスフェート(SAPO)材料であり、この中、SAPO−11は、例えばUS−A−4859311に記載されるように、最も好ましい。ZSM−5は、第VIII族金属の不存在下でHZSM−5の形態で任意に使用してよい。他のモレキュラーシーブは、第VIII族金属を添加し、組合わせて使用することガ好ましい。好適な第VIII族金属は、ニッケル、コバルト、白金及びパラジウムである。可能な組合わせの例は、Ni/ZSM−5、Pt/ZSM−23、Pd/ZSM−23,Pt/ZSM−48及びPt/SAPO−11である。好適なモレキュラーシーブ及び脱蝋条件の更なる詳細及び例は、例えばWO−A−9718278、US−A−5053373、US−A−5252527及びUS−A−4574043に記載されている。
【0046】
脱蝋触媒は、好適にはバインダーも含有する。バインダーは合成又は天然産の(無機)物質、例えば粘土、シリカ、及び/又は金属酸化物であり得る。天然産の粘土は、例えばモンモリロナイト及びカオリン属である。バインダーは好ましくは多孔質バインダー材料、例えば耐火性酸化物、例えばアルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、シリカ−トリア(酸化トリウム)、シリカ−ベリリア(酸化ベリリウム)、シリカ−チタニアや三元組成物、例えばシリカ−アルミナ−トリア、シリカ−アルミナ−ジルコニア、シリカ−アルミナ−マグネシアおよびシリカ−マグネシア−ジルコニアがある。本質的にアルミナを含まない低酸性度の耐火性酸化物バインダー材料を使用することが更に好ましい。これらバインダー材料の例としては、シリカ、ジルコニア、二酸化チタン、二酸化ゲルマニウム、ボリアおよび前述のようなこれら2種以上の混合物がある。最も好ましいバインダーはシリカである。
【0047】
好ましい種類の脱蝋触媒は、前述のような中間ゼオライト微結晶及び本質的にアルミニウムを含まない低酸性度耐火性酸化物を含む。このアルミノシリケートゼオライト微結晶の表面は、表面脱アルミ化処理により変性したものである。好ましい脱アルミ化処理は、例えばUS−A−5157191又はWO−A−200029511に記載されるように、バインダー及びゼオライトの押出物をフルオロシリケート塩の水溶液と接触させることによる。前述のような好適な脱蝋触媒の例は、例えばWO−A−200029511及びEP−B−832171に記載されるようなシリカ結合脱アルミ化Pt/ZSM−5、シリカ結合脱アルミ化Pt/ZSM−23、シリカ結合脱アルミ化Pt/ZSM−12、シリカ結合脱アルミ化Pt/ZSM−22である。
【0048】
接触脱蝋条件は当該技術分野で公知であり、通常、200〜500℃、好適には250〜400℃の範囲の操作温度、10〜200バール、好ましくは40〜70バールの範囲の水素圧、1時間当り触媒1リットル当り油0.1〜10kg(kg/l/hr)、好適には0.2〜5kg/l/hr、更に好適には0.5〜3kg/l/hrの範囲の重量の時間当り空間速度(WHSV)、及び油1リットル当り水素100〜2,000リットルの範囲の水素対油比である。接触脱蝋工程では、40〜70バールの圧力で温度を315〜375℃の範囲に変化させることにより、好適には−60℃より低温から−10℃まで変化する種々の流動点規格を有する基油を製造することが可能である。
【0049】
例えば脱蝋反応器の別々の触媒床のように、脱蝋工程の直ぐ上流には、任意に貴金属保護床を設けてもよい。このような保護床は、本発明の脱蝋工程の原料中に存在する残存硫黄及び特に窒素化合物を除去するのに有利である。保護床は、好適には燃料の水素化分解器の塔底フラクションを石油誘導原料として使用した場合に使用する。このような方法の一例は、WO−A−9802503に記載されている。この文献は、ここに援用する。
【0050】
流動点低下処理後、好適には該処理中に形成された低沸点化合物は、好ましくは蒸留により、任意に初期フラッシング工程と組合わせて除去する。
【0051】
流動点降下処理の流出流に対し、好適には水素化処理を行ってもよい。水素化は、前記分別後、全流出流又は特定の基油グレードに対して行ってよい。この処理は流動点降下生成物中の芳香族含有量を好ましくは1重量%未満に低下させるために、必要かも知れない。このような水素化は、水素化仕上げ工程とも言われる。この工程は、好適には温度180〜380℃及び全圧10〜250バール、好ましくは100バールを超え、更に好ましくは120〜250バールで行われる。WHSV(重量の1時間当り空間速度)は、1時間当り触媒1リットル当り油0.3〜2kg(kg/l.h)の範囲である。水素化は接触脱蝋反応器と同じ反応器で任意に行われる。このような反応器では、脱蝋触媒及び水素化触媒は、互いに頂部に積み重ねた積重ね床に配置される。
【0052】
水素化触媒は、好適には第VIII族金属を分散した触媒を担持して構成される。可能な第VIII族金属は、コバルト、ニッケル、パラジウム及び白金である。コバルト及びニッケルを含有する触媒は、第VIB族金属、好適にはモリブデン及びタングステンも含有してよい。好適な担体又は支持体は、低酸性度非晶質耐火性酸化物である。好適な非晶質耐火性酸化物の例としては、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ−アルミナ、弗化(fluorided)アルミナ、弗化シリカ−アルミナ及びこれら2種以上の混合物のような無機酸化物が挙げられる。
【0053】
好適な水素化触媒の例は、ニッケル−モリブデン含有触媒、例えばKF−847及びKF−8010(AKZO Nobel)、M−8−24及びM−8−25(BASF)、並びにC−424、DN−190、HDS−3及びHDS−4(Criterion);ニッケル−タングステン含有触媒、例えばNI−4342及びNI−4352(Engelhard)及びC−454(Criterion);コバルト−モリブデン含有触媒、例えばKF−330(AKZO−Nobel)、HDS−22(Criterion)及びHPC−601(Engelhard)である。好ましくは白金含有触媒、更に好ましく白金及びパラジウムを含有する触媒が使用される。これらパラジウム及び/又は白金を含有する触媒に好ましい担体は、非晶質シリカ−アルミナである。好適なシリカ−アルミナ担体の例は、WO−A−9410263に開示されている。好ましい触媒は、パラジウムと白金との合金を好ましくは非晶質シリカ−アルミナ担体上に担持してなるもので、その一例の市販触媒としてCriterion Catalyst Company (Houston,TX)のC−624がある。
【0054】
接触的流動点降下処理後又は任意の水素化仕上げ工程後、好適には脱蝋/水素化仕上げ工程の流出流から水素を分離し、硫化水素除去手段と接触させた後、前記接触的流動点降下処理に再循環させる。このような手段は、水素再循環流のアミン洗浄であってよい。硫化水素の含有量が少ない、例えば100ppm未満、更には20ppm未満と予想されるならば、該再循環流中で好適な吸着剤と接触させることが好ましい。好適な不均質吸着剤の例としては、Fe、Ni、Co、Ag、Sn、Re、Mo、Cu、Pt、Pd及びZnから選ばれた金属群の少なくとも1種の金属又は酸化物が挙げられる。好ましい実施態様では、金属は、Fe、Ni、Co、Cu及びZnの少なくとも1種である。更に好ましい実施態様では、吸着剤は酸化亜鉛である。吸着剤は、例えば表面積、細孔容積及び孔径を増大させるため、無機支持体上に担持してよい。好適な支持体材料としては、必ずしも限定されるものではないが、無機耐火性支持体材料、例えばアルミナ、シリカ、ジルコニア、カーボン、炭化珪素、珪藻土、非晶質及び結晶質のシリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、アルミノホスフェート、ボリア、チタニア及び酸化亜鉛が挙げられる。好ましい支持体材料としては、アルミナ、ジルコニア及びシリカがある。これらの金属又は金属酸化物は、当該技術分野で公知の従来法で支持体上に載荷してよい。好適な担持金属及び金属酸化物をベースとする再生可能な硫黄吸着剤としては、必ずしも限定されるものではないが、下記のものが挙げられる。Co/Al、Co/SiO、Co/TiO、Co/ZrO、Ni/Al、Ni/SiO、Ni/ZrO、Cu/Al、Cu/SiO、Cu/ZrO、Fe/Al、Fe/SiO、Fe/ZrO、Co/Cu/Al、Co/Cu/SiO、Ni/Cu/SiO、Ni/Cu/ZrO、Co/Pt/Al、Co/Pd/SiO、Co/Sn/Al、Ni/Sn/SiO、Zn/Al、ZnO/SiO、Co/ZnO、Mo/ZnO、Ni/ZnO、Co/Mo/ZnO、Ni/Mo/ZnO、Pt/ZnO、Pd/ZnO、Pt/Pd/ZnO。吸着剤は、塊状金属酸化物又は塊状金属としても使用してよく、必ずしも限定されるものではないが、微粉砕骨格金属、例えばRaney金属、どっしりした(ponderous)金属、Rieke金属及び金属スポンジが挙げられる。前記接触中の温度及び圧力条件は、好ましくは接触的流動点降下工程で規定した範囲内である。
【0055】
流動点降下処理又は任意の水素化仕上げ処理の流出流からは、1種以上の基油グレードが分別により単離できる。100℃での動粘度が2〜10cSt、揮発減量(CEC L−40 T87による)が8〜11%、流動点(ASTM D97による)が−20〜−60℃の基油生成物が有利に得られる。
パラフィン含有量は、更に好ましくは90重量%未満で、更に好ましくは80重量%よりも多い。
【0056】
以上の基油は、オートマチックトランスミッション油(ATF)、自動車エンジンオイル、絶縁油又はトランス油及び冷凍機油用の基油として好適に使用できる。SAE J−300粘度分類による0W−x及び5W−x規格(但し、xは20、30、40、50又は60である)の自動車エンジンオイルのような潤滑油配合物は、この基油を用いて有利に製造できる。
【0057】
本発明方法で得られる基油により、追加のエステル又は芳香族補助(co−)基油を多量に添加する必要なく、潤滑油配合物が製造できることが見い出された。このようなエステル又は芳香族補助基油は、潤滑油配合物中に好ましくは15重量%未満、更に好ましくは10重量%未満存在する。
【0058】
フィッシャー・トロプシュ法は、時には基油の最終ユーザーからは遥かに離れた遠隔地で行われる。特定の用途には、最終ユーザーは100%フィッシャー・トロプシュ誘導原料に対し操作する従来法で製造されるようなパラフィン含有量の多い基油を必ずしも必要としないことも見い出された。これらの用途には、パラフィン含有量の少ない石油誘導基油とのブレンドは、パラフィン含有量を低下させるように、行わなければならない。しかし、最終ユーザーの近くに必ずしも好適な石油ブレンド成分があるとは限らない。前述のように、このようなブレンド成分は、所望のブレンドを得るため、正しい揮発減量及び粘度を有することが必要である。本発明はこの問題を解消し、遠隔地でも厳密な品質特性の全てに適合させる必要のある石油誘導原料から特定の揮発減量、粘度、更には流動点及び粘度を有する所望の低パラフィン基油が製造される。こうして、例えば石油誘導原料が1つの地域から得られ、また本発明方法で得られた基油は、多数の異なる地域で販売される。好ましい実施態様では、石油誘導原料は、他の1つの地域から遠隔地に輸送され、本発明方法で作った基油の一部は、同じ容器を利用して、前記他の地域に輸送される。これは、2つの地域間の輸送能力を有効に利用できるので有利である。このような方法は、石油誘導原料が前述のように硫黄含有量の少ない脱蝋油である場合、特に好適である。
【実施例】
【0059】
実施例1及び2
燃料の水素化分解器の塔底フラクション20重量%とShell MDS(マレーシア)Sdn Bhdから得たフィッシャー・トロプシュ誘導蝋状ラフィネート(シェルMDS蝋状ラフィネートとして市販されている)80重量%とのブレンドを製造した。このシェルMDS蝋状ラフィネートは、一部異性化フィッシャー・トロプシュ誘導フラクションである。
【0060】
このブレンドを白金0.7重量%,ZSM−12 25重量%及びシリカバインダーよりなる脱蝋触媒と接触させた。脱蝋条件は、水素圧40バール、WHSV=1kg/l.h.、水素ガス速度700Nl/kg原料である。実験は、2つの異なる温度、即ち、304℃(実施例1)及び297℃(実施例2)で行った。
【0061】
脱蝋工程の流出流の低沸点生成物及び高沸点生成物から沸点範囲400〜460℃の基油が単離された。このフラクションを分析した。この動粘度約4cStのフラクションの収率及び特性を第2表に示す。第5表はこれら基油の組成を示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
比較実験A及びB
第7表の100%純フィッシャー・トロプシュ蝋状ラフィネートを用いて実施例1を繰り返した。反応温度を変えて、実施例1と同じか又は近い流動点を有する全液体生成物(即ち、脱蝋工程の全液体流出流)を得た。これらの結果を第2表に、また組成を第5表に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
実施例3
第3表に示す特性を有する広い沸点範囲の脱蝋水素化処理油12.7重量部を第3表に示す特性を有するシェルMDS蝋状ラフィネート87.3重量部と混合した。広い沸点範囲の脱蝋水素化処理油は、燃料水素化分解器の塔底フラクションを脱蝋し、続いてこの脱蝋流出流に対し水素化仕上げ工程を行うことにより製造した。同様に水素化分解器に原油原料の真空蒸留物を供給した。
このAPIグループII基油のブレンドを第3表に示す特性を有するシェルMDS蝋状ラフィネートと混合した。
【0067】
【表4】

【0068】
前記ブレンドを白金0.7重量%、ZSM−12 25重量%及びシリカバインダーよりなる脱蝋触媒と接触させた。脱蝋条件は、水素圧40バール、WHSV=1kg/l.h.、水素ガス速度700Nl/kg原料である。実験は、2つの異なる温度、即ち、317℃で行った。
【0069】
脱蝋工程の流出流の低沸点生成物及び高沸点生成物から沸点範囲400〜470℃の基油が単離された。このフラクションの収率はブレンド原料に対し40重量%であった。流動点は−30℃、100℃での動粘度は4,059cSt、粘度指数は129であった。このフラクションの組成を下記方法を用いて分析した。
【0070】
シクロ−、ノーマル−及びイソ−パラフィン混合物中のシクロパラフィン(ナフテン系化合物)含有量を以下の方法で測定した。同じ結果が得られる他の方法を使用してもよい。基油サンプルをまず高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)法IP368/01(但し、この方法で述べている移動相として、ヘキサンの代りにペンタンを用いる)を利用して極性(芳香族)相と非極性(飽和物)相とに分離する。次いで飽和物及び芳香族フラクションは、この特定基油の炭化水素種の炭素数及び水素欠落の定量分析にはフィールドイオン化(FI)(“ソフト”イオン化技術)を用いたFinnigan脱着/フィールドイオン化(FD/FI)インターフェースを備えたFinnigan MAT90質量分析計を用いて分析する。このようなソフトイオン化技術を行うための計器の条件は、供給源温度30℃、抽出(extraction)電圧5kV、エミッター電流5mA、プローブ温度傾斜(ramp)40〜400℃(20℃/分)である。
【0071】
質量分析での化合物の分類は、生成した特徴的イオンにより測定され、普通は、“z数”により分類される。これは全ての炭化水素種:一般式C2n+zで示される。飽和相は芳香族相とは別に分析されるので、同じ化学量論量を有する異種の(シクロ)−パラフィン含有量を測定できる。質量分析の結果は、市販のソフトウエア(poly 32:Sierra Analytics LLC,3453 Dragoo Park Drive,Modesto,Calif.GA95350 USAから入手できる)を用いて処理し、各炭化水素種の相対割合、並びに飽和物フラクション及び芳香族フラクションの平均分子量及び多分酸性を測定する。
前述のようにして得られた沸点範囲400〜470℃の基油フラクションについて、前記技術を用いて第5表に示す組成を求めた。
【0072】
【表5】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィッシャー・トロプシュ合成誘導原料と石油誘導原料との混合物に対し、接触的流動点降下処理を行うことによりパラフィン含有量が75〜95重量%の基油を製造する方法。
【請求項2】
前記石油誘導原料が、燃料の水素化分解器の塔底フラクションである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記流動点降下処理の混合原料中の硫黄含有量が50ppm未満であり、また前記流動点降下処理の混合原料中の窒素含有量が10ppm未満である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記石油誘導原料中の蝋含有量が50重量%未満、好ましくは30重量%未満である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記石油誘導原料の流動点が−10℃未満である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記石油誘導原料の芳香族含有量が0〜20重量%の範囲であり、またナフテン系化合物の含有量が好ましくは15〜90重量%の範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記石油誘導原料の飽和物含有量が98重量より多く、粘度指数が80〜150の範囲であり、かつ硫黄含有量が0.001重量%未満である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記石油誘導原料が、100バールより高い水素圧で行った水素化仕上げ工程を含む方法で得られたものである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記混合物中の石油誘導原料のフラクションが、5重量%より多く、50重量%より少ない請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記基油が、流動点降下処理を行った後、芳香族含有量が1重量%未満になるように水素化される請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記接触的流動点降下処理が、第VIII族金属、孔径0.35〜0.8nmの範囲の中間細孔サイズのゼオライト、及びバインダーを含む触媒の存在下に行う接触脱蝋法である請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記接触的流動点降下処理を行った後、該脱蝋流出流から水素が分離され、該水素が硫化水素の除去に対し選択的な不均質吸着剤と接触され、次いで前記接触的流動点降下処理に再循環される請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記不均質吸着剤が酸化亜鉛である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記フィッシャー・トロプシュ原料が、フィッシャー・トロプシュ生成物の水素化異性化で得られる請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記水素化異性化されたフィッシャー・トロプシュ原料が、以下の工程:
(a)フィッシャー・トロプシュ生成物を水素化分解/水素化異性化する工程、
(b)工程(a)の生成物を蒸留により1種以上のガス油フラクション及びこれより高沸点のフィッシャー・トロプシュ誘導原料に分離する工程、
により得られる請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(a)の原料として使用されるフィッシャー・トロプシュ生成物は、該フィッシャー・トロプシュ生成物中の炭素原子数60以上の化合物と炭素原子数30以上の化合物との重量比が0.4以上で、かつフィッシャー・トロプシュ生成物中の化合物の30重量%以上が炭素原子数30以上の化合物である生成物である請求項15に記載の方法。


【公表番号】特表2009−513727(P2009−513727A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516188(P2006−516188)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051248
【国際公開番号】WO2005/000999
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】