説明

熱膨張性耐火具及び耐火構造

【課題】防火区画用の床に耐火構造を設ける作業を容易とするとともに、配線・配管材と耐火具本体との間を速やかに閉鎖することができる熱膨張性耐火具及び該熱膨張性耐火具を用いた耐火構造を提供する。
【解決手段】熱膨張性耐火具11は、防火区画用の床Wに形成された貫通孔34と該貫通孔34内に挿通された配線・配管材33との間に装着される。熱膨張性耐火具11は、形状を維持するゴム弾性を有する熱膨張性ゴムからなる耐火具本体12を備え、該耐火具本体12は貫通孔34内に挿入されるとともに、筒状をなし配線・配管材33が挿通可能な挿通孔20を備える。さらに、耐火具本体12には、該耐火具本体12に沿って下側から上側に熱を伝播させるべく下方に開口した伝播空間Sを貫通孔34内に形成する大径部12a及び小径部12bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の防火区画用の床に形成された貫通孔と該貫通孔内に挿通された配線・配管材との間に装着される熱膨張性耐火具及び該熱膨張性耐火具を用いた耐火構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築物における防火区画用の床に配線・配管材を貫通させるために、床には貫通孔が形成されるとともに、貫通孔と配線・配管材との間に耐火構造が設けられている。この耐火構造は、床下で火災等が発生したとき、貫通孔を経由して床上に火炎、煙、有毒ガスが流入するのを阻止するために設けられている。すなわち、耐火構造は、火災等の発生時、貫通孔と配線・配管材の間を閉鎖することで、火炎、煙、有毒ガスの床上への流入を阻止するようになっている。このような耐火構造としては、例えば、特許文献1に開示される貫通部形成体を用いたものが挙げられる。
【0003】
特許文献1に開示の耐火構造(貫通部の防火区画構造)は、床に形成された貫通孔内に配設された貫通部形成体内に配線・配管材(ケーブル)が挿通配線され、該配線・配管材と貫通部形成体の内周面との間に耐火材が充填されて形成されている。貫通部形成体は一対の金属製の分割体を組付けて形成されている。また、各分割体の一開口縁部には重ね片が形成されるとともに、貫通部形成体には各重ね片とその内側の開口縁部とが、分割体の軸線方向及び周方向に重合して、貫通部形成体の径方向に相対向する位置に一対の重合部が形成されている。さらに、貫通部形成体の周面には、貫通孔の周縁に係止する鍔部が形成されている。
【0004】
そして、貫通部形成体を用いて床に耐火構造を形成するには、貫通孔内に配線・配管材を挿通し、配線・配管材の外側から挟むようにして一対の分割体を組付けて貫通部形成体を形成する。その後、貫通部形成体の鍔部より下側を貫通孔内に挿入し、鍔部を床の上面における貫通孔の周囲に係止させると、貫通部形成体が床に支持される。最後に、鍔部より上側において、貫通部形成体の内周面と、配線・配管材との間に耐火材を充填すると、床には耐火構造が形成される。この耐火構造においては、貫通部形成体の外周面と貫通孔の周面との間に隙間が形成されている。
【0005】
そして、この耐火構造によれば、床下で火災が発生したとき、貫通部形成体の内周面と配線・配管材との間の隙間に熱が伝播し、貫通部形成体の上部において耐火材が加熱されて膨張する。このとき、貫通部形成体の外周面と貫通孔の周面との間の隙間分だけ、耐火材の膨張に伴い各分割体が貫通部形成体を拡径させる方向に移動する。すると、貫通部形成体の上端側の開口が膨張した耐火材によって完全に閉鎖されることとなり、配線・配管材の延焼が防止されるとともに、火災熱及び煙が貫通部形成体内から床上に及ぶことが防止される。
【0006】
ところが、特許文献1に開示の貫通部形成体を用いた耐火構造は、配線・配管材の周囲に耐火材を保持するための貫通部形成体を必要とする。そして、この貫通部形成体は一対の分割体を組み合わせて形成されるため、床に耐火構造を設ける作業が非常に面倒であった。
【0007】
そこで、配線・配管材の周囲に耐火材を保持させるための部材(貫通部形成体)を必要とせずに床に耐火構造を形成可能とするものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2の防火区画貫通穴措置部材(以下、単に措置部材と記載する)は、筒状をなす熱膨張材の内側に複数の舌片を形成してなるものであり、長手方向に割りを入れて断面C字状に変形可能に形成されている。
【0008】
そして、特許文献2の措置部材を用いて床に耐火構造を設けるには、貫通孔の外で配線・配管材に対し、措置部材の割りを利用して被せ、その後、措置部材を貫通孔内に押し込む。さらに、貫通孔の周面と措置部材の外周面との間にモルタルを充填すると、複数の舌片の先端によって配線・配管材が保持されるとともに、措置部材そのものにより耐火構造が床に設けられる。そして、この耐火構造によれば、床下で火災が発生したとき、その熱により措置部材そのものが配線・配管材に向けて膨張し、措置部材と配線・配管材の間が閉鎖されるとともに、配線・配管材の延焼が防止され、火災熱及び煙が貫通孔から床上に及ぶことが防止される。
【特許文献1】特開2005−226725号公報
【特許文献2】特開2004−313393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献2に開示の措置部材を用いた耐火構造は、貫通孔の周面と措置部材の外周面との間にはモルタルを充填する作業を必要とし、さらに、モルタルの存在により措置部材は内周面側からしか加熱されきない。このため、耐火構造を設ける作業が非常に面倒であり、かつ配線・配管材と措置部材との間を速やかに閉鎖することができなかった。
【0010】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、防火区画用の床に耐火構造を設ける作業を容易とするとともに、配線・配管材と耐火具本体との間を速やかに閉鎖することができる熱膨張性耐火具及び該熱膨張性耐火具を用いた耐火構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、建築物の防火区画用の床に形成された貫通孔と該貫通孔内に挿通された配線・配管材との間に装着される熱膨張性耐火具であって、自身で形状を維持可能な熱膨張性材料からなる耐火具本体を備え、該耐火具本体は前記貫通孔内に挿入可能に形成されるとともに、筒状をなし前記配線・配管材が挿通可能な挿通孔が上下方向に貫通形成され、さらに、前記貫通孔内に挿入された前記耐火具本体の下側から上側に熱を伝播可能とするため、前記床の下側に向けて開口した伝播空間を前記貫通孔内に形成する伝播空間形成部が前記耐火具本体に設けられていることを要旨とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の熱膨張性耐火具において、前記耐火具本体には、前記貫通孔の周面に当接することにより前記耐火具本体の貫通孔の径方向への移動を規制する大径部と、該大径部の下側に位置し、前記大径部より小径をなす小径部とが一体形成され、前記伝播空間形成部は前記小径部よりなるとともに該小径部の外周面と前記貫通孔の周面との間に前記伝播空間が形成されることを要旨とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の熱膨張性耐火具において、前記耐火具本体には、該耐火具本体の下端面に開口するとともに耐火具本体の上下方向に沿って延びる凹部が形成され、前記伝播空間形成部は前記凹部よりなるとともに該凹部の内側に前記伝播空間が形成されることを要旨とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の熱膨張性耐火具において、前記耐火具本体は上端から下端に向けて徐々に外径が縮径するように形成され、前記伝播空間形成部は前記耐火具本体の外周面よりなるとともに前記耐火具本体の外周面と前記貫通孔の周面との間に前記伝播空間が形成されることを要旨とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、建築物の防火区画用の床に形成された貫通孔と該貫通孔内に挿通された配線・配管材との間に熱膨張性耐火具が装着されてなる耐火構造であって、前記熱膨張性耐火具は、自身で形状を維持可能な熱膨張性材料からなる耐火具本体を備え、該耐火具本体は前記貫通孔内に挿入可能に形成されるとともに、筒状をなし前記配線・配管材が挿通可能な挿通孔が上下方向に貫通形成され、さらに、伝播空間形成部が設けられてなり、前記伝播空間形成部により、前記床の下側に向けて開口し、前記貫通孔内に挿入された前記耐火具本体の下側から上側に熱を伝播可能とする伝播空間が前記貫通孔内に形成されるとともに、前記耐火具本体における一部の外面形状が前記貫通孔の形状と略同一に形成されたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、防火区画用の床に耐火構造を設ける作業を容易とするとともに、配線・配管材と耐火具本体との間を速やかに閉鎖することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した熱膨張性耐火具及び耐火構造の一実施形態を図1〜図3にしたがって説明する。
まず、防火区画用の床Wについて説明する。図2に示すように、床Wはコンクリートよりなり、床Wには、配線・配管材33を上下方向に貫通させるための円孔状の貫通孔34が形成されている。なお、配線・配管材33とは、建築物内に配設される配線(制御用ケーブル、同軸ケーブル、光ケーブル等)及び配管材(合成樹脂製可撓電線管、鋼製電線管等)の総称のことであり、本実施形態では、配線・配管材33は、芯線が被膜によって覆われたケーブルである。
【0018】
次に、床Wに耐火構造Tを形成するため、貫通孔34に挿入される熱膨張性耐火具11について説明する。図1(a)に示すように、熱膨張性耐火具11は、熱膨張性材料としての熱膨張性ゴムによって円筒状に形成された耐火具本体12の上端縁にフランジ13が一体形成されてなるものである。熱膨張性ゴムは、300℃以上の熱を受けると体積が加熱前の2倍以上に膨張する膨張材(膨張黒鉛)をゴムに混入し、このゴムを所定形状に成形した(成形工程を経た)ものに加硫工程を経てなるものである。なお、前記加硫工程とは、成形工程を経たゴムに熱を加え、加硫(架橋)反応や接着反応を起こさせ、ゴム弾性を有する製品を得る工程である。そして、熱膨張性耐火具11は、熱膨張性ゴム自身により円筒状(形状)を維持している。
【0019】
熱膨張性耐火具11において、耐火具本体12には円孔状をなす挿通孔20が耐火具本体12を上下方向に貫通して形成されている。耐火具本体12において、挿通孔20の貫通方向に沿った一端縁、すなわち、耐火具本体12の上端縁からは耐火具本体12の径方向に沿って延びる薄板状のフランジ13が耐火具本体12の周方向全体に形成されている。また、耐火具本体12及びフランジ13には、挿通孔20の貫通方向全体に亘って延びるスリット14が形成されている。そして、スリット14は、耐火具本体12の外面側及びフランジ13の外周端と挿通孔20とを連通するように繋ぎ、挿通孔20を熱膨張性耐火具11の外側へ開口可能としている。
【0020】
また、図1(b)に示すように、耐火具本体12には、挿通孔20の上端側で挿通孔20を閉鎖する閉鎖部16が形成されている。そして、閉鎖部16に配線・配管材33が差し込まれると、閉鎖部16が複数に分割されて複数の舌片16aが形成されるようになっている。すなわち、挿通孔20の周縁となる位置には、挿通孔20の中心に向かって延びる複数の舌片16aが形成され、各舌片16aはゴム弾性を有している。前記スリット14は、複数の切り込みのうちの一つであり、舌片16aの形成に利用されている。そして、挿通孔20に配線・配管材33が挿通されない状態では、閉鎖部16は挿通孔20を閉鎖しているとともに、挿通孔20に配線・配管材33が挿通されると閉鎖部16が変形し、配線・配管材33の外面に密接するようになっている。
【0021】
図1(a)に示すように、耐火具本体12の外径は、耐火具本体12の上下に異なるように形成されている。すなわち、耐火具本体12の上側(フランジ13側)の外径は、耐火具本体12の下側での外径より大きくなっている。そして、耐火具本体12の上側には大径部12aが形成されている。図2に示すように、大径部12aの外径は、床Wに形成された貫通孔34の直径より僅かに小さく形成されるとともに、フランジ13の直径より小さく形成されている。また、耐火具本体12における大径部12a(一部)の外面形状は、貫通孔34の形状と略同一に形成されている。そして、耐火具本体12を貫通孔34内に挿入したとき、大径部12aの外周面は貫通孔34の周面に当接するようになっている。また、耐火具本体12の下側には、大径部12aより外径が小さい小径部12bが形成されている。耐火具本体12を貫通孔34内に挿入したとき、小径部12bの外周面は貫通孔34の周面から離間するようになっている。
【0022】
耐火具本体12の径方向に沿った長さ(厚み)は、大径部12aより小径部12bの方が薄くなっている。一方、大径部12aの内径と小径部12bの内径は同じになっている。そして、大径部12aはその周方向に均一の厚みとなっているとともに、小径部12bも周方向に均一の厚みとなっている。耐火具本体12の外面において、大径部12aと小径部12bとの間には、大径部12a及び小径部12bの外周面に対し直交する段差部12cが形成されている。よって、耐火具本体12が貫通孔34内に挿入された状態では、段差部12cは床Wの下側に臨む状態となっている。大径部12aの上下方向に沿った長さL1は、小径部12bの上下方向に沿った長さL2より短くなっている。
【0023】
上記構成の熱膨張性耐火具11を用いて床Wに耐火構造Tを設けるには、まず、図2に示すように、貫通孔34内に配線・配管材33を挿通し、床Wに配線・配管材33を貫通させる。次に、熱膨張性耐火具11におけるスリット14から熱膨張性耐火具11を拡開させ、挿通孔20を耐火具本体12の軸方向全体に亘って開口させる。そして、床Wの上側でスリット14内に配線・配管材33を通過させ、さらに、配線・配管材33を挿通孔20内に収容する。その後、熱膨張性耐火具11の拡開状態を解除し、耐火具本体12を閉じる。すると、配線・配管材33の外面側に熱膨張性耐火具11が装着される。このとき、複数の舌片16aが配線・配管材33の外面に接触する。
【0024】
続いて、熱膨張性耐火具11を配線・配管材33に沿って貫通孔34に向けてスライド移動させ、熱膨張性耐火具11における耐火具本体12側を貫通孔34内に挿入する。さらに、床Wにおける貫通孔34の周囲にフランジ13を当接させると、熱膨張性耐火具11の貫通孔34内へのそれ以上の入り込みが防止される。そして、フランジ13と床Wの上面とを粘着テープ又は接着剤によって接着すると、熱膨張性耐火具11が床Wに設置される。なお、熱膨張性耐火具11の床Wへの設置は、フランジ13の上面から床Wの上面にかけて難燃性のパテを塗り、このパテ内にフランジ13を埋め込んで熱膨張性耐火具11を床Wに固着することで行ってもよい。
【0025】
また、上記のように配線・配管材33に沿って熱膨張性耐火具11をスライド移動させて熱膨張性耐火具11を設置すると、複数の舌片16aは配線・配管材33に沿って熱膨張性耐火具11の上端面から上方へ向けて突出するように変形する。このため、熱膨張性耐火具11を床Wに設置した後、複数の舌片16aを、配線・配管材33の外面に密接するように、挿通孔20内に向けて弾性変形させ、挿通孔20が床Wの上側に向けて開放状態とならないようにする。そして、舌片16aの挿通孔20内に向けた変形により、熱膨張性耐火具11の上端面には凹所が形成されるため、この凹所に難燃性のパテよりなるシール材39を充填する。
【0026】
その結果、貫通孔34の周面と配線・配管材33の外面との間に熱膨張性耐火具11が装着されるとともに、配線・配管材33が床Wを貫通する状態に配置され、床Wに耐火構造Tが設けられる。挿通孔20内に挿通された配線・配管材33の外面と耐火具本体12の内周面との間には若干の隙間が形成されている。また、耐火具本体12における大径部12aの外周面が、貫通孔34の周面に当接することにより、耐火具本体12は貫通孔34内で径方向への移動が規制される。一方、小径部12bは、大径部12aより小径をなすため、小径部12bの外周面と、貫通孔34の周面との間には、下方に開口する円環状の伝播空間Sが形成される。よって、大径部12a及び小径部12bが伝播空間Sを貫通孔34内に形成する伝播空間形成部となっている。
【0027】
次に、上記構成の熱膨張性耐火具11を用いて形成された床Wの耐火構造Tの作用を説明する。
さて、図2に示すように、床Wに耐火構造Tが設けられた建築物において、床Wの下側で火災等が発生すると、貫通孔34の周面と小径部12bの外周面との間の隙間、すなわち伝播空間Sを熱が上側に向けて伝播し、耐火具本体12は小径部12bの外周面側が加熱される。すると、小径部12bは、下側だけでなく上側(伝播空間Sの奥側)もほぼ同時に加熱されることとなり、小径部12bが上側から下側に掛けた軸方向全体が貫通孔34の径方向外側に向けて膨張し、小径部12bの外周面と貫通孔34の周面との間が密封閉鎖される。
【0028】
同時に、耐火具本体12の内周面と配線・配管材33の外面との間の隙間を熱が上側に向けて伝播し、耐火具本体12は内周面側も上側から下側に掛けた軸方向全体が加熱される。すると、耐火具本体12の内周面全体が配線・配管材33に向けて膨張し、配線・配管材33の外面と耐火具本体12の内周面との間が密封閉鎖される。
【0029】
そして、膨張した小径部12bの外周面が貫通孔34の周面に当接すると、小径部12bはそれ以上外側に向けて膨張しないため、小径部12bの内周面は配線・配管材33に向けて速やかに膨張し、耐火具本体12の内周面と配線・配管材33の外面との間が密封閉鎖される。よって、配線・配管材33の外面と耐火具本体12の内周面との間の隙間が熱、煙の経路となり、床Wの上側へ熱、煙が伝わる不都合がなくなる。
【0030】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)熱膨張性耐火具11において、耐火具本体12の上側に大径部12aを形成するとともに、耐火具本体12の下側に大径部12aより小径をなす小径部12bを形成した。そして、大径部12aを貫通孔34の周面に当接させて位置決めすると、貫通孔34の周面と小径部12bとの間に、床Wの下方に向けて開口する伝播空間Sを形成することができる。このため、床Wの下側で火災等が発生したとき、伝播空間Sによって小径部12bの外周面に沿って熱を伝播させるとともに、耐火具本体12の内周面に沿って熱を伝播させることができる。よって、耐火具本体12を内外両面側から加熱して、耐火具本体12、特に小径部12bを速やかに膨張させることができる。特に、小径部12bを外側に向けて膨張した後は、小径部12bを内周側に向けてのみ膨張させることができるため、配線・配管材33と耐火具本体12の内周面との間に存在する隙間を速やかに密封閉鎖することができる。すなわち、熱膨張性耐火具11によれば、熱膨張性耐火具11を貫通孔34内に挿入するだけで床Wに耐火構造Tを設置し、この耐火構造Tによって速やか、かつ確実に配線・配管材33と耐火具本体12との間を閉鎖することができる。その結果、背景技術のように耐火構造を床Wに設けるために、耐火材保持用の貫通部形成体を用いたり、隙間充填のモルタルを充填する必要がなく、耐火構造Tを設ける作業を容易とすることができる。
【0031】
(2)熱膨張性耐火具11は、耐火具本体12とフランジ13とを一体成形してなる。このため、フランジ13を耐火具本体12と別体で設ける場合に比して熱膨張性耐火具11の製造を簡単なものとすることができる。
【0032】
(3)小径部12bの厚みは該耐火具本体12の周方向に沿って一定となっている。このため、小径部12bが周方向へ均一に加熱されたときは、小径部12bを均一に膨張させ、配線・配管材33と耐火具本体12の内周面との間に存在する隙間を速やかに密封閉鎖することができる。
【0033】
(4)耐火具本体12及びフランジ13には、挿通孔20の貫通方向全体に亘って延び、挿通孔20に繋がるスリット14が形成されている。このため、スリット14によって耐火具本体12及びフランジ13を分割し、分割部から挿通孔20内へ配線・配管材33を収容することができる。よって、貫通孔34に配線・配管材33が挿通された後であっても、配線・配管材33に熱膨張性耐火具11を装着することができる。したがって、スリット14を熱膨張性耐火具11に設けることで熱膨張性耐火具11を用いた耐火構造Tの設置作業の容易化に寄与することができる。
【0034】
(5)舌片16aによって挿通孔20を開閉可能に閉鎖することができる。そして、挿通孔20に配線・配管材33が挿通された状態でも、配線・配管材33の外面と耐火具本体12の内周面との間の隙間が舌片16aによって閉鎖され、隙間が床Wの外側に露出することが防止される。その結果として、隙間が露出することによる床Wの外観の低下や隙間を介した風の通過を防止することができる。
【0035】
(6)耐火具本体12に大径部12aと小径部12bを形成し、大径部12aと小径部12bの間に段差部12cを形成した。そして、伝播空間Sを形成したとき、段差部12cも伝播空間Sに臨んでいる。このため、伝播空間Sを伝播した熱により段差部12cが加熱される。よって、耐火具本体12を配線・配管材33に向けて膨張させるとき、小径部12bだけでなく大径部12aも膨張させることができる。
【0036】
(7)大径部12aの外径は、貫通孔34の直径と略同一に形成され、熱膨張性耐火具11を貫通孔34内に挿入したとき、大径部12aの外周面が貫通孔34の周面に当接する。このため、熱膨張性耐火具11の外周面と貫通孔34の周面との間の隙間を埋めるためにモルタルを充填する必要がなく、耐火構造Tを設ける作業を容易とすることができる。
【0037】
(8)熱膨張性耐火具11には、弾性変形可能な舌片16aが複数形成される。そして、複数の舌片16aは、熱膨張性耐火具11を配線・配管材33に沿ってスライド移動させたときは熱膨張性耐火具11から上方へ突出するように変形し、挿通孔20内に押し込むと熱膨張性耐火具11の端面から凹むように変形する。このため、熱膨張性耐火具11の上端面において、配線・配管材33の周囲には弾性変形した舌片16aによって凹所が形成されるため、熱膨張性耐火具11と配線・配管材33との間にシール材39を充填する作業を行い易くすることができる。
【0038】
(9)熱が伝播空間Sを下側から上側に向けて伝播することにより、小径部12bの外周面側は、下側だけでなく上側もほぼ同時に加熱され、小径部12bの軸方向全体をほぼ同時に膨張させることができる。すなわち、伝播空間Sにより、小径部12bの下端側のみが膨張して膨張箇所より上側が膨張しなくなることを防止することができる。よって、伝播空間Sを形成することにより小径部12bの軸方向全体を加熱、膨張させ、伝播空間Sを速やかに密閉閉鎖することができる。
【0039】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 図4(a)及び図4(b)に示すように、熱膨張性耐火具11の耐火具本体12は、上下方向全体に亘って同一外径及び同一内径に形成された円筒状に形成されるとともに、耐火具本体12の外径を貫通孔34の直径より小さく形成してもよい。この場合、耐火具本体12の外周面全体と貫通孔34の周面との間に伝播空間Sが形成され、耐火具本体12の外周面そのものが伝播空間形成部となる。
【0040】
○ 図5(a)及び図5(b)に示すように、熱膨張性耐火具11の耐火具本体12は、上端側(フランジ13側)に第1小径部12d、中央部に大径部12e、この大径部12eの下側に第1小径部12dと同径の第2小径部12fを備えた筒状に形成されていてもよい。この場合、大径部12eの貫通孔34周面への当接により、耐火具本体12が貫通孔34内での径方向への移動が規制された状態では、第2小径部12fの外周面と貫通孔34の周面との間に伝播空間Sが形成され、大径部12e及び第2小径部12fが伝播空間形成部となる。
【0041】
○ 図6(a)及び図6(b)に示すように、熱膨張性耐火具11の耐火具本体12は、上端から下端に向けて徐々に外径が縮径するように形成されていてもよい。この場合、耐火具本体12の外周面全体と貫通孔34の周面との間に伝播空間Sが形成され、耐火具本体12の外周面そのものが伝播空間形成部となる。このように構成すると、伝播空間Sは貫通孔34の下側から上側に向かうに従い徐々に狭くなっていく。このため、耐火具本体12の下側ほど熱が多く入り込み、耐火具本体12の下側を速やかに加熱、膨張させることができる。
【0042】
○ 図7(a)及び図7(b)に示すように、熱膨張性耐火具11の耐火具本体12には、その下端面に下方へ開口する凹部12gが耐火具本体12の周方向に沿って複数形成されるとともに、耐火具本体12の外径は貫通孔34の直径より僅かに小さくなっている。このため、貫通孔34内に耐火具本体12を挿入すると、耐火具本体12の外周面が貫通孔34の周面に当接するとともに、凹部12gの内側に伝播空間Sが形成される。よって、凹部12gが伝播空間形成部となる。
【0043】
このように構成すると、床Wの下側で火災等が発生したとき、耐火具本体12の厚み内に形成された伝播空間Sを、熱が上側に向けて伝播し、耐火具本体12は厚み内及び内周面側から加熱される。このとき、耐火具本体12の外周面は、すでに貫通孔34の周面に当接しているため、耐火具本体12は速やかに内周側に向けて膨張し、耐火具本体12の内周面と配線・配管材33の外面との間が密封閉鎖される。
【0044】
○ 熱膨張性耐火具11を配線・配管材33に沿って貫通孔34に向けてスライド移動させた後、熱膨張性耐火具11の上端面から上方に向けて突出する複数の舌片16aと、配線・配管材33とを粘着テープで巻き付けて、配線・配管材33を熱膨張性耐火具11に固定してもよい。この場合、粘着テープによって、配線・配管材33の外面と舌片16aとの間の隙間がシールされる。
【0045】
○ 実施形態において、耐火具本体12に対し、金属材料等よりなるフランジを組付けても設けてもよい。
○ 実施形態において、熱膨張性耐火具11を耐火具本体12のみで形成し、フランジ13を削除してもよい。この場合、大径部12aの外径を貫通孔34の直径より僅かに大きくし、大径部12a外周面の貫通孔34の周面に対する圧接により、熱膨張性耐火具11を貫通孔34の径方向への移動を規制しつつ、床Wの上下方向への移動を規制した状態で床Wに装着する。
【0046】
○ 実施形態において、耐火具本体12は円筒状でなく、四角筒状であってもよい。
○ 実施形態において、スリット14は削除してもよく、この場合、熱膨張性耐火具11を貫通孔34内に挿入した後、挿通孔20に配線・配管材33が挿通される。
【0047】
○ 実施形態において、小径部12bの厚みは、挿通孔20内に挿通される配線・配管材33の外面と耐火具本体12の内周面との間に形成される隙間の大きさに合わせて任意に変更してもよい。すなわち、火災等の発生時に、配線・配管材33の外面と耐火具本体12の内周面との間の隙間が耐火具本体12の膨張によって密封閉鎖されるのであれば、小径部12bの厚みは任意に変更してもよい。
【0048】
○ 実施形態において、熱膨張性耐火具11を形成する熱膨張性材料は、合成樹脂材料に無機質材料及び膨張材を混入したものであってもよい。合成樹脂材料としては、オレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)等の軟質性の合成樹脂が挙げられ、無機質材料としては炭酸カルシウムが、膨張材としては膨張黒鉛が挙げられる。そして、このような熱膨張性材料は、例えば、合成樹脂材料を熱膨張性材料における全体重量の40%、無機質材料を40%、膨張材を20%の比率で調整されるものが使用される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(a)は実施形態の熱膨張性耐火具を示す斜視図、(b)はフランジ及び舌片を示す図。
【図2】実施形態の耐火構造を示す断面図。
【図3】耐火具本体が膨張した状態を示す断面図。
【図4】(a)は熱膨張性耐火具の別例を示す斜視図、(b)は耐火構造の別例を示す断面図。
【図5】(a)は熱膨張性耐火具の別例を示す斜視図、(b)は耐火構造の別例を示す断面図。
【図6】(a)は熱膨張性耐火具の別例を示す斜視図、(b)は耐火構造の別例を示す断面図。
【図7】(a)は熱膨張性耐火具の別例を示す斜視図、(b)は耐火構造の別例を示す断面図。
【符号の説明】
【0050】
S…伝播空間、T…耐火構造、W…床、11…熱膨張性耐火具、12…耐火具本体、12a,12e…伝播空間形成部としての大径部、12b,12f…伝播空間形成部としての小径部、12g…伝播空間形成部としての凹部、20…挿通孔、33…配線・配管材、34…貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の防火区画用の床に形成された貫通孔と該貫通孔内に挿通された配線・配管材との間に装着される熱膨張性耐火具であって、
自身で形状を維持可能な熱膨張性材料からなる耐火具本体を備え、該耐火具本体は前記貫通孔内に挿入可能に形成されるとともに、筒状をなし前記配線・配管材が挿通可能な挿通孔が上下方向に貫通形成され、さらに、前記貫通孔内に挿入された前記耐火具本体の下側から上側に熱を伝播可能とするため、前記床の下側に向けて開口した伝播空間を前記貫通孔内に形成する伝播空間形成部が前記耐火具本体に設けられている熱膨張性耐火具。
【請求項2】
前記耐火具本体には、前記貫通孔の周面に当接することにより前記耐火具本体の貫通孔の径方向への移動を規制する大径部と、該大径部の下側に位置し、前記大径部より小径をなす小径部とが一体形成され、前記伝播空間形成部は前記小径部よりなるとともに該小径部の外周面と前記貫通孔の周面との間に前記伝播空間が形成される請求項1に記載の熱膨張性耐火具。
【請求項3】
前記耐火具本体には、該耐火具本体の下端面に開口するとともに耐火具本体の上下方向に沿って延びる凹部が形成され、前記伝播空間形成部は前記凹部よりなるとともに該凹部の内側に前記伝播空間が形成される請求項1に記載の熱膨張性耐火具。
【請求項4】
前記耐火具本体は上端から下端に向けて徐々に外径が縮径するように形成され、前記伝播空間形成部は前記耐火具本体の外周面よりなるとともに前記耐火具本体の外周面と前記貫通孔の周面との間に前記伝播空間が形成される請求項1に記載の熱膨張性耐火具。
【請求項5】
建築物の防火区画用の床に形成された貫通孔と該貫通孔内に挿通された配線・配管材との間に熱膨張性耐火具が装着されてなる耐火構造であって、
前記熱膨張性耐火具は、自身で形状を維持可能な熱膨張性材料からなる耐火具本体を備え、該耐火具本体は前記貫通孔内に挿入可能に形成されるとともに、筒状をなし前記配線・配管材が挿通可能な挿通孔が上下方向に貫通形成され、さらに、伝播空間形成部が設けられてなり、
前記伝播空間形成部により、前記床の下側に向けて開口し、前記貫通孔内に挿入された前記耐火具本体の下側から上側に熱を伝播可能とする伝播空間が前記貫通孔内に形成されるとともに、前記耐火具本体における一部の外面形状が前記貫通孔の形状と略同一に形成された耐火構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−142487(P2009−142487A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323574(P2007−323574)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000243803)未来工業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】