説明

熱硬化性樹脂組成物とこれを用いたプリント配線板

【課題】プリント配線板の絶縁層やソルダーレジストに用いる場合に、高周波帯域においても低誘電率、低誘電正接の絶縁皮膜が得られるとともに、耐熱性、成形性、可撓性、絶縁性、耐吸水性が優れており、製造が比較的容易な熱硬化性樹脂組成物と、これを用いたプリント配線板を提供することを目的とする。
【解決手段】キシレンホルムアルデヒド樹脂、メシチレンホルムアルデヒド樹脂の少なくとも一つを含有する芳香族ホルムアルデヒド樹脂と、芳香族ホルムアルデヒド樹脂を熱硬化し得る硬化剤と、ポリフェノール化合物とを含有した熱硬化性樹脂組成物を用いて絶縁層7、11やソルダーレジスト層13を形成し、プリント配線板1を得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プリント配線板の絶縁層やソルダーレジストの形成に用いる熱硬化性樹脂組成物と、これを用いたプリント配線板に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器の高密度実装化、情報通信の高速化に伴い、これらを構成するプリント配線板にも、導体パターン層と絶縁層とを多層化した高密度実装と、優れた高周波特性とが要求されている。
【0003】
一般に、プリント配線板は、公知のレーザビアプロセスを用いたビルドアップ法により多層化される。即ち、導体層が形成された銅貼積層板の導体層の上面に熱硬化樹脂組成物を用いて絶縁層を形成し、更に、この絶縁層の上面に導体パターン層を形成するとともにレーザ照射によってビアホールや配線パターンを形成し、これら導体パターン層と導体層とを、ビアホールに導電材を充填して接続する。さらに、プリント配線板表面の導体パターン層を覆うようにソルダーレジストが形成される。
【0004】
そして、絶縁層やソルダーレジストを形成するために樹脂材料が使用され、この樹脂材料には、絶縁性を有するとともに、レーザ照射によりビアホールが形成でき、低誘電率や低誘電正接であることが求められる。
前記絶縁層やソルダーレジストを形成するために広く用いられている樹脂材料として、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化樹脂がある。また、低誘電率を有する樹脂材料として、ポリフェニレンエーテルを用いた熱硬化性樹脂(例えば、特許文献1、特許文献2参照)や、フッ素化樹脂を用いた熱硬化性樹脂(例えば、特許文献3参照)がある。
【0005】
【特許文献1】
特公平7−64914号公報(第14頁)
【特許文献2】
特開平11−21503号公報(第5−10頁)
【特許文献3】
特開平9−500418号公報(第9−10頁)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、一般に、エポキシ樹脂やフェノール樹脂は、水分を含有することによって、誘電率や、誘電正接が上昇し、特に高周波領域でその上昇が顕著になるという問題点がある。
【0007】
さらに、エポキシ樹脂を主成分とする材料は、熱硬化性を発現させる官能基の極性が一般的に高いため、誘電率や誘電正接を上昇させてしまい、低誘電率、低誘電正接の絶縁層やソルダーレジストを形成することが困難であるという問題点がある。
【0008】
また、エポキシ樹脂やフェノール樹脂は、硬化すると脆くクラックが発生し易いので、絶縁材料として使用する場合には、ゴム成分を混合し可撓性をもたせる必要があり、これによって、耐熱性が低下してしまうという問題点がある。
また、特許文献1や特許文献2に開示されたポリフェニレンエーテルを用いた熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂のポリフェニレンエーテルを不飽和カルボン酸や酸無水物等と反応させたり、シアネートエステル化合物やフェノール化合物と触媒を利用して反応させたりして製造されるため、製造に手間がかかり生産性を損なうという問題点があった。
【0009】
また、特許文献3に開示されたフッ素化樹脂を用いた熱硬化性樹脂は、フッ素系化合物を含有することにより、導体層や導体パターン層等を形成する金属との接着性や絶縁層を形成するための成形性や加工性等が好ましくなく、かつ高価であるという問題点があった。
【0010】
本発明は、前記問題点を解決するもので、プリント配線板の絶縁層やソルダーレジストに用いる場合に、高周波帯域においても低誘電率、低誘電正接が得られるとともに、耐熱性、成形性、可撓性、絶縁性、耐吸水性が優れており、製造が比較的容易な熱硬化性樹脂組成物と、これを用いたプリント配線板を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、芳香族ホルムアルデヒド樹脂と、該芳香族ホルムアルデヒド樹脂を熱硬化し得る硬化剤を含有したことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物である。
【0012】
請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、芳香族ホルムアルデヒド樹脂を硬化して得られる硬化物は、芳香環を含むため極性が低い低誘電率のものとなるので、これを用いてプリント配線板の絶縁層やソルダーレジストを形成すると、低誘電率、低誘電正接を有し高周波特性が優れたプリント配線板が得られる。
【0013】
また、本熱硬化性樹脂組成物は、フッ素化合物のような高コストの化合物や予備反応が必要な熱硬化性ポリフェニレンエーテルを使用することなく、低誘電率や低誘電正接が得られるので生産性が良好である。
請求項1に熱硬化性樹脂組成物は、請求項2に記載の発明のように、前記芳香族ホルムアルデヒド樹脂に含まれる芳香環の水素の少なくとも一部が、炭化水素系基によって置換されていることが好ましい。
【0014】
請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、置換された炭化水素系基が電子供与性を具備しているので、硬化反応が促進されるとともに、これを用いてプリント配線板の絶縁層やソルダーレジストを形成すると、低誘電率が得られる。また、請求項1又は請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物は、請求項3に記載の発明のように、前記芳香族ホルムアルデヒド樹脂が、キシレンホルムアルデヒド樹脂及びメシチレンホルムアルデヒド樹脂の、少なくとも何れか一つを含有することが好ましい。
【0015】
請求項3に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、キシレンホルムアルデヒド樹脂やメシチレンホルムアルデヒド樹脂は、酸触媒によって優れた硬化反応を有し、得られた硬化物は極性基が少ないので、これを用いてプリント配線板の絶縁層やソルダーレジストを形成すると、低誘電率が得られる。
【0016】
請求項3に記載に記載の芳香族ホルムアルデヒド樹脂は、メタキシレン及びメシチレン、あるいはメタキシレン又はメシチレンから合成されるオリゴマーであり、分子内にメチロール基、ジメチルエーテル結合、アセタール結合等の反応基を有する。そして、この芳香族ホルムアルデヒド樹脂を用いた熱硬化性樹脂は、反応基が酸触媒下で活性水素を有する化合物と反応して硬化し、得られた硬化体には極性基が少ないため、低誘電率が得られる。
【0017】
また、請求項1乃至請求項3の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物は、請求項4に記載の発明のように、ポリフェノール化合物を含有していることが好ましい。請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、ポリフェノール化合物のフェノール基のオルト位およびパラ位がキシレン樹脂などの芳香族ホルムアルデヒド樹脂と反応して架橋して硬化を促進し、比誘電率が3.3以下、誘電正接が0.04以下となり、優れた電気特性が得られる。
【0018】
一般に、絶縁樹脂として使用されるエポキシ樹脂を使用した場合、酸無水物系の硬化剤を使用するなどの工夫を施すことにより、比誘電率を3.3程度まで低下させることが可能であるが、これ以下に低下させることは材料特性上きわめて困難である。
【0019】
また、低誘電率を示す樹脂には一般にフッ素化合物、シリコーン樹脂、汎用プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)、ポリフェニレンエーテル等があるが、それぞれコスト、接着性、耐熱性、成形性等を兼ね備えたものとは成らない。
【0020】
本熱硬化性樹脂組成物は、プリント配線板の絶縁層やソルダーレジストに用いる場合に、高周波帯域においても低誘電率、低誘電正接の絶縁皮膜が得られるとともに、耐熱性、成形性、可撓性、絶縁性、耐吸水性が優れており、製造も比較的容易にできる。
【0021】
ポリフェノール化合物は、1分子中にフェノール基を2個以上含有する化合物のことをいい、例えば、ビスフェノール類、ノボラック類、レゾール類、ヒドロキシビニルフェノール類、その他フェノール付加体などが挙げられる。ポリフェノール化合物は、そのフェノール基のオルト位およびパラ位がキシレン樹脂などの芳香族ホルムアルデヒド樹脂と反応して架橋がおこるので、フェノール基のオルト位およびパラ位は置換されていないことが望ましい。
【0022】
また、ポリフェノール化合物は、ポリフェノール化合物とキシレン樹脂との合計量100質量%に対し、20〜90質量%、特に40〜80質量%、更に50〜80質量%であることが好ましい。その理由は、20質量%以下であると、硬化収縮が大きくなり硬化膜にクラックが発生し易くなるからであり、一方、90質量%以上であると、架橋成分の一方を担うキシレン樹脂が少なくなりすぎて十分に硬化しないからである。
【0023】
また、キシレン樹脂は、ポリフェノール化合物とキシレン樹脂との合計量100質量%に対し、10〜80質量%、特に20〜60質量%、更に20〜50質量%であることが望ましい。その理由は、20質量%以下であると、架橋成分の一方を担うキシレン樹脂が少なくなりすぎて十分に硬化しないからであり、一方、80質量%以上であると、硬化収縮が大きくなり硬化膜にクラックが発生してしまったり、キシレン樹脂が液状であるため絶縁層やソルダーレジストに強いベタツキが発生し配線基板用材料としての取り扱いが困難になったりするからである。
【0024】
芳香族ホルムアルデヒド樹脂を熱硬化し得る硬化剤は、加熱によって酸が発生し、その酸によってキシレン樹脂などの芳香族ホルムアルデヒド樹脂を硬化、及びポリフェノール化合物とキシレン樹脂との架橋反応が促進されるものであればよい。例えば、ヘキサフルオロアンチモン塩、トリクロロメチルトリアジン化合物、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩等のイオン性化合物、カルボン酸、スルホン酸のエステルやアミド誘導体等の非イオン性化合物、リン化合物などを使用することができる。
【0025】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物において、前記ポリフェノール化合物は、ポリブタジエンとフェノールとから合成されたポリフェノール樹脂であることを特徴とする。
請求項5に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、ポリブタジエンの可撓性が良いので、硬化膜にクラックが低減でき、プレッシャークッカー試験等の信頼性試験においてもクラックの発生が少ない絶縁材料が得られる。
【0026】
また、本熱硬化性樹脂組成物は、ポリブタジエンとフェノールとから合成したポリフェノール樹脂を含有することにより、比誘電率を下げることができる。
フェノール樹脂には、例えば、アルキル基を含有したノボラック型フェノール樹脂、アルキル基を含有したレゾール型フェノール樹脂、ジブニルベンゼンフェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、ポリブタジエンフェノール樹脂、スチレン−ヒドロキシスチレン共重合体などさまざまな樹脂が挙げられるが、誘電率に優劣がある。非共役二重結合を持つアルケン化化合物は、ベンゼンのような芳香族共役二重結合を持つ化合物より誘電率が低い。ブタジエンから合成したポリブタジエンは、主骨格の繰り返し単位は2−ブテンの二重結合を有し、非共役アルケンであるので、低い誘電率を得ることができる。このため、低誘電率化のために、極力芳香族成分を少なくすることが有効であり、ジシニルベンゼンフェノール樹脂、スチレン−ヒドロキシスチレン共重合体は芳香成分が多いので好適でない。
【0027】
さらに、各種化合物の比誘電率を比較すると、例えば、共役の化合物として比誘電率が2.283のベンゼン、比誘電率が2.240のトルエン、比誘電率が2.266のp−キシレン、比誘電率が2.374のm−キシレン、比誘電率が2.270の0−キシレン、等があるが、非共役の化合物として比誘電率が2.100の1−ペンテン、比誘電率が2.050の1−ヘキセン、比誘電率が2.071の1−ヘプテン等があり、非共役の化合物の方が共役の化合物よりも低い誘電率が得られる。
【0028】
尚、樹脂の比誘電率は、その樹脂を構成する官能基や原子団の種類とその数から推定できることがClausisu−Mossottiの式として確率されているので、官能基から優劣を判断することが、極めて有効な手法である。
また、通常のノボラック型フェノール樹脂は一般に脆いという性質があり、通常何らかの可撓性分を併用する必要があるが、本熱硬化性樹脂組成物は、フェノール樹脂そのものが液状ポリブタジエンという可撓性を持つ成分からできているので、ゴムなどの可撓性分の添加を必要とせず、硬化した絶縁層はプレッシャークッカー試験等の信頼性試験においてもクラックの発生が少なくて良好である。
【0029】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は請求項5に記載の熱硬化性樹脂組成物において、前記ポリフェノール化合物は、分子内にシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、式(1)で表されるテトラヒドロジシクロペンタジエン並びに式(2)で表されるテルペンの構造を有することを特徴とする。
【0030】
【化3】



【0031】
【化4】



【0032】
請求項6に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、極性基が低減され、且つ、嵩高い分子構造の樹脂が得られるので、これによって熱硬化性樹脂の誘電率を低下させることができるという作用効果が得られる。
請求項7に記載の発明は、請求項4に記載の熱硬化性組成物において、前記ポリフェノール化合物は、フェノールと芳香族有機物とから合成された芳香族化合物を含有することを特徴とする。
【0033】
請求項7に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、ポリフェノール化合物が、芳香族化合物を含有するので、熱膨張率が低く導体層や導体パターン層等を形成する金属との接着性が優れた絶縁材料が得られる。
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の熱硬化性組成物において、前記芳香族化合物は、キシレンとフェノールとから合成された、ρ―キシレン含有フェノール樹脂であることを特徴とする。
【0034】
請求項8に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、ポリフェノール化合物にはρ―キシレン骨格の剛直な芳香族鎖が多く構成されるので、導体層や導体パターン層等を形成する金属との接着強度や引っ張り強度などの機械的強度に優れた絶縁材料を得ることができる。
【0035】
請求項9に記載の発明は、請求項4乃至請求項8の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物において、前記ポリフェノール化合物が、水酸基当量(OH当量)が140g/eq.以上であることを特徴とする。
請求項9に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、フェノール化合物は極性基であるフェノール水酸基を有し、比誘電率と吸水率が上昇してしまうので、フェノール化合物の水酸基当量(OH当量)を140g/eq.以上にすることで、良好な硬化性を保ちつつ、比誘電率と吸水率の上昇を抑えることができる。
【0036】
さらに、ポリフェノール化合物の水酸基当量は、140g/eq.以上、特に350g/eq.以上で通常1000g/eq.以下、とするとよい。
但し、芳香族ホルムアルデヒド樹脂が、キシレンホルムアルデヒド樹脂及とメシチレンホルムアルデヒド樹脂の、少なくとも何れか一つから成る樹脂であれば、これらの樹脂がフェノールの水酸基ではなく活性芳香環と反応するため、フェノール成分が少なくなりすぎると架橋点が少なく絶縁材料として好ましくない。よって、水酸基当量(OH当量)は140g/eq.以上、600g/eq.以下が好ましい。
【0037】
水酸基当量(OH当量)は140g/eq.以上のポリフェノール化合物としては、例えば、ジビニルベンゼンフェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、ポリブタジエンフェノール樹脂、スチレン−ヒドロキシスチレン共重合体などが挙げられる。
【0038】
また、前記ポリフェノール化合物が、分子内にシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、式(1)で表されるテトラヒドロジシクロペンタジエン並びに式(2)で表されるテルペンの、少なくとも一つの構造をもつ熱硬化性樹脂組成物によれば、ポリフェノール化合物を、水酸基当量(OH当量)が140g/eq以上のフェノール樹脂とすることで硬化性を維持しつつ誘電率と吸水率の上昇を抑制でき、且つ、分子内にシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン並びにテトラヒドロジシクロペンタジエンの少なくとも何れか一つの構造をもつことで、極性基が低減されるとともに嵩高い分子構造の樹脂が得られるので、これを用いて絶縁層やソルダーレジストを形成すると、一層低い比誘電率が得られる。
【0039】
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至請求項9の何れか記載の熱硬化性組成物において、ナフタレン環の一部を水酸基で置換したナフトール樹脂を含有することを特徴とする。
請求項10に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、ナフタレン骨格の剛直な芳香族鎖が多く構成されているので、導体層や導体パターン層等を形成する金属との接着強度や引っ張り強度などの機械的強度に優れた絶縁材料を得ることができる。また、ナフトール樹脂として、α―ナフトール樹脂又はβ―ナフトール樹脂が挙げられる。α―ナフトール樹脂よりもβ―ナフトール樹脂を用いると、一層好ましい。その理由は、ナフタレンはα位の方がβ位よりも反応性が高いため、α位に置換基のないβ―ナフトール樹脂の方が、硬化する際の反応性が高く、架橋密度の高い樹脂を得ることができる。そのため、β―ナフトール樹脂はα―ナフトール樹脂よりも熱膨張率が低く、導体層や導体パターン層等を形成する金属との接着強度がより優れているからである。
【0040】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の熱硬化性樹脂組成物において、前記ナフトール樹脂は、水酸基当量(OH当量)が140g/eq.以上であることを特徴とする。
請求項11に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、フェノール化合物は極性基であるフェノール水酸基を有し、比誘電率と吸水率が上昇してしまうので、ナフトール樹脂の水酸基当量(OH当量)を140g/eq.以上にすることで、良好な硬化性を保ちつつ、比誘電率と吸水率の上昇を抑えることができる。
【0041】
請求項12の発明は、請求項1乃至請求項11の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物において、前記硬化剤は、加熱によって酸を発生し、前記芳香族ホルムアルデヒド樹脂をカチオン重合し得ることを特徴とする。
請求項12に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、硬化剤が加熱によって酸を発生し、その酸によってキシレン樹脂などの芳香族ホルムアルデヒド樹脂の硬化、およびポリフェノール化合物とキシレン樹脂との架橋反応の促進等が得られる。
【0042】
芳香族ホルムアルデヒド樹脂を熱硬化し得る硬化剤は、基本的には加熱によって酸が発生し、その酸によってキシレン樹脂の硬化、およびポリフェノール化合物とキシレン樹脂との架橋反応が促進されるものであればよい。例えば、ヘキサフルオロアンチモン塩、トリクロロメチルトリアジン化合物、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩等のイオン性化合物、カルボン酸、スルホン酸のエステルやアミド誘導体等の非イオン性化合物、リン化合物、その他ルイス酸などを使用することができる。しかしながら、電子部品用の絶縁材料として好ましい樹脂特性を得るために、請求項14に記載の発明のように、硬化剤の種類を限定すると好ましい。
【0043】
請求項13に記載の発明は、請求項1乃至請求項12の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物において、前記硬化剤は、化学式が〔(R)X〕(ただし、Rは脂肪族若しくは芳香族の置換基、Sは硫黄、Xはアニオン種である)で表されるスルホニウム塩系であることを特徴とする。
【0044】
請求項13に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、熱硬化により生成されるスルホニウムカチオンの酸性(求電子性)が強く、キシレン樹脂や、フェノール樹脂との高い反応性と高い重合度が得られるので、信頼性の優れた硬化物が得られる。
【0045】
特に、アニオン種がヘキサフルオロアンチモネート(SbF)を有するスルホニウム塩は、アニオン種の求核性が弱く、熱により発生した酸とイオン対を形成せず、樹脂の硬化反応によって発生した酸はアニオン種の影響を受けずに自由に動くことができるので酸性度が非常に強く、高い硬化反応が得られ信頼性の優れた硬化物が得られる。
【0046】
硬化剤は、ポリフェノール化合物とキシレン樹脂との合計量100質量%に対し、0.1〜5.0質量%、特に0.2〜3.0質量%が望ましい。その理由は、0.1質量%より小さいと、十分な硬化性が得られず、一方、5.0質量%より大きいと、過剰に酸が発生して硬化後にも残り、その酸によって金属導体層が侵されてしまうからである。
【0047】
請求項14に記載の発明は、請求項1乃至請求項13の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物において、硬化した後の比誘電率が、3.3以下であることを特徴とする。
請求項14に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、これを用いてプリント配線板の層間絶縁層やソルダーレジストを形成すると、伝送信号の信号遅延を低減でき、特に高周波特性の優れたプリント配線板が得られる。
【0048】
請求項15に記載の発明は、請求項1乃至請求項14の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物において、硬化した後の誘電正接が、0.04以下であることを特徴とする。
請求項15に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、これを用いてプリント配線板の層間絶縁層やソルダーレジストを形成すると、伝送信号の損失を低減でき、特に高周波特性の優れたプリント配線板が得られる。
【0049】
請求項16に記載の発明は、請求項1乃至請求項15の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物において、硬化した後の、比誘電率が3.3以下、誘電正接が0.04以下であることを特徴とする。
請求項16に記載の熱硬化性樹脂組成物によれば、これを用いてプリント配線板の層間絶縁層やソルダーレジストを形成すると、伝送信号の信号遅延の低減や伝送信号の損失の低減ができ、特に高周波特性の優れたプリント配線板が得られる。
【0050】
請求項17に記載の発明は、絶縁層とソルダーレジストの少なくとも一方を、請求項1乃至請求項16の何れかに記載の熱硬化性樹脂組成物を用いて形成したプリント配線板であることを特徴とする。
請求項17に記載のプリント配線板によれば、耐熱性、成形性、可撓性、絶縁性、耐吸水性が優れた絶縁層やソルダーレジストが得られ、且つ、伝送信号の信号遅延の低減や伝送信号の損失の低減がなされ、優れた高周波特性が得られる。
【0051】
【発明の実施の形態】
以下に、一実施の形態を用いて本発明について説明する。
芳香族ホルムアルデヒド樹脂として、キシレンホルムアルデヒド樹脂とメシチレンホルムアルデヒド樹脂の合成樹脂であり、式(3)群で表されるキシレン樹脂(三菱ガス化学製ニカノールH)を準備した。これらは、芳香環の水素の少なくとも一部が、炭化水素系基によって置換された芳香族ホルムアルデヒド樹脂である。
【0052】
【化5】



【0053】
また、本発明の実施例と比較するために、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製エピコート828)を準備した。
更に、表1に表したように、フェノール樹脂として、式(4)で表され液状ポリブタジエンとフェノールを合成した組成を有し、分子内にデカヒドロナフタレン構造が生成され、OH当量420g/eq.、分子量2000の樹脂(日本石油化学製PP−1000−240)、式(4)で表され液状ポリブタジエンとフェノールを合成した組成をし、分子内にデカヒドロナフタレン構造が生成され、OH当量300g/eq.、分子量880の樹脂(日本石油化学製PP−700−300)、式(5)で表されジシクロベンタジエンとフェノールを合成した組成を有し、OH当量178g/eq.、分子量520の樹脂(日本石油化学製DPP−M)、式(6)で表されテルペン含有ノボラックフェノールの組成を有し、OH当量170g/eq.、分子量500の樹脂(ジャパンエポキシレジン製MP402FPY)、式(7)で表されノボラック型特殊フェノールの組成を有し、OH当量160g/eq.、分子量500の樹脂(大日本インキ製CZ−256−A)、式(8)で表されp−キシレン含有フェノールの組成を有し、OH当量198g/eq.、分子量550の樹脂(住友ベークライト製PR54869)、式(9)で表されβ−ナフトールの組成を有し、OH当量186g/eq.、分子量500の樹脂(新日鐵化学製SN170)、式(10)で表されα−ナフトールの組成を有し、OH当量215g/eq.、分子量500の樹脂(新日鐵化学製SN475)、等を準備した。
【0054】
【化6】



【0055】
【化7】



【0056】
【化8】



【0057】
【化9】



【0058】
【化10】



【0059】
【化11】



【0060】
【化12】



【0061】
【表1】



【0062】
次いで、表2に表したように、キシレン樹脂とフェノール樹脂、ナフトール樹脂とを、合計で100質量%にまるように混合して本発明の実施例1〜10の配合組成を有する樹脂を作製し、実施例1〜10の樹脂と比較するためにエポキシ樹脂とフェノール樹脂とを合計で100質量%になるように混合して比較例1〜2の配合組成を有する樹脂を作成した。
【0063】
【表2】



【0064】
実施例1は、キシレン樹脂25質量%と、表1に表した▲1▼のフェノール樹脂75質量%とを配合した樹脂である。
実施例2は、キシレン樹脂50質量%と、表1に表した▲1▼のフェノール樹脂50質量%とを配合した樹脂である。
【0065】
実施例3は、キシレン樹脂50質量%と、表1に表した▲2▼のフェノール樹脂50質量%とを配合した樹脂である。
実施例4は、キシレン樹脂50質量%と、として表1に表した▲3▼のフェノール樹脂50質量%とを配合した樹脂である。
【0066】
実施例5は、キシレン樹脂50質量%と、表1に表した▲4▼のフェノール樹脂50質量%とを配合した樹脂である。
実施例6は、キシレン樹脂50質量%と、表1に表した▲5▼のフェノール樹脂50質量%とを配合した樹脂である。
【0067】
実施例7は、キシレン樹脂39質量%と、表1に表した▲1▼のフェノール樹脂36質量%と▲6▼のp−キシレン含有フェノール樹脂25質量%とを配合した樹脂である。
実施例8は、キシレン樹脂39質量%と、表1に表した▲1▼のフェノール樹脂36質量%と▲7▼のβ−ナフトール樹脂25質量%とを配合した樹脂である。
【0068】
実施例9は、キシレン樹脂39質量%と、表1に表した▲1▼のフェノール樹脂36質量%と▲8▼のα−ナフトール樹脂25質量%とを配合した樹脂である。
実施例10は、キシレン樹脂39質量%と、表1に表した▲1▼のフェノール樹脂61質量%とを配合した樹脂である。
【0069】
比較例1は、エポキシ樹脂25質量%と、表1に表した▲1▼のフェノール樹脂75質量%とを配合した樹脂である。
比較例2は、エポキシ樹脂50質量%と、表1に表した▲1▼のフェノール樹脂50質量%とを配合した樹脂である。
【0070】
次いで、実施例1〜10の樹脂に、芳香族スルホニウム塩を主成分とする酸発生剤(三新化学工業製SI−100L)を2質量%混合し、熱硬化性樹脂組成物を得た。
また、比較例1〜2の樹脂に、硬化触媒としてトリフェニルホスフィンを1質量%添加し熱硬化性樹脂組成物を得た。
尚、前記配合工程において、固形化された樹脂については、メチルエチルケトンにて溶解させてワニス化した。
【0071】
次いで、得られた熱硬化性樹脂組成物の特性を、次のように評価した。
まず、熱硬化性樹脂組成物を導体層が形成された銅貼積層板の導体層の上面に塗布し、70℃、30分間で乾燥させた後、200℃、2時間過熱し硬化させ、基板上に厚さ40μmの樹脂膜を形成したプリント配線板を得た。
【0072】
「熱硬化性試験」
次いで、硬化した樹脂膜に溶媒を塗布し、樹脂膜表面の溶解の有無を観察し溶解が表れないものを硬化性が良好とし、表2に表した。
「穴開け加工性試験」
次いで、樹脂膜に、レーザを照射してビアホールを形成し、その後、このビアホールを拡大鏡で観察し、所定形状の穴あけができたものを、良好とし、表2に表した。
【0073】
「比誘電率と誘電正接の測定」
次いで、前記この樹脂膜の1MHzにおける誘電率と誘電損失を、JISK6911(日本電子工業規格)に準じて測定し、測定結果を表2に表した。尚、測定機は、インピーダンスアナライザー(ヒューレットパッカード製HP4194A)を用いた。
【0074】
「プレッシャークッカー試験」
次いで、絶縁膜が形成されたプリント配線板を、121℃、2.1atmの飽和プレッシャークッカー(協真エンジニアリング製)に入れ、336時間経過後に取り出し、絶縁膜の表面を拡大鏡で観察し、クラックの有無を確認した。そして、クラックのないものを良好とし、わずかに小さいクラックがあるものはその旨を記載し、表2に表した。
【0075】
表2に表したように、本発明の実施例1〜10は、比誘電率が2.9〜3.3、誘電正接が0.009〜0.012の範囲であって、電気特性が優れたものとなり、硬化性や穴開け加工性についても全て良好な結果を示し、導体層との密着性も良好であった。プレッシャークッカー試験においては、実施例1〜実施例4ははクラックの発生が見られず良好な結果を示し、実施例5と6は、僅かなクラックは観察されたが実用性を十分に満足できた。
【0076】
また、実施例1〜実施例9において、実施例1〜実施例3及び実施例10は、ポリブタジエンとフェノールから合成し、分子内にシクロヘキサン構造を有し、水酸基当量が420g/eq.又は300g/eq.のフェノール樹脂を使用したので、比誘電率が2.9、誘電正接が0.010〜0.011の範囲であって、電気特性が最も優れたものとなった。
【0077】
実施例4は、分子内に嵩高いジシクロペンタジエンを持つフェノール樹脂を使用したので、比誘電率が3.1、誘電正接が0.012となり、電気特性が優れたものとなった。
実施例5は、嵩高いテルペン構造を持つフェノール樹脂を使用したので、比誘電率が3.2、誘電正接が0.010となり、電気特性が優れたものとなった。
【0078】
実施例6は、ビスフェノールとジビニルベンゼンから合成されたフェノール樹脂を使用したので、比誘電率が3.3、誘電正接が0.010となり、電気特性が優れたものとなった。
実施例7は、p−キシレン含有フェノールを使用したので、比誘電率が3.1、誘電正接が0.009となり、電気特性が優れたものとなった。
【0079】
実施例8は、β−ナフトール樹脂を使用したので、比誘電率が3.1、誘電正接が0.009となり、電気特性が優れたものとなった。
実施例9は、α−ナフトール樹脂を使用したので、比誘電率が3.1、誘電正接が0.010となり、電気特性が優れたものとなった。
【0080】
一方、比較例1と2は、実施例のキシレン樹脂の代わりにビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用したので、硬化の過程でエポキシ樹脂中のエポキシ基から水酸基が生成され、比誘電率が3.5と3.6、誘電正接が0.045と0.050となり、実施例1〜実施例10に比べて電気特性が劣るものとなった。
【0081】
次いで、表3に表したように、実施例7〜10の配合組成を有する樹脂を用いて、線膨張係数、ピール強度、引張強度等を評価した。
【0082】
【表3】



【0083】
実施例7は、キシレン樹脂39質量%と、表1に表した▲1▼のフェノール樹脂36質量%と▲6▼のp−キシレン含有フェノール樹脂25質量%とを配合した樹脂である。
実施例8は、キシレン樹脂39質量%と、表1に表した▲1▼のフェノール樹脂36質量%と▲7▼のβ−ナフトール樹脂25質量%とを配合した樹脂である。
【0084】
実施例9は、キシレン樹脂39質量%と、表1に表した▲1▼のフェノール樹脂36質量%と▲8▼のα−ナフトール樹脂25質量%とを配合した樹脂である。
実施例10は、キシレン樹脂39質量%と、表1に表した▲1▼のフェノール樹脂61質量%とを配合した樹脂である。
【0085】
「線膨張係数の測定」
表3に表した各樹脂を、剥離剤を塗布したシート上にスクリーン印刷を行い、70℃、30分間で乾燥させた後、180℃、2時間加熱して硬化させ、厚みが40μmの硬化膜を得た。次いで、この硬化膜をシートから剥離させるとともに、幅5mm、長さ20mmの形状に切断し、線膨張係数評価用の試験片を作製した。次いで、この試験片に、長さ方向に5gの引張荷重を加えるとともに、180℃の雰囲気中で30分間のアニール処理をし、その後、−55℃まで冷却し、次いで、10℃/分の昇温速度で270℃まで加熱し、試験片の伸び率を測定した。そして、50℃の際の伸び率から20℃の際の伸び率を減算し、この減算して算出された数値を温度差(50−20)で除算し、線膨張係数(ppm)を算出し、表3に表した。
【0086】
「ピール強度試験」
表3に表した各樹脂を銅箔上にスクリーン印刷を行い、70℃、30分間で乾燥させた後、180℃、2時間加熱して硬化させ、厚みが40μmの硬化膜を得た。尚、この際の銅箔は、表面にマイクロエッチング(CZ処理)が施されたものを用いた。次いで、銅箔上で硬化した樹脂の表面に接着剤を塗布して基板に固定し、その後、銅箔を1cm幅の帯状に切断した。次いで、幅1cmの銅箔の端部を僅かに引き剥がし、この端部を把持し、基板に対して垂直方向に50±1mm/min.の速度で引き上げ、銅箔が樹脂から剥離する強度を測定し、逆ピール強度として表3に表した。
【0087】
また、これら作製した樹脂を用い、厚みが800μmのビスマレイミドートリアジン樹脂材料からなる配線基板上にスクリーン印刷を行い、その後、70℃、30分間で乾燥させた後、110℃〜150℃の温度雰囲気中にこの配線基板を放置し樹脂の仮硬化(完全に硬化が飽和していない状態)を行い、厚さ40μmの樹脂膜を得た。次いで、樹脂膜の表面を過酸化マンガン酸塩等の酸化剤を用いて粗化処理を行い、その後、公知のデスミア及びメッキ法によって、樹脂膜の上面を覆うように導体層を積層した。この際、導体層は、材質がCuであって、幅10mmの帯状に形成した。その後、この配線基板を180℃の温度雰囲気中に2時間加熱して樹脂を硬化させた。次いで、幅10mmの導体層の端部を僅かに引き剥がし、この端部を把持し、基板に対して垂直方向に50±1mm/min.の速度で引き上げ、導体層が樹脂膜から剥離する強度を測定し、正ピール強度として表3に表した。
「粗化状態の観察」
また、ピール強度試験の工程中の粗化処理後に、樹脂膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察し、粗化がムラ無くできたものを粗化が良好とし、表3に表した
「引張り強度試験」
表3に表した各樹脂を、剥離剤を塗布したシート上にスクリーン印刷を行い、70℃、30分間で乾燥させた後、180℃、2時間加熱して硬化させ、厚みが40μmの硬化膜を得た。次いで、この硬化膜をシートから剥離させるとともに、幅10mm、長さ70mmの形状に切断し、引っ張り強度試験の試験片を作製した。次いで、この試験片の両端を30mmの間隔で引っ張り試験機に固定し、2mm/分の引っ張り速度で引っ張り、破断した際の破断応力と引っ張り方向の歪みを表3に表した。
【0088】
表3に表したように、実施例7〜10は、粗化状態が良好であって、この樹脂膜の上面を覆うように導体層をメッキする際に、メッキの付着ムラやフクレなどが発生することなく良好であった。また、実施例7〜10は、引張り強度が何れも良好であって十分に実用できる範囲であった。
【0089】
また、実施例7と実施例10を比較すると、実施例7は、p−キシレン含有フェノールを含有させたので、実施例10に較べて線膨張係数が低く、正ピール強度及び逆ピール強度が向上することが判る。
実施例8と実施例10を比較すると、実施例8は、β―ナフトールを含有させたので、実施例10に較べて線膨張係数が低く、正ピール強度及び逆ピール強度が向上することが判る、
実施例9と実施例10を比較すると、実施例9は、α―ナフトールを含有させたので、実施例10に較べて逆ピール強度が向上することが判る。
【0090】
尚、配線基板上にスクリーン印刷を行った樹脂を、70℃、30分間で乾燥させた後、仮硬化温度を110〜150℃の範囲で変え、夫々の温度において硬化した樹脂膜上で、導体層のメッキ付着性を確認したところ、特に、実施例7、実施例9は広い温度範囲でメッキの付着性が良好であった。
【0091】
次いで、実施例1の樹脂組成物を用い、これに添加する硬化剤を変更して耐熱性試験と電気絶縁性試験を行った。
「硬化剤の比較試験」
まず、硬化剤として、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF)を有する芳香族スルホニウム塩(三新化学工業製SI−100L)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF)を有する2−ブテニルテトラメチレンスルホニウム塩(旭電化製CP−66)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF)を有する3−メチル−2−ブテニルテトラメチレンスルホニウム塩(旭電化製CP−77)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF)を有する芳香族スルホニウム塩(CI−2624)、ヘキサフルオロフォスフェート(PF)を有する芳香族スルホニウム塩(日本曹達製CI−2639)、トリフルオロホウ素モノエチルアミン(ステラケミファ製BF3−MEA)等を準備した。
次いで、表4に表したように、実施例1の樹脂に各種硬化剤を2質量%添加し、実施例11〜15、比較例3の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0092】
【表4】



【0093】
実施例11〜15は、硬化剤として、スルホニウム塩〔(R)X〕系を用いており、それぞれ表4に示すアニオン種を有するものである。
比較例3は、硬化剤として、トリフルオロホウ素モノエチルアミンを用いたものである。
【0094】
次いで、得られた熱硬化性樹脂組成物の特性を、次のように評価した。
まず、熱硬化性樹脂組成物を導体層が形成された銅貼積層板の導体層の上面に塗布し、70℃、30分間で乾燥させた後、200℃、2時間加熱して硬化させ、基板上に厚さ40μmの樹脂膜を形成したプリント配線板を得た。
【0095】
「耐熱性試験」
次いで、絶縁膜が形成されたプリント配線板を、121℃、2.1atmの飽和プレッシャークッカー(協真エンジニアリング製)に入れ、336時間経過後に取り出し、絶縁膜の表面を拡大鏡で観察し、クラックの有無を確認した。そして、クラックのないものを良好とし、クラックがあるものを不良とし、表3に表した。
【0096】
「絶縁性試験」
次いで、前記耐熱性試験と同様に、絶縁膜が形成された基板を、121℃、2.1atmの飽和プレッシャークッカー(協真エンジニアリング製)に入れ、336時間経過後に取り出し、絶縁膜の体積抵抗を測定し、その結果を表3に表した。尚、体積抵抗の測定には、絶縁抵抗計(ヒューレットパッカード製4339B)を用いた。
【0097】
表4に表したように、実施例11〜実施例15は、スルホニウム塩〔(R)X〕系の硬化剤を用いたので、耐熱性が良く、絶縁性は体積抵抗1.9×1014〜5.0×1016Ω・cmの範囲であり良好な結果を得た。この結果により、実施例11〜実施例15の熱硬化性樹脂が硬化する際に強い酸を発生し、硬化が十分に進行したものと考えられる。
【0098】
一方、比較例3は、硬化剤として、ルイス酸であるトリフルオロホウ素モノエチルアミンを用いたので樹脂が硬化せず、耐熱性試験や絶縁性試験等の評価を行うことはできなかった。
「プリント配線板の作成」
次に、前述の実施例1〜15の各樹脂を用いて、図1に示すプリント配線板1を形成した。図1は、本発明が適用されたプリント配線板1の構成を表す断面図である。図1に基づいてプリント配線板1の構成及び製造方法について説明する。
【0099】
まず、厚みが800μmのビスマレイミドートリアジン樹脂材料からなる配線基板2に200μmの貫通孔を形成し、この貫通孔の内壁にCuメッキをして導体3を形成しスルーホール4を形成した。
次いで、配線基板2の上面に厚み150μmの印刷マスクを設置し、充填材5を印刷してスルーホール4に充填した。その後、100℃〜150℃の温度雰囲気中にこの配線基板2を放置し充填材5の仮硬化(完全に硬化が飽和していない状態)を行った。
【0100】
次いで、この研磨した表面に公知のデスミア及びメッキ法によって、充填材5の露出面を覆うように導体層6を積層した。その後、この配線基板2を150℃〜170℃の温度雰囲気中に放置し、充填材5を硬化させた。
このとき、導体層6の厚みを20μmに成るようにCuメッキを行った。その後、前記導体層6に、露光、現像、エッチング、剥離などの工程を加えて所定の導体パターンを形成した。
【0101】
次いで、導体層6の上面に実施例1〜15の樹脂をスクリーン印刷し、加熱して硬化させ絶縁層7を積層した。
次いで、COレーザを用いて絶縁層7を貫通するビアホール8を形成した。このとき、ビアホール8が配線基板2に形成した導体層6と重なる位置に形成した。
【0102】
次いで、絶縁層7の表面を過酸化マンガン酸塩等の酸化剤を用いて粗化処理を行い、その後、公知のデスミア及びメッキ法によって、樹脂膜の上面を覆うように導体層を積層した。
次いで、絶縁層7の上面に導体パターン層9を形成し、この導体パターン層9と充填材5の露出面を覆う導体層6とが接続されるようにするようにビアホール8の内壁にそってビア導体10を形成した。
【0103】
次いで、前記記載した積層工程を繰り返し、導体パターン層9の上面に絶縁層11と導体パターン層12を交互に積層することにより、配線基板2に複数の絶縁層7、11と導体層6、導体パターン層9、12を積層した。その後、積層された最上面において、実施例1〜15の樹脂をスクリーン印刷して乾燥させ、ソルダーレジスト層13を形成した。更に、積層された最上面の導体パターン層12にNiメッキを行い、このNiメッキの表面にAuメッキを行ってプリント配線板1を形成した。
【0104】
前記の実施形態の熱硬化性樹脂組成物とこれを用いたプリント配線板1の作用効果を、以下に記載する。
本発明の実施の形態による熱硬化性樹脂組成物は、フッ素化合物のような高コストの化合物や予備反応が必要な熱硬化性ポリフェニレンエーテルを使用することなく、比誘電率が2.9〜3.3、誘電正接が0.010〜0.012の範囲であって、電気特性が優れたものとなり、硬化性や穴開け加工性についても良好な結果を示した。
【0105】
また、プレッシャークッカー試験においても、クラックの発生がほとんど見られず実用性を十分に満足できた。
また、本発明の実施の形態による熱硬化性樹脂組成物は、ポリブタジエンとフェノールから合成して分子内にシクロヘキサン構造を有し水酸基当量が420g/eq.又は300g/eq.のフェノール樹脂を含有することで、硬化した絶縁皮膜の比誘電率が2.9、誘電正接が0.010〜0.011となり、電気特性が最も優れたものとなった。
【0106】
また、本発明の実施の形態による熱硬化性樹脂組成物は、分子内にデカヒドロナヒタレン、テトラヒドロジシクロペンタジエンやテルペンの構造をもつポリフェノール化合物を含有することで、比誘電率や誘電正接などの電気特性が優れたものとなった。
【0107】
また、本発明の実施の形態による熱硬化性樹脂組成物は、硬化剤として、化学式が〔(R)X〕系のスルホニウム塩を用いたので、耐熱性が良く、絶縁性は体積抵抗1.9×1014〜5.0×1016Ω・cmの範囲であり良好な結果を得た。
【0108】
また、本発明の実施の形態による熱硬化性樹脂組成物は、実施例7のようにp−キシレン含有フェノールを含有させることにより、ピール強度や線膨張係数が優れたものとなった。
また、本発明の実施の形態による熱硬化性樹脂組成物は、実施例8、実施例9のようにナフトール樹脂を含有させることにより、ピール強度や線膨張係数が優れたものとなった。
【0109】
また、本発明の実施の形態によるプリント配線板1によれば、耐熱性、成形性、可撓性、絶縁性、耐吸水性が優れた絶縁層7、11やソルダーレジスト層13が得られ、且つ、伝送信号の信号遅延の低減や伝送信号の損失の低減がなされ、優れた高周波特性が得られた。
【0110】
尚、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じてシリカフィラー等の充填剤、熱可塑性樹脂等の可撓性付与剤、消泡剤やレベリング剤等の微量添加剤、ワニス化する場合の揮発性剤、さらには製膜製向上のための超高分子量樹脂などを添加しても良い。
【0111】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、溶媒を加えてワニス状で使用したり、シート化して使用したりすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用された実施例の、の構成を表す断面図である。
【符号の説明】
1…プリント配線板、2…配線基板、3…導体、4…スルーホール、5…充填材、6…導体層、7,11…絶縁層、8…ビアホール、10…ビア導体、9,12…導体パターン層、13…ソルダーレジスト層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ホルムアルデヒド樹脂と、該芳香族ホルムアルデヒド樹脂を熱硬化し得る硬化剤とを含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族ホルムアルデヒド樹脂に含まれる芳香環の水素の少なくとも一部が、炭化水素系基によって置換されていることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族ホルムアルデヒド樹脂が、キシレンホルムアルデヒド樹脂及びメシチレンホルムアルデヒド樹脂の、少なくとも何れか一つを含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリフェノール化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリフェノール化合物が、ポリブタジエンとフェノールとから合成されたポリフェノール樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリフェノール化合物は、分子内にシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、式(1)で表されるテトラヒドロジシクロペンタジエン並びに式(2)で表されるテルペンの、少なくとも一つの構造を有するフェノール樹脂であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】



【化2】



【請求項7】
前記ポリフェノール化合物は、フェノールと芳香族有機物とから合成された芳香族化合物を含有することを特徴とする請求項4に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
前記芳香族化合物は、キシレンとフェノールとから合成された、ρ―キシレン含有フェノール樹脂であることを特徴とする請求項7に記載の熱硬化性組成物
【請求項9】
前記ポリフェノール化合物は、水酸基当量(OH当量)が140g/eq.以上であることを特徴とする請求項4乃至請求項8の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
ナフタレン環の一部を水酸基で置換したナフトール樹脂を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか記載の熱硬化性組成物。
【請求項11】
前記ナフトール樹脂は、水酸基当量(OH当量)が140g/eq.以上であることを特徴とする請求項10に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
前記硬化剤は、加熱によって酸を発生し、前記芳香族ホルムアルデヒド樹脂をカチオン重合し得ることを特徴とする請求項1乃至請求項11の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
前記硬化剤は、化学式が〔(R)X〕(ただし、Rは脂肪族若しくは芳香族の置換基、Sは硫黄、Xはアニオン種である)で表されるスルホニウム塩系であることを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
硬化した後の比誘電率が、3.3以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項13の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項15】
硬化した後の誘電正接が、0.04以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項14の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項16】
硬化した後の、比誘電率が3.3以下、誘電正接が、0.04以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項15の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項17】
絶縁層とソルダーレジストの少なくとも一方を、請求項1乃至請求項16の何れか記載の熱硬化性樹脂組成物を用いて形成したことを特徴とするプリント配線板。

【図1】
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【公開番号】特開2004−149763(P2004−149763A)
【公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−169369(P2003−169369)
【出願日】平成15年6月13日(2003.6.13)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】