説明

潤滑装置

【課題】車両が高速走行しているときに潤滑対象部位をオイルにより潤滑するにあたり、動力源の動力損失が増加することを抑制できる潤滑装置を提供する。
【解決手段】オイルによる潤滑または冷却が必要となる潤滑対象部位と、オイルが溜められたオイル溜まりと、動力源の動力により回転してオイル溜まりのオイルを掻き上げる回転部材と、動力源の動力で駆動されるオイルポンプと、動力源とオイルポンプとの間の動力伝達経路を接続および遮断するクラッチとを備えた潤滑装置において、車両が相対的に低速で走行している際に、クラッチを係合させてオイルポンプから吐出されたオイルにより潤滑対象部位を潤滑する第1の潤滑手段(ステップS3)と、車両が相対的に高速で走行している際に、クラッチを解放してオイルポンプを停止させる第2の潤滑手段(ステップS2)を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オイルポンプから吐出されたオイルを潤滑対象部位に供給することのできる潤滑装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オイルポンプから吐出されたをオイルを潤滑対象部位に供給することのできる潤滑装置の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された潤滑装置は、四輪駆動用手動変速機の潤滑に用いられるものである。この手動変速機は、エンジンからリヤデファレンシャル装置に至る動力伝達経路に設けられるものであり、手動変速機はケーシングの内部に配置されている。このケーシングの底部にはオイル溜まりが形成されている。前記手動変速機は、エンジンの動力が伝達され、かつ相互に平行に配置されたドライブ軸およびフロントドライブ軸を有している。また、ドライブ軸とフロントドライブ軸とが変速ギヤ列により動力伝達可能に接続されている。この変速ギヤ列の一部がオイル溜まりに浸漬されている。また、フロントドライブ軸には中空のドリブン軸が相対回転可能に取り付けられており、このドリブン軸にはポンプドライブギヤが形成されている。
【0003】
一方、ケーシングの内部にはオイルポンプが設けられており、オイルポンプの駆動軸には、クラッチ部材を介在させてクラッチドラムが接続されている。このクラッチドラムにはポンプギヤが形成されており、ポンプギヤとポンプドライブギヤとが噛合されている。また、クラッチ部材を断続するオイルポンプコントロールユニットが設けられており、そのオイルポンプコントロールユニットには、油温データおよび車速データが入力されるように構成されている。
【0004】
この特許文献1に記載された手動変速機においては、エンジンが始動されてその動力が手動変速機に伝達されると、変速ギヤ列のギヤの回転によりオイル溜まりのオイルが跳ね上げられ、各潤滑必要部がオイル飛沫により潤滑されるとされている。また、車速が零(停車)または低速状態にあるとき、あるいは油温が低いときは、クラッチ部材に対する通電が遮断されて、クラッチ部材が解放される。その結果、オイルポンプが停止し、エンジン始動時、アイドル時、低車速走行時、およびオイルの粘性が比較的高い低温時におけるオイルポンプの駆動ロスが解消される。
【0005】
これに対して、車速が設定車速以上となり、或いは油温が設定油温以上になると、クラッチ部材に対して通電がおこなわれ、クラッチ部材が係合される。すると、エンジンの動力がドライブ軸およびドリブン軸を経由してオイルポンプに伝達されて、オイルポンプが駆動される。その結果、オイル溜まりのオイルがオイルポンプに吸引され、かつ、オイルポンプから吐出されたオイルが各潤滑必要部に供給される。
【0006】
なお、エンジンにより駆動されるオイルポンプを有し、かつ、エンジンとオイルポンプとの間の動力伝達経路を接続または遮断するクラッチを備えた車両が特許文献2に記載されている。また、エンジンが停止状態にあるときに油圧回路に油圧が発生せず、エンジンが駆動されていると油圧回路に油圧が発生する車両の一例が特許文献3に記載されている。さらに、駆動装置を構成する部品を潤滑する油圧を発生するオイルポンプが設けられており、そのオイルポンプをエンジンにより駆動することのできる車両の一例が、特許文献4、5に記載されている。なお、車両用自動変速機の油圧式摩擦係合装置を制御する油圧制御回路と、油圧制御回路の油圧源である電動オイルポンプとを有する車両の駆動装置の一例が、特許文献6に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−337485号公報
【特許文献2】特開2009−190474号公報
【特許文献3】特開平8−135762号公報
【特許文献4】特開2009−023427号公報
【特許文献5】特開平8−197962号公報
【特許文献6】特開2007−253903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1に記載されている潤滑装置においては、車両の低速走行時にはクラッチ部材が解放されてオイルポンプが停止されるとともに、変速ギヤの回転により跳ね上げられたオイルにより、各潤滑必要部が潤滑されるように構成されている。しかしながら、車両の低速走行時には、オイルを跳ね上げる変速ギヤの回転数が低いために、各潤滑必要部にオイルを十分に供給できない場合があった。また、変速ギヤの回転数が相対的に高くなり、その変速ギヤの回転により相対的に多量のオイルを跳ね上げることのできる車両の高速走行時において、クラッチ部材を係合させて、エンジンの動力でオイルポンプを駆動するように構成されているため、各潤滑必要部に過剰にオイルが供給されてしまい、エンジンの動力損失が増加する問題があった。
【0009】
この発明は上記課題を解決するためになされたもので、車両が高速走行しているときに潤滑対象部位をオイルにより潤滑するにあたり、動力源の動力損失が増加することを抑制することのできる潤滑装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、車両の動力源から駆動輪に動力を伝達する際に、オイルによる潤滑または冷却が必要となる潤滑対象部位と、この潤滑対象部位を潤滑または冷却するオイルが溜められたオイル溜まりと、このオイル溜まりに浸漬され、かつ、前記動力源の動力により回転して前記オイル溜まりのオイルを掻き上げて潤滑対象部位に供給する回転部材と、前記動力源の動力により駆動され、かつ、前記潤滑対象部位を潤滑するオイルを吐出するオイルポンプと、前記動力源と前記オイルポンプとの間の動力伝達経路を接続および遮断するクラッチとを備えた潤滑装置において、前記車両が相対的に低速で走行し、かつ、前記回転部材の回転により掻き上げられるオイルにより前記潤滑対象部位を潤滑している際に、前記クラッチを係合させることにより、前記動力源の動力によりオイルポンプを駆動させ、そのオイルポンプから吐出されたオイルにより前記潤滑対象部位を潤滑する第1の潤滑手段と、前記車両が相対的に高速で走行し、かつ、前記回転部材の回転により掻き上げられたオイルにより前記潤滑対象部位を潤滑する際に、前記クラッチを解放して前記オイルポンプを停止させる第2の潤滑手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記クラッチに外力を与えてその係合および解放を制御するアクチュエータが設けられており、前記クラッチは、前記アクチュエータから与えられる外力が相対的に高められると解放される一方、前記アクチュエータから与えられる外力が相対的に低下すると係合されるように構成されていることを特徴とする潤滑装置である。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記動力源のトルクが伝達される入力要素と、前記駆動輪と動力伝達可能に接続された出力要素と、前記入力要素に入力されるトルクの反力を受け持つ反力要素と、この反力要素に接続された電動モータとを備え、この電動モータの回転数を制御することにより前記入力要素と前記出力要素との間の変速比を無段階に変更可能な無段変速機が設けられており、前記動力源を支持する車体は、前記車両の前後方向に沿って設けられたサイドメンバを備えており、前記電動モータの出力軸と前記オイルポンプの回転軸と前記クラッチとは同一の回転軸線上に配置されているとともに、この回転軸線が前記車両の左右方向に沿って配置されており、前記オイルポンプと前記クラッチとは前記回転軸線に沿った方向で異なる位置に配置されており、前記電動モータおよび前記オイルポンプおよび前記クラッチが収納されたケーシングが設けられており、前記回転軸線を中心とする半径方向で、前記オイルポンプの外周端および前記クラッチの外周端よりも前記電動モータの外周端の方が外側に配置されており、前記回転軸線に沿った方向で、前記電動モータの配置範囲の外側に前記オイルポンプまたは前記クラッチの少なくとも一部が配置されており、前記ケーシングには、前記電動モータが配置された第1収納部と、この第1収納部に連続して形成され、かつ、前記オイルポンプまたは前記クラッチの少なくとも一方が配置された第2収納部とが、前記回転軸線に沿った方向で異なる位置に設けられており、前記回転軸線を中心とする第1収納部の外接円よりも、前記回転軸線を中心とする第2収納部の外接円の方が小さくなるように構成されており、前記車両の高さ方向で前記第2収納部の上端が前記サイドメンバの下端よりも下に配置されていることを特徴とする潤滑装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、車両が相対的に低速で走行しているときは、潤滑対象部位における必要オイル量を、回転部材の回転により掻き上げられるオイル量で確保しにくいため、クラッチを係合させて動力源の動力によりオイルポンプを駆動することにより、オイルポンプから吐出されたオイルを潤滑対象部位に供給することができる。これに対して、車両が相対的に高速で走行している場合は、回転部材の回転により掻き上げられるオイル量により、潤滑対象部位における必要オイル量を確保し易いため、クラッチを解放してオイルポンプを停止させる。したがって、車両が相対的に高速で走行している場合において、動力源の動力損失の増加を抑制できる。
【0014】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、アクチュエータから与えられる外力が相対的に高められるとクラッチが解放される一方、アクチュエータから与えられる外力が相対的に低下するとクラッチが係合される。したがって、アクチュエータから与えられる外力が相対的に低下するフェールが生じた場合でも、動力源の動力でオイルポンプを駆動することができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、請求項1または2の発明と同様の効果を得られる他に、電動モータの回転数を制御することにより、無段変速機の入力要素と出力要素との間の変速比を無段階に変更することができる。また、回転軸線を中心とする第2収納部の外接円の方が第1収納部の外接円よりも小さいとともに、車両の高さ方向で第2収納部の上端がサイドメンバの下端よりも下に配置されているため、第2収納部とサイドメンバとの接触を回避でき、車両における潤滑装置の搭載性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明における潤滑装置の制御例を示すフローチャートである。
【図2】この発明の潤滑装置を備えた車両の全体構成を示す模式図である。
【図3】図2に示された車両のトランスアクスルの縦断面図である。
【図4】この発明における潤滑装置の制御に用いるマップである。
【図5】この発明の潤滑装置の他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明を適用した車両の構成例を図2に基づいて説明する。この図2に示された車両1は、走行用の動力源として、エンジン2および電動モータMG2を有するハイブリッド車である。このエンジン2は燃料を燃焼させた時に発生する熱エネルギを運動エネルギに変換して出力する動力装置である。このエンジン2としては内燃機関、具体的にはガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることができる。このエンジン2は車体の一部によって支持され、かつ、エンジンルーム内に配置されている。そのエンジン2の出力軸であるクランクシャフトは、車両1の左右方向に沿って配置された回転軸線A1を中心として回転可能に構成されている。このエンジン2のクランクシャフトから駆動輪4に至る経路に動力分配装置5が設けられている。この動力分配装置5は、中空のケーシング6内に収納されており、そのケーシング6は、前記エンジン2の外壁に取り付けられている。一方、車体は、車両1の前後方向に沿って延ばされたサイドメンバ7を備えている。このサイドメンバ7により車体が補強されている。さらに、サイドメンバ7は車両1の左右に設けられており、そのサイドメンバ7同士の間の下方に前記ケーシング6が配置されている。
【0018】
前記動力分配装置5として、この実施例ではシングルピニオン型の遊星歯車機構が用いられている。すなわち、遊星歯車機構は歯車同士の噛み合い力により動力伝達をおこなう機構であり、同軸上に配置されたサンギヤ8およびリングギヤ9と、サンギヤ8およびリングギヤ9に噛合されたピニオンギヤ10と、このピニオンギヤ10を自転かつ公転可能に支持するキャリヤ11とを有している。このサンギヤ8およびリングギヤ9ならびにキャリヤ11は、相互に差動回転可能に構成されているとともに、回転軸線A1を中心として動力分配装置5が配置されている。この動力分配装置5の入力要素であるキャリヤ11が、インプットシャフト12に動力伝達可能に接続されている。このインプットシャフト12はクランクシャフトと同軸上に配置されており、インプットシャフト12とクランクシャフトとが動力伝達可能に接続されている。
【0019】
さらに、回転軸線A1と同軸上に電動モータMG1が設けられている。また、回転軸線A1に沿った方向で、エンジン2と電動モータMG1との間に動力分配装置5が配置されている。この電動モータMG1は、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備したモータ・ジェネレータである。この電動モータMG1はケーシング6の内部に設けられている。電動モータMG1は、ケーシング6に固定されたステータ13と、そのステータ13の内側に配置されたロータ14とを有している。ステータ13およびロータ14は、いずれも回転軸線A1を中心として同軸上に配置されている。また、ステータ13の内側とは、回転軸線A1を中心とする半径方向で内側を意味する。そして、電動モータMG1のロータ14には中空の出力軸14Aが連結されており、その出力軸14Aが、動力分配装置5の反力要素であるサンギヤ10と動力伝達可能に連結されている。この出力軸14A内にインプットシャフト12が配置されている。前記動力伝達装置5のリングギヤ9は出力要素として機能するものであり、エンジントルクの反力を電動モータMG1により受け持つとともに、その電動モータMG1の回転数を制御することにより、キャリヤ11の回転数とリングギヤ9の回転数との比、つまり変速比を無段階(連続的)に変更することができる。つまり、動力伝達装置5は無段変速機としての機能を有する。
【0020】
さらにまた、動力分配装置5の出力要素であるリングギヤ9には、カウンタドライブギヤ15が動力伝達可能に接続されている。このカウンタドライブギヤ15は、回転軸線A1に沿った方向で、エンジン2と動力分配装置5との間に配置されている。前記インプットシャフト12と平行にカウンタシャフト16が設けられており、そのカウンタシャフト16には、カウンタドリブンギヤ17およびドライブピニオンギヤ18が形成されている。このカウンタドリブンギヤ17が前記カウンタドライブギヤ15と噛合されている。さらに、ドライブピニオンギヤ18には、デファレンシャル19のリングギヤ20が噛合されており、そのデファレンシャル19にはドライブシャフト21が動力伝達可能に接続されており、このドライブシャフト21に前記駆動輪4が連結されている。前記ドライブピニオンギヤ18の歯数はリングギヤ20の歯数よりも少なく構成されており、ドライブピニオンギヤ18のトルクがリングギヤ20に伝達されて両ギヤが回転するとき、ドライブピニオンギヤ18の回転数よりもリングギヤ20の回転数の方が低くなる。つまり、ドライブピニオンギヤ18およびリングギヤ20により終減速機(ファイナルギヤ)が構成されている。このように、無段変速機および終減速機がケーシング6の内部に収納されてトランスアクスルが形成している。また、デファレンシャル19は前記ケーシング6の内部に収納されており、回転軸線A1に沿った方向において、デファレンシャル19の配置位置と、動力伝達装置5の配置位置とが一部で重なっている。なお、デファレンシャル19のリングギヤ20の回転軸線B1は、動力伝達装置5の回転軸線よりも低い位置にある。
【0021】
一方、前記電動モータMG2はケーシング6の内部に配置されており、その電動モータMG2は電動モータMG1と同様にモータ・ジェネレータにより構成されている。さらに、回転軸線A1に沿った方向で、2つの電動モータMG1,MG2が同じ位置に配置されている。この電動モータMG2はステータ23およびロータ24を有しており、そのロータ24の出力軸25にはギヤ26が形成されており、そのギヤ26が前記カウンタドリブンギヤ17に噛合されている。さらに、電動モータMG1、MG2との間で電力の授受をおこなうことのできる蓄電装置33が設けられている。この蓄電装置33はバッテリまたはキャパシタのいずれでもよい。さらに、蓄電装置33を経由することなく、電動モータMG1と電動モータMG2との間で直接電力の授受をおこなうことができるように、電気回路が構成されていてもよい。
【0022】
つぎに、ケーシング6の内部に設けられている潤滑機構について説明する。この潤滑機構は、潤滑対象部位、例えば、ケーシング6の内部に配置されているギヤ同士の噛み合い部分、回転要素を支持している軸受、電動モータMG1,MG2などにオイルを供給する機構である。その潤滑対象部位にオイルが供給されると、オイルにより潤滑または冷却される。この実施例においては潤滑機構として、掻き上げ式の潤滑機構と、オイルポンプ式の潤滑機構とが設けられている。
【0023】
まず、掻き上げ式の潤滑機構を図3に基づいて説明する。この図3はトランスアクスルの構成を示す縦断面図である。掻き上げ式の潤滑機構は、デファレンシャル19のリングギヤ20を有している。そして、図3に示すようにケーシング6内(底部)にはオイルが溜められたオイル溜まり27が形成されている。そして、リングギヤ20の外周側の一部がオイル溜まり27に浸漬されている。このため、リングギヤ21が回転すると、遠心力によってオイルが上方に飛ばされて、その飛ばされたオイルが潤滑対象部位に直接または間接に供給される。なお、図3に示すように、車両1の前後方向で、動力分配装置5よりも後方にリングギヤ20が配置されている。また、リングギヤ20の回転軸線は、動力分配装置5の回転軸線、電動モータMG1,MG2の回転軸線よりも下方に配置されている。
【0024】
つぎに、オイルポンプ式の潤滑機構について説明する。前記ケーシング6の内部にはオイルポンプ28が設けられている。このオイルポンプ28は回転軸28Aを有しており、その回転軸28Aが回転することによりオイルを吸入し、かつ、吸入したオイルを吐出するように構成されている。また、オイルポンプ28としては、歯車ポンプ、ベーンポンプ、ピストンポンプなどのうちいずれを用いてもよい。このオイルポンプ28の回転軸28Aはインプットシャフト12と同軸上に配置されており、回転軸28Aとインプットシャフト12とがクラッチC1を介在させて動力伝達可能に接続されている。
【0025】
このクラッチC1は、インプットシャフト12と回転軸28Aとを動力伝達可能に接続したり、インプットシャフト12と回転軸28Aとの間における動力伝達を遮断したりする装置である。このクラッチC1としては、例えば摩擦式のクラッチを用いることができる。この摩擦式のクラッチは、インプットシャフト12に設けられた円板形状のプレートと、インプットシャフト12の回転軸線に沿った方向に移動可能に構成され、かつ、回転軸28Aと動力伝達可能に接続されたクラッチディスクと、そのクラッチディスクを回転軸線に沿った方向に押圧してプレートとクラッチディスクとを接触させる力を発生するバネと、前記クラッチディスクをバネの力とは逆向きに移動させる力を生じさせるアクチュエータ32とを備えている。
【0026】
このアクチュエータ32としては、油圧式アクチュエータまたは電磁式アクチュエータを用いることができる。アクチュエータ32として油圧式アクチュエータを用いるときは、クラッチディスクに与える力を生じる油圧室と、この油圧室の油圧により動作して、クラッチディスクとプレートとを離す力を生じさせる可動部材とを備えたものを用いることができる。そして、油圧室の油圧が相対的に低いときにクラッチC1が係合される一方、油圧室の油圧を相対的に高くすると、クラッチC1が解放されるように構成すればよい。
【0027】
これに対して、電磁式アクチュエータとしては、電圧が印加されて磁気吸引力を形成する電磁コイルと、その電磁コイルにより形成された磁気吸引力により動作して、クラッチディスクとプレートとを離す力を生じる可動部材とを備えたものを用いることができる。そして、電磁コイルに電圧が印加されていないクラッチC1が係合される一方、電磁コイルに電圧を印加すると、クラッチC1が解放されるように構成すればよい。
【0028】
つぎに、回転軸線A1を中心とする半径方向における、電動モータMG1およびクラッチC1およびオイルポンプ28の大きさおよび形状を説明する。まず、回転軸線A1を中心とする半径方向において、クラッチC1の最も外周側の端部、およびオイルポンプ28の最も外周側の端部が、共に電動モータMG1のステータ13の外周端よりも内側に配置されるように、電動モータMG1およびクラッチC1およびオイルポンプ28の大きさおよび形状が構成されている。つまり、回転軸線A1と垂直な平面内において、クラッチC1の外接円の直径は、電動モータMG1のステータ24の外接円の直径よりも小さく構成されている。より具体的には、回転軸線A1と垂直な平面内において、クラッチC1の外接円の直径は、電動モータMG1のロータ14の内接円の直径よりも小さく構成されている。また、回転軸線A1と垂直な平面内において、オイルポンプ28の外接円の直径は、電動モータMG1のステータ13の外接円の直径よりも小さく構成されている。より具体的には、回転軸線A1と垂直な平面内において、オイルポンプ28の外接円の直径は、電動モータMG1のロータ14の内接円の直径よりも小さく構成されている。
【0029】
つぎに、回転軸線A1に沿った方向における、電動モータMG1およびクラッチC1およびオイルポンプ28の配置位置を説明する。前記回転軸線A1に沿った方向において、オイルポンプ28と動力伝達装置5との間にクラッチC1が配置されている。より具体的には、回転軸線A1に沿った方向で、電動モータMG1の配置範囲内にクラッチC1が配置されている。また、回転軸線A1に沿った方向において、電動モータMG1の配置範囲外にオイルポンプ28が配置されている。具体的には、回転軸線A1に沿った方向において、オイルポンプ28と動力分配装置5との間にクラッチC1が配置されている。
【0030】
さらに、前記ケーシング6の形状および構造を説明する。このケーシング6のうち、回転軸線A1に沿った方向で電動モータMG1が収納されている範囲がモータ収納部60である。前記回転軸線A1に沿った方向において、モータ収納部60の配置範囲とサイドメンバ7の配置範囲とは重なっていない。また、モータ収納部60のうち、車両1の高さ方向における上端6Aは、図3に示すようにサイドメンバ7の下端7Aよりも上に配置されている。前記回転軸線A1と垂直な平面内において、モータ収納部60の断面形状は円形ではない。また、ケーシング6の下端6Bは、サイドメンバ7の下端7Aよりも下に配置されている。さらに、モータ収納部60に連続して、前記回転軸線A1に対して垂直な平面に沿った方向に延ばされた部位、例えばリヤカバー29が形成されており、そのリヤカバー29には、前記回転軸線A1に沿った方向に突出された突出部30が連続して形成されている。この突出部30は円筒形状を有しており、その突出部30内に、回転軸線A1に沿った方向でオイルポンプ28の一部が配置されている。車両1の高さ方向で突出部30の上端30Aは、サイドメンバ7の下端7Aよりも下に配置されており、突出部30はサイドメンバ7には接触していない。
【0031】
上記車両1の制御系統を説明すると、車両には電子制御装置31が設けられており、その電子制御装置31には、車速、ケーシング6内のオイルの油温、アクセル開度、エンジン回転数などを検知するセンサやスイッチの信号が入力される。この電子制御装置31には、エンジン出力を制御するデータ、電動モータMG1,MG2の出力を制御するデータ、クラッチC1の係合および解放を制御するデータが記憶されている。そして、電子制御装置31に入力される信号、および電子制御装置31に記憶されているデータに基づいて、エンジン出力、電動モータMG1,MG2の出力、クラッチC1の係合および解放が制御される。
【0032】
つぎに、車両1の制御について説明する。まず、車両1が停止しているときに、停止しているエンジン2を始動するときは、電動モータMG1を電動機として駆動させ、そのトルクをエンジン2に伝達してクランキングさせ、燃料の噴射および点火をおこないエンジン2を自律回転させる。また、エンジン2の自律回転後においては、車速およびアクセル開度に基づいて、車両1における要求駆動力が求められ、その要求駆動力に基づいて、エンジン2で負担する目標出力、および電動モータMG2で負担する目標出力が求められる。前記目標出力に基づいてエンジン2の回転数およびトルクを制御するにあたり、エンジン2の燃費が最適となるように、目標エンジン回転数および目標エンジントルクが求められる。そして、実エンジン回転数を目標エンジン回転数に近づけるように、動力分配装置5の変速比が制御される。この動力分配装置5の変速比は、具体的には電動モータMG1の回転数を制御することで変更される。また、エンジン2の電子スロットルバルブの開度を制御することで、実エンジントルクを目標エンジントルクに近づける制御がおこなわれる。エンジン2が運転されて動力分配装置5の入力要素であるキャリヤ11にトルクが伝達されると、電動モータMG1により反力が受け持たれ、動力分配装置5のリングギヤ9から出力されたトルクが、カウンタドライブギヤ15、カウンタシャフト16、デファレンシャル19、ドライブシャフト21を経由して駆動輪4に伝達されて駆動力が発生する。
【0033】
一方、前記電動モータMG2を運転するときは、電動モータMG2の目標出力に基づいて電動モータMG2の回転数およびトルクが制御される。電動モータMG2のトルクはカウンタドリブンギヤ16を経由して駆動輪4に伝達される。このように、図2に示された車両1は、駆動輪4に伝達する動力を発生する動力源としてエンジン2および電動モータMG2を有するハイブリッド車であり、エンジン2または電動モータMG2のうち、少なくとも一方から出力されたトルクを駆動輪4に伝達する制御を実行できる。
【0034】
つぎに、車両1の走行中にケーシング6の内部に存在している潤滑対象部位を潤滑する作用および制御について説明する。動力源、特にエンジン2から駆動輪4にトルクを伝達する際には、ギヤ同士の噛み合い部分、回転軸やギヤを支持している軸受などの機構には、発熱、摩耗、焼き付きなどが生じる可能性がある。そこで、ギヤ同士の噛み合い部分、あるいは回転軸やギヤを支持している軸受などの潤滑対象部位をオイルにより冷却および潤滑する。また、電動モータMG1,MG2も発熱するため、オイルにより冷却することもある。
【0035】
まず、オイルを回転要素により掻き上げる「掻き上げ潤滑」について説明する。この実施例では、図3に示すようにリングリヤ20の一部がオイル溜まり27に浸漬されているため、リングギヤ20が反時計方向に回転すると、オイル溜まり27のオイルがリングギヤ20により掻き上げられ、かつ、遠心力により飛ばされる。このようにして飛ばされたオイルは、潤滑対象部位に直接供給されるか、または間接的に供給され、潤滑対象部位がオイルにより潤滑または冷却される。ここで、オイルを潤滑対象部位に直接供給するとは、空中に飛ばされたオイルが潤滑対象部位に付着することである。例えば、動力分配装置5とリングギヤ20とは回転軸線A1に沿った方向で同じ位置に配置されているため、リングギヤ20により飛ばされたオイルは直接動力分配装置5に付着する。これに対して、オイルを潤滑対象部位に間接的に供給するとは、空中に飛ばされたオイルが一旦ケーシング6の内面に付着したり、あるいは、ケーシング6の内部に設けられたキャッチタンク(図示せず)に保持された後に、ケーシング6の壁面または油路などを経由して潤滑対象部位に供給されることである。なお、オイルがキャッチタンクや油路を経由して供給される潤滑対象部位は、回転軸線A1に沿った方向でリングギヤ20とは異なる位置に配置されている。さらに、潤滑対象部位を潤滑または冷却したオイルは自重によりオイル溜まり27に戻る。
【0036】
つぎに、オイルポンプ28を用いた潤滑について説明する。前記クラッチC1が係合されると、エンジントルクによりオイルポンプ28が駆動される。すると、オイル溜まり27のオイルがオイルポンプ28に吸入され、かつ、オイルポンプ28から吐出されたオイルが潤滑対象部に供給される。これに対して、クラッチC1が解放された場合はエンジントルクはオイルポンプ28に伝達されず、オイルポンプ28は停止する。そして、この実施例においては、潤滑対象部位をオイルにより潤滑または冷却するにあたり、油温または車速などの条件に基づいて、オイルポンプ28を駆動するか停止するか、つまり、クラッチC1を係合するか解放するかの制御をおこなうことができる。以下、クラッチC1を係合および解放する制御例を説明する。
【0037】
(第1制御例)
この第1制御例は油温に基づいてクラッチC1の係合および解放を制御するものであり、この第1制御例では図4のマップを用いる。この図4には、油温とオイルポンプ28の駆動による動力損失(オイルポンプ損失)との関係が示されている。図4のマップに示すように、油温が低下することにともないオイルポンプ28の駆動による動力損失が相対的に大きくなる傾向にあり、エンジン2の始動性が低下する。その理由は、油温の低下にともないオイルの粘度が相対的に高くなるからである。また、低温時には電動モータMG1に電力を供給する蓄電装置33の出力が低下するため、エンジン2の始動性が低下する要因となる。
【0038】
そこで、第1制御例においては、電動モータMG1によりエンジン2を始動するときに、油温センサにより検知された油温が、予め定められた油温th1 以下であるときはクラッチC1を解放する制御をおこなう。これに対して、油温センサにより検知された油温が、予め定められた油温th1 を超えるとクラッチC1を係合する制御をおこなう。このように、電動モータMG1によりエンジン2を始動するときに、油温センサにより検知される油温が、予め定められた油温th1 以下であるときはクラッチC1が解放されるため、エンジン2の始動時における動力損失を低減することができる。また、クラッチC1を解放すれば、エンジン2の動力がオイルポンプ28の駆動に消費されることがないため、エンジン2の燃費を向上させることができる。さらに、蓄電装置33の出力が低下する低温時にエンジン2を始動するときに、クラッチC1を解放するため、エンジン2の始動に必要な蓄電装置33の出力を低減できる。したがって、車両1に搭載されたシステム全体の低コスト化につながる。
【0039】
(第2制御例)
この第2制御例は、車速に基づいてクラッチC1の係合および解放を制御するものであり、その具体例を図1のフローチャートに基づいて説明する。まず、車両1が高車速で走行中か否かが判断される(ステップS1)。このステップS1において高車速か否かの判断基準は、潤滑対象部位を潤滑するために必要なオイル量と、リングギヤ20の回転により掻き上げられるオイル量との関係で定まる値である。例えば、リングリヤ20の回転数が所定回転数以上であれば、リングギヤ20の回転により掻き上げられるオイル量により、潤滑対象部位を潤滑するために必要なオイル量を確保できる。これに対して、リングリヤ20の回転数が所定回転数未満であれば、リングギヤ20の回転により掻き上げられるオイル量により、潤滑対象部位を潤滑するために必要なオイル量を確保できない。なお、車両1の走行時に潤滑対象部位を潤滑するために必要なオイル量、および必要なオイル量を確保するためのリングギヤ20の回転数は実験的に求められている。また、車速が上昇すればリングギヤ20の回転数も上昇するため、その車速とリングギヤ20の回転数との関係に基づいて、ステップS1の判断に用いるための基準車速が予め求められており、その基準車速が電子制御装置31に記憶されている。
【0040】
そして、ステップS1で肯定的に判断されるということは、リングギヤ20が相対的に高回転数で回転しており、リングギヤ20の回転によりオイルを掻き上ることにより、潤滑対象部位を潤滑するために必要なオイル量を確保できることを意味する。そこで、ステップS1で肯定的に判断された場合はクラッチC1を解放する制御をおこない(ステップS2)、この制御ルーチンを終了する。このステップS2の制御をおこなうと、エンジン2の動力がオイルポンプ28の駆動に消費されることを回避でき、エンジン2の燃費を向上することができる。
【0041】
これに対して、ステップS1で否定的に判断されるということは、リングギヤ20の回転により掻き上げられるオイル量では、潤滑対象部位を潤滑するために必要なオイル量を確保できないことを意味する。そこで、ステップS1で否定的に判断された場合は、クラッチC1を係合する制御をおこない(ステップS3)、この制御ルーチンを終了する。このステップS3の制御をおこなうと、エンジントルクによりオイルポンプ28が駆動され、オイルポンプ28から吐出されたオイルが潤滑対象部位に供給される。したがって、潤滑対象部位を潤滑するためのオイル量不足を回避できる。このように、図1の制御を実行すると、車両1が高車速で走行するか否かに関わりなく、潤滑対象部位における必要オイル量を、その潤滑対象部位に供給することができるという効果と、車両1が高車速で走行する時に動力損失を低減するという効果とを両立できる。
【0042】
さらに、この実施例においては、クラッチC1は、アクチュエータ32から外力が与えられていないときに係合される一方、アクチュエータ32から外力が与えられて解放されるように構成されている。このため、図1のフローチャートのステップS3に進みクラッチC1を係合する際に、クラッチC1の係合遅れによるもたつきを抑制できる。特に、アクチュエータ32として油圧式アクチュエータを用いている場合は、油圧室の油圧の上昇遅れによるクラッチC1の係合速度が相対的に遅くなること(もたつき)を回避できる。また、アクチュエータ32がフェールして、アクチュエータ32からクラッチC1に外力を与えることができない場合においても、エンジン2の動力でオイルポンプ28を駆動し、オイルポンプ28から吐出されたオイルを潤滑対象部位に供給することができる。したがって、車両1の走行中に、潤滑対象部位における必要オイル量を確保することができる。なお、図2に示された潤滑装置においては、第1制御例または第2制御例のうち、いずれか一方を選択して実行可能、あるいは、第1制御例と第2制御例とを切り替えて実行可能であり、第1制御例および第2制御例が同時におこなわれることはない。
【0043】
一方、この実施例においては、オイルポンプ28およびクラッチC1の外径は、電動モータMG1の外径よりも小さく構成されている。また、電動モータMG1よりもエンジン2から遠い位置にオイルポンプ28およびクラッチC1が配置されている。そして、オイルポンプ28の一部が配置された突出部30の上端30Aを、サイドメンバ7の下端7Aよりも下に配置してある。したがって、ケーシング6の一部とサイドメンバ7とが接触(干渉)することを回避できるとともに、車両1に対するトランスアクスルの搭載性が向上している。
【0044】
つぎに、潤滑装置の他の構成例を図5に基づいて説明する。図5に示された構成において、図2に示された構成と同じ構成部分については図2と同じ符号を付してある。この図2に示された潤滑装置と、図5に示された潤滑装置とを比べると、回転軸線A1に沿った方向において、クラッチC1およびオイルポンプ28の配置位置が異なる。具体的に説明すると、図5に示された潤滑装置においては、回転軸線A1に沿った方向において、クラッチC1と電動モータMG1との間にオイルポンプ28が配置されている。また、オイルポンプ28の回転軸28Aは中空に構成されており、その回転軸28A内にインプットシャフト12が配置されている。そして、回転軸線A1に沿った方向で、オイルポンプ28の配置範囲と、電動モータMG1の配置範囲とが一部で重なっている。また、回転軸線A1に沿った方向で、クラッチC1の配置範囲と、電動モータMG1の配置範囲とは重なっていない。さらに、モータ収納部60の回転軸線A1に沿った方向における端部に連続してリヤカバー29が形成されており、そのリヤカバー29が円錐形状(テーパ形状)に構成されている。具体的には、回転軸線A1に沿った方向でケーシング6の外部に向けて突出する向きの形状を有している。つまり、リヤカバー29は電動モータMG1から離れるに従って、縮径する向きに傾斜している。そして、回転軸線A1に沿った方向で、リヤカバー29の配置範囲と、サイドメンバ7の配置範囲とが重なっておらず、また、車両1の高さ方向でサイドメンバ7よりも下にリヤカバー29が配置されている。
【0045】
この図5に示された車両1および潤滑装置において、図2に示された車両1および潤滑装置と同じ構成部分については、図2と同じ作用効果を得られる。また、図5に示された潤滑装置においても、第1制御例または第2制御例のいずれか一方を選択して実行することができるとともに、第1制御例と第2制御例とを切り替えて実行することができる。なお、図5に示された潤滑装置においても、第1制御例および第2制御例の両方を同時に実行することはない。また、さらに、図5の実施例においては、リヤカバー29がサイドメンバー7よりも下に配置されている。したがって、リヤカバー29とサイドメンバ7とが接触すること(干渉)を回避でき、車両1に対するトランスアクスルの搭載性が向上する。
【0046】
ここで、図1のフローチャートに示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS3が、この発明の第1潤滑手段に相当し、ステップS2が、この発明の第2潤滑手段に相当する。また、図2および図3に示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、車両1がこの発明の車両に相当し、リングギヤ20がこの発明の回転部材に相当し、動力分配装置5を構成するギヤ、その他のギヤ同士の噛み合い部分、各種の軸受、電動モータMG1,MG2などが、この発明の潤滑対象部位に相当し、クラッチC1が、この発明のクラッチに相当し、エンジン2が、この発明の動力源に相当し、オイルポンプ28が、この発明のオイルポンプに相当し、オイル溜まり27が、この発明のオイル溜まりに相当し、駆動輪4が、この発明の駆動輪に相当し、アクチュエータ32が、この発明のアクチュエータに相当し、サイドメンバ7が、この発明のサイドメンバに相当する。さらに、キャリヤ11が、この発明の入力要素に相当し、リングギヤ9が、この発明の出力要素に相当し、サンギヤ8が、この発明の反力要素に相当し、電動モータMG1が、この発明の電動モータに相当し、出力軸14Aが、この発明の出力軸に相当し、動力分配装置5が、この発明の無段変速機に相当し、回転軸線A1が、この発明の回転軸線に相当し、ケーシング6が、この発明のケーシングに相当し、モータ収納部60が、この発明の第1収納部に相当し、図2に示された円筒部30、および図5に示されたリヤカバー29が、この発明の第2収納部に相当する。
【0047】
この発明においては、回転軸線と垂直な平面内で、回転軸線を中心とする第1収納部および第2収納部の形状は、円形であってもよいし、円形でなくてもよい。つまり、第1収納部の外接円よりも第2収納部の外接円の方が小さければよい。また、図2および図5の実施例においては、オイルポンプまたはクラッチのうちの一方が第2収納部に配置されているが、オイルポンプおよびクラッチの両方が第2収納部に配置されていてもよい。また、図2および図5に示された車両においては、動力分配装置としてシングルピニオン型の遊星歯車機構が示されているが、ダブルピニオン型の遊星歯車機構を用いることも可能である。さらに、動力分配装置は遊星歯車機構に代えて遊星ローラ機構を用いてもよい。つまり、動力分配装置は、入力要素および反力および出力要素が相互に相対回転できるように構成された無段変速機であればよい。
【0048】
さらに、電動モータMG2に代えて他の動力源、例えば、フライホイール、油圧モータを用いた車両においても、この発明の潤滑装置を適用できる。さらに、請求項1の発明および請求項2の発明については、動力源の出力軸が車両の前後方向に沿った回転軸線を中心として回転可能に配置されている構成の車両にも適用可能である。さらに、請求項1の発明および請求項2の発明については、動力源として、エンジンまたは電動モータまたはフライホイールのうち、少なくとも1つを備えた車両であればよい。つまり、請求項1または請求項2の発明については、動力源の種類は単数または複数のいずれでもよい。さらにまた、請求項1の発明および請求項2の発明については、動力源の出力軸が車両の前後方向に沿った回転軸線を中心として回転可能に配置されている構成の車両にも適用可能である。この発明において、オイルを掻き上げる回転部材にはギヤの他に、プーリ、回転部材同士を連結するコネクティングドラム、スプロケットなどが含まれる。さらに、この発明におけるクラッチには摩擦式クラッチの他に、噛み合いクラッチが含まれる。つまり、クラッチは動力の伝達および遮断ができる構成であればよい。
【符号の説明】
【0049】
1…車両、 2…エンジン、 4…駆動輪、 5…動力分配装置、 6…ケーシング、 7…サイドメンバ、 8…サンギヤ、 9…リングギヤ、 11…キャリヤ、 14A…出力軸、 20…リングギヤ、 27…オイル溜まり、 28…オイルポンプ、 29…リヤカバー、 30…円筒部、 32…アクチュエータ、 60…モータ収納部、 A1…回転軸線、 C1…クラッチ、 MG1…電動モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力源から駆動輪に動力を伝達する際に、オイルによる潤滑または冷却が必要となる潤滑対象部位と、この潤滑対象部位を潤滑または冷却するオイルが溜められたオイル溜まりと、このオイル溜まりに浸漬され、かつ、前記動力源の動力により回転して前記オイル溜まりのオイルを掻き上げて潤滑対象部位に供給する回転部材と、前記動力源の動力により駆動され、かつ、前記潤滑対象部位を潤滑するオイルを吐出するオイルポンプと、前記動力源と前記オイルポンプとの間の動力伝達経路を接続および遮断するクラッチとを備えた潤滑装置において、
前記車両が相対的に低速で走行し、かつ、前記回転部材の回転により掻き上げられるオイルにより前記潤滑対象部位を潤滑している際に、前記クラッチを係合させることにより、前記動力源の動力によりオイルポンプを駆動させ、そのオイルポンプから吐出されたオイルにより前記潤滑対象部位を潤滑する第1の潤滑手段と、前記車両が相対的に高速で走行し、かつ、前記回転部材の回転により掻き上げられたオイルにより前記潤滑対象部位を潤滑する際に、前記クラッチを解放して前記オイルポンプを停止させる第2の潤滑手段とを備えていることを特徴とする潤滑装置。
【請求項2】
前記クラッチに外力を与えてその係合および解放を制御するアクチュエータが設けられており、前記クラッチは、前記アクチュエータから与えられる外力が相対的に高められると解放される一方、前記アクチュエータから与えられる外力が相対的に低下すると係合されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の潤滑装置。
【請求項3】
前記動力源のトルクが伝達される入力要素と、前記駆動輪と動力伝達可能に接続された出力要素と、前記入力要素に入力されるトルクの反力を受け持つ反力要素と、この反力要素に接続された電動モータとを備え、この電動モータの回転数を制御することにより前記入力要素と前記出力要素との間の変速比を無段階に変更可能な無段変速機が設けられており、前記動力源を支持する車体は、前記車両の前後方向に沿って設けられたサイドメンバを備えており、前記電動モータの出力軸と前記オイルポンプの回転軸と前記クラッチとは同一の回転軸線上に配置されているとともに、この回転軸線が前記車両の左右方向に沿って配置されており、前記オイルポンプと前記クラッチとは前記回転軸線に沿った方向で異なる位置に配置されており、前記電動モータおよび前記オイルポンプおよび前記クラッチが収納されたケーシングが設けられており、前記回転軸線を中心とする半径方向で、前記オイルポンプの外周端および前記クラッチの外周端よりも前記電動モータの外周端の方が外側に配置されており、前記回転軸線に沿った方向で、前記電動モータの配置範囲の外側に前記オイルポンプまたは前記クラッチの少なくとも一部が配置されており、前記ケーシングには、前記電動モータが配置された第1収納部と、この第1収納部に連続して形成され、かつ、前記オイルポンプまたは前記クラッチの少なくとも一方が配置された第2収納部とが、前記回転軸線に沿った方向で異なる位置に設けられており、前記回転軸線を中心とする第1収納部の外接円よりも、前記回転軸線を中心とする第2収納部の外接円の方が小さくなるように構成されており、前記車両の高さ方向で前記第2収納部の上端が前記サイドメンバの下端よりも下に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−140994(P2011−140994A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2296(P2010−2296)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】