説明

潤滑油組成物

【課題】 モリブデン含有有機化合物の使用量を抑制しながら、高い摩擦低減効果を示す潤滑油組成物の提供。
【解決手段】 潤滑油基油に、下記の成分が溶解もしくは分散されてなるエンジン潤滑油組成物:a)窒素含有無灰性分散剤;b)金属含有清浄剤;c)ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛もしくはジヒドロカルビルリン酸亜鉛;d)少量の次の二種の化合物を含むモリブデン化合物、d1)酸性モリブデン化合物と塩基性窒素化合物との反応物であるオキシモリブデン錯体及びd2)硫化オキシモリブデンジチオカルバメート及び/又は硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、e)多価アルコールモノ脂肪酸エステルもしくはそのホウ酸化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンあるいはジメチルエーテルなどの液体燃料を燃料とするエンジン、そして気体燃料を利用するガスエンジンなどの各種のエンジン(内燃機関)の潤滑に特に有用な低摩擦性の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物、特にエンジン油と呼ばれる自動車エンジン用潤滑油に求められる特性として低摩擦性がある。すなわち、自動車運転時のエンジン内の摩擦によるエネルギー損失を防ぐために、潤滑油側の改良として、低摩擦性の付与という要求がある。
【0003】
特許文献1には、4サイクルエンジンの機械摩擦損失の低減にすぐれた潤滑油組成物として、鉱油もしくは合成油からなる基油に、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエートおよび/またはモリブデンジチオカルバメートを0.2〜5質量%、特定の化学組成を持つジチオリン酸亜鉛を0.1〜7質量%、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウムを0.1〜20質量%、およびアルケニルコハク酸イミドおよび/またはアルケニルコハク酸イミドのホウ素化合物誘導体を1〜15質量%配合してなる潤滑油組成物の記載がある。この特許文献1には、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエートおよび/またはモリブデンジチオカルバメートは極圧剤として作用するものであり、その添加量が0.2質量%未満では充分な添加効果が現われないと記載されている。
【0004】
特許文献2には、エンジン油として、合計のモリブデン含有量換算値で0.045質量%以上の酸性モリブデン化合物と塩基性窒素化合物との反応物であるオキシモリブデン錯体および硫化オキシモリブデンジチオカルバメート(但し、後者の硫化オキシモリブデンジチオカルバメートの含有量は、モリブデン含有量換算値で0.0175質量%未満)を含む組成物を用いることの記載がある。
【特許文献1】特公平3−23595号公報
【特許文献2】米国特許6562765B1明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、エンジン油として用いる潤滑油組成物にモリブデン含有有機化合物を添加して摩擦低減効果を高める技術は既に知られている。しかしながら、潤滑油組成物へのモリブデン含有有機化合物の添加については下記の点を考慮しなければならない。
【0006】
1)モリブデン含有有機化合物を多量に添加した場合に、潤滑油組成物中の全金属含量が増大し、近年の硫酸灰分値の小さい潤滑油組成物への要求を満たしにくい。
2)モリブデン含有有機化合物(特に、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート)を多量に添加すると、潤滑油組成物が腐食性を示すようになったり、スラッジ(劣化堆積物)の発生を増大させる傾向がある。
3)モリブデン含有有機化合物は、その合成が容易ではなく、原料および製造に要するコストが高いため、その多量の使用は、潤滑油組成物としての経済性を低下させる。
4)特許文献1に記載のように、モリブデン含有有機化合物の少量の使用では、その摩擦低減効果が現われにくい。
【0007】
本発明は、モリブデン含有有機化合物の使用量を抑制しながら、高い摩擦低減効果を示す潤滑油組成物を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、潤滑油基油に、下記の成分が、潤滑油組成物の全量に基づき下記の量にて溶解もしくは分散されてなるエンジン潤滑油組成物にある。
a)窒素含有量換算値で0.01〜0.3質量%の窒素含有無灰性分散剤;
b)金属含有量換算値で0.05〜0.5質量%の金属含有清浄剤;
c)リン含有量換算値で0.01〜0.12質量%のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛もしくはジヒドロカルビルリン酸亜鉛;
d)モリブデン含有量換算値で0.04〜0.19質量%の下記の二種の化合物を含むモリブデン化合物、
1)モリブデン含有量換算値で0.02〜0.15質量%の酸性モリブデン化合物と塩基性窒素化合物との反応物であるオキシモリブデン錯体、
2)モリブデン含有量換算値で0.02〜0.15質量%の硫化オキシモリブデンジチオカルバメート及び/又は硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、
そして
e)0.1〜3質量%の多価アルコールモノ脂肪酸エステルもしくはそのホウ酸化物。
【発明の効果】
【0009】
少ない量のモリブデン含有有機化合物の添加であっても高い摩擦低減効果を示す潤滑油組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の好ましい態様を次に記載する。
(1)潤滑油基油が、100℃における動粘度が2〜6mm2/sの範囲にあり、かつASTM D5800に従う蒸発損失が17質量%以下の基油である。
(2)該窒素含有無灰性分散剤が、ホウ酸で反応処理したビス型のコハク酸イミド及び/又は環状カーボネートで反応処理したビス型のコハク酸イミドを含む。
(3)該金属含有清浄剤が、サリシレート、カルボキシレート、もしくはスルホネートを主成分とする。
(4)モリブデン化合物の合計の含有量が、モリブデン含有量換算値で0.04〜0.15質量%の範囲にあり、d1とd2の化合物の含有量が共に、モリブデン含有量換算値で0.02〜0.10質量%の範囲にある。
(5)多価アルコールモノ脂肪酸エステルもしくはホウ酸化物の含有量が0.2〜1質量%の範囲にある。
(6)さらに、0.01〜5重量%のフェノール化合物及びアミン化合物からなる群より選ばれる一種もしくは二種以上の有機酸化防止剤を含む。
(7)潤滑油組成物が、ガソリンエンジンもしくはディーゼルエンジンの潤滑用である。
(8)潤滑油組成物の粘度が、SAE粘度グレードで、0W20、0W30、5W20もしくは5W30である。
【0011】
本発明の潤滑油組成物の組成について、さらに詳しく記載する。
【0012】
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油としては、動粘度が2〜6mm2/sの範囲にあり、かつASTM D5800に従う蒸発損失が17質量%以下の基油(鉱油、合成油もしくはそれらの混合物)を用いることが好ましい。この鉱油や合成油の種類、あるいはその他の性状については特に制限はないが、硫黄含有量が0.1質量%以下であることが望ましく、0.03質量%以下であることがさらに望ましく、特に0.005質量%以下であることが望ましい。
【0013】
鉱油系基油は、鉱油系潤滑油留分を溶剤精製あるいは水素化処理などの処理方法を適宜組み合わせて利用して処理したものであることが望ましく、特に高度水素化精製(水素化分解)基油(例えば、粘度指数が100〜150、芳香族含有量が5質量%以下、窒素および硫黄の含有量がそれぞれ50ppm以下である基油)が好ましく用いられる。この中には、鉱油系スラックワックス(粗ろう)あるいは天然ガスから合成された合成ワックスを原料として異性化および水素化分解のプロセスで作られる高粘度指数基油が含まれる。水素化分解基油は、低硫黄分、低蒸発性、残留炭素分が少ないなどの点から、好ましいものである。最も好ましい潤滑油基油は、蒸発損失(ASTM D5800)が15質量%以下、飽和成分が90質量%以上、芳香族成分が10質量%以下、硫黄含有量が0.01質量%以下の鉱物油であるか、あるいは該鉱物油を10質量%以上含有する基油混合物である。
【0014】
合成油(合成潤滑油基油)としては、例えば炭素数3〜12のα−オレフィンの重合体であるポリ−α−オレフィン、ジオクチルセバケートに代表されるセバシン酸、アゼライン酸、アジピン酸などの二塩基酸と炭素数4〜18のアルコールとのエステルであるジアルキルジエステル、1−トリメチロールプロパンやペンタエリスリトールと炭素数3〜18の一塩基酸とのエステルであるポリオールエステル、炭素数9〜40のアルキル基を有するアルキルベンゼンなどを挙げることができる。
【0015】
鉱油系基油および合成系基油は、それぞれ単独で使用することができるが、所望により、二種以上の鉱油系基油、あるいは二種以上の合成系基油を組合わせて使用することもできる。また、所望により、鉱油系基油と合成系基油とを任意の割合で組合わせて用いることもできる。
【0016】
本発明の潤滑油組成物におけるa)成分としての窒素含有無灰性分散剤(すなわち、窒素元素含有無灰性分散剤)としては、ポリオレフィンから誘導されるアルケニルもしくはアルキルコハク酸イミドあるいはその誘導体が好ましく用いられる。代表的なコハク酸イミドは、高分子量のアルケニルもしくはアルキル基で置換された、コハク酸無水物と1分子当り平均4〜10個(好ましくは5〜7個)の窒素原子を含むポリアルキレンポリアミンとの反応により得ることができる。高分子量のアルケニルもしくはアルキル基は、数平均分子量が約900〜5000のポリブテンであることが好ましい。
【0017】
ポリブテンと無水マレインとの反応により、ポリブテニルコハク酸無水物を得る工程では、多くの場合、塩素を用いる塩素化法が用いられている。しかし、この方法では、コハク酸イミド最終製品中に多量の塩素(例えば約2000質量ppm)が残留する結果となる。一方、塩素を用いない熱反応法では、最終製品中に残る塩素を極めて低いレベル(例えば0〜30質量ppm)におさえることができる。従って、潤滑油組成物中の塩素含有量を0〜30質量ppmの範囲の量に抑えるためには、熱反応法によって得られたポリブテニルコハク酸無水物からのコハク酸イミドを用いることが望ましい。コハク酸イミドは更にホウ酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート(例、炭酸エチレン)、有機酸等と反応させ、いわゆる変性コハク酸イミドにして用いることができる。特に、ホウ酸あるいはホウ素化合物との反応で得られるホウ素含有アルケニル(もしくはアルキル)コハク酸イミドは、熱・酸化安定性の面で有利である。なお、こはく酸イミド分散剤には、エチレン・α−オレフィンコポリマー(例えば分子量約1000〜15000)から誘導されるポリマー性こはく酸イミド分散剤もあり、これも好適に使用される。
【0018】
本発明の潤滑油組成物は、アルケニルもしくはアルキルコハク酸イミドあるいはその誘導体、あるいはアルケニルベンジルアミンなどの窒素含有無灰性分散剤を必須成分として含有するのが好ましいが、さらにアルケニルコハク酸エステル系などの窒素非含有の無灰性分散剤も組合わせて用いてもよい。
【0019】
本発明の潤滑油組成物におけるb)成分である金属含有清浄剤(すなわち金属元素含有清浄剤、金属系清浄剤ともいう)としては、硫黄含有量3.5%以下で、全塩基価10〜400mgKOH/gの金属含有清浄剤を硫酸灰分換算値で0.1〜1.5質量%の範囲で用いることが望ましい。
【0020】
金属含有清浄剤としては、硫化フェネート(例、硫化カルシウムフェネート)、石油もしくは合成系スルホネート(例、カルシウムスルホネート)、フェノキシスルホネート、サリシレート(例、カルシウムサリシレート)もしくはカルボキシレートなどを用いることができる。好ましいのは、サリシレート、カルボキシレート、そしてスルホネートである。また、金属含有清浄剤は、ホウ素を含むもの(ホウ酸処理物)が好ましい。
【0021】
本発明の潤滑油組成物のc)成分であるジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛には、通常、第1級アルキル基あるい第2級アルキル基タイプのジアルキルジチオリン酸亜鉛が用いられる。ジアルキルジチオリン酸亜鉛のなかでも、炭素原子数3〜18の第2級アルコールから誘導される第2級アルキル基を含むジアルキルジチオリン酸亜鉛が摩耗防止性能が高いため、これを含むことが有利である。一方、炭素原子数3〜18の第1級アルコールから誘導される第1級アルキル基を含むジアルキルジチオリン酸亜鉛は耐熱性が高く、摩擦低減に優れることが知られている。従って、これらの各種のジアルキルジチオリン酸亜鉛を目的に合わせて単独で、あるいは組合せて用いることができる。本発明の目的である摩擦低減を考慮すると、第1級アルキル基を含むジアルキルジチオリン酸亜鉛を主成分とする組成が好ましい。
【0022】
第1級アルコールと第2級アルコールとの混合アルコールから誘導される第1級アルキル基と第2級アルキル基との混合タイプのジアルキルジチオリン酸亜鉛も用いることができる。
【0023】
必要に応じて、ジアルキルアリールジチオリン酸亜鉛(例、ドデシルフェノールから誘導されるジアルキルアリールチオジリン酸亜鉛)も有効に用いられる。
また、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛の代わりに、硫黄原子を含まないジヒドロカルビルリン酸亜鉛を用いても良い。
【0024】
本発明の潤滑油組成物では、摩擦低減剤(摩擦調整剤)として、少量のモリブデン含有化合物と多価アルコール脂肪酸モノエステルもしくはそのホウ酸化物とを組合せて用いることにより、全体として低金属含有量にて優れた摩擦低減効果を示す。ただし、モリブデン含有化合物としては、酸性モリブデン化合物と塩基性窒素化合物との反応物であるオキシモリブデン錯体と硫化オキシモリブデンジチオカルバメート及び/又は硫化オキシモリブデンジチオホスフェートを組合せて用いる。
【0025】
酸性モリブデン化合物と塩基性窒素化合物との反応物であるオキシモリブデン錯体については、前記の特許文献2に詳しい記載がある。なお、オキシモリブデン錯体は、そのまま使用することができるが、さらに少量の硫黄もしくは硫黄化合物と反応させて得た反応物を用いることが好ましい。このような硫黄を含有する反応物についても、前記の特許文献2に記載されている。特に、塩基性窒素化合物としてこはく酸イミドを用いたオキシモリブデン錯体の低温硫化反応物が好ましく用いられる。ただし、潤滑油組成物の低硫黄化の観点からは、硫黄含有量の少ないものが好ましく、硫黄含有量はモリブデン含有量(Mo含有量)の10質量%以下であることが好ましい。
【0026】
硫化オキシモリブデンジチオカルバメート及び/又は硫化オキシモリブデンジチオホスフェートについては、前記の特許文献1に詳しい記載がある。
【0027】
なお、モリブデン含有化合物として、オキシモリブデンモノグリセライド、オキシモリブデンジエチラートアミド、アミンモリブデン錯体化合物等のモリブデン含有化合物を併用することも可能である。
【0028】
本発明の潤滑油組成物で用いる多価アルコールモノ脂肪酸エステルのホウ酸化物も摩擦低減剤として公知の化合物であり、その例としては、グリセリンのモノオレイン酸エステルのホウ酸化物を挙げることができる。多価アルコールモノ脂肪酸エステルのホウ酸化物については、特開昭59−25891号公報に詳しい記載がある。
【0029】
本発明の潤滑油組成物は、さらに、酸化防止剤として、酸化防止性のフェノール化合物および/または酸化防止性のアミン化合物を0.01〜5質量%(好ましくは0.1〜3質量%)の範囲で含むことが好ましい。このような酸化防止剤としては、ジアリールアミン系酸化防止剤及び/またはヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤は高温清浄性の向上にも効果的である。特にジアリールアミン系酸化防止剤は、窒素に由来する塩基価を有しているので、この点で有利である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、NOx酸化劣化の防止に有利である。
【0030】
ヒンダードフェノール酸化防止剤の例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(6−t−ブチル−o−クレゾール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、そして3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル、3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシルなどのヒンダードフェノール類を挙げることができる。
【0031】
ジアリールアミン酸化防止剤の例としては、炭素原子数が4〜9の混合アルキルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン、アルキル化−α−ナフチルアミン、そしてアルキル化−フェニル−α−ナフチルアミンなどのジアリールアミン類を挙げることができる。ヒンダードフェノール酸化防止剤とジアリールアミン系酸化防止剤とは、それぞれ単独で使用することができるが、所望により組合せて使用する。また、これら以外の油溶性酸化防止剤を併用してもよい。
【0032】
本発明の潤滑油組成物は更に、粘度指数向上剤を20質量%以下(好ましくは1〜20質量%の範囲)の量で含むことが望ましい。粘度指数向上剤の例としては、ポリアルキルメタクリレート、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、そしてポリイソプレンなどの高分子化合物を挙げることができる。あるいは、これらの高分子化合物に分散性能を付与した分散型粘度指数向上剤もしくは多機能型粘度指数向上剤を用いることができる。これらの粘度指数向上剤は単独で用いることができるが、任意の粘度指数向上剤を二種以上を組合せて使用しても良い。
【0033】
本発明の潤滑油組成物は更に、各種の補助的な添加剤を含んでいてもよい。そのような補助的な添加剤の例としては、酸化防止剤あるいは摩耗防止剤として、亜鉛ジチオカーバメート、メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)、油溶性銅化合物、硫黄系化合物(例、硫化オレフィン、硫化エステル、ポリスルフィド)、リン酸エステル、亜リン酸エステル、有機アミド化合物(例、オレイルアミド)などを挙げることができる。また金属不活性剤として機能するベンゾトリアゾール系化合物やチアジアゾール系化合物などの化合物を添加することもできる。また、防錆剤あるいは抗乳化剤として機能するポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体などのポリオキシアルキレン非イオン性の界面活性剤を添加することもできる。また、摩擦調整剤として機能する各種アミン、アミド、アミン塩、およびそれらの誘導体、あるいは多価アルコールの脂肪酸エステル、あるいはそれらの誘導体を添加することもできる。さらにまた、消泡剤や流動点降下剤として機能する各種化合物を添加することもできる。なお、これらの補助的な添加剤は、潤滑油組成物に対して、それぞれ3質量%以下(特に、0.001〜3質量%の範囲)の量にて使用することが望ましい。
【実施例】
【0034】
(1)潤滑油組成物の製造
本発明に従う潤滑油組成物と比較用の潤滑油組成物を、下記の添加剤成分と基油とを用いて製造した。これらの潤滑油組成物は、粘度指数向上剤の添加により、SAE粘度グレードで0W20を示すように調製された。
【0035】
(2)添加剤及び基油
無灰分散剤A:炭酸エチレン反応処理コハク酸イミド分散剤[窒素含量:1.0質量%、塩素含量:30質量ppm、数平均分子量約2300のポリブテン(少なくとも50%以上がメチルビニリデン構造を有する)と無水マレイン酸とから熱反応法で製造し、次いで、これを平均窒素原子数6.5個(1分子当り)のポリアルキレンポリアミンと反応させ、ついで得られたビス型コハク酸イミドを炭酸エチレンで反応処理したもの]
【0036】
無灰分散剤B:ホウ素含有コハク酸イミド分散剤[窒素含量:1.95質量%、ホウ素含量:0.66質量%、塩素含量:5質量ppm未満、数平均分子量が約1300のポリブテン(少なくとも50%以上がメチルビニリデン構造を有する)と無水マレイン酸とから熱反応法で製造し、これを平均窒素原子数6.5個(1分子当り)のポリアルキレンポリアミンと反応させ、ついで得られたビス型コハク酸イミドをホウ酸で反応処理したもの]
【0037】
金属含有清浄剤:カルシウムサリシレート(Ca:6.7質量%、S:0.1質量%、B:2.7質量%、TBN:190mgKOH/g)、アルキルサリチル酸のカルシウム塩をホウ酸カルシウムで過塩基化したもの。
【0038】
ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)−1:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(P:7.2質量%、Zn:7.85質量%、S:14質量%、原料として炭素原子数3〜8の第二級アルコールを使用して製造したもの)
【0039】
ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)−2:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(P:7.3質量%、Zn:8.4質量%、S:14質量%、原料として炭素原子数8の第一級アルコールを使用して製造したもの)
【0040】
オキシモリブデン錯体(シェブロンテキサコジャパン(株)製のOLOA17502、Mo:5.5質量%、S:0.2質量%、N:1.6質量%、TBN:10mgKOH/g、硫黄を含有するオキシモリブデン・こはく酸イミド錯体)
【0041】
モリブデンジチオカルバメート(旭電化工業(株)製のサクラルーブ165、Mo:4.5質量%、S:4.7質量%、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、アルキル基はC8とC13の第一級アルキル基の混合)
【0042】
多価アルコールモノ脂肪酸エステルのホウ酸化物(グリセリンのモノオレイン酸エステルのホウ酸化物、B:2.2質量%)。
【0043】
アミン系酸化防止剤[ジアルキルジフェニルアミン(アルキル基:C4とC8の混合)、N:4.6質量%、TBN:180mgKOH/g]
【0044】
粘度指数向上剤(VII):分散型のポリメタクリレート系化合物
【0045】
流動点降下剤(PPD):ポリメタクリレート系化合物
【0046】
基油:水素化分解基油(100℃における動粘度が4.1mm2/sで、粘度指数が127、蒸発損失(ASTM D5800)が15質量%、硫黄含有量が0.001質量%未満、飽和成分が94質量%、芳香族分が6質量%)
【0047】
[実施例1]
(1)基油に下記の成分(添加量は、潤滑油組成物全量を基準)を添加混合して本発明の潤滑剤組成物を調製した。
【0048】
無灰性分散剤A(添加量:1.0質量%、窒素量換算添加量:0.01質量%)
無灰性分散剤B(添加量:2.6質量%、窒素量換算添加量:0.05質量%)
金属含有清浄剤(添加量:3.0質量%、カルシウム量換算添加量:0.2質量%)
ZnDTP−1(添加量:0.28質量%、リン量換算添加量:0.02質量%)
ZnDTP−2(添加量:0.68質量%、リン量換算添加量:0.05質量%)
オキシモリブデン錯体(添加量:0.73質量%、モリブデン換算添加量:0.04質量%)
モリブデンジチオカルバメート(添加量:1.1質量%、モリブデン換算添加量:0.05質量%)
多価アルコールモノ脂肪酸エステルのホウ酸化物(0.4質量%)
アミン系酸化防止剤(添加量:0.9質量%)
VII(添加量:7.9質量%)
PPD(添加量:0.3質量%)
基油(残量)
【0049】
(2)得られた潤滑油組成物の化学的特性を以下に記す。
リン(P)量:0.07質量%
硫黄(S)量:0.23質量%
カルシウム(Ca)量:0.3質量%
塩素(Cl)量:5質量ppm未満
【0050】
[比較例1]
オキシモリブデン錯体、モリブデンジチオカルバメート、そして多価アルコール脂肪酸エステルのホウ酸化物を加えなかった以外は実施例1と同一の組成の潤滑油組成物を調製した。
【0051】
[比較例2]
モリブデンジチオカルバメート、そして多価アルコール脂肪酸エステルのホウ酸化物を加えなかった以外は実施例1と同一の組成の潤滑油組成物を調製した。
【0052】
[比較例3]
モリブデンジチオカルバメートの添加量をモリブデン量換算で0.011質量%とし、多価アルコールのホウ酸化物を添加しなかった以外は実施例1と同一の組成の潤滑油組成物を調製した。
【0053】
[比較例4]
オキシモリブデン錯体を添加しなかった以外は実施例1と同一の組成の潤滑油組成物を調製した。
【0054】
[潤滑油組成物の性能評価]
(1)モーターリングトルク試験
4気筒ガソリンエンジンのOHC式動弁系(滑りタイプのカムとフォロアを含む)部分を含むエンジンヘッド、電気モータ、オイルポンプ、温度制御装置、回転トルク計測器を含む試験機を用いて、油温100℃にて回転速度を変えて試験し、回転トルク(摩擦)を計測した。この測定により、流体潤滑および境界潤滑の両方にまたがる摩擦が測定される。
【0055】
(2)回転トルク測定結果
下記の表1に示す。なお、回転トルクの単位はkgmである。
【0056】
表1
────────────────────────────────────
回転速度(rpm)
試験油 375 500 750 1000
────────────────────────────────────
実施例1 0.362 0.299 0.288 0.272
────────────────────────────────────
比較例1 0.668 0.581 0.470 0.406
比較例2 0.663 0.579 0.472 0.403
比較例3 0.590 0.516 0.438 0.400
比較例4 0.443 0.377 0.347 0.332
────────────────────────────────────
【0057】
(3)結論
上記の測定結果から、潤滑油組成物の基本組成に加えて少量の二種のモリブデン化合物と多価アルコールモノ脂肪酸エステル(もしくはそのホウ酸化物)とを加えることにより摩擦低減効果が優れる潤滑油組成物が得られることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、下記の成分が、潤滑油組成物の全量に基づき下記の量にて溶解もしくは分散されてなるエンジン潤滑油組成物:
a)窒素含有量換算値で0.01〜0.3質量%の窒素含有無灰性分散剤;
b)金属含有量換算値で0.05〜0.5質量%の金属含有清浄剤;
c)リン含有量換算値で0.01〜0.12質量%のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛もしくはジヒドロカルビルリン酸亜鉛;
d)モリブデン含有量換算値で0.04〜0.19質量%の下記の二種の化合物を含むモリブデン化合物、
1)モリブデン含有量換算値で0.02〜0.15質量%の酸性モリブデン化合物と塩基性窒素化合物との反応物であるオキシモリブデン錯体、
2)モリブデン含有量換算値で0.02〜0.15質量%の硫化オキシモリブデンジチオカルバメート及び/又は硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、
そして
e)0.1〜3質量%の多価アルコールモノ脂肪酸エステルもしくはそのホウ酸化物。
【請求項2】
潤滑油基油が、100℃における動粘度が2〜6mm2/sの範囲にあり、かつASTM D5800に従う蒸発損失が17質量%以下の基油である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
該窒素含有無灰性分散剤が、ホウ酸で反応処理したビス型のコハク酸イミド及び/又は環状カーボネートで反応処理したビス型のコハク酸イミドを含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
該金属含有清浄剤が、サリシレート、カルボキシレート、もしくはスルホネートを主成分として含有する請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
モリブデン化合物の合計の含有量が、モリブデン含有量換算値で0.04〜0.15質量%の範囲にあり、d1とd2の化合物の含有量が共に、モリブデン含有量換算値で0.02〜0.10質量%の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
多価アルコールモノ脂肪酸エステルもしくはホウ酸化物の含有量が0.2〜1質量%の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
さらに、0.01〜5重量%のフェノール化合物及びアミン化合物からなる群より選ばれる一種もしくは二種以上の有機酸化防止剤を含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
ガソリンエンジンもしくはディーゼルエンジンの潤滑用である請求項1に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2006−182986(P2006−182986A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380521(P2004−380521)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(391050525)シェブロンジャパン株式会社 (26)
【Fターム(参考)】