説明

無機表面用エッチングペースト

【課題】ガラスや他の酸化シリコンをベースとする又は窒化シリコンをベースとする系、及びそれらの厚さが変化する層に対して高い潜在処理量を有する技術的に簡単で、液体又はガス相での慣用の湿式又は乾式エッチング方法よりも著しく低コストである、エッチング方法に使用できるエッチング媒体を提供する。
【解決手段】上記課題は、無機のガラス状又は結晶性の表面をエッチングするための、非ニュートン流動性を有する、均質な、粒子を含まない、プリント可能なエッチング媒体により達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくはSiOをベースとする又は窒化シリコンをベースとするシステム(系)上の無機のガラス状非晶質又は結晶性の表面、特にガラス又はセラミックの表面をエッチングするための、非ニュートン流動性を有するプリント(印刷)可能な、均質な、粒子を含まないエッチングペースト状の新規なエッチング媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
用語「無機表面」は、シリコンの酸化物及び窒化物含有化合物、特に酸化シリコン及び窒化シリコンの表面を意味するものとする。
【0003】
ガラスの定義:
用語「ガラス(glass)」は、それ自体が均一な物質、例えば石英ガラス、窓ガラス又はボロシリケート(ホウ珪酸塩)ガラスなど、さらにまた当業者既知の各種方法(CVD、PVD、スピン−オン(spin−on)、熱酸化法)によって他の基体(例えばセラミック、金属シート又はシリコンウェハ)上につくられるこれら物質の薄い層も意味するものとする。
【0004】
以下の用語「ガラス(glasses)」は、ガラス成分が晶出せずに固体の非晶質状態で存在し、長期間の正常状態に欠けるため、微細構造中で高度に無秩序である、酸化シリコン含有物質及び窒化シリコン含有物質を意味するものとする。
【0005】
純粋なSiOガラス(石英ガラス)の他に、SiO及び他の成分、特にガラス中に存在するか又はガラス中で酸化物、炭酸塩、硝酸塩、りん酸塩、硫酸塩及び/又はハロゲン化物の形でドーピング元素として機能する、例えば、カルシウム、ナトリウム、アルミニウム、鉛、リチウム、マグネシウム、バリウム、カリウム、ホウ素、ベリリウム、りん、ガリウム、砒素、アンチモン、ランタン、亜鉛、トリウム、銅、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、バナジウム、チタン、金、プラチナ、パラジウム、銀、セリウム、セシウム、ニオビウム、タンタル、ジルコニウム、ネオジミウム及びプラセオジミウムなどの元素を含むすべてのガラス(例えば、ボロシリケート、ホスホシリケート及びボロホスホシリケートガラス;着色、乳濁及びクリスタルガラス;光学ガラスなどのドープしたガラス)が含まれる。ドープしたガラスは、例えばボロシリケート、ホスホシリケート及びボロホスホシリケートガラス;着色、乳濁及びクリスタルガラス及び光学ガラスである。
【0006】
窒化シリコンは同様に、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、りん、砒素又はアンチモンなどの他の元素を含んでいてもよい。
【0007】
酸化シリコンをベースする及び窒化シリコンをベースする系の定義:
用語「酸化シリコンをベースとする系」は、以下で、非晶質のSiOガラスに対する上掲の定義に該当せず、そして酸化シリコンをベースとしているすべての結晶系に適用される;これらは特に、オルト珪酸の塩やエステル及びそれらの縮合生成物(一般に当業者はシリケート(珪酸塩)と呼ぶ)、並びに石英やガラスセラミックであってもよい。
【0008】
この定義はまた他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系、特にオルト珪酸の塩やエステル及びそれらの縮合生成物もカバーする。純粋なSiO(石英、鱗珪石及びクリストバライト)の他に、この定義は、SiOから、又は、例えば、ネソ珪酸塩、ソロ珪酸塩、シクロ珪酸塩、イノ珪酸塩、フィロ珪酸塩及びテクト珪酸塩などの個別の、及び/又は結合した、テトラヘドラ[SiO]、及び他の成分、特に、例えば、カルシウム、ナトリウム、アルミニウム、リチウム、マグネシウム、バリウム、カリウム、ベリリウム、スカンジウム、マンガン、鉄、チタン、ジルコニウム、亜鉛、セリウム、イットリウム、酸素、ヒドロキシル基及びハロゲン化物などの元素/成分から作りあげられるすべてのSiOをベースとする系をカバーする。
【0009】
用語「窒化シリコンをベースとする系」は、以下で、非晶質の窒化シリコンガラス/層に対する上掲の定義に該当しないすべての結晶性及び部分結晶性(通常ミクロ(微細)結晶と呼ばれる)の系に適用される。これらは、Siをそのα−Si及びβ−Si変形態で含み、さらにすべての結晶性と部分結晶性のSiNとSiN:H層を含む。結晶性の窒化シリコンは、ボロン、アルミニウム、ガリウム、インジウム、りん、砒素及びアンチモンなどの他の元素によってドープされていてもよい。
【0010】
1.ガラス上の構造物のエッチング
エッチング液、すなわち、化学的に攻撃的(腐蝕性)な化合物を使用すると、エッチング液でアタック(腐蝕)を受ける物質の溶解が起る。アタックされて除去されるのは、アタック表面の第1層のみならず、アタック表面からみてより深い層にも及ぶ。
【0011】
2.酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラス及び他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースする系上の構造物のエッチング
現況の技術状況によれば、すべての望ましい構造物が、酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースするガラスや他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系又はそれらの表面又はそれらの厚さの変る層中で、直接レーザ支援のエッチング方法により又はマスキング(masking)後湿式化学方法[非特許文献1、2]によって、又は乾式エッチング方法[非特許文献3]によって選択的にエッチングされうる。
【0012】
レーザ支援エッチング法では、レーザビームがガラス上の全エッチングパターンをいちいち比較してスキャンする。この方法は高度の正確さに加えてかなりの調節努力も必要とするので非常に時間がかかる。
【0013】
湿式化学エッチング及び乾式エッチング法は、物質集約的な時間のかかる、コストの高い工程を含む:
【0014】
A.エッチングしてはならない部分のマスキング
・例えばフォトリソグラフィによるマスキング:エッチングする構造物のネガティブ又はポジティブの製造(レジストによって異なる)、基体表面のコーティング(例えば、適当なフォトレジストによるスピンコーティングによる)、フォトレジストの乾燥、コーティングした基体表面の露出、現像、すすぎ(リンス)、所望により乾燥。
【0015】
B.以下の方法による構造物のエッチング
・ディップ(dip)法(例えば液体化学品中での湿式エッチング):基体をエッチング浴中にディップする(浸す)、エッチング工程、HOカスケード水盤中で繰返しリンスする、乾燥。
・スピン−オン(spin−on)又はスプレー法:エッチング溶液を回転している基体に適用する、エッチング操作はエネルギー(例えばIR又はUV照射)の投入があっても無くても行い得る、続いてリンス及び乾燥を行う。
・例えば高コストの真空装置中でのプラズマエッチング、又は流通反応器中での反応性ガスによるエッチングなどの乾式エッチング法。
【0016】
3.酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラス及び他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系の全面エッチング
酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラスや他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系及びそれらの厚さが変動する層を全体の部分に亘って一定の深さにエッチングするためには、主として湿式エッチング法を用いる。酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラスや他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系及びそれらの厚さが変化する層を、エッチング成分として通常有毒で非常に腐蝕性の強いフッ化水素酸又は他の鉱酸を容れているエッチング浴中に浸す。
【0017】
上述のエッチング方法の不利な点は、ある場合には技術的又は安全の観点から複雑であり、又は回分式で行われる、時間がかかる、物質集約的なコストの高い方法に原因がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】D.J.Monk、D.S.Soane及びR.T.Howe,Thin Solid Films,232(1993),1
【非特許文献2】J.Buehler、F.P.Steiner及びH.Baltes,J.Micromech.Microeng.,7(1997),R1
【非特許文献3】M.Koehler、“Aetzverfahren fuer die Mikrotechnik”[Etching Methods for Microtechnology],Wiley VCH 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的はそれ故、無機の表面、特にガラスや他の酸化シリコンをベースとする又は窒化シリコンをベースとする系、及びそれらの厚さが変化する層に対して高い潜在処理量を有する技術的に簡単なエッチング方法(この簡単なエッチング方法は、液体又はガス相での慣用の湿式又は乾式エッチング方法よりも著しく低コストである)に使用できるエッチング媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、したがって有利な非ニュートン流動性を有する、プリント可能な、均質な、粒子を含まないエッチングペーストに関し、さらに無機性の表面、特に酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラスや他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系の表面、及びそれらの厚さが変化する層の表面をエッチングするのにこのペーストを使用することに関する。
【0021】
本発明はまた、非ニュートン流動性を有するこれらの均質で粒子を含まないエッチングペーストを、高処理量用に適し、かつ、連続的に実施できる、ガラスや他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースする系のための低コストの、技術的に簡単なプリント/エッチング方法(液相又はガス相中での慣用の湿式及び乾式エッチング方法と比較して)に使用することに関する。
【0022】
SiOをベースとする系の製造、成形及び後処理、例えば粉砕、研磨、ラップ仕上げや熱処理などは、ガラスの場合がそうであるように、非ニュートン流動性を有する本発明のプリント可能な、均質で、粒子を含まないエッチングペーストに記載の使用にとっては重要なことではない。
【0023】
本発明は、例えばガラスのメルトから得られる、均一、充実した、非多孔性や多孔性の固体(例えばガラスの粒子や粉、及びフラットな、中空の鏡ガラス又は焼結ガラス)のようなSiOでコーティングした又は窒化シリコンでコーティングした基体のエッチングと、さらに、当業者に既知の種々の方法(例えばCVD、PVD、Si含有前駆物質のspin−on、熱酸化・・・)によって他の基体(例えばセラミック、金属シート又はシリコンウェハ)上につくられた厚さが変動する非多孔性や多孔性のガラス層のエッチングにも関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の新規なエッチングペーストは、非ニュートン流動性を有しプリント可能、均質、粒子を含まないので、特に、酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラスや他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系及びそれらの層の表面の全面エッチング及び/又は構造化されたエッチングが望ましいすべての場合に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
このエッチングペーストはエッチングしようとする基体表面に1回の工程で適用される。エッチングされるべき表面は、酸化シリコンをベースとする又は窒化シリコンをベースとするガラス又は他の酸化シリコンをベースとする又は窒化シリコンをベースとする系からつくられた均質な、固体の、多孔性又は非多孔性の成分上の表面又は表面の一部(例えば酸化シリコンガラスシートの表面)であってもよく、及び/又は支持物上のガラス又は他の酸化シリコンをベースとする又は窒化シリコンをベースとする系の多孔性又は非多孔性の層の表面又は表面の一部であってもよい。
【0026】
エッチングしようとする基体表面へのエッチングペーストの移動手段に好適な高度の自動化と高処理量を有する方法には、印刷技術を用いる。特に、スクリーン印刷、シルクスクリーン印刷、パッド印刷、スタンプ印刷及びインクジェット印刷法は、当業者に知られた印刷方法である。マニュアル(手動)適用も同様に可能である。
【0027】
スクリーン、シルクスクリーン、クリシー(klischee)又はスタンプ又はカートリッジアドレスによって、本発明にしたがって記載の非ニュートン流動性を有する、プリント可能な、均質な、粒子を含まないエッチングペーストを、全体部分に亘ってか又は選択的にエッチング構造物マスクにしたがってエッチングが望ましい点にのみ適用することが可能である。A)に述べたすべてのマスク工程とリトグラフィ工程は不要である。エッチング操作は、例えば熱照射(IRエミッタ使用)の形のエネルギー入力があっても無くても行うことができる。エッチング完了後、非ニュートン流動性を有する、プリント可能な、均質な、粒子を含まないエッチングペーストは、適当な溶媒を使用してエッチングされた表面から洗い落すか又は焼き尽される。
【0028】
以下のパラメータを変化させることにより、酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラス、又は他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系、及びそれらの厚さが変化する層中のエッチング深さと、選択構造物エッチングの場合は、それに加えてエッチング構造物の端(エッジ)の鋭さ(sharpness)も調節できる。
・エッチング成分の濃度と組成
・用いる溶媒の濃度と組成
・シックナー(増粘剤)系の濃度と組成
・添加する酸の濃度と組成
・消泡剤、チキソトロピー剤、流動調節剤、脱気剤、接着促進剤などの加えた添加物の濃度と組成
・本発明に記載の非ニュートン流動性を有するプリント可能な、均質な、粒子を含まないエッチングペーストの粘性(粘度)
・それぞれのプリンティングペーストでプリントした無機の表面及びそれらの層へのエネルギー入力の有無によるエッチング時間
・エッチングペーストでプリントした系へのエネルギーのインプット。
【0029】
エッチング時間は、用途、望ましいエッチング深さ及び/又はエッチング構造物のエッジの鋭さによって数秒から数分にすることができる。一般に、1〜15分間のエッチング時間が設定される。
【0030】
本発明に記載の非ニュートン流動性を有するプリント可能な、均質な、粒子を含まないエッチングペーストは、フッ化水素酸、フッ化物、HFガス及びSFからなる群からの無機鉱酸などの液体、溶解又はガス状のエッチング剤と較べて、有利にも取扱いが著しく簡単、かつ、安全であり、さらにエッチング剤の量に関しても非常に経済的である。
【0031】
本発明の非ニュートン流動性を有するプリント可能な、均質な、粒子を含まないエッチングペーストは、以下の組成分を有する:
a.ガラス又は他のSiOをベースとする系及びそれらの層のためのエッチング成分
b.溶媒
c.シックナー(増粘剤)
d.所望により、有機及び/又は無機の酸
e.所望により、消泡剤、チキソトロピー剤、流動調節剤、脱気剤、接着促進剤などの添加物。
【0032】
本発明に記載の非ニュートン流動性を有するプリント可能な、均質な、粒子を含まないエッチングペーストの、酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラスや他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系の表面上のエッチング作用は、酸を添加又は添加しないフッ化物含有成分の溶液、特に、例えば、アンモニウムフルオライド、アルカリ金属フルオライド及びアンチモンフルオライド;アンモニウムビフルオライド、アルカリ金属ビフルオライド及びカルシウムビフルオライド;アルキル化アンモニウムテトラフルオロボレート及びカリウムテトラフルオロボレートなどのフルオライド、ビフルオライド、テトラフルオロボレートの溶液及びそれらの混合物の使用に基づいている。これらのエッチング成分は温度が15〜50℃の範囲、特に室温においてさえエッチングペースト中で効果的であり、及び/又は例えばIRエミッタによる熱照射(約300℃まで)、UV又はレーザ照射によるエネルギー入力によって活性化される。
【0033】
使用するエッチング成分の割合は、エッチングペーストの全重量基準で2〜20重量%、好ましくは5〜15重量%の濃度範囲にある。
【0034】
溶媒はエッチングペ−ストの主要構成分になる。その割合は、エッチングペーストの全重量基準で10〜90重量%、好ましくは15〜85重量%の範囲とすることができる。
【0035】
好適な溶媒は、無機及び/又は有機の溶媒、又はそれらの混合物である。単一の形態又は対応する混合物の形態で使用できる好適な溶媒は、その用途によって異なる:
・水
・ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、グリセロール、1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1−ヘキサノールなどの単純アルコール又は多価アルコール、又はこれらの混合物。
・アセトフェノン、メチル−2−ヘキサノン、2−オクタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、1−メチル−2−ピロリドンなどのケトン。
・エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル。
・2−(2−ブトキシエトキシ)エチルアセテートなどのカルボン酸エステル。
・プロピレンカーボネートなどの炭酸エステル。
・塩酸、りん酸、硫酸、硝酸などの無機鉱酸、鎖長n=1〜10のアルキル基を有する有機酸、又はそれらの混合物。アルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよい。特に、ギ酸、酢酸、乳酸、しゅう酸又は類似物などの有機のカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸及びジカルボン酸が好適である。
【0036】
これらの溶媒又はその混合物は、中でも、エッチングの完了後、再度エッチング媒体を除去するのに適しており、所望により、エッチングされた表面をクリーニングするのにも好適である。
【0037】
本発明の非ニュートン流動性を有するプリント可能な、均質な、粒子を含まないエッチングペーストの粘度は、液相中で膨脹するネットワーク形成シックナー(増粘剤)によって達成され、望ましい用途分野によって変えることができる。
【0038】
本発明にしたがって説明される、非ニュートン流動性を有するプリント可能な、均質の、粒子を含まないエッチングペーストは、粘度がずり速度によって変るすべてのエッチングペースト、特にずり減粘作用を有するエッチングペーストを含む。シックナーによってつくられるネットワークは剪断応力の下で崩壊する。ネットワークの回復は、時間遅れなく(プラスチック又は擬プラスチック流動性を有する非ニュートン型エッチングペースト)又は時間遅れで(チキソトロピー流動性を有するエッチングペースト)行うことができる。
【0039】
非ニュートン流動性を有する、プリント可能な、均質の、粒子を含まないエッチングペーストは、シックナーの添加により完全に均質となる。例えば粒状シリコーン、粒状アクリル樹脂などの粒状のシックナーは使用されない。
【0040】
可能なシックナーは、以下のモノマー単位をベースとするポリマーである:
【0041】
・グルコース単位
‐ β−グリコキシド結合単位、すなわち、セルロース及び/又は、特にエチルセルロース(例えば、Aqualon(商標)EC)、ヒドロキシルプロピルセルロース(例えば、Klucel(商標))、ヒドロキシエチルセルロース(例えば、Natrosol(商標))などのセルロースエーテル、及び特にナトリウムカルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース(例えばNa−CMHEC)などのセルロースのグリコール酸エーテルの塩などのセルロース誘導体。
‐ α−グルコシド結合単位、すなわち、澱粉及び/又は酸化澱粉、特にナトリウムカルボキシメチル澱粉(vivastar(商標)P0100又はvivastar(商標)P5000)、及び澱粉エーテル、特にアニオン性ヘテロポリサッカライド(Deuteron(商標)VT819又はDeuteron(商標)XG)などの澱粉誘導体。
【0042】
・官能化したメタクリレート単位、特にBorchigel(商標)APKなどのカチオン性メタクリレート/メタクリルアマイド。
【0043】
・官能化したビニル単位、すなわち、
‐ 各種加水分解度のポリビニルアルコール、特にMowiol(商標)47−88(部分的に加水分解、すなわちビニルアセテート及びビニルアルコール単位)又はMowiol(商標)56−98(完全に加水分解)。
‐ ポリビニルピロリドン(PVP)、特にPVP K−90又はPVP K−120。
【0044】
シックナーは単独で又は他のシックナーと組合せて使用できる。
【0045】
特定の粘度範囲に設定するためのもの及び基本的にプリント可能なペーストの生成に必要なシックナーの割合は、エッチングペースト全体重量基準で0.5〜25重量%、好ましくは3〜20重量%の範囲である。
【0046】
既に述べたように、本発明のエッチングペーストはまた、シックナーを添加することにより完全に均質なものとなる。このものは、例えば粒状シリコーン又は粒状のアクリル樹脂などの粒子状のシックナーを含んでいない。
【0047】
pKa値が0〜5の間の有機又は無機の酸を、本発明に記載の非ニュートン流動性を有する、プリント可能な、均質な、粒子を含まないエッチングペーストに加えていてもよい。
【0048】
無機の鉱酸、例えば塩酸、りん酸、硫酸、硝酸など、及び鎖長n=1〜10のアルキルラジカルを有する有機酸も、非ニュートン流動性を有するプリント可能な、均質な、粒子を含まないエッチングペーストのエッチング作用を向上させる。有機酸のアルキルラジカルは直鎖でも分岐鎖のどちらでもよく、ギ酸、酢酸、乳酸及びしゅう酸又は他の酸などの有機のカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸及びジカルボン酸が特に適している。酸の割合は、エッチングペースト全重量基準で0〜80重量%の範囲としてよい。
【0049】
望ましい目的に有利な性質を有する添加物は以下のようなものである:例えば、
TEGO(商標)Foamex Nの名で市販されている消泡剤、
BYK(商標)410、Borchigel(商標)Thixo2などのチキソトロピー剤、
TEGO(商標)Glide ZG400などの流動調節剤、
TEGO(商標)Airex985などの脱気剤、
Bayowet(商標)FT929などの接着促進剤。
【0050】
これらのものはプリンティングペーストのプリント能力に対して明確な効果を有する。添加物の割合は、エッチングペーストの合計重量基準で0〜5重量%の範囲にある。
【0051】
本発明にしたがうエッチングペーストの用途分野は、例えば以下に見出される:
・太陽電池産業(太陽電池やフォトダイオードなどの光起電性成分)
・半導体産業
・ガラス産業
・高性能電子装置
【0052】
本発明にしたがう非ニュートン流動性を有する、プリント可能、均質、粒子を含まない新規なエッチングペーストは、特に、酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラスや他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系及びそれらの層の表面の全面エッチング及び/又は構造化されたエッチングが望ましいすべての場合に使用できる。
【0053】
このように、全表面も個々の構造物も選択的に、均一な、固体の、非多孔性又は多孔性のガラスや、他の均一な、固体の非多孔性又は多孔性の酸化シリコン及び窒化シリコンをベースとする系中の望ましい深さまでエッチングすることができる。すなわちエッチング操作は、フロスティング(frosting)/マッティング(matting)効果による微細構造の粗面化(roughening)(光分散効果を有する依然として透明なガラス)から深いエッチング構造(例えばマーキング、装飾/パターン)のエッチングまでの間のすべての範囲をカバーできる。用途分野は例えば以下のようである:
・バルブやすべての型の測定機器用観察窓の製造、
・アウトドア使用用(例えば太陽電池や集熱器用)のガラス支持物の製造、
・医療及び衛生分野におけるエッチングしたガラス表面、及び芸術的ならびに建築上の使用を含む装飾目的用、
・化粧品、食料品及び飲料用のエッチングしたガラス容器、
・例えばコンテナガラスやフラットガラスのマーキング/ラベリング用のマーキングとラベリング目的のためのガラス及び他の酸化シリコンをベースとする系の特有な部分的エッチング、
・鉱物学、地質学及び微細構造研究用のガラス及び他の酸化シリコンをベースとする系の特有な部分的エッチング。
【0054】
特に、スクリーン印刷、シルクスクリーン印刷、パッド印刷、スタンプ印刷及びインクジェット印刷法が、このエッチングペーストを希望どおりに使用するのに好適な技術である。一般的には、前掲印刷方法の他にマニュアルによる適用(例えばブラシによる)も可能である。
【0055】
工業的な用途の他に、このエッチングペーストはまたDIY(do it yourself)や趣味必要品用に好適である。
【0056】
本発明にしたがって記載の、非ニュートン流動特性を有するプリント可能、均質な、粒子を含まないエッチングペーストは、厚さが変わるガラス層や他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系の層を全体の面積にわたってエッチングする必要がある場合及び/又は構造物の形でエッチングする場合のすべての場合に使用できる。用途分野は例えば以下のようである:
・太陽電池、光ダイオードなどの光起電性成分の生成をもたらす酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラス層や他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするシステム層上のすべてのエッチング工程、特に
a)酸化シリコン/ドープした酸化シリコン層(例えば太陽電池のn−ドーピング後のりんガラス)及び窒化シリコン層の除去、
b)2段階選択エミッタ(開口後、n++層をつくるため再ドーピング)及び/又は局部的p裏面部(BSFs)をつくるための酸化シリコン及び窒化シリコンの不働態化層の選択的開口、
c)酸化シリコン及び/又は窒化シリコンをコーティングした太陽電池パネルの端(エッジ)エッチング。
・半導体成分ならびに回路の製造をもたらし、酸化シリコン及び窒化シリコンの不動態化層の開口を必要とする、酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラス層や他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系の層上のすべてのエッチング工程、
・高性能の電子装置成分の製造をもたらす、酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラス層及び他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系の層上のすべてのエッチング工程。
【0057】
特に、スクリーン印刷、シルクスクリーン印刷、パッド印刷、スタンプ印刷及びインクジェット印刷法は、望みどおりにエッチングペーストを使用するのに好適な方法である。一般に、前記印刷方法の他に、マニュアル適用も可能である。
【0058】
工業用途の他に、このエッチングペーストはDIY(do it yourself)や趣味必要品用に好適である。
【実施例】
【0059】
より良い理解と例示のため、本発明の保護範囲内にある実施例を下記に示すが、本発明をこれら実施例に限定するのは適当ではない。
【0060】
実施例1
エチレングリコールモノブチルエーテル: 21g
35%NHHF溶液 : 39g
ギ酸(98−100%) : 30g
PVP K−120 : 10g
エチレングリコールモノブチルエーテル及びギ酸をPEビーカーに導入する。次いで35%NHHF水溶液を加える。次いでPVP K−120を攪拌しながら(少なくとも400rpm)連続的に加える。添加中とその後約30分間は激しい攪拌を続けなければならない。短時間の静置後コンテナ中に移す。この静置時間はエッチングペースト中に生成した泡が消滅するために必要である。
【0061】
この混合物が、酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラスや、他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系、及びそれらの層を、エネルギーを入力及び/又は入力しないで、全面積にわたって又は構造物中、一定の所望の深さまでエッチングできるエッチングペーストを提供する。
【0062】
光分光測定法により測定された、熱的に生成した酸化シリコン層上のエッチング速度は、全面積にわたるエッチングの場合120nm/分である。光分光測定法により測定された、PE−CVD(屈折率n=1.98)により生成した窒化シリコン層上のエッチング速度は、全面積にわたるエッチングの場合70nm/分である。
【0063】
得られたエッチングペーストは貯蔵寿命が長く、取扱い容易であってプリント可能である。このものは、プリントした物から又はペーストキャリヤ(スクリーン、ナイフ、シルクスクリーン、スタンプ、クリシー、カートリッジなど)から、例えば水を用いて又はオーブン中で焼き尽して除去することができる。
【0064】
実施例2
トリエチレングリコールモノメチルエーテル: 22g
35%NHHF溶液 : 43g
脱塩水 : 20g
PVP K−120 : 12g
最初にトリエチレングリコールモノメチルエーテルを導入し、次いですべての液体成分を実施例1と同様に攪拌しながら加える。最後にPVP K−120シックナーを攪拌しながら(少なくとも400rpm)連続的に導入する。添加の間及び添加後約30分間は激しい攪拌を続ける必要がある。短い静置時間後、コンテナへの移動が行われる。この静置時間は、エッチングペースト中に生成した泡が消滅するために必要である。
【0065】
この混合物が、酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラスや、他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系、及びそれらの層を、エネルギーを入力及び/又は入力しないで、全面積にわたって又は構造物中、一定の所望の深さまでエッチングできるエッチングペーストを提供する。
【0066】
光分光測定法により測定した、熱的に生成した酸化シリコン層上のエッチング速度は、全面積にわたってエッチングする場合、106nm/分である。
【0067】
得られたエッチングペーストは長期の貯蔵寿命を有し、取扱い容易でプリント可能である。このものはプリントした物から又はペーストキャリヤ(スクリーン、ナイフ、シルクスクリーン、スタンプ、クリシー、カートリッジなど)から、例えば水を使用して又はオーブン中で焼き尽して除去することができる。
【0068】
実施例3
固体NHHF : 12g
乳酸 : 142g
エチルセルロース : 10g
エチレングリコールモノブチルエーテル: 36g
最初に導入したエチレングリコールモノブチルエーテル中に水浴中40℃でエチルセルロースを入れて連続的に攪拌する。固体のNHHFを乳酸中に同様に攪拌しながら溶解し、続いてエチルセルロースのストックペーストに加える。次いでこの2つを一緒にして600rpmで2時間攪拌する。
【0069】
この混合物が、酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラスや、他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系、及びそれらの層を、エネルギーを入力及び/又は入力しないで、全面積にわたって又は構造物中、一定の所望の深さまでエッチングできるエッチングペーストを提供する。
【0070】
熱的に生成した酸化シリコン層上の光分光測定法により測定したエッチング速度は、全面積にわたってエッチングする場合、23nm/分である。
【0071】
得られたエッチングペーストは貯蔵寿命が長く、取扱いが容易でプリント可能である。このものはプリントした物から又はペーストキャリヤ(スクリーン、ナイフ、シルクスクリーン、スタンプ、クリシー、カートリッジなど)から、例えばアセトン又は酢酸ブチルを使用して又はオーブン中で焼き尽して除去することができる。
【0072】
実施例4
エチレングリコールモノブチルエーテル : 15g
トリエチレングリコールモノメチルエーテル: 15g
炭酸プロピレン : 29g
ギ酸 : 72g
35%NHHF溶液 : 46g
PVP K−90 : 24g
溶媒混合物とギ酸をPEビーカーに導入する。35%NHHF水溶液を次いで加える。次にPVP K−120を攪拌しながら(少なくとも400rpm)連続的に加える。添加中及びその後約30分間は激しい攪拌を続けなければならない。短時間静置後、コンテナ中に移す。この静置時間は、エッチングペースト中に生成した泡が消滅するために必要である。
【0073】
この混合物が、酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとするガラスや、他の酸化シリコンをベースとする及び窒化シリコンをベースとする系、及びそれらの層を、エネルギーを入力及び/又は入力しないで、全面積にわたって又は構造物中、一定の所望の深さまでエッチングできるエッチングペーストを提供する。
【0074】
熱的に生成した酸化シリコン層上の光分光測定法により測定したエッチング速度は、約80μmの幅を有する構造物の選択エッチングの場合に67nm/分である。PE−CVD法により生成した窒化シリコン層上の光分光測定法により測定したエッチング速度は、エッチング温度が40℃で、幅約100μmの構造物の選択エッチングの場合35nm/分である。
【0075】
得られたエッチングペーストは貯蔵寿命が長く、取扱い容易でプリント可能である。このものはプリントした物から又はペーストキャリヤ(スクリーン、ナイフ、シルクスクリーン、スタンプ、クリシー、カートリッジなど)から、例えば水を使用して又はオーブン中で焼き尽くして除去することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機のガラス状又は結晶性の表面をエッチングするための、非ニュートン流動性を有する、均質な、粒子を含まない、プリント可能なエッチング媒体。
【請求項2】
酸化シリコンをベースとするガラス及び窒化シリコンをベースとするガラスからなる群から選ばれるガラスの表面のための請求項1記載のプリント可能なエッチング媒体。
【請求項3】
カルシウム、ナトリウム、アルミニウム、鉛、リチウム、マグネシウム、バリウム、カリウム、ボロン、ベリリウム、りん、ガリウム、砒素、アンチモン、ランタン、スカンジウム、亜鉛、トリウム、銅、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、バナジウム、チタン、金、プラチナ、パラジウム、銀、セリウム、セシウム、ニオビウム、タンタル、ジルコニウム、イットリウム、ネオジム及びプラセオジムからなる群から選ばれる元素を含むガラスの表面のための請求項1又は2に記載のプリント可能なエッチング媒体。
【請求項4】
エッチング媒体が非ニュートン流動性を有するエッチングペーストであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプリント可能なエッチング媒体。

【公開番号】特開2013−63903(P2013−63903A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−243337(P2012−243337)
【出願日】平成24年11月5日(2012.11.5)
【分割の表示】特願2001−580827(P2001−580827)の分割
【原出願日】平成13年3月23日(2001.3.23)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】