説明

熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法

【課題】厚み精度の向上を図ることができ、幅方向・長手方向に光学特性が均一な光学用途のフィルムを得ることのできる熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】溶融状態の熱可塑性樹脂をダイ24からシート状に押し出し、シートを、冷却ローラ27と、冷却ローラ27に圧接するように設けられた押圧ローラ26と、で挟んで冷却固化することによってフィルム12を製膜する製膜工程部14と、熱可塑性樹脂フィルム12を1軸又は2軸延伸する延伸工程部16、18と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法に係り、特に液晶表示装置に好適な品質を有する熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂フィルムを延伸し、面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させ、液晶表示素子の位相差膜として使用し、視野角拡大を図ることが実施されている。
【0003】
このような熱可塑性樹脂フィルムを延伸する方法として、フィルムの縦(長手)方向に延伸する方法(縦延伸)や、フィルムの横(幅)方向に延伸する方法(横延伸)、あるいは縦延伸と横延伸を同時に行う方法(同時延伸)が挙げられる。これらのうち、縦延伸は設備がコンパクトなため、従来から多く用いられてきた。通常、縦延伸は、2対以上のニップローラの間でフィルムをガラス転移温度(Tg)以上に加熱し、入口側のニップローラの搬送速度より出口側の搬送速度を速くすることで縦方向に延伸する方法である。
【0004】
特許文献1には、セルロースエステルを縦延伸する方法が記載されている。この特許文献1は、縦延伸する方向を流延製膜方向と逆にすることで遅相軸の角度むらを改良したものである。また、特許文献2には、縦横比(L/W)が0.3以上、2以下の短スパン間に設置したニップローラを延伸ゾーン中に設置して延伸する方法が記載されている。この特許文献2によれば、厚み方向の配向(Rth)を改良することができる。ここで云う縦横比とは、延伸に用いるニップローラの間隔(L)を延伸する熱可塑性樹脂フィルムの幅(W)で割った値を指す。
【特許文献1】特開2002−311240号公報
【特許文献2】特開2003−315551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、延伸前(未延伸)の熱可塑性樹脂フィルムを、溶融樹脂を冷却ローラ上で冷却固化することで製膜するキャスティングドラム法で製膜する場合、熱可塑性樹脂は溶融粘度が高いためにレベリングしにくいという問題がある。このため、キャスティングドラム法で製膜した熱可塑性樹脂フィルムは、厚み精度が低いという問題が発生する。また、キャスティングドラム法で製膜した熱可塑性樹脂フィルムを延伸すると、レターデーションRe、Rthの分布が発生し、高い光学特性が得られないという問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、厚み精度の向上を図ることができ、幅方向・長手方向に光学特性が均一な光学用途のフィルムを得ることのできる熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、前記目的を達成するために、溶融状態の熱可塑性樹脂をダイからシート状に押し出し、該シートを、冷却ローラと、該冷却ローラに圧接するように設けられた押圧ローラと、で挟んで冷却固化することによってフィルムを製膜する製膜工程部と、該熱可塑性樹脂フィルムを1軸又は2軸延伸する延伸工程部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明の発明者は、製造されたフィルムの厚みムラ及びレターデーションRe、Rthの分布が発現する原因について鋭意研究した結果、タッチロール法によってフィルムを製造することで解決できることを見出した。このタッチロール法は、ダイから押し出された樹脂を一対のローラで挟み込みながら冷却する方法であり、厚み精度を向上させることができる。そして、レターデーションRe、Rthの分布が発現する原因については、延伸前のフィルムの厚みムラに起因することを見出し、厚み精度の良いタッチロール法で製膜したフィルムは、延伸しても均一に延伸されるため延伸ムラが生じにくく、レターデーション分布を抑えることができることを見出した。
【0009】
請求項1によれば、冷却ローラと押圧ローラとで挟んで冷却固化することによってフィルムを製膜する製膜工程部と、熱可塑性樹脂フィルムを1軸又は2軸延伸する延伸工程部と、を備えているので、厚み精度の良い、幅方向・長手方向に光学特性が均一な光学用途の熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1の発明において、前記延伸工程部で延伸された熱可塑性樹脂フィルムは、幅方向、長手方向における厚みの変動が10%以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、厚み精度の良い熱可塑性樹脂フィルムを得ることができるので、フィルムの幅方向及び長手方向における厚みの変動を10%以下にすることができる。尚、厚みの変動は、8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、2%以下であることが最も好ましい。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記延伸工程部で延伸された熱可塑性樹脂フィルムは、幅方向、長手方向における面内のレターデーション(Re)及び厚み方向のレターデーション(Rth)の変動が10%以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、厚み精度の良い、幅方向・長手方向に光学特性が均一な光学用途の熱可塑性樹脂フィルムを得ることができるので、幅方向・長手方向におけるRe、Rthの変動が10%以下である熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。尚、Re、Rthの変動は、8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、2%以下であることが最も好ましい。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れかの発明において、前記延伸工程部で延伸された熱可塑性樹脂フィルムは、面内のレターデーション(Re)及び厚み方向のレターデーション(Rth)の絶対値が500nm以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、製膜工程部で製膜された熱可塑性樹脂フィルムを延伸工程部で1軸又は2軸延伸するので、Re及びRthの絶対値が500nm以下の熱可塑性樹脂フィルムを好適に製造することができる。
【0016】
請求項5は請求項1〜4の何れか1に記載の製造方法で製造されたことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムである。
【0017】
請求項6は請求項5の発明において、前記熱可塑性樹脂は、セルロースアシレート樹脂であることを特徴とする。
【0018】
本発明は、レターデーション発現性の良いセルロースアシレートフィルムの製造において特に有効である。
【0019】
請求項7は請求項6の発明において、前記セルロースアシレート樹脂は、Xをアセチル基の置換度、Yをプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和としたときに、アシレート基が下記の置換度、2.0≦X+Y≦3.0、0≦X≦2.0、1.2≦Y≦2.9、を満足することを特徴とする。
【0020】
このような置換度を満足する熱可塑性樹脂フィルムは、融点が低い、延伸し易い、防湿性に優れているという特徴を有するので、液晶表示素子の位相差膜等の機能性フィルムとして優れた熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【0021】
請求項8は請求項5の発明において、前記熱可塑性樹脂は、飽和ノルボルネン樹脂であることを特徴とする。
【0022】
本発明は、レターデーション発現性の良い飽和ノルボルネンフィルムの製造において特に有効である。
【0023】
請求項9は請求項5の発明において、前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする。
【0024】
本発明は、レターデーション発現性の良いポリカーボネートフィルムの製造において特に有効である。
【0025】
請求項10は請求項5〜9の熱可塑性樹脂フィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板であり、請求項11は請求項5〜9の熱可塑性樹脂フィルムを基材に用いたことを特徴とする液晶表示板用光学補償フィルムであり、請求項12は請求項5〜9の熱可塑性樹脂フィルムを基材に用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
【0026】
請求項5〜9の熱可塑性樹脂フィルムは高い光学特性を有しているので、液晶表示板用光学補償フィルム、偏光板、反射防止フィルムに適している。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、厚み精度の向上を図ることができ、幅方向・長手方向に光学特性が均一な光学用途のフィルムを得ることのできる熱可塑性樹脂フィルム及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下添付図面に従って本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法の好ましい実施の形態について説明する。なお、本実施の形態では、熱可塑性樹脂フィルムとして、セルロースアシレートフィルムを製造する例を示すが、本発明はこれに限定するものではなく、飽和ノルボルネン樹脂やポリカーボネート樹脂等の製造にも適用することができる。また、本実施の形態では、押圧ローラが金属製の弾性ローラである場合で説明する。
【0029】
図1は、熱可塑性樹脂フィルムの製造装置の概略構成の一例を示している。図1に示すように製造装置10は主として、延伸前のセルロースアシレートフィルム12を製造する製膜工程部14と、製膜工程部14で製造されたセルロースアシレートフィルム12を縦延伸する縦延伸工程部16と、横延伸する横延伸工程部18と、延伸されたセルロースアシレートフィルム12を巻き取る巻取工程部20とで構成される。
【0030】
製膜工程部14では、押出機22で溶融されたセルロースアシレート樹脂がダイ24からシート状に吐出され、回転する一対のローラ26、27間に供給される。そして、ローラ27上で冷却されて固化したセルロースアシレートフィルム12がローラ27から剥離された後、縦延伸工程部16、横延伸工程部18に順に送られて延伸され、巻取工程部20でロール状に巻き取られる。これにより、延伸セルロースアシレートフィルム12が製造される。以下、各工程部の詳細について説明する。
【0031】
図2に製膜工程部14の単軸スクリューの押出機22を示す。図2に示すように、シリンダ32内にはスクリュー軸34にフライト36を有する単軸スクリュー38が配設され、図示しないホッパーからセルロースアシレート樹脂が供給口40を介してシリンダ32内に供給される。シリンダ32内は供給口40側から順に、供給口40から供給されたセルロースアシレート樹脂を定量輸送する供給部(Aで示す領域)と、セルロースアシレート樹脂を混練・圧縮する圧縮部(Bで示す領域)と、混練・圧縮されたセルロースアシレート樹脂を計量する計量部(Cで示す領域)とで構成される。押出機22で溶融されたセルロースアシレート樹脂は、吐出口42からダイ24に連続的に送られる。
【0032】
押出機22のスクリュー圧縮比は、2.5〜4.5に設定され、L/Dは20〜50に設定されている。ここで、スクリュー圧縮比とは、供給部Aと計量部Cとの容積比、即ち供給部Aの単位長さ当たりの容積÷計量部Cの単位長さ当たりの容積で表され、供給部Aのスクリュー軸34の外径d1、計量部Cのスクリュー軸34の外径d2、供給部Aの溝部径a1、及び計量部Cの溝部径a2とを使用して算出される。また、L/Dとは、図2のシリンダ内径(D)に対するシリンダ長さ(L)の比である。また、押出温度は190〜240℃に設定される。押出機22内での温度が240℃を超える場合には、押出機22とダイ24との間に冷却機(図示せず)を設けるようにするとよい。
【0033】
尚、押出機22は、1軸押出機でも2軸押出機でもよいが、スクリュー圧縮比が2.5を下回って小さすぎると、十分に混練されず、未溶解部分が発生したり、剪断発熱が小さく結晶の融解が不十分となり、製造後のセルロースアシレートフィルムに微細な結晶が残存し易くなり、さらに、気泡が混入し易くなる。これにより、セルロースアシレートフィルム12を延伸したときに、残存した結晶が延伸性を阻害し、配向を十分に上げることができなくなる。逆に、スクリュー圧縮比が4.5を上回って大きすぎると、剪断応力がかかり過ぎて発熱により樹脂が劣化し易くなるので、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色みが出易くなる。また、剪断応力がかかり過ぎると分子の切断が起こり分子量が低下してフィルムの機械的強度が低下する。従って、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色みが出にくく且つ延伸破断しにくくするためには、スクリュー圧縮比は2.5〜4.5の範囲が良く、より好ましくは2.8〜4.2の範囲、特に好ましくは3.0〜4.0の範囲である。
【0034】
また、L/Dが20を下回って小さすぎると、溶融不足や混練不足となり、圧縮比が小さい場合と同様に製造後のセルロースアシレートフィルムに微細な結晶が残存し易くなる。逆に、L/Dが50を上回って大きすぎると、押出機22内でのセルロースアシレート樹脂の滞留時間が長くなり過ぎ、樹脂の劣化を起こし易くなる。また、滞留時間が長くなると分子の切断が起こり分子量が低下してフィルムの機械的強度が低下する。従って、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色みが出にくく且つ延伸破断しにくくするためには、L/Dは20〜50の範囲が良く、好ましくは22〜45の範囲、特に好ましくは24〜40の範囲である。
【0035】
また、押出温度が190℃を下回って低すぎると、結晶の融解が不十分となり、製造後のセルロースアシレートフィルムに微細な結晶が残存し易くなり、セルロースアシレートフィルムを延伸したときに、延伸性を阻害し、配向を十分に上げることができなくなる。逆に、押出温度が240℃を超えて高すぎると、セルロースアシレート樹脂が劣化し、黄色み(YI値)の程度が悪化してしまう。従って、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色みが出にくく且つ延伸破断しにくくするためには、押出温度は190℃〜240℃が良く、好ましくは195℃〜235℃の範囲、特に好ましくは200℃〜230℃の範囲である。
【0036】
上記の如く構成された押出機22を用いてセルロースアシレート樹脂が溶融され、この溶融樹脂がダイ24に連続的に供給され、ダイ24の先端(下端)からシート状に吐出される。吐出されたときのセルロースアシレート樹脂のゼロせん断粘度が2000Pa・sec以下であることが好ましい。ゼロせん断粘度が2000Pa・secを超えてしまうと、ダイから吐出された溶融樹脂が吐出直後に大きく広がってダイの先端部に付着しやすく、これが汚れとなってスジ故障を発生しやすくなってしまう。吐出された溶融樹脂は、ローラ26、27(図1参照)の間に供給される。
【0037】
図3は、ローラ26、27の一実施形態を示したものである。ローラ26、27は、押圧ローラ26、冷却ローラ27となっている。
【0038】
ローラ26、27は、表面が鏡面、或いは鏡面に近い状態になっており、算術平均高さRaが100nm以下、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下に鏡面化される。また、ローラ26、27は、その表面温度を制御できるように構成されており、例えばローラ26、27の内部に水等の液状媒体を循環させることによって、表面温度を制御できるようになっている。さらに、ローラ26、27は、モータ等の回転駆動手段に接続されており、略同じ表面速度で回転するようになっている。
【0039】
ローラ26、27のうち、押圧ローラ26は、もう一方の冷却ローラ27よりも小さい径で形成されており、表面が金属材から成り、その表面温度を精度良く制御できるようになっている。押圧ローラ26は、外層から、外殻を構成する金属筒(外筒)44、液状媒体層46、弾性体層(内筒)48、金属シャフト50の順で構成されている。シート状の溶融樹脂を介して接触する冷却ローラ27の回転により押圧ローラ26の外筒44及び内筒48は回転する。一対のローラ26、27でシート状の溶融樹脂を挟持すると、押圧ローラ26がシートを介して冷却ローラ27からの反力を受け、冷却ローラ27の面に倣って凹状に弾性変形する。従って、弾性ローラ26と冷却ローラ27はシートに対して面接触するとともに、弾性変形した弾性ローラ26の形状が元に戻る復元力によって、挟持されたシートは面状に押圧されながら、冷却ローラ27で冷却される。外殻を構成する金属筒44は、金属薄膜で作られており、溶接継ぎ部のないシームレス構造であることが好ましい。また、金属筒44の肉厚Zは、0.05mm<Z<7.0mmの範囲である。ここで、弾性ローラの金属筒の肉厚Zは0.05mm以下であると、前記復元力が小さく面質改善効果が得られないだけでなく、ローラ強度が弱くなるためである。また、7.0mm以上であると、弾性が得られず残留歪みの解消効果が出ないからである。尚、金属筒の肉厚Zは0.05mm<Z<7.0mmを満たせば問題ないが、0.2mm<Z<5.0mmであることがより好ましい。
【0040】
また、セルロースアシレート樹脂のガラス転移温度Tg(℃)− 弾性ローラ26の温度(℃)をX(℃)、製膜工程における製膜速度をY(m/min)としたとき、0.0043X2 +0.12X+1.1<Y<0.019X2 +0.73X+24、を満たすように製膜速度Yと押圧ローラ26の温度を設定する。製膜速度Yが0.0043X2 +0.12X+1.1以下となると押圧する時間が長すぎてフィルムに残留歪みが発現してしまい、製膜速度Yが0.019X2 +0.73X+24以上になると冷却する時間が短かすぎてフィルムを徐冷することができず押圧ローラ26へ貼り付いてしまうからである。例えば、セルロースアシレート樹脂のTgが120℃の場合、ポリシングローラ26の温度が115℃、90℃、60℃であるときに、フィルムに残留歪みが発現するのは製膜速度Yが夫々1m/min、8m/min、23m/min以下のときであり、押圧ローラへ貼り付いてしまうのは製膜速度Yが夫々29m/min、64m/min、137m/min以上のときであった。また、様々な樹脂に対しても実験を行い、これらの実験データよりXとYの関係式は求めた。尚、冷却ローラ28の温度は押圧ローラ26の温度に対し±20℃以内であることが必要であり、好ましくは±15℃以内、更に好ましくは±10℃である。
【0041】
更に、一対のローラ26、27の押圧ローラ26と冷却ローラ27とが接触している長さをQ(cm)、押圧ローラ26と冷却ローラ27とでシート状のセルロースアシレート樹脂を挟む線圧をP(kg/cm)としたとき、3kg/cm2 <P/Q<50kg/cm2 、を満たすように線圧Pと接触長さQを設定する。ここで、P/Qが3kg/cm2 以下であると樹脂を面状に押圧する押圧力が小さすぎて面状改善効果がなく、P/Qが50kg/cm2 以上であると押圧力が大きすぎてフィルムの残留歪みが発生してしまい、レターデーションが発現する。
【0042】
上記の如く構成された製膜工程部14によれば、ダイ24からセルロースアシレート樹脂を吐出することにより、吐出されたセルロースアシレート樹脂が一対のローラ26、27間で極く僅かな液溜まり(バンク)を形成し、このセルロースアシレート樹脂が一対のローラ26、27で挟圧されて厚みが調整されながらシート状になる。その際、押圧ローラ26がセルロースアシレート樹脂を介して冷却ローラ27からの反力を受け、冷却ローラ27の面に倣って凹状に弾性変形し、セルロースアシレート樹脂は押圧ローラ26と冷却ローラ27によって面状に押圧される。そして、上述した条件を満たす金属筒の肉厚Z、温度、線圧、冷却長さ、を満たすローラ26、27で挟圧してフィルム12を製膜すると、スジ故障がなく、厚み精度が高く、且つ、残留歪みが抑制されレターデーションの小さな光学フィルムに適したセルロースアシレートフィルム12を製造することができる。また、上記の如く構成された製膜工程部14において、フィルム厚みが20〜300μm、面内のレターデーションReが20nm以下、厚み方向のレターデーションRthが20nm以下であるセルロースアシレートフィルム12を製造することができる。
【0043】
ここで、レターデーションRe、Rthは、以下の式で求められる。
【0044】
Re(nm) =|n(MD)−n(TD)|×T(nm)
Rth(nm)=|{(n(MD)+n(TD))/2}−n(TH)|×T(nm)
式中のn(MD)、n(TD)、n(TH)は長手方向、幅方向、厚み方向の屈折率を示し、Tはnm単位で表した厚みを示す。
【0045】
一対のローラ26、27で挟圧されたフィルム12は、冷却ローラ27に巻きかけられて冷却された後、冷却ローラ28、冷却ローラ29と順次に送られ、冷却ローラ29の表面から剥離され、後段の縦延伸工程部16に送られる。
【0046】
以下に、製膜工程部14で製造したセルロースアシレートフィルム12を延伸し、延伸セルロースアシレートフィルム12を製造するまでの延伸工程について説明する。
【0047】
セルロースアシレートフィルム12の延伸は、セルロースアシレートフィルム12中の分子を配向させ、面内のレターデーション(Re)と厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させるために行われる。
【0048】
図1に示すように、セルロースアシレートフィルム12は、先ず、縦延伸工程部16で長手方向に縦延伸される。縦延伸工程部16では、セルロースアシレートフィルム12が予熱された後、セルロースアシレートフィルム12が加熱された状態で、二つのニップローラ30、31に巻き掛けられる。出口側のニップローラ31は、入口側のニップローラ30よりも早い搬送速度でセルロースアシレートフィルム12を搬送しており、これによって、セルロースアシレートフィルム12が縦方向に延伸される。
【0049】
縦延伸工程部16における予熱温度はTg−40℃以上、Tg+60℃以下が好ましく、Tg−20℃以上、Tg+40℃以下がより好ましく、Tg以上、Tg+30℃以下がさらに好ましい。また、縦延伸工程部16の延伸温度は、Tg以上、Tg+60℃以下が好ましく、Tg+2℃以上、Tg+40℃以下がより好ましく、Tg+5℃以上、Tg+30℃以下がさらに好ましい。縦方向の延伸倍率は1.0倍以上2.5倍以下が好ましく、1.1倍以上、2倍以下がさらに好ましい。
【0050】
縦延伸されたセルロースアシレートフィルム12は、横延伸工程部18に送られ、幅方向に横延伸される。横延伸工程部18では例えばテンターを好適に用いることができ、このテンターによってセルロースアシレートフィルム12の幅方向の両端部をクリップで把持し、横方向に延伸する。この横延伸によって、レターデーションRthを一層大きくすることができる。
【0051】
横延伸は、テンターを用いて実施するのが好ましく、好ましい延伸温度はTg以上、Tg+60℃以下が好ましく、より好ましくはTg+2℃以上、Tg+40℃以下、さらに好ましくはTg+4℃以上、Tg+30℃以下である。延伸倍率は1.0倍以上、2.5倍以下が好ましく、1.1倍以上2.0倍以下がさらに好ましい。横延伸の後に縦、横のいずれか、または両方に緩和させることも好ましい。これにより幅方向の遅相軸の分布を小さくすることができる。
【0052】
このような延伸により、Reの絶対値が500nm以下、より好ましくは10nm以上、400nm以下、さらに好ましくは15nm以上、300nm以下、Rthの絶対値が0nm以上、500nm以下、より好ましくは50nm以上、400nm以下、さらに好ましくは70nm以上、350nm以下である。
【0053】
このうちRe≦Rthを満足するものがより好ましく、さらに好ましくはRe×2≦Rthを満足するものがさらに好ましい。このような高Rth、低Reを実現するためには、上述のように縦延伸したものを、横(幅)方向に延伸するのが好ましい。即ち、縦方向と横方向の配向の差が面内のレターデーションの差(Re)となるが、縦方向に加えその直交方向である横方向にも延伸することで、縦横の配向の差を小さくし面配向(Re)を小さくできる。一方、縦に加え横にも延伸することで面積倍率は増加するため、厚みの減少に伴い厚み方向の配向は増加し、Rthを増加させることができるためである。
【0054】
さらに、Re,Rthの幅方向、長手方向の場所による変動をいずれも10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下、最も好ましくは2%以下にすることが好ましい。
【0055】
また、厚みの幅方向、長手方向の場所による変動をいずれも10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下、最も好ましくは2%以下にすることが好ましい。
【0056】
尚、ここで、厚み、及びRe,Rthの変動は、以下の通り求めることができる。
【0057】
延伸されたセルロースアシレートフィルム12を10m(メートル)サンプリングし、フィルム幅方向の両端部20%ずつを除き、フィルム中心部から幅方向、長手方向に等間隔でそれぞれ50点サンプリングし、厚み、Re・Rthを測定する。尚、Re・Rthの測定には、例えば、自動複屈折計(KOBRA−21ADH/PR:王子計測器(株)製)により測定することができる。
【0058】
幅方向の厚み平均値ThTD-av、最大値ThTD-max、最小値ThTD-minを求め、
(ThTD-max−ThTD-min)÷ ThTD-av×100 [%]
が幅方向の厚みの変動である。
【0059】
また、長手方向の厚み平均値ThMD-av、最大値ThMD-max、最小値ThMD-minを求め、
(ThMD-max−ThMD-min)÷ ThMD-av×100 [%]
が長手方向の厚みの変動である。
【0060】
Re,Rthについても、それぞれ幅方向の平均値ReTD-av,RthTD-av、最大値ReTD-max,RthTD-max、最小値ReTD-min,RthTD-minを求め、同様の計算でReTD,ReMD,RthTD,RthMDの変動(但し、求めた値の絶対値)を求めることができる。
【0061】
上述したように本実施の形態によれば、製造されたセルロースアシレートフィルム12の厚み精度の向上を図ることができ、幅方向・長手方向に光学特性が均一な光学用途のフィルムを得ることができる。
【0062】
延伸後のセルロースアシレートフィルム12は、図1の巻取工程部20でロール状に巻き取られる。その際、セルロースアシレートフィルム12の巻取りテンションは、0.02kg/mm2 以下とすることが好ましい。巻取りテンションをこのような範囲に設定することによって、延伸セルロースアシレートフィルム12にレターデーション分布を発生させることなく巻き取ることができる。
【0063】
以下に、本発明に適したセルロースアシレートの合成方法及びセルロースアシレートフィルムの製造方法等について手順にそって詳細に説明する。
【0064】
(1)可塑剤
本発明におけるセルロースアシレートフィルムを製造するための原料ポリマーには、多価アルコール系可塑剤を添加するのが好ましい。このような可塑剤は弾性率を低下させるだけではなく、表裏の結晶量の差を低減させる効果も有する。多価アルコール系可塑剤の含有量は、セルロースアシレートに対し2質量%〜20質量%が好ましい。多価アルコール系可塑剤の含有量を2質量%〜20質量%が好ましく、より好ましくは3質量%〜18質量%、さらに好ましくは4質量%〜15質量%である。多価アルコール系可塑剤の含有量が2質量%未満の場合、上記効果が十分達成されず、一方、20質量%より多い場合、可塑剤のフィルム表面への析出(泣き出しと称されている)が発生する。
【0065】
本発明で具体的に用いることができる多価アルコール系可塑剤は、セルロース脂肪酸エステルとの相溶性が良く、また熱可塑化効果が顕著に現れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物などである。
【0066】
具体的なグリセリンエステルとして、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートミスチレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートノナネート、グリセリンジアセテートオクタノエート、グリセリンジアセテートヘプタノエート、グリセリンジアセテートヘキサノエート、グリセリンジアセテートペンタノエート、グリセリンジアセテートオレート、グリセリンアセテートジカプレート、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンアセテートジヘプタノエート、グリセリンアセテートジカプロエート、グリセリンアセテートジバレレート、グリセリンアセテートジブチレート、グリセリンジプロピオネートカプレート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリブチレート、グリセリントリペンタノエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンプロピオネートラウレート、グリセリンオレートプロピオネートなどが挙げられるがこれに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0067】
この中でも、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートペラルゴネート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレートが好ましい。
【0068】
ジグリセリンエステルの具体的な例としては、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラヘキサノエート、ジグリセリンテトラヘプタノエート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリンテトラミスチレート、ジグリセリンテトラパルミテート、ジグリセリントリアセテートプロピオネート、ジグリセリントリアセテートブチレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリントリアセテートヘキサノエート、ジグリセリントリアセテートヘプタノエート、ジグリセリントリアセテートカプリレート、ジグリセリントリアセテートペラルゴネート、ジグリセリントリアセテートカプレート、ジグリセリントリアセテートラウレート、ジグリセリントリアセテートミスチレート、ジグリセリントリアセテートパルミテート、ジグリセリントリアセテートステアレート、ジグリセリントリアセテートオレート、ジグリセリンジアセテートジプロピオネート、ジグリセリンジアセテートジブチレート、ジグリセリンジアセテートジバレレート、ジグリセリンジアセテートジヘキサノエート、ジグリセリンジアセテートジヘプタノエート、ジグリセリンジアセテートジカプリレート、ジグリセリンジアセテートジペラルゴネート、ジグリセリンジアセテートジカプレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジミスチレート、ジグリセリンジアセテートジパルミテート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリブチレート、ジグリセリンアセテートトリバレレート、ジグリセリンアセテートトリヘキサノエート、ジグリセリンアセテートトリヘプタノエート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンアセテートトリペラルゴネート、ジグリセリンアセテートトリカプレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンオレートなどのジグリセリンの混酸エステルなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0069】
この中でも、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートが好ましい。
【0070】
ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、重量平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0071】
ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物の具体的な例として、ポリオキシエチレンアセテート、ポリオキシエチレンプロピオネート、ポリオキシエチレンブチレート、ポリオキシエチレンバリレート、ポリオキシエチレンカプロエート、ポリオキシエチレンヘプタノエート、ポリオキシエチレンオクタノエート、ポリオキシエチレンノナネート、ポリオキシエチレンカプレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンミリスチレート、ポリオキシエチレンパルミテート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンオレート、ポリオキシエチレンリノレート、ポリオキシプロピレンアセテート、ポリオキシプロピレンプロピオネート、ポリオキシプロピレンブチレート、ポリオキシプロピレンバリレート、ポリオキシプロピレンカプロエート、ポリオキシプロピレンヘプタノエート、ポリオキシプロピレンオクタノエート、ポリオキシプロピレンノナネート、ポリオキシプロピレンカプレート、ポリオキシプロピレンラウレート、ポリオキシプロピレンミリスチレート、ポリオキシプロピレンパルミテート、ポリオキシプロピレンステアレート、ポリオキシプロピレンオレート、ポリオキシプロピレンリノレートなどが挙げられるがこられに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0072】
さらにこれらの多価アルコールの上記効果を十分に発現させるためには、下記条件でセルロースアシレートフィルムを溶融製膜することが好ましい。即ちセルロースアシレートと多価アルコールを混合したペレットを押出機で溶融しTダイから押し出して製膜するが、押出機入口温度(T1)より押出機出口温度(T2)を高くするのが好ましく、さらに好ましくはダイ温度(T3)を押出機出口温度(T2)より高くするのが好ましい。即ち、ペレットの溶融が進むにつれ温度を上昇してゆくことが好ましい。これは入口から急激に昇温すると、多価アルコールが先に融解して液化する。この中でセルロースアシレートは浮遊したようになり、十分な剪断力をスクリューから受けることができず、不溶融物が発生する。このような十分混合の進んでいないものは、上記のような可塑剤の効果を発現できず、溶融押出し後のメルトフィルムの表裏差を抑制する効果が得られない。さらにこのような不溶融物は製膜後にフィッシュアイ状の異物となる。このような異物は偏光板で観察しても輝点とならず、むしろフィルム背面から光を投射しスクリーン状で観察することで視認できる。さらにフィッシュアイはダイ出口で尾引きを引き起こし、ダイラインも増加させる。
【0073】
T1は150℃〜200℃が好ましく、より好ましくは160℃〜195℃、さらに好ましくは165℃〜190℃である。T2は190℃〜240℃の範囲が好ましく、より好ましくは200℃〜230℃、さらに好ましくは200℃〜225℃である。このように押出機の入口及び出口温度T1,T2は240℃以下であることが肝要である。この温度を超えると製膜されたフィルムの弾性率が高くなり易い。これは高温で溶融したためにセルロースアシレートに分解が起こり、これが架橋を引き起こし、弾性率を上昇させるためと思われる。ダイ温度T3は200〜235℃未満が好ましく、より好ましくは205〜230℃、さらに好ましくは205℃以上225℃以下である。
【0074】
(2)安定剤
本発明では、安定剤としてフォスファイト系化合物、亜リン酸エステル系化合物のいずれか、もしくは両方を用いることが好ましい。これにより、経時劣化を抑制できる上、ダイラインも改善できる。これは、これらの化合物がレベリング剤として働き、ダイの凹凸により形成されたダイラインを解消するためである。これらの安定剤の配合量は、0.005質量%〜0.5質量%であるのが好ましく、より好ましくは0.01質量%〜0.4質量%であり、さらに好ましくは0.02質量%〜0.3質量%である。
【0075】
(i)フォスファイト系安定剤
具体的なフォスファイト系着色防止剤は、特に限定されないが、化1〜化3で示されるフォスファイト系着色防止剤が好ましい。
【0076】
【化1】

【0077】
【化2】

【0078】
【化3】

【0079】
(ここで、R1、R2,R3、R4、R5、R6、R’1、R’2、R’3・・・R’n、R’n+1は水素又は炭素数4〜23のアルキル、アリール、アルコキシアルキル、アリールオキシアルキル、アルコキシアリール、アリールアルキル、アルキルアリール、ポリアリールオキシアルキル、ポリアルコキシアルキル及びポリアルコキシアリール基から成る群から選択された基を示す。但し、一般式(2)(3)(4)の各同一式中で全てが水素になることはなく、各式中の官能基RXが全て水素になってしまうことはない、いずれかは上述の官能基(アルキル基とか)になっている。
【0080】
一般式(3)中で示されるフォスファイト系着色防止剤中のXは脂肪族鎖、芳香核を側鎖に有する脂肪族鎖、芳香核を鎖中に有する脂肪族鎖及び上記鎖中に2個以上連続しない酸素原子を包含する鎖から成る群から選択された基を示す。また、k、qは1以上の整数、pは3以上の整数を示す。)
これらのフォスファイト系着色防止剤のk、qの数は好ましくは1〜10である。k、qの数が1以上にすることで加熱時の揮発性が小さくなり、10以下にすることでセルロースアセテートプロピオネートとの相溶性が向上するため好ましい。また、pの値は3〜10が好ましい。3以上のすることで加熱時の揮発性が小さくなり、10以下にすることでセルロースアセテートプロピオネートとの相溶性が向上するため好ましい。
【0081】
下記一般式(2)で表されるフォスファイト系着色防止剤の具体例としては、下記式(5)〜(8)で表されるものが好ましい。
【0082】
【化4】

【0083】
【化5】

【0084】
【化6】

【0085】
【化7】

【0086】
【化8】

【0087】
また、下記一般式(3)で表されるフォスファイト系着色防止剤の具体例としては、下記式(9)(10)(11)で表されるものが好ましい。
【0088】
【化9】

【0089】
【化10】

【0090】
【化11】

【0091】
【化12】

【0092】
(ii)亜リン酸エステル系安定剤
亜リン酸エステル系安定剤は、例えばサイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)フォスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)フォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等が挙げられる。
【0093】
(iii)その他の安定剤
弱有機酸、チオエーテル系化合物、エポキシ化合物等を安定剤として配合しても良い。弱有機酸とは、pKaが1以上のものであり、本発明の作用を妨害せず、着色防止性、物性劣化防止性を有するものであれば特に限定されない。例えば酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いても良い。
【0094】
チオエーテル系化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、パルミチルステアリルチオジプロピオネートが挙げられ、これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いても良い。
【0095】
エポキシ化合物としては、例えばエピクロルヒドリンとビスフェノールAより誘導されるものが挙げられ、エピクロルヒドリンとグリセリンからの誘導体やビニルシクロヘキセンジオキサイドや3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレートの如き環状のものも用いることができる。又、エポキシ化大豆油、エポキシ化ヒマシ油や長鎖のα−オレフィンオキサイド類なども用いることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用して用いても良い。
【0096】
(3)セルロースアシレート
《セルロースアシレート樹脂》
(組成・置換度)
本発明で用いるセルロースアシレートは下記式(1)〜式(3)で表される要件すべてを満たすセルロースアシレートが好ましい。
【0097】
2.0≦A+B≦3.0 式(1)
0≦A≦2.0 式(2)
1.0≦B≦2.9 式(3)
(上記式(1)〜式(3)中、Aはアセテート基の置換度を示し、Bはプロピオネート基、ブチレート基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基の置換度の総和を示す。)
好ましくは、
2.0≦A+B≦3.0 式(4)
0≦A≦2.0 式(5)
1.2≦B≦2.9 式(6)
より好ましくは
2.4≦A+B≦3.0 式(7)
0.05≦A≦1.7 式(8)
1.3≦B≦2.9 式(9)
さらに好ましくは、
2.5≦A+B≦2.95 式(10)
0.1≦A≦1.55 式(11)
1.4≦B≦2.85 式(12)
このようにセルロース中にプロピオネート基、ブチレート基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基を導入してセルロースアシレートとすることが特徴である。このような範囲にすることで融解温度を低下でき、溶融製膜に伴う熱分解を抑制でき好ましい。一方この範囲から出ると溶融温度と熱分解温度が近づいてしまい、熱分解を抑制しにくくなるため好ましくない。
【0098】
これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合しても良い。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。
次に、本発明に用いられるセルロースアシレートの製造方法について詳細に説明する。本発明のセルロースアシレートの、原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の7頁ないし12頁にも詳細に記載されている。
【0099】
(原料および前処理)
セルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。セルロース原料としては、α−セルロース含量が92質量%以上99.9質量%以下の高純度のものを用いることが好ましい。セルロース原料がフィルム状や塊状である場合は、あらかじめ破砕しておくことが好ましく、セルロースの形態はフラッフ状になるまで破砕が進行していることが好ましい。
【0100】
(活性化)
セルロース原料はアシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行うことが好ましい。活性化剤としては、カルボン酸または水を用いることができる。添加方法としては噴霧、滴下、浸漬などの方法から選択することができる。活性化剤として好ましいカルボン酸は、炭素数2以上7以下のカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸、ヘプタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸など)であり、より好ましくは、酢酸、プロピオン酸、又は酪酸であり、特に好ましくは酢酸である。
【0101】
活性化の際は、必要に応じて更に硫酸などのアシル化の触媒を、セルロースに対して好ましくは0.1質量%〜10質量%加えることもできる。また、2種類以上の活性化剤を併用したり、炭素数2以上7以下のカルボン酸の酸無水物を添加したりしてもよい。
【0102】
活性化の際は、必要に応じて更に硫酸などのアシル化の触媒をセルロースに対して0.1質量%〜10質量%程度に留めることが好ましい。また、2種類以上の活性化剤を併用したり、炭素数2以上7以下のカルボン酸の酸無水物を添加したりしてもよい。
【0103】
活性化剤の添加量は、セルロースに対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。活性化剤の添加量の上限は生産性を低下させない限りにおいて特に制限はないが、セルロースに対して質量で100倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることが特に好ましい。
【0104】
活性化の時間は20分以上であることが好ましく、上限については生産性に影響を及ぼさない範囲であれば特に制限はないが、好ましくは72時間以下、更に好ましくは24時間以下、特に好ましくは12時間以下である。また、活性化の温度は0℃以上90℃以下が好ましく、15℃以上80℃以下が更に好ましく、20℃以上60℃以下が特に好ましい。
【0105】
(アシル化)
本発明に用いられるセルロースアシレートを得る方法としては、アシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースアシレートを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて、残存する水酸基を更にアシル化する方法などを用いることができる。6位置換度の大きいセルロースアシレートの合成については、特開平11−5851号公報、特開2002−212338号公報や特開2002−338601号公報などの公報に記載がある。
【0106】
(酸無水物)
カルボン酸の酸無水物として、好ましくはカルボン酸としての炭素数が2以上7以下であり、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、ヘキサン酸無水物、安息香酸無水物などを挙げることができる。より好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、ヘキサン酸無水物などであり、特に好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物である。
【0107】
酸無水物は、セルロースに対して、通常は過剰当量添加する。すなわち、セルロースの水酸基に対して1.1当量〜50当量添加することが好ましく、1.2当量〜30当量添加することがより好ましく、1.5当量〜10当量添加することが特に好ましい。
【0108】
(触媒)
本発明に用いられるセルロースアシレートの製造に用いるアシル化の触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましい。ブレンステッド酸およびルイス酸の定義については、例えば、「理化学辞典」第五版(2000年)に記載されている。触媒としては、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。触媒の好ましい添加量は、セルロースに対して0.1質量%〜30質量%であり、より好ましくは1質量%〜15質量%であり、特に好ましくは3質量%〜12質量%である。
【0109】
(溶媒)
アシル化を行う際には、粘度、反応速度、攪拌性、アシル置換比などを調整する目的で、溶媒を添加してもよい。溶媒として好ましくはカルボン酸であり、更に好ましくは、炭素数2以上7以下のカルボン酸{(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ヘキサン酸、安息香酸)などを挙げることができる。特に好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを挙げることができる。これらの溶媒は混合して用いてもよい。
【0110】
(アシル化の条件)
アシル化を行う際には、酸無水物と触媒、さらに、必要に応じて溶媒を混合してからセルロースと混合してもよく、またこれらを別々に逐次セルロースと混合してもよいが、通常は、酸無水物と触媒との混合物、又は、酸無水物と触媒と溶媒との混合物をアシル化剤として調整してからセルロースと反応させることが好ましい。アシル化の際の反応熱による反応容器内の温度上昇を抑制するために、アシル化剤は予め冷却しておくことが好ましい。
【0111】
アシル化剤はさらに、セルロースに対して一度に添加しても、分割して添加してもよい。また、アシル化剤に対してセルロースを一度に添加しても、分割して添加してもよい。アシル化の際の最高到達温度が50℃以下であることが好ましい。反応温度がこの温度以下であれば、解重合が進行して本発明の用途に適した重合度のセルロースアシレートを得難くなるなどの不都合が生じないため好ましい。アシル化の際の最高到達温度は、好ましくは45℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、特に好ましくは35℃以下である。反応の最低温度は−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましく、−20℃以上が特に好ましい。好ましいアシル化時間は0.5時間以上24時間以下であり、1時間以上12時間以下がより好ましく、1.5時間以上10時間以下が特に好ましい。
【0112】
(反応停止剤)
本発明に用いられるセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。反応停止剤としては、酸無水物を分解するものであればいかなるものでもよく、好ましい例として、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)又はこれらを含有する組成物などを挙げることができる。酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸と水との混合物を添加することが好ましく、カルボン酸としては酢酸が特に好ましい。カルボン酸と水の組成比は任意の割合で用いることができるが、水の含有量が5質量%〜80質量%、さらには10質量%〜60質量%、特には15質量%〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0113】
(中和剤)
アシル化の反応停止工程あるいはアシル化の反応停止工程後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解、カルボン酸及びエステル化触媒の一部または全部の中和、残留硫酸根量と残留金属量の調整などのために、中和剤またはその溶液を添加してもよい。
【0114】
中和剤の好ましい例としては、アンモニウム、有機4級アンモニウム、アルカリ金属、2族の金属、3−12族の金属、または13−15族の元素の、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩、フタル酸水素塩、クエン酸塩、酒石酸塩など)、水酸化物又は酸化物などを挙げることができる。中和剤として更に好ましくは、アルカリ金属または2族の金属の、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩、水酸化物又は酸化物などであり、特に好ましくは、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウムの、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩または水酸化物である。中和剤の溶媒としては、水、有機酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)および、これらの混合溶媒を好ましい例として挙げることができる。
【0115】
(部分加水分解)
このようにして得られたセルロースアシレートは、全置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20℃〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、セルロースアシレートのアシル置換度を所望の程度まで減少させること(いわゆる熟成)が一般的に行われる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を、前記のような中和剤またはその溶液を用いて完全に中和し、部分加水分解を停止させることが好ましい。反応溶液に対して溶解性が低い塩を生成する中和剤(例えば、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなど)を添加することにより、溶液中あるいはセルロースに結合した触媒(例えば、硫酸エステル)を効果的に除去することも好ましい。
【0116】
(ろ過)
セルロースアシレート中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的として、反応混合物のろ過を行うことが好ましい。ろ過は、アシル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。ろ過圧や取り扱い性の制御の目的から、ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。ろ過を経てセルロースアシレート溶液が得られる。
【0117】
(再沈殿)
このようにして得られたセルロースアシレート溶液を、水もしくはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)水溶液のような貧溶媒中に混合するか、セルロースアシレート溶液中に、貧溶媒を混合することにより、セルロースアシレートを再沈殿させ、洗浄及び安定化処理により目的のセルロースアシレートを得ることができる。再沈殿は連続的に行っても、一定量ずつバッチ式で行ってもよい。
【0118】
(洗浄)
生成したセルロースアシレートは洗浄処理することが好ましい。洗浄溶媒はセルロースアシレートの溶解性が低く、かつ、不純物を除去することができるものであればいかなるものでも良いが、通常は水または温水が用いられる。洗浄の進行はいかなる手段で追跡を行ってよいが、水素イオン濃度、イオンクロマトグラフィー、電気伝導度、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析、元素分析、原子吸光分析などの方法を好ましい例として挙げることができる。
【0119】
(安定化)
温水処理による洗浄後のセルロースアシレートは、安定性を更に向上させたり、カルボン酸臭を低下させたりするために、弱アルカリ(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物など)の水溶液などで処理することも好ましい。
【0120】
(乾燥)
本発明においてセルロースアシレートの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースアシレートを乾燥することが好ましい。乾燥温度として好ましくは0℃〜200℃であり、さらに好ましくは40℃〜180℃であり、特に好ましくは50℃〜160℃である。本発明のセルロースアシレートは、その含水率が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0.7質量%以下であることが特には好ましい。
【0121】
(形態)
本発明のセルロースアシレートは粒子状、粉末状、繊維状、塊状など種々の形状を取ることができるが、フィルム製造の原料としては粒子状または粉末状であることが好ましいことから、乾燥後のセルロースアシレートは、粒径の均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行っても良い。セルロースアシレートが粒子状であるとき、使用する粒子の90質量%以上は、0.5mm〜5mmの粒子径を有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1mm〜4mmの粒子径を有することが好ましい。セルロースアシレート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。また、本発明に用いられるセルロースアシレート粒子は、見かけ密度が好ましくは0.5g/cm3 ないし1.3g/cm3 、更に好ましくは0.7g/cm3 ないし1.2g/cm3 、特に好ましくは0.8g/cm3 ないし1.15g/cm3 である。見かけ密度の測定法に関しては、JIS K−7365に規定されている。本発明のセルロースアシレート粒子は安息角が10度ないし70度であることが好ましく、15度ないし60度であることが更に好ましく、20度ないし50度であることが特に好ましい。
【0122】
(重合度)
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、平均重合度100〜700、好ましくは120〜600、更に好ましくは130〜450である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)による分子量分布測定などの方法により測定できる。更に特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。
【0123】
[セルロースアシレート合成例]
以下に本発明に使用されるセルロースアシレートの合成例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0124】
セルロースにアシル化剤(酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、プロピオン酸無水物、酪酸、酪酸無水物から、目的とするアシル置換度に応じて単独または複数を組み合わせて選択される)、ならびに触媒としての硫酸を混合し、反応温度を40℃以下に保ちながらアシル化を実施した。原料となるセルロースが消失してアシル化が完了した後、さらに40℃以下で加熱を続けて、所望の重合度に調整した。酢酸水溶液を添加して残存する酸無水物を加水分解した後、60℃以下で加熱を行うことで部分加水分解を行い、所望の全置換度に調整した。残存する硫酸を過剰量の酢酸マグネシウムにより中和した。酢酸水溶液から再沈殿を行い、さらに、水での洗浄を繰り返すことにより、セルロースアシレートを得た。
【0125】
目的とする置換度ならびに重合度により、アシル化剤の組成、アシル化の反応温度および時間、部分加水分解の温度および時間を変化させることにより、置換度ならびに重合度の異なるセルロースアシレートを合成できる。
【0126】
(4)その他の添加剤
(i)マット剤
マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度を低くでき好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5nm〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90g/リットル〜200g/リットルが好ましく、100g/リットル〜200g/リットルがさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0127】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1μm〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1μm〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm以上1.5μm以下が好ましく、0.4μm以上1.2μm以下がさらに好ましく、0.6μm以上1.1μm以下が最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0128】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vの1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0129】
(ii)その他添加剤
上記以外に種々の添加剤、例えば紫外線防止剤(例えば、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物等)、赤外線吸収剤、光学調整剤、界面活性剤および臭気トラップ剤(アミン等)など)を加えることができる。これらの詳細は、発明協会公開技法公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会),p.17−22に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0130】
赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報のものが使用でき、紫外線吸収剤としては例えば特開平2001−151901号公報に記載のものが使用でき、それぞれセルロースアシレートに対して0.001質量%〜5質量%含有させることが好ましい。
【0131】
光学調整剤としてはレターデーション調整剤を挙げることができ、例えば特開2001−166144号公報、特開2003−344655号公報、特開2003−248117号公報、特開2003−66230号公報に記載のものを使用することができ、これにより面内のレターデーション(Re),厚み方向のレターデーション(Rth)を制御できる。好ましい添加量は10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である。
【0132】
(5)セルロースアシレート混合物の物性
上記のセルロースアシレート混合物(セルロースアシレート、可塑剤、安定剤、その他の添加剤を混合したもの)は、以下の物性を満たすことが好ましい。
【0133】
(i)加熱減量率
加熱減量率とは、窒素ガス雰囲気下において室温から10℃/分の昇温度速度で試料を昇温した時の220℃における重量減少率をいう。上記セルロースアシレート混合物の調製を行うことで、加熱減量率を5重量%以下にすることができる。より好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。このようにすることにより、製膜中に発生する故障(気泡の発生)を抑制できる。
【0134】
(ii)溶融粘度
上記セルロースアシレート混合物は、220℃、1sec-1 における溶融粘度が100Pa・s〜1000Pa・sが好ましく、より好ましくは200Pa・s〜800Pa・s、さらに好ましくは300Pa・s〜700Pa・sである。このような高めの溶融粘度にすることで、ダイ出口の張力で伸びる(延伸される)ことがなく、延伸配向に起因する光学異方性(レターデーション)の増加を防止できる。このような粘度の調整はどのような手法で達成しても良いが、例えばセルロースアシレートの重合度や可塑剤等の添加剤の量により達成できる。
【0135】
(6)ペレット化
上記セルロースアシレート混合物は、溶融製膜に先立ち混合しペレット化するのが好ましい。ペレット化を行うにあたりセルロースアシレート混合物は事前に乾燥を行うことが好ましいが、ベント式押出機を用いることで、これを代用することも出来る。乾燥を行う場合は、乾燥方法として、加熱炉内にて90℃で8時間以上加熱する方法等を用いることが出来るが、この限りではない。ペレット化は上記セルロースアシレート混合物を2軸混練押出機により150℃以上250℃以下で溶融後、ヌードル状に押出したものを水中で固化し裁断することで作製することができる。また、押出機による溶融後水中に口金より直接押出ながらカットする、アンダーウオーターカット法等によりペレット化を行ってもかまわない。
【0136】
押出機は十分な、溶融混練が得られる限り、任意の公知の単軸スクリュー押出機、非かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型同方向回転二軸スクリュー押出機などを用いることができる。
【0137】
好ましいペレットの大きさは断面積が1mm2 以上300mm2 以下、長さは1mm以上30mm以下が好ましく、より好ましくは断面積が2mm2 以上100mm2 以下、長さが1.5mm以上10mm以下である。またペレット化を行う時に、上記添加物は押出機の途中にある原料投入口やベント口から投入することも出来る。
【0138】
押出機の回転数は10rpm以上1000rpm以下が好ましく、より好ましくは、20rpm以上700rpm以下、さらにより好ましくは30rpm以上500rpm以下である。これより、回転速度が遅くなると滞留時間が長くなり、熱劣化により分子量が低下したり、黄色味が悪化しやすくなったりするために好ましくない。また回転速度が速すぎると剪断により分子の切断がおきやすくなり、分子量低下を招いたり、架橋ゲルの発生が増加したりするなどの問題が生じやすくなる。
【0139】
ペレット化における押出滞留時間は10秒以上30分以内、より好ましくは、15秒以上10分以内、さらに好ましくは30秒以上3分以内である。十分に溶融が出来れば、滞留時間は短い方が、樹脂劣化、黄色み発生を抑えることが出来る点で好ましい。
【0140】
(7)溶融製膜
(i)乾燥
上述の方法でペレット化したものを用いるのが好ましく、溶融製膜に先立ちペレット中の水分を減少させることが好ましい。本発明においてセルロースアシレートの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースアシレートを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、除湿風乾燥機を用いて乾燥する事が多いが、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されない(加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい、更に好ましくは、乾燥ホッパーを断熱構造にする事が好ましい)。乾燥温度として好ましくは0℃〜200℃であり、さらに好ましくは40℃〜180℃であり、特に好ましくは60℃〜150℃である。乾燥温度が低過ぎると乾燥に時間がかかるだけでなく、含有水分率が目標値以下にならず好ましくない。一方、乾燥温度が高過ぎると樹脂が粘着してブロッキングして好ましくない。乾燥風量として好ましくは20m3 /時間〜400m3 /時間で有り、更に好ましくは50m3 /時間〜300m3 /時間、特に好ましくは100m3 /時間〜250m3 /時間である。乾燥風量が少ないと乾燥効率が悪く好ましくない。一方、風量を多くしても一定量以上あれば乾燥効果の更なる向上は小さく経済的でない。エアーの露点として、好ましくは0℃〜−60℃で有り、更に好ましくは−10℃〜−50℃、特に好ましくは−20℃〜−40℃である。乾燥時間は少なくとも15分以上必要で有り、さらに好ましくは、1時間以上、特に好ましくは2時間以上である。一方、50時間を超えて乾燥させても更なる水分率の低減効果は少なく、樹脂の熱劣化の懸念が発生するため乾燥時間を不必要に長くすることは好ましくない。本発明のセルロースアシレートは、その含水率が1.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0141】
(ii)溶融押出し
上述したセルロースアシレートは、押出機(上記ペレット化の押出機とは別)の供給口を介してシリンダ内に供給される。樹脂は上述の方法により水分量を低減させるために、乾燥することが好ましいが、残存する酸素による溶融樹脂の酸化を防止するために、押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用い真空排気しながら実施するのがより好ましい。押出機のスクリュー圧縮比は2.5〜4.5に設定され、L/Dは20〜70に設定されている。また、L/Dとはシリンダ内径に対するシリンダ長さの比である。また、押出温度は190℃〜240℃に設定される。押出機内での温度が240℃を超える場合には、押出機とダイとの間に冷却機を設ける様にすると良い。
【0142】
又、L/Dが20を下回って小さ過ぎると、溶融不足や混練不足となり、製造後のセルロースアシレートフィルムに微細な結晶が残存し易くなる。逆に、L/Dが70を上回って大き過ぎると、押出機内でのセルロースアシレート樹脂の滞留時間が長くなり過ぎ、樹脂の劣化を引き起こし易くなる。又、滞留時間が長くなると分子の切断が起こったり分子量が低下したりしてセルロースアシレートフィルムの機械的強度が低下する。したがって、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色味が出にくく且つフィルム強度が強く更に延伸破断しにくくするためには、L/Dは20〜70の範囲が好ましく、より好ましくは22〜65の範囲、特に好ましくは24〜50の範囲である。
【0143】
又、押出温度は上述の温度範囲にすることが好ましい。このようにして得たセルロースアシレートフィルムは、ヘイズが2.0%以下、イエローインデックス(YI値)が10以下である特性値を有している。
【0144】
ここで、ヘイズは押出温度が低過ぎないかの指標、換言すると製造後のセルロースアシレートフィルムに残存する結晶の多少を知る指標になり、ヘイズが2.0%を超えると、製造後のセルロースアシレートフィルムの強度低下と延伸時の破断が発生し易くなる。また、イエローインデックス(YI値)は押出温度が高過ぎないかを知る指標となり、イエローインデックス(YI値)が10以下であれば、黄色味の点で問題無い。
【0145】
押出機の種類として、一般的には設備コストの比較的安い単軸押し出し機が用いられることが多く、フルフライト、マドック、ダルメージ等のスクリュータイプがあるが、熱安定性の比較的悪いセルロースアシレートには、フルフライトタイプが好ましい。また、設備コストは効果であるが、スクリューセグメントを変更することにより、途中でベント口を設けて不要な揮発成分を脱揮させながら押出が出来る二軸押出機を用いることが可能である、二軸押出機には大きく分類して同方向と異方向のタイプがありどちらも用いることが可能であるが、滞留部分が発生し難くセルフクリーニング性能の高い同方向回転のタイプが好ましい。二軸押出機は設備が効果であるが、混練性が高く、樹脂の供給性能が高いため、低温での押出が可能となるため、セルロースアシレートを用いる製膜に適している。ベント口を適正に配置することにより、未乾燥状態でのセルロールアシレートペレットやパウダーをそのまま使用することも可能である。又、製膜途中で出たフィルムのミミ等も乾燥させることなしにそのまま再利用することも出来る。
【0146】
なお、好ましいスクリューの直径は目標とする単位時間あたりの押出量によってことなるが、10mm以上300mm以下、より好ましくは20mm以上250mm以下、更に好ましくは30mm以上150mm以下である。
【0147】
(iii)濾過
セルロースアシレート中の異物濾過のためや異物によるギヤポンプ損傷を避けるため押出機出口にフィルター濾材を設けるいわゆるブレーカープレート式の濾過を行うことが好ましい。またさらに精度高く異物濾過をするために、ギヤポンプ通過後にいわゆるリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。濾過は、濾過部を1カ所設けて行うことができ、また複数カ所設けて行う多段濾過でも良い。フィルター濾材の濾過精度は高い方が好ましいが、濾材の耐圧や濾材の目詰まりによる濾圧上昇から、濾過精度は3μm〜15μmが好ましく更に好ましくは3μm〜10μmである。特に最終的に異物濾過を行うリーフ型ディスクフィルター装置を使用する場合では品質の上で濾過精度の高い濾材を使用することが好ましく、耐圧,フィルターライフの適性を確保するために装填枚数にて調整することが可能である。濾材の種類は、高温高圧下で使用される点から鉄鋼材料を用いることが好ましく、鉄鋼材料の中でも特にステンレス鋼,スチールなどを用いることが好ましく、腐食の点から特にステンレス鋼を用いることが望ましい。濾材の構成としては、線材を編んだものの他に、例えば金属長繊維あるいは金属粉末を焼結し形成する焼結濾材が使用でき、濾過精度,フィルターライフの点から焼結濾材が好ましい。
【0148】
(iv)ギヤポンプ
厚み精度を向上させるためには、吐出量の変動を減少させることが重要であり、押出機とダイスの間にギヤポンプを設けて、ギヤポンプから一定量のセルロースアシレート樹脂を供給することは効果がある。ギヤポンプとは、ドライブギヤとドリブンギヤとからなる一対のギヤが互いに噛み合った状態で収容され、ドライブギヤを駆動して両ギヤを噛み合い回転させることにより、ハウジング(ギヤボックス)に形成された吸引口から溶融状態の樹脂をキャビティ内に吸引し、同じくハウジングに形成された吐出口からその樹脂を一定量吐出するものである。押出機先端部分の樹脂圧力が若干の変動があっても、ギヤポンプを用いることにより変動を吸収し、製膜装置下流の樹脂圧力の変動は非常に小さなものとなり、厚み変動が改善される。
【0149】
ギヤポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギヤポンプ前の圧力を一定に制御する方法も用いることが出来る。又、ギヤポンプのギヤの変動を解消した3枚以上のギヤを用いた高精度ギヤポンプも有効である。
【0150】
ギヤポンプを用いるその他のメリットとしては、スクリュー先端部の圧力を下げて製膜できることから、エネルギー消費の軽減・セルロースアシレートの温度上昇の防止・輸送効率の向上・押出機内での滞留時間の短縮・押出機のL/Dを短縮が期待できる。又、異物除去のために、フィルターを用いる場合には、ギヤポンプが無いと、ろ圧の上昇と共に、スクリューから供給される樹脂量が変動したりすることがあるが、ギヤポンプを組み合わせて用いることにより解消が可能である。
【0151】
セルロースアシレートが供給口から押出機に入ってからダイスから出るまでの樹脂の好ましい滞留時間は2分以上60分以下であり、より好ましくは3分以上40分以下であり、さらに好ましくは4分以上30分以下である。
【0152】
ギヤポンプの軸受循環用ポリマーの流れが悪くなることにより、駆動部と軸受部におけるポリマーによるシールが悪くなり、計量及び送液押し出し圧力の変動が大きくなったりする問題が発生するため、セルロースアシレートの溶融粘度に合わせたギヤポンプの設計(特にクリアランス)が必要である。また、場合によっては、ギヤポンプの滞留部分がセルロースアシレートの劣化の原因となるため、滞留の出来るだけ少ない構造が好ましい。押出機とギヤポンプあるいはギヤポンプとダイ等をつなぐ配管やアダプタについても、出来るだけ滞留の少ない設計が必要であり、且つ溶融粘度の温度依存性の高いセルロースアシレートの押出圧力安定化のためには、温度の変動を出来るだけ小さくすることが好ましい。一般的には、配管の加熱には設備コストの安価なバンドヒータが用いられることが多いが、温度変動のより少ないアルミ鋳込みヒータを用いることがより好ましい。さらに上述のように押出機の吐出圧力を安定させるために、押出機のバレルを3以上20以下に分割したヒータで加熱し溶融することが好ましい。
【0153】
(v)ダイ
上記の如く構成された押出機によってセルロースアシレートが溶融され、必要に応じ濾過機、ギヤポンプを経由して溶融樹脂(セルロースアシレート)がダイに連続的に送られる。ダイはダイス内の溶融樹脂の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイの何れのタイプでも構わない。又、Tダイの直前に樹脂温度の均一性アップのためのスタティックミキサーを入れることも問題ない。Tダイ出口部分のクリアランスは一般的にフィルム厚みの1.0倍〜5.0倍が良く、好ましくは1.2倍〜3倍、更に好ましくは1.3倍〜2倍である。リップクリアランスがフィルム厚みの1.0倍未満の場合には製膜により面状の良好なフィルムを得ることが困難である。また、リップクリアランスがフィルム厚みの5.0倍を超えて大きい場合にはフィルムの厚み精度が低下するため好ましくない。ダイはフィルムの厚み精度を決定する非常に重要な設備であり、厚み調整がシビアにコントロール出来るものが好ましい。通常厚み調整は40mm〜50mm間隔で調整可能であるが、好ましくは35mm間隔以下、更に好ましくは25mm間隔以下でフィルム厚み調整が可能なタイプが好ましい。また、セルロールアシレートは、溶融粘度の温度依存性、せん断速度依存性が高いことから、ダイの温度ムラや巾方向の流速ムラの出来るだけ少ない設計が重要である。また、下流のフィルム厚みを計測して、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる自動厚み調整ダイも長期連続生産における厚み変動の低減に有効である。
【0154】
フィルムの製造は設備コストの安い単層製膜装置が一般的に用いられるが、場合によっては機能層を外層に設けために多層製膜装置を用いて2種以上の構造を有するフィルムの製造も可能である。一般的には機能層を表層に薄く積層することが好ましいが、特に層比を限定するものではない。
【0155】
(vi)キャスト
上記方法にて、ダイよりシート状に押し出されたセルロースアシレートを冷却ローラ上で冷却固化し、フィルムを得る。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、冷却ローラと溶融押出ししたシート状のセルロースアシレートの密着を上げる密着向上法を行うことが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよく、一部に実施しても良い。特にエッジピニングと呼ばれる、シートの両端部にのみを密着させる方法が取られることも多いが、これに限定される物ではない。
【0156】
冷却ローラは複数本用い、徐冷する方法がより好ましい、特に一般的には3本の冷却ローラを用いることが比較的よく行われているが、この限りではない。冷却ローラの直径は100mm以上1000mm以下が好ましく、よりに好ましくは150mm以上1000mm以下である。複数本ある冷却ローラの間隔は、面間で1mm以上50mm以下が好ましく、より好ましくは1mm以上30mm以下である。
【0157】
冷却ローラは60℃以上160℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以上150℃以下、さらに好ましくは80℃以上140℃以下である。この後、冷却ローラから剥ぎ取り、引取ローラ(ニップロール)を経た後巻き取る。巻き取り速度は10m/分以上100m/分以下が好ましく、より好ましくは15m/分以上80m/分以下、さらに好ましくは20m/分以上70m/分以下である。
【0158】
製膜幅は0.7m以上5m以下、さらに好ましくは1m以上4m以下、さらに好ましくは1.3m以上3m以下が好ましい。このようにして得られた未延伸フィルムの厚みは30μm以上400μm以下が好ましく、より好ましくは40μm以上300μm以下、さらに好ましくは50μm以上200μm以下である。
【0159】
また、いわゆるタッチロール法を用いる場合、タッチロール表面は、ゴム、テフロン(登録商標)等のプラスチックでもよく、金属ロールでも良い。さらに、金属ロールの厚みを薄くすることでタッチしたときの圧力によりロール表面が若干くぼみ、圧着面積が広くなりフレキシブルロールと呼ばれる様なロールを用いることも可能である。タッチロール温度は60℃以上160℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以上150℃以下、さらに好ましくは80℃以上140℃以下である。
【0160】
(vii)巻き取り
このようにして得たシートは両端をトリミングし、巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、或いは必要に応じて造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料として又は異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。トリミングカッターはロータリーカッター、シャー刃、ナイフ等の何れのタイプの物を用いても構わない。材質についても、炭素鋼、ステンレス鋼などの何れを用いても構わない。一般的には、超硬刃、セラミック刃を用いると刃物の寿命が長く、また切り粉の発生が抑えられて好ましい。
【0161】
また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。好ましい巻き取り張力は1kg/m幅以上50kg/幅以下、より好ましくは2kg/m幅以上40kg/幅以下、更に好ましくは3kg/m幅以上20kg/幅以下である。巻き取り張力が1kg/m幅より小さい場合には、フィルムを均一に巻き取ることが困難である。逆に、巻き取り張力が50kg/幅を超える場合には、フィルムが堅巻きになってしまい、巻き外観が悪化するのみでなく、フィルムのコブの部分がクリープ現象により延びてフィルムの波うちの原因になったり、あるいはフィルムの伸びによる残留複屈折が生じたりするため好ましくない。巻き取り張力は、ラインの途中のテンションコントロールにより検知し、一定の巻き取り張力になるようにコントロールされながら巻き取ることが好ましい。製膜ラインの場所により、フィルム温度に差がある場合には熱膨張により、フィルムの長さが僅かに異なる場合があるため、ニップロール間のドロー比率を調整し、ライン途中でフィルムに規定以上の張力がかからない様にすることが必要である。
【0162】
巻き取り張力はテンションコントロールの制御により、一定張力で巻き取ることもできるが、巻き取った直径に応じてテーパーをつけ、適正な巻取り張力にすることがより好ましい。一般的には巻き径が大きくなるにつれて張力を少しずつ小さくするが、場合によっては、巻き径が大きくなるにしたがって張力を大きくする方が好ましい場合もある。
(viii)未延伸セルロースアシレートフィルムの物性
このようにして得た未延伸セルロースアシレートフィルムはRe=0nm〜20nm,Rth=0nm〜80nmが好ましく、より好ましくはRe=0nm〜15nm,Rth=0nm〜70nm、さらに好ましくはRe=0nm〜10nm,Rth=0nm〜60nmである。Re、Rthは各々面内のリターデーションおよび厚さ方向のリターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)で光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは、上述のReおよび、面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°、−40°傾斜した方向から光を入射させて測定したレターデーションの計3方向から測定したレターデーション値を基に算出する。また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。全光透過率は90%以上が好ましく、より好ましくは91%以上、さらに好ましくは98%以上である。好ましいヘイズは1%以下であり、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.6%以下である。
【0163】
厚みむらは長手方向、幅方向いずれも0%以上4%以下が好ましく、より好ましくは0%以上3%以下、さらに好ましくは0%以上2%以下である。引張り弾性率は1.5kN/mm2 以上3.5kN/mm2 以下が好ましく、より好ましくは1.7kN/mm2 以上2.8kN/mm2 以下、さらに好ましくは1.8kN/mm2 以上2.6kN/mm2 以下である。破断伸度は3%以上100%以下が好ましく、より好ましくは5%以上80%以下、さらに好ましくは8%以上50%以下である。
【0164】
Tg(フィルムのTg即ちセルロースアシレートと添加物の混合体のTgを指す)は95℃以上145℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以上140℃以下、さらに好ましくは105℃以上135℃以下である。80℃1日での熱寸法変化は縦、横両方向とも0%以上±1%以下が好ましく、より好ましくは0%以上±0.5%以下、さらに好ましくは0%以上±0.3%以下である。40℃90%rhでの透水率は300g/m2 ・日以上1000g/m2 ・日以下が好ましく、より好ましくは400g/m2 ・日以上900g/m2 ・日以下、さらに好ましくは500g/m2 ・日以上800g/m2 ・日以下である。25℃80%rhでの平衡含水率は1質量%以上4質量%以下が好ましく、より好ましくは1.2質量%以上3質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以上2.5質量%以下である。
【0165】
(8)延伸
上記の方法で製膜したフィルムを延伸しても良い。これによりRe,Rthを制御できる。延伸はTg(℃)以上(Tg+50)℃以下で実施するのが好ましく、より好ましくは(Tg+3)℃以上(Tg+30)℃以下、さらに好ましくは(Tg+5)℃以上(Tg+20)℃以下である。好ましい延伸倍率は少なくとも一方に1%以上300%以下、より好ましくは2%以上250%以下、さらに好ましくは3%以上200%以下である。縦、横均等に延伸してもよいが、一方の延伸倍率を他方より大きくし不均等に延伸するほうがより好ましい。縦(MD)、横(TD)いずれを大きくしても良いが、小さい方の延伸倍率は1%以上30%以下が好ましく、より好ましくは2%以上25%以下であり、さらに好ましくは3%以上20%以下である。大きいほうの延伸倍率は30%以上300%以下であり、より好ましくは35%以上200%以下、さらに好ましくは40%以上150%以下である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施しても良い。延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
【0166】
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
このような延伸は出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸してもよく(縦延伸)、フィルムの両端をチャックで把持しこれを直交方向(長手方向と直角方向)に広げても良い(横延伸)。また、特開2000−37772号公報、特開2001−113591号公報、特開2002−103445号公報に記載の同時2軸延伸法を用いても良い。
【0167】
Re、Rthの比を自由に制御するには、縦延伸の場合、ニップロール間をフィルム幅で割った値(縦横比)を制御することでも達成できる。即ち縦横比を小さくすることで、Rth/Re比を大きくすることができる。また、縦延伸と横延伸とを組み合わせてRe,Rthを制御することもできる。即ち縦延伸倍率と横延伸倍率を差が小さくすることでReは小さくでき、この差を大きくすることでReは大きくできる。このようにして延伸したセルロースアシレートフィルムのRe、Rthは下式を満足することが好ましい。
【0168】
Rth≧Re、
200nm≧Re≧0nm、
500nm≧Rth≧30nm
より好ましくは
Rth≧Re×1.1、
150nm≧Re≧10nm、
400nm≧Rth≧50nm
さらに好ましくは
Rth≧Re×1.2、
100nm≧Re≧20nm、
350nm≧Rth≧80nm
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。即ち、縦延伸の場合は0°に近いほど好ましく、0°±3°が好ましく、より好ましくは0°±2°、さらに好ましくは0°±1°である。横延伸の場合は、90°±3°あるいは−90°±3°が好ましく、より好ましくは90°±2°あるいは−90°±2°、さらに好ましくは90°±1°あるいは−90°±1°である。
【0169】
延伸後のセルロースアシレートフィルムの厚みはいずれも15μm以上200μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以上170μm以下、さらに好ましくは40μm以上140μm以下である。厚みむらは長手方向、幅方向いずれも0%以上3%以下が好ましく、より好ましくは0%以上2%以下、さらに好ましくは0%以上1%以下である。
【0170】
延伸セルロースアシレートフィルムの物性は以下の範囲が好ましい。
【0171】
引張り弾性率は1.5kN/mm2 以上3.0kN/mm2 未満が好ましく、より好ましくは1.7kN/mm2 以上2.8kN/mm2 以下、さらに好ましくは1.8kN/mm2 以上2.6kN/mm2 以下である。破断伸度は3%以上100%以下が好ましく、より好ましくは5%以上80%以下、さらに好ましくは8%以上50%以下である。 Tg(フィルムのTg即ちセルロースアシレートと添加物の混合体のTgを指す)は95℃以上145℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以上140℃以下、さらに好ましくは105℃以上135℃以下である。80℃1日での熱寸法変化は縦、横両方向とも0%以上±1%以下が好ましく、より好ましくは0%以上±0.5%以下、さらに好ましくは0%以上±0.3%以下である。40℃90%での透水率は300g/m2 ・日以上1000g/m2 ・日以下が好ましく、より好ましくは400g/m2 ・日以上900g/m2 ・日以下、さらに好ましくは500g/m2 ・日以上800g/m2 ・日以下である。25℃80%rhでの平衡含水率は1質量%以上4質量%以下が好ましく、より好ましくは1.2質量%以上3質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以上2.5質量%以下である。厚みは30μm以上200μm以下が好ましく、より好ましくは40μm以上180μm以下、さらに好ましくは50μm以上150μm以下である。ヘイズは0%以上3%以下、より好ましくは0%以上2%以下、さらに好ましくは0%以上1%以下である。
【0172】
全光透過率は90%以上が好ましく、より好ましくは91%以上、さらに好ましくは98%以上である。
【0173】
(9)表面処理
未延伸、延伸セルロースアシレートフィルムは表面処理を行うことによって、各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、0.1Pa〜3000Pa(=10-3〜20Torr)の低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10Kev〜1000Kev下で20Kgy〜500Kgyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30Kev〜500Kev下で20Kgy〜300Kgyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。具体的には特開2003−3266号公報、同2003−229299号公報、同2004−322928号公報、同2005−76088号公報等に記載されている方法を用いることができる。
【0174】
アルカリ鹸化処理は、鹸化液に浸漬しても良く、鹸化液を塗布しても良い。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜pH14の水溶液を20℃〜80℃に加温した槽に0.1分から10分通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。
【0175】
塗布方法の場合、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を用いることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性が良く、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒以上5分以下が好ましく、5秒以上5分以下がさらに好ましく、20秒以上3分以下が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、WO02/46809号公報に記載されている内容が挙げられる。
【0176】
機能層との接着のため下塗層を設けることも好ましい。この層は上記表面処理をした後、塗設しても良く、表面処理なしで塗設しても良い。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁に記載されている。
【0177】
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0178】
(10)機能層付与
本発明の延伸および未延伸セルロースアシレートフィルムに、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光層の付与(偏光板)、光学補償層の付与(光学補償フィルム)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)、ハードコート層の付与である。
【0179】
(i)偏光層の付与(偏光板の作成)
[偏光層の使用素材]
現在、市販の偏光層は、延伸したポリマーを浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光膜は、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜も利用できる。偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏向性能を発現する。二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素あるいはアントラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色素は、親水性置換基(例、スルホ、アミノ、ヒドロキシル)を有することが好ましい。例えば、発明協会公開技法、公技番号2001−1745号、58頁(発行日2001年3月15日)に記載の化合物が挙げられる。
【0180】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。バインダーには、例えば特開平8−338913号公報明細書中段落番号[0022]記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール(PVA)、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70%〜100%が好ましく、80%〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9-316127号の各公報に記載がある。ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールは、二種以上を併用してもよい。
【0181】
偏光膜のバインダー厚みの下限は、10μmであることが好ましい。厚みの上限は、液晶表示装置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程よい。現在市販の偏光板(約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下が好ましく、20μm以下がさらに好ましい。
【0182】
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋性の官能基を有するポリマー、モノマーをバインダー中に混合しても良く、バインダーポリマー自身に架橋性官能基を付与しても良い。架橋は、光、熱あるいはpH変化により行うことができ、架橋構造をもったバインダーを形成することができる。架橋剤については、米国再発行特許23297号明細書に記載がある。また、ホウ素化合物(例、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1質量%乃至20質量%が好ましい。偏光素子の配向性、偏光膜の耐湿熱性が良好となる。
【0183】
架橋反応が終了後でも、未反応の架橋剤は1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このようにすることで、耐候性が向上する。
【0184】
[偏光膜の延伸]
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。
【0185】
延伸法の場合、延伸倍率は2.5倍乃至30.0倍が好ましく、3.0倍乃至10.0倍がさらに好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸で実施できる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸を実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5倍乃至5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0倍乃至10.0倍が好ましい。延伸はMD方向に平行に行っても良く(平行延伸)、斜め方向におこなっても良い(斜め延伸)。これらの延伸は、1回で行っても、数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。より好ましいのが斜め方向に10度から80度の傾きを付けて延伸する斜め延伸である。
【0186】
(I)平行延伸法
延伸に先立ち、PVAフィルムを膨潤させる。膨潤度は1.2倍〜2.0倍(膨潤前と膨潤後の質量比)である。この後、ガイドロール等を介して連続搬送しつつ、水系媒体浴内や二色性物質溶解の染色浴内で、15℃〜50℃、好ましくは17℃〜40℃の浴温で延伸する。延伸は2対のニップロールで把持し、後段のニップロールの搬送速度を前段のそれより大きくすることで達成できる。延伸倍率は、延伸後/初期状態の長さ比(以下同じ)に基づくが前記作用効果の点より好ましい延伸倍率は1.2倍〜3.5倍、好ましくは1.5倍〜3.0倍である。この後、50℃から90℃において乾燥させて偏光膜を得る。
【0187】
(II)斜め延伸法
特開2002−86554号公報に記載の斜め方向に傾斜め方向に張り出したテンターを用い延伸する方法を用いることができる。この延伸は空気中で延伸するため、事前に含水させて延伸しやすくすることが必用である。好ましい含水率は5%以上100%以下であり、延伸温度は40℃以上90℃以下が好ましく、延伸中の湿度は50%rh以上100%rh以下が好ましい。
【0188】
このようにして得られた偏光膜の吸収軸は10度から80度が好ましく、より好ましくは30度から60度であり、さらに好ましくは実質的に45度(40度から50度)である。
【0189】
[貼り合せ]
上記鹸化後の延伸、未延伸セルロースアシレートフィルムと、延伸して調製した偏光層を貼り合わせ偏光板を調製する。張り合わせる方向は特に制限はないが、セルロースアシレートフィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向が0度、45度、90度のいずれかになるように行うのが好ましい。
【0190】
貼り合わせの接着剤は特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層厚みは乾燥後に0.01μm乃至10μmが好ましく、0.05μm乃至5μmが特に好ましい。
【0191】
貼り合せの層構成として以下のようなものが挙げられる。
【0192】
イ)A/P/A
ロ)A/P/B
ハ)A/P/T
ニ)B/P/B
ホ)B/P/T
なお、Aは本発明の未延伸フィルム、Bは本発明の延伸フィルム、Tはセルローストリアセテートフィルム(フジタック;商品名)、Pは偏光層を指す。イ)、ロ)の構成の場合A,Bは同一組成のセルロースアセテートでも異なっていても良い。ニ)の構成の場合、Bは同一組成のセルロースアセテートでも異なっていても良く、同一延伸倍率でも異なっていても良い。また液晶表示装置に組み込んで使用する場合は、どちらを液晶面にしても良いが、構成ロ)、ホ)の場合はBを液晶側にするのがより好ましい。
液晶表示装置組み込む場合、通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明のイ)〜ホ)および通常の偏光板(T/P/T)を自由に組み合わせることができる。しかし液晶表示装置の表示側最表面のフィルムには透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けることが好ましく、後述のものを用いることができる。
【0193】
このようにして得た偏光板の光線透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30%乃至50%の範囲にあることが好ましく、35%乃至50%の範囲にあることがさらに好ましく、40%乃至50%の範囲にあることが最も好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90%乃至100%の範囲にあることが好ましく、95%乃至100%の範囲にあることがさらに好ましく、99%乃至100%の範囲にあることが最も好ましい。
【0194】
さらに、このようにして得た偏光板はλ/4板と積層し、円偏光を作成することができる。この場合λ/4の遅相軸と偏光板の吸収軸を45度になるように積層する。この時、λ/4は特に限定されないが、より好ましくは低波長ほどレターデーションが小さくなるような波長依存性を有するものがより好ましい。さらには長手方向に対し20度〜70度傾いた吸収軸を有する偏光膜、および液晶性化合物からなる光学異方性層から成るλ/4板を用いることが好ましい。これらの偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合しても良い。プロテクトフィルムおよびセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
【0195】
(ii)光学補償層の付与(光学補償フィルムの作成)
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、延伸、未延伸セルロースアシレートフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。
【0196】
[配向膜]
上記表面処理した延伸、未延伸セルロースアシレートフィルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明の偏光板を作製することも可能である。
【0197】
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0198】
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。配向膜に使用するポリマーは、原則として、液晶性分子を配向させる機能のある分子構造を有する。
【0199】
本発明では、液晶性分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例、二重結合)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
【0200】
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができし、これらの組み合わせを複数使用することができる。ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報明細書中段落番号[0022]記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70%〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0201】
液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類および必要とする配向状態に応じて決定する。例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基としては、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10個〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ、ジアルコキシ、モノアルコキシ)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0022]に記載のもの等が挙げられる。
【0202】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償フィルムの強度を著しく改善することができる。
【0203】
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報明細書中段落番号[0080]〜[0100]記載のもの等が挙げられる。配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
【0204】
架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾールおよびジアルデヒド澱粉が含まれる。二種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報明細書中の段落番号[0023]〜[024]記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0205】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1質量%〜20質量%が好ましく、0.5質量%〜15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0206】
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマー、架橋剤を含む透明支持体上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行って良い。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、更には光学異方層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0207】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1μm乃至10μmが好ましい。加熱乾燥は、20℃〜110℃で行うことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行うことができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に約5が好ましい。
【0208】
配向膜は、延伸・未延伸セルロースアシレートフィルム上又は上記下塗層上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。
【0209】
前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0210】
工業的に実施する場合、搬送している偏光層のついたフィルムに対し、回転するラビングロールを接触させることで達成するが、ラビングロールの真円度、円筒度、振れ(偏芯)はいずれも30μm以下であることが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1°乃至90゜が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360°以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。フィルムの搬送速度は1m/min〜100m/minが好ましい。ラビング角は0°〜60゜の範囲で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は、40°乃至50゜が好ましい。45゜が特に好ましい。
【0211】
このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1μm乃至10μmの範囲にあることが好ましい。
【0212】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
【0213】
光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0214】
[棒状液晶性分子]
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0215】
なお、棒状液晶性分子には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性分子を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性分子として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
【0216】
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
【0217】
棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001乃至0.7の範囲にあることが好ましい。
【0218】
棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽和基或はカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報明細書中の段落番号[0064]〜[0086]記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0219】
[円盤状液晶性分子]
円盤状(ディスコティック)液晶性分子には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体及びJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0220】
円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報に記載がある。
【0221】
円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことが出来る。例えば、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0151]〜「0168」記載の化合物等が挙げられる。
【0222】
ハイブリッド配向では、円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)と偏光膜の面との角度が、光学異方性層の深さ方向でかつ偏光膜の面からの距離の増加と共に増加または減少している。角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、角度の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、あるいは、増加及び減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度は、角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。さらに、角度は連続的に変化することが好ましい。
【0223】
偏光膜側の円盤状液晶性分子の長軸の平均方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法の選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー及びポリマーなどを挙げることができる。長軸配向方向の変化の程度も、上記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整できる。
【0224】
[光学異方性層の他の組成物]
上記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することが出来る。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
【0225】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性若しくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0020]記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、円盤状液晶性分子に対して一般に1質量%〜50質量%の範囲にあり、5質量%〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0226】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報明細書中の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物が挙げられる。
【0227】
円盤状液晶性分子とともに使用するポリマーは、円盤状液晶性分子に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。
【0228】
ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0178]記載のものが挙げられる。液晶性分子の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、液晶性分子に対して0.1質量%〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1質量%〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0229】
円盤状液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70℃〜300℃が好ましく、70℃〜170℃がさらに好ましい。
【0230】
[光学異方性層の形成]
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
【0231】
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N-ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0232】
塗布液の塗布は、公知の方法(例、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
【0233】
光学異方性層の厚さは、0.1μm乃至20μmであることが好ましく、0.5μm乃至15μmであることがさらに好ましく、1μm乃至10μmであることが最も好ましい。
【0234】
[液晶性分子の配向状態の固定]
配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
【0235】
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
【0236】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01質量%乃至20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5質量%乃至5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0237】
液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2 乃至50J/cm2 の範囲にあることが好ましく、20mJ/cm2乃至5000mJ/cm2 の範囲にあることがより好ましく、100mJ/cm2乃至800mJ/cm2 の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0238】
この光学補償フィルムと偏光層を組み合わせることも好ましい。具体的には、上記のような光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作成される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。
【0239】
偏光層と光学補償層の傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45゜である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0240】
[液晶表示装置]
このような光学補償フィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。
【0241】
(TNモード液晶表示装置)
カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0242】
(OCBモード液晶表示装置)
棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend) 液晶モードとも呼ばれる。
【0243】
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0244】
(VAモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向しているのが特徴であり、VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0245】
(IPSモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に面内に水平に配向しているのが特徴であり、これが電圧印加の有無で液晶の配向方向を変えることでスイッチングするのが特徴である。具体的には特開2004−365941号公報、特開2004−12731号公報、特開2004−215620号公報、特開2002−221726号公報、特開2002−55341号公報、特開2003−195333号公報に記載のものなどを使用できる。
【0246】
(その他液晶表示装置)
ECBモードおよびSTN(Supper Twisted Nematic)モード、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)モード、AFLC(Anti-ferroelectric Liquid Crystal)モード、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell )モードに対しても、上記と同様の考え方で光学的に補償することができる。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても有効である。GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償シートとしても有利に用いられる。
【0247】
以上述べてきたこれらの詳細なセルロース系樹脂フィルムの用途は発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて45頁〜59頁に詳細に記載されている。
反射防止層の付与(反射防止フィルム)
反射防止膜は、一般に、防汚性層でもある低屈折率層、及び低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(即ち、高屈折率層、中屈折率層)とを透明基体上に設けて成る。
【0248】
屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜として、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾルゲル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−157855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)して薄膜を形成する方法が挙げられる。
【0249】
一方、生産性が高い反射防止膜として、無機粒子をマトリックスに分散されてなる薄膜を積層塗布してなる反射防止膜が各種提案されている。
【0250】
上述したような塗布による反射防止フィルムに最上層表面が微細な凹凸の形状を有する防眩性を付与した反射防止層から成る反射防止フィルムも挙げられる。
【0251】
本発明のセルロースアシレートフィルムは上記いずれの方式にも適用できるが、特に好ましいのが塗布による方式(塗布型)である。
【0252】
[塗布型反射防止フィルムの層構成]
基体上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の層構成から成る反射防止膜は、以下の関係を満足する屈折率を有する様に設計される。
【0253】
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率又、透明支持体と中屈折率層の間に、ハードコート層を設けてもよい。
【0254】
更には、中屈折率ハードコート層、高屈折率層及び低屈折率層からなってもよい。
【0255】
例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等が挙げられる。又、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。
【0256】
反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。又反射防止膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0257】
[高屈折率層および中屈折率層]
反射防止膜の高い屈折率を有する層は、平均粒径100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子及びマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜から成る。
【0258】
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
【0259】
このような超微粒子とするには、粒子表面が表面処理剤で処理されること(例えば、シランカップリング剤等:特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908号公報、アニオン性化合物或は有機金属カップリング剤:特開2001−310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とすること(例えば、特開2001−166104等)、特定の分散剤併用(例えば、特開平11−153703号公報、特許番号US6210858B1、特開2002−2776069号公報等)等挙げられる。
【0260】
マトリックスを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
【0261】
更に、ラジカル重合性及び/又はカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個以上含有の多官能性化合物含有組成物、加水分解性基を含有の有機金属化合物及びその部分縮合体組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0262】
又、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載されている。
【0263】
高屈折率層の屈折率は、−般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
【0264】
中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0265】
[低屈折率層]
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層して成る。低屈折率層の屈折率は1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。
【0266】
耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーンの導入、フッ素の導入等から成る薄膜層の手段を適用できる。
【0267】
含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35質量%〜80質量%の範囲で含む架橋性若しくは重合性の官能基を含む化合物が好ましい。
【0268】
例えば、特開平9−222503号公報明細書段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報明細書段落番号[0019]〜[0030]、特開2001-40284号公報明細書段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0269】
シリコーン化合物としてはポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基あるいは重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例、サイラプレーン(商品名;チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。
【0270】
架橋又は重合性基を有する含フッ素及び/又はシロキサンのポリマーの架橋又は重合反応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗布組成物を塗布と同時または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
【0271】
又、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾルゲル硬化膜も好ましい。
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報記載等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ「パーフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報記載の化合物等)等が挙げられる。
【0272】
低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1nm〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820号公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
【0273】
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されても良い。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。
【0274】
低屈折率層の膜厚は、30nm〜200nmであることが好ましく、50nm〜150nmであることがさらに好ましく、60nm〜120nmであることが最も好ましい。
【0275】
[ハードコート層]
ハードコート層は、反射防止フィルムに物理強度を付与するために、延伸・未延伸セルロースアシレートフィルムの表面に設ける。特に、延伸・未延伸セルロースアシレートフィルムと前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。また、反射防止層を付与せず直接延伸・未延伸セルロースアシレートフィルム上に塗設することも好ましい。
【0276】
ハードコート層は、光及び/又は熱の硬化性化合物の架橋反応、又は、重合反応により形成されることが好ましい。 硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、又加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
【0277】
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したと同様のものが挙げられる。
【0278】
ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、WO00/46617号公報等記載のものが挙げられる。
【0279】
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
【0280】
ハードコート層は、平均粒径0.2μm〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。
【0281】
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2μm〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5μm〜7μmである。
【0282】
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、1H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。又、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0283】
[前方散乱層]
前方散乱層は、液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良効果を付与するために設ける。上記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。
【0284】
例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等が挙げられる。
【0285】
[その他の層]
上記の層以外に、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0286】
[塗布方法]
反射防止フィルムの各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号明細書)により、塗布により形成することができる。
【0287】
[アンチグレア機能]
反射防止膜は、外光を散乱させるアンチグレア機能を有していてもよい。アンチグレア機能は、反射防止膜の表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止膜がアンチグレア機能を有する場合、反射防止膜のヘイズは、3%〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましく、7%〜20%であることが最も好ましい。
【0288】
反射防止膜表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法であればいずれの方法でも適用できる。例えば、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下層(高屈折率層、中屈折率層又はハードコート層)に比較的大きな粒子(粒径0.05μm〜2μm)を少量(0.1質量%〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、最上層(防汚性層)を塗設後の表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等が挙げられる。
【0289】
[用途]
本発明の未延伸、延伸セルロースアシレートフィルムは、光学フィルム、特に偏光板保護フィルム用、液晶表示装置の光学補償シート(位相差フィルムともいう)、反射型液晶表示装置の光学補償シート、ハロゲン化銀写真感光材料用支持体として有用である。
【0290】
(1)偏光板の作製
(1−1)延伸
未延伸セルロースアシレートフィルムをそれぞれのフィルムのガラス転移温度(Tg)+10℃で300%/分で延伸を行う。延伸セルロースアシレートフィルムの例としては、(1)縦延伸倍率300%、横延伸倍率0%とすると、Reが200nm、Rthが100nmのフィルムが得られる。(2)縦延伸倍率50%、横延伸倍率10%とすると、Reが60nm、Rthが220nmのフィルムが得られる。(3)縦延伸倍率50%、横延伸倍率50%とすると、Reが0nm、Rthが450nmのフィルムが得られる。(4)縦延伸倍率50%、横延伸倍率10%とすると、Reが60nm、Rthが220nmのフィルムが得られる。(5)縦延伸倍率0%、横延伸倍率150%とすると、Reが150nm、Rthが150nmのフィルムが得られる。
【0291】
(1−2)セルロースアシレートフィルムの鹸化
未延伸セルロースアシレートフィルム、延伸セルロースアシレートフィルムを下記の浸漬鹸化を行う。塗布鹸化を行った場合も同様の結果が得られる。
【0292】
(i)浸漬鹸化
NaOHの1.5規定水溶液を鹸化液として用いる。これを60℃に調温し、セルロースアシレートフィルムを2分間浸漬する。この後、0.1Nの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴に通す。
【0293】
(ii)塗布鹸化
iso-プロパノール80質量部に水20質量部を加え、これにKOHを1.5規定となるように溶解し、これを60℃に調温したものを鹸化液として用いる。これを60℃のセルロースアシレートフィルム上に10g/m2で塗布し、1分間鹸化する。この後、50℃の温水をスプレーにより10L/m2・分で1分間吹きかけ洗浄する。
【0294】
(1−3)偏光層の作成
特開平2001−141926の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し厚み20μmの偏光層を調製する。
【0295】
(1−4)貼り合わせ
このようにして得られる偏光層と上記鹸化処理した未延伸、延伸セルロースアシレートフィルムとをPVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とセルロースアシレートフィルムの長手方向が45度となるように張り合わせる。このようにして作製される偏光板を特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置液晶表示装置に取り付け、最も投影平行スジが見え易い斜め32度から目視評価すれば、良好な性能が得られる。
【0296】
(2)光学補償フィルムの作製
(i)未延伸フィルム
特開平11−316378号の実施例1の第1透明支持体に、本発明の未延伸セルロースアシレートフィルムを使用すれば、良好な光学補償フィルムを作製できる。
【0297】
(ii)延伸セルロースアシレートフィルム
特開平11−316378号の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、本発明の延伸セルロースアシレートフィルムを使用すれば、良好な光学補償フィルムを作製できる。特開平7−333433の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムに代わって、本発明の延伸セルロースアシレートフィルムに変更し光学補償フィルターフィルムを作製すれば(光学補償フィルムBと記載)、良好な光学補償フィルムを作製できる。
【0298】
(3)低反射フィルムの作製
本発明のセルロースアシレートフィルムを発明協会公開技報(公技番号2001−1745)の実施例47に従い本発明の延伸、未延伸セルロースアシレートフィルムを用いて低反射フィルムを作製すれば、良好な光学性能が得られる。
【0299】
(4)液晶表示素子の作製
本発明に係る偏光板を、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置に用いる。さらに、本発明に係る低反射フィルムをこれらの液晶表示装置の最表層に貼り目視評価を行えば、良好な視認性能が得られる。
【実施例】
【0300】
[セルロースアシレート樹脂]
表1に記載のアシル基の種類、置換度の異なるセルロースアシレートを調製した。これは、触媒として硫酸(セルロース100重量部に対し7.8重量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することで、アシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化後の40℃で熟成を行った。このようにして得たセルロースアシレートのTgは以下の方法で測定し、図4の表1に記載した。なお、可塑剤を添加したものは、可塑剤添加後に測定した値を示した。
【0301】
(Tg測定)
DSCの測定パンにサンプルを20mg入れる。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後(1st-run)、30℃まで−10℃/分で冷却する。この後、再度30℃から250℃まで昇温する(2nd-run)。2nd-runでベースラインが低温側から偏奇し始める温度をガラス転移温度(Tg)とし表1に記載した。また、全水準に二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V)0.05質量%を添加した。
【0302】
[溶融製膜]
合成した表1のセルロースアシレートを120℃で3時間送風乾燥し、含水率を0.1質量%にした。これに、可塑剤としてトリフェニルフォスフェート(TPP)3wt%、及び二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V)0.05質量%、ホスファイト系安定剤(P−1)0. 20質量%、「紫外線吸収剤a」2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(0. 8質量%)、「紫外線吸収剤b」2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(0.25質量%)を添加し、混合物を2軸混練押出し機を用いて190℃で溶融混練した。なお、この2軸混練押出し機には真空ベントを設け、真空排気(0.3気圧に設定)を行った。水浴中に直径3mmのストランド状に押出し、長さ5mmに裁断した。
【0303】
上記混練樹脂は90℃の脱湿風を用いて3時間乾燥させ、水分率を0.1wt%にした後、L/D=35、圧縮率3.5、スクリュー径が65mmのフルフライトスクリューを挿入した単軸押し出し機を用いて210℃で溶融させた後、厚み精度をアップさせるために、ギアポンプを用いて一定量送り出した。ギアポンプから送り出された溶融ポリマーは異物除去のために4μmの焼結フィルターを経由した後、実施例1〜9では、スリット状の隙間を有するダイへ送り出され、冷却ローラで冷却固化されて、セルロースアシレートフィルムとなった。固化したシートを冷却ローラ29から剥ぎ取り、ロール状に巻き取った。用いた冷却ローラは次の通り。冷却ローラ27,28,29は直径500mm、肉厚25mmで表面粗度Ra=25nmの金属ローラであり、設定温度は樹脂のガラス転移温度−5℃とした。押圧ローラ26は、直径300mmで製膜を行った。また、比較例1〜3は、押圧ローラ26を用いずに(キャスティングドラム法により)製膜した以外は実施例1〜9と同じ条件で製膜を行った。なお、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で3000m巻き取った。
【0304】
図4の表1から分かるように、実施例1〜3は同じセルロースアシレートであるが、タッチロール法により製膜しているので、延伸を1軸又は2軸で行っているが、膜厚変動やRe・Rthの変動が小さく、良好なフィルムを得ることができることが分かる。一方、比較例1は、キャスティングドラム法により製膜しているので、膜厚変動やRe・Rthの変動が大きく、それぞれ10%を超える結果であった。
【0305】
また、実施例4〜7は、実施例1と同じ製膜法(タッチロール法)及び同じ延伸条件であり、セルロースアシレートの置換度の割合を変えたものである。その中でも、置換度が2.0≦X+Y≦3.0、0≦X≦2.0、1.2≦Y≦2.9、を満足している実施例1及び4〜6は、満たしていない実施例7と比較して、膜厚変動やRe・Rthの変動が小さく、良好なフィルムを得ることができることが分かる。
【0306】
更に、実施例8、9及び比較例2、3は、樹脂が飽和ノルボルネン又はポリカーボネートであるが、タッチロール法で製膜したものは、キャスティングドラム法で製膜したものと比較して、膜厚変動やRe・Rthの変動が小さかった。
【0307】
[偏光板の作成]
1.偏光板の作成
(1)表面処理
表1の熱可塑性樹脂フィルムを下記の浸漬法で鹸化を行った。なお下記塗布鹸化も実施したが浸漬鹸化と同様の結果を得た。
(i).浸漬鹸化
NaOHの1.5規定水溶液を鹸化液として用いた。
【0308】
これを60°Cに調温し、熱可塑性樹脂フィルムを2分間浸漬した。
【0309】
この後、0.1Nの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
(ii).塗布鹸化
iso-プロパノール80重量部に水20重量部を加え、これにKOHを1.5規定となるように溶解し、これを60°Cに調温したものを鹸化液として用いた。
【0310】
これを60°Cの熱可塑性樹脂フィルム上に10g/m2 塗布し、1分間鹸化した。
【0311】
この後、50°Cの温水をスプレーを用い、10l/m2 ・分で1分間吹きかけ洗浄した。
(2)偏光層の作成
特開平2001−141926の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸した厚み20μmの偏光層を調製した。なお、特開平2002−86554の実施例1のように延伸軸が斜め45度となるように延伸した偏光層も同様に作成したが、以降の評価結果は上述のものと同様な結果が得られた。
(3)貼り合わせ
このようにして得た偏光層を、上記方法で製膜、延伸、鹸化処理した熱可塑性樹脂フィルムを用い、下記構成となるようにPVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤とし貼り合せ偏光板を作成した。なお、下記に記載したフジタック(富士写真フィルム製TD80)も上記の方法で鹸化処理を行った。
【0312】
偏光板A:延伸熱可塑性樹脂フィルム/偏光層/フジタック
偏光板B:延伸熱可塑性樹脂フィルム/偏光層/未延伸熱可塑性樹脂フィルム
(偏光板Bでは延伸、未延伸熱可塑性樹脂フィルムは同じ熱可塑性樹脂を用いた)
このようにして得た偏光板のフレッシュ品と、ウエットサーモ(60°C90%rh500時間)、ドライサーモ(80°Cドライ500時間)後の偏光板を、延伸セルロースアシレートを液晶側になるようにして、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置液晶表示装置に取り付けた。これをフレッシュ品の偏光板を用いたものと、ドライ、ウエットサーモ品の偏光板を用いたものを比較し、目視評価し色むらの発生領域の全面積に占める割合から、液晶表示装置での色むらを判定し図4の表1に記載した。色むらは、全く色むらが見受けられなく問題がないものを◎、ほとんど色むらが見受けられなく問題がないものを○、若干ながら色むらが見受けられるものを△、色むらが全体に見受けられるものを×、とした。
【0313】
図4の表1から分かるように、本発明を実施した実施例1〜9は良好な性能が得られた。
【0314】
2.光学補償フィルムの作成
特開平11−316378号の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、本発明の延伸熱可塑性樹脂フィルムを使用した。この時製膜、延伸直後のもの(フレッシュ品)を用いた場合と、ウエットサーモ(60°C90%rh500時間)、ドライサーモ(80°Cドライ500時間)後のものを用いた場合で、両者比較し色むらの発生している領域を目視評価したが、本発明を用いたものは良好な光学補償フィルムを作成できた。
【0315】
特開平7−333433の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムに代わって、本発明の延伸熱可塑性樹脂フィルムに変更し光学補償フィルターフィルムを作製したものでも同様に良好な光学補償フィルムを作成できた。
【0316】
3.低反射フィルムの作成
本発明の延伸熱可塑性樹脂フィルムを発明協会公開技報(公技番号2001−1745)の実施例47に従い本発明の延伸熱可塑性樹脂フィルムを用いて低反射フィルムを作成したところ、良好な光学性能が得られた。
【0317】
4.液晶表示素子の作成
上記本発明の偏光板を、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置、特開2004−12731の図11に記載のIPS型液晶表示装置に用いた。さらに、本発明の低反射フィルムをこれらの液晶表示装置の最表層に貼り評価を行ったところ、良好な液晶表示素子を得た。
【図面の簡単な説明】
【0318】
【図1】本発明が適用されるフィルム製造装置の構成を示す模式図
【図2】押出機の構成を示す概略図
【図3】製膜工程部の構成を示す概略図
【図4】本発明の実施例の説明図
【符号の説明】
【0319】
10…フィルム製造装置、12…セルロースアシレートフィルム、14…製膜工程部、16…縦延伸工程部、18…横延伸工程部、20…巻取工程部、22…押出機、24…ダイ、26…ローラ(押圧ローラ)、27…ローラ(冷却ローラ)、28,29…冷却ローラ、44…金属筒(外筒)、46…液状媒体層、48…弾性体層(内筒)、50…金属シャフト、Q…接触している長さ、Y…ライン速度、Z…金属筒の肉厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の熱可塑性樹脂をダイからシート状に押し出し、該シートを、冷却ローラと、該冷却ローラに圧接するように設けられた押圧ローラと、で挟んで冷却固化することによってフィルムを製膜する製膜工程部と、
該熱可塑性樹脂フィルムを1軸又は2軸延伸する延伸工程部と、を備えたことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記延伸工程部で延伸された熱可塑性樹脂フィルムは、幅方向、長手方向における厚み変動が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記延伸工程部で延伸された熱可塑性樹脂フィルムは、幅方向、長手方向における面内のレターデーション(Re)及び厚み方向のレターデーション(Rth)の変動が10%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記延伸工程部で延伸された熱可塑性樹脂フィルムは、面内のレターデーション(Re)及び厚み方向のレターデーション(Rth)の絶対値が500nm以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1に記載の製造方法で製造されたことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、セルロースアシレート樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
前記セルロースアシレート樹脂は、Xをアセチル基の置換度、Yをプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和としたときに、アシレート基が下記の置換度、
2.0≦X+Y≦3.0、
0≦X≦2.0、
1.2≦Y≦2.9、
を満足することを特徴とする請求項6に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂は、飽和ノルボルネン樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項10】
請求項5〜9の何れかに記載の熱可塑性樹脂フィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
【請求項11】
請求項5〜9の何れかに記載の熱可塑性樹脂フィルムを基材に用いたことを特徴とする液晶表示板用光学補償フィルム。
【請求項12】
請求項5〜9の何れかに記載の熱可塑性樹脂フィルムを基材に用いたことを特徴とする反射防止フィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−137028(P2007−137028A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337588(P2005−337588)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】