説明

熱安定性が向上したエンジン潤滑剤

【課題】特に潤滑油組成物を収容する自動車エンジンが高温で作動した際に高い熱安定性をもたらすが、エンジンおよび環境にはリン、硫黄および硫酸灰分を低レベルでしか持ち込まない潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】潤滑剤の熱安定性、並びに潤滑剤を収容するエンジンの高温性能を増大させるために、低硫黄、低硫酸灰分及び低リンエンジン潤滑剤に本発明の一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油(FTBO)を配合してなる配合物、その製造方法および使用方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン用の潤滑油組成物に関するものである。つまりは、本発明は、少なくとも一種のフィッシャー・トロプシュ合成基油(「FTBO」)を主要量で含み、かつ硫酸灰分、リンおよび硫黄のレベルが低減した(低「SAPS」の)潤滑油組成物に関する。この組成物は、従来の基油を含む同様のエンジン用潤滑油組成物よりも熱安定性が改善される。
【背景技術】
【0002】
環境問題についての関心が、圧縮点火(ディーゼル燃料)及び火花点火(ガソリン燃料)内燃機関からの一酸化炭素(CO)や炭化水素、窒素酸化物(NOX)といった排出物を低減しようとする継続した努力をもたらしている。また、圧縮点火ディーゼル内燃機関からの粒子状排出物を低減しようとする継続した努力も行なわれている。客車およびその他車両の昨今の排出基準を満たすために、装置製造業者(OEM)は排ガス後処理装置を用いてきつつある。そのような排ガス後処理装置としては、これらに限定されるものではないが、触媒コンバータおよび/または微粒子捕集装置が挙げられる。
【0003】
触媒コンバータには一般に、一種以上の酸化触媒、NOX蓄積触媒および/またはNH3還元触媒が含まれている。その中に含まれている触媒は一般に、白金などの触媒金属と金属酸化物との組合せから構成されている。触媒コンバータは、有毒ガスを無毒ガスに変換するために排気系統、例えば自動車の排気管に設置される。触媒コンバータの使用は、地球温暖化傾向に歯止めをかけ、その他環境上の損害を無くそうと努める上で重要であると考えられている。だが、触媒コンバータはある種の元素または化合物、特にリン化合物にさらされると、その結果として、害を受けたり、無用とまではならなくても効果が低くなることがある。リン化合物が排ガスに混入する多くの原因の一つとして、リン含有潤滑油添加剤の分解がある。リン潤滑油添加剤の例としてはジアルキルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、性能と原価効率の両方の観点から、潤滑油組成物において最も有効なものとして従来使用されている酸化防止剤および耐摩耗性添加剤の一種である。ジアルキルジチオリン酸亜鉛は有効な酸化防止剤であり耐摩耗性添加剤であるが、一方でそれによりエンジンに混入したリン、硫黄および灰分が触媒と反応して、触媒コンバータの使用寿命を縮めることがある。還元触媒は排ガス中の硫黄や硫黄化合物により損傷を受けやすいが、それらは、潤滑剤をブレンドするのに用いられる基油と硫黄含有潤滑油添加剤両方の分解によって混入する。硫黄含有潤滑油添加剤の例としては、これらに限定されるものではないが、マグネシウムスルホネートおよび他の硫酸化清浄剤又はスルホン化清浄剤が挙げられる。
【0004】
微粒子捕集装置は通常、カーボンブラック粒子または超微細凝縮粒子またはそれらの凝集物(すなわち、「ディーゼルスス」)が周囲環境に放出されるのを防ぐために、排気系統、特にディーゼルエンジンの排気系統に設置される。大気や水、他の環境要素を汚染することは別としても、ディーゼルススは認定された発癌物質である。ただし、これら捕集装置は金属灰分で詰まることがある。また、金属灰分は普通の灰分生成清浄添加剤を含む金属含有潤滑油添加剤の分解生成物である。
【0005】
後処理装置の長い使用寿命を保証するために、そのような装置に最も少ない悪影響を及ぼす潤滑油添加剤を明らかにすることが望まれている。この目的のために、装置製造業者はしばしば、「最初の交換油」及び「向上充填油」に対して最大硫黄、リン及び/又は硫酸灰分レベルの種々の限界値を設定している。例えば、軽負荷客車用の内燃機関に使用される場合には、一般に硫黄レベルは0.30質量%以下、リンレベルは0.08質量%以下、そして硫酸灰分含量は0.8質量%以下であることが要求される。ただし、潤滑油組成物が高負荷内燃機関に使用される場合には、最大硫黄、リン及び/又は硫酸灰分レベルは違ってくる。そのような高負荷エンジンでは、例えば最大硫酸灰分レベルは1.0質量%ぐらい高くてもよい。そのような潤滑油組成物は、ガソリンエンジンおよび/または軽負荷ディーゼルエンジン用では、「低SAPS」(低硫酸灰分、リン、硫黄)潤滑油組成物とも称され、また高負荷ディーゼルエンジン用では、「低SAPS」又は「LEDL」(低排出ディーゼル潤滑剤)油組成物とも呼ばれる。潤滑油組成物のSAPSレベルを測定するために、種々の試験が確立され、規格化されている。例えばヨーロッパでは、ACEAのガソリン及びディーゼルエンジン低SAPS仕様を満たす潤滑剤は、とりわけ「CEC L−78−T−99」試験に合格しなければならないが、その試験は、フォルクスワーゲン・ターボチャージャー付き直接噴射自動車ディーゼルエンジンを長時間にわたってアイドリングと全出力を交互のサイクルで運転した後の、清浄度とピストンリング膠着の程度を測定するものである。厳密性については異なるが、同様の仕様および試験基準は、他の国々や地域、例えば日本やカナダ、米国でも見られる。
【0006】
低SAPS環境基準を満たすことによって、充分な潤滑剤性能を与える必要が、免除されるわけではない。自動車の火花点火及びディーゼルエンジンには、バルブ、カムおよびロッカアームを含むバルブ・トレーン装置があり、それら全てを潤滑処理して摩耗から防護しなければならない。さらに、エンジン油はエンジン清浄度を保証して堆積物の生成を抑制するように、充分な清浄性を与えるものでなければならないが、炭化水素燃料の不燃物や不完全燃焼物およびエンジン油の劣化物が堆積物となる。
【0007】
上述したように、触媒コンバータの完全な状態を維持する必要から、リン酸エステル及びリン含有添加剤の使用量を少量にするようになってきている。その結果、低SAPSレベルの潤滑油組成物は、特に自動車エンジンが一般に作動する高温環境では酸化されやすいと言える。さらに、清浄剤は一般には金属スルホネート清浄剤であるが、その使用は通常避けることはできない。なぜならば、酸化により生成した酸を中和して極性酸化残留物を潤滑剤に懸濁させる必要が一貫してあり、またリン酸エステル及びリン含有添加剤が少量の場合には、その必要がますます顕著になるからである。しかし、これら清浄剤は硫酸灰分の生成をもたらす。実際のところ、充分な清浄性能を達成するのに必要な量よりもはるかに少ない金属スルホネート清浄剤の使用でも、現在の大半の環境基準で許された灰分量を上回ることになる。清浄剤の過塩基化レベルを下げることにより、生成する灰分のレベルを下げることができるものの、その結果、潤滑油組成物の酸中和能も低減して、おそらくはエンジンのピストンや他の部分の酸腐食を招くことになる。
【0008】
従って、触媒コンバータおよび微粒子捕集装置の使用によって汚染物質を有効に低減できるようにすることを介して、清浄な環境の実現を促すだけでなく、低レベルのリン酸エステル及びリン含有酸化防止剤にもかかわらず熱安定性の改善をもたらすような、低SAPS潤滑油組成物を開発することに利点があると言える。これによって、おそらくは酸化誘導による酸および極性酸化残留物の発生が少なくなるようになる。そして、次に、過塩基性スルホネート清浄剤を潤滑油に少ない量で使用する要望が出され、最終的に硫酸灰分レベルが下がることになるであろう。
【0009】
自動車やディーゼルエンジン、車軸、変速機、その他工業用途に使用される調合済み潤滑油は、全部でないとしても大半は、二種類の一般成分、潤滑油基油と添加剤とから構成される。潤滑油基油は、一般に調合済み潤滑油において主要成分であり、調合済み潤滑油の性状に大いに寄与する。一般的には数種類の潤滑油基油を使用して、個々の潤滑油基油と個々の添加剤の混合を変えることで種々様々な調合済み潤滑油を製造する。よって、基油および/または添加剤の一方または両方を変えることにより、新しい改善された特性をある種の潤滑油組成物に付与することが可能である。
【0010】
ある一定の添加剤が低SAPSレベルの潤滑油組成物に性能利点を与えることが確認されている。それら利点の一つはピストン清浄度にある。例えば特許文献1には、XUD−IIBTE(CEL−L−56−T−98)試験で良好なピストン清浄度をもたらす低SAPS潤滑油組成物が開示されている。この特許文献の潤滑油組成物は、主要量の基油を有し、硫黄分が最大で0.3質量%、リン分が最大で0.08質量%、硫酸灰分が最大で0.80質量%であり、そして潤滑油組成物1キログラム当りサリチレート石鹸分を5ミリモル未満で含有した。その特許文献の基油は、III種基材油とII種基材油の基油ブレンド、III種基材油、および一種より多いIII種基材油のブレンドから選ばれたものであることが好ましいとされていた。
その関連出願である特許文献2には、同様の利点を備えた低SAPS潤滑油組成物が開示されている。その組成物は、(a)主要量の基油、(b)窒素分少なくとも0.075質量%を与える少なくとも一種の窒素含有分散剤であって、分子量が約900乃至約3000ダルトンのポリアルケニル骨格を持つ分散剤、(c)窒素対ホウ素の質量%比を約3:1乃至約5:1にする油溶性又は油分散性ホウ素源、(d)酸化防止剤、および(e)二炭化水素ジチオリン酸亜鉛を含有している。その特許文献の基油も、上記関連特許文献1に列挙したものと同じ三群の基材油から選ばれることが好ましいとされていた。
特許文献3には、(1)主要量の基油、好ましくは上記二つの特許文献1及び2と同じ三群の基材油から選ばれる基油、(2)TBNが200乃至500の過塩基性マグネシウム含有潤滑油清浄剤であって、調合済み組成物にTBN5.3乃至7.3を付与するような量で存在する清浄剤、および(3)2.5乃至4質量%の無灰分散剤を含有するまた別の低SAPS潤滑油組成物が、ピストン・メリットの増大をもたらしたと記載されている。
【0011】
低SAPSにもかかわらず高い全塩基価(TBN)を保持する能力を増大させる別の添加剤が見い出されている。例えば特許文献4には、低SAPSの内燃機関用エンジン油が高いTBNを保持することが報告されている。その組成物は硫酸灰分が0.9質量%以下で、リン分が0.04乃至0.1質量%である。組成物は基油を含み、基油は一定の種類に限定されないが高いTBNを保持する能力には影響を及ぼさず、また組成物は、フェネート清浄剤、サリチレート清浄剤およびスルホネート清浄剤から選ばれる一種以上の清浄剤であって、各々独立にTBN値が30乃至350mgKOH/gである清浄剤、およびアミン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤の群より選ばれた一種以上の酸化防止剤少なくとも3.5質量%を含有している。
【0012】
耐摩耗性の改善をもたらすまた別の添加剤が見い出されている。特許文献5には、マック(Mack)T10検査試験に従って圧縮点火ディーゼルエンジンで、潤滑性能、特には耐摩耗性の改善をもたらす低SAPS潤滑油組成物が開示されている。その潤滑油組成物は、(1)主要量の基油、ただし、基油は一定の種類に限定されないが耐摩耗能には影響を及ぼさない、(2)少量のカルシウムサリチレート清浄剤、(3)少量の過塩基性マグネシウム清浄剤、および(4)数平均分子量が1100ダルトン以下の重合体から誘導された、少量の塩基性低分子量窒素含有分散剤を含有している。
【0013】
上述したように、様々な基油を用いて実験することによっても、ある種の潤滑油組成物を改良することが可能である。今回、少なくとも一種のFTBOs(複数のFTBO)を、少なくとも一種の無灰分散剤、少なくとも一種の金属含有清浄剤、少なくとも一種の耐摩耗性添加剤および少なくとも一種の酸化防止剤とブレンドして、低SAPSレベルの潤滑油組成物とすることができることが判明した。その組成物は、同一リストの添加剤を含むがFTBOの代わりに一種以上の従来III種基油を有する比較のための組成物の熱安定性よりも、実質的に改善された熱安定性を示す。従って、本発明は、そのような一種以上のFTBOを主要量で含む低硫酸灰分、低リン及び低硫黄の潤滑油組成物を提供するものである。また、本発明は、そのような潤滑油組成物の使用方法および製造方法も提供する。
【0014】
当該分野では数多くの潤滑油基油が知られている。米国石油協会(API公報1509)により作成された基油種指定は、現存する基材油を広範囲にわたって分類するのに最も広く使用されている手段の一つである。よって、I種基材油は一般に、粘度指数が80〜120の間で、硫黄を約0.03質量%より多く含み、および/または飽和炭化水素を約90%未満で含む。II種基材油は一般に、粘度指数が約80〜約120の間で、硫黄を約0.03質量%又はそれ以下で含み、および/または飽和炭化水素を約90%又はそれ以上で含む。III種基材油は一般に、粘度指数が約120より高く、硫黄を約0.03質量%又はそれ以下で含み、および/または飽和炭化水素を約90%より多く含む。IV種基材油には、ポリアルファオレフィン(PAO)が含まれる。V種基材油には、I乃至IV種に含まれないものが含まれる。上記特許文献のような低SAPSの特許文献ではIII種基材油が好まれている。なぜならば、硫黄分が低くかつ高価なPAO型基油に比べて比較的安価だからである。
【0015】
最近まで、世界中で使用されている大半の潤滑油基油は原油から誘導されたものであった。だが、当該分野の熟練者は、基油の原料として原油を使用することには幾つかの制限があること、例えば供給の限界、有害で炎症を起こさせうる芳香族化合物の含有、および環境に悪影響を与えうる高い硫黄及び窒素含量を知悉している。そのような制限は、潤滑油基材油を誘導できる代替原料を探す動機になっている。そのような原料の一つが天然ガスである。天然ガスから潤滑油基油を製造するには、殆どがメタンである天然ガスを、一酸化炭素と水素の混合物である合成ガス又は「合成ガス(syngas)」に変換することが必要である。有利なことには、合成ガスから製造された生成物は窒素や硫黄を含まず、一般には芳香族化合物も含まない。従って、生成物は健康及び環境上の影響を最小に抑えることができる。
【0016】
合成ガスを、数ある中でも潤滑油基油を含む生成物流に変換するために、フィッシャー・トロプシュ法が用いられている。有利なことには、その生成物流中のフィッシャー・トロプシュ生成物は一般に、芳香族化合物、硫黄化合物および窒素化合物などの石油不純物を含まないか、含むとしても僅かしか含まない。このため、これら生成物は環境上都合がよいと思われる。そのような利点にもかかわらず、合成ガスから変換された潤滑油基油には、少なくともその方法の最初の発見及び開発後数十年間、工業的に広範な用途が無かった。様々な問題がその用途を制限したのである。例えば、パラフィン含量が高いためにFTBOは添加剤溶解度が不充分である。また、フィッシャー・トロプシュ法によって一般に生成物を広範囲にわたって含む合成ガス混合物が生成するが、そのうちの一部しか充分に高い分子量および/または粘度を示さない。つまり、フィッシャー・トロプシュ生成物のうちの一部しか、粘度が100℃で約3cSt又はそれ以上ではない、これは一般に有用な潤滑油基油に要求される値である。粘度が100℃で3cStより低い残りのフィッシャー・トロプシュ生成物は、潤滑油基油としての用途が限られてしまっている。それらは一般に、潤滑油基油よりも市場価値が実質的に低いディーゼル燃料やナフサのような低分子量物質に分解されている。
【0017】
これらの問題を解消するための解決策が取られてきている。例えば、不十分な添加剤溶解度の問題を処理するために、合成エステルなど種々の補助溶媒が使用された。あるいは、添加剤を溶解するのに使用しなければならない高価な合成エステル補助溶媒の量を制限するために、高パラフィン系FTBOを、粘度が40℃で2cStより高いアルキル芳香族炭化水素、アルキルシクロパラフィン炭化水素又はそれらの混合物からなる少なくとも一種の潤滑油基材油と混合することもできる。この代替方法は特許文献6に記載されている。さらに、特許文献7には、フィッシャー・トロプシュ生成物のうちその他あまり有用でない留分を、潤滑油基油の製造に使用するのに適した留分に変換する方法が記載されている。最近になって、特許文献8には、(1)フィッシャー・トロプシュ合成生成物を三つの留分に分ける工程:(a)沸点が中間及びそれ以下の蒸留範囲にある留分、(b)重質末端留分、および(c)沸点が留分(a)と留分(b)の間にある中間基油前駆体留分、そして(2)中間留分(c)と、重質末端留分(b)を処理することで得られた高沸点留分とを、選択的異性化及び脱ろう工程の前に直接変換工程にかける工程を含む方法が開示されている。この方法は好適な基材油を通常よりも高い割合で与えると記載されている。フィッシャー・トロプシュ法から誘導される基油を当該分野の熟練者にとってより魅力的なものにするために、このような解決策が利用されているし、また利用され続けることになるであろう。
【0018】
【特許文献1】米国特許出願第11/217674号(出願公開第US2006/0052254号)明細書
【特許文献2】米国特許出願第11/218647号(出願公開第US2006/0058200号)明細書
【特許文献3】米国特許出願第11/226793号(出願公開第US2006/0068999号)明細書
【特許文献4】米国特許出願第11/176424号(出願公開第US2006/0014653号)明細書
【特許文献5】米国特許出願第11/288600号(出願公開第US2006/0116300号)明細書
【特許文献6】米国特許第6833065号明細書
【特許文献7】米国特許第6562230号明細書
【特許文献8】米国特許出願第10/561945号(出願公開第US2006/0157384A1号)明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、一種以上のFTBO(すなわち、フィッシャー・トロプシュ合成基油)を主要量で含む低硫酸灰分、低リン及び低硫黄の潤滑油組成物を提供するものである。この潤滑油組成物は、リン酸エステル及び/又はリン含有酸化防止剤を添加しなくても、あるいは硫酸灰分生成清浄剤を添加しなくても、好ましい熱安定性をもたらす。さらに、本発明は、これら組成物の使用方法および製造方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、特に潤滑油組成物を収容する自動車エンジンが高温で作動したときに高い熱安定性をもたらすが、エンジンおよび環境にはリンを低レベルで、硫黄を低レベルで、かつ硫酸灰分を低レベルで排出する潤滑油組成物を提供する。本発明の潤滑油組成物中のリンのレベルは、一般には約0.09質量%以下であり、好ましくは約0.08質量%以下、より好ましくは約0.07質量%以下、そして特に好ましくは約0.05質量%以下である。本発明の潤滑油組成物により生成する硫黄のレベルは、一般には約0.30質量%以下であり、好ましくは約0.20質量%以下、そして特に好ましくは約0.10質量%以下である。本発明の潤滑油組成物により生成する硫酸灰分のレベルは、一般には約1.60質量%以下であるが、好ましくは約1.00質量%以下、より好ましくは約0.80質量%以下、更に好ましくは約0.50質量%以下、そして特に好ましくは約0.45質量%以下である。本発明の一態様では硫酸灰分のレベルは、約0.50より上で約1.60質量%まで、好ましくは約0.5より上で約0.8質量%までである。
【0021】
従って、本発明の潤滑油組成物は環境的観点から、リン、硫黄および硫酸灰分を多く含む従来のエンジン潤滑油よりもずっと望ましいものである。本発明の組成物は、触媒コンバータおよび微粒子捕集装置には長い使用寿命を容易にしながら、同時に望ましい熱安定性をもたらす。
【0022】
第一の態様では、本発明の潤滑油組成物は下記の成分を含んでいる:
主要量の一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油、
一種以上の清浄剤、
一種以上の分散剤、
一種以上の耐摩耗性添加剤、および
一種以上の酸化防止剤、
ただし、潤滑油組成物の全質量に基づき、リン分は約0.09質量%以下であり、硫黄分は約0.3質量%以下であり、そして硫酸灰分は約1.6質量%以下である。
【0023】
この態様の潤滑油組成物は任意に、更に(1)摩擦緩和剤、(2)腐食防止剤、(3)消泡剤、(4)シール固定剤又はシール安定剤、(5)粘度指数向上剤、(6)流動点降下剤、および(7)多機能添加剤から選ばれた一種以上の添加剤を含んでいてもよい。
【0024】
この態様の潤滑油組成物は任意に、組成物の熱安定性に悪影響を与えない限り一種以上の別の基油を含んでいてもよい。「悪影響」とは、エンジンが作動する条件に倣って設計され、熱安定性の指標となる当該分野で認められたエンジン又は台上試験により測定したときに、組成物の熱安定性が如何なる程度であれ低減することを意味する。
【0025】
第二の態様では、本発明は、一台以上の排ガス後処理装置が付設された自動車エンジンを作動させる方法であって、第一の態様の潤滑油組成物を用いて該エンジンの潤滑な作動をもたらすことからなる方法を提供する。
【0026】
第三の態様では、本発明は、第一の態様の潤滑油組成物を製造する方法を提供する。
【0027】
当該分野の熟練者であれば、以下の記述を参照することにより本発明のその他の更なる目的、利点および特徴を理解されよう。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、少なくとも一種のフィッシャー・トロプシュ合成基油を、少なくとも一種の無灰分散剤、少なくとも一種の金属含有清浄剤、少なくとも一種の耐摩耗性添加剤および少なくとも一種の酸化防止剤とブレンドして、低SAPSレベルの潤滑油組成物とすることができることが分かった。その組成物は、同一リストの添加剤を含むがフィッシャー・トロプシュ合成基油の代わりに一種以上の従来III種基油を有する比較のための組成物の熱安定性よりも、実質的に改善された熱安定性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、様々な好ましい特徴および態様を、限定的でない説明として記載する。
【0030】
本発明は、上述した潤滑油組成物を提供する。組成物の全硫黄分は、代表的な態様では約0.30質量%以下であり、別の態様では約0.20質量%以下であり、そして更なる態様では約0.10質量%以下である。本発明の典型的な潤滑油組成物は、硫黄を組成物の全質量に基づき約0.2質量%含む。
【0031】
潤滑油組成物の全リン分は、代表的な態様では約0.09質量%以下であり、別の態様では約0.08質量%以下であり、また別の態様では約0.07質量%以下であり、そして更なる態様では約0.05質量%以下である。本発明の典型的な潤滑油組成物は、リンを組成物の全質量に基づき約0.07質量%含む。
【0032】
潤滑油組成物の全硫酸灰分は、ASTM D−874で測定して、代表的な態様では約1.60質量%以下であり、別の態様では約1.00質量%以下であり、また別の態様では約0.80質量%以下であり、また別の態様では約0.50質量%以下であり、そして更なる態様では約0.45質量%以下である。本発明の典型的な潤滑油組成物は、硫酸灰分が潤滑油組成物の全質量に基づき約0.8質量%である。
【0033】
[潤滑粘度の油]
1)フィッシャー・トロプシュ合成基油
本発明の低SAPS潤滑油組成物は一種以上の基油を含有し、そのうちの少なくとも一種はフィッシャー・トロプシュ合成基油(FTBO)である。一種以上の基油は、主要な量(すなわち、約50質量%より多い量)で存在する。一般に、基油の全量は潤滑油組成物の約60質量%より多い、約70質量%より多い、あるいは約80質量%より多い。本発明の典型的な潤滑油組成物は、二種類のフィッシャー・トロプシュ合成基油からなる基材油を約78質量%含有している。基油の硫黄分は、約0.60質量%未満であり、好ましくは約0.30質量%未満、より好ましくは約0.10質量%未満である。
【0034】
本発明のエンジン潤滑油組成物に用いられる一種以上の基油のうち少なくとも一種はFTBOである。前述したように、フィッシャー・トロプシュ合成基油は元々天然ガスからフィッシャー・トロプシュ化学法により誘導される。好適なFTBOの動粘度は、一般には100℃で少なくとも2cStであり、好ましくは100℃で3cSt又はそれ以上である。当該分野の熟練者であれば既知であるように、動粘度は密度に対する粘度の比である。動粘度の直接測定は一般に、例えば単純なガラス細管粘度計など各種の粘度計により行う。動粘度の異なる二種以上のFTBOのブレンドも使用することができる。本発明の典型的な基材油は二種類のFTBOを含み、第一の動粘度は100℃で約4.1cStで、第二の動粘度は100℃で約7.9cStである。また、好適なFTBOの粘度指数は一般に約100より高い。本発明の典型的な基材油は二種類のFTBOを含み、第一の粘度指数は約146で、第二の粘度指数は約161である。
【0035】
二種以上のFTBOをブレンドして一つの基材油にするのであれば、FTBOの量は、基材油が上述したように所望の動粘度、粘度指数、流動点、曇り点、硫黄分、飽和炭化水素含量およびアルキル分枝レベルを有するように、如何なる割合であってもよい。二種類のFTBOを一つの基材油にブレンドする場合に、例えばその割合は10:90乃至90:10でも、20:80乃至80:20でもよく、例えば30:70乃至70:30である。本発明の典型的な基材油は、約37:63の割合でブレンドした二種類のFTBOを含んでいる。
【0036】
また、好適なFTBOの流動点は、一般には20℃より低く、好ましくは約−8℃より低い、あるいは約−12℃より低く、例えば約−15℃より低い。当該分野の熟練者であれば既知であるように、流動点は、潤滑油基油試料が慎重に制御した条件下で流動し始める温度である。ある油の流動点は、標準分析法、例えばASTM D5950−02により決定することができる。本発明の典型的な基材油は二種類のFTBOを含み、第一の流動点は約−20℃で、第二の流動点は約−14℃である。
【0037】
また、好適なFTBOの曇り点は、一般には約2℃未満である。曇り点は、基油試料が慎重に特定した条件下で曇りを発生し始める温度を測定するものである。曇り点は、例えばASTM D5773−95により決定することができる。本発明の典型的な基材油は二種類のFTBOを含み、第一の曇り点は約−11℃で、第二の曇り点は約2℃である。
【0038】
本発明に係る好適なFTBOは、一般に飽和炭化水素含量が約90%より多く、そして全ナフテン含量が約0乃至約10%、好ましくは約0乃至約7%である。一般に、ナフテンが存在する場合には、モノナフテンであることが好ましい。ナフテンの量は、当該分野で知られた方法、例えば、クラマー、D.C.(kramer, D.C.)、外著、「II種及びIII種基油組成物のVIおよび酸化安定性への影響(Influence of Group II & III Base Oil Composition on VI and Oxidation Stability)」(1999年度AIChE春季全国大会、1999年3月16日、ハウストン)に記載されている電界イオン化質量分析(「FIMS」)を使用して測定される。好適なFTBOは、炭素100個当りのアルキル分枝が12個未満、好ましくは炭素100個当りのアルキル分枝が10個未満のパラフィン系炭化水素成分を含んでいる。本発明の典型的な基材油は二種類のFTBOを含み、第一は炭素100個当りのアルキル分枝が約9.46個で、第二は炭素100個当りのアルキル分枝が8.17個である。
【0039】
FTBO中の芳香族炭化水素と多環ナフテンの量が非常に少ないために、FTBOは優れた酸化安定性を示す。潤滑油基油の酸化安定性を測定する当該分野で認められた一つの方法は、米国特許第3852207号明細書に記載されている酸化BN試験であるが、その開示内容も、酸化BN試験に関する範囲でかつ本開示内容及び特許請求の範囲と矛盾しない範囲で、参照内容として本明細書の記載とする。つまり、酸化BN試験は、R.W.ドーント(R.W. Dornte)著、「ホワイト油の酸化(Oxidation of White Oils)」、インダストリアル・アンド・エンジニアリング・ケミストリ(Industrial and Engineering Chemistry)、第28巻、p.26(1936年)に記載されているドーント型酸素吸収装置によって、耐酸化性を測定するものである。普通は、条件は340°F(170℃)で1気圧の純酸素である。その結果は、油100gがO21000mLを吸収する時間で報告される。酸化BN試験では、油100グラム当り触媒0.8mLが使用され、添加剤パッケージも油に含まれている。触媒は、使用済みクランクケース油の平均金属分析操作をモデルにした、ケロセン可溶性金属ナフテン酸塩の混合物である。触媒の金属濃度は次の通りである:銅6927ppm、鉄4083ppm、鉛80208ppm、マンガン350ppm、およびスズ3565ppm。添加剤パッケージは、油100グラム当りビスポリプロピレンフェニルジチオリン酸亜鉛80ミリモルを含んでいる。酸化BNは、モデルにした用途における基油の応答を測定するものである。酸素1リットルを吸収する時間が長い又は高い値は、酸化安定性が良好であることを示唆している。一般的な用途では、潤滑油基油の酸化BNは7時間より長いことが望ましい。本発明の典型的なFTBOの酸化BNは約37.32時間である。
【0040】
好適なFTBOは当該分野で知られた方法により製造することができるが、それらの多くは、フィッシャー・トロプシュ合成生成物の何等かの水素化異性化と、それに続く高沸点留分の脱ろう工程とを含んでいる。つまり、フィッシャー・トロプシュ合成生成物は、例えば市販のセイソル(SASOL、商標)法、市販のシェル(SHELL、商標)中間蒸留法など公知の方法により、あるいは非売品であるエクソン(Exxon、商標)法により得ることができる。これらの方法および他の方法の詳細は、例えばEP−A−776959号、EP−A−668342号、米国特許第4943672号及び第5059299号、WO−A−9934917号及びWO−A−9920720号の各明細書に詳しく記載されている。一般に、フィッシャー・トロプシュ合成生成物は、炭素原子1〜100個又は100個以上を持つ炭化水素からなる。炭化水素生成物は更に、イソーパラフィン、n−パラフィン、酸素化生成物および不飽和生成物も含んでいる。
【0041】
フィッシャー・トロプシュ合成生成物は一般に三つの留分に分けられる:(1)沸点が中間及びそれ以下の蒸留範囲にある留分、(2)重質末端留分、および(3)中間基油前駆体留分。フラッシングまたは蒸留など公知の方法により分別を行うことができる。三つの留分全ての生成物は、如何なる酸素化物も不飽和物も、これらを取り除くために更に水素化することができる。中間基油前駆体留分は、沸点が主として200から350℃の間にあり、一般に軽油及びケロセン留分からなるが、それらは残りのフィッシャー・トロプシュ合成生成物から取り出すことができる。次に、この留分を接触水素化異性化工程にかけたのち触媒脱ろう工程にかけて、一種以上の基油グレードを生成させる。
【0042】
接触水素化異性化および触媒脱ろうは、一つの触媒を用いても、あるいは別々の専用の異性化触媒と脱ろう触媒によっても行うことができる。好適な異性化触媒は一般に、一種以上のVIII族金属、例えばニッケル、コバルト、白金またはパラジウムの耐熱性酸化物担体からなる。これら触媒の例としては、シリカ・アルミナ担体(ASA)に担持されたPt(Pt/ASA)、Pd/ASA、PtNi/ASA、PtCo/ASA、PtPd/ASA、CoMoCu/ASA、NiMoCu/ASA、NiW/ASA、NiWF/アルミナ、PtF/ASA、およびNiMoF/アルミナを挙げることができる。好適な脱ろう触媒は、中孔径分子ふるいと水素化成分、好ましくは白金またはパラジウムなどの貴金属とからなる。そのような触媒の例としては、EP−A−458895号明細書に記載のSAPO−11を基本とする触媒、EP−B−832171号明細書に記載のZSM−5を基本とする触媒、EP−A−540590号及びEP−A−092376号明細書に記載のZSM−23を基本とする触媒、米国特許第4574043号明細書に記載のZSM−22を基本とする触媒、米国特許第6179994号明細書に記載のモルデナイトを基本とする触媒、およびEP−A−1029029号明細書に記載のフェリエライトを基本とする触媒を挙げることができる。水素化異性化工程と脱ろう工程両方に使用できる好適な触媒としては例えば、米国特許第5885438号明細書に記載の白金/ゼオライトベータを基本とする触媒、およびEP−A−536325号明細書に記載のZSM−23又はZSM−22を基本とする触媒が挙げられる。
【0043】
脱ろう工程に続いて、基油回収工程にて脱ろう流出液から所望の基油を単離することが好ましい。この工程では、触媒脱ろう中に生成した低沸点化合物を一般には蒸留により、任意に初期フラッシング工程と組み合わせて取り除く。
【0044】
2)非FTBO基油
本発明の潤滑油組成物は一種以上のFTBO以外に、他の基油を含んでいてもよいし、あるいは含んでいなくてもよい。一種以上の追加の基油を含む場合には、天然油、合成油およびそれらの混合物から選ぶことができる、ただし、そのような油の硫黄分は、低SAPS潤滑油組成物を維持するのに要求される前記硫黄濃度限度を超えないようにする。さらに、一種以上の追加の基油(すなわち、FTBO以外のもの)を用いる場合には、これら追加の基油は、一種以上のFTBOがもたらす熱安定性の改善に悪影響を与えないものとする。適した天然油としては、動物油および植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油)が挙げられる。また、天然油としては、鉱油系潤滑油、例えば液体石油、およびパラフィン型、ナフテン型又は混合パラフィン・ナフテン型の溶剤処理又は酸処理鉱油系潤滑油も挙げられる。石炭または頁岩から誘導された油も使用できる。
【0045】
合成の非FTBO潤滑油としては、炭化水素油、例えば重合及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレン共重合体等);ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)等およびそれらの混合物;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ−(2−エチルヘキシル)ベンゼン等);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル等);アルキル化ジフェニルエーテルおよびそれらの誘導体、類似物及び同族体等を挙げることができる。公知のフィッシャー・トロプシュ法による気体から液体の合成法により製造された油は前述のように、本発明において好ましい基油である。
【0046】
別の公知の合成潤滑油の部類としては、末端ヒドロキシル基がエステル化またはエーテル化などの方法で変性した、アルキレンオキシド重合体及び共重合体及びそれらの誘導体が挙げられる。これら合成油の例としては、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合により製造されたポリオキシアルキレン重合体、およびポリオキシアルキレン重合体のアルキル及びアリールエーテル(例えば、分子量が1000ダルトンのメチル−ポリイソ−プロピレングリコールエーテル、または分子量が1000乃至1500ダルトンのポリ−エチレングリコールのジフェニルエーテル);およびそれらのモノ及びポリカルボン酸エステル(例えば、テトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3−C8脂肪酸エステル及びC13オキソ酸ジエステル)を挙げることができる。
【0047】
別の好適な合成潤滑油の部類は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸およびアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と、各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステル類である。そのようなエステルの特定の例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、および1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2−エチルヘキサン酸との反応により生成した複合エステル等を挙げることができる。
【0048】
また、合成油として使用できるエステルとしては、C5−C12モノカルボン酸と、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールおよびトリペンタエリトリトールなどのポリオール及びポリオールエステルとから製造されたものも挙げられる。エステルはときには、調合済み潤滑油の別の一定の性状を改善する添加剤としても有用である。本発明の典型的な潤滑油では、調合済み潤滑油の低温特性を改善するために、ポリオールエステルであるNP343(エステレックス(ESTEREX、商品名)、エクソンモービル(ExxonMobile)製)を少量添加している。
【0049】
合成油はまた、ポリ−アルファ−オレフィン(PAO)であってもよい。一般に、PAOsは炭素原子数4〜30、4〜20、または6〜16の単量体から誘導される。使用できるPAOの例としては、オクテン、デセンおよびそれらの混合物等から誘導されたものが挙げられる。これらPAOsの粘度は、100℃で約2乃至約15、約3乃至約12、または約4乃至約8mm2/s(cSt)であってよい。鉱油と一種以上の上記PAOとの混合物も使用することができる。
【0050】
上に開示した種類の油の未精製、精製、再精製油も、天然であっても合成であっても(並びに二種以上の混合物であっても)、本発明の潤滑油組成物に使用することができる。未精製油(または原油)は、天然又は合成原料からそれ以上の精製処理をしないで直接に得られたものである。精製油は、更に一以上の精製工程で処理されたことを除いては未精製油と同様である。溶剤抽出、二次蒸留、酸又は塩基抽出、ろ過およびパーコレーション等、多数のそのような精製技術が当該分野の熟練者には知られている。再精製油は、実際に使用され、改めて実際に再使用できるように順次処理された油である。使用済み潤滑油は殆ど常に使い古された添加剤と分解生成物を含んでいるから、標準油精製工程に加えて、使い古された添加剤と分解生成物とを取り除く工程も行わなければならない。そのような再精製油は再生油又は再処理油としても知られている。
【0051】
種々の中乃至最上位の低グレードエンジン油は、例えば0W−30、5W−30、0W−40及び5W−40油が挙げられるが、本発明の潤滑油基油から調製することができる。これらエンジン油は、FTBOを全く含まないで一種以上の水素化分解III種基油を含む同一グレードの油に比べて、熱安定性が改善されている。
【0052】
[金属含有清浄剤]
金属含有又は灰分生成清浄剤は、堆積物を低減又は除去する清浄剤としても、また酸中和剤またはさび止め添加剤としても機能し、それにより摩耗および腐食を低減してエンジン寿命を延ばすものである。清浄剤は一般に長い疎水性尾部を持つ極性頭部からなり、極性頭部は酸性有機化合物の金属塩からなる。本発明の組成物は一種以上の清浄剤を含有していてもよく、清浄剤は普通は塩、特には過塩基性塩である。過塩基性塩又は過塩基性物質は、金属含量が、金属および金属と反応した特定の酸性有機化合物の化学量論に従って存在する量よりも過剰であることに特徴がある、単相の均質なニュートン系である。過塩基性物質は、酸性物質(一般には無機酸または低級カルボン酸、好ましくは二酸化炭素)と酸性有機化合物を含む混合物と、少なくとも一種の不活性有機溶媒(例えば、鉱油、ナフサ、トルエン、キシレン)からなる反応媒体中で、化学量論的に過剰の金属塩基と促進剤を存在させて反応させることにより製造される。
【0053】
本発明の過塩基性組成物を製造するのに使用できる酸性有機化合物としては、カルボン酸、スルホン酸、リン含有酸、フェノールまたはそれらの混合物を挙げることができる。好ましくは酸性有機化合物は、カルボン酸、またはスルホン基又はチオスルホン基を持つスルホン酸(例えば、炭化水素置換ベンゼンスルホン酸、および炭化水素置換サリチル酸)である。
【0054】
カルボキシレート清浄剤、例えばサリチレートは、芳香族カルボン酸を適当な金属化合物、例えば酸化物または水酸化物と反応させることにより製造することができる。その後、当該分野では公知の方法により中性又は過塩基性の生成物を得ることができる。芳香族カルボン酸の芳香族部は、窒素や酸素などヘテロ原子を含むことができる。好ましくは、芳香族部は炭素原子のみを含んでいる。より好ましくは、芳香族部はベンゼン部のように6個又はそれ以上の炭素原子を含んでいる。芳香族カルボン酸は、縮合もしくはアルキレン橋で連結した1個以上のベンゼン環のような1個以上の芳香族部を含んでいてもよい。芳香族カルボン酸の例としては、サリチル酸およびそれらの硫化誘導体、例えば炭化水素置換サリチル酸およびそれらの誘導体が挙げられる。例えば炭化水素置換サリチル酸を硫化する方法は当該分野の熟練者には知られている。サリチル酸は一般には、フェノキシドを例えばコルベ・シュミット法でカルボキシ化することにより製造される。その場合に、サリチル酸は一般に希釈剤中で非カルボキシ化フェノールとの混合で得られる。
【0055】
スルホネートは、石油の精留から得られたものや芳香族炭化水素のアルキル化から得られたもののようなアルキル置換芳香族炭化水素を、スルホン酸を用いてスルホン化することにより製造することができる。アルカリールスルホネートは通常、アルキル置換芳香族部当り炭素原子約9〜約80個又はそれ以上、好ましくは炭素原子約16〜約60個を含んでいる。
【0056】
フェノール及び硫化フェノールの金属塩は、酸化物または水酸化物など適当な金属化合物との反応により製造される。中性又は過塩基性生成物は当該分野でよく知られた方法により得ることができる。例えば硫化フェノールは、フェノールを、硫黄もしくは硫化水素、一ハロゲン化硫黄または二ハロゲン化硫黄などの硫黄含有化合物と反応させることにより製造することができ、2個以上のフェノールを硫黄含有橋で架橋した化合物の混合物である生成物が生成する。
【0057】
過塩基性塩を製造するのに使用できる金属化合物は一般には、元素周期表のI族又はII族金属化合物なら何れであってもよい。金属化合物のI族金属としては、Ia族のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム)、並びにIb族金属、例えば銅が挙げられる。I族金属はナトリウム、カリウム、リチウムおよび銅であることが好ましく、より好ましくはナトリウムまたはカリウム、特に好ましくはナトリウムである。金属塩基のII族金属としては、IIa族のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)、並びにIIb族金属、例えば亜鉛またはカドミウムが挙げられる。II族金属はマグネシウム、カルシウム、バリウムまたは亜鉛であることが好ましく、より好ましくはマグネシウムまたはカルシウム、特に好ましくはカルシウムである。
【0058】
過塩基性清浄剤の例としては、これらに限定されるものではないが、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリチレート、カルシウムステアレート、およびそれらの混合物を挙げることができる。本発明の潤滑油と一緒に使用するのに適した過塩基性清浄剤は、低過塩基性(すなわち、全塩基価(TBN)が約100より低い)であってもよい。そのような低過塩基性清浄剤のTBNは、約5乃至約50、約10乃至約30、または約15乃至約20であってよい。あるいは、本発明の潤滑油と一緒に使用するのに適した過塩基性清浄剤は、高過塩基性(すなわち、TBNが約100より高い)であってもよい。そのような高過塩基性清浄剤のTBNは、約150乃至約450、約200乃至約350、または約250乃至約280であってよい。TBNが約17の低過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤、およびTBNが約260の高過塩基性硫化カルシウムフェネートは、本発明の潤滑油組成物における典型的な二つの過塩基性清浄剤である。本発明の潤滑油組成物は過塩基性清浄剤を一種より多く含んでいてもよく、それらは全て低TBN清浄剤であっても、全て高TBN清浄剤であっても、あるいはそれら二タイプの混合物であってもよい。
【0059】
本発明の潤滑油組成物において、一以上の過塩基性清浄剤が存在する場合にその量は、約0.05乃至約16mM、約3乃至約15mM、または約4乃至約14mMであってよい。本発明の典型的な態様では、潤滑油組成物中に約4mMの低TBN清浄剤と約10mMの高TBN清浄剤が存在する。
【0060】
また、本発明の潤滑油組成物に適した清浄剤としては、「混成」清浄剤、例えばフェネート/サリチレート、スルホネート/フェネート、スルホネート/サリチレート、およびスルホネート/フェネート/サリチレート等も挙げることができる。混成清浄剤については、例えば米国特許第6153565号、第6281179号、第6429178号及び第6429179号の各明細書に記載されている。これら特許出願及び特許明細書の関連開示内容も、本開示内容及び特許請求の範囲と矛盾しない範囲で参照内容として本明細書の記載とする。
【0061】
[無灰分散剤]
分散剤は一般に、使用中に酸化により生じた不溶性物質を懸濁状態で維持して、それによりスラッジの凝集や沈殿または金属部分への堆積を防ぐために使用される。窒素含有無灰(無金属)分散剤は塩基性であり、分散剤が添加された潤滑油組成物のTBNに寄与するが、追加の硫酸灰分は持ち込まない。無灰分散剤は一般に、分散すべき粒子と会合できる官能基を持つ油溶性の高分子炭化水素骨格からなる。数多くの種類の無灰分散剤が当該分野では知られている。
【0062】
代表的な分散剤としては、これらに限定されるものではないが、重合体骨格に架橋基で結合したアミン類、アルコール類、アミド類またはエステル極性部が挙げられる。本発明において、無灰分散剤は例えば、長鎖炭化水素置換モノ及びジカルボン酸又はそれらの無水物の油溶性の塩、エステル、アミノ−エステル、アミド、イミド及びオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体、ポリアミンが直接結合した長鎖脂肪族炭化水素;および長鎖置換フェノールをホルムアルデヒドとポリアルキレンポリアミンで縮合することにより生成したマンニッヒ縮合物から選ぶことができる。
【0063】
「カルボン酸分散剤」は、炭素原子を少なくとも34個、好ましくは少なくとも54個含むカルボン酸アシル化剤(酸、無水物、エステル等)と、窒素含有化合物(例えば、アミン)、有機ヒドロキシ化合物(例えば、一価及び多価アルコールを含む脂肪族化合物、またはフェノールおよびナフトールを含む芳香族化合物)、および/または塩基性無機物質との反応生成物である。これらの反応生成物としてはイミド類、アミド類およびエステル類が挙げられる。
【0064】
コハク酸イミド分散剤は一種のカルボン酸分散剤である。コハク酸イミド分散剤は、炭化水素置換コハク酸アシル化剤を有機ヒドロキシ化合物と、または窒素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含むアミンと、またはヒドロキシ化合物とアミンの混合物と反応させることによって生成する。「コハク酸アシル化剤」は、炭化水素置換コハク酸またはコハク酸生成化合物を意味し、後者には酸それ自体も包含される。そのような物質としては一般に、炭化水素置換コハク酸、その無水物、エステル(半エステルを含む)およびハロゲン化物が挙げられる。
【0065】
コハク酸系分散剤は、様々な化学構造を有するが、下記式で表すことができる。
【0066】
【化1】

【0067】
上記式において、R1は各々独立に、ポリオレフィン誘導基のような炭化水素基である。一般に炭化水素基は、ポリイソブチル基のようなアルキル基である。言い換えれば、R1基は炭素原子約40〜約500個を含むことができ、これら原子は脂肪族の形で存在してよい。R2は、アルキレン基、普通はエチレン(C24)基である。コハク酸イミド分散剤については、例えば米国特許第4234435号、第3172892号及び第6165235号の各明細書に充分に記載されている。これら特許明細書の関連開示内容も、本開示内容と矛盾しない範囲で参照内容として本明細書の記載とする。
【0068】
置換基が誘導されるポリアルケンは一般に、炭素原子数2〜16、通常は炭素原子数2〜6の重合可能なオレフィン単量体の単独重合体および共重合体である。コハク酸アシル化剤と反応してカルボン酸分散剤組成物を生成させるアミンは、モノアミンであってもポリアミンであってもよい。
【0069】
コハク酸イミド分散剤はこの呼び名が用いられる。その理由は、アミド官能基はアミン塩、アミド、イミダゾリン並びにそれらの混合物の形でもありうるが、該分散剤は通常、窒素を主としてイミド官能基の形で含んでいるからである。コハク酸イミド分散剤を製造するには、通常は、任意に液体で実質的に不活性な有機液体溶媒/希釈剤を存在させて、一種以上のコハク酸生成化合物と一種以上のアミンとを加熱し、そして一般には水分を除去する。反応温度は、一般には約80℃から最大で混合物又は生成物の分解温度までの範囲にあり、通常は約100℃から約300℃の間にある。本発明のコハク酸イミド分散剤の製造方法の更なる詳細及び例については、例えば米国特許第3172892号、第3219666号、第3272746号、第4234435号、第6440905号及び第6165235号の各明細書に記載されている。これら特許明細書の関連開示内容も、本開示内容と矛盾しない範囲で参照内容として本明細書の記載とする。
【0070】
また、好適な無灰分散剤としてアミン分散剤も挙げることができ、それらは比較的高分子量の脂肪族ハロゲン化物とアミン、好ましくはポリアルキレンポリアミンとの反応生成物である。それらの例は、例えば米国特許第3275554号、第3438757号、第3454555号及び第3565804号等の各明細書に記載されている。これら特許明細書の関連開示内容もまた、本開示内容と矛盾しない範囲で参照内容として本明細書の記載とする。
【0071】
さらに、好適な無灰分散剤として「マンニッヒ分散剤」も挙げることができ、それらは、アルキル基が炭素原子少なくとも30個を含むアルキルフェノールと、アルデヒド(特には、ホルムアルデヒド)およびアミン(特には、ポリアルキレンポリアミン)との反応生成物である。これら分散剤は、例えば米国特許第3036003号、第3586629号、第3591598号及び第3980569号等の各明細書に記載されている。これら特許明細書の関連開示内容も同様に、本開示内容及び特許請求の範囲と矛盾しない範囲で参照内容として本明細書の記載とする。
【0072】
好適な無灰分散剤としては、後処理された分散剤も挙げられ、それらは、カルボン酸、アミン又はマンニッヒ分散剤を、ジメルカプトチアゾール、尿素、チオ尿素、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換コハク酸無水物、ニトリルエポキシドおよびホウ素化合物等のような試薬と反応させることにより得られる。後処理分散剤は、例えば米国特許第3329658号、第3449250号及び第3666730号等の各明細書に記載されている。これら特許明細書の関連開示内容もまた、本開示内容及び特許請求の範囲と矛盾しない範囲で参照内容として本明細書の記載とする。
【0073】
好適な無灰分散剤は高分子であってもよく、それらは、デシルメタクリレート、ビニルデシルエーテルおよび高分子量オレフィンのような油可溶性単量体と、極性置換基を含む単量体との共重合体である。高分子分散剤は、例えば米国特許第3329658号、第3449250号及び第3666730号等の各明細書に記載されている。これら特許明細書の関連開示内容も同様に、本開示内容及び特許請求の範囲と矛盾しない範囲で参照内容として本明細書の記載とする。
【0074】
本発明の典型的な潤滑油組成物では、数平均分子量が約2300のポリイソブチレンから誘導されてエチレンカーボネートで処理されたビスコハク酸イミドを、無灰分散剤として使用した。本発明の分散剤(群)は、非高分子である(例えば、モノ又はビスコハク酸イミドである)ことが好ましい。
【0075】
無灰分散剤は、約0.5乃至約10.0質量%の量で存在することが適していて、好ましくは約3.0乃至約7.0質量%の量で存在する。本発明の典型的な潤滑油組成物は、ポリイソブチレン鎖の数平均分子量が約2300ダルトンであるポリイソブチレンコハク酸無水物(「PIBSA2300」)から誘導されたエチレンカーボネート処理ビスコハク酸イミド分散剤を、約6.5質量%の量で含有している。潤滑油組成物は分散剤による全窒素分を、好ましくは約0.01乃至約0.35質量%、好ましくは約0.05乃至約0.25質量%、特に好ましくは約0.08乃至約0.12質量%含んでいる。
【0076】
[耐摩耗性添加剤]
二炭化水素ジチオリン酸の金属塩は、耐摩耗性添加剤および酸化防止剤として頻繁に使用されている。金属は、アルカリ又はアルカリ土類金属であっても、またはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルあるいは銅であってもよい。亜鉛塩が潤滑油にもっとも普通に使用され、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.1乃至約10質量%、好ましくは約0.2乃至約2質量%の量である。亜鉛塩は、公知技術に従ってまず、通常は一種以上のアルコールまたはフェノールをP25と反応させて二炭化水素ジチオリン酸(DDPA)を生成させ、次に生成したDDPAを亜鉛化合物で中和することにより製造することができる。例えばジチオリン酸は、第一級と第二級アルコールの混合物を反応させることにより製造することができる。あるいは、あるものの炭化水素基は性質が完全に第二級で、それ以外のものの炭化水素基は性質が完全に第一級であるような多種類のジチオリン酸が製造されうる。亜鉛塩を製造するのに、任意の塩基性又は中性亜鉛化合物を使用することが可能であろうが、酸化物、水酸化物および炭酸塩がかなり頻繁に用いられている。市販の添加剤は、中和反応で過剰の塩基性亜鉛化合物を使用するために、しばしば過剰の亜鉛を含んでいる。
【0077】
好ましい油溶性のジアルキルジチオリン酸亜鉛は、下記式のジアルキルジチオリン酸から生成させることができる。
【0078】
【化2】

【0079】
ジアルキルジチオリン酸が誘導されるヒドロキシルアルキル化合物は一般に、式:ROH又はR’OHで表すことができる。式中、RまたはR’は、アルキルまたは置換アルキルであり、好ましくは炭素原子3〜30個を含む分枝又は非分枝のアルキルである。より好ましくはRまたはR’は、炭素原子3〜8個を含む分枝又は非分枝のアルキルである。
【0080】
ヒドロキシルアルキル化合物の混合物も使用することができる。これらヒドロキシルアルキル化合物は、モノヒドロキシアルキル化合物である必要はない。よってジアルキルジチオリン酸は、モノ、ジ、トリ、テトラ及び他のポリヒドロキシアルキル化合物、もしくはこれら二種以上の混合物から製造することができる。第一級アルキルアルコールのみから誘導されたジアルキルジチオリン酸亜鉛を、単一の第一級アルコールから誘導することが好ましい。単一の第一級アルコールは2−エチルヘキサノールであることが好ましい。第二級アルキルアルコールのみから誘導されたジアルキルジチオリン酸亜鉛も好ましい。その第二級アルコールの混合物は、2−ブタノールと4−メチル−2−ペンタノールの混合物であることが好ましい。
【0081】
ジアルキルジチオリン酸の生成工程で用いられる五硫化リン反応体は、P23、P43、P47またはP49のうちのいずれか一種以上を少量含んでいてもよい。組成物自体も遊離硫黄を少量含んでいてもよい。
【0082】
本発明の潤滑油組成物は、大量のリンを与えるジアルキルジチオリン酸亜鉛をある量存在させることで、優れた耐摩耗性能をもたらすことができ、本発明の潤滑油組成物の性能の改善は、規定ではリンレベルが約0.08質量%以下の低SAPS配合物において特に明白である。よって、本発明の潤滑油組成物は、リン分が約0.08質量%未満、より好ましくはリン分を約0.03乃至約0.075質量%含む。本発明の典型的な潤滑油組成物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を約11.5mM含有している。
【0083】
[酸化防止剤]
酸化防止剤あるいは抗酸化剤は、鉱油が使用中に劣化する傾向を低減するものである。そのような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、好ましくはC5−C12アルキル側鎖を持つアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、カルシウムノニルフェノールスルフィド、油溶性フェネート及び硫化フェネート、リン硫化又は硫化炭化水素又はエステル、リンエステル、金属チオカルバメート、例えば米国特許第4867890号明細書に記載されている油溶性銅化合物を挙げることができる。
【0084】
少なくとも2個の芳香族基が窒素に直接結合した芳香族アミンは、酸化防止性の目的で頻繁に使用される別の部類の化合物である。少なくとも2個の芳香族基が1個のアミン窒素に直接結合した代表的な油溶性芳香族アミンは、炭素原子を6〜16個含んでいる。アミンは芳香族基を2個より多く含んでいてもよい。芳香環はしばしば、例えばアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、ヒドロキシ基およびニトロ基から選ばれた一個以上の置換基で置換されている。
【0085】
本発明に係る潤滑油組成物は、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤またはそれらの組合せを、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.05乃至約5.00質量%含有していることが好ましく、より好ましくは約0.10乃至約3.00質量%、特に好ましくは約0.20乃至約0.80質量%含有している。本発明の典型的な潤滑油組成物は、ジ−C8−ジフェニルアミンである酸化防止剤を約0.40質量%含有している。
【0086】
[その他の添加剤]
本発明の潤滑油組成物は任意にその他の種々の添加剤を含有していてもよく、その例としては、これらに限定されるものではないが、摩擦緩和剤、酸化防止剤、腐食防止剤、粘度指数向上剤、および自動車エンジンを潤滑にするのに普通使用される他の添加剤を挙げることができる。
【0087】
1)粘度指数調整剤
基材油の粘度指数は、粘度調整剤(VM)又は粘度指数向上剤(VII)として機能する一定の高分子物質を混合することによって、増加するもしくは改善される。一般に、粘度調整剤として使用できる高分子物質は、数平均分子量(Mn)が約5000乃至約250000、好ましくは約15000乃至約200000、より好ましくは約20000乃至約150000ダルトンのものである。これら粘度調整剤を任意に、例えば無水マレイン酸などのグラフト用物質とグラフトさせることができ、そしてグラフトした物質を例えばアミン、アミド、窒素含有複素環化合物またはアルコールと反応させて、多機能の粘度調整剤(分散型粘度調整剤)を生成させることができる。
【0088】
本発明の潤滑油組成物には、種々の重合体および/または共重合体を用いることができ、それらには無水マレイン酸がグラフトしていてもしていなくてもよい。重合体および/または共重合体は、潤滑油組成物の約0.1乃至約10質量%の量で用いることができる。本発明の典型的な潤滑油組成物は、エチレンプロピレン共重合体粘度指数調整剤を約7.5質量%含有している。
【0089】
2)摩擦緩和剤
本発明の潤滑油組成物は更に、硫黄含有モリブデン化合物を含有している。ある一定の硫黄含有オルガノモリブデン化合物は、潤滑油組成物において摩擦を緩和することが知られているが、同時に酸化防止性及び耐摩耗性クレジットも与える。そのような油溶性オルガノモリブデン化合物の例としては、ジチオカルバメート、ジチオリン酸エステル、ジチオホスフィン酸エステル、キサントゲン酸エステル、チオキサントゲン酸エステル、およびスルフィド等、並びにそれらの混合物を挙げることができる。
【0090】
油溶性又は分散性三核モリブデン化合物は、適当な1以上の液体/1以上の溶媒中で、(NH42Mo313・n(H2O)(ただし、nは0から2の間で変わり、非化学量論値を含む)のようなモリブデン源を、テトラアルキルチウラムジスルフィドのような好適な配位子源と反応させることにより製造することができる。別の油溶性又は分散性三核モリブデン化合物は、適当な1以上の溶媒中で、(NH42Mo313・n(H2O)のようなモリブデン源と、テトラアルキルチウラムジスルフィド、ジアルキルジチオカルバメートまたはジアルキルジチオリン酸エステルなどの配位子源と、シアン化物イオン、亜硫酸イオンまたは置換ホスフィンなどの硫黄抽出剤との反応過程で生成させることができる。あるいは、[M’]2[Mo376](ただし、M’は対イオンであり、そしてAはCl、BrまたはIなどのハロゲンである)のようなハロゲン化三核モリブデン・硫黄塩を、適当な1以上の液体/1以上の溶媒中でジアルキルジチオカルバメートまたはジアルキルジチオリン酸エステルなどの配位子源と反応させて、油溶性又は分散性三核モリブデン化合物を生成させることもできる。適当な液体/溶媒は例えば水性物質であっても有機物であってもよい。
【0091】
ここで使用する「油溶性」又は「分散性」なる用語は、必ずしも化合物または添加剤があらゆる比率で油に溶ける、溶解する、混ざる、もしくは懸濁できることを示唆しているわけではない。だが、これら用語は、例えば化合物または添加剤が油を使用する環境で意図した効果を与えるのに充分な程度には溶解する、もしくは安定して分散することを意味する。さらに、所望により別の添加剤の追加混合によって、特定の添加剤を高レベルで混合することも可能になる。
【0092】
本発明の典型的な潤滑油組成物は、摩擦緩和剤としてモリブデンコハク酸イミド錯体を用いている。潤滑油組成物のうち、モリブデン錯体は約0.15乃至約0.55質量%、好ましくは約0.28乃至約0.45質量%を占める。本発明の典型的な潤滑油組成物は、モリブデンコハク酸イミド錯体を約0.30質量%含有している。
【0093】
3)他の添加剤
自動車エンジンにおいて低SAPS用途に関連した特定の性能要求を満たすために、本発明の組成物に他の添加剤を混合してもよい。そのような他の添加剤の例としては、例えばさび止め添加剤、消泡剤、およびシール固定剤又はシール安定剤を挙げることができる。
【0094】
さび止め添加剤又は腐食防止剤は、非イオン性ポリオキシエチレン界面活性剤であってよい。非イオン性ポリオキシエチレン界面活性剤としては、これらに限定されるものではないが、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエートを挙げることができる。また、さび止め添加剤又は腐食防止剤は別の化合物であってもよく、例えばステアリン酸および他の脂肪酸、ジカルボン酸、金属石鹸、脂肪酸アミン塩、重質スルホン酸の金属塩、多価アルコールの部分カルボン酸エステル、およびリン酸エステルを挙げることができる。本発明の典型的な潤滑油組成物は、ステアリン酸カルシウム塩を含有している。
【0095】
消泡剤としては一般に、アルキルメタクリレート重合体、およびジメチルシリコーン重合体が挙げられる。本発明の典型的な組成物は、シリコン系消泡剤を組成物の全質量に基づき約5乃至約40ppm、好ましくは約8乃至約35ppm、より好ましくは約10乃至約25ppmの範囲の量で含有している。
【0096】
シール固定剤は、シール膨潤剤又はシール安定剤とも呼ばれる。適正なエラストマー封止を保証することにより、シール破損や漏れの発生を防ぐために、潤滑油又は添加剤組成物にはしばしばシール固定剤が用いられている。シール膨潤剤は例えば、ジ−2−エチルヘキシルフタレートなどの油溶性の飽和脂肪族又は芳香族炭化水素エステル、トリデシルアルコールなどの脂肪族アルコールを含む鉱油、炭化水素置換フェノールと組み合わせた三亜リン酸エステル、およびジ−2−エチルヘキシルセバケートであってもよい。
【0097】
上述した添加剤のうちの幾つかは、複数の効果を与えることができ、よって例えば、単一の添加剤が分散剤としても酸化防止剤としても作用することができる。このような多機能添加剤もよく知られている。
【0098】
潤滑油組成物が上述した添加剤を一種以上含有する場合に、各添加剤は一般に、その所望の機能をもたらすことができる量で基油にブレンドされる。添加剤を含む一種以上の添加剤濃縮物(濃縮物は時には添加剤パッケージとも呼ばれる)を製造することが、必須ではないが望ましく、それにより幾種かの添加剤を同時に油に添加して潤滑油組成物を製造することができる。最終組成物は、濃縮物を約5乃至約30質量%、好ましくは約5乃至約25質量%、通常は約10乃至約20質量%で用いることができ、残りは潤滑粘度の油である。成分は任意の順序でブレンドすることができ、また成分の組合せとしてブレンドすることもできる。
【0099】
以下の実施例を参照することにより、本発明について更に理解することができる。ただし、実施例は本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。
【実施例】
【0100】
以下の実施例は、本発明を限定することなく説明するために記される。本発明を特定の態様に関して記載するが、本出願は当該分野の熟練者であれば成しうる様々な変更や置換を包含するものである。
【0101】
試験油Aそして比較のための油B(比較油B)を製造し、当該分野で認められた三つの台上試験にて熱安定性の試験を行った。第一の台上試験は、CEC−L−85−T−99 PDSC熱安定性試験であり、試験油Aと比較油Bの酸化傾向を測定した。その試験では、少量の試験油Aまたは比較油Bを計量して試料皿に注ぎ、そして試験セルの中に置いた。次に、セルを特定の温度に加熱し、空気で加圧した。発熱反応が起こるまでセルをその温度及び圧力で保持した。外挿による開始時間を酸化誘導時間として報告した。この試験における合格/不合格の最低限度は35分である。
【0102】
第二の台上試験は、酸化BX1414試験であり、試験油Aと比較油Bが吸収した酸素の量を時間の関数として測定した。よって、この試験の結果は各油の酸素の吸収し易さを示した。潤滑油を340°F(約170℃)、酸素の存在下で激しく撹拌した。「急速な酸素吸収」が生じるまで試験を実施したが、急速な酸素吸収とは一般に定義されているように、油試料100グラム当り酸素6リットルを吸収するのにかかる時間の長さを意味する。酸化を促進するために、酸化触媒の金属ナフテン酸塩を使用した。
【0103】
第三の台上試験は、パネル・コーカー堆積試験であり、試験油Aと比較油Bを収蔵するエンジンを高温で作動させたときにこれらの油が堆積物を形成する傾向を測定した。少量の試験油Aまたは比較油Bを試験容器に入れた。次に、試験容器を約170℃の温度に加熱した。各容器内で、金属製のくしをその歯の一部を油に浸した状態で約1100rpmの速度で回転させ、そして油を毎分15秒間断続的に試験板に噴射させた。試験板は約300℃の温度に保持した。その間、容器には空気を毎時約12リットルの速度で流入した。容器内の油レベルを一定に保たれるように調節した。試験を約48時間続けた。試験板の4ヶ所に形成された堆積物を計量して記録した。
【0104】
試験油A:動粘度が100℃で約4.1cStである第一のFTBO約28.69質量%と、動粘度が100℃で約7.9cStである第二のFTBO約48.86質量%とを含む潤滑油組成物を製造した。油組成物は更に、ビスコハク酸イミド分散剤、低TBNスルホネート清浄剤、高TBNフェネート清浄剤、二炭化水素ジチオリン酸亜鉛、モリブデンコハク酸イミド、酸化防止剤、腐食防止剤、シリコン系消泡剤、ポリオールエステルおよびステアリン酸カルシウムを含有した。第1表に、油Aの成分を列挙する。油Aは、硫酸灰分約0.8質量%、硫黄分約0.2質量%、およびリン分約0.07質量%であった。
【0105】
比較油B:比較油Bが二種類のFTBOを含まなかったこと以外は、試験油Aの配合を繰り返した。その代わりに二種類のIII種基油を、約68.72質量%および約4.33質量%の量で使用した。第1表に、比較油Bの成分も列挙する。油Bは、硫酸灰分約0.8質量%、硫黄分約0.2質量%、およびリン分約0.07質量%であった。
【0106】
上述した試験、すなわちCEC L−85−T−99試験、酸化BX1414試験およびパネル・コーカー堆積試験で得られた結果を比較したところ、試験油Aは比較油Bよりも、熱安定性、特に酸化および堆積物蓄積を抑制する能力において驚くべき劇的な改善を示した。第2表に、試験の結果を列挙する。
【0107】
第 1 表 成分: SAE:5W40
─────────────────────────────────────
試料 油A 油B
─────────────────────────────────────
ビスコハク酸イミド分散剤 6.5 質量% 6.5 質量%
低TBNカルシウムスルホネート清浄剤 4 mM 4 mM
ステアリン酸カルシウム 35 mM 35 mM
高TBN硫化カルシウムフェネート清浄剤 10 mM 10 mM
ジアルキルジチオリン酸亜鉛 11.5mM 11.5mM
モリブデンコハク酸イミド 0.3 質量% 0.3 質量%
ジ−C8−ジフェニルアミン 0.4 質量% 0.4 質量%
ホウ酸化2−エチルヘキサノール腐食防止剤 0.5 質量% 0.5 質量%
シリコン系消泡剤 25 ppm 25 ppm
ポリオールエステル 1.5 質量% 1.5 質量%
エチレン・プロピレン共重合体VII 7.4 質量% 11.9質量%
希釈油 0.74質量% 0.74質量%
─────────────────────────────────────
FTBO1(4.1cSt、100℃) 28.69質量%
FTBO2(7.9cSt、100℃) 48.86質量%
─────────────────────────────────────
III種基油NSTE SW3043XV 68.72質量%
III種基油NSTE SW3060XV 4.33質量%
─────────────────────────────────────
【0108】
第 2 表 試験結果:
─────────────────────────────────────
試験結果 油A 油B
─────────────────────────────────────
CEC L−85−T−99試験 173.1分 150.3分
(ACEA E7合格/不合格基準=35分)
─────────────────────────────────────
酸化BX1414試験
急速酸素吸収時間 63.5 時間 42 時間
酸素容量(急速酸素吸収) 1.6 L 1.6 L
酸素1L/油100gに達する時間 40.86時間 30.01時間
─────────────────────────────────────
パネル・コーカー堆積試験 (2回試験)
試験板の位置1 39.7 mg 264.9/
356.6mg
試験板の位置2 39.2 mg 278.2/
347.6mg
試験板の位置3 41.5 mg 314.0/
325.4mg
試験板の位置4 33.4 mg 276.6/
391.5mg
平均 38.45mg 283.4/
355.3mg
─────────────────────────────────────

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車エンジンに使用するのに適した、下記の成分の混合物を含む潤滑油組成物であって、該潤滑油組成物の全質量に基づき、硫黄分が約0.3質量%以下、リン分が約0.09質量%以下、そして硫酸灰分が約1.6質量%以下である潤滑油組成物:
(a)主要量の一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油、
(b)一種以上の無灰分散剤、
(c)一種以上の金属含有清浄剤、
(d)一種以上の耐摩耗性添加剤、および
(e)一種以上の酸化防止剤。
【請求項2】
さらに、摩擦緩和剤、腐食防止剤、粘度指数向上剤、消泡剤、シール固定剤、流動点降下剤および多機能添加剤から選ばれる一種以上の添加剤を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
さらに一種以上の非フィッシャー・トロプシュ合成基油を、潤滑油組成物の熱安定性に悪影響を及ぼさない条件で含む請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
組成物の硫黄分が、該組成物の全質量に基づき約0.2質量%以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
組成物の硫黄分が、該組成物の全質量に基づき約0.1質量%以下である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
組成物のリン分が、該組成物の全質量に基づき約0.08質量%以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
組成物のリン分が、該組成物の全質量に基づき約0.07質量%以下である請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
組成物のリン分が、該組成物の全質量に基づき約0.05質量%以下である請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
組成物の硫酸灰分が、該組成物の全質量に基づき約1.0質量%以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
組成物の硫酸灰分が、該組成物の全質量に基づき約0.8質量%以下である請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
組成物の硫酸灰分が、該組成物の全質量に基づき約0.5質量%以下である請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
組成物の硫酸灰分が、該組成物の全質量に基づき約0.45質量%以下である請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油の量が、該組成物の全質量に基づき約60質量%より多い請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油の量が、該組成物の全質量に基づき約70質量%より多い請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
各フィッシャー・トロプシュ合成基油の動粘度が100℃で約2cSt以上である請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
各フィッシャー・トロプシュ合成基油の動粘度が100℃で約4cSt以上である請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
各フィッシャー・トロプシュ合成基油の粘度指数が100以上である請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
各フィッシャー・トロプシュ合成基油の流動点が約20℃以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
各フィッシャー・トロプシュ合成基油の流動点が約−8℃以下である請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
各フィッシャー・トロプシュ合成基油の曇り点が約2℃以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
各フィッシャー・トロプシュ合成基油が、炭素100個当りのアルキル分枝が約12個未満のパラフィン系炭化水素成分を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
各フィッシャー・トロプシュ合成基油が、炭素100個当りのアルキル分枝が約10個未満のパラフィン系炭化水素成分を含有する請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
標準酸化BN試験条件にて油100グラム当り酸素1リットルを吸収するのに、約7時間より多く要する請求項1に記載の組成物。
【請求項24】
一種以上の金属含有清浄剤が、硫化フェネート清浄剤、スルホネート清浄剤、サリチレート清浄剤およびステアレート清浄剤から選ばれる請求項1に記載の組成物。
【請求項25】
一種以上の金属含有清浄剤の量が約0.05乃至約16mMである請求項1に記載の組成物。
【請求項26】
一種以上の無灰分散剤のうちの一種がビスコハク酸イミドである請求項1に記載の組成物。
【請求項27】
ビスコハク酸イミド無灰分散剤が、一種以上のポリイソブチレンコハク酸無水物から誘導されたものである請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
一種以上の無灰分散剤の量が約0.5質量%乃至約10質量%である請求項1に記載の組成物。
【請求項29】
一種以上の酸化防止剤のうちの一種がジフェニルアミンである請求項1に記載の組成物。
【請求項30】
一種以上の酸化防止剤の量が約0.05質量%乃至約5.00質量%である請求項1に記載の組成物。
【請求項31】
一種以上の耐摩耗性添加剤のうちの一種がジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩である請求項1に記載の組成物。
【請求項32】
ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩がジアルキルジチオリン酸亜鉛である請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
一種以上の耐摩耗性添加剤が、約0.03乃至約0.075質量%のリン分を組成物に与える請求項1に記載の組成物。
【請求項34】
一種以上の無灰分散剤が、約0.08乃至約0.12質量%の窒素分を組成物に与える請求項1に記載の組成物。
【請求項35】
金属含有清浄剤が過塩基性カルシウム清浄剤である請求項1に記載の組成物。
【請求項36】
一種以上の摩擦緩和剤のうちの一種がモリブデンコハク酸イミド錯体である請求項2に記載の組成物。
【請求項37】
一種以上の摩擦緩和剤の量が約0.15質量%乃至約0.55質量%である請求項2に記載の組成物。
【請求項38】
一種以上のさび止め添加剤のうちの一種がステアリン酸カルシウム塩である請求項2に記載の組成物。
【請求項39】
一種以上の消泡剤のうちの一種がシリコン系消泡剤である請求項2に記載の組成物。
【請求項40】
自動車エンジンの高温での性能を改善する方法であって、下記の成分を含む低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物を用いて、エンジンを作動させることからなる方法:
(a)主要量の一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油、
(b)一種以上の無灰分散剤、
(c)一種以上の金属含有清浄剤、
(d)一種以上の酸化防止剤、および
(e)一種以上の耐摩耗性添加剤、
ただし、該低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物は、該組成物の全質量に基づき硫黄分が約0.3質量%以下、リン分が約0.09質量%以下、そして硫酸灰分が約1.6質量%以下である。
【請求項41】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物が更に、摩擦緩和剤、腐食防止剤、流動点降下剤、粘度指数調整剤、消泡剤、シール固定剤および多機能添加剤から選ばれる一種以上の添加剤を含む請求項40に記載の方法。
【請求項42】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物の硫黄分が、約0.2質量%以下である請求項40に記載の方法。
【請求項43】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物の硫黄分が、約0.1質量%以下である請求項42に記載の方法。
【請求項44】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物のリン分が、約0.08質量%以下である請求項40に記載の方法。
【請求項45】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物のリン分が、約0.07質量%以下である請求項44に記載の方法。
【請求項46】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物のリン分が、約0.05質量%以下である請求項45に記載の方法。
【請求項47】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物の硫酸灰分が、約1.0質量%以下である請求項40に記載の方法。
【請求項48】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物の硫酸灰分が、約0.8質量%以下である請求項47に記載の方法。
【請求項49】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物の硫酸灰分が、約0.5質量%以下である請求項48に記載の方法。
【請求項50】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物の硫酸灰分が、約0.45質量%以下である請求項49に記載の方法。
【請求項51】
一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油の量が、潤滑油組成物の全質量に基づき約60質量%又はそれ以上である請求項40に記載の方法。
【請求項52】
一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油の量が、潤滑油組成物の全質量に基づき約70質量%又はそれ以上である請求項51に記載の方法。
【請求項53】
後処理装置を備える自動車エンジンを作動させる方法であって、該エンジンの潤滑に請求項1に記載の潤滑油組成物を用いる方法。
【請求項54】
該自動車エンジンが、(1)軽負荷ディーゼル燃料自動車エンジン、(2)高負荷ディーゼル燃料自動車エンジン、および(3)ガソリン燃料自動車エンジンから選ばれる請求項53に記載の方法。
【請求項55】
該排ガス後処理装置が、微粒子捕集装置および触媒コンバータから選ばれた一台以上の装置である請求項43に記載の方法。
【請求項56】
下記の成分をブレンドすることからなる、硫黄分約0.3質量%以下、リン分約0.09質量%以下そして硫酸灰分約1.6質量%以下の潤滑油組成物の製造方法:
(a)主要量の一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油、
(b)一種以上の無灰分散剤、
(c)一種以上の金属含有清浄剤、
(d)一種以上の耐摩耗性添加剤、および
(d)一種以上の酸化防止剤。
【請求項57】
摩擦緩和剤、粘度指数調整剤、腐食防止剤、消泡剤、シール固定剤、流動点降下剤および多機能添加剤から選ばれた一種以上の添加剤を、該潤滑油組成物に更にブレンドする請求項56に記載の方法。
【請求項58】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物の硫黄分が、約0.2質量%以下である請求項56に記載の方法。
【請求項59】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物の硫黄分が、約0.1質量%以下である請求項58に記載の方法。
【請求項60】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物のリン分が、約0.08質量%以下である請求項56に記載の方法。
【請求項61】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物のリン分が、約0.07質量%以下である請求項60に記載の方法。
【請求項62】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物のリン分が、約0.05質量%以下である請求項61に記載の方法。
【請求項63】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物の硫酸灰分が、約1.0質量%以下である請求項56に記載の方法。
【請求項64】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物の硫酸灰分が、約0.8質量%以下である請求項63に記載の方法。
【請求項65】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物の硫酸灰分が、約0.5質量%以下である請求項64に記載の方法。
【請求項66】
低リン、低硫黄及び低硫酸灰分の潤滑油組成物の硫酸灰分が、約0.45質量%以下である請求項65に記載の方法。
【請求項67】
一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油の量が、潤滑油組成物の全質量に基づき約60質量%又はそれ以上である請求項56に記載の方法。
【請求項68】
一種以上のフィッシャー・トロプシュ合成基油の量が、潤滑油組成物の全質量に基づき約70質量%又はそれ以上である請求項67に記載の方法。

【公開番号】特開2008−189904(P2008−189904A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−329193(P2007−329193)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(501381217)シェブロン・オロナイト・テクノロジー・ビー.ブイ. (11)
【Fターム(参考)】