説明

無機EL素子及び無機EL素子の製造方法

【課題】発光効率の高い無機EL素子及びこの素子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の無機EL素子は、基板と、前記基板上に設けられかつ第1平行面とその両側の第1平行面より低い第2平行面を有する透光性の担持体層と、第1平行面の両側の第2平行面の上にそれぞれ設けられた第1電極および第2電極と、第1電極、第2電極及び第1平行面の上に設けられた透光性の保護層と、第1電極と第2電極の間の前記担持体層の一部に形成された発光領域とを備え、前記発光領域は、第1平行面と平行な領域でありかつ発光体を含む領域であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機EL素子及び無機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、自己発光する光源として、別途の光源が不要な新たな表示素子等としての利用が期待されているものである。
従来のEL素子には、「分散型」と「薄膜型」の2つのタイプが存在し、その多くが交流駆動によって、発光する。
【0003】
従来の分散型と薄膜型のEL素子については、特許文献1や非特許文献1に記載されているように効率よく発光する無機EL素子が無機化合物を用いて実現されている。
従来の分散型EL素子は、電極間に電流経路が遮断された蛍光体粒子(例えば、ZnS:Cu,Clなど)を有する素子に交流電圧を印加することにより、蛍光体粒子が電界発光をする。この蛍光体粒子の粒子径は10μm程度が最適であると考えられ、2〜3μmよりも小さくなると発光輝度が著しく低下することが知られている。なお、この分散型EL素子は、ドナー・アクセプタ間の再結合により発光すると考えられている。
【0004】
また、従来の薄膜型EL素子は、電極間に絶縁層で挟まれた蛍光体の発光層(例えば、発光中心となるMnを母材ZnS中にドープしたZnS:Mnなど)を有する素子に交流電圧を印加することにより、発光層が電界発光する。なお、この薄膜型EL素子は、母材中を走るホットエレクトロンによる発光中心の衝突励起により発光すると考えられている。
【0005】
その一方で、シリコン基板上に無機EL素子を作製する技術の開発が盛んに行われている。情報処理装置や記憶装置であるCMOS回路などはシリコンを基幹として実現されているため、シリコン基板上に無機EL素子を作成することができれば、情報処理装置や記憶装置と発光素子を同一基板上に作製することができる。このことにより、光によるチップ間通信や光コンピューティング技術が可能となり、更なるデジタル電子機器の発展につながることが期待されている。
【0006】
例えば、特許文献2では、シリコン基板上にシリコン窒化物多結晶膜とシリコン多結晶膜を交互に積層し、その後熱処理することによりシリコン窒化物多結晶体(絶縁体膜)中にシリコン微粒子が形成されることが開示されている。また、このシリコン微粒子が約650nmをピークとするEL発光することが開示されている。
【0007】
シリコン窒化物膜にシリコン微粒子が形成された従来のEL素子について、図を用いて説明する。図14は、従来のEL素子の概略断面図である。このEL素子は、シリコン基板20上のシリコン微粒子23が形成されたシリコン窒化膜21とその上部に形成されたシリコン層22から構成される。また、図15は、従来のEL素子の模式的なバンド図である。このEL素子は、図15の実線の矢印のように例えばシリコン層22から7MV/cm程度の強い電界が印加されたシリコン窒化膜21の伝導帯にFN(ファウラー・ノルドハイム)トンネリングによって電子が供給され、この電子が電界により加速され十分な運動エネルギーを得た後、シリコン微粒子23に衝突することにより、シリコン微粒子23のエネルギー準位を励起し、発光すると考えられている。
【特許文献1】特開2007−265986号公報
【非特許文献1】最新無機EL開発動向〜材料特性と製造技術・応用展開〜、第1版、情報機構、2007年3月27日
【特許文献2】特開平11−310776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の絶縁体膜中に微粒子などの発光体を形成したEL素子では、発光効率が低いという問題がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、発光効率の高い無機EL素子、及びこの素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
本発明の無機EL素子は、基板と、前記基板上に設けられかつ第1平行面とその両側の第1平行面より低い第2平行面を有する透光性の担持体層と、第1平行面の両側の第2平行面の上にそれぞれ設けられた第1電極および第2電極と、第1電極、第2電極及び第1平行面の上に設けられた透光性の保護層と、第1電極と第2電極の間の前記担持体層の一部に形成された発光領域とを備え、前記発光領域は、第1平行面と平行な領域でありかつ発光体を含む領域であることを特徴とする。
【0010】
本発明者は、鋭意研究を行ったところ、従来のEL素子の発光効率が低い原因は、FNトンネリングで供給された電子が、発光中心と衝突する確率が低いためであると考えた。このことを一例として特許文献2に開示されたEL素子で説明する。特許文献2に開示されたEL素子では、シリコン窒化物多結晶膜とシリコン多結晶膜を交互に積層し、その後熱処理することにより微粒子を形成するため、微粒子の密度が高い領域と微粒子の密度が低い領域とが交互に積層していると考えられる。この素子では、シリコン層22からシリコン窒化膜21の伝導帯に注入された電子はシリコン微粒子23の密度が高い領域に垂直な方向の電界によって加速される。シリコン微粒子23の密度が高い領域と電子の加速方向が直交しているため、電子が電界により加速されシリコン微粒子23の電子を励起するのに十分な運動エネルギーを得た場所に発光中心であるシリコン微粒子23が存在する確率は低くなる。つまり、発光中心であるシリコン微粒子23を発光させることができる電子がシリコン微粒子23に衝突する確率は低くなり、シリコン微粒子23が発光する確率は低いと考えられる。
【0011】
また、シリコン窒化膜21に供給された個々の電子は、シリコン窒化膜21中でフォノン等の散乱により運動エネルギーを失う場合があるため、電子の加速方向が直交して配置されたシリコン微粒子23にたどり着いた電子が発光中心を発光させる十分な運動エネルギーを有する確率は低いと考えられる。例えば、図16の破線の矢印のように、シリコン窒化膜21の伝導帯に供給された電子が、発光中心にたどり着く前にフォノンなどの散乱により運動エネルギーを失った場合、電界で加速された電子がいくら大きなエネルギーを持っていてもちょうど発光中心と衝突する所で発光中心の電子を励起させる十分なエネルギーを持っていなくては発光に寄与しないと考えられる。すなわち、従来のEL素子では、十分な運動エネルギーを持つ電子と発光中心の衝突回数が小さく、発光効率が制限されてしまう。
【0012】
本発明の無機EL素子は、発光効率を高くすることができる構造を有する。このことを図面を用いて説明する。図1(a)は、本発明の一実施形態の無機EL素子の概略断面図であり、図1(b)及び(c)は、本発明の一実施形態の無機EL素子の第1電極と第2電極の間の担持体層の概略断面図である。なお図1(c)では発光領域7と第1電極3及び第2電極4の間にd1の間隔を設けている。図1(b)、(c)に示すように本発明では、第1電極3と第2電極4の間に印加する電界の方向、つまり第1電極3または第2電極4から供給された電子が加速される方向と、発光体8が分布する領域である発光領域7を平行にすることができる。このことにより、電界により加速され発光中心の電子を励起させる運動エネルギーを得た電子が存在する場所に発光体8が存在する確率を高くすることができる。つまり、第1電極3又は第2電極4から注入され電界によって加速された電子が発光中心である発光体8の電子を励起させる運動エネルギーをもった状態で発光体8と相互作用する確率を高くすることができる。その結果、無機EL素子6の発光効率を増加することができる。また、一度発光体8と相互作用した電子が、再び電界により加速され十分な運動エネルギーを得た後発光体8と相互作用することができるため、無機EL素子6の発光効率を増加することができる。
【0013】
また、本発明者は、GeO及びGeO2を含む微粒子を発光体とする発光素子に対して電圧印加を行うことによって340〜440nmの波長にピークを有するエレクトロルミネッセンス発光することを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0015】
1.無機EL素子の構造
本実施形態の無機EL素子6は、基板1と、基板1上に設けられかつ第1平行面とその両側の第1平行面より低い第2平行面を有する透光性の担持体層2と、第1平行面の両側の第2平行面の上にそれぞれ設けられた第1電極3および第2電極4と、第1電極3、第2電極4及び第1平行面の上に設けられた透光性の保護層5と、第1電極3と第2電極4の間の担持体層2の一部に形成された発光領域7とを備え、発光領域7は、第1平行面と平行な領域でありかつ発光体8を含む領域であることを特徴とする。
また、本実施形態の無機EL素子6は、基板1と担持体層2の間に反射層を設けてもよい。なお、図2は、本発明の一実施形態の反射層9を設けた無機EL素子の概略断面図である。
以下、本発明の一実施形態の無機EL素子の各構成要素について説明する。
【0016】
1−1.基板
基板1は、特に限定されないが、例えば、シリコン基板である。
基板1をシリコン基板とすることで、後述する担持体層2をシリコン基板表面に形成される酸化シリコンとすることができる。また、基板1をシリコン基板とすることで、シリコン基板上にLSIと本発明の無機EL素子を混載することができる。
【0017】
1−2.担持体層
担持体層2は、基板1上に設けられ、かつ第1平行面とその両側の第1平行面より低い第2平行面を有し、かつ透光性を有する絶縁体又は高抵抗の半導体であれば特に限定されない。なお、この発明で透光性とは、無機EL素子が発光する光を透過することができることをいう。
第1平行面とは、担持体層2の上面の一部の面である。また、第2平行面とは、担持体層2の上面の一部の面であって、第1平行面より低い面である。また、担持体層2は、第1平行面と第2平行面の間に段差を有することができる。
また、第1平行面は、例えば、一定の幅を持った線状とすることができ、第2平行面は、例えば、線状の第1平行面の両側に一定の幅を持った線状とすることができる。また、第1平行面及び第2平行面は、同一基板上に複数形成することができる。
担持体層2の材料は、透光性を有する絶縁体又は高抵抗の半導体であって、発光領域7を形成することができれば、特に限定されないが、例えば酸化シリコン、窒化シリコンまたは酸窒化シリコンである。また、担持体層2は、積層構造で形成されていても良い。なお、積層構造とした場合、下の層を後述する反射層9とすることができる。また、担持体層2には、電気的絶縁性が要求される。一般にCMOS技術に使用される酸化シリコンからなる絶縁層は絶縁性に優れ、耐圧が10MV/cm程度であり、十分な性能を有すると考えられる。
【0018】
また、担持体層2は、例えば、波長300nm以上500nm以下の光の透過率が60%以上99.99%以下とすることができる。300nm〜500nmの光の透過率が高いことで、この光を直接ディスプレイに使用することや無機EL素子6の上に、色変換素子やカラーフィルタを乗せて異なる波長の光を出すことが可能となる。また、後述する発光体8がGeO及びGeO2を含む微粒子である場合、微粒子が波長390nm程度のEL発光を示すため、このEL発光を効率よく利用することができる。
担持体層2の形状は、第1平行面とその両側の第1平行面より低い第2平行面を有すれば特に限定されないが、例えば、第2平行面の下の担持体層2の厚さd3は、第1電極3と第2電極4との間の担持体層2の長さd2より厚い厚さとすることができる。d3をd2より大きくすることにより、電圧印加をする際に第1電極3又は第2電極4と基板1との間に電気が流れショートすることを回避することができる。
【0019】
また、第2平行面の下の担持体層2の厚さd3は、例えば、80〜150nm(例えば、80、90、100、110、120、130、140及び150nmの何れか2つの間の範囲)である。
また、第1平行面の下の担持体層2の厚さは、例えば、d3よりも厚い厚さであって、100〜200nm(例えば、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190及び200nmの何れか2つの間の範囲)である。
また、第1電極3と第2電極4との間の長さd2は、例えば、d3よりも短い長さであって、40〜100nm(例えば、40、50、60、70、80、90及び100nmの何れか2つの間の範囲)の間の範囲である。d2を40〜100nmとすることで無機EL素子を発光させるための駆動電圧を十分に低下することができる。特にd2を40〜60nmとすることで、駆動AC電圧が30〜40Vとすることができ、家庭用電化製品等への利用が可能となる。また、この40〜60nmの線幅加工は現在または近い将来のシリコン基板に形成されるLSIのゲート長と同等であり、同一のシリコン基板に無機EL素子とLSIを混載することが可能となる。また、この線幅加工は、ArF等のエキシマレーザーを用いて実現可能である。
また、d2が100nmより大きい場合、EL発光に必要な閾値電圧を大きくすることにつながる場合がある。
【0020】
1−3.発光領域
発光領域7は、第1電極3と第2電極4の間の担持体層2の一部に形成され、第1平行面と平行に担持体層2中に分布する複数の発光体8が形成された領域であれば特に限定されない。
また、発光領域7は、第1平行面と平行な発光体8の密度が相対的に高い領域を有することができる。この発光体8の密度が高い領域を電子が電界によりこの領域と平行に加速されることにより、発光中心である発光体8の電子を励起するエネルギーをもった電子が発光体8に衝突する確率を高くすることができる。つまり、無機EL素子の発光効率を高くすることができる。
なお、担持体層2中に発光体8の密度の差が顕著に異なる領域が存在する場合、発光領域7は、発光体8の密度が高い領域を指す。
発光領域7の形状は、第1平行面と平行であれば特に限定されない。
また、発光領域7は、例えば、第1電極3および第2電極4の膜厚方向の6分の1〜6分の5(例えば、6分の1、6分の2、6分の3、6分の4、6分の5の何れか2つの間の範囲)に発光体8の密度が高い領域を有することができる。また、発光体8の密度が高い領域を複数有することもできる。
また、発光領域7の厚さは、例えば第1平面と第2平面の間の長さよりも薄い厚さであって、10〜60nm(例えば10、20、30、40、50及び60nmの何れか2つの間の範囲)である。
また、発光領域7の第1電極3と第2電極4との間方向の長さは、例えばd2よりも短い長さであって、20〜80nm(例えば20、30、40、50、60、70及び80nmの何れか2つの間の範囲)である。
【0021】
また、発光領域7と、第1電極3および第2電極4との間の長さd1は、例えば、7〜15nm(例えば7、8、9、10、11、12、13、14及び15nmの何れか2つの間の範囲)とすることができる。
d1を7〜15nmとすることにより、発光効率を高くすることができる。このことを以下に説明する。第1電極3または第2電極4から注入された電子が電界により加速され発光中心である発光体8の電子を励起するのに十分な運動エネルギーを得る前に発光体8と相互作用しても発光せず、電子の運動エネルギーがフォノン等に失われ、熱へと変換されると考えられる。従って、電子は発光体8に到着するまでに十分な運動エネルギーを得る必要がある。従って、例えば、3MV/cm〜7MV/cm程度の電界で電子が加速されると仮定し、発光体8を発光させるための励起エネルギーが5〜10eV程度であるとすると、電子が発光体8を発光させるために必要なエネルギーを得るために、電子は7nm〜15nm程度無散乱で加速され、運動エネルギーを得る必要がある。本構成によって、電極から供給された電子は発光中心である発光体8の電子を励起するために必要なエネルギーを持って発光体8と相互作用する確率を高くすることができ、発光効率を高くすることが可能となる。なお、3MV/cm〜7MV/cm程度の電界は、シリコン酸化膜の耐圧よりも低く安定的に印加可能な電界である。
また、発光領域の上下を透明電極等で挟んだ構造からなり、電子の加速方向とEL発光の取出方向が平行となる従来のEL素子においては、透明電極の透過率が100%でないために発光効率が低減してしまうのに対し、本発明においては、電子の加速方向と発光の取出方向は垂直であり、上記の透明電極による発光強度の低減が生じないため、発光を効率よく取り出すことができる。
【0022】
1−4.発光体
発光体8は、発光領域7に複数形成されたものであれば、特に限定されない。
また、発光体8は、例えば微粒子、金属原子、金属イオンであり、また、例えば、ゲルマニウム、シリコン又はスズの微粒子である。また、発光体8は例えばGeO及びGeO2を含む微粒子とすることができる。特に発光体8をGeO及びGeO2を含む微粒子とすることにより、波長340〜440nmの間にピーク波長を持つEL発光を示すEL素子とすることができる。このような短波長の光は直接ディスプレイに使用することや無機EL素子の上に、色変換素子やカラーフィルタを乗せて異なる波長の光を出す用途に使用することができる。
【0023】
発光領域7中の発光体8の数密度は、特に限定されないが例えば、1×1016個/cm3〜1×1021個/cm3である。
【0024】
発光体8が微粒子の場合、好ましくは、最大粒径が1nm以上20nm以下である。この場合、発光効率が特に高くなるからである。本発明において、「最大粒径」とは、担持体層2の任意の断面(図1のような断面であってもよく、紙面に垂直な断面であってもよい。)の100nm角の範囲をTEM観察した場合に観察できた微粒子のうち粒径が最も大きいものの粒径を意味する。また、本発明において「粒径」とは、断面TEM写真で見た場合に、TEM写真に射影され微粒子の平面像が含むことのできる最も長い線分の長さを意味する。微粒子の最大粒径は、例えば、1,2,3,4,5,6,7,8,9、10、12、14、16、18又は20nmである。微粒子の最大粒径は、ここで例示した何れか2つの数値の間の範囲内であってもよく、何れか1つの数値以下であってもよい。
【0025】
酸化ゲルマニウム全体(GeO2+GeO)に対するGeOの割合は、XPSスペクトルのGeの3dピーク付近のスペクトルにおいて、GeO2に起因するピークの面積SGeO2と、GeOに起因するピークの面積SGeOを求め、SGeO/(SGeO2+SGeO)を算出することによって求めることができる。XPS測定のためのX線源には、例えば単色化したAl、Kα線(1486.6eV)を用いることができる。GeO2に起因するピークとGeOに起因するピークは、裾野が重なるが、図3に示すようにガウスフィッティングを行ってGeO2に起因するピークとGeOに起因するピークとを波形分離することによって面積SGeO2及びSGeOを求めることができる。GeO2及びGeOのピークエネルギーは、それぞれ約33.5,32eVである。
【0026】
微粒子に含まれるGeOとGeO2の合計を100%としたときGeOを10%以上含むことができる。GeOの割合が小さすぎると発光しなかったり発光強度が小さくなりすぎる可能性がある。GeOの割合は、具体的には例えば10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、100%である。GeOの割合は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0027】
ところで、XPSスペクトルのGeの2pピーク付近のスペクトルにおいて、ゲルマニウム(Ge)に起因するピークの面積SGeと、酸化ゲルマニウム(GeO+GeO2)に起因するピークの面積S酸化Geを求め、SGeO/(SGe+S酸化Ge)を算出することによってGeの酸化率を求めることができる。この酸化率の平均値は、特に限定されないが、例えば、1,5,10,15,20,25,30,34.9,35,40,45,50,55,60,60.1,65,70,70.1,75,80,85,90,95,99,100%である。この酸化率の平均値は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0028】
1−5.第1電極および第2電極
第1電極3および第2電極4は、担持体層2の第1平行面の両側の第2平行面の上にそれぞれ設けられる電極であれば特に限定されない。
また、第1電極3および第2電極4の材料は、電極材料であれば特に限定されないが、例えば、コバルトシリサイド、チタンシリサイド、ニッケルシリサイド又はヒ素、リン、ボロン等をドープしたポリシリコンである。特に第1電極3および第2電極4の材料をコバルトシリサイド、チタンシリサイド又はニッケルシリサイドとすることにより、シート抵抗を低減することができる。電極などのシート抵抗を下げることにより、発光に必要な電圧閾値を下げることができる。
【0029】
また、第1電極3および第2電極4の下面は、第2平行面と接しており、側面は、第1平行面の下の担持体層2に接している。第1電極3および第2電極4の厚さは、例えば、第1平行面と第2平行面の間の長さの80〜100%の厚さとすることができる。好ましくは90〜99%の厚さとすることができる。100%を超える厚さでは、第1電極3および第2電極4は担持体層2の第1平行面の一部の上に覆い被さる構造となり、第1電極3と第2電極4との間の距離が小さくなるため、絶縁破壊電圧が低下する。また、80%より小さい厚さでは、シート抵抗が大きくなるために、発光電圧を印加するのに必要な外部電源の能力が大きくなる。
【0030】
1−6.保護層
保護層5は、第1電極3、第2電極4及び第1平行面の上に設けられ、かつ透光性を有すれば特に限定されない。
また、保護層5の材料は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン又は酸窒化シリコンである。
また、保護層5の厚さは、例えば50〜500nm(例えば50、100、150、200、250、300、400及び500nmの何れか2つの間の範囲)である。
また、保護層5の波長300nm以上500nm以下の光の透過率は、例えば、60%以上99.99%以下(例えば、60、65、70、75、80、85、90、95、99及び99.99%の何れか2つの間の範囲)である。300nm〜500nmの光の透過率が高いことで、この光を直接ディスプレイに使用することや無機EL素子6の上に、色変換素子やカラーフィルタを乗せて異なる波長の光を出すことが可能となる。また、発光体8がGeO及びGeO2を含む微粒子である場合、この微粒子が波長390nm程度のEL発光を示すため、このEL発光を効率よく利用することができる。
また、保護層5を設けることにより、発光領域7などの大気中の酸素、水分等による劣化を防止することができる。
【0031】
1−7.反射層
反射層9は、基板1と担持体層2との間に設けることができる。
反射層9の材料は、例えば、Alなどの金属又は担持体層の材料と異なる材料の絶縁体の積層膜である。この反射層9を設けることにより、発光領域7においてEL発光し基板1方向へ進む光を上方向に反射させ、より効率よく光を取り出すことが可能である。
また、反射層9を絶縁体で形成することにより、第1電極3または第2電極4と基板1との間の距離が大きくなり、電気的ショートがしにくくなるというメリットを有している。また、絶縁体の積層膜からなる反射層9の材料、膜厚を任意に変化させることによって、発光領域7で発光する波長に適合した所望の波長の光を効率よく反射させることが可能である。
また、反射層9を金属で形成した場合、電気的ショートが生じやすくなるため、担持体層2の膜厚を第1電極3と第2電極4の間の長さよりも十分に厚くする必要がある。
【0032】
2.無機EL素子の使用方法
本実施形態の無機EL素子は、第1電極3と第2電極4との間に電圧を印加することによりEL発光する。特に直流電圧よりも交流電圧を印加することによって発光強度を強くすることができる。例えば、第1電極3と第2電極4との間に3MV/cm〜10MV/cmの電界を形成することができる1Hz〜10kHzの正弦波の交流電圧を印加することができる。
このことにより第1電極3または第2電極4から担持体層2に供給された電子が電界により加速され、発光中心である微粒子8のエネルギー準位を励起することによってEL発光を実現することができる。
【0033】
3.無機EL素子の製造方法
本実施形態の無機EL素子6の製造方法は、基板1上に形成された透光性の担持体層2の一部をエッチングすることにより第1平行面とその両側の第1平行面より低い第2平行面を形成する第2平行面形成工程と、第1平行面及び第2平行面の上にポリシリコン層11を形成するポリシリコン層形成工程と、第1平行面の上のポリシリコン層11をエッチングし除去するエッチング工程と、第1平行面の下の担持体層2に無機物質のイオン注入しその後熱処理することにより第1平行面と平行に分布する発光体8を形成する発光領域形成工程と、ポリシリコン層11の上に高融点金属層13を形成しその後熱処理することにより第1平行面の両側の第2平行面の上にそれぞれ第1電極3および第2電極4を形成する電極形成工程と、第1電極3、第2電極4及び第1平行面の上に保護層5を形成する保護層形成工程を備える。
また、本実施形態の無機EL素子6の製造方法では、第2平行面形成工程の前に担持体層形成工程を備えることもできる。また、本実施形態の無機EL素子6の製造方法では、担持体層形成工程の前に反射層形成工程を備えることもできる。
以下、本実施形態の無機EL素子6の製造方法の各工程について説明する。
【0034】
3−1.第2平行面形成工程
図4は、本発明の一実施形態の無機EL素子6の第2平行面形成工程における概略断面図である。
基板1の上部に形成された透光性を有する担持体層2の一部をエッチングすることにより、担持体層2に第1平行面の両側の第1平行面より低い第2平行面を形成する。例えば、担持体層2は、シリコン基板の表面に形成されるシリコン酸化膜を利用することができる。また、エッチングは、例えば、図4のように、例えば40〜100nmの線幅で担持体層2の表面にフォトレジスト10を形成した後、エッチングを行うことによりフォトレジスト10を形成していない担持体層2に第1平行面より低い第2平行面を形成することができる。その後フォトレジスト10を除去することにより担持体層2に第2平行面を形成することができる。なお、フォトレジスト10の線幅は、d2と実質的に同一の長さになり、この線幅は最先端シリコントランジスタのゲート長と同程度であり、その世代で使用されるArF等のエキシマレーザーを用いて実現可能である。
【0035】
3−2.ポリシリコン層形成工程
担持体層2に第2平行面を形成した後に、第1平行面及び第2平行面の上にポリシリコン層11を形成する。例えば、担持体層2の上にポリシリコン層11をスパッタリングにより堆積することにより形成することができる
【0036】
3−3.エッチング工程
図5および図6は、本発明の一実施形態の無機EL素子6のエッチング形成工程における概略断面図である。
第1平行面の上のポリシリコン層11をエッチングし除去する。エッチング除去するポリシリコン層11は、第1平行面の一部のポリシリコン層11であってもよい。例えば、図5のようにポリシリコン層11の上面に、担持体層2の第1平行面の上部に開口を有するようにフォトレジスト12を形成することができる。その後、エッチングにより、フォトレジスト12が上部に形成されていないポリシリコン層11を除去することができる。その後フォトレジスト12を除去することにより、図6のように担持体層2の第2平行面及び第1平行面の一部の上にポリシリコン層11を形成することができる。
【0037】
なお、フォトレジスト12の開口部の幅d4及び第1電極3及び第2電極4の間の方向の位置は、発光領域7の幅(d2−2×d1)及び電極間の方向の位置と実質的に同一となる場合があるため、所望の発光領域7が得られるようにフォトレジスト12を形成することができる。
また、フォトレジスト12の開口部の幅d4を所望の発光領域7の幅よりも広くすることもできる。この場合、例えば、ゲルマニウムの酸化シリコン中およびシリコン中の拡散係数の違いにより所望の発光領域7とすることができる(後述)。
なお、ポリシリコン層11のエッチングはRIEを用いて行えば良いが、担持体層2との選択性が小さいガスを用いて行うと、担持体層2がエッチングされる、または、多大なダメージが入る可能性があるため、エッチング除去するポリシリコン層11を数nm程度残してRIEによる非等方性エッチングを行い、その後、例えば、酸素雰囲気で酸化を行いシリコン酸化膜を形成し、フッ酸(HF)でウェットエッチングすることができる。
【0038】
3−4.発光領域形成工程
図7は、本発明の一実施形態の無機EL素子6の発光領域形成工程における概略断面図である。
開口を有するポリシリコン層11を形成した後、第1平行面の下の担持体層2に発光体となる例えば無機物質のイオン注入しその後熱処理することにより第1平行面と平行に分布する発光体8を形成する。例えば、担持体層2の第1平行面の上方からゲルマニウムイオンをイオン注入し、その後熱処理を施すことにより、第1平行面の下の担持体層2に複数のゲルマニウム微粒子又はGeO及びGeO2を含む微粒子が形成された発光領域7を形成することができる。イオン注入するとき、第2平行面の下の担持体層2の上及び第1平行面の端部の上には、ポリシリコン層11が形成されているため、イオンは注入されない。このことにより、ポリシリコン層11の開口の下部の担持体層2にイオン注入することができる。
【0039】
なお、イオン注入法はシリコン基板を用いて非常に微細な素子を並べたCMOS回路のドーピング工程において使用される方法で、非常に高い精度および再現性をもって発光領域7におけるゲルマニウムイオンの濃度および分布状態の制御が可能である。このことにより、複数の無機EL素子を同一基板上に形成した場合、ゲルマニウム濃度(微粒子の密度)のばらつきを小さくすることができる。従って、複数の無機EL素子の発光のばらつきを小さくすることができる。
また、イオン注入後、熱処理を施すことによって、EL発光強度が上昇する。熱処理は、例えば、1000℃で30秒アニールすることによって行うことができる。熱処理によって、例えば、ゲルマニウムイオンは凝集し、ドット状になるが、TEM像(図示なし)からその直径は10nm以下であることがわかっている。すなわち、従来の分散型EL素子に見られたような10μm程度の大きなドットでないため、微細素子および高画質画素を比較的容易に実現することができる。
【0040】
また、例えばゲルマニウムイオンが所望の発光領域7の幅よりも広い範囲の第1平行面の下の担持体層2である酸化シリコン層に注入された場合、ゲルマニウムの拡散係数の違いを利用して所望の発光領域7の幅とすることができる。すなわち、ゲルマニウムの拡散係数は酸化シリコン層中よりもポリシリコン層11中の方が大きいため、第1平行面の下の担持体層2の端部に注入されたゲルマニウムイオンはアニール処理によって、速やかにポリシリコン層11中に拡散する。一方で、ポリシリコン層11から比較的遠い領域に注入されたゲルマニウムイオンは、拡散によって酸化シリコン層中での分布は多少変わるが、その総数は変わらず、発光への寄与は変わらない。このようにゲルマニウムの拡散係数の違いを利用することによって、所望の大きさの発光領域7が形成されるだけでなく、発光領域7の両側の担持体層2のゲルマニウム濃度を十分に低くすることができ、電極から供給された電子が発光領域7に達するまでに十分に運動エネルギーを得ることができる。
【0041】
3−5.電極形成工程
発光領域7を形成した後、ポリシリコン層11の上に高融点金属層を形成しその後熱処理することにより第1平行面の両側の第2平行面の上にそれぞれ第1電極3および第2電極4を形成する。例えば、担持体層2の第1平行面より高い部分に存在するポリシリコン層11をエッチングにより除去した後、コバルト、チタンまたはニッケルなどの高融点金属層を第2平行面の上のポリシリコン層11の上部などにスパッタリング等により堆積することができる。その後、例えば600℃程度でアニール処理を行って、ポリシリコン層11と高融点金属層を反応させ、シリサイド化した高融点金属を第2平衡面の上に形成し、第1電極3および第2電極4を形成することができる。また、未反応の高融点金属層は、この基板を硫酸過水(硫酸過酸化水素水)、塩酸過水(塩酸過酸化水素水)、 アンモニア過水等に浸すことによって除去することができる。
また、一般に担持体層2である酸化シリコン層とコバルト、チタン又はニッケルなどはシリサイド化のアニール処理によって反応しないため、ポリシリコン層11を形成した領域のみにシリサイド化した高融点金属を形成することが可能である。
【0042】
また、担持体層2の第1平行面より高い部分に存在するポリシリコン層11をエッチングするためには、RIEを用いても良いが、第1平行面の下の担持体層2がエッチングされる、または、多大なダメージが入る可能性がある。このため、第2平行面の上に形成されたポリシリコン層11を数nm程度残してRIEによる非等方性エッチングを行い、その後、例えば、酸素雰囲気で酸化を行いシリコン酸化膜を形成し、その後フッ酸(HF)でウェットエッチングすると良い。このとき第1平行面の下の担持体層2がウェットエッチングされることがないように行うことができる。
また、ポリシリコン層11と高融点金属層との反応では、ポリシリコン層11を残さず、フルシリサイド化されていることが望ましい。これは堆積する高融点金属層の膜厚を調整することで作製することが可能であり、EL素子以外の外部抵抗低減化のために必要な技術である。
【0043】
また、図8は、本発明の一実施形態の無機EL素子6の電極形成工程における概略断面図である。
例えば、図8のようにコバルト、チタンまたはニッケルなどの高融点金属層13を第2平行面の上のポリシリコン層11の上部などにスパッタリング等により堆積した後、600℃程度でアニール処理を行って、ポリシリコン層11と高融点金属層13を反応させ、シリサイド化した高融点金属を第2平行面の上に形成することができる。その後、担持体層2の第1平行面より高い部分に存在する高融点金属シリサイドをCMP等で除去することにより第1電極3および第2電極4を形成することもできる。
この場合、アニール処理後、ポリシリコン層11と未反応の高融点金属層13を除去した後、CMP等で高融点金属シリサイドと第1平行面とを平坦化することができる。
【0044】
3−6.保護層形成工程
第1電極3および第2電極4の形成後、第1電極3、第2電極4及び第1平行面の上に保護層5を形成する。保護層5の形成方法は特に限定されないが、例えば酸化シリコンや窒化シリコンをCVDやスパッタリングで堆積し形成することができる。
【0045】
3−7.担持体層形成工程
また、第2平行面形成工程の前に担持体層形成工程を備えることもできる。担持体層形成工程では、例えば、基板1の上に担持体層2を、絶縁材料をCVDやスパッタリングにより形成することができる。また、基板1を熱処理することにより熱酸化膜を形成することもできる。
【0046】
3−8.反射層形成工程
また、担持体層形成工程の前に反射層形成工程を備えることもできる。反射層形成工程では、例えば、基板1の上に反射層をCVDやスパッタリングにより形成することができる。
【0047】
4.無機EL素子を備えたディスプレイ
本発明の無機EL素子を同一基板上に複数個作製することにより、ディスプレイを作製することも可能である。また、特に発光体8をGeO及びGeO2を含む微粒子とすることにより、波長340〜440nmの間にピーク波長を持つEL発光をすることができる。このような短波長の光は直接ディスプレイに使用することや無機EL素子の上に、色変換素子やカラーフィルタを乗せて異なる波長の光を出す用途に使用することができる。
【0048】
5.ゲルマニウムイオンのイオン注入条件シミュレーション
発光領域形成工程における第1平行面の下の担持体層2にゲルマニウムイオンを注入するシミュレーションを行った。図9は、ゲルマニウムイオンのイオン注入条件シミュレーションにおける、担持体層2の深さ方向の距離とゲルマニウムイオンの濃度との関係を示したグラフである。
シミュレーションにはTRIMを用い、ゲルマニウムのピーク濃度が1%を達成するように行い、注入条件は30keV、1.5×1015/cm2 とした。図9の横軸は担持体層2である酸化シリコン層の深さであり、担持体層2である酸化シリコン層と保護層5である酸化シリコン層の界面を起点とした。また、このシミュレーションにおいては、担持体層2の第1平行面と第2平行面との距離は50nm、第2平行面の下の担持体層2である酸化シリコン層の膜厚d3は200nmを想定した。また、担持体層2である酸化シリコン層の密度は2.2g/cm3とした。
【0049】
図9からわかるように注入分布はガウス型の分布をしており、そのピーク深さは27nm程度、半値幅は20nm程度であった。ドーズ量を変化させることによってゲルマニウム濃度の調整が可能であり、ドーズエネルギーを変化させることでピーク深さを変化させることが可能である。また、多数回イオン注入を行い、所望のプロファイルを得ることも可能である。
【0050】
6−1.EL実験
以下の方法で本発明の発光特性および発光原因を確認するための参考実験としてEL実験を行った。
まず酸素雰囲気中,1050℃、100分でシリコン基板を熱酸化することによって表面にシリコン熱酸化膜を形成した。
次に、シリコン熱酸化膜中にGeイオンを50keVで1.4×1016ions/cm2、20keVで3.2×1015ions/cm2、10keVで2.2×1015ions/cm2の条件でこの順番で多重に注入した。
【0051】
次に、ロータリーポンプで引きながら、窒素を流入させ、800℃で1時間熱処理した。この熱処理中に注入したGeの凝集及び酸化によってGeが酸化されて少なくとも一部がGeO及びGeO2に酸化される。
次に、シリコン熱酸化膜上にITO電極を形成し、シリコン基板側にアルミニウム電極を形成し、EL実験に用いる発光素子を得た。
【0052】
この発光素子のITO電極とアルミニウム電極の間に交流電圧(正弦波、60Vp−p、1kHz)を印加したところ青色の発光が確認された。
また、この青色の発光の発光スペクトルを図10に示す。図10を参照すると、確認された青色の発光は、340nmから550nmの波長の光であり、340nmから440nmの間にピークを有するエレクトロルミネッセンス発光であることが分かった。
また、交流電圧の代わりに30Vの直流電圧を印加したところ、交流電圧を印加した場合よりも発光が微弱であった。
【0053】
6−2.GeOおよびGeO2と発光との関係
以下に示す方法によって、GeOおよびGeO2が本発明の発光素子の発光に関与していることを確認した。
【0054】
まず、発光機構について2つの仮説を考えた。第1の仮説は、Geナノ粒子が量子サイズ効果によって発光が起こっているというものである。この発光機構は、通常のナノ粒子の発光機構と同じであり、発光波長が粒子サイズに依存する。第2の仮説は、GeOおよびGeO2が発光に関与するというものである。GeOの励起状態と基底状態のエネルギー準位差は、2.9〜3.2eV(387〜427nm)であるので(L. Skuja, J. Non-Cryst. Solids, 239 (1998) 16-48.を参照)、第2の仮説によれば、発光波長は、387〜427nm程度になり、この波長は粒子サイズに依存しないと考えられる。
【0055】
これらの仮説のどちらが正しいのかを検証するために、互いに異なる種々の温度条件と注入条件で発光素子を作製し、この素子に5keVの電子線を照射したときのCL波長を測定した。CL波長の測定には、「gatan製MonoCL3+」を用いた。発光素子の作製方法は、熱処理温度やGe注入量を適宜変化させた以外は「6−1.EL実験」で説明した通りである。
【0056】
得られた結果を図11(a),(b)に示す。図11(a)中の温度は、熱処理温度(時間は1時間)を示す。図11(b)中の「原子%」は、Ge注入後のシリコン熱酸化膜内でのGe濃度を示す。このGe濃度は、「KOBELCO製HRBS500」を用いてラザフォード後方散乱法によって測定した。具体的には、450keVでHeイオンビームを照射し、反跳粒子を磁場型エネルギー分析器を用いて分析した。シリコン酸化膜中のゲルマニウム原子の深さ分布をシリコン酸化膜中のシリコン原子からの散乱を基準して求めることができる。本実験ではシリコン酸化膜とシリコンの密度を2.2と2.33g/cm3として計算した。図11(a)でのGe濃度は0.5原子%であり、図11(b)での熱処理温度は800℃(時間は1時間)である。
【0057】
図11(a),(b)を参照すると、熱処理温度やGe濃度が変わってもCLのピーク波長は、ほぼ390nmで一定であることが分かる。熱処理温度やGe濃度が変わると、形成されるナノ粒子のサイズも変化するので、発光機構が第1の仮説に従うのであればCLのピーク波長がずれるはずである。従って、図11(a),(b)で確認されたCLの波長は、第1の仮説では説明ができない。一方、波長390nmは、第2の仮説で予測された発光波長(387〜427nm)の範囲内である。
【0058】
以上より、本発明の発光素子からのCL波長は、第1の仮説では説明できず、第2の仮説で説明できることが分かる。従って、本発明の発光素子の発光には、GeO及びGeO2が関与していることが確認できた。
【0059】
ところで、図11(a)を参照すると、熱処理温度は、700〜900℃が好ましく、700〜800℃がさらに好ましいことが分かる。また、図11(b)を参照すると、Ge濃度は、0.1〜1.4原子%が好ましく、0.5〜1.0原子%がさらに好ましいことが分かる。
【0060】
6−3.Ge,GeO,GeO2の割合の深さ方向分布
「6−1.EL実験」で説明した方法に従って発光素子を作製し、シリコン熱酸化膜内でのGe,GeO,GeO2の割合の深さ方向分布を調べた。ここで作製した発光素子のGe濃度は5原子%であり、熱処理温度は800℃(時間は1時間)である。
XPSは通常試料表面から深さ数nmの範囲の分析ができるので、アルゴンイオンビームによるエッチングとXPS測定を交互に行うことによって、深さ50nmまでの領域においてGe,GeO,GeO2の割合の深さ方向の変化を調べた。アルゴンイオンビームのエネルギーは4kV,ビーム電流は15mAで、1回当り300秒照射した。その時のXPS測定結果を各深さについて、分かり易いように縦方向にグラフを平行移動して並べたものを図12(a)に示す。また、各深さに含まれるGe原子の状態を、Ge(金属Ge),GeO,GeO2の割合で示したグラフを図12(b)に示す。
【0061】
これによると、「6−1.EL実験」で説明した注入方法でGeの注入濃度が比較的高い深さ10〜50nmの領域では、酸化されていないGeの割合は30〜70%である。GeO2は0〜20%の間で、およそ10%である。Geが完全に酸化されず一部酸化したGeOは10〜50%の間である。
【0062】
各深さでのGe,GeO,GeO2の割合は、スペクトルのGeの3dピーク付近のXPSスペクトルにおいて、Geに起因するピークの面積SGeと、GeOに起因するピークの面積SGeOと、GeO2に起因するピークの面積SGeO2とを求め、(SG,SGeO,SGeO2)/(SG+SGeO+SGeO2)を各深さで算出することによって求めた。また、各深さでの、酸化ゲルマニウム全体(GeO2+GeO)に対するGeO,GeO2の割合を図13のグラフに示す。
【0063】
これによると、酸化ゲルマニウムの内、完全に酸化されてGeO2となっている割合は、ゲルマニウムの濃度が低く、雰囲気の影響を強く受けてゲルマニウムが完全に酸化されやすい表面近傍を除いて、およそ20〜60%の間で、Geが完全に酸化されず一部酸化したGeOはおよそ40〜80%の間である。「6−1.EL実験」で説明した注入方法でGeの注入濃度が比較的高い深さ10〜40nmの領域では、酸化ゲルマニウムの内、完全に酸化されてGeO2となっている割合はおよそ50%以下で、およそ20〜30%である。Geが完全に酸化されず一部酸化したGeOはおよそ50%以上で70〜80%である。各深さでのGeO,GeO2の割合は、スペクトルのGeの3dピーク付近のXPSスペクトルにおいて、GeOに起因するピークの面積SGeOと、GeO2に起因するピークの面積SGeO2とを求め、(SGeO,SGeO2)/(SGeO+SGeO2)を各深さで算出することによって求めた。XPSスペクトルは、X線源として単色化したAl、Kα線(1486.6eV)を用いて測定した。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1(a)は、本発明の一実施形態の無機EL素子の概略断面図であり、図1(b)及び(c)は、本発明の一実施形態の無機EL素子の第1電極と第2電極の間の担持体層の概略断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の反射層を設けた無機EL素子の概略断面図である。
【図3】GeOの割合を算出するためにXPSスペクトルをガウスフィッティング分解した一例を示したグラフである。
【図4】本発明の一実施形態の無機EL素子の第2平行面形成工程における概略断面図である。
【図5】本発明の一実施形態の無機EL素子のエッチング工程における概略断面図である。
【図6】本発明の一実施形態の無機EL素子のエッチング工程における概略断面図である。
【図7】本発明の一実施形態の無機EL素子の発光領域形成工程における概略断面図である。
【図8】本発明の一実施形態の無機EL素子の電極形成工程における概略断面図である。
【図9】ゲルマニウムイオンのイオン注入条件シミュレーションにおける、担持体層の深さ方向の距離とゲルマニウムイオンの濃度との関係を示したグラフである。
【図10】EL測定実験のために作製した発光素子の発光スペクトルを示したグラフである。
【図11】(a)は種々の温度で熱処理を行って作製した発光素子についてのEL波長測定結果を示したグラフであり、(b)は種々のGe濃度の発光素子についてのEL波長測定結果を示したグラフである。
【図12】(a)は種々の深さで測定したXPSスペクトルを示す。(b)は、種々の深さでのGe、GeO、GeO2の割合を示すグラフである。
【図13】種々の深さでの酸化ゲルマニウム全体(GeO2+GeO)に対するGeO、GeO2の割合を示すグラフである。
【図14】絶縁体層に微粒子を形成した従来のEL素子の概略断面図である。
【図15】絶縁体層に微粒子を形成した従来のEL素子の模式的なバンド図である。
【符号の説明】
【0065】
1:基板 2:担持体層 3:第1電極 4:第2電極 5:保護層 6:無機EL素子 7:発光領域 8:発光体 9:反射層 10:フォトレジスト 11:ポリシリコン層 12:フォトレジスト 13:高融点金属層 20:シリコン基板 21:シリコン窒化膜 22:シリコン層 23:シリコン微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられかつ第1平行面とその両側の第1平行面より低い第2平行面を有する透光性の担持体層と、
第1平行面の両側の第2平行面の上にそれぞれ設けられた第1電極および第2電極と、
第1電極、第2電極及び第1平行面の上に設けられた透光性の保護層と、
第1電極と第2電極の間の前記担持体層の一部に形成された発光領域とを備え、
前記発光領域は、第1平行面と平行な領域でありかつ発光体を含む領域であることを特徴とする無機EL素子。
【請求項2】
前記発光体は、GeO及びGeO2を含む微粒子である請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記微粒子は、1nm以上20nm以下の最大粒径を有する請求項2に記載の素子。
【請求項4】
前記微粒子は、前記微粒子に含まれるGeOとGeO2の合計を100%としたときGeOを10%以上含む請求項2又は3に記載の素子。
【請求項5】
前記発光領域は、第1平行面と平行な領域でありかつ前記発光体が相対的に高い密度で含まれる領域を有する請求項1〜4のいずれか1つに記載の素子。
【請求項6】
前記担持体層または前記保護層は、酸化シリコン、窒化シリコンまたは酸窒化シリコンからなる請求項1〜5のいずれか1つに記載の素子。
【請求項7】
第1電極または第2電極は、コバルトシリサイド、チタンシリサイドまたはニッケルシリサイドからなる請求項1〜6のいずれか1つに記載の素子。
【請求項8】
前記発光領域は、第1電極および第2電極から7nm以上15nm以下離れている請求項1〜7のいずれか1つに記載の素子。
【請求項9】
前記担持体層または前記保護層は、波長300nm以上500nm以下の光の透過率が60%以上99.99%以下である請求項1〜8のいずれか1つに記載の素子。
【請求項10】
第2平行面の下の前記担持体層は、第1電極と第2電極との間の長さより厚い厚さを有する請求項1〜9のいずれか1つに記載の素子。
【請求項11】
前記基板と前記担持体層との間に反射層をさらに備える請求項1〜10のいずれか1つに記載の素子。
【請求項12】
前記発光体は、第1電極と第2電極の間に電圧を印加したとき340〜440nmの範囲内に発光波長のピークを有するエレクトロルミネッセンスを示す請求項1〜11のいずれか1つに記載の素子。
【請求項13】
ディスプレイに適用される請求項1〜12のいずれか1つに記載の無機EL素子。
【請求項14】
基板上に形成された透光性の担持体層の一部をエッチングすることにより第1平行面とその両側の第1平行面より低い第2平行面を形成する工程と、
第1平行面及び第2平行面の上にポリシリコン層を形成する工程と、
第1平行面の上の前記ポリシリコン層をエッチングし除去する工程と、
第1平行面の下の前記担持体層に無機物質のイオン注入しその後熱処理することにより第1平行面と平行な発光領域に発光体を形成する工程と、
前記ポリシリコン層の上に高融点金属層を形成しその後熱処理することにより第1平行面の両側の第2平行面の上にそれぞれ第1電極および第2電極を形成する工程と、
第1電極、第2電極及び第1平行面の上に保護層を形成する工程を備える無機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−135217(P2010−135217A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311105(P2008−311105)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】