説明

炊飯器

【課題】磁性部材を保護枠の樹脂内に一体成形するときに生じる磁性部材の割れの発生を抑えて、ビビリ音の発生を抑えた炊飯器を提供する。
【解決手段】炊飯器本体と、炊飯器本体の内部に鍋収納部を形成しかつ樹脂により一体形成された保護枠と、鍋収納部に収納される鍋と、炊飯器本体の上部開口を開閉自在に覆う蓋体と、鍋の底部の中央部周囲の部分に対向するように樹脂内に固定された第1の誘導加熱コイルと、鍋の底部のコーナー部に対向するように樹脂内に固定された第2の誘導加熱コイルと、第1の誘導加熱コイルの巻回方向と直交するように配置されるとともに第1の誘導加熱コイルより鍋から離れる側で樹脂内に固定された複数の直線状の棒体である第1の磁性部材と、第2の誘導加熱コイルの巻回方向と直交するように配置されるとともに第2の誘導加熱コイルより鍋から離れる側で樹脂内に固定された複数の直線状の棒体である第2の磁性部材とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯器本体の内部に収納された鍋を誘導加熱する炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の炊飯器としては、例えば、特許文献1(特開平2−134111号公報)に開示された炊飯器がある。特許文献1の炊飯器は、鍋の底部の中央部周囲の近傍部分に配置された底内コイルと鍋の底部のコーナー部の近傍に配置された底外コイルとを備え、各コイルに高周波電流を流すことにより磁束を発生させて、鍋を誘導加熱するよう構成されている。また、特許文献1の炊飯器においては、誘導加熱時に各コイルより発生する磁界が漏れて、他の装置及び部品に悪影響を及ぼさないよう、各コイルよりも鍋から遠ざかる側に複数本のフェライトが放射状に配置されている。それぞれのフェライトは、底内コイルの最も巻回中心側に位置する巻線付近から底外コイルの巻回中心より最も離れて位置する巻線付近までをまたぐように配置されている。また、鍋の底部のコーナー部のR形状にならって底外コイルが通常湾曲しているため、それぞれのフェライトの底外コイルに対応する部分も湾曲(R形状)するように形成されている。
【特許文献1】特開平2−134111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記構成の特許文献1の炊飯器において、それぞれのフェライトは、各コイルを保持する保護枠に一体的に取り付けられている。しかしながら、フェライトのような磁性部材をインサート成形により一体的に保護枠に取り付けた場合、インサート成形に用いる樹脂の圧力等により、フェライトにクラックが生じて割れてしまうことがある。特に、フェライトにR形状の部分があると、その部分に応力が集中するため割れが生じやすい。フェライトに割れが生じたとき、フェライトは保護枠を構成する樹脂内に固定されているために割れた部分同士がほぼ接触状態にあるので、高周波電流が流れたときに両者が振動して触れ合い、一般にビビリ音と呼ばれる不快な異音が発生する恐れがある。
【0004】
従って、本発明の目的は、上記問題を解決することにあって、炊飯器本体の内部に収納された鍋を誘導加熱する炊飯器において、磁性部材を保護枠の樹脂内に固定(一体成形)するときに生じる磁性部材の割れの発生を抑えて、ビビリ音の発生を抑えた炊飯器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明の第1態様によれば、上部に開口が形成された炊飯器本体と、
上記炊飯器本体の内部に鍋収納部を形成しかつ樹脂により一体成形された保護枠と、
上記鍋収納部に収納される鍋と、
上記開口を開閉自在に覆う蓋体と、
上記鍋の底部の中央部周囲の部分に対向するように上記保護枠の一体成型時に上記樹脂内に固定され、上記鍋を誘導加熱する第1の誘導加熱コイルと、
上記鍋の底部のコーナー部に対向するように上記保護枠の一体成型時に上記樹脂内に固定され、上記鍋を誘導加熱する第2の誘導加熱コイルと、
上記第1の誘導加熱コイルの巻回方向と直交するように配置されるとともに上記第1の誘導加熱コイルより上記鍋から離れる側で上記保護枠の一体成型時に上記樹脂内に固定され、上記第1の誘導加熱コイルより発生した磁束の漏れを防止する複数の直線状の棒体である第1の磁性部材と、
上記第2の誘導加熱コイルの巻回方向と直交するように配置されるとともに上記第2の誘導加熱コイルより上記鍋から離れる側で上記保護枠の一体成型時に上記樹脂内に固定され、上記第2の誘導加熱コイルより発生した磁束の漏れを防止する、上記第1の磁性部材とは異なる複数の直線状の棒体である第2の磁性部材と、
を備えた炊飯器を提供する。
【0006】
本発明の第2態様によれば、上記第1の磁性部材の延在方向の長さが、上記第1の誘導加熱コイルの巻幅よりも長い、第1態様に記載の炊飯器を提供する。
【0007】
本発明の第3態様によれば、上記第2の誘導加熱コイルの延在方向の長さが、上記第2の誘導加熱コイルの巻幅よりも長い、第1又は2態様に記載の炊飯器を提供する。
【0008】
本発明の第4態様によれば、上記それぞれの第2の磁性部材を上記巻幅方向と直交する面で切った断面積の総和が、上記それぞれの第1の磁性部材を上記巻幅方向と直交する面で切った断面積の総和よりも大きい、第1〜3態様のいずれか1つに記載の炊飯器を提供する。
【0009】
本発明の第5態様によれば、上記第2の磁性部材は、上記第1の磁性部材よりも数が多い、第4態様に記載の炊飯器を提供する。
【0010】
本発明の第6態様によれば、上記第2の磁性部材は、上記第1の磁性部材よりも太さが太い、第4態様に記載の炊飯器を提供する。
【0011】
本発明の第7態様によれば、上記第1の磁性部材の延在方向の延長線上に上記第2の磁性部材が延在するよう配置されている、第1〜6態様のいずれか1つに記載の炊飯器を提供する。
【0012】
本発明の第8態様によれば、上記第1の磁性部材が上記第1の誘導加熱コイルの巻幅方向に平行に配置されるとともに、上記第2の磁性部材が上記第2の誘導加熱コイルの最外周の巻線と最内周の巻線とを結ぶ直線に略平行に配置されている、第1〜7態様のいずれか1つに記載の炊飯器を提供する。
【0013】
本発明の第9態様によれば、上記第1の磁性部材が上記第1の誘導加熱コイルの巻回中心軸に近づくに従い上記第1の誘導加熱コイルから遠ざかるように配置されるとともに、上記第2の磁性部材が上記第2の誘導加熱コイルの最外周の巻線と最内周の巻線とを結ぶ直線に略平行に配置されている、第1〜7態様のいずれか1つに記載の炊飯器を提供する。
【0014】
本発明の第10態様によれば、上記第2の誘導加熱コイルと上記第2の磁性部材との最短距離が、上記第1の誘導加熱コイルと上記第1の磁性部材との最短距離よりも小さい、第1〜9態様のいずれか1つに記載の炊飯器を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炊飯器によれば、鍋の底部の中央部周囲に対応するように配置された第1の誘導加熱コイルと、鍋の底部のコーナー部に対向するように配置された第2の誘導加熱コイルより発生した磁束の漏れを防止するのに、それぞれの誘導加熱コイルに対応して複数の第1,第2の磁性部材(例えばフェライト)を設けている。すなわち、第1の誘導コイルと第2の誘導コイルとを一本のフェライトでまたぐように構成された従来の炊飯器に比べて、一本の磁性部材の長さが短く(1/2以下に)なるように構成している。
また、フェライトの底外コイルに対応する部分がR形状に形成された従来の炊飯器に対して、本発明の炊飯器は、第1,第2の磁性部材をそれぞれ直線状の棒体で構成し、応力が集中する部分をなくすようにしている。
上記構成により、インサート形成等により磁性部材を保護枠の樹脂内に固定するときに生じる磁性部材の割れを従来に比べて大幅に抑えることが可能となるため、割れた磁性部材同士が接触することによるビビリ音の発生も大幅に抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の記述を続ける前に、添付図面において同じ部品については同じ参照符号を付している。
以下、本発明の最良の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
《実施形態》
本発明の実施形態にかかる炊飯器の構成について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる炊飯器の概略構成を示す断面図である。図2は、本発明の実施形態にかかる炊飯器における各誘導加熱コイルと各フェライトの配置関係を示す模式説明図である。
【0018】
図1において、本発明の実施形態にかかる炊飯器は、上部に開口が形成された略円筒形状、つまり略有底円筒形状の炊飯器本体1と、炊飯器本体1の内部に鍋収納部を形成しかつ樹脂により一体成形された保護枠2と、上記鍋収納部に収納される鍋3と、上記開口を開閉自在に覆う蓋体4と、鍋3を誘導加熱する誘導加熱ユニット5と、誘導加熱ユニット5より発生した磁束の漏れを防止する磁束漏れ防止部6とを備えている。
【0019】
保護枠2は、炊飯器本体1の上部開口に嵌合された略リング状の上枠部21と、略有底円筒形状に形成され、上部円筒状部で上枠21につながる鍋収納部22とで構成されている。ここでは、上枠部21と鍋収納部22とは、樹脂により個別に成形されたのち接続されるもととするが、一体成形されてもよい。鍋収納部22の底部中央部には、貫通穴22aが形成されており、その貫通穴22a内に鍋底温度センサ71が配置されている。鍋底温度センサ71は、鍋3が鍋収納部22に収納されたときに鍋3の底部31の中央部に外接し、鍋3の温度を検知できるように構成されている。
【0020】
鍋3は、略有底円筒形状に形成され、その底部31のコーナー部31bがR形状に形成されている。鍋3の上部外周部には、側方にリング状に突出したフランジ部32が形成されている。鍋3は、フランジ部32の下面が保護枠2の上枠部21の内周部分に当接することにより、鍋収納部22との間に所定の隙間を有する状態で懸架されるようになっている。
【0021】
蓋体4は、例えば合成樹脂により略有底円筒形状に形成された外蓋部41と、外蓋部41の内周面に嵌合された内蓋部42と、内蓋部42の下面に着脱可能に取り付けられることで、蓋体4の下面を構成する円盤状の発熱板43とを備えている。蓋体4は、外蓋部41の一部に設けられたヒンジ軸4aを炊飯器本体1の上部に形成された軸受部(図示せず)に回動自在に支持されることで、炊飯器本体1の上部開口を開閉可能なように取り付けられている。
【0022】
発熱板43の外周下部には、リング状の鍋パッキン44が取り付けられている。鍋パッキン44は、炊飯中に鍋2内に発生する蒸気などを、炊飯器本体1の内部空間へ流出させないように鍋2と蓋体4との隙間を塞ぐように配置されている。発熱板43の中央部には鍋2内の蒸気を炊飯器外部に排出するための複数の蒸気通路孔43aが設けられている。
【0023】
蓋体4の中央部には、鍋2内から蒸気通路孔43aを通って排出される蒸気を、炊飯器外部へ排出できるように、蒸気穴44が蓋体4の厚さ方向に貫通するように設けられている。蒸気穴44の上部には、蒸気逃がし用孔45aが複数形成された蒸気蓋45が嵌め込まれている。
【0024】
蓋体4の外蓋部41と内蓋部42とで囲まれた空間には、炊飯制御部7が配置されている。炊飯制御部7は、鍋底温度センサ71の検知温度や外部からの操作などに基づいて、誘導加熱ユニット5の鍋加熱動作を制御するように構成されている。
【0025】
誘導加熱ユニット5は、鍋3の底部31の中央部周囲31aの部分を主に誘導加熱する第1の誘導加熱コイルの一例である底内コイル51と、鍋3のコーナー部31bの部分を主に誘導加熱する第2の誘導加熱コイルの一例である底外コイル52と、鍋3の側部を主に誘導加熱する側部コイル53と、発熱板43を誘導加熱する蓋部コイル54とで構成されている。
【0026】
底内コイル51は、鍋3の底部31の中央部周囲31aの部分に対向するように、当該中央部周囲31aに沿うように巻回され、保護枠2に一体成形されている。すなわち、底内コイル51は、保護枠2を構成する樹脂中に固定されている。
底外コイル52は、鍋3の底部31のコーナー部31bに対向するように、コーナー部31bに沿うように巻回され、保護枠2に一体成形されている。すなわち、底外コイル52は、保護枠2を構成する樹脂中に固定されている。
側部コイル53は、保護枠2の上部円筒状部の外周面に沿って巻回されている。
蓋部コイル54は、蓋体4の内蓋部42の上面に沿って蒸気穴44の周りに巻回されている。
【0027】
磁束漏れ防止部6は、底内コイル51より発生した磁束を内部に誘導して磁束の漏れを防止する複数の棒状の第1の磁性部材の一例である内フェライト61と、底外コイル52より発生した磁束を内部に誘導して磁束の漏れを防止する複数の棒状の第2の磁性部材の一例である外フェライト62と、内フェライト61及び外フェライト62とで誘導しきれなかった上記磁束が他の部品及び装置側に漏れるのを防ぐ反射枠63とで構成されている。
【0028】
内フェライト61は、図1に示すように、底内コイル51より鍋3から離れる側で保護枠2に一体成形された高透磁率を有する直線状の棒体(例えば長方体)である。内フェライト61は、図2に示すように底内コイル51の巻回方向(周方向)と直交するように保護枠2を構成する樹脂中に、好ましくは均等な間隔で複数(好ましくは3本以上、ここでは4本)配置されている。
それぞれの内フェライト61は、底内コイル51までの距離が同一となるように、すなわち底内コイル51の巻幅方向(巻回方向と直交する方向)と平行に配置されている。このように配置されることにより、複数の内フェライト61は、底内コイル51より発生した磁束をそれぞれの内部に均等に誘導して、鍋3の底部31の中央部周囲31aの温度分布を均等にすることができる。
【0029】
また、それぞれの内フェライト61は、延在方向(長手方向)の長さL1が底内コイル51の巻幅W1よりも長く形成され、図2に示すように底内コイル51の巻回方向及び巻幅方向に対して垂直方向から見たとき、それぞれの内フェライト61が底内コイル51を完全にまたぐように配置されている。このように配置されることにより、複数の内フェライト61は、効果的に磁束の漏れを防止し、当該磁束を鍋3の加熱に寄与させることができ、鍋3の加熱効率を向上させることができる。これに対して、それぞれの内フェライト61の延在方向の長さL1が底内コイル51の巻幅W1よりも短いときには、コイルの磁束はそのコイルの最内周部及び最外周部により多く発生する性質があるため、磁束の漏れが多くなり、鍋3の加熱効率が低下する恐れがある。
【0030】
外フェライト62は、図1に示すように、底外コイル52より鍋3から離れる側で保護枠2に一体成形された高透磁率を有する直線状の棒体(例えば長方体)である。外フェライト62は、図2に示すように底外コイル52の巻回方向と直交するように保護枠2を構成する樹脂中に、好ましくは均等な間隔で内フェライト61と同数(ここでは4本)配置されている。外フェライト62と内フェライト61とは、高周波電流が流れたときに両者が振動しても接触しないように十分な距離を空けて配置されている。外フェライト62と底外コイル52との隙間(最短距離)は、内フェライト61と底内コイル51との隙間(最短距離)とほぼ同一となるように設定されている。
【0031】
それぞれの外フェライト62は、内フェライト61と同じ大きさ(太さ及び長さ(L1=L2))に形成されている。すなわち、内フェライト61と外フェライト62には、同一構成のフェライトが使用されている。また、それぞれの外フェライト62は、底外コイル52の最外周の巻線と最内周の巻線とを結ぶ直線52Lに略平行に配置されている。このように配置されることにより、複数の外フェライト62は、底外コイル52より発生した磁束をそれぞれの内部に均等に誘導して、鍋3の底部31のコーナー部31bの温度分布を均等にすることができる。
【0032】
また、それぞれの外フェライト62は、延在方向(長手方向)の長さL2が底外コイル52の巻幅W2よりも長く形成され、図2に示すように底外コイル52の巻回方向及び巻幅方向に対して垂直方向から見たとき、それぞれの外フェライト62が底外コイル52を完全にまたぐように配置されている。このように配置されることにより、複数の外フェライト62は、効果的に磁束の漏れを防止し、当該磁束を鍋3の加熱に寄与させることができる。これに対して、それぞれの外フェライト62の延在方向の長さL2が底外コイル52の巻幅W2よりも短いときには、コイルの磁束はそのコイルの最内周部及び最外周部により多く発生する性質があるため、磁束の漏れが多くなり、鍋3の加熱効率が低下する恐れがある。
【0033】
また、それぞれの外フェライト62は、図2に示すように、それぞれの内フェライト61の延在方向の延長線上に延在するように配置されている。磁束はフェライトの一端面から他端面に向けて流れるため、それらの端面に集中しやすい。このため、磁束の漏れはフェライトの端面に発生しやすい。上記のように内フェライト61及び外フェライト62が配置されることにより、一方のフェライトの端面から漏れた磁束を他方のフェライトに誘導して、効果的に磁束の漏れを防止することができる。これにより、当該磁束を鍋3の加熱に寄与させることができ、鍋3の加熱効率を向上させることができる。これに対して、外フェライト62が内フェライト61の延在方向の延長線上に延在するよう配置されていない場合には、内フェライト61及び外フェライト62の内部に誘導された磁束がそれぞれの端面から漏れて、鍋3の加熱効率が低下する恐れがある。
【0034】
反射枠63は、例えばアルミで形成された円筒状の部材である。反射枠63は、その上端部がそれぞれの外フェライト62の上端部よりも上に位置して、それぞれの内フェライト61と外フェライト62とを覆うように、保護枠2の鍋収納部22の外周部に取り付けられている。
【0035】
本発明の実施形態にかかる炊飯器は、以上のように構成されている。
次に、底内コイル51と底外コイル52と内フェライト61と外フェライト62とが保護枠2に一体成形されるときの、保護枠2の鍋収納部22の成形工程の一例を、図3A〜図3Dを参照しつつ説明する。図3A〜図3Dは、保護枠2の鍋収納部22の成形工程の各工程を示す一部断面図である。
【0036】
まず、保護枠2の鍋収納部22の成形に用いる保護枠成形用金型8の構成について、図3Aを参照しつつ説明する。
保護枠成型用金型8は、保護枠2の鍋収納部22の内面に対応するよう形成された第1金型81と、保護枠2の鍋収納部22の外面に対応するように形成された第2金型82とで構成されている。
【0037】
第1金型81には、底内コイル51及び底外コイル52をそれぞれ吸引保持可能なコイル用吸引ノズル83が挿脱自在に貫通する連通通路81aが形成されている。連通通路81aのコイル保持側の入り口部分は、保護枠2を構成する樹脂が入り込まないように狭くなっている。コイル用吸引ノズル83は、底内コイル51及び底外コイル52を吸引保持しない側の端部を図示しない吸引装置に接続され、当該吸引装置が発生させる吸引力により底内コイル51及び底外コイル52を吸引保持するよう構成されている。なお、ここでは、コイル用吸引ノズル83により底内コイル51と底外コイル52とを吸引保持するとき、それらをフィルム状部材85に保持させ、当該フィルム状部材85を吸引保持するようにしている。
【0038】
第2金型82には、それぞれの内フェライト61とそれぞれの外フェライト62とを吸引保持可能なフェライト用吸引ノズル84が挿脱自在に貫通する連通通路82aが形成されている。連通通路82aのフェライト保持側の入り口部分は、保護枠2を構成する樹脂が入り込まないように狭くなっている。フェライト用吸引ノズル84は、内フェライト61及び外フェライト62を吸引保持しない側の端部を図示しない吸引装置に接続され、当該吸引装置が発生させる吸引力によりそれぞれの内フェライト61及び外フェライト62を吸引保持するよう構成されている。
【0039】
また、第2金型82には、保護枠2を構成する樹脂を射出する射出装置86が挿脱される樹脂射出通路82bが形成されている。
以上のように保護枠成型用金型8は構成されている。
以下、保護枠2の成形工程について説明する。
【0040】
まず、図3Aに示すように、第1金型81の連通通路81aにコイル用吸引ノズル83を挿入し、コイル用吸引ノズル83の端部に接続された図示しない吸引装置より吸引力を発生させて、コイル用吸引ノズル83により底内コイル51及び底外コイル52を吸着保持する。この動作に前後して、第2金型82の連通通路82aにフェライト用吸引ノズル84を挿入し、フェライト用吸引ノズル84の端部に接続された図示しない吸引装置より吸引力を発生させて、フェライト用吸引ノズル84により内フェライト61及び外フェライト62を吸着保持する。
【0041】
次いで、図3Bに示すように第1金型81と第2金型82とを合わせるとともに、コイル用吸引ノズル83及びフェライト用吸引ノズル84の位置を調整して、底内コイル51、底外コイル52、内フェライト61、及び外フェライト62を所定の位置に位置決めする。
【0042】
次いで、図3Cに示すように、射出装置86を樹脂射出通路82bに挿入して、第1金型81と第2金型82との間にできる空間に射出装置86により樹脂を充填する。
【0043】
次いで、樹脂がある程度硬化して、各コイル51,52、各フェライト61,62の位置が固定された状態で、図示しない吸引装置の吸引を止めて、コイル用吸引ノズル83とフェライト用吸引ノズル84とともに、第1金型81と第2金型82とを離す。これにより、図3Dに示すように、保護枠2の鍋収納部22の成形が完了する。
【0044】
上記実施形態にかかる炊飯器によれば、底内コイル51と底外コイル52により発生した磁束の漏れを防止するのに、底内コイル51に対応して直線状の棒体の内フェライト61を設けるとともに、底外コイル52に対応して直線状の棒体の外フェライト62を設けている。すなわち、従来に比べてフェライトの長さを短く(2つに分割)するとともにR形状の部分が無いように構成している。この構成により、フェライトを保護枠にインサート成形により一体成形するときに生じるフェライトの割れを従来に比べて大幅に抑えることが可能となるため、ビビリ音の発生も大幅に抑えられる。
【0045】
また、上記実施形態にかかる炊飯器によれば、従来の構成に比べてフェライトの数が2倍になっているので、その端面の数も2倍になっている。上記したように磁束はフェライトの両端面に集中しやすいので、磁束が集中する箇所は従来に比べて2倍になる。つまり、磁束が集中する箇所が分散されることとなり、鍋3の温度分布をより均等にすることができる。
なお、内フェライト61と外フェライト62との距離が近すぎると、互いに対向するそれらの端面から流れ出た磁束が互いに打ち消し合って磁束が集中せずに、鍋3の温度分布が不均一になる恐れがある。このため、外フェライト62と内フェライト61とは、一方のフェライトの端面から漏れた磁束を他方のフェライトに誘導することができて磁束の漏れが発生しない程度に、一定の距離をおいて配置されることが好ましい。
【0046】
また、上記実施形態にかかる炊飯器によれば、内フェライト61と外フェライト62とに同一構成のフェライトを使用しているので、それぞれに対応する専用のフェライトを製造することに比べて汎用性が高まり、コストダウンが可能となる。また、内フェライト61と外フェライト62との間に隙間(距離)を空ける構成にしているので、その隙間に相当する分、従来の構成に比べてフェライトの総体積を減らすことができ、コストダウンが可能となる。
【0047】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。
例えば、上記実施形態では、磁性部材としてフェライトを一例に挙げたが、アモルファスであってもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、内フェライト61と外フェライト62とを同じ大きさに形成するようにしたが、底内コイル51よりも底外コイル52の直径が大きいためインダクタンス値が大きく、底内コイル51側よりも底外コイル52側の方が磁束が漏れやすい傾向があるため、例えば、図4に示すように、内フェライト61よりも外フェライト62の太さを太くしてもよい。また、図5に示すように、内フェライト61よりも外フェライト62の本数を多くしてもよい。すなわち、それぞれの外フェライト62をコイルの巻幅方向と直交する面(すなわち巻回方向と平行な面)で切った断面積の総和が、それぞれの内フェライト61を巻幅方向と直交する面で切った断面積の総和よりも大きくなるようにしてもよい。なお、この場合でも、鍋3の温度分布を均等にするため、内フェライト61と外フェライト62とは、コイルの巻回方向に均等な間隔で配置されることが好ましい。
【0049】
また、上記実施形態では、外フェライト62と底外コイル52との隙間が内フェライト61と底内コイル51との隙間とほぼ同一となるように外フェライト62を配置したが、本発明はこれに限定されない。フェライトはコイルに近づければ近づけるほど磁束を集めて鍋3の加熱に寄与させることができる性質を有しているので、フェライトをコイルに近づけることで、磁束の漏れを防止して鍋3への火力を強くすることが可能となる。すなわち、フェライトとコイルとの距離を調整することで鍋3の温度分布を調整することが可能となる。また、上記したように磁束は底内コイル51側よりも底外コイル52側の方が漏れやすい傾向があるので、底内コイル51側の鍋3の火力が弱くなりやすい。このため、図6及び図7の点線で示すように、外フェライト62と底外コイル52との隙間が内フェライト61と底内コイル51との隙間よりも小さくなるようにそれぞれ外フェライト62を配置してもよい。このように外フェライト62を配置するには、上記した保護枠2の成形時に、外フェライト62を吸引保持するフェライト用吸引ノズル84の位置を調整すればよい。
【0050】
なお、図8に示すように、1つのフェライト6Aで底内コイル51及び底外コイル52の両方から発生する磁束を誘導する従来の構成においては、フェライト6Aの底外コイル52と対向する部分を底外コイル52に近づくように平行に移動させると、図8の点線で示すように、フェライト6Aの底内コイル51と対向する部分も上記移動に連動して底内コイル51に近づくように移動することとなる。したがって、フェライト6Aの底外コイル52と対向する部分のみを底外コイル52に近づくように平行に移動させることはできない。
【0051】
一方、フェライトは、インサート成形前と後とでその特性が変わることがある。すなわち、インサート形成前の設計段階において想定していた鍋3の温度分布が、インサート成形後では得られない場合がある。このような場合、フェライトの位置を調整することで鍋3の温度分布を調整する方法が有効である。上記実施形態においては、上記したように内フェライト61と外フェライト62とを別々に位置調整することが可能であるので、従来の構成に比べて鍋3の温度分布の調整が容易である。
【0052】
また、上記実施形態では、底内コイル51の巻幅方向(巻回方向と直交する方向)と平行に内フェライト61を配置したが、本発明はこれに限定されない。上記したように磁束はフェライトの端面に集中しやすいため、それぞれの内フェライト61の端面が互いに対向する領域(底内コイル51の巻回中心軸の近傍領域)に磁束が集中して、鍋3の底部31の中央部分の温度が上がり過ぎる場合がある。このため、図9に示すように、内フェライト61が底内コイル51の巻回中心軸に近づくに従い底内コイル51から遠ざかるように配置されてもよい。すなわち、鍋3の温度分布を調整するために、底内コイル51と内フェライト61との相対角度を調整してもよい。このような調整も、上記実施形態においては内フェライト61と外フェライト62とを別々に位置調整することが可能であるので、従来の構成に比べて容易である。
【0053】
また、上記実施形態では、炊飯制御部7は蓋体4の内部に配置されるものとしたが、炊飯器本体1の内部に配置されても良い。また、炊飯制御部7を2つ以上に分割し、蓋体4の内部と炊飯器本体1の内部とに配置されても良い。
【0054】
また、上記実施形態では、底内コイル51と底外コイル52とは、それぞれ独立した別個の部材としたが、それらを直列に接続しても良い。直列に接続した場合には、底内コイル51と底外コイル52とは、1つのコイルとして炊飯制御部7により制御される。
【0055】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明にかかる炊飯器は、磁性部材を保護枠の樹脂内に一体成形するときに生じる磁性部材の割れの発生を抑えて、ビビリ音の発生を抑えることができるので、炊飯器本体の内部に収納された鍋を誘導加熱する炊飯器として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態にかかる炊飯器の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる炊飯器における各誘導加熱コイルと各フェライトの配置関係を示す模式説明図である。
【図3A】本発明の実施形態にかかる炊飯器において、保護枠の鍋収納部の成形工程の一工程を示す一部断面図である。
【図3B】本発明の実施形態にかかる炊飯器において、保護枠の鍋収納部の成形工程の一工程を示す一部断面図である。
【図3C】本発明の実施形態にかかる炊飯器において、保護枠の鍋収納部の成形工程の一工程を示す一部断面図である。
【図3D】本発明の実施形態にかかる炊飯器において、保護枠の鍋収納部の成形工程の一工程を示す一部断面図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる炊飯器における各誘導加熱コイルと各フェライトの他の配置関係を示す模式説明図である。
【図5】本発明の実施形態にかかる炊飯器における各誘導加熱コイルと各フェライトのさらに他の配置関係を示す模式説明図である。
【図6】本発明の変形形態にかかる炊飯器の概略構成を示す断面図である。
【図7】本発明の変形形態にかかる炊飯器における各誘導加熱コイルと各フェライトの配置関係を示す一部拡大断面図である。
【図8】従来の炊飯器における各誘導加熱コイルとフェライトの配置関係を示す一部拡大断面図である。
【図9】本発明の他の変形形態にかかる炊飯器の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 炊飯器本体
2 保護枠
21 上枠
22 鍋収納部
3 鍋
31 底部
32 フランジ部
4 蓋体
41 外蓋部
42 内蓋部
43 発熱板
44 蒸気穴
5 誘導加熱ユニット
51 底内コイル
52 底外コイル
53 側部コイル
54 蓋部コイル
6 磁束漏れ防止部
61 内フェライト
62 外フェライト
7 炊飯制御部
71 鍋底温度センサ
8 保護枠成形用金型
81 第1金型
82 第2金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に開口が形成された炊飯器本体と、
上記炊飯器本体の内部に鍋収納部を形成しかつ樹脂により一体成形された保護枠と、
上記鍋収納部に収納される鍋と、
上記開口を開閉自在に覆う蓋体と、
上記鍋の底部の中央部周囲の部分に対向するように上記保護枠の一体成型時に上記樹脂内に固定され、上記鍋を誘導加熱する第1の誘導加熱コイルと、
上記鍋の底部のコーナー部に対向するように上記保護枠の一体成型時に上記樹脂内に固定され、上記鍋を誘導加熱する第2の誘導加熱コイルと、
上記第1の誘導加熱コイルの巻回方向と直交するように配置されるとともに上記第1の誘導加熱コイルより上記鍋から離れる側で上記保護枠の一体成型時に上記樹脂内に固定され、上記第1の誘導加熱コイルより発生した磁束の漏れを防止する複数の直線状の棒体である第1の磁性部材と、
上記第2の誘導加熱コイルの巻回方向と直交するように配置されるとともに上記第2の誘導加熱コイルより上記鍋から離れる側で上記保護枠の一体成型時に上記樹脂内に固定され、上記第2の誘導加熱コイルより発生した磁束の漏れを防止する、上記第1の磁性部材とは異なる複数の直線状の棒体である第2の磁性部材と、
を備えた炊飯器。
【請求項2】
上記第1の磁性部材の延在方向の長さが、上記第1の誘導加熱コイルの巻幅よりも長い、請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
上記第2の誘導加熱コイルの延在方向の長さが、上記第2の誘導加熱コイルの巻幅よりも長い、請求項1又は2に記載の炊飯器。
【請求項4】
上記それぞれの第2の磁性部材を上記巻幅方向と直交する面で切った断面積の総和が、上記それぞれの第1の磁性部材を上記巻幅方向と直交する面で切った断面積の総和よりも大きい、請求項1〜3のいずれか1つに記載の炊飯器。
【請求項5】
上記第2の磁性部材は、上記第1の磁性部材よりも数が多い、請求項4に記載の炊飯器。
【請求項6】
上記第2の磁性部材は、上記第1の磁性部材よりも太さが太い、請求項4に記載の炊飯器。
【請求項7】
上記第1の磁性部材の延在方向の延長線上に上記第2の磁性部材が延在するよう配置されている、請求項1〜6のいずれか1つに記載の炊飯器。
【請求項8】
上記第1の磁性部材が上記第1の誘導加熱コイルの巻幅方向に平行に配置されるとともに、上記第2の磁性部材が上記第2の誘導加熱コイルの最外周の巻線と最内周の巻線とを結ぶ直線に略平行に配置されている、請求項1〜7のいずれか1つに記載の炊飯器。
【請求項9】
上記第1の磁性部材が上記第1の誘導加熱コイルの巻回中心軸に近づくに従い上記第1の誘導加熱コイルから遠ざかるように配置されるとともに、上記第2の磁性部材が上記第2の誘導加熱コイルの最外周の巻線と最内周の巻線とを結ぶ直線に略平行に配置されている、請求項1〜7のいずれか1つに記載の炊飯器。
【請求項10】
上記第2の誘導加熱コイルと上記第2の磁性部材との最短距離が、上記第1の誘導加熱コイルと上記第1の磁性部材との最短距離よりも小さい、請求項1〜9のいずれか1つに記載の炊飯器。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−188159(P2008−188159A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24130(P2007−24130)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】