説明

無段変速機の故障判定装置および故障判定方法

【課題】変速に異常が発生したときに故障した箇所を精度よく特定する。
【解決手段】ECUは、目標変速比が予め定められ範囲内であって(S100にてYES)、アップシフトが判定され(S102にてYES)、変速ソレノイドが異常状態であると(S104にてYES)、変速ソレノイドが異常であると判定するステップ(S106)と、変速ソレノイドが異常状態でないと(S104にてNO)、変速ソレノイドが正常であると判定するステップ(S108)と、目標変速比が最増速側の変速比γminと略等しく(S110にてYES)、目標変速比と実変速比とが略等しくないと(S112にてNO)、ベルト挟圧ソレノイドが異常であると判定するステップ(S114)と、目標変速比と実変速比とが略等しいと(S112にてYES)、ベルト挟圧ソレノイドが正常であると判定するステップ(S116)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の油圧回路の故障判定に関し、特に、故障した箇所を精度高く特定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機は、エンジンとトルクコンバータ等を介して繋がるとともに複数の動力伝達経路を有してなる変速機構を有して構成される。このような変速機構としては、たとえば、ベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)がある。このベルト式無段変速機は、V溝状のプーリ溝を備えた駆動側プーリ(入力軸プーリ、プライマリプーリ)と従動側プーリ(出力軸プーリ、セカンダリプーリ)とにベルトを巻掛け、一方のプーリのプーリ溝の溝幅を拡大すると同時に他方のプーリのプーリ溝の溝幅を狭くすることにより、それぞれのプーリに対するベルトの巻き掛け半径(有効径)を連続的に変化させて変速比を無段階に設定するように構成されている。各プーリを固定シーブと可動シーブとによって構成し、可動シーブをその背面側に設けた油圧アクチュエータにより軸線方向に前後動させることにより変速を行なうように構成されている。
【0003】
このように構成されるベルト式無段変速機において、油圧アクチュエータに供給される油圧を制御するソレノイドの故障すると変速が困難となる。このような問題に鑑みて、たとえば、特開平8−326855号公報(特許文献1)は、自動変速機の故障診断を高精度に行なえる自動変速機の故障診断装置を開示する。この故障診断装置は、制御信号が略一定である状態を検出する制御信号一定状態検出手段と、制御された油圧を検出する油圧検出手段と、制御信号一定状態検出手段により制御信号が略一定である状態が検出されているときに、油圧検出手段により検出された油圧が所定以上変化した場合に、自動変速機若しくは油圧検出手段に異常があると診断する第1故障診断手段とを含む。
【0004】
上述した公報に開示された故障診断装置によると、変速比の変化やベルトスリップ等が生じない状態でも故障診断を行なうことができるので、従来の故障診断装置に比べて、診断機会を増加でき、以って早期に故障診断を行なえるとともに、自動変速機の損傷の可能性を低減することができる。
【特許文献1】特開平8−326855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ベルト式無段変速機には、ソレノイドは複数個設けられているため、より精度高く故障を判定するためには、故障が生じている箇所を特定する必要がある。上述した公報に開示された故障診断装置においては、故障の有無について判定しているに過ぎず、故障箇所について具体的に特定することについて何ら考慮されていない。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、変速に異常が発生したときに故障した箇所を精度よく特定できる無段変速機の故障判定装置および故障判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る無段変速機の故障判定装置は、駆動側プーリと従動側プーリとにベルトが巻き掛けられて、プーリにおけるベルトの掛かり径を変化させることにより変速比を連続的に変化させる、車両に搭載された無段変速機の故障判定装置である。プーリの溝幅は、調整弁により調整された油圧が供給されるアクチュエータにより変更される。調整弁は、駆動側プーリのアクチュエータに供給される油圧を調整する第1の調整弁と、従動側プーリのアクチュエータに供給される油圧を調整する第2の調整弁とを含む。この故障判定装置は、車両の走行状態に対応する物理量を検出するための検出手段と、変速比についての第1の領域における変速時に、目標変速比を基準とした、検出された走行状態に基づいて算出された実変速比の変化の度合に基づいて第1の調整弁が異常であるか否かを判定するための第1の判定手段と、第1の領域よりも増速側の第2の領域における変速時に、目標変速比を基準とした、検出された走行状態に基づいて算出された実変速比の変化の度合に基づいて第2の調整弁が異常であるか否かを判定するための第2の判定手段とを含む。第7の発明に係る無段変速機の故障判定方法は、第1の発明に係る無段変速機の故障判定装置と同様の構成を有する。
【0008】
第1の発明によると、ベルトの巻き掛け半径の変更は、駆動側プーリのアクチュエータに供給される油圧と従動側プーリのアクチュエータに供給される油圧とのバランスが調整されることにより行なわれる。このバランスは、第1の調整弁と第2の調整弁とによりにより調整される。たとえば、第1の調整弁は、発進時等の変速比が減速側である場合には、駆動側プーリの巻き掛け半径が小さくなるように駆動側プーリのアクチュエータに供給される油圧を低下し、発進後に巻き掛け半径が大きくなるように油圧を増加するように調整する。このとき、第2の調整弁は、ベルト滑りの発生を抑制するために駆動側プーリのアクチュエータに供給される油圧に応じて従動側プーリのアクチュエータに供給される油圧を調整する。したがって、第1の領域において増速側への変速時に、第1の調整弁により駆動側プーリのアクチュエータに供給される油圧が走行状態に応じて増加しないと巻き掛け半径を大きくすることができないため、変速が進行しない状態となる。そのため、変速時において変速比の変化の度合が低下する(たとえば、実変速比と目標変速比との差が拡大する)。すなわち、変速時における変速の追従の度合が低いことを判定することにより第1の調整弁に異常が発生していることを判定することができる。一方、第1の領域よりも増速側の第2の領域において従動側プーリのアクチュエータに供給される油圧が減少しないと、各プーリのアクチュエータに供給される油圧が高くなるため、巻き掛け半径を変更することができない。そのため、実変速比と目標変速比との差が縮小しない状態となる。そのため、変速時において実変速比が目標変速比に対して変化の度合が低下する。すなわち、変速時における変速の到達の度合が低いことを判定することにより第2の調整弁に異常が発生していることを判定することができる。このように、第1の領域における変速比の追従の度合および第2の領域における変速比の到達の度合に基づいて第1の調整弁および第2の調整弁のうちのいずれか一方が異常であることを判定することができる。そのため、故障箇所を精度よく特定することができる。したがって、変速に異常が発生したときに故障した箇所を精度よく特定できる無段変速機の故障判定装置および故障判定方法を提供することができる。
【0009】
第2の発明に係る無段変速機の故障判定装置においては、第1の発明の構成に加えて、第2の判定手段は、第1の調整弁が異常でないと判定されると、第2の調整弁が異常であるか否かを判定するための手段を含む。第8の発明に係る無段変速機の異常判定方法は、第2の発明に係る無段変速機の故障判定装置と同様の構成を有する。
【0010】
第2の発明によると、第1の領域において第1の調整弁が異常であると判定された場合には、変速が正常に進行できないため、第2の領域において第2の調整弁が異常であるか否かを精度よく判定することができない。そのため、第1の調整弁が異常でないと判定されると、第2の調整弁が異常であるか否かを判定することにより、第2の調整弁が異常であるか否かを精度よく判定することができる。
【0011】
第3の発明に係る無段変速機の故障判定装置においては、第1または2の発明の構成に加えて、第1の領域と第2の領域とは重複しない領域であって、第2の調整弁の異常時に変速可能な領域である。第9の発明に係る無段変速機の異常判定方法は、第3の発明に係る無段変速機の故障判定装置と同様の構成を有する。
【0012】
第3の発明によると、第1の領域と第2の領域とを重複しない領域とすることにより、第1の調整弁の異常判定と第2の調整弁の異常判定とを異なる時間領域で実施することができる。これにより、第1の調整弁または第2の調整弁が異常であるか否かを精度よく判定することができる。
【0013】
第4の発明に係る無段変速機の故障判定装置においては、第1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、第1の判定手段は、検出された走行状態に基づいて目標変速比が実変速比よりも増速側に設定される場合に、第1の調整弁が異常であるか否かを判定するための手段を含む。第10の発明に係る無段変速機の異常判定方法は、第4の発明に係る無段変速機の故障判定装置と同様の構成を有する。
【0014】
第4の発明によると、検出された走行状態に基づいて目標変速比が実変速比よりも増速側に設定される場合に、第1の調整弁が異常であるか否かを判定する。目標変速比が実変速比よりも増速側に設定される場合、駆動側プーリのアクチュエータに供給される油圧は増加する。このとき、たとえば、実変速比の目標変速比に対する追従の度合が低いと、駆動側プーリのアクチュエータに供給される油圧が増加していないため、第1の調整弁が異常であることを精度よく判定することができる。
【0015】
第5の発明に係る無段変速機の故障判定装置においては、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、第1の判定手段は、検出された走行状態に基づく、実変速比と目標変速比との差に対応する物理量を演算するための手段と、演算された差が予め定められた値以下であるという状態が予め定められた時間が経過するまで継続しないと第1の調整弁が異常であることを判定するための手段とを含む。第11の発明に係る無段変速機の異常判定方法は、第5の発明に係る無段変速機の故障判定装置と同様の構成を有する。
【0016】
第5の発明によると、実変速比と目標変速比との差に対応する物理量(たとえば、変速比差あるいは駆動側プーリの回転数差)が予め定められた値以下であるという状態が予め定められた時間が経過するまで継続しないと、実変速比の目標変速比に対する追従の度合が低いため、第1の調整弁が異常であることを精度よく判定することができる。
【0017】
第6の発明に係る無段変速機の故障判定装置においては、第1〜5のいずれかの発明の構成に加えて、第2の判定手段は、目標変速比と最増速側の変速比との差に対応する物理量が予め定められた値以下である場合であって、目標変速比と実変速比との差に対応する物理量が予め定められた値以下でないと、第2の調整弁が異常であることを判定するための手段を含む。第12の発明に係る無段変速機の異常判定方法は、第6の発明に係る無段変速機の故障判定装置と同様の構成を有する。
【0018】
第6の発明によると、目標変速比と最増速側の変速比との差に対応する物理量(たとえば、変速比差あるいは駆動側プーリの回転数差)が予め定められた値以下である場合であって、目標変速比と実変速比との差に対応する物理量が予め定められた値以下でないと、実変速比が最増速側の変速比に到達していない状態であることを判定することができる。このとき、第2の調整弁により従動側プーリのアクチュエータに供給される油圧が減少されていない状態であることを判定することができる。すなわち、第2の調整弁が異常であることを精度よく判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0020】
図1を参照して、本実施の形態に係る無段変速機の故障判定装置を含む車両のパワートレーンについて説明する。本実施の形態に係る無段変速機の故障判定装置は、図1に示すECU1000により実現される。無段変速機はベルト式無段変速機である。
【0021】
図1に示すように、この車両のパワートレーンは、エンジン100と、トルクコンバータ200と、前後進切換え装置290と、ベルト式無段変速機構300と、デファレンシャルギヤ800と、ECU1000と、油圧制御部1100とから構成される。無段変速機は、トルクコンバータ200と、前後進切換え装置290と、ベルト式無段変速機構300と、油圧制御部1100とから構成される。
【0022】
エンジン100の出力軸は、トルクコンバータ200の入力軸に接続される。エンジン100とトルクコンバータ200とは回転軸により連結されている。したがって、エンジン回転数センサ430により検出されるエンジン100の出力軸回転数NE(エンジン回転数NE)とトルクコンバータ200の入力軸回転数(ポンプ回転数)とは同じである。
【0023】
トルクコンバータ200は、入力軸と出力軸とを直結状態にするロックアップクラッチ210と、入力軸側のポンプ羽根車220と、出力軸側のタービン羽根車230と、ワンウェイクラッチ250を有し、トルク増幅機能を発現するステータ240とから構成される。トルクコンバータ200とベルト式無段変速機構300とは、回転軸により接続される。トルクコンバータ200の出力軸回転数NT(タービン回転数NT)は、タービン回転数センサ400により検出される。
【0024】
トルクコンバータ200とベルト式無段変速機構300との間には、オイルポンプ260が設けられる。オイルポンプ260は、たとえば、ギヤポンプであって、入力軸側のポンプ羽根車220が回転するとともに作動する。オイルポンプ260は、油圧制御部1100の各種ソレノイドに油圧を供給する。
【0025】
ベルト式無段変速機構300は、前後進切換え装置290を介在させてトルクコンバータ200に接続される。ベルト式無段変速機構300は、入力側のプライマリプーリ500と、出力側のセカンダリプーリ600と、プライマリプーリ500とセカンダリプーリ600とに巻き掛けられた金属製のベルト700とから構成される。プライマリプーリ500は、プライマリシャフトに固定された固定シーブおよびプライマリシャフトに摺動のみ自在に支持されている可動シーブからなる。セカンダリプーリ600は、セカンダリシャフトに固定されている固定シーブおよびセカンダリシャフトに摺動のみ自在に支持されている可動シーブからなる。
【0026】
プライマリプーリ500およびセカンダリプーリ600の油圧アクチュエータ(いずれも図示せず)には、それぞれ作動油が給排されている。変速は、各プーリ500,600の固定シーブと可動シーブとの間の溝幅を連続的に変化させることにより、ベルトの巻き掛け半径が大小に変化して行なわれる。
【0027】
油圧制御部1100は、プライマリプーリ500の回転数を目標回転数に一致させる変速比となるように、プライマリプーリ500の油圧アクチュエータに供給される油圧を制御する。さらに、油圧制御部1100は、セカンダリプーリ600の可動シーブを固定シーブ側に押圧してベルトを挟みつけてトルクを伝達するのに必要な張力が発現するようにセカンダリプーリ600の油圧アクチュエータに供給される油圧を制御する。
【0028】
ベルト式無段変速機構300のプライマリプーリ500の回転数NINは、プライマリプーリ回転数センサ410により検出され、セカンダリプーリ600の回転数NOUTは、セカンダリプーリ回転数センサ420により検出される。
【0029】
これら回転数センサは、プライマリプーリ500やセカンダリプーリ600の回転軸やこれに繋がるドライブシャフトに取付けられた回転検出用ギヤの歯に対向して設けられている。これらの回転数センサは、ベルト式無段変速機構300の、入力軸であるプライマリプーリ500や出力軸であるセカンダリプーリ600の僅かな回転の検出も可能なセンサであり、たとえば、一般的に半導体式センサと称される磁気抵抗素子を使用したセンサである。
【0030】
前後進切換え装置290は、ダブルピニオンプラネタリギヤ、リバース(後進用)ブレーキB1および入力クラッチC1を有している。プラネタリギヤは、そのサンギヤが入力軸に連結されており、第1および第2のピニオンP1,P2を支持するキャリヤCRがプライマリ側固定シーブに連結されており、そしてリングギヤRが後進用摩擦係合要素となるリバースブレーキB1に連結されており、またキャリヤCRとリングギヤRとの間に入力クラッチC1が介在している。この入力クラッチ310は、前進クラッチやフォワードクラッチとも呼ばれ、パーキング(P)ポジション、Rポジション、Nポジション以外の車両が前進するときに必ず係合状態で使用される。
【0031】
これらのパワートレーンを制御するECU1000および油圧制御部1100について説明する。ECU1000には、タービン回転数センサ400からタービン回転数NTを表わす信号が、プライマリプーリ回転数センサ410からプライマリプーリ回転数NINを表わす信号が、セカンダリプーリ回転数センサ420からセカンダリプーリ回転数NOUTを表わす信号が、それぞれ入力される。
【0032】
油圧制御部1100は、変速速度制御部1110と、ベルト挟圧力制御部1120と、ライン圧制御部1130と、ロックアップ係合圧制御部1132と、クラッチ圧制御部1140と、マニュアルバルブ1150とを含む。ECU1000は、油圧制御部1100の変速制御用デューティソレノイド(1)1200と、変速制御用デューティソレノイド(2)1210と、ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220と、ライン圧制御用リニアソレノイド1230と、ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド1240に対して制御信号を出力する。
【0033】
変速速度制御部1110は、車輪速に基づく車速やアクセル開度に応じて、変速制御用デューティソレノイド(1)1200により、プライマリプーリ500の油圧アクチュエータへの作動油の流入量を制御することにより増速側の変速速度を制御する。さらに、変速速度制御部1110は、車輪速やアクセル開度に応じて、変速制御用デューティソレノイド(2)1210により、プライマリプーリ500の油圧アクチュエータからの作動油の流出量を制御して減速側の変速速度を制御する。変速速度制御部1110によりプライマリプーリ500の油圧アクチュエータに対する作動油の流入量と流出量とを制御することにより変速制御が行なわれる。
【0034】
ベルト挟圧力制御部1120は、プライマリプーリ500の入力軸トルクと変速比とに応じてベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220により、セカンダリプーリ600の油圧アクチュエータに供給される油圧を制御して、ベルト挟圧力を制御する。入力軸トルクは、たとえば、エンジン100の回転数、吸入空気量等に基づくエンジン100の出力トルクとトルクコンバータ200におけるトルク比とから推定されてもよいし、直接的に検出されてもよい。
【0035】
ライン圧制御部1130は、ベルト挟圧力に対応するベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220に対する指示値とプライマリプーリ500の油圧アクチュエータに供給される油圧の推定値とからライン圧制御用リニアソレノイド1230によりライン圧を制御する。プライマリプーリ500のアクチュエータの油圧は、プライマリプーリ500の油圧アクチュエータへの作動油の流入量と流出量とに基づいて推定される。ここで、ライン圧とは、オイルポンプ260により供給された油圧がレギュレータバルブ(図示せず)により調圧された油圧である。
【0036】
ロックアップ係合圧制御部1132は、ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド1240によりロックアップクラッチ210の係合と解放の切換え、および、ロックアップクラッチ210の係合圧の漸増および漸減を制御する。
【0037】
マニュアルバルブ1150は、運転者のシフトレバーの操作に連動して作動して、油路を切換える。クラッチ圧制御部1140は、入力クラッチC1またはリバースブレーキB1の係合時に、ライン圧制御用リニアソレノイド1230によりマニュアルバルブ1150を経由して供給される油圧を制御する。
【0038】
ECU1000には、さらにアクセル開度センサ(図示せず)、運転者により踏まれているアクセルの開度を表わす信号、スロットルポジションセンサ(図示せず)から、電磁スロットルの開度を表わす信号、エンジン回転数センサ430から、エンジン100の回転数(NE)を表わす信号が、それぞれ入力される。
【0039】
車輪速センサ440は、車輪(図示せず)の回転数を検出する。車輪速センサ440は、検出された車輪の回転数を示す車輪速信号をECU1000に送信する。なお、本実施の形態においては、車速が検出できれば、特に車輪の回転数を検出することに限定されるものではなく、たとえば、セカンダリプーリ回転数と無段変速機から駆動輪までの減速比とに基づいて車速を演算するようにしてもよい。
【0040】
上述したような無段変速機が搭載された車両において、運転者がアクセルペダルを踏み込むと、ECU1000は、車速とアクセル開度とに応じて目標エンジン出力を設定する。ECU1000は、設定された目標エンジン出力がエンジン100の最適燃費線上で実現できるように目標変速比(あるいは、目標プライマリ回転数)を設定する。
【0041】
ECU1000は、目標変速比を設定すると実変速比(すなわち、実プライマリプーリ回転数と実セカンダリプーリ回転数との比に基づく変速比)が目標変速比に近づくように、変速制御用デューティソレノイド(1)1200、変速制御用デューティソレノイド(2)1210、ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220およびライン圧制御用リニアソレノイド1230に対して制御信号を出力することによりフィードバック制御する。
【0042】
たとえば、車両の発進時において変速比は最減速側の変速比γmaxとされる。このとき、変速制御用デューティソレノイド(2)1210の制御によりプライマリプーリ500の油圧アクチュエータに供給される作動油が流出されるため、プライマリプーリ500の油圧アクチュエータに供給される油圧(以下、プライマリ圧ともいう)の推定値は低下した状態となる。そのため、プライマリプーリ500においてベルト700の巻き掛け半径は最小の径となる。
【0043】
プライマリ圧が低い場合には、ベルト700の伝達トルクを確保する必要がある。そのため、プライマリ圧の推定値が低下するほどセカンダリプーリ600の油圧アクチュエータに供給される油圧(以下、セカンダリ圧ともいう)が上昇するようにベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220に対する指示値(以下、セカンダリ圧の指示値ともいう)が出力される。すなわち、プライマリ圧の推定値が低いほど、セカンダリプーリ600によるベルト挟圧力は上昇する。
【0044】
このとき、ライン圧の指示値は、セカンダリ圧の指示値に対応したベルト挟圧力を確保するため、セカンダリ圧の指示値よりも予め定められた値だけ大きい値とされる。
【0045】
車両の発進後の車速の増加あるいはアクセル開度の増加により目標変速比は、γmaxよりも低い値(図4の右側の値)に設定される。変速制御用デューティソレノイド(1)1200の制御により油圧アクチュエータに対する作動油の流入量が増大されることによりプライマリ圧が上昇する。プライマリ圧の上昇によりベルト700のプライマリプーリ500に対する巻き掛け半径が大きくなる。さらに、セカンダリ圧の指示値の低下とともに、ベルト挟圧力が低下する。これにより、セカンダリプーリ600に対するベルト700の巻き掛け半径が小さくなる。このため、変速比は小さくなる。
【0046】
また、図2において、セカンダリ圧の指示値がプライマリ圧の推定値よりも大きくなる領域、すなわち、変速比aよりも大きくなる変速比の領域(図2の変速比aよりも左側の領域)においては、ライン圧はセカンダリ圧の指示値に予め定められた値を加えた値とされる。そのため、ライン圧の指示値は、セカンダリ圧の指示値の低下とともに低下する。
【0047】
プライマリ圧は、変速制御用デューティソレノイド(1)1200により流入量が増大していくことにより変速比が増速側に変速するほど増大していく。そのため、変速比a以下の変速比の領域(図2の変速比aよりも右側の領域)になると、プライマリ圧の推定値は、セカンダリ圧の指示値以上となる。ライン圧の指示値は、プライマリ圧を確保するため、プライマリ圧の推定値に予め定められた値を加えた値とされる。このため、ライン圧の指示値は、変速比a以下の領域においてはプライマリ圧が増加するほど増加される。
【0048】
このように変速制御されるベルト式無段変速機において、プライマリプーリ500および/またはセカンダリプーリ600の油圧アクチュエータに供給される油圧を制御するソレノイド(変速制御用デューティソレノイド(1)1200、変速制御用デューティソレノイド(2)1210およびベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220)が故障すると、ベルト700の巻き掛け半径を変更することができないため、変速が困難となる。ベルト式無段変速機には、上述したとおり、ソレノイドは複数個設けられており、より精度高く故障を判定するためには、故障が生じている箇所を精度高く特定する必要がある。
【0049】
そこで、本発明は、ECU1000が、変速比についての予め定められた範囲(1)内の変速時に、目標変速比を基準とした、走行状態に基づいて算出された実変速比の変化の度合に基づいて変速制御用デューティソレノイド(1)1200および/または変速制御用デューティソレノイド(2)1210(以下、変速制御用デューティソレノイド(1)1200および変速制御用デューティソレノイド(2)1210を単に変速ソレノイドという。)が異常であるか否かを判定して、予め定められた範囲(1)よりも増速側の予め定められた範囲(2)内の変速時に、目標変速比を基準とした、走行状態に基づいて算出された実変速比の変化の度合に基づいてベルト挟圧力制御用リニアソレノイド1220(以下、単にベルト挟圧ソレノイドという)が異常であるか否かを判定する点に特徴を有する。
【0050】
具体的には、予め定められた範囲(1)は、少なくともセカンダリ圧の指示値がプライマリ圧の推定値よりも高い領域、すなわち、変速比aよりも減速側の変速比の範囲である。また、予め定められた範囲(2)は、少なくともセカンダリ圧の指示値がプライマリ圧の推定値以下となる領域、すなわち、変速比aよりも増速側の変速比の範囲である。予め定められた範囲(1)および予め定められた範囲(2)は、重複しない領域であって、かつ、少なくともベルト挟圧ソレノイドの異常時においても変速可能な領域である。予め定められた範囲(1)が「第1の領域」に対応し、予め定められた範囲(2)が「第2の領域」に対応する。
【0051】
ECU1000は、車両の走行状態に基づいて目標変速比が実変速比よりも増速側に設定される場合に、変速ソレノイドが異常であるか否かを判定する。ECU1000は、車両の走行状態に基づく、実変速比と目標変速比との差に対応する物理量を演算する。さらに、ECU1000は、演算された差が予め定められた値以下であるという状態が予め定められた時間が経過するまで継続しないと変速ソレノイドが異常であることを判定する。
【0052】
本実施の形態において、車両の走行状態は、車速およびアクセル開度に基づく走行状態であるとして説明するが、特にこれらに限定されるものではない。たとえば、セカンダリプーリ回転数とスロットル開度に基づく走行状態であってもよい。
【0053】
さらに、ECU1000は、目標変速比と最増速側の変速比との差に対応する物理量が予め定められた値以下である場合であって、目標変速比と実変速比との差に対応する物理量が予め定められた値以下でないと、ベルト挟圧ソレノイドが異常であることを判定する。
【0054】
なお、目標変速比と実変速比との差に対応する物理量または目標変速比と最増速側の変速比との差に対応する物理量は、実変速比と目標変速比との差または目標変速比と最減速側の変速比との差そのものの値であってもよいし、目標プライマリ回転数と実プライマリ回転数との差または目標プライマリ回転数と最増速側のプライマリ回転数との差を演算するようにしてもよい。
【0055】
図3に、本実施の形態に係る無段変速機の故障判定装置であるECU1000の機能ブロック図を示す。ECU1000は、入力インターフェース(以下、入力I/Fと記載する)350と、演算処理部450と、記憶部550と、出力インターフェース(以下、出力I/Fと記載する)650とを含む。
【0056】
入力I/F350は、エンジン回転数センサ430からのエンジン回転数信号と、タービン回転数センサ400からのタービン回転数信号と、プライマリプーリ回転数センサ410からのプライマリプーリ回転数信号と、セカンダリプーリ回転数センサ420からのセカンダリプーリ回転数信号と、車輪速センサ440からの車輪速信号とを受信して、演算処理部450に送信する。
【0057】
演算処理部450は、目標変速比判定部(1)452と、アップシフト判定部454と、変速ソレノイド異常判定部456と、目標変速比判定部(2)458と、ベルト挟圧ソレノイド異常判定部460とを含む。
【0058】
目標変速比判定部(1)452は、車輪速センサ440から検出される車輪速に基づいて算出される車速と、アクセル開度あるいはスロットル開度とから設定される目標変速比が予め定められた範囲(1)内であるか否かを判定する。
【0059】
なお、目標変速比判定部(1)452は、たとえば、設定される目標変速比が予め定められた範囲(1)内であると、判定フラグ(1)をオンするようにしてもよい。
【0060】
アップシフト判定部454は、設定される目標変速比が予め定められた範囲(1)内であると、アップシフト変速が行なわれるか否かを判定する。具体的には、アップシフト判定部454は、実変速比が目標変速比よりも小さいとアップシフト変速が行なわれることを判定する。なお、アップシフト判定部454は、判定フラグ(1)がオンであると、アップシフト判定を実施して、アップシフト変速が行なわれることを判定すると、アップシフト判定フラグをオンするようにしてもよい。
【0061】
変速ソレノイド異常判定部456は、目標変速比が予め定められた範囲(1)内であって、アップシフト変速が行なわれることが判定されると、変速ソレノイドが異常であるか否かを判定する。
【0062】
変速ソレノイド異常判定部456は、実変速比の目標変速比に対する追従の度合に基づいて変速ソレノイドが異常であるか否かを判定する。具体的には、変速ソレノイド異常判定部456は、車両の走行状態に基づく、実変速比と目標変速比との差を演算して、演算された差が予め定められた値以下であるという状態が予め定められた時間が経過するまで継続しないと変速ソレノイドが異常であることを判定する。
【0063】
変速ソレノイドの異常とは、たとえば、変速制御用デューティソレノイド(1)1200のオフ故障により、プライマリプーリ500の油圧アクチュエータに作動油を流入させることができない状態および変速制御用デューティソレノイド(2)1210のオン故障により、プライマリプーリ500の油圧アクチュエータから作動油が常時流出する状態のうちの少なくともいずれか一方の状態である。上述の状態になると、プライマリプーリ500に対するベルト700の巻き掛け半径を大きくすることができないため、アップシフトができない。
【0064】
なお、変速ソレノイド異常判定部456は、たとえば、判定フラグ(1)およびアップシフト判定フラグがいずれもオンであると、変速ソレノイドが異常であるか否かを判定して、変速ソレノイドが異常であると判定すると、変速ソレノイド異常判定フラグをオンするようにしてもよい。
【0065】
目標変速比判定部(2)458は、変速ソレノイド異常判定部456にて変速ソレノイドが正常であると判定されると、目標変速比が予め定められた範囲(2)内であるか否かを判定する。予め定められた範囲(2)は、本実施の形態においては、最増速の変速比γminと略等しい範囲である。
【0066】
具体的には目標変速比判定部(2)458は、目標変速比と変速比γminとの差が予め定められた値以下であるか否かを判定する。なお、「予め定められた値」は、特に限定された値ではない。また、目標変速比判定部(2)458は、たとえば、目標変速比が変速比γminと略等しいと、判定フラグ(2)をオンするようにしてもよい。
【0067】
挟圧ソレノイド異常判定部460は、目標変速比が変速比γminと略等しいと判定されると、ベルト挟圧ソレノイドが異常であるか否かを判定する。具体的には、挟圧ソレノイド異常判定部460は、目標変速比と実変速比とが略等しいか否かを判定する。すなわち、挟圧ソレノイド異常判定部460は、目標変速比と実変速比との差が予め定められた値以下であると、目標変速比と実変速比とが略等しいことを判定する。予め定められた値は、実験等により適合される値であって、特に限定されるものではない。
【0068】
挟圧ソレノイド異常判定部460は、目標変速比と実変速比とが略等しいと、ベルト挟圧ソレノイドが正常であることを判定する。一方、挟圧ソレノイド異常判定部460は、目標変速比と実変速比とが略等しくないと、ベルト挟圧ソレノイドが異常であることを判定する。
【0069】
なお、挟圧ソレノイド異常判定部460は、たとえば、目標変速比と実変速比との差が予め定められた値よりも大きい状態が予め定められた時間が経過するまで継続すると、ベルト挟圧ソレノイドが異常であることを判定するようにしてもよい。
【0070】
また、挟圧ソレノイド異常判定部460は、たとえば、変速ソレノイド異常判定フラグがオンであって、判定フラグ(2)がオンであると、挟圧ソレノイドが異常であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0071】
なお、変速ソレノイドあるいはベルト挟圧ソレノイドが異常であると判定されると、図示しない警告制御部より警告ランプあるいは音発生装置等の警告装置に対して出力I/F650を経由して警告制御信号を出力するようにしてもよい。
【0072】
また、本実施の形態において、目標変速比判定部(1)452と、アップシフト判定部454と、変速ソレノイド異常判定部456と、目標変速比判定部(2)458と、ベルト挟圧ソレノイド異常判定部460とは、いずれも演算処理部450であるCPUが記憶部550に記憶されたプログラムを実行することにより実現される、ソフトウェアとして機能するものとして説明するが、ハードウェアにより実現されるようにしてもよい。なお、このようなプログラムは記憶媒体に記録されて車両に搭載される。
【0073】
記憶部550には、各種情報、プログラム、しきい値、マップ等が記憶され、必要に応じて演算処理部450からデータが読み出されたり、格納されたりする。
【0074】
以下、図4を参照して、本実施の形態に係る無段変速機の故障判定装置であるECU1000で実行されるプログラムの制御構造について説明する。
【0075】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、ECU1000は、目標変速比が予め定められた値aよりも大きく、予め定められた値bよりも小さいか否かを判定する。なお、予め定められた値bは、予め定められた値aよりも大きい値である。目標変速比が予め定められた値aよりも大きく、予め定められた値bよりも小さいと(S100にてYES)、処理はS102に移される。もしそうでないと(S100にてNO)、処理はS100に戻される。
【0076】
S102にて、ECU1000は、アップシフト変速であるか否かを判定する。アップシフト変速であると(S102にてYES)、処理はS104に移される。もしそうでないと(S102にてNO)、処理はS100に戻される。
【0077】
S104にて、ECU1000は、変速ソレノイドが異常状態であるか否かを判定する。変速ソレノイドが異常状態であると(S104にてYES)、処理はS106に移される。もしそうでないと(S104にてNO)。
【0078】
S106にて、ECU1000は、変速ソレノイドが異常状態であることを判定する。このとき、ECU1000は、警告ランプあるいは警告音等により運転者に変速ソレノイドが異常であることを報知するようにしてもよい。S108にて、ECU1000は、変速ソレノイドが正常状態であることを判定する。
【0079】
S110にて、ECU1000は、目標変速比が変速比γminと略等しいか否かを判定する。目標変速比が変速比γminと略等しいと(S110にてYES)、処理はS112に移される。もしそうでないと(S110にてNO)、処理はS110に戻される。
【0080】
S112にて、ECU1000は、目標変速比と実変速比とが略等しいか否かを判定する。目標変速比と実変速比とが略等しいと(S112にてYE)、処理はS116に移される。もしそうでないと(S112にてNO)、処理はS114に移される。
【0081】
S114にて、ECU1000は、ベルト挟圧ソレノイドが異常であることを判定する。なお、ECU1000は、警告ランプあるいは警告音等により運転者にベルト挟圧ソレノイドが異常であることを報知するようにしてもよい。S116にて、ECU1000は、ベルト挟圧ソレノイドが正常であることを判定する。
【0082】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る無段変速機の故障判定装置の動作について説明する。
【0083】
車両の走行中において、変速比が予め定められた値aよりも大きく、予め定められた値bよりも小さいと(S100にてYES)、無段変速機の変速状態がアップシフト中であるか否かを判定する(S102)。目標変速比が実変速比よりも大きくアップシフト中であると判定されると(S102にてYES)、変速ソレノイドが異常であるか否かが判定される(S104)。
【0084】
目標変速比と実変速比との差が予め定められた時間が経過するまで予め定められた値以下の状態が継続しないと(S104にてYES)、変速ソレノイドが異常であると判定される(S106)。
【0085】
一方、目標変速比と実変速比との差が予め定められた時間が経過するまで予め定められた値以下の状態が維持されると(S104にてNO)、変速ソレノイドが正常であると判定される(S108)。
【0086】
変速ソレノイドが正常であると判定され、目標変速比が最増速側の変速比γminと略等しく(S110にてYES)、かつ、実変速比が目標変速比と略等しいと(S112にてYES)、ベルト挟圧ソレノイドが正常であると判定される(S116)。
【0087】
図5に示すように、ベルト挟圧ソレノイドが異常であると、すなわち、オフ故障すると、セカンダリ圧はライン圧と等しくなる。そのため、車両の発進時などの減速側の変速比であるときには、セカンダリ圧はライン圧とともに減少するため、変速比が増速側に変速していく。
【0088】
変速比aよりも大きくなると、プライマリ圧とセカンダリ圧とは双方が上昇するため、プライマリプーリ500においてもセカンダリプーリ600においても可動シーブは、溝幅が狭くなる方向に移動しようとする。そのため、プライマリプーリ500およびセカンダリプーリ600の巻き掛け半径は増速側に変更できなくなる。これにより変速が進行しない状態となる。
【0089】
そのため、目標変速比が最増速側の変速比γminと略等しくても(S110にてYES)、実変速比が目標変速比よりも小さいと(S112にてNO)、変速が増速側に進行していないため、ベルト挟圧ソレノイドが異常であると判定される(S114)。
【0090】
以上のようにして、本実施の形態に係る無段変速機の故障判定装置によると、変速比が予め定められた範囲(1)内であるときの変速時に、変速ソレノイドにより駆動側プーリのアクチュエータに供給される油圧が走行状態に応じて減少しないと、変速が進行しない。変速が進行しない状態となると、実変速比と目標変速比との差が拡大するため、目標変速比を基準とした変速比の変化の度合が低くなる。すなわち、変速時における変速の追従の度合が低いことを判定することにより変速ソレノイドに異常が発生していることを判定することができる。
【0091】
一方、最増速側の変速比が目標変速比である場合において、従動側プーリのアクチュエータに供給される油圧が減少ないと、実変速比と目標変速比との差が縮小しない状態となる。すなわち、目標変速比を基準とした実変速比の変化の度合が低い状態となる。このとき、ベルト挟圧ソレノイドに異常が発生していることを判定することができる。このように、予め定められた範囲(1)内のにおける変速比の追従の度合および最増速側の変速比の到達の度合に基づいて変速ソレノイドおよびベルト挟圧ソレノイドのうちのいずれか一方が異常であることを判定することができる。そのため、故障箇所を精度よく特定することができる。したがって、変速に異常が発生したときに故障した箇所を精度よく特定できる無段変速機の故障判定装置および故障判定方法を提供することができる。
【0092】
また、変速ソレノイドが異常であると判定された場合には、変速が正常に進行できないため、ベルト挟圧ソレノイドが異常であるか否かを精度よく判定することができない。そのため、変速ソレノイドが異常でないと判定されると、ベルト挟圧ソレノイドが異常であるか否かを判定することにより、ベルト挟圧ソレノイドが異常であるか否かを精度よく判定することができる。
【0093】
さらに、重複しない変速比の領域で、変速ソレノイドの異常判定とベルト挟圧ソレノイドの異常判定とを異なる時間領域で実施することにより、変速ソレノイドおよびベルト挟圧ソレノイドが異常であるか否かを精度よく判定することができる。
【0094】
本実施の形態においては、変速比についての重複しない2つの領域で変速ソレノイドの異常判定とベルト挟圧ソレノイドの異常判定とを異なる時間領域で実施することにより、変速ソレノイドおよびベルト挟圧ソレノイドのいずれかが故障であるか否かを判定するとして説明したが、本発明は、特にこれらのソレノイドに限定して適用されるものではない。たとえば、異なる2つのプーリのアクチュエータのそれぞれに油圧を供給する2以上のソレノイドに本発明を適用するようにしてもよい。
【0095】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本実施の形態に係る無段変速機の制御ブロック図である。
【図2】変速比に対するプライマリ圧の推定値とセカンダリ圧の指示値とライン圧指示値との変化を示す図である。
【図3】本実施の形態に係る無段変速機の故障判定装置であるECUの機能ブロック図である。
【図4】本実施の形態に係る無段変速機の故障判定装置であるECUで実行されるプログラムの制御構造を示す図である。
【図5】ベルト挟圧ソレノイド異常時のプライマリ圧とセカンダリ圧との変化を示す図である。
【符号の説明】
【0097】
100 エンジン、200 トルクコンバータ、210 ロックアップクラッチ、220 ポンプ羽根車、230 タービン羽根車、240 ステータ、250 ワンウェイクラッチ、260 オイルポンプ、290 前後進切換え装置、300 無段変速機構、350 入力I/F、400 タービン回転数センサ、410 プライマリプーリ回転数センサ、420 セカンダリプーリ回転数センサ、430 エンジン回転数センサ、440 車輪速センサ、450 演算処理部、452,458 目標変速比判定部、454 アップシフト判定部、456 変速ソレノイド異常判定部、460 ベルト挟圧ソレノイド異常判定部、500 プライマリプーリ、550 記憶部、600 セカンダリプーリ、650 出力I/F、700 ベルト、800 デファレンシャルギヤ、1000 ECU、1100 油圧制御部、1110 変速速度制御部、1120 ベルト挟圧力制御部、1130 ライン圧制御部、1132 ロックアップ係合圧制御部、1140 クラッチ圧力制御部、1150 マニュアルバルブ、1200,1210 変速制御用デューティソレノイド、1220 ベルト挟圧力制御用リニアソレノイド、1230 ライン圧制御用リニアソレノイド、1240 ロックアップ係合圧制御用デューティソレノイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動側プーリと従動側プーリとにベルトが巻き掛けられて、前記プーリにおける前記ベルトの掛かり径を変化させることにより変速比を連続的に変化させる、車両に搭載された無段変速機の故障判定装置であって、前記プーリの溝幅は、調整弁により調整された油圧が供給されるアクチュエータにより変更され、前記調整弁は、前記駆動側プーリのアクチュエータに供給される油圧を調整する第1の調整弁と、前記従動側プーリのアクチュエータに供給される油圧を調整する第2の調整弁とを含み、
前記故障判定装置は、
前記車両の走行状態に対応する物理量を検出するための検出手段と、
変速比についての第1の領域における変速時に、目標変速比を基準とした、前記検出された走行状態に基づいて算出された実変速比の変化の度合に基づいて前記第1の調整弁が異常であるか否かを判定するための第1の判定手段と、
前記第1の領域よりも増速側の第2の領域における変速時に、目標変速比を基準とした、前記検出された走行状態に基づいて算出された実変速比の変化の度合に基づいて前記第2の調整弁が異常であるか否かを判定するための第2の判定手段とを含む、無段変速機の故障判定装置。
【請求項2】
前記第2の判定手段は、前記第1の調整弁が異常でないと判定されると、前記第2の調整弁が異常であるか否かを判定するための手段を含む、請求項1に記載の無段変速機の故障判定装置。
【請求項3】
前記第1の領域と前記第2の領域とは重複しない領域であって、前記第2の調整弁の異常時に変速可能な領域である、請求項1または2に記載の無段変速機の故障判定装置。
【請求項4】
前記第1の判定手段は、前記検出された走行状態に基づいて前記目標変速比が実変速比よりも増速側に設定される場合に、前記第1の調整弁が異常であるか否かを判定するための手段を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の無段変速機の故障判定装置。
【請求項5】
前記第1の判定手段は、
前記検出された走行状態に基づく、前記実変速比と前記目標変速比との差に対応する物理量を演算するための手段と、
前記演算された差が予め定められた値以下であるという状態が予め定められた時間が経過するまで継続しないと前記第1の調整弁が異常であることを判定するための手段とを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の無段変速機の故障判定装置。
【請求項6】
前記第2の判定手段は、前記目標変速比と最増速側の変速比との差に対応する物理量が予め定められた値以下である場合であって、前記目標変速比と前記実変速比との差に対応する物理量が予め定められた値以下でないと、前記第2の調整弁が異常であることを判定するための手段を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の無段変速機の故障判定装置。
【請求項7】
駆動側プーリと従動側プーリとにベルトが巻き掛けられて、前記プーリにおける前記ベルトの掛かり径を変化させることにより変速比を連続的に変化させる、車両に搭載された無段変速機の故障判定方法であって、前記プーリの溝幅は、調整弁により調整された油圧が供給されるアクチュエータにより変更され、前記調整弁は、前記駆動側プーリのアクチュエータに供給される油圧を調整する第1の調整弁と、前記従動側プーリのアクチュエータに供給される油圧を調整する第2の調整弁とを含み、
前記故障判定方法は、
前記車両の走行状態に対応する物理量を検出する検出ステップと、
変速比についての第1の領域における変速時に、目標変速比を基準とした、前記検出された走行状態に基づいて算出された実変速比の変化の度合に基づいて前記第1の調整弁が異常であるか否かを判定する第1の判定ステップと、
前記第1の領域よりも増速側の第2の領域における変速時に、目標変速比を基準とした、前記検出された走行状態に基づいて算出された実変速比の変化の度合に基づいて前記第2の調整弁が異常であるか否かを判定する第2の判定ステップとを含む、無段変速機の故障判定方法。
【請求項8】
前記第2の判定ステップは、前記第1の調整弁が異常でないと判定されると、前記第2の調整弁が異常であるか否かを判定するステップを含む、請求項7に記載の無段変速機の故障判定方法。
【請求項9】
前記第1の領域と前記第2の領域とは重複しない領域であって、前記第2の調整弁の異常時に変速可能な領域である、請求項7または8に記載の無段変速機の故障判定方法。
【請求項10】
前記第1の判定ステップは、前記検出された走行状態に基づいて前記目標変速比が実変速比よりも増速側に設定される場合に、前記第1の調整弁が異常であるか否かを判定するステップを含む、請求項7〜9のいずれかに記載の無段変速機の故障判定方法。
【請求項11】
前記第1の判定ステップは、
前記検出された走行状態に基づく、前記実変速比と前記目標変速比との差に対応する物理量を演算するステップと、
前記演算された差が予め定められた値以下であるという状態が予め定められた時間が経過するまで継続しないと前記第1の調整弁が異常であることを判定するステップとを含む、請求項7〜10のいずれかに記載の無段変速機の故障判定方法。
【請求項12】
前記第2の判定ステップは、前記目標変速比と最増速側の変速比との差に対応する物理量が予め定められた値以下である場合であって、前記目標変速比と前記実変速比との差に対応する物理量が予め定められた値以下でないと、前記第2の調整弁が異常であることを判定するステップを含む、請求項7〜11のいずれかに記載の無段変速機の故障判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−30730(P2009−30730A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195774(P2007−195774)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】