説明

無機質繊維ブランケット及びその製造方法

【課題】安価でしかも目付けのバラツキが小さい無機質繊維ブランケット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】無機質繊維ブランケット1は、交互に積層配置された平均繊維長が3000μm以上の無機質長繊維を主体とする長繊維層2と、平均繊維長が2000μm以下の短繊維を主体とする短繊維層3とを有する。ニードリングを施すことにより、長繊維層2の一部の長繊維を短繊維層3内に入り込ませ、これにより長繊維層2と短繊維層3とを絡合させ、一体としている。短繊維としてはアルミナ長繊維製品を製造する際の長繊維シート切断工程(打ち抜き工程であってもよい。)から排出される端材を解繊して得たものが用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミナ繊維などの無機質繊維のブランケットと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ繊維の製造方法として、アルミニウム化合物を含む紡糸液を紡糸してアルミナ繊維前駆体を形成し、これを焼成してアルミナ繊維とする方法は公知である。紡糸液としては、アルミニウム化合物を主体とし、これに種々の補助成分を含有させたものが用いられている。補助成分には、金属化合物のように最終的に得られるアルミナ繊維の構成要素となるものと、水溶性高分子化合物のように紡糸液の性状を調整するためのものとがある。例えば、塩酸にアルミニウムを溶解して得られる塩基性塩化アルミニウム水溶液に、シリカゾルとポリビニルアルコールとを添加して調製した紡糸液が用いられる。
【0003】
紡糸液を一般にはブローイング法によって紡糸する。このブローイング法では、高速の紡糸気流中にノズルから紡糸液を供給する。紡糸液は紡糸気流中で引伸ばされ、かつ、水分を失って固化してアルミナ繊維前駆体となる。
【0004】
形成されたアルミナ繊維前駆体を集積して、所定の目付け量、すなわち単位面積当りの重量を有するアルミナ繊維前駆体シートであるアルミナ繊維前躯体スライバとする。この前駆体スライバを焼成して、安定な酸化物状態で結晶性の高いアルミナ繊維シートとする。なお、焼成前に前駆体シートにニードリングを施すことにより、機械的強度に優れたアルミナ繊維シートが得られる(特公平1−38901、特公平6−67780、特開2000−80547等参照)。
【0005】
このようなアルミナ繊維シートは、耐熱性が極めて高いため、自動車の排ガス浄化装置用把持材などに広く用いられている(上記特開2000−80547の0009段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平1−38901
【特許文献2】特公平6−67780
【特許文献3】特開2000−80547
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
i) 上記のように、アルミナ繊維前駆体を紡糸して集積し、焼成して得たアルミナ繊維シートは、集積時の集積ムラに起因して、目付けのバラツキが抄造シートに比べて若干大きい。
【0008】
自動車の排ガス浄化装置用把持材に用いる場合には、長期にわたってハニカム型触媒をケーシング内にしっかりと安定的に把持しておくために、この把持材を構成するアルミナ繊維シートの目付けのバラツキはなるべく小さくして均一に把持力が掛かるようにすることが望まれている。
【0009】
本発明は、目付けのバラツキが小さい無機質繊維ブランケット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
ii) アルミナ繊維シート製品を製造する過程では、焼成により得られたアルミナ繊維シート原反を規格寸法に切断(打ち抜きを含む。)することが通常行われている。この切断により生じた端材は、廃棄処分されており、無駄となっている。
【0011】
本発明は、その一態様において、かかる端材を再利用することができる無機質繊維ブランケット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の無機質繊維ブランケットは、平均繊維長が3000μm以上の無機質長繊維を主体とする長繊維層と、平均繊維長が2000μm以下の短繊維を主体とする短繊維層とを有するブランケットであって、該短繊維層は長繊維層同士の間に介在されており、該長繊維層の一部の長繊維が該短繊維層中に入り込み、長繊維層と短繊維層とが一体化されていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項2の無機質繊維ブランケットは、請求項1において、ニードリングによって長繊維層の一部の長繊維が該短繊維層に入り込んでいることを特徴とするものである。
【0014】
請求項3の無機質繊維ブランケットは、請求項1又は2において、該短繊維の含有率が長繊維と短繊維との合量の10〜90重量%であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項4の無機質繊維ブランケットは、請求項1ないし3のいずれか1項において、ブランケット厚みが4〜70mmであり、1層の長繊維層の厚みが0.1〜3mmであり、1層の短繊維層の厚みが0.05〜34mmであることを特徴とするものである。
【0016】
請求項5の無機質繊維ブランケットは、請求項1ないし4のいずれか1項において、該無機質繊維ブランケットの目付けが400〜5000g/mであることを特徴とするものである。
【0017】
請求項6の無機質繊維ブランケットは、請求項1ないし5のいずれか1項において、該無機質繊維ブランケットの嵩密度が0.06〜0.2g/cmであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項7の無機質繊維ブランケットは、請求項1ないし7のいずれか1項において、無機質繊維は、Alの含有量が65重量%以上の無機質繊維であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項8の無機質繊維ブランケットの製造方法は、無機質繊維を主体とする繊維層を解繊し、湿式または乾式にて短繊維層を形成する短繊維層形成工程と、無機質原料化合物の溶液を紡糸して繊維前駆体とし、該繊維前駆体を捕集してシート状の繊維前駆体層であるスライバを形成する工程と、該繊維前駆体層と前記短繊維層とを、繊維前駆体層同士の間に短繊維層が介在されるように積重して、積重体とする工程と、該積重体にニードリングを施して繊維前駆体層と短繊維層とを一体化するニードリング工程と、一体化した該積重体を焼成し、繊維前駆体を平均繊維長が3000μm以上の無機質長繊維とする工程と、を有するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の無機質繊維ブランケットは、平均繊維長が3000μm以上の無機質長繊維を主体とする長繊維層と、平均繊維長が2000μm以下の無機質短繊維を主体とする短繊維層とを有する。この短繊維層は、一般に長繊維層よりも目付けのバラツキが小さくできるので、本発明の無機質繊維ブランケットは、長繊維層のみよりなる無機質繊維ブランケットに比べて目付けのバラツキが小さい。例えば、本発明によると、無機質繊維ブランケットを幅方向に7区画、長さ方向に3区画、80mm×210mm角の長方形の枡目状に区画し、該区画の目付けを測定した場合に、目付けの平均値に対する標準偏差の3倍値([3σ/目付け平均値]×100)を7%以下程度にすることができる。また、該無機質繊維ブランケットは、ニードリングによってブランケットの厚みを抑制することが殆どできない短繊維層を有しているので、厚みの大きい無機質繊維ブランケットを長繊維層のみからなる無機質繊維ブランケットに比べて安価に構成することができる。
【0021】
短繊維のみでは、ニードルを施してもブランケットにはできない。またマット状に成型する為にもバインダーを必要とする。しかしながら本発明の場合、長繊維層と短繊維層とが一体化されているので、短繊維層のみに比べ、成型が容易で取り扱い易い。また、短繊維層が長繊維層で挟まれているので、短繊維層からの短繊維の脱落、飛散などの離脱が防止される。
【0022】
長繊維の一部を短繊維層に入り込ませるには、ニードリングを施すのが簡便で且つ効果的である。
【0023】
本発明では、無機質繊維としてはアルミナ繊維が好適である。
【0024】
上記の短繊維としては、平均繊維長が3000μm以上の無機質長繊維を解繊し、
乾式或いは湿式によって短繊維をシート化したものが好適である。これらの短繊維シートは、目付けのバラツキが小さい。この場合、無機質繊維ブランケットは、平均繊維径が3000μm以上の無機質長繊維を主体とする長繊維からなるブランケットを解繊し、短繊維シートを形成する短繊維シート形成工程と、無機質原料化合物の溶液を紡糸して繊維前駆体とし、該繊維前駆体を捕集してシート状の繊維前駆体層であるスライバを形成する工程と、該繊維前駆体層と前記短繊維層とを、繊維前駆体層同士の間に短繊維層が介在されるように積重して、積重体とする工程と、該積重体にニードリングを施して繊維前駆体層と短繊維層とを一体化するニードリング工程と、一体化した該積重体を焼成し、繊維前駆体を平均繊維長が3000μm以上である無機質長繊維層とする工程とを有する無機質繊維ブランケットの製造方法によって製造することができる。
【0025】
解繊される無機質長繊維としては、無機質長繊維製品を製造する際の切断工程から排出される長繊維層からなるブランケットの端材が好適である。この端材は、従来は殆ど利用されることなく廃棄されていたものであるので、これを再利用して短繊維層とすることにより、資源の無駄を解消し、また産業廃棄物量を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る無機質繊維ブランケットの模式的な断面図である。
【図2】(a)図及び(b)図はいずれも焼成前マットの模式的な断面図である。
【図3】焼成前マットの積重方法の説明図である。
【図4】焼成前マットの積重方法の説明図である。
【図5】積重体の別の形成方法を示す断面図である。
【図6】ブランケットのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0028】
第1図は本発明の実施の形態に係る無機質繊維ブランケットの模式的な断面図である。この無機質繊維ブランケット1は、交互に積層配置された平均繊維長が3000μm以上の無機質長繊維を主体とする長繊維層2と、平均繊維長が2000μm以下の短繊維を主体とする短繊維層3とを有する。なお、最外層(第1図の最上層と最下層)はいずれも長繊維層2である。
【0029】
この実施の形態では、ニードリングを施すことにより、長繊維層2の一部の長繊維を短繊維層3内に入り込ませ、これにより長繊維層2と短繊維層3とを絡合させ、一体としている。
【0030】
本発明の無機質繊維ブランケットにおける短繊維の含有率は、長繊維と短繊維との合量の10〜90重量%であることが好適である。好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは30〜70重量%である。
【0031】
無機質長繊維としてはアルミナ繊維が好適であるが、これに限定されるものではない。また、無機質短繊維としては、アルミナ繊維に加えセラミック繊維でも好適である。なお、アルミナ繊維の代表例としては、SiO含有量が5重量%以下、すなわちAl含有量が95重量%以上であるアルミナ繊維のほか、SiO含有量が5〜30重量%で残余がAlであるアルミナ−シリカ系の多結晶質短繊維が挙げられる。特にSiO含有量が約28重量%でAl含有量が72重量%のムライト繊維は、高温熱安定性に優れていることから最も多用されているアルミナ繊維の1種である。また、一般的にセラミック繊維とは、溶融法で製造する非晶質アルミナ−シリカ系繊維の総称であり、Al含有量がおよそ40〜60重量%、残余がシリカで、ジルコニアやクロムが小量添加されたものがあり、これらも所望のサイズに解繊後、無機質短繊維として好適に使用される。
【0032】
長繊維層は、平均繊維長が3000μm以上の無機質長繊維を主体(例えば、重量比で98%以上)としていればよく、若干のそれ以外の無機質繊維を含有していてもよい。また短繊維層は平均繊維長が2000μm以下の無機質短繊維を主体(例えば、重量比で98%以上)としていればよく、若干のそれ以外の無機質繊維を含有していてもよい。
【0033】
この無機質繊維ブランケットの長繊維の繊維長は3mm以上、特に150mm以上が好ましい。また、短繊維の繊維長は20μm以上特に100μm以上が好ましい。厚さは4〜70mmであることが好ましく、厚さがこの程度の無機質繊維ブランケットの場合、長繊維層の積層数は2層以上特に4層以上が好ましく、1層当りの厚さは0.1〜3mm特に0.2〜2mm程度が好ましい。短繊維層の1層当りの厚さは0.05〜34mm特に0.1〜5mm程度が好ましい。また、ブランケットの目付けは400〜5000g/m、密度は0.06〜0.2g/cmであることが好ましい。
【0034】
本発明では、得に限定されるものではないが、資源の無駄を解消し、また産業廃棄物量を減少させる観点から、短繊維としてはアルミナ繊維製品を製造する際の幅調整の為の側面切断工程(打ち抜き工程であってもよい。)から排出される端材を解繊して得たものが好適である。更に、短繊維としてはアルミナを含有する一般的セラミック繊維も好適に使用できる。セラミック繊維に関しては製品形状を問わず、平均繊維長が2000μm以下に解繊されたものであれば、どんなものでも好適に使用できる。平均繊維長が3000μm以上のアルミナ長繊維製品の製造方法について説明する。
【0035】
アルミニウム化合物を主体とする溶液を紡糸して得たアルミナ繊維前駆体を、集積装置上に降り積らせるように集積させてアルミナ繊維前駆体のスライバを形成し、このスライバを1層のまま或いは複数層で、又は集積装置から連続的に引出して折り畳み装置に送り、所定の幅に折り畳んで積み重ね、アルミナ繊維前駆体よりなる積層シートとし、次いでこれを焼成してアルミナ繊維シートとする。
【0036】
紡糸液の調製及び紡糸液からのアルミナ繊維前駆体の製造は、常法に従って行うことができる。紡糸液としては、例えば、塩酸にアルミニウムを溶解して調製した塩基性塩化アルミニウム水溶液に、最終的に得られるアルミナ繊維の組成が、Al:SiO(重量比)として、好ましくは65〜98:35〜2、特に好ましくは70〜97:30〜3の範囲となるようにシリカゾルを添加する。珪素成分が多すぎると繊維化は容易となるが耐熱性が著しく低下し、一方、珪素成分が少なすぎると繊維が脆化しやすくなるからである。更に、紡糸性を向上させるために、好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、澱粉、セルロース誘導体等の水溶性有機重合体を加え、場合によっては適宜濃縮操作を行い、粘度を通常1〜1000ポイズに調整したものが用いられる。
【0037】
紡糸液からのアルミナ繊維前駆体の形成は、高速の紡糸気流中に紡糸液を供給するブローイング法によるのが好ましい。なお、ブローイング法のノズルには、紡糸気流を発生する気流ノズル中に紡糸液ノズルを内装したものと、紡糸気流の外から紡糸液を供給するように紡糸液ノズルを設置したものとがあるが、いずれを用いることもできる。上述のブローイング法により紡糸した場合には、金網製の無端ベルトを、紡糸気流に対してほぼ直角となるように設置し、これを回転させつつ、これに形成されたアルミナ繊維前駆体を含む紡糸気流を衝突させてアルミナ繊維前駆体を捕集し、集積させるのが好ましい。
【0038】
集積装置上に集積されて形成されたアルミナ繊維前駆体のスライバは、集積装置から連続的に引出して折り畳み装置に送り、所定の幅に折り畳んで積み重ねつつ、折り畳み方向に対して直角方向に連続的に移動させ、積層シートとしてもよい。これによりスライバの幅方向の両端部は形成される積層シートの内側に配置されるので、積層シートの目付け量は積層シート全体に亘って均一となる。
【0039】
このようにして製造されたアルミナ繊維前駆体の積層シートは、常法により焼成することによりアルミナ繊維シートに転換される。焼成は、通常500℃以上、好ましくは1000〜1300℃で行われる。また、焼成に先立ち、積層シートにニードリングを施すと、アルミナ繊維がシートの厚さ方向にも配向された機械的強度の大きいアルミナ繊維シートとすることができる。
【0040】
このアルミナ繊維シートを切断して規格寸法のアルミナ繊維製品を製造すると、切り落し屑などの端材が生じる。
【0041】
この端材から短繊維シートを製造するには、特に限定するものではないが、例えば乾式法であれば、まず端材を解繊機によって解繊して短繊維とした後、これを空気輸送にて送り出す。これに対して金網製の無端ベルトを、ほぼ直角となるように設置し、これを回転させつつ、これに短繊維を含む気流を衝突させて短繊維を捕集し、ロールで押さえながら搬送することによりシート化させる。
【0042】
湿式法であれば、まず端材を解繊機によって解繊して短繊維とした後、液体好ましくは水に分散させる。なお、この水中には分散剤を含有させておくのが好ましく。この短繊維が約3重量%となる水スラリーを作製し、バインダーとしてパルプをこの短繊維に対して約10重量%添加し、抄造法により、厚さ約0.4mm、目付け約70g/mの短繊維シートを得た。
【0043】
この短繊維シートの目付けは5〜1000g/m特に10〜300g/m程度が好ましい。なお、上記の解繊処理により、アルミナ繊維の平均繊維長は2000μm以下となっている。
【0044】
次に、この短繊維シートを挟むように積層されるアルミナ長繊維前駆体シートであるアルミナ繊維前躯体スライバについて説明する。
【0045】
このアルミナ長繊維前駆体シートであるスライバは、上記のアルミナ繊維製品を製造する際のアルミナ繊維前駆体層と同じ方法により形成される。
【0046】
アルミナ長繊維前駆体シートであるスライバ1層の目付けは10〜200g/m特に30〜100g/m程度が好ましい。上記の短繊維シートをこのアルミナ長繊維前駆体スライバで挟むように積層し、所望目付け、例えば400〜5000g/m特に800〜3500g/m程度の積層体とする。
【0047】
この積層体とするには、第2図のように、アルミナ長繊維前駆体スライバ2pとそのアルミナ長繊維前躯体スライバより幅の狭い短繊維シート3を重ねた構造のマット4(以下、これを焼成前マットということがある。)とし、この焼成前マット4を第3図の如く左右に往動させて所要段数に積重するのが好適である。
【0048】
なお、連続的に積重させるには、第4図の如く、焼成前マット4を搬送コンベヤ7から揺動コンベヤ8に乗り移らせ、この揺動コンベヤ8を矢印X方向に往復動させつつ積重コンベヤ9上に堆積させてもよい。焼成前マット4の送り速度、揺動コンベヤ8の揺動速度及び積重コンベヤ9の送り速度を調節することにより、積重コンベヤ9上での焼成前マット4の積重段数を調節することができる。
【0049】
第2,3図の2層構造の焼成前マット4を積重させる方法の代わりに、第5図のように、積重コンベヤ10上に所要枚数のアルミナ長繊維前駆体スライバ11と、それよりも1枚少ない枚数の短繊維シート12とを、短繊維シート12がアルミナ長繊維前駆体スライバ11の間に介在するように順次に供給して積重させる方法によっても積重体13を製造することができる。
【0050】
上記第4図又は第5図のようにして形成した積重体に対し、ニードルが各層に刺入されるように積層方向にニードリングし、長繊維層の一部の長繊維を短繊維層中に入り込ませ、長繊維前駆体層と短繊維層とを絡合させ、一体化させる。ニードリングの打数は1〜50打/cm程度であればよい。
【0051】
その後、この長繊維前駆体層と短繊維層との積層一体化物を500℃以上好ましくは1000〜1300℃程度で焼成する。これにより、長繊維シートと短繊維シートとが交互に積層され且つ各層がニードリングにより一体化されており、取り扱い性の良い無機質繊維ブランケットが得られる。
【0052】
このようにして製造した無機質繊維ブランケットは、長繊維層だけでなく短繊維層も含んでおり、長繊維層のみからなる無機質繊維ブランケットに比べて目付けのバラツキが小さいものとなる。なお、市販のアルミナ長繊維積層体の目付けのバラツキ(無機質繊維ブランケットを幅方向に7区画、長さ方向に3区画、80mm×210mm角の長方形の枡目状80mm×210mm角の長方枡目状に区画した場合において、目付けの平均値に対する標準偏差の3倍値([3σ/目付け量]×100。以下、同様))は6〜8%程度であり、前記特開2000−80547の実施例1では7.7%である。これに対し、本発明によると、このバラツキを4〜7%又はこれ以下とすることが可能である。
【0053】
また、この実施の形態では、アルミナ長繊維製品の端材を利用して短繊維層を形成するため、短繊維層の材料コストが安価であると共に、省資源化並びに産業廃棄物量の減少を図ることができる。
【0054】
この無機質繊維ブランケットは、最外層が長繊維層となっているから、短繊維の飛散等の離脱が防止される。また、短繊維のみでは、ニードルを施してもブランケットにはできない、またマット状に成型する為にもバインダー等を必要とする。しかしながら本発明の場合、長繊維層と短繊維層とが一体化されているので、バインダーが無い状態でも優れた保形性を有して、取り扱い易い。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を、実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例の記載に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
<アルミナ繊維ブランケット端材の解繊>
三菱樹脂株式会社製アルミナ繊維ブランケット(商品名;マフテックMLS−2。組成はAl72重量%、SiO28重量%)を製造する切断工程からの端材(品質は、マフテックMLS−2製品と同一)を解繊機(フェザーミル解繊機)によって解繊して短繊維を得た。
【0057】
顕微鏡観察により、この短繊維は、平均繊維長は約400μmであった。
【0058】
この短繊維が約3重量%となる水スラリーを作製し、バインダーとしてパルプをこの短繊維に対して約10重量%添加し、抄造法により、厚さ約0.4mm、目付け約70g/mの短繊維シートを得た。
【0059】
<アルミナ長繊維前駆体層(スライバ)の形成>
次のようにしてアルミナ長繊維前駆体スライバを形成した。
【0060】
塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム含有量70g/L、Al/Cl=1.8(原子比))水溶液に、シリカゾルを最終的に得られるアルミナ繊維の組成がAl:SiO=72:28(重量比)となるように加え、更に、ポリビニルアルコールを加えた後、濃縮して、粘度20ポイズ、アルミナ・シリカ含量約30重量%の紡糸液を調製し、該紡糸液を用いてブローイング法で紡糸した。形成されたアルミナ繊維前駆体を含む紡糸気流を金網製の無端ベルトに衝突させてアルミナ繊維前駆体を集積させ、目付け約90g/mの比較的不均一で、かつアルミナ繊維前駆体が面内方向でランダムに配向しているアルミナ長繊維前駆体スライバを得た。
【0061】
<積層、焼成>
このアルミナ長繊維前駆体スライバと、それより幅の狭い短繊維シートを第2図の如き2層構造の焼成前マットとした。この焼成前マットを交互に折り返して10層に積重した。
【0062】
その後、打数8打/cmにてニードリングし、1200℃×30分の条件で焼成して本発明の無機質繊維ブランケットを製造した。
【0063】
この無機質繊維ブランケットの厚みは18.4mm、目付けは2290g/m、目付けのバラツキは、無機質繊維ブランケットを幅方向に7区画、長さ方向に3区画、80mm×210mm角の長方形の枡目状80mm×210mm角の長方枡目状に区画した場合において、目付けの平均値に対する標準偏差の3倍値([3σ/目付け量]×100。以下、同様)で4.1%であった。
【0064】
また、断面のSEM観察(写真1)により長繊維層の長繊維の平均繊維長は平均3000μm以上あることが確認できた。焼成後のアルミナ繊維ブランケットの結晶化度(ムライト化率)は3%であった。このブランケット中における短繊維の割合は約70重量%である。
【0065】
ブランケットの面圧は、試料のサイズが50mm×50mmの場合、これを密度0.3g/cmに圧縮した時の反発力が2.02kgf/cmであった。また、密度0.4g/cmに圧縮した時の反発力は5.27kgf/cmであった。
【0066】
このアルミナ繊維ブランケットの引張強度は0.11kgf/cmであった。また、800℃、2時間大気中で焼成した後の該アルミナ繊維ブランケットの引張強度は0.10kgf/cmであった。このブランケットの焼成後の形状保持性は焼成前と全く同じで良好であった。
【0067】
厚み方向における、長繊維の存在する密度は、SEM観察(第6図)により、厚み方向に長繊維が貫通していることが確認された。
【0068】
このブランケットの性状を表1にまとめた。
【0069】
[実施例2]
短繊維の混入比率を55重量%にし、アルミナ繊維ブランケットの目付けを1752g/mにしたこと以外は実施例1と同様にしてアルミナ繊維ブランケットを試作した。このブランケットの性状を表1に示す。
【0070】
[実施例3]
短繊維の混入比率を40重量%にし、アルミナ繊維ブランケットの目付けを1478g/mにしたこと以外は実施例1と同様にしてアルミナ繊維ブランケットを試作した。このブランケットの性状を表1に示す。
【0071】
[比較例1]
ニードリングを行わなかったこと以外は実施例1と同様にしてアルミナ繊維ブランケットを試作した。このブランケットの性状を表1に示す。
【0072】
[比較例2]
実施例1における短繊維層の抄造工程と同様にして短繊維層を抄造した後、バインダーとして水溶性ラテックスを4重量%の比率で付着させ、短繊維のみからなるマット(厚さ5mm)を製造した。このマットの性状を表1に示す。
【0073】
[比較例3]
実施例1のアルミナ長繊維前駆体層の形成工程で得たアルミナ長繊維前駆体層のみを約30層積層し、同様に打数8打/cmでニードリングし、1200℃×30分焼成して長繊維層のみからなるアルミナ繊維ブランケットを試作した。このブランケットの性状を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1の通り、実施例1〜3のアルミナ繊維ブランケットは、長繊維のみからなる比較例3に比べ目付けのバラツキが小さい。また、実施例1〜3のアルミナ繊維ブランケットは、短繊維のみからなるアルミナ繊維ブランケットに比べて面圧特性が格段に良好である。
【符号の説明】
【0076】
1 ブランケット
2,11 長繊維層
2P 長繊維前駆体層
3,12 短繊維層
4 焼成前マット
13 積重体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長が3000μm以上の無機質長繊維を主体とする長繊維層と、平均繊維長が2000μm以下の短繊維を主体とする短繊維層とを有するブランケットであって、
該短繊維層は長繊維層同士の間に介在されており、該長繊維層の一部の長繊維が該短繊維層中に入り込み、長繊維層と短繊維層とが一体化されていることを特徴とする無機質繊維ブランケット。
【請求項2】
請求項1において、ニードリングによって長繊維層の一部の長繊維が該短繊維層に入り込んでいることを特徴とする無機質繊維ブランケット。
【請求項3】
請求項1又は2において、該短繊維の含有率が長繊維と短繊維との合量の10〜90重量%であることを特徴とする無機質繊維ブランケット。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、ブランケット厚みが4〜70mmであり、1層の長繊維層の厚みが0.1〜3mmであり、1層の短繊維層の厚みが0.05〜34mmであることを特徴とする無機質繊維ブランケット。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、該無機質繊維ブランケットの目付けが400〜5000g/mであることを特徴とする無機質繊維ブランケット。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、該無機質繊維ブランケットの嵩密度が0.06〜0.2g/cmであることを特徴とする無機質繊維ブランケット。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、無機質繊維は、Alの含有量が65重量%以上の無機質繊維であることを特徴とする無機質繊維ブランケット。
【請求項8】
無機質繊維を主体とする繊維層を解繊し、湿式または乾式にて短繊維層を形成する短繊維層形成工程と、
無機質原料化合物の溶液を紡糸して繊維前駆体とし、該繊維前駆体を捕集してシート状の繊維前駆体層であるスライバを形成する工程と、
該繊維前駆体層と前記短繊維層とを、繊維前駆体層同士の間に短繊維層が介在されるように積重して、積重体とする工程と、
該積重体にニードリングを施して繊維前駆体層と短繊維層とを一体化するニードリング工程と、
一体化した該積重体を焼成し、繊維前駆体を平均繊維長が3000μm以上の無機質長繊維とする工程と、
を有する無機質繊維ブランケットの製造方法。
【請求項9】
請求項8において、前記短繊維層形成工程において解繊される長繊維層は、無機質長繊維シートを切断して規格寸法の無機質繊維製品を製造する工程から排出される無機質繊維層の端材であることを特徴とする無機質繊維ブランケットの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−209501(P2010−209501A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59694(P2009−59694)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】