説明

燃料電池システムおよび該システムにおける始動時制御方法

【課題】燃料電池システムを氷点下で始動させる際、必要に応じて急速暖機運転を行いつつ、熱集中による耐久性の劣化を抑える。
【解決手段】当該システムの前回運転の運転終了条件、始動時温度等のデータ、あるいは前回掃気時における生成水の残水量をメモリに記憶しておき、当該システムの始動時に該メモリから読み出したデータに基づき生成水の残水量を算出し、該残水量と始動時温度より、当該システムの急速暖機の要否の判断、および急速暖機が必要な場合に冷却水を無循環で始動させるかどうかの判断を行い、該判断手段による判断結果に基づき、冷却水を循環させながら又は循環させずに、燃料電池に供給される反応ガスが通常発電時に比して少なく尚かつ通常発電に比して電力損失が大きい低効率発電を実行する。データは、例えば、当該燃料電池の前回運転終了時のインピーダンスZe、該燃料電池の温度Te、掃気エア量Feである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムおよび該システムにおける始動時制御方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、燃料電池システムの低温時における始動性の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムを始動させる際、燃料電池スタックの温度が水の凍結温度以下(氷点下)であることが検出された場合、通常始動用の制御マップを氷点下始動用制御マップに変更し、該氷点下始動用制御マップに沿って燃料電池システムを始動させることが行われている。その後、燃料電池スタックの温度が凍結温度を超過していることが検出されれば、氷点下始動用制御マップを通常始動用制御マップに変更し、上記通常始動用制御マップに沿って上記燃料電池スタックの始動が行われる。この際、燃料電池の生成水の残水量に基づいて始動方法が変更される場合もある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、このように燃料電池システムを氷点下で始動させる際、発電部位を急速に昇温させ氷点下温度を突破させる急速暖機運転を実施して始動性を向上させるという技術がある。その手法としては、例えば、燃料電池スタック暖機完了前は、燃料電池スタック入口の冷却水圧力を燃料電池システムを定常状態で運転する際に用いる圧力よりも低く制御し、燃料電池スタック暖機完了後は、燃料電池スタック入口の冷却水圧力を定常状態で運転する際に用いる圧力に制御するというものがある(特許文献2参照)。
【0004】
また、寒冷地で燃料電池を起動する際に燃料電池内部で生成水が凍結するのを防止する技術として、温度センサが燃料電池の内部温度を検出するものがある。この場合、燃料電池の内部温度が0℃以下のときには、冷却水ポンプは停止状態となるよう制御され、0℃を超えるときには、内部温度が上昇するのに応じてその駆動量が増加する(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−147139号公報
【特許文献2】特開2005−151597号公報
【特許文献3】特開2003−36874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のように冷却水を循環させずに始動させる手法の場合、熱集中による耐久性の劣化ないし悪化が懸念されることから、なるべく頻度を減らすことが望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、氷点下で始動させる際、必要に応じて急速暖機運転を行いつつ、熱集中による耐久性の劣化を抑えるようにした燃料電池システムおよび該システムにおける始動時制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。燃料電池の耐久性劣化を抑えるためには、氷点下における急速暖機運転の実施回数を減らすことが望ましい。反面、氷点下の状況で始動までに時間を要するのでは使用の実情に沿うことができない。この点、上述した従来手法では、燃料電池スタックの温度が水の凍結温度以下である場合に氷点下始動のマップを切り換える手法が開示されているが、スタックの耐久性を考慮した本発明者は、氷点下でも暖機運転の方法を切り換えることに着目し、種々の検討を重ねた結果、課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0009】
本発明はかかる知見に基づくものであり、燃料電池を含み、氷点下での始動時、冷却水の循環を止めて急速に暖機する急速暖機運転を必要に応じて実施する燃料電池システムであって、当該システムの前回運転の運転終了条件、始動時温度等のデータ、あるいは前回掃気時に算出した当該燃料電池における生成水の残水量を記憶するメモリと、当該システムの始動時に該メモリから読み出したデータに基づき生成水の残水量を算出し、該残水量と始動時温度より、当該システムの急速暖機の要否の判断、および急速暖機が必要な場合に冷却水を無循環で始動させるかどうかの判断を行う判断手段と、該判断手段による判断結果に基づき、冷却水を循環させながら又は循環させずに、燃料電池に供給される反応ガスが通常発電時に比して少なく尚かつ通常発電に比して電力損失が大きい低効率発電を実行する発電制御手段と、を有している。データは、例えば、当該燃料電池の前回運転終了時のインピーダンス、該燃料電池の温度、掃気エア量である。なお、本明細書でいう掃気エア量とは、前回運転終了後、(例えば車両のドライバーによる)イグニッションスイッチのOFF操作時に燃料電池スタックの中の水を排出するために流すエア量のことである。
【0010】
この燃料電池システムにおいては、前回の運転終了条件、始動時温度等より、冷却水を循環させるかどうかの判断を行う。この判断を経ることにより、常に冷却水を循環させないばかりでなく、状況に応じて冷却水を循環させつつ急速暖機運転を行うことができるようになる。したがって、冷却水無循環での始動回数を抑制することが可能となる。
【0011】
燃料電池システムにおける判断手段は、燃料電池のインピーダンスを測定するインピーダンス測定機能と、燃料電池の関連温度を測定する関連温度測定機能とを備え、インピーダンスの測定結果および関連温度の測定結果を含むデータに基づき生成水の残水量を算出するものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、燃料電池車に搭載された燃料電池システムであって、氷点下での始動時、当該燃料電池車が走行可能かどうかの判断を判断手段によって行うものであることも好ましい。
【0013】
また、当該燃料電池の始動時温度‐生成水の残水量(Vw)のグラフを複数のゾーンに分け、当該燃料電池の始動時における始動時温度と残水量とが複数のゾーンのいずれに属するかに応じて冷却水を無循環で始動させるかどうかを判断することが好ましい。
【0014】
さらに、当該燃料電池の始動時温度‐生成水の残水量(Vw)のグラフを複数のゾーンに分け、当該燃料電池の始動時における始動時温度と残水量の関係に応じて冷却水を無循環で始動させるかどうか、および当該燃料電池車が暖機運転なしで走行可能かどうかを判断することも好ましい。
【0015】
また、燃料電池の始動時温度‐生成水の残水量(Vw)のグラフとして、曲線によって閉じられた空間により複数のゾーンに分けられたものが用いられることも好ましい。
【0016】
あるいは、燃料電池の始動時温度‐生成水の残水量(Vw)のグラフとして、反比例グラフの曲線ないしは双曲線に近似した2ないしは3の曲線により複数のゾーンに分けられたものが用いられることも好ましい。
【0017】
また、本発明にかかる制御方法は、氷点下での始動時、冷却水の循環を止めて急速に暖機する急速暖機運転を必要に応じて実施する燃料電池システムにおける始動時制御方法であって、当該システムの前回運転の運転終了条件、始動時温度等のデータ、あるいは前回掃気時に算出した当該燃料電池における生成水の残水量をメモリに記憶しておき、当該システムの始動時に該メモリから読み出したデータに基づき生成水の残水量を算出し、該残水量と始動時温度より、当該システムの急速暖機の要否の判断、および急速暖機が必要な場合に冷却水を無循環で始動させるかどうかの判断を行い、該判断手段による判断結果に基づき、冷却水を循環させながら又は循環させずに、燃料電池に供給される反応ガスが通常発電時に比して少なく尚かつ通常発電に比して電力損失が大きい低効率発電を実行するというものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料電池システムを氷点下で始動させる際、熱集中による耐久性の劣化を抑えつつ必要に応じて急速暖機運転することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図2】燃料電池の出力電流(FC電流)と出力電圧(FC電圧)との関係を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態におけるシステム始動時の制御方法を示すフローチャートである。
【図4】縦軸が始動時のFC温度、横軸が残水量Vwを表すグラフであって、一例としてI,II,IIIの3つのゾーンが設定されたものを示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態におけるシステム始動時の制御方法を示すフローチャートである。
【図6】始動時FC温度‐残水量Vwのグラフであって、一例としてI〜IVの4つのゾーンが設定されたものを示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態における始動時FC温度‐残水量VwのグラフであってI〜IIIの3つのゾーンが設定されたものを示す図である。
【図8】本発明の第4の実施形態における始動時FC温度‐残水量VwのグラフであってI〜IVの4つのゾーンが設定されたものを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施形態における燃料電池システム1の構成図である。燃料電池システム1は、燃料電池自動車(FCHV)、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両100に搭載できる。ただし、燃料電池システム1は、車両100以外の各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボット等)や定置型電源、さらには携帯型燃料電池システムにも適用可能である。
【0022】
燃料電池システム1は、燃料電池2と、酸化ガスとしての空気を燃料電池2に供給する酸化ガス配管系3と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池2に供給する燃料ガス配管系4と、燃料電池2に冷媒を供給する冷媒配管系5と、システム1の電力を充放電する電力系6と、システム1の運転を統括制御する制御装置7と、を備える。酸化ガス及び燃料ガスは、反応ガスと総称できる。
【0023】
燃料電池2は、例えば固体高分子電解質型燃料電池で構成され、多数の単セルを積層したスタック構造となっている。単セルは、プロトン導電性を有する固体高分子膜を電解質層に備えており、電解質の一方の面に空気極(カソード)を有し、他方の面に燃料極(アノード)を有し、さらに空気極及び燃料極を両側から挟みこむように一対のセパレータを有する。一方のセパレータの酸化ガス流路2aに酸化ガスが供給され、他方のセパレータの燃料ガス流路2bに燃料ガスが供給される。供給された燃料ガス及び酸化ガスの電気化学反応により、燃料電池2は電力を発生する。
【0024】
酸化ガス配管系3は、燃料電池2に供給される酸化ガスが流れる供給路11と、燃料電池2から排出された酸化オフガスが流れる排出路12と、を有する。供給路11は、酸化ガス流路2aを介して排出路12に連通する。酸化オフガスは、燃料電池2の電池反応により生成された水分を含むため高湿潤状態となっている。
【0025】
供給路11には、エアクリーナ13を介して外気を取り込むコンプレッサ14と、コンプレッサ14により燃料電池2に圧送される酸化ガスを加湿する加湿器15と、が設けられる。加湿器15は、供給路11を流れる低湿潤状態の酸化ガスと、排出路12を流れる高湿潤状態の酸化オフガスとの間で水分交換を行い、燃料電池2に供給される酸化ガスを適度に加湿する。
【0026】
燃料電池2の空気極側の背圧は、カソード出口付近の排出路12に配設された背圧調整弁16によって調整される。背圧調整弁16の近傍には、排出路12内の圧力を検出する圧力センサP1が設けられる。酸化オフガスは、背圧調整弁16及び加湿器15を経て最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排気される。
【0027】
燃料ガス配管系4は、水素供給源21と、水素供給源21から燃料電池2に供給される水素ガスが流れる供給路22と、燃料電池2から排出された水素オフガス(燃料オフガス)を供給路22の合流点Aに戻すための循環路23と、循環路23内の水素オフガスを供給路22に圧送するポンプ24と、循環路23に分岐接続されたパージ路25と、を有する。元弁26を開くことで水素供給源21から供給路22に流出した水素ガスは、調圧弁27その他の減圧弁、及び遮断弁28を経て、燃料電池2に供給される。パージ路25には、水素オフガスを水素希釈器(図示省略)に排出するためのパージ弁33が設けられる。
【0028】
冷媒配管系(冷却機構)5は、燃料電池2内の冷却流路2cに連通する冷媒流路41と、冷媒流路41に設けられた冷却ポンプ42と、燃料電池2から排出される冷媒を冷却するラジエータ43と、ラジエータ43をバイパスするバイパス流路44と、ラジエータ43及びバイパス流路44への冷却水の通流を設定する切替え弁45と、を有する。冷媒流路41は、燃料電池2の冷媒入口の近傍に設けられた温度センサ46と、燃料電池2の冷媒出口の近傍に設けられた温度センサ47と、を有する。温度センサ47が検出する冷媒温度(燃料電池の関連温度)は、燃料電池2の内部温度(以下、FC温度という。)を反映する。なお、温度センサ47は、冷媒温度の代わりに(あるいは加えて)、燃料電池周辺の部品温度(燃料電池の関連温度)や燃料電池周辺の外気温度(燃料電池の関連温度)を検出するようにしても良い。また、燃料電池の冷却ポンプ42は、モータ駆動により、冷媒流路41内の冷媒を燃料電池2に循環供給する。
【0029】
電力系6は、高圧DC/DCコンバータ61、バッテリ62、トラクションインバータ63、トラクションモータ64、及び各種の補機インバータ65,66,67を備えている。高圧DC/DCコンバータ61は、直流の電圧変換器であり、バッテリ62から入力された直流電圧を調整してトラクションインバータ63側に出力する機能と、燃料電池2又はトラクションモータ64から入力された直流電圧を調整してバッテリ62に出力する機能と、を有する。高圧DC/DCコンバータ61のこれらの機能により、バッテリ62の充放電が実現される。また、高圧DC/DCコンバータ61により、燃料電池2の出力電圧が制御される。
【0030】
バッテリ(蓄電器)62は、充放電可能な二次電池であり、例えばニッケル水素バッテリなどにより構成されている。その他、種々のタイプの二次電池を適用することができる。また、バッテリ62に代えて、二次電池以外の充放電可能な蓄電器、例えばキャパシタを用いても良い。
【0031】
トラクションインバータ63は、直流電流を三相交流に変換し、トラクションモータ64に供給する。トラクションモータ64は、例えば三相交流モータである。トラクションモータ64は、燃料電池システム1が搭載される例えば車両100の主動力源を構成し、車両100の車輪101L,101Rに連結される。補機インバータ65、66、67は、それぞれ、コンプレッサ14、ポンプ24、冷却ポンプ42のモータの駆動を制御する。
【0032】
制御装置7は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プラグラムに従って所望の演算を実行して、通常運転の制御及び後述する暖機運転の制御など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。
【0033】
タイマー70、電圧センサ72及び電流センサ73は、制御装置7に接続される。タイマー70は、燃料電池システム1の運転を制御するために必要な各種の時間を計測する。電圧センサ72は、燃料電池2の出力電圧(FC電圧)を検出する。具体的には、電圧センサ72は、燃料電池2の多数の単セルの個々が発電する電圧(以下、「セル電圧」という。)を検出する。これにより、燃料電池2の各単セルの状態が把握される。電流センサ73は、燃料電池2の出力電流(FC電流)を検出する。
【0034】
制御装置7は、各種の圧力センサP1や温度センサ46、47、並びに車両100のアクセル開度を検出するアクセル開度センサなど、各種センサからの検出信号を入力し、各構成要素(コンプレッサ14、背圧調整弁16など)に制御信号を出力する。また、制御装置7は、所定のタイミングで燃料電池2の水分状態の診断等を行い、診断結果に基づき燃料電池2の水分制御を行う。
【0035】
本実施形態では、燃料電池システム1の始動時、必要に応じて低効率発電を実施し、燃料電池2に供給される反応ガスが通常発電時に比して少なく尚かつ通常発電に比して電力損失が大きくなるようにし、これによって急速暖機を行うようにしている。ここで、低効率発電と通常発電の相違について説明すると以下のとおりである(図2参照)。
【0036】
図2は、燃料電池の出力電流(FC電流)と出力電圧(FC電圧)との関係を示す図であり、通常発電を行った場合が実線で示され、低効率発電を行った場合が点線で示されている。なお、横軸はFC電流、縦軸はFC電圧をあらわしている。
【0037】
ここで、低効率発電とは、燃料電池2に供給される反応ガス(本実施形態では、酸化ガス)が通常発電時に比して少なく、かつ通常発電に比して電力損失が大きい発電をいい、例えばエアストイキ比を1.0付近(理論値)に絞った状態で燃料電池2を運転する(図2の点線部分参照)。このように、電力損失を大きく設定することで、燃料電池2を急速暖機することが可能となる。一方、通常発電の際には、電力損失を抑えて高い発電効率が得られるように、例えばエアストイキ比を2.0以上(理論値)に設定した状態で燃料電池2を運転する(図2の実線部分参照)。制御装置7は、必要に応じ、燃料電池2に供給される反応ガスが通常発電時に比して少なく尚かつ通常発電に比して電力損失が大きい低効率発電を実行する発電制御手段として機能する。
【0038】
次に、インピーダンス測定等について説明しておく。
【0039】
まず、制御装置7は、燃料電池2の水分状態を診断すべきタイミング(以下、診断タイミング)が到来したか否かを判断する。診断タイミングは、例えば燃料電池システム1の運転終了時や始動時である。本実施形態の制御装置7は、例えば車両100のドライバーによるイグニッションスイッチのOFF操作等によって、燃料電池システム1の運転終了指令が入力されたことを検知し、診断タイミングが到来したと判断する。
【0040】
制御装置(インピーダンス測定手段)7は、燃料電池2のインピーダンス測定を行い、測定結果に基づき燃料電池2の水分状態を診断する。本実施形態の制御装置(インピーダンス測定手段)7は、電圧センサ72によって検出されるFC電圧及び電流センサ73によって検出されるFC電流を所定のサンプリングレートでサンプリングし、フーリエ変換処理(FFT演算処理やDFT演算処理)などを施す。そして、制御装置(インピーダンス測定手段)7は、フーリエ変換処理後のFC電圧信号をフーリエ変換処理後のFC電流信号で除するなどして燃料電池2のインピーダンスを測定する。
【0041】
そして、制御装置7は、基準インピーダンスメモリ92に格納されている基準インピーダンスIPthを読み出し、読み出した基準インピーダンスIPthと測定したインピーダンス(以下、測定インピーダンス)とを比較する。
【0042】
ここで、基準インピーダンスIPthは、燃料電池2が乾燥状態にあるか否かを判断するための基準値であり、予め実験などによって求められる。具体的には、実験などによって燃料電池2が乾燥状態にあるか否かを判断するためのインピーダンスを求め、これをマップ化して基準インピーダンスメモリ92に格納しておく。
【0043】
また、制御装置7は、温度センサ47によって検知されるFC温度(以下、検知FC温度)と、基準FC温度メモリ91に格納されている基準FC温度とを比較する。ここで、基準FC温度Tthは、燃料電池2が低効率発電を許可するか否かを判断するための基準値であり、予め実験などによって求められる。具体的には、実験などによって低効率発電を許可するか否かを判断するためのFC温度を求め、これをマップ化して基準FC温度メモリ91に格納しておく。
【0044】
次に、本実施形態の燃料電池システム1における始動時制御の具体例を示す(図3〜図8参照)。
【0045】
<第1の実施形態>
まず、この燃料電池システム1においては、当該システムの前回運転終了時の燃料電池2の温度(FC温度)Te、インピーダンスZe、掃気エア量(前回運転終了後、例えば車両のドライバーによるイグニッションスイッチのOFF操作時に燃料電池スタックの中の水を排出するために流すエア量)Feをメモリ(基準FC温度メモリ91、基準インピーダンスメモリ92、基準掃気エア量メモリ93)に記憶しておき、いつでも読み出せるようにしている。燃料電池システム1の始動時には、これらメモリ91〜93に記憶されている各データを読み出し、これらデータに基づいて燃料電池2の残水量Vwを算出する(ステップSP1)。残水量Vwは、前回の掃気時に算出してメモリしておいたデータを用いてもよい。あるいは、当該残水量Vwを例えば以下の式によって算出することができる。
[数1]
インピーダンスから求められる残水量V1=E/(Z0−F)+G
【0046】
ここで、数式1中のZ0は常温インピーダンスであり、
[数2]
常温インピーダンスZ0=A*(Te−B)*(Ze−C)+C
によって求めることができる。ただし、A,B,C,D,E,F,Gのそれぞれは、システムによって変化する定数である。
【0047】
また、残水量Vwは、掃気エア量Feを用い、下記数式3から算出することもできる。ただし、Peは温度Teでの飽和水蒸気圧、J,Hはシステムによって変化する定数である。
[数3]
掃気エア量から求められる残水量V2=J−H*Σ(Fe*Pe)
【0048】
以上のように数式1および数式3のそれぞれに基づいて2種類の残水量V1,V2を求めたら、Vw=MAX(V1,V2)により残水量Vwを求めることができる。すなわち、上述した2種類の残水量V1,V2のうち大きい方の値を残水量Vwとして扱う。
【0049】
続いて、残水量Vwと、始動時のFC温度とから、車両100の走行可否、急速暖機の要否、および急速暖機時に冷却水(FCC)を無循環とするか否かの判断をする(ステップSP2)。本実施形態では、縦軸が始動時のFC温度、横軸が残水量Vwを表すグラフ中にI,II,IIIの各ゾーン(領域)を設定し、残水量Vwと始動時のFC温度との組合せがどのゾーンに位置するかによって車両100の走行可否等を決定している(図4参照)。
【0050】
具体的に説明すると、所定範囲内において始動時FC温度が高く、残水量Vwが少ない(ドライである)領域であるIゾーンに該当した場合、制御装置7は、車両100が走行可能であり尚かつ冷却水(FCC)を循環させながらの急速暖機が可能であると判断する(ステップSP3)。また、始動時FC温度が低く、残水量Vwが多い(ウェットである)領域であるIIIゾーンに該当した場合、制御装置7は、車両100は停車状態で(走行不可で)、冷却水を循環させずに急速暖機を行うと判断する(ステップSP5)。さらに、始動時FC温度および残水量VwがこれらIゾーンとIIIゾーンのいずれにも該当せず、これらの間のIIゾーンに該当した場合、制御装置7は、車両100は停車状態で(走行不可で)、冷却水を循環させながらの急速暖機を行うと判断する(ステップSP4)。
【0051】
本実施形態の場合、上述のIゾーンでは、車両走行しながらの急速暖機を行う(出力電
流(FC電流)と出力電圧(FC電圧)との関係を示す図2(I−V曲線)中において、I−Vポイントが出力側に動きくため暖機が遅れる)。また、IIゾーン、IIIゾーンでは停車状態で急速暖機を行う(暖機で氷点を突破させることが可能である)。
【0052】
なお、本実施形態では、Iゾーンに該当するとの判断がなされた場合にも、まずはIIゾーンに該当した場合の暖機処理を行い、その後、Iゾーンに対応する処理に移行するようにしている。すなわち、車両100に搭載された燃料電池システム1を対象としている本実施形態の場合、停車状態でシステム始動が行われることになるため、Iゾーンに該当して走行可能だとの判断がなされた場合にも、まずはIIゾーンに該当した場合のように停車状態での暖機処理を行い、その後、Iゾーンに対応する処理に移行する(図3参照)。
【0053】
このように、本実施形態では、燃料電池システム1の始動時におけるFC温度と残水量Vwとの関係をゾーン分けしておくことにより、当該燃料電池システム1の利便性と耐久性を同時に向上させることとしている。すなわち、当該システム1において急速暖機を行う際、上述のIIIゾーンに該当したような場合のみ冷却水無循環の状態下で急速暖機を行うようにし、冷却水を循環させない(つまり無循環の)状況下での急速暖機の実施頻度を抑えているので、熱集中により耐久性が劣化するのを抑えることができる。
【0054】
また、ゾーンの数に応じた種類の急速暖機態様をあらかじめ設定しておき、FC温度と残水量Vwとの関係に応じていずれの急速暖機を行うか決定すればよいため特にシステム始動時における利便性が高い。より具体的に説明すると、まずはもっとも頻度が高いIゾーンの場合、すぐに走行可能状態となり、ドライバー等のユーザーを待たせずに済むためユーザビリティが悪化するようなことがない。逆に、IIIゾーンは頻度が低いものであるが、該当した場合には冷却水の循環を止めて急速に暖機することとし、厳寒下でユーザーが待つ時間を極力少なくする。また、このように必要に応じて冷却水の循環を止めて急速暖機することは当該ドライバー等の不安面を和らげることにもなる。さらに、IIゾーンの場合、急速暖機によりユーザーが待つ時間を短縮するとともに、冷却水を循環させながら急速暖機を行うことにより燃料電池2の耐久性劣化を抑えるという効果がある。
【0055】
<第2の実施形態>
上述した第1の実施形態ではFC温度と残水量Vwとのグラフ中に3つのゾーン(領域)を設定したが、これ以外の数のゾーンとしてもよい。例えば本実施形態では、縦軸が始動時のFC温度、横軸が残水量Vwを表すグラフ中にI〜IVの4つのゾーン(領域)を設定し、残水量Vwと始動時のFC温度との組合せがどのゾーンに位置するかによって車両100の走行可否等を決定する(図5、図6参照)。
【0056】
まず、当該燃料電池システム1の前回運転終了時の燃料電池2の温度(FC温度)Te、インピーダンスZe、掃気エア量Feをメモリ(基準FC温度メモリ91、基準インピーダンスメモリ92、基準掃気エア量メモリ93)に記憶しておく。燃料電池システム1の始動時には、これらメモリ91〜93に記憶されている各データを読み出し、これらデータに基づいて燃料電池2の残水量Vwを算出する(ステップSP11)。残水量Vwは、上述した実施形態と同様、数式1〜3に基づいてインピーダンスから求められる残水量V1と掃気エア量から求められる残水量V2とを算出し、大きい方の値を選択することによって得ることができる。
【0057】
その後、残水量Vwと、始動時のFC温度とから、車両100の走行可否、急速暖機の要否、および急速暖機時に冷却水(FCC)を無循環とするか否かの判断をする(ステップSP12)。本実施形態では、縦軸が始動時のFC温度、横軸が残水量Vwを表すグラフ中にI,II,III,IVの各ゾーン(領域)を設定してあり、残水量Vwと始動時のFC温度との組合せがどのゾーンに位置するかによって車両100の走行可否等を決定している。
【0058】
具体的に説明すると、始動時FC温度が高く、残水量Vwが少ない(ドライである)領域であるIゾーンに該当した場合、制御装置7は、車両100が走行可能であり急速暖機の必要はないと判断する(ステップSP13)。一方、始動時FC温度が低く、残水量Vwが多い(ウェットである)領域であるIVゾーンに該当した場合、制御装置7は、車両100は停車状態で(走行不可で)、冷却水を循環させずに急速暖機を行うと判断する(ステップSP16)。また、始動時FC温度と残水量Vwが、IゾーンとIVゾーンの間でIゾーン寄りであるIIゾーンに該当した場合、制御装置7は、車両100が走行可能であるが急速暖機の必要があると判断する(ステップSP14)。この場合の急速暖機は冷却水を循環させながら行うものである。さらに、始動時FC温度と残水量Vwが該IIゾーンとIVゾーンの間のIIIゾーンに該当した場合、制御装置7は、車両100は停車状態で(走行不可で)急速暖機の必要があると判断する(ステップSP15)。この場合の急速暖機も冷却水を循環させながら行うものである。
【0059】
なお、本実施形態においては、IゾーンまたはIIゾーンに該当するとの判断がなされた場合、まずはIIIゾーンに該当した場合の暖機処理を行い、その後、IIゾーンに対応する処理、さらに状況に応じてIゾーンに対応する処理に移行する。これは、上述した第1の実施形態と同様、車両100に搭載された燃料電池システム1を対象としている本実施形態では、停車状態でシステム始動が行われることになるため、IゾーンまたはIIゾーンに該当して走行可能だとの判断がなされた場合にも、まずはIIIゾーンに該当した場合のように停車状態での暖機処理を行い、その後、IIゾーン、場合によってはIゾーンに対応する処理に移行する(図3参照)。なお、Iゾーン、IIゾーン、IIIゾーンは最初からこのように区別しておいてよい。
【0060】
<第3の実施形態>
上述した第1、第2の実施形態ではFC温度と残水量Vwとのグラフ中に略楕円形状のゾーンを設定したが(図4、図6参照)、ゾーンの形状をこれ以外とすることもできる。例えば本実施形態では、2本の曲線(例えば、反比例グラフの曲線ないしは双曲線に近似した曲線)によって、始動時FC温度が高く残水量Vwが少ない(ドライである)Iゾーン、始動時FC温度が低く残水量Vwが多い(ウェットである)IIIゾーン、両ゾーンの中間であるIIゾーンの3つのゾーンに区切っている(図7参照)。なお、残水量Vwの算出や、車両100の走行可否、急速暖機の要否、および急速暖機時に冷却水(FCC)を無循環とするか否かの判断は、第1の実施形態と同様に行うことができる。
【0061】
<第4の実施形態>
本実施形態では、3本の曲線(例えば、反比例グラフの曲線ないしは双曲線に近似した曲線)によって、始動時FC温度が高く残水量Vwが少ない(ドライである)Iゾーン、始動時FC温度が低く残水量Vwが多い(ウェットである)IVゾーン、両ゾーンの間に位置するIIゾーンおよびIIIゾーンの4つのゾーンに区切っている(図8参照)。残水量Vwの算出や、車両100の走行可否、急速暖機の要否、および急速暖機時に冷却水(FCC)を無循環とするか否かの判断は、第2の実施形態と同様に行うことができる。
【0062】
なお、上述した実施形態は本発明の好適な実施例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、氷点下で燃料電池システムを始動させる際、必要に応じて急速暖機運転を行いつつ、熱集中による耐久性の劣化を抑えることができる。よって、本発明は、そのような要求のある燃料電池システムにおいて広く利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1…燃料電池システム、2…燃料電池、7…制御装置(判断手段、発電制御手段)、91…基準FC温度メモリ(メモリ)、92…基準インピーダンスメモリ(メモリ)、93…基準掃気エア量メモリ(メモリ)、100…車両、Fe…掃気エア量、Te…前回終了時の燃料電池の温度、Vw…残水量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を含み、氷点下での始動時、冷却水の循環を止めて急速に暖機する急速暖機運転を必要に応じて実施する燃料電池システムであって、
当該システムの前回運転の運転終了条件、始動時温度等のデータ、あるいは前回掃気時に算出した当該燃料電池における生成水の残水量を記憶するメモリと、
当該システムの始動時に該メモリから読み出したデータに基づき前記生成水の残水量を算出し、該残水量と始動時温度より、当該システムの急速暖機の要否の判断、および急速暖機が必要な場合に前記冷却水を無循環で始動させるかどうかの判断を行う判断手段と、
該判断手段による判断結果に基づき、前記冷却水を循環させながら又は循環させずに、前記燃料電池に供給される反応ガスが通常発電時に比して少なく尚かつ前記通常発電に比して電力損失が大きい低効率発電を実行する発電制御手段と、
を有することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記判断手段は、前記燃料電池のインピーダンスを測定するインピーダンス測定機能と、前記燃料電池の関連温度を測定する関連温度測定機能とを備え、前記インピーダンスの測定結果および前記関連温度の測定結果を含むデータに基づき前記生成水の残水量を算出する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記データは、当該燃料電池の前回運転終了時のインピーダンス、該燃料電池の温度、掃気エア量である、請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
燃料電池車に搭載された燃料電池システムであって、氷点下での始動時、当該燃料電池車が走行可能かどうかの判断を前記判断手段によって行う、請求項1から3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
当該燃料電池の始動時温度‐前記生成水の残水量(Vw)のグラフを複数のゾーンに分け、当該燃料電池の始動時における前記始動時温度と前記残水量とが前記複数のゾーンのいずれに属するかに応じて前記冷却水を無循環で始動させるかどうかを判断する、請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
当該燃料電池の始動時温度‐前記生成水の残水量(Vw)のグラフを複数のゾーンに分け、当該燃料電池の始動時における前記始動時温度と前記残水量の関係に応じて前記冷却水を無循環で始動させるかどうか、および当該燃料電池車が暖機運転なしで走行可能かどうかを判断する、請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記燃料電池の始動時温度‐前記生成水の残水量(Vw)のグラフとして、曲線によって閉じられた空間により複数のゾーンに分けられたものが用いられる、請求項5または6に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記燃料電池の始動時温度‐前記生成水の残水量(Vw)のグラフとして、反比例グラフの曲線ないしは双曲線に近似した2ないしは3の曲線により複数のゾーンに分けられたものが用いられる、請求項5または6に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
氷点下での始動時、冷却水の循環を止めて急速に暖機する急速暖機運転を必要に応じて実施する燃料電池システムにおける始動時制御方法であって、
当該システムの前回運転の運転終了条件、始動時温度等のデータ、あるいは前回掃気時に算出した当該燃料電池における生成水の残水量をメモリに記憶しておき、
当該システムの始動時に該メモリから読み出したデータに基づき前記生成水の残水量を算出し、該残水量と始動時温度より、当該システムの急速暖機の要否の判断、および急速暖機が必要な場合に前記冷却水を無循環で始動させるかどうかの判断を行い、
該判断手段による判断結果に基づき、前記冷却水を循環させながら又は循環させずに、前記燃料電池に供給される反応ガスが通常発電時に比して少なく尚かつ前記通常発電に比して電力損失が大きい低効率発電を実行する、燃料電池システムにおける始動時制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−186599(P2010−186599A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28728(P2009−28728)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】