説明

無針微小突起システム

患者への薬剤の注入のための無針微小突起システムは、患者の角質層に侵入するに足る長さを有する複数の微小突起を備えている。化学的に神経を麻痺させる薬剤が微小突起に配置され、前記微小突起を支持し、前記角質層への微小突起の一様な侵入を可能とするために、患者の身体の選定された部分に前記微小突起を適合させるために、基体が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概ね薬剤用の供給システムに関し、より詳細には、患者への薬剤の注入のための、無針微小突起をもった、伸縮性絆創膏(エラストプラスト:elastoplast)システムに関する。
【0002】
更に詳しく言えば、本発明は、化学的に神経を麻痺させる薬剤を、薬剤の有効性を所定の領域に制限し近接した組織に対する薬剤の影響を最小限にするために、制御された再現性のある方法で投与する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0003】
例えばボツリヌス毒素(ボツリヌス・トキシン:botulinum toxin)のような化学的に神経を麻痺させる薬剤(ケマ・ディーナベイティング:chemodenervating agent)が、多汗症や、眉間の皺や額の皺のような他の皮膚学上の適応症の治療に有効であることが見出されている。現行の治療法は、局所的(トピカル:topical)なもの、すなわち、例えば発汗抑制剤、クリーム及び全身性の製品などを含んでいる。これらの殆どは、作用が短いか有効でないかの少なくとも何れかである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
説明したように、発汗の改善や皺の除去における顕著な好結果が、ボツリヌス毒素の注入の作用を通じて達成されてきた。この独特の治療は、革命的で効き目のあるものであるが、多数の注入剤の投与を必要とするため、あいにく、患者は、著しい程度の拘束及び不快な状況下に置かれる。
【0005】
更に、各注入は感染の可能性を示すので、注入は典型的には互いに離間させられ、そのことは、薬剤濃度のピークと谷をもたらすことになる。
【0006】
表皮とも言われるが、皮膚の上皮層は、浸透に対する障壁をもたらす皮膚の一部であり、4つの層から構成されている。これらの層は、角質層と呼ばれる最外側の層と、その下に横たわる、顆粒層、マルピーギ(malpighii)層及び胚芽層と呼ばれる3つの層である。
【0007】
本発明は、多汗症、顔の皺を含む皮膚の皺の治療における神経毒の皮内投与のためのシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、患者の角質層に侵入するに足る長さと、複数の微小突起上に又はその内部に配置された化学的に神経を麻痺させる薬剤とを含む、患者への薬剤の注入のための無針微小突起システムを提供する。
【0009】
それ自体に伴って微小突起を支持するために、基体(サブストレート:substrate)が備えられる。基体は、角質層への微小突起の一様な侵入を可能とするために、患者の身体の選定された部分に適合する形状を特徴としている。
【0010】
本発明の一実施形態においては、微小突起の1つの複数体(プルラリティ:plurality)が基体の片側に配置され、微小突起の今一つの複数体が前記基体の他側に配置されることで、微小突起の2つの複数体が設けられる。
【0011】
この実施形態のための好ましい形状は、患者の手のひら内に位置する基体サイズを有しており、好ましくは、本発明に係る化学的に神経を麻痺させる薬剤は、ボツリヌス毒素、好ましくはタイプAを含んでいる。
【0012】
この実施形態を利用する本発明に係る方法は、基本的には、患者の手のひらに適合する形状を有する基体を用意する工程(ステップ:step)を含み、前記基体は、当該基体の向かい合った両側面に配置された微小突起を有している。基体は、患者の手のひらの角質層に侵入するに十分な長さを有している。
【0013】
化学的に神経を麻痺させる薬剤が微小突起による供給のために備えられ、化学的に神経を麻痺させる薬剤を両方の手のひらに同時に供給する効果を及ぼすために、患者は、一方の手のひらに基体を配置し、他方の手のひらを前記基体に対して押圧するように、指示(インストラクション:instruction)を受ける。
【0014】
本発明の今一つの実施形態においては、基体は、患者の腋か(腋の下の窪み)に適合する寸法(サイズ:size)及び形状であり、本発明の更に他の実施形態では、基体は、患者の眉間の領域への適用のためのサイズ及び形状である。
【0015】
更に、選定された部位で、基体のサイズ及び形状を受け合うのに好適な部位で、患者の皮膚に一時的に基体を付着させるために、基体上に配置された接着剤が備えられても良い。
【0016】
微小突起の角質層への一様な侵入をより促進するために、基体は好ましくは可撓性(フレキシブル:flexible)である。
【0017】
本発明は、添付図面と共に以下の詳細な説明を参照してより明瞭に理解され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1を参照すれば、図1には図示されていない患者への薬剤(不図示)の注入のための、本発明に係る無針微小突起システム10が示されている。
【0019】
前記システム10は、全体として、基体24の対向する両側20,22上に配設された微小突起16,18の2つの複数体12,14を有している。
【0020】
微小突起16,18は、適当なものであれば、如何なるサイズ及び形態であってもよく、また、好ましくはステンレス鋼であるが、他の不活性な材料で形成されてもよい。それらは、例えばシリコンやポリプロピレンのような好ましくは不活性な基台(プラットフォーム:platform)である基体に直接に植え込まれる。材料の適切な選定を伴って、微小突起と基体とは一体的に形成されてもよい。
【0021】
化学的に神経を麻痺させる薬剤、好ましくはボツリヌス毒素が微小突起16,18上に配置され、従来のやり方で、除去可能なライナー(liner)で覆われる。かかるライナーは、使用できるよう微小突起16,18を露出させるために除去可能である。
【0022】
図2及び3により明瞭に示されるように、基体22は、患者の手のひら36に適合するようにサイズ及び形状が設定されており、そのことは、図3に示すように本発明に従った方法を可能にしている。そこでは、患者は、インストラクションに従って、化学的に神経を麻痺させる薬剤を両方の手のひら36,38に同時に供給する効果を及ぼすために、一方の手のひら36上にシステム10を載せ、他方の手のひら38を前記システム10に対して押圧する。
【0023】
薬剤を供給するためのこの方法は、多汗症の治療に適している。好ましくは、患者の手のひら36,38への微小突起16,18の一様な侵入をそれぞれ可能にするために、基体はフレキシブルである。本発明における使用に適した微小突起は、好適な微小突起16,18及び基体24の説明のために、引用することによりその全体がここに組み込まれるものであるが、米国特許6,322,808号に記載されている。
【0024】
図4及び5を参照すれば、本発明に係る代替的な実施形態44,46が示されており、それらは、更に、基体の部分48,50を患者の皮膚に一時的に付着させるために接着剤を含んでいる露出部分48,50をそれぞれ有している。患者の眼に近接し患者の眉間の領域にある皺を取り除くための、実施形態44の適用例を説明する図6及び7を参照のこと。
【0025】
本発明の他の実施形態56では、図8に示されるように、基体58は、患者の腋か60に適合するサイズ及び形状である。
【0026】
図9−10は、基体68,70をそれぞれ説明する代替的な実施形態64,66であり、それらは、ユーザの手のひら74及び指76に対して位置させるサイズ及び形状に、また、ユーザの足裏80及び足指80に対して位置させるサイズ及び形状に、設定されている。様々の手袋(グローブ:globe)サイズ及び靴サイズが、実施形態64,66を使用のために製作するのに用いることができる。
【0027】
図11は、上述の微小突起16の拡大図であり、ボツリヌス毒素で覆われてもよく、或いはその代わりに、ボツリヌス毒素を含有した溶液で満たされてもよい。
【0028】
この事例では、微小突起16の背後に貯留部90が設けられ、微小突起からボツリヌス毒素の供給を成し遂げるように、貯留部への圧力の作用を可能ならしめるために、裏材(バッキング:backing)で覆われてもよい。
【0029】
微小突起の長さは、治療上の神経毒により対象とされる特定の組織の解剖学的構造によって変わることが、理解されるべきである。
【0030】
上記では、本発明が役立つように用いられるやり方を説明する目的で、特定の本発明に係る無針微小突起のエラストプラスト・システムが説明されてきたが、本発明はこれに限定されるものではないことが理解されるべきである。すなわち、本発明は、好適に、列挙された要素を備え、列挙された要素からなり、或いは本質的に列挙された要素からなる。更に、ここに好適に説明的に開示された発明は、ここには特に開示されていない何らかの要素がないときにも実行することができる。従って、当業者にとって思い付く、如何なる及びあらゆる修正,変更ならびに相当する構成は、添付した請求の範囲に規定された発明の範囲内であることが考慮されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】基体の対向する側面に配置された複数の微小突起の2つの群を概略的に示す、本発明の一実施形態の側面図である。
【図2】ユーザの手のひら内に位置させるためにサイズが決められた基体を含む、図1に示されたシステムの使用を説明する図である。
【図3】ユーザの手のひら内に位置させるためにサイズが決められた基体を含む、図1に示されたシステムの使用を説明する図である。
【図4】複数の微小突起の単一の群と、微小突起を支持し患者の皮膚に基体を一時的に付着させる接着剤を有すると共に選定された身体部分に適合する形状を有する基体とを用いる、本発明に係るシステムの他の実施形態を示す図である。
【図5】複数の微小突起の単一の群と、微小突起を支持し患者の皮膚に基体を一時的に付着させる接着剤を有すると共に選定された身体部分に適合する形状を有する基体とを用いる、本発明に係るシステムの他の実施形態を示す図である。
【図6】図4及び5に示す実施形態の適用例を説明する図である。
【図7】図4及び5に示す実施形態の適用例を説明する図である。
【図8】基体が患者の脇の下の窪み(腋か)に適合するサイズ及び形状に設定されている、本発明の代替的な一実施形態を示す図である。
【図9】基体がユーザの手のひら及び指に対して位置させるサイズ及び形状に設定されている、本発明の代替的な一実施形態を示す図である。
【図10】基体がユーザの足裏及び足指に対して位置させるサイズ及び形状に設定されている、本発明の代替的な一実施形態を示す図である。
【図11】図1及び4に示す微小突起の拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者への薬剤の注入のための無針微小突起システムであって、
患者の角質層に侵入するに足る長さを有する複数の微小突起と、
前記微小突起に配置された化学的に神経を麻痺させる薬剤と、
前記微小突起を支持する基体であって、前記角質層への微小突起の一様な侵入を可能とするために、患者の身体の選定された部分に適合する形状を有している基体と、
を備えていることを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、
微小突起の2つの複数体を備え、微小突起の1つの複数体は前記基体の片側に配置され、微小突起の今一つの複数体は前記基体の他側に配置されている、
ことを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のシステムにおいて、
前記基体は、前記患者の手のひら内への配置用のサイズであることを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記基体は、ユーザの手のひら及び指への配置用のサイズ及び形状であることを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記基体は、患者の腋かに適合したサイズ及び形状であることを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記基体は、ユーザの足の足裏への配置用のサイズ及び形状であることを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記基体は、ユーザの足の足裏および足指への配置用のサイズ及び形状であることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記基体は、前記患者の眉間領域への適用のためのサイズ及び形状であることを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項1に記載のシステムにおいて、
患者の皮膚に前記基体を一時的に付着させるために、基体上に配置された接着剤を更に備えている、ことを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項7に記載のシステムにおいて、
患者の皮膚に前記基体を一時的に当該基体上で付着させるために、基体上に配置された接着剤を更に備えている、ことを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項9及び10の何れかに記載のシステムにおいて、
前記接着剤は前記微小突起を取り囲んでいることを特徴とするシステム。
【請求項12】
請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,10及び11の何れかに記載のシステムにおいて、
前記基体はフレキシブルであることを特徴とするシステム。
【請求項13】
請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,10及び11の何れかに記載のシステムにおいて、
前記化学的に神経を麻痺させる薬剤は、前記微小突起上に被覆されていることを特徴とするシステム。
【請求項14】
請求項13に記載のシステムにおいて、
前記化学的に神経を麻痺させる薬剤は、ボツリヌス毒素を含むことを特徴とするシステム。
【請求項15】
請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9,10及び11の何れかに記載のシステムにおいて、
前記化学的に神経を麻痺させる薬剤は、前記微小突起内に配置されていることを特徴とするシステム。
【請求項16】
請求項15に記載のシステムにおいて、
前記化学的に神経を麻痺させる薬剤は、ボツリヌス毒素を含むことを特徴とするシステム。
【請求項17】
患者の手のひらに薬剤を供給する方法であって、
患者の手のひらに適合する形状を有する基体であって、当該基体の向かい合った両側面に配置された微小突起を有し、該微小突起は患者の手のひらの角質層に侵入するに足る長さを有している、基体を用意するステップと、
前記微小突起による供給のために化学的に神経を麻痺させる薬剤を用意するステップと、
前記化学的に神経を麻痺させる薬剤を両方の手のひらに同時に供給する効果を及ぼすために、一方の手のひらに基体を配置し、他方の手のひらを前記基体に対して押圧するように、患者に指示するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、
前記化学的に神経を麻痺させる薬剤は、ボツリヌス毒素を含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項17及び18の何れかに記載の方法において、
フレキシブルな基体を用意するステップを更に備えることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項17及び18の何れかに記載の方法において、
前記微小突起を前記化学的に神経を麻痺させる薬剤で被覆するステップを更に備えることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項17及び18の何れかに記載の方法において、
前記微小突起を前記化学的に神経を麻痺させる薬剤で満たすステップを更に備えることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−509723(P2008−509723A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525605(P2007−525605)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2005/019489
【国際公開番号】WO2006/022965
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】