説明

熱可塑性樹脂成形体及びその製造方法

【課題】低伸縮性及び耐衝撃性に優れ、製造時に廃材の発生が少なく、製造工程が煩雑にならない熱可塑性樹脂成形体を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂成形体は、塩化ビニル系樹脂80〜95体積%に対して、ガラス繊維を20〜5体積%含有し、前記ガラス繊維はフィラメント状であって成形体の長手方向に沿って配列されており、押出成形時の流れ方向の線膨張係数が2.0×10−5〜4.0×10−5(1/℃)である。成形体は、塩化ビニル系樹脂をクロスヘッドダイ15を備えた押出機14で押出成形するとともに、塩化ビニル系樹脂を溶剤又は可塑剤に溶解した溶液をフィラメント状のガラス繊維束Fに含浸させた後、そのガラス繊維束Fをクロスヘッドダイ15へ送り込み、押出機14からクロスヘッドダイ15に供給される溶融樹脂と共に押し出すことで製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形体及びその製造方法に係り、詳しくは雨樋等の長尺の建材用途として好適な熱可塑性樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雨樋等の屋外用途に用いられる熱可塑性樹脂製建材は、硬質塩化ビニル樹脂で形成されたものが一般的である。しかし、塩化ビニル樹脂は線膨張係数が大きいために、建物に固定された後に、昼夜や夏冬の気温の変化による長手方向の伸縮で変形したり、金属製の止め金具の部分で破損したりする場合がある。
【0003】
これらの問題を解決するため、カーボン繊維芯材層の内外層に塩化ビニル樹脂を被覆したカーボン繊維複合材からなる雨樋が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、オレフィン系樹脂や熱可塑性ポリエステル、スチレン系樹脂をカーボン繊維マットに含浸させた後、粉砕又は切断して得られた粒状体と、熱可塑性樹脂とを混合して溶融成形する雨樋の製造方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−315366号公報(明細書の段落[0010]〜[0022])
【特許文献2】特開2002−349024号公報(明細書の段落[0007]〜[0019])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の雨樋を構成する塩化ビニル樹脂を被覆したカーボン繊維複合材は、予めカーボン繊維マットにポリエチレンテレフタレートを含浸させたシートを所定の寸法に成形し、その内外面に塩化ビニル樹脂を被覆するという方法で製造されている。しかし、この方法ではシートを製造する際、幅調整時にシート端部の廃材が発生するという問題がある。一方、特許文献2の方法は、特許文献1の問題を解決するためになされたものであり、製造時にカーボン繊維を含有するシートの廃材が発生することはない。しかし、特許文献2の方法では、オレフィン系樹脂や熱可塑性ポリエステル、スチレン系樹脂をカーボン繊維マットに含浸させた後に粉砕又は切断する工程を有するので、工程が煩雑になるという問題がある。また、含浸したマットを粉砕又は切断する際に繊維の微粉末が飛散する虞があり、作業上の問題がある。
【0005】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その第1の目的は、低伸縮性及び耐衝撃性に優れ、製造時に廃材の発生が少なく、製造工程が煩雑にならない熱可塑性樹脂成形体を提供することにある。また、第2の目的はその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記第1の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、塩化ビニル系樹脂80〜95体積%に対して、ガラス繊維を20〜5体積%含有し、前記ガラス繊維はフィラメント状であって成形体の長手方向に沿って配列されており、押出成形時の流れ方向の線膨張係数が2.0×10−5〜4.0×10−5(1/℃)である。
【0007】
この発明では、塩化ビニル系樹脂の線膨張係数が大きくても、フィラメント状のガラス繊維が成形体の長手方向に沿って配列されているため、成形体は低伸縮性に優れる。従って、屋外で使用される雨樋等の建材の素材として広く使用されている塩化ビニル系樹脂を使用しても、その問題点である線膨張係数が大きいことに起因して、昼夜の温度変化等による伸縮で変形したり、破損したりすることを抑制することができる。また、塩化ビニル系樹脂の押出成形時にガラス繊維を連続的に溶融樹脂と共に押し出し成形することで製造が可能となり、製造時に廃材の発生が少なく、製造工程が煩雑にならないようにすることも可能となる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記塩化ビニル系樹脂は塩化ビニルの単独重合体、即ち塩化ビニル樹脂である。この発明では、塩化ビニル系樹脂のなかでも塩化ビニル樹脂が使用されるため、熱安定性及び成形加工性の面で他の塩化ビニル系樹脂に比較して優れている。
【0009】
前記第2の目的を達成するため、請求項3に記載の発明は、塩化ビニル系樹脂をクロスヘッドダイを備えた押出機で押出成形するとともに、塩化ビニル系樹脂を溶剤又は可塑剤に溶解した溶液をフィラメント状のガラス繊維の繊維束に含浸させた後、そのガラス繊維の繊維束を前記クロスヘッドダイへ送り込み、前記押出機から前記クロスヘッドダイに供給される溶融樹脂と共に押し出して、塩化ビニル系樹脂80〜95体積%に対して、ガラス繊維を20〜5体積%含有するように成形する。
【0010】
この発明の製造方法では、クロスヘッドダイを備えた押出機で塩化ビニル系樹脂の溶融樹脂が押出成形される際に、フィラメント状のガラス繊維の繊維束が挿入される。その際、ガラス繊維の繊維束に、塩化ビニル系樹脂を溶剤又は可塑剤に溶解した溶液が含浸された後に、そのガラス繊維の繊維束が前記クロスヘッドに送り込まれる。従って、前記溶液の含浸を行わずに、ガラス繊維の繊維束が前記クロスヘッドに単に送り込まれる場合と異なり、塩化ビニル系樹脂がガラス繊維の繊維束の中に確実に含浸された状態で成形体となり、塩化ビニル系樹脂とガラス繊維との密着性が良くなる。そして、塩化ビニル系樹脂80〜95体積%に対して、ガラス繊維を20〜5体積%含有することにより、線膨張係数の低下及び耐衝撃性向上に対して効果を増す。
【発明の効果】
【0011】
請求項1及び請求項2に記載の発明の熱可塑性樹脂成形体によれば、低伸縮性及び耐衝撃性に優れ、製造時に廃材の発生が少なく、製造工程が煩雑にならない。また、請求項3に記載の発明によれば、低伸縮性及び耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂成形体を製造時に廃材の発生が少なく、しかも製造工程が煩雑にならないように製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施形態を説明する。
熱可塑性樹脂成形体は、塩化ビニル系樹脂80〜95体積%に対して、ガラス繊維を20〜5体積%含有している。前記ガラス繊維はフィラメント状であって成形体の長手方向に沿って配列されている。
【0013】
塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルの単独重合体の他に、塩化ビニルの単独重合体を後塩素化した塩素化塩化ビニル樹脂、塩化ビニルを主たる構成単位とした他の共重合可能な単量体との共重合体をも含む。共重合可能な単量体としては塩化ビニリデン、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。しかし、熱安定性や成形加工性等を考慮すると、塩化ビニルの単独重合体を使用することが好ましい。
【0014】
塩化ビニル樹脂の重合度は800〜2000が好ましく、1000〜1500がより好ましい。重合度が800より低いと抗張力等の機械的物性が低下し、重合度が2000より高いと溶融粘度が高く成形加工が困難となる。
【0015】
ガラス繊維は、繊維径が5〜20μmのストランド(フィラメント)を100〜300本束ねたものが使用される。繊維径が5μmより細いと、成形加工中に繊維が切断し易く、繊維が切断すると押出しを中断して繊維を再挿入しなければならずロスが生じる。また、繊維径が20μmより太いと、成形体の二次加工性(切断装置(例えばハサミ)による切断性)が悪化する。繊維の本数が100本以下では、所定の添加量を挿入するためには多くのボビンを用意しなければならず効率が悪い。また、繊維の数が300本以上では、溶解した樹脂を繊維同士の間に含浸することが困難となり、成形体(成形品)の衝撃強度が低下する。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂成形体を構成する塩化ビニル系樹脂組成物には、上記の特性を損なわない範囲で必要に応じて、熱安定剤、滑剤、衝撃改良剤、顔料の他、帯電防止剤、難燃剤、加工助剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0017】
次に、前記のように構成された熱可塑性樹脂成形体(単に成形体という場合もある)の製造方法を説明する。
ガラス繊維は、クロスヘッドダイを備えた押出機で押出成形される溶融樹脂と共に押し出され、成形体に挿入された状態となる。ガラス繊維は、予め溶剤に溶解した塩化ビニル系樹脂又は可塑剤に溶解した塩化ビニルペースト樹脂が含浸された状態で、前記クロスヘッドに送り込まれる。溶剤としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、単独又は必要に応じて2種以上組み合わせて使用してもよい。可塑剤は、特に限定されず、従来公知の可塑剤を使用することができる。このような可塑剤としては、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジシクロヘキシル、テトラヒドロフタル酸エステル、トリクレシルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリ(2−クロロエチル)ホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジ−n−アルキル、ジブチルジグリコールアジペート、アゼライン酸ビス(2−エチルヘキシル)、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジ−2−エチルヘキシル、フマル酸ジブチル、トリメリット酸トリス−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリアルキル、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、ステアリン酸系可塑剤及び塩化パラフィン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。可塑剤の使用量は特に限定されないが、例えば、塩化ビニル系ペースト樹脂100重量部に対して10〜2000重量部用いることが好ましく、50〜1000重量部用いることがより好ましい。
【0018】
図1に示すように、製造装置11は、繊維供給部12と、ガラス繊維束Fに樹脂を含浸させる含浸装置13と、クロスヘッドダイ15を備えた押出機14と、冷却装置16と、冷却後の成形体Sを引き取る引取装置17と、成形体Sを所定の寸法に切断する切断装置18とを備えている。繊維供給部12はガラス繊維束Fが巻かれた複数のボビンBを備え、上下一対のガイドロール12aにより、ガラス繊維束Fを送り出すようになっている。なお、図示の都合上、ボビンBを3個図示しているが、ボビンBの数は使用するガラス繊維束Fの本数に対応して変更される。含浸装置13は3本のローラを備え、ガラス繊維束Fを含浸装置13内に貯留された溶液(図示せず)に浸漬させるようになっている。
【0019】
図2に示すように、クロスヘッドダイ15は、通常の電線被覆成形用のものと基本的に同様な構成であるが、ガラス繊維束Fを送り込む(挿入する)ための通路19aが扁平な矩形断面となるように形成されたマンドレル19を備えるとともに、溶融樹脂の通路15aも矩形状に形成されている。なお、クロスヘッドダイ15の周囲にはヒーター(図示せず)が設けられている。
【0020】
マンドレル19の通路19aに送り込まれたガラス繊維束Fと、押出機14で溶融されてクロスヘッドダイ15の通路15aに供給された溶融樹脂(図示せず)とがクロスヘッドダイ15の合流部20で合流し、ガラス繊維束Fの周囲を樹脂が被覆した状態でクロスヘッドダイ15から成形体Sとして押し出される。即ち、クロスヘッドダイ15の出口から所定の形状で押し出される熱可塑性樹脂組成物に対して、所定量のガラス繊維束Fが長手方向に沿って配列された状態で、成形体Sが押し出される。成形体Sは、冷却装置16で冷却され、次いで引取装置17で引き取られ、切断装置18で所定の長さに切断される。その結果、塩化ビニル系樹脂80〜95体積%に対して、ガラス繊維を20〜5体積%含有し、前記ガラス繊維はフィラメント状であって成形体Sの長手方向に沿って配列されており、押出成形時の流れ方向の線膨張係数が2.0×10−5〜4.0×10−5(1/℃)である成形体Sが得られる。
【0021】
(実施例)
以下、実施例及び比較例により、更に詳しく説明する。
塩化ビニル系樹脂として重合度1000の塩化ビニル樹脂(PVC)100重量部、熱安定剤として鉛系安定剤0.5重量部及び滑剤0.5重量部を一般的な混合装置であるスーパーミキサーにて混合し、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0022】
ガラス繊維として繊維径10μmのものを300本束ねたガラス繊維束を使用し、含浸溶液として、メチルエチルケトン溶媒によるPVC5%溶液を使用した。
前記のようにして得られた熱可塑性樹脂組成物をクロスヘッドダイを備えた異方向2軸押出機に供給し、樹脂温度200℃にて押し出すとともに、押し出し途中でガラス繊維束Fを挿入することにより、厚さ1.5mm、幅120mmの押出板(成形体)作製した。実施例1ではガラス繊維の含有量が5体積%、実施例2ではガラス繊維の含有量が10体積%、実施例3ではガラス繊維の含有量が20体積%となるようにガラス繊維束の挿入量を調整した。ガラス繊維束の挿入本数は、実施例1では35本、実施例2では70本、実施例3では140本とした。比較例1ではガラス繊維の含有量が1体積%、比較例2ではガラス繊維の含有量が30体積%、比較例3ではガラス繊維の含有量が10体積%となるようにガラス繊維束の挿入量を調整した。ガラス繊維束の挿入本数は、比較例1では7本、比較例2では210本、比較例3では70本とした。なお、比較例3では含浸溶液の含浸処理を行わずに、ガラス繊維束を挿入した。得られた成形体につき、比重、線膨張係数及び衝撃強度を測定した。結果を表1に示す。
【0023】
(比重の測定)
比重は、JIS−K−7112に基づいて測定した。
成形体の比重が1.6以下を合格とし、合格の中でも好ましいものを○とし、その他を△とした。×は不合格である。
【0024】
(線膨張係数)
線膨張係数は、JIS−K−7197に基づいて測定した。
押出成形時の流れ方向の線膨張係数が、4.0×10−5(1/℃)以下を合格とし、合格の中でも好ましいものを○とし、その他を△とした。×は不合格である。
【0025】
(衝撃強度)
衝撃強度は、0℃で、1kgの重錘による、落錘50%破壊高さを測定した。「落錘50%破壊高さ」とは、JIS−K−7211の硬質プラスチックの落錘衝撃試験通則に類似の強度試験であり、複数の試験片に対して前記重錘を落下させ、試験片の50%が破壊する高さを意味する。破壊高さの値が大きい方が強度が大きい。衝撃強度は、0.1m以上を合格とし、合格の中でも好ましいものを○とし、その他を△とした。×は不合格である。
【0026】
比重、線膨張係数及び落錘強度のすべてが合格の成形体が総合評価で最終的に合格となる。
【0027】
【表1】

表1から、塩化ビニル系樹脂をクロスヘッドダイを備えた押出機で押出成形するとともに、塩化ビニル系樹脂を溶剤又は可塑剤に溶解した溶液を含浸させたガラス繊維の繊維束を、クロスヘッドダイに送り込み、成形体に所定量挿入して成形することにより形成された成形体は、低伸縮性及び耐衝撃性に優れることが確認された。耐衝撃性に優れるとは、0℃における落錘50%破壊高さが0.1m以上を意味する。
【0028】
表1から、塩化ビニル系樹脂80〜95体積%に対して、ガラス繊維を20〜5体積%含有し、線膨張係数が2.0×10−5〜4.0×10−5(1/℃)の成形体は、耐衝撃性に優れることが確認された。即ち、塩化ビニル系樹脂80〜95体積%に対して、ガラス繊維を20〜5体積%含有し、前記ガラス繊維はフィラメント状であって成形体の長手方向に沿って配列されており、押出成形時の流れ方向の線膨張係数が2.0×10−5〜4.0×10−5(1/℃)である成形体は、低伸縮性で、かつ耐衝撃性に優れる。
【0029】
比較例1からガラス繊維の含有量を5体積%未満(比較例1では1体積%)とした場合、線膨張係数が4.0×10−5(1/℃)以下という条件を満たさず不合格となる。また、比較例2からガラス繊維の含有量が20体積%を超える(比較例2では30体積%)場合は、成形体の衝撃強度(落錘強度)が0.1m以上という条件を満たさず不合格となることを確認できる。即ち、ガラス繊維の含有量が5体積%未満又は20体積%を超える場合は、他の条件が同じであっても目的の物性を有する成形体が得られないことを確認できる。
【0030】
比較例3から、塩化ビニル系樹脂の押出成形時に挿入されるガラス繊維に対して、塩化ビニル系樹脂を溶剤又は可塑剤に溶解した溶液をガラス繊維の繊維束に予め含浸させずに挿入した場合、得られる成形体は線膨張係数及び耐衝撃性とも目的とする値に達しないことが確認された。これは、ガラス繊維束Fを構成する繊維同士が密接していると、クロスヘッドダイにおいて溶融状態の塩化ビニル系樹脂がガラス繊維束内に含浸され難く、成形体となった状態において、各ガラス繊維と塩化ビニル系樹脂との密着性が不十分となるためと考えられる。
【0031】
ガラス繊維束をほぐして溶融状態の塩化ビニル系樹脂に挿入することによっても、ガラス繊維と塩化ビニル系樹脂との密着性を高めることは可能と考えられるが、ガラス繊維をほぐすのに手間と時間がかかり、生産性が悪くなるとともにコストも高くなる。従って、クロスヘッドダイから押出成形される途中の塩化ビニル系樹脂に対して、ガラス繊維をクロスヘッドダイに形成された通路から挿入する方法で成形体を製造する場合は、予めガラス繊維に樹脂溶液を含浸させておかないと、目的の物性値を有する成形体を得るのが難しい。
【0032】
実施例1〜実施例3、比較例1及び比較例2から、予めガラス繊維に樹脂溶液を含浸させた場合、ガラス繊維の含有量が多い方が、得られる成形体の線膨張係数が小さくなることを確認できる。また、予めガラス繊維に樹脂溶液を含浸させた場合、ガラス繊維の含有量が多い方が、得られる成形体の衝撃強度が低下することを確認できる。
【0033】
この実施の形態では次の効果を有する。
(1)本発明の熱可塑性樹脂成形体は、塩化ビニル系樹脂80〜95体積%に対して、ガラス繊維を20〜5体積%含有し、前記ガラス繊維はフィラメント状であって成形体の長手方向に沿って配列されており、押出成形時の流れ方向の線膨張係数が2.0×10−5〜4.0×10−5(1/℃)である。従って、屋外で使用される雨樋等の建材の素材として広く使用されている塩化ビニル系樹脂を使用しても、その問題点である線膨張係数が大きいことに起因して、昼夜の温度変化等による伸縮で変形したり、破損したりすることを抑制することができる。また、塩化ビニル系樹脂の押出成形時にガラス繊維を連続的に成形体に挿入することで製造が可能となり、製造時に廃材の発生が少なく、製造工程が煩雑にならないようにすることも可能となる。
【0034】
(2)塩化ビニル系樹脂として、塩化ビニルの単独重合体、即ち塩化ビニル樹脂を使用した場合は、熱安定性及び成形加工性の面で他の塩化ビニル系樹脂に比較して優れている。
【0035】
(3)成形体の製造方法として、塩化ビニル系樹脂をクロスヘッドダイ15を備えた押出機14で押出成形するとともに、塩化ビニル系樹脂を溶剤又は可塑剤に溶解した溶液をフィラメント状のガラス繊維束Fに含浸させた後、そのガラス繊維束Fをクロスヘッドダイへ15送り込む。そして、押出機14からクロスヘッドダイ15に供給される溶融樹脂と共に押し出して成形体に挿入する。従って、成形体が塩化ビニル系樹脂80〜95体積%に対して、ガラス繊維を20〜5体積%含有するように成形する際、ガラス繊維束Fを構成する各ガラス繊維と塩化ビニル系樹脂との密着性が良くなって、ガラス繊維による線膨張係数の低下及び耐衝撃性向上効果を十分に発揮できる。
【0036】
(4)塩化ビニル樹脂として、重合度が800以上のものを使用することにより、抗張力等の機械的物性の低下を抑制でき、重合度が2000以下のものを使用することにより、溶融粘度が高くなることに伴う成形加工性の低下を抑制できる。
【0037】
(5)ガラス繊維として、繊維径が5〜20μmのものを使用することにより、成形加工中に繊維が切断したり、成形体の二次加工性(切断装置(例えばハサミ)による切断性)が悪化するのを抑制することができる。
【0038】
(6)ガラス繊維束Fとしてガラス繊維の数が100〜300本のものを使用することにより、成形時の挿入効率を高めたり、溶解した樹脂のガラス繊維間への含浸を円滑に行うことができる。
【0039】
(7)ガラス繊維束が、押出機14に装備されたクロスヘッドダイ15に形成された通路19aから挿入されて、塩化ビニル系樹脂と共に押し出されて成形体が形成される。従って、ガラス繊維の挿入が容易である。
【0040】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 成形体の製造方法として、1台の押出機14を使用するとともに、押出機14に装備されたクロスヘッドダイ15に形成された通路19aからガラス繊維束Fを成形体に挿入する代わりに、押出機14を複数台(例えば、2台)設ける。そして、第1の押出機から押し出された成形体に上にガラス繊維束Fを供給するとともに、第2の押出機から押し出された成形体でガラス繊維束Fを覆うようにして最終製品の成形体を形成する。
【0041】
○ ガラス繊維束を予め塩化ビニル系樹脂の溶液に含浸させず、ほぐした状態のガラス繊維束を溶融状態の塩化ビニル系樹脂に挿入するようにして、成形体を形成するようにしてもよい。しかし、ガラス繊維束をほぐすのに手間と時間がかかり、生産性や製造コストの面で、ガラス繊維束に塩化ビニル系樹脂の溶液を予め含浸させる方法が優れている。
【0042】
前記実施形態から把握できる技術的思想(発明)について以下に記載する。
(1)請求項3に記載の発明において、前記クロスヘッドダイには樹脂の押出経路に連通する通路が形成され、前記ガラス繊維の繊維束は前記通路から、前記クロスヘッドダイ内を移動する溶融樹脂に挿入される。
【0043】
(2)請求項1〜請求項3及び前記技術的思想(1)のいずれか一項に記載の発明において、前記ガラス繊維の繊維径は5〜20μmである。
(3)前記技術的思想(2)の発明において、前記ガラス繊維の繊維束は前記ガラス繊維を100〜300本束ねたものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】製造装置の模式平面図。
【図2】クロスヘッドダイの模式断面図。
【符号の説明】
【0045】
F…ガラス繊維束、S…成形体、14…押出機、15…クロスヘッドダイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂80〜95体積%に対して、ガラス繊維を20〜5体積%含有し、前記ガラス繊維はフィラメント状であって成形体の長手方向に沿って配列されており、押出成形時の流れ方向の線膨張係数が2.0×10−5〜4.0×10−5(1/℃)であることを特徴とする熱可塑性樹脂成形体。
【請求項2】
前記塩化ビニル系樹脂は塩化ビニルの単独重合体である請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項3】
塩化ビニル系樹脂をクロスヘッドダイを備えた押出機で押出成形するとともに、塩化ビニル系樹脂を溶剤又は可塑剤に溶解した溶液をフィラメント状のガラス繊維の繊維束に含浸させた後、そのガラス繊維の繊維束を前記クロスヘッドダイへ送り込み、前記押出機から前記クロスヘッドダイに供給される溶融樹脂と共に押し出して、塩化ビニル系樹脂80〜95体積%に対して、ガラス繊維を20〜5体積%含有するように成形することを特徴とする熱可塑性樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−62099(P2006−62099A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244153(P2004−244153)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】