説明

無線通信方法およびトランスポンダ

【課題】ASK変調された応答信号を良好なS/Nをもって確実に検出することができ、トランスポンダの省電力化、バッテリーレス化を図ることのできる無線通信方法およびトランスポンダを提供すること。
【解決手段】トランスポンダは、搬送波を受信し、かつ、前記搬送波に変調された応答信号を送信するアンテナと、前記搬送波を検波し、かつ、ASK変調された応答信号を変調する検波変調回路と、サブキャリア生成用の振動子と、応答信号を発するRFIDと、前記サブキャリアに応答信号をASK変調するASK変調回路とを備え、本体側送受信機は、アンテナと、前記搬送波を出力する第1の局部発振器と、前記振動子に対する励振信号を出力する第2の局部発振器と、前記励振信号を前記搬送波に変調する変調回路とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信方法およびトランスポンダに係り、特に本体側送信機とトランスポンダとの間の情報交換を行う場合に好適な無線通信方法およびトランスポンダに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、管理側となる本体側送信機と被管理側となるトランスポンダとの間においては種々の情報交換が行われている。例えば、スーパーマーケットにおける各商品に取付けられたトランスポンダ(タグ)に表示される商品価格の管理を行ったり、走行中の車のタイヤ内の空気圧や温度の測定を行う場合に無線通信を利用して情報交換されている(特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、走行中の車のタイヤ内の空気圧や温度を無線通信を利用して測定する場合には、TPMS(Tire Pressure Monitoring System)が採用されている。そして、このTPMSを実行する場合には、電波による個体識別方式(RFID:Radio Frequency IDentification)も採用されている。
【0004】
図3は従来のTPMSとRFIDとを共に備えるトランスポンダを用いて無線通信を行うシステムの1例を示している。
【0005】
図3の無線通信システムにおいては、本体側送信機40とトランスポンダ60との間において情報交換をする。
【0006】
本体側送信機40からは、トランスポンダ60のTPMS61によって測定されているタイヤ内の圧力およびまたは温度情報をもった信号の返信を問うことと、トランスポンダ60のRFID65より固体識別情報からなる応答信号の返信を問うことが行われる。
【0007】
一方のTPMS61からの返信を問う場合には、本体側送信機40においては、第1の期間および第2の期間に分けてトランスポンダ60側に送信する。
【0008】
第1の期間においては、第1の局部発振器41において搬送波(2.4GHz)を出力し、同時に第2の局部発振器42においてTPMS61の振動子63を励振するサブキャリア(10MHz)を出力し、変調器43においてサブキャリアに基づいて搬送波をAM変調し、その後増幅器44によって増幅し、更にミキサー45およびアンテナ40aを経てAM信号(1)をトランスポンダ60に向けて送信する。このAM信号(1)は、中心部の2.4GMHzの搬送波と当該搬送波から上下にそれぞれ10MHz離れた上側帯波(USB)と下側帯波(LSB)とによって形成されている。そして、AM信号(1)をアンテナ60aを通して受信したトランスポンダ60においては、ダイオードによって形成されている検波変調器62によりAM信号(1)からサブキャリアのみを取出して水晶振動子からなる励振器63に入力する。当該励振器63は固有振動数とほぼ等しいサブキャリアを受けてその固有振動数をもって共振する。
【0009】
第2の期間においては、本体側送信機40は搬送波のみをアンテナ40aを経てトランスポンダ60に向けて送信する。搬送波のみを受信したトランスポンダ60においては励振器63の強制的な共振は停止するが、当該励振器63は例えば1msec程度の短時間のエコーイック期間において固有振動数をもって振動しながら減衰振動する。この減衰振動中において、タイヤ内の圧力変化に対応して決定される圧力センサ64の容量値に応じて励振器63の振動数が変化させられ、その変化させられた振動数をもって搬送波がダイオードからなる検波変調器62によってAM変調され、アンテナ60aからAM信号(2)として本体側送信機40に返信される。このAM信号(2)は、中心部の2.4GMHzの搬送波と当該搬送波から上下にそれぞれ10MHz離れた上側帯波(USB)と下側帯波(LSB)とによって形成されている。アンテナ40aを通して本体側送信機40に受信されたAM信号(2)は、ミキサー45を経てTPMS用IF回路46に進み、当該TPMS用IF回路46において圧力に対応して変化させられているサブキャリアのみが取出される。その後、圧力センサ64によって圧力に対応して変化させられているサブキャリアはADC48においてディジタル信号に変換され、MPU49に入力されて圧力の算出に供される。
【0010】
なお、この圧力をタイヤ内の温度に応じて補正するためには、TPMS61に温度測定用の他の振動子(図示せず)を設け、本体側送信機40側に当該他の振動子の共振周波数を発信する第3の局部発振器(図示せず)を更に設けて、圧力の検出と同様にしてタイヤ内の温度を検出して、圧力を温度に応じて補正することが行われている。
【0011】
他方のRFID65からの返信を問う場合には、本体側送信機40において、第1の局部発振器41において搬送波(2.4GHz)を出力し、その搬送波を変調器43において数10kHz(例えば、64kHz)で振幅シフトキーイング(ASK)変調させてASK信号を生成し、その後増幅器44によって増幅し、更にミキサー45およびアンテナ40aを経てASK信号(1)をトランスポンダ60に向けて送信する。このASK信号(1)は、中心部の2.4GMHzの搬送波と当該搬送波から上下にそれぞれ数10kHz離れた上側帯波(USB)と下側帯波(LSB)とによって形成されている。そして、ASK信号(1)をアンテナ60aを通して受信したトランスポンダ60においては、RFID65を形成するRFIDチップ66によりASK信号(1)に対応する固体識別情報からなる数10kHz(例えば、64kHz)のID信号を出力し、その後バックスキャッタFET67によりバックスキャッタ信号として出力され、アンテナ60aからASK信号(2)として本体側送信機40に返信される。このASK信号(2)は、中心部の2.4GMHzの搬送波と当該搬送波から上下にそれぞれ数10kHz離れた上側帯波(USB)と下側帯波(LSB)とによって形成されている。アンテナ40aを通して本体側送信機40に受信されたASK信号(2)は、ミキサー45を経てRFID用IF回路47に進み、当該RFID用IF回路47においてID信号が取出される。その後、ID信号はADC48においてディジタル信号に変換され、MPU49に入力されてトランスポンダ60の固体識別に供される。
【0012】
【特許文献1】特開平07−283755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図3に示す従来例のトランスポンダ60から本体側送信機40に返信される信号は2種類ある。一方の返信信号は、TPMS61からの10MHz近辺の圧力情報及び温度情報の少なくとも一方をもった振動子63のイーコック信号によって2.4GHzの搬送波をAM変調したAM信号(2)である。他方の返信信号は、数10kHzのRFID65から出力された応答信号としてのID信号に基づいて2.4GHzの搬送波をASK変調したバックスキャッタ信号からなるASK信号(2)である。これらの2種類の返信信号、即ちAM信号(2)およびASK信号(2)を復調する信号処理は、双方が大きく異なる周波数帯の信号処理となるために、1種類の検波器によって信号処理することが困難であり、2種類のTPMS用IF回路46およびRFID用IF回路47を設ける必要があり、本体側送信機40の小型化を図ることができなかった。
【0014】
更に、RFID用IF回路47におけるASK信号(2)のASK復調処理には問題点がある。即ち、当該ASK信号(2)が2.4GHzの搬送波を数10kHzのID信号によってASK変調されたものであって、ASK変調による復調波の周波数が搬送波の周波数と近くなるため、ASK復調において搬送波の近傍雑音の影響を受けて所望のS/Nを得ることが困難である。そのために、本体側送信機40とトランスポンダ60と通信距離を大きくすることができないという問題点がある。
【0015】
このように従来のトランスポンダ60においては、ASK復調処理を良好に行うことが困難でために、搬送波と周波数が大きく異なるサブキャリアでASK変調した後に、搬送波でAM変調して、搬送波と、ASK信号の復調波の周波数を変えるサブキャリア方式が提案されている。
【0016】
しかしながら、トランスポンダがサブキャリア方式を使う場合、サブキャリアを発生させるためのバッテリーがトランスポンダ側にも必要となり、トランスポンダを省電力化することが困難であった。
【0017】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、ASK変調された応答信号を良好なS/Nをもって確実に検出することができ、トランスポンダの省電力化、バッテリーレス化を図ることのできる無線通信方法およびトランスポンダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するため、本発明に係る無線通信方法は、トランスポンダと、本体側送受信機とを備え、前記トランスポンダは、搬送波を受信し、かつ、前記搬送波に変調された応答信号を送信するアンテナと、前記搬送波を検波し、かつ、ASK変調された応答信号を変調する検波変調回路と、サブキャリア生成用の振動子と、応答信号を発するRFIDと、前記サブキャリアに応答信号をASK変調するASK変調回路とを備え、前記本体側送受信機は、アンテナと、前記搬送波を出力する第1の局部発振器と、前記振動子に対する励振信号を出力する第2の局部発振器と、前記励振信号を前記搬送波に変調する変調回路とを備え、第1の期間は、前記本体側送受信機から前記搬送波に変調された前記励振信号を送信すると共に、前記トランスポンダにおいては、前記本体側送受信機から受信した信号を前記検波変調回路により検波して、前記励振信号を前記振動子に加えて、前記振動子を励振させ、第2の期間は、前記本体側送受信機から前記搬送波を送信すると共に、前記トランスポンダにおいては、前記振動子が発するサブキャリアによって、前記トランスポンダが前記本体側送受信機に送信する応答信号を前記ASK変調回路でASK変調し、続いて当該ASK変調された応答信号を前記検波変調回路で前記搬送波によって変調して前記本体側送信機に送信し、前記本体側送受信機において前記ASK変調された応答信号を受信することを特徴とする。
【0019】
本発明の無線通信方法によれば、トランスポンダにおいて、エコーイック期間において振動を継続する振動子が発するサブキャリアによって、トランスポンダが本体側送受信機に送信する応答信号をASK変調回路でASK変調し、続いて当該ASK変調された応答信号を検波変調回路で搬送波によって変調して本体側送信機に送信するので、搬送波からASK変調された応答信号を良好なS/Nをもって確実に復調することができ、トランスポンダの省電力化、バッテリーレス化を図ることができる。
【0020】
また、本発明の第1の態様のトランスポンダは、搬送波を受信し、かつ、前記搬送波に変調された応答信号を送信するアンテナと、前記搬送波を検波し、かつ、ASK変調された応答信号を変調する検波変調回路と、サブキャリア生成用の振動子と、応答信号を発するRFIDと、前記サブキャリアで応答信号をASK変調するASK変調回路とを備えるトランスポンダであって、前記振動子は、前記搬送波に含まれる前記振動子を励振させる励振信号によって励振され、励振された前記振動子の発するサブキャリアによって、前記応答信号を前記ASK変調回路においてASK変調し、前記検波変調回路によって、ASK変調された前記応答信号を、受信した前記搬送波によってAM変調することを特徴とする。
【0021】
本発明の第1の態様のトランスポンダによれば、受信する搬送波のエネルギーによって、振動子を励振させ、エコーイック期間の振動子の振動を利用して信号処理を行うことができるので、振動子を励振させるためのバッテリーがトランスポンダには不要となり、トランスポンダの省電力化が可能となる。これによりトランスポンダのバッテリーレス化、または、バッテリーの長寿命化を図ることができる。
【0022】
また、本発明の第2の態様のトランスポンダは、前記第1の態様のトランスポンダにおいて、前記アンテナの後段に前記検波変調回路が設けられ、前記検波変調回路の後段に前記ASK変調回路が設けられ、前記ASK変調回路の後段に前記振動子が設けられ、前記ASK変調回路は、前記検波変調回路と前記振動子との間のインピーダンスをオン/オフに切り替えるスイッチであり、第1の期間は、前記ASK変調回路のインピーダンスが低く(オン状態)なって、前記検波変調回路で検波された前記励振信号が前記振動子に加えられ、第2の期間は、前記ASK変調回路のインピーダンスが前記応答信号によってオン/オフが切り替えられることにより、前記振動子の発するサブキャリアが前記ASK変調回路におい前記応答信号によってASK変調されることを特徴とする。
【0023】
本発明の第2の態様のトランスポンダによれば、ASK変調回路のインピーダンスのオン/オフの切り替えによってASK変調できるので、ASK変調回路を簡単な回路(例えば、FET)によって実現できる。更に、ASK変調回路のオフの期間は、振動子に負荷が繋がっていない状態になるので、振動が続くエコーイック期間を延ばすことができる。
【0024】
また、本発明の第3の態様のトランスポンダは、前記第1または第2の態様のトランスポンダにおいて、前記振動子には、容量が可変するセンサが並列に設けられていることを特徴とする。
【0025】
本発明の第3の態様のトランスポンダによれば、センサの容量によって、振動子の発するサブキャリアの周波数が変化する。振動子の発するサブキャリアの周波数によって、センサの測定結果をリーダー(親機)に送信できる。振動子をセンサとRFIDのサブキャリアの2つの用途で使うことができる。
【0026】
また、本発明の第4の態様のトランスポンダは、前記第1または第2の態様のトランスポンダにおいて、前記振動子と別の振動子が設けられ、前記別の振動子には容量が可変するセンサが並列に設けられ、前記振動子は、前記別の振動子の温度測定用の振動子であることを特徴とする。
【0027】
本発明の第4の態様のトランスポンダによれば、センサによって圧力を検出することができるとともに、その圧力を温度補正することができる。
【0028】
また、本発明の第5の態様のトランスポンダは、前記第3または第4の態様のトランスポンダにおいて、前記センサは、タイヤ内の空気圧を測定する空気圧センサであることを特徴とする。
【0029】
本発明の第5の態様のトランスポンダによれば、タイヤ内の空気圧センサ(TPMS)は、バッテリーの交換が困難であるが、本発明によって、バッテリーの長寿命化またはバッテリーレス化を図ることができる。
【0030】
また、本発明の第6の態様のトランスポンダは、前記第1から第5のいずれかの態様のトランスポンダにおいて、前記励振器が励振されている時に電力を蓄積する電源用容量を設けたことを特徴とする。
【0031】
本発明の第6の態様のトランスポンダによれば、振動子が励振されている時に蓄積電源用容量に蓄積した電力を、振動子がサブキャリアを発振している時に利用することができ、トランスポンダのバッテリーレス化を図ることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上述べたように、本発明に係る無線通信方法およびトランスポンダによれば、ASK変調された応答信号を良好なS/Nをもって確実に検出することができ、トランスポンダの省電力化、バッテリーレス化を図ることができる等の優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明に係る無線通信方法およびトランスポンダの実施形態を図1および図2を参照して説明する。
【0034】
図1は本発明の無線通信方法を実行するためのトランスポンダの1実施形態をを示す回路図である。
【0035】
本実施形態のトランスポンダ1は、アンテナ2と、検波変調回路3と、ASK変調回路4と、2つの振動子5、6を備えたTPMS7と、RFID8と、電源用容量9とを有しており、図示しない本体側送信機に対してTPMS7によって測定したタイヤ内の圧力と温度とを返信するとともにRFID8により固体識別情報からなる応答信号を返信するように形成されている。
【0036】
更に説明すると、アンテナ2は受信時には本体側送信機から送信されて来る2.4GHzの搬送波を受信し、返信時には搬送波に変調された応答信号を送信するように形成されている。
【0037】
アンテナ2の後段側には、コンデンサ等からなるマッチング回路10を経て検波変調回路3が接続されている。マッチング回路10はアンテナ2と検波変調回路3とのインピーダンスの整合を行う。検波変調回路3は、検波器および変調器として作用するダイオードからなる検波変調器11を有している。ダイオードはアノードをアンテナ2側とされ、カソードを後段側とされている。この検波変調器11の前段と後段と接地との間にそれぞれローパスフィルタ12、13が接続されている。各ローパスフィルタ12、13は、TPMS7の圧力用振動子5および温度用振動子6の共振振動数(例えば、10MHz近傍)のサブキャリアを通過させるように形成されている。前段側のローパスフィルタ12は並列接続された抵抗12aとコンデンサ12bとにより形成されている。後段側のローパスフィルタ13は直列接続された抵抗13aとコンデンサ13bとにより形成されている。このように形成されている検波変調回路3は、受信時においては、2.4GHzの搬送波を検波した直流(DC)そのものを出力させたり、いずれかのローパスフィルタ12、13によって通過されるサブキャリアを出力させる。返信時においては、検波変調回路3はASK変調回路4からの出力(後述する)に基づいて2.4GHzの搬送波をAM変調させてアンテナ1に向けて出力させる。
【0038】
検波変調回路3の後段側には、チョークコイル14を経てASK変調回路4が接続されている。このASK変調回路4はFETによって形成されており、ソースをチョークコイル14に接続し、ドレインをTPMS7側とし、ゲートをRFID8のバックスキャッタFET15のソースと接続し、ソースとゲートとが導線をもって接続されている。このASK変調回路4は、検波変調回路3と振動子5、6との間のインピーダンスをオン/オフに切り替えるスイッチとして機能する。検波変調回路3よりサブキャリアが出力される場合には、ASK変調回路4は、そのインピーダンスが低く(オン状態)なって、サブキャリアを振動子5、6側に出力する。波変調回路3より搬送波が出力される場合には、ASK変調回路4は、そのインピーダンスがRFID8の応答信号によってオン/オフが切り替えられることにより、ASK変調回路4において振動子5、6の発するサブキャリアが応答信号によってASK変調されて検波変調回路3に向けて出力される。
【0039】
ASK変調回路4の後段側には、TPMS7が接続されている。本実施形態においては、圧力用振動子5および温度用振動子6がそれぞれの一端を結合コンデンサ16、17を介してASK変調回路4に接続され、それぞれの他端を接地されている。各振動子16、17は水晶振動子等の圧電素子によって形成されている。一方の圧力用振動子16には可変コンデンサ等の容量が可変の容量素子からなる圧力センサ18が並列に接続されている。この圧力センサ18の容量は、タイヤ内の空気圧の変化に応じて変化するようになっている。各コンデンサ16、17は各振動子5、6が互いに異なる振動数によって振動することを確保する容量値に設定されている。そして、各振動子5、6は、サブキャリアの入力を受けている間は励振期間とされ、それぞれの共振周波数に励振される。また、各振動子5、6は、サブキャリアの入力が停止されるとエコーイック期間とされて、励振はされないが共振周波数で機械的振動を継続し、その振動が次第に減衰する減衰振動を行う。
【0040】
RFID8はアンテナ2とASK変調回路4のゲートとの間に接続されている。RFID8はRFIDチップ19を有しており、アンテナ2には初段の検波器として機能するダイオード20のアノードが接続されている。ダイオード20のカソードには次段のデータ検波部21、ディジタル部22および記憶部23が順に接続されている。ダイオード20とデータ検波部21とにより図示しない本体側送信機から送信されて受信したASK信号(1)(図3参照)を検波して読み出し情報を取り出してディジタル部22に出力するように形成されている。ディジタル部22は、読み出し情報に従って記憶部23からトランスポンダ1の固体識別情報からなる数10kHz(例えば、64kHz)の応答信号としてのID信号を出力するように形成されている。RFIDチップ19のディジタル部22の出力端子にはバックスキャッタFRT15のゲートが接続されている。このバックスキャッタFET15のソースはASK変調回路4のゲートと接続され、ドレインは接地されている。バックスキャッタFET15は応答信号としてのID信号をバックスキャッタとしてASK変調回路4に出力するように形成されている。
【0041】
TPMS7の2つの結合コンデンサ16、17とASK変調回路4との間とRFIDチップ19のディジタル部22の入力端子との間には、2つの振動子5、6が励振されている励振期間中に、電力を起電して電源用容量9に蓄積させる起電回路24が接続されている。2つの結合コンデンサ16、17とASK変調回路4との間と接地との間には、互いに並列接続されたコンデンサ25とコイル26との組と、同じく互いに並列接続されたコンデンサ27と抵抗28との組を直列に接続している。2組の接続点には起電された電力を取り出すダイオード29のアノードが接続され、ダイオード29のカソードが電源用容量9に接続されて電源用容量9に充電するように形成されている。ダイオード29のカソードと電源用容量9の接続点がRFIDチップ19のディジタル部22の入力端子に接続されて電力を供給できるように形成されている。この電源用容量9には、振動子5、6の励振期間においてRFIDチップ19の動作可能な電力量の閾値を越える電力が充電され、振動子5、6のエコーイック期間においてRFIDチップ19の動作のために放電される。
【0042】
このように形成されているトランスポンダ1との間で情報交換を行う本体側送信機は、図3に示す従来例の本体側送信機40のRFID用IF回路47を除いた構成をしており図示を省略する。
【0043】
次に、本実施形態のトランスポンダ1と本体側送信機との間で情報交換を行う無線通信方法を説明する。
【0044】
トランスポンダ1におけるTPMS7およびRFID8からの返信を問う場合には、本体側送信機40においては、第1の期間および第2の期間に分けてトランスポンダ1側に送信する。
【0045】
第1の期間においては、第1の局部発振器41において搬送波(2.4GHz)を出力し、同時に第2の局部発振器42においてTPMS7の振動子5を励振するサブキャリア(10MHz)を出力し、変調器43においてサブキャリアに基づいて搬送波をAM変調し、その後増幅器44によって増幅し、更にミキサー45およびアンテナ40aを経てAM信号(1)(図3参照)をトランスポンダ1に向けて送信する。
【0046】
トランスポンダ1においては、AM信号(1)を受信している第1の期間はTPMS7の振動子5を励振する励振期間とされる(図2(a)参照)。
【0047】
この励振期間において、アンテナ2を通して受信されたAM信号(1)は、次段のマッチング回路10によってインピーダンスを調整されて次段の検波変調回路3に入力される。この検波変調回路3の検波変調器11および2つのローパスフィルタ12、13を経る間にAM信号(1)からTPMS7の振動子5を励振する10MHzのサブキャリアのみを取出してチョークコイル14へ出力する。チョークコイル14からはASK変調回路4を形成するFETのソースとゲートに10MHzのサブキャリアが入力され、ASK変調回路4のインピーダンスが低く(オン状態)なって、検波変調回路3において検波された励振信号となる10MHzのサブキャリアがTPMS7に向けて出力される。10MHzのサブキャリアは一方の結合コンデンサ16のみを通過して圧力用振動子5に入力される。当該圧力用振動子5は固有振動数とほぼ等しい10MHzのサブキャリアを受けてその固有振動数をもって共振して励振状態になる。この圧力用振動子5が励振状態にある励振期間においては、圧力用振動子5の機械的振動から起電された電力が起電回路24に出力され、当該起電回路24において電力が電源用容量9に次第に充電される。この電源用容量9には、圧力用振動子5の励振期間においてRFIDチップ19の動作可能な電力量の閾値を越える電力が充電される。
【0048】
続く第2の期間においては、本体側送信機40は2.4GHzの搬送波のみをアンテナ40aを経てトランスポンダ1に向けて送信する。2.4GHzの搬送波のみを受信したトランスポンダ1においては、サブキャリアが圧力用振動子5に入力されないために圧力用振動子5の強制的な共振は停止するが、当該圧力用振動子5は例えば1msec程度の短時間のエコーイック期間において固有振動数をもって振動しながら減衰振動する(図2(b)参照)。この減衰振動中において、タイヤ内の圧力変化に対応して決定される圧力センサ18の容量値に応じて圧力用振動子5の振動数が変化させられ、その変化させられた振動数がASK変調回路4に出力される。
【0049】
更に、第2の期間においては、RFID8からの返信を問うために、本体側送信機40において、第1の局部発振器41において搬送波(2.4GHz)を出力し、その搬送波を変調器43において数10kHz(例えば、64kHz)で振幅シフトキーイング(ASK)変調させてASK信号を生成し、その後増幅器44によって増幅し、更にミキサー45およびアンテナ40aを経てASK信号(1)(図3参照)をトランスポンダ1に向けて送信する。トランスポンダ1のアンテナ2を通して受信されたASK信号(1)は、RFID8を形成するRFIDチップ19のダイオード20に入力される。この時、RFID8は電源用容量9からの電力の供給を受けて稼動可能な状態にされている。ダイオード20と次段のデータ検波部21とによりASK信号(1)は検波されて読み出し情報が取り出されてディジタル部22に出力される。ディジタル部22は、読み出し情報に従って記憶部23からトランスポンダ1の固体識別情報からなる数10kHz(例えば、64kHz)の応答信号としてのID信号をバックスキャッタFRT15に出力する。このバックスキャッタFET15は応答信号としてのID信号をバックスキャッタとしてASK変調回路4に出力する。
【0050】
バックスキャッタFET15から応答信号としてのID信号を受けたASK変調回路4は、当該応答信号によってオン/オフが切り替えられることにより、圧力用振動子5から入力された10MHzのサブキャリアを数10kHz(例えば、64kHz)の応答信号によってASK変調させた信号(図2(b)参照)として検波変調回路3に向けて出力する。
【0051】
検波変調回路3は、第2の期間において受信した10GHzの搬送波を反射させる際に、ASK変調回路4から入力された10MHzのサブキャリアを数10kHz(例えば、64kHz)の応答信号によってASK変調させた信号によって10GHzの搬送波をAM変調させてAM信号(r)としてマッチング回路10に向けて出力する。このAM信号(r)は、図2(c)に示すように、中心部の2.4GMHzの搬送波と当該搬送波から上下にそれぞれサブキャリアの周波数に相当する10MHz離れた上側帯波(USB)と下側帯波(LSB)とを有し、更に各上側帯波(USB)と下側帯波(LSB)を中心として応答信号の周波数に相当する数10kHz離れた上側帯波(USBU)(USBL)と下側帯波(LSBU)(LSBL)とによって形成されている。
【0052】
アンテナ2を通してトランスポンダ1から返信されたAM信号(r)は、本体側送信機40にアンテナ40aを通して受信される。当該AM信号(r)は、ミキサー45を経てTPMS用IF回路46に進み、公知の検波方法により2.4GHzの搬送波から数10kHzのASK変調されている10MHzのサブキャリアが取出され、続いて単独の10MHzのサブキャリアと数10kHzの応答信号(ID信号)とが取出される。一方の10MHzのサブキャリアによりタイヤの圧力が検出され、他方の数10kHzの応答信号によりトランスポンダ1に固有の固体識別情報が取出される。
【0053】
タイヤの空気圧を温度で補正する場合には、本体側送信機40に別個の設けた局部発振器(図示せず)により温度用振動子6の共振周波数のサブキャリアを発生させて、圧力情報を得た場合と同様にして本体側送信機40およびトランスポンダ1を作用させて、TPMS用IF回路46によりタイヤ内の温度情報を検出し、検出した温度によって圧力に対して温度補正を施す。
【0054】
このように本実施形態においては、第2の期間においてトランスポンダ1から返信されるAM信号(r)において、数10kHzのID信号を従来のように2.4GHzの搬送波を中心とした上側帯波および下側帯波としないで、搬送波からサブキャリアの周波数に相当する10MHzも大きく離間した上側帯波(USB)と下側帯波(LSB)を中心にして数10kHz離れた上側帯波(USBU)(USBL)と下側帯波(LSBU)(LSBL)とによって形成したので、2.4GHzの搬送波から10MHzのサブキャリアを検波する検波器によってID信号も良好なS/Nをもって確実に復調することができ、トランスポンダ1の省電力化、バッテリーレス化を図ることができる。
【0055】
また、本実施形態のトランスポンダ1によれば、受信する2.4GHzの搬送波のエネルギーによって、振動子5、6を励振させ、エコーイック期間の振動子5,6の振動を利用して信号処理を行うことができるので、振動子5、6を励振させるためのバッテリーがトランスポンダ1には不要となり、トランスポンダ1の省電力化が可能となる。これによりトランスポンダ1のバッテリーレス化、または、バッテリーの長寿命化を図ることができる。
【0056】
また、本実施形態のトランスポンダ1によれば、ASK変調回路4のインピーダンスのオン/オフの切り替えによってASK変調できるので、ASK変調回路4を例えば、FETのような簡単な回路によって実現できる。更に、ASK変調回路4のオフの期間は、振動子5、6に負荷が繋がっていない状態になるので、振動が続くエコーイック期間を延ばすことができる。
【0057】
また、本実施形態のトランスポンダ1によれば、圧力センサ18の容量によって、振動子5の発するサブキャリアの周波数が変化することとなる。従って、振動子5の発するサブキャリアの周波数によって、センサ18の測定結果をリーダー(親機)に送信できるし、振動子5をセンサとRFIDのサブキャリアの2つの用途に用いることができる。
【0058】
また、本実施形態の態様のトランスポンダ1によれば、圧力センサ18と組合わせた圧力用振動子5と温度用振動子6とを設けているので、圧力センサ18によって圧力を正確に検出することができるとともに、その圧力を温度補正することができる。
【0059】
また、本実施形態のトランスポンダ1は、圧力センサ18をタイヤ内の空気圧を測定するようにしたので、タイヤ内の空気圧センサ(TPMS)としてバッテリーの長寿命化またはバッテリーレス化を図ることができる。
【0060】
また、本実施形態のトランスポンダ1によれば、振動子5、6が励振されている時に電源用容量9に蓄積した電力を、振動子5、6がサブキャリアを発振している時に利用することができ、トランスポンダ1のバッテリーレス化を図ることができる。
【0061】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々変更することが可能である。
【0062】
例えば、本発明のトランスポンダを配管等の閉空間の圧力や温度の検出に用いたり、その他の環境条件の測定に用いるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のトランスポンダの1実施形態を示す回路図
【図2】本発明のトランスポンダにおける信号状態を示す線図であり、(a)は振動子の励振期間とエコーイック期間とを示し、(b)はASK変調の状態を示し、(c)は第2の期間に返信されるAM信号の状態を示す。
【図3】従来の無線通信方式を示すブロック図
【符号の説明】
【0064】
1 トランスポンダ
2 アンテナ
3 検波変調回路
4 ASK変調回路
5 圧力用振動子
6 温度用振動子
7 TRMS
8 RFID
9 電源用容量
40 本体側送信機
40a アンテナ
41 第1の局部発振器
42 際2の局部発振器
43 変調器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスポンダと、本体側送受信機とを備え、
前記トランスポンダは、搬送波を受信し、かつ、前記搬送波に変調された応答信号を送信するアンテナと、前記搬送波を検波し、かつ、ASK変調された応答信号を変調する検波変調回路と、サブキャリア生成用の振動子と、応答信号を発するRFIDと、前記サブキャリアに応答信号をASK変調するASK変調回路とを備え、
前記本体側送受信機は、アンテナと、前記搬送波を出力する第1の局部発振器と、前記振動子に対する励振信号を出力する第2の局部発振器と、前記励振信号を前記搬送波に変調する変調回路とを備え、
第1の期間は、前記本体側送受信機から前記搬送波に変調された前記励振信号を送信すると共に、
前記トランスポンダにおいては、前記本体側送受信機から受信した信号を前記検波変調回路により検波して、前記励振信号を前記振動子に加えて、前記振動子を励振させ、
第2の期間は、前記本体側送受信機から前記搬送波を送信すると共に、
前記トランスポンダにおいては、前記振動子が発するサブキャリアによって、前記トランスポンダが前記本体側送受信機に送信する応答信号を前記ASK変調回路でASK変調し、
続いて当該ASK変調された応答信号を前記検波変調回路で前記搬送波によって変調して前記本体側送信機に送信し、
前記本体側送受信機において前記ASK変調された応答信号を受信すること
を特徴とする無線通信方法。
【請求項2】
搬送波を受信し、かつ、前記搬送波に変調された応答信号を送信するアンテナと、前記搬送波を検波し、かつ、ASK変調された応答信号を変調する検波変調回路と、サブキャリア生成用の振動子と、応答信号を発するRFIDと、前記サブキャリアで応答信号をASK変調するASK変調回路とを備えるトランスポンダであって、
前記振動子は、前記搬送波に含まれる前記振動子を励振させる励振信号によって励振され、励振された前記振動子の発するサブキャリアによって、前記応答信号を前記ASK変調回路においてASK変調し、前記検波変調回路によって、ASK変調された前記応答信号を、受信した前記搬送波によってAM変調することを特徴とするトランスポンダ。
【請求項3】
前記アンテナの後段に前記検波変調回路が設けられ、前記検波変調回路の後段に前記ASK変調回路が設けられ、前記ASK変調回路の後段に前記振動子が設けられ、前記ASK変調回路は、前記検波変調回路と前記振動子との間のインピーダンスをオン/オフに切り替えるスイッチであり、
第1の期間は、前記ASK変調回路のインピーダンスが低く(オン状態)なって、前記検波変調回路で検波された前記励振信号が前記振動子に加えられ、
第2の期間は、前記ASK変調回路のインピーダンスが前記応答信号によってオン/オフが切り替えられることにより、前記振動子の発するサブキャリアが前記ASK変調回路におい前記応答信号によってASK変調されることを特徴とする請求項2に記載のトランスポンダ。
【請求項4】
前記振動子には、容量が可変するセンサが並列に設けられていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のトランスポンダ。
【請求項5】
前記振動子と別の振動子が設けられ、
前記別の振動子には容量が可変するセンサが並列に設けられ、
前記振動子は、前記別の振動子の温度測定用の振動子であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のトランスポンダ。
【請求項6】
前記センサは、タイヤ内の空気圧を測定する空気圧センサであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のトランスポンダ。
【請求項7】
前記励振器が励振されている時に電力を蓄積する電源用容量を設けたことを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか1項に記載のトランスポンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−154195(P2010−154195A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329809(P2008−329809)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】