説明

炭化水素濃度測定装置用校正装置

【課題】測定対象ガスを透過した光の強度に基づいて測定対象ガスに含まれる炭化水素のうちアルカンおよびアルケンからなるグループ、芳香族炭化水素からなるグループ、アルキンからなるグループ、に属する炭化水素の濃度を測定する炭化水素濃度測定装置の校正を行うことが可能な炭化水素濃度測定装置用校正装置を提供する。
【解決手段】校正装置200に、燃料を供給する燃料供給装置210と、燃焼用ガスを供給可能なガス供給装置220と、燃料および燃焼用ガスを混合した状態で気化して混合ガスを生成する気化装置240と、混合ガスが内部空間を通って上流端部から下流端部に向かって移動する反応管260と、反応管260の内部空間に供給された混合ガスを加熱することにより燃焼させて校正用ガスを生成する加熱装置270と、を具備し、反応管260において加熱装置270が配置される部分よりも下流端部側となる位置にガス容器40を接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素のうち、(a)アルカンおよびアルケンからなるグループ、(b)芳香族炭化水素からなるグループ、(c)アルキンからなるグループ、がそれぞれ異なる波長帯の光を吸収する性質を利用し、各グループに対応する波長帯の光の吸収量に基づいて測定対象ガスに含まれる各グループに属する炭化水素濃度の和を測定する炭化水素濃度測定装置を校正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の排気ガスに含まれる炭化水素の濃度を測定する技術を測定原理で分類すると、代表的なものとしては水素炎イオン化法(Flame Ionization Detector;FID)を用いるもの、非分散形赤外線分析法(Non−Dispersive Infrared Analyzer)を用いるものが知られている。
【0003】
しかし、水素炎イオン化法を用いる技術は、実質的には測定の対象となるガスに含まれる炭素原子の個数をカウントするものであり、その測定精度自体は高いが測定の対象となるガスに含まれる炭化水素の化学種毎の組成を測定することはできないこと、リアルタイムでの計測に不向きであること、という問題を有する。
【0004】
また、非分散形赤外線分析法を用いる技術は、原理的には応答遅れの無いリアルタイムな炭化水素の非接触濃度計測が可能であるが、炭化水素はその種類毎に固有の吸収波長帯(吸収量が多い波長帯)を持っているので、測定対象となるガス中に含まれる炭化水素の種類毎に対応する波長帯の光を発生する光源および受光素子を用意する必要が生じる。
特に、自動車等の排気ガスに含まれる炭化水素の種類は場合によっては200種類を超えるため、全ての種類の炭化水素に対応する光源および受光素子を用意した場合には装置が非常に大型化し、かつ装置の製造コストが膨大なものとなるという問題を有する。
【0005】
上記問題を解消する技術として、出願人らは、「単数または複数の化学種からなる炭化水素を含むガスに前記単数または複数の化学種に共通の吸収領域を含む波長帯の光を照射する照射部と、前記照射部により前記ガスに照射された光を検出する検出部と、前記検出部により検出された光に基づいて前記共通の吸収領域の吸光度を算出し、当該吸光度に基づいて前記共通の吸収領域の波長帯の光を吸収する化学種の濃度の和を算出する解析部と、を具備する炭化水素濃度測定装置」を提案している(特願2007−289766号参照)。
この技術は、例えば炭化水素のうち、(a)アルカンおよびアルケンからなるグループ、(b)芳香族炭化水素からなるグループ、(c)アルキンからなるグループ、がそれぞれ異なる波長帯の光を吸収する性質を利用し、各グループに対応する波長帯の光の吸収量を検出することにより各グループに属する炭化水素の濃度(の和)を検出可能とし、装置に必要な光源および受光素子の数を減らし、装置の小型化を可能とする。
【0006】
しかし、上記出願人らが提案する炭化水素濃度測定装置を従来の測定装置の校正方法で容易かつ確実に校正することは困難であるという問題を有する。
【0007】
従来の測定装置の校正方法としては、含まれる炭化水素の種類が限定されたガス(例えば、プロパンガス)を校正用のガスとして用いる方法が知られているが、この方法では、測定対象となる炭化水素の種類が数百種類にも及ぶ上記出願人らが提案する炭化水素濃度測定装置を適切に校正することが出来ない。
【0008】
また、触媒の性能評価を行う装置として特許文献1に記載のガス分析試験装置が知られている。特許文献1に記載の装置は一酸化炭素濃度計、二酸化炭素濃度計、窒素酸化物濃度計、酸素濃度計、硫黄酸化物濃度計およびTHC計を有する。
しかし、特許文献1に記載の装置が有するTHC計は上記水素炎イオン化法を用いる測定機器であり、炭化水素を炭素量で検出する(測定値の単位はppmC)ため、そのまま上記出願人らが提案する炭化水素濃度測定装置の校正に応用することが出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−319006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、測定対象ガスを透過した光の強度に基づいて測定対象ガスに含まれる炭化水素のうちアルカンおよびアルケンからなるグループ、芳香族炭化水素からなるグループ、アルキンからなるグループ、のそれぞれが吸収する波長帯の光の吸収量を算出し、算出された各グループに対応する光の吸収量に基づいて各グループに属する炭化水素の濃度を測定する炭化水素濃度測定装置の校正を行うことが可能な炭化水素濃度測定装置用校正装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0012】
即ち、請求項1においては、
光を発生させる光源と、
前記光源により発生した光を周期的に波長変動させる分光器と、
前記分光器により波長変動された光の強度を検出する受光器と、
前記光源、前記分光器および前記受光器により形成される光路において前記分光器および前記受光器により挟まれる位置または前記光源および前記分光器により挟まれる位置に配置され、測定対象ガスを収容可能かつ前記光を透過可能なガス容器と、
前記受光器により検出された光の強度に基づいて、前記測定対象ガスに含まれる炭化水素のうちアルカンおよびアルケンからなるグループ、芳香族炭化水素からなるグループ、アルキンからなるグループ、のそれぞれが吸収する波長帯の光の吸収量を算出し、算出された各グループに対応する光の吸収量に基づいて各グループに属する炭化水素の濃度を算出する濃度算出装置と、
を具備する炭化水素濃度測定装置を校正する炭化水素濃度測定装置用校正装置であって、
燃料を供給可能な燃料供給装置と、
燃焼用ガスを供給可能なガス供給装置と、
前記燃料供給装置により供給される燃料および前記ガス供給装置により供給される燃焼用ガスを混合した状態で気化することにより混合ガスを生成する気化装置と、
上流端部が前記気化装置に接続され、前記気化装置により供給される前記混合ガスが内部空間を通って前記上流端部から下流端部に向かって移動する反応管と、
前記反応管の中途部に配置され、前記反応管の内部空間に供給された混合ガスを加熱することにより燃焼させ、校正用ガスを生成する加熱装置と、
を具備し、
前記反応管において前記加熱装置が配置される部分よりも下流端部側となる位置に前記ガス容器を接続することにより前記ガス容器に前記校正用ガスを収容するものである。
【0013】
請求項2においては、
前記反応管において前記加熱装置が配置される部分よりも下流端部側となる位置にガスクロマトグラフ質量分析装置を接続することにより前記校正用ガスを前記ガスクロマトグラフ質量分析装置に供給するものである。
【0014】
請求項3においては、
前記反応管において前記ガス容器が接続される部分よりも下流端部側となる位置にガスクロマトグラフ質量分析装置を接続することにより前記校正用ガスを前記ガスクロマトグラフ質量分析装置に供給するものである。
【0015】
請求項4においては、
前記反応管において前記加熱装置が配置される部分に対応する前記反応管の内部空間に配置され、前記加熱装置により加熱された状態で前記混合ガスに接触することにより前記混合ガスの燃焼を促進する燃焼促進部材を具備するものである。
【0016】
請求項5においては、
前記燃焼促進部材は、
複数の粒状のSiCを含むものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、測定対象ガスを透過した光の強度に基づいて測定対象ガスに含まれる炭化水素のうちアルカンおよびアルケンからなるグループ、芳香族炭化水素からなるグループ、アルキンからなるグループ、のそれぞれが吸収する波長帯の光の吸収量を算出し、算出された各グループに対応する光の吸収量に基づいて各グループに属する炭化水素の濃度を測定する炭化水素濃度測定装置の校正を行うことが可能である、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る炭化水素濃度測定装置用校正装置の実施の一形態を示す図。
【図2】本発明に係る炭化水素濃度測定装置の実施の一形態を示す図。
【図3】本発明に係る炭化水素濃度測定装置の実施の一形態の光学系を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、図2および図3を用いて本発明に係る炭化水素濃度測定装置の実施の一形態であるTHC測定装置100について説明する。
【0020】
図2に示すTHC測定装置100は、測定対象ガス1に含まれる炭化水素の濃度和(Total Hydrocarbon)を測定する装置である。
「測定対象ガス」は、少なくともその一部に炭化水素を含む気体を広く指す。「測定対象ガス」の具体例としては、自動車の排気ガス等が挙げられる。
測定対象ガスに含まれる炭化水素は必ずしも常温(25℃)かつ常圧(1気圧)において気化している必要はなく、例えば加熱することにより気化するものであっても良い。
「炭化水素」は、炭素と水素とからなる化合物である化学種を単数または複数種類含む。
炭化水素に含まれる化学種は、その構造からアルカン、アルケン、アルキン、芳香族炭化水素等に分類される。
「アルカン」は、一般式C2n+2(n;1以上の整数)で表される鎖状飽和炭化水素を指す。なお、本発明においてはシクロアルカンはアルカンに含まれるものとする。
「シクロアルカン」は、一般式C2n(n;3以上の整数)で表される環状飽和炭化水素を指す。
「アルケン」は、一般式C2n(n;2以上の整数)で表される鎖状不飽和炭化水素を指す。
「アルキン」は、一般式C2n−2(n;2以上の整数)で表される鎖状不飽和炭化水素を指す。
「芳香族炭化水素」は、単環または複数の環(縮合環)構造を有する炭化水素である。
【0021】
本実施形態のTHC測定装置100は、測定対象ガス1に含まれる炭化水素のうち、(a)アルカンおよびアルケンからなるグループ、(b)芳香族炭化水素からなるグループ、並びに、(c)アルキンからなるグループ、に属する炭化水素がそれぞれ異なる波長帯の光を吸収する性質を利用し、各グループに対応する波長帯の光の吸収量を検出することにより、各グループに属する炭化水素の濃度和を測定する。
なお、「アルカンおよびアルケンからなるグループに属する炭化水素が吸収する波長帯」は波数に換算して2800cm−1以上3000cm−1以下の波長帯であり、「芳香族炭化水素からなるグループに属する炭化水素が吸収する波長帯」は波数に換算して3000cm−1以上3200cm−1以下の波長帯であり、「アルキンからなるグループに属する炭化水素が吸収する波長帯」は波数に換算して3200cm−1以上3400cm−1以下の波長帯である。
【0022】
THC測定装置100は、フレーム110、光源側光学系ユニット120、ガス容器40、フォトダイオード30、チョッパ・分光器制御装置70、ロックインアンプ80およびデータ処理装置90を具備する。
【0023】
フレーム110はTHC測定装置100の他の部材、特に光学系を構成する部材の相対的な位置を保持するための構造体である。
フレーム110はベース部材111、ユニット支持部材112、容器支持部材113およびフォトダイオード支持部材114を具備する。
【0024】
ベース部材111はフレーム110の主たる構造体を成す部材である。フレーム110を構成する他の部材はベース部材111に固定される。
【0025】
ユニット支持部材112は光源側光学系ユニット120をベース部材111に固定する部材である。ユニット支持部材112の下端部はベース部材111に固定され、ユニット支持部材112の上端部は光源側光学系ユニット120に固定される。
【0026】
容器支持部材113はガス容器40をベース部材111に固定する部材である。容器支持部材113の下端部はベース部材111に固定され、容器支持部材113の上端部はガス容器40に固定される。
【0027】
フォトダイオード支持部材114はフォトダイオード30をベース部材111に固定する部材である。フォトダイオード支持部材114の下端部はベース部材111に固定され、フォトダイオード支持部材114の上端部はフォトダイオード30に固定される。
【0028】
光源側光学系ユニット120はTHC測定装置100の光学系のうち、ガス容器40よりも赤外ランプ10寄りに配置される部材をまとめたものである。
光源側光学系ユニット120はケース121、赤外ランプ10、第一集光レンズ61、光チョッパ50、コリメートレンズ62、分光器20および第二集光レンズ63を具備する。
【0029】
ケース121は箱状の部材であり、光源側光学系ユニット120を構成する他の部材を収容するとともに当該他の部材の相対的な位置関係を保持する。
ケース121はユニット支持部材112を介してベース部材111に固定される。
光源側光学系ユニット120に収容される各部材(THC測定装置100の光学系を成す部材)の詳細については後述する。
【0030】
ガス容器40は本発明に係るガス容器の実施の一形態であり、測定対象ガス1を収容する容器である。
本実施形態のガス容器40は胴体部材41、入口側窓部材42および出口側窓部材43を具備する。
【0031】
胴体部材41はガス容器40の主たる構造体を成す円筒形状の部材である。
胴体部材41は、後述する反応管260(図1参照)に接続され、胴体部材41の内部を測定対象ガス1(ここでは、排気ガス)が通過する。胴体部材41は容器支持部材113を介してベース部材111に固定される。
【0032】
入口側窓部材42および出口側窓部材43は胴体部材41に形成された二つの開口部に嵌設されたガラスまたは石英からなる部材である。
【0033】
フォトダイオード30はフォトダイオード支持部材114を介してベース部材111に固定される。フォトダイオード30の詳細については後述する。
【0034】
以下では、THC測定装置100の光学系について説明する。
図3に示す如く、THC測定装置100の光学系は、赤外ランプ10、分光器20、フォトダイオード30、第一集光レンズ61、コリメートレンズ62、第二集光レンズ63および光チョッパ50により構成される。
【0035】
赤外ランプ10は本発明に係る光源の実施の一形態であり、THC測定装置100の光学系の最上流部を成す部材である。
図2に示す如く、赤外ランプ10はケース121の内部の所定の位置に固定される。
本実施形態の赤外ランプ10は赤外光を発生させるものであり、赤外ランプ10により発生する赤外光の波長帯は、「アルカンおよびアルケンからなるグループに属する炭化水素が吸収する波長帯」、「芳香族炭化水素からなるグループに属する炭化水素が吸収する波長帯」、および「アルキンからなるグループに属する炭化水素が吸収する波長帯」を全て含む。
【0036】
本実施形態の赤外ランプ10は赤外光を発生するが、本発明に係る光源はこれに限定されない。これは、本発明に係る光源が発生する光(の波長)は測定対象ガスが吸収する波長帯に応じて適宜選択されるものであることによる。
すなわち、本発明に係る光源により発生する光には、赤外光、可視光、および紫外光が含まれる。
【0037】
分光器20は本発明に係る分光器の実施の一形態であり、赤外ランプ10により発生した光を周期的に波長変動させるものである。
図3に示す如く、分光器20はグレーティング21およびMEMSミラー26を具備する。
【0038】
グレーティング21は赤外ランプ10により発生した光を回折させることにより波長毎に分光するものである。
本実施形態のグレーティング21は溝が多数(1mmに数百から数千本程度)形成された回折格子である。グレーティング21に入射された光は回折されて波長毎に分光され、分光された光は波長に応じて異なる反射角度(回折角度)で反射される。
図2に示す如く、グレーティング21はケース121の内部の所定の位置に固定される。
【0039】
MEMSミラー26はグレーティング21により反射された光を所定の方向に反射するものである。MEMSミラー26はいわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により製造される。
図2に示す如く、MEMSミラー26はケース121の内部の所定の位置に固定される。
図3に示す如く、MEMSミラー26は基部26aおよび回動部26bを有する。
【0040】
基部26aは平板状の部材であり、その中央部には開口部26cが形成される。
【0041】
回動部26bは平板状の部材であり、開口部26cに収容される位置に配置され、基部26aに対して回動可能に連結され、支持される。回動部26bは、基部26aとの連結部分が弾性的に捻れることにより基部26aに対して回動する。
図2に示す如く、回動部26bに力が作用していない状態では回動部26bと基部26aとの連結部分が弾性的に捻れておらず、回動部26bは基部26aの一対の板面と回動部26bの板面とが平行となる姿勢(基準姿勢)で保持される。
回動部26bの一方の板面には金、アルミニウム等の薄膜が形成され、当該薄膜がMEMSミラー26の反射面を成す。
【0042】
本実施形態のMEMSミラー26はいわゆる電磁力式のミラーである。
基部26aには開口部26c、ひいては回動部26bを挟む形で一対の永久磁石が埋め込まれる。従って、回動部26bは当該一対の永久磁石により形成される磁界の中に配置されることとなる。
また、回動部26bには外部から電圧を印加可能な配線が形成される。
【0043】
回動部26bに形成された配線に電圧を印加すると、一対の永久磁石により形成される磁界の中に配置された回動部26bにローレンツ力が作用する。その結果、回動部26bが基部26aに対して回動し、回動部26bに形成された反射面の角度が変更される。
回動部26bに作用するローレンツ力の大きさは、回動部26bに形成された配線に印可される電圧値、ひいては電流値に対応した大きさを有する。
従って、回動部26bに形成された配線に印可される電圧値(電流値)を調整することにより、回動部26bの回動角度、ひいてはMEMSミラー26の反射角度を調整することが可能である。
【0044】
MEMSミラー26の反射角度が変化すると、MEMSミラー26により所定の方向(本実施形態では、フォトダイオード30に向かう方向)に反射される光がグレーティング21から入射される角度が変化する。
従って、MEMSミラー26の反射角度を調整することにより、MEMSミラー26により所定の方向に反射される光の波長を調整することが可能である。
【0045】
また、回動部26bに形成された配線への電圧の印加を停止すると、回動部26bは基部26aとの連結部分の弾性的な捻れ変形を解消するべく回動し、基準姿勢に戻る。
従って、回動部26bに形成された配線に所定の周波数で電圧を印加することにより、回動部26bは当該所定の周波数で揺動し、MEMSミラー26により所定の方向に反射される光が周期的に波長変動する(光の波長が周期的に変動する)。
以下、MEMSミラー26の回動部26bが揺動する周期を「分光器20の分光周期」という。
【0046】
本実施形態のMEMSミラー26はいわゆる電磁力式のミラーであるが、本発明に係るMEMSミラーはこれに限定されず、他の駆動形式(例えば、静電式、圧電式、熱歪式)で基部に対して回動部を回動させても良い。
本発明に係るMEMSミラーは市販のMEMSミラーにより達成することが可能である。
【0047】
フォトダイオード30は本発明に係る受光器の実施の一形態であり、分光器20により波長変動された光の強度を検出するものである。
本実施形態のフォトダイオード30は受光した光の強度を検出する半導体素子からなり、受光した光の強度に応じた電気信号を出力(送信)する。
【0048】
図2および図3において二点鎖線で示す如く、THC測定装置100の光学系は、赤外ランプ10から分光器20、ガス容器40を経てフォトダイオード30に至る光路Aを形成する。
図2に示す如く、ガス容器40は光路Aにおいて分光器20およびフォトダイオード30により挟まれる位置に配置される。
赤外ランプ10により発生した光は、分光器20により周期的に波長変動された状態で入口側窓部材42を透過して胴体部材41の内部に進入する。胴体部材41の内部に進入した光は胴体部材41の内部に収容されている測定対象物を透過し、次いで出口側窓部材43を透過して胴体部材41の外部(ガス容器40の外部)に導かれ、フォトダイオード30により受光される。
【0049】
第一集光レンズ61は赤外ランプ10により発生する光を集光(収束)する光学素子である。
図2に示す如く、第一集光レンズ61はケース121の内部の所定の位置に固定される。
図3に示す如く、第一集光レンズ61は光路Aにおいて赤外ランプ10および分光器20により挟まれる位置に配置される。
【0050】
コリメートレンズ62は第一集光レンズ61により集光された光を平行光とし、分光器20(より詳細には、グレーティング21)に照射する光学素子である。
図2に示す如く、コリメートレンズ62はケース121の内部の所定の位置に固定される。
図3に示す如く、コリメートレンズ62は光路Aにおいて赤外ランプ10および分光器20により挟まれ、かつ第一集光レンズ61よりも下流側となる位置に配置される。
また、コリメートレンズ62は第一集光レンズ61により集光された光の焦点B(図3中の白丸)よりも光路Aにおいて下流側となる位置に配置される。
【0051】
第二集光レンズ63は分光器20により波長変動された光を集光(収束)してフォトダイオード30に照射する(受光させる)光学素子である。
図2に示す如く、第二集光レンズ63はケース121においてガス容器40の入口側窓部材42に対向する位置に形成された開口部に嵌設され、光源側光学系ユニット120の内部から外部に光を照射する窓としての機能を兼ねる。
【0052】
光チョッパ50はMEMSチョッパ部材51およびスリット部材56を具備する。
図2に示す如く、光チョッパ50はケース121の内部の所定の位置に固定される。
図3に示す如く、光チョッパ50は光路Aにおいて赤外ランプ10および分光器20により挟まれる位置、より詳細には第一集光レンズ61およびコリメートレンズ62により挟まれる位置に配置される。
【0053】
MEMSチョッパ部材51はいわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により製造される。
図3に示す如く、MEMSチョッパ部材51は基部51aおよび回動部51bを有する。
【0054】
基部51aは一対の板面を有する平板状の部材であり、基部51aの中央部には基部51aの一対の板面を貫通する開口部51cが形成される。
【0055】
回動部51bは平板状の部材であり、開口部51cに収容される位置に配置され、基部51aに対して回動可能に連結され、支持される。回動部51bは、基部51aとの連結部分が弾性的に捻れることにより基部51aに対して回動する。
図3に示す如く、回動部51bに力が作用していない状態では回動部51bと基部51aとの連結部分が弾性的に捻れておらず、回動部51bは基部51aの一対の板面と回動部51bの板面とが平行となる姿勢(基準姿勢)で保持される。その結果、開口部51cは回動部51bにより閉塞された(閉じられた)状態となる。
【0056】
本実施形態のMEMSチョッパ部材51はいわゆる電磁力式のアクチュエータである。
基部51aには開口部51c、ひいては回動部51bを挟む形で一対の永久磁石が埋め込まれる。従って、回動部51bは当該一対の永久磁石により形成される磁界の中に配置されることとなる。
また、回動部51bには外部から電圧を印加可能な配線が形成される。
【0057】
回動部51bは、電圧の印加状態に対応して基部51aに対して回動する。
すなわち、回動部51bに形成された配線に電圧を印加すると、一対の永久磁石により形成される磁界の中に配置された回動部51bにはローレンツ力が作用する。その結果、回動部51bが基部51aに対して回動し、開口部51c(厳密には、開口部51cの一部)が開いた状態となる。
【0058】
また、回動部51bに形成された配線への電圧の印加を停止すると、回動部51bは基部51aとの連結部分の弾性的な捻れ変形を解消するべく回動し、基準姿勢に戻る。
従って、回動部51bに形成された配線に所定の周波数で電圧を印加することにより、回動部51bは当該所定の周波数で揺動し、開口部51cを開閉する。
【0059】
図3において実線で示す如く、回動部51bが基準姿勢をとっているとき、第一集光レンズ61により集光された光は回動部51bにより遮断され、フォトダイオード30に到達しない。回動部51bが基準姿勢をとることにより、光が光チョッパ50により遮断される状態を「遮断状態」という。
図3において点線で示す如く、回動部51bが基部51aに対して回動した姿勢をとっているとき、第一集光レンズ61により集光された光は回動部51bに遮断されずに開口部51cを通過し、フォトダイオード30に到達する。回動部51bが基部51aに対して回動した姿勢をとることにより、光が光チョッパ50を通過する状態を「通過状態」という。
このように、MEMSチョッパ部材51の回動部51bは、回動することにより「通過状態」および「遮断状態」のいずれかの状態に切り替えることが可能である。
以下、MEMSチョッパ部材51の回動部51bが回動(揺動)する周期、より厳密には通過状態の開始から遮断状態への移行を経て再び通過状態に移行するまでの周期を「光チョッパ50のチョッピング周期」という。
【0060】
本実施形態のMEMSチョッパ部材51はいわゆる電磁力式のアクチュエータであるが、本発明に係るMEMSチョッパ部材はこれに限定されず、他の駆動形式(例えば、静電式、圧電式、熱歪式)で基部に対して回動部を回動させても良い。
また、市販のMEMSミラーその他のMEMSアクチュエータを本発明に係るMEMSチョッパ部材として流用することが可能である。
【0061】
「光チョッパ50のチョッピング周期」は、「分光器20の分光周期」よりも短くなるように設定される(光チョッパ50のチョッピング周波数は、分光器20の分光周波数よりも大きくなるように設定される)。
既存のMEMSミラーを流用してMEMSチョッパ部材51を構成した場合、光チョッパ50のチョッピング周期を10μsec〜100μsec程度に設定することが可能である(光チョッパ50のチョッピング周波数を10kHz〜100kHz程度に設定することが可能である)。
従って、光チョッパ50のチョッピング周期よりも短くならない範囲で「分光器20の分光周期」を短くすることが可能であり、THC測定装置100の高速応答性(リアルタイム性)の向上に寄与する。ここでいう高速応答性とは、ごく短時間における測定対象ガスの組成変動(本実施形態では、炭化水素濃度の変動)を精度良く検出可能であることを指す。
【0062】
図3に示す如く、本実施形態では、MEMSチョッパ部材51の開口部51cは焦点Bに対応する位置(焦点Bの近傍となる位置)に配置される。
このように構成することにより、赤外ランプ10により発生した光が細く収束された状態で開口部51cを通過することとなり、回動部51bが基準姿勢から大きく回動しなくても「通過状態」と「遮断状態」との切り替えを行うことが可能であり、光チョッパ50のチョッピング周期をより短くすることが可能である。
このチョッピングにより受光強度は強くなり(周波数領域にもよるが、受光素子は高周波数になるほど感度が大きい)、ひいてはS/N比を大きくすることが可能である。また、ロックインアンプを組み合わせることによりノイズ成分の除去を効果的に行うことが可能であり、S/N比をさらに大きくすることが可能である。
【0063】
本実施形態では回動部51bが基準姿勢となるときには回動部51bにより開口部51cが閉塞されるが、ここでいう「閉塞される」とは、開口部51cが回動部51bにより完全に密閉される(開口部51cの端面と回動部51bとの間に隙間が無い)ことを指すのではなく、光が開口部51cを通過出来ない程度に覆われることを指す。
【0064】
スリット部材56は赤外ランプ10により発生した光を絞る(外乱光を光路Aから排除することによりTHC測定装置100の波長分解能を向上させる)ものである。
スリット部材56は一対の板面を有する板状の部材であり、スリット部材56にはスリット部材56の一対の板面を貫通する溝であるスリット56aが形成される。
【0065】
スリット部材56はMEMSチョッパ部材51に隣接する位置に配置される。本実施形態では、スリット部材56はMEMSチョッパ部材51の後側の板面(MEMSチョッパ部材51の基部51aの一対の板面のうち、光路Aの下流側となる板面)に貼り合わされる形で固定される。
従って、MEMSチョッパ部材51は光の光路Aにおいてスリット部材56よりも上流側に配置される(スリット部材56は光の光路AにおいてMEMSチョッパ部材51よりも下流側に配置される)こととなる。
このように構成することは、以下の利点を有する。すなわち、仮にMEMSチョッパ部材を光の光路においてスリット部材よりも下流側に配置した場合には、MEMSチョッパ部材の回動部により遮断(反射)された光の一部がスリット部材により更に反射されて外乱光となり、MEMSチョッパ部材の基部の開口部を通過して分光器、ひいては受光器に到達し、受光器による光の強度の検出精度を低下させる場合がある。
そのため、MEMSチョッパ部材を光の光路においてスリット部材よりも下流側に配置する場合には、このような外乱光の影響を排除するためにスリット部材の形状、表面の色、配置等を別途工夫する必要があるが、本実施形態の如くスリット部材56を光の光路AにおいてMEMSチョッパ部材51よりも下流側に配置した場合には回動部51bにより遮断(反射)された光がスリット部材56により再度反射されることが無いので、容易に外乱光の影響を排除することが可能であり、ひいてはTHC測定装置100の波長分解能を向上させることが可能である。
【0066】
MEMSチョッパ部材51に固定されたスリット部材56のスリット56aは、焦点Bに対応する位置(焦点Bの近傍となる位置)に配置される。
このように構成することにより、赤外ランプ10により発生した光が細く収束された状態でスリット56aを通過することとなり、スリット56aを通過する光の光量を確保しつつスリット56aを極力細くして外乱光の影響を排除することが可能であり、THC測定装置100のS/N比の向上と波長分解能の向上とを両立することが可能である。
【0067】
既存のMEMSミラーを流用してMEMSチョッパ部材51を構成した場合、MEMSチョッパ部材51を例えば縦20mm×横30mm×厚さ5mm程度の大きさに抑えることが可能である。また、スリット部材56の厚さも数mm程度に抑えることが可能である。
従って、MEMSチョッパ部材51およびスリット部材56を合わせたサイズ、すなわち光チョッパ50を全体としてコンパクトにすることが可能であり、光チョッパ50を小型化することが可能である。
また、光チョッパ50を小型化することにより、THC測定装置100の光学系全体を小型化することが可能である。THC測定装置100を小型化することは、THC測定装置100を自動車に取り付けて走行中の自動車の排気ガスの分析を行う場合に特に有効である。
【0068】
以下では、THC測定装置100の制御系について説明する。
図2に示す如く、THC測定装置100の制御系は、チョッパ・分光器制御装置70、ロックインアンプ80およびデータ処理装置90により構成される。
【0069】
チョッパ・分光器制御装置70は光チョッパ50および分光器20のMEMSミラー26の動作を制御する装置である。
チョッパ・分光器制御装置70は光チョッパ50、より厳密にはMEMSチョッパ部材51に接続され、MEMSチョッパ部材51の回動部51bに形成された配線に所定の周期(チョッピング周期に対応する周期)の電圧を印加することが可能である。
チョッパ・分光器制御装置70はMEMSミラー26に接続され、MEMSミラー26の回動部26bに形成された配線に所定の周期(分光周期に対応する周期)の電圧を印加することが可能である。
チョッパ・分光器制御装置70はMEMSミラー駆動制御用の発振回路であり、周波数設定可能なものであれば、汎用的なもので達成することが可能である。
【0070】
ロックインアンプ80はフォトダイオード30により受光された光の強度に応じた電気信号(測定信号)からノイズ成分を除去するものである。
ロックインアンプ80はフォトダイオード30に接続され、フォトダイオード30から測定信号を受信することが可能である。
ロックインアンプ80はチョッパ・分光器制御装置70に接続され、チョッパ・分光器制御装置70がMEMSチョッパ部材51の回動部51bに形成された配線に印可する電圧のタイミングを示す信号(参照信号)、およびMEMSミラー26の回動部26bに形成された配線に印加される電圧のタイミングを示す信号(分光周期信号)をチョッパ・分光器制御装置70から受信することが可能である。
ロックインアンプ80は測定信号および参照信号に基づいてノイズ成分が除去された測定信号(補正測定信号)を生成する。
ロックインアンプ80は既知のロックインアンプまたはこれと等価な機能を発現する回路等により達成される。
【0071】
データ処理装置90は本発明に係る濃度算出装置の実施の一形態である。
データ処理装置90はフォトダイオード30により受光された光の強度に基づいて、測定対象ガス1に含まれる炭化水素のうち、(a)アルカンおよびアルケンからなるグループ、(b)芳香族炭化水素からなるグループ、並びに、(c)アルキンからなるグループ、に属する炭化水素の濃度和をグループ毎に算出する。
データ処理装置90は処理部91、入力部92および表示部93を具備する。
【0072】
処理部91は種々のプログラム等を格納し、これらのプログラム等を展開し、これらのプログラム等に従って所定の演算を行い、当該演算結果等を記憶することができる。
【0073】
処理部91は、実体的には、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であっても良く、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であっても良い。
本実施例の処理部91は専用品であるが、市販のパーソナルコンピュータやワークステーション等に上記プログラム等を格納したもので達成することも可能である。
【0074】
処理部91はロックインアンプ80に接続され、ロックインアンプ80から補正測定信号および分光周期信号を取得(受信)することが可能である。
【0075】
処理部91は処理部91において行われる種々の演算等に用いられる情報、演算結果等を記憶することが可能である。
処理部91は、基準となるガス(以下、基準ガス)のスペクトルを記憶している。
「基準ガス」は、測定対象ガスに含まれる炭化水素の三つの吸収波長帯の光を吸収しないことが予め分かっているガスである。基準ガスの具体例としては、窒素ガスが挙げられる。
「基準ガスのスペクトル」は基準ガスに光を照射したときの波長と光の強度との関係を示すものである。
本実施例では、基準ガスのスペクトルの波長帯は波数に換算して2000cm−1以上4000cm−1以下の範囲に設定される。これは、炭化水素の三つのグループの吸収波長帯を全て含む範囲に設定するためである。
【0076】
処理部91は、ロックインアンプ80から取得された補正測定信号および分光周期信号に基づいて、(a)アルカンおよびアルケンからなるグループ、(b)芳香族炭化水素からなるグループ、並びに、(c)アルキンからなるグループ、にそれぞれ対応する吸収波長帯の吸光度を算出する。
【0077】
処理部91は、補正測定信号および分光周期信号を照合することにより、取得された補正測定信号が(a)アルカンおよびアルケンからなるグループ、(b)芳香族炭化水素からなるグループ、並びに、(c)アルキンからなるグループ、のうちのどのグループに対応する波長帯の光の強度を示すものかを特定する。
次に、処理部91は、以下の数1に基づいて補正測定信号と基準ガスのスペクトルにおいて対応する波長帯の強度との差分を算出することにより、対応する波長帯の吸光度を算出する。
【0078】
【数1】

【0079】
数1において、Anは吸光度を指し、Inは測定対象ガスに光を照射したときの対象となる吸収波長帯を透過してくる光の強度を指し、(In)は基準ガスに光を照射したときの対象となる吸収波長帯を透過してくる光の強度を指す。
【0080】
処理部91は、数1に基づいて算出された「アルカンおよびアルケンからなるグループに属する炭化水素の吸収波長帯における吸光度」に基づいて「アルカンおよびアルケンからなるグループに属する炭化水素の濃度の和」を算出し、「芳香族炭化水素からなるグループに属する炭化水素の吸収波長帯における吸光度」に基づいて「芳香族炭化水素からなるグループに属する炭化水素の濃度の和」を算出し、「アルキンからなるグループに属する炭化水素の吸収波長帯における吸光度」に基づいて「アルキンからなるグループに属する炭化水素の濃度の和」を算出する。
具体的には、処理部91は、処理部91に予め記憶された係数K1と「アルカンおよびアルケンからなるグループに属する炭化水素の吸収波長帯における吸光度」との積として、測定対象ガス1に含まれる「アルカンおよびアルケンからなるグループに属する炭化水素の濃度の和」を算出する。
同様に、処理部91は、処理部91に予め記憶された係数K2と「芳香族炭化水素からなるグループに属する炭化水素の吸収波長帯における吸光度」との積として、測定対象ガス1に含まれる「芳香族炭化水素からなるグループに属する炭化水素の濃度の和」を算出する。
同様に、処理部91は、処理部91に予め記憶された係数K3と「アルキンからなるグループに属する炭化水素の吸収波長帯における吸光度」との積として、測定対象ガス1に含まれる「アルキンからなるグループに属する炭化水素の濃度の和」を算出する。
【0081】
処理部91は、上記算出された「アルカンおよびアルケンからなるグループに属する炭化水素の濃度の和」、「芳香族炭化水素からなるグループに属する炭化水素の濃度の和」、および「アルキンからなるグループに属する炭化水素の濃度の和」の和として、「測定対象ガス1の全炭化水素濃度」を算出する。
【0082】
処理部91は、算出された「アルカンおよびアルケンからなるグループに属する炭化水素の濃度の和」、「芳香族炭化水素からなるグループに属する炭化水素の濃度の和」、「アルキンからなるグループに属する炭化水素の濃度の和」、および「測定対象ガス1の全炭化水素濃度」を適宜記憶する。
【0083】
なお、上記係数K1、係数K2および係数K3の初期値は、FID−GC等により予め炭化水素の組成が分かっているガスをTHC測定装置100により測定して得られた「アルカンおよびアルケンからなるグループに属する炭化水素の吸収波長帯における吸光度」の算出結果、「芳香族炭化水素からなるグループに属する炭化水素の吸収波長帯における吸光度」の算出結果、および「アルキンからなるグループに属する炭化水素の吸収波長帯における吸光度」の算出結果に基づいて実験的に定められる。
また、本実施例の場合、処理部91により算出される各グループに属する炭化水素の濃度の和および全炭化水素濃度はメタン換算濃度値(ppmC)の形で算出されるが、本発明はこれに限定されず、体積比等の形で算出しても良い。
本発明は、THC計測原理を踏まえた[vol−ppm]の濃度値(単位体積当たりの化学種の数)での校正を可能とするものである。
【0084】
入力部92は処理部91に接続され、THC測定装置100による炭化水素濃度の測定に係る種々の情報・指示等を処理部91に入力するものである。
本実施例の処理部91は専用品であるが、市販のキーボード、マウス、ポインティングデバイス、ボタン、スイッチ等を用いても同様の効果を達成することが可能である。
【0085】
表示部93は入力部92から処理部91への入力内容や処理部91による算出結果(炭化水素濃度の測定結果)等を表示するものである。
本実施例の表示部93は専用品であるが、市販のモニターや液晶ディスプレイ等を用いても同様の効果を達成することが可能である。
【0086】
本実施形態では赤外ランプ10、分光器20およびフォトダイオード30により形成される光路Aにおいて分光器20およびフォトダイオード30により挟まれる位置にガス容器40を配置するが、本発明に係る炭化水素濃度測定装置はこれに限定されない。
本発明に係る炭化水素濃度測定装置の他の実施形態としては、光源および分光器により挟まれる位置にガス容器を配置する構成が挙げられる。
【0087】
以下では、図1を用いて本発明に係る炭化水素濃度測定装置用校正装置の実施の一形態である校正装置200について説明する。
校正装置200はTHC測定装置100を校正する装置である。
校正装置200は燃料供給装置210、ガス供給装置220、供給配管230、気化装置240、第一搬送配管250、第一配管ヒータ255、反応管260、メッシュ263a・263b、SiCビーズ264・264・・・、加熱装置270、第二搬送配管280、第二配管ヒータ285、ガスクロマトグラフ質量分析装置290、ガス処理装置295、排気配管296および第三搬送配管297を具備する。
【0088】
燃料供給装置210は本発明に係る燃料供給装置の実施の一形態であり、気化装置240に燃料を供給する装置である。
ここで、「燃料」は本発明に係る炭化水素濃度測定装置を校正するために用いられるガス(校正用ガス)の原料となるものであり、本実施形態では自動車用燃料(例えば、ガソリン、軽油等)である。
燃料供給装置210は燃料タンク211および流量調整弁212を具備する。
【0089】
燃料タンク211は燃料を貯留する容器である。
流量調整弁212は燃料タンク211の開口部に設けられ、燃料タンク211から気化装置240に供給される燃料の流量(単位時間当たりの供給量)を調整する弁である。
【0090】
本実施形態の燃料供給装置210は燃料タンク211および流量調整弁212を具備するが、本発明に係る燃料供給装置はこれに限定されない。
すなわち、本発明に係る炭化水素濃度測定装置用校正装置が設置される施設に予め燃料を供給可能な設備が設けられている場合には、本発明に係る燃料供給装置を省略することが可能である。
【0091】
ガス供給装置220は本発明に係るガス供給装置の実施の一形態であり、気化装置240に燃焼用ガスを供給する装置である。
ここで、「燃焼用ガス」は燃料を燃焼させるために必要となるガスである。燃焼用ガスは、少なくともその一部に酸素を含む。燃焼用ガスの例としては、酸素ガス、酸素ガスおよび窒素ガスを混合したガス、空気(大気)等が挙げられる。
ガス供給装置220はガスタンク221および流量調整弁222を具備する。
【0092】
ガスタンク221は燃焼用ガスを貯留する容器である。
流量調整弁222はガスタンク221の開口部に設けられ、ガスタンク221から気化装置240に供給される燃焼用ガスの流量(単位時間当たりの供給量)を調整する弁である。
【0093】
本実施形態のガス供給装置220はガスタンク221および流量調整弁222を具備するが、本発明に係るガス供給装置はこれに限定されない。
すなわち、本発明に係る炭化水素濃度測定装置用校正装置が設置される施設に予め燃焼用ガスを供給可能な設備が設けられている場合には、本発明に係るガス供給装置を省略することが可能である。
【0094】
供給配管230は燃料供給装置210により供給される燃料、およびガス供給装置220により供給される燃焼用ガスを気化装置240に搬送する配管である。
供給配管230は主管231、第一副管232および第二副管233を具備する。
【0095】
主管231の一端部は後述する気化装置240の吸入側ポート242に接続される。
第一副管232の一端部は主管231の中途部に接続され、第一副管232の他端部は流量調整弁212に接続される。流量調整弁212が開かれると、燃料タンク211に貯留されている燃料が第一副管232および主管231を経て気化装置240に供給される。
第二副管233の一端部は主管231の他端部に接続され、第二副管233の他端部は流量調整弁222に接続される。流量調整弁222が開かれると、ガス供給装置220に貯留されている燃焼用ガスが第二副管233および主管231を経て気化装置240に供給される。
【0096】
気化装置240は本発明に係る気化装置の実施の一形態であり、燃料供給装置210により供給される燃料およびガス供給装置220により供給される燃焼用ガスを混合した状態で気化することにより混合ガスを生成する装置である。
気化装置240は本体241、吸入側ポート242および吐出側ポート243を具備する。
【0097】
本体241は箱状の筐体と、当該筐体の内部に収容される気化容器と、筐体および気化容器の間に収容されるとともに気化容器を加熱することにより気化容器に収容された燃料を気化させるヒータと、気化容器の内部で気化した燃料および燃焼用ガスを混合することにより生成した混合ガスを圧送するポンプと、を具備する。
本実施形態では、本体241の内部のヒータで気化容器を200℃程度まで加熱することにより、燃料を気化する。
【0098】
吸入側ポート242は気化装置240の内部(気化容器の内部)に燃料および燃焼用ガスを供給するための開口部を成す部材である。吸入側ポート242は本体241の内部に収容される気化容器に接続される。燃料供給装置210により供給される燃料およびガス供給装置220により供給される燃焼用ガスは吸入側ポート242を経て気化容器に収容される。
【0099】
吐出側ポート243は気化装置240の内部(気化容器の内部)において生成した混合ガスを反応管260に供給するための開口部を成す部材である。
吐出側ポート243は本体241の内部のポンプを介して気化容器に接続される。当該ポンプが作動することにより気化容器内の混合ガスが圧送され、吐出側ポート243を経て後述する第一搬送配管250に供給される。
【0100】
本実施形態の気化装置240は専用品であるが、既存の気化装置(Vaporizer Unit)により達成しても良い。
【0101】
第一搬送配管250は気化装置240から反応管260に供給される混合ガスを搬送する配管である。
第一搬送配管250の一端部は気化装置240の吐出側ポート243に接続され、第一搬送配管250の他端部は反応管260の上流端部に接続される。
【0102】
第一配管ヒータ255は第一搬送配管250を加熱することにより第一搬送配管250を通じて搬送される混合ガスの温度を所定の温度以上に(燃料が液化しない程度の温度に)保持するものである。
第一配管ヒータ255は電気式のヒータであり、第一搬送配管250に巻回される。第一配管ヒータ255に通電することにより第一配管ヒータ255が発熱し、第一搬送配管250が加熱される。
【0103】
反応管260は本発明に係る反応管の実施の一形態である。
反応管260は第一反応管部材261および第二反応管部材262を具備する。
【0104】
第一反応管部材261は反応管260の上流側を成す管状(筒状)の部材である。
第一反応管部材261の一端部は反応管260の上流端部を成す。第一反応管部材261の一端部は第一搬送配管250を介して気化装置240に接続される。
第一反応管部材261の他端部にはフランジ261aが形成される。
【0105】
第二反応管部材262は反応管260の下流側を成す管状(筒状)の部材である。
第二反応管部材262の一端部にはフランジ262aが形成される。
第二反応管部材262の他端部は反応管260の下流端部を成す。第二反応管部材262の他端部はガス処理装置295に接続される。
【0106】
メッシュ263a・263bは金属製の網であり、第一反応管部材261の内部空間の中途部に所定の間隔を空けて設けられる。メッシュ263a・263bにより、第一反応管部材261の内部空間は第一反応管部材261の長手方向に並ぶ形で三つの領域に区画される。
【0107】
SiCビーズ264・264・・・は本発明に係る燃焼促進部材の実施の一形態である。
SiCビーズ264・264・・・はSiCからなり、メッシュ263a・263bの網目を通過しない程度の大きさを有する粒状の部材である。SiCビーズ264・264・・・は第一反応管部材261の内部空間を分割することにより生じた三つの領域のうち、メッシュ263a・263bにより挟まれる領域に充填される。
【0108】
加熱装置270は本発明に係る加熱装置の実施の一形態である。
本実施形態の加熱装置270はカンタルヒータ等の電気ヒータであり、第一反応管部材261の中途部に配置される。より詳細には、加熱装置270の形状は螺旋状であり、加熱装置270は第一反応管部材261の外周面に巻回された形で配置される。
図1に示す如く、第一反応管部材261において加熱装置270が巻回される部分は、SiCビーズ264・264・・・が充填される領域(メッシュ263a・263bにより挟まれる領域)に対応する。換言すれば、加熱装置270はSiCビーズ264・264・・・が充填される領域を取り囲む位置に配置される。
加熱装置270に通電すると加熱装置270が発熱し、加熱装置270により発生した熱が第一反応管部材261に熱伝導することにより第一反応管部材261が加熱される。
また、第一反応管部材261の熱がSiCビーズ264・264・・・に熱伝導することにより、SiCビーズ264・264・・・が加熱される。
【0109】
図1に示す如く、THC測定装置100の校正を行うとき、THC測定装置100のガス容器40(図2参照)はボルトによりフランジ261aおよびフランジ262aに固定される。
その結果、ガス容器40は第一反応管部材261の他端部および第二反応管部材262の一端部に接続され、反応管260の中途部に介装される。
ガス容器40が反応管260の中途部に介装された状態では、ガス容器40は反応管260において加熱装置270が配置される部分よりも下流端部側となる位置に接続されることとなる。
【0110】
気化装置240により生成した混合ガスは、第一搬送配管250を経て第一反応管部材261の内部空間、すなわち反応管260の内部空間に供給され、反応管260の内部空間を通って反応管260の上流端部から下流端部に向かって移動する。
【0111】
第一反応管部材261の内部空間(反応管260の内部空間)に供給された混合ガスは、加熱装置270により加熱されている第一反応管部材261の内周面およびSiCビーズ264・264・・・の表面に接触することによる熱伝導あるいは第一反応管部材261およびSiCビーズ264・264・・・からの輻射により加熱されて燃焼し、燃焼ガス(校正用ガス)が生成される。
第一反応管部材261の内部空間(反応管260の内部空間)に供給された混合ガスは反応管260の上流端部から下流端部に向かって移動する過程でSiCビーズ264・264・・・の隙間を通過する。SiCビーズ264・264・・・は粒状に成形されておりその表面積(の和)は大きいので、混合ガスはSiCビーズ264・264・・・の表面に効率良く接触することが可能であり、混合ガスの燃焼、ひいては校正用ガスの生成が促進される。
【0112】
校正用ガスに含まれる炭化水素の組成(校正用ガスに含まれる炭化水素に含まれる炭化水素の種類および当該種類毎の濃度)は、燃料の組成(種類)、気化装置240への単位時間当たりの燃料供給量(流量調整弁212の開度)、燃焼用ガスの組成(種類)、気化装置240への単位時間当たりの燃焼用ガス供給量(流量調整弁222の開度)、気化装置240による燃料の気化温度、気化装置240から反応管260への単位時間当たりの混合ガスの供給量(反応管260を移動する混合ガスおよび校正用ガスの単位時間当たりの流量)、加熱装置270の加熱温度(加熱装置270により加熱された反応管260およびSiCビーズ264・264・・・の温度、等のパラメータにより変動する。
【0113】
校正用ガスは、さらに反応管260の内部空間を通って反応管260の上流端部から下流端部に向かって移動し、ガス容器40(の内部空間)に導かれる。
THC測定装置100は、校正用ガスがガス容器40(の内部空間)を通過するときに測定を行うことにより、校正用ガスに含まれる(a)アルカンおよびアルケンからなるグループに属する炭化水素の濃度和、(b)芳香族炭化水素からなるグループに属する炭化水素の濃度和、並びに、(c)アルキンからなるグループに属する炭化水素の濃度和、をそれぞれ測定する。
【0114】
ガス容器40(の内部空間)を通過した校正用ガスは、さらに反応管260の内部空間(第二反応管部材262の内部空間)を通って反応管260の上流端部から下流端部に向かって移動し、ガス処理装置295に収容される。
【0115】
ガス処理装置295は校正用ガスを処理する、より詳細には校正用ガスに含まれる炭化水素を完全に燃焼する装置である。
【0116】
排気配管296はガス処理装置295により処理された校正用ガスを外部に排出する配管である。
排気配管296の一端部はガス処理装置295に接続され、排気配管296の他端部は外気に開放される。
ガス処理装置295により処理された校正用ガスは、排気配管296を通って外部に排出される。
【0117】
第二搬送配管280は反応管260の内部に収容された校正用ガスの一部をガスクロマトグラフ質量分析装置290に搬送するための配管である。
第二搬送配管280の一端部は第二反応管部材262の中途部、すなわち反応管260においてガス容器40が接続される部分よりも下流端部側となる部分に接続され、第二搬送配管280の他端部はガスクロマトグラフ質量分析装置290に接続される。
ガス容器40を通過した校正用ガスの一部は第二搬送配管280を通って搬送され、ガスクロマトグラフ質量分析装置290に供給される。
【0118】
第二配管ヒータ285は第二搬送配管280を加熱することにより第二搬送配管280を通って搬送される校正用ガスの温度を所定の温度以上に(校正用ガスに含まれる炭化水素が液化しない程度の温度に)保持するものである。
第二配管ヒータ285は電気式のヒータであり、第二搬送配管280に巻回される。第二配管ヒータ285に通電することにより第二配管ヒータ285が発熱し、第二搬送配管280が加熱される。
【0119】
ガスクロマトグラフ質量分析装置290は本発明に係るガスクロマトグラフ質量分析装置の実施の一形態であり、第二搬送配管280を介して反応管260から供給された校正用ガスに含まれる炭化水素の濃度を、炭化水素の種類毎(化学種毎)に測定する。
ガスクロマトグラフ質量分析装置290は既存のガスクロマトグラフ質量分析装置により達成することが可能である。
【0120】
第三搬送配管297はガスクロマトグラフ質量分析装置290により炭化水素の濃度の測定が行われた後の校正用ガスをガス処理装置295に搬送する配管である。
第三搬送配管297の一端部はガスクロマトグラフ質量分析装置290に接続され、第三搬送配管297の他端部はガス処理装置295に接続される。
【0121】
THC測定装置100の測定結果(厳密には、THC測定装置100による校正用ガスに含まれる(a)アルカンおよびアルケンからなるグループに属する炭化水素の濃度和、(b)芳香族炭化水素からなるグループに属する炭化水素の濃度和、並びに、(c)アルキンからなるグループに属する炭化水素の濃度和、の測定結果)と、ガスクロマトグラフ質量分析装置290の測定結果(厳密には、ガスクロマトグラフ質量分析装置290の測定結果に基づいて算出される(a)アルカンおよびアルケンからなるグループに属する炭化水素の濃度和、(b)芳香族炭化水素からなるグループに属する炭化水素の濃度和、並びに、(c)アルキンからなるグループに属する炭化水素の濃度和)と、を比較することにより、THC測定装置100の校正が行われる。
本実施形態では、具体的にはTHC測定装置100の測定結果がガスクロマトグラフ質量分析装置290の測定結果に略一致するように、処理部91に記憶された係数K1、係数K2、係数K3等の値が適宜修正される。
【0122】
以上の如く、校正装置200は、
光を発生させる赤外ランプ10と、
赤外ランプ10により発生した光を周期的に波長変動させる分光器20と、
分光器20により波長変動された光の強度を検出するフォトダイオード30と、
赤外ランプ10、分光器20およびフォトダイオード30により形成される光路Aにおいて分光器20およびフォトダイオード30により挟まれる位置または赤外ランプ10および分光器20により挟まれる位置に配置され、測定対象ガス1を収容可能かつ光を透過可能なガス容器40と、
フォトダイオード30により検出された光の強度に基づいて、測定対象ガス1に含まれる炭化水素のうちアルカンおよびアルケンからなるグループ、芳香族炭化水素からなるグループ、アルキンからなるグループ、のそれぞれが吸収する波長帯の光の吸収量を算出し、算出された各グループに対応する光の吸収量に基づいて各グループに属する炭化水素の濃度を算出するデータ処理装置90と、
を具備するTHC測定装置100を校正する装置であって、
燃料を供給可能な燃料供給装置210と、
燃焼用ガスを供給可能なガス供給装置220と、
燃料供給装置210により供給される燃料およびガス供給装置220により供給される燃焼用ガスを混合した状態で気化することにより混合ガスを生成する気化装置240と、
上流端部が気化装置240に接続され、気化装置240により供給される混合ガスが内部空間を通って上流端部から下流端部に向かって移動する反応管260と、
反応管260の中途部に配置され、反応管260の内部空間に供給された混合ガスを加熱することにより燃焼させ、校正用ガスを生成する加熱装置270と、
を具備し、
反応管260において加熱装置270が配置される部分よりも下流端部側となる位置にガス容器40を接続することによりガス容器40に前記校正用ガスを収容する。
このように構成することにより、THC測定装置100のガス容器40に校正用ガスを供給することが可能であり、ひいてはTHC測定装置100の校正を行うことが可能である。
【0123】
また、校正装置200は、
反応管260において加熱装置270が配置される部分よりも下流端部側となる位置にガスクロマトグラフ質量分析装置290を接続することにより校正用ガスをガスクロマトグラフ質量分析装置290に供給する。
このように構成することにより、ガスクロマトグラフ質量分析装置290による校正用ガスの測定結果に基づいてTHC測定装置100の校正を行うことが可能であり、校正装置200によるTHC測定装置100の校正の精度(信頼性)が向上する。
【0124】
また、校正装置200は、
反応管260においてガス容器40が接続される部分よりも下流端部側となる位置にガスクロマトグラフ質量分析装置290を接続することにより校正用ガスをガスクロマトグラフ質量分析装置290に供給する。
このように構成することにより、ガス容器40を通過してTHC測定装置100による測定の対象となった校正用ガスと同じガスをガスクロマトグラフ質量分析装置290に供給することが可能であり、校正装置200によるTHC測定装置100の校正の精度(信頼性)が向上する。
【0125】
また、校正装置200は、
反応管260において加熱装置270が配置される部分に対応する反応管260の内部空間に配置され、加熱装置270により加熱された状態で混合ガスに接触することにより混合ガスの燃焼を促進するSiCビーズ264・264・・・を具備する。
このように構成することにより、効率良く校正用ガスを生成することが可能である。
【0126】
また、SiCビーズ264・264・・・は、
複数の粒状のSiCからなる。
このように構成することにより、SiCビーズ264・264・・・の表面積の和を大きくすることが可能であり、ひいては混合ガスに接触する面積を大きくして混合ガスの燃焼をより促進することが可能である。
【0127】
本実施形態のSiCビーズ264・264・・・はSiCからなるが、本発明に係る燃焼促進部材を構成する材料はこれに限定されない。
すなわち、本発明に係る燃焼促進部材を構成する材料は、混合ガスおよび校正用ガスと反応せず、加熱装置による加熱により破損されず、かつ内部空間を通過する混合ガスに熱を伝達可能な材料であれば他の材料でも良い。
また、燃焼促進部材は単一の材料からなるものに限定されず、異なる複数の材料からなる部材の混合体でも良い。
【0128】
本発明に係る燃焼促進部材の形状は本実施形態のSiCビーズ264・264・・・の如き粒状に限定されず、反応管の内部空間における混合ガスおよび混合ガスとの接触面積を大きくすることが可能な形状であれば良い。
これは、燃焼促進部材と混合ガスとの接触面積が大きいほど、燃焼促進部材から混合ガスに伝達される熱量が大きくなり、混合ガスの燃焼を促進する効果が大きくなることによる。
本発明に係る燃焼促進部材の形状の他の例としては、多孔体状(塊の内部に気体が通過可能な孔が複数形成された形状)、針状等が挙げられる。
【0129】
本実施形態の反応管260(第一反応管部材261および第二反応管部材262)はステンレス鋼からなるが、本発明に係る反応管を構成する材料はこれに限定されない。
すなわち、混合ガスおよび校正用ガスと反応せず、加熱装置270による加熱により破損されず、かつ内部空間を通過する混合ガスに熱を伝達可能な材料であれば他の材料でも良い。反応管を構成する材料の他の例としては、ガラス、石英、セラミックス等が挙げられる。
【符号の説明】
【0130】
1 測定対象ガス
10 赤外ランプ(光源)
20 分光器
30 フォトダイオード(受光器)
40 ガス容器
90 データ処理装置(濃度算出装置)
100 THC測定装置(炭化水素濃度測定装置)
200 校正装置(炭化水素濃度測定装置用校正装置)
210 燃料供給装置
220 ガス供給装置
240 気化装置
260 反応管
264 SiCビーズ(燃焼促進部材)
270 加熱装置
290 ガスクロマトグラフ質量分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を発生させる光源と、
前記光源により発生した光を周期的に波長変動させる分光器と、
前記分光器により波長変動された光の強度を検出する受光器と、
前記光源、前記分光器および前記受光器により形成される光路において前記分光器および前記受光器により挟まれる位置または前記光源および前記分光器により挟まれる位置に配置され、測定対象ガスを収容可能かつ前記光を透過可能なガス容器と、
前記受光器により検出された光の強度に基づいて、前記測定対象ガスに含まれる炭化水素のうちアルカンおよびアルケンからなるグループ、芳香族炭化水素からなるグループ、アルキンからなるグループ、のそれぞれが吸収する波長帯の光の吸収量を算出し、算出された各グループに対応する光の吸収量に基づいて各グループに属する炭化水素の濃度を算出する濃度算出装置と、
を具備する炭化水素濃度測定装置を校正する炭化水素濃度測定装置用校正装置であって、
燃料を供給可能な燃料供給装置と、
燃焼用ガスを供給可能なガス供給装置と、
前記燃料供給装置により供給される燃料および前記ガス供給装置により供給される燃焼用ガスを混合した状態で気化することにより混合ガスを生成する気化装置と、
上流端部が前記気化装置に接続され、前記気化装置により供給される前記混合ガスが内部空間を通って前記上流端部から下流端部に向かって移動する反応管と、
前記反応管の中途部に配置され、前記反応管の内部空間に供給された混合ガスを加熱することにより燃焼させ、校正用ガスを生成する加熱装置と、
を具備し、
前記反応管において前記加熱装置が配置される部分よりも下流端部側となる位置に前記ガス容器を接続することにより前記ガス容器に前記校正用ガスを収容する炭化水素濃度測定装置用校正装置。
【請求項2】
前記反応管において前記加熱装置が配置される部分よりも下流端部側となる位置にガスクロマトグラフ質量分析装置を接続することにより前記校正用ガスを前記ガスクロマトグラフ質量分析装置に供給する請求項1に記載の炭化水素濃度測定装置用校正装置。
【請求項3】
前記反応管において前記ガス容器が接続される部分よりも下流端部側となる位置にガスクロマトグラフ質量分析装置を接続することにより前記校正用ガスを前記ガスクロマトグラフ質量分析装置に供給する請求項2に記載の炭化水素濃度測定装置用校正装置。
【請求項4】
前記反応管において前記加熱装置が配置される部分に対応する前記反応管の内部空間に配置され、前記加熱装置により加熱された状態で前記混合ガスに接触することにより前記混合ガスの燃焼を促進する燃焼促進部材を具備する請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の炭化水素濃度測定装置用校正装置。
【請求項5】
前記燃焼促進部材は、
複数の粒状のSiCを含む請求項4に記載の炭化水素濃度測定装置用校正装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−203795(P2010−203795A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46710(P2009−46710)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】