説明

熱処理炉のエンドキャップ

【課題】高温で熱処理が可能な熱処理炉を提供すべく、熱処理炉内の圧力変化があっても所定の熱処理雰囲気を維持可能となるエンドキャップ、及びそれを用いた熱処理炉を提供する。
【解決手段】シール面204を備えるシャッター部材により密閉可能な、熱処理炉の収容部の搬入口102に装着可能なエンドキャップであって、前記搬入口102の内周面に挿入される第1の挿入管部12と、連接し一周する溝15と、前記搬入口102にフランジ面18で当接可能な第1のフランジ20と、前記シール面204と当接してシール可能なフランジ面25を備える第2のフランジ24と、前記第1のフランジ及び前記第2のフランジの間の連結部に接続された炉内に連通する開口を備える排気管と、前記溝内に開口し、前記連結部から半径方向に突出するシールガス導入管と、を備えるエンドキャップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハ等の高温の熱処理に用いる熱処理炉のエンドキャップに関し、より詳しくは、熱処理炉内の雰囲気の制御を容易にできるエンドキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハ等の熱処理は、所定の温度、所定の雰囲気で行われ、それに応じた熱処理炉が用いられる。従って、このような温度及び雰囲気に耐え得る材料で炉の部材を製造する必要があるが、材料によっては加工が困難であったり、コストがかかるものもある。一方、熱処理炉は、処理前に炉の蓋を開け、熱処理対象物を投入し、蓋を閉じて熱処理を行うが、大気とは異なる熱処理雰囲気を保持可能な脱着自在であって、気密性を担保できる蓋の構造が要求される。
【0003】
例えば、反応管(チューブ)とキャップからなる熱処理炉では、チューブが反応ガスの供給口及び排気口を持ち、キャップがチューブの開口を塞いで、チューブ内のガスを閉じ込める構造となっている(例えば、特許文献1の図1)。また、これを改良した熱処理炉においても、チューブのフランジに溝と孔を設けて、チューブ内のガスが外部に漏れることを防止しているが、やはり、チューブが反応ガスの供給口及び排気口を持つ構造となっている(例えば、特許文献1の図5)。そのため、チューブの製造が容易ではない。特に、溶融石英等のセラミック材料からチューブが形成される場合は、大きな形状を成形することの困難性に加え、細かな形状を作る必要があり、生産性も著しく劣る。
【0004】
また、汎用のチューブ及びキャップからなり、チューブとキャップの間の機密性が担保されている簡便な熱処理炉の活用も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−330377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に、高温の熱処理を行う場合は、コンタミ等の影響を減らす必要性とも相俟って使用可能な材料が限られ、一般には、溶融石英等のように成形性が高くなく、脆性な材料を用いなければならないことがある。従って、反応ガスの供給口及び開口部近傍に半径方向に突出するような円筒状の排気口を供えるチューブは、製造だけでなく、ハンドリングも難しい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここでは、上述するような課題に鑑みて、高温で熱処理が可能な熱処理炉を提供すべく、熱処理炉内の圧力変化があっても所定の熱処理雰囲気を維持可能となるエンドキャップ、及びそれを用いた熱処理炉を提供する。
【0008】
より具体的には、以下のようなものを提供することができる。
(1)所定の雰囲気で熱処理を行う熱処理炉の収容部へ被処理材を搬入可能な搬入口は、シール面を備えるシャッター部材により実質的に密閉可能であり、該搬入口に挿入端部より脱着可能に装着されて前記シャッター部材により同様に実質的に密閉可能なエンド搬入口を該挿入端部の反対側に備えるエンドキャップであって、前記搬入口の内周面に所定のクリアランスで前記挿入端部より挿入される第1の挿入管部と、前記第1の挿入管部に連接して外周面に備えられる溝と、前記溝に連接し、前記搬入口の端部が当接可能な第1のフランジ面を備える第1のフランジと、前記シール面と近接若しくは当接してシール可能な第2のフランジ面を備え、前記エンド搬入口に設けられる第2のフランジと、前記第1のフランジ及び前記第2のフランジの間の連結部に接続された炉内に連通する開口を備える排気管と、前記溝の凹部内に開口し、前記第1の挿入管部と前記搬入口の内周面とのクリアランスに干渉することなく、前記連結部から半径方向に突出するシールガス導入管と、を備えるエンドキャップを提供することができる。
【0009】
ここで、上記熱処理炉は、抵抗加熱ヒータ等のヒータにより加熱し収容部内の温度を上昇させ、また、放冷等により降下させることができる。この収容部内は、外部から供給されるガス等により所望の所定の雰囲気を実現可能になっている。この所定の雰囲気は、収容部内に載置される被処理材を処理すべく、減圧雰囲気、常圧雰囲気、加圧雰囲気、非酸化性雰囲気、酸化性雰囲気、不活性雰囲気、反応性雰囲気等の種々の雰囲気を含んでよく、炉内(若しくは炉壁)洗浄のための洗浄性の雰囲気を含んでよい。この所定の雰囲気は、所定温度保持中や昇降温中に変更可能にすることもできる。このような雰囲気にされる収容部内に被処理材がそのまま若しくは分解して搬入若しくは搬出可能に開口された搬入口が備えられる。この搬入口は、上記シール面により実質的に密閉可能であってよい。このシール面は平坦な面を含んでよく、特に製造が容易な単純な形状が好ましい。この搬入口は開口端面を備え、この開口端面で前記シール面に近接若しくは当接可能であってよい。例えば、この開口端面は、前記シール面が備え得る平坦な面により蓋をされてもよい。密閉は、目的とする熱処理に影響を与えない程度に炉内の雰囲気を炉外から遮断することを意味してよい。従って、完全な密閉状態、実質的な密閉状態、又は、継続的に所定のガスが導入され排出される定常状態を作り出すことを含んでもよい。従って、物質の出入りがない閉じた状態を達成しなければならないものではない。熱処理の種類は問わない。上記のエンド搬入口は、実質的に上記搬入口と同じ形状及び大きさを備えてよい。被処理材の搬入及び搬出の便を考慮すれば、上記搬入口と実質的に同じ形状及び大きさが好ましい。第1の挿入管部の外周面は、前記搬入口の内周面と所定のクリアランスをもって対向して、この第1の挿入管部が挿入される。所定のクリアランスは、図示しない架台等によりエンドキャップがスムーズに挿入できる程度のものであってよい。また、シールガスによる外気の混入を十分に防ぐことが可能なものであってよい。外気の混入防止は、同様に熱処理に影響を与えない程度であればよい。前記第1の挿入管部に連接して外周面に備えられる溝は、半径方向外向きに開口してよく、プランジャーやピストン等に一般に形成されるいわゆるOリング溝のような形状をしていてもよい。この溝は、周溝のように外周面を一周することが好ましい。このような溝の深さは、前記所定のクリアランスに対して同等以上の大きさであることが望ましい。また、溝の幅も同様であり、例えば、溝の深さと幅がほぼ等しくてもよい。溝の深さは、例えば、クリアランスの2倍以上、5倍以上、又は、10倍以上の大きさが好ましい。また、大きすぎると必要以上にシールガスを必要とするので、クリアランスの1000倍以下、100倍以下、又は、50倍以下が好ましい。前記第2のフランジは、前記シール面が備えるような表面形状、材質、性状を備えることが好ましい。開口部との近接度合いを調整する機構を備えるとより好ましい。クリアランスにより、リークするガスの量が変化することがあるからである。上述するシールガス導入管は、前記連結部に接続され、この連結部を構成してもよい円筒形状の部材の肉厚を貫通して延びることができる。このシールガス導入管と連結部は気密的に接続されることが好ましい。突き抜けたシールガス導入管は、第1の挿入管部と第1のフランジとの間に備えられる上述する溝を形成する円筒形状の部材の内周面に接続され、シールガス導入管の先端開口部は、前記溝の凹部内に開口してよい。このシールガス導入管は、第1の挿入管部及び搬入口の内周面の間に配置されないため、これらのクリアランスに干渉しない。
【0010】
(2)前記溝及び前記第1のフランジの間に備えられ、前記搬入口の内周面に所定のクリアランスで挿入される第2の挿入管部を備える請求項1に記載のエンドキャップを提供することができる。
【0011】
ここで、第2の挿入管部と搬入口の内周面とのクリアランスは、第1の挿入管部とのクリアランスと実質的に同じであってよい。第1の挿入管部と、外周面に設けられる溝と、第2の挿入管部、前記搬入口に前記挿入端部を向くフランジ面で当接可能な第1のフランジと、前記第1のフランジ及び前記第2のフランジの間の連結部を構成する部分円筒部と、前記第2のフランジとは、概ね円筒形状のエンドキャップの軸方向に、それぞれ連接して形成されることができる。
【0012】
(3)前記第2のフランジ面は、周溝を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンドキャップを提供することができる。この周溝は、フランジ端面に典型的に設けられるOリング溝と同様な形状を備えていてもよい。
【0013】
(4)前記収容部、前記シャッター部材、及び、当該エンドキャップは、石英からなることを特徴とする上記(1)から(3)の何れか記載のエンドキャップを提供することができる。
【0014】
(5)前記シールガス導入管から、大気圧以上の窒素ガスが流されることを特徴とする上記(1)から(4)の何れかに記載のエンドキャップを提供することができる。
【0015】
(6)上記(1)から(5)の何れかに記載のエンドキャップを用いた熱処理装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本願の発明によれば、元々排気口が設けられていない熱処理炉においても、容易に排気口が備えられた熱処理炉に変換することが可能である。また、この変換は元に容易に戻すことができるので、既存の設備を新たな設備として蘇らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例のエンドキャップを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施例のエンドキャップを示す(a)断面図及び(b)正面図である。
【図3】本発明の実施例のエンドキャップとチューブの嵌め合い状態を示す(a)断面図、(b)シールガス導入管側のガスシールメカニズムの解説用の部分拡大断面図、及び(c)排気管側のガスシールメカニズムの解説用の部分拡大断面図である。
【図4】排気口のないチューブ及び蓋からなる熱処理炉に、本発明の実施例のエンドキャップを適用する例を示す、(a)蓋が開放されたチューブと蓋からなる熱処理炉の側面図、(b)蓋が閉じられたチューブと蓋からなる熱処理炉の側面図、(c)エンドキャップを装着する様子を示す熱処理炉の側面図、(d)エンドキャップが装着された熱処理炉の側面図である。
【図5】本発明の実施例のエンドキャップを用いた熱処理炉にて、熱処理を行う被処理材の投入若しくは搬出状態を示す熱処理炉等の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の構成又は機能を有する構成要素及び相当部分には、同一の符号を付し、その説明は省略する。また、以下の説明では、本発明に係る実施の態様の例を示したに過ぎず、当業者の技術常識に基づき、本発明の範囲を超えることなく、適宜変更可能である。従って、本発明の範囲はこれらの具体例に限定されるものではない。また、これらの図面は、説明のために強調されて表されており、実際の寸法とは異なる場合がある。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の1つの実施例のエンドキャップの斜視図である。チューブと蓋からなる気密性の熱処理炉に適用することにより、ガスシールにより外気の炉内浸入を防ぎつつ炉内ガスの排気を実現できる。このエンドキャップ10は、概ね円筒形をしており、チューブ内に挿入する挿入端30側から、チューブの内径に所定のクリアランスで挿入される第1の挿入管部12と、ガスシールのため、この第1の挿入管部12に一周するように設けられるシールガス導入のための溝15と、チューブの内径に所定のクリアランスで挿通される第2の挿入管部16と、この第2の挿入管部16に連接するフランジ20と、シールガス導入管22及び排気管26を備えるカラー部21と、これに連接するフランジ24とから構成される。フランジ20の挿入端側には、チューブの端部と当接可能なフランジ面18が形成される。また、フランジ24のエンドキャップ10の端面側28は、後述する蓋の蓋部材との当接若しくは近接により、炉内ガス及び外気との相互交流を効果的に防止する。
【0020】
このエンドキャップ10は、主に溶融石英で作られており、少なくとも一部は、透明若しくは半透明である。このようなエンドキャップ10の作製は、まず、基本円筒形状(例えば、第1の挿入管部12、第2の挿入管部16、カラー部21)を形成し、溝部(例えば、溝15)を作り、フランジ部材(例えば、フランジ20、24)を溶着させ、管(例えば、シールガス導入管22及び排気管26)を該当するカラー部21に溶着する。必要に応じ、更なる配管(例えば、シールガス導入管22)の形成及び接続を行うことができる。更に、必要に応じて、研削、研磨等の機械加工も施すことができ、既知の技術により、このようなエンドキャップを形成することができる。このようなエンドキャップの大きさは、特に限定されるものではないが、既存のチューブ及び蓋からなる熱処理炉の大きさに合わせた大きさに形成することが好ましい。既存の熱処理炉に、高温で一定の熱処理雰囲気を担保することができるからである。
【実施例2】
【0021】
図2は、本発明の別の実施例のエンドキャップの側断面図、及び正面図である。図2(a)は、直径から中心角θ(例えば、22.5度)傾いた切断線AAによる断面図であり、図2(b)は、正面図である。図1の各部材と同じ若しくは相当する部材については、同じ符号が付されている。図1と同様に概ね円筒形の第1の挿入管部12と、溝15と、第2の挿入管部16と、この第2の挿入管部16に連接するフランジ20と、シールガス導入管22及び排気管26を備えるカラー部21と、これに連接するフランジ24とから構成される。このエンドキャップ10のフランジ24の端面側には、フランジ面25が形成され、後述する蓋の蓋部材との当接若しくは近接により、炉内ガス及び外気との相互交流を効果的に防止する。また、このフランジ面25には、シール溝34が一周に渡って形成され、フランジ面25における炉内ガス及び外気の交流を効果的に防止することができる。このシール溝34に連通し、内径側に開放されるリーク溝36がフランジ面25に均等な位置に4箇所設けられている。
【0022】
排気管26の先端には、フランジ27が形成され、気密的に図示しない配管等に接続される。排気管26の内周側の開口(エンドキャップ10の内周面の孔)からは、炉内のガスが入り、排気管26を通して、系外に排出される。一方、シールガス導入管22は、カラー部21の円筒肉厚を抜けて、エンドキャップ10の内周面よりも内部に侵入し、エンドキャップ10の軸方向に挿入端30に向かって延び、前記溝15の底部の開口14に連通する。詳しくは後述するが、シールガス導入管22に導入されたシールガスは、シールガス導入管22の通路23を通過して、開口14からエンドキャップ10の外側に流出する。尚、これらの部材を含むエンドキャップ10は、図1と同様溶融石英からなっている。また、エンドキャップ10の端面側28は、後述する蓋のシール部材のシール面204との当接若しくは近接により、炉内ガス及び外気との相互交流を効果的に防止する。また、熱処理炉の収容部を構成する例えばチューブ(後述)の搬入口を構成する開口(後述)よりやや小さいが、ほぼ同じ形状で同等の大きさとなるエンド搬入口を備える。
【0023】
図3は、図2のエンドキャップがチューブ100に装着された状態を示す部分拡大図で、図3(a)はシールガス導入管22があるシールガス導入側及び排気管26がある排気側を対向するように両側に示し、図3(b)はシールガス導入管22があるシールガス導入側を示し、図3(c)は排気管26がある排気側を示す。エンドキャップ10は、チューブ100の内周面内に挿入端30側から挿入され、チューブ100の端部102が、フランジ20のフランジ面18に近接するところまで挿入される。ここで、チューブ100の内周面と、第1の挿入管部12又は第2の挿入管部16とのクリアランスは、チューブ100の内径との比で、0.001%以上あることが好ましく、0.005%以上あることがより好ましく、0.01%以上あることが更に好ましい。このクリアランスが少なすぎると、エンドキャップ10のチューブ100内への装着が困難となり、あまり好ましくない。一方、クリアランスが大きすぎると、シールガスの消費が異常に増加するおそれがあり、あまり好ましくない。また、よりひどい場合は、シールが不十分となることもある。そのため、チューブ100の内径との比でクリアランスは、0.5%以下が好ましく、0.1%以下が好ましく、0.05%以下が更に好ましい。また、チューブ100の内周面及び第1及び第2の挿入管部12、16の外周面等のクリアランス面の面粗さは、滑らかな摺動と気密性の観点から、Ra(JIS B0601:2001参照)で、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましい。また、生産性やコストの面から、Raで、100μm以上でも対応が可能であり、200μm以上でも対応が可能であり、500μm以上でも対応が可能である。チューブ100及びエンドキャップ10の円筒部分の円筒度は、100μmから250μmが好ましい。図3(b)に示すように、シールガス導入管22から導入される窒素ガスは、通路23を通過して開口14から溝15へと流れ、一部は、チューブ100の内周面と、第1の挿入管部12又は第2の挿入管部16との間のクリアランス内へ流出する(図3(b)及び(c)の矢印参照)。このクリアランス内の窒素ガスは、第1の挿入管部12の挿入端側30又は、チューブ100の端部102及びフランジ20のフランジ面18とのクリアランスへと流出する。これにより、外気と、炉内雰囲気ガスの交流を遮断することができる。一方、排気管26は、チューブ100の内周面に開口し、炉内ガスを排出することができる。また、エンドキャップ10の端面側28は、後述する蓋のシール部材のシール面204との当接若しくは近接により、炉内ガス及び外気の相互交流を効果的に防止する。
【0024】
図4は、チューブ100及び蓋200からなる熱処理炉並びに本発明の実施例に係るエンドキャップを組み合わせた横型熱処理炉を示す一連の側面図を示す。図4(a)は蓋200が開いた状態の熱処理炉の側面図を、図4(b)は蓋200が閉じた状態の熱処理炉の側面図を、図4(c)は蓋200を開けてエンドキャップ10を導入する状態の熱処理炉の側面図を、図4(d)はエンドキャップ10がチューブ100に装着され蓋200が閉じられた熱処理炉の側面図を示す。
【0025】
熱処理炉の蓋200は、石英製の円板状のシャッター部材202と、このシャッター部材202のシール面204をチューブ100の搬入口となる開口102に押し付ける弾性体からなる付勢部材であるバネ206と、このバネ206を固定する蓋本体部208と、その蓋本体208に取り付けられるキャップ部210と、から構成される。図4(a)及び(b)に示すように、この蓋200が開けられ、チューブ100内に被処理材が投入され、蓋200をチューブ100に被せることにより熱処理炉内の雰囲気を外気から遮断して、温度を上げて熱処理を行うことができる。排気用の管がないため、温度上昇と共に、熱処理炉内の圧力が高まり、元々は大気圧よりも低い圧力にしていたにもかかわらず、ついには大気圧を超え、更には、バネ206の付勢力を押しのけても、蓋200を開ける場合がある。このときは、シール面204に沿う内圧の分布、及び/又は、バネ206の付勢力の位置による違い等により、蓋200は不規則にシール面204が開口102から離れ、炉内のガスを放出する。この放出により、炉内の圧力が下がると、再びバネ206の付勢力によりシール面204が開口102に当接するが、このとき周囲の外気を巻き込んで炉内に取り入れてしまうおそれがある。このように、炉内ガスの放出や外気の巻き込みは、周囲環境の悪化や、炉内雰囲気の変動をもたらし、好ましくない。
【0026】
この対策としては、バネ206の付勢力の強化等が考えられるが、チューブ100内の圧力はいくらでも高くなる可能性があるので、強化は所詮程度の問題であり、解決策にはならない。一方、このような炉においては、典型的には長さが1m以上ともなる石英製のチューブ100に、更に排気用の孔を開け、排気管を接続することは容易ではなく、また、その排気管の接続部分の強度は満足するものでないおそれがある。また、この熱処理炉は、高温に上げることもあり、特に、800℃以上では、いわゆるパッキン等の使用ができず、更に、1100℃以上では、銅その他の金属によるシールも満足のいくものとは限らない。特に、腐食性の雰囲気ガスを用いるときは、腐食雰囲気に比較的弱い金属を用いることは難しい。また、図4(a)及び(b)の熱処理炉は、炉内の内壁が全て石英製であり、コンタミが少なく、簡便な被処理品の投入及び取り出しができるところ、このまま使用したいとのニーズもある。
【0027】
そこで、図4(c)に示すように、蓋200を開け、図1から図3にあるようなエンドキャップ10をチューブ100に挿入し、新たな熱処理炉とすることができる。この場合、エンドキャップ10にはフランジ24のフランジ面25がシール面204に当接するので、より確実に炉内雰囲気の放出や、外気の混入を防止することができる。また、排気口のない熱処理炉を、排気可能な熱処理炉に容易に変換することができる。ここで、シール面204の表面粗さは、Raで、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。特に下限はないが、現実的には、100μm以上が工業的に意味がある。これに対応する、開口102の端面及びフランジ面25も同様に、Raで、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。特に下限はないが、現実的には、100μm以上が工業的に意味がある。
【0028】
図5(a)から(c)は、図4(d)の熱処理を用いたときの試料(シリコンウェーハ集合体250)の投入若しくは取り出し方法を、(a)投入開始、(b)炉内載置、(c)炉内の熱処理状態に分けて図解するものである。エンドキャップ10が装着されたチューブ100を備える熱処理炉において、蓋200をスライドして開ける。シリコンウェーハ258が載置されているラック256が基台252に載置され、前後の柵254で前後移動が制限されている。基台252の足260の間をぬってフォーク272を滑り込ませ、フォークリフト270により持ち上げて、シリコンウェーハ集合体250をチューブ100内に移動する(図5(b))。フォークリフト270を炉外に出して、蓋200を閉めた後、シールガスの窒素を流しながら、雰囲気ガス(例えば、HClガス)を図示しないチューブ100の左端の導入管から導入する。このガスは、シールガスにより、炉外に出ることなく、排気管から図中の矢印に沿って系外に排出される。シールガスの窒素は、炉内に混入するが、この熱処理には影響を及ぼさない不活性のガスであるので、なんら問題はない。むしろ、炉の内外の圧力の差を減少させる効果があり、炉の保全上好ましい。
【0029】
以上述べてきたように、本発明の実施例に係るエンドキャップを用いると、チューブの端面に直接蓋をする蓋体によって、密閉状態を作ることができる熱処理炉を、何ら改修することなく、高圧な状態になってもそのまま、安定的にシール可能な熱処理炉とすることができる。このエンドキャップは、両方の端面が大きく開口しているので、この開口から試料の出し入れが容易にできる。このエンドキャップには、シールガス等のガスを給排気する管を接続しておくことにより、チューブとの相対的な位置を固定可能である。また、クリアランスの調整も、配管以外の外部設備により比較的容易に行うことができる。そして、仮に、チューブの端面を閉じて密閉状態にする場合には、各種のクリアランスの調整を行い、またシール面の表面粗さなどの形状を整えることで可能となる。
【符号の説明】
【0030】
10 エンドキャップ、 15 溝、 20 フランジ、
22 シールガス導入管、 24 フランジ、 25 フランジ面、
26 排気管、 100 チューブ、 102 開口、
200 蓋、 202 シャッター部材、
258 シリコンウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の雰囲気で熱処理を行う熱処理炉の収容部へ被処理材を搬入可能な搬入口は、シール面を備えるシャッター部材により実質的に密閉可能であり、該搬入口に挿入端部より脱着可能に装着されて前記シャッター部材により同様に実質的に密閉可能なエンド搬入口を該挿入端部の反対側に備えるエンドキャップであって、
前記搬入口の内周面に所定のクリアランスで前記挿入端部より挿入される第1の挿入管部と、
前記第1の挿入管部に連接して外周面に備えられる溝と、
前記溝に連接し、前記搬入口の端部が当接可能な第1のフランジ面を備える第1のフランジと、
前記シール面と近接若しくは当接してシール可能な第2のフランジ面を備え、前記エンド搬入口に設けられる第2のフランジと、
前記第1のフランジ及び前記第2のフランジの間の連結部に接続された炉内に連通する開口を備える排気管と、
前記溝の凹部内に開口し、前記第1の挿入管部と前記搬入口の内周面とのクリアランスに干渉することなく、前記連結部から半径方向に突出するシールガス導入管と、を備えるエンドキャップ。
【請求項2】
前記溝及び前記第1のフランジの間に備えられ、前記搬入口の内周面に所定のクリアランスで挿入される第2の挿入管部を備える請求項1に記載のエンドキャップ。
【請求項3】
前記第2のフランジ面は、周溝を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンドキャップ。
【請求項4】
前記収容部、前記シャッター部材、及び、当該エンドキャップは、石英からなることを特徴とする請求項1から3何れか記載のエンドキャップ。
【請求項5】
前記シールガス導入管から、大気圧以上の窒素ガスが流されることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のエンドキャップ。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載のエンドキャップを用いた熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−203738(P2010−203738A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52598(P2009−52598)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000184713)SUMCO TECHXIV株式会社 (265)
【Fターム(参考)】