説明

熱伝導性基板及び熱伝導性ポリイミドフィルム

【課題】熱伝導特性に優れ、接着層を設けなくても金属層と絶縁層との実用的接着強度を有し、更に耐熱性の良好な熱伝導性基板及び熱伝導性ポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】熱伝導性基板は、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散されたフィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有する絶縁層の片面又は両面に金属層を有する。フィラー含有ポリイミド樹脂層の熱伝導性フィラーの含有率は5〜80wt%の範囲にあり、フィラー含有ポリイミド樹脂層におけるポリイミド樹脂は、特定の構成単位を有するポリイミドシロキサンにおけるケトン基に、少なくとも2つの第1級アミノ基を官能基として有するアミノ化合物のアミノ基が反応してC=N結合を形成していることにより、ポリイミドシロキサンがアミノ化合物によって架橋された構造を有するポリイミド樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導特性に優れる絶縁層を有し、放熱基板や回路基板、並びに熱伝導性樹脂付銅箔等に好適に使用される熱伝導性基板及び熱伝導性ポリイミドフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される電子機器の小型化、軽量化に対する要求が高まってきており、それに伴い機器の小型化、軽量化に有利な回路基板が電子技術分野において広く使用されるようになってきている。その中でもポリイミド樹脂を絶縁層とする回路基板は、その耐熱性、耐薬品性などが良好なことから従来から広く用いられている。
【0003】
ところで、最近の電子機器の小型化により、回路の集積度は上がってきており、情報処理の高速化とも相まって、機器内に生じる熱の放熱手段が注目されている。
【0004】
また、地球温暖化を始めとする環境問題への意識の高まりにより、環境負荷が低くかつ省エネルギーな製品が強く求められるようになっている。その代表例として、白熱灯に代わりLED照明の急速な普及が挙げられるが、LED照明の性能を充分に発揮させるためには、使用時に発生する熱を効率的に逃がすことが重要となっている。また、車載用途等に使用されるパワー半導体材料であるSiCでは、高温作動させるため使用時に発生する熱を効率的に逃がすことが重要となっている。
【0005】
そこで、加工性に富み、放熱性に優れた回路基板を提供するために、絶縁層を構成するポリイミドフィルムに関し、厚み方向の熱伝導率を向上させる検討がなされている(特許文献1)。また、熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性ポリイミドフィルムに関して、シロキサンジアミンから誘導されるポリイミドに熱伝導性フィラーを分散させたポリイミドフィルム複合材料も提案されている(特許文献2)。
【0006】
しかし、上記従来技術のポリイミドフィルムの厚み方向の熱伝導率では、放熱基板としての性能が不足しており、改善の必要があった。また、一般に、銅箔などの金属層に樹脂層を積層して金属張積層体を作製する場合、通常、金属層と樹脂層との間にエポキシ系接着剤や熱可塑性樹脂による接着層を設ける必要がある。この接着層の介在は、金属層に生じる熱の放熱をさらに低下させる要因になるばかりでなく、実用的な基板として使用する場合に求められる耐熱性、屈曲性などの諸特性の低下を招く。
【0007】
また、ポリイミド樹脂の熱伝導性を改善するため、熱伝導性フィラーを配合した特定の構造単位を有するポリイミド樹脂層と、このポリイミド樹脂層よりもガラス転移温度が低いポリイミド樹脂層を積層した熱伝導性ポリイミドフィルムが提案されている(特許文献3)。
【0008】
このようにポリイミド樹脂に熱伝導性フィラーを配合させた基板材料やフィルム材料は知られているものの、耐熱性の高いポリイミド樹脂を他の部材と加熱圧着しようとすると高温での加圧条件で行なう必要があり、配線の欠落、部品の破損等の原因になることが懸念される。また、シロキサンポリイミドに熱伝導性フィラーを配合した場合、上記高温加圧の条件は緩和されるが、十分な耐熱性、特に長期耐熱性を確保することができず、高温環境で使用される放熱基板の主樹脂層としての適用には不向きと考えられる。
【0009】
一方、接着フィルムに用いるポリイミド樹脂の低温貼付性、低吸湿性、熱時における接着力、耐PCT性を改善する目的で、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物と、特定構造のシロキサンジアミンとを反応させた後に、他の酸無水物及び/又は他のジアミンを反応させるポリイミド樹脂の製造方法が提案されている(例えば特許文献4)。また、シリコーン構造を主鎖に持つ高分子量のポリイミド樹脂を安全安定に製造する目的で、シリコーン系ジアミンとシリコーン系酸二無水物を特定のモル比の範囲で混合して加熱脱水縮合し、分子量が上がらなくなるまで反応させた後、反応液に芳香族ジアミンを所定のモル比で添加して反応させ、分子量を制御するポリイミド樹脂の製造方法も提案されている(例えば、特許文献5)。ただし、特許文献4、5に記載のポリイミド樹脂は、熱伝導性が求められる用途への適用は全く考慮されていない。
【0010】
そこで、接着層を必要とせず、絶縁層と金属層、セラミック基板、Si基板、その他の基材との間の実用的接着強度を有し、かつ絶縁層の熱伝導性、(長期)耐熱性に優れた熱伝導性基板、及び該熱伝導性基板に、上記の特性を与えることが可能で、比較的低温領域での加熱圧着性を有する熱伝導性ポリイミドフィルムの提供が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−274040号公報
【特許文献2】特開2006−169533号公報
【特許文献3】国際公開WO 2009/110387
【特許文献4】特開2006−117945号公報
【特許文献5】特開2004−359874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、絶縁層と金属層、セラミック基板、Si基板、その他の基材との間の実用的接着強度を有し、かつ絶縁層の熱伝導性、(長期)耐熱性に優れる熱伝導性基板、及びこの特性に加え、比較的低温領域下での加熱圧着性を有する熱伝導性ポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、熱伝導性絶縁層を構成する熱伝導性フィラーを含有するイミド化後のポリイミド樹脂に第1級アミノ基を有するアミノ化合物を反応させると、ポリイミド樹脂の耐熱性が著しく向上するとともに、高温環境での使用においても接着力の低下が大幅に改善されることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の熱伝導性基板は、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散されたフィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有する絶縁層の片面又は両面に金属層を有する熱伝導性基板であって、前記フィラー含有ポリイミド樹脂層の熱伝導性フィラーの含有率が5〜80wt%(重量%;以下同様である)の範囲にあり、前記フィラー含有ポリイミド樹脂層におけるポリイミド樹脂が、下記の一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有するポリイミドシロキサンにおける前記ケトン基に、少なくとも2つの第1級アミノ基を官能基として有するアミノ化合物のアミノ基が反応してC=N結合を形成していることにより、前記ポリイミドシロキサンが前記アミノ化合物によって架橋された構造を有するポリイミド樹脂であることを特徴とする。
【0015】
【化1】

[式中、Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基、Rはジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミノシロキサン残基、Rは芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンから誘導される2価のジアミン残基をそれぞれ表し、Ar及び/又はR中にはケトン基を含み、m、nは各構成単位の存在モル比を示し、mは0.4〜1.0の範囲内、nは0〜0.6の範囲内である]
【0016】
また、本発明の熱伝導性ポリイミドフィルムは、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散されたフィラー含有ポリイミド樹脂層を備えた熱伝導性ポリイミドフィルムであって、
前記フィラー含有ポリイミド樹脂層における熱伝導性フィラーの含有率が5〜80wt%の範囲にあり、前記フィラー含有ポリイミド樹脂層におけるポリイミド樹脂が、下記の一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有するポリイミドシロキサンにおける前記ケトン基に、少なくとも2つの第1級アミノ基を官能基として有するアミノ化合物のアミノ基が反応してC=N結合を形成していることにより、前記ポリイミドシロキサンが前記アミノ化合物によって架橋された構造を有するポリイミド樹脂であることを特徴とする。
【0017】
【化2】

[式中、Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基、Rはジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミノシロキサン残基、Rは芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンから誘導される2価のジアミン残基をそれぞれ表し、Ar及び/又はR中にはケトン基を含み、m、nは各構成単位の存在モル比を示し、mは0.4〜1.0の範囲内、nは0〜0.6の範囲内である]
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱伝導性基板、及び熱伝導性ポリイミドフィルムは、絶縁層中に特定のポリイミド樹脂を含むフィラー含有ポリイミド樹脂層を備えているため、比較的低温での熱圧着が可能であり、絶縁層の半田耐熱性に優れるとともに、繰り返し高温環境に置かれても、金属配線層との接着力を低下させず、かつ熱伝導特性に優れる。従って、本発明の熱伝導性基板及び熱伝導性ポリイミドフィルムを用いることにより、高温環境下で用いられる回路基板や放熱基板、熱伝導性樹脂付銅箔等の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[熱伝導性基板]
本発明の一実施の形態の熱伝導基板は、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散されたフィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有する。絶縁層は、フィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有していればよい。絶縁層の片面又は両面には金属層を有する。フィラー含有ポリイミド樹脂層は、下記特定のポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが含有されている。フィラー含有ポリイミド樹脂層を構成するポリイミド樹脂は、アミノ化合物とのC=N結合による架橋構造を有している。この架橋構造の架橋形成率(硬化の度合い)が制御されたフィラー含有ポリイミド樹脂層による絶縁層を、金属層の片面に有するものは、樹脂層が接着性を有するものとすることが可能であり、例えば樹脂付銅箔として、すなわち熱伝導性樹脂付銅箔として他の基材と接着して用いることができる。
【0020】
[絶縁層]
絶縁層は、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散されたフィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有していればよく、フィラー含有ポリイミド樹脂層以外に、これに積層された他のポリイミド樹脂層を備えていてもよい。この場合、フィラー含有ポリイミド樹脂層を構成するポリイミド樹脂と、絶縁層中の他のポリイミド樹脂層を構成するポリイミド樹脂とは、同種のポリイミド樹脂でもよいし、異種のポリイミド樹脂でもよい。フィラー含有ポリイミド樹脂層以外の他のポリイミド樹脂層として異種のポリイミド樹脂を使用する場合のポリイミド樹脂の種類は特に問われるものではない。ただし、熱伝導性基板の放熱特性を高める観点から、絶縁層の全体がフィラー含有ポリイミド樹脂層により形成されていることが好ましい。この場合、フィラー含有ポリイミド樹脂層は単層に限らず、複数層が積層されたものでもよい。
【0021】
[熱伝導フィラー]
フィラー含有ポリイミド樹脂層中の熱伝導性フィラーの含有割合は、5〜80wt%の範囲内であることが必要であり、10〜60wt%の範囲内が好ましい。熱伝導性フィラーの含有割合が5wt%に満たないと、回路基板等の電子部品とした際の放熱特性が十分でなく、80wt%を超えると耐折性や耐屈曲性の低下が顕著となり、また、ポリイミド樹脂層の強度も低下する。
【0022】
熱伝導性フィラーとしては、高熱伝導性のフィラーが好ましく、具体的には、例えばアルミニウム、銅、ニッケル、シリカ、ダイヤモンド、アルミナ、マグネシア、ベリリア、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。これらの中でも、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素及びマグネシアから選ばれる少なくとも1種類のフィラーが好ましい。ポリイミド樹脂層は絶縁層として作用するので、その観点からはポリイミド樹脂層に配合されるフィラーは絶縁性であるものが適する。フィラー形状は、特に制限されるものではなく、例えば板状(燐片状を含む)、球状、針状、棒状のいずれでも良い。また、熱伝導性フィラーの含有量を高め、熱伝導性などの特性とのバランスを考慮し、異なる形状(例えば、板状と球状、板状と針状など)のフィラーを併用することもできる。
【0023】
熱伝導性フィラーのサイズは、ポリイミド樹脂層の厚み方向にフィラーを均一に分散させて熱伝導性を向上させる観点から、例えば、平均粒子径が0.5〜10μmの範囲内にあることが好ましく、0.8〜5μmの範囲内にあることがより好ましい。熱伝導性フィラーの平均粒子径が0.5μmに満たないと、個々のフィラー内部での熱伝導が小さくなり、結果としてポリイミド樹脂層の熱伝導率が向上しないばかりでなく、粒子同士が凝集を起こしやすくなり、均一に分散させることが困難となる恐れがある。一方、10μmを超えると、ポリイミド樹脂層への充填率が低下し、かつフィラー界面においてポリイミド樹脂層が脆くなる傾向にある。
【0024】
[ポリイミド樹脂及びポリイミドシロキサン]
フィラー含有ポリイミド樹脂層を形成するためのポリイミド樹脂は、上記一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有するポリイミドシロキサンにおける基Ar及び/又は基R中のケトン基に、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物を反応させてC=N結合を形成させることにより、ポリイミドシロキサンがアミノ化合物によって架橋された構造を有するものである。上記一般式(1)及び(2)中の基Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基であり、基Rはジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミノシロキサン残基であり、基Rは芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンから誘導される2価のジアミン残基である。樹脂中の式(1)で表される構成単位の存在量は40モル%〜100モル%の範囲内、好ましくは80モル%〜100モル%の範囲内である。
【0025】
また、本発明の熱伝導性基板の好ましい態様では、上記一般式(1)及び(2)中に水素結合を可能とする官能基(以下、「水素結合形成基」と記す)を含むことができる。ここで、「水素結合形成基」としては、例えば−NHCO−等を挙げることができる。このような水素結合形成基を含むことにより、隣接するポリイミドシロキサン鎖の間で水素結合が生じ、アミノ化合物との架橋反応の反応点となるケトン基どうしを近づけることができるため、アミノ化合物による架橋反応が促進され、十分な耐熱性を生じさせるまでの加熱時間を短縮できる。水素結合形成基は、一般式(1)及び(2)のどちらか片方に含まれていてもよく、両方に含まれていてもよい。また、水素結合形成基は、基Arで表される酸無水物成分、または基Rもしくは基Rで表されるジアミン成分のいずれかの中に含まれていればよいが、一般式(2)中の基Rに含まれていることが好ましい。全ジアミンに対する水素結合形成基の存在モル比は、隣接するポリイミドシロキサンの主鎖間で水素結合を効率よく形成するために、0を超え1.3以下の範囲内、より好ましくは0を超え0.5以下の範囲内、最も好ましくは0.02以上0.5以下の範囲内とすることができる。
【0026】
上記一般式(1)、(2)で表される構成単位を有するポリイミドシロキサンにおいて、基Ar及び/又は基R中には、ケトン基を含み、このケトン基が、アミノ化合物との反応に関与する。この場合、ポリイミドシロキサンにおける基Ar及び/又は基R中のケトン基の少なくとも一部分にアミノ化合物のアミノ基が反応してC=N結合を形成していればよい。ポリイミド樹脂の架橋形成率(硬化の度合い)は、架橋形成によるポリイミド樹脂の硬化が完了した状態でなくてもよく、実用上十分な耐熱性を確保できる程度であればよい。つまり、ポリイミド樹脂は架橋反応が完了した硬化状態でもよいし、架橋形成の余地が残された半硬化状態であってもよい。硬化状態を半硬化状態に留めることで、樹脂層に接着性を持たせ、樹脂付き銅箔の用途に適したものとすることができる。架橋ポリイミド樹脂が実用上十分な耐熱性を有するかどうかは、例えば粘度を指標として判断することができる。
【0027】
また、フィラー含有ポリイミド樹脂層は、フィラー含有率が一定であれば、ポリイミド樹脂の架橋形成率が低いと相対的に接着性が高くなり、ポリイミド樹脂の架橋形成率が高いと相対的に接着性が低くなる傾向がある。そのため、ポリイミド樹脂の架橋形成率を例えば熱圧着後の銅箔とのピール強度(圧着面接着強度)を指標として判断することも可能である。より具体的には、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した後、この熱伝導性基板のポリイミド樹脂層の上に厚さ18μmの圧延銅箔(表面粗さRa=0.7μm)を置き、温度160℃、圧力2MPa、時間2時間の条件でプレスする。そして、後記実施例に示す「銅箔引剥し強度(ピール強度)」に従って180°引剥し試験を行い、前記圧延銅箔とポリイミド樹脂層とのピール強度を測定する。このとき、例えばフィラー含有率が80wt%でピール強度が0.4[kN/m]以上である場合を架橋形成が完了していない半硬化状態(架橋形成の余地が残された状態)とし、フィラー含有率が5wt%でピール強度が0.4[kN/m]以下である場合を架橋形成が完了した硬化状態と判定することができる。なお、「架橋形成が完了した硬化状態」は、架橋形成率が100%の状態(ポリイミドシロキサンにおける基Ar及び/又は基R中のケトン基が完全にC=N結合を形成している状態)を意味するものではなく、温度160℃、圧力2MPa、時間2時間のプレス条件で加熱処理をした場合でも、それ以上架橋反応が進行しない状態を意味する。
【0028】
一般式(1)、(2)で表される構成単位において、ケトン基を含む基Arを形成するための芳香族テトラカルボン酸としては、例えば下記の式(3)で表される3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を挙げることができる。
【0029】
【化3】

【0030】
また、一般式(1)及び(2)で表される構成単位において、基Arを形成するための原料となる芳香族テトラカルボン酸としては、上記ケトン基を有するもの以外に、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)等を使用することができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
また、一般式(1)で表される構成単位において基Rとしては、例えば、下記の式(4)で表されるジアミノシロキサンから誘導されたジアミノシロキサン残基を挙げることができる。
【0032】
【化4】

[ここで、R及びRは、それぞれ、酸素原子を含有していてもよい2価の有機基を示し、R〜Rは、それぞれ炭素数1〜6の炭化水素基を示し、平均繰り返し数であるmは、1〜20である]
【0033】
特に、基Rとしては、ポリイミドの可溶性を付与するために、式(4)中のR及びRがそれぞれ2価の炭化水素基であり、R〜Rがそれぞれ炭素数1〜6の炭化水素基であり、平均繰り返し数であるmが5〜15であるものが好ましい。
【0034】
上記ジアミノシロキサン残基は、ジアミノシロキサンからアミノ基を除いたシロキサン結合(Si−O−Si)を有する基であるが、このシロキサン結合の割合を増加させることによって、可塑剤を配合しなくても絶縁層に十分な柔軟性が付与される。また、可塑剤中には極性基が多く含まれることから、可塑剤を配合しないことの利点として、一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有するポリイミドシロキサンを用いたポリイミド樹脂中に含まれる極性基の量を抑制できることが挙げられる。このため、本発明では、式(1)におけるmの値を0.4以上、好ましくは0.8以上とする。mの値が0.4未満では反りの抑制効果が十分に得られない。また、シロキサン結合を増加させることによって、ポリイミドシロキサンのイミド結合部位の減少による硬化収縮を低減させる効果もあると考えられる。このようなことから、式(2)におけるnの値を0〜0.6、好ましくは0〜0.2の範囲内とする。
【0035】
このように、上記一般式(4)で表されるジアミノシロキサンを用いてポリイミド中にシロキサン骨格を導入することにより、得られるポリイミドシロキサンに加熱圧着時の流動性を与え、金属層等との接着性を向上させることができる。一般式(4)で表されるジアミノシロキサンの具体例としては、下記の式(5)〜式(9)で表されるジアミノシロキサンが好ましく、これらの中でも式(5)又は(6)で表される脂肪族のジアミノシロキサンがより好ましい。これらのジアミノシロキサンは、2種以上を組み合わせて配合することもできる。また、2種以上のジアミノシロキサンを組み合わせて配合する場合、式(5)又は(6)で表される脂肪族のジアミノシロキサンを全ジアミノシロキサン100重量部に対し、90重量部以上配合することが好ましい。なお、式(4)〜式(9)において、平均繰り返し数であるmは1〜20の範囲内であり、好ましくは5〜15の範囲内である。mが1より小さいと柔軟性が低下し、20を超えると金属層との接着性が低下する。
【0036】
【化5】

【0037】
一般式(2)で表される構成単位において、ケトン基を含む基R(芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンから誘導される2価のジアミン残基)としては、例えば以下の式(10)、(11)で表されるものを挙げることができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
【化6】

[ここで、Rは独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、XはCOを示し、nは独立に0〜4の整数を示す]
【0039】
上記式(10)、(11)で表される基Rを形成するための芳香族ジアミンとしては、例えば、4,4’―ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)等を挙げることができる。
【0040】
また、一般式(2)で表される構成単位において、水素結合形成基を有する基Rを形成するための原料となるジアミン化合物としては、例えば水素結合形成基が−NHCO−基である場合はジヒドラジド化合物等を挙げることができる。ここで、ジヒドラジド化合物の具体例としては、脂肪族ジヒドラジドであるドデカン二酸ジヒドラジドやアジピン酸ジヒドラジド等、芳香族ジヒドラジドであるイソフタル酸ジヒドラジド等を挙げることができる。これらの中でも脂肪族ジヒドラジドであるドデカン二酸ジヒドラジドやアジピン酸ジヒドラジドが好ましい。
【0041】
また、一般式(2)で表される構成単位において、基Rを形成するための原料となる他の芳香族ジアミンとしては、例えば、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル(VAB)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ジエチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等を挙げることができる。これらの芳香族ジアミンは、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
ポリイミドシロキサンの原料となる以上の酸無水物及びジアミンは、それぞれ、その1種のみを使用してもよいし、あるいは2種以上を併用することもできる。また、上記以外の酸無水物及びジアミンを併用することもできる。
【0043】
[ポリイミドシロキサンの合成]
一般式(1)及び(2)で表わされる構成単位を有するポリイミドシロキサンは、上記芳香族テトラカルボン酸無水物と、ジアミノシロキサン並びに芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンとを溶媒中で反応させ、前駆体樹脂であるポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜30重量%の範囲内、好ましくは10〜20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。
【0044】
重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン、2−ブタノン、ジメチルスホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。
【0045】
合成された前駆体は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、前駆体は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。前駆体をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜300℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0046】
一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有するポリイミドシロキサンを調製する際に、原料となる酸無水物成分及びジアミン成分の配合比率は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリイミドシロキサンの末端置換基をアミノ基とし、すなわち、酸無水物基をジアミンで封止し、ポリイミド樹脂の極性を抑制するという観点から、酸無水物成分:ジアミン成分として、モル比で1.000:1.001〜1.0:1.2が好ましい。
【0047】
また、上記式(1)及び(2)で表される構成単位を有するポリイミドシロキサンは、芳香族テトラカルボン酸無水物と、ジアミノシロキサン並びに芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンとの反応で得られるイミド構造となっており、絶縁層として使用した場合に、銅の拡散を抑制するために完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm−1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm−1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出される。
【0048】
以上のようにして得られるポリイミドシロキサンにおいて、分子構造中に水素結合形成基を有する場合には、常温でも隣接するポリイミドシロキサンの主鎖どうしの間で水素結合が生じる。例えば、ポリイミドシロキサン中に含まれる水素結合形成基が−NHCO−基である場合、隣接する片方のポリイミドシロキサン鎖のNH基と、もう片方のポリイミドシロキサン鎖のCO基との間に水素結合が生じる。その結果、多数のポリイミドシロキサン鎖をある程度の配向状態に近づけるとともに、隣り合うポリイミドシロキサン鎖の間で、アミノ化合物との架橋反応の反応点となるケトン基どうしを近づけることができる。このような水素結合の形成によって、イミン架橋反応を促進させることができる。
【0049】
[アミノ化合物]
本発明において、上記式(1)及び(2)で表される構成単位を有するポリイミドシロキサンのケトン基と反応させる相手方の、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物としては、(I)芳香族ジアミン、(II)ジアミノシロキサン、(III)脂肪族アミン、(IV)ジヒドラジド化合物等を例示することができる。
【0050】
(I)芳香族ジアミン:
芳香族ジアミンとしては、例えば以下の式(12)、(13)で表されるものを挙げることができる。
【0051】
【化7】

[ここで、R10は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、Zは単結合又は炭素数1〜15の2価の炭化水素基、O、S、CO、SO、SO、NH若しくはCONHから選ばれる2価の基を示し、nは独立に0〜4の整数を示す]
【0052】
このような芳香族ジアミンとしては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2’−メトキシ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ビスアニリンフルオレン等が好ましく挙げられる。
【0053】
さらに、芳香族ジアミンの他の例として、2,2−ビス−[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1−(4−アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1−(3−アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4’−(4−アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4’−(3−アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス−[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−メチレンジ−o−トルイジン、4,4’−メチレンジ−2,6−キシリジン、4,4’−メチレン−2,6−ジエチルアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、3,3’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4'’−ジアミノ−p−テルフェニル、3,3'’−ジアミノ−p−テルフェニル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,6−ジアミノピリジン、1,4−ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(2−メチル−4−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(1,1−ジメチル−5−アミノペンチル)ベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、2,4−ジアミノトルエン、m−キシレン−2,5−ジアミン、p−キシレン−2,5−ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、2,6−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−オキサジアゾール、ピペラジン等を挙げることができる。
【0054】
以上の芳香族ジアミンは、単独でもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0055】
(II)ジアミノシロキサン:
ジアミノシロキサンとしては、下記一般式(14)で表されるジアミノシロキサン又はそのオリゴマーが好ましく挙げられる。
【0056】
【化8】

(ここで、R11及びR12は2価の炭化水素基を示し、R13〜R16は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、mは1〜20の数、好ましくは1〜10の数を示す。)
【0057】
このようなジアミノシロキサンとしては、例えばジアミノプロピルテトラメチルジシロキサン、上記一般式(5)〜(9)で表されるジアミノシロキサン等を挙げることができる。
【0058】
以上のジアミノシロキサンは、単独でもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0059】
(III)脂肪族アミン:
脂肪族アミンとしては、例えば、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン等のジアミノアルカン類、トリス(2−アミノエチル)アミン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、ジエチレントリアミン、N−メチル−2,2’−ジアミノジエチルアミン、3,3’−ジアミノジプロピルアミン、N,N−ビス(3−アミノプロピル)メチルアミン等の窒素原子を含有するアミン類、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]−ウンデカン等の酸素原子を含有するアミン類、2,2’−チオビス(エチルアミン)等の硫黄原子を有するアミン類等を挙げることができる。
【0060】
以上の脂肪族アミンは、単独でもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0061】
(IV)ジヒドラジド化合物:
ジヒドラジド化合物としては、下記一般式(15)で表されるものを挙げることができる。
【0062】
【化9】

【0063】
一般式(15)中、R17は、例えば単結合、脂肪族基、芳香族基等を挙げることができる。R17として好ましいものを、ジヒドラジド化合物の例示によって説明すると、次の化合物が挙げられる。例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4−ビスベンゼンジヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6−ピリジンジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0064】
以上のジヒドラジド化合物は、単独でもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0065】
上記のような少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物の中でも、特にジヒドラジド化合物が最も好ましい。ジヒドラジド化合物を使用した場合は、他のアミノ化合物を使用した場合に比べてポリイミド樹脂の架橋形成による硬化時間を短縮させることができる。これは、ジヒドラジド化合物の第1級のアミノ基がケトン基と反応して得られる生成物が、セミカルバゾン様の分子構造となり、分子間のNH同士の水素結合による2量体構造を形成することによって生成物の安定性が向上するため、反応の平衡が生成物側に偏り、原料であるポリイミドシロキサンのケトン基とジヒドラジド化合物のアミノ基を生成する方向への逆反応が起こりにくくなることに因るものと考えられる。
【0066】
また、上記(I)芳香族ジアミン、(II)ジアミノシロキサン、(III)脂肪族アミン、(IV)ジヒドラジド化合物等のアミノ化合物は、例えば(I)と(II)の組み合わせ、(I)と(III)との組み合わせ、(I)と(II)と(III)との組み合わせ、(I)〜(IV)の組み合わせのように、カテゴリーを超えて2種以上組み合わせて使用することもできる。特に、(I)、(II)又は(III)のアミノ化合物と、(IV)のジヒドラジド化合物とを所定の配合比率で組み合わせることによって、(I)〜(III)のアミノ化合物の特性を生かしながら、(IV)のジヒドラジド化合物の配合比率に応じて硬化時間の短縮効果を得ることが期待される。
【0067】
また、アミノ化合物の架橋による網目状の構造をより密にするという観点から、本発明で使用するアミノ化合物は、その分子量(アミノ化合物がオリゴマーの場合は重量平均分子量)が5,000以下であることが好ましく、より好ましくは90〜2,000、更に好ましくは100〜1,500がよい。この中でも、100〜1,000の分子量をもつアミノ化合物が特に好ましい。アミノ化合物の分子量が90未満になると、アミノ化合物の1つのアミノ基がポリイミドシロキサンのケトン基をC=N結合を形成するにとどまり、残りのアミノ基の周辺が立体的に嵩高くなるために残りのアミノ基はC=N結合しにくい傾向となる。
【0068】
[フィラー含有ポリイミド樹脂の製造]
フィラー含有ポリイミド樹脂は、上記一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有するポリイミドシロキサンを含む樹脂溶液に、熱伝導性フィラーを混合して均一に分散させた後、少なくとも2つの第1級アミノ基を官能基として有するアミノ化合物を加えて、ポリイミドシロキサンのケトン基とアミノ化合物の第1級アミノ基とを縮合反応させることにより製造される。この縮合反応により、ポリイミドシロキサンに架橋構造が形成され、硬化して硬化物となる。この場合、アミノ化合物の添加量は、ケトン基1モルに対し、第1級アミノ基が合計で0.004モル〜1.5モル、好ましくは0.005モル〜1.2モル、より好ましくは0.03モル〜0.9モル、特に好ましくは0.04モル〜0.5モルである。ケトン基1モルに対して第1級アミノ基が合計で0.004モル未満となるようなアミノ化合物の添加量では、アミノ化合物によるポリイミドシロキサンの架橋が十分ではないため、ポリイミド樹脂と熱伝導性フィラーとを含む樹脂組成物を硬化させた後の硬化物において半田耐熱性が発現しにくい傾向となり、アミノ化合物の添加量が1.5モルを超えると未反応のアミノ化合物が熱可塑剤として作用し、同硬化物において半田耐熱性を低下させたり、高温での長期耐熱性を低下させたりする傾向がある。
【0069】
また、縮合反応の条件は、ポリイミドシロキサンにおけるケトン基とアミノ化合物の第1級アミノ基が反応してイミン結合(C=N結合)を形成する条件であれば、特に制限されない。アミノ化合物の種類にもよるが、例えば脂肪族アミンを使用する場合は、常温においてもポリイミドシロキサンにおけるケトン基と縮合させることが可能であるが、加熱によって縮合反応を促進することが好ましい。脂肪族アミンを使用する場合は、例えば60〜200℃の範囲内で加熱縮合を行うことが好ましく、芳香族アミンを使用する場合は、例えば120〜220℃の範囲内で加熱縮合を行うことが好ましい。加熱縮合の温度は、縮合によって生成する水を系外へ放出させるため、又はポリイミドシロキサンの合成の後に引き続いて加熱縮合反応を行なう場合に当該縮合工程を簡略化するため等の理由で、例えば120〜220℃の範囲内が好ましく、140〜200℃の範囲内がより好ましい。反応時間は、熱処理温度によって異なるが、例えば3分間から30時間の範囲内とすることができる。ここで、高い架橋形成率を得たい場合は、上記温度範囲において、反応時間を例えば1時間超〜24時間程度とすることが好ましく、架橋形成率を低くしておきたい場合は、上記温度範囲において、反応時間を例えば3〜60分間の範囲内とすることが好ましく、5〜30分間の範囲内とすることがより好ましい。縮合反応の終点は、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1670cm−1付近のポリイミドシロキサンにおけるケトン基に由来する吸収ピークの減少又は消失、及び1635cm−1付近のイミン基に由来する吸収ピークの出現により確認することができるし、あるいはラマン分光光度計(市販品:日本分光製 NRS−3100)を用い、ラマンスペクトルを測定することによって、1567cm−1付近のイミン基に由来するピークの出現により確認することができる。
【0070】
また、上記熱伝導性フィラーを含有するポリイミド樹脂溶液の調製は、例えば、溶媒を含むポリイミド樹脂溶液に熱伝導性フィラー及び架橋形成のためのアミノ化合物をそれぞれ所定量添加し、攪拌装置などで分散させることで調製する方法や、溶媒中に熱伝導性フィラーを分散させながらジアミンと酸無水物を添加して重合を行いポリイミド樹脂溶液とした後に架橋形成のためのアミノ化合物を添加する方法などが好ましい。なお、上記溶媒には、N,N−ジメチルアセトアミドの他、n−メチルピロリジノン、2−ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらを1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
【0071】
好ましい態様において、ポリイミドシロキサンのケトン基とアミノ化合物の第1級のアミノ基との加熱縮合は、例えば、
(a)ポリイミドシロキサンの合成(イミド化)に引き続き、アミノ化合物及び熱伝導性フィラーを添加して加熱すること、
(b)ジアミン成分として予め過剰量のアミノ化合物を仕込んでおき、ポリイミドシロキサンの合成(イミド化)に引き続き、熱伝導性フィラーを添加した後、イミド化(若しくはアミド化)に関与しない残りのアミノ化合物とともにポリイミドシロキサンを加熱すること、又は、
(c)アミノ化合物及び熱伝導性フィラーを添加したポリイミドシロキサンの組成物を所定の形状に加工した後(例えば任意の基材に塗布した後やフィルム状に形成した後)に加熱すること、
等によって行うことができる。
【0072】
上記(b)の場合、過剰のアミノ化合物は、ポリイミドシロキサンの製造時における末端置換基として酸無水物基を封止する反応に消費され、生成するポリイミドシロキサンの分子量が極端に低下することがあるので、硬化物において十分な耐熱性が得られにくい傾向がある。そのため、予め過剰量のアミノ化合物を仕込む場合[上記(b)]は、本発明の効果を損なわない範囲内において適宜用いることが好ましい。アミノ化合物における少なくとも2つの第1級アミノ基を有効にケトン基と反応させてC=N結合を形成させるためには、上記(a)又は(c)のように、アミノ化合物をポリイミドシロキサンの合成(イミド化)を完了した後に添加することが好ましい。上記(c)の場合、加熱縮合は、例えばアミノ化合物とポリイミドシロキサンとが混合された状態の組成物を支持基材上に形成した後の熱処理などによって行うこともできる。
【0073】
[金属層]
本発明の熱伝導性基板における金属層としては、例えば銅、アルミニウム、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、亜鉛及びそれらの合金等の導電性金属箔を挙げることができ、これらの中でも銅箔又は銅を90%以上含む合金銅箔やアルミ箔が好ましく用いられる。金属層の好ましい厚み範囲は、熱伝導性基板の用途に応じて設定できるが、電子機器、照明機器などの基板材料として使用する場合は、例えば5〜2000μmの範囲内とすることが好ましい。金属層の厚みが5μmに満たないと、製造工程における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがあり、反対に2000μmを超えると加工性が低下する場合がある。
【0074】
また、金属層として用いる導電性金属箔は、絶縁層との接着性と微細回路加工性との両立を図るために、絶縁層と接着する面の表面粗度(Ra)が、例えば0.05〜1.0μmの範囲内であることが好ましい。絶縁層と接着する面の表面粗度(Ra)が0.05μm未満では、熱伝導性基板の用途によって金属層と絶縁層が剥がれやすくなることがあり、一方、絶縁層と接着する面の表面粗度(Ra)が1.0μmを超えると、粗化によるアンカー効果により金属層と絶縁層との接着性は良好となるが、金属層を配線加工した際における配線形状の悪化が懸念される。
【0075】
[熱伝導性基板の製造方法]
次に、熱伝導性基板(金属張積層体)の製造方法の一例について説明する。熱伝導性基板は、ポリイミドシロキサンに熱伝導性フィラーを均一に分散させ、さらにアミノ化合物を混合したフィラー含有ポリイミド樹脂の溶液を、金属層となる金属基材上に直接塗布し、乾燥して塗布膜を形成する工程と、この塗布膜を加熱し、ポリイミドシロキサンにおけるケトン基の少なくとも一部にアミノ化合物のアミノ基を反応させてC=N結合を形成させることにより、フィラー含有ポリイミド樹脂層を形成する工程と、を含む方法によって製造することができる。この場合、フィラー含有ポリイミド樹脂層上に、さらに同様の方法で、フィラー含有ポリイミド樹脂層を積層形成してもよいし、他のポリイミド樹脂層を積層形成してもよい。ここで、金属基材としては、放熱基板や回路基板の導体層となる上記した銅箔等の金属箔を用いることができる。また、上記のとおり、フィラー含有ポリイミド樹脂層は、架橋形成が完了した硬化状態でもよいし、架橋形成が完了していない半硬化状態でもよい。
【0076】
金属基材上へのフィラー含有ポリイミド樹脂の溶液の塗布は、公知の方法で行うことができ、例えば、バーコード方式、グラビアコート方式、ロールコート方式、ダイコート方式等から適宜選択して採用することができる。
【0077】
本発明をよりわかりやすく説明するために、絶縁層の片面に金属層を有する熱伝導性基板(片面金属熱伝導性基板)と、絶縁層の両面に金属層を有する熱伝導性基板(両面金属熱伝導性基板)に分けて製造例を示す。ここでは、絶縁層が、1層のフィラー含有ポリイミド樹脂層のみにより構成される場合を例に挙げて説明する。
【0078】
<片面金属熱伝導性基板>
まず、熱伝導性基板の金属層を構成する銅箔などの金属箔を準備する。この金属箔上に、熱伝導性フィラー及びアミノ化合物を含有するポリイミド樹脂溶液を塗布し、例えば120℃以下の温度で乾燥し一定量の溶媒を除去する。その後、更に高温で熱処理してアミノ化合物による架橋反応を生じさせる。これにより、フィラー含有ポリイミド樹脂層の片面に金属層を有する熱伝導性基板とすることができる。ここで、アミノ化合物との架橋形成のための熱処理の時間は、目的とする架橋形成率に応じて設定することができる。片面金属熱伝導性基板は樹脂付銅箔として使用する場合、後からフィラー含有ポリイミド樹脂層に例えば金属箔、セラミック基板、その他の材質の部材を接着することを想定して架橋形成率を低くしておくことが好ましいため、その場合の熱処理時間は、上記温度範囲において、例えば3〜60分間の範囲内とすることが好ましく、5〜30分間の範囲内とすることがより好ましい。
【0079】
<両面金属熱伝導性基板>
両面金属熱伝導性基板は、上記の方法で得られた片面金属熱伝導性基板のフィラー含有ポリイミド樹脂層に金属箔を熱圧着することによって製造できる。金属箔を熱圧着する場合の条件は、例えば加熱温度は120〜180℃の範囲内、圧力は2〜4MPaの範囲内、プレス時間は0.1〜24時間の範囲内とすることが好ましい。
【0080】
[作用]
一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有するポリイミドシロキサンのケトン基とアミノ化合物の第1級アミノ基との反応は、脱水縮合反応であり、ポリイミドシロキサン中のケトン基の炭素原子と第1級アミノ基の窒素原子がC=N結合を形成する結果、鎖状のポリイミドシロキサンがアミノ化合物によって架橋されて網目状の高分子を形成するものと考えられる。通常、ポリイミドシロキサンは分子間相互作用を生じにくいため、ポリイミドシロキサンの配向制御は困難であるが、架橋構造が生じると、ポリイミドシロキサンにおける見かけ上の高分子量化のみならず、ポリイミドシロキサンの分子同士をある程度拘束することが可能になるので、ポリイミド樹脂の耐熱性が向上し、極めて優れた半田耐熱性が得られると考えられる。また、C=N結合における窒素原子近傍が立体的に嵩高くなることにより、ポリイミド樹脂中に含まれる極性基への銅原子の求核能を低下させることによって、銅配線からの銅の絶縁層への拡散を抑制することができ、高温環境での使用における接着強度の低下を抑制する効果が得られるものと考えられる。このような理由により、本発明で使用するアミノ化合物は、少なくとも2つのアミノ基を有する必要があり、アミノ基の数は好ましくは2〜5、より好ましくは2〜3である。また、アミノ基を3つ以上有するアミノ化合物では、2つのアミノ基がC=N結合を形成した後の架橋構造体が立体的に嵩高くなるために、残りの未反応のアミノ基がケトン基と反応しにくくなることから、アミノ基の数は2であることが特に好ましい。さらに、上記のとおりポリイミド樹脂の架橋形成による硬化時間を短縮するという観点では、アミノ化合物としてジヒドラジド化合物を用いることが最も好ましい。
【0081】
そして、本実施の形態の熱伝導性基板は、アミノ化合物による架橋構造に加え、熱伝導性フィラーの含有量を適正範囲に調節している。これによって、絶縁層は十分な耐熱性を有し、接着層を介在させなくても金属層と絶縁層とを比較的低温で接着可能になり、かつ熱伝導性に優れたものとなる。したがって、本実施の形態の熱伝導性基板は、高い放熱性が求められる電子機器、照明機器などの基板材料として、工業的に広く用いることが可能であり、例えばパワー半導体実装用放熱基板などの放熱基板や、フレキシブル基板に代表される回路基板等の用途で使用するために特に適したものである。
【0082】
また、ポリイミドシロキサン中に水素結合形成基を含む場合には、架橋反応に先立ち、隣接するポリイミドシロキサン鎖の間で水素結合が生じ、アミノ化合物との架橋反応の反応点となるケトン基どうしを近づけることができる。その結果、アミノ化合物による架橋反応が促進され、架橋形成のための加熱時間を短縮できる。
【0083】
[熱伝導性ポリイミドフィルム]
本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散されたフィラー含有ポリイミド樹脂層を備えた熱伝導性ポリイミドフィルムである。このフィラー含有ポリイミド樹脂層における熱伝導性フィラーの含有率は5〜80wt%の範囲にあり、前記フィラー含有ポリイミド樹脂層におけるポリイミド樹脂が、上記一般式(1)及び(2)で表される構成単位を有するポリイミドシロキサンにおける前記ケトン基に、少なくとも2つの第1級アミノ基を官能基として有するアミノ化合物のアミノ基が反応してC=N結合を形成していることにより、ポリイミドシロキサンがアミノ化合物によって架橋された構造を有している。このポリイミド樹脂は架橋反応が完了した硬化状態でもよいし、架橋形成の余地が残された半硬化状態であってもよい。ここで、フィラー含有ポリイミド樹脂層は、上記熱伝導性基板における絶縁層の一部分もしくは全部を構成するフィラー含有ポリイミド樹脂層と同様の構成である。本実施の形態のフィラー含有ポリイミド樹脂層を構成するポリイミド樹脂や熱伝導性フィラーは、上記の熱伝導性基板において説明したものを使用できる。
【0084】
本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、その全体がフィラー含有ポリイミド樹脂層によって構成されていてもよいし、フィラー含有ポリイミド樹脂層以外に、熱伝導性基板の絶縁層と同様に、他のポリイミド樹脂層を備えていてもよいが、放熱特性を高める観点から、全体がフィラー含有ポリイミド樹脂層により形成されていることが好ましい。この場合、フィラー含有ポリイミド樹脂層は単層に限らず、複数層が積層されたものでもよい。このように、本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、金属層と張り合わされていない点を除き、上記熱伝導性基板の絶縁層と同様の構造及び物性を有している。そして、熱伝導性ポリイミドフィルムは、例えば上記熱伝導性基板を作製した後、その金属層をエッチングにより除去することによって作製することができる。あるいは、任意の基材に、熱伝導性フィラーを含有するイミド化後のポリイミド樹脂溶液に第1級アミノ基を有するアミノ化合物を混合した塗布液を塗布し、乾燥させた後、基材から剥離して熱伝導性ポリイミドフィルムとすることもできる。この場合、基材上で加熱して架橋反応を完了させた後に基材から剥離してもよいし、乾燥させただけの硬化前の状態で基材から剥離し、その後加熱して架橋反応による硬化を完了させてもよい。
【0085】
本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、金属箔(金属板)、セラミック基板、Si基板等に対して実用的接着強度を有しており、かつ熱伝導性に優れている。この熱伝導性ポリイミドフィルムは、接着層を介在させなくても、金属箔(金属板)、セラミック基板、Si基板等と張り合わせることができる。つまり、熱伝導性ポリイミドフィルムは、その片面又は両面に、接着層を必要とせずに金属箔(金属板)、セラミック基板などの接着対象基材と直接張り合わせることが可能な性質を有している。したがって、本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムは、例えば放熱基板や回路基板等の用途で金属層、セラミック層などの基材に積層して使用するために適したフィルムである。
【0086】
本実施の形態の熱伝導性ポリイミドフィルムの他の構成及び効果は、上記熱伝導性基板における絶縁層と同様であるため説明を省略する。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0088】
[銅箔引剥し強度(ピール強度)]
熱伝導性基板の銅箔層を幅1.0mm、長さ180mmの長矩形にパターンエッチングし、そのパターンが中央になるように、幅20mm、長さ200mmに試験片を切り抜き、IPC−TM−650.2.4.19(東洋精機製)により180°引剥し試験を行った。
【0089】
[厚み方向熱伝導率(λzTC)]
熱伝導性ポリイミドフィルムを20mm×20mmのサイズに切り出し、白金による蒸着、黒化処理を行った後、レーザーフラッシュ法による厚み方向の熱拡散率(NETZSCH社製キセノンフラッシュ アナライザー LFA 447 Nanoflash)、DSCによる比熱、水中置換法による密度をそれぞれ測定し、これらの結果をもとに熱伝導率(W/m・K)を算出した。なお、熱伝導性ポリイミドフィルムは、測定時に厚さ100μmのサンプルを作製して、使用した。
【0090】
[耐電圧]
熱伝導性ポリイミドフィルムを5cm×5cmのサイズでカットし、JIS C2110に基づき、KIKUSUI製TOS 5101装置にて、段階昇圧法により絶縁油中にて耐電圧を測定した。0.2kV刻みで電圧をステップ上昇させ、各電圧において20秒保持し、漏れ電流8.5mAとし、破壊した電圧の一つ前の値を初期耐電圧とした。電極のサイズは2cmφである。
【0091】
[重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC−8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にN,N−ジメチルアセトアミドを用いた。
【0092】
[半田耐熱性(乾燥)の評価方法]
熱伝導性基板の銅箔層を所定形状にパターニングして回路加工を行い、300℃を上限として各温度の半田浴に10秒浸漬して、接着状態を観察して、発泡、ふくれ、剥離などの不具合の有無を確認した。耐熱性は不具合が生じない上限の温度を半田耐熱性とした。例えば「300℃」は、300℃の半田浴中で評価して、不具合が認められないことを意味する。
【0093】
[カールの測定方法]
CCLカール(最大反り量):
金属/樹脂の積層体を50mm×50mmのサイズに切り出し、恒温恒湿環境下(23±3℃、50±5%RH)で24時間放置後に、ノギスを用いて4隅の反り量の測定を実施した。この際、樹脂面側もしくは金属側へ反っている場合は、最も反り量の大きいところをCCL最大反り量とした。最大反り量の絶対量が5mm以下である場合を○(良好)とし、5mm以上である場合を×(不良)と判断した。
【0094】
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物
BAPP:2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン
DAPE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
m−TB:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
【0095】
PSX:下記一般式で表されるジアミノシロキサン
(mの数平均値は1〜20の範囲内であり、重量平均分子量は740である)
【0096】
【化10】

【0097】
N−12:下記構造式のドデカン二酸ジヒドラジド
【0098】
【化11】

【0099】
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
【0100】
合成例1
1000mlのセパラブルフラスコに、71.850gのPSX(0.0971モル)、7.474gのBAPP(0.0182モル)、1.568gのN−12(0.0061モル)、39.109gのBTDA(0.1214モル)、168gのN−メチル−2−ピロリドン及び112gのキシレンを装入し、室温で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、20時間加熱、攪拌し、イミド化を完結したポリイミド溶液aを得た。得られたポリイミド溶液aにおけるポリイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は90,000であった。このときの全ジアミン成分に対するジアミノシロキサン成分のモル%は80%である。
【0101】
[実施例1]
合成例1で得られたポリイミド溶液aを63.88g秤量し、2.56gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA−1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを38.4g秤量し、N−12を1.096g添加して、N−12が溶けるまで攪拌した。このN−12のNMP溶液を上記のアルミナを含有するポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で30分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で60分かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は10wt%である。続いて、この熱伝導性基板のポリイミド絶縁層の上に厚さ18μmの圧延銅箔を置き、温度160℃、圧力2MPa、時間2時間の条件でプレスし、両面に金属層を有する熱伝導性基板を得た。
【0102】
得られた熱伝導性基板における絶縁層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去して熱伝導性ポリイミドフィルム(F1)を作製し、耐電圧、熱伝導率をそれぞれ評価した。これらの結果を表1に示した。更に、熱伝導性基板を所定パターンに加工して、接着強度、半田耐熱性及びカールの測定を行った。これらの結果を表2に示した。なお、表2中の「塗布面接着強度」とは、ポリイミド溶液を圧延銅箔上に塗布した際の塗布膜と銅箔との境界面における金属層との接着強度を意味し、「圧着面接着強度」とは、ポリイミド溶液を圧延銅箔上に塗布した際の塗布膜の表面側に後から金属層を圧着させた場合の接着強度を意味する(表4において同じである)。
【0103】
[実施例2]
合成例1で得られたポリイミド溶液aを47.99g秤量し、17.28gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA−1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを28.81g秤量し、N−12を0.82g添加して、N−12が溶けるまで攪拌した。このN−12のNMP溶液を上記のアルミナを含有するポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまでに遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で30分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で60分かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は50wt%である。続いて、この熱伝導性基板のポリイミド絶縁層の上に厚さ18μmの圧延銅箔を置き、温度160℃、圧力2MPa、時間2時間の条件でプレスし、両面に金属層を有する熱伝導性基板を得た。続いて、実施例1と同じように評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。
【0104】
[実施例3]
合成例1で得られたポリイミド溶液aを47.88g秤量し、17.24gの窒化アルミニウム(平均粒径1.1μm、トクヤマ製)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを15.6g秤量し、N−12を0.82g添加して、N−12が溶けるまで攪拌した。このN−12のNMP溶液を上記の窒化アルミニウムが入ったポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で30分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で60分かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーである窒化アルミニウムの含有量は50wt%である。続いて、この熱伝導性基板のポリイミド絶縁層の上に厚さ18μmの圧延銅箔を置き、温度160℃、圧力2MPa、時間2時間の条件でプレスし、両面に金属層を有する熱伝導性基板を得た。続いて、実施例1と同じように評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。
【0105】
合成例2
1000mlのセパラブルフラスコに、71.30gのPSX(0.0964モル)、9.89gのBAPP(0.0241モル)、38.66gのBTDA(0.120モル)、168gのN−メチル−2−ピロリドン及び112gのキシレンを装入し、室温で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、20時間加熱、攪拌し、イミド化を完結したポリイミド溶液bを得た。得られたポリイミド溶液bにおけるポリイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は122,000であった。このときの全ジアミン成分に対するジアミノシロキサン成分のモル%は80%(m値=0.8)である。なお、「m値」は、得られたポリイミド樹脂中に含まれる、上記一般式(1)で表される構成単位の存在モル比を意味する。
【0106】
[実施例4]
合成例2で得られたポリイミド溶液bを400.24g秤量し、16.34gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA−1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを97.4g秤量し、N−12を4.2g添加して、N−12が溶けるまで攪拌した。このN−12のNMP溶液を上記のアルミナが入ったポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で30分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で2時間かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は10wt%である。続いて、この熱伝導性基板のポリイミド絶縁層の上に厚さ18μmの圧延銅箔を置き、温度160℃、圧力2MPa、時間2時間の条件でプレスし、両面に金属層を有する熱伝導性基板を得た。続いて、実施例1と同じように評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。
【0107】
[実施例5]
合成例2で得られたポリイミド溶液bを400g秤量し、147.0gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA−1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを97.3g秤量し、N−12を4.2g添加して、N−12が溶けるまで攪拌した。このN−12のNMP溶液を上記のアルミナが入ったポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で30分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で2時間かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は50wt%である。続いて、この熱伝導性基板のポリイミド絶縁層の上に厚さ18μmの圧延銅箔を置き、温度160℃、圧力2MPa、時間2時間の条件でプレスし、両面に金属層を有する熱伝導性基板を得た。続いて、実施例1と同じように評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。
【0108】
合成例3
攪拌装置を備えた500mlセパラブルフラスコ中の255gのDMAcに、28.9050gのBAPPを窒素気流下で攪拌しながら加えて溶解させた後、攪拌を維持したまま、15.0281gのPMDAを加え、10分後、1.0669gのBPDAを加えた。その後、室温で4時間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリイミド前駆体となる粘稠なポリアミド酸溶液cを得た。
【0109】
[比較例1]
合成例3で得られたポリアミド酸溶液cを78.7g秤量し、1.3gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA−1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、溶剤DMAcを15.7g追加して、再度均一になるまでに遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを10wt%含有するポリアミド酸溶液を得た。次に、厚み18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に、このポリアミド酸溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように塗布し、120℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、130〜340℃の温度範囲で、段階的に20分かけて昇温加熱して、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。続いて、この熱伝導性基板のポリイミド絶縁層の上に厚さ18μmの圧延銅箔を重ね合わせ、真空プレス機を用いて、160℃で加熱圧着を試みた。しかし、160℃では接着できなかったので、160℃、270℃で30分ずつ加熱してから、面圧19.1MPaで温度360℃まで昇温し、プレス時間25分の条件で加熱圧着して、両面に金属層を有する熱伝導性基板を得た。続いて、実施例1と同じように評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。
【0110】
[比較例2]
合成例3で得られたポリアミド酸溶液cを69.6g秤量し、10.4gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA−1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、溶剤DMAcを13.9g追加して、再度均一になるまでに遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを50wt%含有するポリアミド酸溶液を得た。次に、比較例1と同様に操作して、熱伝導性基板を得た。続いて、実施例1と同じように評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。
【0111】
[合成例4]
攪拌装置を備えた500mlセパラブルフラスコ中の255gのDMAcに、20.7283gのm−TBを窒素気流下で攪拌しながら加えて溶解させた後、攪拌を維持したまま、11.5380gのPMDAを加え、10分後、12.7337gのBPDAを加えた。その後、室温で4時間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリイミド前駆体となるポリアミド酸溶液dの粘稠な溶液を得た。
【0112】
[比較例3]
比較例1のポリアミド酸溶液cの代わりに、合成例4で得られたポリアミド酸溶液dを用いて、比較例1と同様に操作して加熱圧着を試みたが接着できなかったため、比較例1における360℃のプレス温度を380℃として加熱圧着し、比較例3の熱伝導性基板を得た。続いて、実施例1と同じように評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。
【0113】
[比較例4]
比較例2のポリアミド酸溶液cの代わりに、合成例4で得られたポリアミド酸溶液dを用いて、比較例2と同様に操作して加熱圧着を試みたが接着できなかったため、比較例1における360℃のプレス温度を380℃として加熱圧着し、比較例4の熱伝導性基板を得た。続いて、実施例1と同じように評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。
【0114】
[比較例5]
実施例1のアルミナを添加しないことを除いては、実施例1と同様に操作して、比較例5の両面金属積層体を得た。続いて、実施例1と同じように評価を行った。その結果を表1及び表2に示した。
【0115】
【表1】

【0116】
表1中、硬化剤の含有量は、ポリイミド樹脂の固形分に対する重量%を意味し、フィラー含有量は、エッチングによって銅箔を除去した熱伝導性ポリイミドフィルム全体に対するフィラーの重量%を意味する。
【0117】
【表2】

【0118】
表1から、絶縁層を形成するポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーを含有する実施例1〜5の熱伝導性基板は、熱伝導性フィラーを含有しないポリイミド樹脂によって絶縁層を形成した比較例5の金属張積層体に比べて、熱伝導率が大幅に改善されていることがわかる。また、表2から、ポリイミドシロキサンがアミノ化合物によって架橋された構造を有するポリイミド樹脂を使用した実施例1〜5の熱伝導性ポリイミドフィルムは、架橋構造を持たないポリイミド樹脂を使用した比較例1〜4の熱伝導性ポリイミドフィルムに比べてプレス加工性が良好であり、特に低温でのプレスによって実用上十分な接着性が得られた。なお、耐電圧性と耐熱性については、実施例1〜5、比較例1〜5ともに実用上十分な特性を有していた。実施例1〜5の熱伝導性基板は、カールの発生が小さく、使用性に優れていた。
【0119】
[実施例6]
合成例1で得られたポリイミド溶液aを63.89g秤量し、86.56gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA−1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを35.06g秤量し、N−12を1.096g添加して、N−12が溶けるまで攪拌した。このN−12のNMP溶液を上記のアルミナを含有するポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で15分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で60分かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は79wt%である。
【0120】
得られた熱伝導性基板における絶縁層の特性を評価するために銅箔をエッチング除去して熱伝導性ポリイミドフィルム(F6)を作製し、耐電圧、熱伝導率をそれぞれ評価した。更に、熱伝導性基板を5cm角サイズにカットし、カールの測定を行った。これらの結果を表3に示した。また、この片面に金属層を有する熱伝導性基板のポリイミド樹脂層に熱圧着させた圧延銅箔について、金属/樹脂間の1mm180°ピール強度(圧着面接着強度)を測定したところ、0.5[kN/m]以上であった。
【0121】
[実施例7]
合成例1で得られたポリイミド溶液aを63.89g秤量し、53.69gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA−1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを35.06g秤量し、N−12を1.096g添加して、N−12が溶けるまで攪拌した。このN−12のNMP溶液を上記のアルミナを含有するポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で15分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で10分かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は70wt%である。続いて、実施例6と同じように評価を行った。その結果を表3に示した。また、この片面に金属層を有する熱伝導性基板のポリイミド樹脂層に熱圧着させた圧延銅箔について、金属/樹脂間の1mm180°ピール強度(圧着面接着強度)を測定したところ、0.6[kN/m]以上であった。
【0122】
[実施例8]
実施例7において、120℃で5分、160℃で10分かけて加熱したことの替わりに、120℃で5分、160℃で60分かけて加熱した以外は実施例7と同様にして、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。続いて、実施例6と同じように評価を行った。その結果を表3に示した。また、この片面に金属層を有する熱伝導性基板のポリイミド樹脂層に熱圧着させた圧延銅箔について、金属/樹脂間の1mm180°ピール強度(圧着面接着強度)を測定したところ、0.6[kN/m]以上であった。
【0123】
[実施例9]
合成例1で得られたポリイミド溶液aを63.89g秤量し、2.56gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA−1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを35.06g秤量し、N−12を1.096g添加して、N−12が溶けるまで攪拌した。このN−12のNMP溶液を上記のアルミナを含有するポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で15分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で10分かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は10wt%である。また、この片面に金属層を有する熱伝導性基板のポリイミド樹脂層に熱圧着させた圧延銅箔について、金属/樹脂間の1mm180°ピール強度(圧着面接着強度)を測定したところ、0.7[kN/m]以上であった。
【0124】
[実施例10]
実施例9において、120℃で5分、160℃で10分かけて加熱したことの替わりに、120℃で5分、160℃で60分かけて加熱した以外は実施例9と同様にして、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。続いて、実施例6と同じように評価を行った。その結果を表3に示した。また、この片面に金属層を有する熱伝導性基板のポリイミド樹脂層に熱圧着させた圧延銅箔について、金属/樹脂間の1mm180°ピール強度(圧着面接着強度)を測定したところ、0.7[kN/m]以上であった。
【0125】
[実施例11]
合成例1で得られたポリイミド溶液aを63.89g秤量し、23.01gのアルミナ(平均粒径1.5μm、住友化学製、商品名:AA−1.5)を添加して、均一になるまで遠心攪拌機で混合した。続いて、別の容器に溶剤NMPを35.06g秤量し、N−12を1.096g添加して、N−12が溶けるまで攪拌した。このN−12のNMP溶液を上記のアルミナを含有するポリイミド溶液に入れて、再度均一になるまで遠心攪拌機で混合し、熱伝導性フィラーを含有するポリイミド溶液を得た。このポリイミド溶液を硬化後の厚みが25μmとなるように、厚さ18μmの圧延銅箔(Ra=0.7μm)上に塗布し、80℃で15分間加熱乾燥し溶剤を除去した。その後、120℃で5分、160℃で10分かけて加熱して、上記圧延銅箔上にポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散した絶縁層を形成し、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。この絶縁層における熱伝導性フィラーであるアルミナの含有量は50wt%である。続いて、実施例6と同じように評価を行った。その結果を表3に示した。また、この片面に金属層を有する熱伝導性基板のポリイミド樹脂層に熱圧着させた圧延銅箔について、金属/樹脂間の1mm180°ピール強度(圧着面接着強度)を測定したところ、0.7[kN/m]以上であった。
【0126】
[実施例12]
実施例11において、120℃で5分、160℃で10分かけて加熱したことの替わりに、120℃で5分、160℃で60分かけて加熱した以外は実施例11と同様にして、片面に金属層を有する熱伝導性基板を作製した。続いて、実施例6と同じように評価を行った。その結果を表3に示した。また、この片面に金属層を有する熱伝導性基板のポリイミド樹脂層に熱圧着させた圧延銅箔について、金属/樹脂間の1mm180°ピール強度(圧着面接着強度)を測定したところ、0.7[kN/m]以上であった。
【0127】
[実施例13]
実施例7で作製した片面に金属層を有する熱伝導性基板のポリイミド絶縁層の上に厚さ18μmの圧延銅箔を置き、温度160℃、圧力2MPa、時間2時間の条件でプレスし、両面に金属層を有する熱伝導性基板を得た。得られた熱伝導性基板を所定パターンに加工して、接着強度、半田耐熱性及びカールの測定を行った。その結果を表4に示した。
【0128】
【表3】

【0129】
【表4】

【0130】
表3から、絶縁層を形成するポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーを含有する実施例6〜12の片面金属熱伝導性基板は、熱伝導率が高く、カールの発生も小さく、使用性に優れていた。また、表4から、実施例13の両面金属熱伝導性基板は、プレス加工性が良好であり、低温でのプレスによって実用上十分な接着性が得られた。また、実施例6〜13の片面もしくは両面金属熱伝導性基板は、耐電圧性と耐熱性について、実用上十分な特性を有していた。
【0131】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散されたフィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有する絶縁層の片面又は両面に金属層を有する熱伝導性基板において、前記フィラー含有ポリイミド樹脂層の熱伝導性フィラーの含有率が5〜80wt%の範囲にあり、前記フィラー含有ポリイミド樹脂層におけるポリイミド樹脂が、下記の一般式(1)及び(2)で表される構成単位:
【化1】

[式中、Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基、Rはジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミノシロキサン残基、Rは芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンから誘導される2価のジアミン残基をそれぞれ表し、Ar及び/又はR中にはケトン基を含み、m、nは各構成単位の存在モル比を示し、mは0.4〜1.0の範囲内、nは0〜0.6の範囲内である]
を有するポリイミドシロキサンにおける前記ケトン基に、少なくとも2つの第1級アミノ基を官能基として有するアミノ化合物のアミノ基が反応してC=N結合を形成していることにより、前記ポリイミドシロキサンが前記アミノ化合物によって架橋された構造を有するポリイミド樹脂であることを特徴とする熱伝導性基板。
【請求項2】
前記アミノ化合物が、ジヒドラジド化合物である請求項1に記載の熱伝導性基板。
【請求項3】
熱伝導性フィラーがシリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素及びマグネシアから選ばれる少なくとも1種のフィラーである請求項1又は2に記載の熱伝導性基板。
【請求項4】
熱伝導性フィラーが、平均粒子径が0.5〜10μmの範囲にある球状アルミナである請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性基板。
【請求項5】
上記ポリイミドシロキサンが、水素結合を可能とする官能基を有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性基板。
【請求項6】
前記ポリイミドシロキサン、前記熱伝導性フィラー及び前記アミノ化合物を混合したフィラー含有ポリイミド樹脂の溶液を、前記金属層となる金属基材上に塗布し、乾燥して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を加熱し、前記ポリイミドシロキサンにおける前記ケトン基の少なくとも一部に、前記アミノ化合物のアミノ基を反応させてC=N結合を形成させることによりフィラー含有ポリイミド樹脂層を形成する工程と、
を含む方法によって製造されるものである請求項1〜5のいずれかに記載の熱伝導性基板。
【請求項7】
前記フィラー含有ポリイミド樹脂層が、半硬化状態である請求項6に記載の熱伝導性基板。
【請求項8】
ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーが分散されたフィラー含有ポリイミド樹脂層を備えた熱伝導性ポリイミドフィルムであって、
前記フィラー含有ポリイミド樹脂層における熱伝導性フィラーの含有率が5〜80wt%の範囲にあり、前記フィラー含有ポリイミド樹脂層におけるポリイミド樹脂が、下記の一般式(1)及び(2)で表される構成単位:
【化2】

[式中、Arは芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される4価の芳香族基、Rはジアミノシロキサンから誘導される2価のジアミノシロキサン残基、Rは芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンから誘導される2価のジアミン残基をそれぞれ表し、Ar及び/又はR中にはケトン基を含み、m、nは各構成単位の存在モル比を示し、mは0.4〜1.0の範囲内、nは0〜0.6の範囲内である]
を有するポリイミドシロキサンにおける前記ケトン基に、少なくとも2つの第1級アミノ基を官能基として有するアミノ化合物のアミノ基が反応してC=N結合を形成していることにより、前記ポリイミドシロキサンが前記アミノ化合物によって架橋された構造を有するポリイミド樹脂であることを特徴とする熱伝導性ポリイミドフィルム。


【公開番号】特開2013−30727(P2013−30727A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217182(P2011−217182)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006644)新日鉄住金化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】