説明

火花点火式内燃機関

【課題】 燃焼室内の混合気を火花点火する点火プラグを備え、幾何学的な圧縮比が12以上に設定された高圧縮比型の火花点火式内燃機関では、機関始動時のプレイグニッションの発生が新たな問題となっている。
【解決手段】 冷却水を循環させる電動式の電動ウォータポンプを備える。機関停止後の第2期間ΔT2においては、電動ウォータポンプを作動状態に維持するとともに、第2制御弁を閉として、シリンダヘッドにのみ冷却水を循環させて、機関始動時のプレイグニッションを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼室内の混合気を火花点火する点火プラグを備えたガソリン内燃機関に代表される火花点火式内燃機関に関し、特に、機関始動時に点火プラグによる点火前に不用意に着火する、いわゆるプレイグニッションの発生を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の動力源として良く利用される内燃機関には、一般に、熱交換器を含んだ冷却水の循環経路内で冷却水を循環させて内燃機関を冷却する水冷装置が設けられている。この水冷装置において、冷却水の循環用のウォーターポンプは、一般的には内燃機関の回転動力を利用して駆動される。このため、内燃機関が停止すればウォーターポンプも停止し、冷却水の循環が停止してシリンダヘッド内の高熱部分等で冷却水が沸騰するおそれがある。そこで、特許文献1や特許文献2では、冷却水の循環経路に電動式のウォーターポンプを追加し、イグニッションキーがオフされて内燃機関が停止した場合に、電動式ウォーターポンプをある程度作動させたままとして冷却水の循環を継続させ、それにより冷却水の沸騰を防止する技術が提案されている。
【0003】
ところで、燃焼室内の混合気を火花点火する点火プラグを備えたガソリン内燃機関に代表される火花点火式内燃機関においては、機関始動時、特に機関停止後の暖機状態で直ぐに内燃機関を再始動するような場合に、点火プラグによる点火前の不用意な自己着火、いわゆるプレイグニッションが発生する、という課題がある。このプレイグニッション対策として、従来では、例えば吸気弁や排気弁のバルブタイミングを変更可能な可変動弁装置を利用し、内燃機関の始動時には、バルブタイミングの設定により吸入空気量を低くして実圧縮比を低下させる等の方策が提案されている。
【特許文献1】実開平6−28222号公報
【特許文献2】特開2004−108159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、主として燃費向上を図るために、ピストン上死点位置と下死点位置とにより定まる幾何学的な圧縮比(ピストン上死点位置でのシリンダ容積とピストン下死点でのシリンダ容積との比)の高圧縮比化が求められており、この幾何学的な圧縮比を12以上とする高圧縮比型の火花点火式内燃機関においては、上述したバルブタイミングの設定等の方策では、プレイグニッションの発生を防止することが困難となってきており、新たな対策が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、このような近年の火花点火式内燃機関の高圧縮比化に伴って新たに派生した技術的課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、燃焼室内の混合気を火花点火する点火プラグを備え、幾何学的な圧縮比が12以上に設定された高圧縮比型の火花点火式内燃機関の冷却制御装置であって、冷却水を循環させる電動式の電動ウォータポンプと、機関始動時のプレイグニッションを防止するプレイグニッション防止手段と、を有し、このプレイグニッション防止手段は、機関停止直後から所定期間、電動ウォータポンプを作動状態に維持することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、幾何学的な圧縮比が12以上の高圧縮比型の火花点火式内燃機関でありながら、機関停止直後から所定期間、電動ウォータポンプを作動状態に維持することによって、機関始動時におけるプレイグニッションの発生を有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の好ましい一実施例を図面に基づいて説明する。図1及び図2を参照して、この内燃機関10は、各気筒の燃焼室内の混合気を火花点火する点火プラグ11を備える火花点火式のガソリン機関であり、かつ、幾何学的な圧縮比が12以上に設定された高圧縮比型のものである。また、この内燃機関10の冷却制御装置は、電動式のウォータポンプ12により冷却水が循環する循環経路として、シリンダヘッド13とシリンダブロック14の双方を循環する主循環系統と、シリンダブロック14を循環することなくシリンダヘッド13のみを循環する副循環系統と、の2系統を有する2系統冷却システムとなっている。電動ウォータポンプ12は、車載バッテリからの電力により作動し、その動作は後述する制御部30によって制御される。なお、この実施例では電動ウォータポンプ12のみが設けられているが、内燃機関の回転動力により駆動する機械式のウォータポンプを併用しても良い。
【0008】
図2は、この内燃機関10の吸気システムと2系統冷却システムの概略構成を示している。内燃機関10の吸気システムは、吸気通路15を通してシリンダヘッド13内の各燃焼室(図示省略)へ吸気を供給するものであり、吸気通路15の上流側より順に、吸気通路15を開閉する電制のスロットル16と、吸気温度を検出する吸気温センサ17と、吸気圧力を検出する吸気圧力センサ18と、シリンダヘッド13に取り付けられて、吸気通路15から分岐して各気筒へ連なる複数の吸気ポートへ接続するインテークマニホールド19と、が設けられている。
【0009】
冷却システムは、電動式のウォータポンプ12により冷却水の循環経路20内を循環する冷却水を通して、冷却対象であるシリンダヘッド13やシリンダブロック14から奪った熱を、熱交換器としてのラジエータ21で放熱する機能を有している。この循環経路20には、冷却水の水温を検出する水温センサ22の他、電磁弁である第1制御弁23及び第2制御弁24が設けられている。これらの制御弁23,24は、後述する制御部30からの制御信号に応じて作動する電制の電磁弁であり、冷却水の温度に応じて自発的に作動する、いわゆる機械式のサーモスタットではない。
【0010】
第1制御弁23は循環経路20におけるラジエータ21とシリンダヘッド13(又はシリンダブロック14)との間に設けられ、この第1制御弁23を閉じることによって、ラジエータ21を循環することなく、ラジエータバイパス経路25を通して冷却水が循環する。第2制御弁24はシリンダブロック14からシリンダヘッド13へのブロック−ヘッド連通路26に設けられ、この第2制御弁24により上記の主循環系統と副循環系統とが切り換えられる。すなわち、第2制御弁24を開くと、ブロック−ヘッド連通路26を通してシリンダヘッド13とシリンダブロック14の双方を冷却水が循環し(主循環系統)、第2制御弁24を閉じると、ブロック−ヘッド連通路26が遮断され、シリンダブロック14を経由することなくシリンダヘッド13のみを冷却水が循環する(副循環系統)。
【0011】
制御部30は、各種制御処理を記憶及び実行する機能を有するコンピュータシステムであり、上述した各種センサ17,18,22等からの検出信号に基づいて、上記制御弁23,24や電動ウォータポンプ12等のアクチュエータへ制御信号を出力し、その動作を制御する。
【0012】
図3は、上記の制御部30により記憶及び実行される制御処理の流れを示すフローチャートである。このルーチンは、ステップS1において、機関停止要求の入力、具体的にはイグニッションスイッチのOFFにより実行される。なお、アイドルストップ車両の場合には、信号待ち等の一時停車時に内燃機関を停止する際にも機関停止要求がなされる。ステップS2では、この機関要求検出時における外気(大気)の圧力すなわち大気圧を検出する。この大気圧は、簡易的に吸気圧力センサ18の検出信号を利用して推定している。但し、より正確な大気圧を得るために、大気圧を検出する大気圧センサを別途設けるようにしてもよい。
【0013】
ステップS3では、図4に示すような予め設定された制御マップを参照して、S2で得られた機関要求検出時における大気圧に基づいて、水温下限値Tw0を補正する。大気圧が高くなるほど電動ウォータポンプ12の作動時間が長くなるように、図4に示すように大気圧が高いほど水温下限値Tw0が低くなるように補正される。
【0014】
ステップS4では、水温センサ22により検出される機関停止前の水温モニタ値Tw1が水温下限値Tw0より高いかを判定する。機関停止前の水温モニタ値Tw1が水温下限値Tw0より高い場合、ステップS5へ進み、外気温を検出する。この外気温は、ここでは簡易的に吸気温センサ17の検出信号に基づいて推定している。但し、より正確に外気温を求めるために、外気温を検出するセンサを別途設けるようにしても良い。
【0015】
ステップS6では、S5で得られた外気温に基づいて、図5に示すような予め設定された制御マップを参照して、電動ウォータポンプ12の作動回転数を設定(補正)する。図5に示すように、外気温が高いほど電動ウォータポンプ12の作動回転数が高くなるように補正している。そして、ステップS7において、機関停止の指令信号を出力し、機関停止を実行する。具体的には、燃料噴射及び点火プラグ11による火花点火等を停止する。続くステップS8では、水温センサ22により検出される機関停止後の水温モニタ値Tw2が上記の水温下限値Tw0より高いかを判定する。
【0016】
機関停止後の水温モニタ値Tw2が水温下限値Tw0より高ければ、ステップS9へ進み、下式(1)を満たすかを判定する。
(Tw1−Tw2)/ΔT<α …(1)
ここで、「ΔT」は機関停止実行時からの経過時間、「α」は予め設定されたしきい値である。つまり、上式(1)によって、機関停止実行時からの冷却水温の低下の勾配が所定のしきい値α未満であるかを判定する。
【0017】
ステップS9の判定が肯定され、つまり冷却水温の低下の勾配がしきい値αよりも小さい判定された場合には、ステップS10へ進み、電動ウォータポンプ12の作動回転数を所定量増加し、ステップS8の処理へ戻る。これらステップS8〜S10の処理によって、機関停止実行時からの冷却水温の低下の勾配がしきい値αに達するまで、電動ウォータポンプ12の作動回転数が所定量ずつ増加されていく。
【0018】
そして、機関停止後の水温モニタ値Tw2が水温下限値Tw0に達すると、ステップS8からステップS12へ進み、制御弁23,24を閉とする。また、ステップS13において電動ウォータポンプ12の停止指示信号を出力して、電動ウォータポンプ12の作動を停止した後、制御部(ECM)の電源をOFFとして、内燃機関(車両)の電気系統を停止する。なお、信号待ち等で内燃機関を一時的に停止するアイドルストップ車両の場合には、ステップS13を省略し、電気系統の停止は行わない。
【0019】
また、上記のステップS4において、機関停止前の水温モニタ値Tw1が水温下限値Tw0以下である場合には、ステップS11へ進み、内燃機関の停止指示信号を出力して機関停止を実行した後、上記のステップS12〜S14と同様、制御弁23,24を閉じるとともに、電動ウォータポンプ12の作動を停止し、内燃機関(車両)の電気系統を停止する。つまり、機関停止前の水温モニタ値Tw1が既に水温下限値Tw0以下の低い温度である場合には、もはや冷却水を冷却する必要がないので、機関停止後における電動ウォータポンプ12の作動を禁止する。
【0020】
このような制御処理によって、冷却水温が所定の水温下限値Tw0よりも高い場合には、機関停止直後から所定期間、電動ウォータポンプ12を作動状態に維持することによって、機関停止状態での冷却水温の過度な上昇を抑制することができる。このため、幾何学的な圧縮比が12以上の高圧縮比型の火花点火式内燃機関でありながら、機関始動時、特にアイドルストップ車両等での機関再始動時におけるプレイグニッションの発生を有効に防止することができる。
【0021】
特に、プレイグニッションの発生に関しては、上述した従来技術のような冷却水の沸騰対策やノッキング対策の場合とは異なり、大気圧や外気温に大きく依存している。そこで本実施例では、大気圧が高いほど電動ウォータポンプの作動時間が長くなるように、大気圧に応じて水温下限値を補正し、かつ、外気温が高いほど電動ウォータポンプの回転数が高くなるように、外気温に応じて電動ウォータポンプの作動回転数を補正しているために、電動ウォータポンプ12を過度に作動させることなく、大気圧や外気温に応じて適切にプレイグニッションの発生を防止することができる。
【0022】
上記のステップS9の処理に代えて、図6に示すように、所定期間ΔT’毎の機関停止後の水温モニタ値Tw2(Tw2’)の低下の勾配を逐次算出し、この勾配を所定のしきい値と比較・判定するようにしても良い。但し、機関停止から再始動までの時間が短い場合、より素早く冷却を行う必要があるので、上記のステップS9の処理のように、ウォータポンプ12の作動回転数の増加側への補正を、機関停止直前からの水温低下の勾配に応じて行う方がよい。
【0023】
図7は、機関始動時における制御弁の作動状態等を示すタイミングチャートである。同図に示すように、イグニッションスイッチがOFFとなる機関停止要求の入力時T1から所定の第1期間ΔT1では、電動ウォータポンプ12を作動状態に維持しつつ、双方の制御弁23,24を開状態に維持することで、上記の主冷却系統によりシリンダヘッド13とシリンダブロック14の双方に冷却水を循環させて冷却を行う。これにより、燃焼室周りのシリンダヘッド壁温を低下させるとともに、シリンダブロック壁温を低下させて、冷却水の過昇やノッキングの発生を防止する。そして、この第1期間ΔT1後の所定の第2期間ΔT2においては、第2制御弁24を開状態に維持し、かつ、この第1期間後の所定の第2期間ΔT2、第1制御弁23を閉じ、第2制御弁24を開状態に維持することで、上記の副冷却系統によりシリンダヘッド13のみを冷却する。これによって、シリンダブロック14の過冷却によるフリクションの増加等を防止しつつ、燃焼室周りのシリンダヘッド13の壁温を引き続き低下させて、点火プラグ11の先端部分の温度を重点的に冷却し、プレイグニッションの発生を有効に防止することができる。上記の第1期間ΔT1や第2期間ΔT2は、例えば数10秒から数分程度の固定値であっても良く、あるいは水温等に応じて設定・補正するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例に係る火花点火式内燃機関及びその冷却制御装置を簡略的に示す説明図。
【図2】本実施例の2系統冷却システム及び吸気システムを簡略的に示す説明図。
【図3】本実施例に係る機関停止要求検出時の制御の流れを示すフローチャート。
【図4】図3の水温下限値の補正に用いられる制御マップ。
【図5】図3のポンプ回転数の補正に用いられる制御マップ。
【図6】図3の処理とは別の処理を説明するための説明図。
【図7】機関停止時の制御弁等の動作を示すタイミングチャート。
【符号の説明】
【0025】
10…内燃機関
11…点火プラグ
12…電動ウォータポンプ
13…シリンダヘッド
14…シリンダブロック
17…吸気温センサ
18…吸気圧力センサ
22…水温センサ
23…第1制御弁
24…第2制御弁
30…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室内の混合気を火花点火する点火プラグを備え、幾何学的な圧縮比が12以上に設定された高圧縮比型の火花点火式内燃機関の冷却制御装置であって、
冷却水を循環させる電動式の電動ウォータポンプと、
機関始動時のプレイグニッションを防止するプレイグニッション防止手段と、を有し、
このプレイグニッション防止手段は、機関停止後の所定期間、電動ウォータポンプを作動状態に維持することを特徴とする火花点火式内燃機関の冷却制御装置。
【請求項2】
機関停止前後に、大気圧または外気温に基づいて、電動ウォータポンプの作動時間又は回転数を補正する補正手段を有することを特徴とする請求項1に記載の火花点火内燃機関の冷却制御装置。
【請求項3】
上記補正手段は、大気圧が高いほど電動ウォータポンプの作動時間を長くすることを特徴とする請求項2に記載の火花点火内燃機関の冷却制御装置。
【請求項4】
上記補正手段は、外気温が高いほど電動ウォータポンプの回転数を高くすることを特徴とする請求項2に記載の火花点火内燃機関の冷却制御装置。
【請求項5】
上記プレイグニッション防止手段は、機関停止後の冷却水温が所定の水温下限値よりも高い場合に、電動ウォータポンプを作動状態に維持することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の火花点火式内燃機関の冷却制御装置。
【請求項6】
シリンダヘッドとシリンダブロックの双方を冷却水が循環する主循環系統と、シリンダブロックを循環することなくシリンダヘッドを冷却水が循環する副循環系統と、を切り換える制御弁を有し、
機関停止直後から所定の第1期間、主循環系統で冷却水を循環させ、かつ、上記第1期間後の所定の第2期間、副循環系統で冷却水を循環させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の火花点火式内燃機関の冷却制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−68363(P2009−68363A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235109(P2007−235109)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】