説明

無線通信装置およびデータレート制御方法

【課題】データレートを制御することでPERを所定値以下に抑える通信システム10において、受信機毎の特性のばらつきを抑えることができると共に、データレートの上昇判定を迅速に行うことができる無線通信装置20を提供する。
【解決手段】本発明の無線通信装置20は、受信パケットのPERを用いてデータレートの下降判定を行い、RSSIを用いてデータレートの上昇判定を行う。また、無線通信装置20は、データレートの下降判定を行った後、一定期間は、データレートの上昇判定を行わない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信側において送信信号のデータレートを制御することにより、受信側において受信信号の品質を一定レベル以上に保つ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチレートをサポートする無線通信では、伝搬路の電波環境に応じて送信パケットのデータレートを送信側で適応制御することにより、受信側において受信信号の品質を一定以上に保つことができる。例えば、伝搬路の電波環境が劣悪な場合は低いデータレートでパケットを送信することで安定した無線通信を確保し、伝搬路の電波環境が良好な場合は高いデータレートでパケットを送信することで高速無線通信を実現することができる。
【0003】
このようなデータレートの適応制御を実現するためには、電波環境を推定する必要がある。電波環境の推定には、PER(Packet Error Rate)等のデータのエラーレートを用いる方式や、RSSI(Received Signal Strength Indicator)やSNR(Signal to Noise ratio)等の受信信号の状態を示す情報を用いる方式等が知られている。
【0004】
例えば、下記の非特許文献1には、受信側でPERが所定値未満の場合に、送信側でデータレートを上げ、受信側でPERが所定値よりも大きい場合に、送信側でデータレートを下げる技術が開示されている。例えばPERが10-3よりも大きくなった場合にデータレートを下げ、例えばPERが10-5以下になった場合にデータレートを上げる制御を行うことが考えられる。
【0005】
また、下記の特許文献2には、PERを一定値以下に抑えることができるデータレートを、SNRに対応付けたテーブルを作成し、受信側で測定したSNRに応じて送信側でデータレートを制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A. Kamerman and L. Monteban. "WaveLAN-II: A High-performance wireless LAN for the unlicensed band" Bell Labs Technical Journal, pages 118-133, Summer 1997.
【非特許文献2】G. Holland, N. Vaidya, P. Bahl, "A Rate-Adaptive MAC Protocol for Multi-Hop Wireless Networks", In Proceeding ACM MOBICOM, July 2001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記非特許文献1の技術では、例えばPERが10-3よりも大きくになったか否かの判定は103個の受信パケット毎にエラーパケットの個数を測定することで判定することが可能であるが、例えばPERが10-5以下になったか否かの判定を行うためには、少なくとも105個の受信パケットを受信する必要がある。そのため、電波環境が良好になっても、データレートを上げるまでに時間がかかることになる。
【0008】
また、SNRの測定は、PERの測定に比べてそれほど時間を要しないが、受信機の性能は機器毎に全く同一ではないため、PERを所定値以下に抑えることができるSNRの値は、機器毎に異なる場合がある。そのため、予め設定されたSNRとデータレートの関係を示すテーブルを参照して、測定されたSNRの値に対応するデータレートでデータを送信したとしても、受信側でPERが所定値を超えてしまう場合がある。
【0009】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、データレートを制御することでPERを所定値以下に抑える通信システムにおいて、受信機毎の特性のばらつきを抑えることができると共に、データレートの上昇判定を迅速に行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明では、データレートを制御することで受信信号の品質を一定レベル以上に保つ通信システムにおいて、受信データのエラーレートを用いてデータレートの下降判定を行い、受信信号強度を用いてデータレートの上昇判定を行う。
【0011】
例えば、本発明の第一の態様は、受信信号の品質を一定レベル以上に保つために、データレートを制御する無線通信システムに用いられる無線通信装置であって、
受信信号強度を示す情報に対応付けて、当該強度において受信したデータのエラーレートが予め定められた閾値未満となるために許容されるデータレートを示す許容レートを格納する許容レート情報格納部と、
通信相手となる送信側の他の無線通信装置から受信した信号に含まれるデータのエラーレートを算出するエラーレート算出部と、
前記エラーレートが前記閾値よりも大きい場合に、データレートを下げる指示を示す下降信号を出力する下降判定部と、
前記エラーレートが前記閾値以下である場合に、現在の受信信号強度に対応付けられている許容レートを前記許容レート情報格納部から抽出し、抽出した許容レートが現在のデータレートよりも高い場合に、現在のデータレートを上げる指示を示す上昇信号を出力する上昇判定部と、
前記下降判定部から下降信号が出力された場合に、当該通信システムにおいて現在のデータレートよりも低いデータレートによる通信がサポートされていれば、当該下降信号を前記送信側の他の無線通信装置へ送信し、前記上昇判定部から上昇信号が出力された場合に、当該通信システムにおいて現在のデータレートよりも高いデータレートによる通信がサポートされていれば、当該上昇信号を前記送信側の他の無線通信装置へ送信するレート制御信号送信部と、
指示されたデータレートで、通信相手となる受信側の他の無線通信装置へデータを送信する送信部と、
前記受信側の他の無線通信装置から下降信号を受信した場合に、現在のデータレートよりも低いデータレートを前記送信部に指示し、前記受信側の他の無線通信装置から上昇信号を受信した場合に、現在のデータレートよりも高いデータレートを前記送信部に指示するデータレート制御部と
を備えることを特徴とする無線通信装置を提供する。
【0012】
また、本発明の第二の態様は、受信信号の品質を一定レベル以上に保つために、データレートを制御する無線通信システムに用いられる無線通信装置のデータレート制御方法であって、
前記無線通信装置は、
受信信号強度を示す情報に対応付けて、当該強度において受信したデータのエラーレートが予め定められた閾値未満となるために許容されるデータレートを示す許容レートを格納する許容レート情報格納部を備え、
通信相手となる送信側の他の無線通信装置から受信した信号に含まれるデータのエラーレートを算出するエラーレート算出ステップと、
前記エラーレートが前記閾値よりも大きい場合に、データレートを下げる指示を示す下降信号を出力する下降判定ステップと、
前記エラーレートが前記閾値以下である場合に、現在の受信信号強度に対応付けられている許容レートを前記許容レート情報格納部から抽出し、抽出した許容レートが現在のデータレートよりも高い場合に、現在のデータレートを上げる指示を示す上昇信号を出力する上昇判定ステップと、
前記下降判定において下降信号を出力した場合に、当該通信システムにおいて現在のデータレートよりも低いデータレートによる通信がサポートされていれば、当該下降信号を前記送信側の他の無線通信装置へ送信し、前記上昇判定ステップにおいて上昇信号を出力した場合に、当該通信システムにおいて現在のデータレートよりも高いデータレートによる通信がサポートされていれば、当該上昇信号を前記送信側の他の無線通信装置へ送信するレート制御信号送信ステップと、
通信相手となる受信側の他の無線通信装置から下降信号を受信した場合に、現在のデータレートよりも低いデータレートでデータを送信し、前記受信側の他の無線通信装置から上昇信号を受信した場合に、現在のデータレートよりも高いデータレートでデータを送信する送信ステップと
を実行することを特徴とするデータレート制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無線通信装置によれば、データレートを制御することでPERを所定値以下に抑える通信システムにおいて、受信機毎の特性のばらつきを抑えることができると共に、データレートの上昇判定を迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る通信システム10の構成の一例を示すシステム構成図である。
【図2】第1の実施形態においてそれぞれの機器11に内蔵される無線通信装置20の詳細な機能構成の一例を示すブロック図である。
【図3】許容レート情報格納部24に格納されるデータの構造の一例を示す図である。
【図4】レート制御信号送信部26の動作を説明するための説明図である。
【図5】第1の実施形態におけるレート制御信号送信部26の動作を説明するための説明図である。
【図6】第1の実施形態におけるレート制御信号送信部26の動作を説明するための説明図である。
【図7】第1の実施形態における受信側の無線通信装置20の動作の一例を示すフローチャートである。
【図8】第2の実施形態においてそれぞれの機器11に内蔵される無線通信装置20の詳細な機能構成の一例を示すブロック図である。
【図9】第2の実施形態における受信側の無線通信装置20の動作の一例を示すフローチャートである。
【図10】第2の実施形態におけるレート制御信号送信部26の動作を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の第1の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る通信システム10の構成の一例を示すシステム構成図である。通信システム10は、複数の機器11を有する。それぞれの機器11は、例えば宅内等に設けられ、内蔵する無線通信装置20を用いて互いに無線通信する。
【0017】
図2は、第1の実施形態においてそれぞれの機器11に内蔵される無線通信装置20の詳細な機能構成の一例を示すブロック図である。無線通信装置20は、PER算出部21、下降判定部22、上昇判定部23、許容レート情報格納部24、デコーダ25、レート制御信号送信部26、無線部27、データレート制御部28、およびエンコーダ29を有する。
【0018】
なお、図2において、無線通信装置20aは、データを送受信する2台の機器11において受信側に設けられる無線通信装置20を示しており、無線通信装置20a内において破線で示したブロックは、受信側として動作する場合には機能しないブロックを示している。同様に、無線通信装置20bは、送信側に設けられる無線通信装置20を示しており、無線通信装置20b内において破線で示したブロックは、送信側として動作する場合には機能しないブロックを示している。
【0019】
まず、受信側として動作する場合の無線通信装置20aについて説明する。無線部27は、アンテナを介して受信した電波を復調してデコーダ25に供給すると共に、エンコーダ29から受け取った信号を変調してアンテナを介して送信する。また、無線部27は、RSSIを測定し、測定したRSSIを示す情報を上昇判定部23に提供する。
【0020】
デコーダ25は、無線部27から受け取った信号に誤り訂正等を施して復号し、復号したデータを機器11へ供給する。また、デコーダ25は、データパケットを受信する都度、データパケットを受信した旨、および、当該データパケットがエラーパケットであるか否かを示す情報を、PER算出部21に提供する。また、デコーダ25は、現在のデータレートを示す情報を上昇判定部23およびレート制御信号送信部26に提供する。
【0021】
PER算出部21は、データパケットを受信した旨、および、当該データパケットがエラーパケットであるか否かを示す情報をデコーダ25から受け取って保持し、データパケットを予め定められた個数(例えば103個)受信する都度、PERを算出して下降判定部22に送る。
【0022】
下降判定部22は、PER算出部21からPERを受け取った場合に、受信したPERが予め定められた閾値(例えば10-3)よりも大きいか否かを判定する。受信したPERが予め定められた閾値よりも大きい場合、下降判定部22は、データレートを下げる指示を示す下降信号をレート制御信号送信部26へ出力する。一方、受信したPERが予め定められた閾値以下である場合、下降判定部22は、その旨を上昇判定部23に通知する。
【0023】
このように、実際に受信したパケットのPERに基づいてデータレートの下降判定を行っているため、本実施形態の無線通信装置20aは、無線部27の性能のばらつきや不要電波の受信等に関わらず、受信信号の品質を一定以上に保つことができる。
【0024】
許容レート情報格納部24には、例えば図3に示すように、RSSIの範囲240を示す情報に対応付けて、当該範囲240内のRSSIにおいて、受信したデータのPERが予め定められた閾値(例えば10-3)未満となるために許容される最大のデータレートを示す許容レート241が格納されている。なお、許容レート241の欄には、通信システム10においてサポートされているデータレートの値が全て格納されている。
【0025】
上昇判定部23は、下降判定部22からPERが予め定められた閾値未満である旨を通知された場合に、無線部27から提供されているRSSIに基づいて許容レート情報格納部24を参照し、現在のRSSIの値を含む範囲に対応付けられている許容レートを抽出する。抽出した許容レートが、デコーダ25から提供されている現在のデータレートよりも高い場合、上昇判定部23は、データレートを上げる指示を示す上昇信号をレート制御信号送信部26へ出力する。
【0026】
このように、現在のRSSIの値に基づいてデータレートの上昇判定を行っているため、何万個ものパケットの受信結果から算出したPERに基づいてデータレートの上昇判定を行う従来の手法よりも、迅速にデータレートの上昇判定を行うことができる。
【0027】
レート制御信号送信部26は、下降判定部22から下降信号を受け取った場合に、許容レート情報格納部24を参照し、デコーダ25から提供されている現在のデータレートよりも低い許容レートが許容レート情報格納部24内に格納されているか否かを判定する。デコーダ25から提供されている現在のデータレートよりも低い許容レートが許容レート情報格納部24内に格納されていない場合、すなわち、データレートをこれ以上下げることができない場合、レート制御信号送信部26は、下降判定部22から受け取った下降信号を破棄する。
【0028】
一方、デコーダ25から提供されている現在のデータレートよりも低い許容レートが許容レート情報格納部24内に格納されている場合、すなわち、データレートをまだ下げることができる場合、レート制御信号送信部26は、下降判定部22から受け取った下降信号をエンコーダ29へ送る。そして、レート制御信号送信部26は、内蔵タイマをリセットスタートさせる。当該内蔵タイマは、リセットスタートされた後、予め定められた期間T0までをカウントし、T0に達した場合、当該内蔵タイマの値は当該T0を示す値で停止する。予め定められた期間T0とは、例えば、3×103個のパケットを受信するまでの期間である。
【0029】
また、下降判定部22から上昇信号を受け取った場合、レート制御信号送信部26は、許容レート情報格納部24を参照し、デコーダ25から提供されている現在のデータレートよりも高い許容レートが許容レート情報格納部24内に格納されており、かつ、内蔵タイマの値が予め定められた期間を示す値T0となっているか否かを判定する。デコーダ25から提供されている現在のデータレートよりも高い許容レートが許容レート情報格納部24内に格納されており、かつ、内蔵タイマの値がT0となっている場合、レート制御信号送信部26は、下降判定部22から受け取った上昇信号をエンコーダ29へ送る。
【0030】
一方、デコーダ25から提供されている現在のデータレートよりも高い許容レートが許容レート情報格納部24内に格納されていいない(すなわち、データレートをこれ以上上げることができない)か、または、内蔵タイマの値がT0となっていない場合、レート制御信号送信部26は、下降判定部22から受け取った上昇信号を破棄する。
【0031】
ここで、例えばRSSIの値が−50dBmから−35dBmの範囲内にある場合、データレートが例えば320MbpsであればPERの値が閾値(例えば10-3)以下となるという設計のもとに、図3に示した許容レート情報が作成される。この場合のRSSIとPERとの関係は、図4の特性30のようになる。
【0032】
しかし、受信機の性能にはばらつきがあり、また、通信帯域内に不要な電波が送信された場合には、RSSIの値が上記の範囲内にあったとしても、PERの値が閾値を超えてしまう場合がある。例えば図4に示すように、受信機の性能のばらつきや不要電波の受信等の影響により、RSSIとPERとの関係が特性31のようになった場合、RSSIの値がR1であれば、−50dBmから−35dBmの範囲内にあるにもかかわらず、320MbpsのデータレートではPERを閾値(PTH)以下に保つことができない。
【0033】
そのため、例えば図5に示すように、下降判定部22においてデータレートの下降が指示された後に、上昇判定部23においてデータレートの上昇が指示されるという処理が繰り返されることになる。図4に示したように、RSSIの値がPERの値を必ずしも反映していない場合があるため、上昇判定部23がRSSIの値に基づいてデータレートを上げた後に、下降判定部22がPERの悪化を検出してデータレートを下げるまでの間は、PERが閾値よりも大きくなっている可能性がある。
【0034】
そのため、本実施形態では、図6に示すように、PERの悪化を検出してデータレートの下降が指示された後には、一定期間(T<T0の期間)、データレートの上昇を抑制することにより、PERが閾値よりも大きい状態が発生する頻度を低く抑えるようにしている。
【0035】
図2に戻って説明を続ける。エンコーダ29は、レート制御信号送信部26から受け取った上昇信号または下降信号に誤り訂正符号を付加したり符号化する等の処理を行い、これらの処理を施したデータを無線部27へ送る。無線部27は、エンコーダ29から受け取ったデータに基づいて変調等を行った電波を、アンテナを介して送信側の無線通信装置20bへ出力する。
【0036】
次に、送信側として動作する場合の無線通信装置20bについて説明する。無線部27は、アンテナを介して受信した電波を復調してデコーダ25に供給すると共に、エンコーダ29から受け取った信号を変調してアンテナを介して送信する。
【0037】
デコーダ25は、無線部27から受け取った信号に誤り訂正等を施して復号し、復号したデータをデータレート制御部28に供給する。データレート制御部28は、デコーダ25から受け取ったデータに上昇信号が含まれている場合に、データの送信に用いている現在のデータレートよりも1段階高いデータレートをエンコーダ29に指示する。また、デコーダ25から受け取ったデータに下降信号が含まれている場合、データレート制御部28は、データの送信に用いている現在のデータレートよりも1段階低いデータレートをエンコーダ29に指示する。
【0038】
エンコーダ29は、データレート制御部28から指示されたデータレートで、機器11本体から受け取ったデータに誤り訂正符号を付加したり符号化する等の処理を行い、これらの処理を施したデータを無線部27へ送る。無線部27は、エンコーダ29から受け取ったデータに基づいて変調等を行った電波を、アンテナを介して受信側の無線通信装置20aへ出力する。
【0039】
図7は、第1の実施形態における受信側の無線通信装置20の動作の一例を示すフローチャートである。無線通信装置20は、受信を開始することで、本フローチャートに示す動作を開始する。
【0040】
まず、PER算出部21は、パケット数をカウントするための変数nと、エラーパケット数をカウントするための変数neを0に初期化し(S100)、デコーダ25からパケットを受信した旨を示す情報を受け取ったか否かを判定する(S101)。
【0041】
デコーダ25からパケットを受信した旨を示す情報を受け取った場合(S101:Yes)、PER算出部21は、変数nを1増やし(S102)、パケットを受信した旨を示す情報と共にデコーダ25から受け取った、エラーパケットであるか否かを示す情報を参照して、受信したパケットがエラーパケットであったか否かを判定する(S103)。
【0042】
受信したパケットがエラーパケットでなかった場合(S103:No)、PER算出部21は、ステップS105に示す処理を実行する。一方、受信したパケットがエラーパケットであった場合(S103:Yes)、PER算出部21は、変数neを1増やす(S104)。そして、PER算出部21は、変数nが所定値n0に達したか否かを判定する(S105)。所定値n0とは、例えば103である。変数nが所定値n0に達していない場合(S105:No)、PER算出部21は、再びステップS101に示した処理を実行する。
【0043】
一方、変数nが所定値n0に達した場合(S105:Yes)、PER算出部21は、変数neを変数nで割ってPERを算出し(S106)、算出したPERを下降判定部22へ送る。下降判定部22は、PER算出部21から受け取ったPERが閾値PTH(例えば10-3)よりも大きいか否かを判定する(S107)。PERが閾値PTHよりも大きい場合(S107:Yes)、下降判定部22は、データレートの下降を指示する下降信号をレート制御信号送信部26へ出力する。
【0044】
レート制御信号送信部26は、データレートを下げることができれば、受け取った下降信号をエンコーダ29へ送る。エンコーダ29は、レート制御信号送信部26から受け取った下降信号に誤り訂正符号を付加したり符号化する等の処理を行い、これらの処理を施したデータを無線部27へ送る。無線部27は、エンコーダ29から受け取ったデータに基づいて変調等を行った電波を、アンテナを介して出力する(S108)。そして、レート制御信号送信部26は、内蔵タイマをリセットスタートさせ(S109)、PER算出部21は、再びステップS100に示した処理を実行する。
【0045】
ステップS107において、PERが閾値PTH以下の場合(S107:No)、下降判定部22は、その旨を上昇判定部23に通知する。上昇判定部23は、無線部27から提供されているRSSIに基づいて許容レート情報格納部24を参照し、現在のRSSIの値を含む範囲に対応付けられている許容レートを抽出する(S110)。
【0046】
次に、上昇判定部23は、抽出した許容レートが、デコーダ25から提供されている現在のデータレートよりも高いか否かを判定する(S111)。抽出した許容レートが、デコーダ25から提供されている現在のデータレート以下である場合(S111:No)、PER算出部21は、再びステップS100に示した処理を実行する。
【0047】
一方、抽出した許容レートが、デコーダ25から提供されている現在のデータレートよりも高い場合(S111:Yes)、上昇判定部23は、データレートの上昇を指示する上昇信号をレート制御信号送信部26へ出力する(S112)。
【0048】
次に、レート制御信号送信部26は、内蔵タイマの値を参照し、内蔵タイマの値が予め定められた期間を示す値T0となっているか否かを判定する(S113)。内蔵タイマの値がT0となっていない場合(S113:No)、レート制御信号送信部26は、上昇判定部23から受け取った上昇信号を破棄し、PER算出部21は、再びステップS100に示した処理を実行する。
【0049】
一方、内蔵タイマの値がT0となっている場合(S113:Yes)、レート制御信号送信部26は、データレートを上げることができれば、上昇信号をエンコーダ29へ送る。エンコーダ29は、レート制御信号送信部26から受け取った上昇信号に誤り訂正符号を付加したり符号化する等の処理を行い、これらの処理を施したデータを無線部27へ送る。無線部27は、エンコーダ29から受け取ったデータに基づいて変調等を行った電波を、アンテナを介して出力し(S114)、PER算出部21は、再びステップS100に示した処理を実行する。
【0050】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
【0051】
上記説明から明らかなように、本実施形態の無線通信装置20によれば、データレートを制御することでPERを所定値以下に抑える通信システム10において、受信機毎の特性のばらつきを抑えることができると共に、データレートの上昇判定を迅速に行うことができる。
【0052】
次に、本発明の第2の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0053】
図8は、第2の実施形態においてそれぞれの機器11に内蔵される無線通信装置20の詳細な機能構成の一例を示すブロック図である。無線通信装置20は、下降判定部22、上昇判定部23、許容レート情報格納部24、デコーダ25、レート制御信号送信部26、無線部27、データレート制御部28、およびエンコーダ29を有する。
【0054】
なお、以下に説明する点を除き、図8において、図2と同じ符号を付した構成は、図2における構成と同一または同様の機能を有するため説明を省略する。本実施形態の無線通信装置20は、受信側として動作する場合の構成が第1の実施形態における無線通信装置20aとは異なる。
【0055】
デコーダ25は、送信側の無線通信装置20bからデータパケットを受信する都度、データパケットを受信した旨、および、当該データパケットがエラーパケットであるか否かを示す情報を下降判定部22に通知する。
【0056】
下降判定部22は、データパケットを受信した旨をデコーダ25から受け取って保持し、データパケットを予め定められた個数(例えば103個)受信する都度、その旨を上昇判定部23に通知する。また、下降判定部22は、エラーパケットを受信した旨をデコーダ25から通知された場合、データレートを下げる指示を示す下降信号をレート制御信号送信部26へ出力すると共に、保持している、データパケットの受信個数を示す情報をリセットする。
【0057】
図9は、第2の実施形態における受信側の無線通信装置20の動作の一例を示すフローチャートである。無線通信装置20は、受信を開始することで、本フローチャートに示す動作を開始する。
【0058】
まず、下降判定部22は、パケット数をカウントするための変数nを0に初期化し(S200)、デコーダ25からパケットを受信した旨を示す情報を受け取ったか否かを判定する(S201)。デコーダ25からパケットを受信した旨を示す情報を受け取った場合(S201:Yes)、下降判定部22は、変数nを1増やし(S202)、パケットを受信した旨を示す情報と共にデコーダ25から受け取った、エラーパケットであるか否かを示す情報を参照して、受信したパケットがエラーパケットであったか否かを判定する(S203)。
【0059】
受信したパケットがエラーパケットであった場合(S203:Yes)、下降判定部22は、データレートの下降を指示する下降信号をレート制御信号送信部26へ出力する。レート制御信号送信部26は、データレートを下げることができれば、受け取った下降信号をエンコーダ29へ送る。エンコーダ29は、レート制御信号送信部26から受け取った下降信号に誤り訂正符号を付加したり符号化する等の処理を行い、これらの処理を施したデータを無線部27へ送る。
【0060】
無線部27は、エンコーダ29から受け取ったデータに基づいて変調等を行った電波を、アンテナを介して出力する(S204)。そして、レート制御信号送信部26は、内蔵タイマをリセットスタートさせ(S205)、下降判定部22は、再びステップS200に示した処理を実行する。
【0061】
受信したパケットがエラーパケットでなかった場合(S203:No)、下降判定部22は、変数nが所定値n0に達したか否かを判定する(S206)。変数nが所定値n0に達していない場合(S206:No)、下降判定部22は、再びステップS201に示した処理を実行する。一方、変数nが所定値n0に達した場合(S206:Yes)、下降判定部22は、その旨を上昇判定部23に通知する。
【0062】
次に、上昇判定部23は、無線部27から提供されているRSSIに基づいて許容レート情報格納部24を参照し、現在のRSSIの値を含む範囲に対応付けられている許容レートを抽出する(S207)。そして、上昇判定部23は、抽出した許容レートが、デコーダ25から提供されている現在のデータレートよりも高いか否かを判定する(S208)。抽出した許容レートが、デコーダ25から提供されている現在のデータレート以下である場合(S208:No)、下降判定部22は、再びステップS200に示した処理を実行する。
【0063】
一方、抽出した許容レートが、デコーダ25から提供されている現在のデータレートよりも高い場合(S208:Yes)、上昇判定部23は、データレートの上昇を指示する上昇信号をレート制御信号送信部26へ出力する(S209)。レート制御信号送信部26は、内蔵タイマの値を参照し、内蔵タイマの値がT0となっているか否かを判定する(S210)。内蔵タイマの値がT0となっていない場合(S210:No)、下降判定部22は、再びステップS200に示した処理を実行する。
【0064】
一方、内蔵タイマの値がT0となっている場合(S210:Yes)、レート制御信号送信部26は、データレートを上げることができれば、上昇信号をエンコーダ29へ送る。エンコーダ29は、レート制御信号送信部26から受け取った上昇信号に誤り訂正符号を付加したり符号化する等の処理を行い、これらの処理を施したデータを無線部27へ送る。無線部27は、エンコーダ29から受け取ったデータに基づいて変調等を行った電波を、アンテナを介して出力し(S211)、下降判定部22は、再びステップS200に示した処理を実行する。
【0065】
本実施形態では、エラーパケットを受信した場合に、下降判定部22が即座に下降信号を出力するため、図10に示すように、PERが閾値よりも大きくなっている期間をより短くすることができる。また、PERが短期間に悪化した場合でもより迅速にデータレートを下げることもできる。
【0066】
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。
【0067】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0068】
例えば、上記した各実施形態では、エラーレートを示す指標としてPERを用いたが、本発明はこれに限られず、エラーレートを示す指標としてBER(Bit Error Rate)やFER(Frame Error Rate)等を用いてもよい。また、上記した各実施形態では、受信信号の品質を示す指標としてRSSIを用いたが、本発明はこれに限られず、受信信号の品質を示す指標としてSNR等を用いてもよい。
【0069】
また、上記した実施形態では、受信側でデータレートの上昇/下降を判定したが、受信側で測定されたPERやRSSIの値を送信側の無線通信装置20にフィードバックして、送信側の無線通信装置20において、データレートの上昇/下降を判定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10・・・通信システム、11・・・機器、12・・・通信回線、20・・・無線通信装置、21・・・PER算出部、22・・・下降判定部、23・・・上昇判定部、24・・・許容レート情報格納部、240・・・範囲、241・・・許容レート、25・・・デコーダ、26・・・レート制御信号送信部、27・・・無線部、28・・・データレート制御部、29・・・エンコーダ、30・・・特性、31・・・特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号の品質を一定レベル以上に保つために、データレートを制御する無線通信システムに用いられる無線通信装置であって、
受信信号強度を示す情報に対応付けて、当該強度において受信したデータのエラーレートが予め定められた閾値未満となるために許容されるデータレートを示す許容レートを格納する許容レート情報格納部と、
通信相手となる送信側の他の無線通信装置から受信した信号に含まれるデータのエラーレートを算出するエラーレート算出部と、
前記エラーレートが前記閾値よりも大きい場合に、データレートを下げる指示を示す下降信号を出力する下降判定部と、
前記エラーレートが前記閾値以下である場合に、現在の受信信号強度に対応付けられている許容レートを前記許容レート情報格納部から抽出し、抽出した許容レートが現在のデータレートよりも高い場合に、現在のデータレートを上げる指示を示す上昇信号を出力する上昇判定部と、
前記下降判定部から下降信号が出力された場合に、当該通信システムにおいて現在のデータレートよりも低いデータレートによる通信がサポートされていれば、当該下降信号を前記送信側の他の無線通信装置へ送信し、前記上昇判定部から上昇信号が出力された場合に、当該通信システムにおいて現在のデータレートよりも高いデータレートによる通信がサポートされていれば、当該上昇信号を前記送信側の他の無線通信装置へ送信するレート制御信号送信部と、
指示されたデータレートで、通信相手となる受信側の他の無線通信装置へデータを送信する送信部と、
前記受信側の他の無線通信装置から下降信号を受信した場合に、現在のデータレートよりも低いデータレートを前記送信部に指示し、前記受信側の他の無線通信装置から上昇信号を受信した場合に、現在のデータレートよりも高いデータレートを前記送信部に指示するデータレート制御部と
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信装置であって、
前記レート制御信号送信部は、
前記下降判定部から下降信号が出力された場合に、当該下降信号が出力されてから予め定められた期間が経過するまでは、前記上昇判定部から上昇信号が出力されても、当該上昇信号を、前記送信側の他の無線通信装置へ送信することなく破棄することを特徴とする無線通信装置。
【請求項3】
受信信号の品質を一定レベル以上に保つために、データレートを制御する無線通信システムに用いられる無線通信装置のデータレート制御方法であって、
前記無線通信装置は、
受信信号強度を示す情報に対応付けて、当該強度において受信したデータのエラーレートが予め定められた閾値未満となるために許容されるデータレートを示す許容レートを格納する許容レート情報格納部を備え、
通信相手となる送信側の他の無線通信装置から受信した信号に含まれるデータのエラーレートを算出するエラーレート算出ステップと、
前記エラーレートが前記閾値よりも大きい場合に、データレートを下げる指示を示す下降信号を出力する下降判定ステップと、
前記エラーレートが前記閾値以下である場合に、現在の受信信号強度に対応付けられている許容レートを前記許容レート情報格納部から抽出し、抽出した許容レートが現在のデータレートよりも高い場合に、現在のデータレートを上げる指示を示す上昇信号を出力する上昇判定ステップと、
前記下降判定において下降信号を出力した場合に、当該通信システムにおいて現在のデータレートよりも低いデータレートによる通信がサポートされていれば、当該下降信号を前記送信側の他の無線通信装置へ送信し、前記上昇判定ステップにおいて上昇信号を出力した場合に、当該通信システムにおいて現在のデータレートよりも高いデータレートによる通信がサポートされていれば、当該上昇信号を前記送信側の他の無線通信装置へ送信するレート制御信号送信ステップと、
通信相手となる受信側の他の無線通信装置から下降信号を受信した場合に、現在のデータレートよりも低いデータレートでデータを送信し、前記受信側の他の無線通信装置から上昇信号を受信した場合に、現在のデータレートよりも高いデータレートでデータを送信する送信ステップと
を実行することを特徴とするデータレート制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−49677(P2012−49677A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188095(P2010−188095)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000233295)日立情報通信エンジニアリング株式会社 (195)
【Fターム(参考)】