説明

熱線遮蔽ガラス、及びこれを用いた複層ガラス

【課題】熱線遮蔽性、特に断熱性に優れ、低コストで製造可能であり、十分な硬度の表面を有し、且つ水分の存在下(高湿度条件下)における耐久性が高い熱線遮蔽性のガラス製品を提供することにある。
【解決手段】ガラス板11、その表面に導電性高分子からなる熱線反射層14、及び該熱線反射層14の表面に形成されている表面保護層15を含み、且つ該表面保護層15の層厚が2μm以下であることを特徴とする熱線遮蔽ガラス10、及びこれを用いた複層ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱線遮蔽性又は熱線反射性を有する熱線遮蔽ガラス、及びその熱線遮蔽ガラスを用いた複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、オフィスビル等の建築物及びバス、乗用車、電車等の車両・鉄道等の空調負荷を低減するために、これらの窓に、太陽光中の近赤外線(熱線)を遮蔽する機能や、室内から放射される熱線を反射して断熱する機能が求められている。熱線を遮蔽又は反射するガラスとして、ガラス自体にFe、Cr、Tiなどのイオンを導入して熱線吸収性を持たせた練り込み型の熱線吸収ガラス、金属酸化物膜を蒸着させた熱線反射ガラス、インジウム錫酸化物(ITO)や酸化錫(ATO)などの透明導電膜の薄膜を乾式成膜したもの、金属酸化物膜/Ag膜等を主成分とする貴金属膜/金属酸化物膜を積層した熱線遮蔽膜(Low−E膜ともいう)が形成された熱線遮蔽ガラス(特許文献1)等が開発され、実用化されている。この内、Low−E膜は比較的短波長の太陽光の近赤外線は透過し、室内から放射される暖房等の遠赤外線は反射して逃がさない機能(断熱性)を有する。
【0003】
このような熱線遮蔽ガラス(特に、Low−E膜が形成されたもの)は、他のガラス板と所定の間隔(空気層)を介して対向するように配置させて、複層ガラスとすることで、更に断熱性を向上されたものも開発されている(特許文献2)。これにより、冷暖房による消費エネルギーを、更に軽減することができる。
【0004】
また、高い熱線遮蔽性を有し、且つ高い可視光透過率を実現する熱線遮蔽ガラスとして、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物((複合)タングステン酸化物ともいう)の微粒子とUV励起着色防止剤を含むコーティング膜をガラス基板上に形成したものが開発されている(特許文献3)。
【0005】
更に、赤外線を吸収する特性は、導電性高分子においても知られており、表面保護層、導電性高分子を使用した遮熱層、基材、紫外線吸収層、粘着剤層からなる透明遮熱フィルムが開発されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−226148号公報
【特許文献2】特開2007−70146号公報
【特許文献3】特開2007−269523号公報
【特許文献4】特開2005−288867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された熱線遮蔽ガラスに使用されるLow−E膜はスパッタリング法等の真空成膜方式により形成されるため大型装置が必要となり、製造コストが高くなる。また、金属膜は腐食され易く、長期間の使用により外観特性が低下するとの問題がある。このような熱線遮蔽ガラスは、特許文献2に記載された複層ガラスとした場合でも同様な問題がある。
【0008】
また、特許文献3に記載の熱線遮蔽ガラスでは、太陽光の近赤外線を遮蔽する機能に優れているが、室内から放射される暖房等の熱線を反射する断熱性は低いため、用途によっては満足する性能が得られない場合がある。
【0009】
一方、特許文献4の導電性高分子を用いた遮蔽フィルムでは熱線遮蔽性が十分とはいえず、更に、本発明者らの検討により、導電性高分子からなる熱線反射層を有する熱線遮蔽ガラスは、条件によって高い断熱性を有するが、硬度が低く、取り扱い時に擦り傷、掻き傷等の物理的損傷を受け易いとの問題、及び水分の存在下(高湿度条件下)における耐久性(本発明において「耐水性」とも称する)が低いとの問題が明らかになっている。
【0010】
従って、本発明の目的は、熱線遮蔽性、特に断熱性に優れ、低コストで製造可能であり、十分な硬度の表面を有し、且つ水分の存在下(高湿度条件下)における耐久性が向上した熱線遮蔽ガラスを提供することにある。
【0011】
また、本発明の目的は、この熱線遮蔽ガラスを用いた複層ガラスを提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、ガラス板、その表面に導電性高分子からなる熱線反射層、及び該熱線反射層の表面に形成されている表面保護層を含み、且つ該表面保護層の層厚が2μm以下であることを特徴とする熱線遮蔽ガラスによって達成される。
【0013】
導電性高分子からなる熱線反射層は、高い熱線反射性(断熱性)を得るために、自由電子密度が十分に高いことが必要である。従って、導電性高分子の層に物理特性、耐水性の高い材料が混合されている場合、一般に、自由電子密度が低下し、十分な断熱性を得ることができない。また、保護層が熱線反射層の表面に形成されている場合、保護層の赤外線吸収により、十分な断熱性を得ることができない。本発明においては、熱線反射層の表面に形成する表面保護層を、上記の層厚とすることで、導電性高分子からなる熱線反射層の高い断熱性を損なうことなく、熱線反射層を擦り傷、掻き傷等の物理的損傷、及び雨水、結露、湿気等の水分から保護することができる。
【0014】
これにより、十分な硬度の表面を有し、耐水性(水分の存在下(高湿度条件下)における耐久性)が高い熱線遮蔽ガラスとすることができる。また、導電性高分子は有機高分子製のため、低コストの塗工法等による層形成が可能であり、本発明の熱線遮蔽ガラスは低コストで製造可能である。
【0015】
表面保護層の層厚は、好ましくは、0.1〜2μmであり、更に好ましくは0.2〜1μm、特に好ましくは0.2〜0.4μmである。
【0016】
本発明の熱線遮蔽複層ガラスの好ましい態様は以下の通りである。
(1)前記表面保護層が、紫外線硬化性樹脂組成物又は熱硬化性樹脂組成物から形成されるハードコート層である。表面保護層は、JIS K5600(1999)で規定される鉛筆硬度試験でHB以上の硬度のハードコート層が好ましく、紫外線硬化性樹脂組成物又は熱硬化性組成物であれば、短時間で所定の硬度の表面保護層を形成することができるので好ましい。
(2)前記導電性高分子が、下記式(I):
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子若しくは炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、又はR1及びR2が一緒になって任意に置換されていても良い炭素原子数1〜4のアルキレン基を表し、nは50〜1000の整数を表す)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体である。
【0019】
上記のポリチオフェン誘導体は導電性が高いので本発明における熱線反射層に使用する導電性高分子として好適である。
(3)前記熱線反射層の下層側に、導電性高分子以外の熱線遮蔽剤及びバインダを含む樹脂組成物からなる熱線遮蔽層が形成されている。これにより、更に熱線遮蔽性が高い熱線遮蔽ガラスを得ることができる。
(4)前記熱線遮蔽剤が、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物である。熱線遮蔽剤が、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物であれば、更に熱線遮蔽性に優れる熱線遮蔽ガラスを得ることができる。
(5)タングステン酸化物が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素を表し、そして2.2≦z/y≦2.999である)で表され、複合タングステン酸化物が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素を表し、そして0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3である)で表される。
(6)前記熱線反射層の表面抵抗値が、5000Ω/□以下である。
(7)前記熱線反射層の層厚が、10〜3000nmである。
【0020】
また、上記目的は、本発明の熱線遮蔽ガラスと、別のガラス板とが、間隙をおいて、前記表面保護層が当該別のガラス板に対向するように配置され、その間隙により中空層が形成されていることを特徴とする複層ガラスによっても達成される。
【0021】
このような複層ガラスとすることで、中空層による断熱性を付与するとともに、更に、熱線反射層を擦り傷、掻き傷等の物理的損傷及び、雨水、結露、湿気等の水分から保護することができ、更に長期間性能を維持することができる。なお、前記中空層は、前記熱線遮蔽ガラスと前記別のガラス板がスペーサーを介して配置されることで形成されていることが好ましい。更にスペーサー内には乾燥剤を入れておくのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、熱線遮蔽ガラスの熱線反射層が導電性高分子で形成され、その表面に表面保護層が特定の層厚で形成されているので、室内から放射される暖房等の熱線を反射して逃がさず、外気の熱を室内に取り込まない熱線反射層の断熱性を損なうことなく、熱線反射層を擦り傷、掻き傷等の物理的損傷、及び雨水、結露、湿気等の水分から保護することができる。従って、本発明の熱線遮蔽ガラスは、断熱性に優れ、十分な硬度の表面を有し、擦り傷、掻き傷等が付き難く、且つ耐水性が高い熱線遮蔽ガラスであるということができる。また、導電性高分子は有機高分子製のため、低コストの塗工法等による層形成が可能であり、本発明の熱線遮蔽ガラスは低コストで製造可能であると言える。更に、本発明の複層ガラスは、本発明の熱線遮蔽ガラスが用いられているので、断熱性に優れ、耐久性、耐候性が高く、安価な複層ガラスであると言える。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は本発明の熱線遮蔽ガラスの代表的な一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は本発明の熱線遮蔽ガラスの好適態様の一例を示す概略断面図である。
【図3】図3は本発明の複層ガラスの代表的な一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の熱線遮蔽ガラスの代表的な一例を示す概略断面図である。なお、本発明において、熱線遮蔽ガラスにおける「ガラス」とは透明基板全般を意味するもので、ガラス板の他、透明プラスチック製基板であっても良い。したがって、熱線遮蔽ガラスとは、熱線遮蔽性が付与された透明基板を意味する。
【0025】
図1に示した熱線遮蔽ガラス10においては、ガラス板11の表面上に接着剤層12、透明プラスチックフィルム13、導電性高分子からなる熱線反射層14、紫外線硬化樹脂組成物からなる表面保護層15が順に積層一体化されている。ここで、表面保護層15の層厚は2μm以下である。通常、熱線遮蔽ガラス10は、透明プラスチックフィルム13の一方の表面上に導電性高分子からなる熱線反射層14を形成し、更にその表面に紫外線硬化樹脂組成物からなる表面保護層15を形成し、その後、透明プラスチックフィルム13を、熱線反射層14が形成された面の反対面で、接着剤層12を介してガラス板11に接着したものである。本発明の熱線遮蔽ガラス10は、導電性高分子からなる熱線反射層14が形成されていることにより、近赤外線を効果的に遮蔽し、断熱性を発揮することができる。これは、導電性高分子の自由電子によるプラズマ吸収波長が、地上気温付近の物体の放射よりも短波長側にあり、そのプラズマ吸収波長より高波長の電磁波を反射するためと考えられる。導電性高分子の層に物理特性、耐水性の高い材料が混合されている場合、一般に、自由電子密度が低下し、十分な断熱性を得ることができない。また、保護層が熱線反射層の表面に形成されている場合、保護層の赤外線吸収により、十分な断熱性を得ることができない。本発明においては、表面保護層15の層厚を2μm以下とすることで、導電性高分子層の放射抑制効果を妨げず、熱線反射層14の断熱性を損なうことなく、熱線反射層15を擦り傷、掻き傷等の物理的損傷及び、雨水、結露、湿気等の水分から保護することができる。表面保護層15の層厚は好ましくは、0.1〜2μmであり、更に好ましくは0.2〜1μm、特に好ましくは0.2〜0.4μmである。
【0026】
本発明において、導電性高分子からなる熱線反射層14の表面抵抗値は、好ましくは5000Ω/□以下である。この表面抵抗値であれば、表面保護層15が形成されていても自由電子密度が十分高く、十分な断熱性が得られる。表面抵抗値は、更に好ましくは1000Ω/□以下であり、特に100Ω/□以下である。
【0027】
導電性高分子からなる熱線反射層14の層厚は、好ましくは10〜3000nmであり、更に好ましくは100〜2000nm、特に150〜1500nmである。
【0028】
本発明において、接着剤層12、透明プラスチックフィルム13は無くても良く、熱線反射層14がガラス板11の表面上に直接形成されていても良い。
【0029】
[熱線反射層]
熱線反射層14を形成する導電性高分子は、一般に共役型の二重結合を基本骨格に有する有機高分子で、具体的にはポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフラン、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、これらの誘導体、及びこれらを構成する単量体の共重合物から選ばれた導電性高分子のいずれか1種又は2種以上の混合物が好ましく挙げられる。中でも、水又はその他の溶媒に対して可溶性、又は分散性を有し、高い導電性及び透明性を示す、ポリチオフェン誘導体が好ましい。特に、下記式(I):
【0030】
【化2】

【0031】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子若しくは炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、又はR1及びR2が一緒になって任意に置換されていても良い炭素原子数1〜4のアルキレン基を表し、nは50〜1000の整数を表す)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体が好ましい。
【0032】
式(I)において、R1及びR2が一緒になって、形成する置換基としていても良い炭素原子数1〜4のアルキレン基としては、具体的にはアルキル基で置換されたメチレン基、任意に炭素原子数1〜12のアルキル基又はフェニル基で置換されたエチレン−1,2基、プロピレン−1,3基、ブテン−1,4基を形成する基等が挙げられる。
【0033】
式(I)におけるR1及びR2として、好ましくはメチル基又はエチル基であるか、R1及びR2が一緒になって形成するメチレン基、エチレン−1,2基又はプロピレン−1,3基である。特に好ましいポリチオフェン誘導体としては、下記式(II):
【0034】
【化3】

【0035】
(式中、pは50〜1000の整数を表す)で示される繰り返し単位、即ち、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)単位を有するポリチオフェン誘導体である。
【0036】
導電性高分子は、更にドーパント(電子供与剤)を含むことが好ましい。ドーパントとしては、例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリビニルスルホン酸が好ましく挙げられる。特に、ポリスチレンスルホン酸が好ましい。これらにより導電性高分子の導電性を向上することができ、熱線反射層14の近赤外線遮蔽効果を高めることができる。ドーパントの数平均分子量Mnは、好ましくは1,000〜2,000,000であり、特に好ましくは2,000〜500,000である。
【0037】
ドーパントの含有量は導電性高分子100質量部に対して、通常20〜2000質量部であり、好ましくは、40〜200質量部である。例えば、式(II)のポリチオフェン誘導体を導電性高分子とし、ポリスチレンスルホン酸をドーパントとして使用する場合はポリチオフェン100質量部に対して、ポリスチレンスルホン酸100〜200質量部が好ましく、特に120〜180質量部が好ましい。
【0038】
導電性高分子からなる熱線反射層14は、従来公知の方法で形成できる。例えば、導電性高分子が溶解又は分散した塗工液を透明プラスチックフィルム13又はガラス板11の表面上に、バーコーター法、ロールコーター法、カーテンフロー法、スプレー法など適当な方法を用いて塗工し、乾燥して形成する。塗工液に用いる溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;アセトフェノン、メチルエチルケトン等のケトン類;四塩化炭素及びフッ化炭化水素等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が好ましく挙げられる。特に、水、アルコール類が好ましい。
【0039】
[表面保護層]
表面保護層15は、上記図1の説明では、紫外線硬化性樹脂組成物からなるとしたが、熱線反射層14の表面を擦り傷、掻き傷等の物理的な損傷や雨水、結露、湿気等の水分から保護することができれば、どのようなものでも良い。通常、合成樹脂からなる層である。物理的損傷から保護するために、JIS K5600(1999)で規定される鉛筆硬度試験でHB以上の硬度のハードコート層が好ましい。ハードコート層とするには紫外線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂からされる樹脂組成物であることが好ましい。紫外線硬化性樹脂組成物又は熱硬化性樹脂組成物であれば、短時間で所定の硬度のハードコート層の表面保護層15を形成することができるので好ましい。特に、上記図1の説明における紫外線硬化性樹脂組成物は、より短時間で硬化させることができ、生産性に優れているので好ましい。紫外線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、シリコン樹脂などを挙げることができ、紫外線硬化性樹脂は光重合開始剤等とともに紫外線硬化性樹脂組成物とし、熱硬化性樹脂は熱重合開始剤等とともに熱硬化性樹脂組成物として使用する。
【0040】
紫外線硬化性樹脂(モノマー、オリゴマー)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルポリエトキシ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンモノ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、N−ビニルカプロラクタム、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、o−フェニルフェニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジプロポキシジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリス〔(メタ)アクリロキシエチル〕イソシアヌレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートモノマー類;ポリオール化合物(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、ビスフェノールAポリエトキシジオール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオール類、前記ポリオール類とコハク酸、マレイン酸、イタコン酸、アジピン酸、水添ダイマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の多塩基酸又はこれらの酸無水物類との反応物であるポリエステルポリオール類、前記ポリオール類とε−カプロラクトンとの反応物であるポリカプロラクトンポリオール類、前記ポリオール類と前記、多塩基酸又はこれらの酸無水物類のε−カプロラクトンとの反応物、ポリカーボネートポリオール、ポリマーポリオール等)と有機ポリイソシアネート(例えば、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ジシクロペンタニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4′−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,2′−4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等)と水酸基含有(メタ)アクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,4−ジメチロールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等)の反応物であるポリウレタン(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸の反応物であるビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートオリゴマー類等を挙げることができる。これら化合物は1種又は2種以上、混合して使用することができる。
【0041】
これらの紫外線硬化性樹脂を、熱重合開始剤とともに用いて熱硬化性樹脂として使用してもよい。
【0042】
表面保護層15をハードコート層とするには、上記の紫外線硬化性樹脂(モノマー、オリゴマー)の内、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の硬質の多官能モノマーを主に使用することが好ましい。
【0043】
紫外線硬化性樹脂の光重合開始剤として、紫外線硬化性樹脂の性質に適した任意の化合物を使用することができる。例えば、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノプロパン−1などのアセトフェノン系、ベンジルジメチルケタールなどのベンゾイン系、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系、イソプロピルチオキサントン、2−4−ジエチルチオキサントンなどのチオキサントン系、その他特殊なものとしては、メチルフェニルグリオキシレートなどが使用できる。特に好ましくは、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノプロパン−1、ベンゾフェノン等が挙げられる。これら光重合開始剤は、必要に応じて、4−ジメチルアミノ安息香酸のごとき安息香酸系叉は、第3級アミン系などの公知慣用の光重合促進剤の1種または2種以上を任意の割合で混合して使用することができる。また、光重合開始剤のみの1種又は2種以上の混合で使用することができる。特に1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア184)が好ましい。光重合開始剤の量は、樹脂組成物に対して一般に0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0044】
熱硬化性樹脂の熱重合開始剤として、加熱により重合を開始させる官能基を含む化合物である有機過酸化物やカチオン重合開始剤が挙げられ、中でも有機過酸化物が好ましい。例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカルボネート等が好ましく挙げられる。特に好ましくは、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンである。熱重合開始剤は、1種又は2種以上の混合で使用することができる。熱重合開始剤の量は、樹脂組成物に対して、一般に0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0045】
更に、表面保護層15は、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、老化防止剤、塗料加工助剤、着色剤等を少量含んでいても良い。その量は、樹脂組成物に対して一般に0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0046】
表面保護層15を形成するには、例えば、樹脂組成物(好ましくは紫外線硬化性樹脂及び光重合開始剤、又は熱硬化性樹脂及び熱重合開始剤を含む)に必要に応じてその他の添加剤を配合し、得られた塗工液を、熱戦反射層14の表面に塗工し、次いで乾燥した後、紫外線照射による硬化、又は熱処理による硬化をすればよい。
【0047】
紫外線硬化樹脂の場合、塗工の具体的な方法として、アクリル系モノマー等を含む紫外線硬化性樹脂組成物をトルエン等の溶媒で溶液にした塗工液をグラビアコータ等によりコーティングし、その後乾燥し、次いで紫外線により硬化する方法を挙げることができる。このウェットコーティング法であれば、高速で均一に且つ安価に成膜できるという利点がある。このコーティング後に例えば紫外線を照射して硬化することにより密着性の向上、膜の硬度の上昇という効果が得られる。
【0048】
紫外線硬化樹脂の場合、窒素雰囲気下で硬化させると、空気中の酸素による重合阻害を排除することができるので、より硬度が高い表面保護層15とすることができる。本発明においては、表面保護層15が2μmm以下の薄層であるため、窒素雰囲気下での紫外線硬化は、薄層でより硬度の高い表面保護層15とすることができる点で有効である。
【0049】
紫外線硬化の場合は、光源として紫外〜可視領域に発光する多くのものが採用でき、例えば超高圧、高圧、低圧水銀灯、ケミカルランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、マーキュリーハロゲンランプ、カーボンアーク灯、白熱灯、レーザ光等を挙げることができる。照射時間は、ランプの種類、光源の強さによって一概には決められないが、数秒〜数分程度である。また、硬化促進のために、予め積層体を40〜120℃に加熱し、これに紫外線を照射してもよい。
【0050】
図2は本発明の熱線遮蔽ガラスの好適態様の一例を示す概略断面図である。図2に示した熱線遮蔽ガラス20においては、ガラス板21の表面上に接着剤層22、透明プラスチックフィルム23、熱線遮蔽剤としてタングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物及びバインダを含む樹脂組成物からなる熱線遮蔽層26、導電性高分子からなる熱線反射層24、及び紫外線硬化樹脂組成物からなる表面保護層25が順に積層一体化されている。ここで、表面保護層25の層厚は2μm以下である。通常、熱線遮蔽ガラス20は、透明プラスチックフィルム23の一方の表面上に熱線遮蔽材剤の微粒子を分散させたバインダ樹脂組成物からなる熱線遮蔽層26を形成し、更にその表面上に導電性高分子からなる熱線反射層24を形成し、更にその表面に紫外線硬化樹脂組成物からなる表面保護層25を形成し、その後、透明プラスチックフィルム23を、上記の層が形成された面の反対面で、接着剤層22を介してガラス板21に接着したものである。
【0051】
図2の熱線遮蔽ガラス20においては、第1に、上述の図1の場合と同様に、導電性高分子からなる熱線反射層24が形成されていることにより、効果的に放射を抑制し、断熱性を高めることができる。また、表面保護層25の層厚を2μm以下とすることで、熱線反射層24の断熱性を損なうことなく、熱線反射層24を擦り傷、掻き傷等の物理的損傷及び、雨水、結露、湿気等の水分から保護することができる。表面保護層25の層厚は好ましくは、0.1〜2μmであり、更に好ましくは0.2〜1μm、特に0.2〜0.4μmである。
【0052】
第2に、熱線反射層24の下層に、熱線遮蔽剤を含有する熱線遮蔽層26が形成されていることにより、更に優れた熱線遮蔽性を得ることができる。熱線遮蔽剤は、後述するように、無機系材料又は有機系色素であり、本発明においては、特に制限なく使用することができる。中でも、(複合)タングステン酸化物の微粒子は、可視光線をほとんど遮断せず、近赤外線(特に、太陽光からの放射量が多い850〜1150nm付近の近赤外線)の遮断機能(熱線吸収機能)に優れており、優れた熱線遮蔽性を示す。熱線遮蔽層26により、可視光透過率を低下させることなく、更に優れた熱線遮蔽性を付与することができる。また、図2の熱線遮蔽ガラス20においては、より広範囲な波長の近赤外線を効果的に遮蔽することができる。これは、導電性高分子からなる熱線反射層24と(複合)タングステン酸化物等の熱線遮蔽剤を含有する熱線遮蔽層26では、遮蔽できる近赤外線波長域が異なるためと考えられる。
【0053】
図2の熱線遮蔽ガラス20において、接着剤層22、透明プラスチックフィルム23は無くても良く、熱線遮蔽層26がガラス板21の表面上に直接形成され、その上に熱線反射層24が形成され、その表面に表面保護層25が形成されていても良い。また、接着剤層22に熱線遮蔽剤を含有させて熱線遮蔽層とし、その上に、熱線反射層24を表面に形成し、更にその表面に表面保護層25を形成した透明プラスチックフィルム23を接着したものでも良い。
【0054】
図2の熱線遮蔽ガラス20において、導電性高分子からなる熱線反射層24の表面抵抗値は、好ましくは5000Ω/□以下である。この表面抵抗値であれば、表面保護層25が形成されていても自由電子密度が十分高く、十分な断熱性が得られる。表面抵抗値は、更に好ましくは1000Ω/□以下であり、特に100Ω/□以下である。
【0055】
また、導電性高分子からなる熱線反射層24の層厚は、好ましくは10〜3000nmであり、更に好ましくは100〜2000nm、特に150〜1500nmである。更に、熱線遮蔽剤及びバインダ樹脂を含有する熱性遮蔽層26の層厚は、好ましくは0.5〜50μmであり、更に好ましくは1〜10μm、特に2〜5μmである。
【0056】
[熱線遮蔽層]
本発明において、熱線遮蔽層は、上記の通り、熱線遮蔽剤及びバインダを含む樹脂組成物からなる層である。熱線遮蔽剤は、上記導電性高分子以外のものであれば良く、一般に無機系材料又は有機系色素である。例えば、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物、インジウム−錫酸化物、錫酸化物、アンチモン−錫酸化物、フタロシアニン系色素、金属錯体系色素、ニッケルジチオレン錯体系色素、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、ポリメチン系色素、アゾメチン系色素、アゾ系色素、ポリアゾ系色素、ジイモニウム系色素、アミニウム系色素、アントラキノン系色素等を挙げることができる。これらの色素は、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0057】
特に、耐候性が高く、可視光線の透過率が高いことから、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物が好ましい。
【0058】
熱線遮蔽剤として、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物を使用する場合、その微粒子をバインダ樹脂組成物に分散させて使用する。熱線遮蔽層における、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物の微粒子の含有量に特に制限は無いが、1m2当たり、一般に0.1〜50g、0.1〜20gが好ましく、さらに0.1〜10gが好ましい。このような範囲で複合タングステン酸化物の微粒子を含むことにより、得られる熱線遮蔽ガラスの熱線遮蔽性と可視光透過性の両立が可能となる。
【0059】
上記タングステン酸化物は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表される酸化物であり、複合タングステン酸化物は、上記タングステン酸化物に、元素M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素)を添加した組成を有するものが好ましい。これにより、z/y=3.0の場合も含めて、WyOz中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、1000nm付近の近赤外線吸収材料(熱線遮蔽材料ともいう)として有効となる。本発明では、複合タングステン酸化物が好ましい。
【0060】
上述した一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子において、タングステンと酸素との好ましい組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3よりも少なく、さらには、当該熱線遮蔽材料をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999である。このz/yの値が、2.2以上であれば、熱線遮蔽材料中に目的以外であるWO2の結晶相が現れるのを回避することが出来るとともに、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので有効な赤外線遮蔽材料として適用できる。一方、このz/yの値が、2.999以下であれば必要とされる量の自由電子が生成され効率よい熱線遮蔽材料となり得る。
【0061】
複合タングステン酸化物の微粒子は、安定性の観点から、一般に、MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表される酸化物であることが好ましい。アルカリ金属は、水素を除く周期表第1族元素、アルカリ土類金属は周期表第2族元素、希土類元素は、Sc、Y及びランタノイド元素である。
【0062】
特に、熱線遮蔽材料としての光学特性、耐候性を向上させる観点から、M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上であるものが好ましい。また複合タングステン酸化物が、シランカップリング剤で処理されていることが好ましい。優れた分散性が得られ、優れた赤外線カット機能、透明性が得られる。
【0063】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され遮蔽効果を十分に得ることが出来る。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、熱線遮蔽効果も上昇するが、x/yの値が1程度で飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、微粒子含有層中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0064】
酸素量の制御を示すz/yの値については、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物においても、上述のWyOzで表記される熱線遮蔽材料と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましく、さらに好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
【0065】
さらに、複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。
【0066】
この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Feを添加したとき六方晶が形成されやすい。勿論これら以外の元素でも、WO6単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すれば良く、上記元素に限定される訳ではない。
【0067】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0068】
また、六方晶以外では、正方晶、立方晶のタングステンブロンズも熱線遮蔽効果がある。そして、これらの結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。このため、より可視光領域の光を透過して、より赤外線領域の光を遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。また、本発明の複合タングステン酸化物微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることが、耐候性の向上の観点から好ましい。
【0069】
本発明で使用される複合タングステン酸化物微粒子の平均粒径は、透明性を保持する観点から、10〜800nm、特に10〜400nmであるのが好ましい。これは、800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。この粒子による散乱の低減を重視するとき、平均粒径は20〜200nm、好ましくは20〜100nmが好ましい。
【0070】
なお、上記微粒子の平均粒子径は、熱線遮蔽層の断面を透過型電子顕微鏡により倍率100万倍程度で観測し、少なくとも100個の微粒子の投影面積円相当径を求めた数平均値とする。
【0071】
上記複合タングステン酸化物微粒子は、例えば下記のようにして製造される。
【0072】
上記一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子、または/及び、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0073】
タングステン化合物出発原料には、3酸化タングステン粉末、もしくは酸化タングステンの水和物、もしくは、6塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
【0074】
ここで、タングステン酸化物微粒子を製造する場合には製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、を用いることがさらに好ましく、複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には、出発原料が溶液であると各元素を容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることがさらに好ましい。これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述した粒径のタングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
【0075】
また、上記元素Mを含む一般式MxWyOzで表される複合タングステン酸化物微粒子は、上述した一般式WyOzで表されるタングステン酸化物微粒子のタングステン化合物出発原料と同様であり、さらに元素Mを、元素単体または化合物の形で含有するタングステン化合物を出発原料とする。ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料を製造するためには各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0076】
ここで、不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な着色力を有し熱線遮蔽微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N2等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100〜650℃で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650〜1200℃の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがH2が好ましい。また還元性ガスとしてH2を用いる場合は、還元雰囲気の組成として、H2が体積比で0.1%以上が好ましく、さらに好ましくは2%以上が良い。0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
【0077】
水素で還元された原料粉末はマグネリ相を含み、良好な熱線遮蔽特性を示し、この状態で熱線遮蔽微粒子として使用可能である。しかし、酸化タングステン中に含まれる水素が不安定であるため、耐候性の面で応用が限定される可能性がある。そこで、この水素を含む酸化タングステン化合物を、不活性雰囲気中、650℃以上で熱処理することで、さらに安定な熱線遮蔽微粒子を得ることができる。この650℃以上の熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、工業的観点から、N2、Arが好ましい。当該650℃以上の熱処理により、熱線遮蔽微粒子中にマグネリ相が得られ耐候性が向上する。
【0078】
本発明の複合タングステン酸化物微粒子は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等のカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤が好ましい。これによりバインダ樹脂との親和性が良好となり、透明性、熱線遮蔽性の他、各種物性が向上する。
【0079】
シランカップリング剤の例として、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシアクリルシランを挙げることができる。ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、トリメトキシアクリルシランが好ましい。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また上記化合物の含有量は、微粒子100質量部に対して5〜20質量部で使用することが好ましい。
【0080】
上記樹脂組成物に含まれるバインダとしては、公知の熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂を使用することができる。例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂等の透明合成樹脂をあげることができる。耐候性の点でシリコーン樹脂、フッ素樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂が好ましく、特に紫外線硬化性樹脂が好ましい。紫外線硬化性樹脂は、短時間で硬化させることができ、生産性に優れているので好ましい。樹脂組成物は、硬化方法に応じて熱重合開始剤、光重合開始剤を含む。さらに、ポリイソシアネート化合物などの硬化剤を含んでいてもよい。また、熱線遮蔽層を接着剤層とする場合は、後述の接着剤層と同様なエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)やポリビニルブチラール(PVB)等の透明接着樹脂をバインダとして用いることができる。
【0081】
熱線遮蔽剤として、上記(複合)タングステン酸化物を使用する場合、熱線遮蔽層は、バインダ100質量部に対して、(複合)タングステン酸化物を10〜500質量部、さらに20〜500質量部、特に30〜300質量部含有することが好ましい。
【0082】
また、熱線遮蔽剤として、(複合)タングステン酸化物以外のフタロシアニン系色素等の色素を単独、又は上記(複合)タングステン酸化物と併用して使用する場合、上記色素は、バインダ100質量部に対して、0.1〜20質量部、さらに1〜20質量部、特に1〜10質量部含有することが好ましい。
【0083】
また、熱線遮蔽層は、ネオン発光の吸収機能を付与することにより色調の調節機能を持たせても良い。このために、熱線遮蔽層にネオン発光の選択吸収色素を含有させても良い。ネオン発光の選択吸収色素としては、ポルフィリン系色素、アザポルフィリン系色素、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、アントラキノン系色素、フタロシアニン系色素、ポリメチン系色素、ポリアゾ系色素、アズレニウム系色素、ジフェニルメタン系色素、トリフェニルメタン系色素を挙げることができる。このような選択吸収色素は、585nm付近のネオン発光の選択吸収性とそれ以外の可視光波長において吸収が小さいことが必要であるため、吸収極大波長が560〜610nmであり、吸収スペクトル半値幅が40nm以下であるものが好ましい。
【0084】
また、光学特性に大きな影響を与えない限り、熱線反射層には、着色用の色素、紫外線吸収剤、酸化防止剤等をさらに加えても良い。
【0085】
熱線遮蔽層26を作製する場合、(複合)タンクステン酸化物等及びバインダ等を含む樹脂組成物を、透明プラスチックフィルム又はガラス板の表面上に塗布し、乾燥させた後、必要に応じて加熱、又は紫外線、X線、γ線、電子線などの光照射により硬化させる方法が好ましく用いられる。乾燥は、透明プラスチックフィルム上に塗布した樹脂組成物を60〜150℃、特に70〜110℃で加熱することにより行うのが好ましい。乾燥時間は1〜10分間程度でよい。光照射は、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線を照射して行うことができる。
【0086】
以下に、本発明の熱線遮蔽ガラスを構成する他の要素について説明する。
【0087】
[ガラス板]
本発明におけるガラス板は透明基板であれば良く、例えば、グリーンガラス、珪酸塩ガラス、無機ガラス板、無着色透明ガラス板などのガラス板の他、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンブチレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のプラスチック製の基板又はフィルムを用いてもよい。耐候性、耐衝撃性等の点でガラス板が好ましい。ガラス板の厚さは、1〜20mm程度が一般的である。
【0088】
[透明プラスチックフィルム]
本発明における透明プラスチックフィルムは、透明(「可視光に対して透明」を意味する。)なプラスチックフィルムであれば特に制限はない。プラスチックフィルムの例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリメチルメタクリレート(PMMA)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリエチレンブチレートフィルム等を挙げることができ、特に加工時の熱、溶剤、折り曲げ等の負荷に対する耐性が高く、透明性が高い点で、PETフィルムが好ましい。また、透明プラスチックフィルム表面には、接着性を向上させるために、予めコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、プライマー層コート処理などの接着処理を施してもよく、共重合ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂等の易接着層を設けてもよい。透明プラスチックフィルムの厚さは、一般に、1μm〜10mm、好ましくは10〜400μmであり、特に20〜200μmが好ましい。
【0089】
[接着剤層]
本発明における接着剤層は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、金属イオン架橋エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、部分鹸化エチレン−酢酸ビニル共重合体、カルボキシル化エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル−(メタ)アクリレート共重合体などのエチレン系共重合体を使用することができる(なお、「(メタ)アクリル」は「アクリル又はメタクリル」を示す。)。また、接着剤層には、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ゴム系粘着剤、SEBS及びSBS等の熱可塑性エラストマー等も用いることができる。なかでも、優れた接着性を示し、高い透明性を有することからEVAを用いるのが好ましい。
【0090】
接着剤層に用いられるEVAは、酢酸ビニル含有率が、EVA100質量部に対して、23〜38質量部であり、特に23〜28質量部であることが好ましい。これにより接着性及び透明性に優れる接着剤層を得ることができる。またEVAのメルト・フロー・インデックス(MFR)が、4.0〜30.0g/10分、特に8.0〜18.0g/10分であることが好ましい。予備圧着が容易になる。
【0091】
接着剤層にエチレン系共重合体を用いる場合、更に有機過酸化物を含むのが好ましい。有機過酸化物により架橋硬化させることにより、隣接する層とガラス板等を更に接合一体化することができる。有機過酸化物としては、100℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであれば、どのようなものでも併用することもできる。有機過酸化物は、一般に、成膜温度、組成物の調整条件、硬化(貼り合わせ)温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して選択される。特に、半減期10時間の分解温度が70℃以上のものが好ましい。
【0092】
この有機過酸化物の例としては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3−ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート、ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、ヒドロキシヘプチルパーオキサイド、クロロヘキサノンパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、クミルパーオキシオクトエート、コハク酸パーオキサイド、アセチルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレーオ及び2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドを挙げることができる。
【0093】
また、接着剤層は、更に架橋助剤や接着向上剤としてシランカップリング剤を含むのが好ましい。
【0094】
架橋助剤としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等に複数のアクリル酸あるいはメタクリル酸をエステル化したエステル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの多官能化合物を挙げることができる。
【0095】
シランカップリング剤の例として、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。また上記化合物の含有量は、エチレン系共重合体100質量部に対して5質量部以下であることが好ましい。
【0096】
接着樹脂層は、種々の物性(機械的強度、接着性、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整、特に機械的強度、耐光性の改良のため、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物、エポキシ基含有化合物、可塑剤、紫外線吸収剤を含んでいることが好ましい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物及び、ヒンダードアミン系化合物を挙げることができる。黄変を抑制する観点から、ベンゾフェノン系化合物が好ましい。上記紫外線吸収剤は、エチレン系共重合体100質量部に対して0.01〜1.5質量部(特に0.5〜1.0質量部)使用することが好ましい。
【0097】
接着剤層の厚さは、100〜2000μm、特に400〜1000μmであるのが好ましい。
【0098】
エチレン系共重合体を含む接着剤層を作製するには、例えば、エチレン系共重合体及び有機過酸化物等を含む組成物を、通常の押出成形、カレンダ成形(カレンダリング)等により成形して層状物を得る方法などを用いることができる。組成物の混合は、40〜90℃、特に60〜80℃の温度で加熱混練することにより行うのが好ましい。また、製膜時の加熱温度は、架橋剤が反応しない或いはほとんど反応しない温度とすることが好ましい。例えば、40〜90℃、特に50〜80℃とするのが好ましい。接着剤層は透明プラスチックフィルムやガラス板の表面に直接形成しても良く、別途、フィルム状の接着剤シートを使用して形成しても良い。
【0099】
本発明に係る熱線遮蔽ガラスを製造するには、例えば、熱線反射層を形成した透明プラスチックフィルム(必要に応じて、熱線遮蔽層を熱線反射層の下層側に形成しても良い)、及びガラス板を用意し、上記のような接着剤層(透明プラスチックフィルムの熱線反射層等を形成した面と反対側の表面に形成するか、接着剤シートをガラス板上に積層する)を介して、上記の熱線反射層等を形成した透明プラスチックフィルムとガラス板を積層した積層体を脱気した後、加熱下(好ましくは40〜200℃で1〜120分間、特に60〜150℃で1〜20分間)に押圧(好ましくは1.0×103Pa〜5.0×107Paの圧力)して接着一体化すれば良い。これらの工程は例えば、真空袋方式、ニップロール方式等で行うことができる。
【0100】
例えば、接着剤層にEVAを使用した場合、一般に100〜150℃(特に130℃付近)で、10分〜1時間架橋させる。これは、積層体を脱気したのち、例えば80〜120℃の温度で予備圧着し、100〜150℃(特に130℃付近)で、10分〜1時間加熱処理することにより行われる。架橋後の冷却は一般に室温で行われるが、特に、冷却は速いほど好ましい。
【0101】
透明プラスチックフィルムを使用しない場合でも、熱線遮蔽層及び熱線反射層のガラス板への密着性を高めるため、ガラス板上に接着剤層を設けることもできる。
【0102】
本発明の熱線遮蔽ガラスは、複層ガラスに用いられるのが好ましい。本発明の熱線遮蔽ガラスを複層ガラスとすることにより、更に、熱線反射層を擦り傷、掻き傷等の物理的損傷及び、雨水、結露、湿気等の水分から保護することができ、更に長期間性能を維持することができる。
【0103】
図3は、本発明の複層ガラスの代表的な一例を表す概略断面図である。図示の通り、本発明の複層ガラス40は、本発明の熱線遮蔽ガラス30(ガラス板31の表面上に接着剤層32、透明プラスチックフィルム33、導電性高分子からなる熱線反射層34、紫外線硬化樹脂組成物からなる表面保護層35が順に積層一体化されている)、熱線遮蔽ガラス30と間隙をおいて対向するように配置された別のガラス板37、これらの外周部に配置され接着剤(図示していない)によりこれらを接合しているスペーサー39、及びスペーサー39によって熱線遮蔽ガラス30とガラス板37との間に形成された中空層38から構成されている。中空層38が形成されていることにより、更に断熱性を付与される。また、複層ガラス40において、熱線遮蔽ガラス30は、表面保護層35が表面に形成された熱線反射層34がガラス板37に対向するように配置されている。これにより、熱線反射層34を擦り傷、掻き傷等の物理的損傷や雨水、結露、湿気等の水分から保護することができ、更に長期間、熱線遮蔽性、可視光透過性等の性能を維持することができる。
【0104】
中空層としては、空気層、不活性ガス層、及び減圧層などが用いられる。これらの中空層によれば、複層ガラスに求められる断熱性を向上するとともに、熱線遮蔽層の経時的劣化を抑制することができる。空気層は、スペーサー39内に乾燥剤を入れることにより乾燥空気を用いてもよい。不活性ガス層は、クリプトンガス、アルゴンガス、及びキセノンガスなどの不活性ガスを含む。減圧層の気圧は、1.0Pa以下、特に0.01〜1.0Paとするのが好ましい。中空層の厚さは、6〜12mmであるのが好ましい。
【0105】
本発明の複層ガラスは、上述したように優れた熱線遮蔽性を長期間に亘り維持することができる。本発明の熱線遮蔽ガラスは表面保護層により、熱線反射層が保護されているので、このような効果は、中空層として空気層を用いたとしても十分に得ることができる。この場合、乾燥剤を使用しない又は乾燥剤の使用量を低減することも可能である。したがって、不活性ガス層や減圧層を中空層として用いた場合に比較して簡易な構成とすることができる。
【0106】
ガラス板としては、フロートガラス、型板ガラス、表面処理により光り拡散機能を備えたすりガラス、網入りガラス、線入板ガラス、強化ガラス、倍強化ガラス、低反射ガラス、高透過板ガラス、セラミック印刷ガラス、熱線や紫外線吸収機能を備えた特殊ガラスなど、種々のガラスを適宜選択して実施することができる。また、ガラス板の組成についても、ソーダ珪酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、ほう珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、各種結晶化ガラスなどを使用することができる。
【0107】
複層ガラスの形状は、用途に応じて、矩形状、丸状、菱形状など、種々の形状とすることができる。複層ガラスの用途についても、建築物や乗り物(自動車、鉄道車両、船舶)用の窓ガラス、あるいは、プラズマディスプレイなどの機器要素をはじめとして、冷蔵庫や保温装置などのような各種装置の扉や壁部など、種々の用途に使用することができる。
【0108】
本発明の複層ガラスを、比較的、緯度が低い地域など、温暖な地域において複層ガラスを建築物や車両などに使用する場合には、ガラス板が室内側、熱線遮蔽ガラスが室外側に配置されるのが好ましい。太陽光や室外から照射される近赤外線を効果的に遮蔽できるからである。一方、本発明の複層ガラスを比較的、緯度が高い地域など、寒冷地域で使用する場合には、ガラス板が室外側、熱線遮蔽ガラスが室内側に配置されるのが好ましい。
【0109】
室内から放射される暖房等の赤外線を反射して逃がさず(断熱性)、暖房効率を高めることができるからである。本発明の複層ガラスは断熱性に優れるので、寒冷地域でより有効に使用することができる。
【実施例】
【0110】
以下に、実施例を示し、本発明についてさらに詳述する。
【0111】
1.熱線遮蔽ガラスの作製
(実施例1)
(1)熱線反射層の形成
PETフィルム(厚さ100μm)上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸の混合物(1:2.5質量部)の水分散液(固形分1.2質量%)を、バーコーターを用いて塗布し、120℃、3分間乾燥させ、PETフィルム上に熱線反射層(厚さ450nm)を形成した。
(2)表面保護層の形成
上記熱線反射層の表面に、下記配合の塗布液をロールコーターにより塗布し、窒素雰囲気下で塗布層の表面に紫外線照射(高圧水銀灯、照射距離20cm、照射時間5秒)して、厚さ0.2μmのハードコート層の表面保護層を形成した。
(配合)
ジペンタヘキサアクリレート(DPHA) 30質量部
光重合開始剤(イルガキュア(登録商標)184(チバ・スペシャリティー・ケミカル(株)製)):2質量部
メチルイソブチルケトン:100質量部
(3)接着剤層の作製
下記配合の組成物を、カレンダ成形法によりシート状に圧延し、接着剤層(厚さ0.4mm)を得た。なお、配合物の混練は80℃で15分行い、またカレンダロールの温度は80℃、加工速度は5m/分であった。
(配合)
EVA(EVA100質量部に対する酢酸ビニルの含有量25質量部;ウルトラセン635(東ソー社製)):100質量部、
有機過酸化物(tert−ブチルパ−オキシ−2−エチルヘキシルカーボネート;トリゴノックス117(化薬アクゾ社製):2.5質量部、
架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート;TAIC(登録商標)(日本化成社製)):2質量部、
シランカップリング剤(γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン;KBM503(信越化学社製)):0.5質量部
紫外線吸収剤:(ユビナール3049(BASF社製)):0.5質量部
(4)熱線遮蔽ガラスの作製
ガラス板(厚さ3mm)上に、接着剤層、PETフィルム上に形成された熱線反射層、表面保護層をこの順で積層した。得られた積層体を、100℃で30分間加熱することにより仮圧着を行った後、オートクレーブ中で圧力13×105Pa、温度140℃の条件で30分間加熱した。これにより、接着剤層を硬化させて、ガラス板と透明プラスチックフィルム間が接着一体化された熱線遮蔽ガラス(図1)を得た。
【0112】
(実施例2)
表面保護層の厚さを2.0μmとした以外は、実施例1と同様に、熱線遮蔽ガラスを作製した。
【0113】
(実施例3)
(1)熱線遮蔽層の形成
下記配合の組成物をPETフィルム(厚さ100μm)上に、バーコーターを用いて塗布し、80℃のオーブン中で2分間乾燥させることにより、PETフィルム上に熱線遮蔽層(厚さ5μm)を作製した。
(配合)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:80質量部
光重合開始剤(イルガキュア(登録商標)184(チバ・スペシャリティー・ケミカル(株)製)):5質量部
Cs0.33WO3(平均粒径80nm):20質量部
メチルイソブチルケトン:300質量部
(2)熱線反射層の形成
上記熱線遮蔽層の表面上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸の混合物(1:2.5質量部)の水分散液(固形分1.2質量%)を、バーコーターを用いて塗布し、120℃、3分間乾燥させ、PETフィルム上に熱線反射層(厚さ450nm)を形成した。
(3)表面保護層の形成
実施例1(2)と同様に、上記熱線反射層の表面上に表面保護層を形成した。
(4)接着剤層の作製
実施例1(3)と同様に、接着剤層を作製した。
(5)熱線遮蔽ガラスの作製
熱線反射層の下層に、熱線遮蔽層が積層されている以外は、実施例1(4)と同様に、熱線遮蔽ガラス(図2)を作製した。
【0114】
(比較例1)
(1)熱線反射層の形成
実施例1(1)と同様に、熱線反射層(厚さ450nm)を形成した。
(2)接着剤層の作製
実施例1(3)と同様に、接着剤層を作製した。
(3)熱線遮蔽ガラスの作製
表面保護層が積層されていないこと以外は、実施例1(4)と同様に、熱線遮蔽ガラスを作製した。
【0115】
(比較例2)
表面保護層の厚さを3.0μmとした以外は、実施例1と同様に、熱線遮蔽ガラスを作製した。
【0116】
(比較例3)
(1)熱線遮蔽ガラスの作製
インライン式の直流スパッタリング装置を用いて、ガラス板(厚さ3mm)上にガラス板側からインジウム錫酸化物(ITO)膜、銀膜、ITO膜、銀膜、ITO膜をこの順に含む熱線反射膜を形成することで、熱線遮蔽ガラスを得た。スパッタリングはインジウム錫酸化物ではアルゴンと酸素を98:10の流量比で導入し、放電電流6Aで行い、銀ではアルゴンのみ導入し、放電電流0.9Aで行った。
【0117】
2.評価方法
(1)放射率
JISR3106に準拠して測定した。
(2)日射透過率
JISR3106に準拠して測定した。
(3)耐候性
各ガラス試料を、温度85℃、湿度85%RHの雰囲気中に1000時間放置し、外観を評価した。外観変化がない場合を○、腐食等の外観に変化があった場合を×とした。
(4)硬度
JIS K5600(1999)で規定される鉛筆硬度試験を行い、HB以上を○とし、HB未満を×とした。
【0118】
3.評価結果
各ガラス試料の評価結果を表1に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
表1に示す通り、2.0μm以下の表面保護層が形成された実施例1及び2の熱線遮蔽ガラスは、放射率が表面保護層がない比較例1と同等で、高い断熱性が維持されていることが認められた。更に、比較例1とは異なり、耐候性、硬度が合格であり、物理的損傷及び水分から保護されていることが示された。一方、表面保護層が3.0μmの比較例2では、放射率が上昇し、熱線反射層の断熱性が阻害されたことが示された。
【0121】
また、熱線遮蔽層を有する実施例3は実施例1,2に比べて日射透過率が低く、より広範囲な波長の近赤外線を遮蔽できることが示された。
【0122】
比較例3のITO/Ag膜の熱線反射層を有する熱線遮蔽ガラスは、耐候性が低く、この点において実施例1〜3の熱線遮蔽ガラスが優位であった。
【0123】
なお、本発明は上記の実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0124】
オフィスビル等の建築物及びバス、乗用車、電車等の車両・鉄道等の空調負荷を長期間に渡って低減できる熱線遮蔽ガラスを低コストで提供することができる。
【符号の説明】
【0125】
10、20、30:熱線遮蔽ガラス
11、21、31、37:ガラス板
12、22、32: 接着剤層
13、23、33:透明プラスチックフィルム
14、24、34:熱線反射層
15、25、35:表面保護層
26:熱線遮蔽層
38:中空層
39:スペーサー
40:複層ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板、その表面に導電性高分子からなる熱線反射層、及び該熱線反射層の表面に形成されている表面保護層を含み、且つ該表面保護層の層厚が2μm以下であることを特徴とする熱線遮蔽ガラス。
【請求項2】
前記表面保護層が、紫外線硬化性樹脂組成物又は熱硬化性樹脂組成物から形成されるハードコート層である請求項1に記載の熱線遮蔽ガラス。
【請求項3】
前記導電性高分子が、下記式(I):
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子若しくは炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、又はR1及びR2が一緒になって任意に置換されていても良い炭素原子数1〜4のアルキレン基を表し、nは50〜1000の整数を表す)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体である請求項1又は2に記載の熱線遮蔽ガラス。
【請求項4】
前記熱線反射層の下層側に、導電性高分子以外の熱線遮蔽剤及びバインダを含む樹脂組成物からなる熱線遮蔽層が形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱線遮蔽ガラス。
【請求項5】
前記熱線遮蔽剤が、タングステン酸化物及び/又は複合タングステン酸化物である請求項4に記載の熱線遮蔽ガラス。
【請求項6】
タングステン酸化物が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素を表し、そして2.2≦z/y≦2.999である)で表され、複合タングステン酸化物が、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素を表し、そして0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3である)で表される請求項5に記載の熱線遮蔽ガラス。
【請求項7】
前記熱線反射層の表面抵抗値が、5000Ω/□以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱線遮蔽ガラス。
【請求項8】
前記熱線反射層の層厚が、10〜3000nmである請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱線遮蔽ガラス。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱線遮蔽ガラスと、別のガラス板とが、間隙をおいて、前記表面保護層が当該別のガラス板に対向するように配置され、その間隙により中空層が形成されていることを特徴とする複層ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−51803(P2011−51803A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199678(P2009−199678)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】