説明

熱収縮性ポリエステル系フィルムおよびポリエステル系樹脂の製造方法

【課題】 高速収縮作業において、従来以上に優れた収縮仕上り外観を確保できる熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供する。
【解決手段】 熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいて、
95℃の温水で熱収縮させた場合の最大収縮方向の熱収縮率(A)が50%以上、フィルムの最大収縮方向の最大熱収縮応力値(B)が10MPa以下、特定の方法により求められる交点収縮率(C)が10%以上、の全ての特性を有することを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、さらに詳しくはラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱収縮性プラスチックフィルムは、加熱によって収縮する性質を利用して、収縮包装、収縮ラベル、キャップシールなどの用途に広く用いられている。中でも、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの延伸フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)容器、ポリエチレン容器、ガラス容器などの各種容器において、ラベルやキャップシールあるいは集積包装の目的で使用されている。
【0003】
しかしポリ塩化ビニル系フィルムは、耐熱性が低い上に、焼却時に塩化水素ガスを発生したり、ダイオキシンの原因となるなどの問題を抱えている。また、熱収縮性塩化ビニル系樹脂フィルムをPET容器などの収縮ラベルとして用いると、容器をリサイクル利用する際に、ラベルと容器とを分離しなければならないという問題がある。
【0004】
一方、ポリスチレン系フィルムは、収縮後の仕上がり外観性が良好な点は評価できるが、耐溶剤性に劣るため、印刷の際に特殊な組成のインキを使用しなければならない。また、ポリスチレン系フィルムは、高温で焼却する必要がある上に、焼却時に多量の黒煙と異臭が発生するという問題がある。
【0005】
これらの問題のないポリエステル系フィルムは、ポリ塩化ビニル系フィルムやポリスチレン系フィルムに代わる収縮ラベルとして非常に期待されており、PET容器の使用量増大に伴って、使用量も増加傾向にある。
【0006】
しかし、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムも、その収縮特性においてはさらなる改良が求められていた。特に、収縮時に、収縮斑やシワが発生して、収縮前のフィルムに印刷した文字や図柄が、PETボトル、ポリエチレンボトル、ガラス瓶などの容器に被覆収縮した後に歪むことがあり、この歪みを可及的に小さくしたいというユーザーサイドの要望があった。また収縮応力が小さく、容器へのフィルムの密着性に劣ることがあった。
さらには熱収縮性ポリスチレン系フィルムと比較すると、ポリエステル系フィルムは低温での収縮性に劣ることがあり、必要とする収縮量を得るために高温で収縮させなければならず、ボトル本体の変形や白化が生じることがあった。
【0007】
ところで、熱収縮性フィルムを実際の容器の被覆加工に用いる際には、必要に応じて印刷工程に供した後、ラベル(筒状ラベル)、チューブ、袋などの形態に加工する。これら加工フィルムは、容器に装着した後、スチームを吹きつけて熱収縮させるタイプの収縮トンネル(スチームトンネル)や、熱風を吹きつけて熱収縮させるタイプの収縮トンネル(熱風トンネル)の内部を、ベルトコンベアーなどにのせて通過させ、熱収縮させて容器に密着させている。
【0008】
スチームトンネルは、熱風トンネルよりも伝熱効率が良く、より均一に加熱収縮させることが可能であり、熱風トンネルに比べると良好な収縮仕上がり外観を得ることができるが、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ポリ塩化ビニル系フィルムやポリスチレン系フィルムに比べると、スチームトンネルを通過させた後の収縮仕上がり性が余り良くないという問題があった。
【0009】
また熱収縮の際に温度斑が生じやすい熱風トンネルを使用すると、ポリエステル系フィルムでは、収縮白化、収縮斑、シワ、歪みなどが発生し易く、特に収縮白化が製品外観上問題となっていた。そして、この熱風トンネルを通過させた後の収縮仕上がり性においても、ポリエステル系フィルムは、ポリ塩化ビニル系フィルムやポリスチレン系フィルムよりも劣っているという問題があった。
【0010】
さらに、収縮率を確保するために延伸度合いを高めると、収縮方向に直交する方向でフィルムが破断し易くなって、印刷工程やラベル加工工程、あるいは収縮後のフィルムの破断トラブルが起こることがあり、このようなトラブルについても改善が嘱望されていた。
加えて、熱収縮性フィルムから製造される熱収縮性ラベルなどを、容器などに被覆収縮させる工程においては、上記のようなスチームトンネルや熱風トンネルの通過時間をできるだけ短くすることで、最終製品(例えば、ラベルを被覆したPETボトルなど)の生産効率を高めることができる。
【0011】
こうした高速収縮作業に適した熱収縮性ポリエステル系フィルムを製造する方法が、例えば特許文献1に提案されている。この技術は、フィルムの局部収縮に基づく収縮斑などが解消されるように、フィルムの内部残留収縮応力が、局部収縮した部分を引き伸ばすのに要する力よりも大きくなるように未延伸フィルムを延伸するものである。この技術で得られる熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、一時的に収縮した局部収縮部に、もとに戻そうとする力が常に作用するため、局部収縮に基づく斑が解消される。よって、高速収縮作業においても、良好な収縮仕上り外観を確保できるのである。
【特許文献1】特許2082326号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、熱収縮の際にフィルムに掛かる応力があまりに大きい場合は、上述したフィルムの内部残留収縮応力による収縮斑の解消作用が不十分となって、優れた収縮仕上り外観を確保できない場合もあり、上記特許文献1に提案されている技術は、この点に未だ改善の余地を残していた。本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、高速収縮作業において、従来以上に優れた収縮仕上り外観を確保できる熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決し得た本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、下記(A)〜(C)の特性を有するところに要旨を有する。ここで、
(1)10cm×10cmの正方形状に切り取った熱収縮性ポリエステル系フィルムの試料を、95℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率(A)が50%以上、
(2)フィルムの最大収縮方向についての熱収縮試験を、温度90℃、吹き出し速度5m/秒の熱風中、試験片幅20mm、チャック間距離100mmの条件で行ったとき、最大熱収縮応力値(B)が10MPa以下、
(3)フィルムを温度100℃、吹き出し速度5m/秒の熱風中で熱収縮させたときに得られる収縮応力−収縮率曲線と、フィルムを温度100℃、吹き出し速度5m/秒の熱風中で、最大収縮方向に収縮率50%で熱収縮させたフィルムについて、該熱風中で、引張速度200mm/分の条件で引張試験をしたときに得られる引張応力−伸長率曲線から求められる交点収縮率(C)が10%以上、である。
【0014】
上記の特性を備えた熱収縮性ポリエステル系フィルムは、高速収縮時にも優れた収縮仕上り外観を達成できるものであり、高速収縮作業性に優れている。
【0015】
また、上記熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、上記最大収縮方向と直交する方向についての引張試験を、複数の熱収縮性ポリエステル系フィルム試験片について、チャック間距離100mm、試験片幅15mm、温度23℃、引張速度200mm/分の条件で行ったとき、破断伸度5%以下の試験片数が、全試験片数の20%以下であることが好ましい。このようなフィルムは、耐破れ性に優れたものである。
【0016】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいては、生産性向上の観点から、275℃での溶融比抵抗値が0.70×10Ω・cm以下であることが好ましい。
【0017】
さらに、上記の熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、上記最大収縮方向での厚み変位測定を、長さ50cm、幅5cmの試験片について行ったとき、下記に規定する厚み分布が7%以下であることが推奨される。
厚み分布=[(最大厚み−最小厚み)/平均厚み]×100。
【0018】
上記の厚み分布を満たすフィルムであれば、加工性、特に多色の図柄を印刷する際の加工性に優れ、複数の色を重ね合わせる際にズレなどが生じにくく、非常にハンドリング性が良好である。
【0019】
上記フィルムにおいて、熱収縮性を確保する面からは、フィルムの多価アルコール成分100モル%中、ネオペンチルグリコール成分が3〜40モル%であることが望ましい。
【0020】
また、溶融比抵抗値を低減する点からは、フィルム中のアルカリ土類金属原子Mと、リン原子Pとの質量比(M/P)が1.2〜5.0であることが好ましく、さらに、Mの含有量は40〜400ppm(質量基準)、リン原子の含有量は60〜600ppm(質量基準)であることが望ましい。
【0021】
加えて、熱収縮性ポリエステル系フィルムが、アルカリ土類金属原子とリン原子を上記範囲で含有すると共に、アルカリ金属原子Mを100ppm(質量基準)以下含有する場合は、さらに溶融比抵抗値の低減が可能となる点で推奨される。
【0022】
また、本発明には、上記の熱収縮性ポリエステル系フィルムの原料となるポリエステル系樹脂を製造するに当たり、アルカリ土類金属化合物およびリン化合物の添加時期を、少なくともエステル化工程の後とするポリエステル系樹脂の製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、熱収縮初期に生じた局部収縮に基づく収縮斑などを、収縮が進んで行く過程で解消し得る機能を有しており、高速収縮作業においても、美麗な収縮仕上がり外観を得ることができるものであり、収縮ラベル、キャップシール、収縮包装などの用途に好適に用いることができる。また、耐破れ性や厚みの変動が少なく、加工性に優れ、さらには、溶融比抵抗値が所定値以下であるため、生産性および品質(ピンナーバブルの抑制など)に優れている。
【0024】
さらに、本発明の製造方法により、上記のような特性を有する本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの原料となるポリエステル系樹脂の提供が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、公知の多価カルボン酸成分と多価アルコール成分から形成されるエステルユニットを主たる構成ユニットとする単一の共重合ポリエステル、または2種以上のポリエステルの混合物(これらを含めて「ポリエステル系樹脂」と称す)から形成されるものである。
【0026】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を95℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率が、50%以上である。フィルムの熱収縮率が50%未満であると、フィルムの熱収縮力が不足して、容器などに被覆収縮させたときに、容器に密着せず、外観不良が発生する場合があるため好ましくない。より好ましい熱収縮率は52%以上、さらに好ましくは55%以上である。また、熱収縮率は、80%以下であることが好ましい。
【0027】
ここで、最大収縮方向の熱収縮率とは、試料の最も多く収縮した方向での熱収縮率の意味であり、最大収縮方向は、正方形の縦方向または横方向(または斜め方向)の長さで決められる。また、熱収縮率(%)は、10cm×10cmの試料を、95℃±0.5℃の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、直ちに25℃±0.5℃の水中に無荷重状態で10秒間浸漬した後の、フィルムの縦および横方向(または斜め方向)の長さを測定し、下記式に従って求めた値である(以下、この条件で測定した最大収縮方向の熱収縮率を、単に「熱収縮率」と省略する)。
熱収縮率=100×(収縮前の長さ−収縮後の長さ)÷(収縮前の長さ)。
【0028】
また、上記熱収縮性ポリエステル系フィルムは、下記の交点収縮率が10%以上である。交点収縮率とは、図1に示すようにして求められるものであり、(1)フィルムにある任意の収縮率を与えたときの内部残留収縮応力曲線(収縮応力−収縮率曲線)と、(2)一旦その収縮率よりも大きく収縮させた後に、前記任意の収縮率に対応する収縮量まで引張りによって戻すのに要する引張応力の曲線(引張応力−伸長率曲線)との交点に当たる収縮率をもって定義する。
【0029】
従って、フィルムを熱収縮させた場合、初期の低収縮率の段階でフィルムに局所収縮に基づく色斑や収縮斑が生じても、上記交点収縮率以下の段階であれば、フィルムの内部残留収縮応力が、局部収縮した部分を引き伸ばすのに要する力よりも大きく、該局部収縮部分には一時的に収縮してもまた戻そうとする力が常に作用するため、前記色斑や収縮斑が解消されるのである。
【0030】
上記の局部収縮に基づく収縮斑などを解消する作用は、交点収縮率が10%以上であれば十分に発揮される。他方、交点収縮率が10%未満では、僅かの収縮によっても、フィルムの内部残留収縮応力が放出されてしまい、他の収縮部を修正する上記の力が十分に作用しない。または著しい収縮斑によって、それを緩和するだけの内部残留収縮応力がなくなるため、いずれにせよ、一度生じた斑は解消しきれない傾向にある。よって、収縮仕上り外観が劣るものとなる。交点収縮率の好ましい下限は11%、より好ましい下限は12%である。なお、交点収縮率の上限は、特に限定されないが、上記の熱収縮率の上限よりは小さくなる。
【0031】
交点収縮率は、以下の方法により測定できる。
(I)熱収縮性ポリエステル系フィルムから、最大収縮方向を長さ方向とし、長さ150mm、幅20mmの試験片を切り出し、該試験片の中央部分100mm長さの両端部に標線を記す。
(II)熱風式加熱炉を備えた引張試験機(例えば、東洋精機製「テンシロン」)の加熱炉内温度を100℃とする。
(III)送風を止め、加熱炉内に上記試験片を、100mm以下の任意のチャック間距離L1(mm)でセットする。例えば収縮率10%のときのフィルムの内部残留収縮応力を求めるときは、L1=90mmとし、上記標線がチャック端部位置となるように試験片をたるませた状態で取り付ける。
(IV)加熱炉の扉を速やかに閉め、送風(温度100℃、吹き出し速度5m/秒の熱風を、奥、左および右の三方向から供給)を再開し、1分間収縮させる。このときのフィルムの内部残留収縮応力(MPa)を下式により求める。
内部残留収縮応力(MPa)=収縮力(N)/フィルムの断面積(mm)。
また、そのときのフィルムの収縮率(%)は、チャック間距離L1(mm)から、下式により算出できる。
収縮率(%)=100×(100−L1)/100。
(V)上記と同じ手順でフィルムを最大収縮方向に50%収縮させ、続いて、50mmよりも大きく、100mm以下の任意のチャック間距離L2(mm)に、引張速度200mm/分で戻すときに要する引張力(N)を求め、下式により引張応力(MPa)を求める。
引張応力(MPa)=引張力(N)/フィルムの断面積(mm)。
また、そのときのフィルムの伸長率(再伸長率、%)は、下式により求められる。
再伸長率(%)=100×(L2−50)/50。
(VI)上記の内部残留収縮応力(MPa)と収縮率(%)、および引張応力(MPa)と再伸長率(%)の両関係を示すグラフより求められる交点に相当する収縮率を、交点収縮率(%)とする。
【0032】
さらに、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、最大熱収縮応力値が10MPa以下である。最大熱収縮応力値の測定方法は以下の通りである。
(1)熱収縮性ポリエステル系フィルムから、最大収縮方向を長さ方向とし、長さ200mm、幅20mmの試験片を切り出す。
(2)熱風式加熱炉を備えた引張試験機(例えば、東洋精機製「テンシロン」)の加熱炉内温度を90℃にする。
(3)送風を止め、加熱炉内に上記試験片を、チャック間距離100mmでセットする。
(4)加熱炉の扉を速やかに閉め、送風(温度90℃、吹き出し速度5m/秒の熱風を、奥、左および右の三方向から供給)を再開し、チャック間距離を一定(100mm)として熱収縮応力を検出・測定する。
(5)測定チャートから最大値を読み取り、これを最大熱収縮応力値(MPa)とする。
【0033】
最大熱収縮応力値が10MPaを超えるものでは、収縮初期の局部収縮による収縮応力が大き過ぎ、たとえ、上記交点収縮率が上記所定値を満足するものであっても、該交点収縮率を制御することによる上記の斑解消効果が十分に発揮されず、収縮仕上り外観が劣るものとなる傾向にある。これは、最大熱収縮応力値が大きいために、局部収縮部に働く応力が大きく、これを解消することが困難であることに加え、最大熱収縮応力値が大き過ぎるフィルムでは、収縮速度も非常に速いため、交点収縮率の制御による上記効果が発揮される前に、フィルムが熱収縮してしまい、収縮斑が解消され難いためであると考えられる。また、例えばPETボトルに被覆収縮させた場合に、ボトルが収縮後のラベルから受ける応力が大き過ぎ、ボトルが変形するなどの不具合が生じる場合もある。さらに、収縮速度が速くなり過ぎるので、容器などに被覆収縮させた場合に、ラベル位置がずれるなどの問題も生じる場合もある。より好ましい上限は9.5MPa、さらに好ましい上限は9.0MPaである。
【0034】
なお、最大熱収縮応力値があまり小さ過ぎると、収縮応力の不足により容器などに被覆収縮させたフィルムが緩んだり、フィルムの機械的強度不足により耐破れ性に劣るといった問題が生じる。好ましくは、3.0MPa以上、より好ましくは4.0MPa以上である。
【0035】
上記の最大熱収縮応力値、熱収縮率および交点収縮率の全てが、上述の所定値を満たす熱収縮性ポリエステル系フィルムであれば、熱収縮性ラベルなどに要求される熱収縮性を十分に満たす(熱収縮率)と共に、高速収縮させても良好な収縮仕上り外観を確保できるため(交点収縮率および最大熱収縮応力値)、従来以上に高速収縮作業に適した熱収縮性ラベルなどを製造することができる。
【0036】
また、本発明では耐破れ性に優れた熱収縮性ポリエステル系フィルムであることが推奨され、その目安として、フィルムの最大収縮方向と直交する方向についての引張試験を、複数の熱収縮性ポリエステル系フィルム試験片について、チャック間距離100mm、試験片幅15mm、温度23℃、引張速度200mm/分の条件で行ったとき、上記破断率が20%以下であることが好ましい条件として挙げられる。なお、この試験条件は、JIS K 7127に準じたものである。
【0037】
上記条件は、換言すれば、5%も伸びないうちに破断してしまうフィルムが、全試験片数の20%(2割)以下である、という意味である。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、主に最大収縮方向にポリエステル分子が配向しているが、こうしたフィルムでは一般に、該配向方向に沿って最も裂けやすい。よって、上記条件を満足するフィルムでは、印刷やスリット、溶剤接着などの工程において、フィルムにかかる張力の変動に基づく破断のトラブルを低減し得るのである。破断伸度5%以下の試験片数は10%以下がより好ましく、0%が最も好ましい。
【0038】
さらに、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、275℃での溶融比抵抗値が0.70×10Ω・cm以下であることが好ましい。本発明のフィルムは、通常、押出機から吐出された溶融フィルムをキャスティングロールに静電密着させ、このロール上で冷却する工程を経て製造されるが、熱収縮性ポリエステル系フィルムの上記溶融比抵抗値を上記所定値にすることで、このキャスティング工程において生じ得る後述のトラブル発生を防止して、フィルムの生産性を向上させることができる。
【0039】
すなわち、溶融比抵抗値が0.70×10Ω・cmを超えるものでは、キャスティングロールへの静電密着性が悪く、溶融フィルム表面−キャスティングロール表面間で局所的に空気がかみ込まれた状態でキャストされるため、キャストされたフィルム表面に所謂ピンナーバブル(スジ状の欠陥)が生じる。さらに、溶融比抵抗値が0.70×10Ω・cmを超え、上記キャスティングロールへの静電密着性が十分でない場合、キャストした未延伸フィルムの厚みが不均一化し、このような未延伸フィルムを延伸すると、厚みの薄い部分がより引き伸ばされるため、こうした未延伸フィルムから得られる延伸フィルムにおいても、厚み斑がより拡大された状態で残存する。このように、キャスト性が悪く、フィルム表面にピンナーバブルが発生したり、厚み斑が生じたフィルムでは、熱収縮後の収縮仕上り性が劣る傾向にある。なお、上記「未延伸フィルム」には、製造工程でのフィルム送りのために必要な張力が作用したフィルムも含まれる。
【0040】
よって、ピンナーバブルの発生を抑制し、フィルムを安定に生産するためには、吐出された溶融フィルムがキャスティングロールに十分に密着できる程度にまで生産速度を低下させる必要が生じ、生産コストが増大してしまう。上記溶融比抵抗値は、好ましくは0.65×10Ω・cm以下であり、より好ましくは0.60×10Ω・cm以下である。なお、本発明で規定する溶融比抵抗値は、後述する実施例で用いる方法で測定される値である。
【0041】
また、熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいては、印刷性向上の面で厚みが均一であることが好ましく、フィルムの最大収縮方向での厚み変位測定を、長さ50cm、幅5cmの試験片について行ったとき、下式で規定する厚み分布が7%以下であることが推奨される。
厚み分布=[(最大厚み−最小厚み)/平均厚み]×100。
【0042】
上記の厚み分布は、長さ50cm、幅5cmで、フィルムの最大収縮方向を長さ方向とする試験片を複数(例えば20個)作成し、夫々の試験片について、接触式厚み計(例えば、アンリツ株式会社製「KG60/A」など)を用いて、長さ方向の厚みを連続的に測定してチャートに出力し、該出力結果から、最大厚み、最小厚み、および平均厚みを求め、これらから上式を用いて厚み分布を算出した後、全試験片の厚み分布の平均値を求めることで得られる。
【0043】
上記厚み分布が7%を超えるフィルムでは、印刷工程で、特に多色の図柄を印刷する際の印刷性が劣り、複数を色を重ね合わせる際にズレが生し易い。また、本発明のフィルムからラベルを製造するために、溶剤接着してチューブ化加工する場合に、フィルムの接着部分の重ね合わせが困難となる。さらに、上記厚み分布が7%を超えるフィルムでは、フィルム製造工程でロール状に巻き取った際に、部分的な巻き硬度の差が生じ、これに起因するフィルムの弛みやシワが発生して、フィルムとして使用できなくなる場合がある。上記の厚み分布は、6%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。
【0044】
フィルムの上記厚み分布を左右する要因の一つとして、フィルム製造工程において、フィルム状溶融ポリエステルのキャスティングロールへの静電密着性が挙げられる。上記静電密着性が悪い場合は、キャストした未延伸フィルムの厚み分布が大きくなり、このような未延伸フィルムを延伸すると、厚みの薄い部分がより引き伸ばされるため、こうした未延伸フィルムから得られる延伸フィルムにおいても、厚み分布がより拡大された状態で残存する。よって、フィルムの上記厚み分布を上述した範囲とするためには、上記の静電密着性が良好であることが好ましく、溶融比抵抗値を上述の範囲内に制御することが推奨される。
【0045】
ところで、詳細は後述するが、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、耐破れ性、強度、耐熱性などを発揮させるために、結晶性のエチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とすることが望ましい。しかしながら、このような結晶性のユニットのみからなるフィルムでは、熱収縮性や溶剤接着性が発現し難くなる。よって、本発明では、フィルムの結晶性を下げて非晶化度合いを高め、より高い熱収縮性や溶剤接着性を発現させるため、フィルムの多価アルコール成分100モル%中、ネオペンチルグリコール成分を3モル%以上とすることが好ましい。ネオペンチルグリコール成分量は5モル%以上がより好ましく、7モル%以上がさらに好ましい。
【0046】
他方、ネオペンチルグリコール成分量が40モル%を超えると、フィルムの収縮率が必要以上に高くなり過ぎて、熱収縮工程でラベルの位置ずれや図柄の歪みが発生する恐れがある。また、フィルムの耐溶剤性が低下するため、印刷工程でインキの溶媒(酢酸エチルなど)によってフィルムの白化が起きたり、フィルムの耐破れ性が低下するため好ましくない。ネオペンチルグリコール成分量は、38モル%以下がより好ましく、36モル%以下がさらに好ましい。
【0047】
多価アルコール成分を形成するための多価アルコール類としては、ネオペンチルグリコールの他には、エチレンテレフタレートユニットを形成するためのエチレングリコールが用いられる。その他、1,3−プロパンジオール、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどのアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ダイマージオール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノール化合物またはその誘導体のアルキレンオキサイド付加物、なども併用可能である。
【0048】
また、多価カルボン酸成分を形成するための多価カルボン酸類としては、エチレンテレフタレートユニットを形成するため、テレフタル酸およびそのエステル形成誘導体が使用される。その他、芳香族ジカルボン酸、それらのエステル形成誘導体、脂肪族ジカルボン酸などが利用可能である。芳香族ジカルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタレン−1,4−もしくは−2,6−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられる。またこれらの芳香族ジカルボン酸やイソフタル酸、テレフタル酸のエステル誘導体としてはジアルキルエステル、ジアリールエステルなどの誘導体が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸としては、ダイマー酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸などが挙げられる。さらに、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの多価カルボン酸も、必要に応じて併用してもよい。
【0049】
また、ε−カプロラクトンに代表されるラクトン類も一部使用してもよい。ラクトン類は、開環して両端にエステル結合を有するユニットとなるものであり、1つのラクトン類由来のユニットが、カルボン酸成分であり、かつ、アルコール成分であると考えることができる。よって、ラクトン類を用いる場合、フィルムのネオペンチルグリコール成分や、その他の多価アルコール成分の量は、フィルムの全多価アルコール成分量に、ラクトン類由来のユニット量を加えた量を100モル%として計算する。また、フィルムの各多価カルボン酸成分の量も、フィルムの全多価カルボン酸成分量に、ラクトン類由来のユニット量を加えた量を100モル%として計算する。
【0050】
上記の多価アルコール類や多価カルボン酸成分の中でも、例えば1,3−プロパンジオールや1,4−ブタンジオールなどは、フィルムのガラス転移温度(Tg)を下げる作用を有するため、これらの成分を導入することにより、より低温域で優れた収縮仕上り性を確保することができる。これら1,3−プロパンジオールや1,4−ブタンジオール由来の成分(1,3−プロパンジオール成分および1,4−ブタンジオール成分)の量は、フィルムの多価アルコール成分100モル%中、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上とすることが推奨される。
【0051】
なお、フィルムの耐破れ性、強度、耐熱性などを考慮すれば、熱収縮性ポリエステル系フィルムの構成ユニット100モル%中、結晶性のエチレンテレフタレートユニットが50モル%以上となるように選択することが好ましい。したがって、多価カルボン酸成分100モル%中、テレフタル酸成分(テレフタル酸またはそのエステルからなる成分)を50モル%以上、多価アルコール成分100モル%中、エチレングリコール成分を50モル%以上、とすることが好ましい。エチレンテレフタレートユニットは、55モル%以上がより好ましく、60モル%以上がさらに好ましい。
【0052】
ただし、本発明では、多価アルコール成分100モル%中、ネオペンチルグリコール成分を3モル%以上とするので、エチレングリコール成分は97モル%以下である。また、1,3−プロパンジオール成分や1,4−ブタンジオール成分などのネオペンチルグリコール成分以外の他の多価アルコール成分を用いる場合は、エチレングリコール成分量が上記範囲となるように、ネオペンチルグリコール成分と他の多価アルコール成分の合計量を調整することが望ましい。
【0053】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいて、上述の熱収縮率、最大熱収縮応力値および交点収縮率、さらには破断率や厚み分布を、夫々上記所定範囲内とするには、上記のフィルム組成を採用すると共に、後述の条件でフィルム製造を行えばよい。
【0054】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいて、溶融比抵抗値を上述の範囲に制御するには、該フィルム中にアルカリ土類金属化合物とリン化合物を含有させればよい。アルカリ土類金属化合物中のアルカリ土類金属原子(M)は、フィルムの溶融比抵抗値を低下させる作用を有する。アルカリ土類金属化合物は、通常、多価カルボン酸類と多価アルコール類からエステルを生成する際の触媒として使用されるが、触媒としての必要量以上に積極添加することで、溶融比抵抗値低下作用を発揮させることができる。具体的には、アルカリ土類金属化合物の含有量を、M基準で40ppm(質量基準、以下同じ)以上、好ましくは50ppm以上、さらに好ましくは60ppm以上とすることが推奨される。他方、アルカリ土類金属金属化合物の含有量は、M基準で400ppm以下、好ましくは350ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下とすることが推奨され、これ以上使用しても、その量に見合っただけの効果は得られず、むしろ、この化合物に起因する異物の生成や着色などの弊害が大きくなる。
【0055】
好ましいアルカリ土類金属化合物の具体例としては、アルカリ土類金属の水酸化物、脂肪族ジカルボン酸塩(酢酸塩、酪酸塩など、好ましくは酢酸塩)、芳香族次カルボン酸塩、フェノール性水酸基を有する化合物との塩(フェノールとの塩など)などが挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなど(好ましくはマグネシウム)が挙げられる。より具体的には、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウムなどが挙げられ、中でも、酢酸マグネシウムが好ましく使用される。上記アルカリ土類金属化合物は、単独でまたは2種以上組合わせて使用できる。
【0056】
リン化合物は、それ自体フィルムの溶融比抵抗値を低下させる作用は有しないが、アルカリ土類金属化合物、および後述するアルカリ金属化合物と組み合わせることにより、溶融比抵抗値の低下に寄与し得る。その理由は明らかではないが、リン化合物を含有させることにより、異物の生成を抑制し、電荷担体の量を増大させることができるのではないかと考えられる。リン化合物の含有量は、リン原子(P)基準で60ppm(質量基準、以下同じ)以上、好ましくは65ppm以上、さらに好ましくは70ppm以上とすることが推奨される。リン化合物の含有量が上記範囲を下回ると、溶融比抵抗値の低下効果が十分でなく、さらに、異物生成量が増加する傾向にある。
【0057】
他方、リン化合物の含有量は、P基準で600ppm以下、好ましくは550ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下とすることが推奨され、これ以上使用しても、その量に見合うだけの効果は得られず、溶融比抵抗値の低下効果が飽和する。さらに、ジエチレングリコールの生成を促進し、フィルムの物性低下を引き起こす。
【0058】
上記のリン化合物としては、リン酸類(リン酸、亜リン酸、次亜リン酸など)、およびそのエステル(アルキルエステル、アリールエステルなど)、並びにアルキルホスホン酸、アリールホスホン酸及びそれらのエステル(アルキルエステル、アリールエステルなど)が挙げられる。好ましいリン化合物としては、リン酸、リン酸の脂肪族エステル(リン酸のアルキルエステルなど;例えば、リン酸モノメチルエステル、リン酸モノエチルエステル、リン酸モノブチルエステルなどのリン酸モノC1-6アルキルエステル、リン酸ジメチルエステル、リン酸ジエチルエステル、リン酸ジブチルエステルなどのリン酸ジC1-6アルキルエステル、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリエチルエステル、リン酸トリブチルエステルなどのリン酸トリC1-6アルキルエステルなど)、リン酸の芳香族エステル(リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジルなどのリン酸のモノ、ジ、またはトリC6-9アリールエステルなど)、亜リン酸の脂肪族エステル(亜リン酸のアルキルエステルなど;例えば、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリブチルなどの亜リン酸のモノ、ジ、またはトリC1-6アルキルエステルなど)、アルキルホスホン酸(メチルホスホン酸、エチルホスホン酸などのC1-6アルキルホスホン酸)、アルキルホスホン酸アルキルエステル(メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジメチルなどのC1-6アルキルホスホン酸のモノまたはジC1-6アルキルエステルなど)、アリールホスホン酸アルキルエステル(フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチルなどのC6-9アリールホスホン酸のモノまたはジC1-6アルキルエステルなど)、アリールホスホン酸アリールエステル(フェニルホスホン酸ジフェニルなどのC6-9アリールホスホン酸のモノまたはジC6-9アリールエステルなど)などが例示できる。特に好ましいリン化合物には、リン酸、リン酸トリアルキル(リン酸トリメチルなど)が含まれる。これらリン化合物は単独で、または2種以上組合わせて使用できる。
【0059】
さらに、アルカリ土類金属化合物とリン化合物は、アルカリ土類金属原子(M)とリン原子(P)の質量比(M/P)で1.2以上5.0以下でフィルム中に含有させることが好ましい。M/P値が1.2以下では、溶融比抵抗値の低下効果が著しく減少する。より好ましくは1.3以下、さらに好ましくは1.4以下である。他方、M/P値が5.0を超えると、溶融比抵抗値の低下効果よりも、異物生成が促進されたり、フィルムが着色するなどの弊害が大きくなり、好ましくない。より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは4.0以下である。
【0060】
フィルムの溶融比抵抗値をさらに低下させるためには、アルカリ土類金属化合物およびリン化合物に加えて、フィルム中にアルカリ金属化合物を含有させてもよい。アルカリ金属化合物自体は、フィルムの溶融比抵抗値を低下させる作用をほとんど有しないが、アルカリ土類金属化合物およびリン化合物と組み合わせることによって、フィルムの溶融比抵抗値を著しく低下させる。、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、およびリン化合物の三者で錯体を形成することにより、溶融比抵抗値を低下させているものと考えられる。
【0061】
ただし、アルカリ金属化合物をあまり多く含有させても、溶融比抵抗値の低下効果は飽和し、むしろ異物生成が促進されるなどの弊害が生じるため、アルカリ金属化合物の含有量は、アルカリ金属(M)基準で100ppm以下(質量基準、以下同じ)、好ましくは90ppm以下、さらに好ましくは80ppm以下とすることが推奨される。なお、アルカリ金属化合物を、上記の好ましい上限以内でフィルムに含有させれば、溶融比抵抗値のさらなる低下効果が見られるが、この効果をより有効に発揮させるためには、アルカリ金属化合物の含有量を、M基準で5ppm以上、好ましくは6ppm以上、さらに好ましくは7ppm以上とすることが望ましい。
【0062】
上記のアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、脂肪族ジカルボン酸塩(酢酸塩、酪酸塩など、好ましくは酢酸塩)、芳香族ジカルボン酸塩(安息香酸塩)、フェノール性水酸基を有する化合物との塩(フェノールとの塩など)などが挙げられる。また、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなど(好ましくはナトリウム)が挙げられる。より具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどが挙げられ、中でも酢酸ナトリウムが特に好ましい。
【0063】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを構成するポリエステル系樹脂は常法により溶融重合することによって製造できるが、多価カルボン酸類と多価アルコール類とを直接反応させ得られたオリゴマーを重縮合する、所謂直接重合法、多価カルボン酸のメチルエステル体と多価アルコール類とをエステル交換反応させたのちに重縮合する、所謂エステル交換法などが挙げられ、任意の製造法を適用することができる。また、その他の重合方法によって得られるポリエステルであってもよい。なお、ラクトン類由来のユニットの導入は、例えば、上記の重縮合前にラクトン類を添加して重縮合を行う方法や、上記の重縮合により得られたポリマーとラクトン類を共重合する方法などにより達成できる。
【0064】
ポリエステルの重合に際しては、従来公知の重合触媒が使用できる。一般的には、チタン化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、スズ化合物、コバルト化合物、マンガン化合物などの金属化合物が使用されるが、中でも、チタン化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、具体的には、チタニウムテトラブトキシド、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウムが特に好ましい。
【0065】
また、上述のアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、およびリン化合物を添加する時期は、ポリエステル系樹脂の重合工程中であれば特に限定されるものではなく、エステル化反応前、エステル化中、エステル化終了から重合工程開始までの間、重合中、および重合後のいずれの段階でもよいが、好ましくはエステル化終了後の任意の段階、さらに好ましくはエステル化終了から重合工程開始までの間である。エステル化終了後に添加すると、それ以前に添加する場合に比べて、アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物に起因して生成する異物の量を低減できる。
【0066】
また、必要に応じて、シリカ、二酸化チタン、カオリン、炭酸カルシウムなどの微粒子をフィルム原料に添加してもよく、さらに酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、抗菌剤などを添加することもできる。
【0067】
ポリエステル系フィルムは、後述する公知の方法で得ることができるが、熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいて、複数の成分をフィルム中に含有させる手段としては、共重合を行ってこの共重合ポリエステルを単独使用する方式と、異なる種類のホモポリエステルあるいは共重合ポリエステルをブレンドする方式がある。
【0068】
共重合ポリエステルを単独使用する方式では、例えば上記組成の多価アルコール成分および多価カルボン酸成分を含有する共重合ポリエステルを用いればよい。一方、異なる組成のポリエステルをブレンドする方式では、ブレンド比率を変更するだけでフィルムの特性を容易に変更でき、多品種のフィルムの工業生産にも対応できるため、好ましく採用することができる。
【0069】
具体的なフィルムの製造方法としては、原料ポリエステル系樹脂チップをホッパドライヤー、パドルドライヤーなどの乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥し、押出機を用いて200〜300℃の温度でフィルム状に押出す。あるいは、未乾燥のポリエステル系樹脂原料チップをベント式押出機内で水分を除去しながら同様にフィルム状に押出す。押出に際してはTダイ法、チューブラ法など、既存のどの方法を採用しても構わない。押出後は、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを得る。
【0070】
なお、本発明では、上記押出機とキャスティングロールの間に電極を配設し、電極とキャスティングロールとの間に電圧を印加し、静電気的にフィルムをロールに密着させている。
【0071】
上記未延伸フィルムに対して延伸処理を行う。延伸処理は、上記キャスティングロールなどによる冷却後、連続して行ってもよいし、冷却後、一旦ロール状に巻き取り、その後行ってもよい。
【0072】
ちなみに、最大収縮方向がフィルム横(幅)方向であることが、生産効率上、実用的であるので、以下、最大収縮方向を横方向とする場合の延伸法の例を示す。なお、最大収縮方向をフィルム縦(長手)方向とする場合も、下記方法における延伸方向を90゜変えるなど、通常の操作に準じて延伸することができる。
【0073】
熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚み分布を均一化させることに着目すれば、テンターなどを用いて横方向に延伸する際、延伸工程に先立って予備加熱工程を行うことが好ましく、この予備加熱工程では、熱伝達係数が0.00544J/cm・sec・℃(0.0013カロリー/cm・sec・℃)以下となるように、低風速で、フィルム表面温度がTg+0℃〜Tg+60℃の範囲内のある温度になるまで加熱を行うことが好ましい。
【0074】
横方向の延伸は、特に交点収縮率を上記所定値とする観点から、2段階で行うことが望ましい。まず、Tg−20℃〜Tg+40℃の範囲内の所定温度で、最終延伸倍率の9/10以下延伸する(第1段階)。次に、好ましくは第1段階の延伸温度よりも低い温度(より好ましくは5℃以下、さらに好ましくは10℃以下)で、最終延伸倍率の1/10以上を延伸する(第2段階)のである。最終延伸倍率は2.3〜7.3倍、好ましくは2.5〜6.0倍とすることが推奨される。
【0075】
その後、50℃〜110℃の範囲内の所定温度で、0〜15%の伸張あるいは0〜15%の緩和をさせながら熱処理し、必要に応じて40℃〜100℃の範囲内の所定温度でさらに熱処理をして、熱収縮性ポリエステル系フィルムを得る。
【0076】
この横延伸工程においては、フィルム表面温度の変動を小さくすることのできる設備を使用することが好ましい。すなわち、延伸工程には、延伸前の予備加熱工程、延伸工程、延伸後の熱処理工程、緩和処理、再延伸処理工程などがあるが、特に、予備加熱工程、延伸工程および延伸後の熱処理工程において、任意ポイントにおいて測定されるフィルムの表面温度の変動幅が、平均温度±1℃以内であることが好ましく、平均温度±0.5℃以内であればさらに好ましい。フィルムの表面温度の変動幅が小さいと、フィルム全長に亘って同一温度で延伸や熱処理されることになって、フィルム物性や厚みが均一化するためである。特に、最大熱収縮応力値や破断率を上記所定範囲とする観点からは、上記のようにフィルムの延伸・熱処理を均一に行うことが推奨される。
【0077】
なお、フィルムの表面温度は、例えば、赤外式の非接触表面温度計を用いてフィルムの走行方向に連続的に測定し、各工程終了後に、夫々の工程でのフィルム表面温度の平均値を求めて確認することができる。
【0078】
上記のフィルム表面温度の変動を小さくできる設備としては、例えば、フィルムを加熱する熱風の風速を制御するためにインバーターを取り付け、風速の変動を抑制できる設備や、熱源に500kPa以下(5kgf/cm以下)の低圧蒸気を使用して、熱風の温度変動を抑制できる設備などが挙げられる。
【0079】
延伸の方法としては、テンターでの横1軸延伸ばかりでなく、縦方向に1.0倍〜4.0倍、好ましくは1.1倍〜2.0倍の延伸を施してもよい。このようい2軸延伸を行う場合は、逐次2軸延伸、同時2軸延伸のいずれでもよく、必要に応じて、再延伸を行ってもよい。また、逐次2軸延伸においては、延伸の順序として、縦横、横縦、縦横縦、横縦横などのいずれの方式でもよい。これらの縦延伸工程あるいは2軸延伸工程を採用する場合においても、横延伸と同様に、予備加熱工程、延伸工程などにおいて、フィルム表面温度の変動をできるだけ小さくすることが好ましい。
【0080】
延伸に伴うフィルムの内部発熱を抑制し、幅方向のフィルム温度斑を小さくする点に着目すれば、延伸工程の熱伝達係数は、0.00377J/cm・sec・℃(0.0009カロリー/cm・sec・℃)以上とすることが好ましい。0.00544〜0.00837J/cm・sec・℃(0.0013〜0.0020カロリー/cm・sec・℃)がより好ましい。
【0081】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みは特に限定するものではないが、例えばラベル用熱収縮性ポリエステル系フィルムとしては、10〜200μmが好ましく、20〜100μmがさらに好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施する場合は、本発明に含まれる。なお、本実施例で得られたチップおよびフィルムの物性の測定方法は、以下の通りである。
【0083】
(1)チップ組成
チップを、クロロホルムD(ユーリソップ社製)とトリフルオロ酢酸D1(ユーリソップ社製)を10:1(体積比)で混合した溶媒に溶解させて、試料溶液を調製し、NMR(「GEMINI−200」;Varian社製)を用いて、温度23℃、積算回数64回の測定条件で試料溶液のプロトンのNMRを測定する。NMR測定では、プロトンのピーク強度に基づいて、チップを構成するモノマー成分の構成比率を算出する。
【0084】
(2)金属成分
試料(チップまたはフィルム)に含まれるNa,Mg,P,Sb,Tiの量を以下に示す方法によって測定する。
【0085】
[Na]
試料2gを白金ルツボに入れ、温度500〜800℃で灰化分解した後、塩酸(濃度:6mol/L)を5mL加えて蒸発乾固する。残渣を1.2mol/Lの塩酸10mLに溶解し、Na濃度を原子吸光分析装置(島津製作所製「AA−640−12」を用いて測定(検量線法)する。
【0086】
[Mg]
試料2gを白金ルツボに入れ、温度500〜800℃で灰化分解した後、塩酸(濃度:6mol/L)を5mL加えて蒸発乾固する。残渣を1.2mol/Lの塩酸10mLに溶解し、Mg濃度をICP発光分析装置(島津製作所製「ICPS−200」を用いて測定(検量線法)する。
【0087】
[P]
下記(1)〜(3)のいずれかの方法により、試料中のリン成分を正リン酸にする。この正リン酸と、モリブデン酸塩とを硫酸(濃度:1mol/L)中で反応させて、リンモリブデン酸とした後、硫酸ヒドラジンを加えて還元する。生ずるヘテロポリ青の濃度を、吸光光度計(島津製作所製「UV−150−02」)を用いて830nmの吸光度を測定することによって求める(検量線法)。
(1)試料と炭酸ソーダとを白金ルツボに入れ、乾式灰化分解する。
(2)硫酸・硝酸・過塩素酸系における湿式分解。
(3)硫酸・過塩素酸系における湿式分解。
【0088】
[Sb]
試料を硫酸・過酸化水素水系において湿式分解する。亜硫酸ナトリウムを加えてSbをイオン化(Sb5+)した後、ブリリアントグリーンを加えてSbの青色錯体を形成させる。この錯体をトルエンを加えて抽出した後、トルエン中のSb錯体の濃度を吸光光度計[「UV−150−02」;(株)島津製作所製]を用いて625nmの吸光度を測定することによって求める(検量線法)。
【0089】
[Ti]
試料を白金ルツボに入れ、灰化分解した後、硫酸及び硫酸水素カリウムを加えて加熱溶融した。硫酸(濃度:2mol/L)で希釈した後、過酸化水素水を加えた。Tiの黄色錯体の濃度を、吸光光度計[「UV−150−02」;(株)島津製作所製]を用いて420nmの吸光度を測定することによって求める(検量線法)。
【0090】
(3)極限粘度
原料チップ0.1gを精秤し、25mlのフェノール/テトラクロロエタン=3/2(質量比)の混合溶媒に溶解した後、オストワルド粘度計で30±0.1℃で測定する。極限粘度[η]は、下式(Huggins式)によって求められる。
【0091】
【数1】

【0092】
ここで、ηsp :比粘度、t:オストワルド粘度計を用いた溶媒の落下時間、t:オスワルド粘度計を用いたフィルム溶液の落下時間、C:フィルム溶液の濃度である。
なお、実際の測定では、Huggins式においてk=0.375とした下記近似式で極限粘度を算出する。
【0093】
【数2】

【0094】
ここで、η:相対粘度である。
【0095】
(4)固形物(異物)残存量
試料(チップまたはフィルム)2gを、100mLのフェノール/テトラクロロエタン=3/2(質量比)混合溶液に溶解した後、該溶液をテフロン(登録商標)製のメンブランフィルター(孔径0.1μm)で濾過し、固形物を採取する。この固形物残存量を、下記基準に基づいて目視で評価する。
無:濾過後、メンブランフィルター上に固形物が確認されない。
微小:濾過後、メンブランフィルター上に、局所的に固形物が確認される。
多:濾過後、メンブランフィルター上の全面に固形物が確認される。
【0096】
(5)溶融比抵抗値
温度275℃で溶融した試料(チップまたはフィルム)中に一対の電極板を挿入し、120Vの電圧を印加する。その際の電流を測定し、下式に基づいて溶融比抵抗値Si(Ω・cm)を算出する。
Si=(A/I)×(V/io)
ここで、A:電極の面積(cm)、I:電極間距離(cm)、V:電圧(V)、io:電流(A)である。
【0097】
(6)キャスト性
押出機のTダイと、表面温度を30℃に制御したキャスティングロールとの間に、タングステンワイヤー製の電極を配設し、電極とキャスティングロール間に7〜10kVの電圧を印加する。上記Tダイから樹脂を温度280℃で溶融押出し、押出されたフィルムを上記電極に接触させた後、キャスティングロールで冷却することにより、後述する実験例1〜5に記載の厚さのフィルムを製造する(キャスティング速度:30m/分)。得られるフィルムの表面に発生するピンナーバブルを目視で観察し、下記基準にしたがって評価する。○のものを合格とする。
○:ピンナーバブルの発生なし。
△:ピンナーバブルの発生が部分的に認められる。
×:ピンナーバブルの発生大。
【0098】
(7)熱収縮率
フイルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、95℃±0.5℃の温度の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒浸漬し、その後試料の縦および横方向の長さを測定し、下記式に従って求める。なお、最も収縮した方向を最大収縮方向とする。
熱収縮率(%)=100×(収縮前の長さ−収縮後の長さ)÷(収縮前の長さ)。
【0099】
(8)耐破れ性(破断率)
JIS K 7127に準じ、熱収縮前のフィルムの最大収縮方向と直交する方向についての引張試験を行う。試験片数は20とする。試験片長さ200mm、チャック間距離100mm、試験片幅15mm、温度23℃、引張速度200mm/分の条件で行う。伸度5%以下で破断した試験片数を数え、全試験片数(20個)に対する百分率を求め、破断率(%)とする。
【0100】
(9)最大熱収縮応力値
加熱炉付き引張試験機(東洋精機株式会社製「テンシロン」)を用いて測定する。熱収縮前のフィルムから、最大収縮方向の長さが200mmで、幅が20mmの試料を切り出し、予め90℃に加熱しておいた引張試験機の送風を止め、試料をチャック間距離100mmとして取り付けた後、速やかに加熱炉の扉を閉め、送風(温度90℃、吹き出し速度5m/秒の熱風を、奥、左および右の三方向から供給)を開始した時に検出される収縮応力を測定し、測定チャートから得られる最大値を最大熱収縮応力値(MPa)とする。
【0101】
(10)交点収縮率
熱収縮性ポリエステル系フィルムから、最大収縮方向を長さ方向とし、長さ150mm、幅20mmの試験片を切り出し、該試験片の中央部分100mm長さの両端部に標線を記す。熱風式加熱炉を備えた引張試験機(東洋精機製「テンシロン」)の加熱炉内温度を100℃とし、送風を止めて、加熱炉内に上記試験片を、100mm以下の任意のチャック間距離L1(mm)で、上記標線がチャック端部位置となるようにセットする。その後、加熱炉の扉を速やかに閉め、送風(温度100℃、吹き出し速度5m/秒の熱風を、奥、左および右の三方向から供給)を再開し、1分間収縮させる。このときのフィルムの内部残留収縮応力(MPa)を下式により求める。
内部残留収縮応力(MPa)=収縮力(N)/フィルムの断面積(mm)。
【0102】
また、そのときのフィルムの収縮率(%)は、チャック間距離L1(mm)から、下式により算出する。
収縮率(%)=100×(100−L1)/100。
上記と同じ手順でフィルムを最大収縮方向に50%収縮させ、続いて、50mmよりも大きく、100mm以下の任意のチャック間距離L2に、引張速度200mm/分で戻すときに要する引張力(N)を求め、下式により引張応力(MPa)を求める。
引張応力(MPa)=引張力(N)/フィルムの断面積(mm)。
【0103】
また、そのときのフィルムの伸長率(再伸長率、%)は、下式により求める。
再伸長率(%)=100×(L2−50)/50。
【0104】
上記の内部残留収縮応力(MPa)と収縮率(%)、および引張応力(MPa)と再伸長率(%)の両関係を示すグラフより求められる交点に相当する収縮率を、交点収縮率(%)とする。なお、代表例として、後述する熱収縮性ポリエステル系フィルム1に係る上記グラフと、該グラフから得られる交点収縮率を図2に示す。
【0105】
(11)収縮仕上り性
フィルムを紙管に巻いた状態で雰囲気温度30℃±1℃、相対湿度85±2%に制御した環境下に250時間保管した後、取り出して、東洋インキ製造社製の草色、金色、白色のインキで3色印刷し、その後センターシールマシンを用いてヒートシールによりチューブとし、これを切断して熱収縮性ポリエステル系フィルムラベルとする。次いで、容量300mlのガラス瓶にラベルを装着した後、スチーム式熱収縮トンネルを用い、温度90℃として、該トンネル内を5秒で通過させて、ラベルを収縮させる。色斑および収縮斑の程度を目視で判断し、収縮仕上がり性を5段階で評価する。基準は、5:仕上がり性最良、4:仕上がり性良、3:色斑、または収縮斑が少し有り(2ヶ所以内)、2:色斑、または収縮斑有り(3〜5ヶ所)、1:色斑、または収縮斑多い(6ヶ所以上)、として、4以上を合格レベル、3以下のものを不良とする。
【0106】
(12)フィルムの表面温度
予備加熱工程、延伸工程、および延伸後の熱処理工程でのフィルムの表面温度は、赤外式の非接触表面温度計を用い、フィルムの走行方向に連続的に測定し、各工程で得られる温度の平均値を求める。
【0107】
合成例1
エステル化反応釜に、57036質量部のテレフタル酸、35801質量部のエチレングリコール、および15843質量部のネオペンチルグリコールを仕込み、圧力:0.25MPa,温度:220〜240℃の条件で120分間エステル化反応を行った。次いで、反応釜内を常圧とし、三酸化アンチモン(重合触媒)8質量部、酢酸コバルト・4水塩(重合触媒)6.34質量部、酢酸マグネシウム・4水塩(アルカリ土類金属化合物)132.39質量部、トリメチルホスフェート(リン含有化合物)61.5質量部、酢酸ナトリウム(アルカリ金属化合物)5.35質量部を加え、10分間撹拌後、反応系内を徐々に減圧し、75分間で0.5hPaとすると共に、温度を280℃に昇温した。温度280℃で溶融粘度が7000ポイズとなるまで撹拌を続けて重合反応を行い(約40分間)、その後水中にストランド状に吐出して冷却し、得られたストランドをストランドカッターで切断してポリエステルAのチップを得た。
【0108】
合成例2〜6
合成例1と同様の方法により、表1に示すポリエステルB〜Fのチップを得た。
【0109】
【表1】

【0110】
なお、表1中、無機成分(Na,Mg,P,Sb,Ti)の含有量は、各原子基準の濃度(単位:ppm;質量基準)である。また、各無機成分の由来は下記の通りである。
Na:主に酢酸ナトリウムに由来する。
Mg:主に酢酸マグネシウム・4水塩に由来する。
P:主にトリメチルホスフェートに由来する。
Sb:主に三酸化アンチモンに由来する。
Ti:主にチタニウムテトラブトキシドに由来する。
【0111】
また、表1中、TPAはテレフタル酸成分を、EGはエチレングリコール成分を、NPGはネオペンチルグリコール成分を、BDは1,4−ブタンジオール成分を、DEGはジエチレングリコール成分を夫々意味する。
【0112】
実験例1
夫々予備乾燥したチップA:68質量%、チップE:9質量%、チップF:23質量%を混合し、280℃で単軸押出機で溶融押出し、その後上記の「キャスト性」評価で説明したキャスティングロールで急冷して、厚さ215μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを91℃で10秒間予熱した後、テンターを使用して、横方向に75℃で3倍延伸(第1段階)後、72℃で第1段階延伸終了時のフィルム幅に対して1.6倍延伸(第2段階)した。次いで、79℃で10秒間熱処理を行って、厚さ45μm、長さ1000m以上の熱収縮性ポリエステル系フィルム1を得た。このときのフィルムの表面温度の変動幅は、1000mに亘り、予熱工程で平均温度±0.6℃、延伸工程で平均温度±0.5℃、熱処理工程で平均温度±0.5℃の範囲内であった。得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0113】
実験例2
夫々予備乾燥したチップA:50質量%、チップE:25質量%、チップF:25質量%を混合し、280℃で単軸押出機で溶融押出し、その後上記の「キャスト性」評価で説明したキャスティングロールで急冷して、厚さ215μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを78℃で10秒間予熱した後、テンターを使用して、横方向に73℃で3倍延伸(第1段階)後、73℃で第1段階延伸終了時のフィルム幅に対して1.6倍延伸(第2段階)した。次いで、72℃で10秒間熱処理を行って、厚さ45μm、長さ1000m以上の熱収縮性ポリエステル系フィルム2を得た。このときのフィルム表面温度の変動幅は、1000mに亘り、予熱工程で平均温度±0.5℃、延伸工程で平均温度±0.5℃、熱処理工程で平均温度±0.5℃の範囲内であった。得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0114】
実験例3
予備乾燥したチップBを280℃で単軸押出機で溶融押出し、その後上記の「キャスト性」評価で説明したキャスティングロールで急冷して、厚さ235μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを98℃で10秒間予熱した後、テンターを使用して、横方向に82℃で5.2倍延伸した。次いで、80℃で10秒間熱処理を行って、厚さ45μm、長さ1000m以上の熱収縮性ポリエステル系フィルム3を得た。このときのフィルム表面温度の変動幅は、1000mに亘り、予熱工程で平均温度±1.5℃、延伸工程で平均温度±2.0℃、熱処理工程で平均温度±1.7℃の範囲内であった。得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0115】
実験例4
予備乾燥したチップCを280℃で単軸押出機で溶融押出し、その後上記の「キャスト性」評価で説明したキャスティングロールで急冷して、厚さ245μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを98℃で10秒間予熱した後、テンターを使用して、横方向に80℃で5.4倍延伸した。次いで、80℃で10秒間熱処理を行って、厚さ45μm、長さ1000m以上の熱収縮性ポリエステル系フィルム4を得た。このときのフィルム表面温度の変動幅は、1000mに亘り、予熱工程で平均温度±1.5℃、延伸工程で平均温度±1.5℃、熱処理工程で平均温度±1.5℃の範囲内であった。得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0116】
実験例5
予備乾燥したチップDを280℃で単軸押出機で溶融押出し、その後上記の「キャスト性」評価で説明したキャスティングロールで急冷して、厚さ245μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを98℃で10秒間予熱した後、テンターを使用して、横方向に80℃で5.4倍延伸した。次いで、80℃で10秒間熱処理を行って、厚さ45μm、長さ1000m以上の熱収縮性ポリエステル系フィルム5を得た。このときのフィルム表面温度の変動幅は、1000mに亘り、予熱工程で平均温度±1.0℃、延伸工程で平均温度±2.0℃、熱処理工程で平均温度±2.0℃の範囲内であった。得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
なお、表2中、無機成分(Na,Mg,P)の含有量は、各原子基準の濃度(単位:ppm;質量基準)である。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明に係る交点収縮率を求めるためのグラフの一例である。
【0120】
【図2】実験例1の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、交点収縮率を求めるための、内部残留収縮応力曲線と引張応力曲線を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいて、
下記(A)〜(C)の特性を有することを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(1)10cm×10cmの正方形状に切り取った熱収縮性ポリエステル系フィルムの試料を、95℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大収縮方向の熱収縮率(A)が50%以上、
(2)フィルムの最大収縮方向についての熱収縮試験を、温度90℃、吹き出し速度5m/秒の熱風中、試験片幅20mm、チャック間距離100mmの条件で行ったとき、最大熱収縮応力値(B)が10MPa以下、
(3)フィルムを温度100℃、吹き出し速度5m/秒の熱風中で熱収縮させたときに得られる収縮応力−収縮率曲線と、フィルムを温度100℃、吹き出し速度5m/秒の熱風中で、最大収縮方向に収縮率50%で熱収縮させたフィルムについて、該熱風中で、引張速度200mm/分の条件で引張試験をしたときに得られる引張応力−伸長率曲線とから求められる交点収縮率(C)が10%以上。
【請求項2】
フィルムの最大収縮方向と直交する方向についての引張試験を、複数の熱収縮性ポリエステル系フィルム試験片について、チャック間距離100mm、試験片幅15mm、温度23℃、引張速度200mm/分の条件で行ったとき、破断伸度5%以下の試験片数が、全試験片数の20%以下である請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
275℃での溶融比抵抗値が0.70×10Ω・cm以下である請求項1または2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
フィルムの最大収縮方向での厚み変位測定を、長さ50cm、幅5cmの試験片について行ったとき、下記に規定する厚み分布が7%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
厚み分布=[(最大厚み−最小厚み)/平均厚み]×100
【請求項5】
フィルムの多価アルコール成分100モル%中、ネオペンチルグリコール成分が3〜40モル%である請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
フィルム中のアルカリ土類金属原子M2と、リン原子Pとの質量比(M2/P)が1.2〜5.0である請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項7】
フィルム中のアルカリ土類金属原子M2の含有量が40〜400ppm(質量基準)であり、リン原子の含有量が60〜600ppm(質量基準)である請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル系フィルム。
【請求項8】
アルカリ金属原子M1を100ppm(質量基準)以下含有するものである請求項6または7に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムの原料であるポリエステル系樹脂を製造するに当たり、アルカリ土類金属化合物およびリン化合物の添加時期を少なくともエステル化工程の後とすることを特徴とするポリエステル系樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−83734(P2007−83734A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339338(P2006−339338)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【分割の表示】特願2001−300422(P2001−300422)の分割
【原出願日】平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】