説明

濃度定量装置とプローブ及び濃度定量方法並びにプログラム

【課題】生体の安静状態や活動状態等を正確に把握し、生体中のグルコース濃度を定量する精度を確保しつつ、装置の小型化、測定時間の大幅短縮が可能な濃度定量装置とプローブ及び濃度定量方法並びにプログラムを提供する。
【解決手段】本発明の濃度定量装置は、生体の脈圧を検出する脈波センサ24と、脈波センサ24近傍に設けられて温度を測定する温度センサ25と、最大の脈圧が検出された部位の温度を体温として特定する体温特定部と、照射部と、複数種の後方散乱光から真皮層より放射される後方散乱光を選択する光散乱媒質層選択部と、この後方散乱光を受光する受光部と、この後方散乱光の強度を取得する光強度取得部と、真皮層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出部と、光吸収係数に基づいてグルコース濃度を算出する濃度算出部と、グルコース濃度を特定された体温にて補正する濃度補正部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体中の複数の光散乱媒質の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的に定量する濃度定量装置とプローブ及び濃度定量方法並びにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国は飽食の時代にあって、糖尿病の患者が毎年増加し続けている。そのために、糖尿病性腎炎の患者も毎年増加し続けることとなり、その結果、慢性腎不全の患者も毎年1万人もの増加を続け、患者数は28万人を超えるようになってきている。
一方、高齢化社会の到来により、予防医学に対する要求の高まりを受けて、個人における代謝量管理の重要性が急速に増大している。中でも、血糖値は、糖尿病の極初期の段階での糖代謝の反応を測定することで、糖尿病の早期診断に基づく早期治療を行うことができる。
【0003】
従来、血糖値の測定は、腕あるいは指先等の静脈から採血を行い、この血液中のグルコースに対する酵素活性を測定することで行っているが、このような血糖値の測定方法では、採血が煩雑であり、しかも採血に痛みを伴い、さらには感染症の危険性を伴う等の様々な問題がある。
また、血糖値を連続的に測定する方法としては、静脈に注射針を刺した状態で連続的に血糖値相応のグルコースの定量を行う機器が米国にて開発されており、現在臨床試験中であるが、静脈に注射針を刺したままにしているために、血糖値の測定中に針が抜ける危険性や感染症の危険性がある。
そこで、採血無しに頻繁に血糖値を測定することができ、しかも感染症の危険性が無い血糖値の測定装置の開発が求められている。さらには、簡単にかつ常時装着可能であり、小型化可能な血糖値の測定装置の開発が求められている。
【0004】
そこで、血糖値の測定装置に分子吸光の原理を用いた分光分析装置を適用することにより、非侵襲的に血糖値を測定する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この装置は、皮膚に近赤外の連続光を照射し、その光吸収量からグルコースの濃度を算出する装置であり、具体的には、予めグルコース濃度と照射する近赤外光の波長と光の吸収量との関係を示す検量線を作成しておき、皮膚に近赤外の連続光を照射し、この皮膚からの戻り光をモノクロメーター等を用いてある波長域を走査し、その波長域の各波長に対する光の吸収量を求め、この各波長における光の吸収量と検量線とを比較することで、血液中のグルコース濃度、すなわち血糖値を算出している。
【0005】
一般に、水溶液や含水率の高い試料の近赤外分光分析を行う場合、それらのスペクトルは、水のスペクトルと同様、温度変化に伴うスペクトルのシフト等の変動が大きく、したがって、近赤外分光を用いて定量分析をする場合、水溶液や試料の温度の影響を無視することができない。
そこで、生体表面近傍の組織中のグルコース濃度を近赤外領域における光の吸収を利用して測定する場合に、近赤外光受発光用の光ファイババンドルのプロ−ブ先端の測定面と生体の表面近傍組織との接触部分の温度を、ヒータ及び表面温度検知手段を用いて一定にする装置も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3931638号公報
【特許文献2】特開2001−299727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のグルコース濃度の測定装置には次のような問題点があった。
第1に、近赤外光受発光用の光ファイババンドルのプロ−ブ先端の測定面と生体の表面近傍組織との接触部分の温度をヒータにより加熱する装置では、生体の表面と接する測定面を加熱するためのエネルギーを供給する必要があると共に、生体の表面近傍組織との接触部分の温度を一定にする制御手段が必要になり、装置構成の小型化が難しく、価格も高くなる。
【0008】
第2に、生体の表面近傍組織との接触部分の温度を一定にする制御手段は、近赤外光受発光部を表面近傍組織に接触させた時点で測定を行うか、または表面近傍組織に接触させて近赤外光の照射を開始してから所定時間が経過した後に測定を行うものであり、しかも、この所定時間を、目標温度と、環境温度及び近赤外光受発光手段を生体の表面近傍組織に接触させた時点での生体温度とから決定するものである。それ故に、表面近傍組織に接触させた時点での環境温度を得てから、表面近傍組織に接触させて近赤外光の照射を開始してから所定時間が経過した後の生体温度を得るまでに、十分な熱平衡状態を得る必要がある。この熱平衡状態を得るまでには、通常、60秒から120秒必要である。
【0009】
このように、従来のグルコース濃度の測定装置は、生体中のグルコース濃度を定量する精度を確保しつつ、装置を小型化し、かつ、測定時間を大幅に短縮することは到底できないものであった。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、生体の安静状態や活動状態等の各状態を正確に把握するとともに、その生体の肉体的状況や精神的状況や脈拍数の周期的変動をも考慮に入れることで、生体中の観測対象におけるグルコース濃度を定量する精度を確保しつつ、装置を小型化することが可能であり、かつ、測定時間を大幅に短縮することが可能な濃度定量装置とプローブ及び濃度定量方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の濃度定量装置とプローブ及び濃度定量方法並びにプログラムを採用した。
すなわち、本発明の濃度定量装置は、生体中の複数の光散乱媒質の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置であって、前記生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出する脈波検出手段と、前記脈波検出手段近傍に設けられ前記所定領域に亘って温度を測定する温度測定手段と、前記所定領域に亘って検出された脈圧のうち最大の脈圧が検出された部位の温度を前記生体の体温として特定する体温特定手段と、前記観測対象に光を照射する照射手段と、前記光を照射することにより前記観測対象より放射される複数種の後方散乱光から前記任意の層より放射される後方散乱光を選択する光散乱媒質層選択手段と、前記任意の層から放射される後方散乱光を受光する受光手段と、前記受光手段が受光した前記任意の層から放射される後方散乱光の強度を取得する光強度取得手段と、前記光強度取得手段が取得した光強度に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出手段と、前記光吸収係数算出手段が算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手段と、前記濃度算出手段が算出した前記目的成分の濃度を、前記体温特定手段により特定した前記体温に基づいて補正する濃度補正手段と、を備えてなることを特徴とする。
【0012】
本発明の濃度定量装置では、脈波検出手段により、生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出し、温度測定手段により、所定領域に亘って温度を測定し、体温特定手段により、所定領域に亘って検出された脈圧のうち最大の脈圧が検出された部位の温度を生体の深部体温に近似した体温として特定する。
また、濃度補正手段により、算出された目的成分の濃度を、体温特定手段により特定した体温に基づいて補正する。
このように、生体の深部体温に近似した体温を特定した後、算出された目的成分の濃度を、脈波検出手段、温度測定手段及び体温特定手段により特定された体温に基づいて補正することで、この後方散乱光を基に算出される観測対象の任意の層における目的成分の濃度を生体の活動状態に応じて精度良く検出することができる。したがって、観測対象の任意の層における目的成分の濃度を、生体の活動状態に応じて、非侵襲的に、短時間にて精度良く測定することができる。
【0013】
本発明の濃度定量装置は、生体中の複数の光散乱媒質の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置であって、前記生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出する脈波検出手段と、前記観測対象の表面近傍の温度を測定する表面温度測定手段及び前記表面温度測定手段近傍の温度を測定するセンサ内部温度測定手段を備えてなる温度測定手段と、前記観測対象に光を照射する照射手段と、前記光を照射することにより前記観測対象より放射される複数種の後方散乱光から前記任意の層より放射される後方散乱光を選択する光散乱媒質層選択手段と、前記任意の層から放射される後方散乱光を受光する受光手段と、前記受光手段が受光した前記任意の層から放射される後方散乱光の強度を取得する光強度取得手段と、前記光強度取得手段が取得した光強度に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出手段と、前記光吸収係数算出手段が算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手段と、前記濃度算出手段が算出した前記目的成分の濃度を、前記表面温度測定手段が測定した前記観測対象の表面近傍の温度と、前記センサ内部温度測定手段が測定した前記表面温度測定手段近傍の温度との差に基づいて補正する濃度補正手段と、を備えてなることを特徴とする。
【0014】
本発明の濃度定量装置では、脈波検出手段により、生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出し、表面温度測定手段により観測対象の表面近傍の温度を測定し、センサ内部温度測定手段により前記表面温度測定手段近傍の温度を測定する。
また、濃度補正手段により、前記目的成分の濃度を、表面温度測定手段が測定した観測対象の表面近傍の温度と、センサ内部温度測定手段が測定した表面温度測定手段近傍の温度との差に基づいて補正する。
このように補正することで、この後方散乱光を基に算出される観測対象の任意の層における目的成分の濃度を、精度良く検出することができる。したがって、観測対象の任意の層における目的成分の濃度を、非侵襲的に、短時間にて精度良く測定することができる。
【0015】
本発明の濃度定量装置は、前記光を短時間パルス光とし、さらに、前記観測対象に対して照射する前記短時間パルス光の、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層における伝搬光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶手段と、前記観測対象に対して照射する前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶手段と、前記光路長分布記憶手段から、前記伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長を取得する光路長取得手段と、前記時間分解波形記憶手段から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度を取得する光強度モデル取得手段とを備え、前記光強度取得手段は、前記任意の層の複数の時刻t〜tにおける光強度を取得し、前記光吸収係数算出手段は、前記任意の層の光吸収係数を、下記の式(1)
【数1】

(但し、I(t)は前記受光手段が時刻tにて受光した光強度、N(t)は前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度、Li(t)は前記複数の光散乱媒質の各々の層における伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長、μiは第i層の光吸収係数である)
から算出することを特徴とする。
【0016】
本発明の濃度定量装置では、光強度取得手段が、任意の層の複数の時刻t〜tにおける光強度を取得し、光吸収係数算出手段が、任意の層の光吸収係数を、上記の式(1)から算出する。
このように、後方散乱光を時間分解計測することで、任意の層以外の層からの後方散乱光をノイズとして低減することができ、目的成分の濃度に対する各層の温度の影響を小さくすることができる。したがって、目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0017】
本発明の濃度定量装置は、前記光を短時間パルス光とし、さらに、前記観測対象に対して照射する前記短時間パルス光の、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層における伝搬光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶手段と、前記観測対象に対して照射する前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶手段と、前記光路長分布記憶手段から、前記伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長を取得する光路長取得手段と、前記時間分解波形記憶手段から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度を取得する光強度モデル取得手段とを備え、前記光強度取得手段は、所定の時刻から少なくとも所定の時刻τまでの間の光強度を取得し、前記光吸収係数算出手段は、前記任意の層の光吸収係数を、下記の式(2)
【数2】

(但し、I(t)は前記受光手段が時刻tにて受光した光強度、N(t)は前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度、Li(t)は前記複数の光散乱媒質の層各々の層における伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長、nは前記観測対象となる層の数、μiは第i層の光吸収係数である)
から算出することを特徴とする。
【0018】
本発明の濃度定量装置では、光強度取得手段が、所定の時刻から少なくとも所定の時刻τまでの間の光強度を取得し、光吸収係数算出手段が、任意の層の光吸収係数を、上記の式(2)から算出する。
このように、後方散乱光を時間分解計測することで、任意の層以外の層からの後方散乱光をノイズとして低減することができ、目的成分の濃度に対する各層の温度の影響を小さくすることができる。したがって、目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0019】
本発明の濃度定量装置は、前記濃度算出手段は、前記任意の層における前記目的成分の濃度を、下記の式(3)
【数3】

(但し、μaは前記任意の層である第a層における光吸収係数、gjは前記観測対象を構成する第j成分のモル濃度、εjは第j成分の光吸収係数、pは前記観測対象を構成する主成分の個数、qは前記短時間パルス光の種類数である)
から算出することを特徴とする。
【0020】
本発明の濃度定量装置では、濃度算出手段が、任意の層における目的成分の濃度を、上記の式(3)から算出する。
このように、時間分解計測した後方散乱光を用いて任意の層における目的成分の濃度を算出することで、目的成分の濃度に対する各層の温度の影響を小さくすることができる。したがって、目的成分の濃度をさらに精度良く測定することができる。
【0021】
本発明の濃度定量装置は、前記脈波検出手段及び前記温度測定手段を複数組備え、前記体温特定手段は、複数の前記脈波検出手段のうち最大の脈圧が検出された部位の前記脈波検出手段近傍の前記温度測定手段が測定した温度を体温として特定することを特徴とする。
【0022】
本発明の濃度定量装置では、複数の前記脈波検出手段のうち最大の脈圧が検出された部位の脈波検出手段近傍の温度測定手段が測定した温度を、体温として特定する。
このように、複数組の脈波検出手段及び温度測定手段を用いることで、最小の操作により、生体中の観測対象となる部位の体温を短時間にて測定することができる。
【0023】
本発明の濃度定量装置は、前記温度測定手段に、前記表面温度測定手段が測定した前記観測対象の表面近傍の温度と、前記センサ内部温度測定手段が測定した前記表面温度測定手段近傍の温度との差を、単位時間当たりの温度変化率として算出する表面・内部温度変化率算出手段を設けてなることを特徴とする。
【0024】
本発明の濃度定量装置では、表面・内部温度変化率算出手段により、前記表面温度測定手段が測定した前記観測対象の表面近傍の温度と、前記センサ内部温度測定手段が測定した表面温度測定手段近傍の温度との差を、単位時間当たりの温度変化率として算出する。
このように、濃度算出手段が算出した目的成分の濃度を、表面温度測定手段が測定した観測対象の表面近傍の温度と、センサ内部温度測定手段が測定した表面温度測定手段近傍の温度との差から算出した単位時間当たりの温度変化率に基づいて補正することで、この後方散乱光を基に算出される観測対象の任意の層における目的成分の濃度に対する温度の影響を極めて小さくすることができる。したがって、目的成分の濃度を、非侵襲的に精度良く測定することができる。
【0025】
本発明の濃度定量装置は、前記脈波検出手段に、該脈波検出手段が脈圧を検出しているか否かを判別する拍動弁別手段を設けてなることを特徴とする。
本発明の濃度定量装置では、脈波検出手段に、該脈波検出手段が脈圧を検出しているか否かを判別する拍動弁別手段を設けたことにより、脈波検出手段が脈圧を検出しているか否かを確実に知ることができ、脈圧の検出を誤認するおそれが無い。
【0026】
本発明の濃度定量装置は、前記生体の体動を検出する体動検出手段と、前記体動検出手段が検出した生体の体動が所定範囲内であるか否かを判別する体動判別手段と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
本発明の濃度定量装置では、体動検出手段が生体の体動を検出し、体動判別手段が、体動検出手段が検出した生体の体動が所定範囲内であると判断した場合に、生体の体温を特定するので、生体の安静な状態を正確に把握することができる。したがって、生体が安静な状態における観測対象の任意の層における目的成分の濃度を精度良く検出することができる。
【0028】
本発明のプローブは、生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出する脈波検出手段と、前記脈波検出手段近傍に設けられ前記所定領域に亘って温度を測定する温度測定手段と、前記観測対象に光を照射する照射手段と、前記光を照射することにより前記観測対象より放射される複数種の後方散乱光から前記任意の層より放射される後方散乱光を選択する光散乱媒質層選択手段と、前記任意の層から放射される後方散乱光を受光する受光手段と、を備えてなることを特徴とする。
【0029】
本発明のプローブでは、脈波検出手段により生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出し、温度測定手段により所定領域に亘って温度を測定し、照射手段により観測対象に光を照射し、光散乱媒質層選択手段により観測対象より放射される複数種の後方散乱光から任意の層より放射される後方散乱光を選択し、受光手段により任意の層から放射される後方散乱光を受光する。
このように、生体中の観測対象の体温及び観測対象の任意の層から放射される後方散乱光を効率よくかつ簡便に採取することができる。
【0030】
本発明の濃度定量方法は、生体中の複数の光散乱媒質の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量方法であって、脈波検出手段により前記生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出するとともに、温度測定手段により、前記所定領域に亘って温度を測定し、次いで、体温特定手段により、前記所定領域に亘って検出された脈圧のうち最大の脈圧が検出された部位の温度を前記生体の体温として特定し、次いで、照射手段により、前記観測対象に光を照射し、次いで、光散乱媒質層選択手段により、前記光を照射することにより前記観測対象より放射される複数種の後方散乱光から前記任意の層より放射される後方散乱光を選択し、次いで、受光手段により、前記任意の層から放射される後方散乱光を受光し、次いで、光強度取得手段により、前記受光手段が受光した前記任意の層から放射される後方散乱光の強度を取得し、次いで、光吸収係数算出手段により、前記光強度取得手段が取得した光強度に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出し、次いで、濃度算出手段により、前記光吸収係数算出手段が算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出し、次いで、濃度補正手段により、前記濃度算出手段が算出した前記目的成分の濃度を、前記体温特定手段により特定した前記体温に基づいて補正する、ことを特徴とする。
【0031】
本発明の濃度定量方法では、脈波検出手段により生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出し、温度測定手段により所定領域に亘って温度を測定し、体温特定手段により、所定領域に亘って検出された脈圧のうち最大の脈圧が検出された部位の温度を生体の深部体温に近似した体温として特定する。
このように、生体の深部体温に近似した体温を特定した後に、算出された目的成分の濃度を、この体温に基づいて補正することで、観測対象の任意の層における目的成分の濃度を生体の活動状態に応じて精度良く検出することができる。したがって、観測対象の任意の層における目的成分の濃度を、生体の活動状態に応じて、非侵襲的に、短時間にて精度良く測定することができる。
【0032】
本発明のプログラムは、生体中の複数の光散乱媒質の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置のコンピュータに、前記生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出する脈波検出手順、前記所定領域に亘って温度を測定する温度測定手順、
前記所定領域に亘って検出された脈圧のうち最大の脈圧が検出された部位の温度を前記生体の体温として特定する体温特定手順、前記観測対象に光を照射する照射手順、前記光を照射することにより前記観測対象より放射される複数種の後方散乱光から前記任意の層より放射される後方散乱光を選択する光散乱媒質層選択手順、前記任意の層から放射される後方散乱光を受光する受光手順、前記受光手順にて得られた前記任意の層から放射される後方散乱光の強度を取得する光強度取得手順、前記光強度取得手順にて取得した光強度に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出手順、前記光吸収係数算出手順にて算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手順、前記濃度算出手順により算出した前記目的成分の濃度を、前記体温特定手順にて特定した前記体温に基づいて補正する濃度補正手順、を実行させることを特徴とする。
【0033】
本発明のプログラムでは、濃度定量装置のコンピュータに、生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出する脈波検出手順、所定領域に亘って温度を測定する温度測定手順、所定領域に亘って検出された脈圧のうち最大の脈圧が検出された部位の温度を前記生体の体温として特定する体温特定手順、を実行させる。
このように、上記の脈波検出手順、温度測定手順及び体温特定手順を実行することで、生体の深部体温に近似した体温を特定した後に、この特定された体温に基づいて目的成分の濃度を精度良く補正することができる。したがって、観測対象の任意の層における目的成分の濃度を、生体の活動状態に応じて、非侵襲的に、短時間にて精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置の導光部の構成を示す断面図である。
【図3】人体の手のひら近傍の測定部位の外観を示す斜視図である。
【図4】人体の手のひら近傍の各測定点における温度の測定結果を示す図である。
【図5】人体の広域循環系を示す模式図である。
【図6】人体の皮膚組織の断面を示す模式図である。
【図7】シミュレーション部が算出した各層の伝搬光路長分布を示す図である。
【図8】シミュレーション部が算出した時間分解波形を示す図である。
【図9】水による光吸収波長特性を示す図である。
【図10】皮膚の主成分の吸収スペクトルを示す図である。
【図11】皮膚の表皮層、真皮層及び皮下組織各々に照射される光の波長と吸収係数との関係を示す図である。
【図12】水の吸光度スペクトルの温度依存性を示す図である。
【図13】水の吸光度スペクトル差の温度依存性を示す図である。
【図14】グルコース水溶液の吸光度スペクトルの一例を示す図である。
【図15】本発明の第1の実施形態の血糖値を測定する手順を示すフローチャートである。
【図16】本発明の第2の実施形態の血糖値測定装置の導光部の構成を示す断面図である。
【図17】本発明の第2の実施形態の血糖値を測定する手順を示すフローチャートである。
【図18】本発明の第3の実施形態の血糖値測定装置の導光部の構成を示す断面図である。
【図19】本発明の第3の実施形態の血糖値を測定する手順を示すフローチャートである。
【図20】本発明の第4の実施形態の血糖値測定装置の導光部の構成を示す断面図である。
【図21】本発明の第4の実施形態の血糖値を測定する手順を示すフローチャートである。
【図22】本発明の第5の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図23】本発明の第5の実施形態の血糖値を測定する手順を示すフローチャートである。
【図24】本発明の第6の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図25】本発明の第6の実施形態の血糖値を測定する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の濃度定量装置とプローブ及び濃度定量方法並びにプログラムを実施するための形態について説明する。
本発明では、濃度定量装置として血糖値測定装置を、観測対象として人体(生体)の手のひらの皮膚を、目的成分としてグルコースを、特定波長の光として特定波長の短時間パルス光を、それぞれ例に取り説明する。
【0036】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態の血糖値測定装置の構成を示す概略ブロック図、図2は、同血糖値測定装置の導光部の構成の概略を示す断面図である。
この血糖値測定装置1は、人体(生体)の手のひら等の皮膚(観測対象)を構成する複数層のうちの真皮層(任意の層)に含まれるグルコース(目的成分)の濃度を非侵襲にて定量する装置であり、シミュレーション部2と、光路長分布記憶部(光路長分布記憶手段)3と、時間分解波形記憶部(時間分解波形記憶手段)4と、照射部(照射手段)5と、導光部6と、光散乱媒質層選択部(光散乱媒質層選択手段)7と、受光部(受光手段)8と、光強度取得部(光強度取得手段)9と、光路長取得部(光路長取得手段)10と、無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得手段)11と、光吸収係数算出部(光吸収係数算出手段)12と、濃度算出部(濃度算出手段)13と、体温特定部(体温特定手段)14と、濃度補正部(濃度補正手段)15とを備えている。
【0037】
シミュレーション部2は、光吸収係数がゼロの皮膚モデルに対して光を照射するシミュレーションを行う。
光路長分布記憶部3は、皮膚に対して照射する短時間パルス光の、この皮膚を構成する各々の層における伝搬光路長分布のモデルを記憶する。ここでは、光吸収係数がゼロの皮膚モデルの伝搬光路長分布を記憶する。
時間分解波形記憶部4は、皮膚に対して照射する短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する。ここでは、光吸収係数がゼロの皮膚モデルの時間分解波形を記憶する。
照射部5は、皮膚に短時間パルス光を照射する。ここで、短時間パルス光とは、パルス幅が100psec程度かそれ以下のパルス光を意味する。なお、短時間パルス光として0.1psecから数psecの範囲のパルス幅を持つパルス光を用いても良い。
【0038】
導光部6は、図2に示すように、皮膚31に密着して照射部5から発せられた短時間パルス光を皮膚31に向かって導光させる照射導光路21と、この照射導光路21の外側に一体に設けられ、この皮膚31から放射される複数種の後方散乱光を集光して光散乱媒質層選択部7へ導光する受光導光路22と、一体化された照射導光路21及び受光導光路22の外側に設けられた断熱材23と、断熱材23の皮膚側の表面に設けられ人体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出する脈波センサ(脈波検出手段)24と、脈波センサ24近傍に設けられ前記所定領域に亘って温度を測定する温度センサ(温度測定手段)25と、これら照射導光路21、受光導光路22及び断熱材23を固定する基台26とにより構成されている。
この導光部6と、照射部5と、受光部8とにより本発明のプローブが構成されている。
【0039】
照射導光路21及び受光導光路22は、導光する短時間パルス光の吸収損失が小さい材料であればよく、例えば、石英ガラス、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)やポリエチレン等のプラスチックが好適に用いられる。
断熱材23は、皮膚31の温度変化に影響しない程度に熱容量が十分小さい断熱性を有する材料であればよい。この断熱材23と皮膚31との間隔は、この皮膚31の温度変化を断熱材23が直接受けない程度に離れていることが好ましく、0.5mm〜1.0mmが好ましい。この断熱材23では、熱容量を皮膚31の温度変化に影響しない程度に十分小さくすることで、温度センサ25が温度到達値の90%に達するまでの熱応答時間を0.2秒以内に抑えることができる。
【0040】
脈波センサ24は、人体中の拍動を有する部位近傍の脈圧、すなわち橈骨動脈等の動脈の脈圧を、この動脈を含む皮膚31の表面(所定領域)に亘って非接触にて検出する。
この脈波センサ24では、検出されたアナログ信号をA/D変換部によりデジタル信号に変換し、FFT(高速フーリエ変換)処理部によりデジタル信号に変換された脈波信号にFFT処理を施し、その後、拍数演算部にてFFT処理された脈波信号から拍数を求め、この拍数を信号として出力する。
【0041】
なお、脈波信号から拍数を求める場合、取り込まれた脈波信号の波形のピーク間隔を求めて、その逆数を拍数として算出してもよい。
また、本来必要なのは心拍数、すなわち、単位時間あたりにおける心臓の拍数であるが、心拍数=脈拍数であるから、脈拍数を求める構成としても構わない。したがって、心電を検出して心拍数を直接求める構成としても良い。
この脈拍数と心拍数とは、医学的には区別されるべきものであるが、本発明においては区別する必要が無いので、両者を含めて「拍数」と表記する。
この脈波センサ24は、周囲が断熱材23により覆われているので、照射導光路21及び受光導光路22の温度の影響を受けるおそれがない。
この脈波センサ24には、必要に応じて、脈圧を検出しているか否かを判別する拍動判別手段を設けてもよい。
【0042】
温度センサ25は、この動脈を含む皮膚31の表面(所定領域)に亘って非接触にて温度を測定する。
この温度センサ25では、検出されたアナログ信号をA/D変換部によりデジタル信号に変換し、出力する。
この温度センサ25は、周囲が断熱材23により覆われているので、照射導光路21及び受光導光路22の温度の影響を受けるおそれがなく、皮膚31の温度を測定することができる。
【0043】
この導光部6では、照射導光路21が、照射部5が照射した短時間パルス光を導光して皮膚31に向かって照射すると、この短時間パルス光が皮膚31に照射されることにより、この皮膚31からは複数種の後方散乱光を放射させることとなる。これら複数種の後方散乱光は、受光導光路22により光散乱媒質層選択部7へ導光される。
【0044】
光散乱媒質層選択部7は、導光部6により集光されかつ導光された皮膚から放射される複数種の後方散乱光から、主として真皮層により放射される後方散乱光を選択する。
受光部8は、短時間パルス光が皮膚によって後方散乱した光を受光する。
【0045】
光強度取得部9は、受光部8が受光した真皮層から放射される後方散乱光の異なる複数の時刻の受光強度を取得する。
ここで、この複数の時刻は、皮膚を構成する各々の層の伝搬光路長分布のピーク時間を含むことが好ましい。
このように、各々の層の伝搬光路長分布のピーク時間を含むことで、皮膚の複数の層から任意の層、例えば真皮層を効率的に選択することができる。
【0046】
光路長取得部10は、光路長分布記憶部3から、伝搬光路長分布のモデルの所定の時刻における、皮膚の各々の層の光路長を取得する。ここでは、光路長分布記憶部3からある時刻における光路長を取得する。
無吸収時光強度取得部11は、時間分解波形記憶部4から、短時間パルス光の時間分解波形のモデルの所定の時刻における光の強度を取得する。ここでは、時間分解波形記憶部4からある時刻における光強度を取得する。
光吸収係数算出部12は、短時間パルス光を照射した皮膚の真皮層における光吸収係数を算出する。
【0047】
この光吸収係数算出部12では、皮膚における任意の層の光吸収係数を、下記の式(4)
【数4】

(但し、I(t)は受光部8が時刻tにて受光した光強度、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形の無吸収モデルの時刻tにおける光強度、Li(t)は皮膚の各々の層における伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長、μiは第i層の光吸収係数である)
から算出する。
ここで、第1層は表皮層、第2層は真皮層、第3層は皮下組織を示し、μは表皮層の光吸収係数、μは真皮層の光吸収係数、μは皮下組織の光吸収係数を示す。
【0048】
濃度算出部13は、真皮層における光吸収係数から、真皮層に含まれるグルコースの濃度を算出する。
この濃度算出部13では、皮膚の任意の層におけるグルコースの濃度を、下記の式(5)
【数5】

(但し、μaは皮膚の任意の層である第a層における光吸収係数、gjは皮膚を構成する第j成分のモル濃度、εjは第j成分の光吸収係数、pは皮膚を構成する主成分の個数、qは特定波長λkの種類数である)
から算出する。
ここで、第1層は表皮層、第2層は真皮層、第3層は皮下組織を示し、μは表皮層の光吸収係数、μは真皮層の光吸収係数、μは皮下組織の光吸収係数を示す。
【0049】
体温特定部14は、脈波センサ24にて動脈を含む皮膚31の表面に亘って非接触にて検出された脈圧データ、及び温度センサ25にて動脈を含む皮膚31の表面に亘って非接触にて測定された温度データに基づき、脈圧のうち最大の脈圧を特定し、この特定された最大の脈圧に対応する部位の温度を生体の深部体温に近似した体温として特定する。この体温は、一定時間毎に特定され、メモリ等の記憶手段に記憶される。
【0050】
濃度補正部15は、濃度算出部13で算出された真皮層のグルコースの濃度を、体温特定部14にて特定された生体の体温を用いて補正する。
この濃度補正部15では、濃度算出部13で算出された真皮層のグルコースの濃度を、体温特定部14にて特定された生体の体温と基準温度との差を用いて補正することで、この真皮層のグルコースの濃度を人体の活動状態に応じて精度良く検出することが可能である。これにより、真皮層のグルコースの濃度を、人体の活動状態に応じて、非侵襲的に、短時間にて精度良く測定することができる。
【0051】
このように構成された血糖値測定装置1では、人体の皮膚31に導光部6の先端部を当てたまま、この導光部6を皮膚31に沿って任意の方向に摺動させることにより、脈波センサ24により人体中の拍動を有する部位近傍の脈圧、すなわち動脈の脈圧を非接触にて検出する。この際、脈波センサ24により検出された動脈近傍の皮膚31の温度を温度センサ25により非接触にて測定する。
【0052】
一方、照射部5から放射された短時間パルス光は、皮膚31に照射導光路21を介して照射される。皮膚31からは複数種の後方散乱光が放射されるが、これらの後方散乱光は受光導光路22により集光されて光散乱媒質層選択部7へ導光される。
光散乱媒質層選択部7は、皮膚31から放射される複数種の後方散乱光から、主として真皮層により放射される後方散乱光のみを選択する。受光部8は、主として真皮層から放射される後方散乱光のみを受光する。
【0053】
さらに、光強度取得部9は、時刻tにおいて受光部8が受光した真皮層から放射される後方散乱光の光強度を取得する。
一方、光路長取得部10は、光路長分布記憶部3から、皮膚モデルにおける伝搬光路長分布の時刻tにおける皮膚31の各層の光路長を取得し、無吸収時光強度取得部11は、時間分解波形記憶部4から、皮膚モデルにおける短時間パルス光の時間分解波形の時刻tにおける光の強度を取得する。
【0054】
次いで、光吸収係数算出部12は、光強度取得部9が取得した光強度と、光路長取得部10が取得した皮膚の各層の光路長と、無吸収時光強度取得部11が取得した光強度とに基づいて、皮膚の真皮層の光吸収係数を算出する。
次いで、濃度算出部13は、光吸収係数算出部12が算出した光吸収係数に基づいて、皮膚20の真皮層に含まれるグルコースの濃度を、上記の式(5)に基づき算出する。
このようにして、真皮層に含まれるグルコースの濃度が算出される。
【0055】
一方、体温特定部14では、脈波センサ24にて動脈を含む皮膚31の表面に亘って非接触にて検出された脈圧データ、及び温度センサ25にて動脈を含む皮膚31の表面に亘って非接触にて測定された温度データに基づき、脈圧のうち最大の脈圧を特定し、この特定された最大の脈圧に対応する部位の温度を生体の深部体温に近似した体温として特定する。
次いで、濃度補正部15は、濃度算出部13で算出された真皮層のグルコースの濃度を、体温特定部14で特定された体温を用いて補正する。
【0056】
以上により、真皮層から放射される後方散乱光を基に算出される真皮層に含まれるグルコースの濃度を、脈波センサ24にて検出された脈圧データ及び温度センサ25にて測定された動脈を含む皮膚31の表面の温度データに基づき、脈圧体温特定部14にて特定された体温を用いて補正することにより、真皮層のグルコースの濃度を生体の活動状態に応じて精度良く検出することができる。したがって、真皮層に含まれるグルコース濃度を、生体の活動状態に応じて、非侵襲的に精度良く測定することができる。
【0057】
次に、本実施形態の体温の測定原理について、本発明者等が行った実験結果に基づいて説明する。
ここでは、開口径5ミリ程度の放射温度計を用いて、椀骨動脈部の周辺の温度分布を測定した。その結果、椀骨動脈部の略直上における温度が、周辺部の温度に比べて1℃弱高くなっており、平熱に近い体温が測定されることが判明した。
【0058】
図3は人体の手のひら近傍の測定部位の外観を示す斜視図である。
温度の測定は、橈骨茎状突起から中枢側へ10mmだけ移動したところの橈骨動脈/尺骨動脈に直交する仮想線上に5mm間隔にて測定点を設け、これらの測定点それぞれについて温度測定を行った。
【0059】
図4は、人体の手のひら近傍の各測定点における温度の測定結果を示す図であり、同図(a)は腕が乾燥した状態での温度の測定結果であり、同図(b)は測定部位を一旦水で濡らした後に温度測定を行なった場合の温度の測定結果である。
図4から明らかなように、橈骨動脈上の温度と尺骨動脈上の温度とは、何れも周辺部の温度と比べて高く、より深部体温に近い値となっている。しかも、動脈上の温度と周辺部との温度の差異は、乾燥した場合よりも水で濡らした後の場合にいっそう顕著に現れており、特に橈骨動脈上にて測定される温度は、水濡れの影響をほとんど受けずに乾燥時のそれに略等しい値が得られている。
【0060】
以上の実験結果を医学的観点から検討すると、橈骨動脈等の動脈は血液という熱源を搬送する経路になっていることから、このような動脈の直上部分における表皮の温度は、その周辺部に比べて深部体温に十分近いものになっていると考えられる。加えて、橈骨動脈の直上部分では、心臓からの血液の拍出に伴って時間応答の速い拍動が観測されるので、この拍動を発生している部位を探し出し、この部位の温度を測ることにより、深部体温に十分近い体温を得ることができる。
【0061】
この拍動を検出する部位としては、細小動脈を除く動脈、すなわち大動脈、中動脈、小動脈の各動脈の直上部であればどこであってもよい。例えば、中動脈の部位としては、上述した橈骨動脈が挙げられ、また、小動脈としては、指の側胴部が挙げられる。
図5は、人体の広域循環系を示す模式図である。
この広域循環系は、心臓から人体の各部へ血液を分配するとともに、人体の各部から血液を帰還させる肉体的各血管路のことである。これに対し、体液と組織の間の交換に携わる顕微鏡的な血管と、これに伴うリンパ毛細血管、および、これらを取り囲む間質組織ないし実質組織を包含した循環単位を微少循環系と称している。微少循環系は、動脈系の末端においては細小動脈が網状の毛細血管に分岐した後、これらの毛細血管が再び集合して細小静脈となり、静脈へと繋がっている。
【0062】
このように、橈骨動脈等の末梢部で体温を測定すれば、常時水に晒されるという特異な状況下ではなく、普通に生活している限りにおいては、水濡れ後等であってもかなりの精度で深部体温に近い体温を測定することができると推定される。
例えば、就寝の間にその人の体温の変化をモニタリングするという用途を想定した場合、上記の測定原理を適用することで、問題のない体温測定を行うことができる。
本実施形態にあっては、人体の深部体温に十分近い体温を測定するために、上述した導光部6の脈波センサ24及び温度センサ25を上記の人体の橈骨動脈上の表面に配置し、その人体の部位にて検出した温度を体温とする構成となっている。
【0063】
従来、深部体温を測定する場合、体温計等の小型機器もしくは卓上型の機器を用いて、直腸、舌、脇の下等で温度測定を行っていたが、これらの部位での測定では、ある時刻における一点の測定しかできなかった。さらに、装置が一般に大型であるため、常時携帯しながら継続的に体温を測定するようなことはできなかった。
これに対し、本実施形態では、人体の深部体温に十分近い体温を、比較的簡便に測定することができる。したがって、本実施形態にて測定される深部体温に十分近い体温は、消費カロリー算出等として有用であることのみならず、この体温自体が、臨床医学の観点においては極めて重要である。
【0064】
次に、血糖値測定装置1の動作を説明する。
血糖値測定装置1は、血糖値を測定する前に、予め皮膚モデルの各層における伝搬光路長分布と時間分解波形とを算出しておく必要がある。
図6は、人の皮膚組織の断面を示す模式図であり、皮膚31は、概ね水を20%程度含み、残部が蛋白質からなる厚み0.3mm程度の表皮層32と、表皮層32下に形成され、概ね水を60%程度、蛋白質、脂質及びグルコースを含有する厚み1.2mm程度の真皮層(任意の層)33と、真皮層33下に形成され、概ね脂質を90%以上含み、残部が水からなる厚み3.0mm程度の皮下組織34とにより構成されている。
【0065】
ここで、皮膚モデルの伝搬光路長分布及び時間分解波形の算出方法を説明する。
初めに、シミュレーション部2は、皮膚モデルを生成する。皮膚モデルの生成は、皮膚の各層の光散乱係数、光吸収係数及び厚みを決定することで行う。ここで、皮膚の各層の散乱係数及び厚みは、個体による差が少ないので、予めサンプルを取ることなどによって決定すると良い。
また、ここで用いる皮膚モデルの光吸収係数はゼロとする。その理由は、この皮膚モデルを用いて光吸収量を算出するからである。
【0066】
シミュレーション部2は、皮膚モデルを生成すると、この皮膚モデルに光を照射するシミュレーションを行う。このとき、照射部5の位置と受光部8の位置との間の距離を決定しておく必要がある。シミュレーションは、モンテカルロ法を用いて行うと良い。モンテカルロ法によるシミュレーションは、例えば以下のように行われる。
【0067】
まず、シミュレーション部2は、照射する光のモデルを光子(光束)とし、この光子を皮膚モデルに照射する計算を行う。皮膚モデルに照射された光子は、皮膚モデル内を移動する。このとき、光子は、次に進む点までの距離L及び方向θを乱数Rによって決定する。シミュレーション部2は、光子が次に進む点までの距離Lの計算を、式(6)により行う。
【数6】

ただし、μsは、皮膚モデルの第s層(表皮層、真皮層、皮下組織層の何れか)の散乱係数を示す。
【0068】
また、シミュレーション部2は、光子が次に進む点までの方向θの計算を、式(7)により行う。
【数7】

ただし、gは、散乱角度の余弦(cos)の平均である非等方性パラメータを示し、皮膚の非等方性パラメータは、略0.9である。
【0069】
シミュレーション部2は、上記式(6)及び式(7)の計算を単位時間毎に繰り返すことにより、照射部5から受光部8までの光子の移動経路を算出することができる。シミュレーション部2は、複数の光子について移動距離の算出を行う。例えば、シミュレーション部2は、108個の光子について移動距離を算出する。
【0070】
図7は、シミュレーション部が算出した各層の伝搬光路長分布を示す図である。
図7では、横軸を光子の照射からの経過時間とし、縦軸を光路長の対数表示としている。
シミュレーション部2は、受光部8に到達した光子の各々の移動経路を、移動経路が通過する層毎に分類する。そして、シミュレーション部2は、単位時間毎に到達した光子の移動経路の平均長を分類された層毎に算出することで、図7に示すような皮膚の各層の伝搬光路長分布を算出する。
【0071】
図8は、シミュレーション部が算出した時間分解波形を示す図である。
図8では、横軸を光子の照射からの経過時間とし、縦軸を受光部8が検出した光子数としている。
シミュレーション部2は、単位時間毎に受光部8に到達した光子の個数を算出することで、図5に示すような皮膚モデルの時間分解波形を算出する。
上述したような処理により、シミュレーション部2は、複数の波長に対して、皮膚モデルの伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出する。このとき、シミュレーション部2は、皮膚の主成分(水、たんぱく質、脂質、グルコース等)の吸収スペクトルの差が大きくなる波長について伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0072】
図9は、水による光吸収波長特性を示す図である(久保宇市著、「医用レーザ入門」、第1版、オーム社、昭和60年6月25日発行、第70頁、ISBN4−274−03065−2)。
図9では、横軸を照射する光の波長(μm)とし、縦軸を照射する光の皮膚への浸透深さ(cm)とし、水に向かって光を入射した場合、入射時の光強度が1/10に減少するまでに進む浸透深さを赤外域の各波長の光に対して示している。
例えば、3.0μm付近の波長帯域の光では、浸透深さが2×10−3cm程度と浅く、水に吸収され易く、また、2.0μm以下の波長帯域の光では、浸透深さが10−2cmより深く、水に吸収され難いことが分かる。
【0073】
図10は、皮膚の主成分の吸収スペクトルを示す図である。この図7では、横軸を照射する光の波長とし、縦軸を吸収係数としている。
図10によれば、グルコースの吸収係数は波長が1600nmのときに極大となり、水の吸収係数は波長が1450nmのときに極大となることがわかる。
したがって、シミュレーション部2は、例えば1450nm、1600nmというように皮膚の主成分の吸収スペクトルの差が大きくなる波長について伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出すると良い。
【0074】
シミュレーション部2は、複数の波長に対する皮膚モデルの伝搬光路長分布及び時間分解波形を算出すると、伝搬光路長分布の情報を光路長分布記憶部3に記憶させ、時間分解波形の情報を時間分解波形記憶部4に記憶させる。
【0075】
図11は、皮膚31の表皮層32、真皮層33及び皮下組織34各々に照射される光の波長と吸収係数との関係を示す図であり、図中、Aは表皮層32の吸収係数を、Bは真皮層33の吸収係数を、Cは皮下組織34の吸収係数を、それぞれ示している。
この図11によれば、真皮層33の吸収スペクトルには、波長1450nm付近に極大値があり、水の吸収係数の60%程度の水分が含まれていることが分かる。また、表皮層32の吸収スペクトルにおいても、波長1450nm付近に真皮層23の1/3程度の大きさの極大値があり、水の吸収係数の20%程度の水分が含まれていることが分かる。一方、皮下組織34の吸収スペクトルでは、波長1450nm付近に真皮層23の1/10程度の大きさの極大値しかなく、水の吸収係数の数%程度の水分しか含まれていないことが分かる。
【0076】
以上により、真皮層33には、水の吸収係数の60%程度の水分が含まれており、また、表皮層32には、水の吸収係数の20%程度の水分が含まれているが、皮下組織34には、水の吸収係数の数%程度の水分しか含まれていないことが分かる。したがって、皮膚から血糖値を非侵襲的に測定するには、測定対象としてグルコースを含んでいる真皮層33を選択し、この真皮層33に含まれるグルコース量を測定すればよいことが分かる。
【0077】
ところで、水の吸収係数には温度依存性があることが知られている。
図12は、水の吸光度スペクトルの温度依存性を示す図であり、図中、Aは41℃における水の吸光度スペクトル、Bは21℃における水の吸光度スペクトルである。
ここでは、セル長が1mmの光学セルを用い、光学セルホルダとして温調ユニットタイプのものを用い、恒温循環槽を用いて±0.1℃の範囲で温度調節を行い、紫外可視近赤外分光光度計 Lambda 900S(パーキンエルマー社製)を用いて41℃及び21℃各々における水の吸光度スペクトルを測定した。
図12によれば、水の吸光度スペクトルの極大値は、21℃では波長1450nm付近にあり、温度が21℃より高くなるにしたがって、極大値が1450nmより短波長側にシフトすることが分かる。
【0078】
図13は、水の吸光度スペクトル差の温度依存性を示す図であり、1000〜2000nmの波長領域について、21℃における蒸留水の吸光度スペクトルを基準として、25℃における蒸留水の吸光度スペクトルと21℃における蒸留水の吸光度スペクトルとの差を示したものである。
図13によれば、蒸留水の吸光度スペクトルは、波長により温度の影響が異なることが分かる。したがって、グルコース水溶液中のグルコース濃度を吸光度で求める場合、用いる波長に対応して温度補正を行えば、水の吸光度スペクトルの影響を除外した正確な測定値が得られることとなる。
【0079】
以上により、短時間パルス光を用いて真皮層33に含まれるグルコース量を測定し、このグルコース量を真皮層33の温度により補正すれば、皮膚から血糖値を非侵襲的にて正確に測定することができる。
【0080】
図14は、グルコース水溶液の吸光度スペクトルの一例を示す図であり、図中、Aは参照側を蒸留水(21.5℃)として測定した9.4g/dlの高濃度のグルコース水溶液の吸光度スペクトルの測定値を、Bは同グルコース水溶液の吸光度スペクトルの測定値を温度補正及び体積補正した補正値を、それぞれ示している。
【0081】
このグルコース水溶液では、グルコース濃度を健康な人の約100倍である9.4g/dlとしたので、このときの体積増加は約6%である。
また、この濃度では、グルコースと水の体積比率が6:100と大きく、無視できない。このように、試料側の水の体積が参照側の水の体積と比べて減少しているので、水の吸光度の大きい1400〜1500nm付近と1900nm以上の波長領域では、吸光度スペクトル差が大きく負になっている。この体積減少は、セル長1mmに対して0.057mmの減少に相当している。
【0082】
図14から次のことが分かる。
例えば、波長1600nmにおいては、9.4g/dlのグルコース量で吸光度が0.035程度であるから、吸収係数は0.08/mm程度となる。一方、真皮層におけるグルコース量の正常値は100mg/dl程度であるから、この正常値に対応する吸収係数は0.0008/mm程度となる。
【0083】
次に、温度の影響について図13を参照して説明する。
図13中、波長1600nmにおいては、4℃の上昇に対して吸光度差は−0.008程度であるから、吸収係数の変化は−0.02/mm程度となる。
ここで、温度変化に対して吸光度変化が線形になると仮定すると、温度が1℃上昇すると、吸収係数の変化量は−0.004/mmとなる。すなわち、この1℃上昇は、グルコース濃度が500mg/dlの減少に相当することがわかる。
これは、吸光光度計を用いて、セル長1mm、試料温度21℃及び41℃それぞれの吸光度スペクトルを求めた結果における補正値である。
【0084】
なお、実際の皮膚内におけるグルコース濃度に伴う吸光度変化は、皮膚内の散乱係数により、吸光光度計を用いて、セル長1mm、試料温度21℃及び41℃それぞれの吸光度スペクトルを求めた結果よりも一桁程度大きくなる。したがって、実際の皮膚における温度変化に対する吸収係数の補正値も一桁程度大きくなる。
【0085】
次に、この血糖値測定装置1を用いて血糖値を測定する手順について、図15に基づき説明する。
まず、被測定者が血糖値測定装置1を手首等の皮膚に当て、測定開始スイッチ(図示せず)の押下等により血糖値測定装置1を動作させる。
ここでは、人体の皮膚31に導光部6の先端部を当てたまま、この導光部6を皮膚31に沿って任意の方向に摺動させ、脈波センサ24により人体中の拍動を有する部位近傍の脈圧、すなわち動脈の脈圧を非接触にて検出する。同時に、脈波センサ24により検出された動脈近傍の皮膚31の温度を温度センサ25により非接触にて測定する(ステップS1)。
【0086】
次いで、体温特定部14により、脈波センサ24にて動脈を含む皮膚31の表面に亘って非接触にて検出された脈圧データ、及び温度センサ25にて動脈を含む皮膚31の表面に亘って非接触にて測定された温度データに基づき、脈圧のうち最大の脈圧を特定し、この特定された最大の脈圧に対応する部位の温度を生体の深部体温に近似した体温として特定する(ステップS2)。
一方、照射部5が、皮膚31に対して、この皮膚31を構成する真皮層33に短時間パルス光を照射する(ステップS3)。
【0087】
次いで、導光部6により、皮膚31から放射される複数種の後方散乱光、すなわち皮下組織32、真皮層33及び表皮層34各々から放射される後方散乱光を集光し、光散乱媒質層選択部7へ導光する。
光散乱媒質層選択部7では、導光部6により集光されかつ導光された皮下組織32、真皮層33及び表皮層34各々から放射される後方散乱光から、真皮層33により放射される後方散乱光を選択する(ステップS4)。
【0088】
次いで、受光部8により、真皮層33から放射される単位時間毎の後方散乱光を受光する(ステップS5)。このとき、受光部8では、照射開始からの単位時間毎(例えば、1ピコ秒毎の時刻t〜t)の受光強度を内部メモリに記録しておく。
【0089】
この受光部8が受光を完了したことを光強度取得部9に知らせると、この光強度取得部9では、真皮層33から放射される後方散乱光の異なる時刻の受光強度を取得する(ステップS6)。すなわち、複数の時刻t〜t各々における後方散乱光の光強度を取得する。
ここで、光強度取得部9が光強度を取得する時刻t〜tは、真皮層33から放射される後方散乱光のピークとなる時刻を含むことが好ましい。すなわち、照射部5が短時間パルス光を照射した時刻に、真皮層33の光路長が極大となる時間を加算した時刻とすることが好ましい。
【0090】
次いで、光吸収係数算出部12では、光強度取得部9にて取得した真皮層33から放射される後方散乱光の異なる時刻の受光強度、すなわち、複数の時刻t〜t各々における後方散乱光の光強度を基に、真皮層33の光吸収係数を、下記の式(8)
【数8】

(但し、I(t)は受光部5が時刻tにて受光した光強度、N(t)は短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度、Li(t)は皮膚の各々の層における伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長、μiは第i層の光吸収係数である)
から算出する(ステップS7)。
ここでは、第1層は表皮層、第2層は真皮層、第3層は皮下組織を示し、μは表皮層の光吸収係数、μは真皮層の光吸収係数、μは皮下組織の光吸収係数を示す。
【0091】
次いで、濃度算出部13では、光吸収係数算出部12が算出した真皮層33の光吸収係数μを基に、真皮層33に含まれるグルコースの濃度を、下記の式(9)
【数9】

(但し、μaは皮膚の任意の層である第a層における光吸収係数、gjは皮膚を構成する第j成分のモル濃度、εjは第j成分の光吸収係数、pは皮膚を構成する主成分の個数、qは短時間パルス光の種類数である)
から算出する(ステップS8)。
【0092】
次いで、濃度補正部14では、濃度算出部13で算出された真皮層33のグルコースの濃度を、体温特定部14にて特定された生体の深部体温に近似した体温と基準温度との差を用いて、下記の補正式:
グルコースの濃度の測定値−水の吸収係数相応値
にて補正する(ステップS9)。
例えば、真皮層33の温度がT℃上昇した場合、光の吸収係数の変化量は−0.004/mm×Tとなる。したがって、真皮層33の温度がT℃上昇した場合のグルコース濃度の減少量は500mg/dl×Tとなる。
【0093】
上述の血糖値測定装置1は、コンピュータシステムを内蔵しており、上述した各ステップの処理動作は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されている。そこで、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することにより、上記の処理動作を行うことができる。
ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等が挙げられる。
また、このコンピュータプログラムを通信回線によりコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0094】
また、上記プログラムは、上記の各ステップの一部を実現するためのものであってもよい。
さらに、上述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0095】
以上説明したように、本実施形態によれば、脈波センサ24により動脈の脈圧を非接触にて検出すると同時に、温度センサ25により動脈近傍の皮膚31の温度を非接触にて測定し、真皮層から放射される後方散乱光を基に算出される皮膚の真皮層におけるグルコースの濃度を、体温特定部14にて特定された生体の深部体温に近似した体温に基づき補正するので、この後方散乱光を基に算出される真皮層におけるグルコースの濃度を、人体の活動状態に応じて精度良く検出することができる。したがって、真皮層におけるグルコースの濃度を、生体の活動状態に応じて、非侵襲的に、短時間にて精度良く測定することができる。
【0096】
[第2の実施形態]
図16は、本発明の第2の実施形態の血糖値測定装置(濃度定量装置)の導光部の構成の概略を示す断面図であり、本実施形態の血糖値測定装置41の導光部42が第1の実施形態の血糖値測定装置1の導光部6と異なる点は、温度センサ25を、皮膚31の表面の温度を測定する表面温度センサ(表面温度測定手段)43と、断熱材23内に設けられ表面温度センサ43自体の温度を直接測定するセンサ内部温度測定センサ(センサ内部温度測定手段)44とに替え、さらに、表面温度センサ43にて測定された真皮層33の温度とセンサ内部温度測定センサ44にて測定された表面温度センサ43近傍の温度との差を、単位時間当たりの温度変化率として算出する表面・内部温度変化率算出部(表面・内部温度変化率算出手段)45を設け、この脈波センサ24及び表面・内部温度変化率算出部45を濃度補正部15に接続した点であり、導光部42以外の構成であるシミュレーション部2〜濃度算出部13については第1の実施形態の血糖値測定装置1と全く同様であるから、説明を省略する。
【0097】
次に、この血糖値測定装置41を用いて血糖値を測定する手順について、図17に基づき説明する。
まず、被測定者が血糖値測定装置41を手首等の皮膚に当て、測定開始スイッチ(図示せず)の押下等により血糖値測定装置41を動作させる。
ここでは、人体の皮膚31に導光部42の先端部を当てたまま、この導光部42を皮膚31に沿って任意の方向に摺動させ、脈波センサ24により人体中の拍動を有する部位近傍の脈圧、すなわち動脈の脈圧を非接触にて検出する(ステップS11)。
次いで、表面温度センサ43により皮膚31の表面、すなわち動脈直上の表面温度を測定し、センサ内部温度測定センサ44により表面温度センサ43近傍の温度を測定する(ステップS12)。
【0098】
次いで、表面・内部温度変化率算出部45により、表面温度センサ43にて測定された動脈直上の表面温度とセンサ内部温度測定センサ44にて測定された表面温度センサ43近傍の温度との差を、単位時間当たりの温度変化率として算出し、この単位時間当たりの温度変化率が設定値以内か否かを判定する(ステップS13)。
ここで、単位時間当たりの温度変化率が設定値以内であれば、照射部5が、皮膚31に対して、この皮膚31を構成する真皮層33に短時間パルス光を照射する(ステップS14)。
一方、単位時間当たりの温度変化率が設定値を超えていれば、その旨を音声等の告知手段で告知し、再度、動脈の脈圧を非接触にて検出する(ステップS11)。
【0099】
短時間パルス光を照射した後、皮下組織32、真皮層33及び表皮層34各々から放射される後方散乱光から、真皮層33により放射される後方散乱光を選択する手順(ステップS15)から、濃度算出部13により、真皮層33に含まれるグルコースの濃度を算出する手順(ステップS19)までは、第1の実施形態の図15に示す手順(ステップS4〜S8)と全く同様である。
【0100】
濃度補正部15では、濃度算出部13で算出された真皮層33のグルコースの濃度を、表面温度センサ43にて測定した動脈直上の表面温度を用いて、下記の補正式:
グルコースの濃度の測定値−水の吸収係数相応値
にて補正する(ステップS20)。
例えば、真皮層33(=動脈直上の表面温度)の温度がT℃上昇した場合、光の吸収係数の変化量は−0.004/mm×Tとなる。したがって、真皮層33の温度がT℃上昇した場合のグルコース濃度の減少量は500mg/dl×Tとなる。
【0101】
以上説明したように、本実施形態によれば、脈波センサ24により人体中の動脈の脈圧を非接触にて検出し、次いで、動脈直上の温度及び表面温度センサ43近傍の温度を測定し、これら表面温度センサ43にて測定された動脈直上の温度とセンサ内部温度測定センサ44にて測定された表面温度センサ43近傍の温度との差から算出された単位時間当たりの温度変化率が設定値以内の場合に、真皮層33のグルコースの濃度を、表面温度センサ43にて測定した動脈直上の温度を用いて補正するので、真皮層におけるグルコースの濃度を、人体の活動状態に応じて精度良く検出することができる。したがって、真皮層におけるグルコースの濃度を、生体の活動状態に応じて、非侵襲的に、短時間にて精度良く測定することができる。
【0102】
[第3の実施形態]
図18は、本発明の第3の実施形態の血糖値測定装置(濃度定量装置)の導光部の構成の概略を示す断面図であり、本実施形態の血糖値測定装置51の導光部52が第1の実施形態の血糖値測定装置1の導光部6と異なる点は、断熱材23の脈波センサ24及び温度センサ25と反対側の面に、脈波センサ24及び温度センサ25近傍をヒータ等の加熱手段を用いて所定温度、例えば36.0℃に温度調整し、保温する内部保温部(温度調整手段)53を設けた点であり、導光部52以外の構成であるシミュレーション部2〜濃度補正部15については第1の実施形態の血糖値測定装置1と全く同様であるから、説明を省略する。
【0103】
次に、この血糖値測定装置51を用いて血糖値を測定する手順について、図19に基づき説明する。
まず、被測定者が血糖値測定装置51を手首等の皮膚に当て、測定開始スイッチ(図示せず)の押下等により血糖値測定装置51を動作させる。
ここでは、内部保温部53により、温度センサ25近傍を所定温度、例えば36.0℃に温度調整し、保温する(ステップS21)。
次いで、人体の皮膚31に導光部52の先端部を当てたまま、この導光部52を皮膚31に沿って任意の方向に摺動させ、脈波センサ24により人体中の拍動を有する部位近傍の脈圧、すなわち動脈の脈圧を非接触にて検出する。同時に、脈波センサ24により検出された動脈直上の皮膚31の温度を温度センサ25により非接触にて測定する(ステップS22)。
【0104】
次いで、体温特定部14により、脈波センサ24にて動脈を含む皮膚31の表面に亘って非接触にて検出された脈圧データ、及び温度センサ25にて動脈を含む皮膚31の表面に亘って非接触にて測定された温度データに基づき、脈圧のうち最大の脈圧を特定し、この特定された最大の脈圧に対応する部位の温度を生体の深部体温に近似した体温として特定する(ステップS23)。
一方、照射部5が、皮膚31に対して、この皮膚31を構成する真皮層33に短時間パルス光を照射する(ステップS24)。
【0105】
その後、皮下組織32、真皮層33及び表皮層34各々から放射される後方散乱光から、真皮層33により放射される後方散乱光を選択する手順(ステップS25)から、濃度算出部13で算出された真皮層33のグルコースの濃度を、温度センサ24にて測定した真皮層33の温度を用いて補正する(ステップS30)までは、第1の実施形態の図15に示す手順(ステップS3〜S9)と全く同様である。
【0106】
本実施形態においても、第1の実施形態の血糖値測定装置1と同様の効果を奏することができる。
しかも、内部保温部53により、脈波センサ24及び温度センサ25近傍を所定温度に調整し保温した後、脈波センサ24により動脈の脈圧を非接触にて検出すると同時に、温度センサ25により動脈近傍の皮膚31の温度を非接触にて測定し、真皮層から放射される後方散乱光を基に算出される皮膚の真皮層におけるグルコースの濃度を、体温特定部14にて特定された生体の深部体温に近似した体温に基づき補正するので、脈波センサ24及び温度センサ25近傍を所定温度に調整し保温することにより、脈波センサ24及び温度センサ25における温度の変動を抑制することができ、脈波センサ24及び温度センサ25の測定精度を向上させることができる。
【0107】
[第4の実施形態]
図20は、本発明の第4の実施形態の血糖値測定装置(濃度定量装置)の導光部の構成の概略を示す断面図であり、本実施形態の血糖値測定装置61の導光部62が第2の実施形態の血糖値測定装置41の導光部42と異なる点は、断熱材23の脈波センサ24及び表面温度センサ43と反対側の面に、第3の実施形態の内部保温部(温度調整手段)53を設けた点であり、導光部62以外の構成であるシミュレーション部2〜濃度補正部15については第2の実施形態の血糖値測定装置41と全く同様であるから、説明を省略する。
【0108】
この表面温度センサ43と、内部温度センサ44と、内部保温部53とにより、熱流補償法を用いた深部体温計が構成されている。この深部体温計では、十分時間が経過すると、表皮層32と真皮層33の組織が熱平衡に達し、表皮層32の温度と真皮層33の温度が一致する。よって、真皮層33の温度を測定することができる。
【0109】
次に、この血糖値測定装置61を用いて血糖値を測定する手順について、図21に基づき説明する。
まず、被測定者が血糖値測定装置41を手首等の皮膚に当て、測定開始スイッチ(図示せず)の押下等により血糖値測定装置41を動作させる。
ここでは、内部保温部53により、脈波センサ24、表面温度センサ43及び内部温度センサ44近傍を所定温度、例えば36.0℃に温度調整し、保温する(ステップS31)。
【0110】
次いで、人体の皮膚31に導光部62の先端部を当てたまま、この導光部62を皮膚31に沿って任意の方向に摺動させ、脈波センサ24により人体中の拍動を有する部位近傍の脈圧、すなわち動脈の脈圧を非接触にて検出する(ステップS32)。
次いで、表面温度センサ43により動脈直上の皮膚31の温度を測定し、センサ内部温度測定センサ44により表面温度センサ43近傍の温度を測定する(ステップS33)。
【0111】
次いで、表面・内部温度変化率算出部45により、表面温度センサ43にて測定された動脈直上の表面温度とセンサ内部温度測定センサ44にて測定された表面温度センサ43近傍の温度との差を、単位時間当たりの温度変化率として算出し、この単位時間当たりの温度変化率が設定値以内か否かを判定する(ステップS34)。
ここで、単位時間当たりの温度変化率が設定値以内であれば、照射部5が、皮膚31に対して、この皮膚31を構成する真皮層33に短時間パルス光を照射する(ステップS35)。
一方、単位時間当たりの温度変化率が設定値を超えていれば、その旨を音声等の告知手段で告知し、再度、温度調整及び保温(ステップS31)以降を行う。
【0112】
短時間パルス光を照射した後、皮下組織32、真皮層33及び表皮層34各々から放射される後方散乱光から、真皮層33により放射される後方散乱光を選択する手順(ステップS36)から、濃度算出部13により、真皮層33に含まれるグルコースの濃度を算出する手順(ステップS40)までは、第2の実施形態の図17に示す手順(ステップS15〜S19)と全く同様である。
【0113】
濃度補正部15では、濃度算出部13で算出された真皮層33のグルコースの濃度を、表面温度センサ43にて測定した動脈直上の表面温度を用いて、下記の補正式:
グルコースの濃度の測定値−水の吸収係数相応値
にて補正する(ステップS41)。
例えば、真皮層33(=動脈直上の表面温度)の温度がT℃上昇した場合、光の吸収係数の変化量は−0.004/mm×Tとなる。したがって、真皮層33の温度がT℃上昇した場合のグルコース濃度の減少量は500mg/dl×Tとなる。
【0114】
本実施形態においても、第2の実施形態の血糖値測定装置41と同様の効果を奏することができる。
しかも、内部保温部53により、脈波センサ24、表面温度センサ43及びセンサ内部温度測定センサ44近傍を保温し、次いで、脈波センサ24により動脈の脈圧を非接触にて検出し、次いで、動脈直上の表面温度及び表面温度センサ43近傍の温度を測定し、これら表面温度センサ43にて測定された動脈直上の表面温度とセンサ内部温度測定センサ44にて測定された表面温度センサ43近傍の温度との差から算出された単位時間当たりの温度変化率が設定値以内の場合に、真皮層33のグルコースの濃度を、表面温度センサ43にて測定された動脈直上の表面温度を用いて補正するので、脈波センサ24、表面温度センサ43及び内部温度センサ44近傍を所定温度に調整し保温することにより、脈波センサ24、表面温度センサ43及びセンサ内部温度測定センサ44各々における温度の変動を抑制することができ、脈波センサ24、表面温度センサ43及びセンサ内部温度測定センサ44各々の測定精度を向上させることができる。
【0115】
[第5の実施形態]
図22は、本発明の第5の実施形態の血糖値測定装置(濃度定量装置)の構成を示す概略ブロック図であり、本実施形態の血糖値測定装置71が第1の実施形態の血糖値測定装置1と異なる点は、光強度取得部9及び光吸収係数算出部12を、これらとは異なる機能を有する光強度取得部(光強度取得手段)72及び光吸収係数算出部(光吸収係数算出手段)73に替えた点である。
【0116】
光強度取得部72は、受光部8が受光した真皮層から放射される後方散乱光の所定の時刻から少なくとも所定の時刻τまでの間の光強度を取得する。
光吸収係数算出部73は、特定波長λkの短時間パルス光を照射した皮膚の真皮層における光吸収係数を算出する。
【0117】
この光吸収係数算出部73では、皮膚における任意の層の光吸収係数を、下記の式(10)
【数10】

(但し、I(t)は受光部5が時刻tにて受光した光強度、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度、Li(t)は皮膚の各々の層における伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長、nは皮膚の観測対象となる層の数、μiは第i層の光吸収係数である)
から算出する。
ここで、第1層は表皮層、第2層は真皮層、第3層は皮下組織を示し、μは表皮層の光吸収係数、μは真皮層の光吸収係数、μは皮下組織の光吸収係数を示す。
【0118】
次に、この血糖値測定装置71を用いて血糖値を測定する手順について、図23に基づき説明する。
この手順では、脈波センサ24により動脈の脈圧を非接触にて検出し、この動脈直上の皮膚31の温度を温度センサ25により非接触にて測定する(ステップS51)手順から真皮層33により放射される後方散乱光を選択する(ステップS54)手順までが図15に示す手順(ステップS1〜4)と同一であるから、説明を省略する。
【0119】
この後方散乱光を選択した後、受光部8により、真皮層33から放射される所定の時間τの間の後方散乱光を受光する(ステップS55)。このとき、受光部8では、照射開始から少なくとも所定の時刻τまでの間の受光強度を内部メモリに記録しておく。
次いで、この受光部8が受光を完了したことを光強度取得部72に知らせると、この光強度取得部72では、真皮層33から放射される後方散乱光の照射開始から少なくとも所定の時刻τまでの間の受光強度を取得する(ステップS56)。
【0120】
次いで、光吸収係数算出部73では、光強度取得部72にて取得した真皮層33から放射される後方散乱光の照射開始から少なくとも所定の時刻τまでの間の受光強度を基に、真皮層33の光吸収係数を、下記の式(11)
【数11】

(但し、I(t)は受光部5が時刻tにて受光した光強度、N(t)は特定波長λkの短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度、Li(t)は皮膚の各々の層における伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長、nは皮膚の観測対象となる層の数、μiは第i層の光吸収係数である)
から算出する(ステップS57)。
【0121】
次いで、濃度算出部13では、光吸収係数算出部73が算出した真皮層33の光吸収係数μを基に、真皮層33に含まれるグルコースの濃度を、下記の式(12)
【数12】

(但し、μaは皮膚の任意の層である第a層における光吸収係数、gjは皮膚を構成する第j成分のモル濃度、εjは第j成分の光吸収係数、pは皮膚を構成する主成分の個数、qは短時間パルス光の種類数である)
から算出する(ステップS58)。
【0122】
次いで、濃度補正部15では、濃度算出部13で算出された真皮層33のグルコースの濃度を、温度センサ25にて測定した動脈直上の皮膚31の温度を用いて、下記の補正式:
グルコースの濃度の測定値−水の吸収係数相応値
にて補正する(ステップS59)。
例えば、動脈直上の皮膚31の温度がT℃上昇した場合、光の吸収係数の変化量は−0.004/mm×Tとなる。したがって、真皮層33の温度がT℃上昇した場合のグルコース濃度の減少量は500mg/dl×Tとなる。
【0123】
本実施形態においても、第1の実施形態の血糖値測定装置1と同様の効果を奏することができる。
しかも、光強度取得部72が、所定の時刻から少なくとも所定の時刻τまでの間の光強度を取得し、光吸収係数算出部73が、真皮層33の光吸収係数を、上記の式(2)から算出し、このようにして算出された真皮層33のグルコースの濃度を、温度センサ25にて測定した動脈直上の皮膚31の温度を用いて補正するので、この後方散乱光を基に算出される真皮層におけるグルコースの濃度を、人体の活動状態に応じて精度良く検出することができる。したがって、真皮層におけるグルコースの濃度を、生体の活動状態に応じて、非侵襲的に、短時間にて精度良く測定することができる。
【0124】
[第6の実施形態]
図24は、本発明の第6の実施形態の血糖値測定装置(濃度定量装置)の構成を示す概略ブロック図であり、本実施形態の血糖値測定装置81が第1の実施形態の血糖値測定装置1と異なる点は、生体の体動を検出する体動検出部(体動検出手段)82、及び体動検出部82が検出した生体の体動が所定範囲内であるか否かを判別する体動判別部(体動判別手段)83を設けた点である。
【0125】
体動検出部82は、生体の運動における体の動きを検出するセンサ、例えば加速度センサ等から構成されている。
この体動検出部82では、検出されたアナログ信号をA/D変換部によりデジタル信号に変換し、FFT(高速フーリエ変換)処理部によりデジタル信号に変換された体動信号にFFT処理を施す。
【0126】
体動判別部83は、FFT処理が施された体動信号に基づいて、生体が安静状態にあるか、活動(運動)状態にあるかを判別する。
この判別方法としては、例えば、FFT処理後の体動信号について、周波数成分の最も高い振幅レベルがしきい値以下か否かを判定し、振幅レベルがしきい値以下であれば安静状態にあると判定し、振幅レベルがしきい値を超えていれば活動状態にあると判定する。
【0127】
次に、この血糖値測定装置81を用いて血糖値を測定する手順について、図25に基づき説明する。
まず、被測定者が血糖値測定装置81を手首等の皮膚に当て、測定開始スイッチ(図示せず)の押下等により血糖値測定装置81を動作させる。
ここでは、人体の皮膚31に体動検出部82を当てたまま生体の動きを検出する(ステップ61)。
【0128】
次いで、体動判別部83により、体動検出部82が検出した体動信号の周波数成分の最も高い振幅レベルがしきい値以下か否かを判定する(ステップS62)。 ここで、振幅レベルがしきい値以下であれば安静状態にあると判定し、人体の皮膚31に導光部6の先端部を当てたまま、この導光部6を皮膚31に沿って任意の方向に摺動させ、脈波センサ24により人体中の拍動を有する部位近傍の脈圧、すなわち動脈の脈圧を非接触にて検出する。同時に、脈波センサ24により検出された動脈近傍の皮膚31の温度を温度センサ25により非接触にて測定する(ステップS63)。
一方、振幅レベルがしきい値を超えていれば活動状態にあると判定し、再度、生体の動きの検出(ステップ61)を行う。
【0129】
この手順では、脈波センサ24により動脈の脈圧を非接触にて検出し、この動脈直上の皮膚31の温度を温度センサ25により非接触にて測定する(ステップS63)手順から濃度補正部14によりグルコースの濃度を補正する(ステップS71)手順までが図15に示す手順と同一であるから、説明を省略する。
【0130】
以上説明したように、本実施形態によれば、体動検出部82により生体の動きを検出し、次いで、体動判別部83により生体が安静状態にあるか否かを判別するので、生体の安静な状態を正確に把握することができる。したがって、生体が安静な状態における観測対象の任意の層における目的成分の濃度を精度良く検出することができる。
【0131】
以上、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等が可能である。
例えば、上記の各実施形態では、濃度定量装置として血糖値測定装置を、観測対象として人の手のひらの皮膚を、目的成分としてグルコースを、特定波長の光として特定波長の短時間パルス光を、それぞれ取ることで、皮膚の真皮層に含まれるグルコースの濃度を測定する場合について説明したが、これに限らず、濃度定量方法を、複数の光散乱媒質の層から形成される観測対象の任意の層における目的成分の濃度を定量する他の装置に用いてもよい。
【0132】
また、上記の各実施形態では、脈波センサ24及び温度センサ25、または、脈波センサ24、表面温度センサ43及び内部温度センサ44を1組設けた構成としたが、これらは2組以上設けた構成としてもよい。
例えば、脈波センサ24及び温度センサ25、または、脈波センサ24、表面温度センサ43及び内部温度センサ44を複数組、例えば2行2列のマトリックス状に設けた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0133】
1…血糖値測定装置(濃度定量装置)、3…光路長分布記憶部(光路長分布記憶手段)、4…時間分解波形記憶部(時間分解波形記憶手段)、5…照射部(照射手段)、7…光散乱媒質層選択部(光散乱媒質層選択手段)、8…受光部(受光手段)、9…光強度取得部(光強度取得手段)、10…光路長取得部(光路長取得手段)、11…無吸収時光強度取得部(光強度モデル取得手段)、12…光吸収係数算出部(光吸収係数算出手段)、13…濃度算出部(濃度算出手段)、14…体温特定部(体温特定手段)、15…濃度補正部(濃度補正手段)、24…脈波センサ(脈波検出手段)、25…温度センサ(温度測定手段)、31…皮膚、33…真皮層(任意の層)、41…血糖値測定装置(濃度定量装置)、43…表面温度センサ(表面温度測定手段)、44…センサ内部温度測定センサ(センサ内部温度測定手段)、45…表面・内部温度変化率算出部(表面・内部温度変化率算出手段)、51…血糖値測定装置(濃度定量装置)、53…内部保温部(温度調整手段)、61…血糖値測定装置(濃度定量装置)、71…血糖値測定装置(濃度定量装置)、72…光強度取得部(光強度取得手段)、73…光吸収係数算出部(光吸収係数算出手段)、81…血糖値測定装置(濃度定量装置)、82…体動検出部(体動検出手段)、83…体動判別部(体動判別手段)、S1〜S9、S11〜S20、S21〜S30、S31〜S41、S51〜S59、S61〜S71…ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体中の複数の光散乱媒質の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置であって、
前記生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出する脈波検出手段と、
前記脈波検出手段近傍に設けられ前記所定領域に亘って温度を測定する温度測定手段と、
前記所定領域に亘って検出された脈圧のうち最大の脈圧が検出された部位の温度を前記生体の体温として特定する体温特定手段と、
前記観測対象に光を照射する照射手段と、
前記光を照射することにより前記観測対象より放射される複数種の後方散乱光から前記任意の層より放射される後方散乱光を選択する光散乱媒質層選択手段と、
前記任意の層から放射される後方散乱光を受光する受光手段と、
前記受光手段が受光した前記任意の層から放射される後方散乱光の強度を取得する光強度取得手段と、
前記光強度取得手段が取得した光強度に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出手段と、
前記光吸収係数算出手段が算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手段と、
前記濃度算出手段が算出した前記目的成分の濃度を、前記体温特定手段により特定した前記体温に基づいて補正する濃度補正手段と、
を備えてなることを特徴とする濃度定量装置。
【請求項2】
生体中の複数の光散乱媒質の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置であって、
前記生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出する脈波検出手段と、
前記観測対象の表面近傍の温度を測定する表面温度測定手段及び前記表面温度測定手段近傍の温度を測定するセンサ内部温度測定手段を備えてなる温度測定手段と、
前記観測対象に光を照射する照射手段と、
前記光を照射することにより前記観測対象より放射される複数種の後方散乱光から前記任意の層より放射される後方散乱光を選択する光散乱媒質層選択手段と、
前記任意の層から放射される後方散乱光を受光する受光手段と、
前記受光手段が受光した前記任意の層から放射される後方散乱光の強度を取得する光強度取得手段と、
前記光強度取得手段が取得した光強度に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出手段と、
前記光吸収係数算出手段が算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手段と、
前記濃度算出手段が算出した前記目的成分の濃度を、前記表面温度測定手段が測定した前記観測対象の表面近傍の温度と、前記センサ内部温度測定手段が測定した前記表面温度測定手段近傍の温度との差に基づいて補正する濃度補正手段と、
を備えてなることを特徴とする濃度定量装置。
【請求項3】
前記光を短時間パルス光とし、さらに、
前記観測対象に対して照射する前記短時間パルス光の、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層における伝搬光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶手段と、
前記観測対象に対して照射する前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶手段と、
前記光路長分布記憶手段から、前記伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長を取得する光路長取得手段と、
前記時間分解波形記憶手段から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度を取得する光強度モデル取得手段とを備え、
前記光強度取得手段は、前記任意の層の複数の時刻t〜tにおける光強度を取得し、
前記光吸収係数算出手段は、前記任意の層の光吸収係数を、下記の式(1)
【数1】

(但し、I(t)は前記受光手段が時刻tにて受光した光強度、N(t)は前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度、Li(t)は前記複数の光散乱媒質の各々の層における伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長、μiは第i層の光吸収係数である)
から算出することを特徴とする請求項1または2記載の濃度定量装置。
【請求項4】
前記光を短時間パルス光とし、さらに、
前記観測対象に対して照射する前記短時間パルス光の、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層における伝搬光路長分布のモデルを記憶する光路長分布記憶手段と、
前記観測対象に対して照射する前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルを記憶する時間分解波形記憶手段と、
前記光路長分布記憶手段から、前記伝搬光路長分布のモデルの前記所定の時刻における、前記複数の光散乱媒質の層の各々の層の光路長を取得する光路長取得手段と、
前記時間分解波形記憶手段から、前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの前記所定の時刻における光の強度を取得する光強度モデル取得手段とを備え、
前記光強度取得手段は、所定の時刻から少なくとも所定の時刻τまでの間の光強度を取得し、
前記光吸収係数算出手段は、前記任意の層の光吸収係数を、下記の式(2)
【数2】

(但し、I(t)は前記受光手段が時刻tにて受光した光強度、N(t)は前記短時間パルス光の時間分解波形のモデルの時刻tにおける光強度、Li(t)は前記複数の光散乱媒質の層各々の層における伝搬光路長分布のモデルの時刻tにおける第i層の光路長、nは前記観測対象となる層の数、μiは第i層の光吸収係数である)
から算出することを特徴とする請求項1または2記載の濃度定量装置。
【請求項5】
前記濃度算出手段は、前記任意の層における前記目的成分の濃度を、下記の式(3)
【数3】

(但し、μaは前記任意の層である第a層における光吸収係数、gjは前記観測対象を構成する第j成分のモル濃度、εjは第j成分の光吸収係数、pは前記観測対象を構成する主成分の個数、qは前記短時間パルス光の種類数である)
から算出することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の濃度定量装置。
【請求項6】
前記脈波検出手段及び前記温度測定手段を複数組備え、
前記体温特定手段は、複数の前記脈波検出手段のうち最大の脈圧が検出された部位の前記脈波検出手段近傍の前記温度測定手段が測定した温度を体温として特定することを特徴とする請求項1記載の濃度定量装置。
【請求項7】
前記温度測定手段に、前記表面温度測定手段が測定した前記観測対象の表面近傍の温度と、前記センサ内部温度測定手段が測定した前記表面温度測定手段近傍の温度との差を、単位時間当たりの温度変化率として算出する表面・内部温度変化率算出手段を設けてなることを特徴とする請求項2記載の濃度定量装置。
【請求項8】
前記脈波検出手段に、該脈波検出手段が脈圧を検出しているか否かを判別する拍動弁別手段を設けてなることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項記載の濃度定量装置。
【請求項9】
前記生体の体動を検出する体動検出手段と、前記体動検出手段が検出した生体の体動が所定範囲内であるか否かを判別する体動判別手段と、を備えたことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項記載の濃度定量装置。
【請求項10】
生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出する脈波検出手段と、
前記脈波検出手段近傍に設けられ前記所定領域に亘って温度を測定する温度測定手段と、
前記観測対象に光を照射する照射手段と、
前記光を照射することにより前記観測対象より放射される複数種の後方散乱光から前記任意の層より放射される後方散乱光を選択する光散乱媒質層選択手段と、
前記任意の層から放射される後方散乱光を受光する受光手段と、
を備えてなることを特徴とするプローブ。
【請求項11】
生体中の複数の光散乱媒質の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量方法であって、
脈波検出手段により前記生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出するとともに、温度測定手段により、前記所定領域に亘って温度を測定し、
次いで、体温特定手段により、前記所定領域に亘って検出された脈圧のうち最大の脈圧が検出された部位の温度を前記生体の体温として特定し、
次いで、照射手段により、前記観測対象に光を照射し、
次いで、光散乱媒質層選択手段により、前記光を照射することにより前記観測対象より放射される複数種の後方散乱光から前記任意の層より放射される後方散乱光を選択し、
次いで、受光手段により、前記任意の層から放射される後方散乱光を受光し、
次いで、光強度取得手段により、前記受光手段が受光した前記任意の層から放射される後方散乱光の強度を取得し、
次いで、光吸収係数算出手段により、前記光強度取得手段が取得した光強度に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出し、
次いで、濃度算出手段により、前記光吸収係数算出手段が算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出し、
次いで、濃度補正手段により、前記濃度算出手段が算出した前記目的成分の濃度を、前記体温特定手段により特定した前記体温に基づいて補正する、
ことを特徴とする濃度定量方法。
【請求項12】
生体中の複数の光散乱媒質の層により構成される観測対象のうち、任意の層における目的成分の濃度を定量する濃度定量装置のコンピュータに、
前記生体中の拍動を有する部位近傍の脈圧を所定領域に亘って検出する脈波検出手順、
前記所定領域に亘って温度を測定する温度測定手順、
前記所定領域に亘って検出された脈圧のうち最大の脈圧が検出された部位の温度を前記生体の体温として特定する体温特定手順、
前記観測対象に光を照射する照射手順、
前記光を照射することにより前記観測対象より放射される複数種の後方散乱光から前記任意の層より放射される後方散乱光を選択する光散乱媒質層選択手順、
前記任意の層から放射される後方散乱光を受光する受光手順、
前記受光手順にて得られた前記任意の層から放射される後方散乱光の強度を取得する光強度取得手順、
前記光強度取得手順にて取得した光強度に基づいて、前記任意の層の光吸収係数を算出する光吸収係数算出手順、
前記光吸収係数算出手順にて算出した光吸収係数に基づいて、前記任意の層における前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手順、
前記濃度算出手順により算出した前記目的成分の濃度を、前記体温特定手順にて特定した前記体温に基づいて補正する濃度補正手順、
を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−19834(P2012−19834A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158100(P2010−158100)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】