説明

熱処理装置

【課題】 半導体基板の導電性制御を目的に行われる不純物ドーピング後の活性化アニールや欠陥修復アニールおよび表面の酸化等を行う熱処理装置に関し、特にSiCを基材とする半導体に必要な1200〜2000℃の超高温の熱処理を行う場合に問題となるエネルギー効率、処理速度、装置の部品寿命および被加熱試料の劣化を改善することである。
【解決手段】 本発明では、断熱材9を設け放熱を抑制する構造としたプラズマ処理室内に、被加熱試料1を下部電極3上に載置し、その上部電極2−下部電極3間を大気圧近辺の希ガス(He、Ar、Kr、Xe等)を主原料としたガスで満たし、上部電極2に高周波電源5からの電力を印加することで、大気圧のグロー放電を生成し、該グロー放電による電極間のガス加熱を用いて被加熱試料1の熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスを製造する半導体製造装置に関するものであり、半導体基板の導電性制御を目的に行われる不純物ドーピング後の活性化アニールや欠陥修復アニールおよび表面の酸化等を行う熱処理技術に関する。特に炭化シリコンを基板に用いる半導体等1200℃以上の超高温を必要とする熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体デバイスの基板材料としてSiC等(他にGaN等あるが以後SiCとする)の広バンドギャップを有する新材料の導入が期待されている。SiCは従来材料であるSiに対してバンドギャップが大きいことで、インバーター等を構成するスイッチングデバイスやショットキーバリアダイオードに用いた場合耐電圧性の向上やそれに伴うリーク電流の低減から消電力化が可能となる。
【0003】
SiCを基板に用いて各種パワーデバイスを製造する工程は、基板のサイズ等をのぞけば、大まかにはSiを基板に用いる場合と同様である。しかし、唯一大きく異なる工程として熱処理工程が上げられる。熱処理工程とは、基板の導電性制御を目的に行われる不純物のイオン打ち込み後の活性化アニールがその代表である。Siデバイスの場合、活性化アニールは800〜1200℃の温度で行われる。しかしSiCの場合には、その材料特性から1200〜1800℃の温度が必要となる。
【0004】
アニール装置として、例えば特許文献1に記されている抵抗加熱炉が知られている。また、抵抗加熱炉方式以外には、例えば特許文献2に記されている誘導加熱方式のアニール装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−32774号公報
【特許文献2】特開2010−34481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている抵抗加熱炉で1200℃以上の加熱を行う場合、以下に示す課題が顕著となる。
【0007】
第1点目は、熱効率である。炉体からの放熱は輻射が支配的となり温度の四乗に比例して輻射量が増大するため、加熱領域が大きいと加熱に要するエネルギー効率が極端に低下する。抵抗加熱炉の場合、ヒーターからの汚染を回避するため通常2重管構造が用いられ、加熱領域が大きくなる。また2重管により熱源(ヒーター)から被加熱試料が遠ざかるためヒーター部は被加熱試料の温度以上の高温にする必要があり、これもまた効率を大きく低下させる要因となる。
【0008】
第2点目は、炉材の消耗である。炉材料として、1800℃に対応できる材料は限られており、高融点で高純度な材料が必要となる。SiC用に活用できる炉材はグラファイトかまたはSiCそのものとなる。一般にはSiC焼結体またはグラファイト基材に化学的気相成長法によりSiCを表面にコーティングした材料が用いられる。これらは通常高価であり、炉体が大きい場合、交換に相当な費用が必要となる。高温であればあるほど炉体の寿命も短くなるので通常のSiプロセスに比べ交換費用が高くなる。
【0009】
第3点目は、被加熱試料の蒸発に伴う表面荒れの発生である。1800℃程度の加熱では、被加熱試料であるSiCの表面からSiが選択的に蒸発し表面荒れを生じたり、ドーピングした不純物が抜けたりし、必要なデバイス特性が得られなくなる。この高温に伴う被加熱試料の表面荒れ等に対して従来では、被加熱試料の表面にあらかじめカーボン膜を成膜し加熱中の保護膜とする方法が用いられている。しかし、この従来方法では熱処理の為に別工程でカーボン膜の成膜およびその除去が必要となり工程数が増えコストが増加する。
【0010】
一方、特許文献2に記されている誘導加熱方式は、被加熱対象または被加熱対象を設置する設置手段に高周波による誘導電流を流し加熱する方式であり、先の抵抗加熱炉方式に比べ熱効率が高くなる。但し、誘導加熱の場合、被加熱対象の電気抵抗率が低いと加熱に必要な誘導電流が多く必要となり、加熱系全体で見た場合の熱効率(誘導コイル等での熱損失が大きくなる)の絶対値はかならずしも高いわけではなく、熱効率の課題がある。
【0011】
また被加熱試料または被加熱対象を設置する設置手段に流れる誘導電流により加熱均一性が決まり、デバイス製造に用いるような平面円盤では加熱均一性が十分得られない場合がある。加熱均一性が悪いと急加熱の際、被加熱試料を熱応力により破損する恐れがある。そのため温度上昇の速度を応力の発生しない程度に下げる必要性からスループットの低下要因となる。さらに前記抵抗炉加熱方式と同様に、超高温時のSiC表面からのSi蒸発を防止するキャップ膜の生成/除去工程が別途必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、被加熱試料を平行平板電極内に配置し、そのギャップ間を大気圧近辺の希ガス(He、Ar、Kr、Xe等)を主原料としたガスで満たし、該平行平板電極間に高周波電圧を印加することで、大気圧のグロー放電を生成し、該グロー放電によるギャップ間のガス加熱により被加熱試料の熱処理を行う。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、1200℃以上の超高温を必要とする半導体デバイス製造における熱処理装置を提供する。特に、発明が解決しようとする課題で述べた従来技術の課題である加熱効率の向上や加熱処理時間の短縮によるスループットの向上や炉材の消耗等運用にかかるコスト低減や超高温に伴う被加熱試料の表面荒れ抑制を可能とする装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1における基本構成図である。
【図2】実施例1における動作説明図である。
【図3】本発明の実施例2における基本構成図である。
【図4】本発明の実施例2における基本構成図である。
【図5】本発明の実施例2における基本構成図である。
【図6】本発明の実施例3における基本構成図である。
【図7】本発明の実施例4における基本構成図である。
【図8】本発明の実施例4における放電形成部の詳細図であり、(a)は熱処理時の放電形成部の状態、(b)は被加熱試料上下機構を示す。
【図9】本発明の実施例4における放電形成部の詳細図であり、特に被加熱試料搬送時の放電形成部の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
本発明における基本構成を図1に示す。まず図1の構成を説明する。被加熱試料1は、上部電極2と下部電極3で構成される平行平板電極内に設置される。本実施例では、被加熱試料1として4インチ(φ100mm)の単結晶炭化シリコン(以下SiC)を用いた。上部電極2および下部電極3の直径は120mm、厚みは5mmとした。上部電極2と下部電極3は、グラファイト基材の表面に炭化シリコンを化学的気相成長法により堆積したものを用いた。被加熱試料1は、下部電極3上に載置され、上部電極2との間隔(ギャップ)は0.8mmとした。なお、被加熱試料1は0.5mm〜0.8mm程度の厚さを備え、図示しないが被加熱試料1を載置する下部電極3にはこの被加熱試料を載せるための窪みが設けられている。
【0016】
上部電極2には、給電線4を介して高周波電源5からの高周波電力が供給される。本実施例では、高周波電源5の周波数として13.56MHzを用いた。下部電極3は給電線17を介してアースに接続されている。高周波電源5と上部電極2間にはマッチング回路6(なお、図のM.BはMatching Boxの略である。)が配置されており、高周波電源5からの高周波電力を効率良く上部電極2と下部電極3間に形成されるプラズマに供給する構造となっている。上部電極2と下部電極3は、気体で隔絶した空隙層7を介して、遮蔽材としてのグラファイト壁8および断熱材9で囲われた構造となっている。本実施例では、断熱材9には酸化アルミを主原料とするセラミックファイバーにて形成された断熱材(熱伝導率0.3W/mK)を用いた。断熱材9は装置の熱効率の観点から熱伝導率が0.5W/mK以下であることが望ましい。熱伝導率を低くすることにより放熱を抑制することができるからである。上部電極2と下部電極3の対向するそれぞれの円周角部10はテーパーあるいはラウンド状に加工されている。これは、電極角部での電界集中によるプラズマ局在を抑制するためである。
【0017】
上部電極2とその上部に位置するグラファイト壁8および断熱材9には、開口部11、12が形成されている。これらは放射温度計13により被加熱試料1の温度を観測するために設けられている。放射温度計13にて検出された被加熱試料1の温度を参照し、制御部14にて高周波電源5の出力を制御し、被加熱試料の温度制御を行う機構を備えている。プラズマ形成の原料ガスはガス導入部15から導入され、上部電極2と下部電極3間および空隙層7が該ガス導入部15から導入された原料ガスで満たされる。また該原料ガスはガス排出部16から排出される。なお、制御部14は、ガス種及びガス流量を制御することもできる。
【0018】
次に図1に示す実施例1の基本構成における加熱原理について説明する。まずガス導入部から原料ガスとしてArを導入する。導入ガスの圧力は大気圧で、流量は10〜10000sccmの範囲で導入可能な構造とした。次に高周波電源5より高周波電力を上部電極2に供給することで、上部電極2と下部電極3上に載置された被加熱試料1間にArの大気圧プラズマを生成する。本実施例では、上部電極2に供給する高周波電力を800Wとした。高周波のエネルギーはプラズマ内の電子に吸収され、さらにその電子の衝突により原料ガスの原子あるは分子が加熱される。大気圧プラズマは、電子と気体原子および分子との衝突頻度が高いため、電子の温度と原子および分子の温度はほぼ等しい熱平衡状態となり、原料ガスの温度を容易に1000〜2600℃に加熱することができる。この加熱された高温ガスの接触、および輻射により被加熱試料1が加熱される。被加熱試料1の温度は、ガス温度の70%以上の温度からガス温度とほぼ等しい温度の状態に加熱することができる。被加熱試料1と対向する上部電極2表面も同様に加熱され、被加熱試料とほぼ同等な温度となる。1000℃以上の固体では、輻射によりその熱エネルギーが放出される割合が高くなる(温度の四乗に比例して輻射量が増加)。よって、上部電極2からの輻射も被加熱試料の加熱に寄与する。以上の原理により本実施例1では被加熱試料1をSiCの活性化に必要な1200℃以上に加熱できる。
【0019】
図1の装置では、被加熱試料1、上部電極2および下部電極3がほぼ同温度となる。通常これら高温部からは輻射等により熱エネルギーが放出され加熱に必要な高周波電力が多くなり、効率が低下するため高温部を断熱する必要がある。本実施例では、断熱構造として、まず高温部である上部電極2および下部電極3(被加熱試料1を含む)を、空隙層7で覆う構造とした。これにより、高温部からの熱伝導による放熱を抑制することができる。さらに上部電極2および下部電極を断熱材9で覆う構造とした。断熱材9は高温部からの熱伝導による放熱を抑制することができる。断熱材9は例えば酸化アルミナを主原料とするセラミックファイバーで形成されている。さらに空隙層7と断熱材9との間の断熱材9の表面をグラファイト壁8で覆う構造とした。グラファイト壁8は高温部からの輻射による放熱を抑制する遮蔽材としての役割と汚染源に対する緩衝層としての役割を有する。セラミックファイバーが高温部に対する汚染源となり得るためである。また、断熱材9は、通常1700℃以上の高温で長期間使用すると変質が生じたり、また被加熱試料1への汚染源となる可能性がある。そこで本実施例1では、まず空間で形成された空隙層7を設けることで、上部電極2および下部電極3(被加熱試料1を含む)が1800℃の状態でもグラファイト壁8および断熱材9のグラファイト壁8に接する部分の温度が1500℃以下となるような構造にしている。
【0020】
本実施例1では、前記した方法により被加熱試料1を2000℃程度まで加熱することが可能である。2000℃を超える加熱を行うと上部電極2または被加熱試料1からの熱電子放出が増大し、安定したグロー放電を維持しにくくなりアーク放電へと移行しやすくなる。アーク放電では、数千度の超高温ガス状態が得られるが、通常エネルギーが局在化しグロー放電状態のような平面的な広がりをもってかつ安定にプラズマを維持することが困難となる。よって本発明では、大面積を均一かつ高精度に温度制御ができるグロー放電領域を用いる。すなわち、制御部は、被加熱試料の温度がSiCのアニールに必要な1200℃以上2000℃以下となるよう、高周波電力の出力を制御する。
【0021】
均一なプラズマとそれに伴う輻射を熱源として被加熱試料1の加熱を行うことで活性化の均一性を高めることができると同時に、熱応力による被加熱試料1の損傷も抑制できるので昇温速度の高速化等が可能となり、処理速度の向上が可能となる。また加熱終了後の冷却では、高周波電力の供給停止後に原料ガスの流量を増加し、流すことでガス冷却することが可能である。加熱中は、なるべくガス流量を低流量に抑制し、熱の放出を抑制するが、冷却では逆に大流量(本実施例1の場合最大10リットル毎分)を流すことで急速な冷却が可能となる。以上の加熱機構から、従来技術である抵抗加熱炉に比べ極端に小さい加熱領域に抑制することが可能となり、加熱に必要なエネルギーの低減や温度制御の応答性を高めることが可能となる。また通常被加熱試料1にはプラズマから加速されたイオンが入射し、被加熱試料1表面にダメージを生成する場合があるが、大気圧付近の高圧力でのプラズマ中では、頻繁にイオンとガス原子・分子との衝突が生じるためプラズマ−被加熱試料間電圧でのイオンの加速エネルギーは該衝突粒子に分配され被加熱試料1に入射する際にはほぼ熱エネルギー程度(0.2〜0.5eV)になる。よって、本実施例1における被加熱試料1表面に生じるにイオン衝撃に伴うダメージはきわめて少ない。
【0022】
以下、本発明の効果を纏める。本技術では、狭ギャップ間で生成する大気圧グロー放電によるガス加熱を熱源として被加熱試料を加熱する。本原理に伴い従来技術に無い以下に示す4つの効果が得られる。
【0023】
第一点目は熱効率である。ギャップ間のガスは熱容量が極めて少なく、また被加熱試料とほぼ同温度の対向電極に近接するため、加熱容量および輻射に伴う加熱損失が極めて少ない体系にて被加熱試料を加熱できるため高エネルギー効率が実現できる。
【0024】
第二点目は加熱応答性と均一性である。加熱部の熱容量が極めて小さいため急速な昇温および降温が可能となる。またグロー放電によるガス加熱を熱源に用いるため、グロー放電の広がりにより平面的に均一な加熱が可能となる。温度均一性が高いことで熱処理に伴う被加熱試料面内でのデバイス特性バラツキを抑制できると同時に、急激な昇温等を行った際に被加熱試料面内の温度差に伴う熱応力による損傷も抑制できる。
【0025】
第三点目は、加熱処理に伴う消耗部品の低減である。本技術では被加熱試料に接触するガスを直接加熱するため、高温化する領域は被加熱試料の極めて近傍に配置される部材に限定され、かつその温度も被加熱試料と同等かそれ以下である。よって、部材の寿命が長く、部品劣化に伴う交換の領域も少ない。
【0026】
第四点目は被加熱試料の表面荒れ抑制である。本技術では、大気圧グロー放電によるプラズマを被加熱試料に曝すことで加熱を行う。加熱の段階では希ガスプラズマを用いるが昇温過程または降温過程で希ガスに反応性ガスを添加することで保護膜の形成および除去が加熱工程の中で一貫して可能となる。これにより熱処理装置とは別装置で行う保護膜の形成および除去工程が不要とり製造コストの低減が可能となる。
【0027】
次に、SiC基板への不純物打ち込み後の活性化熱処理工程を例に図1の基本構成における動作を説明する。活性化熱処理工程およびその過程における被加熱試料1の温度推移を図2に模式的に示す。図の上段はガス導入部15から導入されるガス流量と時間の関係であり、18はArガス流量の模式的変化、19はメタンガス流量の模式的変化、20は酸素ガス流量の模式的変化を示す。中段は制御部14により制御される高周波電源5の高周波電力と時間の関係を示し、21は高周波電力の模式的変化を示す。下段は放熱温度計13により得られる被加熱試料の温度と時間の関係を示し、22は被加熱試料温度の模式的変化を示している。また、23は炭素保護膜形成工程、24は加熱工程、25は冷却および炭素保護膜除去工程である。
【0028】
まず被加熱試料を下部電極3上に載置する。次に原料ガスとしてメタン(他にエチレン等炭素を含むガスでも良い)をArで希釈して導入する。具体的なガス導入量はAr1000sccm、メタン50sccmとした。原料ガス導入後に高周波電源5より13.56MHzの高周波電圧を上部電極2に印加することでプラズマを形成する。この段階での投入高周波電力は300Wとした。このプラズマ形成により、プラズマ内で解離した炭素原子が被加熱試料1表面に堆積し、高温時の基板蒸発抑止用保護膜(炭化系皮膜)を形成する。なお、保護膜の炭化含有分子ガスの添加は、熱処理温度への上昇途中であってもよい。
【0029】
次にガスを純粋なArに切り替え流量も20sccm程度に下げ被加熱試料1周辺のガスがほぼ純粋なArに置換された段階で高周波電力を800Wまで増加する。高周波電力の増加により被加熱試料1の温度が上昇するが、この温度を放射温度計13でモニタし、所望の温度(本実施例1の場合は1800℃)に制御する。所望の温度にて必要な加熱時間(本実施例では1分)が経過したら高周波電力を300W程度に低減する。この段階で被加熱試料1の温度は急激に低下を始める。また、Arガスを20sccm程度から1000sccmに引き上げる。放射温度計13により被加熱試料1の温度が600℃程度以下になった段階で、原料ガスのAr(1000sccm)に酸素を100sccm程度添加する。この酸素添加によりプラズマで酸素ラジカルが生成され被加熱試料1の表面および上部、下部電極上に形成された炭素保護膜を除去する。本実施例1では、高温状態で酸素を供給すると上部および下部電極や被加熱試料1の酸化を生じ劣化させる可能性があるので、被加熱試料1の温度が600℃程度まで低下するのをまって酸素を添加した。酸素添加により、炭素保護膜が除去された段階で酸素添加および高周波電力を遮断し、さらにAr流量を5000sccm程度まで増加させ被加熱試料1の冷却を行う。被加熱試料1の温度が200℃程度以下になったら被加熱試料1を取り出す。以上の工程により一連の加熱処理が終了する。
【0030】
図2の例では、Arガスの流量を増大することで冷却効率を高めているが、冷却時にArから熱伝導率の高いHeガスに切り替えることでより早く冷却することも可能である。本実施例1での工程で示したようにプラズマを用いているので、被加熱試料1の蒸発に伴う劣化防止として炭素保護膜の形成および除去が熱処理工程と同時に可能となる。従来装置では、この保護膜形成および除去に別な装置が必要であり、本発明により大幅な製造コストの低減が可能となる。また高速に被加熱試料1の温度を制御することができるため、超高温状態での放置時間を活性化に必要な最低限の時間に短縮することが可能となる。これも被加工試料1の蒸発に伴う劣化抑制や、省エネルギー特性に寄与する。
【0031】
実施例1では、放電の生成に13.56MHzを用いたがこれは工業周波数であるために低コストで入手でき、かつ電磁波漏洩基準も低いので装置構成が簡略化できるためである。しかし、原理的には他の周波数でも同様な原理で加熱できることは言うまでもない。特に、1MHz以上100MHz未満の周波数が本発明に於いては好適である。1MHzより低い周波数になると加熱に必要な電力を供給する際の高周波電圧が高くなり、異常放電(不安定な放電や上部電極と下部電極間以外での放電)を生じ、安定な動作が難しくなるためふさわしくない。また100MHzを超える周波数は、上部電極2と下部電極3のギャップ間のインピーダンスが低く、プラズマ生成に必要な電圧が得にくくなりため好適でない。
【0032】
実施例1ではプラズマ生成の圧力として大気圧(1気圧)を用いたが、0.1気圧以上10気圧以下の範囲でも同様な効果がある。0.1気圧以下では、プラズマ中の電子とガス原子・分子とのの衝突頻度が低下し、非平衡状態となることからガス温度が上がりにくくなる。またプラズマ中イオンとガス原子・分子との衝突も減少するため、比較的高いエネルギー(10eV以上)のイオンが被加熱試料1表面に入射するようになり、ダメージを発生の懸念が生じる。一方10気圧以上では、耐圧構造を強化する必要性から装置の大型化を招くと同時に、放電もアーク放電に遷移しやすくなるため好適でない。
【0033】
実施例1では、上部電極2と下部電極3上に載置される被加熱試料1間の間隔を0.8mmとしたが、0.1mm以上2.0mm以内でも同様な効果がある。0.1mmより狭い間隔では、上部電極2と被加熱試料1間のインピーダンスが低くなり放電に必要な高周波電圧が得にくくなると同時に、上部電極2と被加熱試料1間の平面方向での間隔差を抑制する必要が生じ、電極構造が複雑化するため好適でない。一方2mm以上の間隔では、パッシェンの法則から大気圧付近では放電開始電圧高くなり、プラズマ生成が困難となるため好適でない。
【0034】
実施例1では、上部電極2および下部電極3の材料をグラファイト基材にSiC膜を形成したものを用いたが、例えばグラファイト単体、SiC焼結体あるいは単結晶SiC単体を用いても同様な効果があることは言うまでも無い。また、実施例1では原料ガスの主ガスArを用いたが、他の希ガス(He、Kr、Xe)でも同様な効果があることは言うまでも無い。
【実施例2】
【0035】
図3、図4、図5に本発明の実施例2を示す。実施例2は、図1の実施例1を基本構成とし、複数毎の被処理試料1を一度に処理することで単位時間あたりの処理枚数(スループット)を向上させる場合の構成を示す。まず図3に示す装置構成は、上部電極2と下部電極3を被加熱試料1の直径に対して2倍以上大きい径で形成し、複数枚の被加工試料1を下部電極3上に載置し同時に処理することでスループットを向上させる構成である。複数枚の内いづれか1枚の温度を放射温度計13でモニタし、制御部14は高周波電源5の出力を制御することで被加熱試料1の温度を制御する。
【0036】
図3の構成では、複数枚の被加熱試料1を1台の高周波電源5の出力で大口径なプラズマを形成し制御するため、個々の被加熱試料1の温度を補償することができない。図4はこの問題に対応し、個々の被加熱試料1の温度制御を精密に行う場合の実施形態である。図4では、被加熱試料1毎に高周波電源5および放射温度計13を配置し、各放射温度計13の計測値に基づき個々の高周波電源5の出力を制御部14で制御する構成となっている。これにより、同時処理を行っても個々の処理条件を独立に制御することで被加工試料毎の処理バラツキを抑制することができる。
【0037】
図5は図4の改良型の装置構成を示す。図4の構成では、個々の出力は少ないが高周波電源5およびマッチング回路6を処理枚数分装備する必要があり装置コストの増加を招く。そこで図5では、高周波電源5およびマッチング回路は1組のみとし、単一の高周波電源5からの出力を電力分配器26(なお、図のP.DはPower Deviderの略である。)にて分割し、その個々の電力分配量および高周波電源5の出力を個々の放射温度計13の計測値を参照して制御する。図5の構成により、単一の高周波電源5にて複数枚の被加熱試料1の温度を個々に制御することが可能となる。
【実施例3】
【0038】
図6に本発明の実施例3を示す。図6は図1および図3の実施例における温度分布の改善を目的とした改良を施した場合の実施例である。図1および図2の場合、上部電極2および下部電極3の熱の一部は給電線4、17を伝導し放熱してしまう。もちろんその割合を少なくするため、給電線4、17は必要最低限の断面積で形成するが、高周波電力を通過させるにはある程度の円周(高周波は表面を伝達するため、断面積より円周長さが重要となる)が必要であり、給電線4、17からの放熱を完全に抑制することはできない。図1および図3に示す構成のように給電線4、17がそれぞれの電極に一箇所しかない場合、その周辺の温度が低下し温度不均一の要因となる。そこで図6では、給電線4、17をそれぞれの電極に複数本配置し、給電線を介する放熱に伴う温度不均一を改善した。図6の構成において、給電線をN本にした場合、個々の給電線の円周長さ(直径に比例)は単一の給電線を配置する場合に比べ1/Nとするこができる。高周波電流は表皮効果により給電線の表面のみを流れるため、高周波電力の通過能力は1/Nの直径の給電線をN本配置することで単一の給電線と同等となる。一方、給電線からの放熱は給電線の断面積に比例する。よって図6の構成では、直径1/Nの給電線N本から放熱する熱量は単一の給電線に比べ1/N(給電線1本当りの断面積は(1/N)に比例し、通過熱量に比例するトータルの断面積はそのN倍となるため)となり、放熱量の絶対量も抑制することが可能となる。
【実施例4】
【0039】
本発明に係る第4の実施例について図7〜図9を用いて説明する。なお、実施例1〜3のいずれかに記載され、本実施例に未記載の事項は特段の事情が無い限り本実施例にも適用することができる。
【0040】
まず、本実施例における基本構成について図7を用いて説明する。被加熱試料1は、上部電極2と下部電極3で構成される平行平板電極内に設置される。本実施例では、被加熱試料1として4インチ(φ100mm)の単結晶炭化シリコン(以下SiC)を用いた。上部電極2および下部電極3の直径は120mm、厚みは5mmとした。上部電極2と下部電極3は、グラファイト基材の表面に炭化シリコンを化学的気相成長法により堆積したものを用いた。被加熱試料1は、下部電極3上に載置され、上部電極2とのギャップ104は0.8mmとした。なお、被加熱試料1は0.5mm〜0.8mm程度の厚さを備え、被加熱試料1を載置する下部電極3にはこの被加熱試料1を載せるための窪みが設けられている。また上部電極2と下部電極3の対向するそれぞれの円周角部はテーパーあるいはラウンド状に加工されている。これは、電極角部での電界集中によるプラズマ局在を抑制するためである。
【0041】
上部電極2には、給電線4を介して高周波電源5からの高周波電力が供給される。本実施例では、高周波電源5の周波数として13.56MHzを用いた。下部電極3は給電線17を介してアースに接続されている。給電線4、17も上部電極2および下部電極3の構成材料であるグラファイトで形成されている。高周波電源5と上部電極2間にはマッチング回路6(なお、図中のM.BはMatching Boxの略である。)が配置されており、高周波電源5からの高周波電力を効率良く上部電極2と下部電極3間に形成されるプラズマに供給する構造となっている。
【0042】
上部電極2と下部電極3が配置される容器109内には第一のガス導入手段110によりガスを0.1気圧から10気圧の範囲で導入できる構造となっている。ガスは、給電線4内のガス通路111を経て、平行平板電極間のギャップ104内に導入される。導入するガスの圧力は圧力検出手段112によりモニタされる。また容器109は排気口16および圧力調整バルブ114に接続される真空ポンプによりガス排気可能となっている。上部電極2および下部電極3の非プラズマ接触側には高融点かつ低輻射率の板材またはコーティング115が配置される。平行平板電極周辺には、グラファイトまたはSiC材料で構成されるシールド116を配置し、さらに該シールド116にはヒーター117を配置した。
【0043】
容器109には冷却手段118が設置されている。被加熱試料1の温度は、放射温度計13により計測される。本実施例では、上部電極2および下部電極3の非プラズマ接触側に施す高融点かつ低輻射率の板材またはコーティング115に、グラファイト基材にTaC(炭化タンタル)をコーティングした板材を用いた。なお、符号14は制御部、符号120は下部電極の上下機構、符号121は電力導入端子、符号122は被加熱試料上下機構、符号123は上下機構120の駆動電源および制御機構、符号124は圧力調整バルブの駆動電源および制御機構、符号125はヒーターの電源および制御機構、符号127は第二のガス導入手段、符号219は被加熱試料の搬送口である。同一符号は同一構成要素を示す。制御部14は温度計測手段により計測された温度を参照し、高周波電源の出力を制御することで被加熱試料の熱処理温度の制御を行う。また、上述したガス導入手段や試料の上下機構等々を制御する。
【0044】
次に図7に示した熱処理装置の基本動作例を説明する。まず容器109内のガスを排気口16より排気し、高真空状態とする。その際、シールド116に施したヒーター117により電極周辺部を予め加熱(本実施例ではシールド116の温度を400℃とした)し、吸着ガス等を排出する。
【0045】
十分排気した段階で、排気口16を閉め、第一のガス導入手段110よりガスを導入し、容器109内を0.6気圧程度する。本実施例では、導入ガスにHeを用いた。Heガスを導入することによりそのガス熱伝導にてシールド116の加熱が上部電極2、下部電極3および高融点かつ低輻射率の板材またはコーティング115に伝わり、これらが予め加熱される。その際、再度吸着ガスが発生するため、十分奪気を行った段階で、容器109に充填したHeガスを排気口16より排気する。
【0046】
ガス排気後、再度第一のガス導入手段110よりHeを導入し、熱処理に必要な圧力(0.1〜10気圧で、本実施例では0.6気圧とした)に設定し、排気口16を閉じる。ヒーター117による事前の加熱で、上部電極2および下部電極3の温度が安定した段階で、搬送口219から被加熱試料1を搬送し、下部電極3上に配置する。被加熱試料1の下部電極3上への配置の詳細は図8および図9にて別途説明する。
【0047】
下部電極3上に被加熱試料1を配置後、下部電極3位置を上下機構120により所定位置(本実施例では、ギャップ104を0.8mmとした)に配置する。所定位置に下部電極3を配置後、高周波電源5からの高周波電力をマッチング回路6および電力導入端子121を介して上部電極2に供給し、ギャップ104内にプラズマを生成することで被加熱試料1の加熱を行う。
【0048】
高周波電力のエネルギーはプラズマ内の電子に吸収され、さらにその電子の衝突により原料ガスの原子あるは分子が加熱される。大気圧近辺でのプラズマでは、電子と気体原子および分子との衝突頻度が高いため、電子の温度と原子および分子の温度はほぼ等しい熱平衡状態となり、原料ガスの温度を容易に1200〜2000℃程度に加熱することができる。この加熱された高温ガスの接触、および輻射により被加熱試料1が加熱される。被加熱試料1の温度は、ガス温度の70%以上の温度からガス温度とほぼ等しい温度の状態に加熱することができる。被加熱試料1と対向する上部電極2表面も同様に加熱され、被加熱試料とほぼ同等な温度となる。
【0049】
この加熱の際、第一のガス導入手段110から少量のHeガスを供給し、さらに圧力調製バルブ114により容器109の圧力を一定に保つよう制御する。加熱処理の際に導入するHeガス量は本実施例では100sccm程度とした。これは加熱処理中のギャップ104内のガス純度を保つためであり、加熱中も十分ガス純度が保たれている場合はそのガス流量を減らすことも可能である。もちろんガス純度に問題ない場合、Heガス導入を行わなくても良い。加熱中に流すガス流量が多いほどガスによる熱損失が多くなるので、必要最小限なガス流量とすることが望ましい。
【0050】
加熱中の被加熱試料1の温度は放射温度計13により計測され、所定の温度になるよう連動して高周波電源5の出力が制御されるため、高精度な被加熱試料1の温度制御が可能となる。本実施例では、投入する高周波電力を最大10kWとした。上部電極2および下部電極3は被加熱試料1とほぼ等温度に加熱される。
【0051】
上部電極2および下部電極3(被加熱試料1を含む)の温度を高率良く上昇させるには、給電線4、17からの伝熱、Heガス雰囲気を介する伝熱および高温域からの輻射(赤外光から可視光域)の抑制が必要となる。特に1200℃以上の超高温状態では、輻射による放熱が非常に大きく、輻射損失の低減が加熱高率の向上に必須となる(輻射損失は絶対温度の四乗に比例して輻射量が増加)。輻射損失抑制のため本実施例では、高融点かつ低輻射率の板材またはコーティング115を上部電極2および下部電極3に配置した。高融点かつ低輻射率の材料にはTaCを用いた。TaCは輻射率0.05−0.1程度であり、輻射に伴う赤外線を90%程度の反射率(1200〜1800℃)で反射する。よって、これにより上部電極2および下部電極3からの輻射損失が抑制され被加熱試料1を高い熱効率で1200〜2000℃程度の超高温にすることができる。
【0052】
TaCは直接プラズマに接しない形で配置されており、TaまたはTaCに含まれる不純物が被加熱試料1の熱処理中に混入しないようになっている。またTaCで構成される高融点かつ低輻射率の板材またはコーティング115の熱容量は極めて小さいことから、加熱部の熱容量増加を最小限にとどめられる。これにより高融点かつ低輻射率の板材またはコーティング115を配置することによる昇温/降温速度の低下もほとんどない。グロー放電域のプラズマとすることで、上部電極2と下部電極3間に均一に広がったプラズマを形成でき、この平面的なプラズマを熱源として被加熱試料1を加熱することで平面的な被加熱試料1を均一に加熱することが可能となる。
【0053】
また平面的に均一に加熱できることから急速に温度を上昇させても、被加熱試料1内での温度不均一に伴う破損等を生じるリスクが低い。以上から高速な温度上昇および下温が可能となり、一連の加熱処理に必要な時間を短縮できる。この効果により加熱処理のスループット向上や、被加熱試料1の必要以上な高温雰囲気での滞在を抑制でき、高温に伴うSiC表面荒れ等を低減できる。
【0054】
上記加熱が終了したら、一定期間の冷却時間を置き、ある程度被加熱試料1の温度が低下した段階で、搬送口219から被加熱試料1を排出し、次の被加熱試料を搬送して下部電極3上に配置する。この一連の操作を繰り返し、処理を行う。被加熱試料1を入れ替える際、搬送口219に接続される被加熱試料退避位置のガス雰囲気を容器109内と同程度に保つことで、被加工試料入れ替えに伴う容器109内のHe入れ替えを行う必要がなく、使用ガス量の削減が可能となる。もちろん有る程度処理を繰り返すことで容器109内のHe純度が低下することもあるので、その際は定期的に入れ替えを実施する。
【0055】
放電ガスにHeを用いる場合Heは比較的高価なガスであるため、その使用量を極力削減することでランニングコストの抑制につながる。これは加熱処理中に導入するHeガス量にも言えることであり、処理中のガス純度を保つのに必要最小限な流量とすることでガス使用量の削減が可能となる。特に図7の実施例に示すようにギャップ104内に直接ガスを導入することで、プラズマ生成や加熱処理に直接影響するギャップ内のガス純度を必要最小限なガス導入量で実施することができる。また被加熱試料1の冷却時間をこのHe導入により短縮することも可能である。つまり、加熱処理終了後(放電終了後)Heガス流量を増加させることで、そのガス冷却効果により冷却時間を短縮できる。
【0056】
図7に示した熱処理装置を用いてイオン打ち込みを行なったSiC基板を1500℃で1分間の熱処理を行なったところ、良好な導電特性を得ることができた。なお、昇温・降温を短時間で行なうことができたため、表面に保護膜を形成しない場合にもSiC基板表面には面荒れは認められなかった。
【0057】
上記図7に示した熱処理装置の基本動作では、ギャップ104を0.8mmとしたが0.1mmから2mmの範囲でも同様な効果がある。0.1mmより狭いギャップの場合も放電は可能であるが、上部電極2と下部電極3間の並行を維持するのに高精度な機能が必要となり、また電極表面の変質(荒れ等)がプラズマに影響するようになり好ましくない。一方ギャップ104が2mmを超える場合は、プラズマの着火性低下やギャップ間からの輻射損失増大が問題となり好ましくない。
【0058】
上記図7に示した熱処理装置の基本動作では、プラズマ形成の圧力を0.6気圧としたが、0.1気圧から10気圧の範囲でも同様の動作が可能である。0.1気圧より低い圧力で動作させる場合、上部電極2および下部電極3からのガス雰囲気の伝熱による熱損失を低減でき、また温度上昇にともなうグロー放電からアーク放電への遷移も抑制する効果がある。但し、0.1気圧より低い圧力では、プラズマ中のイオンが被加熱試料1に比較的高いエネルギーで入射するようになり、ダメージを発生させる場合があるので望ましくない。一般的に結晶面にダメージを与える運動エネルギーは10エレクトロンボルト以上であり、この値を超えるイオンの加速が生じるとダメージを与える。よって被加熱試料1に入射するイオンのエネルギーを10エレクトロンボルト以下とする必要がある。
【0059】
プラズマ中のイオンは被加熱試料1表面に形成されるイオンシース内での電圧で加速され入射する。イオンシース内の電圧はプラズマバルク中のイオンと電子のエネルギー差で生じる。よってイオン、電子、中性粒子が熱平衡状態である大気圧では、イオンシースの電圧発生が少なくまたイオンシース内での中性原子との衝突が100〜1000回程度生じるためイオン入射に伴う被加熱試料1の表面ダメージの発生はほとんど生じない。
【0060】
しかし、減圧していくとイオンと電子の運動エネルギーに差が生じイオンシースにイオンを加速する電圧が発生する。例えば数十〜100V程度の電位差がイオンシースに発生した場合を想定する。イオンシースの厚さは通常数十μmから数百μmである。一方、Heイオンの平均自由工程は、例えば1800℃の0.1気圧以下のHe雰囲気では20μm以下である。よってイオンシース内での衝突回数が1〜10回程度しかなく電位差に近い値までイオンが加速される割合が大きくなり、前記した10エレクトロンボルトを超えるエネルギーを有するイオンが入射する可能性が高まる。
【0061】
上記図7に示した熱処理装置の基本動作では、プラズマ生成の原料ガスにHeを用いたが他にAr、Xe、Kr等の希ガスを用いても同様の効果があることは言うまでもない。前記動作説明で用いたHeは大気圧近辺でのプラズマ着火性や安定性に優れるが、ガスの熱伝導率が高くガス雰囲気を介した伝熱による熱損失が比較的多い。一方Ar等質量の大きいガスは熱伝導率が低いため、熱効率の観点では有利である。また該希ガスに炭化水素系のガスを添加し、プラズマを生成することとで被加熱試料1表面に加熱に伴う表面荒れを防止する炭素保護膜を形成することが加熱の前段階で可能となる。また同様に加熱後(被加熱試料1の温度がある程度低下した段階)に酸素ガスを添加してプラズマを生成することで、該炭素系皮膜を除去することも可能である。被加熱試料の熱処理を実施する前または温度上昇途中に、プラズマ中に炭素含有分子ガスを添加し、被加熱試料の表面に炭素系皮膜による保護膜を形成する制御や熱処理を実施した後に、プラズマ中に酸素を添加し、前記保護膜を除去する制御は、制御部14により行う。
【0062】
本実施例では、上部電極2および下部電極3の非プラズマ接触側に施す高融点かつ低輻射率の板材またはコーティング115に、グラファイト基材にTaC(炭化タンタル)をコーティングした板材を用いたが、他にWC(炭化タングステン)、MoC(炭化モリブデン)、Ta(タンタル)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)を用いても同様な効果がある。
【0063】
上記図7に示した熱処理装置の基本動作では、原料ガスの導入を上部電極2と下部電極3間に行う第一のガス導入手段110のみを用いる場合について記したが、第一のガス導入手段とは別に第ニのガス導入手段127を設けて、上部電極2と下部電極3間以外からガスを導入することも可能である。特に第ニのガス導入手段127は、容器109内を真空排気後にガス充填する場合等比較的大流量でガスを導入する場合に用いる。熱処理中や熱処理後の冷却機関等比較的微量なガスを有効に被加熱試料1に供給する場合には、第一のガス導入手段110を用い、容器109の大気開放時や先に記した排気後のガス充填時に第ニのガス導入手段127を用いる。
【0064】
上記実施例では、上部電極2および下部電極3をCVD法による炭化シリコンをコーティングしたグラファイトを用いたが、他にグラファイト単体、グラファイトに熱分解炭素をコーティングした部材、グラファイト表面をガラス化処理した部材、およびSiC(焼結体、多結晶、単結晶)を用いても同様な効果がある。上部電極2および下部電極3の基材となるグラファイトやその表面に施すコーティングは被加熱試料1への汚染防止の観点から高純度なものが望ましいのは言うまでもない。
【0065】
また上記実施例では、高融点かつ低輻射率の板材またはコーティング115にTaCを用いたが同様に他の高融点(使用温度に耐える融点)かつ低輻射率な材料で同様な効果がある。例えばTa(タンタル)単体、Mo(モリブデン)、W(タングステン)またはWC(炭化タングステン)等でも同様な効果がある。また超高温時には給電線4、17からも被加熱試料1への汚染が影響する場合もある。よって本実施例では給電線4、17も上部電極2および下部電極3と同様なグラファイトを用いた。また上部電極2および下部電極3の熱は給電線4、17を伝熱し損失となる。よって給電線4、17からの伝熱を必要最小限にとどめる必要がある。よって、グラファイトで形成される給電線4、17の断面積はなるべく小さく、長さを長くする必要がある。しかし、給電線4、17の断面積を極端に小さくし、長さも長くしすぎると給電線4、17での高周波電力損失が大きくなり、被加熱試料1の加熱効率の低下を招く。本実施例では、以上の観点からグラファイトで形成される給電線4、17の断面積を12mm、長さを40mmとした。同様な効果は断面積5mm〜30mm、長さ30mm〜100mmの範囲で得られる。
【0066】
本実施例では前述したように加熱効率を決定する上部電極2および下部電極3からの放熱は、(1)輻射、(2)ガス雰囲気の伝熱、(3)給電線4、17からの伝熱が主である。1200℃以上の場合、この中で主なのが前述した(1)輻射で、その抑制に上部電極2および下部電極3の非プラズマ接触側に配置した高融点かつ低輻射率の板材またはコーティング115用いた。また給電線4、17からの放熱は前述した給電線の断面積および長さを最適化し最小限に抑制した。
【0067】
残る(2)ガス雰囲気の伝熱に関しては、ガスの伝熱距離(高温部である上部電極2および下部電極3と低温部であるシールド116または容器109壁までの距離)により抑制した。大気圧付近のHe雰囲気では比較的ガスの伝熱による放熱が高くなる(Heの熱伝導率が高いため)。よって本実施例では、上部電極2および下部電極3からシールド116または容器109壁までの距離をそれぞれ30mm以上確保する構造とした。距離が長い方が放熱抑制には有利であるが、加熱領域に対する容器109の大きさが大きくなり好ましくない。30mm以上の距離を確保することで、容器109の大きさを抑制しつつガス雰囲気の伝熱による放熱を抑制できる。もちろん熱伝導率の低いAr等を用いたり、減圧(0.01気圧以上)することでさらにガス雰囲気の伝熱を抑制することが可能となることは言うまでもない。
【0068】
本実施例では、放電の生成に13.56MHzを用いたがこれは工業周波数であるために低コストで電源が入手でき、かつ電磁波漏洩基準も低いので装置コストが低減できるためである。しかし、原理的には他の周波数でも同様な原理で加熱できることは言うまでもない。特に、1MHz以上100MHz未満の周波数が本実施例に於いては好適である。1MHzより低い周波数になると加熱に必要な電力を供給する際の高周波電圧が高くなり、異常放電(不安定な放電や上部電極と下部電極間以外での放電)を生じ、安定な動作が難しくなるためふさわしくない。また100MHzを超える周波数は、上部電極2と下部電極3のギャップ104間のインピーダンスが低く、プラズマ生成に必要な電圧が得にくくなるため好適でない。
【0069】
図8および図9に本実施例に係る熱処理装置の加熱領域(被加熱試料1、上部電極2、下部電極3、高融点かつ低輻射率の板材またはコーティング115、シールド116、ヒーター117)の詳細図を示す。図8(a)は加熱または加熱後の冷却中の状態を示し、図9は被加熱試料1の搬送時の状態を示す。なお、図8(b)は被加熱試料上下機構122の平面図である。下部電極3上に載置される被加工試料1を搬出する場合、まず図8(a)に示す処理状態から下部電極3を上下機構120にて下げ図9の状態とする。下部電極3位置を下げることで被加熱試料上下機構122が被加熱試料1と下部電極3に隙間を形成する。この隙間に搬送アームを挿入し、その後被加熱試料上下機構122を下げることで被加熱試料1は搬送アームに引き渡され、搬出することが可能となる。
【0070】
被加熱試料1を下部電極3に搭載する際はその逆の工程をたどる。すなわち、下部電極上下機構120および被加熱試料上下機構122とも下げた状態で被加熱試料1を搭載した搬送アームを下部電極3上に挿入する。その後、被加熱試料上下機構122位置を上方に上げ、被加熱試料1を搬送アームから受け取る。さらに下部電極の上下機構120を上方へ上げ、下部電極3を加熱処理位置に上げることで被加熱試料1を下部電極3上に配置することができる。被加熱試料上下機構122も比較的高温にさらされることから高温に耐え汚染も出ない材料で構成することが望ましい。本実施例では、被加熱試料上下機構122を焼結体のSiC(炭化シリコン)で形成した。
【0071】
本実施例では、下部電極3上に1枚の被加熱試料1を配置する場合について記したが、上部電極2および下部電極3を大型し、複数枚の被加熱試料1を下部電極3上に配置し同時に処理することも可能である。また、上部電極と下部電極とを複数組備えることにより、複数枚の被加熱試料を同時に処理することもできる。
【0072】
以下、実施例に示した本発明の効果を纏める。本技術では、狭ギャップ間で生成する大気圧グロー放電によるガス加熱を熱源として被加熱試料1を加熱する。本原理に伴い従来技術に無い以下に示す4つの効果が得られる。
【0073】
第一点目は熱効率である。ギャップ間のガスは熱容量が極めて少なく、また被加熱試料1を含む上部電極2および下部電極3の周囲を覆って断熱材を配置する、又は上部電極2および下部電極3のそれぞれの非プラズマ接触面に高融点かつ低輻射率の板材またはコーティング115配置することにより輻射に伴う加熱損失が極めて少ない体系にて被加熱試料1を加熱できる。
【0074】
第二点目は加熱応答性と均一性である。加熱部の熱容量が極めて小さいため急速な昇温および降温が可能となる。またグロー放電によるガス加熱を熱源に用いるため、グロー放電の広がりにより平面的に均一な加熱が可能となる。温度均一性が高いことで熱処理に伴う被加熱試料1面内でのデバイス特性バラツキを抑制できると同時に、急激な昇温等を行った際に被加熱試料1面内の温度差に伴う熱応力による損傷も抑制できる。
【0075】
第三点目は、加熱処理に伴う消耗部品の低減である。本技術では被加熱試料1に接触するガスを直接加熱するため、高温化する領域は被加熱試料1の極めて近傍に配置される部材に限定され、かつその温度も被加熱試料1と同等かそれ以下である。よって、部材の寿命が長く、部品劣化に伴う交換の領域も少ない。
【0076】
第四点目は被加熱試料1の表面荒れ抑制である。本技術では、先に記し効果により昇温/降温時間が短くできることから被加熱試料1を高温環境下に曝す時間が必要最低限に短縮され表面荒れを抑制できる。また本技術では、大気圧グロー放電によるプラズマを被加熱試料に曝すことで加熱を行う。加熱の段階では希ガスプラズマを用いるが昇温過程または降温過程で希ガスに反応性ガスを添加することで保護膜の形成および除去が加熱工程の中で一貫して可能となる。これにより熱処理装置とは別装置で行う保護膜の形成および除去工程が不要とり製造コストの低減が可能となる。
【0077】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1…被加熱試料、2…上部電極、3…下部電極、4…給電線、5…高周波電源、6…マッチング回路、7…空隙層、8…グラファイト壁、9…断熱材、10…上部電極2と下部電極3の対向するそれぞれの円周角部、11…開口部、12…開口部、13…放射温度計、14…制御部、15…ガス導入部、16…ガス排出部、17…アースへの給電線、18…Arガス流量の模式的変化、19…メタンガス流量の模式的変化、20…酸素ガス流量の模式的変化、21…高周波電力の模式的変化、22…被加熱試料温度の模式的変化、23…炭素保護膜形成工程、24…加熱工程、25…冷却および炭素保護膜除去工程、26…電力分配器、104…ギャップ、109…容器、110…第一のガス導入手段、111…ガス通路、112…圧力検出手段、114…圧力調整バルブ、115…高融点かつ低輻射率の板材またはコーティング、116…シールド、117…ヒーター、118…冷却手段、120…上下機構、121…電力導入端子、122…被加熱試料上下機構、123…上下機構120の駆動電源および制御機構、124…圧力調整バルブの駆動電源および制御機構、125…ヒーターの電源および制御機構、127…第ニのガス導入手段、219…搬送口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを生成する高周波電力を供給する高周波電源と、
試料を載置する下部電極と、
前記下部電極に対向して配置された上部電極と、
前記上部電極と前記下部電極間にプラズマを生成するガスを導入するガス導入部と、
空隙を介して前記上部電極及び前記下部電極を覆う断熱材を備え、
前記プラズマを用いて前記試料を熱処理することを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の熱処理装置において、
さらに、前記試料の温度を測定する温度計と、
前記温度計にて計測した温度を参照し、前記高周波電源の出力を制御する制御部を備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項3】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記上部電極または前記下部電極に印加された高周波電力により、グロー放電プラズマを生成することを特徴とする熱処理装置。
【請求項4】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記断熱材は、熱伝導率0.5W/mK以下の材料から成ることを特徴とする熱処理装置。
【請求項5】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記断熱材料は、酸化アルミを主原料とするセラミックファイバーから成ることを特徴とする熱処理装置。
【請求項6】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記上部電極と前記試料との間の距離が0.1mm以上2.0mm以下であり、前記ガスの圧力が0.1気圧以上10気圧以下の範囲であることを特徴とする熱処理装置。
【請求項7】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記上部電極と前記下部電極は複数配置されており、複数の試料が熱処理されることを特徴とする熱処理装置。
【請求項8】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記高周波電源と前記上部電極との間に並列に接続された複数の給電線を備え、前記複数の給電線を介して、前記上部電極に高周波電力が印加されることを特徴とする熱処理装置。
【請求項9】
請求項1記載の熱処理装置において、
さらに、前記ガス導入部から導入されるガス種及びガス流量並びに前記高周波電源の出力を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記試料の表面に保護膜を形成し、前記試料の表面に前記保護膜が覆われた状態で加熱し、前記保護膜を除去するように前記ガス導入部から導入されるガス種及びガス流量並びに前記高周波電源の出力の制御を行うことを特徴とする熱処理装置。
【請求項10】
プラズマを生成する高周波電力を供給する高周波電源と、
試料を載置する下部電極と、
前記下部電極に対向して配置された上部電極と、
前記上部電極と前記下部電極との間にプラズマを生成するガスを導入するガス導入部とを備え、
前記上部電極は、前記下部電極に対向する面の反対側に高融点かつ低輻射率の平板を備え、
前記下部電極は、前記上部電極と対向する面の反対側に高融点かつ低輻射率の平板を備え、前記プラズマを用いて前記試料を熱処理することを特徴とする熱処理装置。
【請求項11】
プラズマを生成する高周波電力を供給する高周波電源と、
試料を載置する下部電極と、
前記高周波電源が接続され、前記下部電極に対向して配置された上部電極と、
前記上部電極と前記下部電極との間にプラズマを生成するガスを導入するガス導入部とを備え、
前記上部電極は、前記下部電極に対向する面の反対側に高融点かつ低輻射率の材料のコーティングを有し、
前記下部電極は、前記上部電極と対向する面の反対側に高融点かつ低輻射率の材料のコーティングを有し、前記プラズマを用いて前記試料を熱処理することを特徴とする熱処理装置。
【請求項12】
請求項10または請求項11記載の熱処理装置において、
さらに、前記上部電極と前記下部電極とを予め加熱する加熱手段を備えることを特徴とする熱処理装置。
【請求項13】
請求項10または請求項11記載のプラズマ熱処理装置において、
前記上部電極と前記下部電極は複数配置され、複数の試料が熱処理されることを特徴とする熱処理装置。
【請求項14】
請求項1記載の熱処理装置において、
前記下部電極には、複数の試料が載置されることを特徴とする熱処理装置。
【請求項15】
請求項8記載の熱処理装置において、
前記高周波電源は1つであることを特徴とする熱処理装置。
【請求項16】
請求項8記載の熱処理装置において、
前記高周波電源は複数であることを特徴とする熱処理装置。
【請求項17】
請求項10または請求項11記載のプラズマ熱処理装置において、
前記上部電極と前記下部電極は容器内に配置され、前記容器は冷却手段を有することを特徴とする熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−216737(P2012−216737A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89981(P2011−89981)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月9日発行の「2011年春季<第58回>応用物理学関係連合講演会[講演予稿集](DVD)」に発表
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】