説明

燃料噴射装置およびそれを備える内燃機関

【課題】比較的簡単な構造で内燃機関の燃焼室内への燃料噴射の制御性を向上させる。
【解決手段】インジェクタ15の筐体16の中空室16a内にスリーブ17を軸回り方向の回動および軸方向の移動が可能な状態で設け、そのスリーブ17の中空室17a内にニードル19を軸方向に移動可能な状態で設けた。スリーブ17には、その軸回り方向の回動または軸方向の移動の位置に応じて、筐体16の第1噴孔16cに一致するように第2噴孔17cが形成されている。そして、スリーブ17の回転角度を制御することにより、燃料噴射位置および燃料噴射量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置およびそれを備える内燃機関に関し、更に詳しくは、比較的簡単な構造で内燃機関の燃焼室内への燃料噴射の制御性を向上させることが可能な燃料噴射装置およびそれを備える内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンに比べて、熱効率が良く、二酸化炭素(CO)の排出量が少ないので、地球温暖化や石油枯渇問題の観点から有利である。また、近年のコモンレール式の燃料噴射装置の採用により、燃料を微粒化でき、燃料を燃焼期間中に完全に燃焼させることができるので、黒煙や未燃炭化水素等の排出量の低減も実現されている。
【0003】
また、黒煙、未燃炭化水素および窒素酸化物(NOx)のような排出ガスの低減や燃料消費率の低減を達成するための燃焼最適化の観点から、燃料の噴霧形状(分布)や噴射量等を負荷に応じて変化させることが重要視されており、種々の技術が提案されている。例えばニードルの上下量やニードル上昇による開弁時間を制御することにより、燃料噴射量を制御することが行われている(例えば特許文献1,2参照)。
【0004】
また、例えば燃料噴射装置内に軸を同一にして2つのニードルを配置し、この2つのニードルの軸方向の移動に応じて複数の噴孔を順に開放することで、燃料噴射率を変えることが行われている(例えば特許文献3〜6参照)。
【0005】
また、例えば外周に溝または孔が形成されたロータリバルブをニードルの先端に設け、そのロータリバルブを回転させることで噴孔の面積を連続的に変えて燃料噴射量を制御することが行われている(例えば特許文献7参照)。
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1〜7においては、燃料の噴射位置、噴射形状(分布)、噴射量または応答性等のような燃料噴射の制御性の上で充分とは言えない、という問題がある。
【0007】
例えば特許文献1〜6では、さらに噴孔やニードルを増やすには限界があり、燃料噴射形状や燃料噴射量をさらに精細に制御することができない。また、燃料噴射流路の一部が閉塞すると流量が一定になってしまう問題もある。
【0008】
また、上記した特許文献7では、微細なニードルの先端部分に配置されたロータリバルブに燃料噴射形状や燃料噴射量を制御するための溝や孔を形成しているが、その溝や孔を多く配置するには加工精度や強度確保の観点から難しいため、燃料噴射形状や燃料噴射量をさらに精細に制御することが難しい。
【0009】
また、特許文献3〜6ではニードルを2つ配置し、特許文献7ではニードルの先端部分のロータリバルブに溝や孔を配置するなど、いずれもニードルが一般的なものと異なり構造が複雑になる上、そのためにニードルの駆動制御が複雑になる問題や強度が低下する問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−176657号公報
【特許文献2】特開2007−032276号公報
【特許文献3】特開2006−105067号公報
【特許文献4】特開2007−224896号公報
【特許文献5】特開2008−38761号公報
【特許文献6】特開2007−218175号公報
【特許文献7】特開平10−184495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、比較的簡単な構造で内燃機関の燃焼室内への燃料噴射の制御性を向上させることができる燃料噴射装置およびそれを備える内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の燃料噴射装置は、第1中空室を有し、かつ、前記第1中空室と外部とを連通する第1燃料噴射孔を有する筐体を装置本体に備え、前記装置本体に供給された燃料を、前記筐体の前記第1燃料噴射孔から内燃機関の燃焼室に噴射する燃料噴射装置であって、前記第1中空室に、軸回りの回動および軸方向の移動が可能な状態で収容され、かつ、第2中空室を有する第1燃料制御部材と、前記第1燃料制御部材の回動および移動を制御する第1制御部と、前記第2中空室内に、軸方向に移動可能な状態で収容され、該軸方向の移動により前記第1燃料噴射孔への燃料の供給を制御する第2燃料制御部材と、前記第2燃料制御部材の軸方向の移動を制御する第2制御部とを備え、前記第1燃料制御部材には、該第1燃料制御部材の外部と前記第2中空室とを連通する第2燃料噴射孔が形成されており、前記第2燃料噴射孔の出口は、前記第1燃料制御部材の一または複数の位置において、前記第1燃料噴射孔の入口に対向するように設けられており、前記第1燃料制御部材の回動および軸方向の移動により、前記第1燃料噴射孔の入口と前記第2燃料噴射孔の出口とを対向させることで燃料噴射流路の形成と、該燃料噴射流路の断面積の変更とを行うものである。
【0013】
また、上記の燃料噴射装置において、前記第1燃料制御部材の壁面と前記第1中空室の壁面との間の燃料のシール部は、前記第1燃料制御部材において前記第1燃料噴射孔の配置面から離れた位置に配置された第1シール面と、前記第1中空室の壁面において前記第1シール面に対向する第2シール面とを備え、前記第1シール面が、前記第2シール面に当てられた状態で接触することで形成されるものである。
【0014】
また、上記の燃料噴射装置において、前記第1燃料制御部材の外形は、円錐台形状に形成されており、前記第1燃料制御部材の壁面と、前記第1中空室の壁面とが互いに沿うように形成されているものである。
【0015】
上記の目的を達成するための本発明の内燃機関は、前記燃料噴射装置を備えるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の燃料噴射装置およびそれを備える内燃機関によれば、燃料噴射装置の筐体内に収容された第1燃料制御部材の軸回りの回動および軸方向の移動と、第2燃料制御部材の軸方向移動とにより燃料噴射を制御することにより、比較的簡単な構造で内燃機関の燃焼室内への燃料噴射の制御性を向上させることができる。したがって、排気ガスを低減することができ、また、燃料消費率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の内燃機関の要部断面図である。
【図2】図1の内燃機関の第1の実施の形態の燃料噴射装置の一例の全体断面図である。
【図3】図2の燃料噴射装置の燃料噴射部の拡大断面図である。
【図4】図3のX1−X1線の要部断面図である。
【図5】図2および図3のスリーブの位置ずれ防止機構部の拡大断面図である。
【図6】図2および図3のスリーブの位置ずれ防止機構部の他の例の拡大断面図である。
【図7】図2および図3のスリーブ制御部の他の例の拡大断面図である。
【図8】図7のスリーブ制御部の一部を抜き出して示した要部斜視図である。
【図9】図2の燃料噴射装置の第1噴孔と第2噴孔との対向状態を模式的に示した燃料噴射装置の要部斜視図である。
【図10】図9の燃料噴射装置の第1噴孔と第2噴孔との対向状態の一例の平面図である。
【図11】図2の燃料噴射装置の第1噴孔と第2噴孔との対向状態を模式的に示した燃料噴射装置の要部斜視図である。
【図12】図11の燃料噴射装置の第1噴孔と第2噴孔との対向状態の一例の平面図である。
【図13】図2の燃料噴射装置の燃料噴射量の変化を模式的に示したグラフ図である。
【図14】従来のインジェクタの燃料噴射量の変化を模式的に示したグラフ図である。
【図15】図2の燃料噴射装置を用いて均質燃焼状態を形成する場合の燃料噴射時の燃料の状態を模式的に示した内燃機関の構成図である。
【図16】図2の燃料噴射装置を用いて均質燃焼状態を形成する場合の燃料噴射後の燃料の状態を模式的に示した内燃機関の構成図である。
【図17】図2の燃料噴射装置を用いて成層燃焼状態を形成する場合の燃料噴射時の燃料の状態を模式的に示した内燃機関の構成図である。
【図18】図2の燃料噴射装置を用いて成層燃焼状態を形成する場合の燃料噴射後の燃料の状態を模式的に示した内燃機関の構成図である。
【図19】本発明の第2の実施の形態における燃料噴射装置の要部を模式的に示した斜視図である。
【図20】図19の一部の構成を抜き出して示した要部斜視図である。
【図21】図19の燃料噴射装置の燃料噴射時の要部を模式的に示した斜視図である。
【図22】図19の燃料噴射装置の燃料噴射停止時の要部を模式的に示した斜視図である。
【図23】従来のインジェクタの筐体に穿孔された噴孔の配置部分の拡大断面図である。
【図24】図23のインジェクタのアウターニードルの部分拡大断面図である。
【図25】従来の一般的なインジェクタの全体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態の内燃機関について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1に本発明の実施の形態の内燃機関の要部断面図を示す。本実施の形態の内燃機関は、例えば、トラックのような自動車に搭載される直列4気筒のコモンレール式のディーゼルエンジン1として構成される。なお、本発明はディーゼルエンジンに限定されず、ガソリンエンジン等に適用することもできる。
【0020】
このディーゼルエンジン(以下、エンジンという)1は、シリンダ(気筒)2内のピストン3の頂面に凹設されたキャビティ(燃焼室)4内において圧縮されて高温になった空気に燃料を供給して自己着火させ、この時の自己着火による燃焼で生じる膨張ガスによってピストン3を駆動させる構成を有している。
【0021】
シリンダ2は、ピストン3の往復運動を誘導するとともに燃料ガスを収める円筒状の部品である。シリンダ2の内周面には図示しないライナが形成されている。シリンダ2においてライナの外側の肉厚部にはシリンダ冷却用の冷却媒体が流れる冷却通路2aが形成されている。
【0022】
シリンダ2の内部には、ピストン3がシリンダ2の内周面のライナに沿って往復運動が可能な状態で設置されている。このピストン3の下部は、コネクティングロッド(図示せず)を介してクランクシャフト(図示せず)に接続されている。このクランクシャフトにより、ピストン3の往復運動が回転運動に変換される。なお、図1はピストン3が上死点にある時を示している。
【0023】
このシリンダ2の上部のシリンダヘッド5には、吸気ポート(吸気口)7および排気ポート(排気口)8が設置されている。吸気ポート7は吸気管9に接続され、排気ポート8は排気管10に接続されている。
【0024】
また、吸気ポート7側には吸気用のバルブ11a(11)が設置され、排気ポート8側には排気用のバルブ11b(11)が設置されている。吸気用のバルブ11aは吸気ポート7を開閉し、排気用のバルブ11bは排気ポート8を開閉する。
【0025】
吸排気用のバルブ11(11a,11b)が図1の下方向に移動した時は開弁方向であり、図1の上方向に移動した時は閉弁方向である。これらの吸排気用のバルブ11(11a,11b)は、それぞれを駆動する可変動弁機構部(駆動装置)12(12a,12b)に機械的に接続されている。
【0026】
また、シリンダヘッド5の吸気ポート7と排気ポート8との間であって、ピストン3の頂面中央に対向する位置には、燃料をキャビティ4内に直接噴射するためのインジェクタ(燃料噴射装置)15が設置されている。
【0027】
このインジェクタ15には、コモンレール(図示せず)に貯留された高圧燃料が常時供給される。インジェクタ15においてシリンダ2内に突出されているノズル部には、複数の微細な噴孔が形成されており、その複数の微細な噴孔から燃料が放射状に同時に噴射される。このノズル部先端の各噴孔から噴射される燃料の噴射軸Jは、上記した軸心Cに対してそれぞれ所定の噴射角度θだけ傾けられている。この噴射角度θは、燃料が燃料噴射期間の全期間に亘ってシリンダ2内のキャビティ4内に収まる角度に設定されている。
【0028】
このようなエンジン1は、下記の第1、第2の実施の形態のいずれかのインジェクタ15を備えて構成される。
【0029】
まず、第1の実施の形態の燃料噴射装置であるインジェクタ15について図2〜図4等を参照しながら説明する。なお、図2はインジェクタ15の一例の全体断面図、図3は図2の燃料噴射部の拡大断面図、図4は図3のX1−X1線の断面図を示している。
【0030】
図2に示すように、インジェクタ15は、燃料噴射部15aと、ニードル制御部(第2制御部)15bと、燃料流入管T1、燃料流通管T2,T3および燃料流出管T4の各配管とを備えている。
【0031】
インジェクタ15の外形を形成する筐体16において燃料噴射部15aには、中空室(第1中空室)16aが形成されている。この中空室16aは、図3に示すように、大径室16a1と、半球面室16a2と、それらの間の中間室16a3とを有している。大径室16a1の直径は、半球面室16a2の最上部の直径よりも大きい。中間室16a3の壁面は、大径室16a1から半球面室16a2に向かって連続的に小径になるようにテーパ状に形成されている。
【0032】
この中空室16aは、図2〜図4に示すように、筐体16下端のノズル部16bに穿孔された複数の微細な第1噴孔(第1燃料噴射孔)16cを通じて外部(キャビティ4)と接続されている。なお、ノズル部16bの外形は、例えば半球面状に形成されている。
【0033】
各第1噴孔16cの開口面の形状(穴形状)は、例えば円形状に形成されている。ここでは、第1噴孔16cが、筐体16の軸方向に沿って2段に配置されており、その各々の段において筐体16の軸回りに沿って予め設定された間隔毎に配置されている場合が例示されている。ただし、第1噴孔16cの配置段数は、1段でも良いし、3段以上でも良い。また、1または複数の第1噴孔16cをノズル部16bの先端部(半球面底部)に配置しても良い。
【0034】
また、図2および図3に示すように、中空室16a内には、スリーブ(第1燃料制御部材)17が収容されている。このスリーブ17は、燃料噴射流路の切り替えおよび燃料噴射量の調整を行う制御部材であり、その軸を筐体16の軸と一致させた状態で、かつ、スリーブ17の軸回りの回動および軸方向(上下方向)の移動が可能な状態で中空室16a内に収容されている。
【0035】
このスリーブ17にはその軸に沿って延在するように中空室(第2中空室)17aが形成されている。この中空室17aは、図3に示すように、大径室17a1と、小径室17a2と、それらの間の中間室17a3とを有している。大径室17a1の直径は、小径室17a2の直径よりも大きい。中間室17a3の壁面は、大径室17a1から小径室17a2に向かって次第に小径になるようにテーパ状に形成されている。
【0036】
また、スリーブ17は、大径部17b1と、半球面部(小径部)17b2と、それらの間のテーパ部17b3とを一体的に有している。大径部17b1は、中空室16aの大径室16a1内に収容されており、大径部17b1の側壁面は、大径室16a1の壁面に沿うように形成されている。大径部17b1の直径は、半球面部17b2の最上部の直径よりも大きい。
【0037】
スリーブ17の半球面部17b2は、半球面室16a2内に収容されており、半球面部17b2の外形は、半球面室16a2の壁面に沿うように形成されている。この半球面部17b2には、図2〜図4に示すように、中空室17a(小径室17a2)と中空室16a(半球面室16a2)とを連通する複数の微細な第2噴孔(第2燃料噴射孔)17cが穿孔されている。各第2噴孔17cの開口面の形状(穴形状)は、例えば円形状に形成されている。なお、第2噴孔17cの開口面の形状は円形状に限定されるものではなく種々変更可能である。
【0038】
この第2噴孔17cは、その出口が、スリーブ17の回転方向および軸方向の一または複数の位置において、筐体16の第1噴孔16cの入口に対向(一致)するように設けられている。そして、スリーブ17の回動および軸方向移動により、第1噴孔16cの入口と第2噴孔17cの出口とが対向(一致)することで燃料噴射流路が形成される。これにより、燃料流通管T2を通じて燃料噴射部15aに供給された燃料は、スリーブ17の大径室17a1から小径室17a2に流れ、第2噴孔17cおよび第1噴孔16cを通じてキャビティ4に噴射される。
【0039】
この第2噴孔17cは、例えば、第1噴孔16cに合わせて、スリーブ17の軸方向に沿って2段になって配置されており、その各々の段においてスリーブ17の軸回りに沿って予め設定された間隔毎に配置されている。なお、第2噴孔17cの配置段数は、1段でも良いし、3段以上でも良い。また、1または複数の第2噴孔17cを半球面部17b2の先端部(半球面底部)に配置しても良い。
【0040】
また、ここでは、スリーブ17の位置(回転方向または軸方向の位置)に応じて、複数の第1噴孔16cのうちの1または複数の所望の第1噴孔16cを選択することが可能な構成が例示されている。すなわち、スリーブ17の所望の位置において、複数の第1噴孔16cのうちの所望の第1噴孔16cと、第2噴孔17cとは対向(一致)するが、所望しない第1噴孔16cには、第2噴孔17cが対向(一致)しないようになっている。これにより、スリーブ17の位置を制御することにより、キャビティ4の面内および深さ方向における燃料噴射位置を制御することができる。したがって、キャビティ4内において燃焼に最適な位置に燃料の噴霧(燃料分布)を形成することができる。
【0041】
特許文献1,2のインジェクタの場合、燃料噴射位置は固定である。また、特許文献3〜6のインジェクタの場合、インジェクタの軸方向の燃料噴射位置は選択することはできる。これに対して、第1の実施の形態のインジェクタ15の場合は、例えばインジェクタ15の軸方向のみならず、軸回り方向における燃料噴射位置をも選択することができるので、特許文献1〜6の場合よりも燃料噴射位置をより精細に設定することができる。
【0042】
また、特許文献7のインジェクタの場合、微細なニードルの先端のロータリバルブに燃料噴射位置を制御するための溝や孔を形成しているので、その溝や孔を多く配置するには加工精度や強度確保の観点から難しい。これに対して、第1の実施の形態のインジェクタ15の場合は、燃料噴射位置を制御する第2噴孔17cをスリーブ17に形成しているので、特許文献7の場合よりもインジェクタ15の軸方向および軸回り方向の両方(特に軸方向)においてより多くの第2噴孔17cを配置できる。このため、特許文献7の場合よりも燃料噴射位置をより精細に設定することができる。
【0043】
なお、第2噴孔17cの直径は、第1噴孔16cの直径と同じである。ただし、第1、第2噴孔16c,17cのいずれか一方の直径を他方の直径よりも大きくしても良い。また、第1噴孔16cの入口部分の直径を第2噴孔17cの出口部分の直径よりも部分的に大きくしても良いし、その逆でも良い。このように直径(対向する開口面積)を変えることにより、第1噴孔16cと第2噴孔17cとの位置合わせ精度を緩和することができる。
【0044】
また、上記したスリーブ17のテーパ部17b3は、大径部17b1から半球面部17b2に向かって連続的に小径になるように、また、中空室16aの中間室16a3の壁面(テーパ面)に沿うようにテーパ状に形成されている。
【0045】
このスリーブ17のテーパ部17b3のテーパ面(第1シール面)と、中空室16aの中間室16a3のテーパ面(第2シール面)とは、スリーブ17の壁面と中空室16aの壁面との間の燃料が第1噴孔16cから漏れるのを抑制または防止するためのシール部を構成する部分であり、そのシール部は、スリーブ17のテーパ部17b3のテーパ面が、中空室16aの中間室16a3の壁面のテーパ面に当てられた状態で接触することで形成される。
【0046】
ここで、図23に特許文献6のインジェクタ50Aの燃料の漏れ防止のためのシール部の構成を例示する。この図23はインジェクタ50Aの筐体51に穿孔された噴孔52の配置部分の拡大断面図を示している。
【0047】
特許文献6では、噴孔52でのシール部53a〜53cをニードル54(インナーニードル54aやアウターニードル54b)自体で形成する構成になっている。この場合、例えば1つのアウターニードル54bで1つの噴孔52の上下2箇所のシール部53a,53bを形成する必要があるが、微細なアウターニードル54bの先端面を双方のシール部53a,53bに充分なシール性を持たせるように加工することは極めて難しい。
【0048】
また、図24は図23のアウターニードル54bの部分拡大断面図を示している。アウターニードル54bの先端は細く鋭角に形成されているので、作動負荷によって欠け易いが、アウターニードル54bの先端部が破線で示すように少しでも欠けると、図23で示したシール部53a,53bの領域が少なくなる結果、燃料が噴孔52からキャビティ4に漏れ易くなる。
【0049】
これらの結果、特許文献6では、燃料漏れを防止するために新たな構成が必要になり、インジェクタの構造が複雑になる場合もある。なお、特許文献3〜5には、図23および図24は図示されていないが、特許文献3〜5のインジェクタも特許文献6と同様に2つのニードルを持つ構造なので同様の問題が生じることが想定される。
【0050】
これに対して第1の実施の形態のインジェクタ15では、図3等に示すように、スリーブ17の第1シール面(テーパ部17b3のテーパ面)および中空室16aの第2シール面(中空室16a3のテーパ面)が、複数の第1噴孔16cの配置面から離れて配置されており、シール部の加工条件が第1噴孔16cに左右されることがないので、シール部の加工精度を緩和することができるとともに、シール部の領域を特許文献3〜6に比べて大きく確保することができる。このため、シール部の加工を容易にすることができる。また、第1シール面および第2シール面の一部が多少欠けたとしてもシール性が低下することもない。これらの結果、第1噴孔16cからキャビティ4への燃料漏れを抑制または防止することができる。また、このシール部は、構成が簡単であり、シール部を設けたとしてもインジェクタ15の構成が複雑になることもない。
【0051】
このようなスリーブ17の上面と中空室16aの天井面との間には、スリーブ17の駆動を制御するスリーブ制御部(第1制御部)18が設置されている。スリーブ制御部18は、図3に示すように、例えばソレノイド18aと、その外周側に設置された超音波モータ18bと、バネ18cとを有している。
【0052】
ソレノイド18aは、スリーブ17の軸方向(矢印P1の方向)の移動を制御する制御部であり、コイル部18a1と鉄心部18a2とを有している。コイル部18a1は、中空室16aの天井面においてスリーブ17の上面外周に沿ってリング状に配置されている。また、鉄心部18a2は、スリーブ17の上面においてコイル部18a1に対向する位置にリング状に設置されている。鉄心部18a2に代えて磁石を用いても良い。
【0053】
また、超音波モータ18bは、スリーブ17の軸回り(矢印P2の方向)の回動を制御する制御部であり、ステータ部18b1と、ロータ部18b2とを有している。ステータ部18b1は、中空室16aの天井面においてコイル部18a1の外周に沿ってリング状に設置されている。また、ロータ部18b2は、スリーブ17の上面においてステータ部18b1に対向する位置にリング状に設置されている。なお、ソレノイド18aと、超音波モータ18bとの配置は逆でも良い。
【0054】
また、バネ18cは、スリーブ17上面と中空室16aの天井面との間にニードル19を取り囲むように配置されている。このバネ18cは、スリーブ17を下方(中空室16aの第1噴孔16cの配置面側)に付勢するように設定されており、このバネ18cにより非動作時におけるスリーブ17と中空室16aの天井面と距離が適切な距離に保たれている。
【0055】
また、スリーブ17とスリーブ制御部18との相対的な位置ずれを防止するための位置ずれ防止機構を設けても良い。図5および図6にスリーブ17の位置ずれ防止機構部の一例の拡大断面図を示す。
【0056】
図5に示すように、ソレノイド18aのコイル部18a1の外囲部には上方(スリーブ17の軸方向)に凹む溝25aが形成されている。一方、鉄心部18a2において溝25aの対向位置には、上方(スリーブ17の軸方向)に突出する突起26aが形成されている。この突起26aは溝25a内に嵌められている。これにより、スリーブ17が、その軸に直交する方向にずれないようにすることができる。したがって、スリーブ17の軸に直交する方向におけるスリーブ17とスリーブ制御部18との相対位置関係を常に良好な状態に保つことができる。
【0057】
また、図6では、ソレノイド18aのコイル部18a1の外囲部の溝25bと、これに嵌合されるスリーブ17側の突起部26bとが鍵状に形成されており、溝25b内に突起部26bが噛み合うよう収まっている。これにより、スリーブ17の軸に直交する方向におけるスリーブ17とスリーブ制御部18との相対位置関係を常に良好に保つことができる上、スリーブ17の軸方向の移動も制限することができるので、スリーブ17の軸方向におけるスリーブ17とスリーブ制御部18との対向距離関係をも常に良好に保つことができる。
【0058】
また、図7および図8にスリーブ制御部18の他の例を示す。図7はスリーブ制御部18の断面図、図8はスリーブ17の軸回り回動制御部を抜き出した斜視図を示している。
【0059】
ここでは、スリーブ17の軸回りの回動制御部を超音波モータに代えて電動モータ18mとした場合が例示されている。すなわち、スリーブ17の上面には歯車付きの台座18dがスリーブ17の外周に沿ってリング状に配置されている。この歯車付きの台座18dは、歯車18e1,18e2を介して電動モータ18mによって回転駆動されるようになっている。なお、電動モータ18mの数は1個に限定されるものではなく複数設けても良い。また、この場合も図5および図6で示したスリーブ17の位置ずれ防止機構を設けても良い。
【0060】
一方、図2および図3に示すように、スリーブ17の中空室17a(大径室17a1)内には、ニードル(第2燃料制御部材、針弁)19が、その軸を筐体16およびスリーブ17の軸と一致させた状態で、ニードル19の軸方向(上下方向、矢印P1の方向)に移動可能な状態で収容されている。
【0061】
このニードル19は、図3に示す中空室17aの小径室17a2内への燃料の供給を制御する部材である。ニードル19は、円柱状に形成されており、その直径は、大径室17a1よりは小さいが、小径室17a2よりは大きい。
【0062】
ニードル19において中間室17a3の壁面に対向する先端部には、中間室17a3の壁面の傾斜に合うようにテーパが形成されている。このニードル19の先端部が、中間室17a3の壁面に接している状態が閉弁状態であり、中間室17a3の壁面から離れている状態が開弁状態である。
【0063】
このニードル19の軸方向の移動は、図2および図3に示すニードル制御部15bによって制御されるようになっている。図2には、ニードル制御部15bとして、例えば従来と同様のソレノイドSを用いた制御部を例示している。
【0064】
ソレノイドSは、筐体16の上部の第1制御室FCR1に設置されており、コイル部S1と、バルブ部S2と、バネS3とを有している。
【0065】
第1制御室FCR1は、燃料流出管T4に接続されているとともに、燃料流通管T3を通じて第2制御室FCR2に接続されている。この第2制御室FCR2には、ピストン部PSおよびバネSRが設置されている。ピストン部PSは、ニードル19と一体的に接続されている。
【0066】
また、第1制御室FCR1は、オリフィスORの流通路を通じてコマンド室CMRに接続されている。コマンド室CMRは、燃料流入管T1に接続されている。このコマンド室CMRには、ピストン部PSの上面が、オリフィスORに対応した状態で面している。
【0067】
このようなニードル制御部15bは、電子制御ユニット(Engine Control Unit:以下、ECUと略す)に電気的に接続されており、その動作(リフト量)がECUにより制御される。なお、ニードル制御部15bはソレノイドを用いた構成に限定されるものではなく、例えばピエゾアクチュエータ(圧電素子)を用いても良い。
【0068】
ここで、図25に比較のため従来の一般的なインジェクタ50Bを示す。図2および図25に示すように、第1の実施の形態のインジェクタ15においては、スリーブ17を設けたことにより、ニードル19およびニードル制御部15bとして、図25に示す従来の一般的なインジェクタ50Bのニードル55およびニードル制御部56を使用することができる。
【0069】
特許文献3〜7の場合は、ニードルおよびニードル制御部が一般的なものとは異なる上、その構造や制御方法が複雑になる。また、上記の燃料漏れ等の観点からニードルに高い加工精度および位置合わせ精度が要求される。
【0070】
これに対して、第1の実施の形態のインジェクタ15では、ニードル19およびニードル制御部15b自体は一般的なものを使用できる上、ニードル19およびニードル制御部15bとは別個にスリーブ17とスリーブ制御部18を設置するだけであり、しかもスリーブ17には上記のように高い加工精度や位置合わせ精度も要求されないので、比較的簡単な構造でインジェクタ15の燃料噴射の制御性を向上させることができる。
【0071】
また、特許文献7の場合、例えばニードルが中空筒状に形成されておりニードルの強度が低下している。すなわち、1つのニードルに開閉弁の機能と燃料噴射制御の機能とを持たせていることによりニードルの強度が弱くなっている。
【0072】
これに対して、第1の実施の形態のインジェクタ15では、ニードル19自体は一般的なものを使用できるので、ニードル19の強度を確保でき、その変形や損傷を低減できる。したがって、インジェクタ15の寿命や信頼性の低下を招くことなく、インジェクタ15の燃料噴射の制御性を向上させることができる。
【0073】
図2および図3に示す燃料流通管T2は、燃料流入管T1から供給された燃料を燃料噴射部15aに供給する通路であり、上記した中空室16aに接続され、さらにスリーブ17に形成された燃料供給通路17dを通じて中空室17a(大径室17a1)に接続されている。
【0074】
次に、燃料噴射量、燃料噴射位置および燃料噴射形状(分布)の制御の一例について図9〜図14を参照しながら説明する。
【0075】
図9および図11は第1の実施の形態のインジェクタ15の筐体16の第1噴孔16cとスリーブ17の第2噴孔17cとの対向状態を模式的に示したインジェクタ15の要部斜視図を示し、図10および図12はそれぞれ図9および図11の第1噴孔16cと第2噴孔17cとの対向状態の平面図を示している。
【0076】
第1の実施の形態のインジェクタ15の場合、スリーブ17の軸回り回動または軸方向移動により燃料噴射流路を形成する。このスリーブ17の回転角度は微小な角度で高精細に設定することができる。このため、スリーブ17の回転角度の微小な変更により第1噴孔16cと第2噴孔17cとの開口面の対向状態を連続的に変えることができ、燃料噴射流路の断面積を連続的に変えることができる。あるいは、燃料噴射のたびにスリーブ17を回転させることで噴射毎の噴射量を変化させることもできる。
【0077】
例えば図10は、第1噴孔16cと第2噴孔17cとがほぼ完全に一致している場合で燃料噴射流路の断面積が最も大きい。図12は、第1噴孔16cと第2噴孔17cとの重なりが図10の場合よりも小さい場合で燃料噴射流路の断面積も図10の場合よりも小さい。
【0078】
このように第1の実施の形態のインジェクタ15においては、スリーブ17の回転角度を微調整することにより、燃料噴射量を高精細な精度で増減することができる。また、上記した燃料噴射位置の制御との組み合わせにより、燃料噴射形状(燃料噴射分布)を高精細な精度で設定することができる。
【0079】
また、燃料噴射量をニードルの上下量や開弁時間により制御していた従来のインジェクタの場合、燃料噴射流路の一部が閉塞した場合、燃料噴射量が一定になってしまう問題がある。すなわち、燃料の噴射が高圧になると、燃料噴射流路内で液体が音速に達し、それ以上加速されない、いわゆる閉塞という現象が生じ、それ以上の噴射流量にならないという問題がある。これに対して、第1の実施の形態のインジェクタ15においては、燃料噴射流路の一部が閉塞した場合、燃料噴射流路の断面積(穴径)を変える(大径にする)ことで燃料噴射量を変えることができるので、上記のような問題を回避することができる。
【0080】
また、スリーブ17の回転時には、スリーブ17のテーパ部17b3を中間室16a3の壁面に押し付けた状態で回転させることにより、スリーブ17の回転時の燃料漏れを抑制または防止することができる。
【0081】
図13は第1の実施の形態のインジェクタ15の燃料噴射量の変化を模式的に示したものである。また、図14は比較のため燃料噴射流路の断面積(穴径)が一定で1つのニードルのリフト量で燃料噴射量を決定する従来のインジェクタの燃料噴射量の変化を模式的に示したものである。
【0082】
燃料噴射量をニードルのリフト量によって決定する従来のインジェクタの場合は燃料噴射量が図14に示すように変化する。これに対して、第1の実施の形態のインジェクタ15の場合、上記のように燃料流路の断面積(穴径)を変化させるとともに、さらにニードル19のリフト量を変化させることで燃料噴射量を決定する。これにより、燃料噴射量や燃料噴射形状(分布)をより精細に設定することができる。また、図13に示すように、燃料噴射量を非線形に変化させることができる。このため、燃料流量の立ち上がりを急峻にすることにより、燃料流量を燃焼に必要な量に、より短期間で設定することができる。すなわち、燃料噴射の応答性を向上させることができる。
【0083】
また、第1の実施の形態のインジェクタ15の場合は、燃料流路の断面積(穴径)を変化させるとともに、さらにニードル19のリフト量を変化させることで燃料噴射量を決定するので、特許文献7の場合に比べて燃料噴射流量および燃料噴射形状(分布)の制御性を向上させることができる。また、燃料流量の立ち上がりを急峻にすることができ、特許文献7の場合よりも燃料噴射の応答性を向上させることができる。
【0084】
また、特許文献7の場合、ニードルに溝や孔を形成するので、ニードルの精密な加工が必要である。これに対して、第1の実施の形態のインジェクタ15の場合、スリーブ17自体を単独で製造でき、上記のようにニードル19の精密な加工を必要としないので、インジェクタ15の量産性を向上させることができる。
【0085】
さらに、特許文献1〜7のインジェクタでは、バネ等の使用が多く機械的に複雑で制御も複雑になるのに対して、第1の実施の形態のインジェクタ15の場合は、構造を比較的簡単化することができ、制御も比較的容易にすることができる。特に、スリーブ17とニードル19とを分けていることにより、各々を別々に制御できるので、制御を容易にでき、燃料噴射の制御性を向上させることができる。
【0086】
次に、インジェクタ15による燃料噴射形状(分布)の一例について図15〜図18を参照しながら説明する。
【0087】
図15および図16はインジェクタ15を用いて均質燃焼状態を形成する場合の燃料Fの状態を模式的に示している。図15は燃料噴射時、図16は燃料噴射後の燃料Fの状態を示している。
【0088】
均質燃焼時には燃料Fの噴霧が比較的広い範囲に亘ってキャビティ4内に分布している。均質燃焼は、高負荷燃焼時や予混合圧縮着火(Homogeneous Charge Compression Ignition:以下、HCCIという)燃焼時に有効である。
【0089】
HCCI燃焼は、燃料と空気とを予め混合させた均一で希薄な混合気を圧縮し、自着火させる燃焼方法である。HCCI燃焼の場合、均一な混合気を燃焼させることから黒煙の発生を低減できる。また、希薄な混合気であることから燃焼温度を低くすることができ窒素酸化物(NOx)の発生を低減できる。さらに、圧縮比を高くできるので、高い効率を得ることができる。
【0090】
しかし、HCCI燃焼の場合、燃料が希薄なため失火あるいは過早着火の恐れがあり、また、運転領域が狭いという問題がある。これに対して、第1の実施の形態のインジェクタ15を用いた場合、キャビティ4内に燃料過濃度領域と燃料希薄領域とを形成することにより、燃料を確実に着火することができ、かつ、キャビティ4内全体では希薄混合気になるような燃料濃度分布を生成することができる。これにより、失火の問題を回避でき、また、運転領域を拡大することができる。したがって、HCCI燃焼による低NOxで、かつ、低PM(Particulate Matter)での燃焼を実現することができる。
【0091】
図17および図18はインジェクタ15を用いて成層燃焼状態を形成する場合の燃料Fの状態を模式的に示している。図17は燃料噴射時、図18は燃料噴射後の燃料Fの状態を示している。
【0092】
成層燃焼時には、燃料Fの噴霧がキャビティ4の上層部に分布している。成層燃焼は、軽負荷時に有効である。第1の実施の形態のインジェクタ15を用いた場合、スリーブ17およびニードル19の制御により、均質燃焼のための燃料噴射形状(分布)から成層燃焼のための燃料噴射形状(分布)に交互に切り替えることができる。
【0093】
第2の実施の形態のインジェクタ
図19は第2の実施の形態におけるインジェクタ15の燃料噴射部を模式的に示し、図20は図19のインジェクタ15の燃料噴射部の筐体16およびスリーブ17を抜き出して示している。なお、図19および図20では説明を分かり易くするためにインジェクタ15の内部を透かして見せている。
【0094】
第2の実施の形態のインジェクタ15においては、スリーブ17の下部と、その周囲の中空室16aの形状が円錐台形状に形成されている。すなわち、スリーブ17の下部には、半球面部17b2に代えて円錐台形部(小径部)17b4が形成されている。また、中空室16aの下部には、半球面室16a2に代えて円錐台形室16a4が形成されている。そして、このスリーブ17の円錐台形部17b4の壁面と、これに対向する中空室16aの円錐台形室16a4の壁面とが互いに沿うように直線状(平坦)に形成されている。これにより、スリーブ17を中空室16aの壁面に押し当てた時にスリーブ17の壁面と中空室16aの壁面との密着性を向上させることができるので、上記した燃料のシール性を向上させることができる。これ以外の構成は前記実施の形態1で説明したのと同じである。
【0095】
次に、第2の実施の形態のスリーブ17の回転制御方法について図21および図22を参照しながら説明する。
【0096】
図21は燃料噴射時のインジェクタ15の要部の状態を模式的に示している。この図21では、筐体16のノズル部16bの所望の第1噴孔16cと、スリーブ17の円錐台形部17b4の所望の第2噴孔17cとが一致している段階が示されている。燃料はこの状態で噴射される。
【0097】
続いて、図22は燃料噴射停止時のインジェクタ15の要部の状態を模式的に示している。ここでは、スリーブ17およびニードル19を矢印P3に示す軸方向に若干下降する。これにより、スリーブ17のテーパ部17b3を中間室16a3の壁面に押し付け、燃料漏れを抑制または防止する。また、ニードル19の先端を中間室17b3の傾斜面に押し付け、燃料の噴射を停止する。
【0098】
この時、第2の実施の形態のインジェクタ15では、上記したようにスリーブ17の円錐台形部17b4の壁面と、これに対向する中空室16aの円錐台形室16a4の壁面とが互いに沿うように直線状(平坦)に形成されていることにより、スリーブ17を下降してスリーブ17の壁面を中空室16aの壁面に押し当てた時に円錐台形部17b4の壁面と円錐台形室16a4の壁面との密着性を向上させることができるので、燃料のシール性を向上させることができる。なお、これ以外の効果は前記第1の実施の形態で説明したのと同じである。
【0099】
その後、上記状態(スリーブ17のテーパ部17b3を中間室16a3の壁面に押し付け、また、ニードル19の先端を中間室17a3の傾斜面に押し付けた状態)を維持したまま、スリーブ17を矢印P4に示す方向に予め設定された角度だけ回転し、所望の第1噴孔16cと所望の第2噴孔17cとが離れたところで回転を停止することにより、燃料噴射停止動作を終了する。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の燃料噴射装置およびそれを備える内燃機関は、燃料噴射装置の筐体内に収容された第1燃料制御部材の軸回りの回動および軸方向の移動により燃料噴射を制御することにより、比較的簡単な構造で内燃機関の燃焼室内への燃料噴射の制御性を向上させることができるので、自動車等の燃料噴射装置およびそれを備える内燃機関に利用できる。
【符号の説明】
【0101】
1 ディーゼルエンジン(内燃機関)
2 シリンダ(気筒)
4 キャビティ(燃焼室)
15 インジェクタ(燃料噴射装置)
15a 燃料噴射部
15b ニードル制御部(第2制御部)
16 筐体
16a 中空室
16a1 大径室
16a2 半球面室(小径室)
16a3 中間室
16a4 円錐台形室(小径室)
16b ノズル部
16c 第1噴孔(第1燃料噴射孔)
17 スリーブ(第1燃料制御部材)
17a 中空室
17b1 大径部
17b2 半球面部(小径部)
17b3 テーパ部
17b4 円錐台形部
17c 第2噴孔(第2燃料噴射孔)
17d 燃料供給通路
18 スリーブ制御部(第1制御部)
18a ソレノイド
18a1 コイル部
18a2 鉄心部
18b 超音波モータ
18b1 ステータ部
18b2 ロータ部
18c バネ
18d 台座
18e1,18e2 歯車
18m 電動モータ
19 ニードル(第2燃料制御部材)
25a,25b 溝
26a,26b 突起
S ソレノイド
S1 コイル部
S2 バルブ部
S3 バネ
OR オリフィス
SR バネ
T1 燃料流入管
T2,T3 燃料流通管
T4 燃料流出管
FCR1 第1制御室
FCR2 第2制御室
CMR コマンド室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1中空室を有し、かつ、前記第1中空室と外部とを連通する第1燃料噴射孔を有する筐体を装置本体に備え、前記装置本体に供給された燃料を、前記筐体の前記第1燃料噴射孔から内燃機関の燃焼室に噴射する燃料噴射装置であって、
前記第1中空室に、軸回りの回動および軸方向の移動が可能な状態で収容され、かつ、第2中空室を有する第1燃料制御部材と、
前記第1燃料制御部材の回動および移動を制御する第1制御部と、
前記第2中空室内に、軸方向に移動可能な状態で収容され、該軸方向の移動により前記第1燃料噴射孔への燃料の供給を制御する第2燃料制御部材と、
前記第2燃料制御部材の軸方向の移動を制御する第2制御部とを備え、
前記第1燃料制御部材には、該第1燃料制御部材の外部と前記第2中空室とを連通する第2燃料噴射孔が形成されており、
前記第2燃料噴射孔の出口は、前記第1燃料制御部材の一または複数の位置において、前記第1燃料噴射孔の入口に対向するように設けられており、
前記第1燃料制御部材の回動および軸方向の移動により、前記第1燃料噴射孔の入口と前記第2燃料噴射孔の出口とを対向させることで燃料噴射流路の形成と、該燃料噴射流路の断面積の変更とを行う燃料噴射装置。
【請求項2】
前記第1燃料制御部材の壁面と前記第1中空室の壁面との間の燃料のシール部は、前記第1燃料制御部材において前記第1燃料噴射孔の配置面から離れた位置に配置された第1シール面と、前記第1中空室の壁面において前記第1シール面に対向する第2シール面とを備え、前記第1シール面が、前記第2シール面に当てられた状態で接触することで形成される請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記第1燃料制御部材の外形は、円錐台形状に形成されており、前記第1燃料制御部材の外壁面と、前記第1中空室の壁面とが互いに沿うように形成されている請求項1または2記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料噴射装置を備える内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−220275(P2011−220275A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92072(P2010−92072)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】