説明

無線通信装置及び無線通信方法

【課題】種々の状況下におけるエマージェンシモードにおいても、端末側からの音声を基地局側において適切なレベルで聴取することができるようにする技術を提供する。
【解決手段】端末においては、受信信号に含まれる送信レベルの変更に関するコマンドを構成するトーン信号を検出する検出手段(ステップ36、37)と、検出手段によるトーン信号の検出に応答し、該トーン信号に対応するコマンドに従った送信レベルの変更を実行する変更手段(ステップ38)とを設ける。基地局においては、通信相手側の無線通信装置における送信レベルの変更に関するコマンドを入力するための操作手段と、操作手段により入力されたコマンドに対応するトーン信号を生成する生成手段と、生成手段により生成されたトーン信号を搬送波により通信相手側の無線通信装置に送信する送信手段(ステップ44)とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信相手側によって送信レベルを変更することができるようにした無線通信装置、通信相手側の送信レベルを変更することができるようにした無線通信装置、及びこれらの無線通信装置による無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は従来の無線通信システムのエマージェンシモードにおける動作を示す。このシステムは、基地局、及び基地局と通信可能な端末を含む。同図(a)では端末及び基地局間での通信の様子が示されている。同図(b)では、この通信に対応する端末における処理が示されている。同図(c)では、この通信に対応する基地局における処理が示されている。
【0003】
端末がユーザによる所定の操作キーの押下や長押しに応じてエマージェンシモードに移行すると、端末は送信状態及び受信状態を繰り返す。すなわち同図(b)に示すように、端末はまず、第1のトーンをスピーカから出力し(ステップ72)、その後、送信状態に移行する(ステップ73)。所定時間が経過すると、第2のトーンを出力し(ステップ74)、その後、受信状態に移行する(ステップ75)。さらに所定の時間が経過すると、ステップ71を経てステップ72へ戻り、同様にして送信状態に移行する。このようにして端末は、ステップ71においてエマージェンシモードが終了したことを判定するまで、送信状態及び受信状態を繰り返す。
【0004】
この間、端末側のユーザは、端末が送信状態にあるとき(ステップ73)、同図(a)に示すように、救助を求める旨の音声による要請を基地局に送ることができる。あるいは端末の近傍の状況を反映した音声がマイクを介して基地局に送られる。同図(c)に示すように、アイドル状態にある(ステップ81)基地局が、送信状態における端末からのキャリアを受信すると(ステップ82)、基地局側のユーザは、端末側からの救助要請や状況を示す音声を聴取することができる。
【0005】
このシステムによれば、端末側のユーザは、身動きできない状況下に置かれていても、端末をエマージェンシモードに移行させるだけで、救助の要請や現場の状況を、音声によって基地局へ伝えることができる。
【0006】
このようなエマージェンシモードを備えた類似のシステムとして、たとえば特許文献1に開示されたものが知られている。このシステムでは、エマージェンシ機能スイッチのオン状態において緊急指示スイッチが操作されると、マイクからの入力が通常よりも増幅されてVOX回路(音声による自動送受信切替え回路)に入力される。そして、VOX回路からの出力が存在するときには送信回路を動作状態とし、VOX回路からの出力が存在しなくなると、所定期間の経過後、受信状態に切り換わるようになっている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−287599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述図5の従来技術によれば、基地局側において、端末側の状況を、端末側からの音声により把握するのが困難な場合がある。すなわち、端末がエマージェンシモードで動作しているとき、端末側のユーザは、強盗や事故といった場面に遭遇しているため、身動きがとれない状況に置かれている可能性がある。このような状況下では、エマージェンシモードで端末を動作させ、基地局との間での通信状態に移行させたとき、ユーザが伝えたい音が小さかったり、ユーザと端末やマイクとの距離が遠かったりしたとしても、ユーザは音を拾いにゆくような動作を行うことができない。その場合、端末のマイク感度は固定されているので、基地局が端末から受信する音声信号のレベルは小さいままであり、基地局側のユーザは端末側からの音に基づいて端末側の状況を把握することができず、とるべき対策を決定することができないおそれがある。
【0009】
一方、同様に身動きできない状況において、逆に、伝えたい音が大きすぎたり、端末やマイクとの距離が近すぎたりする場合もあり得る。かかる場合も、端末側のユーザは端末に入力される音量を減少させる動作を行うことができないので、基地局側のユーザは逆に音が大きすぎて聞きずらくなり、状況把握やとるべき対策の決定が困難となるおそれがある。
【0010】
また、上述のエマージェンシモードを備えた類似のシステムによれば、エマージェンシモードでは通常よりもマイク感度が増大されるが、増大幅は固定されており、かつ増大後のマイク感度も固定されているため、やはり上述と同様の問題が生じるおそれがある。
【0011】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、種々の状況下におけるエマージェンシモードにおいても、端末側からの音声を基地局側において適切なレベルで聴取することができるようにする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的を達成するため、第1の発明に係る無線通信装置は、受信信号に含まれる送信レベルの変更に関するコマンドを構成するトーン信号を検出する検出手段と、前記検出手段によるトーン信号の検出に応答し、該トーン信号に対応するコマンドに従った送信レベルの変更を実行する変更手段とを具備することを特徴とする。
【0013】
ここで、トーン信号としては、たとえば、DTMF信号やMSK信号が該当する。送信レベルの変更に関するコマンドとしては、たとえば、送信レベルを一定量増大させるコマンドや、送信レベルを一定量減少させるコマンドが該当する。変更手段としては、たとえば、マイクの感度や、FM変調方式の場合における最大周波数偏移を変更することにより送信レベルの変更を行うものが該当する。
【0014】
この構成において、受信信号に含まれる送信レベルの変更に関するコマンドを構成するトーン信号が検出されると、該トーン信号に対応するコマンドに従った送信レベルの変更が行われる。したがって無線通信装置の通信相手側は、送信レベルの変更に関するコマンドとして、適切なものに対応するトーン信号を生成し、送信することにより、無線通信装置における通信レベルを、そのコマンド内容に従って変更させることができる。
【0015】
第2の発明に係る無線通信装置は、第1発明において、前記検出手段によるトーン信号の検出及び変更手段による送信レベルの変更は、無線通信装置が所定のエマージェンシモードで動作している場合に行われることを特徴とする。
【0016】
第3の発明に係る無線通信装置は、第1又は第2発明において、前記変更手段は、装置が有するマイクの感度、又は装置がFM変調を行うものである場合における最大周波数偏移を変更することにより前記送信レベルの変更を実行するものであることを特徴とする。
【0017】
第4の発明に係る無線通信装置は、通信相手側の無線通信装置における送信レベルの変更に関するコマンドを入力するための操作手段と、前記操作手段により入力されたコマンドに対応するトーン信号を生成する生成手段と、前記生成手段により生成されたトーン信号を搬送波により通信相手側の無線通信装置に送信する送信手段とを具備することを特徴とする。
【0018】
第5の発明に係る無線通信装置は、第4発明において、前記操作手段によるコマンド入力の受入れ、前記生成手段によるトーン信号の生成、及び前記送信手段によるトーン信号の送信は、通信相手側の無線通信装置が所定のエマージェンシモードで動作している場合に行われることを特徴とする。
【0019】
第6の発明に係る無線通信装置は、第1〜第5のいずれかの発明において、前記送信レベルの変更に関するコマンドは、前記送信レベルを所定値だけ増大させるコマンド、又は前記送信レベルを所定値だけ減少させるコマンドであることを特徴とする。
【0020】
第7の発明に係る無線通信装置は、第1〜第6のいずれかの発明において、前記トーン信号は、DTMF信号又はMSK信号であることを特徴とする。
【0021】
第8の発明に係る無線通信方法は、第1無線通信装置が、第2無線通信装置における送信レベルの変更に関するコマンドの入力を受け入れる工程と、第1無線通信装置が、前記入力受入れ工程で受け入れたコマンドに対応するトーン信号を生成する工程と、第1無線通信装置が、前記生成工程で生成されたトーン信号を搬送波により第2無線通信装置に送信する工程と、第2無線通信装置が、前記送信工程で送信された信号を受信し、復調して前記トーン信号を検出する工程と、第2無線通信装置が、前記検出工程で検出されたトーン信号に基づいて、その送信レベルを変更する工程とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、受信信号に含まれる送信レベルの変更に関するコマンドを構成するトーン信号を検出したことに応答して、該トーン信号に対応するコマンドに従った送信レベルの変更を行うようにしたため、無線通信装置の通信相手側は、送信レベルの変更に関するコマンドとして、適切なものに対応するトーン信号を生成し、送信することにより、無線通信装置における通信レベルを、そのコマンド内容に従って変更させることができる。
【0023】
また、トーン信号の検出及び該トーン信号に対応するコマンドに従った送信レベルの変更は、無線通信装置が所定のエマージェンシモードで動作している場合に行われるようにしたため、装置のユーザが身動きのとれないような状態にあり、装置や装置のマイクとの距離が遠い場合や、状況を示す音源からの音が小さいような場合や、その逆に、装置や装置のマイクとの距離が近すぎる場合や、状況を示す音源からの音が大きすぎるような場合に、通信相手側は無線通信装置の送信レベルを変更させ、通信相手側においてより適切なレベルで、緊急事態にある無線通信装置のユーザが置かれている状況に関する音声を聴取することができる。
【0024】
また、送信レベルの変更を、マイクの感度又は最大周波数偏移を変更することによって行うようにしたため、簡便な構成で、送信レベルの変更を行うことができる。
【0025】
また、通信相手側の無線通信装置における送信レベルの変更に関するコマンドを入力するための操作手段を設け、これにより入力されたコマンドに対応するトーン信号を生成して通信相手側の無線通信装置に送信することができるようにしたため、通信相手側からの受信音声の状況に応じて、送信レベルの変更に関するコマンドを入力することにより、通信相手側における送信レベルを、より適切なものとなるように変更させることができる。
【0026】
また、コマンド入力の受入れ、並びにトーン信号の生成及び送信は、通信相手側の無線通信装置が所定のエマージェンシモードで動作している場合に行われるようにしたため、通信相手側の無線通信装置がエマージェンシモード以外で動作しているときに、勝手に通信相手側の無線通信装置の送信レベルを変更するのを防止することができる。
【0027】
また、送信レベルの変更に関するコマンドは、送信レベルを所定値だけ増大させるコマンド、又は送信レベルを所定値だけ減少させるコマンドとすることによって、コマンドの送信毎に、所定値づつ段階的に送信レベルの変更を行うことができる。
【0028】
また、トーン信号として、DTMF信号又はMSK信号を採用することにより、既存の技術を用いて無線通信装置を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1は本発明の一実施形態に係る端末の構成を示すブロック図である。同図に示すようにこの端末は、音声信号を無線で送受信するための送受信部21、音声を音声信号に変換して送受信部21に供給する音声入力部22、送受信部21からの音声信号を音声に変換して出力する音声出力部23、端末の各部を制御する制御部24、制御部24における処理に必要なプログラムやデータを格納する記憶部25、制御部24の指令に基づいて装置の状態等を表示する表示部26、制御部24に対する指示を行うための操作部27、送受信部21において復調された受信信号に基づいて所定のトーン信号を検出するトーン信号検出部28、及び所定のトーンの音声信号を生成して音声出力部23に供給するトーン生成部29を備える。
【0030】
送受信部21は、搬送波を、音声入力部22からの音声信号で変調し、アンテナを介して送信するとともに、アンテナを介して受信した信号を復調し、得られる音声信号を音声出力部23に供給する。音声入力部22はマイク等により構成される。音声出力部23はスピーカ等により構成される。操作部27は緊急事態が発生した場合にユーザが操作することにより端末をエマージェンシモードへ移行させるための緊急ボタンを備える。トーン信号検出手段28が検出する所定のトーン信号とは、マイク感度の変更に関するコマンドを構成する待受けコードに対応するDTMF方式のトーン信号である。マイク感度の変更に関するコマンドとしては、マイク感度を所定値だけ増大させる増大コマンドや、マイク感度を所定値だけ減少させる減少コマンドが該当する。
【0031】
トーン生成部29が生成する音声信号のトーンは、注意を促す等のためのアラート・トーンであり、端末が自動的に送信状態へ移行する前にその旨を示すための第1トーン、及び送信状態から受信状態へ自動的に切り替わる前にその旨を示すための第2トーンが該当する。第1トーンはユーザが端末を見る必要なく、エマージェンシモードにおける送信開始を知ることができるようにするためのものである。また、倒れていて身動きできない状態にあるユーザを探すときの目標となることをも目的として出力される。第2トーンも同様の目的で出力されるものである。第1トーン及び第2トーンの出力は、設定により、オフとすることができる。
【0032】
図2は本発明の一実施形態に係る基地局の構成を示すブロック図である。図1の場合と同一の符号は図1の場合と同様の要素を示す。基地局は上記端末との間で通信を行うことが可能である。図中の30は、上記端末のマイク感度の変更に関するコマンドに対応するDTMF方式のトーン信号を生成して送受信部21に供給するトーン信号生成部である。送受信部21は、供給されるトーン信号により搬送波を変調し、端末へ送信することができる。操作部27は端末におけるマイク感度を所定値だけ増大させ、又は減少させる増大コマンド又は減少コマンドの入力を受け入れるための上ボタン及び下ボタンで構成された上下ボタンを備える。
【0033】
端末は、端末側のユーザによって操作部27の緊急ボタンが操作されると、エマージェンシモードに移行し、その後、ユーザの指示によることなく、送信状態及び受信状態を繰り返す。このとき、送信状態及び受信状態は、たとえば数秒単位で切り替わる。送信状態においては、端末側のユーザによる救助を要請する旨の発声や、端末の周りの音が送信される。基地局側のユーザはこれを聴取し、端末側の状況を把握することができる。
【0034】
その際、基地局における出力音声のレベルが小さすぎたり、大きすぎたりして聴取し難い場合には、基地局側のユーザは、基地局の操作部27の上下ボタンを操作することにより音声レベルの調整を行うことができる。すなわち、ユーザが上ボタン又は下ボタンを押下すると、制御部24は、端末のマイク感度を所定値だけ増大又は減少させる増大コマンド又は減少コマンドに対応するトーン信号をトーン信号生成部30により生成し、送受信部21に供給する。送受信部21はこのトーン信号を、搬送波に載せ、端末へ向けて送信する。
【0035】
この信号を、受信状態にある端末が受信すると、端末は、トーン信号検出部28によって、受信信号に含まれる当該トーン信号を検出し、対応するコマンドを制御部24に通知する。この通知を受けると、制御部24は、通知されたコマンドに従い、音声入力部22のマイク感度を所定値だけ増大又は減少させる。これにより、基地局側のユーザによる端末側マイク感度についての1回の調整が完了する。同様にして、必要な回数の調整を行うことにより、基地局側のユーザは、端末からの受信音声のレベルをより適切なものとすることができる。
【0036】
受信音声を適切なレベルに調整した後、基地局側のユーザは、端末側の状況を的確に把握することができる。基地局側のユーザは、把握した端末側の状況に鑑み、必要な要請を他の基地局や端末のユーザに対して行うことができる。
【0037】
図3は以上のエマージェンシモードにおける端末及び基地局の動作をより詳細に示す。同図(a)では端末及び基地局間における通信の様子が示されている。同図(b)では、この通信に対応する端末における処理が示されている。同図(c)では、この通信に対応する基地局における処理が示されている。
【0038】
端末において、緊急事態に陥ったユーザにより操作部27における緊急ボタンの操作がなされると、端末の制御部24は、エマージェンシモードに移行し、同図(b)の処理を開始する。エマージェンシモードでは、送信状態及び受信状態が、所定のタイミングで切り替えられ、繰り返されることになる。
【0039】
すなわちまず、制御部24は、トーン生成部29により第1トーンの音声信号を生成して音声出力部23に供給することにより、第1トーンを一定の短期間出力し、送信状態へ移行する旨を報知する(ステップ32)。これが完了すると、送受信部21を送信状態に移行させる(ステップ33)。送信状態においては、端末は、端末側ユーザの音声による救助要請や、端末周囲の各種音源からの音を音声入力部22及び送受信部21を経て、基地局に送信することができる(同図(a)中の右向き矢印が示す通信)。
【0040】
送信状態に移行してから所定期間が経過すると、制御部24は、第2トーンを音声出力部23において一定の短期間出力させ、受信状態へ移行する旨を報知する(ステップ34)。この後、送受信部21を受信状態に移行させる(ステップ35)。受信状態においては、トーン信号検出部28により、上述の増大コマンド又は減少コマンドに対応するトーン信号の検出を行う。所定の期間内に、トーン信号によるDTMFデータを受信しなかった場合や、受信したDTMFデータが、増大コマンド又は減少コマンドに対応する待受けコードと一致しなかった場合には、再度、上述と同様にして送信状態に移行する(ステップ32、33)。
【0041】
受信状態において、前記待受けコードに一致するDTMFデータを受信した場合には(図3(a)中の左向き矢印が示す通信)、そのDTMFデータが増大コマンド又は減少コマンドのいずれに対応するかに応じて、マイク感度を所定値だけ増大させ、又は減少させる(ステップ38)。マイク感度の変更は、たとえばマイクアンプの増幅度を制御することにより行うことができる。この後、所定期間の経過を待つことなく、直ちに、送信状態へ移行する(ステップ32、33)。この場合、移行した送信状態においては、マイク感度がより適切な状態になっているので、より適切な送信レベルで音声を基地局側に送信することができる。
【0042】
以上のようにして、エマージェンシモードにおいて、端末は、エマージェンシモードが解除されるまで(ステップ31)、送信状態及び受信状態を繰り返す。その間、基地局からの増大コマンド又は減少コマンドに応答し、マイクの感度を、段階的に増大又は減少させる。
【0043】
一方、図3(c)に示すように、基地局は、アイドル状態で待機しているときに(ステップ41)、送信状態にある端末からの搬送波を受信すると(図3(a)中の右矢印が示す通信;ステップ42)、搬送波を復調して得られる音声信号に基づき、音声出力部23から音声を出力する。基地局側のユーザはこれを聴取し、音声が小さいか又は大きいために聴きづらいと感じた場合には、操作部27における上下キーの操作によって、端末側のマイク感度を増大又は減少させる増大コマンド又は減少コマンドを入力し、制御部24に対して与えることができる(ステップ43)。入力可能なタイミングは、端末側が受信状態となる、ステップ34における第2トーンの出力を聞いた後である。
【0044】
増大コマンド又は減少コマンドが入力されると、基地局は、入力されたコマンドを端末に送る。すなわち、制御部24は、増大コマンド又は減少コマンドをトーン信号生成部30に与える。これに応じてトーン信号生成部30は、増大コマンド又は減少コマンドに対応するDTMFデータのトーン信号を生成し、送受信部21に供給する。送受信部21は搬送波をこのトーン信号によって変調し、アンテナを介して送信する(図3(a)中の左矢印が示す通信;ステップ44)。送信したコマンドは端末において受信され、端末のマイク感度を変更することになる(ステップ38)。このコマンドの送信後、基地局は再び受信状態に戻る(ステップ42)。
【0045】
このようにして、端末がエマージェンシモードに移行した場合には、端末におけるステップ32〜38の処理、及び対応する基地局におけるステップ42〜44の処理が必要回数繰り返され、その間の基地局からの増大コマンド又は減少コマンドに基づいて、端末のマイク感度が段階的に調整される。これにより、基地局における端末からの受信音声が聞きやすいレベルに設定される。この後、基地局側のユーザは、端末側の状況を端末側からの改善された受信音声によって的確に判断し、他の基地局や端末に対し、必要な緊急要請を送信することができる。
【0046】
これによれば、基地局側のユーザは、上下キーの操作によって端末側のマイク感度を調整し、受信音声のレベルを適切なものとすることができる。したがって、端末側のユーザが、身動きがとれず、緊急ボタンを押すのがやっとであるといった状況下にあり、かつ端末からの受信音声が小さ過ぎたり、大き過ぎたりして聴き取りずらい場合には、基地局側のユーザは、端末側のユーザに代わり、端末側のマイク感度を調整することができる。したがって、基地局側のボリューム調整のみでは調整範囲に限界があり、受信音声を最適なものとすることが困難な場合でも、端末側のマイク感度の調整により、受信音声の適切化を図ることができる。
【0047】
図4はエマージェンシモードにおける端末及び基地局の動作の別の例を示す。同図(a)では端末及び基地局間での通信の様子が示されている。同図(b)では、この通信に対応する端末における処理が示されている。同図(c)では、この通信に対応する基地局における処理が示されている。
【0048】
図3の動作と異なるのは、トーン信号として、DTMF形式のものに代えてMSK形式のものを用いるようにした点、及びマイク感度を変更する代わりに、FM変調における最大周波数偏移(Max Deviation)を変更することによって送信レベルの変更を行うようにした点にある。したがってこの場合、端末のトーン信号検出部28が検出するトーン信号は、最大周波数偏移の変更に関するコマンドに対応するMSK形式のトーン信号である。最大周波数偏移の変更に関するコマンドとしては、最大周波数偏移を所定値だけ増大させる増大コマンドや、最大周波数偏移を所定値だけ減少させる減少コマンドが該当する。
【0049】
この場合も、端末においては、同図(b)に示すように、エマージェンシモードに移行した場合、図3の場合と同様にして、送信状態及び受信状態が所定のタイミングで切り替えられ、繰り返される(ステップ51〜58)。その間、送信状態においては、端末は、端末側ユーザの音声による救助要請や、端末周囲の各種音源からの音を、基地局に送信することができる(図4(a)中の右矢印が示す通信)。受信状態において増大コマンド又は減少コマンドに対応する待受けコードに一致するMSKデータを受信した場合には(図4(a)中の左向き矢印が示す通信)、制御部24はそのMSKデータが増大コマンド又は減少コマンドのいずれに対応するかに応じて、FM変調波における最大周波数偏移を所定値だけ増大又は減少させる(ステップ58)。最大周波数偏移の変更は、たとえばマイクと周波数変調器との間に設けられたボリュームを制御することにより行われる。
【0050】
一方、図4(c)に示すように、基地局が、アイドル状態で待機しているときに(ステップ61)、端末から受信した音声(ステップ62)が小さいか又は大きいために聴きづらいと端末側ユーザが感じた場合には、操作部27における上下キーの操作によって増大コマンド又は減少コマンドを入力することができる(ステップ63)。制御部24は入力された増大コマンド又は減少コマンドをトーン信号生成部30に与える。これに応じてトーン信号生成部30は、増大コマンド又は減少コマンドに対応するMSKデータのトーン信号を生成し、送受信部21に供給する。送受信部21は、搬送波をこのトーン信号によって変調し、アンテナを介して送信する(図4(a)中の左矢印が示す通信;ステップ64)。送信したコマンドは端末において受信され、端末における最大周波数偏移を変更する(ステップ58)。
【0051】
このようにして、MSK方式のトーン信号を用いてコマンドを端末に送信し、端末における最大周波数偏移を制御することによっても、図3の場合と同様に、基地局における端末からの受信音声を調整し、同様の効果を得ることができる。
【0052】
なお、本発明は上述実施形態に限定されることなく、適宜変形して実施することができる。たとえば、上述においては、コマンドを送信するためのトーン信号として、DTMF方式及びMSK方式のものを用いているが、他のCTCSS等のトーン信号を用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態に係る端末の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る基地局の構成を示すブロック図である。
【図3】エマージェンシモードにおける図1の端末及び図2の基地局の動作を示す図である。
【図4】エマージェンシモードにおける図1の端末及び図2の基地局の動作の別の例を示す図である。
【図5】従来の無線通信システムのエマージェンシモードにおける動作を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
21:送受信部、22:音声入力部、23:音声出力部、24:制御部、25:記憶部、26:表示部、27:操作部、28:トーン信号検出部、29:トーン生成部、30:トーン信号生成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号に含まれる送信レベルの変更に関するコマンドを構成するトーン信号を検出する検出手段と、
前記検出手段によるトーン信号の検出に応答し、該トーン信号に対応するコマンドに従った送信レベルの変更を実行する変更手段とを具備することを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記検出手段によるトーン信号の検出及び変更手段による送信レベルの変更は、無線通信装置が所定のエマージェンシモードで動作している場合に行われることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記変更手段は、装置が有するマイクの感度、又は装置がFM変調を行うものである場合における最大周波数偏移を変更することにより前記送信レベルの変更を実行するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
通信相手側の無線通信装置における送信レベルの変更に関するコマンドを入力するための操作手段と、
前記操作手段により入力されたコマンドに対応するトーン信号を生成する生成手段と、
前記生成手段により生成されたトーン信号を搬送波により通信相手側の無線通信装置に送信する送信手段とを具備することを特徴とする無線通信装置。
【請求項5】
前記操作手段によるコマンド入力の受入れ、前記生成手段によるトーン信号の生成、及び前記送信手段によるトーン信号の送信は、通信相手側の無線通信装置が所定のエマージェンシモードで動作している場合に行われることを特徴とする請求項4に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記送信レベルの変更に関するコマンドは、前記送信レベルを所定値だけ増大させるコマンド、又は前記送信レベルを所定値だけ減少させるコマンドであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記トーン信号は、DTMF信号又はMSK信号であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項8】
第1無線通信装置が、第2無線通信装置における送信レベルの変更に関するコマンドの入力を受け入れる工程と、
第1無線通信装置が、前記入力受入れ工程で受け入れたコマンドに対応するトーン信号を生成する工程と、
第1無線通信装置が、前記生成工程で生成されたトーン信号を搬送波により第2無線通信装置に送信する工程と、
第2無線通信装置が、前記送信工程で送信された信号を受信し、復調して前記トーン信号を検出する工程と、
第2無線通信装置が、前記検出工程で検出されたトーン信号に基づいて、その送信レベルを変更する工程とを具備することを特徴とする無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−124598(P2008−124598A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303554(P2006−303554)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】