説明

炊飯器

【課題】炊飯器において、胚芽米、分づき米を含む玄米を炊飯するとき、γ−アミノ酪酸の生成を効率よく高め、生成したγ−アミノ酪酸を水に溶出させることなく、全て含有させ、食味も良好なご飯を得ること。
【解決手段】玄米専用の前処理工程を炊飯工程として備え、前処理工程時に、蒸気発生手段により発生させた100℃以上130℃以下の蒸気を、鍋内部に1分以上3分以下投入し、蒸気の投入を間欠的に繰り返すことにより、鍋内部の玄米の含水率を高めるとともに、酵素も活性化し、γ−アミノ酪酸を効率よく生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、玄米や分づき米や胚芽米を含む米類に含まれるアミノ酸の一種であるγ−アミノ酪酸は、血液の流れを活発にし、代謝機能を促進する働きがあることから、血圧上昇抑制効果や腎機能や肝機能を改善する効果があり、健康志向の高まりとともに注目されてきている。
【0003】
一般に、嫌気処理されたグルタミン酸が、酵素(グルタミン酸脱炭酸酵素)の働きにより、脱炭酸され、γ−アミノ酪酸が生成されることが知られている。
【0004】
よって、玄米等の米類では、20℃〜30℃の温水に1〜2晩漬け発芽させることにより、酵素の働きが活性化し、γ−アミノ酪酸が増量する。
【0005】
そこで、炊飯器において、玄米、分づき米を含む胚芽米を20℃以上60℃以下、15分以上3時間以内で、水に浸漬して発芽させる発芽工程を設けることにより、家庭で簡単に発芽米を作り、γ−アミノ酪酸を増やして、引き続き炊飯することができるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3484391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成では、発芽工程で胚芽米等を水に浸漬させる必要があり、このとき生成されたγ−アミノ酪酸が水に溶出してしまう。また、γ−アミノ酪酸を生成する酵素は、浸漬させる水温や時間により、その活性度は異なり、生成されるγ−アミノ酪酸量は大きく異なることから、最も効率のよい水温と浸漬時間に制御するには、浸漬水の水温を制御しなければならず、効率的に生成させることは難しい。
【0007】
また玄米では、表層の果皮・種皮が硬く、発芽工程時60℃以下の温度では、炊飯したとき、軟らかくなりにくく、果皮・種皮の残さが残り、食感が悪くなる。胚芽米や分づき米のおいても、玄米ほどではないが、食感が悪くなる傾向がある。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、γ−アミノ酪酸の生成を効率化し、生成されたγ−アミノ酪酸を水に溶出させることなく、全てご飯に含有させ、水を貯水する水タンクを有し、前処理工程終了後、水タンクから炊飯水を鍋内部に投入することにより、引き続き炊き上げ・むらし工程も効率よく行うことができ、手間なく、おいしいご飯も同時に得ることができるようにした炊飯器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の炊飯器は、蒸気発生手段により、玄米が設置された鍋内部に蒸気を間欠的に投入することができるようにしたものである。
【0010】
これにより、前処理工程を炊飯工程として有する炊飯器において、前処理工程時に玄米が設置された鍋内部に蒸気を投入することにより、短時間で目的温度への昇温を可能にし、さらに鍋内部の酸素濃度を蒸気の投入により、低下させることができ、γ−アミノ酪酸を効率よく生成させる嫌気状態を実現し、さらに蒸気を間欠的に投入することにより、γ
−アミノ酪酸の生成をさらに効率化することができる。
【0011】
このとき、玄米は水に浸漬していないので、生成されたγ−アミノ酪酸は、水中に溶出されることなく、全て玄米内部に留めることができる。
【0012】
つまり、玄米が設置された鍋内に間欠的に蒸気を投することにより、γ−アミノ酪酸を効率よく生成させ、水に溶出されることなく、水を貯水する水タンクを有し、引き続き炊き上げ、むらし工程を行うことが可能となり、手間なく、γ−アミノ酪酸が大幅に増えたおいしいご飯を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炊飯器は、効率よく生成したγ−アミノ酪酸を水に溶出させることなく、全て玄米内部に留め、γ−アミノ酪酸が増えたおいしいご飯を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
第1の発明は、内鍋と、前記内鍋を加熱する加熱手段と、前記内鍋の温度を測定する温度測定手段と、前記内鍋の温度に基づいて前記加熱手段に与える電力を制御する制御手段と、玄米専用の前処理工程を炊飯工程として備え、水を貯水する水タンクと前記水タンクの水を前記内鍋内部に供給する給水手段と前記内鍋内部に蒸気を発生させる蒸気発生手段を備え、前記蒸気発生手段により発生させた蒸気を加熱する蒸気加熱手段と前記蒸気温度を測定する蒸気温度測定手段と前記蒸気温度測定手段が測定した前記蒸気温度に基づき、前記制御手段にて、前記蒸気加熱手段に与える電力を制御し、前記前処理工程時に、前記鍋内部に間欠的に蒸気を投入することを特徴とする炊飯器とすることにより、鍋内部を短時間で昇温しつつ、間欠的な蒸気投入で、水分を補給しつつ、鍋内部の温度を最適値に維持することができ、内鍋内部に収納された米類の含水率が上昇し、酵素が活性化し、内部のグルタミン酸が代謝されて、γ−アミノ酪酸が生成され、水に浸漬させたときのように、増量されたγ−アミノ酪酸が玄米内部から溶出されることなく、γ−アミノ酪酸量を増やすことができる。また、蒸気の投入により、炊飯器内部は60℃以上の高温で維持され、表層の軟化が著しく促進する。
【0015】
第2の発明は、特に第1の発明において、玄米は、胚芽米、分づきき米を含むことを特徴とすることにより、玄米だけでなく胚芽米、分づき米においても、玄米同様の効果を得ることがきできる。
【0016】
第3の発明は、特に第2の発明において、蒸気を、100℃以上130℃以下で一定時間維持できるように、制御手段を制御することにより、さらに鍋内部を短時間で昇温することが可能になり、鍋内部の空間が、100℃以上の蒸気で置換されることにより嫌気状態になり、γ−アミノ酪酸を効率よく増やすことができる。
【0017】
第4の発明は、特に第3の発明において、蒸気を1分以上3分以下維持することにより、鍋内部の玄米などの酵素の活性が失活しない範囲内の温度での加熱を可能にし、生成されたγ−アミノ酪酸の溶出も最小限に抑制し、効率よくγ−アミノ酪酸を増やすことができる。
【0018】
第5の発明は、特に第4の発明において、蒸気を、10分以上30分以下の間隔をおいて、間欠的に鍋内に投入することにより、酵素の活性は失活しない範囲内の温度での加熱を繰り返し実施することができる。
【0019】
第6の発明は、特に第5の発明において、水タンクを加熱する水タンク加熱手段を備え、前処理工程のあとに、水タンク加熱手段により、予め加熱しておいた水タンクの水を、
給水手段により、鍋内部に供給することにより、継続して、効率よく炊き上げ・むらし工程を行うことができ、より手間なく、短時間でγ−アミノ酪酸が増量した炊飯米を得ることができる。
【0020】
以下、本実施の形態について、図を用いて説明する。尚、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における炊飯器を示すものである。
【0022】
図1に示すように本実施の形態における炊飯器は、調理物(玄米等)を収容する内鍋10と、この内鍋10を加熱して、調理物の調理を行う電磁加熱コイルなどからなる加熱手段11と、内鍋10の温度を測定する温度センサーからなる温度測定手段12と、温度測定手段12が測定した内鍋10の温度に基づいて、炊飯の各工程を順次実行できるように、加熱手段11に与える電力を制御する制御部13とを備えている。
【0023】
また、内鍋10とは別に、水を貯水しておく水タンク14を備え、この水タンク14からポンプ16により、蒸気発生室17に水が供給され、蒸気発生室加熱手段18により、蒸気が生成される。蒸気発生室17に供給される水の流量は、流量調節器19にて調節される。生成された蒸気は、蒸気通路パイプ20にて、内鍋10上部の蒸気加熱室21に送られ、その後内鍋10内部の調理物に噴射される。
【0024】
蒸気加熱室21に与える電力は、蒸気の温度を測定する温度センサーからなる蒸気温度測定手段23が測定した蒸気の温度に基づいて、制御部13にて制御される。
【0025】
ここで、玄米3合(444g)を内鍋10に収納した場合を例にとって、本実施の形態1における炊飯器の炊飯工程を説明する。
【0026】
まず、内鍋10に玄米を収納し、炊飯開始ボタンを押すことにより炊飯が開始される。
【0027】
すなわち、温度測定手段12で測定した内鍋10の温度に基づいて、炊飯工程の玄米専用の前処理工程、炊き上げ、むらしの各工程が実行される。まず、前処理工程においては、水タンク14から蒸気発生室17に供給された水を用いて、蒸気発生室加熱手段18により、蒸気が生成され、生成された蒸気は、蒸気通路パイプ20を通過して、蒸気加熱室21に送られ、蒸気加熱室21では、蒸気温度測定手段23の情報に基づいて、蒸気温度が130℃になるように制御部13にて制御される。130℃に加熱された蒸気は、内鍋10内部の玄米に1分間噴射され、その後10分間隔で、1分間噴射が4回繰り返され前処理工程が終了し、さらに、水タンク14にて予め加熱された炊飯に必要な水が、内鍋10内部に供給され、炊き上げ、むらしの各工程が行われ、炊飯が終了する。
【0028】
図2に示したように、本実施の形態1の炊飯器で炊飯終了後得られた玄米ご飯から抽出されたγ−アミノ酪酸の遊離量は、従来の炊飯器と比較すると180%に増量していた。また、本実施の形態1の炊飯器で炊飯終了後得られた玄米ご飯は、従来の炊飯器と比較して食感がよく、軟らかくなっていた。
【0029】
これは、次の理由によるものである。
【0030】
図3に示したように、玄米乾米1gあたりに含まれるγ−アミノ酪酸量は、水温が25℃より、60℃や75℃の高温時の方が多くなる。一般に酵素は、25℃〜40℃あたりに、その至適温度(最も活性が高い温度)があるとされているが、玄米では、その酵素は
、玄米組織の内部に存在しており、浸水させた水温の影響をダイレクトに受けにくく、結果的にγ−アミノ酪酸を多く生成する温度と酵素そのものの至適温度(最も活性が高い温度)とは、その温度帯がずれる。よって、25℃〜40℃より高温の60℃や75℃において、γ−アミノ酪酸量が多くなったと考えられる。
【0031】
但し、60℃と75℃を比較すると75℃の方がその含有量は少なくなっており、75℃になるとその活性は下がってくると考えられる。
【0032】
図4は、内鍋内部に蒸気を投入したときの内鍋内部にある玄米の温度変化を示しており、前処理工程開始するとまず、鍋内部に蒸気を投入する準備が行われ、約5分後蒸気が1分間鍋内部に投入され、玄米温度が75℃近くまで上昇する。その後、10分間隔で1分間蒸気が投入されることにより、玄米は常に60℃〜75℃に保持される。
【0033】
また、60℃より75℃で加熱することで含水率が上昇することから、1分間の蒸気投入により、玄米の温度が約75℃まで上昇することは、吸水促進につながり、吸水促進により酵素が活性化され、その後10分間蒸気投入を止めることにより、玄米の温度はそれ以上上昇することなく、75℃以上の高温での酵素活性の低下は押さえつつ、60℃以上の高温での酵素の活性化が保持され、結果効率よくγ−アミノ酪酸が生成されたと考えられる。
【0034】
一般にγ−アミノ酪酸は、嫌気処理により効率よく生成されると言われており、本発明の実施の形態1において、炊飯器内部の上部空間に蒸気が投入されることにより、炊飯器内部は嫌気状態になり、水に浸漬させて、嫌気状態にしなくても、γ−アミノ酪酸が効率よく生成されたと考えられる。
【0035】
さらに、玄米の温度を60℃〜75℃に保持することにより、玄米の表層が熱により脆弱化し、炊き上げ、むらしを行い得られた玄米ご飯は、従来の炊飯器と比較して、軟らかく、果皮・種皮の残さも少なく軟らかくなってなったと考えられる。
【0036】
また、本発明の実施の形態1においては、前処理後、水タンク加熱手段により、予め加熱された水が鍋内にされることにより、炊き上げ、むらし工程が効率よく実施され、γ−アミノ酪酸が増量し、軟らかく、食感もよい玄米ご飯を手間なく得ることができる。
【0037】
以上述べたところから明らかなように、本実施の形態1の炊飯器は、内鍋と、内鍋を加熱する加熱手段と、内鍋の温度を測定する温度測定手段と、内鍋の温度に基づいて加熱手段に与える電力を制御する制御手段と、玄米専用の前処理工程を炊飯工程として備え、水を貯水する水タンクと前記水タンクの水を内鍋内部に供給する給水手段と内鍋内部に蒸気を発生させる蒸気発生手段を備え、蒸気発生手段により発生させた蒸気を加熱する蒸気加熱手段と蒸気温度を測定する蒸気温度測定手段と蒸気温度測定手段が測定した蒸気温度に基づき、制御手段にて、蒸気加熱手段に与える電力を制御し、前処理工程時に、蒸気発生手段により発生させた100℃以上130℃以下の蒸気を、鍋内に1分以上3分以下投入し、蒸気の投入を間欠的に繰り返すことにより、鍋内の玄米の含水率を高めるとともに、酵素も活性化し、γ−アミノ酪酸を効率よく生成させることができる。
【0038】
また、水に浸漬させていないので、増量させたγ−アミノ酪酸が水に溶出されることなく、玄米内部に留めることができ、蒸気により玄米の表層が脆弱化され、引き続き炊き上げ、むらしを行い得られたご飯は、軟らかく、食感もよく、食味も向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上のように、本発明にかかる炊飯器は、食品以外の有機物を加熱するとき、反応に応じて、水を添加したり、加熱温度や時間を変えることができ、さらに、蒸気を噴射しながら加熱反応を行う用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態1の炊飯器の断面図
【図2】炊き上がったご飯に関するデータを示す図
【図3】浸水温度と玄米に含有されるγ−アミノ酪酸量の関係を示す図
【図4】前処理工程での玄米の温度変化を示す図
【符号の説明】
【0041】
10 内鍋
11 加熱手段
12 温度測定手段
13 制御部
14 水タンク
15 水タンク加熱手段
16 ポンプ
17 蒸気発生室
18 蒸気発生室加熱手段
19 流量調整器
20 蒸気通路パイプ
21 蒸気加熱室
22 蒸気加熱室加熱手段
23 蒸気温度測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内鍋と、前記内鍋を加熱する加熱手段と、前記内鍋の温度を測定する温度測定手段と、前記内鍋の温度に基づいて前記加熱手段に与える電力を制御する制御手段と、玄米専用の前処理工程を炊飯工程として備え、水を貯水する水タンクと前記水タンクの水を前記内鍋内部に供給する給水手段と前記内鍋内部に蒸気を発生させる蒸気発生手段を備え、前記蒸気発生手段により発生させた蒸気を加熱する蒸気加熱手段と前記蒸気温度を測定する蒸気温度測定手段と前記蒸気温度測定手段が測定した前記蒸気温度に基づき、前記制御手段にて、前記蒸気加熱手段に与える電力を制御し、前記前処理工程時に、前記蒸気発生手段により発生させた蒸気を前記鍋内部に間欠的に投入することを特徴とする炊飯器。
【請求項2】
玄米は、胚芽米、分づき米を含むことを特徴とする請求項1記載の炊飯器。
【請求項3】
蒸気を、100℃以上130℃以下で一定時間維持するように、前記制御手段を制御することを特徴とする請求項2記載の炊飯器。
【請求項4】
蒸気を1分以上3分以下維持することを特徴とする請求項3記載の炊飯器。
【請求項5】
蒸気を、10分以上30分以下の間隔をおいて、間欠的に鍋内部に投入することを特徴とする請求項4記載の炊飯器。
【請求項6】
水タンクを加熱する水タンク加熱手段を備え、前処理工程のあとに、水タンク加熱手段により、予め加熱しておいた水タンクの水を、給水手段により、鍋内部に供給することを特徴とする請求項5記載の炊飯器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−88645(P2010−88645A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261435(P2008−261435)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】