説明

無接着剤タイプ銅張積層板

【課題】本発明は銅箔と樹脂の間の接着性が高く、エッチング性に優れ、ファインピッチ化に適した、ラミネート法による無接着剤タイプ銅張積層板を提供する。
【解決手段】銅箔と樹脂フィルムが、熱可塑性樹脂を介して接着した構造を有する銅張積層板であって、
−前記銅箔は、銅箔基材と該銅箔基材表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備え、
−該被覆層は銅箔基材表面から順に積層したNi層及びCr層で構成され、
−該被覆層にはCrが15〜210μg/dm2、Niが15〜440μg/dm2の被覆量で存在し、
−該被覆層の断面を透過型電子顕微鏡によって観察すると最大厚みが0.5〜5nmであり、最小厚みが最大厚みの80%以上であり、
−前記被覆層は熱可塑性樹脂に接触しており、
−前記ポリイミドフィルム及び熱可塑性樹脂は、これらを貫通する1又は2以上の貫通孔を有する、
銅張積層板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無接着剤タイプ銅張積層板に関し、特にフライングリード部を有する無接着剤タイプ銅張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化、高性能化ニーズの増大に伴い搭載部品の高密度実装化や信号の高周波化が進展し、プリント配線板に対して導体パターンの微細化(ファインピッチ化)や高周波対応等が求められている。
【0003】
プリント配線板は銅箔に絶縁基板を接着させて銅張積層板とした後に、エッチングにより銅箔面に導体パターンを形成するという工程を経て製造されるのが一般的である。そのため、プリント配線板用の銅箔には絶縁基板との接着性やエッチング性が要求される。
【0004】
また、絶縁基板との接着性を向上させるために粗化処理と呼ばれる銅箔表面に凹凸を形成する表面処理を施すことが一般に行われている。例えば電解銅箔のM面(粗面)に硫酸銅酸性めっき浴を用いて、樹枝状又は小球状に銅を多数電着せしめて微細な凹凸を形成し、投錨効果によって接着性を改善させる方法がある。粗化処理後には接着特性を更に向上させるためにクロメート処理やシランカップリング剤による処理等が一般的に行われている。
【0005】
特開2007−207812号公報には、銅箔の表面にNi−Cr合金層を形成し、この合金層の表面に所定厚みの酸化物層を形成させることにより、銅層表面が平滑でアンカー効果が少ない状態においても樹脂基材との接着性が大幅に向上することが記載されている。そして、表面に厚み1〜100nmのNi−Cr合金層が蒸着形成され、該合金層の表面に厚み0.5〜6nmのCr酸化物層が形成され、かつ最表面の平均表面粗さRzJISが2.0μm以下である、プリント配線基板用銅箔が開示されている。
【0006】
特開2006−222185号公報には、ポリイミド系フレキシブル銅張積層板用表面処理銅箔において、(1)Ni量にして0.03〜3.0mg/dm2含有するNi層又は/及びNi合金層、(2)Cr量にして0.03〜1.0mg/dm2含有するクロメート層、(3)Cr量にして0.03〜1.0mg/dm2含有するCr層又は/Cr合金層、(4)Ni量にして0.03〜3.0mg/dm2含有するNi層又は/及びNi合金層の上に、Cr量にして0.03〜1.0mg/dm2含有するクロメート層、(5)Ni量にして0.03〜3.0mg/dm2含有するNi層又は/及びNi合金層の上にCr量にして0.03〜1.0mg/dm2含有するCr層又は/及びCr合金層を表面処理層として設けることによって、ポリイミド系樹脂層との間で高いピール強度を有し、絶縁信頼性、配線パターン形成時のエッチング特性、屈曲特性の優れたポリイミド系フレキシブル銅張積層板用銅箔が得られることが記載されている。上記のNi量やCr量から表面処理層の厚みを推定するとμmオーダーである。また、実施例では電気めっきを利用して表面処理層を設けたことが記載されている。
【0007】
一方、近年、プリント配線板へ各種電子部品を実装する方法として、プリント配線板と電子部品の両側にコネクター部を形成し、両コネクター部を機械的に接触させて電気的なコンタクトを実現する方法が提案されている。このような方法によれば、回路基板と電子部品の取り外しを自由に行えるので、電子部品に欠陥が発生した場合でも、部品の取り外し、修理が容易である。
このようなプリント配線板のコンタクト部では、絶縁基板側が貫通孔を有し、コンタクトを行う金属側がこの樹脂層の貫通孔を閉鎖した状態になっている。絶縁基板の貫通孔の部分はフライングリード部と呼ばれる。このような回路基板の具体例は特開2007−281253号公報に開示されている。
【0008】
また、絶縁基板の貫通孔内に渦巻き状に形成されたスパイラル接触子を設けることも知られている。スパイラル接触子に球状接触子を接触させると、球状接触子の外表面にスパイラル接触子が螺旋状に巻き付くように接触するため、電気的接続が確実に行われるようになる(例:特開2002−175859号公報、特許第3837434号公報)。
【特許文献1】特開2007−207812号公報
【特許文献2】特開2006−222185号公報
【特許文献3】特開2007−281253号公報
【特許文献4】特開2002−175859号公報
【特許文献5】特許第3837434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のようなフライングリード部を有するプリント配線板を製造するためには、絶縁基板に貫通孔がある銅張積層板を製造しなければならないが、慣用のアクリル系やエポキシ系の接着剤を用いて絶縁基板と銅箔を貼り合わせた場合、貫通孔の壁面には接着材層が露出することになる。銅箔側をエッチングしたり、エッチングして形成した導体パターンにめっきを施す際に、壁面に露出した接着層から接着剤の成分がエッチング液やめっき液に露出して、エッチング液やめっき液を劣化させる可能性がある。また、接着層が劣化することで、基板と樹脂層との密着性が失われる可能性がある。
【0010】
そのため、無接着剤タイプの銅張積層板が有望であると考えられる。無接着剤タイプの銅張積層板はキャスト法、スパッタリング/めっき法、及びラミネート法による製造方法が知られている。キャスト法は、液状のポリイミド前駆体を銅箔に塗工し、乾燥後、熱硬化させる方法である。スパッタリング/めっき法は、ベースフィルム表面にスパッタリング又はめっき法によって銅を積層する方法である。ラミネート法は、ベースとなるポリイミドフィルムの上に熱可塑性ポリイミド樹脂を塗布した複合フィルムの表面に銅箔を熱ラミネートする方法である。
【0011】
しかしながら、キャスト法及びスパッタリング/めっき法では製法上、銅箔と貼り合わせる前に貫通孔を設けることが困難であり、フライングリード部を有するプリント配線板を製造するためには銅箔と貼り合わせた後に貫通孔を設ける必要がある。銅張積層板を製造した後に貫通孔を形成する場合、銅箔の損傷が避けられず、電気的コンタクトの信頼性が損なわれる恐れがある。そこで、ラミネート法による無接着剤タイプ銅張積層板が好適であると考えられるが、銅箔とポリイミド樹脂の接着性及びエッチング性の両立については未だ充分とはいえない。
【0012】
まず、粗化処理により接着性を向上させる方法ではファインライン形成には不利であるため、用いることは困難である。ファインピッチ化により導体間隔が狭くなると、粗化処理部がエッチングによる回路形成後に絶縁基板に残留し、絶縁劣化を起こすおそれがある。これを防止するために粗化表面すべてをエッチングしようとすると長いエッチング時間を必要とし、所定の配線幅が維持できなくなる。
【0013】
銅箔表面にNi層やNi−Cr合金層を設ける方法では、絶縁基板との接着性という基本特性において改善の余地が大きい。特許文献1には、Ni−Cr合金層を設けることで、銅箔の表面を平滑にしても樹脂基材との接着性が高くできる旨の記載があるが未だ改善の余地がある。
【0014】
銅箔表面にCr層を設ける方法では、比較的高い接着性が得られる。しかしながら、Cr層はエッチング性に改善の余地がある。すなわち、Cr層はNi層よりも接着性が高いが、Crはエッチング性に劣るため、導体パターン形成のためのエッチング処理を行った後に、Crが絶縁基板面に残る「エッチング残り」が生じやすい。また、耐熱性が十分でなく、高温環境下に置かれた後に絶縁基板との接着性が有意に低下するという問題もある。このため、プリント配線板のファインピッチ化が進展していく状況下では、有望な手法とは言い難い。一方、クロメート層では接着性に改善の余地がある。
【0015】
特許文献3に記載の、Ni量にして0.03〜3.0mg/dm2含有するNi層又は/及びNi合金層の上にCr量にして0.03〜1.0mg/dm2含有するCr層又は/及びCr合金層を表面処理層として設けるという手法は、比較的高い接着性とエッチング性が得られるが、特性の改善の余地はやはり残っている。
【0016】
そこで、本発明は銅箔とポリイミド樹脂の間の接着性が高く、エッチング性に優れ、ファインピッチ化に適した、ラミネート法による無接着剤タイプ銅張積層板を提供することを課題とする。また、本発明はそのような銅張積層板の製造方法を提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従来、被覆層を薄くすると接着強度が低下するということが一般的な理解であった。しかしながら、本発明者らは、鋭意検討の結果、銅箔基材表面に順にNi層及びCr層をナノメートルオーダーの極薄の厚みで均一に設けた場合には、絶縁基板との優れた密着性が得られることを見出した。厚みを極薄にすることでエッチング性の低いCrの使用量が削減され、また、被覆層が均一であることからエッチング性に有利である。
【0018】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、
銅箔と樹脂フィルムが、熱可塑性樹脂を介して接着した構造を有する銅張積層板であって、
−前記銅箔は、銅箔基材と該銅箔基材表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備え、
−該被覆層は銅箔基材表面から順に積層したNi層及びCr層で構成され、
−該被覆層にはCrが15〜210μg/dm2、Niが15〜440μg/dm2の被覆量で存在し、
−該被覆層の断面を透過型電子顕微鏡によって観察すると最大厚みが0.5〜5nmであり、最小厚みが最大厚みの80%以上であり、
−前記被覆層は熱可塑性樹脂に接触しており、
−前記樹脂フィルム及び熱可塑性樹脂は、これらを貫通する1又は2以上の貫通孔を有する、
銅張積層板である。
【0019】
本発明に係る銅張積層板の一実施形態においては、Crの被覆量が18〜100μg/dm2、Niの被覆量が20〜195μg/dm2である。
【0020】
本発明に係る銅張積層板の別の一実施形態においては、Crの被覆量が30〜150μg/dm2、Niの被覆量が40〜180μg/dm2である。
【0021】
本発明に係る銅張積層板の更に別の一実施形態においては、銅箔基材は圧延銅箔である。
【0022】
本発明に係る銅張積層板の更に別の一実施形態においては、銅箔基材はJIS H3130で規定されるばね限界値が350N/mm2以上で、応力緩和率が30%以下の圧延銅箔である。
【0023】
本発明は別の一側面において、
1)スパッタリング法によって銅箔基材表面の少なくとも一部を厚さ0.2〜5.0nmのNi層及び厚さ0.2〜3.0nmのCr層で順に被覆することにより被覆銅箔を製造する工程、
2)熱可塑性樹脂を樹脂フィルムの片面又は両面に塗布して複合フィルムを形成する工程、
3)該複合フィルムに1又は2以上の貫通孔を形成する工程、
4)前記被覆銅箔をNi層及びCr層で被覆された部分を内側にして複合フィルムの熱可塑性樹脂面上に熱ラミネートする工程、
を含む銅張積層板の製造方法である。
【0024】
本発明に係る銅張積層板の製造方法の一実施形態においては、樹脂フィルムの片面又は両面に塗布される熱可塑性樹脂の厚みが1〜5μmである。
【0025】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅張積層板を材料としたプリント配線板である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、銅箔と樹脂の間の接着性が高く、エッチング性に優れ、ファインピッチ化に適した、フライングリード部を有する無接着剤タイプ銅張積層板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
1.銅箔基材
フライングリード部を有する銅張積層板において、樹脂基材の貫通孔を塞ぐ銅箔部分が接点材料として機能する場合、電流によって金属部が熱を持つ。この熱で金属のばね弾性が失われると、この部分は接点材料として機能しない。従って、このような場合には使用する銅箔には優れたばね弾性及び低い応力緩和率が求められる。具体的には、JIS H3130で規定されるばね限界値が350N/mm2以上で、応力緩和率が30%以下の銅箔基材が好ましい。かかる特性を満たす銅箔基材としては、例えば、C2600、C7701、C7025、C5212、C1700、C18040、C64770、C19400、C64710、C42500、C64725、C64740、C44250、C19020、C19025を材料とした銅箔基材が挙げられる。これらの銅合金のうち、析出型銅合金が、さらにはコルソン合金と呼ばれる銅合金が強度、導電性およびばね性に優れ、基材として好ましい。特に、C7025は応力緩和性に優れ、好適である。
【0028】
本発明に用いることのできる銅箔基材の厚さについても特に制限はなく、プリント配線板用に適した厚さに適宜調節すればよい。例えば、5〜100μm程度とすることができる。但し、ファインパターン形成を目的とする場合には30μm以下、好ましくは20μm以下であり、典型的には10〜20μm程度である。
【0029】
本発明に使用する銅箔基材には粗化処理をしないのが好ましい。従来は特殊めっきで表面にμmオーダーの凹凸を付けて表面粗化処理を施し、物理的なアンカー効果によって樹脂との接着性を持たせるケースが一般的であった。しかしながら一方でファインピッチや高周波電気特性は平滑な箔が良いとされ、粗化箔では不利な方向に働くからである。また、粗化処理工程が省略されるので、経済性・生産性向上の効果もある。
【0030】
2.被覆層
銅箔基材の表面の少なくとも一部はNi層及びCr層で順に被覆される。Ni層及びCr層は被覆層を構成する。被覆する箇所には特に制限は無いが、絶縁基板との接着が予定される箇所とするのが一般的である。被覆層の存在によって絶縁基板との接着性が向上する。一般に、銅箔と絶縁基板の間の接着力は高温環境下に置かれると低下する傾向にあるが、これは銅が表面に熱拡散し、絶縁基板と反応することにより引き起こされると考えられる。本発明では、予め銅の拡散防止に優れるNi層を銅箔基材の上に設けたことで、銅の熱拡散が防止できる。また、Ni層よりも絶縁基板との接着性に優れたCr層をNi層の上に設けることで更に絶縁基板との接着性を向上することができる。Cr層の厚さはNi層の存在のおかげで薄くできるので、エッチング性への悪影響を軽減することができる。なお、本発明でいう接着性とは常態での接着性の他、高温下に置かれた後の接着性(耐熱性)及び高湿度下に置かれた後の接着性(耐湿性)のことも指す。
【0031】
本発明ではNi被覆の上に最表面として樹脂との接着性に非常に優れているCr単層被膜を形成し、かつイミド結合を有する熱可塑性樹脂を銅箔とベースフィルム間に介在させることで、ラミネート時の高温熱履歴後も高接着性を有する単層被膜構造を保持しているためと推測される。また、被覆層を極薄にするとともにNiとCrの二層構造としてCrの使用量を減らしたことにより、エッチング性が向上したと考えられる。
【0032】
(Ni/Cr層の効果〜支持体〜)
また、本発明のNi/Cr層は銅箔基材よりも硬質であるため、フライングリード部を補強する機能を有すると考えられる。例えば、樹脂層に形成される貫通孔径が数100μmと大きい場合、Ni/Cr層の被覆がない厚み10数μmの銅箔がフライングリードに加工されると、部品組立工程での応力負荷によってフライングリード部が損傷する可能性があるが、銅箔がNi/Cr層を有することによってそのような可能性を低下させる。
【0033】
(Ni/Cr層の効果〜エッチング等による接着界面損傷の抑制〜)
さらに、本発明のNi/Cr層はエッチング等による接着界面損傷を抑制する役割も果たす。
本発明のような樹脂に貫通孔が形成された銅張積層板では、貫通孔部分の銅箔をエッチングして回路やフライングリード部等を形成する。エッチングにより銅箔がどんどん薄くなっていき、最終的にはエッチング液が銅箔を貫通することになるが、この際に銅張積層板の断面がエッチング液に曝されてしまい、本発明のようなCr層のない単なる銅箔を用いた積層板の場合には、樹脂層と金属層の間にエッチング液が浸み込んでいき、剥離の原因となってしまう。しかしながら、本発明では、腐食速度が比較的遅いCr層が金属側最表層に存在して樹脂層と接着していると、サイド(貫通孔の径方向への)エッチングで密着界面の剥離を抑えることができる。このため、Ni/Cr層が存在していると回路形成のエッチング時に、接合部での剥離が防止できる。
また、腐食速度が比較的遅いCr層が存在することで樹脂層側への液の周り込みが最小限に抑えられ、樹脂層の損傷が最小限に抑えられる。
【0034】
具体的には、本発明に係る被覆層は以下の構成を有する。
【0035】
(1)Cr、Ni被覆層の同定
本発明においては、銅箔基材の表面の少なくとも一部はNi層及びCr層の順に被覆される。これら被覆層の同定はXPS、若しくはAES等表面分析装置にて表層からアルゴンスパッタし、深さ方向の化学分析を行い、夫々の検出ピークの存在によってNi層及びCr層を同定することができる。また、夫々の検出ピークの位置から被覆された順番を確認することができる。
【0036】
(2)付着量
一方、これらNi層及びCr層は非常に薄いため、XPS、AESでは正確な厚さの評価が困難である。そのため、本願発明においては、Ni層及びCr層の厚さは特許文献[特開2006−222185号公報]と同様に単位面積当たりの被覆金属の重量で評価することとした。本発明に係る被覆層にはCrが15〜210μg/dm2、Niが15〜440μg/dm2の被覆量で存在する。Crが15μg/dm2未満だと十分なピール強度が得られず、Crが210μg/dm2を超えるとエッチング性が有意に低下する傾向にある。Niが15μg/dm2未満だと十分なピール強度が得られず、Niが440μg/dm2を超えるとエッチング性が有意に低下する傾向にある。Crの被覆量は好ましくは30〜150μg/dm2、より好ましくは50〜100μg/dm2であり、Niの被覆量は好ましくは20〜195μg/dm2、より好ましくは40〜180μg/dm2、典型的には40〜100μg/dm2である。
【0037】
(3)透過型電子顕微鏡(TEM)による観察
本発明に係る被覆層の断面を透過型電子顕微鏡によって観察したとき、最大厚さは0.5nm〜5nm、好ましくは1〜4nmであり、最小厚さが最大厚さの80%以上、好ましくは85%以上で、非常にばらつきの少ない被覆層である。被覆層厚さが0.5nm未満だと耐熱試験、耐湿試験において、ピール強度の劣化が大きく、厚さが5nmを超えると、エッチング性が低下するためである。厚さの最小値が最大値の80%以上である場合、この被覆層の厚さは、非常に安定しており、耐熱試験後も殆ど変化がない。TEMによる観察では被覆層中のNi層及びCr層の明確な境界は見出しにくく、単層のように見える(図3参照)。本発明者の検討結果によればTEM観察で見出される被覆層はCrを主体とする層と考えられ、Ni層はその銅箔基材側に存在するとも考えられる。そこで、本発明においては、TEM観察した場合の被覆層の厚さは単層のように見える被覆層の厚さと定義する。ただし、観察箇所によっては被覆層の境界が不明瞭なところも存在し得るが、そのような箇所は厚みの測定箇所から除外する。本発明の構成により、Cuの拡散が抑制されるため、安定した厚さを有すると考えられる。本発明の銅箔は、樹脂フィルムと接着し、耐熱試験(温度150℃で空気雰囲気下の高温環境下に168時間放置)を経た後に樹脂を剥離した後においても、被覆層の厚さは殆ど変化なく、最大厚さが0.5〜5.0nmであり、最小厚さにおいても最大厚さの70%以上、好ましくは80%維持されることが可能である。
【0038】
3.被覆銅箔の製法
本発明に使用する被覆銅箔は、スパッタリング法により形成することができる。すなわち、スパッタリング法によって銅箔基材表面の少なくとも一部を、厚さ0.2〜5.0nm、好ましくは0.25〜2.5nm、より好ましくは0.5〜2.0μmのNi層及び厚さ0.2〜3.0nm、好ましくは0.25〜2.0nm、より好ましくは0.5〜1.5μmのCr層で順に被覆することにより製造することができる。電気めっきでこのような極薄の被膜を積層すると、厚さにばらつきが生じ、耐熱・耐湿試験後にピール強度が低下しやすい。
ここでいう厚さとは上述したXPSやTEMによって決定される厚さではなく、スパッタリングの成膜速度から導き出される厚さである。あるスパッタリング条件下での成膜速度は、1μm(1000nm)以上スパッタを行い、スパッタ時間とスパッタ厚さの関係から計測することができる。当該スパッタリング条件下での成膜速度が計測できたら、所望の厚さに応じてスパッタ時間を設定する。なおスパッタは、連続又はバッチ何れで行っても良く、被覆層を本発明で規定するような厚さで均一に積層することができる。スパッタリング法としては直流マグネトロンスパッタリング法が挙げられる。
【0039】
4.複合フィルムの製法
本発明では絶縁基板として使用する複合フィルムは、熱可塑性樹脂をベースフィルムである樹脂フィルムの片面又は両面に塗布することにより製造できる。複合フィルムに使用するベースフィルムとなる樹脂としては、特に制限はないが、好適な樹脂フィルムの代表はポリイミドフィルムであり、例えばデュポン社のカプトンENシリーズ(商品名)や宇部興産社のユーピレックスRシリーズ、Sシリーズ(商品名)として市販されている。熱可塑性樹脂についても特に制限はないが、熱可塑性ポリイミドが代表的であり、好適な熱可塑性ポリイミドは、例えば三井化学社のAURUM(商品名)、デュポン社のAVIMID(商品名)、VESPEL(商品名)として市販されている。
【0040】
ベースフィルムに塗布する熱可塑性樹脂の厚みは厚すぎると複合フィルムの諸特性に及ぼす熱可塑性樹脂の影響が大きくなり、ベースフィルムの特性が充分に発現しない。一方、熱可塑性樹脂の厚みが薄すぎると、塗り斑が生じて接着力も均一ではなくなる可能性がある。そこで、熱可塑性樹脂の厚みは1〜5μmとするのが好ましく、1〜3μmとするのがより好ましい。
【0041】
5.銅張積層板の製法
本発明に係る銅張積層板は、上述した被覆銅箔をNi層及びCr層で被覆された部分を内側にして複合フィルムの熱可塑性樹脂面に熱ラミネートすることで製造することができる。熱ラミネートする際の加熱温度は複合フィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上とするが、あまり高温にすると熱可塑性樹脂が劣化して良好な密着性が得られないので、必要以上に加熱する必要はない。例えばガラス転移温度よりもせいぜい20〜200℃高い温度で充分である。
【0042】
フライングリード部を有する銅張積層板を製造する場合は、複合フィルムを銅箔に熱ラミネートする前に、複合フィルムに1又は2以上の貫通孔を形成すればよい。貫通孔を形成する方法としては、レーザー加工やプレス加工がある。レーザー加工は貫通孔の単位面積当たりの数が多い場合にコスト高となる。大量に短時間で打ち抜き作業が行えることからプレス加工が好ましい。
【0043】
また、樹脂基材の貫通孔を塞ぐ銅箔部分が接点材料として機能する場合、所望によりこの部分をスパイラル状又は回路状にしてもよい。
【0044】
上記の銅張積層板を材料として、プリント配線板(PWB)を常法に従って製造することができる。銅張積層板からプリント配線板を製造する工程は当業者に周知の方法を用いればよく、例えばエッチングレジストを銅張積層板の銅箔面に導体パターンとしての必要部分だけに塗布し、エッチング液を銅箔面に噴射することで不要銅箔を除去して導体パターンを形成し、次いでエッチングレジストを剥離・除去して導体パターンを露出することができる。本発明に係る銅張積層板では、アクリル系やエポキシ系の接着剤を使用しておらず、エッチング時にエッチング液を汚染することが防止される。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0046】
[I.被覆銅箔の接着性及びエッチング性の評価]
例1
銅箔基材として、厚さ18μmの圧延銅箔(日鉱金属製C70251100)を用意した。この圧延銅箔は、JIS H3130で規定されるばね限界値が610N/mm2であり、応力緩和率は75%であった。
高温下での応力緩和特性として、応力緩和率(日本伸銅協会(JCBA)の技術標準:JCBA T309)を測定した。この試験は、幅10mmの短冊試験片を片持ちはりに取付け、高温の曲げ状態で所定時間保持後のたわみ変位(自由端における所定位置の変位)を初期状態と比較し、温度によるへたりを評価する方法である。試験後と初期状態のたわみが変わらない場合の応力緩和率の値は0%となり、試験後のたわみが初期状態より大きくなるほど、応力緩和率の値が大きくなる(応力が低下する)。
応力緩和率は次式:
応力緩和率=(y−y1)/y0×100(%)
(但し、y=所定時間経過後のたわみ変位(mm)、y1=初期たわみ(mm)、y0=設定高さ(mm))で与えられる。
また、設定高さは次式:
y0=(2/3)×l×l×σ0/(E×t)
(但し、l=標点距離(mm)、σ0=負荷応力(kg/mm2);0.2%耐力の80%または0.2%耐力以下の任意の応力、E=ヤング率(kg/mm2)、t=板厚(mm))で与えられる。
応力緩和の測定は、試料を150℃とし、一定の緩和率を示すまで測定を行った。具体的には、25,50,100,200時間の応力緩和率を測定していき、およそ1000時間でほぼ一定の応力緩和率を示したので、この値を応力緩和率とした。
【0047】
この銅箔の片面に対して、以下の条件でNi層及びCr層を順に成膜した。被覆層の厚さは成膜時間を調整することにより変化させた(実施例1〜3、比較例1、2)。また、比較例3ではNi−Cr合金層を成膜した。
・装置:バッチ式スパッタリング装置(アルバック社、型式MNS−6000)
・到達真空度:1.0×10-5Pa
・スパッタリング圧:0.2Pa
・ターゲット:
Ni層用=Ni(純度3N)
Cr層用=Cr(純度3N)
Ni−Cr合金層用=Ni:80質量%、Cr20質量%のNi−Cr合金
・スパッタリング電力:50W
・成膜速度:各ターゲットについて一定時間約2μm成膜し、3次元測定器で厚さを測定し、単位時間当たりのスパッタレートを算出した。(Ni:2.73nm/min、Cr:2.82nm/min)
【0048】
被覆層を設けた銅箔に対して、以下の手順により、ポリイミドフィルムを接着した。
(1)7cm×7cmの東レ・デュポン社製カプトン80EN(厚み20μm)に対しアプリケーターを用い、三井化学社製AURUM PL450Cを乾燥体で1μmになるよう塗布。
(2)(1)で得られた複合フィルムを空気下乾燥機で130℃30分で乾燥。
(3)(2)で得られた複合フィルムと銅箔を、熱可塑性ポリイミドが塗工された面を銅箔のCr被覆層と接触するように、熱プレス(圧力0.75MPa、温度350℃、時間15秒)で接着。
【0049】
<付着量の測定>
50mm×50mmの銅箔表面の皮膜をHNO3(2重量%)とHCl(5重量%)を混合した溶液に溶解し、その溶液中の金属濃度をICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SFC−3100)にて定量し、単位面積当たりの金属量(μg/dm2)を算出した。
<XPSによる測定>
被覆層のデプスプロファイルを作成した際のXPSの稼働条件を以下に示す。
・装置:XPS測定装置(アルバックファイ社、型式5600MC)
・到達真空度:3.8×10-7Pa
・X線:単色AlKα、X線出力300W、検出面積800μmφ、試料と検出器のなす角度45°
・イオン線:イオン種Ar+、加速電圧3kV、掃引面積3mm×3mm、スパッタリングレート2.3nm/min(SiO2換算)
<TEMによる測定>
被覆層をTEMによって観察したときのTEMの測定条件を以下に示す。表中に示した厚みは観察視野中に写っている被覆層全体の厚みを1視野について50nm間の厚みの最大値、最小値を測定し、任意に選択した3視野の最大値と最小値を求め、最大値、及び最大値に対する最小値の割合を百分率で求めた。また、表中、「耐熱試験後」のTEM観察結果とは、試験片の被覆層上に上記手順によりポリイミドフィルムを接着させた後、試験片を下記の高温環境下に置き、得られた試験片からポリイミドフィルムを180°剥離法(JIS C 6471 8.1)に従って剥離した後のTEM像である。図1に、TEMによるスパッタ直後の観察写真を実施例3の銅箔について例示的に示す。
・装置:TEM(日立製作所社、型式H9000NAR)
・加速電圧:300kV
・倍率:300000倍
・観察視野:60nm×60nm
【0050】
<接着性評価>
上記のようにしてポリイミドを積層した銅箔について、ピール強度を積層直後(常態)、温度150℃で空気雰囲気下の高温環境下に168時間放置した後(耐熱性)、及び温度40℃°相対湿度95%空気雰囲気下の高湿環境下に96時間放置した後(耐湿性)の三つの条件で測定した。ピール強度は180°剥離法(JIS C 6471 8.1)に準拠して測定した。
【0051】
<エッチング性評価>
上記のようにしてポリイミドを積層した銅箔について、所定のレジストを用いてラインアンドスペース20μm/20μmの回路パターンを形成し、次にエッチング液(アンモニア水、塩化第二銅2水和物、温度40℃)を用いてエッチング処理した。処理後の回路間の樹脂表面をEPMAで測定し、残留しているCr及びNiを分析し、以下の基準で評価した。
×:回路間全面にCr又はNiが観察された
△:回路間に部分的にCr又はNiが観察された
〇:回路間にCr又はNiが観察されなかった
【0052】
測定結果を表1に示す。参考用に、XPSによるデプスプロファイルを例1の実施例3の銅箔について図2に示す。
【0053】
例2(比較)
比較例4、5においては、以下の条件でNi電気めっき及びクロメート処理を順に施した。この比較例は特開2006−222185号公報に教示された方法と比較するためのものである。
(1)Niめっき
・めっき浴:スルファミン酸ニッケル(Ni2+として110g/L)、H3BO3(40g/L)
・電流密度:1.0A/dm2
・浴温:55℃
・Ni量:95μg/dm2(厚み約1.1nm)
(2)クロメート処理
・めっき浴:CrO3(1g/L)、Zn(粉末0.4g)、Na3SO4(10g/L)
・電流密度:2.0A/dm2
・浴温:55℃
・Cr量:37μg/dm2(厚み約0.5nm)
【0054】
被覆層を設けた銅箔に対して、例1と同様の手順により、複合フィルムを接着した。評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
[II.めっき液の汚染度合い及びエッチング液による接着界面の損傷の評価]
例3
(実施例4)
複合フィルムに貫通孔をプレス加工により19600個(7cm×7cm)設けた後に銅箔をラミネートした以外は実施例3と同様の方法で2層銅張積層板を製造した。
【0057】
(比較例6)
カプトン80ENをベースフィルムとしてその上にエポキシ系接着剤を塗工して得られた複合フィルムにプレス加工によって貫通孔を19600個(7cm×7cm)設けた。この複合フィルムと実施例3の銅箔を接着層と銅箔上の被覆層が内側になるようにして接着させて3層銅張積層板を作製した。
【0058】
(比較例7)
比較例6と同じ手順で作製された貫通孔を有する複合フィルムと、被覆層を設けていない銅箔とをラミネートで接着し、3層銅張積層板を得た。
【0059】
(比較例8)
また、実施例4と同じ手順で作製された貫通孔を有する樹脂複合体と、被覆層を設けていない銅箔とをラミネートで接着し、2層銅張積層板を得た。
【0060】
上記の銅張積層板について、特開2006−228743号公報に記載されている下記組成の無電解めっき液に5分間浸漬した。
<めっき液組成>
NiSO4・H2O 0.1 mol/L
NaH2PO2・6H2O 0.2 mol/L
クエン酸 0.5 mol/L
(NH42SO4 0.5 mol/L
結果を表2に示す。めっき液面に目視で汚れが確認された場合を×、確認されなかった場合を○とした。
【0061】
また、上記と同様の銅張積層板について、所定のレジストを用い、フライングリード部を銅箔側からラインアンドスペース30μmの回路パターンを作製し、次にエッチング液(塩化第二鉄、40ボーメ、液温40℃)を用いて、銅張積層板のフライングリード部(樹脂層貫通孔上の銅箔部)をエッチング処理した。エッチング液を銅箔側からスプレー方式(圧力0.15MPa)で吹き付けた。この後、サンプルを樹脂に埋めて適当に研磨し、各銅張積層板の貫通孔壁面の接着界面をSEM観察した。
本発明の被覆層を有する2層積層板では樹脂及び金属層が液によって腐食している様子は観察されなく、樹脂と金属層は貫通孔壁面においても十分に接触していた(実施例4、比較例6)。エポキシ系接着剤を使用した比較例6及び比較例7はめっき液を汚した。本発明の被覆層を有しない3層積層板(比較例7)、2層積層板(比較例8)では貫通孔壁面における接着界面の腐食が認められた。
【0062】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】例1の実施例3の銅箔についてのTEM写真である。
【図2】例1の実施例3の銅箔についてのXPSによるデプスプロファイルである。
【符号の説明】
【0064】
1 TEM観察時の被覆層の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔と樹脂フィルムが、熱可塑性樹脂を介して接着した構造を有する銅張積層板であって、
−前記銅箔は、銅箔基材と該銅箔基材表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備え、
−該被覆層は銅箔基材表面から順に積層したNi層及びCr層で構成され、
−該被覆層にはCrが15〜210μg/dm2、Niが15〜440μg/dm2の被覆量で存在し、
−該被覆層の断面を透過型電子顕微鏡によって観察すると最大厚みが0.5〜5nmであり、最小厚みが最大厚みの80%以上であり、
−前記被覆層は熱可塑性樹脂に接触しており、
−前記樹脂フィルム及び熱可塑性樹脂は、これらを貫通する1又は2以上の貫通孔を有する、
銅張積層板。
【請求項2】
Crの被覆量が18〜100μg/dm2、Niの被覆量が20〜195μg/dm2である請求項1記載の銅張積層板。
【請求項3】
Crの被覆量が30〜150μg/dm2、Niの被覆量が40〜180μg/dm2である請求項1記載の銅張積層板。
【請求項4】
銅箔基材は圧延銅箔である請求項1〜3何れか一項記載の銅張積層板。
【請求項5】
銅箔基材はJIS H3130で規定されるばね限界値が350N/mm2以上で、応力緩和率が30%以下の圧延銅箔である請求項1〜4何れか一項記載の銅張積層板。
【請求項6】
1)スパッタリング法によって銅箔基材表面の少なくとも一部を厚さ0.2〜5.0nmのNi層及び厚さ0.2〜3.0nmのCr層で順に被覆することにより被覆銅箔を製造する工程、
2)熱可塑性樹脂を樹脂フィルムの片面又は両面に塗布して複合フィルムを形成する工程、
3)該複合フィルムに1又は2以上の貫通孔を形成する工程、
4)前記被覆銅箔をNi層及びCr層で被覆された部分を内側にして複合フィルムの熱可塑性樹脂面上に熱ラミネートする工程、
を含む銅張積層板の製造方法。
【請求項7】
樹脂フィルムの片面又は両面に塗布される熱可塑性樹脂の厚みが1〜5μmである請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5何れか一項記載の銅張積層板を材料としたプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−105356(P2010−105356A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282044(P2008−282044)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】