説明

無機薄膜の形成方法

【課題】広範な基材に適用でき、フォトマスクなどを用いることなく、基材との密着性の高い無機薄膜を高い精度で形成された積層部品と、前記無機薄膜の形成方法を提供する。
【解決手段】ポリイミド樹脂などの基板1に、ポリアミド酸などのカチオン交換基を有する樹脂で構成された樹脂層2を形成し、金属イオンを含む水溶液に浸漬して樹脂層2と金属イオンとを接触させ、生成した金属塩を還元処理又は活性ガスで処理して樹脂層2に金属又は半導電性無機化合物(半導体化合物など)を析出させ、無機薄膜3を形成する。水溶液は、周期表4族乃至14族に属する金属の水溶性金属化合物の水溶液であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル積層基板などの基材に密着性の高い無機薄膜(例えば、導電性薄膜など)を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁性材料で形成された絶縁基板に無機薄膜(例えば、回路パターンの金属薄膜など)を形成する方法として、種々の方法、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法などのドライプロセス法、サブトラクティブ法、アディティブ法、インクジェット法などが提案されている。前記ドライプロセス法では、密着信頼性に優れた微細な回路パターンを形成できる。しかし、高価な装置を必要とし、生産性の点で難点があり高コストである。また、サブトラクティブ法は、予め基材の表面全体を金属被膜で被覆して金属被覆材を調製し、フォトリソグラフィ法により不必要な部位の金属被膜をエッチング処理して除去する方法であり、生産性に優れ、比較的簡便に回路パターンを形成できる。しかし、多量の金属被膜を除去する必要があるため、金属材料を有効に利用できないだけでなく、廃液からの金属材料の再生処理が必要となる。
【0003】
アディティブ法は、基材の表面の回路形成部位以外を光硬化性樹脂などのマスクで被覆し、無電解めっき法を用いて基材の表面に回路パターンを直接形成する方法である。この方法は、ドライプロセス法に比べて優れた生産性を有し、またサブトラクティブ法に比べて微細な回路パターンを形成できる。しかし、金属被膜は基板との密着性とその信頼性が劣り、高コストである。インクジェット法は、金属ナノ粒子で構成されたインクをインクジェットノズルより噴射して基材の表面にパターンを形成した後、アニーリング処理して微細な金属被膜からなる回路パターンを形成する方法である。この方法は、微細な回路パターンを簡便かつ安価に形成できる。しかし、金属ナノ粒子の噴射において、金属ナノ粒子量を制御することが困難である。 特開2001−73159号公報(特許文献1)には、(1)ポリイミド樹脂表面をアルカリ水溶液で処理して、前記ポリイミド樹脂のイミド環を開環してカルボキシル基を生成する工程、(2)前記カルボキシル基を中和する工程、(3)前記カルボキシル基を、銅又はパラジウム溶液で処理することにより、前記カルボキシル基の銅又はパラジウム塩を生成する工程、及び(4)前記銅又はパラジウム塩を還元して、前記ポリイミド樹脂表面に前記銅又はパラジウム金属の皮膜を形成する工程を経て、ポリイミド樹脂表面に銅又はパラジウムからなる導電性皮膜を形成する方法が記載されている。この特許文献には、前記工程(3)でカルボキシル基の銅又はパラジウム塩を生成した後、(4)前記銅又はパラジウム塩を表面に有する前記ポリイミド樹脂の表面に還元剤を塗布する工程、及び(5)前記ポリイミド樹脂の表面にマスクパターンを通して紫外線を照射する工程により、ポリイミド樹脂表面に銅又はパラジウムからなる導電性皮膜を形成する方法も記載されている。後者の方法では、導電性被膜の回路パターンを形成できる。
【0004】
特許文献1に記載の方法では、前記導電性皮膜の密着性とその信頼性を向上できる。しかし、比較的高温で濃度3〜10M程度の強アルカリ水溶液で処理し、濃度4〜6M程度の塩酸で中和して、カルボキシル基を生成させる必要があり、工業的な観点から操作性を向上できない。しかも、比較的高温で高濃度の強アルカリ水溶液で処理するため、ポリイミド樹脂の基板、特に、厚みの薄いポリイミド基板が損傷する虞がある。また、基材がポリイミド樹脂に限定され、汎用の基材に適用できない。さらに、回路パターンを形成する場合、紫外線を1時間という長時間に亘り照射する必要があるため、効率よく回路パターンを形成できない。さらには、ポリイミド樹脂の基材表面の全体を比較的高温でアルカリ水溶液により処理し、生成したカルボキシル基を中和しているため、基材の所定部だけにカルボキシル基を生成させることが困難である。そのため、回路パターンの非形成部位にもカルボキシル基が生成し、その後の加工処理工程で金属塩などが生成し支障をきたす虞もある。
【特許文献1】特開2001−73159号公報(特許請求の範囲、段落[0005]、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、広範な基材に適用できるとともに、基材との密着性の高い無機薄膜を形成できる方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、基材との密着信頼性の高い無機薄膜を工業的に有利に形成できる方法を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、フォトマスクなどを用いることなく、回路パターンを高いパターン精度で効率よく形成できる無機薄膜(無機薄膜パターンなど)の形成方法を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、回路パターンの非成形部位にカルボキシル基を生成させることなく、高いパターン精度で回路パターンを形成できる無機薄膜(無機薄膜パターンなど)の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、絶縁基板上にポリアミド酸などのカチオン交換基を有する樹脂層を所定のパターンに形成し、金属イオンと接触させて金属塩を生成させ、還元処理又は活性ガスとの反応に供すると、強アルカリや強酸を用いることなく、しかも広範囲の基板との密着性に優れた無機薄膜を前記樹脂層表面に形成できることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の方法は、基材上の無機薄膜形成部位に、カチオン交換基を有する樹脂層を形成する工程と、カチオン交換基を有する樹脂層と金属イオンとを接触させて金属塩を形成する工程と、この金属塩を還元反応又は活性ガスとの反応に供して樹脂層表面に無機物を析出させる工程とで構成され、無機薄膜を形成する。この方法において、樹脂層形成工程では、基材上に、カチオン交換基を有する樹脂層を所定のパターンで形成してもよい。また、析出工程では、金属塩を還元処理又は活性ガスで処理して樹脂層に、無機物として金属(導電性金属など)又は半導電性無機化合物(半導体化合物(金属酸化物などを含む))を析出させてもよい。前記樹脂層は、アニオン性基(例えば、カルボキシル基又はスルホン基)を有する樹脂、例えば、ポリアミド酸系樹脂などで構成してもよい。前記金属は、無機薄膜の種類に応じて選択でき、周期表3族乃至16族に属する金属であってもよい。
【0011】
より具体的には、本発明の方法は、ポリイミド樹脂の基板にポリアミド酸系樹脂で構成された樹脂層を形成し、周期表4族乃至14族に属する金属を含む水溶性金属化合物の水溶液に浸漬し、生成した金属塩を還元処理又は活性ガスで処理して樹脂層に金属又は半導電性無機化合物(前記金属酸化物で構成された半導体など)を生成させる方法も含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、基材上の所定部位に所定の樹脂層を形成するため、基材がアルカリ処理によりカルボキシル基を生成する基材に制約されることなく、広範な基材に適用できるとともに、基材との密着性の高い無機薄膜を形成できる。また、強アルカリや強酸を用いる必要がないため、基材との密着信頼性の高い無機薄膜を工業的に有利に形成できる。さらに、前記所定の樹脂層を所定のパターンに形成できるので、フォトマスクなどを用いることなく、高いパターン精度で無機薄膜パターン(回路パターンなど)を効率よく形成できる。さらには、強アルカリ及び強酸で基材表面全体を処理する必要がないため、回路パターンの非成形部位にカルボキシル基を生成させることなく、高いパターン精度で無機薄膜パターン(回路パターンなど)を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、必要に応じて添付図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。図1は本発明の方法を示す概略断面図であり、(A)は樹脂層形成工程を示す概略断面図、(B)は無機薄膜生成工程を示す概略断面図である。
【0014】
図1(B)に示されるように、基板に無機薄膜が形成された積層部品は、基板1と、この基板の表面に所定のパターンで形成された樹脂層2と、この樹脂層の表面に形成された無機薄膜3とで構成されている。前記基板1は、電気絶縁性であってもよく、樹脂層2はカチオン交換基を有する樹脂で構成できる。また、無機薄膜3は金属薄膜であってもよく、金属酸化物などの薄膜であってもよい。また、無機薄膜3は、半導電性や導電性であってもよい。このような積層部品は、種々の方法で製造できるが、本発明の方法を利用すると効率よく高い精度で製造できる。
【0015】
本発明の方法は、基材上の表面に、カチオン交換基を有する樹脂層を形成する工程(樹脂層形成工程)と、前記樹脂層と金属イオンとを接触させて金属塩を生成する工程(金属塩生成工程)と、この金属塩から樹脂層表面に無機薄膜を形成(又は無機物を析出)させる工程(無機薄膜生成工程)とで構成されている。以下、これらの工程について詳細に説明する。
【0016】
[樹脂層形成工程]
基材は、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、耐燃性、電気絶縁特性などの用途に応じて選択でき、金属類(ステンレススチール、シリコン、アルミニウムなど)、セラミックス類、プラスチック類などであってもよく、炭素質であってもよい。基材は導電性であってもよいが、絶縁基板などの電気絶縁性である場合が多く、通常、セラミックス類やプラスチック類で構成されている。セラミックス類としては、例えば、金属酸化物(酸化珪素、石英、アルミナ又は酸化アルミニウム、ジルコニア、サファイア、フェライト、チタニア又は酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、ムライト、ベリリアなど)、金属窒化物(窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化炭素、窒化チタンなど)、金属炭化物(炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンなど)、金属ホウ化物(ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウムなど)、金属複酸化物[チタン酸金属塩(チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、チタン酸ニオブ、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウムなど)、ジルコン酸金属塩(ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸鉛など)など]などのセラミックス;金属酸塩(ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムなど)などの焼成可能な単結晶;ガラスなどが例示できる。これらのセラミックス類のうち、金属酸化物(酸化アルミニウムなど)、金属窒化物(窒化アルミニウムなど)、金属炭化物(炭化ケイ素など)を材質とする基板を用いる場合が多い。
【0017】
プラスチック類としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチルなど)、ポリエステル系樹脂(芳香族ポリエステル系樹脂など)、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアリールスルホン系樹脂(ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂など)、ポリアリールエーテルケトン系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン系樹脂など)、ポリアリールスルフィド系樹脂(ポリフェニレンスルフィド系樹脂)、ポリベンズイミダゾール系樹脂などが例示できる。これらの樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましいプラスチック類としては、耐熱性、機械的強度、電気絶縁特性などの特性に優れ、カチオン交換基を有する樹脂層との密着性の高い樹脂、例えば、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステルなど)、ポリアミド系樹脂(脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミド、部分又は完全芳香族ポリアミド)、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂(ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエステルイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂など)などが例示できる。特に、耐熱性、耐薬品性、耐燃性、電気特性などの特性に優れる樹脂、例えば、フレキシブルプリント配線板、フィルムキャリア、多層配線板などの基板として利用されているポリイミド系樹脂が好ましい。
【0018】
ポリイミド系樹脂は、テトラカルボン酸無水物とジアミンとの反応により得られる縮合型樹脂、テトラカルボン酸無水物とジイソシアネートとの反応により得られる樹脂であってもよく、ポリエーテルイミド系樹脂などのように、求核置換反応を利用した樹脂であってもよい。酸無水物としては、例えば、ビスマレイミド(4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’−ジフェニルスルホンビスマレイミド、フェニレンビスマレイミド、2,2−ビス(4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、1,3−ビス(4−マレイミドフェノキシ)ベンゼンなど)、脂環族テトラカルボン酸無水物(シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物など)、芳香族テトラカルボン酸無水物(無水ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸無水物などアレーンテトラカルボン酸無水物類;ビフェニルテトラカルボン酸無水物類、4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA,3,4,3’,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸無水物)などのビフェニルエーテルテトラカルボン酸無水物類、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物類、ビフェニルアルカンテトラカルボン酸無水物類、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸無水物類などのビスフェノールテトラカルボン酸無水物類;4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)(BPADA,2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパンの酸無水物)などのビフェニルアルカン骨格を有するビフェニルエーテルテトラカルボン酸無水物類などが例示できる。ジアミンとしては、脂肪族ジアミン(エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミンなどの直鎖状又は分岐鎖状アルキレンジアミン類、ポリエーテルジアミン類など)や脂環族ジアミン(メンセンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミンの水素添加物、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタンなどのビス(アミノシクロヘキシル)アルカン類など)であってもよいが、芳香族ジアミン[例えば、フェニレンジアミン類、キシリレンジアミン類、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのビス(アミノフェニル)エーテル類、4,4’−ジアミノジフェニルケトンなどのビス(アミノフェニル)ケトン類、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンなどのビス(アミノフェニル)スルホン類、1,1−ビス(4−アミノフェニル)メタンなどのビス(アミノフェニル)アルカン類、1,3−ビス(2−アミノフェニル)ベンゼンなどのビス(アミノフェニル)ベンゼン類など]などが例示できる。これらの酸無水物及びジアミンはそれぞれ単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。酸無水物としては芳香族テトラカルボン酸無水物(無水ピロメリット酸など)を用い場合が多く、ジアミンとしては芳香族ジアミン(ビス(アミノフェニル)エーテル類、ビス(アミノフェニル)ケトン類、ビス(アミノフェニル)アルカン類など)を用いる場合が多い。
【0019】
また、基材の形態は特に制限されず、成形体などの三次元的形態であってもよいが、フィルムやシート状、板状などの形態である場合が多い。樹脂層の形成に先立って、基材表面は、予め、アルカリや酸(希薄な水酸化カリウム水溶液や塩酸など)などで清浄化処理(洗浄処理)してもよい。また、基材(又は基板)の表面には、カチオン交換基を有する樹脂層との密着性を向上させるため、必要により、粗面化処理、接着処理(接着性樹脂によるアンカーコート処理、シランカップリング剤などによる表面処理、コロナ放電処理などの酸化処理など)などを施してもよい。
【0020】
カチオン交換基を有する樹脂としては、例えば、アニオン性基(カルボキシル基及び/又はスルホン基など)を有する樹脂、例えば、カルボキシル基含有アクリル系樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル系樹脂、カルボキシル基含有ポリアミド系樹脂、ポリアミド酸系樹脂(ポリアミック酸系樹脂)などが例示できる。これらの樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい樹脂はポリアミド酸系樹脂である。特に、基材(絶縁基材など)としてポリイミド系樹脂の基材を用いる場合、ポリアミド酸系樹脂と組み合わせると、ポリアミド酸系樹脂をポリイミド系樹脂に変換させることにより、基材と樹脂層との密着性、および耐電圧特性や耐イオンマイグレーション性などの絶縁信頼性を高めることができる。
【0021】
なお、ポリアミド酸系樹脂(ポリアミック酸系樹脂)は、テトラカルボン酸無水物とジアミンとの反応により得られる縮合型ポリイミド系樹脂の前駆体であり、開環して遊離のカルボキシル基を有する樹脂、例えば、酸無水物として、前記芳香族テトラカルボン酸無水物(無水ピロメリット酸など)を用いた樹脂であってもよい。テトラカルボン酸無水物及びジアミンとしては、前記ポリイミド系樹脂の項に記載の化合物が例示できる。
【0022】
なお、カチオン交換基(アニオン性基)の一部又は全部は、前記金属塩を形成できる限り、塩(例えば、前記金属イオンよりも弱い塩基との塩)を形成していてもよい。
【0023】
カチオン交換基を有する樹脂は、通常、樹脂組成物(コーティング剤など)の形態で樹脂層の形成に利用してもよい。樹脂組成物は、カチオン交換基を有する樹脂に応じて、通常、溶媒(N−メチルピロリドンなどの窒素含有溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒などの極性溶媒など)を含んでおり、必要により、無機フィラーや補強剤、増粘剤、分散剤、安定化剤、レベリング剤などの助剤(添加剤)を含んでいてもよい。これらの助剤(添加剤)は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの助剤は、所望の塗布パターンの形状、線幅、塗布方法、粘度、基材との濡れ性、平滑性、揮発性などを考慮して配合できる。 前記樹脂層は、基材(例えば、基板)上の無機薄膜形成部位に形成すればよく、基材の表面全体に形成してもよく、基材表面に部分的に形成してもよく、所定のパターンで形成してもよい。本発明では前記樹脂層の形成部位に無機薄膜を形成できるため、所定のパターンに樹脂層を形成すると、無機薄膜の回路パターンを形成できる。また、フォトマスクなどを用いる必要がなく、密着信頼性が高く、パターン精度の高い無機薄膜パターンを形成できる。
【0024】
樹脂層は、慣用の被膜形成法(又は塗布方法)、例えば、浸漬法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法などのコーティング又は塗布により形成でき、部分的に又は所定のパターンに樹脂層を形成する場合には、例えば、インクジェット法、転写法、スクリーン印刷法、マスキング法(非塗布部をマスキングし、塗布部に塗布する方法)などを採用してもよい。なお、前記カチオン交換基を有する樹脂を含む樹脂組成物(コーティング剤など)を基材に適用又は塗布した後、通常、乾燥することにより樹脂層が形成される。
【0025】
樹脂層の厚みは特に制限されず、例えば、0.1〜100μm(例えば、0.5〜75μm)、好ましくは1〜50μm(例えば、5〜30μm)程度であってもよい。
【0026】
[金属塩生成工程]
前記樹脂層と金属イオンとを接触させることにより金属塩(樹脂層のカチオン交換基(アニオン性基)と金属との塩)を形成できる。金属の種類は無機薄膜の種類に応じて選択でき、通常、周期表3族乃至16族金属が使用できる。より具体的には、金属としては、例えば、周期表4族金属(チタン、ジルコニウムなど)、周期表5族金属(バナジウム、ニオブ、タンタルなど)、周期表6族金属(クロム、モリブデン、タングステンなど)、周期表7族金属(マンガンなど)、周期表8族金属(鉄など)、周期表9族金属(コバルト、ロジウム、イリジウムなど)、周期表10族金属(ニッケル、パラジウム、白金など)、周期表11族金属(銅、銀、金)、周期表12族金属(亜鉛、カドミウムなど)、周期表13族金属(アルミニウム、ガリウム、インジウムなど)、周期表14族金属(ケイ素、ゲルマニウム、錫など)、周期表15族金属(ヒ素、アンチモン、ビスマスなど)、周期表16族金属(セレン、テルルなど)などが例示できる。これらの金属は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。金属は、導電性金属(銅、銀、ニッケル、アルミニウムなど)であってもよい。これらの金属のうち、周期表4族乃至14族金属、例えば、周期表8族乃至11族金属、周期表13族金属などを利用する場合が多い。 前記金属イオンは、通常、水溶液の形態で使用される。換言すれば、前記金属は水溶性金属化合物(又は水溶性無機化合物)の形態で使用される。水溶性金属化合物は、例えば、ハロゲン化物(塩化物など)、無機酸塩(硫酸銅、硫酸ニッケルなどの硫酸塩、硝酸銀などの硝酸塩など)、有機酸塩(酢酸塩など)などであってもよい。水溶性金属化合物としては、通常、塩化物や無機酸塩が使用される。これらの水溶性金属化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、金属イオンを含む水溶液は、必要により、水溶性有機溶媒(アルコール類など)、pH調整剤(塩基、例えば、エチレンジアミンなどのアミン類など;酸、例えば、塩酸など)、緩衝剤などを含んでいてもよい。
【0027】
金属塩の形成において、カチオン交換基を有する樹脂層と金属イオンとの接触は、慣用の方法、例えば、金属イオンを含む水溶液(水溶性無機化合物の水溶液)への浸漬、前記水溶液の塗布や噴霧などで行うことができる。簡便性の点から、通常、浸漬法を利用する場合が多い。金属塩の形成では、樹脂層が金属イオンを捕捉すればよく、樹脂層への金属イオンの吸着であってもよい。
【0028】
水溶液中の金属イオンの濃度は、特に制限されず、例えば、0.01〜5M(例えば、0.02〜3M)、好ましくは0.03〜2M(例えば、0.05〜1M)程度の範囲から選択でき、通常、0.03〜0.5M(例えば、0.05〜0.2M)程度であってもよい。また、浸漬などによる樹脂層と金属イオンとの接触は、適当な温度、例えば、10〜70℃(例えば、20〜50℃)程度で行ってもよく、通常、15〜35℃(例えば、20〜30℃)、特に室温(例えば、15〜25℃)で行うことができる。なお、接触時間は、例えば、1秒〜60分程度の範囲から選択でき、通常、30秒〜45分(例えば、1〜40分)、好ましくは3〜30分(例えば、5〜20分)程度であってもよい。
【0029】
金属塩を形成した後、通常、洗浄し、無機薄膜生成工程に移行される。
【0030】
[無機薄膜生成工程又は無機物析出工程]
前記金属塩を還元反応又は活性ガスとの反応に供することにより、樹脂層表面に無機物を析出させ、無機薄膜(金属又は半導電性無機化合物の薄膜)を形成できる。より詳細には、前記金属塩を還元処理することにより樹脂層表面に金属を析出でき、金属塩を活性ガスで処理(又は活性ガスと反応)することにより、樹脂層表面に半導電性無機化合物(半導体化合物であってもよい金属酸化物など)を析出させることができる。
【0031】
[金属塩の還元]
金属塩の還元には、還元剤による還元反応、還元性ガスや不活性ガス雰囲気での熱処理などを利用でき、前記還元剤による還元処理後の熱処理も含めて「還元剤による還元反応」と称してもよい。熱処理方法に比べて還元剤を用いる方法は、簡便性の点から有利である。還元剤としては、慣用の成分、例えば、水素化ホウ素ナトリウム類(水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素ナトリウムなど)、水素化アルミニウムリチウム、次亜リン酸又はその塩(ナトリウム塩など)、ボラン類(ジボラン、ジメチルアミンボランなど)、ヒドラジンなどが例示できる。これらの還元剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0032】
還元剤による還元反応は、還元剤を含む溶液を、噴霧や浸漬などの方法で、前記金属塩が生成した樹脂層に適用することにより行うことができる。前記溶液は通常水溶液であり、溶液中の還元剤の濃度は、例えば、0.001〜1M(例えば、0.005〜0.7M)、好ましくは0.02〜0.5M、さらに好ましくは0.05〜0.3M程度であってもよい。また、還元剤を含む溶液の温度は、例えば、10〜50℃、好ましくは20〜35℃程度であってもよい。
【0033】
また、前記熱処理による還元において、還元性ガスとしては、水素又はその混合ガス、ボランを含むガス(例えば、ボラン−窒素混合ガスなどのボランと不活性ガスとの混合ガスなど)などが例示できる。さらに、不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどが例示でき、必要であれば炭酸ガスを利用してもよい。
【0034】
還元剤で処理することにより金属塩に対応する金属を析出させることができる。なお、還元剤で処理した後、熱処理することにより、強固で基材との密着性の高い無機薄膜(金属薄膜)を形成できる。また、還元性雰囲気又は不活性ガス雰囲気下で熱処理することによっても、無機薄膜(金属薄膜)を形成できる。無機薄膜(金属薄膜)は導電性である場合が多い。そのため、基材上に形成された金属薄膜パターンを、電子回路として機能させることができる。
【0035】
熱処理温度は、基材や樹脂層の耐熱性などに応じて、例えば、100〜500℃程度の範囲から選択でき、通常、150〜450℃、好ましくは200〜400℃(例えば、250〜350℃)程度であってもよい。
【0036】
[活性ガスによる処理]
金属塩を活性ガスで処理(又は活性ガスと反応)する方法において、樹脂層の表面と接触させる活性ガスとしては、酸素又はその混合ガス、窒素又はその混合ガス、硫黄ガス(酸化イオウ)又はその混合ガスなどが例示できる。活性ガスでの処理も、加熱下で行うことができ、加熱温度は、基材や樹脂層の耐熱性などに応じて、例えば、100〜500℃程度の範囲から選択でき、通常、150〜450℃、好ましくは200〜400℃(例えば、250〜350℃)程度であってもよい。 このような活性ガスによる処理により、活性ガスの種類に応じて、樹脂層表面に半導電性無機化合物を析出でき、無機薄膜を形成できる。この半導電性無機化合物は、金属酸化物、金属硫化物、リン化金属化合物などであってもよい。また、半導電性無機化合物は、半導体を構成してもよい。金属酸化物としては、前記金属に対応する酸化物、例えば、金属酸化物(酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化パラジウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化錫など)、金属酸の金属塩(チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなど)、複合酸化物(インジウム−錫複合酸化物、ニッケル−鉄複合酸化物、コバルト−鉄複合酸化物など)などが例示できる。
【0037】
金属硫化物やリン化金属化合物としては、例えば、硫化カドミウム、硫化銅、硫化銀、リン化インジウムなどが例示できる。また、テルル化カドミウム、セレン化カドミウムなどを生成させることもできる。これらの化合物は半導体として機能してもよい。
【0038】
これらの無機物(半導電性無機化合物)の無機薄膜は、無機薄膜の特性に応じて、例えば、放熱材、磁気記録材、エレクトロクロミズム素子、センサー、触媒、発光材料などとして機能させることができる。また、無機薄膜が半導体薄膜である場合には、無機薄膜を、例えば、発光材料、トランジスタ、メモリー材料などとして機能させることができる。
【0039】
無機薄膜の厚みは特に制限されず用途に応じて選択でき、例えば、10〜1000nm(例えば、20〜750nm)、好ましくは25〜500nm(30〜400nm)、さらに好ましくは40〜300nm程度であってもよい。 無機薄膜生成工程又は無機物析出工程の後、必要であれば、メッキ処理(電解メッキ、無電解メッキなど)により、樹脂層の無機薄膜層上にメッキ層を形成してもよく、このメッキ層は導電性メッキ層であってもよい。さらに、必要であれば、無機薄膜生成工程又は無機物析出工程の後、又はメッキ処理の後、イオン注入や熱処理などを利用して所望の原子を無機薄膜及び/又はメッキ層に注入又は拡散させてもよい。
【0040】
本発明は、前記基材と、この基材の表面に形成され、かつカチオン交換基を有する前記樹脂層(所定のパターンに形成されていてもよい樹脂層)と、この樹脂層の表面に形成された前記無機薄膜(前記金属、金属酸化物などの無機薄膜)とで構成された積層部品も包含する。この積層部品は前記方法により得ることができ、前記無機薄膜は、前記樹脂層表面に形成された金属塩の還元又は活性ガスとの反応により生成した無機物(金属塩の還元物又は金属塩と活性ガスとの反応生成物)で構成できる。また、樹脂層のカチオン交換基は前記のように熱処理により消失してもよく残存していてもよい。例えば、樹脂層がポリアミド酸で構成されている場合、ポリアミド酸のカルボキシル基は、残存していてもよく、前記熱処理により閉環してイミド環を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、基材に無機薄膜(導電性、半導電性薄膜など)を有効に形成できる。特に、所定のパターンに無機薄膜を形成できる。そのため、無機薄膜の特性を利用して種々の電子部品、例えば、回路パターンなどが形成されたフレキシブルプリント配線板、フィルムキャリア、多層配線板などを製造するのに有用である。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
実施例1
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製「カプトン200−H」)表面を希薄な水酸化カリウムKOHおよび塩酸HClで順次洗浄し、その上にポリアミド酸をスピンコートし、150℃で15分乾燥させて溶媒を除去し、ポリアミド酸の被膜を形成した。ポリアミド酸は、N,N−ジメチルアセトアミド10重量部に4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)1重量部を添加して溶解し、4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA)1.6重量部を加えて約3時間撹拌することにより調製した。
【0044】
ポリアミド酸を塗布したポリイミドフィルムを、3当量のエチレンジアミンを添加した濃度50mMの硫酸銅CuSO水溶液に15分浸漬してポリアミド酸層に銅イオンを吸着させた。
【0045】
還元溶液としての10mM濃度の水素化ホウ素ナトリウム水溶液に上記ポリイミドフィルムを15分間浸漬して、蒸留水で洗浄した。次に管状炉に前記還元処理したポリイミドフィルムを入れ、窒素気流下、ピーク温度300℃、保持時間30分の条件で加熱処理を行った結果、樹脂層表面に銅薄膜が析出していることが確認された。この銅薄膜の膜厚は50nm、銅薄膜の電気抵抗は5×10−3Ωcmであった。 実施例2
実施例1と同様にポリイミドフィルム上にポリイミド酸をスピンコートし、乾燥後、100mM濃度の硝酸銀AgNO水溶液に15分浸漬してポリアミド酸の被覆層に銀イオンを吸着させた。
【0046】
還元溶液としての100mM濃度のジメチルアミンボラン水溶液に浸漬処理したポリイミドフィルムを15分間浸漬した後、実施例1と同様に加熱処理したところ、樹脂層表面に銀薄膜が析出していることが確認された。この銀薄膜の膜厚は50nm、電気抵抗は5×10−3Ωcmであった。
【0047】
実施例3
実施例1のスピンコート法に代えて、スクリーン印刷法により線幅50μmのポリアミド酸の回路パターンを印刷した後、同様の浸漬処理、還元処理及び加熱処理を経て、膜厚50nmの銅の回路パターンを形成した。
【0048】
実施例4
実施例1のスピンコート法に代わって、ピエゾ方式のインクジェット印刷装置を用いて線幅50μmのポリアミド酸の回路パターンを印刷した後、同様の浸漬処理、還元処理及び加熱処理を経て、膜厚120nmの銅の回路パターンを形成した。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は本発明の方法を示す概略断面図であり、(A)は樹脂層形成工程を示す概略断面図、(B)は無機薄膜生成工程を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1…基板
2…樹脂層
3…無機薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の無機薄膜形成部位に、カチオン交換基を有する樹脂層を形成する工程と、カチオン交換基を有する樹脂層と金属イオンとを接触させて金属塩を形成する工程と、この金属塩を還元反応又は活性ガスとの反応に供して樹脂層表面に無機物を析出させる工程とで構成されている無機薄膜の形成方法。
【請求項2】
基材上に、カチオン交換基を有する樹脂層を所定のパターンで形成する請求項1記載の方法。
【請求項3】
基材上にカルボキシル基又はスルホン基を有する樹脂で構成された樹脂層を形成する請求項1記載の方法。
【請求項4】
基材上にポリアミド酸系樹脂で構成された樹脂層を形成する請求項1記載の方法。
【請求項5】
金属が、周期表3族乃至16族に属する金属である請求項1記載の方法。
【請求項6】
ポリイミド樹脂の基板にポリアミド酸系樹脂で構成された樹脂層を形成し、周期表4族乃至14族に属する金属を含む水溶性金属化合物の水溶液に浸漬し、生成した金属塩を還元処理又は活性ガスで処理して樹脂層に金属又は半導電性無機化合物を生成させる請求項1記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−214684(P2008−214684A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52417(P2007−52417)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】