説明

熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂、その前駆体、成形体、これらの製造方法、及び樹脂組成物

【課題】光通信に使用される近赤外領域で高い透明性と低い屈折率を示し、高周波エレクトロニクス材料として有用な低誘電率を有し、加工性に優れたポリベンゾオキサゾール樹脂とその前駆体を提供すること。
【解決手段】
主鎖に、3つのベンゼン環が2個の酸素原子によって連結された構造を有するフッ素化ジカルボン酸モノマー成分に由来する繰り返し単位を有し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによりポリスチレン換算値として測定される重量平均分子量が3,000〜1,000,000の範囲内であるポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体、該前駆体を環化してなるポリベンゾオキサゾール樹脂、該樹脂から形成された成形体、これらの製造方法、樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂とその前駆体(ポリアミド樹脂)に関し、さらに詳しくは、光通信に使用される近赤外領域で高い透明性と低い屈折率を示し、かつ高周波エレクトロニクス材料として有用な低誘電率を有し、しかも加工性に優れた熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂とその前駆体に関する。本発明の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂は、熱可塑性を有しており、ホットエンボス加工や溶融加工が可能である。
【0002】
また、本発明は、熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂とその前駆体の製造方法に関する。本発明は、熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂から形成された、光学素子、光学部品及び高周波エレクトロニクス部品からなる群より選ばれる成形体とその製造方法に関する。本発明は、熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂またはその前駆体を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
透明性などの光学特性に優れた光学樹脂材料は、ガラスなどの無機材料に比べて、軽量で、耐衝撃性や加工性に優れ、取り扱いも容易である。そのため、光学樹脂材料は、光ファイバや光学レンズ、光ディスク基板など様々な光学用途に用いられてきた。
【0004】
光学樹脂材料を、光導波路など光通信用の近赤外光を透過させる媒体として用いる場合、一般に、無機材料と比較して問題となるのは、大きな光透過損失である。光学樹脂材料における光透過損失の原因には、大きく分けて光の散乱と光の吸収の2つがあるが、光通信用途に用いられる光の波長領域(一般に、1.25〜1.65μm)では、光吸収損失が支配的となっている。光学樹脂材料の多くは、その分子構造に起因する赤外振動の高調波吸収特性を有しているため、光通信波長領域での光吸収損失が大きく、光通信用途への適用が困難となっている。
【0005】
これまで可視光用光学樹脂材料として広く用いられてきたポリメチルメタクリレート(PMMA)及びポリスチレン(PS)は、分子鎖内に2種類以上の炭素−水素結合(C−H結合)を有するため、その近赤外吸収スペクトルには、幅広で強度の大きな吸収ピークが複数存在している。このC−H結合に起因する高調波吸収を長波長側へシフトさせて、近赤外吸収の強度を低減させるには、重水素原子(D)またはフッ素原子(F)による分子内水素原子の置換が効果的であることが報告されている。具体的に、PMMA及びPS中の水素原子を重水素原子またはフッ素原子で置換した樹脂について、基礎的な検討結果が報告されている(非特許文献1)。しかし、これらの光学樹脂材料は、例えば、シリコン基板上でのOEIC(光電子集積回路)や光モジュールの作製に必要なハンダ耐熱性を持たないため、これらの技術分野に適用することが困難である。
【0006】
従来、耐熱性に優れ、かつ光通信に使用される近赤外領域での高い透明性を有する光学樹脂材料として、種々のフッ素化ポリイミド樹脂が合成されており、そして、これらのフッ素化ポリイミド樹脂を用いて作製した光学素子や光モジュールが報告されている(非特許文献2、特許文献1)。分子内のすべての水素原子をフッ素原子で置換した構造の全フッ素化ポリイミド樹脂も報告されている(特許文献2)。
【0007】
しかし、これらのフッ素化ポリイミド樹脂は、フッ素化にもかかわらず、波長1.4μm付近に比較的大きな光吸収ピークが残っており、光通信用途の光学樹脂材料としては、その透明性が未だ不十分である。波長1.4μm付近での光吸収は、ポリイミド樹脂の分子鎖中に含まれる芳香族環のC−H結合の伸縮振動の第2高調波と変角振動の結合振動に由来するものと、樹脂内に残留しているか、あるいは樹脂表面に吸着している水の分子中のO−H結合の伸縮振動の第2高調波に由来するものとであることが知られている。ポリイミド樹脂は、分子内に極性の強いカルボニル基が多数存在するため、水との親和性が大きく、樹脂内に残留しているか、あるいは表面に吸着している水を徹底的に除去することが極めて困難である。
【0008】
このため、フッ素化ポリイミド樹脂は、分子内の水素原子のすべてをフッ素原子で置換した全フッ素化ポリイミド樹脂であっても、光通信波長領域(1.25〜1.65μm)の全領域にわたって、低い光損失を達成することができない。しかも、フッ素化ポリイミド樹脂は、強い極性基を持つため、十分に低誘電率化することが困難である。
【0009】
他方、ポリベンゾオキサゾール樹脂は、ポリイミド樹脂と同様に、引張強度、曲げ強度、衝撃強さなどの機械的強度に優れ、熱変形温度や熱分解温度が高く、耐熱性にも優れる樹脂である。
【0010】
従来、ポリベンゾオキサゾール樹脂の分子内にフッ素原子を導入した構造を有し、かつ高分子量のフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂を合成する方法について、幾つかの提案がなされている(非特許文献3、特許文献3)。フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂をプラスチック光導波路用材料として用いることも提案されている(特許文献4)。
【0011】
ポリベンゾオキサゾール樹脂は、一般に、その前駆体を加熱脱水して環化することにより得ることができる。ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体は、一般に、ビスアミノフェノール化合物(「ビスアミノフェノールモノマー」ともいう)とジカルボン酸化合物(「ジカルボン酸モノマー」ともいう)との重縮合反応により合成されている。
【0012】
熱可塑性を有するポリベンゾオキサゾール樹脂に関しては、フレキシブルな主鎖構造を持つものが従来より知られており、例えば、フェニレンエーテル構造を含むものがその共重合体成分として開示されている(特許文献4)。また、さらにフレキシブルな主鎖構造となる(フェニレンジオキシ)ジフェニレンを含むジカルボン酸モノマーから合成されるポリベンゾオキサゾールが報告されている(非特許文献4)。しかし、ジカルボン酸モノマー側にフッ素原子を導入して、近赤外領域での高い透明性や低誘電率を有するフッ素化ポリベンゾオキサゾールは報告されていない。
【0013】
【非特許文献1】Kaino, Appl.Phys.Lett.48(12),pp.757-758(1986)
【非特許文献2】R. Reuter and C. Feger, Appl. Optics, Vol. 27, No.21, 4565-4571 (1988)
【非特許文献3】Y. Maruyama, et al., Macromolecules, Vol.21, No.8, 2305-2309 (1988)
【非特許文献4】G. Maglio, et al., Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol. 38, 1172-1178 (2000)
【特許文献1】特開平4−9807号公報
【特許文献2】特開平11−147955号公報
【特許文献3】特公平4−58808号公報
【特許文献4】特開2002−173532号公報
【特許文献5】特開平3−7732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、光通信に使用される近赤外領域で高い透明性と低い屈折率を示し、かつ高周波エレクトロニクス材料として有用な低誘電率を有し、しかも加工性に優れたポリベンゾオキサゾール樹脂とその前駆体を提供することにある。
【0015】
加工性について、本発明の課題は、高い熱安定性と熱可塑性とを備え、ホットエンボス加工や溶融加工により各種形状の成形体に加工することができるフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂を提供することにある。
【0016】
また、本発明の課題は、該ポリベンゾオキサゾール樹脂とその前駆体の製造方法を提供することにある。本発明の他の課題は、該ポリベンゾオキサゾール樹脂から形成された、光学素子、光学部品、高周波エレクトロニクス部品などの成形体とその製造方法を提供することにある。さらに、本発明の課題は、該ポリベンゾオキサゾール樹脂またはその前駆体を含む樹脂組成物を提供することにある。
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、主鎖にフレキシブルなフェニレンエーテル構造を導入した新規な熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂とその前駆体(ポリアミド樹脂)に想到した。
【0018】
本発明者らは、耐熱性高分子の構成要素として、ポリイミドのような強い極性基を持たないポリベンゾオキサゾール骨格を持つポリベンゾオキサゾール樹脂に着目した。このポリベンゾオキサゾール樹脂の主鎖にフレキシブルな構造を導入し、かつ多くのフッ素原子を導入することが有効であることを見出した。そのために、ジカルボン酸モノマー成分として、3つのベンゼン環が2個の酸素原子によって連結された構造を有するフッ素化ジカルボン酸モノマーが効果的であることを見出した。
【0019】
本発明の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂は、主鎖が棒状の剛直な構造ではなく、主鎖を構成する各芳香族環が屈曲や回転が可能なフレキシブルな構造を有しているため、耐熱性に優れると共に、高温で熱可塑性を示し、溶融加工が可能である。本発明の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂は、光通信に使用される近赤外領域で高い透明性と低い屈折率を示し、かつ高周波エレクトロニクス材料として有用な低誘電率を有するものである。本発明は、これらの知見に基づいて、完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、下記式(1)
【0021】
【化10】

【0022】
(式中、R1は、4価の有機基である。R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。R14及びR15は、有機ケイ素基または水素原子である。)
で表わされる繰り返し単位を有し、かつゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによりポリスチレン換算値として測定される重量平均分子量が3,000〜1,000,000の範囲内である熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体が提供される。
【0023】
また、本発明によれば、上記熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を環化して得られる、下記式(I)
【0024】
【化11】

【0025】
(式中、R1は、4価の有機基である。R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。)
で表わされる繰り返し単位を有する熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂が提供される。
【0026】
さらに、本発明によれば、下記式(3)
【0027】
【化12】

【0028】
(式中、R1は、4価の有機基である。R14、R15、R29及びR30は、有機ケイ素基または水素原子である。)
で表わされるビスアミノフェノール化合物と、下記式(4)
【0029】
【化13】

【0030】
(式中、R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。Xは、ハロゲン原子である。)
で表わされるフッ素化フェニレンエーテル型ジカルボン酸ハライドとを、有機溶媒中で反応させることを特徴とする、式(1)
【0031】
【化14】

【0032】
(式中、R1は、4価の有機基である。R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。R14及びR15は、有機ケイ素基または水素原子である。)
で表わされる繰り返し単位を有し、かつゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによりポリスチレン換算値として測定される重量平均分子量が3,000〜1,000,000の範囲内である熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体の製造方法が提供される。
【0033】
本発明によれば、式(1)で表わされる繰り返し単位を有し、かつゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによりポリスチレン換算値として測定される重量平均分子量が3,000〜1,000,000の範囲内である熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を加熱して、脱シラノールもしくは脱水により環化することを特徴とする、下記式(I)
【0034】
【化15】

【0035】
(式中、R1は、4価の有機基である。R5〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。)
で表わされる繰り返し単位を有する熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂の製造方法が提供される。
【0036】
本発明によれば、光学素子、光学部品及び高周波エレクトロニクス部品からなる群より選ばれる成形体であって、該成形体を構成する少なくとも一部の部材が前記熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂から形成されたものであることを特徴とする成形体が提供される。
【0037】
また、本発明によれば、光学素子、光学部品及び高周波エレクトロニクス部品からなる群より選ばれる成形体の製造方法であって、前記熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を、該成形体を構成する少なくとも一部の部材の形状に成形した後、加熱して脱シラノールもしくは脱水により環化して熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂に変換することを特徴とする成形体の製造方法が提供される。
【0038】
さらに、本発明によれば、光学素子、光学部品及び高周波エレクトロニクス部品からなる群より選ばれる成形体の製造方法であって、前記熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂を、その熱可塑性を利用して加熱変形させることにより、必要な部材の形状に成形することを特徴とする成形体の製造方法が提供される。
【0039】
さらにまた、本発明によれば、前記熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂またはその前駆体と、他のポリマー、充填剤、及び感光性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種とを含有する樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、光通信に使用される近赤外領域で高い透明性と低い屈折率を示し、かつ高周波エレクトロニクス材料として有用な低誘電率を有し、しかも加工性に優れた熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂とその前駆体が提供される。本発明の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂及びその前駆体は、光学素子、光学部品、高周波エレクトロニクス部品などの成形体として特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂(以下、単に「ポリベンゾオキサゾール樹脂」と呼ぶことがある)は、下記式(I)
【0042】
【化16】

【0043】
(式中、R1は、4価の有機基である。R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。)
で表わされる繰り返し単位を有するポリマーである。
【0044】
上記式(I)において、R1は、下記式(5)
【0045】
【化17】

【0046】
で表わされる4価の有機基である。4価の有機基としては、ポリベンゾオキサゾール樹脂の技術分野で使用されているものであれば特に限定されないが、耐熱性の観点からは、4価の芳香族基であることが好ましい。
【0047】
4価の芳香族基としては、例えば、下記式(5a)
【0048】
【化18】

【0049】
(式中、R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、パーフルオロアリール基、アルコキシ基、パーフルオロアルコキシ基、フェノキシ基もしくはパーフルオロフェノキシ基である。R31及びR32のうち少なくとも一方は、フッ素原子または炭素原子−フッ素原子結合を有する基であることが好ましい。)
で表わされる4価の芳香族基、または下記式(5b)
【0050】
【化19】

【0051】
〔式中、R33〜R40は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、アルキル基、パーフルオロアルキル基、アリール基、パーフルオロアリール基、アルコキシ基、パーフルオロアルコキシ基、フェノキシ基もしくはパーフルオロフェノキシ基である。Yは、単結合または2価の有機基である。2価の有機基としては、−O−、−SO2−、−S−、−R’−、−(OR’)k−、−(R’O)k−もしくは−(OR’O)k−(ただし、R’は、アルキレン基、パーフルオロアルキレン基、アリーレン基もしくはパーフルオロアリーレン基であり、kは、1以上の整数である。)が好ましい。R33〜R40及びYのうちの少なくとも1つは、フッ素原子または炭素原子−フッ素原子結合を有する基であることが好ましい。〕
で表わされる4価の芳香族基が好ましい。
【0052】
式(5b)で表わされる4価の芳香族基としては、例えば、下記式(5c)
【0053】
【化20】

【0054】
で表わされる4価の芳香族基(ただし、Yは、前記と同じ)、下記式(5d)
【0055】
【化21】

【0056】
で表わされる4価の芳香族基、下記式(5e)
【0057】
【化22】

【0058】
で表わされる4価の芳香族基、下記式(5f)
【0059】
【化23】

【0060】
で表わされる4価の芳香族基、下記式(5g)
【0061】
【化24】

【0062】
で表わされる4価の芳香族基、下記式(5h)
【化25】

【0063】
で表わされる4価の芳香族基が挙げられる。これらの4価の芳香族基の中でも、式(5c)〜(5e)で表わされるものが好ましい。
【0064】
前記式(I)において、ジカルボン酸モノマー成分に由来する下記式(6)
【0065】
【化26】

【0066】
で表わされるフェニレンエーテル構造〔ビス(フェノキシ)フェニレン構造〕(式中の記号は、前記と同じ意味である。)を有する2価の有機基の具体例としては、下記式(6a)
【0067】
【化27】

【0068】
で表わされる構造が好ましい。
【0069】
前記式(6)または(6a)で表わされるフェニレンエーテル構造を有する2価の有機基の具体例としては、下記式(6b)〜(6m)で表わされる構造を有する2価の有機基を挙げることができる。
【0070】
【化28】

【0071】
【化29】

【0072】
【化30】

【0073】
【化31】

【0074】
前記式(I)で表わされる繰り返し単位を有するポリベンゾオキサゾール樹脂の好ましい具体例としては、下記式(Ia)〜(Ij)で表わされる繰り返し単位を有するポリベンゾオキサゾール樹脂を挙げることができる。
【0075】
【化32】

【0076】
【化33】

【0077】
【化34】

【0078】
【化35】

【0079】
【化36】

【0080】
【化37】

【0081】
【化38】

【0082】
【化39】

【0083】
【化40】

【0084】
【化41】

【0085】
これらの繰り返し単位の中でも、式(Ia)、(Ib)及び(Ic)で表わされる繰り返し単位が好ましい。
【0086】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体の製造方法は、下記式(3)
【0087】
【化42】

【0088】
(式中、R1は、4価の有機基である。R14、R15、R29及びR30は、有機ケイ素基または水素原子である。)
で表わされるビスアミノフェノール化合物と、下記式(4)
【0089】
【化43】

【0090】
(式中、R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機機であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機機である。Xは、ハロゲン原子である。)
で表わされるフッ素化フェニレンエーテル型ジカルボン酸ハライドとを、有機溶媒中で反応させる方法である。
【0091】
本発明でポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体の合成に使用されるビスアミノフェノール化合物としては、例えば、2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−メチル−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジメチル−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジエチル−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−メトキシ−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−メトキシ−4−メチル−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−メトキシ−4−エチル−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジメトキシ−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−エトキシ−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−エトキシ−4−メチル−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−エトキシ−4−エチル−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−エトキシ−4−メトキシ−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジエトキシ−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジフルオロ−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−トリフルオロメチル−4−フルオロ−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジ(トリフルオロメチル)−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジ(ペンタフルオロエチル)−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−トリフルオロメトキシ−4−フルオロ−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−トリフルオロメトキシ−4−トリフルオロメチル−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−トリフルオロメトキシ−4−ペンタフルオロエチル−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジ(トリフルオロメトキシ)−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−ペンタフルオロエトキシ−4−フルオロ−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−ペンタフルオロエトキシ−4−トリフルオロメチル−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−ペンタフルオロエトキシ−4−ペンタフルオロエチル−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1−ペンタフルオロエトキシ−4−トリフルオロメトキシ−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジ(ペンタフルオロエトキシ)−2,6−ジアミノ−3,5−ジヒドロキシベンゼン、3,3′ −ジアミノ−4,4′ −ジヒドロキシビフェニル、4,4′ −ジアミノ−3,3′ −ジヒドロキシビフェニル、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,6,2′,6′−ヘキサフルオロ−5,5′ −ジトリフルオロメチル−3,3′ −ジアミノ−4,4′ −ジヒドロキシビフェニル、2,6,2′,6′−ヘキサフルオロ−5,5′−ジトリフルオロメチル−4,4′−ジアミノ−3,3′ −ジヒドロキシビフェニル、ビス(2,6−ジフロロ−5−トリフルオロメチル−3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2,6−ジフロロ−5−トリフルオロメチル−3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(2,6−ジフロロ−5−トリフルオロメチル−3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(2,6−ジフロロ−5−トリフルオロメチル−3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,6−ジフロロ−5−トリフルオロメチル−3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0092】
ビスアミノフェノール化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ビスアミノフェノール化合物は、有機ケイ素化したものを使用すること好ましい。
【0093】
式(3)で表わされるビスアミノフェノール化合物としては、前記で例示した4価の有機基R1を有するものを挙げることができるが、下記式(3a)
【0094】
【化44】

【0095】
で表わされる化合物がより好ましく、下記式(3b)
【0096】
【化45】

【0097】
で表わされる化合物が好ましい(式中の各記号は、前記と同じ意味である。)。
【0098】
前記式(4)で表わされるジカルボン酸ハライドとしては、前記で例示したフェニレンエーテル構造を有する2価の有機基を挙げることができるが、これらの中でも、下記式(4a)
【0099】
【化46】

【0100】
で表わされる化合物が好ましく、下記式(4b)
【0101】
【化47】

【0102】
で表わされる化合物、及び下記式(4c)
【0103】
【化48】

【0104】
で表わされる化合物がより好ましい。
【0105】
重合に際して、高分子量ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を得るために、前記式(3)及び式(4)で表わされる2種類のモノマーの使用割合は、モル比で1:1の等量にできるだけ近づけることが望ましい。ビスアミノフェノール化合物とジカルボン酸ジハライドは、有機溶媒中で、通常−30℃〜40℃、好ましくは−20℃〜35℃の範囲内の温度で反応させる。この反応により、ジカルボン酸ジハライドとビスアミノフェノール化合物が反応してポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体が生成する。
【0106】
有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」と略す)やN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略す)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略す)などの極性溶媒を用いることが好ましい。これらの有機溶媒は、モノマーである有機ケイ素化ビスアミノフェノール化合物やフッ素化フェニレンエーテルジカルボン酸ジハライドが、いずれも水分により分解しやすいことから、事前に脱水・蒸留して、水分を可能な限り除去しておくことが望ましい。
【0107】
式(3)で表わされるビスアミノフェノール化合物として、2つのアミノ基及び2つのフェノール基のすべてが有機ケイ素化された化合物を用いると、ジカルボン酸ジハライドが有機ケイ素化されたアミン側(N−シリル化アミン側)だけを選択的に攻撃して、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を独占的に生成し易いので好ましい。フェノール側は、O−シリル化により極度に不活性化される。
【0108】
ビスアミノフェノール化合物を有機ケイ素化(「N,O−ビスシリル化」ともいう)する有機ケイ素基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ(n−プロピル)シリル基などが挙げられるが、前駆体合成時の反応性、副生物の除去の容易性、経済性などの観点から、トリメチルシリル基(CH33Si〔通常、Me3Siと表記される〕が好ましい。ビスアミノフェノール化合物のトリメチルシリル化には、一般に、トリメチルクロロシランやヘキサメチルジシラザンなどが用いられている。
【0109】
N,O−ビスシリル化ビスアミノフェノールを用いると、ジカルボン酸ジハライドがN−シリル化アミン側だけを選択的に攻撃して相当するアミド化合物を生成し、シリル化したフェノール側は、そのままで残存する。このようにして、O−シリル化(好ましくはO−トリメチルシリル化)したポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を得ることができる。
【0110】
O−シリル化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体は、そのままで脱シラノール環化反応させてポリベンゾオキサゾール樹脂に変換することができるが、環化反応のし易さや、環化反応後の副生物の除去の容易性などの観点から、脱シリル化反応を行うことが好ましい。
【0111】
O−シリル化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体は、メタノールなどのアルコールで処理することにより、脱シリル化反応が生じて、フェノール性水酸基を有するポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を得ることができる。この脱シリル化反応は、反応系にアルコールを添加することにより進行する。有機ケイ素基の除去を「脱シリル化」と呼ぶことがある。
【0112】
ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体は、通常100〜400℃の範囲内の温度に加熱することにより、脱シラノールまたは脱水により環化(閉環)してポリベンゾオキサゾール樹脂となる。一般に、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を用いて、所望の形状の成形体を作製した後、環化させる。加熱に際し、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で、50〜70℃程度の比較的低い温度から順次昇温して、最終的に、通常100〜400℃、好ましくは200〜350℃、より好ましくは250〜330℃の範囲内の温度に上げることが好ましい。この環化反応時間は、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体の構造や分子量などによって異なるが、通常、数秒間から数十時間の範囲内から選ばれる。環化反応が起こりにくい場合には、減圧状態で加熱するか、無水酢酸などの脱水剤の添加を行うと、効率的に反応を促進することができる。
【0113】
前記したとおり、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を合成するには、有機ケイ素化したビスアミノフェノール化合物を用いることが好ましく、トリメチルシリル化したビスアミノフェノール化合物を用いることがより好ましい。ジカルボン酸ジハライドとしては、反応性や経済性の観点から、ジカルボン酸ジクロリドが好ましい。ジカルボン酸クロライドを合成するには、例えば、ジカルボン酸化合物を有機溶媒中で塩化チオニルと反応させる方法を採用することができる。また、O−シリル化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体は、メタノールなどのアルコールで処理することにより、脱シリル化反応させることが好ましい。そこで、これらの好ましい条件の組み合わせによる製造方法の代表例を反応式で示すと、下記式(7)
【0114】
【化49】

【0115】
で表わすことができる(式中の各記号は、前記と同じ意味である。)。
【0116】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体は、下記式(1)
【0117】
【化50】

【0118】
(式中、R1は、4価の有機基である。R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。R14及びR15は、有機ケイ素基または水素原子である。)
で表わされる繰り返し単位を有するポリマー(ポリアミド樹脂)である。
【0119】
前記式(1)で表わされる繰り返し単位の具体例としては、前記式(Ia)〜(Ij)で表わされるポリベンゾオキサゾール樹脂の繰り返し単位に対応する前駆体の繰り返し単位を挙げることができる。これらの繰り返し単位の中でも、下記式(1a)
【0120】
【化51】

【0121】
(式中、Yは、単結合または2価の有機基である。R14及びR15は、有機ケイ素基または水素原子である。)
で表わされる繰り返し単位が好ましく、下記式(1b)
【0122】
【化52】

【0123】
で表わされる繰り返し単位、及び下記式(1c)
【0124】
【化53】

【0125】
で表わされる繰り返し単位がより好ましい。
【0126】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)によりポリスチレン換算値として測定される重量平均分子量として、3,000〜1,000,000の範囲内である。この前駆体がO−シリル化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体である場合、重量平均分子量は、該前駆体をアルコール(例えば、メタノール)で処理して、フェノール側の有機ケイ素基を除去して、フェノール性水酸基(OH)に変換してから測定される。
【0127】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体の重量平均分子量は、好ましくは5,000〜800,000、より好ましくは8,000〜500,000、特に好ましくは10,000〜300,000である。本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂は、通常、有機ケイ素基を除去(脱シリル化)して水酸基に変換した前駆体を加熱脱水して環化する方法により得ることができるが、脱水により除去される水(H2O)の分子量が小さいため、その重量平均分子量は、該前駆体の重量平均分子量とほぼ同じ範囲内となる。
【0128】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体の分子量分布(Mw/Mn)は、通常1.1〜3.0の範囲内である。ただし、Mwは、重量平均分子量を示し、Mnは、数平均分子量を示す。Mw及びMnは、前記GPCを用いて常法により測定することができる。
【0129】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体は、前記式(1)で表わされる繰り返し単位を有する単独重合体及び前記式(1)で表わされる2種以上の繰り返し単位を有する共重合体を含むが、前記式(1)で表わされる繰り返し単位と他の繰り返し単位を含む共重合体であってもよい。同様に、本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂は、前記式(I)で表わされる繰り返し単位を有する単独重合体及び前記式(I)で表わされる2種以上の繰り返し単位を有する共重合体を含むが、前記式(I)で表わされる繰り返し単位と他の繰り返し単位を含む共重合体であってもよい。
【0130】
このように、本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体及びポリベンゾオキサゾール樹脂は、必要に応じて、共重合体とすることができる。ポリベンゾオキサゾール樹脂は、前記繰り返し単位(I)のみからなる単独重合体または共重合体である場合には、光通信に使用される近赤外領域で高い透明性と低い屈折率を示すことができるが、用途によっては耐熱性や高温での機械的特性が不足することがある。また、複数の繰り返し単位を有する共重合体とすることにより、屈折率を自由に制御することができる。他方、前記式(I)で表わされる繰り返し単位を有する単独重合体または共重合体は、高温で熱可塑性を示し、溶融加工などの熱加工が可能であるという利点を有している。
【0131】
そこで、繰り返し単位(I)に加えて、他の繰り返し単位を導入することにより、熱加工性や屈折率を制御したり、光学特性と耐熱性とをバランスさせることができる。他の繰り返し単位としては、ポリベンゾオキサゾール樹脂またはその前駆体を構成することができる繰り返し単位であればよく、特に限定されない。光学特性を低下させずに耐熱性を向上させるには、他の繰り返し単位として、2価の芳香族基を有するジカルボン酸化合物及び炭素−フッ素(C−F)結合を有する2価の芳香族基を有するジカルボン酸化合物に由来する2価の芳香族基を有する繰り返し単位が好ましい。
【0132】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体が共重合体である場合には、前記式(1)で表わされる繰り返し単位に加えて、下記式(2)
【0133】
【化54】

【0134】
(式中、R1は、4価の有機基である。R14及びR15は、有機ケイ素基または水素原子である。R16は、2価の有機基である。)
で表わされる繰り返し単位を有する共重合体であることが好ましい。
【0135】
上記式(2)で表わされる繰り返し単位において、R16は、2価の有機基である。2価の有機基としては、2価の脂肪族基や脂環族基、芳香族基などが挙げられる。これらの2価の有機基は、分子中に炭素−フッ素結合(C−F結合)が導入されたものであってもよい。耐熱性の観点からは、R16は、2価の芳香族基であることが好ましい。光学特性と耐熱性とをバランスさせる上では、R16は、C−F結合を有する2価の芳香族基であることが好ましい。
【0136】
上記式(2)で表わされる繰り返し単位において、4価の有機基R1は、前記式(1)で表わされる繰り返し単位におけるのと同じである。
【0137】
前記式(2)で表わされる繰り返し単位の好ましい例としては、例えば、下記式(2a)
【0138】
【化55】

【0139】
(式中、Yは、単結合または2価の有機基である。R14及びR15は、有機ケイ素基または水素原子である。R17〜R20は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアルコキシ基またはパーフルオロフェノキシ基である。)
で表わされる繰り返し単位、及び下記式(2b)
【0140】
【化56】

【0141】
〔式中、Yは、単結合または2価の有機基である。R14及びR15は、有機ケイ素基または水素原子である。R21〜R28は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアルコキシ基もしくはパーフルオロフェノキシ基であり、Zは、単結合、−O−、−SO2−、−S−、−R’−、−(OR’)k−、−(R’O)k−もしくは−(OR’O)k−である(ただし、R’は、パーフルオロアルキレン基もしくはパーフルオロアリーレン基であり、kは、1以上の整数である。)〕
で表わされる繰り返し単位を挙げることができる。ただし、これらの繰り返し単位は、前記繰り返し単位(1)とは異なる化学構造を有するものである。
【0142】
前記式(2a)で表わされる繰り返し単位の具体例としては、例えば、下記式(2c)
【0143】
【化57】

【0144】
で表わされる繰り返し単位を挙げることができる。また、前記式(2b)表わされる繰り返し単位の具体例としては、例えば、下記式(2d)
【0145】
【化58】

【0146】
で表わされる繰り返し単位を挙げることができる。ただし、式(2)で表わされる繰り返し単位は、これらに限定されず、例えば、上記式(2c)及び(2d)において、C−F結合を持たない対応する2価の芳香族基を有する繰り返し単位なども使用することができる。
【0147】
ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体が、前記式(1)で表わされる繰り返し単位と前記式(2)で表わされる繰り返し単位とを有する共重合体である場合、各繰り返し単位を1基本モルと定義したとき、前記式(1)で表わされる繰り返し単位のモル数pと前記式(2)で表わされる繰り返し単位のモル数qとの比p:qは、5:95から100:0までの間の範囲内にあることが好ましく、10:90〜99:1の範囲内にあることがより好ましい。共重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、単独重合体の場合と実質的に同じである。
【0148】
本発明のポリベンゾオキサゾールが共重合体である場合、前記式(I)で表わされる繰り返し単位に加えて、下記式(II)
【0149】
【化59】

【0150】
(式中、R1は、4価の有機基である。R16は、2価の有機基である。)
で表わされる繰り返し単位を有するものであることが好ましい。
【0151】
前記式(II)で表わされる繰り返し単位の好ましい例としては、例えば、下記式(IIa)
【0152】
【化60】

【0153】
(式中、Yは、単結合または2価の有機基である。R17〜R20は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアルコキシ基またはパーフルオロフェノキシ基である。)
で表わされる繰り返し単位、及び下記式(IIb)
【0154】
【化61】

【0155】
〔式中、Yは、単結合または2価の有機基である。R21〜R28は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアルコキシ基もしくはパーフルオロフェノキシ基であり、Zは、単結合、−O−、−SO2−、−S−、−R’−、−(OR’)k−、−(R’O)k−もしくは−(OR’O)k−である(ただし、R’は、パーフルオロアルキレン基もしくはパーフルオロアリーレン基であり、kは、1以上の整数である。)〕
で表わされる繰り返し単位を挙げることができる。ただし、これらの繰り返し単位は、前記繰り返し単位(I)とは異なる化学構造を有するものである。
【0156】
前記式(IIa)で表わされる繰り返し単位の具体例としては、例えば、下記式(IIc)
【0157】
【化62】

【0158】
で表わされる繰り返し単位を挙げることができる。また、前記式(IIb)表わされる繰り返し単位の具体例としては、例えば、下記式(IId)
【0159】
【化63】

【0160】
で表わされる繰り返し単位を挙げることができる。ただし、式(II)で表わされる繰り返し単位は、これらに限定されず、例えば、上記式(IIc)及び(IId)において、C−F結合を持たない対応する2価の芳香族基を有する繰り返し単位なども使用することができる。
【0161】
ポリベンゾオキサゾール樹脂が、前記式(I)で表わされる繰り返し単位と前記式(II)で表わされる繰り返し単位とを有する共重合体である場合、各繰り返し単位を1基本モルと定義したとき、前記式(I)で表わされる繰り返し単位のモル数pと前記式(II)で表わされる繰り返し単位のモル数qとの比p:qは、5:95から100:0までの間の範囲内にあることが好ましく、10:90〜99:1の範囲内にあることがより好ましい。
【0162】
共重合体からなるポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を合成するには、前記式(3)で表わされるビスアミノフェノール化合物と、前記式(4)で表わされるジカルボン酸ジハライドとを反応させるに際し、ジカルボン酸ジハライドの一部として、下記式(8)
【0163】
【化64】

【0164】
(式中、R16は、2価の有機基である。Xは、ハロゲン原子である。)
で表わされるジカルボン酸ジハライドを併用すればよい。
【0165】
前記式(8)で表わされるジカルボン酸ジハライドの好ましい例としては、例えば、下記式(8a)
【0166】
【化65】

【0167】
(式中、R17〜R20は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアルコキシ基またはパーフルオロフェノキシ基である。)
で表わされる化合物、及び下記式(8b)
【0168】
【化66】

【0169】
〔式中、R21〜R28は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアリール基、パーフルオロアルコキシ基もしくはパーフルオロフェノキシ基であり、Zは、単結合、−O−、−SO2−、−S−、−R’−、−(OR’)k−、−(R’O)k−もしくは−(OR’O)k−である(ただし、R’は、パーフルオロアルキレン基もしくはパーフルオロアリーレン基であり、kは、1以上の整数である。)〕
で表わされる化合物を挙げることができる。ただし、共重合に使用するこれらのジカルボン酸ジハライドは、前記式(4)で表わされるジカルボン酸ジハライドとは異なる化学構造を有するものである。
【0170】
前記式(8a)で表わされるジカルボン酸ジハライドの具体例としては、例えば、下記式(8c)
【0171】
【化67】

【0172】
で表わされる化合物を挙げることができる。また、前記式(8b)で表わされるジカルボン酸ジハライドの具体例としては、例えば、下記式(8d)
【0173】
【化68】

【0174】
で表わされる化合物を挙げることができる。ただし、式(8)で表わされるジカルボン酸ジハライドは、これらに限定されず、例えば、上記式(8c)及び(8d)において、C−F結合を持たない対応する2価の芳香族基を有するジカルボン酸ジハライドなども使用することができる。
【0175】
共重合に際して、高分子量のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を得るためには、前記式(3)で表わされるビスアミノフェノール化合物と、前記式(4)及び(8)で表わされる2種類のジカルボン酸ジハライドの合計との使用割合は、モル比で1:1の等量にできるだけ近づけることが望ましい。前記式(4)表わされるジカルボン酸ジハライドと前記式(8)で表わされるジカルボン酸ジハライドとの使用モル比は、5:95から100:0までの間の範囲内にあることが好ましく、10:90〜99:1の範囲内にあることがより好ましい。
【0176】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂を得るには、前記式(1)で表わされる繰り返し単位を有し、かつゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによりポリスチレン換算値として測定される重量平均分子量が3,000〜1,000,000の範囲内であるポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を加熱して、脱シラノールもしくは脱水により環化する。
【0177】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂は、繰り返し単位(I)の割合が大きい場合には、一般に熱可塑性を有するため、その前駆体を環化した後に溶融加工することができる。すなわち、本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂は、熱分解温度より低い温度で熱可塑性を示すため、溶融加工することが可能である。
【0178】
多くの場合は、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体のワニスを用いて、所望の形状の成形体を形成してから環化させて、ポリベンゾオキサゾール樹脂とする。このような成形体は、熱可塑性を利用して二次加工することができる。
【0179】
本発明のポリベンゾオキサゾ−ル樹脂前駆体は、通常、これを溶媒に溶解し、ワニスとして使用することが好ましい。溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、メチル−1,3−ブチレングリコールアセテート、1,3−ブチレングリコール−3−モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メチル−3−メトキシプロピオネートを挙げることができる。
【0180】
これらの溶媒の中でも、THF、NMP、DMAc、トルエン、γ−ブチロラクトンなどが好ましい。これらの溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0181】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を使用する際には、先ず前駆体を溶媒に溶解し、得られたワニスを適当な支持体、例えば、石英ガラス、シリコンウエハ、金属、セラミックなどの基板に塗布する。塗布方法としては、例えば、スピンナーを用いた回転塗布、スプレーコータを用いた噴霧塗布、浸漬、印刷、ロールコーティング等が挙げられる。このようにして、塗膜を形成した後、加熱処理をして、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体をポリベンゾオキサゾール樹脂に変換する。
【0182】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体に、光分解感光性化合物、光架橋感光性化合物、光変成感光性化合物、及び光重合感光性化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の感光性化合物を添加することにより、感光性樹脂組成物とすることができる。また、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体に、光分解性官能基、光架橋性官能基、光変成性官能基、及び光重合性官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の光官能基を導入することにより、感光性を有するポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を得ることができる。これらの感光性ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体は、一般的なステッパーや露光装置を用いて、パターン状に露光し、現像することにより、簡便にファインパターニングを行うことができる。
【0183】
感光性化合物としては、光重合性化合物が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどの(メタ)アクリル酸系化合物が代表的なものである。光官能基としては、光重合可能な炭素−炭素二重結合を有する光重合性官能基が好ましく、アクリロイルオキシメチレン基、メタクリロイルオキシメチレン基、ビニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、2−エチルブテニル基などが挙げられる。これらの光重合性官能基を有するモノマーを用いて前駆体を合成したり、前駆体の末端を形成することにより、前駆体に光重合性官能基を導入することができる。
【0184】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂またはその前駆体には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、変性ポリフェニレンオキシド、シリコーン、フルオロシリコーン、他の含フッ素ポリマーなどを目的に応じて適当量を配合することができる。
【0185】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂及びその前駆体には、通常の樹脂組成物に使用する有機または無機の充填剤を、発明の目的を損なわない範囲で用いることができる。充填剤としては、例えば、グラファイト、カーボン、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、二硫化モリブデン、フッ素樹脂、ガラス繊維、カーボン繊維、鉄粉、アルミニウム粉、着色料が挙げられる。
【0186】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体には、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、レベリング剤などの各種添加剤を添加することができる。
【0187】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂は、優れた光学特性、電気的特性、機械的特性、耐熱性などの特性を活かして、それらの特性が要求される広範な技術分野に適用することができる。本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂は、例えば、光導波路、波長フィルター、光波長板、光偏光板などの光学素子;このような光学素子を搭載した光モジュールなどの光学部品;高周波エレクトロニクス部品などを構成する樹脂材料として使用することができる。
【0188】
光導波路は、コアとクラッドの比屈折率差が通常0.1%〜10%、好ましくは0.2〜2.5%の範囲にあることが、シングルモード導波路を構成する上で特に有効である。コアとクラッドの双方が線膨張係数の近い材料で構成されることが耐熱性の点で望ましく、さらには、コアとクラッドの双方を本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂で構成することがより好ましい。すなわち、コアとその周囲にコアよりも屈折率の低いクラッドを配置し、コアとクラッドのうちの少なくとも一方が本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂から形成された光導波路を提供することができる。
【0189】
波長フィルターは、本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂を基材とし、この表面に二酸化ケイ素、二酸化チタン、フッ化マグネシウム等の無機誘電体材料の薄膜を一般的な真空蒸着法やスパッタリング法によって交互積層した誘電体多層膜を形成することにより作製することができる。無機誘電体材料の種類や膜厚、層数を適当に選択することで、所望の透過あるいは反射スペクトルを有する波長フィルターを得ることができる。すなわち、本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂により形成された樹脂基材の表面に誘電体多層膜を形成してなる波長フィルタを提供することができる。
【0190】
光波長板は、本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂の前駆体フィルムまたは本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂フィルムを加熱した状態で一軸延伸することにより作製することができる。加熱温度、延伸倍率及びフィルム厚さを選択することにより、所望のレターデーション値を持つ光波長板を得ることができる。
【0191】
光偏光板は、本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂の一軸延伸フィルム内に、金属微粒子、カーボン微粒子、半導体微粒子等の使用光波長において不透明な微粒子を異方性分散したものであり、これら微粒子が等方分散した前駆体フィルムあるいは樹脂フィルムを加熱した状態で一軸延伸することにより作製することができる。加熱時間、延伸率、フィルム厚さ、微粒子濃度、及び微粒子種類を選択することにより、所望の消光比を持つ光偏光板を得ることができる。
【0192】
以上のような光学素子の一種以上を搭載する光モジュールは、通常使用される石英ガラス系のモジュールに比べて安価に作製することができる。また、使用するポリベンゾオキサゾール樹脂が吸湿しにくい構造を有するため、長期にわたって光学素子の安定性が良い光モジュールとなる。
【0193】
高周波エレクトロニクス部品としては、例えば、高周波プリント配線基板、携帯電話や無線LANなどのネットワーク機器を構成する樹脂部品、高周波実装回路を構成する樹脂部品などが挙げられる。
【0194】
したがって、本発明によれば、光学素子、光学部品及び高周波エレクトロニクス部品からなる群より選ばれる成形体であって、該成形体を構成する少なくとも一部の部材が本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂から形成されたものであることを特徴とする成形体が提供される。
【0195】
これらの成形体は、本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を、該成形体を構成する少なくとも一部の部材の形状に成形した後、加熱して脱シラノールまたは脱水により環化してポリベンゾオキサゾール樹脂に変換することにより製造することができる。前駆体をポリベンゾオキサゾール樹脂に変換してから、該樹脂を成形することもできる。
【0196】
本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂は、熱可塑性を付与することができるため、適当な方法により製作された金型を用いることにより、溶融成形、ホットエンボス成形、射出成形などの溶融加工が可能である。そのため、本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂は、光学素子等の成形体を製造するプロセスコストを大幅に削減することが可能である。
【実施例】
【0197】
以下に、実施例及び比較例を示して、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0198】
[実施例1]
(1)パーフルオロジカルボン酸ジクロリドの合成
文献(Ralph J. De Pasquale and Christ Tamborski, J. Org. Chem., 33, 830- (1968))に示されている方法に従って合成した1,4−ビス(4−カルボキシ−2,3,5,6−テトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼンを、塩化チオニルと脱水N,N−ジメチルホルムアミドを用いて、50℃で3時間反応させた。塩化チオニルを留去した後、得られた白色固体を乾燥イソプロピルエーテルで再結晶して、無色針状の結晶を得た。この結晶の純度は、98.5%(GC)であった。反応式を式(9)に示す。
【0199】
【化69】

【0200】
13C−NMR及び19F−NMRの結果は、以下の通りあった。元素分析の結果も、目的のジカルボン酸ジクロリドの計算値と一致した。
【0201】
13C-NMR(100MHz, DMSO-d6): 113.1(t), 132.0, 138.5, 140.1(JCF), 140.8(JCF), 144.4(JC−F), 158.1
19F-NMR(376MHz, DMSO-d6): -155.1(4F, Ar-F), -154.5(4F, Ar-F), -137.4(4F, Ar-F)
元素分析:calc. C;39.8, F;37.8, anal. C;39.7, F;38.1
【0202】
(2)有機ケイ素化芳香族ジアミンの合成
2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン10.98g(0.03mol)を200mL3ッ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下で乾燥THF75mLに溶解させた。滴下ロートから、13.2mLのヘキサメチルジシラザンを滴下、滴下終了後続いてトリメチルクロロシラン1.9mLを滴下した。約1時間そのまま撹拌した後、オイルバスで約60℃として約12時間反応させた。反応混合物を1H−NMR、及びキャピラリーGC−MSで分析したところ、有機ケイ素化4置換体が86%で、有機ケイ素化3置換体が14%の混合物であったため、さらにヘキサメチルジシラザン6.7mLとトリメチルクロロシラン1.0mLを追加して滴下して、そのまま約10時間反応させたところ、生成物のほぼ全部が有機ケイ素化4置換体となったので反応を終了した。
【0203】
上記で得られた反応物の溶媒を留去した後、真空ポンプで減圧蒸留を行ったところ、158〜162℃/2mmHgの留分として10gの生成物を得た。この生成物を1H−NMR及びキャピラリーGC−MSで分析したところ、99.8%の純度で目的とする有機ケイ素化4置換体、すなわち2,2−ビス[4−(トリメチルシロキシ)−3−〔(トリメチルシリル)アミノ〕−フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンであった。
【0204】
(3)フッ素化ポリベンゾオキサゾール前駆体ポリアミドの合成
上記(2)で合成した2,2−ビス[4−(トリメチルシロキシ)−3−〔(トリメチルシリル)アミノ〕−フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン6.66g(10.0mmol)を、100mLなすフラスコ中で40mLの脱水N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解させて、上記(1)で得られたパーフルオロジカルボン酸ジクロリドの結晶6.03g (10.0mmol)を室温で一気に加えた。その後、そのまま16時間反応させた。得られた溶液をメタノールで処理したのち、エバポレーターでエタノールとDMAcを留去した。その後、メタノール/クロロホルムで再沈精製し、減圧乾燥して、フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を収率85%で得た。LiBr−NMP(臭素化リチウムを溶解させたNMP)を展開溶液とするGPCによって分子量測定を行った結果、ポリスチレン換算の分子量は、Mw=118,000、Mw/Mn=1.8であった。この反応を下記式(10)に示す
【0205】
【化70】

【0206】
(式中、nは、正の整数である。)
1H−NMR、13C−NMR、19F−NMRの測定結果を示す。
【0207】
1H-NMR(400MHz, DMSO-d6): 7.01 (4H, m, Ar-H), 8.25 (2H, s, Ar-H), 10.4 and 10.7 (4H, -NH and -OH)
13C-NMR(100MHz, DMSO-d6): 63.4(m, -C(CF3)2-), 114.1(t), 115.2, 122.6, 123.4, 124.4(q, -CF3, JC-F), 125.1, 127.5, 131.7, 134.8, 139.7(dd, JC-F), 140.7(dd, JC-F), 143.5(dd, JC-F), 148.7, 155.6(C=O)
19F-NMR(376MHz, DMSO-d6): -157.7(4F, Ar-F), -157.4(4F, Ar-F), -142.7(4F, s, Ar-F), -64.4(6F, s, -CF3)
IR: 3300 cm-1 (br, -OH and -NH), 1607 cm-1 (C=O)
【0208】
(4)フッ素化ポリベンゾオキサゾールフィルムの作製
上記(3)で得られたフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体をNMPに溶解させ、フィルター濾過の後、固形分30重量%のワニスを得た。得られたワニスをガラス基板上に塗布して、窒素中で70℃から順次加熱して最終300℃で1時間加熱した。この操作により、厚さ約50μmのフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂フィルムが得られた。このフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂は、下記式(11)で表わされる繰り返し単位を有するものである。
【0209】
【化71】

【0210】
(式中、nは、正の整数である。)
【0211】
[実施例2]
(1)パーフルオロジカルボン酸ジクロリドの合成
実施例1と同様に、文献(Ralph J. De Pasquale and Christ Tamborski, J. Org. Chem., 33, 830- (1968))に示されている方法に従って合成した1,3−ビス(4−カルボキシ−2,3,5,6−テトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼンを、実施例1の(2)と同様にして、塩化チオニルと脱水N,N−ジメチルホルムアミドを用いて50℃で3時間反応させた。塩化チオニルを留去した後、得られた白色固体を乾燥イソプロピルエーテルで再結晶して無色針状の結晶を得た。この結晶の純度は、99.2%(GC)であった。この反応を下記式(12)に示す。
【0212】
【化72】

【0213】
(2)フッ素化ポリベンゾオキサゾール前駆体ポリアミドの合成
実施例1の(2)と同様に合成し、精製した2,2−ビス[4−(トリメチルシロキシ)−3−〔(トリメチルシリル)アミノ〕−フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン6.66g(10.0mmol)を、100mLなすフラスコ中で40mLの脱水DMAcに溶解させて、上記(1)で得られたパーフルオロジカルボン酸ジクロリドの結晶6.03g(10.0mmol)を室温で一気に加えた。その後、そのまま16時間反応させた。得られた溶液をメタノールで処理したのち、エバポレーターでエタノールとDMAcを留去した。その後、メタノール/クロロホルムで再沈精製し、減圧乾燥して、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を収率85%で得た。LiBr−NMP(臭素化リチウムを溶解させたNMP)を展開溶液とするGPCによって分子量測定を行った結果、ポリスチレン換算の分子量は、Mw=76,000、Mw/Mn=1.7であった。この反応を下記式(13)に示す。
【0214】
【化73】

【0215】
(式中、nは、正の整数である。)
1H−NMR、13C−NMR、19F−NMRの測定結果を示す。
【0216】
1H-NMR (DMSO-d6): 7.02 (4H, m, Ar-H), 8.25 (2H, s, Ar-H), 10.39, 10.68 (2H×2, s, Ar-OH and Ar-NH)
13C-NMR(DMSO-d6):63.6, 114.2(t, JC-F=21Hz), 115.5, 122.8, 123.7, 124.6(q, JC-F=286Hz), 125.4, 127.7, 130.7(t), 135.1(t), 138.0(JC-F=250Hz), 139.9(JC-F=250Hz), 142.3(JC-F=251Hz), 143.8(JC-F=250Hz), 144.1(JC-F=250Hz), 149.0, 155.8
19F-NMR(DMSO-d6): -162.6(F, Ar-F), -157.9(4F, Ar-F), -154.4(2F, Ar-F), -151.1(F, Ar-F), -142.8(4F, Ar-F), -64.5(6F, CF3)
IR: 3300 cm-1 (br, -OH and -NH), 1607 cm-1 (C=O)
【0217】
(3)フッ素化ポリベンゾオキサゾールフィルムの作製
上記(2)で得られたポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体をNMPに溶解し、フィルター濾過の後、固形分30%のワニスを得た。得られたワニスをガラス基板上に塗布して、窒素中で70℃から順次加熱して最終300℃で1時間加熱した。この操作により、厚さ約50μmのフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂フィルムが得られた。フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂は、下記式(14)で表わされる繰り返し単位を有するポリマーである。
【0218】
【化74】

【0219】
[比較例1]
(1)ジカルボン酸ジクロリドの合成:
4,4′−ジカルボキシオクタフルオロビフェニル25.52g(66.10mmol)、塩化チオニル45ml、及び脱水したDMAc0.5mlを反応容器内に入れ、60℃で2時間反応させた。反応終了後、過剰の塩化チオニルを加熱減圧により留去して、2,3,5,6,2′,3′,5′,6′−オクタフルオロビフェニル−4,4′−ジカルボン酸ジクロリド23.44g(55.41mmol)を得た。
【0220】
(2)ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体の合成
実施例1の(1)で得られた2,2−ビス[4−(トリメチルシロキシ)−3−〔(トリメチルシリル)アミノ〕−フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン3.33g (5.0 mmol相当)を、100mLなすフラスコ中で20mLの脱水DMAcに溶解させて、窒素気流下で−50℃に冷却した後、滴下ロートから上記の(1)で得られた2,3,5,6,2′,3′,5′,6′−オクタフルオロビフェニル−4,4′−ジカルボン酸ジクロリド2.12g (5.0mmol)を一気に滴下したのち、反応容器の温度を0℃に保って3時間反応させた。得られた溶液をメタノールで処理したのち、エバポレーターでエタノールとDMAcを留去した。その後、メタノール/クロロホルムで再沈精製し、減圧乾燥して、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を収率90%で得た。LiBr−NMP(臭素化リチウムを溶解させたN−メチルピロリドン)を展開溶液とするGPCによって分子量測定を行った結果、ポリスチレン換算の分子量は、Mw=190,000、Mw/Mn=2.2であった。この前駆体は、下記式(15)で表わされる繰り返し単位を有するポリマーである。
【0221】
【化75】

【0222】
(3)ポリベンゾオキサゾールフィルムの作製
上記(2)で得られたポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体をNMPに溶解し、フィルター濾過の後、固形分30%のワニスを得た。得られたワニスをガラス基板上に塗布して、窒素中で70℃から順次加熱して最終330℃で1時間加熱した。この操作により、厚さ約50μmのポリベンゾオキサゾール樹脂フィルムが得られた。
【0223】
IR分析によって、3000cm-1付近に見られた−OH、−NH、及び1600cm-1付近に見られたC=Oの吸収が消失し、あらたに1690cm-1にC=Nに起因する吸収が見られたことを確認した。このポリベンゾオキサゾール樹脂は、下記式(16)で表わされる繰り返し単位を有するポリマーである。
【0224】
【化76】

【0225】
[比較例2]
(1)ジカルボン酸ジクロリドの合成
テトラフルオロイソフタル酸を、実施例1の(2)と同様にして、塩化チオニルと脱水N,N−ジメチルホルムアミドを用いて3時間反応させた。減圧蒸留により、沸点:70〜73℃/2mmHgで、目的のテトラフルオロイソフタル酸ジクロリドが無色透明の液体として得られた。純度を上げるため、再度減圧蒸留を行い、純度99.9%程度のものが得られた。
【0226】
(2)ポリベンゾオキサゾール前駆体ポリアミドの合成
実施例1の(1)で得られた2,2−ビス[4−(トリメチルシロキシ)−3−〔(トリメチルシリル)アミノ〕−フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン4.24g(6.38mmol相当)を、100mLなすフラスコ中で脱水DMAcに溶解させて、窒素気流下で−50℃に冷却した後、滴下ロートから上記の(1)で得られたテトラフルオロイソフタル酸ジクロリド1.75g(6.38mmol)を一気に滴下したのち、反応容器の温度を0℃に保って12時間反応させた。得られた溶液をメタノールで処理したのち、エバポレーターでエタノールとDMAcを留去した。その後、メタノール/クロロホルムで再沈精製し、減圧乾燥して、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を収率90%で得た。LiBr−NMP(臭素化リチウムを溶解させたN−メチルピロリドン)を展開溶液とするGPCによって分子量測定を行った結果、ポリスチレン換算の分子量は、Mw=23,000であった。この前駆体は、下記式(17)で表わされる繰り返し単位を有するものである。
【0227】
【化77】

【0228】
(3)ポリベンゾオキサゾールフィルムの作製
上記(2)で得られたポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体をNMPに溶解し、フィルター濾過の後、固形分30%のワニスを得た。得られたワニスをガラス基板上に塗布して、窒素中で70℃から順次加熱して最終330℃で1時間加熱した。この操作により、厚さ約50μmのポリベンゾオキサゾール樹脂フィルムが得られた。
【0229】
IR: 1620 (C=N)
【0230】
このポリベンゾオキサゾール樹脂は、下記式(18)で表わされる繰り返し単位を有するポリマーである。
【0231】
【化78】

【0232】
[実施例3]
<波長1.55μmにおける屈折率測定>
実施例1〜2及び比較例1〜2で得られたポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体をSiO2表面酸化膜付きのシリコンウェハ上にスピンコートし、窒素気流下で徐々に昇温して最終的に約320℃でベーキングして、約10μmのポリベンゾオキサゾール樹脂膜へと変化させた。その後、メトリコン(Metricon)社製のプリズムカップラー(Model 2010 PRISM COUPLER)を用いて、室温で屈折率測定を行った。結果を表1に示す。
【0233】
【表1】

【0234】
表1の結果からわかるように、本発明の主鎖にフレキシブルなフェニレンエーテル構造を導入したフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂(実施例1〜2)は、主鎖にパーフルオロフェニレン基やパーフルオロビフェニレン基を持つフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂(比較例1〜2)に比べて、より低い屈折率を有していることが明らかとなった。したがって、本発明のポリベンゾオキサゾール樹脂は、低屈折率が求められる光学用途の材料として極めて好適に用いることができる。
【0235】
また、これらのポリベンゾオキサゾール樹脂は、任意の割合でモノマーを混合して共重合することが可能であり、実施例1〜2及び比較例1〜2のポリベンゾオキサゾール樹脂の屈折率の値から、共重合比率を変化させることにより、各単独重合体の屈折率の範囲内で、自由に屈折率を制御することが可能である。したがって、共重合により、光デバイスの設計要求に合わせた屈折率のポリベンゾオキサゾール共重合体を得ることができる。
【0236】
さらに、一般に屈折率nと比誘電率εの間には、例えば、経験式ε=1.1×n2などの関係が概ね成り立つとされており、本発明のフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂は、低誘電率を有する高周波エレクロニクス用材料として極めて有望である。
【0237】
[実施例4]
<動的粘弾性測定>
実施例1〜2及び比較例1〜2で得られたフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体ワニスをガラス基板上にドクターナイフでコートして、窒素気流下で室温から徐々に温度を上げ、最終的に320℃で1時間ベーキングして、約50μmの厚さのフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂フィルムを得た。このフィルムを切り出したサンプルにて、動的粘弾性測定を行った。得られた結果のうち、弾性率Erの値を比較して図1に示す。
【0238】
実施例1で得られたパーフルオロ−p−フェニレンエーテルを持つフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂は、290℃以上の温度で急激に弾性率が低下しており、様々な熱加工が可能な熱可塑性を有していることがわかる。また、実施例2で得られたパーフルオロ−m−フェニレンエーテルを持つフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂は、250℃以上の温度で急激に弾性率が低下しており、様々な熱加工が可能な熱可塑性を有していることがわかる。
【0239】
これに対して、比較例1及び比較例2で得られたフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂は、400℃程度の高温でも、その弾性率はほとんど低下しておらず、高い耐熱性を示している。
【0240】
実施例2で得られたフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂の特性は、同じ図中に示した市販の熱可塑性ポリイミド(三井化学社製、商品名「オーラム」)とほぼ同程度の弾性率変化を示しており、良好な加工性を有していることがわかる。
【0241】
[参考例1]
(1)ジカルボン酸ジクロリドの合成
反応容器に、オクタフルオロアジピン酸(Exfluor Research Corp. 社製、純度98%の白色粉末)29.0g(0.10mo1)、塩化チオニル50mL、及び脱水N,N−ジメチルホルムアミド0.5mLを入れると、発熱反応した。40℃で2時間反応させた後、過剰の塩化チオニルを加熱減圧により留去し、その後、減圧蒸留、さらに再度精密蒸留(沸点:〜68℃/130mmHg)することによって、無色透明の液体として、目的物のオクタフルオロアジピン酸ジクロリド24.2g(0.074mo1)を得た。生成物の純度は、99.9%以上(GC)であった。
【0242】
(2)ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体(共重合体)の合成
実施例1の(2)で合成した2,2−ビス[4−(トリメチルシロキシ)−3−〔(トリメチルシリル)アミノ〕−フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン6.66g(10mmo1)を、100mLなすフラスコ中で脱水THFに溶解させた。得られた溶液を窒素気流下で−50℃に冷却した後、滴下ロートから上記(1)で合成したオクタフルオロアジピン酸ジクロリド1.64g(5.0mmo1)、及び比較例1の(1)で合成した2,3,5,6,2′,3′,5′,6′−オクタフルオロビフェニル−4,4′−ジカルボン酸ジクロリド2.12g(5.0mmol)を一気に滴下した。その後、反応容器の温度を約0℃に保って3時間反応させ、さらに室温で3時間反応させた。
【0243】
得られた溶液を約100mLのメタノールに加えて脱シリル化処理し、その混合溶液をエバポレーターにかけてメタノールとTHFを留去したところ、透明から白色のフィルム状の固体が析出した。これをメタノール/クロロホルムで再沈精製し、減圧乾燥して、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体(コポリアミド樹脂)を収率90%で得た。
【0244】
LiBr−NMP(臭素化リチウムを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン)を展開溶液とするGPCによって分子量測定を行った結果、ポリスチレン換算の分子量は、Mw=79,000、Mw/Mn=1.57であった。得られたポリマーは、THF、メタノール、N−メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドに可溶であった。
【0245】
1H−NMR、13C−NMR、19F−NMRの分析によって、主鎖にパーフルオロアルキル基を持つポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体(共重合体;コポリアミド樹脂)が、仕込み比通りの1:1の比率で重合しており、構造式通り合成できていることが確認できた。
【0246】
1H-NMR(400MHz,DMSO-d6):7.05(8H,m,Ar-H),7.41(2H,m,Ar-H),8.35(2H,m,Ar-H),10.50 - 10.80(8H,-NH and -OH)
13C-NMR(100MHz,DMSO-d6):63.2(m,-C(CF3)2-),106.9,109.3(tt,-CF2-),110.8(tt,-CF2-),115.5,116.5,119.9(t),122.4,122.6,123.4,124.4(q,-CF3),125.4,127.6,130.1,142.3,144.7,148.9,152.4,155.9(C=O),156.1(t,C=O)
19F-NMR(376MHz,DMSO-d6):-142.1(4F,s,Ar-F),-139.3(4F,s,Ar-F),-122.7(4F,s,-CF2-),-119.2(4F,s,-CF2-),-64.5(12F,m,-CF3)
IR:3300cm-1(br,-OH and -NH),1700cm-1(C=O)
【0247】
(3)ポリベンゾオキサゾールフィルムの作製
前記(2)で得られた主鎖にパーフルオロアルキレン基を持つポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体をNMPに溶解し、フィルターで濾過後、固形分30%のワニスを得た。得られたワニスをガラス基板上に塗布して、窒素雰囲気中で70℃から順次昇温して加熱し、最終的に300℃の温度で1時間加熱した。この操作により、厚さ約50μmのポリベンゾオキサゾール樹脂フィルムが得られた。
【0248】
このフィルムについて、赤外吸収スペクトルを測定したところ、前駆体に見られた波数3300cm-1及び1700cm-1の吸収が消失し、1810cm-1及び2260cm-1付近にC=N結合に由来するピークが現れており、目的とする主鎖にパーフルオロアルキル基を持つポリベンゾオキサゾール樹脂が得られたことが確認された。この反応を下記式(19)に示す(p:q=1:1)。
【0249】
【化79】

【0250】
上記フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂について、実施例3と同様にして測定した波長1.55μmでの屈折率は、1.510であった。
【0251】
[実施例5]
<光導波路の作製>
以下の手順で図2に示す構造を有する光学素子(1チップ分のみ図示)を作製した。厚さ1mm、直径100mm、厚さ1μmの熱酸化膜付きシリコンウェハ22上に、参考例1で合成したフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体(共重合体)のワニスをスピンコートし、加熱することにより、厚み10μmの下部クラッド層であるフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂層(波長1.55μmにおける屈折率1.50)25を形成した。この下部クラッド層上に、実施例1で合成したフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体のワニスをスピンコートし、加熱することにより、厚み8μmのコア層26であるフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂層(波長1.55μmにおける屈折率1.516)を形成した。
【0252】
この後、このコア層26上に厚み1.2μmのポジ型フォトレジスト(NTT−AT製DLR−501)をスピンコートにて形成し、フォトマスクを介した紫外線露光と現像を行い、幅8μmの直線パターンを形成した。このパターニング後のシリコンウェハを、反応性イオンエッチング装置を用いて、酸素ラジカルにてコア層を基板厚み方向に異方性エッチングして、高さ8μmのコアリッジを得た。
【0253】
レジストを剥離した後、参考例1で合成したフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体のワニスをスピンコートし、加熱することにより、厚み15μmの上部クラッド層であるフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂層25(下部層と同じ符号で示す)を形成し、シリコンウェハ上に光導波路を形成した。最後にダイシングマシンにて、所望の長さと幅に切断し、導波路チップ21を得た。光波長1.55μmで、この導波路チップの導波損失をカットバック法にて測定したところ、0.5dB/cmであった。
【0254】
2種の屈折率の異なるフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂同士であれば、屈折率の高いものをコア層26、屈折率の低いものをクラッド層25とすることで、光導波路を作製することが可能であり、本実施例の組み合わせに限定されるものではない。図2に示す光学素子21は、シリコンウェハ22、V字溝23、電極24、クラッド樹脂層25、コア樹脂26、電極27、及びアライメントマーク28、28を備えたものである。
【0255】
[実施例6]
<ホットエンボス法による導波路の作製>
(1)フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体(共重合体)の合成
実施例1の(2)で合成した2,2−ビス[4−(トリメチルシロキシ)−3−〔(トリメチルシリル)アミノ〕−フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン10mmo1に対して、実施例2の(2)で合成した1,3−ビス(4−カルボキシ−2,3,5,6−テトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼンのジカルボン酸ジクロリド7mmolと比較例1の(1)で合成した2,3,5,6,2′,3′,5′,6′−オクタフルオロビフェニル−4,4′−ジカルボン酸ジクロリド3mmolとを、実施例1と同様にして反応させ、フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体(共重合体)を合成した。
【0256】
該フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体をNMPに溶解し、フィルターで濾過後、固形分30%のワニスを得た。得られたワニスをガラス基板上に塗布して、窒素雰囲気中で70℃から順次昇温して加熱し、最終的に300℃の温度で1時間加熱した。この操作により、厚さ約50μmのフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂フィルムが得られた。この反応を下記式(20)に示す(p:q=7:3)。
【0257】
【化80】

【0258】
上記フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂について、実施例3と同様にして測定した波長1.55μmでの屈折率は、1.520であった。
【0259】
(2)導波路の作製
図3に示す手順で、シリコンウェハ上に直線導波路を作製した。厚さ1mm、直径100mm、熱酸化膜(厚さ1μm)付きシリコンウェハ31上に、実施例2で合成したフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂(波長1.55μmにおける屈折率1.513)の前駆体のワニスをスピンコートし、窒素下、260℃で2時間加熱することにより、厚さ20μmの下部クラッド層32であるフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂層を形成した〔図3(a)〕。
【0260】
この下部クラッド層32に対して、、ホットエンボス装置(明昌機工株式会社製)により、SR光を利用したLIGAプロセスで作製した直線リッジ(凸型)形状(幅12μm、高さ13μm、長さ25mm)のNi電鋳金型33を用いてホットエンボス加工を行った。実施例2のフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂のガラス転移温度Tg+30〜40℃の温度に該当する280℃/8000N/10分間の加熱加圧を行い、目的とする深さ13μm、幅12μmの溝34をきれいに転写することができた。加熱加圧後の脱型は、50℃で行った〔図3(b)〕。
【0261】
次に、ホットエンボス加工を行った樹脂上に、上記で合成したフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体(共重合体)のワニス(ポリベンゾオキサゾール樹脂に変換後の波長1.55μmにおける屈折率1.520)をスピンコートし、窒素下、230℃で2時間加熱し、厚さ約6μmの樹脂層35を形成した。このとき、既に形成した下部クラッド層の溝34にきれいに樹脂が充填されていることを確認した〔図3(c)〕。
【0262】
この後、この樹脂層上の全面を、反応性イオンエッチング装置を用いて、酸素ラジカルにて樹脂層を基板厚さ方向に7〜8μm異方性エッチングして、下部クラッド層が表面に出てきて、溝部にはコア層36が充填されている形状を得た〔図3(d)〕。
【0263】
次いで、実施例2で合成したフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体のワニスをスピンコートし、同様に加熱することにより、厚さ15μmの上部クラッド層37であるフッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂層を形成し、シリコンウェハ31上に直線光導波路を形成した〔図3(e)〕。
【0264】
最後に、ダイシングマシーンにて、所望の長さと幅に切断し、導波路チップを得た。光波長1.55μmで、この導波路チップの導波損失をカットバック法にて測定したところ、0.6dB/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0265】
本発明の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂とその前駆体は、光通信に使用される近赤外領域で高い透明性と低い屈折率を示し、かつ高周波エレクトロニクス材料として有用な低誘電率を有し、しかも加工性に優れている。そのため、本発明の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂とその前駆体は、光学素子、光学部品、高周波エレクトロニクス部品などの樹脂材料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0266】
【図1】ポリベンゾオキサゾール樹脂の弾性率Erのグラフ
【図2】光学素子(1チップ分)の一例を示す説明図
【図3】ホットエンボス法による導波路の作製例を示す説明図。
【符号の説明】
【0267】
21:光学素子、
22:シリコンウェハ、
23:V字溝、
24:電極、
25:クラッド樹脂層、
26:コア樹脂、
27:電極、
28:アライメントマーク、
31:シリコンウェハ、
32:下部クラッド層、
33:直線リッジ形状の金型、
34:溝、
35:樹脂層、
36:コア層、
37:上部クラッド層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1は、4価の有機基である。R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。R14及びR15は、有機ケイ素基または水素原子である。)
で表わされる繰り返し単位を有し、かつゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによりポリスチレン換算値として測定される重量平均分子量が3,000〜1,000,000の範囲内である熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体。
【請求項2】
前記式(1)で表わされる繰り返し単位が、下記式(1a)
【化2】

(式中、Yは、単結合または2価の有機基である。R14及びR15は、有機ケイ素基または水素原子である。)
で表わされる繰り返し単位である請求項1記載の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体。
【請求項3】
請求項1記載の式(1)で表わされる繰り返し単位を有し、かつゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによりポリスチレン換算値として測定される重量平均分子量が3,000〜1,000,000の範囲内である熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を環化して得られる、下記式(I)
【化3】

(式中、R1は、4価の有機基である。R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。)
で表わされる繰り返し単位を有する熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂。
【請求項4】
前記式(I)で表わされる繰り返し単位が、下記式(Ia)
【化4】

(式中、Yは、単結合または2価の有機基である。)
で表わされる繰り返し単位である請求項3記載の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂。
【請求項5】
下記式(3)
【化5】

(式中、R1は、4価の有機基である。R14、R15、R29及びR30は、有機ケイ素基または水素原子である。)
で表わされるビスアミノフェノール化合物と、下記式(4)
【化6】

(式中、R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。Xは、ハロゲン原子である。)
で表わされるフッ素化フェニレンエーテル型ジカルボン酸ハライドとを、有機溶媒中で反応させることを特徴とする、式(1)
【化7】

(式中、R1は、4価の有機基である。R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。R14及びR15は、有機ケイ素基または水素原子である。)
で表わされる繰り返し単位を有し、かつゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによりポリスチレン換算値として測定される重量平均分子量が3,000〜1,000,000の範囲内である熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体の製造方法。
【請求項6】
式(1)
【化8】

(式中、R1は、4価の有機基である。R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。R14及びR15は、有機ケイ素基または水素原子である。)
で表わされる繰り返し単位を有し、かつゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによりポリスチレン換算値として測定される重量平均分子量が3,000〜1,000,000の範囲内である熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を加熱して、脱シラノールもしくは脱水により環化することを特徴とする、下記式(I)
【化9】

(式中、R1は、4価の有機基である。R2〜R13は、フッ素原子、水素原子または有機基であり、少なくとも一つはフッ素原子またはフッ素原子を含む有機基である。)
で表わされる繰り返し単位を有する熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂の製造方法。
【請求項7】
光学素子、光学部品及び高周波エレクトロニクス部品からなる群より選ばれる成形体であって、該成形体を構成する少なくとも一部の部材が請求項3または4記載の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂から形成されたものであることを特徴とする成形体。
【請求項8】
光学素子、光学部品及び高周波エレクトロニクス部品からなる群より選ばれる成形体の製造方法であって、請求項1または2記載の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体を、該成形体を構成する少なくとも一部の部材の形状に成形した後、加熱して脱シラノールもしくは脱水により環化して熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂に変換することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項9】
光学素子、光学部品及び高周波エレクトロニクス部品からなる群より選ばれる成形体の製造方法であって、請求項3または4記載の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂を、その熱可塑性を利用して加熱変形させることにより、必要な部材の形状に成形することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項3または4記載の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂と、他のポリマー、充填剤、及び感光性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種とを含有する樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1または2記載の熱可塑性フッ素化ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体と、他のポリマー、充填剤、及び感光性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種とを含有する樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−56939(P2006−56939A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238052(P2004−238052)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】