説明

熱伝導性粘着シート

【課題】
高い熱伝導性と柔軟性を同時に満足する熱伝導性粘着シートを提供する。
【解決手段】
フィルム状ないしシート状の基材の片面若しくは両面に熱伝導性粘着剤を塗布してシート状に成形した熱伝導性粘着シート又は熱伝導性粘着剤自体をシート状に成形した熱伝導性粘着シートであって、この熱伝導性粘着剤が(A)水酸基を官能基に有する(メタ)アクリル系樹脂100質量部、(B)熱伝導性充填剤600〜1500質量部及び(C)弾性型イソシアネート系架橋剤1.5〜60質量部からなるものであることを特徴とする熱伝導性粘着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体集積回路(IC)パッケージ、トランジスタ若しくはダイオード等の電子部品又は、プラズマディスプレイパネル若しくは液晶ディスプレイパネル等のパネル自体から発生した熱をヒートシンクや放熱金属板等の放熱体に効率よく伝達させるために使用することができる熱伝導性粘着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の実装技術の向上に伴い、電子機器の小型化、薄型化が進んでいるため、電子機器から発生する単位面積当たりの熱量が増大しており、電子機器の故障や誤作動を防止するため、電子機器において使用されるICパッケージやトランジスタ、ダイオード等の電子部品から発生する熱を効率的に外部に放出させることが必要となっている。また、プラズマディスプレイパネルや、液晶ディスプレイパネルにおいては、パネル自体が発熱するため、この熱を外部に放出することも必要となっている。
【0003】
これらの対策として一般的には、電子部品等の発熱体に、ヒートシンク、放熱金属板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることで、熱を拡散させる方法が取られている。発熱体から放熱体への熱伝導を効率よく行うために、金属酸化物をゴム成分に含有した放熱シート等を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前記した放熱シートは、粘着性を有しておらず、発熱体や放熱体との界面での剥離を防止するため、ネジや板バネなどの固定用部品を用いて固定することにより使用される。このものは、上記作業を伴うものであるため作業が非常に煩雑であるとともに狭小部分に使用することが困難であるという欠点を有する。また、熱伝導性充填剤の含有量が低いため熱伝導性の点においてもいまだ不十分のものであった。
【0005】
近年、このような放熱シートに代えて、熱伝導性粘着剤や、この熱伝導性粘着剤をシート状に形成した熱伝導性粘着シートが電子機器やパネル用に用いられるようになってきている。
例えば、シリコーン系粘着剤中に熱伝導性充填剤を配合し成形した熱伝導性粘着シート(例えば、特許文献2参照)が提案されている。このものは、粘着性を有しているため、上述した固定用部品を使用することなく電子機器等に使用することができるものの、シリコーン系粘着剤を使用しているため粘着剤中に低分子量シロキサンが含まれ、発熱体に貼り付けて使用する場合には低分子シロキサンガスが発生し、このガスは電極接点などへ付着して二酸化珪素を生成し、電子部品の接点不良を誘発するという欠点がある。
【0006】
一方、重量平均分子量が10万以上50万以下の(メタ)アクリル酸エステル重合体と重量平均分子量が1000以上5000以下の(メタ)アクリル酸エステル重合体と(メタ)アクリル酸エステル単量体と膨張化黒鉛粉とを含有するアクリル樹脂組成物を成形してなる熱伝導性感圧接着性シート(例えば、特許文献3参照)も提案されている。このものは、膨張化黒鉛に難燃性熱伝導無機化合物を併用しうることが記載されているものの、柔軟性を確保するためにはアクリル樹脂混合物100質量部に対しその合計添加量を500質量部以下とせざるを得ず熱伝導性という点でいまだ不十分なものであった。
【0007】
更に、分子鎖に反応性官能基を有し、ポリスチレン換算による重量平均分子量が800乃至20,000のアクリル系共重合体と前記アクリル系共重合体と反応する官能基を有する化合物と分子鎖に反応性官能基を有さない又は分子鎖末端に官能基を有するアクリル系共重合体とシランカップリング剤と機能性充填剤を含有するアクリル系樹脂シート状成形体(例えば、特許文献4参照)等も提案されている。このものは、機能性充填剤として熱伝導性充填剤を使用し得ることが記載されているものの、当該アクリル系重合体100質量部に対し熱伝導性充填剤を600質量部以上配合した場合には、アクリル系重合体の分子量が小さいため凝集力を保持することができず、シート状若しくはフィルム状に成型する際の成形性を満足できないという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−330575号公報
【特許文献2】特開2008−112894号公報
【特許文献3】特開2009−197109号公報
【特許文献4】特開2009−235146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来の放熱シート又は熱伝導性粘着シートが有する欠点を克服し、高い熱伝導性と柔軟性を同時に満足する熱伝導性粘着シートを提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、熱伝導性粘着シートとして求められる高い熱伝導性と発熱体や放熱体に対する柔軟性を同時に満足するためには、フィルム状ないしシート状の基材の片面若しくは両面に設けられた熱伝導性粘着剤層が、水酸基を官能基に有する(メタ)アクリル系樹脂、熱伝導性充填剤、特定のイソシアネート系架橋剤を含有する熱伝導性粘着剤からなるものである必要があることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の熱伝導性粘着シートを提供するものである。
【0012】
[1]フィルム状ないしシート状の基材の片面若しくは両面に熱伝導性粘着剤を塗布し、シート状に成形した熱伝導性粘着シート又は熱伝導性粘着剤自体をシート状に成形した熱伝導性粘着シートにおいて、熱伝導性粘着剤が、(A)水酸基を官能基に有する(メタ)アクリル系樹脂100質量部、(B)熱伝導性充填剤600〜1500質量部及び(C)弾性型イソシアネート系架橋剤0.5〜60質量部からなるものであることを特徴とする熱伝導性粘着シート。
【0013】
[2]前記(A)成分が(A1)水酸基価が3〜20mgKOH/g、質量平均分子量が10万〜150万の範囲である(メタ)アクリル系樹脂と(A2)水酸基価が20mgKOH/g以上、質量平均分子量が800〜2万の範囲である(メタ)アクリル系樹脂の混合物からなるものであることを特徴とする[1]に記載の熱伝導性粘着シート。
【0014】
[3]前記(A1)、(A2)成分それぞれが水酸基を官能基に有する単量体と炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとからなる共重合体であり、かつ、ガラス転移温度を−70〜−10℃に有することを特徴とする[2]に記載の熱伝導性粘着シート。
【0015】
[4]前記(A1)成分と(A2)成分の配合比が5:95〜50:50の範囲であることを特徴とする[2]又は[3]に記載の熱伝導性粘着シート。
【0016】
[5]前記(B)成分が(B1)平均粒子径10〜50μmの熱伝導性充填剤、(B2)平均粒子径0.01〜5μmの熱伝導性充填剤からなり、(B1)成分と(B2)成分の配合比が70:30〜50:50の範囲であることを特徴とする[1]に記載の熱伝導性粘着シート。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ICパッケージ、トランジスタ若しくはダイオード等の電子部品又は、プラズマディスプレイパネル若しくは液晶ディスプレイパネル等のパネル自体から発生した熱をヒートシンクや放熱金属板等の放熱体に効率よく伝達させるために使用し得る熱伝導性粘着シートを得ることができる。この粘着シートを用いることにより、固定用部材を使用する必要性がなく作業性を向上させることができる。また、本発明の粘着シートはシリコーン系の粘着剤を用いていないため、シロキサンガスを発生させることもなく、電子部品等の腐食を引き起こすこともない。更に、従来のアクリル系粘着剤からなる熱伝導性シートよりも柔軟性を損なうことなく熱伝導性充填剤を多量に配合させることができるため、熱伝導性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の熱伝導性粘着シートの形態について具体的に説明するが、本発明は以下の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し、適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲のものである。
【0019】
[熱伝導性粘着シート]
本発明の熱伝導性粘着シートは、フィルム状ないしシート状の基材の片面若しくは両面に、熱伝導性粘着剤層を設けたものである。但し、熱伝導性粘着剤層そのものをフィルム状ないしシート状に形成して本発明の熱伝導性粘着シートとすることも可能である。
【0020】
本発明の熱伝導性粘着シートは、その構成要素として、基材及び/又は熱伝導性粘着剤層を備える。以下、各要素ごとに説明する。
【0021】
[基材]
本発明にいう「基材」とは、熱伝導性粘着剤層を支持するための部材であって、フィルム状ないしシート状を呈するものである。本明細書において「フィルム状ないしシート状」というときは、薄膜状ないし薄板状の形状を意味し、通常は4〜250μmの厚さのものが用いられる。
【0022】
基材の構成材料については特に限定されず、従来、粘着シート用の基材として用いられてきた材料の中から、熱伝導性粘着シートの用途に応じて適宜選択することができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、セロハン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリアミド、若しくはポリスルホン等の合成樹脂、金属等の中から選択することができる。尚、基材は透明であっても、着色せしめたものであってもよい。着色は、基材の構成材料に各種顔料や染料を配合する方法等により行うことができる。また、基材の表面は平滑であるものに限定されず、その表面がマット状に加工されているものであってもよい。
【0023】
基材は、その構成材料中に、従来公知の添加剤、具体的には、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を含有するものであってもよい。また、粘着層との密着性を向上させることを目的として、表面処理を施したものを用いることが好ましい。表面処理としては、例えばコロナ放電処理・グロー放電処理等の放電処理、プラズマ処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理・電子線処理・放射線処理等の電離活性線処理、サンドマット処理・アンカー処理・ヘアライン処理・エンボス加工等の粗面化処理、化学薬品処理、易接着層塗布処理等が挙げられる。
【0024】
[熱伝導性粘着剤層]
本発明にいう「熱伝導性粘着剤層」とは、基材の少なくとも一方の表面を被覆するように形成された層であり、(A)水酸基を官能基に有する(メタ)アクリル系樹脂、(B)熱伝導性充填剤及び(C)弾性型イソシアネート系架橋剤を含有する熱伝導性粘着剤からなるものである。
【0025】
熱伝導性粘着剤層の厚さはその使用目的に応じ適宜選択されるものであるが、一般に10〜150μmとすることが好ましい。10μm未満の場合には、被着体に対する充分な粘着力が得られなくなるため好ましくなく、150μmを超える場合には乾燥不良を起こすおそれがある点において好ましくない。被着体に対する粘着力と乾燥不良を防止する点から20〜80μmとすることが更に好ましく、30〜60μmとすることが特に好ましい。
【0026】
[熱伝導性粘着剤]
[A成分]
本発明で使用される(A)成分は、水酸基を官能基に有する(メタ)アクリル系樹脂であり、水酸基を官能基として有する単量体を構成単位とするものである。水酸基を官能基として有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシメチルシクロへキシル、(メタ)アクリル酸3−クロロ‐2‐ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸エトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸カプロラクトン、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール等が挙げられる。尚、これらの単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
(A)成分は、前記した水酸基を官能基に有する単量体と炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる共重合体であり、その配合比を通常質量比で10:90〜2.5:97.5の範囲としたものが好ましい。
【0028】
炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等が挙げられる。
【0029】
本発明の(A)成分は、上記水酸基を官能基に有する単量体と炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる共重合体であることが好ましいが、これらに加えて任意的な他の単量体成分からなる共重合体とすることもできる。任意的な他の単量体成分としては、アクリロニトリル、アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル及びN−ビニルピロリドン等が挙げられる。その使用量は単量体全量に対して0〜30質量%、好ましくは0〜10質量%の範囲で用いられる。
【0030】
(A)成分の共重合体は、上記の単量体成分をラジカル共重合させることによって得ることができる。この場合の共重合法としては、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、光重合法など通常用いられている公知の共重合法の中から任意に選ぶことができる。また、(A)成分のガラス転移温度としては、−70℃〜−10℃の範囲内であることが好ましい。ガラス転移温度が−70℃未満であると、耐熱性が低下し、ガラス転移温度が−10℃を超えた場合には、室温における粘着力が低下するからである。耐熱性と室温における粘着力という観点から、−60℃〜−25℃の範囲内であることが好ましい。
【0031】
(A)成分の水酸基価としては、10mgKOH/g以上であることが好ましい。水酸基価が10mgKOH/g未満である場合には(C)成分と十分に反応することができず凝集力が低下し被着体に対する粘着力が低下するからである。
【0032】
(A)成分は、(A1)水酸基価が3〜20mgKOH/g、質量平均分子量10万〜150万の(メタ)アクリル系樹脂と、(A2)水酸基価が20mgKOH/g以上、質量平均分子量800〜2万の(メタ)アクリル系樹脂とを混合したものからなるものであることが更に好ましい。
(A1)成分を配合することにより、熱伝導性粘着剤に靱性を付与することができ、これからなる熱伝導性粘着剤層を柔軟であり、かつ、形態安定性に優れたものとすることができる。
(A1)成分の水酸基価が、3mgKOH/g未満である場合には(C)成分と十分に架橋することができず、凝集力が低下し、所望の粘着力を得ることができず、水酸基価が20mgKOH/gを超えた場合には(A1)成分の架橋が進行する結果、(A2)成分の架橋が阻害され粘着剤としての凝集力が不足することになる。また、(A1)成分の架橋が進行する結果、得られる熱伝導性粘着剤層の柔軟性が低下し、被着体に対する粘着力が低下する。
(A1)成分の質量平均分子量が10万未満である場合には、得られる熱伝導性粘着剤層の靭性が低下し、質量平均分子量が150万を超えた場合には、得られる熱伝導性粘着剤層の柔軟性が低下し、被着体に対する粘着力が低下する。
(A2)成分を配合することにより、(B)成分表面との濡れ性が向上し、(B)成分の表面処理を行うことなく(A)成分と(B)成分の親和性を高めることができる。また後述する熱伝導性粘着剤層形成塗工液の安定性を向上させることができ、生産性を高めることができる。(A2)成分の水酸基価が20mgKOH/g未満である場合には(B)成分に対する親和性が低下する。
(A2)成分の質量平均分子量が800未満である場合には、(C)成分と架橋した場合においても分子量がいまだ低く凝集力を確保することができず、質量平均分子量が2万を超えた場合には、(B)成分の間隙に効率的に入り込むことが難しくなる。
【0033】
前記(A1)成分と(A2)の配合比が5:95〜50:50の範囲で配合することが好ましい。(A1)成分の配合比が前記範囲より少ない場合には熱伝導性粘着剤の靭性が低下し、これからなる熱伝導性粘着剤層はもろいものとなり、粘着剤層としての形態を維持することができない。また、(A1)成分の配合比が前記範囲より多い場合には熱伝導性粘着剤層の柔軟性を確保することができず、被着体に対する接触面積が下がり、熱伝導度及び粘着力が低下するからである。
【0034】
(A1)、(A2)各成分は先に(A)成分として挙げた水酸基を官能基に有する単量体、炭素数が1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、任意的な他のモノマー成分からなる共重合体であることが好ましい。
【0035】
(A1)、(A2)各成分の共重合体は、前記(A)成分と同様の方法により上記の単量体成分を重合させることによって得ることができる。また、(A1)、(A2)各成分のガラス転移温度としては、前記(A)成分と同様−70℃〜−10℃の範囲内であることが好ましい。ガラス転移温度が−70℃未満であると、耐熱性が低下し、ガラス転移温度が−10℃を超えた場合には、室温における粘着力が低下するためである。尚、(A1)、(A2)各成分を構成する単量体中のアルキル鎖は同じものであることが好ましい。アルキル鎖が異なる場合には、相溶性が低下し均一な熱伝導性粘着剤形成塗工液を得ることが困難となるからである。尚、熱伝導性粘着剤形成塗工液については後述する。
【0036】
[B成分]
本発明で使用される(B)成分としては、特に制限されず、従来公知のものを適宜選択して使用することができる。例えば、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、窒化硼素、窒化珪素、マイカ、シリカ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、銀粉末、銅粉末、アルミニウム粉末、炭化珪素、ダイヤモンド粉末、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。(B)成分は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(B)成分は、前記(A)成分100質量部に対して、600〜1500質量部含有するものである。600質量部未満であると熱伝導性を確保することができず、1500質量部を超えた場合には、得られた粘着剤層の柔軟性が確保できなくなるからである。熱伝導性と柔軟性の観点から600〜1300質量部であることが好ましい。
【0038】
(B)成分の形状は、球状又は擬球状であることが好ましい。平板状、針状などアスペクト比の高いものは、熱伝導性粘着剤層の厚み方向の柔軟性が低下し、被着体に対する粘着力を低下させる要因となるからである。
【0039】
また、(B)成分が球状又は擬球状である場合、その平均粒子径は0.01〜50μm程度であることが好ましい。平均粒子径が0.01μm未満では粒子の自己凝集性の制御が困難であること、フィラーが高価でありコストが増大することとなるからである。平均粒子径が50μmを超えると前記(A)成分中に充填させることが困難となるからである。自己凝集性の制御と充填性の観点から 0.02〜20μmの範囲であることが好ましい。尚、熱伝導性粘着剤層の平滑性を確保することが困難となるため、(B)成分が球状又は擬球状である場合、その最大粒子径が熱伝導性粘着剤層の厚みより小さい粒子径のものを使用することが好ましい。
【0040】
さらに、(B)成分が球状又は擬球状である場合、平均粒子径の異なるものを組み合わせて用いることが好ましい。このようにして平均粒子径の異なるものを数種類組み合わせ、熱伝導性粘着剤中に混在させることによって、得られる熱伝導性粘着剤の粘度を低下させることが可能となり、同じ平均粒子径のものを組み合わせるより高充填することが可能となる。具体的には、(B1)平均粒子径が10〜50μm、(B2)平均粒子径0.01〜5μmのものを70:30〜50:50の範囲で組み合わせることが好ましい。
(B1)成分が上記範囲より多い場合には、熱伝導性粘着剤層の平滑性を維持することが困難となり、上記範囲より少ない場合には、(B)成分同士の接触頻度が低下し、熱伝導性が低下するためである。尚、(B1)、(B2)成分とも先に(B)成分で挙げたものを使用することができ、上記平均粒子径を満足する限りにおいては、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
【0041】
[C成分]
本発明で使用される(C)成分は、弾性型のイソシアネート系架橋剤である。具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート又はトリレンジイソシアネートの柔軟性を改質したものであり、デュラネートTSE−100、デュラネートE402−90T、デュラネートE405−80T(いずれも旭化成ケミカルズ社製、デュラネートは登録商標)等が挙げられる。
【0042】
(C)成分の添加量は前記(A)成分100質量部に対して0.5〜60質量部の範囲内である。0.5質量部未満の場合には熱伝導性粘着剤の凝集力を確保することができなくなり、60質量部を超えた場合には粘着剤層の柔軟性が低下するからである。凝集力と柔軟性との観点から5〜40質量部の範囲であることが好ましい。
【0043】
この際、熱伝導性粘着剤には、従来慣用されている各種添加剤、例えば、重合反応禁止剤、架橋促進剤、酸化防止剤、安定剤、カップリング剤、粘度調整剤、粘着付与剤等が含有されていてもよい。
【0044】
[熱伝導性粘着シート]
本発明の熱伝導性粘着シートは、前記(A)、(B)及び(C)成分を適当な溶剤に溶解し、或いは分散させて、固形分濃度を30〜90質量%程度の熱伝導性粘着剤層形成塗工液とし、この熱伝導性粘着剤層形成塗工液を常法に従って、基材の片面若しくは両面の表面を被覆するように塗布し、これを乾燥する方法により得ることができる。尚、基材に代えて離型性を有するフィルムを用い、離型性を有する表面に熱伝導性粘着剤層形成塗工液を塗布・乾燥させフィルム状ないしシート状に形成して熱伝導性粘着剤層のみからなる熱伝導性粘着シートとすることができる。
【0045】
この際、熱伝導性粘着剤層形成塗工液には、従来慣用されている各種添加剤、例えば、重合反応禁止剤、架橋促進剤、酸化防止剤、安定剤、カップリング剤、粘度調整剤、粘着付与剤等を添加してもよい。
【0046】
前記架橋促進剤としては、例えば、トリエチルアミン系、ナフテン酸コバルト系、スズ系の架橋促進剤が挙げられ、特に、塩化第一スズ、テトラ−n−ブチルスズ、水酸化トリメチルスズ、塩化ジメチルスズ、ジラウリン酸ジ−n−ブチルスズ等のスズ系架橋促進剤を使用することが好ましい。架橋促進剤を使用することでより低温・短時間で架橋することが可能となる。この他、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤等を、粘着付与剤としては、テルペン系樹脂、キシレン系樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。尚、粘着付与樹脂を使用することで、粘着力を所望の範囲に調整することが容易になるとともに、熱伝導性粘着剤としての凝集性を高めることができる。
【0047】
塗布の方法については特に制限はなく、ワイヤーバー、アプリケーター、刷毛、スプレー、ローラー、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、コンマコーター、ナイフコーター、リバースコ−ター、スピンコーター等を用いた従来公知の塗布方法を利用することができる。尚、熱伝導性粘着剤層形成塗工液を塗布する基材や離型性を有するフィルムの面には、必要に応じて予め表面処理を施しておいてもよい。
【0048】
乾燥方法についても特に制限はなく、熱風乾燥、減圧乾燥等の従来公知の乾燥方法を利用することができる。乾燥条件については、粘着剤の種類や塗工液で使用した溶剤の種類、粘着層の膜厚等に応じて適宜設定すればよいが、60〜200℃程度の温度で乾燥を行うことが一般的である。
【0049】
本発明の熱伝導性粘着シートの熱伝導度は、熱の放散性を十分発現させるために、1.0W・m−1・K−1以上、好ましくは3.0W・m−1・K−1以上、更に好ましくは5.0W・m−1・K−1以上である必要がある。
【0050】
本発明の熱伝導性粘着シートの23℃における粘着力は、アルミニウムを被着体とした際に0.1N/10mm以上であることが好ましい。被着体に対する密着性を確保し、熱の放散性を十分発現させるためである。
【0051】
本発明の熱伝導性粘着シートにおける熱伝導性粘着剤層の硬度は、20〜80の範囲が好ましい。硬度が20未満であると後述する実施例1に記載の剥離フィルムから剥離する際に熱伝導性粘着シートが変形し、硬度が80を超える場合には熱伝導性粘着シートの柔軟性が低下し、被着体に対する密着性を確保できないからである。変形防止と密着性の観点から硬度は30〜60の範囲であることが好ましい。
【0052】
[使用方法]
本発明の熱伝導性粘着シートは、ICパッケージやトランジスタ、ダイオード等の電子部品又はプラズマディスプレイや、液晶ディスプレイのパネル等の発熱体とヒートシンクや放熱金属板等の放熱体との間に介在することにより、放熱体から発生する熱を効率的に外部に放出させる目的で使用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の熱伝導性粘着シートにつき実施例を用いて具体的に説明するが、本発明の熱伝導性粘着シートはこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。尚、実施例、比較例の熱伝導性粘着剤層形成塗工液については均一性を、熱伝導性粘着シートについては、熱伝導度、粘着力、柔軟性の各項目を評価した。尚、これらの項目については、以下の方法により評価した。
【0054】
(均一性)
後述する熱伝導性粘着剤層形成塗工液の状態を目視にて評価した。
評価基準は以下の通りである。
○:分離・沈殿等が見られない。
×:分離・沈殿等が見られる。
【0055】
(熱伝導度)
ISO22007−3の規定に基づき、(株)アイフェイズ製アイフェイズモバイル1Uにより、熱拡散率を測定した。また、JIS K7112に規定に基づき熱伝導性粘着剤の密度を、JIS K7123の規定に基づき比熱を測定し、これらのパラメータから熱伝導度を算出した。
【0056】
(粘着力)
JISZ0237の規定に基づき、試験片幅を10mm、被着体をアルミ板(番手:A1050)として23℃における180°粘着力を測定した。
【0057】
(柔軟性)
JISK6253の規定に基づき、デュロメータEにより熱伝導性粘着剤層の硬度を測定した。
【0058】
各実施例、比較例で用いた各成分は以下のとおりである。
【0059】
(A1−1成分)質量平均分子量90万、水酸基価6.5mgKOH/g、ガラス転移温度−60℃のアクリル系樹脂である。構成モノマーとして、アクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルを含むものである。
【0060】
(A1−2成分)
質量平均分子量52万、水酸基価15mgKOH/g、ガラス転移温度−64℃のアクリル系樹脂である。構成モノマーとして、アクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルを含むものである。
【0061】
(A1−3成分)
質量平均分子量65万、水酸基価8.5mgKOH/g、ガラス転移温度−36℃のアクリル系樹脂である。構成モノマーとしてアクリル酸ブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルを含むものである。
【0062】
(A2−1成分)
質量平均分子量2,000、水酸基価110mgKOH/g、ガラス転移温度−60℃のアクリル系樹脂である。構成モノマーとして、アクリル酸2エチルヘキシルを含むものである。
【0063】
(A2−2成分)
質量平均分子量1.1万、水酸基価20mgKOH/g、ガラス転移温度−55℃のアクリル系樹脂である。構成モノマーとして、アクリル酸2エチルヘキシルを含むものである。
【0064】
(A2−3成分)質量平均分子量2,200、水酸基価89mgKOH/g、ガラス転移温度−54℃のアクリル系樹脂である。構成モノマーとしてアクリル酸ブチルを含むものである。
【0065】
(B1−1)成分
平均粒子径20μm、球状の酸化マグネシウム粒子である。
【0066】
(B1−2)成分
平均粒子径20μm、球状のアルミナ粒子である。
【0067】
(B2−1)成分
平均粒子径2μm、球状の酸化マグネシウム粒子である。
【0068】
(B2−2)成分
平均粒子径0.2μm、球状のアルミナ粒子である。
【0069】
(B2−3)成分
平均粒子径2μm、球状のアルミナ粒子である。
【0070】
(B3)成分
平板状のマイカ(コープケミカル社製 製品名:MK−300)である。
【0071】
(C)成分
弾性型イソシアネート系架橋剤 (旭化成ケミカルズ社製、製品名:デュラネートTSE−100、NCO%:12質量%)である。
【0072】
(粘着性付与剤)
軟化点150℃のテルペンフェノール樹脂である。
【0073】
(その他の粘着剤1)
質量平均分子量81万、ガラス転移温度−64℃のアクリル系樹脂である。構成モノマーとして、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸を含むものである。
【0074】
(その他の粘着剤2)
質量平均分子量3,000、ガラス転移温度−50℃のアクリル系樹脂である。構成モノマーとして、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸を含むものである。
【0075】
(その他の粘着剤3)
質量平均分子量27万、ガラス転移温度−31℃のアクリル系樹脂である。構成モノマーとして、アクリル酸ブチル、アクリル酸を含むものである。
【0076】
(その他の架橋剤1)
ヘキサメチレンジイソシアネート系架橋剤(三井化学社製、製品名:タケネートD−170N、NCO%:21質量%、タケネートは登録商標)である。
【0077】
(その他の架橋剤2)
トリレンジイソシアネート系架橋剤(デグサジャパン社製、製品名VESTANATT−1890E、NCO%:18.9質量%、VESTANATは登録商標)である。
【0078】
実施例1
(A1−1)成分5質量部、(A2−1)成分65質量部、(B1-1)成分440質量部、(B2-1)成分330質量部、(C)成分20質量部、及び粘着付与剤30質量部からなる粘着剤組成物にメチルエチルケトン100質量部、トルエン30質量部を加え、撹拌、混合することにより熱伝導性粘着剤層形成塗工液を調製した。
次に、この塗工液を、厚さ100μmの剥離フィルム(シリコーン処理ポリエチレンテレフタレート)の表面に、ベーカー式アプリケーターを用いて塗布し、80℃で1分、次に100℃で3分乾燥することにより膜厚50μmの粘着層を形成した。この粘着層の前記剥離フィルムとは反対側に厚さ100μmの別の剥離フィルム(シリコーン処理ポリエチレンテレフタレート)を貼着し、40℃で7日間養生することにより熱伝導性粘着シートを作製した。このものの物性を表1に示す。
【0079】
実施例2〜14
表1に示す各成分をそれぞれ用い、実施例1と同様にして熱伝導性粘着シートを作製した。これらの熱伝導性粘着シートの物性を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
比較例1、2、5、7、8、9
表2に示す各成分をそれぞれ用い、実施例1と同様にして熱伝導性粘着シートを作製した。これらの熱伝導性粘着シートの物性を表2に示す。
【0082】
比較例3、4、6
表2に示す各成分をそれぞれ用い、実施例1と同様にして熱伝導性粘着シートの作製を試みた。比較例3、4については、熱伝導性粘着剤層形成塗工液が分離・沈殿したため、比較例6については、凝集力が不足しているためシート状に成形することができなかった。
【0083】
【表2】

【0084】
[評価]
上記の結果から、実施例1〜14の熱伝導性粘着シートは、柔軟性、熱伝導度のいずれにも優れているものであることがわかる。また、実施例5と8においては、粘着付与剤を添加していないものではあるが、粘着力を十分に有していることもわかる。実施例3により、熱伝導性充填剤が1種類の場合でも、柔軟性と熱伝導度に富んだシートが得られることもわかる。更に、実施例8においてはアクリル樹脂が1種類のみでも柔軟性と熱伝導度に富んだシートが得られることもわかる。実施例14においては、平板状の熱伝導性充填材を併用したことにより、熱伝導度がやや向上したものの粘着力が低下していることもわかる。

これに対し、比較例1、8では、熱伝導性充填剤の添加量が少ないために、熱伝導度が低いことがわかる。更に比較例2では、熱伝導性充填剤の添加量が多く、熱伝導性粘着剤層の硬度が高く柔軟性を確保できないため、シートの形状を保持することができず粘着力と熱伝導度の各データを測定することができなかった。比較例3、4では、官能基としてカルボニル基を有するアクリル系樹脂を使用しているため粘着剤層形成塗工液が分離し、熱伝導性充填剤も沈殿してしまい、塗工液の均一性が得られなかった。比較例5、9では、弾性型イソシアネートを使用しなかったため、熱伝導性粘着剤層の硬度が高く柔軟性を確保できないため、シートの形状を保持することができず粘着力と熱伝導度の各データを測定することができなかった。比較例6では架橋剤の量が少ないため、粘着剤の凝集力が不足し、シート状に成形することができなかった。比較例7では、比較例6の場合とは逆に架橋剤の量が多いため、熱伝導性粘着剤層の硬度が高く柔軟性を確保できないため、シートの形状を保持することができず粘着力と熱伝導度の各データを測定することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の熱伝導性粘着シートは、熱伝導度と柔軟性に優れるとともに、粘着性も有しているため、半導体集積回路(IC)パッケージ、トランジスタ若しくはダイオード等の電子部品又は、プラズマディスプレイパネル若しくは液晶ディスプレイパネル等のパネル自体から発生した熱をヒートシンクや放熱金属板等の放熱体に効率よく伝達させるために使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状ないしシート状の基材の片面若しくは両面に熱伝導性粘着剤を塗布してシート状に成形した熱伝導性粘着シート又は熱伝導性粘着剤自体をシート状に成形した熱伝導性粘着シートにおいて、この熱伝導性粘着剤が(A)水酸基を官能基に有する(メタ)アクリル系樹脂100質量部、(B)熱伝導性充填剤600〜1500質量部及び(C)弾性型イソシアネート系架橋剤0.5〜60質量部からなるものであることを特徴とする熱伝導性粘着シート。
【請求項2】
前記(A)成分が(A1)水酸基価が3〜20mgKOH/g、質量平均分子量が10万〜150万の範囲である(メタ)アクリル系樹脂と(A2)水酸基価が20mgKOH/g以上、質量平均分子量が800〜2万の範囲である(メタ)アクリル系樹脂の混合物からなるものであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性粘着シート。
【請求項3】
前記(A1)、(A2)成分それぞれが水酸基を官能基に有する単量体と炭素数1〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとからなる共重合体であり、かつ、ガラス転移温度を−70〜−10℃に有することを特徴とする請求項2に記載の熱伝導性粘着シート。
【請求項4】
前記(A1)成分と(A2)成分の配合比が5:95〜50:50の範囲であることを特徴とする請求項2又は3に記載の熱伝導性粘着シート。
【請求項5】
前記(B)成分が(B1)平均粒子径10〜50μmの熱伝導性充填剤、(B2)平均粒子径0.01〜5μmの熱伝導性充填剤からなり、(B1)成分と(B2)成分の配合比が70:30〜50:50の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性粘着シート。

【公開番号】特開2011−219511(P2011−219511A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86575(P2010−86575)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000108454)ソマール株式会社 (81)
【Fターム(参考)】