無脈動ポンプ
【課題】より簡易な構成で無脈動を達成し得る無脈動ポンプを提供する。
【解決手段】無脈動ポンプを構成する各ダイアフラムポンプ12は、圧力室に連通するプランジャ側凹部が外周面に形成されたプランジャ22と、作動流体貯留室28に連通するシリンダ側凹部が内周面に形成されたシリンダ24と、前記往復運動子を往復運動させる駆動機構であって、前記複数のダイアフラムポンプの瞬時の吐出流量の総和を常に一定にするとともに、吐出行程の初期に発生する吐出量の減少を補償するために、想定される吐出減少量に対して過剰にポンプ室容積を減少させる補償行程を、吸引行程と前記吐出行程との間に実行させる駆動機構と、プランジャ22およびシリンダを相対的に回転させてプランジャ側凹部およびシリンダ側凹部の相対角度関係を変更することで補償行程を無効化する期間を調整する平歯車25,26と、を備える。
【解決手段】無脈動ポンプを構成する各ダイアフラムポンプ12は、圧力室に連通するプランジャ側凹部が外周面に形成されたプランジャ22と、作動流体貯留室28に連通するシリンダ側凹部が内周面に形成されたシリンダ24と、前記往復運動子を往復運動させる駆動機構であって、前記複数のダイアフラムポンプの瞬時の吐出流量の総和を常に一定にするとともに、吐出行程の初期に発生する吐出量の減少を補償するために、想定される吐出減少量に対して過剰にポンプ室容積を減少させる補償行程を、吸引行程と前記吐出行程との間に実行させる駆動機構と、プランジャ22およびシリンダを相対的に回転させてプランジャ側凹部およびシリンダ側凹部の相対角度関係を変更することで補償行程を無効化する期間を調整する平歯車25,26と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアフラムポンプを複数備え、各ポンプの瞬時の合成吐出流量を一定とする無脈動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイアフラムポンプは、プランジャなどの往復運動子の往復動により、ダイアフラムを撓ませ、これにより、対象流体の吸引、吐出を交互に繰り返す。よって、ダイアフラムポンプ単体では、流体は脈動をもって吐出される。この脈動をなくすために複数のダイアフラムポンプを用い、これら複数のダイアフラムポンプの瞬時の合成吐出流量を常に一定とする無脈動ポンプが知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、2個のダイアフラムポンプを用いた無脈動ポンプが示されている。このポンプは、いずれか一方のダイアフラムポンプのみが対象流体を吐出する期間と、双方のダイアフラムポンプが同時に吐出する期間を繰り返して、流体の吐出を行う。一方のみによる吐出期間においては、一定の流量が吐出されるように往復運動子の運動が制御される。また、双方のダイアフラムポンプによる吐出期間においては、合成された瞬時の吐出流量が一定になるように、また前記一方のみの時の流量と等しくなるように、双方のポンプの往復運動子の運動が制御される。
【0004】
さらに、特許文献1のポンプにおいては、各ダイアフラムポンプの吐出開始初期における流量の減少についても補償するように構成され、更にはこの補償量についても調整可能となっている。吐出開始初期における流量の減少、すなわち容積効率の低下は、往復運動子の機械的な駆動部のがた、作動流体により動力伝達を行う場合の流体中に残留するエア、対象流体中の残留エア、ポンプの吸込側、吐出側に設けられる逆止弁の漏れなどが原因となっている。前記公報のポンプにおいては、吐出期間の開始前に、対象流体を吐出する方向に往復運動子を駆動制御する。ただし、このとき実際には取扱い流体は吐出されない。この吐出期間前の往復運動子は、想定される補償量に対して、より以上の吐出量となるように制御される。そして、補償量の過剰分については、エア抜き弁より作動流体を排出して、補償量が適正なものとなるように調整される。エア抜き弁には、作動流体が一時的に流れ込む調整室の容積を調節する容積調整機構が設けられており、ポンプの動作条件に応じて変化する容積効率に対応して排出量が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−321566号公報
【特許文献2】特許第3624062号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この特許文献1の技術によれば、吐出開始初期における流量の減少を補償することができ、微小脈動を防止することができる。しかし、この容積調整機構を利用した微小脈動の防止技術は、構成が複雑で、部品点数も多いなどの問題があった。そこで、本発明では、より簡易な構成で無脈動を達成し得る無脈動ポンプを提供することを目的とする。
【0007】
なお、特許文献2には、ハイドロリック・ロストモーション機構により、ポンプの平均流量を調整する技術が開示されている。この機構は、シリンダの内周面に作動油貯留部に連通する凹部を形成し、ピストンの外周面に圧力室に連通する液流通路を形成し、この凹部と液流通路の相対角度を調整することで、ピストンの往復運動において凹部と液流通路が重複する期間を調整する機構である。凹部と液流通路が重複する期間は、圧力室において圧力変化が生じないため、対象流体の吸引吐出が行なわれないことになる。したがって、凹部と液流通路が重複する期間を調整することにより、平均吐出流量を調整される。
【0008】
しかし、この特許文献2の技術は、あくまで、平均流量の調整を目的とするものである。そのため、当該特許文献2記載のハイドロリック・ロストモーション機構で流量調整を行なうと、吐出流量の波形が変化してしまう。一方、無脈動ポンプにおいては、各ポンプでの流量波形が予め設定されたとおりになることが必要であり、平均流量を変えるには、回転数(往復動周期)を変え、波形をそのままにする方法を取る。したがって、特許文献2に記載されているような吐出流量の波形を変化させる機構を、無脈動ポンプに適用することは、従来、考えられていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の無脈動ポンプは、圧力室に充填された作動流体を介して往復運動子の動きをダイアフラムに伝達することにより流体を吸引、吐出するダイアフラムポンプを複数備え、個々のダイアフラムポンプの瞬時の吐出流量を合計した合成吐出流量が常に一定になるように往復運動子を運動させる無脈動ポンプであって、各ダイアフラムポンプは、その外周面に、圧力室に連通する第一凹部が形成された往復運動子と、前記往復運動子が挿通され、その内周面に、作動流体貯留部に連通する第二凹部が形成されたシリンダと、前記往復運動子を往復運動させる駆動機構であって、前記複数のダイアフラムポンプの瞬時の吐出流量の総和を常に一定にするとともに、吐出行程の初期に発生する吐出量の減少を補償するために、想定される吐出減少量に対して過剰にポンプ室容積を減少させる補償行程を、吸引行程と前記吐出行程との間に実行させる駆動機構と、前記往復運動子およびシリンダを相対的に回転または軸方向に移動させて第一、第二凹部の相対位置関係を変更することで前記補償行程を無効化する期間を調整する調整手段と、を備え、補償行程外では第一、第二凹部が重複しない、ことを特徴とする。
【0010】
好適な態様では、前記調整手段は、前記往復運動子およびシリンダを相対的に回転させる手段であり、前記第一凹部および第二凹部は、往復運動子およびシリンダを予め規定された任意の角度、相対回転する間に、両凹部が補償行程の全期間に亘って重複する100%無効化状態から、両凹部が補償行程の全期間に亘って重複しない0%無効化状態まで、連続的に変化可能な形状である。
【0011】
他の好適な態様では、前記第一凹部は、軸方向に幅を有した傾斜線状の凹部であり、前記第二凹部は、補償行程の開始時における第一凹部の先端位置と、補償行程の終了時における第二凹部の後端位置と、を通ることができる線状の凹部である。この場合、前記第二凹部は、さらに、前記シリンダを周方向に回転した際に、補償行程の開始時における第一凹部の先端と、補償行程の開始時における第一凹部の後端と、に重複し得る線状の凹部である、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、往復運動子およびシリンダを相対的に回転させて第一、第二凹部の相対角度関係を変更することで前記補償行程を無効化する期間を調整できるので、無脈動をより簡易な構成で達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である無脈動ポンプの概略全体図である。
【図2】ダイアフラムポンプの構成を示す図である。
【図3】プランジャの側面図である。
【図4】シリンダの断面図である。
【図5】プランジャの速度の時間変化を示す図である。
【図6】吐出期間Pdの初期におけるプランジャの速度と吐出流量の詳細を示す図である。
【図7】プランジャおよびシリンダの概略展開図であり、上から順に、0%、50%、100%無効化した状態を示している。
【図8】プランジャの速度の時間変化を示す図であり、上から順に、0%、50%、100%無効化した状態を示している。
【図9】シリンダ側凹部の傾斜角度の条件を説明する図である。
【図10】他のシリンダ側凹部およびプランジャ側凹部の一例を示す図である。
【図11】他のシリンダ側凹部およびプランジャ側凹部の一例を示す図である。
【図12】第二実施形態におけるダイアフラムポンプの構成を示す図である。
【図13】プランジャおよびシリンダの概略展開図であり、上から順に、0%、50%、100%無効化した状態を示している。
【図14】他のシリンダ側凹部およびプランジャ側凹部の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。図1は、本実施形態に係る無脈動ポンプ10の概略構成を示す図である。また、図2は、ダイアフラムポンプ12の構成を示す図である。また、図3はプランジャ22の側面図、図4はシリンダ24の横断面図である。
【0015】
無脈動ポンプ10は、二つのダイアフラムポンプ12A,12Bを含む。これらのダイアフラムポンプ12A,12Bは同一の構造を有しており、以下において、これらを区別する必要がないときには、符号としてAまたはBを省略した「12」を用いて説明する。
【0016】
ダイアフラムポンプ12は、ポンプ室16を形成する筐体14と、当該筐体14の内部で進退するプランジャ22、プランジャ22が進退自在に挿通されたシリンダ24などを備えている。筐体14は、その内部が二つの仕切壁29a,29bにより三つの空間、すなわち、ポンプ室16、中間室27、作動流体貯留室28に区切られた略筒体である。ポンプ室16には、これを先端側と後端側とに二分するダイアフラム15が配置されている。以降、ダイアフラム15で分けられたポンプ室16の先端側を対象流体室18、後端側を圧力室20と記す。
【0017】
プランジャ22は、モータ36に駆動されるカム34、および、プランジャ22の末端を常にカム34に当接させるスプリング32の付勢力により、軸方向に往復進退する。このプランジャ22の運動は、圧力室20を満たす作動流体を介してダイアフラム15に伝達される。これによって、ダイアフラム15がたわんで往復運動し、ポンプ室16、特に対象流体が吸い込まれ、吐出される対象流体室18の容積変化が生じる。
【0018】
また、図3に示すように、このプランジャ22の内部には、プランジャ22の先端面から末端方向に延びる深穴60が、プランジャ22の外周面には、傾斜線状のプランジャ側凹部62が形成されている。このプランジャ側凹部62の端部には当該プランジャ側凹部62と深穴60とを連通する連通孔64が形成されており、プランジャ側凹部62は、連通孔64、深穴60を介して圧力室20に連通されている。
【0019】
二つの仕切壁29a,29bで囲まれた中間室27内には、シリンダ24が配置されている。シリンダは、仕切壁29bにより回転自在に保持されており、その後端は作動流体貯留室28に突出している。シリンダ24の内径は、プランジャ22の外径とほぼ等しく、プランジャ22は、当該シリンダ24の内周面に液密に接触しつつ往復摺動する。図4に示すように、シリンダ24の内周面には、らせん状に延びるシリンダ側凹部66が形成されている。このシリンダ側凹部66は、シリンダ24の後端まで延びており、作動流体貯留室28と連通している。本実施形態では、この作動流体貯留室28と連通するシリンダ側凹部66および圧力室20と連通するプランジャ側凹部62により、プランジャ22の動きを無効化するハイドロリック・ロストモーション機構を構成しているが、これについては後に詳説する。
【0020】
シリンダ24の外周面には、平歯車25が形成されている。この平歯車25は、ユーザにより回転操作される平歯車26に歯合している。この平歯車25および平歯車26から構成されるギアは、プランジャ側凹部62およびシリンダ側凹部66の相対角度関係を調整し、これにより、補償行程での容積減少量を調整する調整手段として機能するが、これについても、後に詳説する。
【0021】
対象流体室18には、吸引管48と吐出管50が接続されており、これらの管には、それぞれ吸引側逆止弁42、吐出側逆止弁44が設けられている。また、圧力室20には、当該圧力室20内に発生したエアを排出するためのエア抜き用逆止弁46も設けられている。
【0022】
ここで、上述したように、カム34によって制御されるプランジャ22の往復運動は、圧力室20を介してダイアフラム15に伝達され、対象流体室18の容積変化を生じさせる。対象流体室18の容積が増加するときには、吸引側逆止弁42は対象流体が対象流体室18に吸い込まれることを許容し、吐出側逆止弁44は、吐出管50からの逆流を阻止するように機能する。対象流体室18の容積が減少するときは、逆に、吸引側逆止弁42が対象流体の吸引管48への逆流を阻止し、吐出側逆止弁44は吐出管50への対象流体の流れを許容するように作用する。
【0023】
次に、本実施形態におけるプランジャ22の運動プロフィールについて説明する。図5は、二つのダイアフラムポンプ12A,12Bのプランジャ22の速度vの時間変化を示す図である。図5に示すとおり、二つのプランジャ22の速度波形は、位相が180°ずれているのみで、形状は同一である。
【0024】
個々のダイアフラムポンプ12の運動は、速度vが正である吐出期間Pdと、速度vが負である吸引期間Psと、さらに吐出期間Pdが始まる前の吸引期間Psとの間の期間である補償期間Pcを繰り返す。吐出期間Pdは、プランジャ22がポンプ室16内に進出し、その容積を縮小するように運動し、ポンプ室16内の対象流体を吐出する期間である。また、吸引期間Psは、プランジャ22が後退し、ポンプ室16の容積を拡大するように運動し、ポンプ室16内に吸引管48より対象流体を吸い込む期間である。補償期間Pcは、吐出期間Pd初期における吐出量の減少に対応するために設けられた期間であるが、この補償期間Pcについては、後に詳述する。
【0025】
吐出期間Pdは、さらに一方のダイアフラムポンプ12のみで対象流体の吐出を行う単独吐出期間Pd1と、双方のポンプ12の吐出を合成する合成吐出期間Pd2とからなる。合成吐出期間Pd2の合成された吐出流量は、単独吐出期間Pd1の吐出流量に一致する。この結果、二つのダイアフラムポンプ12A,12Bの瞬時の合成吐出流量は常に一定となる。
【0026】
次に、補償期間Pcについて詳説する。図6は、吐出期間Pdの初期におけるプランジャ22の速度vと、吐出流量qの詳細を示す図である。補償期間Pcを設けなかった場合、プランジャ22の速度vは破線で示すように吐出期間Pdの開始と共に増速するが、実際の吐出流量qは、実線で示すように吐出期間Pdの開始初期において、吐出しなくなる場合も含め、減少する。このときの吐出量の減少は図中斜線を施した部分の面積Ssに相当する。この減少は、機械的駆動部分のがた、ポンプ室16内のエア、逆止弁の漏れなどの各種の損失によって生じるものであり、無脈動ポンプ10の無脈動性を阻害する。また、この吐出量の減少量は、ある程度予想することができるが、当該ポンプの運転条件、ポンプの個体差などから正確に予測することは難しい。
【0027】
この吐出量の減少を補うために、前述の補償期間Pcが設けられており、このときプランジャ22は、進出方向に運動し、機械的駆動部分のがた、ポンプ室16内のエア、逆止弁の漏れなどによる損失を埋めるように、あらかじめポンプ室の容積を減少させる。
【0028】
この、損失を補償するためのプランジャ22の運動(以下、補償運動と記す)は、対象流体を吐出する方向の運動となるが、このときには吐出は行われない。このときのプランジャ22の補償運動によって減少するポンプ室16の容積は、図6において砂目ハッチングを施した台形部分の面積Scに相当する。このプランジャ22の補償運動によるポンプ室16の容積減少分の面積Scは、理想的には、損失による吐出量の減少量の面積Ssと等しくするべきである。補償運動によるポンプ室16の容積減少量(Sc)と、損失による吐出量の減少量(Ss)との間に差があると、これらの差分(Sa=Sc−Ss)に応じて過剰にポンプ室16の圧力が上昇し、意図しない吐出が行なわれるからである。意図しない吐出が生じると、瞬時の合計流量が変動してしまい、無脈動を実現できなくなる。
【0029】
しかし、損失による吐出量減少が生じることはあらかじめ想定されるが、その量(Ss)は、実際にはポンプの設計時点で見込むことが難しく、またポンプの運転圧力などの運転条件によっても変動する。補償運動によるポンプ室16容積減少量(Sc)は、プランジャ22の動き、すなわちカム34のプロフィールにより与えられるが、このプロフィールを後から変更するのは手間を要し、また運転条件の変化に対応して適宜変更することも困難である。
【0030】
そこで、本実施形態の無脈動ポンプ10においては、あらかじめ補償運動によるポンプ室容積減少量(Sc)を、損失による吐出量の減少量(Ss)の想定される最大値よりも過剰に設定し、これらの差分(Sa=Sc−Ss)である過剰な容積減少を、シリンダ側凹部66およびプランジャ側凹部62で構成されるハイドロリック・ロストモーション機構により吸収している。
【0031】
すなわち、本実施形態のハイドロリック・ロストモーション機構は、補償行程の一部期間において、プランジャ側凹部62やシリンダ側凹部66を介してポンプ室16と作動流体貯留室28を連通状態にすることで、プランジャ22の進退に伴うポンプ室16の圧力変動をなくし、プランジャ22の動きを無効化する。そして、この補償行程中におけるプランジャ22の動きを無効化する期間を調整することにより、過剰な圧力上昇を防止する。このプランジャ22の運動無効化期間の調整は、シリンダ24を回転させて、シリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62の相対角度を変更することで行なう。
【0032】
これについて図7、図8を参照して説明する。図7は、プランジャ22およびシリンダ24の概略展開図である。この図7の上段、中段、下段は、それぞれ、プランジャ22の運動無効化期間を補償行程の0%、50%、100%に調整した場合を示している。また、この図7において、砂目ハッチング部分は、シリンダ側凹部66部分である。また、図8は、プランジャ22の速度vの時間変化を示す図であり、この図8の上段、中段、下段は、それぞれ、無効化期間を補償行程の0%、50%、100%に調整した場合を示している。なお、図8において、砂目ハッチング箇所は、プランジャ22の動きが有効化されている期間を示している。また、図7おけるa〜eは、図8におけるタイミングa〜eを示している。
【0033】
既述したとおり、シリンダ24の内側面には、作動流体貯留室28に連通するらせん状のシリンダ側凹部66が形成されている。また、プランジャ22の外側面には、連通孔64、深穴60を介してポンプ室16に連通するプランジャ側凹部62が形成されている。したがって、このシリンダ側凹部66およびプランジャ側凹部62が重なると、ポンプ室16と作動流体貯留室28とが連通することになる。この場合、プランジャ22が進退しても、作動流体は、ポンプ室16から作動流体貯留室28に流出または作動流体貯留室28からポンプ室16に流入するため、ポンプ室16内の圧力変動が生じないことになる。その結果、対象流体の吸引吐出も行なわれず、プランジャ22の動きが無効化されることになる。
【0034】
本実施形態では、シリンダ24を回転させ、補償行程において、このシリンダ側凹部66およびプランジャ側凹部62の重複期間を調整することで、補償運動の無効化期間を調整している。なお、シリンダ24の回転は、筐体14外部から平歯車26を操作して、シリンダ24に取り付けられた平歯車25を回転させることで行われる。
【0035】
次に、実際に、無効化期間の調整の具体例について説明する。図8の上段に示すように、無効化期間を補償行程の0%にする場合、すなわち、補償行程の全期間において、プランジャ22の動きを有効にする場合を考える。この場合、図7の上段に示すように、このプランジャ22が最後端に位置した状態(タイミングcの状態)でも、シリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62とが重複しないような角度に、シリンダ24の角度を調整する。補償行程は、プランジャ22を最も後退させた状態から、吐出方向に進出させる行程である。したがって、プランジャ22が最後端に位置した状態でシリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62とが重複していない場合、その後、プランジャ22を進出させても、両凹部の重複は生じない。その結果、補償行程の全期間において、ポンプ室16と作動流体貯留室28とが非連通状態となり、補償運動が有効化される。
【0036】
一方、図8の下段に示すように、無効化期間を補償行程の100%にする場合、すなわち、補償行程の全期間において、プランジャ22の動きを無効にする場合を考える。この場合、図7の下段に示すように、シリンダ24を回転させて、補償行程が終了するタイミング(e)において、プランジャ側凹部62の後端が、シリンダ側凹部66と接するような角度に、シリンダ24の角度を調整する。かかる角度関係とすることで、補償行程の開始から終了までの間、両凹部が重複し続けることになる。そして、その結果、補償行程の全期間において、ポンプ室16と作動流体貯留室28とが連通状態となり、補償運動が無効化される。なお、この補償行程に先立って吸引行程も行なわれる。この吸引行程の終了間近である期間a〜cの間、プランジャ22は、補償行程と同じ範囲を移動する。その結果、図7の下段に示すように、補償行程の全期間においてプランジャ22の動きを無効化する場合、この吸引行程の終了間近である期間a〜cでもプランジャ22の動きが無効化(吸引動作が無効化)される。
【0037】
そして、上述した無効化期間0%での角度と、無効化期間100%での角度との間で、シリンダ24角度を回転させていくことで、この無効化期間を徐々に変化させることができる。例えば、両角度の中間角度にすることで、図7の中段に示すように、無効化期間を補償行程の50%にすることができる。この場合、プランジャ22が最後端に位置した状態(タイミングcの状態)で、プランジャ側凹部62のほぼ中央がシリンダ側凹部66と重複する。そして、プランジャ22が、補償行程でのストロークSの半分(S/2)進んだ時点で、両凹部の重複関係が解除され、ポンプ室16を作動流体貯留室28が非連通状態となる。その結果、図8の中断に示すように、補償行程の半分、および、当該補償行程に対応する吐出行程の終了間近期間b〜cだけ、プランジャ22の動きが無効化されることになる。
【0038】
このように、シリンダ24を回転させて、シリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62の相対角度関係を連続的に変化させることで、補償行程においてプランジャ22の動きが無効化される割合も連続的に変化する。その結果、補償運動による過剰な容積減少を吸収でき、結果として、無脈動を達成できる。
【0039】
なお、シリンダ側凹部66は、線状の凹部であるが、その傾斜角度等の条件について図9を参照して簡単に説明する。図9の右側に図示するように、無効期間100%を実現するためには、シリンダ側凹部66は、相対回転がない状態で、補償行程の開始時点(タイミングc時点)におけるプランジャ側凹部62の先端位置oと、補償行程の終了時点(タイミングe時点)におけるプランジャ側凹部62の後端位置pと、を通過し得る傾斜角度でなくてはならない。また、シリンダ24を360度回転する間に、補償期間0%から100%まで調整可能にするためには、シリンダ24を360度回転させる間に、補償行程の開始時点(タイミングc時点)におけるプランジャ側凹部62の先端位置oと、補償行程の開始時点(タイミングc時点)におけるプランジャ側凹部62の後端位置qと、重複し得る傾斜角度であることが望まれる。
【0040】
また、上述した形態は一例であり、シリンダ24とプランジャ22を相対回転させることにより、シリンダ側凹部66およびプランジャ側凹部62の重複期間を可変できるのであれば、他の構成であってもよい。例えば、本実施形態では、シリンダ24を回転させる構成となっているが、プランジャ22、あるいは、プランジャ22とシリンダ24の両方を回転させるようにしてもよい。
【0041】
また、本実施形態では、シリンダ側凹部66をらせん状の凹部としているが、周方向に進むにつれ、軸方向位置が変動する形状であれば、例えば、円弧状、波状などであってもよい。また、シリンダ側凹部66を線状形状とした場合、プランジャ側凹部62も、軸方向長さを有した線状形状であれば、傾斜線形状のほか、長軸に平行な縦線形状、円弧形状などであってもよい。また、図10に示すように、シリンダ側凹部66を、先端側が傾斜した台形の凹部とするのであれば、プランジャ側凹部62は、点状や、周方向に平行な横線形状などのように、軸方向長さを実質的に有さない形状の凹部であってもよい。また、当然ながら、図11に示すように、シリンダ側凹部66を、先端側が傾斜した台形の凹部とし、かつ、プランジャ側凹部62を傾斜線状としてもよい。この場合であっても、上述の実施形態と同様に、シリンダ24の回転に応じて、無効期間を調整することができる。
【0042】
次に、他の実施形態について図12、図13を参照して説明する。図12は、第二実施形態のダイアフラムポンプ12の構成を示す図である。また、図13はプランジャ22およびシリンダ24の概略展開図である。この図13の上段、中段、下段は、それぞれ、プランジャ22の運動無効化期間を補償行程の0%、50%、100%に調整した場合を示している。
【0043】
この第二実施形態において、第一実施形態との大きな違いは、シリンダ24が回転するのではなく、軸方向に進退する点である。すなわち、このダイアフラムポンプ12において、シリンダ24は、軸方向に進退可能に軸支されており、当該シリンダ24の外周には、平歯車に替えて、軸方向に延びるラック70が形成されている。当該ラック70には、ユーザにより回転操作されるピニオン72が歯合している。そして、ユーザが当該ピニオン72を回転操作することにより、シリンダ24が、軸方向に進退する。
【0044】
このシリンダ24の内周面には、作動流体貯留部に連通するシリンダ側凹部66が形成されている。このシリンダ側凹部66は、軸方向に幅のある形状であれば、特に限定されないが、ここでは、図13に示すように、先端側が傾斜した台形の凹部の場合を例に挙げて説明する。
【0045】
プランジャ22の外周囲に形成されるプランジャ側凹部62も、その形状は特に限定されないが、本実施形態では、図13に示すように、シリンダ側凹部66の先端部の傾斜と等しい角度で傾斜した線状の凹部をプランジャ側凹部62としている。このプランジャ側凹部62は、その周方向範囲の少なくとも一部が、シリンダ側凹部66の周方向範囲と重複するように設定されている。
【0046】
かかる構成のダイアフラムポンプ12において、補償行程の無効期間を調整する様子について説明する。無効化期間を補償行程の0%にする場合、すなわち、補償行程の全期間において、プランジャ22の動きを有効にする場合を考える。この場合、図13の上段に示すように、このプランジャ22が最後端に位置した状態(タイミングcの状態)でも、シリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62とが重複しないような位置に、シリンダ24を軸方向に後退させる。補償行程は、プランジャ22を最も後退させた状態から、吐出方向に進出させる行程である。したがって、プランジャ22が最後端に位置した状態でシリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62とが重複していない場合、その後、プランジャ22を進出させても、両凹部62,66の重複は生じない。その結果、補償行程の全期間において、ポンプ室16と作動流体貯留室28とが非連通状態となり、補償運動が有効化される。
【0047】
一方、無効化期間を補償行程の100%にする場合、すなわち、補償行程の全期間において、プランジャ22の動きを無効にする場合を考える。この場合、図13の下段に示すように、シリンダ24を前進させて、補償行程が終了するタイミング(e)において、プランジャ側凹部62の後端が、シリンダ側凹部66と接するような位置に、シリンダ24の軸方向位置を調整する。かかる位置関係とすることで、補償行程の開始から終了までの間、両凹部62,66が重複し続けることになる。そして、その結果、補償行程の全期間において、ポンプ室16と作動流体貯留室28とが連通状態となり、補償運動が無効化される。
【0048】
そして、上述した無効化期間0%での軸方向位置と、無効化期間100%での軸方向一との間で、シリンダ24の軸方向位置を調整することで、この無効化期間を徐々に変化させることができる。例えば、両位置の中間位置にすることで、図13の中段に示すように、無効化期間を補償行程の50%にすることができる。
【0049】
このように、シリンダ24を進退させて、シリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62との軸方向の相対位置関係を連続的に変化させることで、補償行程においてプランジャ22の動きが無効化される割合も連続的に変化する。その結果、補償運動による過剰な容積減少を吸収でき、結果として、無脈動を達成できる。
【0050】
なお、ここで、説明した凹部62,66の形状等は、あくまで一例であり、シリンダ側凹部66およびプランジャ側凹部62の少なくとも一方が、軸方向幅が、補償行程でのプランジャ移動範囲(タイミングc〜eの間にプランジャ22が移動する距離)以上の形状であれば、他の形状でもよい。例えば、図14に示すように、シリンダ側凹部66が、周方向に延びる直線状であり、プランジャ側凹部62が、軸方向に延びる直線状であってもよい。
【0051】
また、第一実施形態では、シリンダ24の後側の空間を作動流体貯留部28としたが、図12に示すように、シリンダ24の前側の空間(中間室27)と、シリンダ側凹部66と、結ぶ流路74を形成し、中間室27を、作動流体貯留部として用いてもよい。この場合、全期間において、プランジャ22の外周面に形成されたプランジャ側凹部62が、中間室(作動流体貯留部)に露出しないように、その位置や移動範囲を調節すればよい。
【符号の説明】
【0052】
10 無脈動ポンプ、12 ダイアフラムポンプ、14 筐体、15 ダイアフラム、16 ポンプ室、18 対象流体室、20 圧力室、22 プランジャ、24 シリンダ、25,26 平歯車、28 作動流体貯留室、32 スプリング、34 カム、36 モータ、42 吸引側逆止弁、44 吐出側逆止弁、48 吸引管、50 吐出管、60 深穴、62 プランジャ側凹部、64 連通孔、66 シリンダ側凹部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアフラムポンプを複数備え、各ポンプの瞬時の合成吐出流量を一定とする無脈動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイアフラムポンプは、プランジャなどの往復運動子の往復動により、ダイアフラムを撓ませ、これにより、対象流体の吸引、吐出を交互に繰り返す。よって、ダイアフラムポンプ単体では、流体は脈動をもって吐出される。この脈動をなくすために複数のダイアフラムポンプを用い、これら複数のダイアフラムポンプの瞬時の合成吐出流量を常に一定とする無脈動ポンプが知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、2個のダイアフラムポンプを用いた無脈動ポンプが示されている。このポンプは、いずれか一方のダイアフラムポンプのみが対象流体を吐出する期間と、双方のダイアフラムポンプが同時に吐出する期間を繰り返して、流体の吐出を行う。一方のみによる吐出期間においては、一定の流量が吐出されるように往復運動子の運動が制御される。また、双方のダイアフラムポンプによる吐出期間においては、合成された瞬時の吐出流量が一定になるように、また前記一方のみの時の流量と等しくなるように、双方のポンプの往復運動子の運動が制御される。
【0004】
さらに、特許文献1のポンプにおいては、各ダイアフラムポンプの吐出開始初期における流量の減少についても補償するように構成され、更にはこの補償量についても調整可能となっている。吐出開始初期における流量の減少、すなわち容積効率の低下は、往復運動子の機械的な駆動部のがた、作動流体により動力伝達を行う場合の流体中に残留するエア、対象流体中の残留エア、ポンプの吸込側、吐出側に設けられる逆止弁の漏れなどが原因となっている。前記公報のポンプにおいては、吐出期間の開始前に、対象流体を吐出する方向に往復運動子を駆動制御する。ただし、このとき実際には取扱い流体は吐出されない。この吐出期間前の往復運動子は、想定される補償量に対して、より以上の吐出量となるように制御される。そして、補償量の過剰分については、エア抜き弁より作動流体を排出して、補償量が適正なものとなるように調整される。エア抜き弁には、作動流体が一時的に流れ込む調整室の容積を調節する容積調整機構が設けられており、ポンプの動作条件に応じて変化する容積効率に対応して排出量が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−321566号公報
【特許文献2】特許第3624062号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この特許文献1の技術によれば、吐出開始初期における流量の減少を補償することができ、微小脈動を防止することができる。しかし、この容積調整機構を利用した微小脈動の防止技術は、構成が複雑で、部品点数も多いなどの問題があった。そこで、本発明では、より簡易な構成で無脈動を達成し得る無脈動ポンプを提供することを目的とする。
【0007】
なお、特許文献2には、ハイドロリック・ロストモーション機構により、ポンプの平均流量を調整する技術が開示されている。この機構は、シリンダの内周面に作動油貯留部に連通する凹部を形成し、ピストンの外周面に圧力室に連通する液流通路を形成し、この凹部と液流通路の相対角度を調整することで、ピストンの往復運動において凹部と液流通路が重複する期間を調整する機構である。凹部と液流通路が重複する期間は、圧力室において圧力変化が生じないため、対象流体の吸引吐出が行なわれないことになる。したがって、凹部と液流通路が重複する期間を調整することにより、平均吐出流量を調整される。
【0008】
しかし、この特許文献2の技術は、あくまで、平均流量の調整を目的とするものである。そのため、当該特許文献2記載のハイドロリック・ロストモーション機構で流量調整を行なうと、吐出流量の波形が変化してしまう。一方、無脈動ポンプにおいては、各ポンプでの流量波形が予め設定されたとおりになることが必要であり、平均流量を変えるには、回転数(往復動周期)を変え、波形をそのままにする方法を取る。したがって、特許文献2に記載されているような吐出流量の波形を変化させる機構を、無脈動ポンプに適用することは、従来、考えられていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の無脈動ポンプは、圧力室に充填された作動流体を介して往復運動子の動きをダイアフラムに伝達することにより流体を吸引、吐出するダイアフラムポンプを複数備え、個々のダイアフラムポンプの瞬時の吐出流量を合計した合成吐出流量が常に一定になるように往復運動子を運動させる無脈動ポンプであって、各ダイアフラムポンプは、その外周面に、圧力室に連通する第一凹部が形成された往復運動子と、前記往復運動子が挿通され、その内周面に、作動流体貯留部に連通する第二凹部が形成されたシリンダと、前記往復運動子を往復運動させる駆動機構であって、前記複数のダイアフラムポンプの瞬時の吐出流量の総和を常に一定にするとともに、吐出行程の初期に発生する吐出量の減少を補償するために、想定される吐出減少量に対して過剰にポンプ室容積を減少させる補償行程を、吸引行程と前記吐出行程との間に実行させる駆動機構と、前記往復運動子およびシリンダを相対的に回転または軸方向に移動させて第一、第二凹部の相対位置関係を変更することで前記補償行程を無効化する期間を調整する調整手段と、を備え、補償行程外では第一、第二凹部が重複しない、ことを特徴とする。
【0010】
好適な態様では、前記調整手段は、前記往復運動子およびシリンダを相対的に回転させる手段であり、前記第一凹部および第二凹部は、往復運動子およびシリンダを予め規定された任意の角度、相対回転する間に、両凹部が補償行程の全期間に亘って重複する100%無効化状態から、両凹部が補償行程の全期間に亘って重複しない0%無効化状態まで、連続的に変化可能な形状である。
【0011】
他の好適な態様では、前記第一凹部は、軸方向に幅を有した傾斜線状の凹部であり、前記第二凹部は、補償行程の開始時における第一凹部の先端位置と、補償行程の終了時における第二凹部の後端位置と、を通ることができる線状の凹部である。この場合、前記第二凹部は、さらに、前記シリンダを周方向に回転した際に、補償行程の開始時における第一凹部の先端と、補償行程の開始時における第一凹部の後端と、に重複し得る線状の凹部である、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、往復運動子およびシリンダを相対的に回転させて第一、第二凹部の相対角度関係を変更することで前記補償行程を無効化する期間を調整できるので、無脈動をより簡易な構成で達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である無脈動ポンプの概略全体図である。
【図2】ダイアフラムポンプの構成を示す図である。
【図3】プランジャの側面図である。
【図4】シリンダの断面図である。
【図5】プランジャの速度の時間変化を示す図である。
【図6】吐出期間Pdの初期におけるプランジャの速度と吐出流量の詳細を示す図である。
【図7】プランジャおよびシリンダの概略展開図であり、上から順に、0%、50%、100%無効化した状態を示している。
【図8】プランジャの速度の時間変化を示す図であり、上から順に、0%、50%、100%無効化した状態を示している。
【図9】シリンダ側凹部の傾斜角度の条件を説明する図である。
【図10】他のシリンダ側凹部およびプランジャ側凹部の一例を示す図である。
【図11】他のシリンダ側凹部およびプランジャ側凹部の一例を示す図である。
【図12】第二実施形態におけるダイアフラムポンプの構成を示す図である。
【図13】プランジャおよびシリンダの概略展開図であり、上から順に、0%、50%、100%無効化した状態を示している。
【図14】他のシリンダ側凹部およびプランジャ側凹部の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。図1は、本実施形態に係る無脈動ポンプ10の概略構成を示す図である。また、図2は、ダイアフラムポンプ12の構成を示す図である。また、図3はプランジャ22の側面図、図4はシリンダ24の横断面図である。
【0015】
無脈動ポンプ10は、二つのダイアフラムポンプ12A,12Bを含む。これらのダイアフラムポンプ12A,12Bは同一の構造を有しており、以下において、これらを区別する必要がないときには、符号としてAまたはBを省略した「12」を用いて説明する。
【0016】
ダイアフラムポンプ12は、ポンプ室16を形成する筐体14と、当該筐体14の内部で進退するプランジャ22、プランジャ22が進退自在に挿通されたシリンダ24などを備えている。筐体14は、その内部が二つの仕切壁29a,29bにより三つの空間、すなわち、ポンプ室16、中間室27、作動流体貯留室28に区切られた略筒体である。ポンプ室16には、これを先端側と後端側とに二分するダイアフラム15が配置されている。以降、ダイアフラム15で分けられたポンプ室16の先端側を対象流体室18、後端側を圧力室20と記す。
【0017】
プランジャ22は、モータ36に駆動されるカム34、および、プランジャ22の末端を常にカム34に当接させるスプリング32の付勢力により、軸方向に往復進退する。このプランジャ22の運動は、圧力室20を満たす作動流体を介してダイアフラム15に伝達される。これによって、ダイアフラム15がたわんで往復運動し、ポンプ室16、特に対象流体が吸い込まれ、吐出される対象流体室18の容積変化が生じる。
【0018】
また、図3に示すように、このプランジャ22の内部には、プランジャ22の先端面から末端方向に延びる深穴60が、プランジャ22の外周面には、傾斜線状のプランジャ側凹部62が形成されている。このプランジャ側凹部62の端部には当該プランジャ側凹部62と深穴60とを連通する連通孔64が形成されており、プランジャ側凹部62は、連通孔64、深穴60を介して圧力室20に連通されている。
【0019】
二つの仕切壁29a,29bで囲まれた中間室27内には、シリンダ24が配置されている。シリンダは、仕切壁29bにより回転自在に保持されており、その後端は作動流体貯留室28に突出している。シリンダ24の内径は、プランジャ22の外径とほぼ等しく、プランジャ22は、当該シリンダ24の内周面に液密に接触しつつ往復摺動する。図4に示すように、シリンダ24の内周面には、らせん状に延びるシリンダ側凹部66が形成されている。このシリンダ側凹部66は、シリンダ24の後端まで延びており、作動流体貯留室28と連通している。本実施形態では、この作動流体貯留室28と連通するシリンダ側凹部66および圧力室20と連通するプランジャ側凹部62により、プランジャ22の動きを無効化するハイドロリック・ロストモーション機構を構成しているが、これについては後に詳説する。
【0020】
シリンダ24の外周面には、平歯車25が形成されている。この平歯車25は、ユーザにより回転操作される平歯車26に歯合している。この平歯車25および平歯車26から構成されるギアは、プランジャ側凹部62およびシリンダ側凹部66の相対角度関係を調整し、これにより、補償行程での容積減少量を調整する調整手段として機能するが、これについても、後に詳説する。
【0021】
対象流体室18には、吸引管48と吐出管50が接続されており、これらの管には、それぞれ吸引側逆止弁42、吐出側逆止弁44が設けられている。また、圧力室20には、当該圧力室20内に発生したエアを排出するためのエア抜き用逆止弁46も設けられている。
【0022】
ここで、上述したように、カム34によって制御されるプランジャ22の往復運動は、圧力室20を介してダイアフラム15に伝達され、対象流体室18の容積変化を生じさせる。対象流体室18の容積が増加するときには、吸引側逆止弁42は対象流体が対象流体室18に吸い込まれることを許容し、吐出側逆止弁44は、吐出管50からの逆流を阻止するように機能する。対象流体室18の容積が減少するときは、逆に、吸引側逆止弁42が対象流体の吸引管48への逆流を阻止し、吐出側逆止弁44は吐出管50への対象流体の流れを許容するように作用する。
【0023】
次に、本実施形態におけるプランジャ22の運動プロフィールについて説明する。図5は、二つのダイアフラムポンプ12A,12Bのプランジャ22の速度vの時間変化を示す図である。図5に示すとおり、二つのプランジャ22の速度波形は、位相が180°ずれているのみで、形状は同一である。
【0024】
個々のダイアフラムポンプ12の運動は、速度vが正である吐出期間Pdと、速度vが負である吸引期間Psと、さらに吐出期間Pdが始まる前の吸引期間Psとの間の期間である補償期間Pcを繰り返す。吐出期間Pdは、プランジャ22がポンプ室16内に進出し、その容積を縮小するように運動し、ポンプ室16内の対象流体を吐出する期間である。また、吸引期間Psは、プランジャ22が後退し、ポンプ室16の容積を拡大するように運動し、ポンプ室16内に吸引管48より対象流体を吸い込む期間である。補償期間Pcは、吐出期間Pd初期における吐出量の減少に対応するために設けられた期間であるが、この補償期間Pcについては、後に詳述する。
【0025】
吐出期間Pdは、さらに一方のダイアフラムポンプ12のみで対象流体の吐出を行う単独吐出期間Pd1と、双方のポンプ12の吐出を合成する合成吐出期間Pd2とからなる。合成吐出期間Pd2の合成された吐出流量は、単独吐出期間Pd1の吐出流量に一致する。この結果、二つのダイアフラムポンプ12A,12Bの瞬時の合成吐出流量は常に一定となる。
【0026】
次に、補償期間Pcについて詳説する。図6は、吐出期間Pdの初期におけるプランジャ22の速度vと、吐出流量qの詳細を示す図である。補償期間Pcを設けなかった場合、プランジャ22の速度vは破線で示すように吐出期間Pdの開始と共に増速するが、実際の吐出流量qは、実線で示すように吐出期間Pdの開始初期において、吐出しなくなる場合も含め、減少する。このときの吐出量の減少は図中斜線を施した部分の面積Ssに相当する。この減少は、機械的駆動部分のがた、ポンプ室16内のエア、逆止弁の漏れなどの各種の損失によって生じるものであり、無脈動ポンプ10の無脈動性を阻害する。また、この吐出量の減少量は、ある程度予想することができるが、当該ポンプの運転条件、ポンプの個体差などから正確に予測することは難しい。
【0027】
この吐出量の減少を補うために、前述の補償期間Pcが設けられており、このときプランジャ22は、進出方向に運動し、機械的駆動部分のがた、ポンプ室16内のエア、逆止弁の漏れなどによる損失を埋めるように、あらかじめポンプ室の容積を減少させる。
【0028】
この、損失を補償するためのプランジャ22の運動(以下、補償運動と記す)は、対象流体を吐出する方向の運動となるが、このときには吐出は行われない。このときのプランジャ22の補償運動によって減少するポンプ室16の容積は、図6において砂目ハッチングを施した台形部分の面積Scに相当する。このプランジャ22の補償運動によるポンプ室16の容積減少分の面積Scは、理想的には、損失による吐出量の減少量の面積Ssと等しくするべきである。補償運動によるポンプ室16の容積減少量(Sc)と、損失による吐出量の減少量(Ss)との間に差があると、これらの差分(Sa=Sc−Ss)に応じて過剰にポンプ室16の圧力が上昇し、意図しない吐出が行なわれるからである。意図しない吐出が生じると、瞬時の合計流量が変動してしまい、無脈動を実現できなくなる。
【0029】
しかし、損失による吐出量減少が生じることはあらかじめ想定されるが、その量(Ss)は、実際にはポンプの設計時点で見込むことが難しく、またポンプの運転圧力などの運転条件によっても変動する。補償運動によるポンプ室16容積減少量(Sc)は、プランジャ22の動き、すなわちカム34のプロフィールにより与えられるが、このプロフィールを後から変更するのは手間を要し、また運転条件の変化に対応して適宜変更することも困難である。
【0030】
そこで、本実施形態の無脈動ポンプ10においては、あらかじめ補償運動によるポンプ室容積減少量(Sc)を、損失による吐出量の減少量(Ss)の想定される最大値よりも過剰に設定し、これらの差分(Sa=Sc−Ss)である過剰な容積減少を、シリンダ側凹部66およびプランジャ側凹部62で構成されるハイドロリック・ロストモーション機構により吸収している。
【0031】
すなわち、本実施形態のハイドロリック・ロストモーション機構は、補償行程の一部期間において、プランジャ側凹部62やシリンダ側凹部66を介してポンプ室16と作動流体貯留室28を連通状態にすることで、プランジャ22の進退に伴うポンプ室16の圧力変動をなくし、プランジャ22の動きを無効化する。そして、この補償行程中におけるプランジャ22の動きを無効化する期間を調整することにより、過剰な圧力上昇を防止する。このプランジャ22の運動無効化期間の調整は、シリンダ24を回転させて、シリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62の相対角度を変更することで行なう。
【0032】
これについて図7、図8を参照して説明する。図7は、プランジャ22およびシリンダ24の概略展開図である。この図7の上段、中段、下段は、それぞれ、プランジャ22の運動無効化期間を補償行程の0%、50%、100%に調整した場合を示している。また、この図7において、砂目ハッチング部分は、シリンダ側凹部66部分である。また、図8は、プランジャ22の速度vの時間変化を示す図であり、この図8の上段、中段、下段は、それぞれ、無効化期間を補償行程の0%、50%、100%に調整した場合を示している。なお、図8において、砂目ハッチング箇所は、プランジャ22の動きが有効化されている期間を示している。また、図7おけるa〜eは、図8におけるタイミングa〜eを示している。
【0033】
既述したとおり、シリンダ24の内側面には、作動流体貯留室28に連通するらせん状のシリンダ側凹部66が形成されている。また、プランジャ22の外側面には、連通孔64、深穴60を介してポンプ室16に連通するプランジャ側凹部62が形成されている。したがって、このシリンダ側凹部66およびプランジャ側凹部62が重なると、ポンプ室16と作動流体貯留室28とが連通することになる。この場合、プランジャ22が進退しても、作動流体は、ポンプ室16から作動流体貯留室28に流出または作動流体貯留室28からポンプ室16に流入するため、ポンプ室16内の圧力変動が生じないことになる。その結果、対象流体の吸引吐出も行なわれず、プランジャ22の動きが無効化されることになる。
【0034】
本実施形態では、シリンダ24を回転させ、補償行程において、このシリンダ側凹部66およびプランジャ側凹部62の重複期間を調整することで、補償運動の無効化期間を調整している。なお、シリンダ24の回転は、筐体14外部から平歯車26を操作して、シリンダ24に取り付けられた平歯車25を回転させることで行われる。
【0035】
次に、実際に、無効化期間の調整の具体例について説明する。図8の上段に示すように、無効化期間を補償行程の0%にする場合、すなわち、補償行程の全期間において、プランジャ22の動きを有効にする場合を考える。この場合、図7の上段に示すように、このプランジャ22が最後端に位置した状態(タイミングcの状態)でも、シリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62とが重複しないような角度に、シリンダ24の角度を調整する。補償行程は、プランジャ22を最も後退させた状態から、吐出方向に進出させる行程である。したがって、プランジャ22が最後端に位置した状態でシリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62とが重複していない場合、その後、プランジャ22を進出させても、両凹部の重複は生じない。その結果、補償行程の全期間において、ポンプ室16と作動流体貯留室28とが非連通状態となり、補償運動が有効化される。
【0036】
一方、図8の下段に示すように、無効化期間を補償行程の100%にする場合、すなわち、補償行程の全期間において、プランジャ22の動きを無効にする場合を考える。この場合、図7の下段に示すように、シリンダ24を回転させて、補償行程が終了するタイミング(e)において、プランジャ側凹部62の後端が、シリンダ側凹部66と接するような角度に、シリンダ24の角度を調整する。かかる角度関係とすることで、補償行程の開始から終了までの間、両凹部が重複し続けることになる。そして、その結果、補償行程の全期間において、ポンプ室16と作動流体貯留室28とが連通状態となり、補償運動が無効化される。なお、この補償行程に先立って吸引行程も行なわれる。この吸引行程の終了間近である期間a〜cの間、プランジャ22は、補償行程と同じ範囲を移動する。その結果、図7の下段に示すように、補償行程の全期間においてプランジャ22の動きを無効化する場合、この吸引行程の終了間近である期間a〜cでもプランジャ22の動きが無効化(吸引動作が無効化)される。
【0037】
そして、上述した無効化期間0%での角度と、無効化期間100%での角度との間で、シリンダ24角度を回転させていくことで、この無効化期間を徐々に変化させることができる。例えば、両角度の中間角度にすることで、図7の中段に示すように、無効化期間を補償行程の50%にすることができる。この場合、プランジャ22が最後端に位置した状態(タイミングcの状態)で、プランジャ側凹部62のほぼ中央がシリンダ側凹部66と重複する。そして、プランジャ22が、補償行程でのストロークSの半分(S/2)進んだ時点で、両凹部の重複関係が解除され、ポンプ室16を作動流体貯留室28が非連通状態となる。その結果、図8の中断に示すように、補償行程の半分、および、当該補償行程に対応する吐出行程の終了間近期間b〜cだけ、プランジャ22の動きが無効化されることになる。
【0038】
このように、シリンダ24を回転させて、シリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62の相対角度関係を連続的に変化させることで、補償行程においてプランジャ22の動きが無効化される割合も連続的に変化する。その結果、補償運動による過剰な容積減少を吸収でき、結果として、無脈動を達成できる。
【0039】
なお、シリンダ側凹部66は、線状の凹部であるが、その傾斜角度等の条件について図9を参照して簡単に説明する。図9の右側に図示するように、無効期間100%を実現するためには、シリンダ側凹部66は、相対回転がない状態で、補償行程の開始時点(タイミングc時点)におけるプランジャ側凹部62の先端位置oと、補償行程の終了時点(タイミングe時点)におけるプランジャ側凹部62の後端位置pと、を通過し得る傾斜角度でなくてはならない。また、シリンダ24を360度回転する間に、補償期間0%から100%まで調整可能にするためには、シリンダ24を360度回転させる間に、補償行程の開始時点(タイミングc時点)におけるプランジャ側凹部62の先端位置oと、補償行程の開始時点(タイミングc時点)におけるプランジャ側凹部62の後端位置qと、重複し得る傾斜角度であることが望まれる。
【0040】
また、上述した形態は一例であり、シリンダ24とプランジャ22を相対回転させることにより、シリンダ側凹部66およびプランジャ側凹部62の重複期間を可変できるのであれば、他の構成であってもよい。例えば、本実施形態では、シリンダ24を回転させる構成となっているが、プランジャ22、あるいは、プランジャ22とシリンダ24の両方を回転させるようにしてもよい。
【0041】
また、本実施形態では、シリンダ側凹部66をらせん状の凹部としているが、周方向に進むにつれ、軸方向位置が変動する形状であれば、例えば、円弧状、波状などであってもよい。また、シリンダ側凹部66を線状形状とした場合、プランジャ側凹部62も、軸方向長さを有した線状形状であれば、傾斜線形状のほか、長軸に平行な縦線形状、円弧形状などであってもよい。また、図10に示すように、シリンダ側凹部66を、先端側が傾斜した台形の凹部とするのであれば、プランジャ側凹部62は、点状や、周方向に平行な横線形状などのように、軸方向長さを実質的に有さない形状の凹部であってもよい。また、当然ながら、図11に示すように、シリンダ側凹部66を、先端側が傾斜した台形の凹部とし、かつ、プランジャ側凹部62を傾斜線状としてもよい。この場合であっても、上述の実施形態と同様に、シリンダ24の回転に応じて、無効期間を調整することができる。
【0042】
次に、他の実施形態について図12、図13を参照して説明する。図12は、第二実施形態のダイアフラムポンプ12の構成を示す図である。また、図13はプランジャ22およびシリンダ24の概略展開図である。この図13の上段、中段、下段は、それぞれ、プランジャ22の運動無効化期間を補償行程の0%、50%、100%に調整した場合を示している。
【0043】
この第二実施形態において、第一実施形態との大きな違いは、シリンダ24が回転するのではなく、軸方向に進退する点である。すなわち、このダイアフラムポンプ12において、シリンダ24は、軸方向に進退可能に軸支されており、当該シリンダ24の外周には、平歯車に替えて、軸方向に延びるラック70が形成されている。当該ラック70には、ユーザにより回転操作されるピニオン72が歯合している。そして、ユーザが当該ピニオン72を回転操作することにより、シリンダ24が、軸方向に進退する。
【0044】
このシリンダ24の内周面には、作動流体貯留部に連通するシリンダ側凹部66が形成されている。このシリンダ側凹部66は、軸方向に幅のある形状であれば、特に限定されないが、ここでは、図13に示すように、先端側が傾斜した台形の凹部の場合を例に挙げて説明する。
【0045】
プランジャ22の外周囲に形成されるプランジャ側凹部62も、その形状は特に限定されないが、本実施形態では、図13に示すように、シリンダ側凹部66の先端部の傾斜と等しい角度で傾斜した線状の凹部をプランジャ側凹部62としている。このプランジャ側凹部62は、その周方向範囲の少なくとも一部が、シリンダ側凹部66の周方向範囲と重複するように設定されている。
【0046】
かかる構成のダイアフラムポンプ12において、補償行程の無効期間を調整する様子について説明する。無効化期間を補償行程の0%にする場合、すなわち、補償行程の全期間において、プランジャ22の動きを有効にする場合を考える。この場合、図13の上段に示すように、このプランジャ22が最後端に位置した状態(タイミングcの状態)でも、シリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62とが重複しないような位置に、シリンダ24を軸方向に後退させる。補償行程は、プランジャ22を最も後退させた状態から、吐出方向に進出させる行程である。したがって、プランジャ22が最後端に位置した状態でシリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62とが重複していない場合、その後、プランジャ22を進出させても、両凹部62,66の重複は生じない。その結果、補償行程の全期間において、ポンプ室16と作動流体貯留室28とが非連通状態となり、補償運動が有効化される。
【0047】
一方、無効化期間を補償行程の100%にする場合、すなわち、補償行程の全期間において、プランジャ22の動きを無効にする場合を考える。この場合、図13の下段に示すように、シリンダ24を前進させて、補償行程が終了するタイミング(e)において、プランジャ側凹部62の後端が、シリンダ側凹部66と接するような位置に、シリンダ24の軸方向位置を調整する。かかる位置関係とすることで、補償行程の開始から終了までの間、両凹部62,66が重複し続けることになる。そして、その結果、補償行程の全期間において、ポンプ室16と作動流体貯留室28とが連通状態となり、補償運動が無効化される。
【0048】
そして、上述した無効化期間0%での軸方向位置と、無効化期間100%での軸方向一との間で、シリンダ24の軸方向位置を調整することで、この無効化期間を徐々に変化させることができる。例えば、両位置の中間位置にすることで、図13の中段に示すように、無効化期間を補償行程の50%にすることができる。
【0049】
このように、シリンダ24を進退させて、シリンダ側凹部66とプランジャ側凹部62との軸方向の相対位置関係を連続的に変化させることで、補償行程においてプランジャ22の動きが無効化される割合も連続的に変化する。その結果、補償運動による過剰な容積減少を吸収でき、結果として、無脈動を達成できる。
【0050】
なお、ここで、説明した凹部62,66の形状等は、あくまで一例であり、シリンダ側凹部66およびプランジャ側凹部62の少なくとも一方が、軸方向幅が、補償行程でのプランジャ移動範囲(タイミングc〜eの間にプランジャ22が移動する距離)以上の形状であれば、他の形状でもよい。例えば、図14に示すように、シリンダ側凹部66が、周方向に延びる直線状であり、プランジャ側凹部62が、軸方向に延びる直線状であってもよい。
【0051】
また、第一実施形態では、シリンダ24の後側の空間を作動流体貯留部28としたが、図12に示すように、シリンダ24の前側の空間(中間室27)と、シリンダ側凹部66と、結ぶ流路74を形成し、中間室27を、作動流体貯留部として用いてもよい。この場合、全期間において、プランジャ22の外周面に形成されたプランジャ側凹部62が、中間室(作動流体貯留部)に露出しないように、その位置や移動範囲を調節すればよい。
【符号の説明】
【0052】
10 無脈動ポンプ、12 ダイアフラムポンプ、14 筐体、15 ダイアフラム、16 ポンプ室、18 対象流体室、20 圧力室、22 プランジャ、24 シリンダ、25,26 平歯車、28 作動流体貯留室、32 スプリング、34 カム、36 モータ、42 吸引側逆止弁、44 吐出側逆止弁、48 吸引管、50 吐出管、60 深穴、62 プランジャ側凹部、64 連通孔、66 シリンダ側凹部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室に充填された作動流体を介して往復運動子の動きをダイアフラムに伝達することにより流体を吸引、吐出するダイアフラムポンプを複数備え、個々のダイアフラムポンプの瞬時の吐出流量を合計した合成吐出流量が常に一定になるように往復運動子を運動させる無脈動ポンプであって、
各ダイアフラムポンプは、
その外周面に、圧力室に連通する第一凹部が形成された往復運動子と、
前記往復運動子が挿通され、その内周面に、作動流体貯留部に連通する第二凹部が形成されたシリンダと、
前記往復運動子を往復運動させる駆動機構であって、前記複数のダイアフラムポンプの瞬時の吐出流量の総和を常に一定にするとともに、吐出行程の初期に発生する吐出量の減少を補償するために、想定される吐出減少量に対して過剰にポンプ室容積を減少させる補償行程を、吸引行程と前記吐出行程との間に実行させる駆動機構と、
前記往復運動子およびシリンダを相対的に回転または軸方向に移動させて第一、第二凹部の相対位置関係を変更することで前記補償行程を無効化する期間を調整する調整手段と、
を備え、
補償行程外では第一、第二凹部が重複しない、
ことを特徴とする無脈動ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の無脈動ポンプであって、
前記調整手段は、前記往復運動子およびシリンダを相対的に回転させる手段であり、
前記第一凹部および第二凹部は、往復運動子およびシリンダを予め規定された任意の角度、相対回転する間に、両凹部が補償行程の全期間に亘って重複する100%無効化状態から、両凹部が補償行程の全期間に亘って重複しない0%無効化状態まで、連続的に変化可能な形状である、
ことを特徴とする無脈動ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の無脈動ポンプであって、
前記第一凹部は、軸方向に幅を有した傾斜線状の凹部であり、
前記第二凹部は、補償行程の開始時における第一凹部の先端位置と、補償行程の終了時における第二凹部の後端位置と、を通ることができる線状の凹部である、
ことを特徴とする無脈動ポンプ。
【請求項4】
請求項2に記載の無脈動ポンプであって、
前記第二凹部は、さらに、前記シリンダを周方向に回転した際に、補償行程の開始時における第一凹部の先端と、補償行程の開始時における第一凹部の後端と、に重複し得る線状の凹部である、
ことを特徴とする無脈動ポンプ。
【請求項1】
圧力室に充填された作動流体を介して往復運動子の動きをダイアフラムに伝達することにより流体を吸引、吐出するダイアフラムポンプを複数備え、個々のダイアフラムポンプの瞬時の吐出流量を合計した合成吐出流量が常に一定になるように往復運動子を運動させる無脈動ポンプであって、
各ダイアフラムポンプは、
その外周面に、圧力室に連通する第一凹部が形成された往復運動子と、
前記往復運動子が挿通され、その内周面に、作動流体貯留部に連通する第二凹部が形成されたシリンダと、
前記往復運動子を往復運動させる駆動機構であって、前記複数のダイアフラムポンプの瞬時の吐出流量の総和を常に一定にするとともに、吐出行程の初期に発生する吐出量の減少を補償するために、想定される吐出減少量に対して過剰にポンプ室容積を減少させる補償行程を、吸引行程と前記吐出行程との間に実行させる駆動機構と、
前記往復運動子およびシリンダを相対的に回転または軸方向に移動させて第一、第二凹部の相対位置関係を変更することで前記補償行程を無効化する期間を調整する調整手段と、
を備え、
補償行程外では第一、第二凹部が重複しない、
ことを特徴とする無脈動ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の無脈動ポンプであって、
前記調整手段は、前記往復運動子およびシリンダを相対的に回転させる手段であり、
前記第一凹部および第二凹部は、往復運動子およびシリンダを予め規定された任意の角度、相対回転する間に、両凹部が補償行程の全期間に亘って重複する100%無効化状態から、両凹部が補償行程の全期間に亘って重複しない0%無効化状態まで、連続的に変化可能な形状である、
ことを特徴とする無脈動ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の無脈動ポンプであって、
前記第一凹部は、軸方向に幅を有した傾斜線状の凹部であり、
前記第二凹部は、補償行程の開始時における第一凹部の先端位置と、補償行程の終了時における第二凹部の後端位置と、を通ることができる線状の凹部である、
ことを特徴とする無脈動ポンプ。
【請求項4】
請求項2に記載の無脈動ポンプであって、
前記第二凹部は、さらに、前記シリンダを周方向に回転した際に、補償行程の開始時における第一凹部の先端と、補償行程の開始時における第一凹部の後端と、に重複し得る線状の凹部である、
ことを特徴とする無脈動ポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−29080(P2013−29080A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166348(P2011−166348)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】
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