説明

無段変速機の制御装置

【課題】エンジンの出力軸から無段変速機に伝達される正味の駆動トルクの算出において、エアコンユニットで消費される駆動トルク分の補正精度を向上させることで、無段変速機への供給油圧をより適正な油圧にできる無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】回転数センサ101により検出されたエンジン1の出力回転数(エンジン回転数)NEと、吸入圧センサ111、吐出圧センサ112により検出されたエアコンのコンプレッサ62の吸入圧と吐出圧を取得する。これらのデータに基づいてエアコンユニット60の駆動トルクを算出し、算出したエアコンユニット60の駆動トルクを用いて、エンジン1のクランクシャフト11から無段変速機3に伝達される正味の駆動トルクを算出する。この算出した正味の駆動トルクに基づいて油圧制御装置7で生成されるライン圧を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンからの駆動力を車輪に伝達する無段変速機の制御装置に関し、より詳細には、エアコンユニットにより消費される駆動トルクの補正精度を向上させることにより、無段変速機構のベルトの必要側圧を適正化することができる無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン出力トルクからフリクショントルクやアクセサリ駆動トルクを減算することにより、エンジン出力軸からトランスミッション(ここでは、無段変速機)に伝達される正味トルクを算出し、この正味トルクに基づいてトランスミッションの油圧制御装置のライン圧を設定する動力伝達装置が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
特許文献1に開示された動力伝達装置では、エンジン回転数と吸気負圧とに基づいてエンジン出力トルクおよびフリクショントルクが算出、推定されるとともに、エンジン回転数とACジェネレータ(以下、「ACG」という)の発電量とに基づいてアクセサリ駆動トルク(ACG等の補機で消費されるトルク)が算出、推定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3969993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両に搭載される補機には、上記のACGのほか、車室内の空調を行うためのエアコンディショナーユニット(以下、「エアコンユニット」という。)がある。エアコンユニットは、エンジンの出力軸(クランク軸)の駆動力で動作するコンプレッサ(A/Cコンプレッサ)を備えており、エンジンの出力軸からトランスミッション側に伝達される駆動トルクの一部を用いて駆動されるようになっている。
【0006】
そして、エアコンユニットで消費される駆動トルク(以下「A/C駆動トルク」と記す場合がある。)は、常に一定ではなく、車両の運転状況やエアコンユニットの動作状況などに応じて変動するものである。しかしながら、従来のトランスミッションの油圧制御装置では、A/C駆動トルクの変動分の情報がトランスミッション側に伝達されていなかった。そのため、エンジンの出力軸からトランスミッション側に伝達される正味トルクの算出において、A/C駆動トルク分の補正を行うための値として、予め行ったエアコンユニットのテスト結果から得られた該エアコンユニットの最大駆動トルク値と最小駆動トルク値を用いていた。具体的には、車両の加速時には、上記のテスト結果から得られた最小駆動トルクを正味トルクとして決定し、車両の減速時には、テスト結果から得られた最大駆動トルクをA/C駆動トルクの正味トルクとして決定し、それらを補正値として用いた制御を行っていた。
【0007】
この場合、A/C駆動トルクの補正値とA/C駆動トルクの実際値との誤差分を考慮して、安全のために、無段変速機のドライブプーリおよびドリブンプーリにおいて必要とされるベルトの側圧(両プーリ間に掛け回されたベルトの各プーリに対する側面の圧力)を高めに設定していた。そのため、プーリ/ベルト間のエネルギー伝達効率にロスが生じるだけでなく、各プーリやベルトの摩耗等により耐久性に問題が生じる可能性があった。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジンの出力軸から無段変速機に伝達される正味駆動トルクの算出において、エアコンユニットで消費される駆動トルク分の補正精度を向上させることで、無段変速機の油圧制御において適正な油圧を生成することができ、ベルトの側圧を適正化することができる無段変速機の油圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる無段変速機の制御装置は、エンジン(1)の回転を変速するドライブプーリ(31)とドリブンプーリ(35)とを有するベルト式の無段変速機(3)の制御装置(20)において、油圧供給源(70)からの作動油を前記ドライブプーリ(31)と前記ドリブンプーリ(35)の油室(34,38)に供給するためのポンプ(71)と、前記エンジン(1)から伝達される駆動力で駆動されるコンプレッサ(62)を有するエアコンユニット(60)と、前記エンジン(1)の回転数を検出するエンジン回転数検出手段(101)と、前記コンプレッサ(62)の吸入圧と吐出圧を検出する圧力検出手段(111,112)と、前記エンジン回転数検出手段(101)により検出された前記エンジン(1)の回転数と、前記圧力検出手段(111,112)により検出された前記コンプレッサ(60)の吸入圧及び吐出圧とに基づいて、前記エアコンユニット(60)のコンプレッサ(62)で消費される駆動トルクを算出するエアコンユニット駆動トルク算出手段(20,30)と、前記エアコンユニット駆動トルク算出手段(20,30)で算出した前記エアコンユニット(60)の駆動トルクを用いて、前記エンジン(1)の出力軸(11)から前記無段変速機(3)に伝達される正味の駆動トルクを算出する正味駆動トルク算出手段(20,30)と、前記正味駆動トルク算出手段(20,30)で算出した正味の駆動トルクに基づいて、前記ドライブプーリ(31)と前記ドリブンプーリ(35)の油室(34,38)に供給される供給油圧を調整する油圧調整手段(20,7,72)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
無段変速機の制御装置をこのように構成することにより、運転状況により変動するエアコンユニットの駆動トルクの変動分をより正確に補償(補正)することができ、油圧調整手段による油圧の調整値を適正な値に設定することができる。したがって、フュエルインジェクション中においては作動油の油圧を従来よりも低圧にすることができるので、ポンプのフリクションを低減することができるとともに、車両の燃費(燃料経済性)を向上させることができる。また、無段変速機が有するドライブプーリとドリブンプーリの間に掛けられたベルトの各プーリに対する側圧を適正な値に設定することができるので、各プーリやベルトの耐久性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の無段変速機の制御装置では、前記正味駆動トルク算出手段(20,30)は、前記エアコンユニット駆動トルク算出手段(20,30)で算出した前記エアコンユニット(60)の駆動トルクが安定状態か否かを判断し、安定状態と判断する場合は、算出した前記エアコンユニット(60)の駆動トルク(C,D)に基づいて前記エンジン(1)の出力軸(11)から前記無段変速機(3)に伝達される正味の駆動トルクの算出を行い、安定状態でないと判断する場合は、予め定めた一定の値(A,B)を前記エアコンユニット(60)の駆動トルクとして用いることで、前記エンジン(1)の出力軸(11)から前記無段変速機(3)に伝達される正味の駆動トルクの算出を行うようにするとよい。この構成によれば、エアコンユニット駆動トルク算出手段で算出したエアコンユニットの駆動トルクが安定状態と判断しない場合は、算出したエアコンユニットの駆動トルクを用いたエンジンの出力軸から無段変速機に伝達される正味の駆動トルクの算出を行わないようにすることで、無段変速機のベルトの側圧をより適切に制御することが可能となる。
【0012】
また、本発明の無段変速機の制御装置では、前記エンジン(1)の出力軸(11)から前記エアコンユニット(60)の前記コンプレッサ(62)への駆動力の伝達の有無を切り替えるためのクラッチ(69)を備え、前記正味駆動トルク算出手段(20,30)は、前記クラッチ(69)が係合した後、所定時間(T1)が経過することで、前記エアコンユニット駆動トルク算出手段(20,30)で算出した前記エアコンユニット(60)の駆動トルクが安定状態になったと判断するとよい。
【0013】
クラッチが係合した直後のエアコンユニットの駆動トルクの算出値はハンチングする傾向があるため、この状態ではエアコンユニットの駆動トルクを正確に算出できないおそれがある。そこで、クラッチが係合した後、エアコンユニットの駆動トルクが安定するための所定時間が経過することで、前記エアコンユニット(60)の駆動トルクが安定状態になったと判断するとよい。
【0014】
また、本発明の無段変速機の制御装置では、前記クラッチ(69)の係合・非係合を制御することで前記エアコンユニット(60)のオン・オフの切り替えを制御するエアコンユニット制御手段(20,30)を備え、前記正味駆動トルク算出手段(20,30)は、前記クラッチ(69)の係合解除要求があった時点で、前記エアコンユニット駆動トルク算出手段(20,30)で算出した前記エアコンユニット(60)の駆動トルクが安定状態ないと判断し、前記エアコンユニット制御手段(20,30)は、前記クラッチ(69)の係合解除要求があった時点から所定時間(T2)が経過するまでは、前記クラッチ(69)の係合を維持するとよい。
【0015】
これによれば、エアコンユニットの駆動トルクの算出値を用いてエンジンの出力軸から無段変速機に伝達される正味の駆動トルクを算出していた状態から、エアコンユニットのクラッチを解除する場合に、一旦、予め定めた一定の値をエアコンユニットの駆動トルクとして用いる状態を経てから、エアコンユニットのクラッチを解除することができる。これにより、エアコンユニットの駆動トルクの算出値を用いた補正が行われていない正味の駆動トルクに対して必要な無段変速機のベルトの側圧を確保してから、ドライブプーリとドリブンプーリの油室に供給される供給油圧の制御を切り替えることができる。したがって、プーリやベルトの耐久性を向上できる。
【0016】
また、本発明の無段変速機の制御装置では、前記油圧補正手段(20、7、72)は、前記エアコンユニット駆動トルク算出手段(20,30)で算出したエアコンユニット(60)の駆動トルクが大きいほど前記供給油圧が低くなるように補正するとよい。算出したエアコンユニットの駆動トルクが大きい場合には、エンジンの出力軸から無段変速機に伝達される正味の駆動トルクは実質的に減ってしまう。そこで、本発明にかかる無段変速機の制御装置では、このような場合には、無段変速機のベルトの側圧を低減するようにドライブプーリおよびドリブンプーリの油室に供給される供給油圧を減らす補正を行うものである。
【0017】
また、本発明の無段変速機の制御装置では、前記油圧補正手段(20、7、72)は、前記エンジン(1)がフュエルカットを行っているときには、通常のエンジン運転状態のときよりも前記供給油圧が高くなるように補正するとよい。エンジンがフュエルカットを行っている状態では、車両の駆動輪からディファレンシャル機構を介して無段変速機に伝達されるトルクが大きくなり、ドライブプーリおよびドリブンプーリに対してベルトが滑る可能性が生じてしまう。このため、ベルトの滑りを生じさせないために、ドライブプーリおよびドリブンプーリの油室に供給される供給油圧を増加する補正を行うものである。
【0018】
また、本発明にかかる無段変速機の制御装置では、油圧補正手段(20)は、供給油圧の増減に応じて、ライン圧(PL)を増減させればよい。
【0019】
なお、上記で括弧内に記した符号は、後述する実施形態における対応する構成要素の図面参照符号を参考のために例示するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、エンジンの出力軸から無段変速機に伝達される正味の駆動トルクの算出において、エアコンユニットで消費される駆動トルク分の補正として、エンジンの回転数およびエアコンユニットのコンプレッサの吸入圧と吐出圧を考慮した補正値を用いることで、エアコンユニットで消費される駆動トルク分の補正精度を向上させることができる。したがって、無段変速機の油圧制御において適正な油圧を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかる無段変速機の制御装置が適用される車両の概略構成図である。
【図2】エンジンおよび無段変速機の制御系を主に示すブロック図である。
【図3】図2に示す無段変速機およびトルクコンバータの油圧機構を示す油圧回路図である。
【図4】走行時にエンジン出力トルクに応じたライン圧を設定するライン圧設定処理を示すブロック図である。
【図5】エアコンユニットの駆動トルクを算出し、エンジンから無段変速機に伝達される駆動トルクの補正項を算出する処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】フュエルインジェクション時とフュエルカット時におけるエアコンユニットの駆動トルクの推定値と、該駆動トルクの推定値のばらつきを補正した補正後の駆動トルクの算出値との関係を示すグラフである。
【図7】エアコンユニットのON−OFF制御の手順を示すフローチャートである。
【図8】フュエルインジェクション時にエアコンユニットのON要求がなされたときの制御を示すタイムチャートである。
【図9】フュエルインジェクション時にエアコンユニットのOFF要求がなされたときの制御を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明にかかる無段変速機の制御装置が適用される車両の概略構成図である。図1に示すように、車両は、エンジン(駆動源)1と、トルクコンバータ2と、無段変速機(以下、「CVT」ともいう)3と、前後進切替装置4と、ディファレンシャル機構6とを備える。
【0023】
エンジン1の駆動はクランクシャフト11に出力される。このクランクシャフト11の回転は、トルクコンバータ2を介してCVT3に入力される。トルクコンバータ2は流体(作動油)を介してトルクの伝達を行うものであり、フロントカバー21と、このフロントカバー21と一体に形成されたポンプ翼車(ポンプインペラ)22と、フロントカバー21とポンプ翼車22との間でポンプ翼車22に対向配置されたタービン翼車(タービンランナ)23と、ステータ24とを有する。図1に示すように、クランクシャフト11はトルクコンバータ2のポンプ翼車22に接続され、タービン翼車23はメインシャフト(CVT入力軸)12に接続される。
【0024】
なお、タービン翼車23とフロントカバー21との間には、ロックアップクラッチ25が設けられている。ロックアップクラッチ25は、後述するAT−ECU20の指令に基づく油圧制御装置7による制御により、フロントカバー21の内面に向かって押圧されることによりフロントカバー21に係合し、押圧が解除されることによりフロントカバー21との係合が解除されるロックアップ制御を行う。フロントカバー21およびポンプ翼車22により形成される容器内には作動油(ATF:Automatic Transmission Fluid)が封入されている。
【0025】
ロックアップ制御がなされていない場合では、ポンプ翼車22とタービン翼車23の相対回転が許容される。この状態において、クランクシャフト11の回転トルクがフロントカバー21を介してポンプ翼車22に伝達されると、トルクコンバータ2の容器を満たしている作動油は、ポンプ翼車22の回転により、ポンプ翼車22からタービン翼車23に、次いでステータ24へと循環する。これにより、ポンプ翼車22の回転トルクがタービン翼車23に伝達され、メインシャフト12を駆動する。
【0026】
一方、ロックアップ制御中には、ロックアップクラッチ25が係合されている状態となり、フロントカバー21からタービン翼車23へと作動油を介して回転させるのではなく、フロントカバー21とタービン翼車23とが一体的に回転し、クランクシャフト11の回転トルクがメインシャフト12に直接伝達される。
【0027】
無段変速機3は、トルクコンバータ2と同様に、後述するAT−ECU20からの指令に基づく油圧制御装置7による油圧の制御により、その変速動作が制御されるものである。無段変速機3は、メインシャフト12上に配置されたドライブプーリ31と、メインシャフト12に平行なカウンタシャフト13上に配置されたドリブンプーリ35と、ドライブプーリ31およびドリブンプーリ35の間に掛け回される金属製のベルト39とを有する。
【0028】
ドライブプーリ31は、メインシャフト12上に固定して配置された固定プーリ半体32と、この固定プーリ半体32に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体33とからなる。可動プーリ半体33の側方には、ドライブ側シリンダ室(油室)34が形成されている。ドリブンプーリ35は、カウンタシャフト13に固定して配置された固定プーリ半体36と、この固定プーリ半体36に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体37とからなる。可動プーリ半体37の側方には、ドリブン側シリンダ室(油室)38が形成されている。ドライブ側シリンダ室34およびドリブン側シリンダ室38に後述する油圧制御装置7により作動油を供給することにより、可動プーリ半体33および37をそれぞれ軸方向に移動させることができ、これにより、ベルト39のドライブ側圧およびドリブン側圧が発生される。なお、油圧制御装置7の詳細については図3を用いて後述する。ドライブプーリ31の固定プーリ半体32は、メインシャフト12上に配置される前後進切替装置4に接続される。
【0029】
前後進切替装置4は、前進クラッチ46と、後進ブレーキ47と、それらの間に配置されるプラネタリギヤ機構41とを備える。プラネタリギヤ機構41は、メインシャフト12に連結されたサンギヤ42と、ドライブプーリ31の固定プーリ半体32に連結されたリングギヤ45と、サンギヤ42とリングギヤ45との間に設けられ、それらと噛み合うピニオンギヤ43とを備える。ピニオンギヤ43は、プラネタリキャリヤ44を介して後進ブレーキ47に連結される。
【0030】
前後進切替装置4において前進クラッチ46が作動(係合)されると、プラネタリギヤ機構41のリングギヤ45はメインシャフト12と連結され、サンギヤ42およびリングギヤ45はメインシャフト12と一体に回転する。そのため、エンジン1の回転駆動により、ドライブプーリ31はメインシャフト12と同方向(前進方向)に回転駆動される。また、前後進切替装置4において後進ブレーキ47が作動(係合)されると、プラネタリキャリヤ44が固定保持されるので、リングギヤ45はサンギヤ42と逆の方向に回転駆動される。そのため、エンジン1の回転駆動により、ドライブプーリ31はメインシャフト12と逆方向(後進方向)に回転駆動される。
【0031】
無段変速機3では、ドライブプーリ31とドリブンプーリ35との間で変速制御が行われ、カウンタシャフト13が回転駆動される。カウンタシャフト13の回転は、減速ギヤ51、52を介してセカンダリシャフト14に伝達される。そして、セカンダリシャフト14の回転は、減速ギヤ53、54を介してディファレンシャル機構6に伝達され、ディファレンシャル機構6により分割されて左右のドライブシャフト15、16を介して左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。
【0032】
また、クランクシャフト11上に相対回転不能に設置された駆動スプロケット66と、クランクシャフト11と平行に設置したエアコン軸65と、エアコン軸65上に相対回転不能に設置された従動スプロケット67と、駆動スプロケット66と従動スプロケット67との間に掛け渡されたチェーン68と、エアコン軸65の回転が伝達されて駆動するコンプレッサ62と、該コンプレッサ62の回転軸62aとエアコン軸65との間に設置したクラッチ69とを備えている。クラッチ69の係合・非係合の切り替えによって、クランクシャフト11側からコンプレッサ62への駆動力の伝達の有無が切り替えられるようになっている。コンプレッサ62は、後述するエアコンユニット60の構成要素である。
【0033】
図2は、エンジン1および無段変速機3の制御系を主に示すブロック図である。本実施形態では、車両は、上述の構成に加えて、エンジン1を制御するためのエンジン−ECU10と、トルクコンバータ2、無段変速機3、前後進切替装置4および油圧制御装置7を制御するためのAT−ECU20とを備える。また、車両は、エアコンディショナーユニット(以下、「エアコンユニット」と記す。)60を備える。エアコンユニット60は、冷媒を気化させるエバポレータ61、エバポレータ61で蒸発した冷媒ガスを吸入・圧縮するコンプレッサ62、コンプレッサ62で圧縮した高温高圧のガス状冷媒を冷却して液化させるコンデンサ63、高圧の液状冷媒を低圧・低温の霧状の冷媒にする膨張弁64などを備える。そして、車両は、エアコンユニット60を制御するためのA/C−ECU30を備える。
【0034】
エンジン1のクランクシャフト11の近傍には、エンジン1の出力回転数を検出するための回転数センサ101が設けられる。トルクコンバータ2の出力側のメインシャフト12の近傍には、無段変速機3の入力回転数を検出する回転数センサ102が設けられる。また、無段変速機3のドライブプーリ31およびドリブンプーリ35のそれぞれ近傍には、ドライブプーリ31およびドリブンプーリ35の回転数を検出するための回転数センサ103,104が設けられる。減速ギヤ52の近傍には、無段変速機3の出力軸であるカウンタシャフト13の回転数に対応する減速ギヤ52の回転数を検出するための回転数センサ105が設けられる。各回転数センサ101〜105で検出された回転数に応じた電気信号がAT−ECU20に出力される。なお、回転数センサ105の検出信号は車両の車速Vを検出(算出)するために用いられてもよい。
【0035】
エンジン1の冷却水路(図示せず)の近傍には、エンジン1の冷却水の温度であるエンジン冷却水温TWを検出するための水温センサ106が設けられる。水温センサ106により検出されたエンジン冷却水温TWに応じた電気信号がエンジン−ECU10に出力される。また、エンジン1への吸気管(図示せず)には、エンジン1の吸気行程で発生する負圧(吸気負圧)PBを計測する圧力センサ(吸気負圧センサ)107が設けられる。圧力センサ107により計測された吸気負圧PBに応じた電気信号がエンジン−ECU10に出力される。なお、図示を省略したが、エンジン1の吸気管には、吸入空気量を計測するエアーフローセンサ等が設けられている。
【0036】
さらに、本実施形態の車両は、車両の走行中や駐車時に運転者によって操作されるシフトレバー8およびアクセルペダル9を備える。シフトレバー8の近傍には、運転者によって操作されるシフトレバー8のポジションPOSを検出するためのシフトレバーポジションセンサ108が設けられる。シフトレバー8のポジションPOSには、公知のように、例えば、P(パーキング)、R(後進走行)、N(ニュートラル)、D(前進走行)などがある。シフトレバーポジションセンサ108は、運転者によって選択されたR、N、DなどのポジションPOSに応じた電気信号をAT−ECU20に出力する。
【0037】
また、アクセルペダル9の近傍には、アクセルペダル9の踏み込みに応じたアクセルペダル開度APATを検出するためのアクセルペダル開度センサ109と、アクセルペダル9の踏み込みに応じて開度が設定されるエンジン1のスロットルの開度(スロットル開度)THを検出するためのスロットル開度センサ110とが設けられる。アクセルペダル開度センサ109により検出されたアクセルペダル開度APATおよびスロットル開度センサ110により検出されたスロットル開度THに応じた電気信号はエンジン−ECU10に出力される。
【0038】
図2に示すように、エアコンユニット60が備えるコンプレッサ62の吸入部62aと吐出部62bにはそれぞれ、コンプレッサ62の吸入圧を検出するための吸入圧センサ(圧力検出手段)111と、吐出圧を検出するための吐出圧センサ(圧力検出手段)112とが設けられる。吸入圧センサ111と吐出圧センサ112により検出されたコンプレッサの吸入圧と吐出圧に応じた電気信号がA/C−ECU30に出力される。
【0039】
なお、エンジン−ECU10の動作については本発明の特徴部分ではないので、詳細な説明を省略する。また、AT−ECU20及びA/C−ECU30の動作については、図4のブロック図および図5のフローチャートに基づいて詳細に後述する。
【0040】
次に、図3を参照して、油圧制御装置7の構成を詳細に説明する。図3は、図2に示す無段変速機3およびトルクコンバータ2の油圧機構、すなわち、油圧制御装置7の具体的構成を示す油圧回路図である。
【0041】
図3に示すように、油圧制御装置7は、油圧制御装置7全体に作動油を供給するための油圧ポンプ71を含む。油圧ポンプ71は、エンジン1により駆動され、オイルタンク(油圧供給源)70に貯留された作動油を汲み上げて、油路81を介してライン圧レギュレータバルブ72に圧送する。
【0042】
ライン圧レギュレータバルブ72は、油圧ポンプ71から圧送された作動油を調圧してライン圧PLを生成するものである。ライン圧レギュレータバルブ72により調圧されたライン圧PLの作動油は、油路82、83を介して第1および第2のレギュレータバルブ76a、76bに供給されるとともに、油路84を介してCRバルブ74に供給される。
【0043】
CRバルブ74は、作動油のライン圧PLを減圧して、CR圧(制御圧)を生成し、油路86〜88を介して第1〜第3のリニアソレノイドバルブ(電磁バルブ)75a〜75cにCR圧の作動油を供給する。第1および第2のリニアソレノイドバルブ75a、75bは、それぞれ対応するソレノイドの励磁制御に応じて決定される出力圧を発生させ、第1および第2のレギュレータバルブ76a、76bに作用させる。これにより、油路82、83から供給されるライン圧PLの作動油は、油路91、92を介して無段変速機3のドライブ側およびドリブン側の可動プーリ半体33、37のシリンダ室(油室)34、38に供給され、それに応じてベルト39の滑りが発生することのないプーリ側圧を発生させる。
【0044】
このように、ライン圧PLの作動油をドライブ側およびドリブン側シリンダ室34、38に供給して、可動プーリ半体33、37を軸方向に移動させることにより、適切なプーリ側圧を発生させるとともに、ドライブプーリ31およびドリブンプーリ35のプーリ幅を変化させ、ベルト39の巻掛け半径を変化させる。したがって、ドライブプーリ31およびドリブンプーリ35のプーリ側圧を調整することにより、エンジン1の出力を駆動輪(図示せず)に伝達させる変速比を無段階に変化させることができる。
【0045】
第3のリニアソレノイドバルブ75cは、そのソレノイドの励磁制御に応じて決定される出力圧を油路93、94に発生させる。油路93に供給された作動油は、CRシフトバルブ78aを介してマニュアルバルブ80に供給される。CRシフトバルブ78aは、第1(電磁)オン・オフソレノイド79aによりオン・オフ制御される。なお、運転者によってシフトレバー8のD(前進)のシフトポジションが選択されると、それに応じてマニュアルバルブ80の図示しないスプールが移動し、後進ブレーキ47から作動油が排出される一方、前進クラッチ46に油圧が供給されて前進クラッチ46が係合(締結)される。また、運転者によってシフトレバー8のR(後進)のシフトポジションが選択されると、前進クラッチ46から作動油が排出される一方、後進ブレーキ47に油圧が供給されて後進ブレーキ47が係合(締結)する。
【0046】
また、このライン圧PLの作動油は、油路85を介してTCレギュレータバルブ73にも供給される。TCレギュレータバルブ73は、トルクコンバータ2への作動油の供給を制御するものであり、ライン圧レギュレータバルブ72から供給されたライン圧PLの作動油を、油路95を介してLC制御バルブ77に供給する。LC制御バルブ77は、TCレギュレータバルブ73および油路95を介して供給されるライン圧PLの作動油を、油路96を介してLCシフトバルブ78bに供給する。このように供給されるライン圧PLの作動油はトルクコンバータ2のロックアップ制御に用いられる。
【0047】
LCシフトバルブ78bは、第2(電磁)オン・オフソレノイド79bによりロックアップクラッチ25の締結(オン)・開放(オフ)を制御するものである。ロックアップクラッチ25には、LCシフトバルブ78bおよび油路97を介して作動油が前面側から供給され、この作動油は背面側から油路98に排出される。これにより、ロックアップクラッチ25が係合(締結)される。一方、作動油が前面側から油路97に排出されると、ロックアップクラッチ25が解放(非締結)される。ロックアップクラッチ25のスリップ量、すなわち、係合(ロックアップ時)と解放の間でトルクコンバータ2がスリップさせられときの係合容量は、前面側と背面側に供給される作動油の圧力(油圧)によって決定される。
【0048】
また、第3のリニアソレノイドバルブ75cは、油路94およびLC制御バルブ77を介してCR圧の作動油をLCシフトバルブ78bに供給する。このように供給されるCR圧の作動油により、ロックアップクラッチ25の係合容量(滑り量)は、第3のリニアソレノイドバルブ75cのソレノイドの励磁・非励磁によって調整(制御)される。
【0049】
このように、本実施形態の油圧制御装置7では、油圧ポンプ71はオイルタンク70からの作動油をライン圧レギュレータバルブ72に供給し、ライン圧レギュレータバルブ72は、供給された作動油でライン圧PLを生成する。このライン圧PLの作動油をドライブ側およびドリブン側シリンダ室34、38に供給することにより、無段変速機3の可動プーリ半体33、37を作動させる。また、ライン圧PLの作動油またはCR圧の作動油をトルクコンバータ2に供給することにより、トルクコンバータ2のロックアップ制御および係合容量(滑り量)の制御が行われる。さらに、マニュアルバルブ80を介してCR圧の作動油を前後進切替装置4の前進クラッチ46または後進ブレーキ47に供給することにより、メインシャフト12と同方向(前進方向)または逆方向(後進方向)となるようにエンジン1の回転駆動を左右の駆動輪(図示せず)に伝達する。
【0050】
次に、無段変速機の制御装置の動作を説明する。図4は、走行時にエンジン出力トルクに応じたライン圧を設定するライン圧設定処理を示すブロック図である。図4を参照して、図2に示すAT−ECU20による油圧制御装置7のライン圧PLを設定するライン圧設定処理を説明する。
【0051】
まず、AT−ECU20は、エンジン−ECU10を介して、圧力センサ107により検出されたエンジン1の吸気負圧PBを取得するとともに(ブロックB1)、回転数センサ101により検出されたエンジン1の回転数NEを取得する(ブロックB2)。そして、AT−ECU20は、予め実験や演算等により得られ、AT−ECU20内の図示しないメモリに格納されているエンジン回転数NE−吸気負圧PB−エンジン出力トルク(理論値)TQの三次元マップ(三次元テーブル)を用いて、これらの検出値に対応した基準トルクTQTBを算出する(ブロックB3)。この基準トルクTQTBは、基準運転パラメータ、例えば、ストイキ(理論空燃比)状態で所定の排ガス還流率でリタード無しという運転パラメータの下での運転状態(基準運転状態)でエンジン1から得られるトータルトルクを、吸気負圧PBと回転数NEとに対応して予め三次元テーブルに設定されたものである。AT−ECU20は、検出された吸気負圧PBと回転数NEに対応する基準トルクTQTBをこのテーブルから読み取り、基準トルクTQTBを決定する。
【0052】
上記説明から分かるように、この基準トルクTQTBは、基準運転パラメータの下でエンジン1から発生するトータルトルクであり、実際の運転パラメータが基準運転パラメータと相違するときにはこの相違に対応して実際のトルクも相違する。このため、AT−ECU20は、実際の運転パラメータを測定して、これに基づく補正係数KTQを算出し(ブロックB5)、基準トルクTQTBに補正係数KTQを乗じて(ブロックB6)、実トルクTQTRを算出する。
【0053】
なお、この補正係数KTQは、基準運転パラメータと実際の運転パラメータとの比に対応する基準トルクと実トルクとの比である。例えば、空燃比に基づく補正係数KTQAF、排ガス還流制御での排気ガス還流率に基づく補正係数KTQEGR、リタード量に基づく補正係数KTQIG、外気温に基づく補正係数KTQTA、外気圧に基づくKTQPA、部分気筒運転状態に基づくKTQCYL等が用いられるが、ここでは詳細な説明を省略する。このように実トルクTQTRを算出しているので、基準運転状態での基準トルクと運転パラメータに対応する補正係数KTQとを必要とするだけであり、実トルク算出に必要なデータ量が少なくて済む。これにより、AT−ECU20内の図示しない記憶媒体(メモリ)の容量(ROM容量)を小さくすることができる。
【0054】
一方、実トルクの算出と並行して、AT−ECU20は、予め実験や演算等により得られ、AT−ECU20内の図示しないメモリに格納されているエンジン回転数NE−吸気負圧PB−エンジンフリクショントルクTQFRの三次元マップ(三次元テーブル)を用いて、検出したエンジン1の回転数NEおよび吸気負圧PBに対応するエンジンフリクショントルクTQFRを算出する(ブロックB4)。フリクショントルクTQFRは、ピストンの往復動やシャフト回転の抵抗トルクと吸排気ポンピングロスによる抵抗トルクから発生するものであり、上記運転パラメータに影響されず、エンジン1の吸気負圧(エンジン負荷)PBおよびエンジン1の回転数NEに対応して決まるものである。したがって、AT−ECU20は、検出された吸気負圧PBと回転数NEに対応するフリクショントルクTQFRをこのテーブルから読み取り、フリクショントルクTQFRを決定する。
【0055】
そして、AT−ECU20は、上記のようにして算出された実トルクTQTRからフリクショントルクTQFRを減算して(ブロックB7)、正味トルクTQOBを算出する。次いで、AT−ECU20は、エンジンアクセサリ機器(エアコンユニット60のコンプレッサ62、油圧ポンプ71等の補機類)の駆動トルクTQACを算出し(ブロックB8)、正味トルクTQOBからアクセサリ駆動トルクTQACを減算して(ブロックB9)、基準出力トルクTQOPBを算出する。なお、エンジンアクセサリ機器の駆動トルクの算出において、エアコンユニット60のコンプレッサ62で消費される駆動トルク(以下、「A/C駆動トルク」と記す。)を補正する方法については後述する。
【0056】
そして、AT−ECU20は、このようにして算出された基準出力トルクTQOPBを無段変速機(トランスミッション)3の入力軸に伝達される駆動トルクとして決定し(ブロックB10)、この無段変速機3の入力軸トルクに基づいて、油圧制御装置7のライン圧レギュレータバルブ72により設定されるべきライン圧PLを設定(決定)する(ブロックB11)。このように設定されるライン圧PLは、エンジン1のクランクシャフト11からメインシャフト12に実際に伝達されるトルクと正確に対応している。このため、このライン圧PLを用いて設定されるドライブプーリ31およびドリブンプーリ35におけるベルト39の側圧を正確に(適正に)設定することができる。これにより、各プーリ31、35とベルト39との間のエネルギー伝達ロスを低減することができるとともに、各プーリ31、35やベルト39の摩耗等を低減して、ベルト39の耐久性を向上させることができる。また、ライン圧PLを作り出すために用いられるエンジンエネルギー(油圧ポンプ駆動エネルギー)を必要最小限に抑えることにより、油圧ポンプ71のフリクションを低減させて、エンジン1の燃費向上を図ることができる。
【0057】
次に、図2および図5を参照して、算出したA/C駆動トルクを用いて、エンジン1のクランクシャフト11から無段変速機3に伝達される駆動トルクを補正するための補正項を算出する処理(以下、「トルク補正項算出処理」という。)について説明する。図5は、トルク補正項算出処理の手順を示すフローチャートである。このトルク補正項算出処理は、AT−ECU20、A/C−ECU30によって、例えば、前進クラッチ46または後進ブレーキ47のインギヤ時に所定時間(例えば、10m秒)毎に実行される。
【0058】
トルク補正項算出処理では、AT−ECU20は、まず、エアコンユニット60がオフであるか否かを判断する(ステップ1)。この判断は、具体的にはエアコンユニット60のクラッチ69が係合しているか否かによって行う。その結果、エアコンユニット60がオフであると判断した場合(YES)は、A/C駆動トルク値を0としてAT−ECU20に出力し(ステップS12)、トルク補正項算出処理を終了する。一方、クラッチ69が係合していると判断した場合(NO)には、回転数センサ101により検出されたエンジン1の出力回転数(エンジン回転数)NEを取得する(ステップS2)と共に、吸入圧センサ111と吐出圧センサ112により検出されたコンプレッサ62の吸入圧と吐出圧を取得する(ステップS3)。そして、A/C−ECU30で、ステップS2で取得したエンジン回転数NEと、ステップS3で取得したコンプレッサ62の吸入圧と吐出圧から、A/C駆動トルクの推定値を算出する(ステップS4)。
【0059】
次いで、A/C駆動トルク安定フラグを読み込むことで、A/C駆動トルクの推定値が安定状態か否かを判断する(ステップS5)。なお、A/C駆動トルクの安定・不安定状態の判断の具体的な内容については後述する。その結果、A/C駆動トルクの推定値が不安定状態であると判断した場合(NO)には、AT−ECU20は、所定の運転状態においてエンジン1への燃料供給が停止されているか否か、すなわちフュエルカット(F/C)中であるか否かを判断する(ステップS9)。その結果、フュエルカット中であると判断した場合(YES)には、AT−ECU20は、通常制御用の減速側A/C負荷トルクベース値を算出する(ステップS10)。ここでの通常制御用の減速側A/C負荷トルクベース値とは、具体的には、予め行ったエアコンユニット60のテスト結果から得られた該エアコンユニット60の最大駆動トルク値であり、当該最大駆動トルク値をA/C駆動トルクの推定値として取得するものである。そして、この取得したA/C駆動トルクの推定値を用いて、駆動トルク補正項を算出する(ステップS13)。
【0060】
一方、ステップS9でフュエルカット中ではないと判断した場合(NO)には、エンジン1に燃料が供給されているフュエルインジェクション(FI)中であり、AT−ECU20は、通常制御用の加速側A/C負荷トルクベース値を算出する(ステップS11)。ここでの通常制御用の加速側A/C負荷トルクベース値とは、具体的には、予め行ったエアコンユニット60のテスト結果から得られた最小駆動トルク値であり、当該最小駆動トルク値をA/C駆動トルクの推定値として取得するものである。そして、この取得したA/C駆動トルクの推定値を用いて駆動トルク補正項を算出する(ステップS13)。以下では、上記のステップS9〜ステップS11で行う制御を通常の駆動トルク制御と呼ぶ。なお、この通常の駆動トルク制御は、エンジン1から無段変速機3に伝達される正味の駆動トルクを算出するために用いるエアコンユニット60の駆動トルクの算出手法として、従来から行われている手法である。
【0061】
ここで、フュエルインジェクション(FI)中とフュエルカット(F/C)中の2つの運転状態のいずれであるかに応じてA/C駆動トルクの補正値を異なる値に設定しているのは、以下の理由による。すなわち、エンジン1のフュエルインジェクション中は、エンジン1の駆動トルク(正の値とする)からA/C駆動トルク(正の値)を差し引いた分の駆動トルクを無段変速機3のドライブプーリ31およびドリブンプーリ35において必要とされるベルトの側圧としているが、A/C駆動トルクの推定値を実際の値よりも大きな駆動トルクとしてベルトの側圧を設定すると、実際に無段変速機3に入力されるエンジン1の駆動トルクがベルトの側圧に対して過大な値となってしまう可能性があり、ベルトがスリップしたりする問題が生じる。従って、このような問題を踏まえて、安全のため、フュエルインジェクション中は、予め行ったエアコンユニット60のテスト結果から得られた該エアコンユニット60の最小駆動トルク値をA/C駆動トルクの推定値として取得するようにしている。これにより、ベルトの側圧に対して過大なエンジン駆動トルクが無段変速機3に入力されることを防ぎながら、A/C駆動トルクを考慮しない場合と比較して、ベルト39の側圧を低減することができるので、車両の燃費向上に寄与することができる。
【0062】
その一方で、エンジン1のフュエルカット中は、図示しない駆動輪からディファレンシャル機構6を介して無段変速機3に伝達される駆動トルク(エンジン1の駆動トルクを正の値とすると、負の値となる)からA/C駆動トルク(正の値)を差し引いた分の駆動トルクを無段変速機3のドライブプーリ31およびドリブンプーリ35において必要とされるベルトの側圧とする。そのため、A/C駆動トルクの推定値を実際の値よりも小さな駆動トルクとしてベルトの側圧を設定すると、この場合も、実際に無段変速機3に入力されるエンジン1の駆動トルクがベルトの側圧に対して過大な値となってしまう可能性があり、ベルトがスリップしたりする問題が生じる。従って、このような問題を踏まえて、フュエルカット中は、予め行ったエアコンユニット60のテスト結果から得られた該エアコンユニット60の最大駆動トルク値をA/C駆動トルクの推定値として取得するようにしている。これにより、ベルトの側圧に対して過大なエンジン駆動トルクが無段変速機3に入力されることを防ぎながら、A/C駆動トルクを考慮しない場合と比較して、ベルト39の側圧を低減することができるので、車両の燃費向上に寄与することができる。
【0063】
一方、先のステップS5で、A/C駆動トルクの推定値が安定していると判断した場合(NO)には、AT−ECU20は、所定の運転状態においてエンジン1への燃料供給が停止されているか否か、すなわちフュエルカット中であるか否かを判断する(ステップS6)。その結果、フュエルカット中であると判断した場合(YES)には、AT−ECU20は、A/C協調制御用の減速側A/C負荷トルクベース値を算出する(ステップS7)。ここでのA/C協調制御用の減速側A/C負荷トルクベース値とは、具体的には、ステップS4にて算出されたA/C駆動トルクの推定値から、後述する図6のグラフに基づいて取得した補正後の減速側のA/C駆動トルクの算出値である。そして、この取得した補正後のA/C駆動トルクの算出値を用いて、駆動トルク補正項を算出する(ステップS13)。
【0064】
ステップS6でフュエルカット中ではないと判断した場合(NO)には、エンジン1に燃料が供給されているフュエルインジェクション(FI)中であり、AT−ECU20は、A/C協調制御用の加速側A/C負荷トルクベース値を算出する(ステップS8)。ここでのA/C協調制御用の加速側A/C負荷トルクベース値とは、具体的には、ステップS4にて算出されたA/C駆動トルクの推定値から、後述する図6のグラフに基づいて取得した補正後の加速側のA/C駆動トルクの算出値である。そして、この取得した補正後のA/C駆動トルクの算出値を用いて、駆動トルク補正項を算出する(ステップS13)。以下では、上記のステップS6〜ステップS8で行う制御をA/C協調用の駆動トルク制御と呼ぶ。なお、このA/C協調用の駆動トルク制御は、エンジン1から無段変速機3に伝達される正味の駆動トルクを算出するために用いるエアコンユニット60の駆動トルクの算出手法として、本発明の特徴となる内容である。
【0065】
図6は、ステップS4で算出したA/C駆動トルクの推定値と、該A/C駆動トルクの推定値の算出時のばらつきを補正した補正後のA/C駆動トルクの算出値とのテーブルデータ、及び予め行われたエアコンユニット60のテスト結果から得られた最小駆動トルク値と最大駆動トルク値を示すグラフである。上記の通常の駆動トルク制御(ステップS9〜ステップS11で行う制御)では、同図のグラフに示すエアコンユニット60のテスト結果から得られた最小駆動トルク値Aと最大駆動トルク値Bのうち、フュエルインジェクション時(加速時)には、最小駆動トルク値AをA/C駆動トルクとして取得し、フュエルカット時(減速時)には、最大駆動トルク値BをA/C駆動トルクとして取得する。その一方で、上記のA/C協調用の駆動トルク制御(ステップS6〜ステップS8で行う制御)では、ステップS4で算出したA/C駆動トルクの推定値を補正した補正後のA/C駆動トルクの算出値を取得する。補正後A/C駆動トルクの算出値には、図6に示すように、フュエルインジェクション時(加速時)の補正後のA/C駆動トルクの算出値Cと、フュエルカット時(減速時)の補正後のA/C駆動トルクの算出値Dとがある。
【0066】
ここで、図6のグラフに基づいてA/C駆動トルクの推定値を補正する内容について説明する。まず、ステップS4で算出したA/C駆動トルクの推定値から推定バラつきを補正するための所定値を減算する。さらに、この所定値を減算した値に対して、フュエルインジェクション時(加速側)の駆動トルク値では、実測最小値である最小駆動トルク値Aよりも小さい値については当該最小駆動トルク値Aに置き換え、フュエルカット時(減速側)の駆動トルク値では、実測最大値である最大駆動トルク値Bよりも大きい値については当該最大駆動トルク値Bに置き換える。こうして得られた値が図6のグラフにおける縦軸の値であるフュエルインジェクション時の駆動トルク値Cと、フュエルカット時の駆動トルク値Dである。
【0067】
このように、ステップS9〜ステップS11で行う制御は、従来から行われていた通常の駆動トルク制御であり、その内容は、予め行ったエアコンユニット60のテスト結果から得られた該エアコンユニット60の最大駆動トルク値と最小駆動トルク値のうち、フュエルインジェクション時(加速時)には、最小駆動トルク値をA/C駆動トルクの値として取得し、フュエルカット時(減速時)には、最大駆動トルク値をA/C駆動トルクの値として取得することで、これら最小駆動トルク値と最大駆動トルク値のいずれかをA/C駆動トルクの値として用いるものである。一方、ステップS6〜ステップS8で行う制御は、本発明にかかるA/C協調用の駆動トルク制御であり、その内容は、ステップS4で算出したA/C駆動トルクの推定値から、図6のグラフに基づいて、補正後のA/C駆動トルクの算出値を取得するものである。
【0068】
次に、ステップS5で行うA/C駆動トルクの推定値の安定判断について説明する。図7は、エアコンユニット60(クラッチ69)のON−OFF制御の手順を示すフローチャートである。また、図8は、フュエルインジェクション時にエアコンユニット60のON要求がなされたときの制御を示すタイムチャートであり、図9は、フュエルインジェクション時にエアコンユニット60のOFF要求がなされたときの制御を示すタイムチャートである。
【0069】
まず、図7に示すエアコンユニット60のON−OFF制御では、A/C−ECU30からエンジン−ECU10にエアコンユニット60のON要求があるか否かを判断する。(ステップS14)。ON要求がある場合(YES)は、エンジン−ECU10は、エアコンユニット60とAT−ECU20にエアコンユニット60のON指令を出力する(ステップS15)。エアコンユニットのON指令を出力したら、エンジン−ECU10は、ONタイマーTM1をスタートし(ステップS16)、その後、ONタイマーTM1が所定値T1(例えば、2s)以上であるか否かを判断する(ステップS17)。ONタイマーTM1が所定値T1以上であると判断した場合(YES)は、安定フラグを1に設定し(ステップS18)、ONタイマーTM1をリセットする(ステップS20)。一方、ステップS17でONタイマーTM1が所定値T1以上でないと判断した場合(NO)は、安定フラグを0に設定し(ステップS19)、再度、ステップS17でONタイマーTM1が所定値T1以上であるか否かを判断する。ONタイマーTM1が所定値T1以上になるまでこの処理を繰り返す。このステップS14からステップS20までの処理は、図8に示すフュエルインジェクション時にエアコンユニット60のON要求がなされたときの手順である。
【0070】
図8に示す制御では、まず、A/C−ECU30からエンジン−ECU10にエアコンユニット60のON要求が出力される(図中の丸囲み符号1)。次に、エンジン−ECU10は、エアコンユニット60とAT−ECU20にエアコンユニット60のON指令を出力する(図中符号2)。また、それと同時に、A/C−ECU30でA/C駆動トルクの推定値を算出する(図中符号3)。このとき、図8に示すように、エアコンユニット60のON指令が出力された直後のA/C駆動トルクの推定値はハンチングする傾向がある。そのため、このときのA/C駆動トルクの推定値をエンジン1から無段変速機3に伝達される駆動トルクの補正用の制御値として用いることは不適切である。従って、エアコンユニット60のON指令を出力したら、エンジン−ECU10は、所定時間(例えば、2s)が経過した後にA/C駆動トルクの安定フラグを立てる(図中符号4)。A/C駆動トルクの安定フラグが立つことで、A/C駆動トルクの推定値が安定したと判断したら、AT−ECU20は、補正用のA/C駆動トルクを、ステップS11で算出した通常の駆動トルク制御値から、ステップS8で算出したA/C協調用の駆動トルク制御値に持ち替える(図中符号5)。このような制御を行うことで、A/C駆動トルクをより正確に算出することができるので、無段変速機3のベルトの側圧を適切に制御することが可能である。
【0071】
一方、先のステップS14でエアコンユニット60のON要求がない場合(NO)は、エアコンユニット60のOFF要求があるか否かを判断する(ステップS21)。エアコンユニット60のOFF要求がない場合(NO)は、現在の状態を維持すると判断する。一方、エアコンユニット60のOFF要求がある場合(YES)は、OFFタイマーTM2をスタートし(ステップS22)、安定フラグを0に設定する(ステップS23)。次に、OFFタイマーTM2が所定値T2(例えば、0.1s)以上であるか否かを判断する(ステップS24)。OFFタイマーTM2が所定値T2以上でないと判断した場合は、再度、ステップS24でOFFタイマーTM2が所定値T2以上であるか否かを判断する。OFFタイマーTM2が所定値T2以上になるまでこの処理を繰り返す。OFFタイマーTM2が所定値T2以上であると判断した場合(YES)は、エンジン−ECU10からエアコンユニット60にクラッチ69のOFF指令を出力する(ステップS25)。また、OFFタイマーTM2をリセットする(ステップS26)。上記のステップS14からステップS26までの処理は、図9に示すフュエルインジェクション時にエアコンユニット60のOFF要求がなされたときの制御の手順である。
【0072】
図9に示す制御では、まず、A/C−ECU30からエンジン−ECU10にエアコンユニット60のOFF要求が出力される(図中符号6)。それと同時に、エンジン−ECU10は、A/C駆動トルクの安定フラグを解除(=0)して、A/C駆動トルクの推定値が安定状態であるとの判断を終了する(図中符号7)。このとき、エアコンユニット60のOFF要求と同時にエアコンユニット60のOFF指令値を出力すると、ベルトの側圧をA/C協調制御用に減少させていた状態から通常制御時の側圧に戻しきる前にA/C駆動トルク分を差し引かれていないエンジントルクが入力されることで、ベルトの側圧に対して過大なエンジントルクが入力する可能性がある。そのためここでは、エアコンユニット60のOFF要求が出力されたら、AT−ECU20は、A/C駆動トルクをステップS8で算出したA/C協調用の駆動トルク制御値から、一旦、ステップS11で算出した通常の駆動トルク制御値に持ち替える(図中符号8)。そして、所定時間(例えば、0.1s)が経過した後に、エンジン−ECU10からエアコンユニット60に該エアコンユニット60のOFF指令値を出力する(図中符号9)。それと同時に、A/C駆動トルクの推定値の算出を終了する(図中符号10)。このように制御することにより、A/C協調用の駆動トルク制御値による補正で低減させていた無段変速機3のベルトの側圧を、一旦、通常の駆動トルク制御値による補正が行われた状態の側圧まで増加させてから、エアコンユニット60をOFF(A/Cクラッチ69を解除)するので、A/C駆動トルクを減算しないエンジン1の駆動トルクに対して必要な無段変速機3のベルトの側圧を確実に確保してから制御を切り替えることができる。したがって、プーリやベルトの耐久性を向上できる。
【0073】
なお、ここでは、エアコンユニット60のOFF要求が出力されたら、AT−ECU20は、A/C駆動トルクをA/C協調用の駆動トルク制御値から通常の駆動トルク制御値に持ち替え、所定時間が経過した後に、エンジン−ECU10からエアコンユニット60に該エアコンユニット60のOFF指令値を出力する場合を示したが、これ以外にも、エアコンユニット60のOFF要求が出力されたら、AT−ECU20は、A/C駆動トルクをA/C協調用の制御値から通常の駆動トルク制御値に持ち替えずに、直ちに0(エアコンユニット60がOFFの状態)に持ち替えるようにしてもよい。このように制御することで、低減させていた無段変速機3のベルトの側圧をより確実に増加させてからエアコンユニット60をOFF(A/Cクラッチを解除)することができる。したがって、プーリやベルトの耐久性を向上できる。
【0074】
すなわち、図8に示すように、フュエルインジェクション時にエアコンユニット60のON要求がなされたときに、A/C駆動トルクの推定値を算出し、A/C駆動トルクの推定値が安定状態と判断したら、補正用のA/C駆動トルクを通常の駆動トルク制御値(ステップS11で算出した値)からA/C協調用の駆動トルク制御値(ステップS8で算出した値)に持ち替える制御を行う。また、図9に示すように、フュエルインジェクション時にエアコンユニット60のOFF要求がなされたときに、補正用のA/C駆動トルクが通常の駆動トルク制御値に戻されたと判断したら、エアコンユニット60のOFF指令を実行する制御を行う。
【0075】
以上説明したように、本発明の無段変速機3の制御装置は、エンジン1の回転を変速するドライブプーリ31とドリブンプーリ35とを有するベルト式の無段変速機3の制御装置において、オイルタンク70の作動油をドライブプーリ31とドリブンプーリ35のそれぞれの可動プーリ半体33、37のドライブ側およびドリブン側シリンダ室34、38に接続される油路82、83に圧送する油圧ポンプ71と、油路82、83と油路81との間に介挿され、各シリンダ室34、38に供給される作動油の圧力を調整するライン圧レギュレータバルブ72と、エンジン1から伝達される駆動力により駆動されるエアコンユニット60を含む補機類と、エンジン1の回転数NEを検出する回転数センサ101と、エアコンユニット60のコンプレッサ62の吸入圧と吐出圧を検出するための吸入圧センサ111と吐出圧センサ112とを備え、AT−ECU20は、回転数センサ101により検出されたエンジン1の回転数NE、吸入圧センサ111と吐出圧センサ112により検出されたエアコンユニット60のコンプレッサ62の吸入圧と吐出圧に基づいて、エアコンユニット60において消費される駆動トルクであるA/C駆動トルクを算出し、該算出したA/C駆動トルクを用いてエンジン1から無段変速機3に伝達される正味の駆動トルクを決定し、この決定した駆動トルクに基づいてドライブプーリ31およびドリブンプーリ35の各シリンダ室34、38に供給される供給油圧を補正することとした。
【0076】
無段変速機3の制御装置をこのように構成することにより、運転状況により変動するA/C駆動トルクの変動分をより正確に補償(補正)することができ、これにより、ライン圧レギュレータバルブ72で生成されるライン圧PLを適正な値に設定することができる。したがって、フュエルインジェクション中にはライン圧PLを従来よりも低い値にすることができるので、油圧ポンプ71のフリクションを低減することができる。また、無段変速機3のドライブプーリ31およびドリブンプーリ35の間に掛け回されたベルト39の各プーリ31、35に対する側圧がライン圧PLに基づいて設定されるので、このベルト39の側圧を適正な値に設定することができ、これにより、各プーリ31、35やベルト39の耐久性を向上させることができる。
【0077】
また、クラッチ69が係合した直後のA/C駆動トルクの推定値はハンチングする傾向がある。そのため、この状態では、A/C駆動トルクを正確に算出できないおそれがある。そこで、本実施形態の無段変速機3の制御装置では、図8のタイムチャートに示すように、エアコンユニット60のクラッチ69が係合した後、A/C駆動トルクが安定するための所定時間T1が経過するまでは、A/C駆動トルクの算出値を用いた正味の駆動トルクの算出を行わないようにしている。これにより、無段変速機3のベルトの側圧をより適切に制御することが可能となる。
【0078】
また、本実施形態の無段変速機3の制御装置では、図9のタイムチャートに示すように、エアコンユニット60のクラッチ69の解除要求があったとき、所定時間T2が経過するまではクラッチ69の係合を維持するようにしている。これにより、A/C協調用の駆動トルク制御を行っている状態からエアコンユニット60のクラッチ69を解除する際に、A/C協調用の駆動トルク制御で低減させていた無段変速機3のベルトの側圧を一旦、通常の駆動トルク制御での側圧まで増加させてから、エアコンユニット60のクラッチ69を解除するようになる。したがって、A/C駆動トルクを減算しないエンジン1の駆動力に対して必要な無段変速機3のベルトの側圧を確実に確保してから制御を切り替えることができる。よって、プーリやベルトの耐久性を向上できる。
【0079】
また、本実施形態の無段変速機3の制御装置では、AT−ECU20は、A/C駆動トルクが大きいほどドライブプーリ31およびドリブンプーリ35の各シリンダ室34、38に供給される供給油圧が低くなるように補正している。算出したA/C駆動トルクが大きい場合には、エンジン1から無段変速機3に伝達される正味の駆動トルクは実質的に減ってしまう。そこで、本発明にかかる無段変速機3の制御装置では、このような場合には、無段変速機3のベルトの側圧を低減するようにドライブプーリ31およびドリブンプーリ35の油室34,38に供給される供給油圧を減らす補正を行うようにしている。
【0080】
また、本実施形態の無段変速機3の制御装置では、AT−ECU20は、エンジン1がフュエルカットまたはエンジンブレーキを行っているときには、通常のエンジン運転状態のときよりも各シリンダ室34、38に供給される供給油圧が高くなるように補正すればよく、ライン圧レギュレータバルブ72は、この供給油圧の増減に応じて、ライン圧PLを増減させればよい。
【0081】
以上、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は、これらの構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲、明細書および図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【0082】
例えば、上記実施形態では、無段変速機としてベルト式の無段変速機3を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は、ベルト式の無段変速機3に限定されるものではなく、他の形式の無段変速機にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 エンジン
3 無段変速機(CVT)
11 クランクシャフト(エンジンの出力軸)
31 ドライブプーリ
32、36 固定プーリ半体
33、37 可動プーリ半体
34 ドライブ側シリンダ室
35 ドリブンプーリ
38 ドリブン側シリンダ室
39 ベルト
4 前後進切替装置
46 前進クラッチ
47 後進ブレーキ
60 エアコンユニット
61 エバポレータ
62 コンプレッサ
62a 回転軸
62a 吸入部
62b 吐出部
63 コンデンサ
64 膨張弁
65 エアコン軸
66 駆動スプロケット
67 従動スプロケット
68 チェーン
69 クラッチ
7 油圧制御装置
72 ライン圧レギュレータバルブ
10 エンジン−ECU
20 AT−ECU
30 A/C−ECU
60 エアコンユニット
101 回転数センサ
111 吸入圧センサ
112 吐出圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転を変速するドライブプーリとドリブンプーリとを有するベルト式の無段変速機の制御装置において、
油圧供給源からの作動油を前記ドライブプーリと前記ドリブンプーリの油室に供給するためのポンプと、
前記エンジンから伝達される駆動力で駆動されるコンプレッサを有するエアコンユニットと、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記コンプレッサの吸入圧と吐出圧を検出する圧力検出手段と、
前記エンジン回転数検出手段により検出された前記エンジンの回転数と、前記圧力検出手段により検出された前記コンプレッサの吸入圧及び吐出圧とに基づいて、前記エアコンユニットのコンプレッサで消費される駆動トルクを算出するエアコンユニット駆動トルク算出手段と、
前記エアコンユニット駆動トルク算出手段で算出した前記エアコンユニットの駆動トルクを用いて、前記エンジンの出力軸から前記無段変速機に伝達される正味の駆動トルクを算出する正味駆動トルク算出手段と、
前記正味駆動トルク算出手段で算出した正味の駆動トルクに基づいて、前記ドライブプーリと前記ドリブンプーリの油室に供給される供給油圧を調整する油圧調整手段と、
を備えることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記正味駆動トルク算出手段は、前記エアコンユニット駆動トルク算出手段で算出した前記エアコンユニットの駆動トルクが安定状態か否かを判断し、
安定状態と判断する場合は、算出した前記エアコンユニットの駆動トルクに基づいて前記エンジンの出力軸から前記無段変速機に伝達される正味の駆動トルクの算出を行い、
安定状態でないと判断する場合は、予め定めた一定の値を前記エアコンユニットの駆動トルクとして用いることで、前記エンジンの出力軸から前記無段変速機に伝達される正味の駆動トルクの算出を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記エンジンの出力軸から前記エアコンユニットの前記コンプレッサへの駆動力の伝達の有無を切り替えるためのクラッチを備え、
前記正味駆動トルク算出手段は、前記クラッチが係合した後、所定時間が経過することで、前記エアコンユニット駆動トルク算出手段で算出した前記エアコンユニットの駆動トルクが安定状態になったと判断する
ことを特徴とする請求項2に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記クラッチの係合・非係合を制御することで前記エアコンユニットのオン・オフの切り替えを制御するエアコンユニット制御手段を備え、
前記正味駆動トルク算出手段は、前記クラッチの係合解除要求があった時点で、前記エアコンユニット駆動トルク算出手段で算出した前記エアコンユニットの駆動トルクが安定状態でないと判断し、
前記エアコンユニット制御手段は、前記クラッチの係合解除要求があった時点から所定時間が経過するまでは、前記クラッチの係合を維持する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項5】
前記油圧補正手段は、前記エアコンユニット駆動トルク算出手段で算出したエアコンユニットの駆動トルクが大きいほど前記供給油圧が低くなるように補正する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項6】
前記油圧補正手段は、前記エンジンがフュエルカットを行っているときには、通常のエンジン運転状態のときよりも前記供給油圧が高くなるように補正する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項7】
前記油圧補正手段は、前記供給油圧の増減に応じて、ライン圧を増減させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−117645(P2012−117645A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270458(P2010−270458)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】