説明

熱処理設備の制御方法

【課題】 的確なタイミングで冷却装置の駆動を停止することができる熱処理設備の制御方法を提供する。
【解決手段】 熱処理設備1では、走行中の金属板2を、加熱装置6によって加熱し、この加熱装置6よりも金属板2の走行方向X下流側で、冷却装置7によって冷却する。加熱装置6は、走行中の金属板2を炉11内で加熱する。炉11には、熱源12から熱が供給される。このような熱処理設備1では、熱源12による炉11への熱の供給を停止した後、加熱装置6よりも走行方向X下流側かつ冷却装置7よりも走行方向X上流側での金属板2の温度に基づいて、冷却装置7の駆動を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の金属板を熱処理する熱処理設備の制御方法に関し、詳しくは熱処理を停止するときの熱処理設備の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属板を後処理する後処理設備では、走行中の金属板に処理液を順次に塗布し、処理液が塗布された走行中の金属板を順次に熱処理する。このようにして金属板に皮膜を形成させる。走行中の金属板は、熱処理設備によって熱処理される。熱処理設備では、走行中の金属板を、加熱装置によって加熱し、この加熱装置よりも金属板の走行方向下流側で、冷却装置によって冷却する。加熱装置は、走行中の金属板を炉内で加熱する。炉には、熱源から熱が供給される。
【0003】
特許文献1に開示される技術では、金属帯の通板方向に沿って、冷却装置となる複数台の気体噴射装置を、能力が異なるものを含ませて設置しておく。そして最上流側の気体噴射装置に流入する金属帯の入口板温に対して、金属帯の通板経路に沿って、各気体噴射装置毎に、その可動状態に応じて、通過する金属帯の温度変化を、予め定める計算式に従って積算してゆき、最下流側の気体噴射装置から流出する金属帯の出口板温を算出する。このようにして算出した出口板温が目標板温の範囲内となるように、気体噴射装置の稼働台数を制御する。
【0004】
【特許文献1】特開平8−232024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱処理設備では、熱処理が不要になったとき、熱源による炉への熱の供給を停止する。炉の温度は、熱源による炉への熱の供給を停止した後、すぐには充分に低下しない。したがって熱源による炉への熱の供給を停止した後も、しばらくは走行中の金属板が炉内で不所望に加熱される。
【0006】
熱源による炉への熱の供給を停止した直後から冷却装置の駆動を停止した場合、不所望に加熱された金属板が、充分に冷却されることなく、冷却装置よりも走行方向下流側に到達する。これによって、金属板を走行させるためのロールを焼損してしまうという問題が生じる。
【0007】
熱源による炉への熱の供給を停止した後、しばらくすると、炉の温度は充分に低下し、走行中の金属板は炉内で不所望に加熱されなくなる。それにも拘わらず冷却装置の駆動を維持する場合、冷却装置を無駄に駆動してしまうという問題がある。
【0008】
前記特許文献1では、熱源による炉への熱の供給を停止した後のことについては考慮されていない。換言すれば、熱源による炉への熱の供給を停止した後は入口板温が低下するけれども、その際、どのように各気体噴射装置を制御するのかについては、前記特許文献1には開示されていない。
【0009】
本発明の目的は、的確なタイミングで冷却装置の駆動を停止することができる熱処理設備の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、炉と、炉に熱を供給する熱源とを有し、走行中の金属板を炉内で加熱する加熱装置と、加熱装置よりも金属板の走行方向下流側で、走行中の金属板を冷却する冷却装置とを含む熱処理設備の制御方法であって、
熱源による炉への熱の供給を停止した後、加熱装置よりも走行方向下流側かつ冷却装置よりも走行方向上流側での金属板の温度に基づいて、冷却装置の駆動を停止することを特徴とする熱処理設備の制御方法である。
【0011】
また本発明は、加熱装置よりも走行方向下流側かつ冷却装置よりも走行方向上流側での金属板の温度は、炉から出るときの金属板の温度であり、この金属板の温度は、炉の温度に基づいて演算されることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、加熱装置は、炉内で送風する送風手段をさらに有し、
炉から出るときの金属板の温度は、送風手段の出力にも基づいて演算されることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、炉と、炉に熱を供給する熱源とを有し、走行中の金属板を炉内で加熱する加熱装置と、
加熱装置よりも金属板の走行方向下流側で、走行中の金属板を冷却する冷却装置と、
加熱装置および冷却装置を制御する制御手段であって、熱源による炉への熱の供給を停止した後、加熱装置よりも走行方向下流側かつ冷却装置よりも走行方向上流側での金属板の温度に基づいて、冷却装置の駆動を停止することを特徴とする熱処理設備である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱処理設備では、走行中の金属板を、加熱装置によって加熱し、この加熱装置よりも金属板の走行方向下流側で、冷却装置によって冷却する。加熱装置は、走行中の金属板を炉内で加熱する。炉には、熱源から熱が供給される。このような熱処理設備では、熱源による炉への熱の供給を停止した後、加熱装置よりも走行方向下流側かつ冷却装置よりも走行方向上流側での金属板の温度に基づいて、冷却装置の駆動を停止する。
【0015】
金属板を走行させるためには、ロールが用いられる。ロールの焼損を防ぐためには、金属板の温度が重要である。この点を考慮して、冷却装置の駆動を停止するタイミングを、加熱装置よりも走行方向下流側かつ冷却装置よりも走行方向上流側での金属板の温度に基づいて決定する。したがって的確なタイミングで冷却装置の駆動を停止することができる。
【0016】
また本発明によれば、炉の温度に基づいて、炉から出るときの金属板の温度を演算する。この場合、炉から出るときの金属板の温度を、金属板を傷つけることなく、高精度で求めることができる。
【0017】
接触式の温度計を用いて金属板の温度を測定する場合、金属板を傷つけてしまう。非接触式の放射温度計を用いて金属板の温度を測定する場合、ロールの焼損が生じる程度の温度領域では、精度が低くなってしまう。本発明では、このような不具合を回避することができる。
【0018】
前述のように、炉から出るときの金属板の温度は、高精度で求めることができる。このような金属板の温度に基づいて、冷却装置の駆動を停止するタイミングを決定する。したがって、より的確なタイミングで冷却装置の駆動を停止することができる。
【0019】
また本発明によれば、加熱装置では、送風手段が炉内で送風する。炉から出るときの金属板の温度は、送風手段の出力にも影響を受ける。この点を考慮して、炉の温度だけでなく、送風手段の出力にも基づいて、炉から出るときの金属板の温度を演算する。したがって炉から出るときの金属板の温度を、さらに高精度で求めることができる。
【0020】
また本発明によれば、走行中の金属板を、加熱装置によって加熱し、この加熱装置よりも金属板の走行方向下流側で、冷却装置によって冷却する。加熱装置は、走行中の金属板を炉内で加熱する。炉には、熱源から熱が供給される。制御手段は、熱源による炉への熱の供給を停止した後、加熱装置よりも走行方向下流側かつ冷却装置よりも走行方向上流側での金属板の温度に基づいて、冷却装置の駆動を停止する。
【0021】
金属板を走行させるためには、ロールが用いられる。ロールの焼損を防ぐためには、金属板の温度が重要である。この点を考慮して、制御手段は、冷却装置の駆動を停止するタイミングを、加熱装置よりも走行方向下流側かつ冷却装置よりも走行方向上流側での金属板の温度に基づいて決定する。したがって的確なタイミングで冷却装置の駆動を停止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の実施の一形態である熱処理設備1の構成を簡略化して示すブロック図である。本実施の形態の熱処理設備1は、金属板2を後処理する後処理設備3に備えられる(図2参照)。金属板2は、たとえば鋼板である。後処理設備3による後処理にあたっては、複数の金属板2を溶接によって互いに接合して金属帯を形成し、この金属帯を走行経路に沿って走行させる。金属板2の走行速度は、50〜200m/min程度である。
【0023】
熱処理設備1は、走行中の金属板2を加熱する加熱装置6と、加熱装置6よりも金属板2の走行方向X下流側で、走行中の金属板2を冷却する冷却装置7と、加熱装置6および冷却装置7を制御する制御手段8とを含む。このような熱処理設備1では、走行中の金属板2を、加熱装置6によって加熱し、この加熱装置6よりも走行方向X下流側で、冷却装置7によって冷却することができる。
【0024】
加熱装置6は、炉11と、炉11に熱を供給する熱源12と、炉11内で送風する送風手段13とを有する。炉11には、内部空間14が形成され、この内部空間14を走行中の金属板2が通過する。炉11は、比熱の高い材質、たとえばレンガから成る。熱源12は、たとえば天然ガスを燃料として燃焼するバーナによって実現される。送風手段13は、走行中の金属板2に向けて両面から送風し、これによって炉11の熱を、炉11内の気体を介して走行中の金属板2に効率よく移動させることができる。送風手段13は、たとえば循環ファンによって実現される。このような加熱装置6によって、走行中の金属板2を炉11内で加熱することができる。
【0025】
炉11には、この炉11の温度である炉温を検出する炉温検出手段15が設けられる。炉温検出手段15は、炉11の両側壁にそれぞれ設けられる。炉11の両側壁は、炉11内を走行中の金属板2の幅方向両側に位置する。炉温検出手段15は、たとえば熱電対によって実現される。
【0026】
冷却装置7は、冷却室21と、冷却手段22とを有する。冷却室21には、内部空間23が形成され、この内部空間23を走行中の金属板2が通過する。冷却手段22は、走行中の金属板2に向けて両面から送風し、これによって走行中の金属板2を効率よく冷却することができる。冷却手段22は、たとえばエアージェットクーラ(Air Jet Cooler、略称AJC)によって実現される。このような冷却装置7によって、走行中の金属板2を冷却室21内で冷却することができる。
【0027】
制御手段8は、熱源12および送風手段13を制御して、炉11内を走行中の金属板2の温度を制御する。また制御手段8は、冷却手段22を制御して、冷却室21内を走行中の金属板2の温度を制御する。以下、「金属板2の温度」を単に「板温」という。制御手段8は、プログラマブルロジックコントローラ(Programmable Logic Controller、略称PLC)によって実現される。制御手段8は、熱処理設備1だけでなく、この熱処理設備1を含む後処理設備3全体を統括的に制御する。
【0028】
制御手段8には、炉温検出手段15による検出結果が与えられ、また入力手段26から入力される入力情報が与えられる。入力情報は、熱処理の停止指令などの指令を含む。入力手段26は、プッシュボタンを有し、このプッシュボタンが押下されることによって、熱処理の停止指令が入力される。
【0029】
図2は、後処理設備3の構成を簡略化して示す図である。後処理設備3は、処理液を走行中の金属板2に順次に塗布した後、処理液が塗布された走行中の金属板2を順次に熱処理することによって、金属板2の表面に皮膜を形成させる。処理液は、金属板2に形成させるべき皮膜の成分を含有する液体である。本実施の形態では、前記皮膜の成分は、クロム(Cr)である。
【0030】
後処理設備3は、処理液を走行中の金属板2に順次に塗布する塗布装置31と、塗布装置31よりも走行方向X下流側で、走行中の金属板2を加熱する前記加熱装置6と、加熱装置6よりも走行方向X下流側で、走行中の金属板2を冷却する前記冷却装置7とを含む。
【0031】
塗布装置31は、処理液を金属板2の両面にそれぞれ塗布する。塗布装置31は、たとえばロール塗布装置によって実現される。ロール塗布装置は、パンに貯留される処理液を、複数のロールを介して移動させて、走行中の金属板2に塗布する。
【0032】
加熱装置6は、乾燥炉11aおよび加熱炉11bを、炉11として含む。乾燥炉11aでは、金属板2を加熱して、塗布装置31によって金属板2に形成される塗膜を乾燥させる。加熱炉11bでは、乾燥炉11aよりも走行方向X下流側で、金属板2をさらに加熱して、前記塗膜を金属板2に焼付ける。乾燥炉11aおよび加熱炉11bには、熱源12がそれぞれ個別に設けられる。
【0033】
乾燥炉11aは、乾燥に必要な温度、たとえば300℃に加熱される。乾燥炉11aの温度は、金属板2の種類および処理液の種類などに応じて設定される。乾燥炉11aの内部空間は、複数のゾーン、たとえば3つのゾーン14a,14b,14cに分割される。各ゾーン14a〜14cは、走行方向Xに沿って隣接して並ぶ。各ゾーン14a〜14cには、前記送風手段13がそれぞれ個別に設けられ、また炉温検出手段15がそれぞれ個別に設けられる。このような乾燥炉11a内で、走行中の金属板2を70℃程度まで昇温させる。
【0034】
加熱炉11bは、焼付けに必要な温度、たとえば600℃に加熱される。加熱炉11bの温度は、金属板2の種類および処理液の種類などに応じて設定される。加熱炉11bの内部空間は、複数のゾーン、たとえば3つのゾーン14d,14e,14fに分割される。各ゾーン14d〜14fは、走行方向Xに沿って隣接して並ぶ。各ゾーン14d〜14fには、前記送風手段13がそれぞれ個別に設けられ、また炉温検出手段15がそれぞれ個別に設けられる。このような加熱炉11b内で、走行中の金属板2を140±20℃まで昇温させる。
【0035】
冷却装置7は、複数の冷却室、たとえば3つの冷却室21a,21b,21cを含む。各冷却室21a〜21cは、走行方向Xに沿って並ぶ。各冷却室21a,21b,21cには、冷却手段22がそれぞれ個別に設けられる。このような冷却装置7によって、走行中の金属板2を75℃程度まで降温させる。
【0036】
塗布装置31よりも走行方向X上流側には、上流側ロール32が設けられる。冷却装置7よりも走行方向X下流側には、下流側ロール33が設けられる。これらのロール32,33の間で、金属板2には所定の張力が与えられる。各ロール32,33は、ゴムロールによって実現される。
【0037】
図3は、熱処理設備1の停止動作を説明するための図である。図3(1)は加熱炉11bから出るときの板温を示し、図3(2)は熱源12の状態を示し、図3(3)は送風手段13の状態を示し、図3(4)は冷却手段22の状態を示す。
【0038】
熱処理時には、熱源12および送風手段13を駆動するとともに、冷却手段22を駆動する。このとき、加熱炉11bから出るときの板温は、所定の第1温度T1に維持される。第1温度T1は、140±20℃である。
【0039】
熱処理が不要になると、まず、図3(2)に示すように、時刻t1で、熱源12の駆動を停止し、これによって熱源12による炉11への熱の供給を停止する。図3(3)および図3(4)に示すように、時刻t1では、送風手段13および冷却手段22については、駆動を維持する。
【0040】
時刻t1以降は、熱源12による炉11への熱の供給がないので、炉温は徐々に低下する。したがって図3(1)に示すように、加熱炉11bから出るときの板温は、徐々に低下する。
【0041】
加熱炉11bから出るときの板温が所定の第2温度T2まで低下すると、図3(4)に示すように、時刻t2で、冷却手段22の駆動を停止する。第2温度T2は、前記下流側ロール33の焼損が生じる温度よりも低い温度である。第2温度T2は、たとえば75℃に設定される。時刻t2では、送風手段13については、駆動を維持する。
【0042】
前述のように、熱源12の駆動を停止した後も送風手段13の駆動を維持するので、送風手段13の軸の偏芯を防ぐことができる。また熱源12の駆動を停止した後も冷却手段22の駆動を維持するので、前記下流側ロール33の焼損を防ぐことができる。さらに加熱炉11bから出るときの板温が第2温度T2まで低下すると、冷却手段22の駆動を停止するので、冷却手段22の無駄な駆動を防ぐことができる。
【0043】
送風手段13については、炉温が充分に低下した後、時刻t3で、駆動を停止する。一例として述べると、炉温が50℃まで低下すると、送風手段13の駆動を停止する。送風手段13の駆動の停止は、冷却手段22の駆動の停止よりも時間的に、前であってもよくあるいは後であってもよい。また送風手段13については、冷却手段22の駆動を停止するときに同時に、駆動を停止してもよい。
【0044】
本実施の形態では、送風手段13および冷却手段22については、時刻t1で、出力を維持するけれども、出力を低下させてもよい。送風手段13は、軸の偏芯を防ぐために最低限必要な出力で駆動すればよく、具体的には最低限必要な回転速度で軸を回転駆動すればよい。冷却手段22は、前記下側ロール33の焼損を防ぐために最低限必要な出力で駆動すればよい。
【0045】
図4は、制御手段8による冷却手段22の停止処理を説明するためのフローチャートである。作業者が入力手段26を操作することによって、熱処理の停止指令が入力手段26から入力される。制御手段8は、熱処理の停止指令が与えられると、熱源12の駆動を停止し、送風手段13および冷却手段22の駆動は維持したまま、冷却手段22の停止処理を開始する。
【0046】
冷却手段22の停止処理を開始すると、まず、ステップa1で、加熱炉11bから出るときの板温を、炉温および送風手段13の出力に基づいて演算する。詳しく述べると、炉11の各ゾーン14a〜14fにおいて成り立つ以下の関係式を用いて、加熱炉11bから出るときの板温を演算する。
R={H/(A+B・Tn)}1/α
H={(t・v・c)/L}・ln{(Tin−Tn)
/(Tout−Tn)}
【0047】
ここで、Rは送風手段13の出力値、Hは総括熱伝達係数、AおよびBは定数、Tnは炉温、αは定数、tは金属板2の厚み寸法である板厚、vは金属板2の走行速度、cは定数、Lはゾーン長、Tinはゾーンに入るときの板温、Toutはゾーンから出るときの板温である。ゾーン長は、ゾーンの走行方向Xの寸法である。lnは自然対数を表すための記号である。
【0048】
各定数A、B、α、cおよびゾーン長Lは、ゾーンごとに設定される。各定数A、B、α、cおよびゾーン長Lは、作業者が入力手段26を操作することによって予め設定される。
【0049】
炉温Tnは、炉温検出手段15によって検出される。炉温検出手段15は、前述のように炉11の両側壁にそれぞれ設けられる。炉温Tnは、一側壁に設けられる炉温検出手段15による検出値と他側壁に設けられる炉温検出手段15による検出値とを平均した平均値である。
【0050】
ゾーンから出るときの板温Toutは、炉温Tnと、送風手段13の出力値Rと、金属板2の板厚tと、金属板2の走行速度vと、ゾーンに入るときの板温Tinとに基づいて、前記関係式を用いて演算することができる。
【0051】
炉11の各ゾーン14a〜14fのうちで走行方向Xの最も上流側のゾーン14aでは、ゾーンに入るときの板温Tinとして、季節温度が設定される。季節温度は、各季節における板温である。夏の季節温度は、冬の季節温度よりも3℃程度、高い。季節温度は、作業者が入力手段26を操作することによって、季節に応じて、予め設定される。
【0052】
炉11の各ゾーン14a〜14fのうちで前記最も上流側のゾーン14aを除く残余の各ゾーン14b〜14fでは、ゾーンに入るときの板温Tinとして、走行方向X上流側に隣接するゾーンから出るときの板温Toutが用いられる。したがって走行方向X上流のゾーンから順に、ゾーンから出るときの板温Toutが算出される。本実施の形態では、加熱炉11bから出るときの板温は、炉11の各ゾーン14a〜14fのうちで走行方向Xの最も下流側のゾーン14fから出るときの板温Toutである。
【0053】
次のステップa2では、前記ステップa1で算出される板温が所定の閾値以下であるか否かを判定する。この所定の閾値は、前記第2温度T2である。前記ステップa1で算出される板温が所定の閾値以下になるまでステップa1,a2の動作を繰返して実行し、前記ステップa1で算出される板温が所定の閾値以下になると、ステップa3に進む。ステップa3では、冷却手段22の駆動を停止して、冷却手段22の停止処理を終了する。
【0054】
このような熱処理設備1の制御方法は、熱処理を断続的に実行し、しかも熱処理を休止する時間が比較的に長い場合に有効である。比較的に長いとは、熱源12による炉11への熱の供給を停止してから炉温が充分に低下するまでの時間よりも長いことを意味する。
【0055】
以上のような本実施の形態によれば、前記下流側ロール33の焼損を防ぐためには板温が重要であるという点を考慮して、制御手段8は、熱源12による炉11への熱の供給を停止した後、加熱炉11bから出るときの板温に基づいて、冷却手段22の駆動を停止する。換言すれば、冷却手段22の駆動を停止するタイミングを、加熱炉11bから出るときの板温に基づいて決定する。したがって的確なタイミングで冷却装置7の駆動を停止することができる。
【0056】
また本実施の形態によれば、炉温に基づいて、加熱炉11bから出るときの板温を演算する。この場合、加熱炉11bから出るときの板温を、金属板2を傷つけることなく、高精度で求めることができる。
【0057】
接触式の温度計を用いて板温を測定する場合、精度は高いけれども、金属板2を傷つけてしまう。非接触式の放射温度計を用いて板温を測定する場合、金属板2を傷つけることはないけれども、ロールの焼損が生じる程度の温度領域では、精度が低くなってしまう。本実施の形態では、このような不具合を回避することができる。
【0058】
しかも加熱炉11bから出るときの板温は、送風手段13の出力にも影響を受けるという点を考慮して、炉温だけでなく、送風手段13の出力にも基づいて、加熱炉11bから出るときの板温を演算する。したがって加熱炉11bから出るときの板温を、さらに高精度で求めることができる。
【0059】
前述のように、加熱炉11bから出るときの板温は、高精度で求めることができる。このような板温に基づいて、冷却手段22の駆動を停止するタイミングを決定する。したがって、より的確なタイミングで冷却手段22の駆動を停止することができる。
【0060】
また本実施の形態によれば、制御手段8は、熱処理の停止指令が与えられると、前述のように的確なタイミングで、冷却手段22の駆動を停止するので、冷却手段22の駆動を停止するために別途に入力手段26を操作する必要がない。したがって熱処理の停止に関する操作について、作業者への負担を軽減することができる。
【0061】
前述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲内において構成を変更することができる。たとえば、接触式の温度計を用いて、加熱装置6よりも走行方向X下流側かつ冷却装置7よりも走行方向X上流側での板温を測定し、冷却手段22の駆動を停止するタイミングを、前記板温の測定結果に基づいて決定してもよい。また各冷却室21a〜21cの冷却手段22については、走行方向X下流から順に、駆動を停止するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の一形態である熱処理設備1の構成を簡略化して示すブロック図である。
【図2】後処理設備3の構成を簡略化して示す図である。
【図3】熱処理設備1の停止動作を説明するための図である。
【図4】制御手段8による冷却手段22の停止処理を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0063】
1 熱処理設備
2 金属板
6 加熱装置
7 冷却装置
8 制御手段
11 炉
11a 乾燥炉
11b 加熱炉
12 熱源
13 送風手段
15 炉温検出手段
21 冷却室
22 冷却手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉と、炉に熱を供給する熱源とを有し、走行中の金属板を炉内で加熱する加熱装置と、加熱装置よりも金属板の走行方向下流側で、走行中の金属板を冷却する冷却装置とを含む熱処理設備の制御方法であって、
熱源による炉への熱の供給を停止した後、加熱装置よりも走行方向下流側かつ冷却装置よりも走行方向上流側での金属板の温度に基づいて、冷却装置の駆動を停止することを特徴とする熱処理設備の制御方法。
【請求項2】
加熱装置よりも走行方向下流側かつ冷却装置よりも走行方向上流側での金属板の温度は、炉から出るときの金属板の温度であり、この金属板の温度は、炉の温度に基づいて演算されることを特徴とする請求項1に記載の熱処理設備の制御方法。
【請求項3】
加熱装置は、炉内で送風する送風手段をさらに有し、
炉から出るときの金属板の温度は、送風手段の出力にも基づいて演算されることを特徴とする請求項2に記載の熱処理設備の制御方法。
【請求項4】
炉と、炉に熱を供給する熱源とを有し、走行中の金属板を炉内で加熱する加熱装置と、
加熱装置よりも金属板の走行方向下流側で、走行中の金属板を冷却する冷却装置と、
加熱装置および冷却装置を制御する制御手段であって、熱源による炉への熱の供給を停止した後、加熱装置よりも走行方向下流側かつ冷却装置よりも走行方向上流側での金属板の温度に基づいて、冷却装置の駆動を停止することを特徴とする熱処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−13486(P2009−13486A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178896(P2007−178896)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】