説明

灌流可能な微小血管システムを作製するための方法

インビトロで灌流可能な微小血管のネットワークを作製するための方法。出芽することができる細胞型を含む細胞をマトリックス中のチャネルに播種して(1300)、播種密度に基づいて微小血管として細胞が出芽する能力を活性化する(1304)。マトリックスチャネルを培養液で灌流して、親血管の形成および生存を可能にする(1324)。親血管およびマトリックスをインキュベートおよび灌流して、周囲にあるマトリックス中への親血管からの微小血管の出芽をもたらす(1328)。ネットワークが形成されるまで出芽親血管を増殖させる(1332)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2006年3月24日に出願されたNeumannの米国出願第11/388,920号の一部継続出願である「灌流可能な微小血管システムを作製するための方法」という表題の、2007年9月24日に出願されたNeumannの同時係属米国出願第11/860,471号の優先権を主張し、その一部継続出願である。Neumannの米国出願第11/388,920号および米国出願第11/860,471号は参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、生理学的および病理学的な血管増殖ならびに血管新生因子または血管新生抑制因子に応答した血管増殖の研究のための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
血管増殖の正常なプロセス(たとえば、月経周期、胎盤形成、肥満症における変化、創傷修復、炎症)の間で、新たな血管の形成は調節されており最終的に停止する。重大なことに、血管増殖の調節解除は病態の決定的要素である。たとえば、腫瘍増殖、糖尿病性網膜症、関節炎、および乾癬は、病的状態の直接の一因となる血管の過剰増殖を伴う。これとは対照的に、高齢者に特徴的な血管増殖の機能障害は、創傷治癒および外傷または疾患により虚血性になった組織の血行再建を損なう。したがって、新たな血管の構築を指示する機序および血管増殖を開始および停止するプロセスを理解することは、疾患における血管新生を制御する戦略の開発に重要である。
【0004】
新たな血管の増殖(血管新生)中、毛細管および後毛細管細静脈、すなわち血管系の最小枝の管腔の内側を覆う内皮細胞から芽が生じる。血管新生は複雑な多段階プロセスである。血管新生についての発表された研究の数は何千にも達するが、血管新生増殖および形態形成を媒介し調節する細胞機構についての理解は不十分である。
【0005】
血管新生出芽の詳細は、大半の組織が不透明であるために、インビボにおける「リアルタイム」での観察は困難である。組織切片は3Dでの再構築が困難であり、血管増殖の動的性質を伝えない。さらに、血管新生芽の先端付近の領域、すなわち、血管湿潤および形態形成の制御のきわめて重要な領域は組織切片で見つかることはめったにない。従来の組織学的検査の限界を克服するために、インビトロおよびインビボにおける種々の血管新生の「モデル」が開発されてきた。
【0006】
インビボでの血管新生モデル
生体組織の不透明性を回避するために、研究者らは両生類幼虫の天然に透明な尾部を含む生きた動物の「窓」(ClarkとClark、1939)、あるいはウサギの耳(ClarkとClark、1939)、マウスの皮膚(Algire、Chalkleyら、1945)もしくはハムスターの頬袋(GreenblattとShubi、1968)に植え込まれた、またはウサギの角膜ポケット(Gimbrone、Cotranら、1974)もしくはニワトリ絨毛尿膜(Ausprunk、Knightonら、1974)から開発された特殊な観察室を通じて血管新生を観察してきた。これらの初期の大部分が記述的な研究により、腫瘍誘導血管走化性の中核的パラダイムが確証され、これに対応して血管増殖を促進する拡散性腫瘍由来分子が発見された。より最近のインビボでの血管新生のアッセイでは、げっ歯類の皮下に植え込まれたゲル状基底膜タンパク質からなる重合体のスポンジまたはプラグへの血管の内部成長が測定される(Passaniti、Taylorら、1992; Andrade、Machadoら、1997; Akhtar、Dickersonら、2002; Koike、Vernonら、2003)。その正確さの一方で、インビボでのアプローチは、(1)動物による血管新生応答の種内変動;(2)ある種から別の種への結果の移行の欠如;(3)動物の購入および維持の高コスト;(4)研究目的のための動物使用に対する国民の不支持;および(5)動物手術ならびに結果の視覚化および評価において直面する複雑さによって困難になる。
【0007】
インビトロでの血管新生の二次元(2D)モデル
血管新生の分子動態を理解することを目指して、大血管から単離した内皮細胞が、血管の内膜をシミュレートするコンフルエントな舗道様単層を形成するまで平皿で培養された(Jaffe、Nachmanら、1973; Gimbrone 1976)。これは大血管中の内皮障害に対する増殖応答のモデルとしては有用であるが(Gimbrone、Cotranら、1974; Fishman、Ryanら、1975; MadriとStenn 1982; MadriとPratt 1986; Jozaki,Maruchaら、1990; Rosen、Meromskyら、1990)、硬い基層上での内皮細胞の血管新生のシミュレーションでは、ほとんどの場合、単層培養物が毛細血管様の管に組織化されることはない。しかし、1980年、毛細血管内皮細胞の長期培養の成功に続いて(Folkman、Haudenschildら、1979)、ウシまたはヒト毛細血管内皮細胞の20〜40日培養物がコンフルエント細胞単層上に2D細胞ネットワークを発生させたこと(これは「インビトロ血管新生」と呼ばれるプロセスである)が報告された。(Folkman、Haudenschildら、 1980)。このネットワークを構成する内皮細胞は、原繊維/アモルファス物質で充填された「内腔」を持つ「管」のようであった。これは、内生的に合成された、その上に細胞が組織化する「マンドレル」のネットワークであると解釈された。その後の研究により、大血管由来の内皮細胞による(Maciag、Kadishら、1982; Madri 1982; Fader、Marasaら、1983)および基底膜タンパク質の展性水和ゲル(たとえば、Matrigel(登録商標)ゲル)上に播種された内皮細胞による(Kubota、Kleinmanら、1988)類似の2Dネットワーク形成が報告された。
【0008】
血管発生の2Dモデルは今日依然として使用されている(Matrigel(登録商標)をベースとするアッセイ(Kubota、Kleinmanら、1988)が市販されている)が、そのようなモデルには真の血管新生にみられる以下の5つの特徴を欠いている。すなわち、
1.浸潤:2Dモデルの内皮細胞は細胞外マトリックス上にネットワークを形成し、細胞外マトリックスに潜り込む傾向をほとんど示さない(Vernon、Angelloら、1992; Vernon、Laraら、1995)。
2.方向性:2Dモデルでは、内皮細胞のネットワークは、予め位置決めした細胞のフィールド全体でほぼ同時にインビトロで形成されるが、インビボでの血管新生は、複数レベルの枝分かれにより分岐するフィラメント状の芽による細胞外マトリックスの方向性を伴う浸潤を伴う。
3.正しい極性:2Dモデルは、毛細管に著しく類似する単細胞管を作る(Maciag、Kadishら、1982; Feder、Marasaら、1983; SageとVernon 1994)が、その極性は「裏返し」になっている、すなわち、2Dモデルは基底層物質をその内腔面に沈着させ、その血栓形成表面を周囲の培地に外側に向けており(Maciag、Kadishら、1982; Feder、Marasaら、1983)、これはインビボでの状況とは正反対である。
4.内腔形成:2Dモデルが中空状の内腔をもつ内皮細胞(EC)管を生み出している証拠は弱い。典型的に、2Dモデルで得られる内皮細胞管は(外因性であれ細胞により合成されようと)細胞外マトリックスで充填されている「内腔」空間を有する(Maciag、Kadishら、1982; Madri 1982; Feder、Marasaら、1983; SageとVernon 1994; Vernon、Laraら、1995)。また、中空状の内腔が形成されたとしても、通常、内皮細胞細胞質の厚い壁に隣接する細隙状のまたは狭い円筒空間のようになっており、インビボで形成された毛細管(内皮細胞の薄い壁を持った膨らんだ管状である)とは全く異なっている。
5.細胞特異性:2Dモデルでの細胞ネットワークは、非EC細胞型により実現されることがある機械的プロセスにより生み出される(Vernon、Angelloら、1992; Vernon、Laraら、1995)。実際、数学モデリングによれば、張力を展性のある2D細胞外マトリックス(内因的に合成されるものでも、供給される(たとえば、Matrigel(登録商標)ゲル)ものでも)に適用することができるどんな接着細胞型も最適条件下でネットワークを生み出すことができることが明らかにされている(Manoussaki、Lubkinら、1996)、
である。
【0009】
インビトロでの血管新生の三次元(3D)モデル
インビボでの血管新生が3D細胞外マトリックス内で起こることが認識されたことにより、出芽をインビトロでの細胞外マトリックスの3Dゲル内で誘導する種々のモデルが作られてきた。初期の3Dモデルでは、コラーゲンゲル内に分散された内皮細胞(Montesano、Orciら、1983)が索および管のネットワークを形成した(ElsdaleとBard 1972)。その内皮細胞管は正しい極性を示したが、浸潤および方向性という特徴が欠けていた(内皮細胞は細胞外マトリックス中に予め埋め込まれ、均一に分散されていた)。それにもかかわらず、このアプローチは、内腔形成について(DavisとCamarillo 1996)および増殖因子に対する内皮細胞の応答について(Madri、Prattら、1988; Merwin、Andersonら、1990; KuzuyaとKinsella 1994; Marx、Perlmutterら、1994; DavisとCamarillo 1996)の研究では有用であることが判明していた。
【0010】
別のアプローチでは、3D凝固血漿中に埋め込まれた1mm切片(環)のラット大動脈は枝分かれした吻合する管を生み出した(Nicosia、Tchaoら、1982)。大動脈環からの芽は、極性に加えて、血管新生様の浸潤および方向性を示した。ラット由来の大動脈環またはマウス由来の微小血管セグメントを利用する外殖片モデルを使用して、血管新生に対する腫瘍、増殖因子、種々の細胞外マトリックス支持体、および老化条件の影響が研究されてきた(Nicosia、Tchaoら、1983; Mori、Sadahiraら、1988; NicosiaとOttinetti 1990; Nicosia、Bonannoら1992; VillaschiとNicosia 1993; Nicosia、Bonannoら、1994; Nicosia、Nicosiaら、1994; NicosiaとTuszynski 1994; Hoying、Boswellら、1996; Arthur、Vernonら、1998)。
【0011】
精製された内皮細胞(単層または凝集体として)を誘導して、基礎をなすまたは周囲にある3D細胞外マトリックスゲル中に出芽させていく種々のモデルが存在する(MontesanoとOrci 1985; Pepper、Montesanoら、1991; Montesano、Pepperら、1993; NehlsとDrenckhahn 1995; NehlsとHerrmann 1996; Vernon とSage 1999; VernonとGooden 2002)。これらのモデルそれぞれに、出芽形成の視覚化の難しさ、出芽の制限、薄片化のための必要条件、または内皮細胞の種類によって有効性が欠如することなどの、固有の限界がある。
【0012】
WolverineとGulecは、腫瘍組織の断片をマトリックスに埋め込む3D血管新生システムを開示している(米国特許出願公開2002/0150879A1号)。このシステムによる微小血管の成長では、特に組織の血管新生能をアッセイすることができる。しかし、このアプローチでは、微小血管の管腔灌流が得られない。
【0013】
Neumann(本特許の発明者)ら、2003年、は、人口組織の一部とすることができる灌流微小血管をインビトロで作製する可能性を開示している。Neumannら、2003年、は、微小血管を作製するため、収縮管により保持されたマンドレルとして127マイクロメートルのナイロン釣り糸を使用することを教唆している。この血管は、寒天に埋め込まれたラット大動脈平滑筋細胞から作製された。これらの微小血管は、予備的な性質のもので、ヒト血管移植片を作製するのには適していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国出願第11/388,920号
【特許文献2】同時係属米国出願第11/860,471号
【特許文献3】米国特許出願公開2002/0150879A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
インビトロでの血管増殖の二次元モデルは、前に収載した血管新生に見られる特徴を実現していないが、既存の3Dモデルはその特徴の一部または大半を再現している。ただし、重要なことに、現在利用できる3Dモデルのどれも、加圧流動循環液を含有する親血管を再構築していない。したがって、既存のインビトロ3Dモデルのどれを使用しても、血管増殖および形態形成に対する内腔圧力および流動の寄与についての研究は可能にならない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
インビトロで灌流可能な微小血管のネットワークを作製するための方法が開示される。細胞をマトリックス内のチャネルに播種する。この細胞は出芽することができ、親血管から微小血管として出芽するように活性化される。この細胞が有する出芽する能力は播種の密度により誘発される。チャネルを親血管を形成する培養液で灌流する。親血管をインキュベートおよび灌流して、その生存を維持し周囲にあるマトリックスへの微小血管の出芽をもたらす。出芽している親血管を、ネットワークを形成するまで増殖させる。
【0017】
本開示は、3Dの細胞外マトリックス(ECM)中で浸潤性の管状微小血管芽を作製するための既知の方法と、管腔流動の供給源となる親血管の組織工学による製作のための新規の方法論を組み合わせることにより、既存の血管新生モデルの限界を克服する方法およびシステムを提供する。灌流液を介して血管新生調節性化合物を、特定の標的受容体が存在することが分かっている内皮細胞の内腔表面に投与することができる。
【0018】
栄養液の管腔流動により、インビトロでの毛細管の生存時間および安定性を大幅に増加することができる。管腔灌流は、血管増殖および成熟化にプラスの効果があることが明らかにされている(Frerich、Zuckmantelら、2008)。つまり、管腔灌流が存在するほうが血管は安定すると考えられる。さらに、平滑筋細胞または周皮細胞、内皮前駆細胞、さらには幹細胞も、親血管の形成に含めることにより血管成熟化プロセスの一部として機能を支援すると考えられる。
【0019】
開示された血管新生システムを使用して、低酸素/高酸素、特定の可溶性または不溶性生理活性化合物の試験、遺伝子改変細胞の使用、およびウイルストランスフェクション/遺伝子導入を介した遺伝子送達を含む種々の実験パラメータを評価することができる。ホモフィリックなまたはヘテロタイプの細胞−細胞相互作用、細胞−マトリックス相互作用、細胞−増殖因子相互作用、および機械的流動を、親血管からの微小血管の出芽において観察されるような一体化した表現型の発現について、細胞シグナル伝達を誘導し最終的に細胞を活性化する刺激として調べることができる。
【0020】
さらに、高密度での播種による物理的な影響の寄与を、出芽能力に関する表現型について評価することができる。特定の理論に縛られることなく、たとえば、内皮細胞を高密度で播種すると、それにより生じる物理的圧迫により内皮細胞がプロセス中に台無しになる。血管形成において内皮細胞は典型的には横方向に展開するために、細胞が密に詰まっているところに播種することは、最初は可能ではない。したがって、マトリックス中への増殖は、出芽表現型を誘発するには有利に働く可能性がある、同様に、内腔表面積あたりの細胞数が高いと、細胞分裂によるよりも細胞の単純な遊走および癒合によってより速く芽を形成することができる。血管形成におけるそのような細胞表現型を調節する遺伝子および遺伝子産物の寄与を解明することができる。このシステムによれば、創傷修復、老化、癌、乾癬、糖尿病性網膜症、炎症性疾患、脳卒中および粥状動脈硬化に関連して血管新生の研究が可能になる。
【0021】
重要なことに、本開示の教示に従ったモデルを適用すれば、生物工学により作製された人工組織に組み込むことができる完全に機能する血管系を提供できる可能性がある。
【0022】
本開示は、微小血管の作製、内皮細胞からの微小血管の作製およびさらに大きな血管(たとえば、冠動脈の大きさを有する)の作製のための多岐管の設計を含むこれまでにない新規のアプローチも提供する。たとえば、微小血管ネットワークの作製のための方法を含むこれらのおよび他の重要な新技術は、後述する明細書および特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】A、B、Cは親血管作製の例を図式的に示す図である。
【図2】A、B、C、Dは既知の熱収縮工程の例を図式的に示す図である。
【図3A】取付け培養/灌流装置の既知の設計を図式的に示す図である。
【図3B】取付け培養/灌流装置の製造方法において使用する設計を図式的に示す図である。
【図4】A、Bは、培養/灌流装置のための多岐管の作製を図式的に示す図である。
【図5】A、B、Cは培養/灌流装置を微細加工するための別の設計を図式的に示す図である。
【図6】細胞播種法を図式的に示す図である。
【図7】2つのバイオ人工親血管間の毛細血管網の概略図である。
【図8a】平滑筋細胞の播種後の複数のマンドレルの例のインビトロ画像である。
【図8b】灌流筋板の例を示す図である。
【図9】CPDの別の実施形態を図式的に示す図である。
【図10】周囲にあるマトリックスへ芽を増殖させている単一親血管を示す図である。
【図11】芽のネットワークを通して第2の親血管に繋がれた1つの親血管を示す図である。
【図12】細胞をコラーゲンマトリックス中のチャネルに播種することにより親細胞を作製するための別の方法を示す図である。
【図13A】細胞および親血管において出芽能を活性化するための方法を示す図である。
【図13B】CPDの実施形態を図式的に示す図である。
【図13C】マトリックスチャンバーへコラーゲンを充填する前、および細胞播種前のCPDを図式的に示す図である。
【図13D】コラーゲン播種、マンドレルの引き抜き、およびマンドレル内への細胞播種後のCPDを図式的に示す図である。
【図13E】灌流中のCPDを図式的に示す図である。
【図14A】ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を高密度で播種されたマトリックス内のチャネルの例を図式的に示す図である。
【図14B】細胞密度がチャネル内にプラグを生じているHUVECを播種されたマトリックス内のチャネルを図式的に示す図である。
【図14C】灌流が非接着HUVECを取り除いた後のチャネルを図式的に示す図である。
【図15A】コラーゲンマトリックスにおける空のチャネルを示す図である。
【図15B】高密度での播種後の接着細胞のある図15Aのチャネルを示す図である。
【図15C】図15Bに示される播種されたチャネルの横断面を図式的に示す図である。
【図16】1日目における内皮細胞の高密度勾配での播種直後のマトリックスチャネルを示す図である(上パネル)。灌流12日目後の同一チャネルも示されている(下パネル)。細胞密度に関連する出芽の誘導は明らかである(下パネル)。
【図17】1週間増殖され、3週間吻合を受けて複雑な微小血管ネットワークを形成する2つの出芽能親血管の例を示す図である。
【図18】1日目から8日目までの親血管の増殖および微小血管の関連する出芽を示す図である。
【図19】血管構造を示すために標識コムギ胚芽凝集素で染色された微小血管および核を示すために蛍光色素DAPIで染色された微小血管を示す図である。
【図20A】親微小血管に沿った位置に対してプロットされた初期細胞播種密度を図式的に示す図である。
【図20B】細胞密度のプロットをオーバーレイした開始細胞播種密度での出芽親血管の画像である。
【図20C】播種後24時間後の出芽親微小血管の画像である。
【図20D】播種後48時間後の出芽親微小血管の画像である。
【図20E】播種後72時間後の出芽親微小血管の画像である。
【図20F】播種後96時間後の出芽親微小血管の画像である。
【図21A】平均芽長対(ミクロン)親微小血管に沿った位置(mm)のプロットを図式的に示す図である。
【図21B】平均芽長対(ミクロン)初期播種密度(1平方mmあたりの細胞数)の最良適合線のプロットを図式的に示す図である。
【図22】ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)が細胞トラッカーグリーンで染色され(暗)、退縮性としてのラット平滑筋細胞(透明/明)が血管周囲部位においてそのHUVECの周囲にある複合芽の画像である。
【図23】マトリックスチャネルへの細胞の高密度での播種および微小血管出芽アッセイのための親血管形成を図式的に示す図である。
【図24A】CPD中で比較的大量に存在する細胞、産物、および組織からの血管新生特性に関する微小血管出芽アッセイを図式的に示す図である。
【図24B】CPD中で比較的大量に存在する細胞、産物、および組織からの血管新生特性に関する微小血管出芽アッセイを図式的に示す図である。
【図25A】CPD中で比較的大量に存在する細胞、産物、および組織からの血管新生抑制特性に関する微小血管出芽アッセイを図式的に示す図である。
【図25B】CPD中で比較的少量存在する細胞、産物、および組織からの血管新生抑制特性に関する微小血管出芽アッセイを図式的に示す図である。
【図26A】1つはHUVECを播種され出芽親血管を形成した、2番目はBT474細胞系統の乳癌細胞2608を播種された、CPD2600からの2つのコラーゲンチャネルの明視野像である。
【図26B】図26A中のCPDからの同一播種コラーゲンチャネルの対応する蛍光顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書に提示する例は本発明の理解を助長するためのものである。例は説明的なものであり、本発明を例示した実施形態に限定するものではない。本発明の方法は、生理学的および病理学的血管増殖ならびに血管新生または血管新生抑制因子に応答した血管増殖の研究に有用である。他の有用な適用は、癌組織の血管新生能および抗血管新生薬への応答を評価する方法に対するものである。さらなる適用および方法は、血管出芽についての生理学または病理学に関する基礎研究のためのものである。さらに、種々の創傷治癒装置を構築するために、および組織工学による構築物の血管新生のために本発明の方法を使用してもよい。
【0025】
一例では、灌流可能な三次元微小血管ネットワークの作製のための方法および装置が開示される。本明細書で使用するように、「EC」とは内皮細胞のことであり、「SMC」とは平滑筋細胞のことであり、「CAS」とは冠動脈代替物のことである。
【0026】
一般に、微小血管ネットワークの培養と灌流のための装置は、中心に1つまたは複数のマンドレルを保持するチャンバーからなる(図1にもっともよく示される)。チャンバーは、どんな生体適合性材料からでも、どのような技術によっても、たとえば、レーザー加工フレームをサンドイッチすること、シート状のシリコーンに穴とチャネルを開けること、または成形技術によって、作製することができる。マンドレルは、それを引き抜くことが可能なようにチャンバー内で構築される。これは、マンドレルの末端をたとえば熱収縮によって、管に合わせることにより実現することができる(図2に明示する)。マンドレルの径は目的の血管内径に依存する。配置は、2Dまたは3Dにおける単一血管、2つの血管、または全列の血管を収容するように変更することができる。マンドレルは、高分子繊維、ガラス繊維、ワイヤーなどの種々の材料のものでよい。
【0027】
細胞をマンドレルの上に播種し、細胞を刺激してマンドレルの周囲に増殖させ、細胞が血管壁を形成し終わるとマンドレルを引き抜くことにより微小血管は作製される。次に、血管をマトリックス内に埋め込む。培養条件、マトリックスの組成および血管新生刺激(たとえば、増殖因子)の存在に応じて、親血管は周囲にあるマトリックスに出芽する。芽は互いに吻合し、微小血管ネットワークを形成する。マンドレルを取り外したのち、装置を灌流システムに繋ぎ、血管を管腔液体流動にさらす。
【0028】
図1A、図1Bおよび図1Cには、親血管作製の例となる概略図が示されている。図1Aは、装置本体3中の収縮管4により保持されたマンドレル2上に播種された、増殖培養液100中の内皮細胞1を示している。図1Bは、細胞1が増殖し細胞スリーブ102の形に環状層を形成し終わったことを示している。図1Cは、増殖培養液100で灌流されている細胞外マトリックス(ECM)ゲル110中のマンドレル2の抜き出し後の細胞スリーブを示している。
【0029】
本明細書に開示される方法は、組織工学的適用および研究モデルのための灌流可能なバイオ人工血管構造の工学的設計を含む。開示された方法の一般原則は、薄肉管または他の付属品にぴったり合わせた取り外し可能なマンドレル周囲の層での細胞の培養を含む。細胞層が目的の壁厚に到達した後は、マンドレルを取り外し、これにより作製されたバイオ人工血管(BAV)は、灌流システムを用いて培養液、血液、血液代替物、または他の液体で灌流してもよい。開示された方法により、大量生産されたまたはオーダーメイドされた血管、インビトロで灌流される血管新生モデル、創傷治癒装置、組織成分、全組織および器官のほかにも研究モデルの作製が可能になる。
【0030】
培養/灌流装置の製造
図2A、図2B、図2Cおよび図2Dには、既知の熱収縮工程の例となる概略図が示されている。図2Aに具体的に示されるように、それぞれの培養/灌流装置(CPD)は、支持フレーム12により保持される1つまたは複数のマンドレル2を含んでいてもよい。目的の血管内径の径のマンドレル2が、その両末端を医療グレード収縮管セグメント4にぴったり入れて収まっている。マンドレル2は、得ようとする血管の大きさにより数マイクロメートルから数ミリメートルまでの径を有する、生体適合性繊維(たとえば、高分子、ガラス、ワイヤーまたは同等物)を含んでいてもよい。一例では、光ファイバーを含む微小毛細管をマンドレルとして用いた。
【0031】
図2Bのさらに詳細な図に示されるように、それぞれの収縮管セグメント4の中央部分14は、1本のマンドレル2の周りに熱収縮される。続いて、図2Cに具体的に示されるように、マンドレル2が引き抜かれ、管が切断される。図2Dは、マンドレルの両末端が、新たに切断され離された収縮管セグメント4に封入されるように、マンドレルを再度通した後の状態を示している。フレーム12は種々の材料および技術を使用して作製してもよい。装置は、単一のバイオ人工血管を使用する場合または複数のバイオ人工血管からなる列を使用する場合のいずれにも適合するように変更してもよい。同様に、数面のマンドレル列を層状に重ねることにより、血管ネットワークを持つ肉厚の灌流可能な組織を作製してもよい。
【0032】
灌流チャンバーの機械加工
図3Aには、いくつかのマンドレル/収縮管集合体11の灌流のための既知の装置が示されている。フレーム20は、ポリカーボネートまたは同等の材料を圧延することが好ましい。分配チャンバー30が装置の構造に含まれてもよく、これにより多くのバイオ人工血管の同時灌流が可能になる。マンドレル2を含む一組の糸の末端はシリコン管23に集められる。
【0033】
マイラーフレームのレーザー切断
図3Bには、取付け培養/灌流装置の製造法で使用される新規な構造が図式的に示されている。単一の血管の場合、CPD70は、2枚のレーザー切断Mylar(登録商標)フレーム22間に熱収縮管に保持されたマンドレル2を挟むことにより作製することができる。下に詳述される通りに構築された円筒状エポキシ樹脂多岐管21を、マンドレル/収縮管集合体11を保持するために使用することができる。
【0034】
マンドレル/収縮管集合体は、Mylar(登録商標)などのポリエステルフィルムまたはそれと同類のものからなる2つのフレーム間に挟み、各マンドレルが各末端の2本の収縮管セグメント4’によりフレームウィンドウ76中に吊るされるように、粘着面を互いに押し付けてもよい。少なくとも1本の細い安定化ワイヤー26をフレーム22に含むことにより、ならびに収縮管および少なくとも1本の細い安定化ワイヤー26の周囲に、シリコーン管のモールドを使用して流し込まれる円筒状エポキシ樹脂多岐管内に封入することにより、2本の収縮管セグメント4’は安定化され補強される。2本の収縮管セグメント4’は、最終的にはCPD70の流入ポートおよび流出ポートになる。
【0035】
図4Aおよび図4Bには、培養灌流装置の多岐管の作製のための方法が図式的に示されている。図4Aは、たとえばシリコーン管50のスリーブを通して引っ張られる、複数の収縮管/マンドレル集合体11を示している。エポキシ接着剤40が注入されてシリコーン管50を詰め、硬化される。
【0036】
図4Bは、エポキシ接着剤40が硬化しシリコーン管50が切り開かれて取り外された後の状態を示している。硬化したエポキシロッド44が残っている。エポキシロッド44は、マンドレルが引き抜かれ収縮管により作製されたチャネル42が残っている切断場所で、切断される。多くの収縮管の末端46がまとめられて多岐管21を形成してもよい。個々のCPDまたはCPDフレーム集合体を積み重ねることで、3D血管列を作製することができる。
【0037】
別の方法
図5A、図5Bおよび図5Cには、微細加工された培養/灌流装置の別の構造が図式的に示されている。図5Aは、スリーブ56を有しているフレーム中の小穿孔54を通じて取り込まれる一組のマンドレル2を示している。ここでは、スリーブが収縮管の代わりになる。図5Bは、フレーム壁52中にはめ込まれた一組のマンドレル2を含む細胞播種前のCPDを示している。
【0038】
図5Cに示す培養/灌流装置の別の例では、微細加工された多岐管64をフレーム52の外側でスリーブ56に取り付けてもよい。図5Cには血管62も示されている。血管62は本明細書で示す通りにマンドレル上で増殖され、マンドレルが取り外された後に残る。微小成形などの微細加工法は、このようなCPDフレーム集合体の大量生産のために使用してもよい。
【0039】
血管作製および灌流
図6には、細胞播種法が図式的に示されている。細胞播種のためのCPD70を準備するために、CPD70は先ず洗浄され、次に紫外線殺菌される。無菌条件下で、CPDは表面、たとえば、ペトリ皿72の底に固定される。次に、CPDフレーム集合体70の内部ウィンドウ76(図3Bに示されている)をラミニン1などの接着タンパク質および同等物を含有する溶液で満たす。1つまたは複数のスペーサー77を必要に応じて使用してもよい。インキュベーションの後、接着タンパク質含有溶液を取り除き、次に、培養液中の目的の細胞型(たとえば、平滑筋細胞、内皮細胞、およびいくつかの場合には、周皮細胞、および線維芽細胞、または幹細胞を含む前駆細胞型)の懸濁液をCPD70のウィンドウ76に移す。
【0040】
細胞播種は、一定量の細胞懸濁液をウィンドウに満たし、CPDフレーム集合体70を逆さまにひっくり返すことにより、懸滴80を作り出すことにより実施してもよい。約45分のインキュベーション時間中、多数の細胞がCPDフレーム集合体内のマンドレル/収縮管集合体に付着することになる。過剰な細胞は懸滴の先端に沈むことになり、容易に集めて破棄することができる。次に、1つまたは複数のCPDフレーム集合体を含有するペトリ皿の上下をもとに戻し、CPDフレーム集合体が溢れるまで培養液で満たし、インキュベートする。一例でのインキュベーション条件は、37℃で5%COの環境であった。マンドレル/収縮管集合体に付着した細胞は広がり増殖し、同心円状の単層(たとえば、内皮細胞)または厚さが150μm以上の多層(たとえば、平滑筋細胞)を形成する。
【0041】
目的の壁形状または厚みで、マンドレルは引き抜かれ、それにより中空の細胞管を作り出す。壁が薄い場合は、マンドレルの引き抜きに先立って細胞スリーブの周囲に、たとえば、アガロース、コラーゲン、基底膜タンパク質ゲルなどのゲルを成形することにより、断裂から保護してもよい。次に、CPDフレーム集合体の多岐管は灌流システムに繋がれ、増殖培養液などの最適な液体で灌流される。
【0042】
別の実施形態では、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)由来の内皮「親」血管の作製のための方法は、以下の工程を含む:
培養装置を先ず洗浄し、次に30分間、両側から紫外線暴露により無菌化する。無菌条件下で、装置を無菌条片でペトリ皿の底に固定する。
次に、装置の内部ウィンドウをラミニン1の接着タンパク質溶液で満たす。フィブロネクチン、ビトロネクチン、フィブリン、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸モチーフ(RGD)タンパク質、RGDペプチド、ゼラチン、コラーゲン、異なるコラーゲンサブタイプおよび同等物などの他の接着タンパク質も使用してよい。
一晩インキュベーション後、接着タンパク質含有溶液を取り除き、次に培養液中のヒト血管内皮細胞の懸濁液を装置のウィンドウに移す。
次に、ペトリ皿を逆さまにひっくり返し、このようにして装置のウィンドウに細胞培養懸濁液の懸滴を作り出す。細胞培養インキュベーター中(5%CO、37℃)での45分間のインキュベーション時間後、多数の細胞が装置内のマンドレル/収縮管集合体に付着することになる。
次に、ペトリ皿の上下をもとに戻し、装置が沈むまでヒト血管内皮細胞用の増殖培養液で満たす。
マンドレルに結合していない細胞は浮き上がり、吸引して破棄することができる。
次に、ペトリ皿をインキュベーター中(5%CO、37℃)に入れる。マンドレルに付着した細胞は広がり増殖し、ヒト血管内皮細胞の同心円状の単層を形成する。
次に、培養液をペトリ皿から取り除く。コラーゲン溶液を培養装置のウィンドウに満たし、固化させ、このようにして細胞層が結合したマンドレルを埋め込む。
ヒト血管内皮細胞がコラーゲンゲル中に芽を形成することになる。次に、マンドレルをゆっくり引き抜き、後にヒト血管内皮細胞の灌流可能な「親」微小血管が残る。
次に、装置の多岐管は灌流システムに繋がれ、ヒト血管内皮細胞増殖培養液で灌流される。
【0043】
灌流システム
CPDは、灌流システムに貫流様式でまたは循環様式のいずれで繋いでもよい。貫流配置は、重力フローシステム、または市販のもしくは特注の注射器ポンプを付けて作製してよい。注射器は灌流培養液で満たし、注射器ポンプに取り付け、ガス気密管を介してCPDの上流末端に繋がれる。CPDは無菌条件下でインキュベーターに保存してもよいし、無菌細胞培養環境をCPD内に確立してもよい。CPDの下流多岐管は、灌流液を回収する末端貯蔵容器に繋がれる。循環システムを、蠕動ポンプを使用することにより作製してもよい。貫流システムにも循環システムにもガス交換用の装置を取り付けてよい。ガス濃度、灌流圧、流量、温度、ならびに栄養分および代謝副産物の濃度は、センサーで測定する。集めたデータはフィードバックループに送って、目的のパラメータの厳格な制御を可能にしてもよい。
【0044】
具体的適用
血管新生関連研究のためのモデル
図7には、2つのバイオ人工親血管200、202間の微小血管ネットワークの概略図を示している。液体灌流液204は、「静脈」親血管202への流量(f)を減少し、「動脈」親血管200での抵抗(R)を増加することにより毛細管206を通して経路を変更される。したがって、灌流液204は圧力の高い血管から圧力の低い血管へと送られ、動脈末端から毛細血管床の静脈末端への自然な血流を模擬する。たとえば、一実施形態では、両方の親血管は同一速度で灌流され、出口での抵抗は同一に維持される。第1血管への流量が増加され、同時に第2の血管への流量が減少されれば、灌流液は第1血管から第2血管へ経路を変更されると考えられる。他の実施形態において経路変更をさらに促進するためには、第1血管の下流末端での抵抗を増加させ、第2血管では減少させることができるであろう。これは、背圧を上げるまたは下げることにより実施できるであろう。別の実施形態では、第1血管の下流末端および第2血管の上流末端を完全に閉鎖すれば、灌流液は第1血管に入って、続けて微小血管ネットワークを通って第2血管に入り、第2微小血管の下流末端を通って親血管を離れることになるであろう。
【0045】
マンドレル法は、血管新生研究のモデル開発、白血球接着アッセイのために、または必要に応じて、創傷修復ならびに老化、癌、乾癬、糖尿性網膜症、炎症性疾患、脳卒中および粥状動脈硬化の疾患における医薬品検査および研究のためにも、使用することができる。内皮細胞のみを、または内皮細胞、平滑筋細胞、および周皮細胞の組合せを使用して、親バイオ人工微小血管(BMV)をミクロン径マンドレルの周囲で培養し、細胞外マトリックスの支持性ゲルに埋め込むことができる。場合によっては、線維芽細胞、前駆細胞、幹細胞および同等物を含む追加の細胞型を使用してもよい。次に、マンドレルを抜き出し、細胞外マトリックスゲル210内に親内皮細胞管を後に残すことになる。引き抜きは手動でも、または自動装置を使用してもよいし、極端に遅い速度から極端に速い速度までのいかなる速度で実施してもよい。その他にも、凍結状態でバイオ人工微小血管からマンドレルを引き抜いたり、温度応答性ポリマーでマンドレルをコーティングしたり、またはマンドレルのいずれかの末端を引っ張って、断裂するまでマンドレルを細くしてもよい。
【0046】
周囲にあるゲル210への親血管の出芽は、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、およびホルボールエステル、ホルボール12−ミリステート−13−アセテート(PMA)などの化合物により誘導され、これらの化合物はゲルおよび/または灌流液(たとえば、増殖培養液)に添加される。出芽を誘導するために使用することができる他の増殖因子としては、長鎖Rインスリン様増殖因子(RIGF−1)、インスリン様増殖因子(たとえば、IGF−1)、インターロイキン−8(IL−8)およびヒト上皮増殖因子(hEGF)、結合組織増殖因子(CTGF)、ヘパリン結合性EGF様増殖因子(HB−EGF)、アンジオポエチン、胎盤増殖因子、サイトカイン、種々のケモカイン(たとえば、SDF−1α)、TGF−β、および可溶性マイトジェンが挙げられる。さらに、細胞の播種密度は出芽可能表現型の誘導に寄与する。
【0047】
複合微小血管ネットワーク222は、2つの隣接する親バイオ人工微小血管間に圧力差を確立し、それにより動脈および静脈血流を模倣することにより作製してもよい。次に、液体流は、「動脈」バイオ人工微小血管から接続された芽を通って「静脈」バイオ人工微小血管へと再誘導される。
【0048】
灌流液は、血清および血管新生または血管新生抑制物質がない酸素添加細胞増殖培養液を有利に含んでいてもよい。別の例では、灌流液は、血清および/または血管新生影響化合物を補充した酸素添加細胞増殖培養液であってもよい。さらに別の例となる実施形態では、灌流液は酸素添加生理食塩水であってもよい。いくつかの場合、培養液は生理的範囲に緩衝される。別の例では、灌流液は、酸素添加血液、血液成分、または代用血液であってもよい。さらに別の例となる実施形態では、灌流液は酸素添加でなくてもよく、システムの酸素添加は、マトリックスを介する拡散により実現される。さらに別の例となる実施形態では、血管新生または血管新生抑制化合物を灌流液に添加してもよい。
【0049】
一例となる実施形態では、血管新生および血管新生抑制化合物などが、マトリックスに添加される。さらに別の例となる実施形態では、細胞は、灌流液へまたはマトリックスへ産物を放出する遺伝子改変細胞であってもよい。さらに別の例となる実施形態では、マトリックスは、好ましくはフィブリン、コラーゲン、基底膜マトリックス、細胞外マトリックス成分およびゼラチンを含んでいてもよい。有用なマトリックスの一種は、Matrigel(登録商標)ゲルである。別の例となる実施形態では、マトリックスは、寒天、アガロース、アルギン酸、またはシリカゲルを含んでいてもよい。
【0050】
別の例となる実施形態では、基底膜をベースにしたマトリックスは、IV型コラーゲン、パールカン、ラミニン、インテグリン、エナクチン、ジストログリカン、VII型コラーゲン線維およびVII型コラーゲンミクロフィブリルを含んでいてもよい。さらに別の実施形態では、細胞外ベースのマトリックスは、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ケラチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、およびラミニンを含んでいてもよい。
【0051】
一例となる実施形態では、細胞は、内皮細胞、平滑筋細胞、周皮細胞、線維芽細胞、前駆細胞、幹細胞、筋肉細胞、肝細胞、肺細胞、皮膚細胞、上皮細胞、ヒト細胞、動物細胞、植物細胞、真核細胞、遺伝子操作細胞、遺伝子改変細胞、患部細胞、ウイルス感染細胞、および癌細胞からなるグループから選択してもよい。同様に、マトリックスには、内皮細胞、平滑筋細胞、周皮細胞、線維芽細胞、前駆細胞、幹細胞、筋肉細胞、肝細胞、肺細胞、皮膚細胞、上皮細胞、ヒト細胞、動物細胞、植物細胞、真核細胞、遺伝子操作細胞、遺伝子改変細胞、患部細胞、ウイルス感染細胞、および癌細胞からなるグループから選択される細胞が、マトリックス全体に分散されて、または局所的に集中して、存在していてもよい。いくつかの場合、健常組織または癌組織などの疾患組織の断片がマトリックスに埋め込まれている。他の場合には、ウイルス感染組織または遺伝子操作組織がマトリックスに埋め込まれている。
【0052】
親血管からの出芽は、切片材料においてまたは全載調製物において、インビトロで顕微鏡的に調べてもよい。バイオ人工微小血管に蛍光溶液(たとえば、蛍光デキストラン)を灌流すれば、芽径、芽管腔の開存性、および吻合の程度の分析に役立つ。芽形態の3D再構築は、共焦点顕微鏡により撮られる落射蛍光像のZ軸スタッキングにより実施してもよい。芽220による細胞周囲基底膜マトリックスの合成は、抗ラミニンおよびIV型コラーゲン一次抗体ならびに蛍光またはペルオキシダーゼタグ付き二次抗体で免疫標識することにより、全載においておよび組織(パラフィン)切片においてモニターしてもよい。
【0053】
複合EC/SMC芽では、2つの細胞型間の空間関係は、ヒトCD31(クローンP2B1、Chemicon)に対するFITCモノクロナール抗体(MAb)またはFITC−UEA1アグルチニン、すなわちヒト内皮細胞に特異的マーカーで内皮細胞を標識することにより調べてもよい。平滑筋細胞に、ヒトアルファSMアクチンに対するMAbを、続いてRITC抗マウス二次抗体を標識してもよい。内皮細胞と平滑筋細胞間の管腔構造および相互作用の詳細は、上述の試薬で標識したパラフィン切片から入手してもよい。
【0054】
記載する作製法は、高再現性を有するの血管新生装置の商業的大量生産の基礎である。適切に保存すれば(たとえば、クリオ保存)、増殖前親血管または全微小血管ネットワークは、すぐに使える形で研究者が入手できるようになると考えられる。
【0055】
冠動脈代用物
冠動脈代用物の作製のために、内径がほぼ4mmから5.5mmの血管管腔を有する冠動脈代用物を生じるように外径が選択されたマンドレル。代わりに、マンドレルは、灌流され、冠動脈代用物の増殖期間中に栄養素とガスの交換を可能にするくらいの透過性のある中空管でもよい。冠動脈代用物は、平滑筋細胞のみから血管中の中間層に類似する構造物を増殖するか、または、2つもしくは3つの細胞型から複合構造物として作製されてもよい。
【0056】
平滑筋細胞はマンドレル上に播種されて、300〜500μmの環状層にまで増殖される。冠動脈代用物の作製を迅速化するため、細胞を初期増殖期中に高度に増殖性の表現型にして、次に血管壁が目的の厚さに達した後は分化状態に転換するようにSMC表現型を操作してもよい。表現型転換によって、平滑筋細胞は劇的にその増殖速度を落とし、血管の機械的性質に影響を与える、コラーゲンおよびエラスチンなどの細胞外マトリックスタンパク質の作製を誘導することになる。表現型転換は、ある種の遺伝子の発現を制御することにより実現してもよい。たとえば、テトラサイクリン応答性プロモーターにより、遺伝子発現(たとえば、エラスチンの)は、血管壁が目的の厚さに達してしまうまで抑制されてもよい(Clontech Laboratories Inc.)。次に、増殖培養液からテトラサイクリンを除けば、挿入遺伝子が活性化されることになる。たとえば、エラスチンが過剰発現されたら、それ以上の細胞増殖は阻害され、血管壁内で構造的およびシグナル伝達機能が発揮されることになる。機械的条件付け、たとえば、脈動流を使用して、冠動脈代用物を強化し、細胞の生理的整列化を誘導してもよい。
【0057】
他の外部のまたは内部の「表現型転換」も同様に潜在的に使用してよい。たとえば、内皮および平滑筋特異的遺伝子または他の候補遺伝子を、組換えDNA技術を介して操作し、天然の、細胞または組織特異的、誘導性、および異種プロモーターを介して発現させてもよい。さらに、先端レンチウイルス形質導入システムは、目的のプロモーターの転写制御下にある対象の遺伝子を静止状態のまたは他の細胞型に組み込む能力を提供する(Clontech Laboratories Inc.、Invitrogen Corp.)。これらの方法により、遺伝子量、発現レベル、突然変異解析、および調節の操作が可能になり、これらのすべてにより細胞表現型転換の制御が可能になる。
【0058】
内皮細胞は、マンドレルを取り除いた直後に、または平滑筋細胞の条件付けおよび再構築後に、SMCスリーブ内に播種してもよい。内皮細胞播種は、内皮細胞懸濁液をSMCスリーブに注入することにより実施してもよい。次に、内皮細胞を適切に付着させる期間、流動を停止させる。必要であれば、内皮細胞の均等な分配を促進するために血管を回転させる、または繰り返し上下をひっくり返してもよい。
【0059】
代わりに、内皮細胞を最初にマンドレル上に播種してもよい。その場合、平滑筋細胞は、コンフルエント内皮細胞層上に播種される。この方法では、酸素と栄養素がより豊富にある冠動脈代用物の周辺に向かって内皮細胞が遊走するのを防ぐことが必要になる。
【0060】
必要に応じて、線維芽細胞をSMCスリーブの外側に播種すれば、外膜層を作製することができる。いくつかの場合、周皮細胞の播種は、血管の増殖において基底膜の形成に用いることができる。他の場合には、前駆細胞および/または幹細胞の播種も血管の増殖のために含まれる。
【0061】
冠動脈代用物を作製するための細胞は、自己、非相同、または異種材料由来でもよい。細胞は、幹細胞、前駆細胞、または分化細胞でもよい。細胞は、特定の表現型を実現するために、または宿主生物の免疫応答を弱めるために遺伝子改変されてもよい。
【0062】
本明細書に開示するCPD法は、大量生産のすぐに使える血管代用物、またはレシピエントのために注文設計される血管代用物に対する選択肢を提供する。本明細書に開示するCPD法は、冠動脈代用物の組織工学のためのモデル開発、アテローム発生や動脈形成の研究、異なる血管細胞型間の相互関係および細胞外マトリックス成分との相互関係の研究、酸化窒素の効果に関する研究、ならびに種々の医薬品の研究にも適している。
【0063】
異なる大きさまたは種類の血管およびリンパ管
本明細書に開示するCPD法を使用して、冠動脈以外の径と種類の血管を作製してもよい。マンドレルの径を変えれば、血管の径も変わることになる。いくつかの場合、マンドレルは、比較的細い血管のサイズに近似する約20ミクロンから約500ミクロンまでが可能である。他の場合には、マンドレルは、中型から比較的大きな血管までに近似する約200ミクロンから約5.5mmまででもよい。血管の種類(たとえば、動脈、静脈、リンパ管)は、細胞の表現型、および/または細胞の増殖が阻害される時点によって変えることができる。たとえば、静脈は薄い平滑筋細胞のみからなる層を含有する。
【0064】
他の管状様組織
本明細書に開示するCPD法は、胆管、涙管、耳管、卵管、輸精管、尿管、尿道、肺気道、等などの他の管状組織の工学のために使用してもよい。本明細書に開示するCPD法は、神経増殖および修復の誘導のための、グリア細胞を含む様々な細胞型からの神経導管の作製にも有用であることを示している。
【0065】
工学的に操作された組織のためのBAVシステム
本明細書に開示するCPD法は、取り外し可能なマンドレルの列をスカフォールドとして使用することにより、組織および器官の工学のために使用してもよい。目的の組織/器官(筋肉、肝臓、腎臓、肺、皮膚、等)の細胞は、接着タンパク質被膜マンドレル上に播種される。これらのマンドレルは、固形線維もしくはワイヤーから、または、代わりにセルロースなどの灌流可能な透過性管から作製してもよい。マンドレルは、単一の細胞スリーブを合併させる正確な間隙をおいて互いに分離される。この方法を使用して、シート状またはブロック状の組織を形成してもよい。次に、マンドレルを同時に引き抜き(または、別々に取り除き)、灌流システムを用いてバイオ人工組織の内部を灌流する。
【0066】
創傷治癒装置
あらかじめ製造したバイオ人工血管システムを使用して、糖尿病患者の慢性潰瘍のためなどの創傷治癒に役立ててもよい。バイオ人工微小血管ネットワークを(たとえば、血管新生増殖因子で強化された細胞外マトリックスゲルから)パッチ状の支持材料に埋め込み、創傷上に置くことができる。酸素添加栄養溶液を自律的に灌流すれば、バイオ人工血管はドナーの脈管構造および皮膚の出芽を促進すると考えられる。代わりに、そのようなバイオ人工血管パッチを創傷と植皮間に挟み込めば、移植片の内部成長を促進することができると考えられる。
【0067】
遺伝子治療装置
バイオ人工血管は、植込み式薬剤送達装置に使用することができると考えられる。細胞は、患者から採取して、インビトロで遺伝子改変すれば、ある種のタンパク質(ホルモン、酵素、等)を産生することができると考えられる。次に、これらの細胞を、上述の方法を使用して、バイオ人工血管または血管網に増殖させてもよい。宿主に再移植すれば、細胞は標的物質を産生し、局所的にまたは全身的にその物質を放出し続ける。
【0068】
人工組織および器官
上記したような組織工学による血管網は、組織の作製または全臓器の作製のためにも使用してよい。1つの方法としては、1つまたは複数のインビトロ灌流親血管を作製することがある。目的の組織または器官由来の実質細胞を、たとえば、ゲル中の親血管の周囲に播種する。異なった間質細胞型(たとえば、免疫細胞、炎症細胞、周皮細胞、線維芽細胞、または内皮細胞)も同様に添加することができる。実質細胞は、親血管を介して栄養分と酸素を供給される。実質細胞の増殖は栄養分と酸素に対する要求を増加する。細胞は血管新生因子を放出し、血管を出芽するように刺激する。組織が成長するに従って、血管系は、同一速度で出芽する。これは自然増殖にきわめて類似している。したがって、このシステムは発生生物学の研究のための優れたモデルにもなると考えられる。
【0069】
別のアプローチは、実質細胞の足場として平行配列のマンドレルを利用する。実質細胞が増殖するに従って、細胞層がマンドレル周囲に形成される。最終的に、すべてのマンドレル間の空間は実質細胞で満たされ、シート状の組織ができる。マンドレルを取り除いた後、マンドレルにより後に残されるチャネルによりその組織を灌流そてもよい。これらのチャネルは、内腔播種を通じて内皮細胞で被覆することができる。このアプローチは2Dに限定されるものではない。いくつかのシートをスタッキングしてもよいし、3D足場を使用してもよい。本発明者は、筋肉組織の作成のために2Dアレイも3Dアレイも使用した。
【0070】
さらに別の方法では、組織の層および血管網の層を独立して作製し、その後互いに時間をおいて積み重ねていくことができる。これらのアプローチはすべて、1つまたは2つの細胞型で単純なモデルでも、またはいくつかの細胞型で構成されたかなり複雑な構築物でも作製することができる。
【0071】
移植すると、これらの方法で工学的に操作された組織または器官を、直接血流に繋ぐことも、または宿主脈管構造が移植片に成長するまで灌流システムにより灌流させておくこともできる。
【0072】
灌流組織工学的に操作された筋肉構築物の例
図8aには、平滑筋細胞を播種した後の複数のマンドレルの例のインビトロ画像が示されている。複数のマンドレルと収縮管ユニットMは、Mylar(登録商標)フレームに挟み込んだ。マンドレルM間の距離はほぼ100μmに調整した。収縮管セグメントの末端は、1つの上流多岐管と1つの下流多岐管に結合させた(示されていない)。Mylarフレームは無菌化し、ラミニンでコーティングし、5×10ラット大動脈平滑筋細胞SM(RASMC)/mlの懸濁液を播種した。細胞SMは、個々のマンドレルMのそれぞれに付着し、増殖して環状層を形成した。10日後には、個々の層は合併し、1つの厚いシート状のまたはプレート状の平滑筋細胞を生じた。増殖培養液中にさらに7日間置いた後、培養液に50U/mlヘパリンを補充して、さらに7日間置いた。その後、マンドレルをすべて引き抜き、組織を10ml/日の速度でヘパリン培養液で灌流した。灌流チャンバーは、ヘパリン培養液で満たした100mmペトリ皿の底に固定したままにした。SMCプレートは11日間灌流した。期間中、チャネルCHは機能的な状態のままであり、インビトロではっきりと目に見えた(図8bにもっともよく示されている)。
【0073】
図8bには、灌流筋肉プレートMPの例が示されている。管末端(T)を通って、引き抜かれたマンドレルにより後に残されたチャネル(CH)中へと灌流される液体が示されている。
【0074】
図9には、CPDの別の実施形態が図式的に示されている。一例では、CPD900は、第1スライドガラス904と第2スライドガラス920間に並置された層902を含む。層902は、チャネル922に繋がれた複数の液体ポートを埋め込むのに適した厚みがある。複数の液体ポートは、細胞懸濁液ポート914、複数の入口ポート912、および複数の出口ポート918を含む。チャネル922により繋がれて液体の通過および分配を可能にするポートは、同じように機能する。ポート912などの複数のポートは、複数のアクセスポイントを持つように配置されている。他の適用では、液体チャンバーおよびポートがマイクロ流体材料で作製されるマイクロ流体設計を用いると好都合である。同様に、この層は、顕微鏡またはマイクロ流体適用において使用するのに適したシリコーンまたは他の材料を含んでいてもよい。コラーゲンチャンバー906は、対になった中空柔軟ガラス毛細管916、または同等物によるアクセスのために都合がよいように位置している。用いる毛細管の数は、CPDの大きさおよび作製される血管の数にあわせて、1つでもよいし2以上のかなり多い数でもよい。複数のポートおよびチャンバーのそれぞれは、ポンプが針を有する注射器に取り付けられている1本または複数の注射器ポンプにより、管入口940A、940Bを通って、層へとアクセスされるようにしてもよい。図面を簡略化するために2つの注射器ポンプ管入口940A、940Bのみが示されているが、場合によっては、別々の注射器ポンプ、注射器または同等物をそれぞれのチャンバーおよび/もしくはポート中に材料を注入するためまたは抽出するために使用してよいことが理解されるであろう。一実施形態では、注射器ポンプはガス気密注射器に連結される。
【0075】
上記した別の実施形態CPD900に関連して、本発明の理解のため、CPDを構築するための1つの方法をここで記載する。層902にシリコーン層を用いる一例では、穴およびチャネルのパターンを、接着上層943および接着下層945で覆われたシリコーン層に打ち込む。次に、中空針をシリコーン中に刺し込み、その後この針を使用して、ポリミド被膜融合シリカ毛細管916をコラーゲンチャンバー906に、および入口ポート912の1つにガイドする。2本の毛細管は、小口径管910により保持されて、主チャンバーから出口ポート908に通じる。次に、シリコーン層902は、接着層の助けを借りて2枚のスライドガラス間内に挟み込まれる。その後、CPD900は、使用するまで加圧減菌されて、保存される。チャンバー906を血管作製をすることができる状態にするときは、コラーゲン溶液を調製し、注射針を通してコラーゲンチャンバー906に直接注入し、インキュベーター内で一晩ゲル化させる。次に、注射針を2つの入口ポートに差し込むことにより、CPD900を注射器ポンプに繋ぐ。
【0076】
注射針はさらに、2つのガス気密注射器に通じているガス気密管に繋がれており、pHを十分に調整した増殖培養液で満たされており、さらに注射器ポンプに取り付けられている。2つの出口ポート908A、908Bは、いずれも同じように廃棄物貯蔵場所に繋がれる。注射器ポンプ(ここでは灌流ポンプとして機能する)を作動させると、入口ポートを満たし、入口ポート、毛細管および出口ポートを順次プライミングする。空気をすべてシステムから押し出した後、各毛細管はピンセットでつかまれ、コラーゲンチャンバーにまで伸びていた毛細管のうち末端のみがマトリックスチャンバーに残るように、コラーゲンゲル中を引き戻される。この手順により、2つの灌流可能なチャネルがコラーゲンゲル内に作製される。コラーゲンチャネル内に細胞を播種するためには、高濃度の内皮細胞懸濁液を、細胞懸濁液用のポートに注入する。次に、注射器ポンプを止め、その後毛細管のもう1つの末端を、細胞を含有する小さな貯蔵場所914Rに引き戻すと、多数の細胞がコラーゲンチャネルに直接流入する。細胞の流速は、廃棄物貯蔵場所の高さにより厳密に制御することができる。流速は天然の毛細管および血管中のインビボ流動に近似するよう調節してもよい。次に、細胞をコラーゲンチャネルの壁に付着させるためにCPDを45分間インキュベーターに入れる。CPDは、細胞を最適に分配するように数回ひっくり返すか、または他の方法で操作することができる。最後に、毛細管を細胞貯蔵場所から、入口ポートの一部である貯蔵場所にまで引き出し、注射器ポンプを作動させて目的の灌流速度に設定する。余剰の細胞は洗い流す。このようにして播種法した後、細胞は増殖し、相同単層をもつ2つの親血管が生じるが、増殖に必要な時間は、管に注入される細胞数が高濃度であるほど短くなる。マンドレルは、抜き出しおよび/または分解により、使用されるマンドレルの種類によって異なる方法でマトリックスから取り除いてよいことに注意されたい。
【0077】
図10には、周囲にあるマトリックス1054中に芽1052を増殖している一本の親血管1050が示されている。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をコラーゲンチャネル内に播種すると、作製された親血管はコラーゲン中に出芽し始める。これらの芽は伸長して分岐し始める。これらの分岐は最終的には、反対の親血管からの分岐と吻合し、血管網を形成する。
【0078】
図11には、ネットワークの芽1106を通じて第2の親血管1104に繋がれた第1の親血管1102が示されている。芽1106は内腔を有し、灌流されている。
【0079】
親血管を作製するためのプロトコル
図12には、コラーゲンマトリックス内のチャネルに播種することにより親細胞を作製するための別の方法が示されている。シリコーン層を使用したCPDの一例は記載済みなので、当業者による本開示の理解を促進するために、微小血管システムを作製するための適用の具体例をここで記載することにする。
【0080】
CPDは加圧減菌器で無菌化され、使用するまで無菌環境に保存される。コラーゲン溶液を調製し、保存する。コラーゲンは小型の注射器に充填される。注射器に30G注射針を取り付け、チャンバーがコラーゲンで完全に満たされるまで、コラーゲン溶液をコラーゲンチャンバーに注射針を通して注入する(1002)。第2の注射針を、空気吹き出し口としてチャンバーの反対側から挿入する。
【0081】
次に、注射針を2つの入口ポートに注入することにより、CPDを注射器ポンプに繋ぐ(1004)。注射針はさらに、2つのガス気密注射器に通じているガス気密管に繋がれており、pHが十分に調整された増殖培養液で満たされ、さらに注射器ポンプに取り付けられている。2つの出口ポートは、類似の様式の廃棄物貯蔵場所(すなわち、出口ポートに注射針が注入され、管が廃棄物貯蔵場所に通じている)に繋がれる(1006)。
【0082】
注射器ポンプを灌流ポンプとして作動させ、それによって入口ポートを満たし、入口ポート、毛細管、および出口ポートを順次プライミングすることにより、CPDを灌流させる(1008)。空気がすべてシステムから、たとえば、取り外し可能な空気吹き出し口として働く小径注射針を通して、押し出されると、次に各毛細管はピンセットでつかまれ、コラーゲンチャンバーにまで伸びていた毛細管のうち末端のみがマトリックスチャンバーに残るように、コラーゲンゲル中を引き戻される。この手順により、2つの灌流可能なチャネルがコラーゲンゲル内に作製される(1010)。
【0083】
コラーゲンチャネル内に細胞を播種するために、高濃度の内皮細胞懸濁液が細胞懸濁液用のポートに注入される(1012)。次に、注射器ポンプを止め、その後毛細管のもう一方の末端は、入口ポートから細胞を含有する小さな貯蔵場所に引き戻され、多数の細胞が毛細管を通ってコラーゲンチャネルに直接流入する(1014)。細胞の流速は、背圧(廃棄物貯蔵場所の高さ)により厳密に制御することができる。次に、毛細管は入口ポートに繋がれている貯蔵場所にさらに引き戻される。
【0084】
次に、細胞をコラーゲンチャネルの壁に付着させるためにCPDを45分間インキュベーターに入れる(1016)。CPDは、細胞を最適に分配するように数回ひっくり返すか、または他の方法で操作することができる。
【0085】
最後に、注射器ポンプを作動させ、目的の灌流速度に設定する(1020)。過剰な細胞は洗い流す。この播種法により、細胞の相同単層をもつ2つの親血管が生じる(1022)。上記のように親血管を灌流することにより、1つまたは複数の微小血管ネットワークを作製してもよい。
【0086】
代わりに、親血管を作製するための手順は、図1A〜1Cおよびその他のように、コラーゲンマトリックス内にマンドレルを埋め込み、マンドレルを抜き出し、マンドレルにより後の残されるチャネルに細胞を注入し、ほかにも上記のマンドレル上に細胞を播種することも含んでもよい。この2つの方法を組み合わせれば、異なる細胞型の層状化が可能になる。
【0087】
出芽可能表現型を活性化するためのプロトコル
別の例となる方法では、細胞型を高密度で播種すれば、親血管からの微小血管として出芽する細胞の能力が活性化される。このプロセスは、別段に述べられていなければ、CPD900に関して以前論じられた通りに実施される。下に提示される画像は、標準的技術および試薬を使用して、明視野または共焦点蛍光顕微鏡を介して撮影される。当業者による本開示の理解を助けるために、出芽可能表現型の活性化に特異的な特色を特に記載する。
【0088】
図13Aには、出芽可能細胞と親血管を形成するための方法が記載されている。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)などの細胞型が、チャネルの3D空間において大多数の細胞が隣接する細胞に直接接触しているかまたはほぼ接触している高密度で播種される(1300)。細胞のサブセットはチャネル壁のマトリックスに接触している。
【0089】
高密度で播種すれば、細胞における出芽能が活性化される(1304)。特定の理論に縛られることなく、この表現型は、高密度で細胞が播種されたため細胞同士が接触し、細胞間のホモフィリック接触から誘導される細胞シグナル伝達が活性化されたことに起因すると考えられる(1308)。異なった細胞型間のヘテロタイプの相互作用も出芽可能表現型を活性化するのに寄与することができると予想される。
【0090】
さらに、細胞とチャネル壁のマトリックス成分との接触が出芽能の活性化に寄与する可能性がある(1312)。さらに、細胞と接触している可溶性増殖因子からの出芽能の活性化への寄与が存在する(1316)。たとえば、灌流培養液中に存在する増殖因子は出芽を誘導することが以前明らかにされた(たとえば、図7に示されている)。細胞の播種および灌流中の、細胞による灌流液流動の物理的な感知からの寄与も存在する可能性がある(1320)。
【0091】
細胞シグナル伝達は、細胞で観察される出芽可能状態を活性化すると推定される(1304)。マトリックスチャネル中で細胞が灌流されると、細胞は増殖して、または細胞遊走により移動してきて連続する内腔を有する親血管を形成する(1324)。灌流およびインキュベートして、親血管を生存させ、かつマトリックスに微小血管を出芽させる(1328)。出芽可能表現型の誘発は、最初は播種密度に関連する現象であるように思われるが、継続して分析すれば、この表現型をさらに調節することができるかどうかはっきりするであろう。さらに増殖すると、複雑な3D微小血管ネットワークが形成される(1332)。いくつかの実施形態では、異なる親血管由来の微小血管ネットワークが吻合を介して合併する。
【0092】
特定の理論に縛られることなく、1つの仮説では、出芽可能表現型は、播種密度に依存する細胞シグナル伝達を媒介する接触の総和に由来する。さらに、出芽可能表現型について、高密度での播種からの物理的な力も寄与している。たとえば、内皮細胞を高密度で播種すれば、その物理的圧迫により進行中に内皮細胞が台無しになる。内皮細胞は典型的に血管形成において横方向に広がるが、細胞を密集して播種すると、これは不可能である。出芽表現型を誘発するには、マトリックス内に増殖するのが好ましい。
【0093】
図13Bには、別の細胞灌流装置CPD1350が示されている。このCPD1350は、単一の入口液体ポート1354および単一の出口液体ポート1392を備えることにより、灌流の機能性および効率を増強し、長期の連続潅流を可能にする。シリコーン層1366は、シール1362で示される酸素プラズマにより、第1スライド1370と第2スライド1374内に密封される。こうして得られるシール1362は、長期灌流により生じる可能性のある圧力下で水密である。
【0094】
単一の入口液体ポート1354は、プライミングチャンバー1378への注入を介した高密度での細胞のプライミングおよび播種を可能にする。導管1382は、コラーゲンマトリックスチャンバー1390内のガラス毛細管マンドレル1384に連結される。マトリックスチャンバー1390内のガラス毛細管マンドレル1384周辺にコラーゲンを注入して、コラーゲンチャンバー1390内のマトリックスを形成することができる。導管1382を通してガラス毛細管マンドレル1384を取り除けば、コラーゲンマトリックス内にチャネル1388が得られる。灌流培養液の流動1394は、液体入口ポート1354中を進んで、導管1382を通ってチャネル1388に至り、マトリックスチャンバー1390を横断して、さらに第2のプライミングチャンバー1378に至り、出口ポート1392に、さらに廃棄物貯蔵場所1396へ至る。このCPDには2つ以上のチャネルが存在していてもよい。
【0095】
図13C〜図13Eには、CPDの播種が図式的に描かれている。図13Cでは、このCPD1350の平面図が図式的に描かれている。方向が図13Bの方向とは反対であることに注意されたい。ここに示されているCPD1350では、コラーゲンで満たすことができるマトリックスチャンバー1390内にマンドレル1384がある。CPDは、2つのスライドガラス1370/1374間に酸素プラズマで密封されているシリコーン層1366を含有している。図13Dでは、コラーゲン1391または同等のマトリックスがマトリックスチャンバー1390に注入され、マンドレル1384の周辺でゲル化される。マンドレルは導管1382を通って取り除かれ、チャネル1388が残る。細胞1(たとえば、HUVECSおよび他の細胞型)は灌流培養液1394に高密度で播種される。細胞は、適切な手段により、たとえば、注射器により注入してもよい。
【0096】
灌流液流動はポンプまたは同等の装置により維持され、細胞1をチャネル1388に移動させる。流動は一時的に約45分間停止され、細胞をチャネル壁に付着させる。インキュベーターまたは同等の装置により増殖させると、チャネル内に出芽親血管が形成される(図には描かれていない)。図13Eに示されているCPD1350では、親血管を形成する細胞1を通って灌流が再開されている。ここでは、入口ポート1354は、出口ポート1396と同じくCPDの下側に示されており、これにより装置の取り扱いが容易になるが、図13Cおよび図13Dのように右に位置しても同様の機能を有する。インキュベーター手段により、微小血管がネットワークを形成し終わるまで出芽微小血管をさらに増殖させることができる。
【0097】
以下の例は、CPD(たとえば、CPD1350)、同等の装置をまたは図式的に示されているもの使用して実施された。図14A、図14Bおよび図14Cには、マトリックスチャネルのための高密度播種法が図式的に示されている。図14Aには、コラーゲンマトリックスの例とチャネル1404とが描かれている(1400)。チャネル径は、血管新生研究または血管増殖のために望ましいどんなサイズにしてもよい。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)などの細胞1408が、単独でまたは他の細胞型(たとえば、SMC、周皮細胞、線維芽細胞、および前駆細胞)と混合して、灌流培養液1412の特定の流速でチャネル内に高密度で播種される。いくつかの例となる実施形態では、実測の平均細胞サイズの約18.0ミクロン径および系統的補正率の約2.5を考慮すると、内皮細胞または同等物が、1平方mmあたり最小の細胞約250個から最大の細胞約2000個の高密度で存在している。細胞はこのように高濃度であり、低下した流動特性を示している。灌流培養液1412の流速は、注射器ポンプまたは同等の装置から設定されており、所与のチャネルに特定の流速および圧力を与えるように調整することができる。ある実施形態では、1.2dyn/cmの剪断応力に相当する2マイクロリットル/分の流速が使用される。生理的な剪断応力値は0.75〜30dyn/cmと報告されており、追加の実施形態を表している。他の実施形態では、病的状態を作り出すための正常限界外の剪断応力を作り出すように流速を調整することもできると考えられる。
【0098】
図14Bの実施形態では、濃度が十分に高いためにチャネル内での所与の流速1424の細胞の流動は、自然に生じるプラグ1420により著しく減少されまたは停止される。多くの場合、細胞のプラグは一時的であり、流速または圧力の増加がなくても解消する。場合によっては、流速および圧力は、細胞のプラグを取り除くために増加させてもよい。ある例では、細胞の流動はプラグ1420で約1または2秒間停止し、その後ポンプからの流速を調整することなく再開した(1425)。他の例では、細胞のプラグが形成される直前または直後に流速はわずかに増加した。代表的な実施形態では、次に、約30〜約45分間ポンプのスイッチを切ることにより流動を中断し、細胞をチャネル壁に付着させた。細胞が高密度で播種されたときは、十分に高い濃度のために細胞の流動が減少することが認識されている。
【0099】
灌流液の流動および圧力、細胞間の接触、並びに細胞とチャネル壁間の接触からの、物理的応力が、細胞に作用することがわかっている。これらの物理的な力は細胞への刺激および応力として働き、細胞のプラグが形成され流動を短時間停止させるときにはそれが特に明白である。このような凝集した物理的刺激は、細胞濃度、圧力および流速の変化によって、変更、増加または減少させることができる。インビトロ出芽表現型は、高密度の播種に関連する機構を介して媒介されると考えられるが、いくつかの場合、灌流培養液の粘度を増加することにより、物理的応力効果をさらに与えることができると考えられる。凝集された刺激は、出芽表現型の活性化を媒介する細胞事象に寄与し、またはこれを開始させると考えられる。その上、灌流圧力は時間とともに増殖速度および芽の成熟化に影響を与えるように思われる。インビボでの出芽は、播種密度にも細胞が球状であることにも依存せずに生じることに注目すべきである。インビボでの出芽は扁平な細胞から確かに起こり、細胞密度には依存していない。血管新生因子、ECM、および灌流液の適切なセットであれば、正常な扁平内皮細胞または同等物を刺激して、インビボで観察されるものと同様に我々のインビトロモデルでも出芽させると予想される。
【0100】
図14Cには、チャネルの側面図が描かれている。細胞をチャネル壁1404に付着させるインキュベーション後、灌流培養液の流速は1分あたり約2マイクロリットルまで増加し(1432)、チャネル壁1404に付着していなかった細胞をチャネル1428から除去する。除去後、チャネル壁1404は細胞層で裏打ちされる。大多数の細胞はコンフルエントであり、他の細胞およびマトリックスと接触している。説明のために、このチャネルの側面を通した概略図では、向こう側を被膜する細胞を灰色で描いており(1434)、チャネルの上と下の細胞は黒で図式的に輪郭が描かれている(1436、1438)。いくつかの領域では、細胞は厚みが2層以上のこともあるが(1436)、多くの細胞は単層として存在する(1438)。いくつかの場合、細胞は他の細胞と接触しておらず(1440)、後の増殖により親血管が形成されるまで最初はサブコンフルエントであることもある。
【0101】
図15Aには、約150μm径の代表的なチャネル1510を有するコラーゲンマトリックス1500の例が、上壁1530と底壁1534と共に描かれている。このチャネル1510は、図14A〜Cに記載するように、HUVECを高密度で播種したものである。コラーゲンマトリックスは約3mg/mlの最終濃度で形成された。別の実施形態では、より高い濃度またはより低い濃度コラーゲンまたは同等物を使用してもよい。いくつかの例では、別のまたはハイブリッドしたマトリックス組成物を使用してもよい。
【0102】
図15Bでは、同じマトリックス1500およびチャネル1510に粘着性ヒト臍帯静脈内皮細胞1520、1540、1544(HUVEC)が播種されている。この例では、細胞がチャネル内に最大充填されていると思われる場所(チャネルの1平方mmあたり約1000〜2000個)に細胞が播種された。
【0103】
播種中、自然にプラグが形成されたため、灌流液流動は約1秒間停止したが、プラグは流速を変えずに灌流を続行することで分解した。ポンプをこの時点で停止させ、約30〜45分間灌流を止め、細胞を細胞チャネル壁に付着させ、その後継続させた灌流にさらした。続いて、ポンプを2マイクロリットル/分の速度で作動させ、この流速を使用して未付着細胞を除去し、が単層(1520)または2層以上(1540)の細胞が内側を被膜するチャネルが得られた。いくつかの場合、必要ならば、細胞の流動および除去を促進するためにもっと高い灌流液の流動設定とすることもできると考えられる。上部1540または底部1520上の細胞に焦点を合わせており、これらはより屈折性があるように思われる。中央部分1544で見える細胞はいくらか焦点から外れていて、チャネルの手前側および向こう側の接着細胞を表している。
【0104】
図15Cでは、図15Bのチャネル1510が図式的に描かれている(チャネル内の端面図)。これは、未結合細胞が洗い流された後のチャネルを表している。大多数の細胞(1520、1540、1544)は互いにまたはチャネル壁(1530/1534)と直接接触しており、ほとんどの場合厚みが単層である細胞のコンフルエントスリーブを形成している。いくつかの領域は2層以上の細胞からなることもある(1540)。細胞が他の細胞とほぼ接触しているがサブコンフルエントである領域が存在していることもある(1550)。引き続く細胞増殖により、典型的には、親血管が増殖するに従ってこれらの領域は覆われることになる。
【0105】
図16には、細胞(HUVEC)の出芽能の活性化の例が示されている。上パネルは、細胞密度勾配1630で複数の細胞1620を播種されているコラーゲンマトリックス内のチャネル1610を示している。細胞勾配は、細胞の流入を時期を早めて停止させることにより作り出され、したがって、チャネル1604の上流末端ではチャネル容積あたりの細胞被膜度は低く、下流末端1608では細胞濃度がより高かった。約45分間細胞を付着させ、次に灌流にさらした。無傷の内腔内の親血管は、典型的には数分以内に急速に形成され、細胞が高密度濃度で播種されるとほとんど瞬時に形成されるように思われる。次に、細胞が付着し伸長すると、通常は約30〜60分で、完全な単層が形成される。使用される細胞濃度がより低い場合、完全な単層が形成されるのにもっと長い時間がかかる。
【0106】
親血管からの微小血管の出芽も、播種密度に依存している。高密度播種された親血管では、単なる細胞突起のようにも見える最初のきわめて小さい芽は、数時間後には見えるようになる。もっと大きな芽は通常、播種後最初の2〜3日間に発生する。
【0107】
細胞密度勾配の中央1600は、劇的な出芽表現型が最初に活性化され、観察可能になる場所である。すべてではないが大多数の細胞1634が、チャネル内の3D空間内で隣接する細胞と接触していることが、増殖1日目の上パネルで見ることができる。細胞1620もチャネル壁に接触している。
【0108】
下のパネルは、同一チャネル1610における灌流と一緒の増殖12日後の親血管1640を示している。微小血管の劇的な出芽の開始が、親血管の中央領域1644において観察できる。この領域は、上パネルのバー1600により示される細胞密度に相当する。さらに劇的な出芽がさらに上流1612で観察されるが、細胞の密度がもっと低い親血管の下流末端は出芽を示していない(1660)。細胞播種密度が増加するに従って(1650)、微小血管の出芽は続き増殖は増加する。静止領域と出芽領域の分界1664は透き通っており、播種密度と明瞭に関連している。ほとんどの場合、播種密度が低いと、増殖せず微小血管を出芽しない静止親血管が生じる。この所見により、播種の閾値密度がこの表現型を誘発することが示唆される。
【0109】
細胞の活性化を誘発する細胞密度の評価は、定量的実験においてさらに取り組まれた(たとえば、図20A〜Fおよび図21A〜B参照)。
【0110】
この密度の下で播種された細胞も、微小血管として出芽するある程度低下した能力を保持している可能性がある。細胞−細胞接触誘発に加えて、灌流液の組成も出芽能を与えると考えられる。灌流培養液に存在する増殖因子は、この表現型を媒介する細胞接触シグナル伝達と相乗的に働く可能性がある。さらに、細胞マトリックス接触もこの表現型に寄与する可能性がある。さらに、灌流液流動、圧力およびプラグ形成からの応力由来の物理的力も、細胞における出芽能の活性化に寄与する可能性がある。しかし、細胞−細胞接触誘発は出芽可能表現型の活性化に著しく寄与するように思われる。
【0111】
図17には、吻合を受けて複雑な3D微小血管ネットワークを形成する高密度播種由来の2組の直列型親血管の例が示されている。個々のCPDを、時間をかけて灌流しながらインキュベートし、もっとも長くは5週間で終わる時点で処理した。大半の実験で、チャネル同士は約500ミクロン離れているが、追加の配置も調べた。微小血管が横切ることができるチャネル間の最長距離は決定されていない。しかし、微小血管は、500ミクロン超から約数ミリメートルまで、もう一方の親血管に向かって増殖することができるはずである。
【0112】
1週間後(1700)および3週間後(1740)の導管1704から増殖する親血管1710、1720が描かれている。1週間の増殖後(1700)、第1の血管1710および第2の血管1720は、径が拡大しその関連する微小血管1730が出芽して2つの血管間に微小血管ネットワークを形成しているのが観察される。類似のアッセイ1740では、3週間後微小血管ネットワーク1750は、吻合を介して合併され、依然として生存可能であり灌流可能である。親血管1760、1770は見えるが、ほぼ完全に微小血管ネットワークに合併されている。いくつかの例では、微小血管ネットワークは空洞が形成されるほど合併したが、ネットワークはそれでも微小血管中を灌流されることができた。
【0113】
微小血管ネットワークが吻合を介して合併するまでに必要なインキュベーション時間は、最初の配置およびチャネル間の距離に依存している。直列型親血管の灌流により、出芽および複雑な3D微小血管ネットワークが形成された。出芽する微小血管は親血管から3Dに増殖した。親血管同士が最初に互いに近ければ、出芽する微小血管ネットワークは通常、吻合してさらに大きな合併した微小血管ネットワークになり、依然として生存可能であり灌流可能である。
【0114】
連続灌流を進行させて最長5週間の期間が調べられた。Live/Dead蛍光生存能染色法を使用してアッセイした親血管および複雑で拡張した微小血管ネットワーク全体の大多数の細胞は、依然として生存可能である。Live/Deadなどの有用な染色法は、たとえば、Carlsbad CAのInvitrogen社から市販されている。全体としては、出芽は時間とともに確かに遅くなり、おそらくHUVEC初代細胞培養物のインビトロ培養の限界を反映しているのであろう。
【0115】
出芽微小血管は、おそらく、栄養分、細胞シグナル、および培養条件(たとえば、血清および特定の増殖因子の有無)に応じて増殖し、退行もするのであろう。新たに形成された微小血管の安定性およびさらに成熟した血管への成熟化は、内皮細胞および追加の細胞型を使用した本開示の方法によって評価することができる。内皮細胞を含む複合微小血管は、培養条件および支持細胞の存在により安定化されることが明らかにされている。たとえば、無血清条件でのVEGF、IGF−1などの増殖因子は、血管新生およびインビトロでの毛細管様ネットワークの増加した短期安定性を促進することが明らかにされている(French、Lindemannら、2001)。同様に、周皮細胞および平滑筋細胞などの血管周囲細胞の添加は、そのような新たに形成された毛細管を安定化し、その成熟化を支援できることが明らかにされている(French、Lindemannら、2001)。灌流液での限定された培養条件と合わせて、内皮(血管)前駆細胞または幹細胞などの追加の細胞型を添加すれば、複合微小血管の安定性および成熟化を支援することもできそうである。
【0116】
図18には、管腔灌流の1日〜8日後に増殖した親血管はいくつかの隣接するパネルにおいて示されて、追加の増殖特徴を説明している。親血管を増殖するのに使用されたCPDはそれぞれ同じように取り扱われ、示された日にそれぞれの親血管1800、1810、1820、および1830を画像化するために処理された。親血管はそれぞれ、パネルの一部に見える導管1804から灌流される。灌流1日後の第1パネルは、微小血管の発生期出芽1808のみの親血管1800を示している。灌流5日後の次のパネルでは、血管1810は、はっきりした微小血管の出芽1840を示している。親血管1814の径の目に見える増加も明白である。灌流6日による次のパネルでは、親血管1820は、最初の150ミクロン径の約2倍の増加に到達しているように見える。親血管の細胞の増殖は、末端1824を超えて増殖し、導管1804を包囲しているように見える。灌流8日後の最後のパネルは、親血管1830が微小血管1840の出芽を続け、径がわずかに増加し続けたことを示している。導管1804の末端を超える血管の増殖も明白である(1834)。
【0117】
各親血管の径の拡大は、コラーゲンマトリックス内の細胞の浸潤および増殖からと灌流流動の圧力に対する血管の応答からの両方によると考えられる。細胞増殖および出芽の程度は、時間とともに継続していることが観察されたが、インキュベーションの数週間後はいくらか確かに遅くなった。増殖および出芽が遅くなったのは、インビトロでのHUVECの限られた寿命に起因する可能性がある。
【0118】
図19には、代表的な微小血管ネットワークからの共焦点3D再構築画像が示されている。微小血管ネットワーク1900は、前述の高密度播種法を使用して増殖された。出芽微小血管は、微小血管中の内皮細胞の膜構造を視覚化するためにローダミン標識コムギ胚芽凝集素で標識され、核を示すために蛍光DNA染色4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で標識された。
【0119】
パネルAでは、微小血管1910が、3D管構造および灌流に基づいて、遮るもののない開存性の内腔が無傷で枝分かれしているのが見える。パネルBでは、無傷の管状血管構造をもつさらに高拡大率の微小血管1920が描かれている。個々の内皮細胞の核1930もこの試料では示されている。核のある遮るもののない開存性の内腔を有し、無傷である微小血管からの分岐部が明白である(1940)。微小血管の構造は、染色および灌流能により評価される生存能と一致している。
【0120】
出芽の定量的解析
図20A〜図20F、および図21A〜図21Bには、出芽可能表現型や芽増殖の様々な側面を誘発する最小および最大播種密度を決定するために、定量的画像解析を使用して一連のアッセイを実施した。内皮細胞をCPD1350において前述の通りに播種し、インキュベートして出芽親血管を形成した。出芽に対する短期と長期両方のインキュベーション効果を調べるために、時間(h)で測定される播種後の時点で試料を調べた。最長96時間からのインキュベーション実験について、出芽親微小血管の増殖を解析し、データは播種後0時間、24時間、48時間、72時間、および96時間(h)で解析した。出芽を与えた最小および最大細胞播種密度を、親微小血管位置に沿った平均出芽長の測定と一緒に決定した。
【0121】
細胞播種密度測定は、血管の長手方向の平均グレースケール値(GSV)についてビデオ画像データを解析することにより実施した。解析された画像は、4×0.10NA対物レンズ付きの透過型暗視野顕微鏡を使用して得られた。各ボックス内の平均GSVのサンプリングのために、血管の長手方向の100ピクセルごとに幅100ピクセルの対象領域(ROI)が選択された。不均等な背景照明を補正するために、別の類似のセットのROIを使用して、血管を取り囲む背景をサンプリングした。血管に沿った位置に対して、背景補正平均GSVをプロットした。細胞播種密度を計算するために、所与のROI内の細胞数と平均グレースケール値間の関係を確立した。細胞播種とGSV間の関係は、測定された細胞数値の範囲内でほぼ直線的であることが分かった(データは示していない)。最良適合線の勾配を計算で使用して、平均GSVを細胞播種密度と関連付けた。
【0122】
図20Aには、初期細胞播種密度対親血管に沿った位置のプロットが描かれている(2000)。最小細胞播種密度は、芽長がこのプロットの最良適合線でゼロに等しいところの細胞播種密度に対して芽長をプロットすることにより確立し、これが正しい最小細胞播種密度である。これらの値は、24時間で1平方mmあたり細胞362個、48時間で1平方mmあたり細胞340個、1平方mmあたり細胞317個、96時間で1平方mmあたり細胞293個である。細胞播種密度を表す最小実測播種実験結果は常に上で引用される値(たとえば、96時間の細胞293個/平方mm)よりも大きく、図21Bにプロットされることになる。
【0123】
図20B〜図20Fについて説明する。短期増殖実験からの出芽親微小血管の顕微鏡画像は図20Aにまとめている(上記)。図20Bでは、細胞播種密度2012をオーバーレイした初期細胞播種2008が示されている。図20Cでは、播種後24時間インキュベーション後の出芽親微小血管が示されている(2016)。代表的芽は親微小血管の中央部分2018に示されている。もっとも低い密度領域を表す生存可能な芽は白線2020により示されている。24時間(2024)、72時間(2032)、および96時間(2040)後の同一の親血管が示されている。生存可能な芽が見出された最小初期播種密度も、2028(48時間)、2036(72時間)、2044(96時間)ごとに白線で示されている。それぞれの親微小血管2026(48時間)、2034(72時間)、2042(96時間)の中央からの代表的な芽により分かるように、全体の芽長は時間と共に増加する。図20Fでは、生存可能な芽の最小密度を表す白線2044のすぐ左方向に気泡が見える。出芽が明白である領域にわたって出芽はかなり均一であることが見える。
【0124】
短期増殖実験の実験からのデータにより、出芽に必要な最小播種密度が確立された。出芽のための最小値は、1平方mmあたり付着細胞約250個であった。この最小値は、細胞が播種中の導管またはチャネル内に最大限に詰まっているように視覚的に見える1平方mmあたり細胞約1000〜2000個の最大実測値と比較することができる。1平方mmあたり細胞実測1000〜2000個は、理論的最大値と一致する。
【0125】
図21Aおよび図21Bには、平均芽長も、0〜96時間の親血管の増殖に対して決定された。図21Aでは、24時間(2116)、48時間(2108)、72時間(2112)、および96時間(2116)の芽長2100が示されている。芽長は、顕微鏡画像からの直接測定値とかなり良く一致している。
【0126】
図21Bには、平均芽長対初期播種密度のグラフが示されている(2120)。24時間(2124)、48時間(2128)、72時間(2132)、および96時間(2136)の解析された各時点での最良適合線も示されている。最小細胞密度データは、最良適合線がx軸と交差するところ、すなわち初期播種密度(1平方mmあたりの細胞数)から見つけることができる。拡大してみれば、交点が24時間で1平方mmあたり細胞362個、48時間で1平方mmあたり細胞340個、1平方mmあたり細胞317個、96時間で1平方mmあたり細胞293個の値であることが示される。
【0127】
芽長の測定に関して誤解を招きやすい要因が存在する可能性があることに注目すべきである。微小血管の内径が大きくなるが、現在の解析においてこれが考慮されたことはない。したがって、径のどんな変化も芽長値に含まれている。
【0128】
図22では、HUVECおよびラット大動脈平滑筋細胞(RASMC)からなる複合親血管が調べられた。HUVECは蛍光染料(Cell Tracker Green)で標識され、高密度で、増加した出芽表現型が明白であった本開示における上記の方法により播種された。約24時間の増殖後、HUVECは出芽親血管を形成し、これは増殖培養液で持続する灌流にさらされた。RASMCはHUVEC親血管に播種され、微小血管壁に付着し、続いて微小血管壁を通って遊走するのが観察され、血管周囲の位置につくことが想定された。図22では、代表的な複合HUVECとRASMC出芽親微小血管の蛍光および明視野画像のオーバーレイが示されている(2200)。暗染色(2210)の親微小血管が見えるが、血管周囲のRASMCは透き通って見える(2220)。HUVEC親微小血管周囲の血管周囲位置へのRASMCの遊走は、血管成熟化および安定性におけるその既知の支持の役割と一致している。
【0129】
血管新生研究のためのアッセイと標的
出芽可能表現型のためにHUVECを劇的に活性化する能力は、灌流液マトリックス内の血管新生のもしくは血管新生抑制の産物、または正常な、病原性の(たとえば、癌の、ウイルス感染した)もしくは工学的に操作された細胞および組織由来の産物についてスクリーニングする高い能力を提供する。微小血管ネットワークをモニターすることにより、出芽および微小血管増殖が増加すれば血管新生効果を示し、出芽および微小血管増殖が減少すれば血管新生抑制効果を示しているという、効率的な尺度が提供される。内皮細胞、平滑筋細胞、周皮細胞および線維芽細胞ならびに前駆細胞および幹細胞の寄与も、追加された血管形成および機能の局面においてアッセイすることができる。その上、癌細胞は、癌細胞をマトリックス中に懸濁させることにより、その血管新生潜在能力について試験することができる。複雑な組織の発生および増殖は、利用可能になった改良された血管新生を使えばもっとよく試験することができる。微小血管の出芽の増加は、感度のよいアッセイシステムを提供する。
【0130】
ホモフィリック内皮細胞粘着において細胞シグナル伝達を促進することが分かっている候補遺伝子およびその遺伝子産物を調べることにより、細胞−細胞媒介シグナル伝達が出芽表現型の活性化に主として関与しているという仮説を検証することができる。細胞−マトリックス媒介シグナル伝達、増殖因子−細胞媒介シグナル伝達、および灌流液の流動による物理的な感知を媒介したシグナル伝達の寄与も、血管形成における全体的細胞表現型および挙動の決定に関与している可能性がある。さらに、出芽表現型の活性化を調節する能力の見込みがあることにより、血管新生モデルおよび研究において追加の利益さえ享受することができる。
【0131】
内皮特異的マーカー
組換えDNA法を介して内皮細胞内の標的遺伝子を遺伝子改変することにより、出芽可能表現型の活性化を含む(ただしこれに限定されることはない)細胞表現型へのその寄与を調べることができる。内皮細胞で発現される特異的マーカー遺伝子は、本開示の方法を使用したアッセイにおける操作および試験のための魅力的な標的である。大血管由来および微小血管由来の細胞系統などの、内皮由来細胞系統も試験することができる。内皮細胞はインビボにおいて著しい不均一性を示す(Aird、2007)。動脈内皮または静脈内皮のいずれかで優先的に発現される多数の遺伝子が同定されている。動脈内皮細胞は、エフリンB2(Gale、Balukら、2001)、Delta−様4(Dll4)(Krebs、Xueら、2000)、アクチビン受容体様キナーゼ(AIk1)(Seki,Yuriら、2003)、内皮PASドメインタンパク質(EPAS1)(Tian、McKnightら、1997)、Hey1(Nakagawa、Nakagawaら、1999)、Hey2(Nakagawa、Nakagawaら、1999)、ニューロピリン1(NRP1)(Mukouyama、Gerberら、2005)、およびプロゲステロンにより誘導される脱落膜タンパク質(Depp)(ShinとAnderson、2005)を含むいくつかの遺伝子を特異的に発現することが明らかにされている。静脈内皮細胞は、EphB4(Gerety,Wangら、1999)、ニューロピリン2(NRP2)(Yuan、Moyonら、2002)、COUP−TFII(You、Linら、2005)、および静脈弁の先端におけるクラスIIIβチューブリン(KangとLee、2006)を含むいくつかの遺伝子を特異的に発現することが明らかにされている。
【0132】
本開示で提示される方法を使用した血管新生における内皮細胞機能に対する過剰発現、遺伝子量、突然変異、または機能喪失の効果をアッセイするために、これらの既知の遺伝子のそれぞれを入手して遺伝子操作をすることができる。NIHジェンバンク遺伝子配列データベースからこれらの遺伝子ごとに配列データを入手して、このような解析を促進することが可能である。ジェンバンクは、公的に入手可能なすべてのDNA配列の注釈つきのコレクションである(Benson、Karsch−Mizrachiら、2008)。
【0133】
内皮細胞系統
特定の供給源由来の内皮細胞または樹立内皮由来細胞系統の亜集団をアッセイすれば、血管新生の理解および血管増殖の調節に進歩をもたらすことができる。たとえば、動脈大血管または微小血管供給源のいずれか由来の内皮細胞系統を、本開示のCPDおよび方法を使用して微小血管を形成するのに選択することができる。寿命の長いまたは不死化されている候補細胞系統を、正常核型および非腫瘍形成性表現型、さらには接着タンパク質および凝固分子の発現パターンについて、さらに特徴づけることができると考えられる(Bouis、Hospersら、2001)。ESV233、ESVSF108、ESV2010(INS/EGF)、ESV2010−GFを含む、長い寿命を有し、様々な程度に特徴づけられているが、不死化されていないヒト臍帯静脈(HUVEC)から作製した内皮細胞系統が存在する(Hohenwarter、Jakoubekら、1994)。大血管由来系統EA.hy926(Edgell、McDonaldら、1983)、大血管由来系統EV304(Takahashi、Sawasakiら、1990)、および微小血管由来系統HMEC−1(Ades、Candalら、1992)を含む、よく知られているいくつかの不死化内皮細胞系統が存在する。さらに、研究のための細胞系統が存在し、新しい系統も作製することができると考えられる。
【0134】
寿命の長いまたは不死化されている内皮細胞系統について、本開示で提示する方法を使用して、血管を形成する際のおよび血管新生におけるその機能についてアッセイすることができる。候補内皮系統を使えば、インビトロでのその長い寿命、既報告の安定な核型、および関連表現型という点で実用上有利である。さらに、そのような細胞系統はさらに遺伝子改変してまたは操作して、その既存の細胞表現型を利用することができると考えられる。その上、内皮細胞を患者から単離して、本開示の方法での個別化医療アプローチを使用してある種の薬物に対するその内皮細胞の応答の仕方を試験することができる。同じことが癌細胞にも当てはまる。
【0135】
さらに、リンパ組織由来の類似の細胞または細胞系統を本開示の方法で利用することもできると考えられる。
【0136】
細胞接着およびシグナル伝達経路
活性化出芽表現型は、親血管から出芽する微小血管の増殖を誘導する。この表現型はおそらく、増殖シグナルに対する細胞応答に関連している。血管新生中、毛細管芽は、接触阻害された細胞を含有する比較的大きな血管から増殖する。接触阻害に関連する接着およびシグナル伝達経路由来の遺伝子およびそのタンパク質産物を本開示の方法を介してアッセイすることで、血管形成および血管新生に対する洞察を得ることができる可能性がある。
【0137】
HUVECに関して観察される出芽能の活性化は、おそらくは細胞−細胞接触に由来する播種密度に依存している。細胞−マトリックス接触のほかにも細胞−増殖因子接触ならびに播種および灌流流動からの物理的なシグナル伝達さえからの寄与も、出芽能の活性化に潜在的に関与している。これらの刺激供給源のすべてはシグナル伝達と関係しており、統合されることにより全体的細胞表現型および挙動を調節する可能性がある。
【0138】
接着結合は、細胞増殖の接触阻害並びに循環溶質および白血球の傍細胞透過性において、内皮細胞間で重要な役割を果たしている。密着結合も細胞接着に関与しており、バリア機能および極性を調節するのに関与している(WheelockとJohnson 2003; BazzoniとDejana 2004)。さらに、内皮細胞間結合で見られる血小板内皮細胞接着分子であるPECAM−1などの他の接着タンパク質は、細胞接着および細胞シグナル伝達に関与している。
【0139】
内皮細胞は、内皮特異的カドヘリンであるVEカドヘリンを含有する独自の細胞−細胞接着結合を形成する。内皮細胞は、Nカドヘリン、Tカドヘリン、およびVEカドヘリン2という名の関連タンパク質も発現する。内皮細胞で発現されるVEカドヘリンおよび上記したその他のカドヘリンは、複雑なネットワークの細胞骨格タンパク質およびシグナル伝達分子との相互作用を通じて細胞内部に情報を伝達する。VEカドヘリンは、βカテニン、プラコグロビン、およびp120カテニンと複合体を形成し、典型的な接着結合に類似する構造中のアクチン細胞骨格とおそらく接触する。内皮接着結合の形成、維持および分解は、血管形成および機能の調節において重要である。
【0140】
内皮接着結合に関連するシグナル伝達経路は、wnt経路、Rho GTPアーゼおよび受容体チロシンキナーゼを通じたシグナル伝達を含み、今後の出芽可能表現型の活性化の研究の対象となり得る。したがって、接着結合成分であるVEカドヘリン、Nカドヘリン、Tカドヘリン、およびVEカドヘリン2に加えてこれらのシグナル伝達経路由来の遺伝子およびタンパク質産物のほかにも相互作用タンパク質のVEカドヘリンβカテニン、プラコグロビン、およびp120カテニン、ほかにもPECAM−1が、本開示の微小血管ネットワークアッセイにおける操作のおよびアッセイの候補であることになる。さらに、未知の下流事象を、本開示の微小血管アッセイおよび方法を使用して解明することができると考えられる。
【0141】
密着結合の成分も既知であり、膜貫通型接着タンパク質、細胞内分子、およびシグナル伝達経路を含む。オクルディン、クローディン(たとえば、クローディン1および2、ならびに他のクローディンファミリーメンバー)、接合部接着分子(たとえば、JAM−A、JAM−B、JAMC)は、密着結合接着機能に関与している。密着結合の細胞内成分には、ZO−1、および関連ZO−2、およびZO−3を含む膜結合性グアニル酸キナーゼファミリーメンバー(MAGUK)が、非MAGUKタンパク質のAF−6/アファディン、Par−3/ASIP、およびMUPP−1と共に挙げられる(BazzoniとDejana 2004)。密着結合成分の操作は、出芽能の活性化に関する重要な情報を生み出し、そのような血管のバリア機能を決定するのに役立つ可能性がある。その上、未知の下流事象を、本開示の微小血管アッセイおよび方法を使用して解明することができると考えられる。
【0142】
接着結合および密着結合または関連するシグナル伝達成分についての既知の遺伝子はそれぞれ簡単に単離することができる。これを遺伝子操作をすることにより、本開示に提示する方法を使用して血管新生における内皮細胞機能に対する過剰発現、遺伝子量、突然変異、または機能の喪失の効果をアッセイすることができると考えられる。NIHジェンバンク遺伝子配列データベースからこれらの遺伝子ごとに配列データを入手して、これらの解析を促進することが可能である。
【0143】
血管新生および脈管形成における内皮細胞の形態形成
内皮細胞形態形成には、血管が既存の血管から形成される血管新生のほかにも血管が組織中の内皮細胞(EC)もしくはEC前駆体および前駆細胞からまたは循環を介した送達から形成される脈管形成が含まれる。内皮細胞形態形成には、微小血管がシグナル伝達入力および調節に基づいて退行する場合も含まれる。
【0144】
活性化出芽表現型は、親血管から出芽する微小血管の増殖を誘導する。この表現型は、内皮細胞同士間の接触からの、および内皮細胞と細胞外マトリックス(ECM)間の接触からの内皮細胞形態形成にもおそらく関連している。新しい血管を形成する際の内皮細胞形態形成は、マトリックス−インテグリン−細胞骨格(MIC)シグナル伝達経路により影響を受けることが明らかにされている(概説、Davis、Baylessら、2002)。
【0145】
このMIC経路は、細胞−細胞結合部接触を介した細胞間の相互作用および細胞と細胞外マトリックス成分間の相互作用から始まる。インテグリン(たとえば、α2β1、α1β1、αvβ3、α5β1、α6β1)と細胞外マトリックス相互作用の関与、細胞骨格エレメント(たとえば、アクチン、微小管、および中間径フィラメント細胞骨格)の関与、ならびに下流シグナル伝達および調節分子(たとえば、Rho GTPアーゼ、Rho A、Rac1、Cdc42、PAK−1、側方抑制因子、ECM分解プロテイナーゼ)のすべてが、形態形成中に、新しい微小血管としての管構造、芽、および分岐を形成する内皮細胞の能力に寄与する。
【0146】
ECMを劣化させる膜型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MT−MMP)は、内皮細胞形態形成に関与すると予想されている(Hiraoka、Allenら、1998);(Hotary、Allenら、2000)。研究と操作の候補はMMP−1、MMP−2、MMP−9、そのほか同等のMT−MMPである(Davis、Baylessら、2002)。その上、タンパク質TIMP−2、および化学的MMP阻害剤GM6001などのMT−MMPを遮断する阻害剤は、内皮細胞がコラーゲン中に懸濁されると内皮細胞形態形成を遮断することが明らかにされている(データは未公表、Davis、Baylessら、2002)。TIMP−2は内皮細胞増殖を阻害し、天然のメタロプロテイナーゼ阻害剤のTIMPファミリーメンバーである。化学的GM6001はコラゲナーゼの阻害剤であり、Millipore社から入手可能である。
【0147】
側方抑制は、選択的分化をもたらすことができる隣接細胞を阻害する因子をサブセットの細胞が産生する現象である。そのような阻害因子は、内皮芽密度に関与することができると考えられる(Davis、Baylessら、2002)。たとえば、側方抑制を調節することが明らかにされている分子は、NotchリガンドJagged、およびDeltaである(Lindsell、Boulterら、1996; Zimrin、Pepperら、1996; Bell、Mavila ら、2001)。その上、ノッチ1およびノッチ4受容体は内皮細胞に存在することが明らかにされている(Zimrin、Pepperら、1996; Uyttendaele、Clossonら、2000; Lindner、Boothら、2001)。これらの因子は、内皮形態形成におけるその全体的役割を決定するための研究および操作の候補である。
【0148】
MIC成分の操作ならびにMICおよび下流経路由来の個々の産物のアッセイは、本開示の方法において実行可能である。MICシグナル伝達および内皮細胞形態形成に関連する多くの遺伝子および遺伝子産物は既知であり、出芽能および血管新生への寄与について微小血管アッセイにおいて評価することができると考えられる。
【0149】
既知のMIC経路遺伝子または関連するシグナル伝達および調節成分は、簡単に単離することができる。これらを遺伝子操作することにより、本開示に提示する方法を使用して、内皮細胞形態形成に対する過剰発現、遺伝子量、突然変異、または機能の喪失の効果をアッセイすることができると考えられる。NIHジェンバンク遺伝子配列データベースからこれらの遺伝子の多くの配列データを入手することにより、そのような解析を促進することが可能である。
【0150】
血管新生に影響を与える産物のスクリーニング
図23には、親血管、微小血管出芽、および微小血管ネットワーク形成に影響を与える細胞(C)、産物(P)、および組織(T)のスクリーニングのためのアッセイが図式的に示されている。CPD1350、CPD900、またはこれらの同等物などのCPDおよび出芽可能表現型を活性化するための高密度播種の方法を利用することにより、微小血管出芽の応答及び微小血管ネットワークの形成を試験することができる。微小血管のネットワークを使用して、微小血管ネットワークの形成をモニターすることにより、マトリックスまたは灌流培養液中の血管新生および血管新生抑制因子についてスクリーニングすることができ、ここでネットワークの増殖が増加すれば血管新生因子を示し、ネットワークの増殖が減少すれば血管新生抑制因子を示す。
【0151】
細胞(C)、産物(P)、および組織(T)を含む候補は、マトリックス全体に分散させるか、または局所的に集中させてアッセイすることができる。または、細胞(C)および産物(P)を灌流培養液に添加することができる。多くの実施形態では、アッセイ中の異なる候補から放出される可能性がある生理活性産物を評価することができる。生物活性とは、候補が認識可能な形で、たとえば、増殖の測定可能な差を提供することにより、出芽微小血管の増殖に影響を与えることを意味する。
【0152】
細胞は、内皮細胞、平滑筋細胞、周皮細胞、線維芽細胞、前駆細胞、幹細胞、筋肉細胞、肝細胞、肺細胞、皮膚細胞、上皮細胞、ヒト細胞、動物細胞、植物細胞、真核細胞:遺伝子操作細胞、遺伝子改変細胞、患部細胞、ウイルス感染細胞、および癌細胞でもよい。産物は、増殖因子(たとえば、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、ホルボールエステル類(たとえば、ホルボール12−ミリスチン酸−13−アセテート(PMA))、血小板由来増殖因子(PDGF)、結合組織増殖因子(CTGF)、ヘパリン結合性増殖因子(HB−EGF)、インターロイキン8(IL−8)、長Rインスリン様増殖因子(RIGF−1)、インスリン様増殖因子類(たとえば、IGF−1)、ヒト上皮細胞増殖因子(hEGF)、結合組織増殖因子(CTGF)、ヘパリン結合性EGF様増殖因子(HB−EGF)、サイトカイン、アンジオポエチン、胎盤増殖因子、種々のケモカイン(たとえば、SDF−1α)、TGF−β、可溶性マイトジェン、細胞接着タンパク質(たとえば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、フィブリン、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸モチーフ(RGD)タンパク質、RGD−ペプチド、ゼラチン、コラーゲン、および異なるコラーゲンサブタイプ)、合成ペプチド、ならびに同等の生理活性化合物を含むことができる。組織は、健常、癌性、ウイルス感染、または遺伝子改変もしくは操作されていてもよい。
【0153】
少なくとも1つの細胞型2304を、CPD2300のマトリックス2312内で、導管2308を通ってチャネル内2316に高密度(2313)で播種することができる。少なくとも1つの細胞型は、HUVEC、またはそのうちの一部が、細胞−細胞、細胞−マトリックス、細胞−増殖因子、および灌流液流動からの物理的接触を介して親血管2328から微小血管として出芽するための能力について活性化されることができる細胞型(たとえば、SMC、周皮細胞、前駆細胞、幹細胞)の組合せでも可能である。または、細胞2336を遺伝子改変または操作して、生理活性産物を放出させることができる。播種されたチャネルをさらにインキュベートすれば、親血管にコンフルエント細胞層2331を発生させる。
【0154】
最初の灌流培養液2320は、約45分のインキュベーション後にチャネルマトリックス壁2316に付着していない細胞2304を取り除くことができる。インキュベーション時間は、実験条件によってずっと短くすることも、省略することもできる。最初の灌流培養液2320または第2の灌流培養液2332により、親血管2328の増殖も生じる。
【0155】
異なる実施形態では、灌流培養液は同一組成で可能であるし、または必要に応じ別々に処方することができる。細胞(C)、産物(P)、または組織(T)2311は、種々の配置で局所的に集中させて、または分散させてマトリックス中2312に播種することができる。代わりに、細胞(C)または産物(P)2314が灌流培養液2320、2332に添加される。産物(P)、たとえば、血管新生および血管新生抑制生理活性化合物は、親血管の細胞2328から分泌されることもできる。
【0156】
図24Aおよび図24Bには、添加される候補細胞(C)、候補産物(P)、および候補組織(T)に対する高密度での細胞播種後の微小血管出芽およびネットワーク形成の応答が図式的に描かれている。説明目的のみのため、単一親微小血管の一部分が描かれている。親微小血管の単一、二重または複合配列を、一連のCPDにおける異なる実施形態で解析することができると考えられる。
【0157】
図24Aおよび図24Bでは、局所的に集中させた量が異なる候補細胞(C)、産物(P)、または組織(T)候補を含む候補の2つのCPDが図式的に描かれている。図24Aでは、マトリックス2404及び比較的多量の候補細胞(C)、産物(P)、または組織(T)2408を含むCPD2400が示されている。同様に、比較的多量の細胞(C)または産物(P)2412が灌流液2416に添加されてもよい。灌流と合わせたインキュベーションの後、候補(C)、産物(P)、または組織(T)の添加の効果は、新しい芽2420、2424の長さを測定する(2428)ことにより、評価することができる。局所的に集中された候補からの血管新生効果により、アッセイ中の候補に近い出芽2420のほうは増加しより力強いが、候補から遠位の芽のほうは増殖が少ない(2424)ことになる。比較的多量の細胞(C)または産物(P)2412を灌流液へ添加すれば、親血管のすべての面での芽増殖を増加すると予想される(描かれてはいない)。図24Bでは、CPD2430は、局所的に集中された比較的少量の候補細胞(C)、産物(P)、もしくは組織(T)2124を含む、または同様に、比較的少量の細胞(C)もしくは産物(P)2438が灌流液2416に添加されている。芽は、比較的多量のCPD2400と比べて、アッセイ中の候補に近い芽2442の増殖は少ない(2450)と予想される。いくつかの場合、候補に近い芽2442と遠位の芽2446はサイズが類似している可能性がある。広範囲の量の候補をアッセイすることにより、血管新生効果は、対照と比べた新しい芽の増殖の増加の程度に基づいて決定することができる。
【0158】
図25Aおよび図25Bには、局所的に集中させた候補細胞(C)、産物(P)、または組織(T)候補の量が異なる2つのCPDが図式的に描かれている。図25Aでは、マトリックス2504及び比較的多量の候補細胞(C)、産物(P)、または組織(T)2508を含むCPD2500が示されている。同様に、比較的多量の細胞(C)または産物(P)2512が灌流液2516に添加されてもよい。灌流と合わせたインキュベーション後、候補(C)、産物(P)、または組織(T)の添加の効果は、新しい芽2520、2524の長さを測定する(2528)ことにより、評価することができる。局所的に集中された候補からの血管新生抑制効果により、アッセイ中の候補に近いほうの出芽は減少する(2522)、または出芽さえしない(2520)が、候補から遠位の芽のほうはいくらか増殖するかまたは正常に増殖する(2524)ことになる。比較的多量の(C)または産物(P)2512を灌流液へ添加すれば、親血管のすべての面での芽増殖を減少させると予想される(描かれてはいない)。図25Bでは、CPD2530は、局所的に集中された比較的少量の候補細胞(C)、産物(P)、もしくは組織(T)2534を含み、または同様に、比較的少量の細胞(C)もしくは産物(P)2538が灌流液2516に添加されている。芽は、比較的多量を含むCPD2500と比べて、アッセイ中の候補に近い芽2542ではより正常な増殖を示す2550と予想される。候補に近い芽2542と遠位の芽2546はサイズが類似しているような場合は、候補の血管新生抑制効果はより少ない、またはないことを示している可能性がある。広範囲の量の候補をアッセイすることにより、血管新生抑制効果は、対照と比べた新しい芽の増殖の阻害の程度に基づいて決定することができる。
【0159】
別の実施形態では、局所的に集中させた候補の増加させた量を単一CPDにおいてアッセイすることができると考えられる。その上、微小血管形成アッセイにおける異なる実施形態で種々の組合せをアッセイすることができると考えられる。たとえば、概略図には親血管が1つだけ描かれているが、異なる実施形態では、2つ以上の親血管をもつことができるし、細胞(C)、産物(P)、および組織(T)が分散されてまたは局所的に集中されてマトリックス内の種々の位置に置かれていてもよい。別の実施形態では、細胞(C)、産物(P)、または組織(T)を、微小血管出芽の前および後の異なる時間に添加することもできる。その上、細胞(C)、産物(P)、または組織(T)を、1つまたは複数の親血管間での複雑な微小血管ネットワークの形成の前および後に添加することもできる。さらに追加の実施形態では、1つのチャネルに内皮細胞を播種して、親血管を形成させ、第2のチャネルに、組織モデルまたは組織工学のために癌細胞または実質細胞または間質細胞を播種することができると考えられる。さらに、広く混合したチャネルに、アッセイすることができる種々の細胞型(たとえば、肝臓または他の組織由来のEC−動脈、EC−静脈、リンパEC、実質細胞)を播種することができることは認識されるであろう。
【0160】
血管新生アッセイ
図26Aおよび図26Bには、細胞誘導血管新生を再現する実施形態が示されている。図26Aでは、CPD2600からの2つのコラーゲンチャネルの明視野画像が示されていて、一方がHUVECを播種されて出芽親血管2604を形成しており、他方がBT474細胞系統の乳癌細胞2608を播種されている。HUVEC親血管は、乳癌細胞に向かって増殖している芽2610、2620、2630、2640を示しており、癌細胞から放出されている可能性のある生理活性産物がもたらす血管新生潜在力を表している。図26Bでは、同一微小血管の対応する蛍光顕微鏡画像が示されている。播種前に、HUVECは染料2650で染色され、乳癌は、異なる細胞染色で染色された細胞2660であった(それぞれ細胞トラッカーグリーンCMFDAおよび細胞トラッカーオレンジCRMA、色は描かれていない)。したがって、HUVEC親血管から増殖している芽2610、2620、2630、および2640は内皮起源であり、血管新生および血管新生抑制効果についてモニターすることができる。
【0161】
本発明は、特許法に従って、当業者に本発明の新規の原理を適用して、必要とされるような例となり特殊な成分を構築し使用するのに必要な情報を提供するために、本明細書においてかなり詳細に記載されている。しかし、本発明は、特に異なった設備、および装置および再構成アルゴリズムにより実施してもよいこと、ならびに設備の細部と操作手順の両方に関して、本発明の真の精神と範囲から逸脱することなく種々の改変を実現してもよいことは理解されるべきである。
【0162】
本明細書に引用されたすべての参考文献の完全な開示物は、参照により本明細書に組み込まれているものとする。しかし、他の方法では妥協できない矛盾が生じた場合は、本明細書が効力をもつものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロで灌流可能な微小血管のネットワークを形成するための方法であって、
出芽することができる少なくとも1つの細胞型の細胞をマトリックス内の少なくとも1つのチャネルに播種する(1300)工程と、
播種密度から誘発される、親血管から微小血管として少なくとも1つの細胞型が出芽する能力を活性化する(1304)工程と、
少なくとも1つのチャネルを少なくとも1つの培養液で灌流して、少なくとも1つの細胞型が少なくとも1つの親血管を形成することを可能にする(1324)工程と、
少なくとも1つの親血管をインキュベートおよび灌流して、生存を維持し、周囲にあるマトリックス中への少なくとも1つの親血管からの微小血管の出芽をもたらす(1328)工程と、
ネットワークを形成するまで出芽微小血管を増殖させる(1332)工程と
を含む方法。
【請求項2】
少なくとも1つの細胞型が出芽する能力が細胞間の接触から活性化される細胞シグナル伝達から生じる(1308)、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの細胞型が出芽する能力が、細胞間の接触(1308)からと細胞とマトリックス間の接触(1312)の両方から活性化される細胞シグナル伝達から生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの細胞型が出芽する能力が、細胞−細胞媒介接触(1308)、細胞−マトリックス媒介接触(1312)、および増殖因子−細胞媒介接触(1316)からなるグループから選択される細胞シグナル伝達から生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
大多数の細胞が互いに細胞間接触している(1308)、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
大多数の細胞が互いにほぼ細胞間接触している(1308)、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
細胞(1)がチャネル1平方mmあたり少なくとも細胞250個の密度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
細胞(1)がチャネル1平方mmあたり細胞250個〜2000個の密度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
親血管から出芽する微小血管が吻合して微小血管ネットワークを形成する(1332)、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
親血管が、マトリックス(2312)内に埋め込まれた組織(2311)の少なくとも1つの細胞型の増殖を支持する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
親血管が親血管の3Dの列である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの細胞型が、内皮細胞(1)、ならびに平滑筋細胞、線維芽細胞、周皮細胞、前駆細胞、幹細胞、実質細胞、間質細胞、筋肉細胞、肝細胞、肺細胞、皮膚細胞、上皮細胞、ヒト細胞、動物細胞、真核細胞、遺伝子操作細胞、遺伝子改変細胞、患部細胞、ウイルス感染細胞、癌細胞およびその組合せからなるグループから選択される追加の細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
内皮細胞(1)が内皮細胞系統由来である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
内皮細胞系統が、個体に由来する微小血管内皮細胞系統、大血管内皮系統、および内皮細胞系統からなるグループから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
細胞が灌流培養液(2332)に生物活性産物を放出する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
細胞がマトリックス(2312)に生物活性産物を放出する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
細胞が灌流培養液(2332)に遺伝子操作された生物活性産物を放出する、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
微小血管のネットワーク(2428)のモニタリングを使用して、マトリックス(2404)中の血管新生および血管新生抑制因子についてスクリーニングし、ネットワークの増殖が増加していれば血管新生因子を示し、ネットワークの増殖が減少していれば血管新生抑制因子を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
微小血管のネットワーク(2428)のモニタリングを使用して、灌流培養液(2416)中の血管新生および血管新生抑制因子についてスクリーニングし、ネットワークの増殖が増加していれば血管新生因子を示し、ネットワークの増殖が減少していれば血管新生抑制因子を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの細胞型が、動脈内皮の遺伝子操作された分子マーカーを含有する内皮細胞(1)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1つの細胞型が、リンパ管内皮の遺伝子操作された分子マーカーを含有する内皮細胞(1)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1つの細胞型が、静脈内皮の遺伝子操作された分子マーカーを含有する内皮細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1つのチャネルに、内皮細胞(1)、平滑筋細胞、周皮細胞、線維芽細胞、内皮前駆細胞、および幹細胞からなるグループから選択される細胞を播種する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1つのチャネルに、内皮細胞(1)を播種する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1つのチャネルに、内皮細胞(1)および平滑筋細胞を播種する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1つのチャネルに、内皮細胞(1)、平滑筋細胞、および周皮細胞を播種する、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
少なくとも1つのチャネルに、内皮細胞(1)、平滑筋細胞、周皮細胞、および線維芽細胞を播種する、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1つのチャネルに内皮細胞(1)を定植させ、少なくとも1つのチャネルに少なくとも1つの非内皮細胞型を定植させる、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
マトリックス中の少なくとも1つのチャネルがマンドレル(2)で形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
マンドレル(2)が引き抜きにより取り除かれる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
マンドレル(2)が分解により取り除かれる、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
マトリックスチャネルへの細胞の注入、およびマンドレルへの細胞の事前付着からなるグループから選択される処理、ならびにマンドレルへの細胞の事前付着とマトリックスチャネルへの細胞の注入の組合せにより少なくとも1つのチャネルへの播種(1300)を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
マトリックス中の少なくとも1つのチャネルが、20ミクロンから500ミクロン径である、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
マトリックス中の少なくとも1つのチャネルが、500ミクロンから5.5mm径である、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
マトリックス(1391)が、フィブリン、コラーゲン、コラーゲンサブタイプ、ゼラチン、ゲル状基底膜、寒天、アガロース、アルギン酸、基底膜タンパク質、細胞外マトリックスタンパク質、シリカゲル、および細胞からなるグループから選択される材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
基底膜タンパク質が、IV型コラーゲン、パールカン、ラミニン、インテグリン、エナクチン、ジストログリカン、VII型コラーゲン線維、およびVII型コラーゲンミクロフィブリルからなるグループから選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
細胞外マトリックスタンパク質が、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ケラチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、およびラミニンからなるグループから選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
マトリックスが増殖因子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項39】
マトリックス(1391)に、内皮細胞(1)、ならびに平滑筋細胞、周皮細胞、線維芽細胞、前駆細胞、幹細胞、筋肉細胞、肝細胞、肺細胞、皮膚細胞、上皮細胞、ヒト細胞、動物細胞、植物細胞、真核細胞、実質細胞、間質細胞、遺伝子操作細胞、遺伝子改変細胞、患部細胞、ウイルス感染細胞、癌細胞およびその組合せからなるグループから選択される追加の細胞を定植させる、請求項1に記載の方法。
【請求項40】
微小血管ネットワーク(2428)の増殖が増加していれば、血管新生因子(2412)が細胞から分泌されていることを示し、微小血管ネットワークの増殖が減少していれば(2528)、血管新生抑制因子(2512)が細胞から分泌されていることを示す、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
少なくとも1つの組織(2311)がマトリックス内に埋め込まれている、請求項1に記載の方法。
【請求項42】
少なくとも1つの組織(2311)が、健常組織、患部組織、癌組織、および遺伝子操作組織からなるグループから選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
微小血管ネットワーク(2428)の増殖が増加していれば、血管新生因子が組織から分泌されていることを示し、微小血管ネットワークの増殖が減少していれば(2528)、血管新生抑制因子が組織から分泌されていることを示す、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
少なくとも1つの灌流培養液の流動(204)が、毛細血管のインビボ流動に近似する、請求項1に記載の方法。
【請求項45】
少なくとも1つの灌流培養液の流動(204)が、1つの親血管(202)への流入を減少させ、別の親血管(200)での抵抗を増加させることにより、親血管同士を繋ぐ微小血管ネットワーク中を優先的に流れる、請求項1に記載の方法。
【請求項46】
少なくとも1つの灌流培養液が、血管新生因子、血管新生抑制因子、血清、ホルボールエステル、および増殖因子からなるグループから選択される補充成分を有する細胞増殖培養液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項47】
実質的にマトリックス(1391)を介する拡散により少なくとも1つの灌流培養液に酸素を添加する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
少なくとも1つの培養液が増殖因子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項49】
培養灌流装置1350においてインビトロで灌流可能な微小血管のネットワークを形成するための方法であって、
培養灌流装置(1350)のチャンバー(1390)においてマンドレル(1384)の周囲にマトリックス(1391)を流し込む工程と、
マンドレル(1384)を取り除いてマトリックス(1391)内にチャネル(1388)を作り出す工程と、
少なくとも1つの入口(1354)および出口ポート(1392)に導管(1381)を取り付ける工程と、
導管(1382)を通してチャネル(1384)に少なくとも1つの細胞型を播種する工程と、
チャネル(1388)内に細胞を分配する工程と、
入口ポート(1354)を満たし、少なくとも1つの入口(1354)および出口ポート(1392)をプライミングすることにより、培養灌流装置(1350)を灌流する工程と、
培養灌流装置(1350)をインキュベートして親血管(1393)を形成させる工程であって、播種密度が出芽を誘発するのに十分であれば、親血管からの微小血管の出芽が起こる工程と、
培養灌流装置1350をインキュベートすることにより、灌流可能な微小血管のネットワークを形成する工程と
を含む方法。
【請求項50】
血管新生および血管新生抑制産物についてスクリーニングするための方法であって、
活性化された出芽可能親血管(2328)から灌流可能な微小血管ネットワークを増殖させる工程であって、微小血管ネットワークが灌流装置(2300)中のマトリックス(2312)内に埋め込まれている工程と、
候補(2311)をマトリックス内の位置に添加する工程と、
灌流装置を灌流およびインキュベートする工程と、
添加された候補(2311)に応答した微小血管ネットワーク(2428)の3D増殖を測定する工程と
を含む方法。
【請求項51】
候補が、細胞、産物、および組織(2311)からなるグループから選択される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
候補が、マトリックス(2312)の代わりに灌流培養液(2332)に添加される、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
インビトロで灌流可能な微小血管ネットワークを作製するための培養灌流装置であって、
マトリックス内の少なくとも1つのチャネルに出芽することができる少なくとも1つの細胞型を播種するための手段であって、少なくとも1つのチャネルが灌流手段と液体で連絡している手段と、
播種密度から誘発される、親血管から微小血管として少なくとも1つの細胞型が出芽する能力を活性化するための手段と、
少なくとも1つのチャネルを少なくとも1つの培養液で灌流して、少なくとも1つの細胞型が少なくとも1つの親血管を形成することを可能にするための手段であって、灌流手段がインキュベーション手段を介して含まれている手段と、
少なくとも1つの親血管をインキュベートおよび灌流して、生存を維持し、周囲にあるマトリックスへの少なくとも1つの親血管からの微小血管の出芽をもたらす手段と、
インキュベーション手段を介して、ネットワークを形成するまで出芽微小血管を増殖させるための手段と、
を含む装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【図20C】
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【図20D】
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【図20E】
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【図20F】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22】
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【図23】
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【図24A】
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【図24B】
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【図25A】
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【図25B】
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【図26A】
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【図26B】
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【公表番号】特表2010−539938(P2010−539938A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527098(P2010−527098)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/077447
【国際公開番号】WO2009/042639
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(509121879)ノーティス,インク. (3)
【Fターム(参考)】