説明

熱交換器用銅合金管及びその製造方法

【課題】 ろう付け性、ろう付け加熱前及びろう付け加熱後の耐力及び疲労強度が優れた熱交換器用銅合金管を提供すること、及びこの銅合金管を、酸化物等の巻き込み、割れ又は破断の発生が生じることなく、また結晶粒の粗大化が生じることなく、製造することができる熱交換器用銅合金管の製造方法を提供する。
【解決手段】 熱交換器用銅合金管は、Sn:0.1乃至1.0質量%、P:0.005乃至0.1質量%、Fe:0.03乃至0.1質量%、O:0.005質量%以下及びH:0.0002質量%以下を含有し、必要におうじてZn:0.01乃至1.0質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有し、平均結晶粒径が30μm以下であり、0.2%耐力が95乃至200N/mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコン及び大型空調機等の熱交換器に使用する銅合金管の製造方法に関し、特に、ろう付け加熱前及びろう付け加熱後の0.2%耐力及び疲労強度が優れた熱交換器用銅合金管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、エアコンの熱交換器は、ヘアピン状に曲げ加工したU字形銅管(以下、銅管という場合は銅合金管も含む)をアルミニウムフィンの貫通孔に通し、前記銅管を治具により拡管することにより銅管とアルミニウムフィンとを密着させ、更に、銅管の開放端を2次拡管及び3次拡管し、この拡管部にU字形に曲げ加工した銅管(リターンベンド管)を挿入し、りん銅ろうにより銅管を拡管部にろう付けすることにより製造されている。
【0003】
このため、熱交換器に使用される銅管には、曲げ加工性及びろう付け性が良好であることが要求される。従って、これらの特性が良好であり、更に熱伝導率が良く、適切な強度を有するりん脱酸銅が広く使用されている。
【0004】
上述のような熱交換器の組立に使用されるりん銅ろう(BCuP−2:Cu−0.68〜0.75質量%P)の融点は805℃(液相線温度)であり、ろう付け部は800℃以上の温度に数秒乃至数十秒間加熱される。このため、ろう付け部及びその近傍のりん脱酸銅管はその他の部分に比べて結晶粒が粗大化し、軟化により強度が低下した状態となってしまう。
【0005】
ところで、エアコンなどの熱交換器に使用する熱媒体(冷媒)には、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)系フロンが広く使用されてきた。しかしながら、フロンによるオゾン層破壊の懸念よりHCFC系フロンの代替冷媒としてHFC(ハイドロフルオロカーボン)系フロンが使用されるようになってきた。R407C等のHFC系フロンを冷媒に使用した熱交換器において、HCFC系フロンを使用した場合と同じ伝熱性能を維持するには、運転時の凝縮圧力をHCFC系フロンの1.5倍以上に大きくする必要がある。
【0006】
また、エアコンの製造コストを低減するために、伝熱管である銅管に対しては質量低減の要求が強まり、銅管の薄肉化が進んでいる。この銅管の薄肉化に伴い、従来から使用されているりん脱酸銅管については、疲れ強さが低いことが問題となっている。また、このような熱交換器の機内配管には更に大きな圧力が作用するため、機内配管に使用される銅管には、強度及び疲れ強さに対する要求が更に厳しいものとなっている。
【0007】
このような要求に応えるべく、0.2%耐力と疲れ強さが優れた銅合金管として、例えば、Co:0.02乃至0.2質量%、P:0.01乃至0.05質量%、C:1乃至20ppmを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、不純物の酸素が50ppm以下である熱交換器用電縫溶接銅合金管が提案されている(特許文献1)。また、Fe:0.005乃至0.8質量%、P:0.01乃至0.026質量%、Zr:0.005乃至0.3質量%及びO:3乃至30ppmを含有し、残部はCu及び不可避的不純物からなる組成を有する熱交換器用継目無銅合金管も提案されている(特許文献2)。
【0008】
一方、銅合金の素管の製造方法としては、溶解鋳造により円柱型のインゴットを製造し、所定の長さに切断した後、熱間押出加工する方法が広く採用されている。この熱間押出加工の前には、ビレットを所定の温度まで加熱し、押出後には、水中押出又は水冷押出により、素管が冷却される。そして、押出素管は、圧延工程、抽伸工程、焼鈍工程(必要に応じて)を経て、更に必要に応じて、内面溝付加工工程を経て、熱交換器用銅合金管となる。
【0009】
しかしながら、前述の従来の銅合金管は、Coのりん化物又はZr等が析出することにより、強度と疲れ強さを向上させている。このような析出型銅合金に、所望の強度と疲れ強さを持たせるためには、銅合金管の製造工程において、焼入れ、加熱温度及び加熱速度等の熱処理条件を狭い範囲で制御することが必要になり、前述の製造条件のばらつきは製造される銅合金管の特性の不安定さに繋がるため、加熱温度及び加熱速度のばらつきが発生しないように、生産設備の改造及び新設等に新たな投資が必要になるという問題点がある。
【0010】
また、前記析出型銅合金においては、600℃程度までの加熱では優れた耐熱性を有するが、ろう付けの高温加熱条件では析出物が固溶してしまい、結晶粒が急成長するため、耐力及び疲れ強さの低下は固溶型の銅合金よりむしろ大きくなる場合がある。このため、組立てた熱交換器においては、目標とする耐力及び疲れ強さを保持できなくなってしまう。
【0011】
更に、銅合金管の製造方法において、押出の加熱条件及び冷却条件が不安定であると、押出素管の結晶粒の粗大化及び酸化物等の巻き込みの原因となる。
【0012】
そこで、本願発明者等が、このような従前の銅合金管の欠点を解消する銅合金管及びその製造方法を既に提案した(特許文献3,特許文献4)
【0013】
【特許文献1】特開2000−199023号公報
【特許文献2】特公昭58−39900号公報
【特許文献3】特開2003−268467
【特許文献4】特開2004−292917
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、この特許文献3及び4に記載の銅合金管及びその製造方法においては、その所期の目的は達成できたものの、近時の耐力及び強度の更に一層の向上の要求には応えられていない。
【0015】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、ろう付け性、ろう付け加熱前及びろう付け加熱後の耐力及び疲労強度が優れた熱交換器用銅合金管を提供すること、及びこの銅合金管を、酸化物等の巻き込み、割れ又は破断の発生が生じることなく、また結晶粒の粗大化が生じることなく、製造することができる熱交換器用銅合金管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る熱交換器用銅合金管は、Sn:0.1乃至1.0質量%、P:0.005乃至0.1質量%、Fe:0.03乃至0.1質量%、O:0.005質量%以下及びH:0.0002質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有し、平均結晶粒径が30μm以下であり、0.2%耐力が95乃至200N/mmであることを特徴とする。
【0017】
この場合に、前記熱交換器用銅合金管は、更に、Zn:0.01乃至1.0質量%を含有することができる。また、前記熱交換器用銅合金管は、例えば、管の内面の複数の螺旋溝及び隣接する前記螺旋溝間に形成された複数のフィンを有する内面溝付管であることそして、本発明の熱交換器用銅合金管は、850℃で30秒間加熱した後の平均結晶粒径が100μm以下、0.2%耐力が40N/mm以上、疲れ試験において繰り返し応力を92MPaとしたとき、繰り返し数n=107回で破断しない疲労強度を有することが好ましい。
【0018】
本発明に係る熱交換器用銅合金管の製造方法は、Sn:0.1乃至1.0質量%、P:0.005乃至0.1質量%、Fe:0.03乃至0.1質量%、O:0.005質量%以下及びH:0.0002質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有するビレットを、750乃至1000℃に加熱して熱間押出加工した後、750℃以上の温度から水冷することにより、100℃までの平均冷却速度が1.5℃/秒以上となるように冷却し、その後、加工率92%以下の圧延加工及び1回の抽伸加工における加工率が40%以下の抽伸加工を少なくとも1回行うことを特徴とする。
【0019】
前記ビレットは、更に、Zn:0.01乃至1.0質量%を含有することができる。この場合に、前記抽伸加工後に、450乃至700℃の温度に5乃至20分間加熱して焼鈍処理することにより、0.2%耐力が95乃至200N/mmの銅合金管を得ることが好ましい。
【0020】
また、前記抽伸加工の後に、管内面に溝加工を施す工程を有し、前記溝加工工程は、管内にフローティングプラグとこのフローティングプラグに連結軸を介して連結され前記連結軸を中心として回転可能の溝付プラグとを配置すると共に、前記フローティングプラグを縮径ダイスに係合させて前記溝付プラグを管周方向に沿って少なくとも1個配置された転造ボールの配設位置に位置させる工程と、前記転造ボールにより前記素管を前記溝付プラグに押圧して縮径ダイス及び転造ボールにより順次縮径加工すると共に、前記素管の内面に溝形状を転写する工程と、整形ダイスにより前記内面に溝が転写された素管を縮径加工する工程とを有するものであり、これにより、内面溝付管を得ることができる。この場合に、前記溝加工工程の後に、450乃至700℃の温度に5乃至20分間加熱して焼鈍処理することにより、0.2%耐力が95乃至200N/mmの銅合金管を得ることが好ましい。更に、前記縮径加工された内面溝付管を、450乃至700℃の温度に5乃至20分間加熱して焼鈍処理することにより、0.2%耐力が95乃至200N/mmの銅合金管を得るこができる。
【0021】
なお、平均結晶粒径は、銅合金管の軸方向に平行の断面について、JISH0501に定められた切断法により、肉厚方向の平均結晶粒径を測定し、これを管軸方向に任意の10箇所で測定してそれらの平均を平均結晶粒径とした。0.2%耐力は、JISZ2241に準拠して求めた。疲れ強さは、JISZ2273に準拠した疲れ試験方法を使用して求めた。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ろう付け性、ろう付け加熱前及びろう付け加熱後の耐力及び疲労強度が優れた銅合金管が得られる。また、本発明の製造方法により、酸化物等の巻き込み、割れ又は破断の発生が生じることなく、また結晶粒の粗大化が生じることなく、銅合金管を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明者等がろう付け性、ろう付け加熱後の耐力及び疲れ強さが優れた熱交換器用銅合金管を開発すべく種々実験研究した結果、銅合金管のSn含有量、P含有量、Fe含有量、酸素含有量、水素含有量、平均結晶粒径を適切に規定することにより、ろう付け性、ろう付け加熱後の耐力及び疲れ強さが優れた銅合金管を得ることができることを見出した。
【0024】
以下、本発明の銅合金管の組成及び含有量の限定理由について説明する。
【0025】
Sn(錫):0.1乃至1.0質量%
Snが1.0質量%より多く含まれると、鋳塊における凝固偏析が激しくなると共に、押出時の変形抵抗も大きくなる。この鋳塊における偏析は、製品においても十分に解消されず、製品管の組織が不均一になり、この組織不均一により、機械的性質の低下及び耐食性の低下が生じやすい。凝固偏析を解消し、更に押出時の変形抵抗を低減できる押出条件にするためには、請求項1に記載の熱間押出条件では不十分であり、熱間押出前の加熱温度及び/又は加熱時間を増加させる必要があって、生産コストを増大させてしまう。また、Snの含有量が1.0質量%より多いと、ろうの濡れ拡がり性も低下する。従って、Snの含有量は1.0質量%以下とする。
【0026】
一方、Snが0.1質量%未満であると、ろう付け加熱後の0.2%耐力及び疲れ強度が不十分となる。このため、Snは0.1質量%以上含有させる。よって、Snの含有量は0.1乃至1.0質量%とする。
【0027】
P(リン):0.005乃至0.1質量%
脱酸を主目的として添加するPは、0.1質量%より多く含まれると、熱間押出時に割れが発生しやすくなると共に、応力腐食割れ感受性が高くなり、熱交換器としての信頼性を低下させる。一方、Pが0.005質量%未満の場合は、脱酸不足によりSnの酸化物が大量に発生し、鋳塊の健全性を低下させ、熱間押出時の巻き込みの原因となったり、熱間押出自体を困難にする。従って、Pの含有量は0.005乃至0.1質量%とする。
【0028】
Fe(鉄):0.03乃至0.1質量%
Feは析出効果により銅合金の耐力を向上させる。この耐力向上の効果を得るために、Fe含有量は、0.03質量%以上とする。一方、Feが0.1質量%を超えて添加されると、湯流れ、鋳肌及び芯割れ等の鋳造性が劣化すると共に、押出性が劣化する。即ち、Feを0.1質量%以下にすることにより、鋳造性及び押出性の劣化が防止されて、生産性が向上する。また、Feを0.1質量%以下とすることにより、ろう付け性の劣化も防止される。これらの作用効果は、管内面に溝を形成した内面溝付管及び外面にフィンを形成した外面フィン加工管のいずれにおいても同様に奏される。
【0029】
酸素(O):0.005質量%以下
酸素が0.005質量%より多く含まれると、形成されたSn及びCuの酸化物が鋳塊に巻込まれ、鋳塊の健全性を低下させる。また、製造時の焼鈍工程において水素脆化を発生させやすくし、ろうの濡れ広がり性、0.2%耐力及び疲れ強さも低下させる。従って、酸素の含有量は0.005質量%以下とする。
【0030】
水素(H):0.0002質量%以下
水素が0.0002質量%より多く含まれると、熱間押出時の割れ、焼鈍時の膨れが発生しやすくなり、製品歩留りが低下する。従って、水素の含有量は0.0002質量%以下とする。
【0031】
Zn:0.01%乃至1.0質量%
Znを添加することにより、銅合金管の熱伝導率を大きく低下させることなく、強度、耐熱性及び疲れ強さを向上させることができる。また、Znの添加により、抽伸加工時及び転造加工時等の工具磨耗を低減させることができ、溝付きプラグの寿命を延長させる効果がある。Znの含有量が0.01質量%以下では、上述の効果が十分でない。一方、Znが1.0質量%より多く含まれると、応力腐食割れ感受性が高くなり、応力腐食割れの可能性が懸念される。従って、Znを添加する場合は、Znの含有量は0.01乃至1.0質量%とする。
【0032】
その他、Cu、Sn及びPの含有量の合計、又は、Cu、Sn、P及びZnの含有量の合計が、99.95質量%以上であることが望ましい。特に、これらの合計が99.98質量%以上であることが更に望ましい。
【0033】
また、Fe、Ni、Co、Mn、Mg、Cr、Ti、Zr及びAg等の元素は本発明の銅合金管に含まれるPと金属間化合物を形成して、母相中に析出するが、Fe以外の燐化合物が多く形成されると、同一の条件で加工熱処理を行っても、組織及び機械的性質がばらつきやすくなるため、Feを除くこれらの元素の合計含有量は、これらの合計値が0.03質量%以下であることが望ましい。
【0034】
なお、Al、Si、Pb、S、Li、Se、As、Ca及びInは、合計で0.01質量%以下までなら、含有させても本発明の銅合金管の耐熱性、疲れ強さなどの特性を劣化させることはない。
【0035】
次に、本発明の銅合金管の平均結晶粒径及び諸特性の限定理由について説明する。
【0036】
平均結晶粒径
平均結晶粒径は、銅合金管の軸方向に平行の断面について、JISH0501に定められた切断法により、肉厚方向の平均結晶粒径を測定し、これを管軸方向に任意の10箇所で測定してそれらの平均を平均結晶粒径とした。
【0037】
この平均結晶粒径が30μmを超えると、エアコン等の熱交換器の組立工程で銅合金管をヘアピン曲げ加工する際に、曲げ部に割れが発生しやすくなる。従って、平均結晶粒径は30μm以下とすることが必要である。なお、この平均結晶粒径は20μm以下であることがより望ましい。また、測定される10箇所の結晶粒径は夫々平均値の±20%以内であることが望ましい。
【0038】
0.2%耐力
上述の組成及び平均結晶粒径を有する銅合金管は、その0.2%耐力が95乃至200N/mmである。好ましくは、0.2%耐力は100乃至150N/mmである。本発明においては、Feを含有することにより、0.2%耐力を従来よりも高めることができる。そして、後述する焼鈍処理により、0.2%耐力のバラツキを抑制することができる。0.2%耐力が95N/mmである場合、加工時に管の直進性が損なわれ、曲げ性等に不都合が生じる可能性があり、また疲労強度が低下する虞がある。一方、0.2%耐力が200N/mmを超えると、管が硬くなり、曲げ加工性及び拡管加工性が低下して、加工時に割れ及び座屈が発生する。
【0039】
850℃に30秒間加熱した後の平均結晶粒径
この850℃に30秒間加熱したときの平均結晶粒径の測定法は、前述のとおりである。850℃に30秒間加熱することは、ろう付け時の加熱条件を想定しており、この加熱により平均結晶粒径が100μmを超えると、熱交換器のろう付け部及びその近傍において疲れ強さが低下し、エアコン等の運転時に高い圧力が必要なHFC系フロンを冷媒に使用すると、使用中に銅合金管の破壊が発生しやすくなる。従って、850℃に30秒間加熱した後の平均結晶粒径は100μm以下とすることが望ましい。なお、この平均結晶粒径は80μm以下であることが更に望ましい。
【0040】
850℃に30秒間加熱した後の0.2%耐力
銅合金管を850℃に30秒間加熱した後、JISZ2241に準拠した方法により引張り試験を行ない、オフセット法により0.2%耐力を算出する。850℃に30秒間加熱した後の0.2%耐力が40N/mm未満であると、運転圧力が高いHFC系フロン系の冷媒を使用したときに、銅合金管に疲労破壊が起こりやすい。従って、850℃に30秒間加熱した後の0.2%耐力が40N/mm以上であることが望ましい。
【0041】
850℃に30秒間加熱した後の疲れ強さ
銅合金管を850℃に30秒間加熱した後、JISZ2273に定められた疲れ試験方法により疲れ強さを測定する。この試験材の銅合金管を850℃に30秒間加熱した後、銅合金管の両管端を固定して92MPaの両振り応力を付与する。この場合に、繰り返し数10回未満で破断した場合は、運転時に高い圧力が必要なHFC系フロンを冷媒に使用する熱交換器では、その信頼性が低下する。従って、850℃に30秒間加熱した後の疲れ強さとして、繰返し応力92MPaで疲労試験を行ったとき、繰り返し数が10回以上であることが望ましい。
【0042】
以下、本発明の実施形態に係る銅合金管の製造方法について説明する。なお、この製造方法は、平滑管又は内面溝付管等の銅合金管を製造するものである。
【0043】
先ず、原料の電気銅を木炭被覆の元で溶解し、銅が溶解した後、Sn、Fe及び必要に応じてZnを所定量添加し、更に、脱酸を目的として15質量%のPを含有する銅合金を添加する。このように、成分調整が終了した後、半連続鋳造により所定の寸法のビレットを作製する。
【0044】
熱間押出前のビレット加熱条件:750℃〜1000℃
得られたビレットを加熱炉で加熱し、熱間押出を行なう。この場合に、熱間押出前に、ビレットをビレットヒーター及び/又はインダクションヒーターにより750乃至1000℃に加熱する。このとき、750℃よりも低い温度の加熱では、鋳塊のSnの偏析が十分に解消されず、また押出時のビレットの変形抵抗も大きくなり、押出機の能力が不足したり、エネルギー使用の増大による原単位の増加及びコスト上昇につながる。また、熱間押出前のビレット加熱温度が1000℃よりも高い場合は、ビレット表面の酸化膜量が多くなり、巻き込みの原因となりやすい。
【0045】
また、鋳塊の偏析解消のために、加熱時間は750℃以上の温度で1分以上保持される条件を選択することが望ましい。
【0046】
なお、熱間押出し前の加熱されたビレット温度を測る際には、放射温度計又は接触式の温度計を使用することができる。
【0047】
熱間押出し後の素管冷却条件:750℃以上の温度から100℃まで、冷却速度1.5℃/秒以上で冷却する
押出し後、750℃以上になった素管を、水中押出し又は押出し後の水冷により、表面温度が100℃になるまでの平均冷却速度が1.5℃/秒以上となるように冷却を行なう。この冷却速度が1.5℃/秒以下であると、素管の結晶粒が粗大となり、最終製品においても粗大結晶粒又は混粒組織になりやすく、最終製品の曲げ加工及びヘアピン(H/P)曲げ加工時に、肌荒れ及び割れの原因となる。
【0048】
圧延加工:加工率92%以下、抽伸加工:加工率40%以下(1回の抽伸加工における値)
押出しで得られた素管に、圧延加工及び抽伸加工を行ない、平滑管を製作する。このときの各加工率が、圧延加工の場合は92%超、抽伸加工の場合は1回の抽伸加工における加工率が40%超であると、圧延破断及び抽伸破断の原因となったり、寸法不良等の製品不良が多くなってしまう。なお、圧延加工及び抽伸加工により管は外径と肉厚が減少し、長さが増加する。圧延加工率及び抽伸加工率は、[(加工前の管の断面積−加工後の管の断面積)/加工前の管の断面積]×100(%)により求めることができる。
【0049】
焼鈍処理条件「450乃至700℃の温度に5乃至20分間加熱する」
抽伸加工のまま、即ち硬質材では、引張強さ及び0.2%耐力が高く、かつ伸びが小さいため、曲げ加工等の加工性が低い。そこで、焼鈍処理により、均一な再結晶組織として、銅合金管を軟質化することにより、曲げ及び拡管等に高い加工性を付与することができる。このため、450乃至700℃の温度に5乃至20分間加熱して焼鈍処理することが好ましい。本発明の銅合金管を、この条件で焼鈍することにより、0.2%耐力が95乃至200N/mmの銅合金管を容易に得ることができる。また、この焼鈍処理により、製造工程の条件のバラツキによる銅合金管の特性のバラツキを抑制することができる。
【0050】
焼鈍処理には高周波加熱による連続焼鈍、ローラーハース炉によるコイルでの焼鈍等によればよく、使用目的に合わせて焼鈍後の0.2%耐力が95〜200Nmmとなるように炉の運転条件を選択すれば良い。
【0051】
このようにして製作された平滑管はそのまま熱交換器用として使用したり、又は内面溝付管の素材とすることも可能である。この平滑管を内面溝付伝熱管の素材とする場合は、上記焼鈍処理を行なって軟質焼鈍管とした後、溝形成してもよいし、溝形成した後、焼鈍処理しても良い。
【0052】
次に、本発明の実施形態に係る内面溝付管の製造方法について説明する。本実施形態は、転造ボールを使用したものである。図1はこの転造ボールを使用した内面溝付管の製造装置41を示す断面図である。この内面溝付管の製造装置41においては、縮径部62、転造部43及び整形部64がこの順に一列に設けられている。そして、金属管51を抽伸方向52に沿って引抜くことにより、金属管51が縮径部62、転造部43及び整形部64をこの順に通過し、内面溝付管53に加工されるようになっている。
【0053】
縮径部62においては、金属管51の外面に潤滑油21を供給する潤滑油供給装置65が設けられており、潤滑油供給装置65よりも抽伸方向52下流側には、金属管51の外面に接するように縮径ダイス66が設けられている。縮径ダイス66は円環状のストレートダイスであり、その開口部を金属管51が通過するようになっている。また、縮径ダイス66の開口部の内径は抽伸方向52に沿って連続的に減少している。即ち、縮径ダイス66の内面はテーパ状になっている。また、金属管51の内部における縮径ダイス66に相当する位置には、縮径プラグ67が設けられ、金属管51を介して縮径ダイス66に係合している。縮径プラグ67はストレートプラグであり、その外面は平滑である。縮径ダイス66及び縮径プラグ67は金属管51を縮径加工するものである。
【0054】
また、転造部43においては、金属管51の外面に潤滑油42を供給する潤滑油供給装置68が設けられており、潤滑油供給装置8から見て抽伸方向52の下流側には、加工ヘッド39が設けられている。加工ヘッド39はモータ(図示せず)に連結されており、金属管51の周囲を回転するようになっている。加工ヘッド39には複数の転造ボール70が、金属管51の外面に接するように設けられており、加工ヘッド39が回転することにより、転造ボール70は金属管51の外面に転接しながら遊星回転するようになっている。また、金属管51の内部には溝付プラグ72が設けられている。溝付プラグ72は縮径プラグ67にプラグ軸73を介して回転可能に連結されており、転造ボール70に相当する位置に配置されている。そして、溝付プラグ72の外面には螺旋状の溝が形成されている。転造ボール70及び溝付プラグ72は金属管51の内面に溝を形成するものである。
【0055】
更に、整形部64においては、金属管51の外面に潤滑油23を供給する潤滑油供給装置74が設けられており、潤滑油供給装置74から見て抽伸方向52の下流側には、整形ダイス75が設けられている。整形ダイス75の形状は円環状であり、その開口部を金属管51が通過するようになっている。整形ダイス75の内面はテーパ状になっており、開口部の内径は抽伸方向52に沿って減少するようになっている。整形ダイス75は金属管51に整形加工を施すものである。
【0056】
更にまた、縮径部62から見て抽伸方向52の上流側には、焼鈍された金属管51がコイル状に巻き取られているバスケットから金属管51を順次送り出す送出部(図示せず)が設けられており、整形部64から見て抽伸方向52の下流側には、金属管51を抽伸方向52に引抜く引抜装置(図示せず)及び製造された内面溝付管53をバスケットに巻き取る巻取装置(図示せず)が設けられている。
【0057】
次に、上述の装置を使用して内面溝付管を製造する方法について説明する。先ず、金属管51を内面溝付管の製造装置41に装入し、金属管51の内部に、縮径プラグ67、プラグ軸73及び溝付プラグ72が相互に連結されてなる工具を入れ、転造用の潤滑油を注入する。その後、引抜装置(図示せず)が金属管51を抽伸方向52に引抜く。これにより、金属管51が送出装置(図示せず)から繰り出され、抽伸方向52に沿って移動を開始する。そして、金属管51が縮径部62、転造部63及び整形部64を順次通過することにより、内面溝付管53に加工される。以下、金属管51のある部分が移動に伴って施される処理を順に説明する。
【0058】
なお、以下に述べる縮径部、転造部及び整形部の加工において、金属管の外面に供給される潤滑油の役割は、摩擦・磨耗の低減、焼付きの抑制、冷却等であり、潤滑油にはこれらの機能の他に、加工後の金属管(内面溝付管)を焼鈍するときに残存しにくいこと及び発煙性が低いこと等が要求される。このような役割及び要求特性に基づいて、密度、動粘度等の特性を種々に変化させた鉱油をベースとする油性のもの、及び水溶性のもの等多くの種類の潤滑油が開発されており、要求される加工率及び加工速度の程度に合わせて、適当な潤滑油が選択される。
【0059】
先ず、縮径部62において、潤滑油供給装置65が金属管51の外面に潤滑油21を供給する。このとき、潤滑油21には、一般に鉱油をベースとして合成高分子化合物及び油性向上剤等を添加して潤滑性及び粘性を高めた潤滑油(以下、鉱油系潤滑油という)を使用する。次に、縮径ダイス66及び縮径プラグ67が金属管51を縮径すると共に、金属管51の外面から潤滑油21を除去する。なお、この除去された潤滑油21は回収され再利用される。
【0060】
次に、転造部43において、潤滑油供給装置68が金属管51の外面に潤滑油42を供給する。潤滑油42には、潤滑油21と同じ種類の鉱油系潤滑油を使用する。次に、加工ヘッド39が金属管51の周囲を回転することにより、転造ボール70が金属管51の周囲を遊星回転しながら、金属管51を溝付プラグ72に向けて押圧する。これにより、溝付プラグ72の外面の溝が金属管51の内面に転写され、金属管51の内面に螺旋状の溝が形成される。このとき、潤滑油42は金属管51の移動に伴って、金属管51の外面に付着したまま転造ボール70が当接する位置を越えて、整形部64に持ち出される。
【0061】
次に、整形部64において、潤滑油供給装置74が潤滑油23を金属管51の外面に供給する。このとき、潤滑油23には潤滑油21及び42と同じ種類の鉱油系潤滑油を使用する。そして、金属管51の外面において、潤滑油42と潤滑油23とが混じり合う。次に、整形ダイス75が金属管51に整形加工を施すと共に、金属管51の外面から潤滑油23及び42の混合油を除去する。これにより、内面溝付管53が製造される。なお、この除去された潤滑油23及び42の混合油は回収され再利用される。
【0062】
このように、焼鈍した軟質な平滑管を素材に用い、フローティングプラグと、このフローティングプラグに連結軸を介して連結されこの連結軸周りに回転自在である溝付プラグとを管内に配置し、管の周方向に回転する転造ボール又は転造ロールで溝付プラグの位置に相当する管の外側を押圧して内面溝付管を製造することができる。この場合、フローティングプラグは縮径ダイスに係合させて溝プラグを所定位置に保持される。また、素管は縮径ダイスを通過する際に縮径され、更に圧延ロールの後方の成型ダイスにより縮径され、且つその断面形状が円になるように整形される。このような転造方式により内面溝付管を加工する場合、軟質平滑管の0.2%耐力は50〜150N/mmであることが望ましい。
【0063】
上述の内面溝付管の製造方法においても、溝形成後、焼鈍処理することが好ましい。この焼鈍処理の条件は、前述の如く、450乃至700℃の温度に5乃至20分間加熱するものであり、Feの含有と焼鈍処理により、0.2%耐力が95乃至200N/mmの銅合金管を得ることができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例の平滑管又は内面溝付管について、その特性を、本発明範囲から外れる比較例と比較した結果について説明する。
【0065】
なお、平均結晶粒径は、銅合金管の軸方向に平行の断面について、JISH0501に定められた切断法により、肉厚方向の平均結晶粒径を測定し、これを管軸方向に任意の10箇所で測定してそれらの平均を平均結晶粒径とした。0.2%耐力は、JISZ2241に準拠して求めた。疲れ強さは、JISZ2273に準拠した疲れ試験方法を使用して求めた。
【0066】
第1の実施例(平滑管)
供試材を、以下の工程により製作した。
(1)電気銅を原料とし、溶湯中に所定のSn及びFeを添加し、更に必要に応じてZnを添加した後、Cu−P母合金を添加することにより、所定組成の溶湯を作製した。
(2)鋳造温度1130℃で、直径300×長さ3000mmの鋳塊を半連続鋳造した。
(3)鋳塊より長さ480mmのビレットを切り出した。
(4)900℃に保持されたビレットヒーターの中でビレットを加熱して、900℃に到達した後、1.5時間保持し、均質化処理した。
(5)その後、冷却したビレットをインダクションヒーターで加熱し、960℃に到達した後、3分間保持し、その後熱間押出しにより、外径94mm、肉厚10mmの押出し素管を作製した。押出後は押出素管を水冷し、750℃以上の温度から100℃まで、平均冷却速度が3.5℃/秒となった。
(6)押出素管を圧延し、外径が43mm、肉厚が2.2mmの圧延素管を作製した。
(7)圧延素管を抽伸し、抽伸を5回行ない、1回当たり28〜33%の加工率で、外径9.52mm、肉厚0.80mmまで抽伸した。
(8)焼鈍炉にて抽伸素管をローラーハース炉で焼鈍し、供試材とした。
(9)上記供試材について、ろう付け加熱を想定し、供試材を850℃の塩浴炉に30秒間保持した。
【0067】
よって、本第1実施例において、熱間押出し加工に供するビレットの加熱温度は960℃であり、750℃以上の温度から水冷したときの100℃までの冷却速度が3.5℃/秒であり、押出素管の圧延加工率は89%、圧延素管の抽伸加工率は複数回における各抽伸加工率が35%以下で抽伸加工でのトータルの加工率は約92%であった。
【0068】
試験項目は以下のとおりである。
(1)成分:供試材より所定量の試料を採取し、組成を分析した。
(2)平均結晶粒径:前述の方法により測定した。
(3)曲げ試験:供試材より長さ1000mmの管を10本採取し、ピッチ25mmでヘアピン曲げ加工を行い、曲げ部の割れの有無を確認した。
(4)0.2%耐力:前述の方法により測定した。
(5)疲労試験:前述の方法により試験した。繰り返し数10回で割れが発生しない限界の曲げ応力と、92MPaの応力付加時の割れの有無を確認した。
(6)ろう付け試験: 長さ300mmの供試材の管を軸方向に半割にし、内面側に直径1.6mm、長さ10mmのりん銅ろう(BCuP−2)を載置し、窒素気流中で850℃に10分間保持して、ろうの拡がり長さを測定した。なお、加熱前に測定した酸化膜の厚さはCuOに換算して全て500nm以下であった。
【0069】
以上の試験結果を下記表1及び表2に示す。実施例1乃至9は本発明の請求項1を満足する実施例であり、実施例10は本発明の請求項2を満足する実施例である。また、比較例11乃至14は請求項1の比較例、比較例15は請求項2の比較例である。なお、表1は、ろう付けを想定した加熱を行う前の焼鈍後の特性であり、表2は、ろう付けを想定した850℃で30秒の加熱を行った後の特性である。表中の下線が引いてある項目は、本発明の範囲外の数値であり、比較例であることを示す。なお、「ろう広がり長さ」欄の○は良好、△はやや不良を示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
実施例1乃至10は、いずれも0.2%耐力が95〜200N/mmで、十分に高く、かつ実用的に加工できる範囲を満足している。また、実施例1乃至10は、優れた曲げ加工性及びろうの広がり性を有し、且つ、疲れ強さが優れている。また、実施例1乃至10は、850℃に30秒間加熱した後も結晶粒の粗大化が少なく、耐力の低下が小さい。
【0073】
これに対し、比較例11は、Feを含有しないSn銅合金であるが、実施例1乃至10の銅合金管に比べて、0.2%耐力が低い値を有している。また、比較例11は850℃に30秒間加熱した後の結晶粒の粗大化が大きく、0.2%耐力の低下が大きい。
【0074】
比較例12は、Sn及びFeとも含有量が夫々本発明の上限値1.0%及び0.1%よりも大きいため、実用的な範囲よりも0.2%耐力が大きくなりすぎて、曲げ試験で割れが生じた。また、比較例12はSn及びFeの含有量が多いため、鋳造性及び押出性等が悪く、生産性の低下の原因となっている。更に、比較例12はろう広がり性も若干悪い。
【0075】
比較例13は、Feの含有量が0.03%より少ないため、十分な0.2%耐力値を確保できなかった。
【0076】
比較例14は、Snの含有量が0.1%より少ないため、所望の0.2%耐力を満足できなかった。
【0077】
比較例15は、Znの含有量が1.0%より多いため、ろう広がり長さが若干低下した。
【0078】
第2の実施例(内面溝付管)
下記表3に示す組成を有する圧延素管を使用し、以下に示す方法で内面溝付管を製造した。なお、(1)乃至(6)の工程は平滑管の場合と同様である。従って、平滑管までの製造条件は第1実施例と同様である。
(7)圧延粗管を抽伸し、加工率40%以下で、外径が12.7mm、肉厚0.34mmの素管を製作した。
(8)溝付転造用素管をインダクションヒーターにより中間焼鈍した。
(9)焼鈍した溝付転造用素管に転造ボールによる溝付転造加工を行い、外径が9.52mm、底肉厚が0.26mmの内面溝付管を製作した。この内面溝は、内部フィン高さが0.2mm、リード角が30°、内部フィン数:55である。製作した内面溝付管を焼鈍、供試材とした。試験項目は、平滑管の場合と同様である、但し、ろう付け試験は行わなかった。
【0079】
以上の試験結果を下記表3及び表4に示す。実施例16乃至18は本発明の請求項1を満足する実施例であり、比較例19乃び20は請求項1から外れる比較例である。また、表3は、ろう付けを想定した加熱を行う前の焼鈍後の特性であり、表4は、ろう付けを想定した850℃で30秒の加熱を行った後の特性である。表中の下線が引いてある項目は、本発明の範囲外の数値であり、比較例であることを示す。
【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
実施例16乃至18は本発明の銅合金管であり、いずれも0.2%耐力が92〜200N/mmと高く、かつ実用的に加工できる範囲を満足している。また、実施例16乃至18は優れた曲げ加工性を有し、且つ、疲れ強さに優れている。更に、実施例16乃至18は、850℃に30秒間加熱した後も、結晶粒の粗大化が少なく、耐力の低下が小さい。
【0083】
これに対し、比較例19は、Feを含有しないSn銅合金管であるが、実施例16乃至18に比べて、0.2%耐力が低い。また、比較例19は850℃に30秒間加熱した後の結晶粒の粗大化が大きく、耐力の低下が大きい。
【0084】
また、比較例20は、Feの含有量が0.1%よりも多いため、0.2%耐力が実用的な範囲よりも大きくなりすぎて、曲げ試験で割れが発生した。また、Feの含有量が多いため、鋳造性及び押出性が悪く、生産性が低下した。
【0085】
第3の実施例(製造条件)
以下、本発明の製造条件を満たす実施例の平滑管又は内面溝付管の製造方法に対し、その製造条件が本発明から外れる比較例の製造方法と比較した結果について説明する。供試材を、以下の工程により作製し、下記表5に示す各工程における品質及び不具合点を調査した。
(1)電気銅を原料とし、溶湯中にSnおよびFeを所定量添加した後、Cu−P母合金を添加することにより、Cu−0.60%Sn−0.06%Fe−0.020%Pなる組成の溶湯を作製した。
(2)鋳造温度1130℃で、直径300×長さ3000mmの鋳塊を半連続鋳造した。
(3)鋳塊より長さ480mmのビレットを切り出した。このとき、鋳塊の鋳造方向に垂直の断面を組織観察すると、結晶粒が微細化され、等軸晶が支配的であった。
(4)下記表5に記載の各押出し前の加熱温度になるまで、ビレットヒーターとインダクションヒーターを使用してビレットを加熱した。その後、熱間押出加工により、外径が94mm、肉厚が10mmの押出素管を作製した。押出加工後は、押出素管を水冷し、750℃以上の温度から、100℃まで冷却するのに、表5に記載の各冷却速度で冷却した。
(5)押出素管を、下記表5に記載の各圧延加工率で圧延加工し、圧延素管を作製した。
(6)この圧延素管を、表7に記載の抽伸加工率で抽伸加工し、外径9.52mm、肉厚0.3mmの抽伸素管を作製した。
(7)焼鈍炉にて抽伸素管を0.2%耐力値が150±5N/mmとなるように焼鈍し、供試材とした。
(8)この供試材を使用して、前述と同様の曲げ試験を行ない、熱間圧延曲げ時の割れの有無を調べた。
【0086】
試験項目は以下のとおりである。
(1)巻き込みの有無:
押出し素管を目視により検査し、巻き込み欠陥の有無を調べた。発生する場合は、素管の後端部分に多く発生する傾向があり、次工程に流す際、目視で確認できる範囲を切断除去した。
(2)押出し素管の結晶粒径:
前述の方法により測定した。
(3)圧延、抽伸破断の有無:
設定した工程で破断無く圧延、抽伸できるかを確認した。口付け部の破断も破断とした。
(4)曲げ試験:
前述の方法により確認した。
【0087】
以上の試験結果を下記表5に併せて示す。実施例21は製造条件が本発明の範囲に入るものであり、比較例22乃至27は製造条件が本発明の範囲から外れるものである。表中の下線が引いてある項目は、本発明の範囲外の数値であることを示す。
【0088】
【表5】

【0089】
実施例21は本発明方法の範囲に入る条件で製造した銅合金管についてのものであり、酸化物等の巻き込みが無く、押出素管の結晶粒も微細で、圧延・抽伸時の破断がなく、熱間圧延曲げ試験でも割れが生じなかった。
【0090】
これに対し、比較例22は押出し前の加熱温度が1050℃と高く、押出し前のビレット表面の酸化膜が厚くなったと予測され、酸化物の巻き込みが生じた。巻き込み部位は切断除去して次工程に供給したが、目視で見えない巻き込み等の影響からか、抽伸時にも抽伸破断を起こしてしまった。切断除去した部分も多く、歩留低下によるコスト上昇につながった。
【0091】
比較例23は押出温度が高く、更に冷却速度も1.0℃/秒と遅いため、酸化物の巻き込みが生じた上、押出素管の結晶粒も0.7mmと粗大なものになった。前述と同様に、抽伸破断を起こし、更には最終製品の結晶粒も粗大なものとなり、熱間圧延曲げ試験で割れが生じた。
【0092】
比較例24は押出温度が低く、鋳塊の変形抵抗と押出し機のプレス能力を算出したときに、押出し不可能となり、押し詰まりを懸念して、試験を断念した。
【0093】
比較例25は冷却速度が1.0℃/秒と遅いため、前述と同様に、押出し素管の結晶粒が粗大なものとなり、熱間圧延曲げ試験で割れが発生した。
【0094】
比較例26は圧延時の加工率が95%と高く、圧延時の口付け部で破断した。よって、圧延不可能となり、試験を終了した。
【0095】
比較例27は抽伸時の加工率が43%と高く、抽伸時に数回破断した。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施形態の内面溝付管を転造ボールにより製造する装置を示す図である。
【符号の説明】
【0097】
41;製造装置
62;縮径部
43;転造部
64;整形部
65、68、74;潤滑油供給装置
66;縮径ダイス
67;縮径プラグ
70;転造ボール
72;溝付プラグ
73;プラグ軸
75;整形ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn:0.1乃至1.0質量%、P:0.005乃至0.1質量%、Fe:0.03乃至0.1質量%、O:0.005質量%以下及びH:0.0002質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有し、平均結晶粒径が30μm以下であり、0.2%耐力が95乃至200N/mmであることを特徴とする熱交換器用銅合金管。
【請求項2】
更に、更に、Zn:0.01乃至1.0質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用銅合金管。
【請求項3】
管の内面の複数の螺旋溝及び隣接する前記螺旋溝間に形成された複数のフィンを有する内面溝付管であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱交換器用銅合金管。
【請求項4】
850℃で30秒間加熱した後の平均結晶粒径が100μm以下、0.2%耐力が40N/mm以上、疲れ試験において繰り返し応力を92MPaとしたとき、繰り返し数n=107回で破断しない疲労強度を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱交換器用銅合金管。
【請求項5】
Sn:0.1乃至1.0質量%、P:0.005乃至0.1質量%、Fe:0.03乃至0.1質量%、O:0.005質量%以下及びH:0.0002質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有するビレットを、750乃至1000℃に加熱して熱間押出加工した後、750℃以上の温度から水冷することにより、100℃までの平均冷却速度が1.5℃/秒以上となるように冷却し、その後、加工率92%以下の圧延加工及び1回の抽伸加工における加工率が40%以下の抽伸加工を少なくとも1回行うことを特徴とする熱交換器用銅合金管の製造方法。
【請求項6】
前記ビレットは、更に、Zn:0.01乃至1.0質量%を含有することを特徴とする請求項5に記載の熱交換器用銅合金管の製造方法。
【請求項7】
前記抽伸加工後に、450乃至700℃の温度に5乃至20分間加熱して焼鈍処理することにより、0.2%耐力が95乃至200N/mmの銅合金管を得ることを特徴とする請求項4又は5に記載の熱交換器用銅合金管の製造方法。
【請求項8】
前記抽伸加工の後に、管内面に溝加工を施す工程を有し、前記溝加工工程は、管内にフローティングプラグとこのフローティングプラグに連結軸を介して連結され前記連結軸を中心として回転可能の溝付プラグとを配置すると共に、前記フローティングプラグを縮径ダイスに係合させて前記溝付プラグを管周方向に沿って少なくとも1個配置された転造ボールの配設位置に位置させる工程と、前記転造ボールにより前記素管を前記溝付プラグに押圧して縮径ダイス及び転造ボールにより順次縮径加工すると共に、前記素管の内面に溝形状を転写する工程と、整形ダイスにより前記内面に溝が転写された素管を縮径加工する工程とを有し、内面溝付管を得ることを特徴とする請求項4又は5に記載の熱交換器用銅合金管の製造方法。
【請求項9】
前記溝加工工程の後に、450乃至700℃の温度に5乃至20分間加熱して焼鈍処理することにより、0.2%耐力が95乃至200N/mmの銅合金管を得ることを特徴とする請求項7に記載の熱交換器用銅合金管の製造方法。
【請求項10】
前記縮径加工された内面溝付管を、450乃至700℃の温度に5乃至20分間加熱して焼鈍処理することにより、0.2%耐力が95乃至200N/mmの銅合金管を得ることを特徴とする請求項9に記載の熱交換器用銅合金管の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−274313(P2006−274313A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92113(P2005−92113)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(504136753)株式会社コベルコ マテリアル銅管 (79)
【Fターム(参考)】