説明

無線基地局及びウェイトベクトル算出方法

【課題】 本発明は、選択した受信ウェイトベクトルを送信ウェイトベクトルとしてそのまま用いずに、下り方向における伝搬環境に好適な送信ウェイトベクトルを用いることができる。
【解決手段】 受信ウェイトベクトル算出部24は、受信ウェイトベクトルの算出に用いられる互いに異なる初期値のそれぞれを用いて、選択候補となる受信ウェイトベクトルである候補受信ウェイトベクトルを初期値毎に算出する。受信ウェイトベクトル算出部24は、第1選択条件下で、候補受信ウェイトベクトルのそれぞれのうちのいずれかを受信ウェイトベクトルとして選択する。送信ウェイトベクトル算出部32は、第1選択条件とは異なる第2選択条件下で、候補受信ウェイトベクトルのそれぞれのうちのいずれかを送信ウェイトベクトルとして選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アダプティブアレイ処理により信号の送受信を無線端末と実行する無線基地局、及び無線基地局で動作するウェイトベクトル算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からの無線基地局の中には、アダプティブアレイ処理により信号の送受信を無線端末と実行する無線基地局が存在する。例えば、アダプティブアレイ処理には、無線端末が送信した信号を受信する複数のアンテナの受信指向性の制御に用いられる受信ウェイトベクトルを算出する受信処理と、無線端末に向けて信号を送信する複数のアンテナの送信指向性の制御に用いられる送信ウェイトベクトルを算出する送信処理とが含まれている。
【0003】
アダプティブアレイ処理における受信ウェイトベクトル及び送信ウェイトベクトルの代表的な算出方法では、最小2乗誤差法(Minimum Mean Square Error;MMSE)が用いられている。当該MMSEの代表的なアルゴリズムでは、最急降下法(Least Mean Square;LMSアルゴリズム)及び再帰的最小2乗法(Recursive Least-Square;RLSアルゴリズム)が用いられている。
【0004】
ところで、上記無線基地局の中には、相関行列などの互いに異なる初期値(以下、初期値と適宜省略する)のそれぞれを用いて、選択候補となる受信ウェイトベクトルである候補受信ウェイトベクトルを初期値毎に算出する無線基地局が存在する。
【0005】
当該無線基地局は、算出した候補受信ウェイトベクトルのそれぞれを用いてアダプティブアレイ処理を実行し、各候補受信ウェイトベクトルの中から、最も良好なアダプティブアレイ処理の結果(例えば、FERなど)が得られた候補受信ウェイトベクトルを受信ウェイトベクトルとして選択する。また、無線基地局は、選択した受信ウェイトベクトルをそのまま送信ベクトルとして用いる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−264489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記無線基地局では、以下のような問題が生じていた。具体的には、無線基地局と無線端末(例えば、移動局)との間の上り方向及び下り方向のそれぞれの伝搬環境(例えば、フェージングによる影響)が異なる場合がある。
【0007】
この場合には、無線基地局は、選択した受信ウェイトベクトルを用いて当該無線端末から送信された信号を適切に受信することができても、選択した受信ウェイトベクトルをそのまま送信ウェイトベクトルとして用いると、上り方向における伝搬環境と下り方向における伝搬環境とが異なるため、当該無線端末に対して適切に信号を送信することができない場合があった。
【0008】
そこで、本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、選択した受信ウェイトベクトルを送信ウェイトベクトルとしてそのまま用いずに、下り方向における伝搬環境に好適な送信ウェイトベクトルを用いることができる無線基地局、及び無線基地局で動作するウェイトベクトル算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の特徴は、端末装置から送信された信号を受信する複数のアンテナの受信指向性の制御に用いられる受信ウェイトベクトルと、前記端末装置に信号を送信する複数のアンテナの送信指向性の制御に用いられる送信ウェイトベクトルとを算出する無線基地局であって、前記受信ウェイトベクトルの算出に用いられる互いに異なる初期値のそれぞれを用いて、選択候補となる受信ウェイトベクトルである候補受信ウェイトベクトルを前記初期値毎に算出する候補受信ウェイトベクトル算出部と、第1選択条件下で、前記候補受信ウェイトベクトルのそれぞれのうちのいずれかを前記受信ウェイトベクトルとして選択する受信ウェイトベクトル選択部と、前記第1選択条件とは異なる第2選択条件下で、前記候補受信ウェイトベクトルのそれぞれのうちのいずれかを前記送信ウェイトベクトルとして選択する送信ウェイトベクトル選択部とを備えることを要旨とする。
【0010】
かかる特徴によれば、無線基地局は、各候補受信ウェイトベクトルの中から第1選択条件で選択したいずれかを受信ウェイトベクトルとして用いた場合に、当該受信ウェイトベクトルをそのまま送信ウェイトベクトルとして用いていない。すなわち、無線基地局は、再び、各候補受信ウェイトベクトルの中から第2選択条件で選択したいずれかを送信ウェイトベクトルとして用いている。
【0011】
このため、下り方向における伝搬環境が上り方向における伝搬環境と異なっても、無線基地局は、当該下り方向における伝搬環境に好適な送信ウェイトベクトルを、第1選択条件とは異なる第2条件で選択することができ、所望の無線端末に信号を適切に送信することができる。
【0012】
本発明の第2の特徴は、前記候補受信ウェイトベクトルのそれぞれに対応する初期値の中から、最も小さい初期値を最小初期値として選択する初期値選択部を備え、前記送信ウェイトベクトル選択部は、前記最小初期値に対応する候補受信ウェイトベクトルを前記送信ウェイトベクトルとして選択することを要旨とする。
【0013】
本発明の第3の特徴は、前記候補受信ウェイトベクトルと受信された信号とを用いて算出された抽出信号の受信通信品質を前記候補受信ウェイトベクトル毎に測定する受信通信品質測定部を備え、前記送信ウェイトベクトル選択部は、前記各受信通信品質のうちの最も良好な受信通信品質に対応する候補受信ウェイトベクトルを前記送信ウェイトベクトルとして選択することを要旨とする。
【0014】
本発明の第4の特徴は、前記候補受信ウェイトベクトルと相関ベクトルとの積によって定められる特定関数を前記候補受信ウェイトベクトル毎に算出する特定関数算出部を備え、前記送信ウェイトベクトル選択部は、前記特定関数及び前記候補受信ウェイトベクトルによって定められる評価関数を前記特定関数毎に算出し、前記各評価関数の中から、前記評価関数の極値が最も小さい評価関数を選択し、選択した前記評価関数の算出に用いられた特定関数に対応する候補受信ウェイトベクトルを前記送信ウェイトベクトルとして選択することを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の特徴によれば、選択した受信ウェイトベクトルを送信ウェイトベクトルとしてそのまま用いずに、下り方向における伝搬環境に好適な送信ウェイトベクトルを用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(無線通信システムの全体概略構成)
図1は、本実施形態に係る無線通信システムの全体概略構成図である。本無線通信システムは、例えばPHS(personal handyphone system)の規格に準拠した無線通信システムである。本無線通信システムでは、時分割多重多元接続(TDMA)及び時分割復信(TDD)が用いられる。
【0017】
無線通信システムは、無線基地局100(以下、CS100と適宜省略する)と、無線端末200A,200B(以下、PS200A,PS200Bと適宜省略する)とを備える。なお、無線通信システムを構成する無線基地局及び無線端末の数は、図1に示した数量に限定されるものではない。
【0018】
CS100は、4つの送信タイムスロット及び4つの受信タイムスロットを用いることができる。1の送信タイムスロットと1の受信タイムスロットとの組は、時分割多重接続による1の通信チャネルを構成する。
【0019】
(無線基地局の内部構成)
本実施形態に係る無線基地局について図2を参照しながら説明する。図2に示すように、CS100は、アンテナ11a,11bと、無線部12a,12bと、スイッチ13a,13bと、受信系統R1と、送信系統T1とを備える。
【0020】
本実施形態では、複数のPS200のうちの特定のPS200により送信された信号を分離・抽出するために、2本のアンテナ11a,11bが備えられている。但し、アンテナの本数はN本(N;自然数)であってもよいのは勿論のことである。
【0021】
アンテナ11aは、1.9GHz帯等の信号を送受信するアレイアンテナであり、無線部12aと接続される。
【0022】
無線部12aは、1.9GHz帯等の信号を生成し、アンテナ11aを介して送信する。無線部12aは、PS200A,200Bから、アンテナ11aを介して1.9GHz帯等の信号を受信する。無線部12aは、スイッチ13aと接続される。なお、アンテナ11b及び無線部12bは、アンテナ11a及び無線部12aとそれぞれ同様の機能を有する。
【0023】
スイッチ13aは、無線部12a及び受信系統R1の接続と、無線部12a及び送信系統T1の接続とのいずれか一方を選択的に切替る。スイッチ13bは、スイッチ13aと同様の機能を有する。
【0024】
受信系統R1は、乗算部21a1,21a2と、加算部22と、メモリ23と、受信ウェイトベクトル算出部24とを備える。
【0025】
乗算部21a1は、無線部12a及びスイッチ13aを介してアンテナ11aに接続されており、アンテナ11aが受信した信号x1(t)と、受信ウェイトベクトルW1を構成するウェイトW1-1(t)とを乗算し、乗算した結果(x1(t)・W1-1(t))を加算部22に出力する。
【0026】
同様にして、乗算部21a2は、無線部12b及びスイッチ13bを介してアンテナ11bに接続されており、アンテナ11bが受信した信号x2(t)と、受信ウェイトベクトルW1を構成するウェイトW1-2(t)とを乗算し、乗算した結果(x2(t)・W1-2(t))を加算部22に出力する。
【0027】
加算部22は、重み付けされた受信信号W1-1(t)・x1(t)と重み付けされた受信信号W1-2・x2(t)とを合成した後に、合成した結果を示すy(t)を特定のPS200により送信された信号(抽出信号)として出力する。y(t)は、以下の式により表現することができる。
【数1】

【0028】
メモリ23は、スタートシンボル、プリアンブル又はユニークワードを参照信号r(t)として記憶する。また、メモリ23は、受信ウェイトベクトルの算出に用いられる互いに異なる初期値(ここでは相関行列の初期値)のそれぞれをδI1,δI2として記憶する。
【0029】
なお、本実施形態では、初期値δI1,δI2が2つ用いられているが、これに限定されずに初期値は3つ以上用いられてもよい。
【0030】
受信ウェイトベクトル算出部24は、RLSアルゴリズムやSMIアルゴリズムを用いて、複数のアンテナ11a,11bの受信指向性の制御に用いられる受信ウェイトベクトルを算出する。
【0031】
本実施形態では特に、受信ウェイトベクトル算出部24は、初期値δI1,δI2のそれぞれを用いて、選択候補となる受信ウェイトベクトルである候補受信ウェイトベクトルを初期値毎に算出する。なお、受信ウェイトベクトル算出部24は、候補受信ウェイトベクトル算出部を構成する。
【0032】
以下では、候補受信ウェイトベクトルW1,W2を算出する一例について詳細に説明する。
【0033】
先ず、受信ウェイトベクトル算出部24は、メモリ23に記憶されている参照信号r(t)を読出し、読出した参照信号r(t)と加算部22により出力されたy(t)との差分を誤差信号e(t)として算出する。e(t)は以下式により表現することができる。
【数2】

【0034】
受信ウェイトベクトル算出部24は、誤差信号e(t)の2乗に対して重み係数を乗算し、乗算した結果のそれぞれの和であるQを最小化する。但し、i=tであるとする。
【数3】

【0035】
ここで、αは、0<α≦1の重み係数である。式3のWに関する勾配ベクトルをゼロとすることにより、Qの最小解が算出される。また、式4に示すWは以下の式により表現することができる。
【数4】

【0036】
受信ウェイトベクトル算出部24は、上記式6及び式7に基づいて、以下の式に示す初期値δIを算出する。本実施形態に係る受信ウェイトベクトル算出部24は、互いに異なる初期値δI1,δI2を算出し、算出した初期値δI1,δI2をメモリ23に記憶する。
【数5】

【0037】
但し、δは相関行列を正則にするための正定数である。
【0038】
受信ウェイトベクトル算出部24は、上記式8に基づいて、以下の式を導くことにより候補受信ウェイトベクトルW(m+1)を算出する。
【数6】

【0039】
候補受信ウェイトベクトルW(m+1)は、現在のタイムスロットにおいて選択候補となる受信ウェイトベクトルである。候補受信ウェイトベクトルW(m)は、現在のタイムスロットよりも前において選択候補となった受信ウェイトベクトルである。
【0040】
本実施形態では、図3に示すように、初期値δI1,δI2が用いられる。このため、受信ウェイトベクトル算出部24は、上記各式を用いて、初期値δI1に対応する候補受信ウェイトベクトルW1(m+1)(以下、W1)、及び初期値δI2に対応する候補受信ウェイトベクトルW2(m+1)(以下、W2)を算出する。
【0041】
受信ウェイトベクトル算出部24は、第1選択条件下で候補受信ウェイトベクトルW1,W2のうちのいずれかを受信ウェイトベクトルとして選択する。なお、受信ウェイトベクトル算出部24は、受信ウェイトベクトル選択部を構成する。
【0042】
例えば、第1選択条件が無条件である場合には、受信ウェイトベクトル算出部24は、候補受信ウェイトベクトルW1,W2のうちのいずれかを任意に選択し、選択した候補受信ウェイトベクトルを受信ウェイトベクトルとする。
【0043】
もし、受信ウェイトベクトル算出部24は、候補受信ウェイトベクトルW1を受信ウェイトベクトルとして選択した場合には、受信ウェイトベクトルW1を構成するウェイトW1-1,W1-2を乗算部21a1,21a2に設定する。
【0044】
送信系統T1は、乗算部31a1,31a2と、送信ウェイトベクトル算出部32とを備える。
【0045】
乗算部31a1は、無線部12a及びスイッチ13aを介してアンテナ11bに接続されており、特定の無線端末に送信する信号x3(t)と、送信ウェイトベクトルW1を構成するウェイトW1-1(t)とを乗算し、乗算した結果をスイッチ13a及び無線部12aを介してアンテナ11aに出力する。
【0046】
同様にして、乗算部31a2は、特定の無線端末に対して送信する信号x4(t)と、送信ウェイトベクトルW1を構成するウェイトW1-2(t)とを乗算し、乗算した結果をスイッチ13b及び無線部12bを介してアンテナ11bに出力する。
【0047】
送信ウェイトベクトル算出部32は、複数のアンテナ11a,11bの送信指向性の制御に用いられる送信ウェイトベクトルを算出する。
【0048】
本実施形態では、送信ウェイトベクトル算出部32は、上記第1選択条件とは異なる第2選択条件で、候補受信ウェイトベクトルW1,W2のうちのいずれかを送信ウェイトベクトルとして選択する。
【0049】
例えば、送信ウェイトベクトル算出部32は、第2選択条件下では、候補受信ウェイトベクトルW1,W2のそれぞれに対応する初期値δI1,δI2の中から、最も小さい初期値を最小初期値として選択する。送信ウェイトベクトル算出部32は、最小初期値に対応する候補受信ウェイトベクトルを送信ウェイトベクトルとして選択する。
【0050】
もし、送信ウェイトベクトル算出部32は、候補受信ウェイトベクトルW1を送信ウェイトベクトルとして選択した場合には、送信ウェイトベクトルW1を構成するウェイトW1-1,W1-2を乗算部31a1,31a2に設定する。
【0051】
なお、送信ウェイトベクトル算出部32は、送信ウェイトベクトル選択部及び初期値選択部を構成する。
【0052】
(無線基地局の動作)
本実施形態に係るウェイトベクトル算出方法について図4を参照しながら説明する。図4に示すように、S101において、CS100は、初期値δI1に対応する候補受信ウェイトベクトルW1、及び初期値δI2に対応する候補受信ウェイトベクトルW2を算出する。
【0053】
S103において、CS100は、第1選択条件下で候補受信ウェイトベクトルW1,W2のうちのいずれかを受信ウェイトベクトルとして選択する。
【0054】
S105において、CS100は、第1選択条件とは異なる第2選択条件下で候補受信ウェイトベクトルW1,W2のうちのいずれかを送信ウェイトベクトルとして選択する。
【0055】
(本発明の作用及び効果)
かかる特徴によれば、CS100は、各候補受信ウェイトベクトルの中から第1選択条件で選択したいずれかを受信ウェイトベクトルとして用いた場合に、当該受信ウェイトベクトルをそのまま送信ウェイトベクトルとして用いていない。すなわち、CS100は、再び、各候補受信ウェイトベクトルの中から第2選択条件で選択したいずれかを送信ウェイトベクトルとして用いている。
【0056】
このため、下り方向における伝搬環境が上り方向における伝搬環境と異なっても、CS100は、当該下り方向における伝搬環境に好適な送信ウェイトベクトルを、第1選択条件とは異なる第2条件で選択することができ、所望のPS200に信号を適切に送信することができる。
【0057】
ここで、初期値δI1が初期値δI2よりも大きい場合を考える。この場合には、一般的に初期値δI1によって算出された候補受信ウェイトベクトルW1が選択されると、初期値δI1が初期値δI2よりも大きいため、候補受信ウェイトベクトルW2が選択される場合よりも、現在の候補受信ウェイトベクトルW1と過去の候補受信ウェイトベクトルとの差が大きくなる(上記式8及び式9参照)。
【0058】
このため、現在の候補受信ウェイトベクトルW1がそのまま送信ウェイトベクトルとして用いられると、上記と同様に、当該送信ウェイトベクトルと過去の送信ウェイトベクトルとの差が大きくなる場合があるため、PS200に送信する信号の送信電力レベルが大きく変動する場合がある。
【0059】
よって、通常では、CS100は、現在の候補受信ウェイトベクトルと過去の候補受信ウェイトベクトルとの差を極力少なくして、PS200に送信する信号の送信電力レベルを大きく変動させないようにするために、当該初期値δI1よりも小さい初期値δI2を用いて算出した候補受信ウェイトベクトルW2を選択する。
【0060】
しかしながら、PS200から受信した信号の受信電力レベルが非常に大きい場合には、CS100は、初期値δI1,δI2のそれぞれを用いて算出した候補受信ウェイトベクトルW1,W2のいずれを用いても、PS200から受信した信号を適切に抽出することができる。この場合には、CS100は、候補受信ウェイトベクトルW1,W2のいずれかを任意に選択することができる。
【0061】
ところが、CS100が候補受信ウェイトベクトルW1を受信ウェイトベクトルとして選択し、選択した受信ウェイトベクトルをそのまま送信ウェイトベクトルとして用いると、上述したように、当該送信ウェイトベクトルの算出に用いられた初期値δI1が初期値δI2よりも大きいため、CS100は、PS200に送信する信号の送信電力レベルを大きく変動させる場合があった。
【0062】
この場合には、送信する信号の送信電力レベルの安定性が求められる変調方式(QAM等)では、当該信号の送信電力レベルが大きく変動すると、受信側では受信された信号が適切に復調されない場合がある。
【0063】
本実施形態では、CS100は、初期値δI1を用いて算出した候補受信ウェイトベクトルW1を受信ウェイトベクトルとして選択しても、選択した受信ウェイトベクトルをそのまま送信ウェイトベクトルとして用いていない。すなわち、CS100は、候補受信ウェイトベクトルW1を受信ウェイトベクトルとして選択しても、初期値δI1よりも“小さい”初期値δI2を用いて算出した候補受信ウェイトベクトルW2を送信ウェイトベクトルとして選択し直している。
【0064】
これにより、CS100は、送信する信号の送信電力レベルの変動を低減し得る送信ウェイトベクトルを選択することができ、当該送信電力レベルの安定性が求められる変調方式においても好適な送信ウェイトベクトルを選択することができる。
【0065】
(第1変更例)
なお、送信ウェイトベクトル算出部32は、第2選択条件では、各受信通信品質のうちの最も良好な受信通信品質に対応する候補受信ウェイトベクトルを送信ウェイトベクトルとして選択してもよい。
【0066】
具体的には、送信ウェイトベクトル算出部32は、候補受信ウェイトベクトルと受信された信号とを用いて算出されたy(t)の受信通信品質を候補受信ウェイトベクトル毎に測定する。当該受信通信品質には、y(t)のフレームエラーレート(FER)、受信電界強度(RSSI)、フェージング量、又はシンボル位置のシンボル基準点からのずれ量であるEVM(Error Vector Magnitude)等が含まれている。
【0067】
送信ウェイトベクトル算出部32は、第2選択条件では、各受信通信品質のうちの最も良好な受信通信品質に対応する候補受信ウェイトベクトルを送信ウェイトベクトルとして選択する。なお、送信ウェイトベクトル算出部32は、受信通信品質測定部を構成する。
【0068】
ここで、例えば、各FERのうちの最も低いFERに対応する候補受信ウェイトベクトルが受信ウェイトベクトルとして有用であっても、選択された受信ウェイトベクトルが送信ウェイトベクトルとしても常に有用であるとは限らない。この場合には、各FERではなく各EVMのうちの最も低いEVMに対応する候補受信ウェイトベクトルが送信ウェイトベクトルとして有用である場合がある。
【0069】
本変更例では、例えば、各FERのうちの最も低いFERに対応する候補受信ウェイトベクトルが受信ウェイトベクトルとして選択されても、選択された受信ウェイトベクトルがそのまま送信ウェイトベクトルとして用いられない。
【0070】
具体的には、例えば、各FERのうちの最も低いFERに対応する候補受信ウェイトベクトルが受信ウェイトベクトルとして選択(第1選択条件)されても、各FERではなく各EVMのうちの最も低いEVMに対応する候補受信ウェイトベクトルが送信ウェイトベクトルとして選択(第2選択条件)される。
【0071】
これにより、CS100は、当該下り方向における伝搬環境により好適な送信ウェイトベクトルを、第1選択条件とは異なる第2選択条件で選択することができ、所望のPS200に信号をより適切に送信することができる。
【0072】
(第2変更例)
なお、送信ウェイトベクトル算出部32は、第2選択条件では、候補受信ウェイトベクトルWと相関ベクトルrxrとの積によって定められる特定関数A、及び特定関数Aと候補受信ウェイトベクトルWとによって定められる評価関数Eを用いて、各候補受信ウェイトベクトルWのうちのいずれかを送信ウェイトベクトルとして選択してもよい。
【0073】
なお、候補受信ウェイトベクトルWは、本変更例では候補受信ウェイトベクトルW1,W2を構成するものとして説明するが、これに限定されないのは勿論のことである。
【0074】
具体的には、送信ウェイトベクトル算出部32は、以下の式に示す特定関数Aを候補受信ウェイトベクトル毎に算出する。
【数7】

【0075】
但し、rxrは、受信された信号Xと参照信号とによって定められる相関ベクトルである。
【0076】
例えば、送信ウェイトベクトル算出部32は、上記式12に示すWに候補受信ウェイトベクトルW1を代入し、特定関数A1を算出する。
【0077】
同様にして、送信ウェイトベクトル算出部32は、上記式12に示すWに候補受信ウェイトベクトルW2を代入し、特定関数A2を算出する。以下では、特定関数Aは、A1,A2を構成するものとして説明する。
【0078】
送信ウェイトベクトル算出部32は、特定関数Aと候補受信ウェイトベクトルWとによって定められる評価関数Eを特定関数毎に算出する。送信ウェイトベクトル算出部32は、各評価関数Eの中から、評価関数の極値が最も小さい評価関数を選択し、選択した評価関数の算出に用いられた特定関数に対応する候補受信ウェイトベクトルを送信ウェイトベクトルとして選択する。
【0079】
例えば、送信ウェイトベクトル算出部32は、下記式に示す特定関数A,候補受信ウェイトベクトルWのそれぞれにA1,W1を代入し、評価関数E1を算出する。
【数8】

【0080】
但し、Rxxは、正定値行列であり次の関係を有する。
【数9】

【0081】
同様にして、送信ウェイトベクトル算出部32は、上記式に示す特定関数A,候補受信ウェイトベクトルWのそれぞれにA2,W2を代入し、評価関数E2を算出する。
【0082】
そして、送信ウェイトベクトル算出部32は、評価関数E1及び評価関数E2の極値を算出し、評価関数E1及び評価関数E2の中から、評価関数の極値が最も小さい評価関数を選択する。
【0083】
送信ウェイトベクトル算出部32は、選択した評価関数が評価関数E1である場合には、評価関数E1の算出に用いられた特定関数A1に対応する候補受信ウェイトベクトルW1を送信ウェイトベクトルとして選択する。
【0084】
また、送信ウェイトベクトル算出部32は、選択した評価関数が評価関数E2である場合には、評価関数E2の算出に用いられた特定関数A2に対応する候補受信ウェイトベクトルW2を送信ウェイトベクトルとして選択する。
【0085】
かかる特徴によれば、CS100は、各候補受信ウェイトベクトルの中から、第1選択条件(ここでは無条件)でいずれかを受信ウェイトベクトルとして選択し、第1選択条件とは異なる第2条件で再び、各候補受信ウェイトベクトルの中から、評価関数が局所的最適解ではなく大局的最適解と成り得る候補受信ウェイトベクトルを送信ウェイトベクトルとして選択することができる。このため、CS100は、下り方向における伝搬環境により好適な送信ウェイトベクトルを、第1選択条件とは異なる第2選択条件で選択することができ、所望のPS200に信号をより適切に送信することができる。
【0086】
(その他の変更例)
なお、第1選択条件と第2選択条件とは互いに異なっていればよく、例えば、上述したように第1選択条件に用いられる受信通信品質の種類(FER)と第2選択条件で用いられる受信通信品質の種類(EVM)とが異なっていてもよい。
【0087】
更に、第1選択条件及び第2選択条件のそれぞれで用いられる初期値の大きさが異なっていてもよい。また、第1選択条件及び第2選択条件のそれぞれで用いられる特定関数が異なっていてもよい。
【0088】
また、第1選択条件及び第2選択条件のそれぞれで用いられる要素が互いに異なっていてもよい。例えば、第1選択条件で用いられる要素が受信通信品質であり、第2選択条件で用いられる要素が初期値又は特定関数であってもよい。
【0089】
更に、第1選択条件が無条件であり、第2選択条件が有条件であってもよい。
【0090】
以上、本発明の一例を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、各部の具体的構成等は、適宜設計変更可能である。また、実施形態の構成及び各変更例の構成もそれぞれ組み合わせることが可能である。また、実施形態及び各変更例の作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、実施形態及び各変更例に記載されたものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本実施形態に係る無線通信システムの全体概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る無線基地局の内部構成図である。
【図3】本実施形態に係る初期値と候補受信ウェイトベクトルとの関係を示す図である。
【図4】本実施形態に係るウェイトベクトル算出方法のフロー図である。
【符号の説明】
【0092】
11a,11b…アンテナ、12a,12b…無線部、13a,13b…スイッチ、21a1,21a2…乗算部、22…加算部、23…メモリ、24…受信ウェイトベクトル算出部、31a1,31a2…乗算部、32…送信ウェイトベクトル算出部、100…無線基地局、200…無線端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末装置から送信された信号を受信する複数のアンテナの受信指向性の制御に用いられる受信ウェイトベクトルと、前記端末装置に信号を送信する複数のアンテナの送信指向性の制御に用いられる送信ウェイトベクトルとを算出する無線基地局であって、
前記受信ウェイトベクトルの算出に用いられる互いに異なる初期値のそれぞれを用いて、選択候補となる受信ウェイトベクトルである候補受信ウェイトベクトルを前記初期値毎に算出する候補受信ウェイトベクトル算出部と、
第1選択条件下で、前記候補受信ウェイトベクトルのそれぞれのうちのいずれかを前記受信ウェイトベクトルとして選択する受信ウェイトベクトル選択部と、
前記第1選択条件とは異なる第2選択条件下で、前記候補受信ウェイトベクトルのそれぞれのうちのいずれかを前記送信ウェイトベクトルとして選択する送信ウェイトベクトル選択部と
を備えることを特徴とする無線基地局。
【請求項2】
前記候補受信ウェイトベクトルのそれぞれに対応する初期値の中から、最も小さい初期値を最小初期値として選択する初期値選択部を備え、
前記送信ウェイトベクトル選択部は、前記最小初期値に対応する候補受信ウェイトベクトルを前記送信ウェイトベクトルとして選択することを特徴とする請求項1に記載の無線基地局。
【請求項3】
前記候補受信ウェイトベクトルと受信された信号とを用いて算出された抽出信号の受信通信品質を前記候補受信ウェイトベクトル毎に測定する受信通信品質測定部を備え、
前記送信ウェイトベクトル選択部は、前記各受信通信品質のうちの最も良好な受信通信品質に対応する候補受信ウェイトベクトルを前記送信ウェイトベクトルとして選択することを特徴とする請求項1に記載の無線基地局。
【請求項4】
前記候補受信ウェイトベクトルと相関ベクトルとの積によって定められる特定関数を前記候補受信ウェイトベクトル毎に算出する特定関数算出部を備え、
前記送信ウェイトベクトル選択部は、
前記特定関数及び前記候補受信ウェイトベクトルによって定められる評価関数を前記特定関数毎に算出し、
前記各評価関数の中から、前記評価関数の極値が最も小さい評価関数を選択し、
選択した前記評価関数の算出に用いられた特定関数に対応する候補受信ウェイトベクトルを前記送信ウェイトベクトルとして選択することを特徴とする請求項1に記載の無線基地局。
【請求項5】
端末装置から送信された信号を受信する複数のアンテナの受信指向性の制御に用いられる受信ウェイトベクトルと、前記端末装置に信号を送信する複数のアンテナの送信指向性の制御に用いられる送信ウェイトベクトルとを算出するウェイトベクトル算出方法であって、
前記受信ウェイトベクトルの算出に用いられる互いに異なる初期値のそれぞれを用いて、選択候補となる受信ウェイトベクトルである候補受信ウェイトベクトルを前記初期値毎に算出する第1ステップと、
第1選択条件下で、前記候補受信ウェイトベクトルのそれぞれのうちのいずれかを前記受信ウェイトベクトルとして選択する第2ステップと、
前記第1選択条件とは異なる第2選択条件下で、前記候補受信ウェイトベクトルのそれぞれのうちのいずれかを前記送信ウェイトベクトルとして選択する第3ステップと
を備えることを特徴とするウェイトベクトル算出方法。
【請求項6】
前記候補受信ウェイトベクトルのそれぞれに対応する初期値の中から、最も小さい初期値を最小初期値として選択する第4ステップを備え、
前記第3ステップでは、前記最小初期値に対応する候補受信ウェイトベクトルを前記送信ウェイトベクトルとして選択することを特徴とする請求項5に記載のウェイトベクトル算出方法。
【請求項7】
前記候補受信ウェイトベクトルと受信された信号とを用いて算出された抽出信号の受信通信品質を前記候補受信ウェイトベクトル毎に測定する第4ステップを備え、
前記第3ステップでは、前記各受信通信品質のうちの最も良好な受信通信品質に対応する候補受信ウェイトベクトルを前記送信ウェイトベクトルとして選択することを特徴とする請求項5に記載のウェイトベクトル算出方法。
【請求項8】
前記候補受信ウェイトベクトルと相関ベクトルとの積によって定められる特定関数を前記候補受信ウェイトベクトル毎に算出する第4ステップを備え、
前記第3ステップでは、
前記特定関数及び前記候補受信ウェイトベクトルによって定められる評価関数を前記特定関数毎に算出し、
前記各評価関数の中から、前記評価関数の極値が最も小さい評価関数を選択し、
選択した前記評価関数の算出に用いられた特定関数に対応する候補受信ウェイトベクトルを前記送信ウェイトベクトルとして選択することを特徴とする請求項5に記載のウェイトベクトル算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−274426(P2007−274426A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98584(P2006−98584)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】