熱伝導性樹脂シートの製造方法、熱伝導性樹脂シート及びこれを用いたパワーモジュール
【課題】 異なる粒径を有する二種以上の無機充填材が高い充填率で充填されて高い熱伝導性が確保され、かつ樹脂が配合させて加工性が確保され、かつボイドが抑制されて良好な電気絶縁性が確保された熱伝導性樹脂シート及びこれを用いたパワーモジュールを得る。
【解決手段】 熱伝導性樹脂シートの製造方法において、複数の無機充填材をそれらの粒径の大きさから二別する工程と、上記二別した上記無機充填材の平均粒径の大きい方を第1充填材とし、小さい方を第2充填材として準備する工程と、規定された式に基づき、樹脂の体積配合比を決定する工程と、上記体積配合比に基づき、上記樹脂と上記第1充填材と上記第2充填材とを混練してコンパウンドを作製する工程と、上記コンパウンドを基材に塗布した塗布物を乾燥させた後、加重をかけて圧縮させる工程とを備える。
【解決手段】 熱伝導性樹脂シートの製造方法において、複数の無機充填材をそれらの粒径の大きさから二別する工程と、上記二別した上記無機充填材の平均粒径の大きい方を第1充填材とし、小さい方を第2充填材として準備する工程と、規定された式に基づき、樹脂の体積配合比を決定する工程と、上記体積配合比に基づき、上記樹脂と上記第1充填材と上記第2充填材とを混練してコンパウンドを作製する工程と、上記コンパウンドを基材に塗布した塗布物を乾燥させた後、加重をかけて圧縮させる工程とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体から放熱部材へ熱を伝達させるために用いる熱伝導性樹脂層を形成するための熱伝導性樹脂シートに関し、特に電力半導体素子等の発熱体からの熱を放熱部材に伝達させ、かつ絶縁層としても機能する熱伝導性樹脂層を形成するための熱伝導性樹脂シートに関する。また上記熱伝導性樹脂シートを用いたパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の発熱部から放熱部材へ熱を伝達させる熱伝導性樹脂層には、高熱伝導性、絶縁性、接着性の要求から、熱硬化性樹脂に無機充填材を添加した熱伝導性樹脂組成物が用いられている。
【0003】
例えば、パワーモジュールにおいては、電力半導体素子を搭載したリードフレームの裏面と放熱部となる金属板との間に設ける熱伝導性樹脂層として、無機充填材を含有した熱硬化性樹脂シートや塗布膜を用いる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
CPU等の発熱性電子部品と放熱フィンとの間に介在させる熱伝導性樹脂層として、高熱伝導性の無機粉体を充填した熱硬化性樹脂シートがある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、無機粉体を充填したコンパウンドシートを作製する場合、高い熱伝導性を得るため無機粉体の充填率を上げる方法として、異なる粒径を有する無機粉体を配合することが開示されている(例えば、特許文献3、特許文献4)。
【0006】
特許文献3は、異なる粒径の無機充填材の接触面積を大きくし、熱伝導性を向上させるものであり、特許文献4は、異なる3種の粒径を有する球状アルミナをビフェニル型エポキシ樹脂に配合し、さらに成形性、耐半田クラック性も向上させている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−196495号公報(第3頁、図1)
【特許文献2】特開2002−167560号公報(第3頁、図1)
【特許文献3】特開平6−310824号公報
【特許文献4】特開平7−278415号公報(第7頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、熱伝導性を向上させるため、樹脂に対する無機充填材の充填率を高くするとボイドが形成され、熱伝導性樹脂シートの電気絶縁性や機械的強度が低下するという問題があった。また樹脂に異なる粒径を有する2種以上の無機充填材を充填する場合、高い熱伝導率を確保するための配合比を決めることが困難であった。
【0009】
この発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであり、異なる粒径を有する二種以上の無機充填材が高い充填率で充填されて高い熱伝導性が確保され、かつ樹脂が配合させて加工性が確保され、かつボイドが抑制されて良好な電気絶縁性が確保された熱伝導性樹脂シート及びこれを用いたパワーモジュールを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る熱伝導性樹脂シートの製造方法は、複数の無機充填材をそれらの粒径の大きさから二別する工程と、上記二別した上記無機充填材の平均粒径の大きい方を第1充填材とし、小さい方を第2充填材として準備する工程と、
(i)0<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)≦α/(α+α/CFVC1×CFVC2)のとき、下記式(1)に基づき、
【0011】
【数1】
(ii)α/(α+α/CFVC1×CFVC2)<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)<1のとき、下記式(2)に基づき、
【0012】
【数2】
(式(1)式(2)において、αは第1充填材の体積と第2充填材の体積の和に対する第1充填材の体積、CFVC1は第1充填材の臨界体積分率、CFVC2は第2充填材の臨界体積分率)
樹脂の体積配合比を決定する工程と、上記体積配合比に基づき、上記樹脂と上記第1充填材と上記第2充填材とを混練してコンパウンドを作製する工程と、上記コンパウンドを基材に塗布した塗布物を乾燥させた後、加重をかけて圧縮させる工程とを備えたものである。
【0013】
この発明に係る熱伝導性樹脂シートは、複数の無機充填材をそれらの粒径の大きさから二別した上記無機充填材の平均粒径の大きい第1充填材と、小さい第2充填材と、樹脂とを含み、
(i)0<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)≦α/(α+α/CFVC1×CFVC2)のとき、下記式(3)に基づき、
【0014】
【数3】
【0015】
(ii)α/(α+α/CFVC1×CFVC2)<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)<1のとき、下記式(4)に基づき、
【0016】
【数4】
(式(3)式(4)において、αは第1充填材の体積と第2充填材の体積の和に対する第1充填材の体積、CFVC1は第1充填材の臨界体積分率、CFVC2は第2充填材の臨界体積分率)
を満たし、かつ空隙率2%以下であることを特徴とするものである。
【0017】
この発明に係るパワーモジュールは、電力半導体素子と、上記電力半導体素子から発生する熱を放熱する放熱部材と、上記放熱部材と接着された上記熱伝導性樹脂シートの硬化体とを備える。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、異なる粒径を有する二種以上の無機充填材が高い充填率で充填されて高い熱伝導性が確保され、かつ樹脂が配合させて加工性が確保され、かつボイドが抑制されて良好な電気絶縁性が確保された熱伝導性樹脂シートを得ることができる。
【0019】
またこの発明の熱伝導性樹脂シートを用いることにより、放熱性、電気絶縁性に優れたパワーモジュールを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施の形態1.
塗料技術の分野において、Temple C.Patton(Paint Flow and Pigment Dispersion,p.126〜p.138,1979,John,Wiley & Sons,Inc.)は、バインダーに対して顔料体積濃度(PVC:Pigment Volume Concentration)を増加させていくと、顔料濃度が低いと低い充填率となり、ある配合比で最密充填に到達し、さらに顔料を増やすとボイドが発生することを示し、臨界顔料体積分率(CPVC:Critical Pigment Volume Concentration)とPVCより空隙率φAIRを求めている。
【0021】
ここで、熱伝導樹脂シート4について検討する。樹脂3に対して充填材1の体積濃度(FVC:Filler Volume Concentration)を増加させていくと、充填材1の濃度が低い場合ボイド5は発生しにくいものの低充填率状態となり(図1(a))、所定の充填材配合比で最密充填状態に達し(図1(b))、さらに充填材1を増やすと充填材間にボイド5が発生すると考えられる(図1(c))。ここで図1(b)に示される最密充填状態の配合比を、臨界充填材体積分率(CFVC:Critical Filler Volume Concentration)とすると、FVCがCFVC以上の配合比での空隙率φAIRを、1−CFVC/FVCとして求めることができる。
【0022】
さらに、図1(b)の充填材1の最密充填状態において、充填材1(以下第1充填材という)の隙間に、第1充填材1より粒径の小さな第2充填材2を密に埋めることにより、第1充填材1の伝熱路および第2充填材2の伝熱路を形成すれば、より高い熱伝導性が期待できる(図2)。ここで第1充填材1と第2充填材2との隙間をボイド5を発生させない状態で樹脂3で埋めることにより、絶縁性、加工性、接着性を向上できる。
【0023】
第1充填材1の周囲、あるいは隙間を第2充填材2で埋めることにより伝熱路を確保できていれば、必ずしも第1充填材の体積分率が大きい必要はなく、例えば図3に示すように第2充填材2の体積分率を大きくしてもよい。
【0024】
図1の一種の充填材を含む熱伝導性樹脂シート4の硬化体を、次の手順で作製し、臨界充填材体積分率を求めた。
まず第1充填材1のみを樹脂3に、第1充填材1の体積濃度FVC1を任意に増大させて配合した成形体をいくつか作製した。そしてこれらの成形体を実測した重量と体積から求めた実測密度ρm1と、理想密度ρ1(ρ1=(第1充填材の重量+樹脂の重量)/(第1充填材の体積+樹脂の体積)から空隙率φA1(φA1=1−ρm1/ρ1)を算出した。さらに図4に示すように充填率と第1充填材1の体積濃度をプロットし、外挿から空隙率が零となる第1充填材1の臨界体積分率CFVC1を求めた。
【0025】
同様にして第2充填材2のみを樹脂3に、第2充填材2の体積濃度FVC2を任意に増大させて配合した成形体をいくつか作製し、これらの成形体の実測した重量と体積から求めた実測密度ρm2と、理想密度ρ2(ρ2=(第1充填材の重量+樹脂の重量)/(第1充填材の体積+樹脂の体積)から空隙率φA2(φA2=1−ρm2/ρ2)を算出し、図4に示すように充填率と第2充填材2の体積濃度をプロットして空隙率が零となる第2充填材2の臨界体積分率CFVC2を求めた。
【0026】
さらに第1充填材1、第2充填材2それぞれの臨界体積分率CFVC1、CFVC2から、図2あるいは図3に示す樹脂3と2種の充填材を配合した熱伝導性樹脂シート4の最密充填状態を次のとおり検討した。
(i) 第1充填材1の体積分率が第2充填材2に比べて、比較的小さい低配合比領域(領域I)
領域Iでは、次式で充填材総体積分率φc12、すなわち異なる粒径を有する2種類の充填材を樹脂3に充填した場合のボイド5が発生しない最密充填率を求めることができる。
φc12=(V1+V2)/(V1+V2+V3) (3)
(ここで、V1は第1充填材1の体積、V2は第2充填材2の体積、V3は樹脂3の体積)
さらに式(3)において、第1充填材1及び第2充填材2の合計体積すなわち充填材総体積(V1+V2)を1とし、第1充填材体積V1の充填材総体積に対する比をαとした場合次式が成立つ。
V3=V2/CFVC2 ×(1−CFVC2)
=(1−α)/CFVC2 ×(1−CFVC2) (4)
したがって、図5における第1充填材、第2充填材、樹脂の体積分率と第1充填材体積/充填材総体積との関係図に示すとおり、ボイド5が許容空隙率以下に抑制される充填材の最密充填状態となる第1充填材、第2充填材、及び樹脂の体積分率は次のとおりとなる。
【0027】
第1充填材1の体積分率:
α/{1+(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)} (5)
第2充填材2の体積分率:
(1−α)/{1+(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)} (6)
樹脂3の体積分率:
(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)
/{1+(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)} −φAC (7)
ここで、φACは許容空隙率であるが、ボイドが非常に少ない状態では、φAC≒0とできる。したがって、
(樹脂の体積分率)=(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)
/{1+(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)} (8)
つまり、上記式(5)(6)(8)に基づき、第1充填材1、第2充填材2、および樹脂の体積配合比を決定すれば、ボイド5が許容空隙率以下に抑制される充填材の最密充填状態となる。現実的には、熱伝導率確保のため第1充填材1、第2充填材2の体積分率の和をCFVC2確保することを考慮すれば、ボイド5を抑制する観点より樹脂の体積配合比を増やすことが必要となり、
(i)0<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)≦α/(α+α/CFVC1×CFVC2)のとき
(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)/{1+(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)} ≦ (樹脂の体積分率) ≦ 1−CFVC2 (9)
として、樹脂の体積配合比を決定すればよい。
なお、このとき充填材総体積分率φc12は次式で得られる。
φc12=1/{1+(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)} (10)
【0028】
(ii) 一方粒径の大きい第1充填材1の配合比が粒径の小さい第2充填材2に比べて、比較的大きい高配合比領域(領域II)において、同様に充填材体積をV1+V2=1とし、粒径の大きい第1充填材体積V1の充填材総体積に対する比をαとした場合、樹脂3の体積V3、および充填材の最密充填状態が得られる充填材総体積分率φc12は次式で求めることができる。
【0029】
V3=α/CFVC1−1 (11)
V2/CFVC2×(1−CFVC2)
=(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2) (12)
【0030】
これよりボイド5が許容空隙率以下に抑制される充填材の最密充填状態が得られる各成分の体積分率は、
第1充填材1の体積分率:CFVC1 (13)
第2充填材2の体積分率:
(1−α)/(α/CFVC1) (14)
樹脂3の体積分率:
(α/CFVC1−1)/(α/CFVC1) −φAC (15)
となる。ここで、φACは許容空隙率であるが、ボイドが非常に少ない状態では、φAC≒0とできる。したがって、
(樹脂の体積分率)=(α/CFVC1−1)/(α/CFVC1) (16)
つまり、上記式(13)(14)(16)に基づき、第1充填材1、第2充填材2、および樹脂の体積配合比を決定すれば、ボイド5が許容空隙率以下に抑制される充填材の最密充填状態となる。現実的には、熱伝導率確保のため第1充填材1、第2充填材2の体積分率の和をCFVC1確保することを考慮すれば、ボイド5を抑制する観点より樹脂の体積配合比を増やすことが必要となり、
(ii)α/(α+α/CFVC1×CFVC2)<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)<1のとき
(α/CFVC1−1)/(α/CFVC1) ≦ (樹脂の体積分率)
≦ 1−CFVC1 (17)
として、樹脂の体積配合比を決定すればよい。
なお、このとき充填材総体積分率φc12は次式で得られる。
φc12=1/(α/CFVC1) (18)
【0031】
また、図5に示すように、充填材総体積分率φc12は、領域Iと領域IIとの境界で最大となり、第1充填材1の体積分率を増やしてもCFVC1が限界となることがわかる。すなわち、ボイドを許容空隙率以下に抑え、充填材総体積分率φc12を上げるためには、第1充填材体積/充填材総体積がα/(α+α/CFVC1×CFVC2)以下となる領域で、第1充填材1と第2充填材2との配合比を決定することが好ましい。つまり、
0 < V1/(V1+V2) ≦ α/(α+α/CFVC1×CFVC2)より、
0 < α ≦ α/(α+α/CFVC1×CFVC2) (19)
【0032】
以上のように、第1充填材1の臨界体積分率CFVC1及び第2充填材2の臨界体積分率CFVC2を例えば実験的に求め、第1充填材、第2充填材、樹脂の体積分率と第1充填材体積/充填材総体積との関係を導くことにより、ボイド5が許容空隙率以下となり、かつ充填材を最密充填状態とした最適配合比が得られる。
【0033】
すなわち、粒径の大きな第1充填材1の隙間に理想的に粒径の小さな第2充填材2が配置され、さらにその隙間を樹脂3が埋めるボイド5のない飽和状態に近い状態が実現でき、結果として、充填材の最密充填による熱伝導性確保と、ボイド5が少なく樹脂3により埋められることにより、加工性、接着性、絶縁性を確保できる。このため高信頼性の熱伝導シートを得ることができる。ここで充填材の充填率は充填材総体積分率φc12で与えられる。
【0034】
なお、本実施の形態では、第1充填材1および第2充填材2の粒径は、それぞれの粒径分布より平均値を用いた。二種以上の充填材を用いる場合には、二種に大別して、平均粒径を用いれば同様に数値を求めることができる。
【0035】
実施の形態2.
本発明に係る実施の形態2においては、第1充填材1を粒径30μm程度の略球状の窒化アルミニウム粒子とし、第2充填材2を図6に示す長径Lが5〜15μm程度の扁平状充填材6とし、上記実施の形態1における第2充填材2と置き換えて臨界充填率を求めた。本実施の形態における扁平状充填材6の長径Lとは、図6に示すように扁平状充填剤6の平面部における最長の長さである。本実施の形態において、ボイド5の少ない状態で、かつ第1充填材1のみを充填材とする臨界体積分率CFVC1に対し、約35%の充填率の向上が得られ、熱伝導率は約2倍に向上した。
【0036】
球状の第1充填材1間に扁平状充填材6を介在させることにより、熱伝導性樹脂シート4の厚さ方向に分布する隣接する球状の第1充填材1同士が、扁平状充填材6により繋がれ、伝熱経路を形成するため、熱が熱伝導性樹脂シート4の厚さ方向にさらに伝わり易くなるためである。
【0037】
なお、本実施の形態において、扁平状充填材6は、図6に示す平板状のものを用いたが、その外縁の形状は限定されず、特に矩形形状とした場合熱伝導性を向上させる効果があることがわかった。材質としては電気絶縁性の酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化硼素、炭化珪素などを用いればよい。これらを2種類以上用いてもよい。
【0038】
また、上記実施の形態1および実施の形態2において、第1の充填材1は、略球状のものが好ましいが、粉砕された形状で多角体形状であってもよい。材質としては、電気絶縁性の酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化珪素(シリカ)、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化硼素などを用いればよい。これらを2種類以上用いてもよい。
【0039】
また、上記実施の形態1および実施の形態2において、2種の充填材を用いる例を示したが、第1充填材1、第2充填材2のいずれか、または両方を複数の異なる径の充填材としてもよい。すなわち、2種に限らず、複数の充填材を適用した場合の最密充填を実現する各材料の体積分率が求められ、充填率を著しく向上させることができるため熱伝導率を向上できる。また充填材間は、ボイド5を発生させることなく、樹脂3により埋められているので、絶縁性、加工性、接着性を高めることができる。
【0040】
また、樹脂3としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂などの組成物を用いることができるが、エポキシ樹脂は、熱伝導性樹脂シート4の絶縁性、接着性の観点より、特に好ましい。
【0041】
エポキシ樹脂組成物の主剤としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルーアミノフェノール系エポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は2種以上を併用しても良い。
エポキシ樹脂組成物の硬化剤としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸などの脂環式酸無水物、ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸などの芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジドなどの有機ジヒドラジド、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン、およびその誘導体、2−メチルイミダゾール、2−エチルー4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類が挙げられる。これらの硬化剤は2種以上を併用しても良い。
【0042】
熱伝導性樹脂シート4には、必要に応じてカップリング剤を含有させても良い。用いられるカップリング剤としては、例えばγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。上記カップリング剤は2種類以上併用しても良い。
熱伝導性樹脂シート4に上記のようなカップリング剤を含有させると、発熱部となる電子機器の電力半導体素子23を搭載する基材やヒートシンク部材24などとの接着強度が向上し、さらに好ましい。
【0043】
また、熱伝導性樹脂シート4のマトリックスとなる樹脂3に熱硬化性のエポキシ樹脂組成物を用いた場合、主剤の一部として数平均分子量3000以上のエポキシ樹脂を併用すると、熱伝導性樹脂シート4の柔軟性が向上し、電気・電子機器の発熱部や放熱部に対する密着性が増して、好ましい。数平均分子量3000以上のエポキシ樹脂の配合割合は、主剤の液状エポキシ樹脂100重量部に対して10〜40重量部である。この配合割合が10重量部未満では、上記の密着性の向上が認められない。この配合割合が40重量部より大きいと、熱伝導性樹脂シート硬化体の耐熱性が低下する。
【0044】
実施の形態3.
第1充填材1として粒径30μm程度の略球状の窒化アルミニウム、第2充填材2として扁平状充填材6を用い、第1充填材1の体積V1を、充填材総体積V1+V2に対して30%と固定し、樹脂体積V3を変化させて熱伝導性樹脂シート4を作製してそれぞれ熱伝導性樹脂シート4の充填材の充填率φ、熱伝導率λを測定した。
図7は、φ/CFVC1(CFVC1:第1充填材1の臨界充填材体積分率)とV2/(V2+V3)(V2:充填材2の体積、V3:樹脂3の体積)との関係を、図8は、λ/λCFVC1(λCFVC1:第1充填材のみを臨界充填させた場合の熱伝導率)とV2/(V2+V3)との関係をプロットしたものである。
【0045】
図7に示すとおり、第1充填材1のみを臨界充填させた場合(φ=CFVC1、φ/CFVC1=1)に比べ、第1充填材1および第2充填材2を充填させることにより充填率φが向上できることがわかる。さらにV2/(V2+V3)値が0.66以上で飽和状態となり、充填率は約27%程度向上する。
また熱伝導率については、図8に示すとおり、第1充填材1のみを臨界充填させた場合の熱伝導率λCFVC1(λ/λCFVC1=1)に比較して、V2/(V2+V3)値が0.66程度で約60%向上した。ここで熱伝導率を向上できる好ましい範囲は、第1充填材1のみを臨界充填させた場合の約40%の熱伝導率向上を図ることができる0.6≦V2/(V2+V3)≦0.72であり、さらに好ましい範囲は、約50%の熱伝導率向上を図ることができる0.62≦V2/(V2+V3)≦0.7、最も好ましい範囲は、約60%の熱伝導率向上を図ることができる0.65≦V2/(V2+V3)≦0.675であることがわかる。このようにして、熱伝導率を12W/m・K程度以上に向上できることがわかった。
【0046】
さらに、図9に比重比ρ/ρo(ρo:各配合比におけるボイドが無い理想密度)とV2/(V2+V3)との関係を、図10にBDV(Break Down Voltage)比BDV/BDVo(BDVo:ボイドが無い場合のBDV値の平均)とV2/(V2+V3)との関係を示した。なおボイドが無い場合のBDV値の平均とは、比重比ρ/ρoがほぼ1の場合、すなわち図9よりV2/(V2+V3)≦0.66のBDV値の平均である。また、ρは成形体を実測した重量と体積から求めた。1−ρ/ρoが空隙率に相当する。BDV測定は、三菱電線製ディスチャージデテクター装置により測定した。
【0047】
図9より、V2/(V2+V3)値が小さい、すなわち樹脂比率が大きい熱伝導性樹脂シート4では、比重比ρ/ρoはほぼ1となり、空隙率がほぼ0に近い状態となっているが、樹脂体積V3が減少すると、ボイド5が発生するためρ/ρo値が低下することがわかる。同様の関係で図10からBDV値が低下することがわかる。
【0048】
さらに図10よりBDV値を確保できるV2/(V2+V3)値は0.675以下であり、図9においてV2/(V2+V3)値が0.675のときのρ/ρo値が0.98であることから、許容空隙率は2%以下であることがわかる。さらに好ましくはV2/(V2+V3)値0.665以下で、許容空隙率は1%以下であることがわかる。
【0049】
なお、本実施の形態において、第1充填材1の体積V1を、充填材総体積V1+V2に対して30%と固定した例を示したが、他の配合比においても同様に成立つ。
【0050】
実施の形態4.
上記実施の形態1〜3で述べた熱伝導性樹脂シート4のうち、特に充填材の体積分率を著しく高くした熱伝導性樹脂シート4の製造方法を検討した。
【0051】
まず、所定量の熱硬化性樹脂の主剤とこの主剤を硬化させるのに必要な量の硬化剤とを含む熱硬化性樹脂組成物と、この熱硬化性樹脂組成物と例えば同重量の溶剤とを混合し、上記熱硬化性樹脂組成物の溶液とする。
【0052】
次に、上記熱硬化性樹脂組成物の溶液に、第1充填材1と第2充填材2を予め混合させた混合充填材を添加して予備混合する。この予備混合物を例えば3本ロールやニーダなどで混練し、コンパウンドとする。
【0053】
次に、得られたコンパウンドを、離型処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムや金属箔などの基材に、ドクターブレード法で塗布する。
【0054】
次に、この塗布物を乾燥し、塗布物中の溶剤を揮発させ、シート化し、さらに加熱してBステージ化する。
【0055】
次に、熱伝導性樹脂シート4にロールプレスを用いて線圧加重を100kgf/cm程度かけ圧縮させた。
【0056】
なお、粘度が低い熱硬化性樹脂組成物の場合は、溶剤を添加を省略することもできる。硬化促進のために触媒を、接着強度向上のためにカップリング剤などを適宜添加してもよい。
【0057】
実施の形態5.
図11は、本発明の実施の形態5に係るパワーモジュールの断面模式図である。
図11に示すように、本実施の形態のパワ−モジュール20は、配線材と放熱部材とを兼ねるリードフレーム22の第1の面に電力半導体素子23が載置されており、リードフレーム22の電力半導体素子23が載置された面に対向する反対側の第2の面に、上記実施の形態1〜4に係る熱伝導性樹脂シート4の硬化体21を介してヒートシンク部材24が設けられている。電力半導体素子23は、やはりリードフレーム22に載置された制御用半導体素子25と金属線26で接続されている。そして、熱伝導性樹脂シートの硬化体21、リードフレーム22、ヒートシンク部材24、電力半導体素子23、制御用半導体素子25、金属線26などのパワーモジュール構成部材はモールド樹脂27により封止されている。
【0058】
本実施の形態のパワーモジュール20は、以下のようにして製造される。まず、リードフレーム22の所定の部分に、電力半導体素子23や制御用半導体素子25を半田などにより接合する。次に、リードフレーム22の電力半導体素子23が載置された面に対向する反対側の第2の面に、Bステージ状の熱伝導性樹脂シート4を介してヒートシンク部材24を積層し、加熱加圧して熱伝導性樹脂シート4を硬化させ、ヒートシンク部材24を接着する。次に、電力半導体素子23と制御用半導体素子25とに、金属線26をワイヤボンド法により接合し、配線を行う。最後に、例えば、トランスファーモールド法により、モールド樹脂27で封止して、パワーモジュール20を完成する。
【0059】
本実施の形態のパワーモジュール20は、パワーモジュールの発熱部である電力半導体素子23を載置したリードフレーム22に、上記実施の形態1〜3に係る熱伝導性樹脂シート4の硬化体21を介してヒートシンク部材24が接着されている。熱伝導性樹脂シートの硬化体21は、電気絶縁性と従来にはない優れた熱伝導性を有しており、電力半導体素子23で発生した熱を高効率にヒートシンク部材24に伝達し放熱できるので、パワーモジュールの小形化と高容量化とを実現できる。
【0060】
なお、本実施の形態では、リードフレーム22とヒートシンク部材24との間に熱伝導性樹脂シート4を介する例について説明したが、本発明に係る熱伝導性樹脂シート4は、電気絶縁性と高熱伝導性を兼ね備えるので、ヒートシンク部材24を省略した構成も実現できる。
【0061】
また、本実施の形態では、ヒートシンク部材24がモールド樹脂でモールドされた例を示したが、例えば図12に示すようにケース45に電力半導体素子43、回路基板42、ヒートシンク部材44が設けられ、ケース45外のヒートスプレッダー47が、上記実施の形態1〜4に係る熱伝導性樹脂シート4の硬化体41となっていてもよい。ケース45内はたとえば注型樹脂46で保護されている。図12に示すパワーモジュール40では、回路基板42、ヒートシンク部材44のうち少なくともいずれかが放熱部材として機能する。
【0062】
本発明に係る熱伝導性樹脂シート4は、マトリックスとなる樹脂3をBステージ状態とすることができるので、電力半導体素子43などの発熱部を備えたリードフレームなどの基材と熱伝導性のよい金属製ヒートシンク部材24、44やヒートスプレッダー47とを接着でき、かつ電気絶縁できる。さらに熱伝導性樹脂シート4の硬化物21は充填材の体積分率を向上させたため、高熱伝導性を有し、ボイド5を極端に抑えたので、電気特性を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態1に係る熱伝導性樹脂シートを模式的に示した断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る熱伝導性樹脂シートを模式的に示した断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る熱伝導性樹脂シートを模式的に示した断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る充填率と充填材の体積濃度との関係を示した模式図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る第1充填材、第2充填材、樹脂の体積分率と第1充填材の総体積/充填材総体積との関係図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る第2充填材を模式的に示した斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係るφ/CFVC1とV2/(V2+V3)との関係図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係るλ/λCFVC1とV2/(V2+V3)との関係図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係るρ/ρoとV2/(V2+V3)との関係図である。
【図10】本発明の実施の形態3に係るBVD/BDVoとV2/(V2+V3)との関係図である。
【図11】本発明の実施の形態5に係るパワーモジュール模式的に示した断面図である。
【図12】本発明の実施の形態5に係るパワーモジュール模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 第1充填材、2 第2充填材、3 樹脂、4 熱伝導性樹脂シート、5 ボイド、6 扁平状充填材、20、40 パワーモジュール、21、41 熱伝導性樹脂シートの硬化体、22 リードフレーム、23、43 電力半導体素子、24、44 ヒートシンク部材、45 ケース、46 注型樹脂、47 ヒートスプレッダー
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体から放熱部材へ熱を伝達させるために用いる熱伝導性樹脂層を形成するための熱伝導性樹脂シートに関し、特に電力半導体素子等の発熱体からの熱を放熱部材に伝達させ、かつ絶縁層としても機能する熱伝導性樹脂層を形成するための熱伝導性樹脂シートに関する。また上記熱伝導性樹脂シートを用いたパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の発熱部から放熱部材へ熱を伝達させる熱伝導性樹脂層には、高熱伝導性、絶縁性、接着性の要求から、熱硬化性樹脂に無機充填材を添加した熱伝導性樹脂組成物が用いられている。
【0003】
例えば、パワーモジュールにおいては、電力半導体素子を搭載したリードフレームの裏面と放熱部となる金属板との間に設ける熱伝導性樹脂層として、無機充填材を含有した熱硬化性樹脂シートや塗布膜を用いる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
CPU等の発熱性電子部品と放熱フィンとの間に介在させる熱伝導性樹脂層として、高熱伝導性の無機粉体を充填した熱硬化性樹脂シートがある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、無機粉体を充填したコンパウンドシートを作製する場合、高い熱伝導性を得るため無機粉体の充填率を上げる方法として、異なる粒径を有する無機粉体を配合することが開示されている(例えば、特許文献3、特許文献4)。
【0006】
特許文献3は、異なる粒径の無機充填材の接触面積を大きくし、熱伝導性を向上させるものであり、特許文献4は、異なる3種の粒径を有する球状アルミナをビフェニル型エポキシ樹脂に配合し、さらに成形性、耐半田クラック性も向上させている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−196495号公報(第3頁、図1)
【特許文献2】特開2002−167560号公報(第3頁、図1)
【特許文献3】特開平6−310824号公報
【特許文献4】特開平7−278415号公報(第7頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、熱伝導性を向上させるため、樹脂に対する無機充填材の充填率を高くするとボイドが形成され、熱伝導性樹脂シートの電気絶縁性や機械的強度が低下するという問題があった。また樹脂に異なる粒径を有する2種以上の無機充填材を充填する場合、高い熱伝導率を確保するための配合比を決めることが困難であった。
【0009】
この発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであり、異なる粒径を有する二種以上の無機充填材が高い充填率で充填されて高い熱伝導性が確保され、かつ樹脂が配合させて加工性が確保され、かつボイドが抑制されて良好な電気絶縁性が確保された熱伝導性樹脂シート及びこれを用いたパワーモジュールを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る熱伝導性樹脂シートの製造方法は、複数の無機充填材をそれらの粒径の大きさから二別する工程と、上記二別した上記無機充填材の平均粒径の大きい方を第1充填材とし、小さい方を第2充填材として準備する工程と、
(i)0<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)≦α/(α+α/CFVC1×CFVC2)のとき、下記式(1)に基づき、
【0011】
【数1】
(ii)α/(α+α/CFVC1×CFVC2)<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)<1のとき、下記式(2)に基づき、
【0012】
【数2】
(式(1)式(2)において、αは第1充填材の体積と第2充填材の体積の和に対する第1充填材の体積、CFVC1は第1充填材の臨界体積分率、CFVC2は第2充填材の臨界体積分率)
樹脂の体積配合比を決定する工程と、上記体積配合比に基づき、上記樹脂と上記第1充填材と上記第2充填材とを混練してコンパウンドを作製する工程と、上記コンパウンドを基材に塗布した塗布物を乾燥させた後、加重をかけて圧縮させる工程とを備えたものである。
【0013】
この発明に係る熱伝導性樹脂シートは、複数の無機充填材をそれらの粒径の大きさから二別した上記無機充填材の平均粒径の大きい第1充填材と、小さい第2充填材と、樹脂とを含み、
(i)0<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)≦α/(α+α/CFVC1×CFVC2)のとき、下記式(3)に基づき、
【0014】
【数3】
【0015】
(ii)α/(α+α/CFVC1×CFVC2)<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)<1のとき、下記式(4)に基づき、
【0016】
【数4】
(式(3)式(4)において、αは第1充填材の体積と第2充填材の体積の和に対する第1充填材の体積、CFVC1は第1充填材の臨界体積分率、CFVC2は第2充填材の臨界体積分率)
を満たし、かつ空隙率2%以下であることを特徴とするものである。
【0017】
この発明に係るパワーモジュールは、電力半導体素子と、上記電力半導体素子から発生する熱を放熱する放熱部材と、上記放熱部材と接着された上記熱伝導性樹脂シートの硬化体とを備える。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、異なる粒径を有する二種以上の無機充填材が高い充填率で充填されて高い熱伝導性が確保され、かつ樹脂が配合させて加工性が確保され、かつボイドが抑制されて良好な電気絶縁性が確保された熱伝導性樹脂シートを得ることができる。
【0019】
またこの発明の熱伝導性樹脂シートを用いることにより、放熱性、電気絶縁性に優れたパワーモジュールを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施の形態1.
塗料技術の分野において、Temple C.Patton(Paint Flow and Pigment Dispersion,p.126〜p.138,1979,John,Wiley & Sons,Inc.)は、バインダーに対して顔料体積濃度(PVC:Pigment Volume Concentration)を増加させていくと、顔料濃度が低いと低い充填率となり、ある配合比で最密充填に到達し、さらに顔料を増やすとボイドが発生することを示し、臨界顔料体積分率(CPVC:Critical Pigment Volume Concentration)とPVCより空隙率φAIRを求めている。
【0021】
ここで、熱伝導樹脂シート4について検討する。樹脂3に対して充填材1の体積濃度(FVC:Filler Volume Concentration)を増加させていくと、充填材1の濃度が低い場合ボイド5は発生しにくいものの低充填率状態となり(図1(a))、所定の充填材配合比で最密充填状態に達し(図1(b))、さらに充填材1を増やすと充填材間にボイド5が発生すると考えられる(図1(c))。ここで図1(b)に示される最密充填状態の配合比を、臨界充填材体積分率(CFVC:Critical Filler Volume Concentration)とすると、FVCがCFVC以上の配合比での空隙率φAIRを、1−CFVC/FVCとして求めることができる。
【0022】
さらに、図1(b)の充填材1の最密充填状態において、充填材1(以下第1充填材という)の隙間に、第1充填材1より粒径の小さな第2充填材2を密に埋めることにより、第1充填材1の伝熱路および第2充填材2の伝熱路を形成すれば、より高い熱伝導性が期待できる(図2)。ここで第1充填材1と第2充填材2との隙間をボイド5を発生させない状態で樹脂3で埋めることにより、絶縁性、加工性、接着性を向上できる。
【0023】
第1充填材1の周囲、あるいは隙間を第2充填材2で埋めることにより伝熱路を確保できていれば、必ずしも第1充填材の体積分率が大きい必要はなく、例えば図3に示すように第2充填材2の体積分率を大きくしてもよい。
【0024】
図1の一種の充填材を含む熱伝導性樹脂シート4の硬化体を、次の手順で作製し、臨界充填材体積分率を求めた。
まず第1充填材1のみを樹脂3に、第1充填材1の体積濃度FVC1を任意に増大させて配合した成形体をいくつか作製した。そしてこれらの成形体を実測した重量と体積から求めた実測密度ρm1と、理想密度ρ1(ρ1=(第1充填材の重量+樹脂の重量)/(第1充填材の体積+樹脂の体積)から空隙率φA1(φA1=1−ρm1/ρ1)を算出した。さらに図4に示すように充填率と第1充填材1の体積濃度をプロットし、外挿から空隙率が零となる第1充填材1の臨界体積分率CFVC1を求めた。
【0025】
同様にして第2充填材2のみを樹脂3に、第2充填材2の体積濃度FVC2を任意に増大させて配合した成形体をいくつか作製し、これらの成形体の実測した重量と体積から求めた実測密度ρm2と、理想密度ρ2(ρ2=(第1充填材の重量+樹脂の重量)/(第1充填材の体積+樹脂の体積)から空隙率φA2(φA2=1−ρm2/ρ2)を算出し、図4に示すように充填率と第2充填材2の体積濃度をプロットして空隙率が零となる第2充填材2の臨界体積分率CFVC2を求めた。
【0026】
さらに第1充填材1、第2充填材2それぞれの臨界体積分率CFVC1、CFVC2から、図2あるいは図3に示す樹脂3と2種の充填材を配合した熱伝導性樹脂シート4の最密充填状態を次のとおり検討した。
(i) 第1充填材1の体積分率が第2充填材2に比べて、比較的小さい低配合比領域(領域I)
領域Iでは、次式で充填材総体積分率φc12、すなわち異なる粒径を有する2種類の充填材を樹脂3に充填した場合のボイド5が発生しない最密充填率を求めることができる。
φc12=(V1+V2)/(V1+V2+V3) (3)
(ここで、V1は第1充填材1の体積、V2は第2充填材2の体積、V3は樹脂3の体積)
さらに式(3)において、第1充填材1及び第2充填材2の合計体積すなわち充填材総体積(V1+V2)を1とし、第1充填材体積V1の充填材総体積に対する比をαとした場合次式が成立つ。
V3=V2/CFVC2 ×(1−CFVC2)
=(1−α)/CFVC2 ×(1−CFVC2) (4)
したがって、図5における第1充填材、第2充填材、樹脂の体積分率と第1充填材体積/充填材総体積との関係図に示すとおり、ボイド5が許容空隙率以下に抑制される充填材の最密充填状態となる第1充填材、第2充填材、及び樹脂の体積分率は次のとおりとなる。
【0027】
第1充填材1の体積分率:
α/{1+(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)} (5)
第2充填材2の体積分率:
(1−α)/{1+(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)} (6)
樹脂3の体積分率:
(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)
/{1+(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)} −φAC (7)
ここで、φACは許容空隙率であるが、ボイドが非常に少ない状態では、φAC≒0とできる。したがって、
(樹脂の体積分率)=(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)
/{1+(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)} (8)
つまり、上記式(5)(6)(8)に基づき、第1充填材1、第2充填材2、および樹脂の体積配合比を決定すれば、ボイド5が許容空隙率以下に抑制される充填材の最密充填状態となる。現実的には、熱伝導率確保のため第1充填材1、第2充填材2の体積分率の和をCFVC2確保することを考慮すれば、ボイド5を抑制する観点より樹脂の体積配合比を増やすことが必要となり、
(i)0<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)≦α/(α+α/CFVC1×CFVC2)のとき
(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)/{1+(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)} ≦ (樹脂の体積分率) ≦ 1−CFVC2 (9)
として、樹脂の体積配合比を決定すればよい。
なお、このとき充填材総体積分率φc12は次式で得られる。
φc12=1/{1+(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2)} (10)
【0028】
(ii) 一方粒径の大きい第1充填材1の配合比が粒径の小さい第2充填材2に比べて、比較的大きい高配合比領域(領域II)において、同様に充填材体積をV1+V2=1とし、粒径の大きい第1充填材体積V1の充填材総体積に対する比をαとした場合、樹脂3の体積V3、および充填材の最密充填状態が得られる充填材総体積分率φc12は次式で求めることができる。
【0029】
V3=α/CFVC1−1 (11)
V2/CFVC2×(1−CFVC2)
=(1−α)/CFVC2×(1−CFVC2) (12)
【0030】
これよりボイド5が許容空隙率以下に抑制される充填材の最密充填状態が得られる各成分の体積分率は、
第1充填材1の体積分率:CFVC1 (13)
第2充填材2の体積分率:
(1−α)/(α/CFVC1) (14)
樹脂3の体積分率:
(α/CFVC1−1)/(α/CFVC1) −φAC (15)
となる。ここで、φACは許容空隙率であるが、ボイドが非常に少ない状態では、φAC≒0とできる。したがって、
(樹脂の体積分率)=(α/CFVC1−1)/(α/CFVC1) (16)
つまり、上記式(13)(14)(16)に基づき、第1充填材1、第2充填材2、および樹脂の体積配合比を決定すれば、ボイド5が許容空隙率以下に抑制される充填材の最密充填状態となる。現実的には、熱伝導率確保のため第1充填材1、第2充填材2の体積分率の和をCFVC1確保することを考慮すれば、ボイド5を抑制する観点より樹脂の体積配合比を増やすことが必要となり、
(ii)α/(α+α/CFVC1×CFVC2)<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)<1のとき
(α/CFVC1−1)/(α/CFVC1) ≦ (樹脂の体積分率)
≦ 1−CFVC1 (17)
として、樹脂の体積配合比を決定すればよい。
なお、このとき充填材総体積分率φc12は次式で得られる。
φc12=1/(α/CFVC1) (18)
【0031】
また、図5に示すように、充填材総体積分率φc12は、領域Iと領域IIとの境界で最大となり、第1充填材1の体積分率を増やしてもCFVC1が限界となることがわかる。すなわち、ボイドを許容空隙率以下に抑え、充填材総体積分率φc12を上げるためには、第1充填材体積/充填材総体積がα/(α+α/CFVC1×CFVC2)以下となる領域で、第1充填材1と第2充填材2との配合比を決定することが好ましい。つまり、
0 < V1/(V1+V2) ≦ α/(α+α/CFVC1×CFVC2)より、
0 < α ≦ α/(α+α/CFVC1×CFVC2) (19)
【0032】
以上のように、第1充填材1の臨界体積分率CFVC1及び第2充填材2の臨界体積分率CFVC2を例えば実験的に求め、第1充填材、第2充填材、樹脂の体積分率と第1充填材体積/充填材総体積との関係を導くことにより、ボイド5が許容空隙率以下となり、かつ充填材を最密充填状態とした最適配合比が得られる。
【0033】
すなわち、粒径の大きな第1充填材1の隙間に理想的に粒径の小さな第2充填材2が配置され、さらにその隙間を樹脂3が埋めるボイド5のない飽和状態に近い状態が実現でき、結果として、充填材の最密充填による熱伝導性確保と、ボイド5が少なく樹脂3により埋められることにより、加工性、接着性、絶縁性を確保できる。このため高信頼性の熱伝導シートを得ることができる。ここで充填材の充填率は充填材総体積分率φc12で与えられる。
【0034】
なお、本実施の形態では、第1充填材1および第2充填材2の粒径は、それぞれの粒径分布より平均値を用いた。二種以上の充填材を用いる場合には、二種に大別して、平均粒径を用いれば同様に数値を求めることができる。
【0035】
実施の形態2.
本発明に係る実施の形態2においては、第1充填材1を粒径30μm程度の略球状の窒化アルミニウム粒子とし、第2充填材2を図6に示す長径Lが5〜15μm程度の扁平状充填材6とし、上記実施の形態1における第2充填材2と置き換えて臨界充填率を求めた。本実施の形態における扁平状充填材6の長径Lとは、図6に示すように扁平状充填剤6の平面部における最長の長さである。本実施の形態において、ボイド5の少ない状態で、かつ第1充填材1のみを充填材とする臨界体積分率CFVC1に対し、約35%の充填率の向上が得られ、熱伝導率は約2倍に向上した。
【0036】
球状の第1充填材1間に扁平状充填材6を介在させることにより、熱伝導性樹脂シート4の厚さ方向に分布する隣接する球状の第1充填材1同士が、扁平状充填材6により繋がれ、伝熱経路を形成するため、熱が熱伝導性樹脂シート4の厚さ方向にさらに伝わり易くなるためである。
【0037】
なお、本実施の形態において、扁平状充填材6は、図6に示す平板状のものを用いたが、その外縁の形状は限定されず、特に矩形形状とした場合熱伝導性を向上させる効果があることがわかった。材質としては電気絶縁性の酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化硼素、炭化珪素などを用いればよい。これらを2種類以上用いてもよい。
【0038】
また、上記実施の形態1および実施の形態2において、第1の充填材1は、略球状のものが好ましいが、粉砕された形状で多角体形状であってもよい。材質としては、電気絶縁性の酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化珪素(シリカ)、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化硼素などを用いればよい。これらを2種類以上用いてもよい。
【0039】
また、上記実施の形態1および実施の形態2において、2種の充填材を用いる例を示したが、第1充填材1、第2充填材2のいずれか、または両方を複数の異なる径の充填材としてもよい。すなわち、2種に限らず、複数の充填材を適用した場合の最密充填を実現する各材料の体積分率が求められ、充填率を著しく向上させることができるため熱伝導率を向上できる。また充填材間は、ボイド5を発生させることなく、樹脂3により埋められているので、絶縁性、加工性、接着性を高めることができる。
【0040】
また、樹脂3としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂などの組成物を用いることができるが、エポキシ樹脂は、熱伝導性樹脂シート4の絶縁性、接着性の観点より、特に好ましい。
【0041】
エポキシ樹脂組成物の主剤としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルーアミノフェノール系エポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は2種以上を併用しても良い。
エポキシ樹脂組成物の硬化剤としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸などの脂環式酸無水物、ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸などの芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジドなどの有機ジヒドラジド、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン、およびその誘導体、2−メチルイミダゾール、2−エチルー4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類が挙げられる。これらの硬化剤は2種以上を併用しても良い。
【0042】
熱伝導性樹脂シート4には、必要に応じてカップリング剤を含有させても良い。用いられるカップリング剤としては、例えばγ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。上記カップリング剤は2種類以上併用しても良い。
熱伝導性樹脂シート4に上記のようなカップリング剤を含有させると、発熱部となる電子機器の電力半導体素子23を搭載する基材やヒートシンク部材24などとの接着強度が向上し、さらに好ましい。
【0043】
また、熱伝導性樹脂シート4のマトリックスとなる樹脂3に熱硬化性のエポキシ樹脂組成物を用いた場合、主剤の一部として数平均分子量3000以上のエポキシ樹脂を併用すると、熱伝導性樹脂シート4の柔軟性が向上し、電気・電子機器の発熱部や放熱部に対する密着性が増して、好ましい。数平均分子量3000以上のエポキシ樹脂の配合割合は、主剤の液状エポキシ樹脂100重量部に対して10〜40重量部である。この配合割合が10重量部未満では、上記の密着性の向上が認められない。この配合割合が40重量部より大きいと、熱伝導性樹脂シート硬化体の耐熱性が低下する。
【0044】
実施の形態3.
第1充填材1として粒径30μm程度の略球状の窒化アルミニウム、第2充填材2として扁平状充填材6を用い、第1充填材1の体積V1を、充填材総体積V1+V2に対して30%と固定し、樹脂体積V3を変化させて熱伝導性樹脂シート4を作製してそれぞれ熱伝導性樹脂シート4の充填材の充填率φ、熱伝導率λを測定した。
図7は、φ/CFVC1(CFVC1:第1充填材1の臨界充填材体積分率)とV2/(V2+V3)(V2:充填材2の体積、V3:樹脂3の体積)との関係を、図8は、λ/λCFVC1(λCFVC1:第1充填材のみを臨界充填させた場合の熱伝導率)とV2/(V2+V3)との関係をプロットしたものである。
【0045】
図7に示すとおり、第1充填材1のみを臨界充填させた場合(φ=CFVC1、φ/CFVC1=1)に比べ、第1充填材1および第2充填材2を充填させることにより充填率φが向上できることがわかる。さらにV2/(V2+V3)値が0.66以上で飽和状態となり、充填率は約27%程度向上する。
また熱伝導率については、図8に示すとおり、第1充填材1のみを臨界充填させた場合の熱伝導率λCFVC1(λ/λCFVC1=1)に比較して、V2/(V2+V3)値が0.66程度で約60%向上した。ここで熱伝導率を向上できる好ましい範囲は、第1充填材1のみを臨界充填させた場合の約40%の熱伝導率向上を図ることができる0.6≦V2/(V2+V3)≦0.72であり、さらに好ましい範囲は、約50%の熱伝導率向上を図ることができる0.62≦V2/(V2+V3)≦0.7、最も好ましい範囲は、約60%の熱伝導率向上を図ることができる0.65≦V2/(V2+V3)≦0.675であることがわかる。このようにして、熱伝導率を12W/m・K程度以上に向上できることがわかった。
【0046】
さらに、図9に比重比ρ/ρo(ρo:各配合比におけるボイドが無い理想密度)とV2/(V2+V3)との関係を、図10にBDV(Break Down Voltage)比BDV/BDVo(BDVo:ボイドが無い場合のBDV値の平均)とV2/(V2+V3)との関係を示した。なおボイドが無い場合のBDV値の平均とは、比重比ρ/ρoがほぼ1の場合、すなわち図9よりV2/(V2+V3)≦0.66のBDV値の平均である。また、ρは成形体を実測した重量と体積から求めた。1−ρ/ρoが空隙率に相当する。BDV測定は、三菱電線製ディスチャージデテクター装置により測定した。
【0047】
図9より、V2/(V2+V3)値が小さい、すなわち樹脂比率が大きい熱伝導性樹脂シート4では、比重比ρ/ρoはほぼ1となり、空隙率がほぼ0に近い状態となっているが、樹脂体積V3が減少すると、ボイド5が発生するためρ/ρo値が低下することがわかる。同様の関係で図10からBDV値が低下することがわかる。
【0048】
さらに図10よりBDV値を確保できるV2/(V2+V3)値は0.675以下であり、図9においてV2/(V2+V3)値が0.675のときのρ/ρo値が0.98であることから、許容空隙率は2%以下であることがわかる。さらに好ましくはV2/(V2+V3)値0.665以下で、許容空隙率は1%以下であることがわかる。
【0049】
なお、本実施の形態において、第1充填材1の体積V1を、充填材総体積V1+V2に対して30%と固定した例を示したが、他の配合比においても同様に成立つ。
【0050】
実施の形態4.
上記実施の形態1〜3で述べた熱伝導性樹脂シート4のうち、特に充填材の体積分率を著しく高くした熱伝導性樹脂シート4の製造方法を検討した。
【0051】
まず、所定量の熱硬化性樹脂の主剤とこの主剤を硬化させるのに必要な量の硬化剤とを含む熱硬化性樹脂組成物と、この熱硬化性樹脂組成物と例えば同重量の溶剤とを混合し、上記熱硬化性樹脂組成物の溶液とする。
【0052】
次に、上記熱硬化性樹脂組成物の溶液に、第1充填材1と第2充填材2を予め混合させた混合充填材を添加して予備混合する。この予備混合物を例えば3本ロールやニーダなどで混練し、コンパウンドとする。
【0053】
次に、得られたコンパウンドを、離型処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムや金属箔などの基材に、ドクターブレード法で塗布する。
【0054】
次に、この塗布物を乾燥し、塗布物中の溶剤を揮発させ、シート化し、さらに加熱してBステージ化する。
【0055】
次に、熱伝導性樹脂シート4にロールプレスを用いて線圧加重を100kgf/cm程度かけ圧縮させた。
【0056】
なお、粘度が低い熱硬化性樹脂組成物の場合は、溶剤を添加を省略することもできる。硬化促進のために触媒を、接着強度向上のためにカップリング剤などを適宜添加してもよい。
【0057】
実施の形態5.
図11は、本発明の実施の形態5に係るパワーモジュールの断面模式図である。
図11に示すように、本実施の形態のパワ−モジュール20は、配線材と放熱部材とを兼ねるリードフレーム22の第1の面に電力半導体素子23が載置されており、リードフレーム22の電力半導体素子23が載置された面に対向する反対側の第2の面に、上記実施の形態1〜4に係る熱伝導性樹脂シート4の硬化体21を介してヒートシンク部材24が設けられている。電力半導体素子23は、やはりリードフレーム22に載置された制御用半導体素子25と金属線26で接続されている。そして、熱伝導性樹脂シートの硬化体21、リードフレーム22、ヒートシンク部材24、電力半導体素子23、制御用半導体素子25、金属線26などのパワーモジュール構成部材はモールド樹脂27により封止されている。
【0058】
本実施の形態のパワーモジュール20は、以下のようにして製造される。まず、リードフレーム22の所定の部分に、電力半導体素子23や制御用半導体素子25を半田などにより接合する。次に、リードフレーム22の電力半導体素子23が載置された面に対向する反対側の第2の面に、Bステージ状の熱伝導性樹脂シート4を介してヒートシンク部材24を積層し、加熱加圧して熱伝導性樹脂シート4を硬化させ、ヒートシンク部材24を接着する。次に、電力半導体素子23と制御用半導体素子25とに、金属線26をワイヤボンド法により接合し、配線を行う。最後に、例えば、トランスファーモールド法により、モールド樹脂27で封止して、パワーモジュール20を完成する。
【0059】
本実施の形態のパワーモジュール20は、パワーモジュールの発熱部である電力半導体素子23を載置したリードフレーム22に、上記実施の形態1〜3に係る熱伝導性樹脂シート4の硬化体21を介してヒートシンク部材24が接着されている。熱伝導性樹脂シートの硬化体21は、電気絶縁性と従来にはない優れた熱伝導性を有しており、電力半導体素子23で発生した熱を高効率にヒートシンク部材24に伝達し放熱できるので、パワーモジュールの小形化と高容量化とを実現できる。
【0060】
なお、本実施の形態では、リードフレーム22とヒートシンク部材24との間に熱伝導性樹脂シート4を介する例について説明したが、本発明に係る熱伝導性樹脂シート4は、電気絶縁性と高熱伝導性を兼ね備えるので、ヒートシンク部材24を省略した構成も実現できる。
【0061】
また、本実施の形態では、ヒートシンク部材24がモールド樹脂でモールドされた例を示したが、例えば図12に示すようにケース45に電力半導体素子43、回路基板42、ヒートシンク部材44が設けられ、ケース45外のヒートスプレッダー47が、上記実施の形態1〜4に係る熱伝導性樹脂シート4の硬化体41となっていてもよい。ケース45内はたとえば注型樹脂46で保護されている。図12に示すパワーモジュール40では、回路基板42、ヒートシンク部材44のうち少なくともいずれかが放熱部材として機能する。
【0062】
本発明に係る熱伝導性樹脂シート4は、マトリックスとなる樹脂3をBステージ状態とすることができるので、電力半導体素子43などの発熱部を備えたリードフレームなどの基材と熱伝導性のよい金属製ヒートシンク部材24、44やヒートスプレッダー47とを接着でき、かつ電気絶縁できる。さらに熱伝導性樹脂シート4の硬化物21は充填材の体積分率を向上させたため、高熱伝導性を有し、ボイド5を極端に抑えたので、電気特性を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態1に係る熱伝導性樹脂シートを模式的に示した断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る熱伝導性樹脂シートを模式的に示した断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る熱伝導性樹脂シートを模式的に示した断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る充填率と充填材の体積濃度との関係を示した模式図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る第1充填材、第2充填材、樹脂の体積分率と第1充填材の総体積/充填材総体積との関係図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係る第2充填材を模式的に示した斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態3に係るφ/CFVC1とV2/(V2+V3)との関係図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係るλ/λCFVC1とV2/(V2+V3)との関係図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係るρ/ρoとV2/(V2+V3)との関係図である。
【図10】本発明の実施の形態3に係るBVD/BDVoとV2/(V2+V3)との関係図である。
【図11】本発明の実施の形態5に係るパワーモジュール模式的に示した断面図である。
【図12】本発明の実施の形態5に係るパワーモジュール模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 第1充填材、2 第2充填材、3 樹脂、4 熱伝導性樹脂シート、5 ボイド、6 扁平状充填材、20、40 パワーモジュール、21、41 熱伝導性樹脂シートの硬化体、22 リードフレーム、23、43 電力半導体素子、24、44 ヒートシンク部材、45 ケース、46 注型樹脂、47 ヒートスプレッダー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無機充填材をそれらの粒径の大きさから二別する工程と、
上記二別した上記無機充填材の平均粒径の大きい方を第1充填材とし、小さい方を第2充填材として準備する工程と、
(i)0<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)≦α/(α+α/CFVC1×CFVC2)のとき、下記式(1)に基づき、
【数1】
(ii)α/(α+α/CFVC1×CFVC2)<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)<1のとき、下記式(2)に基づき、
【数2】
(式(1)式(2)において、αは第1充填材の体積と第2充填材の体積の和に対する第1充填材の体積、CFVC1は第1充填材の臨界体積分率、CFVC2は第2充填材の臨界体積分率)
樹脂の体積配合比を決定する工程と、
上記体積配合比に基づき、上記樹脂と上記第1充填材と上記第2充填材とを混練してコンパウンドを作製する工程と、
上記コンパウンドを基材に塗布した塗布物を乾燥させた後、加重をかけて圧縮させる工程とを備えた熱伝導性樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
空隙率2%以下となるまで、加重をかけて圧縮させることを特徴とする請求項1記載の熱伝導性樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
複数の無機充填材をそれらの粒径の大きさから二別した上記無機充填材の平均粒径の大きい第1充填材と、小さい第2充填材と、樹脂とを含み、
(i)0<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)≦α/(α+α/CFVC1×CFVC2)のとき、下記式(3)に基づき、
【数3】
(ii)α/(α+α/CFVC1×CFVC2)<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)<1のとき、下記式(4)に基づき、
【数4】
(式(3)式(4)において、αは第1充填材の体積と第2充填材の体積の和に対する第1充填材の体積、CFVC1は第1充填材の臨界体積分率、CFVC2は第2充填材の臨界体積分率)
を満たし、かつ空隙率2%以下であることを特徴とする熱伝導性樹脂シート。
【請求項4】
請求項1あるいは2の熱伝導性樹脂シートの製造方法によって製造されたことを特徴とする熱伝導性樹脂シート。
【請求項5】
第1充填材は球状充填材、第2充填材は扁平状充填材であることを特徴とする請求項3あるいは請求項4に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項6】
電力半導体素子と、上記電力半導体素子から発生する熱を放熱する放熱部材と、
上記放熱部材と接着された請求項3乃至5のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シートの硬化体と、
を備えたことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項1】
複数の無機充填材をそれらの粒径の大きさから二別する工程と、
上記二別した上記無機充填材の平均粒径の大きい方を第1充填材とし、小さい方を第2充填材として準備する工程と、
(i)0<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)≦α/(α+α/CFVC1×CFVC2)のとき、下記式(1)に基づき、
【数1】
(ii)α/(α+α/CFVC1×CFVC2)<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)<1のとき、下記式(2)に基づき、
【数2】
(式(1)式(2)において、αは第1充填材の体積と第2充填材の体積の和に対する第1充填材の体積、CFVC1は第1充填材の臨界体積分率、CFVC2は第2充填材の臨界体積分率)
樹脂の体積配合比を決定する工程と、
上記体積配合比に基づき、上記樹脂と上記第1充填材と上記第2充填材とを混練してコンパウンドを作製する工程と、
上記コンパウンドを基材に塗布した塗布物を乾燥させた後、加重をかけて圧縮させる工程とを備えた熱伝導性樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
空隙率2%以下となるまで、加重をかけて圧縮させることを特徴とする請求項1記載の熱伝導性樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
複数の無機充填材をそれらの粒径の大きさから二別した上記無機充填材の平均粒径の大きい第1充填材と、小さい第2充填材と、樹脂とを含み、
(i)0<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)≦α/(α+α/CFVC1×CFVC2)のとき、下記式(3)に基づき、
【数3】
(ii)α/(α+α/CFVC1×CFVC2)<(第1充填材の体積)/(無機充填材の総体積)<1のとき、下記式(4)に基づき、
【数4】
(式(3)式(4)において、αは第1充填材の体積と第2充填材の体積の和に対する第1充填材の体積、CFVC1は第1充填材の臨界体積分率、CFVC2は第2充填材の臨界体積分率)
を満たし、かつ空隙率2%以下であることを特徴とする熱伝導性樹脂シート。
【請求項4】
請求項1あるいは2の熱伝導性樹脂シートの製造方法によって製造されたことを特徴とする熱伝導性樹脂シート。
【請求項5】
第1充填材は球状充填材、第2充填材は扁平状充填材であることを特徴とする請求項3あるいは請求項4に記載の熱伝導性樹脂シート。
【請求項6】
電力半導体素子と、上記電力半導体素子から発生する熱を放熱する放熱部材と、
上記放熱部材と接着された請求項3乃至5のいずれかに記載の熱伝導性樹脂シートの硬化体と、
を備えたことを特徴とするパワーモジュール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−308576(P2008−308576A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157505(P2007−157505)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]