燃料電池システムの出力制御方法
【課題】燃料電池の劣化を抑制しつつ、燃料電池の出力を効果的に利用することができる燃料電池システムの出力制御方法を提供する。
【解決手段】燃料電池システム11の出力制御方法では、燃料電池14の運転領域における第1出力領域と、前記第1出力領域より低出力側の第2出力領域とで許容される単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量が異なっており、前記第2出力領域で許容される単位時間当たりの前記燃料電池14の許容出力変化量は、前記第1出力領域で許容される前記単位時間当たりの前記燃料電池14の出力変化量よりも小さい。
【解決手段】燃料電池システム11の出力制御方法では、燃料電池14の運転領域における第1出力領域と、前記第1出力領域より低出力側の第2出力領域とで許容される単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量が異なっており、前記第2出力領域で許容される単位時間当たりの前記燃料電池14の許容出力変化量は、前記第1出力領域で許容される前記単位時間当たりの前記燃料電池14の出力変化量よりも小さい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池と負荷とを備える燃料電池システムの出力制御方法に関する。より詳細には、燃料電池の劣化を抑制しつつ、燃料電池の出力を効率的に利用することができる燃料電池システムの出力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池の研究開発が盛んである。そのテーマの1つに燃料電池の出力制御があり、そのための技術が開発されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1では、セル電圧が閾値より低くなったとき燃料電池を停止させることで燃料電池の劣化抑制を図っている(例えば、特許文献1の要約参照)。
【0004】
特許文献2では、車両の運転性能(ドライバビリティ)に影響を与えることなく、燃料電池の出力制限を解除できるようにするために、燃料電池(20)の出力制限中に燃料電池の出力可能な電力量が燃料電池に要求される電力量を上回った場合に、出力制限を解除する(引用文献2の要約参照)。
【0005】
特許文献3では、燃料電池の保護等の観点から、燃料電池(30)の出力制限値(Wout)を設定し、この出力制限値に基づく出力制限を行う(例えば、特許文献3の段落[0003]、[0024])。前記出力制限値(Wout)は、燃料電池温度(Tfc)、セル間電圧(Vcel)、燃料電池の電圧(Vfc)、燃料電池の電流(Ifc)、エアコンプレッサ温度(Tac)等に基づいて計算される(特許文献3の段落[0024])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−243882号公報
【特許文献2】特開2006−202695号公報
【特許文献3】特開2005−304179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3における燃料電池の劣化抑制及び燃料電池の出力の効果的な利用の試みは十分ではない。
【0008】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、燃料電池の劣化を抑制しつつ、燃料電池の出力を効果的に利用することができる燃料電池システムの出力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る燃料電池システムの出力制御方法は、燃料電池と負荷とを備える燃料電池システムの出力制御方法であって、前記燃料電池の運転領域における第1出力領域と、前記第1出力領域より低出力側の第2出力領域とで許容される単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量が異なっており、前記第2出力領域で許容される前記単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量は、前記第1出力領域で許容される前記単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量よりも小さいことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、燃料電池の電圧変化を制限することで燃料電池の劣化を抑制しつつ、燃料電池の出力を効果的に利用することができる。
【0011】
すなわち、一般的な燃料電池の特性として、燃料電池の出力が低くなるほど2次関数的に電圧が変化する。換言すると、燃料電池は、低出力になるほど燃料電池の出力変化量に対する電圧変化量が大きくなる。そして、電圧変化が大きいほど、燃料電池は劣化が進む。この発明によれば、高出力側の第1出力領域と比べ、低出力側の第2出力領域では、許容される単位時間当たりの燃料電池の出力変化量が小さい。これにより、燃料電池の電圧変化を制限し、燃料電池の劣化を抑制することができる。
【0012】
その一方、上記とは反対に、燃料電池は、高出力になるほど燃料電池の出力変化量に対する電圧変化量が小さくなる。従って、高出力側では、燃料電池の出力変化を大きくしても、低出力側と比べて、電圧変化はそれほど大きくならない。この発明によれば、低出力側の第2出力領域と比べ、高出力側の第1出力領域では、許容される単位時間当たりの燃料電池の出力変化量が大きい。これにより、出力変化が比較的劣化につながらない高出力側では、燃料電池の出力性能をより効率的に発揮させることが可能となる。従って、燃料電池の出力を効果的に利用することができる。
【0013】
前記第2出力領域は、単位時間当たりの前記燃料電池の電圧変化量が一定値以内になるように前記単位時間当たりに許容される前記出力変化量が定まっており、前記第1出力領域は、前記単位時間当たりの前記電圧変化量が制限されていないか、又は前記一定値より大きい値以内になるように制限されていてもよい。これにより、燃料電池の劣化により燃料電池の電流−電圧特性に変化が生じて燃料電池の出力電流の変化に対する出力電圧の変化が大きくなっても、単位時間当たりの燃料電池の電圧変化量を一定値以内に保持することが可能となる。
【0014】
前記燃料電池システムは、前記燃料電池の目標電力又は目標電流に基づき前記燃料電池の目標電圧を決定し、DC/DCコンバータにより前記燃料電池の電圧を前記目標電圧に合わせ込むようにフィードバック制御するシステムであって、前記第1出力領域及び前記第2出力領域における前記燃料電池の出力は、前記目標電力又は前記目標電流を制限することで前記単位時間当たりの前記出力変化量が許容範囲内に収まるようにしてもよい。これにより、DC/DCコンバータに対する目標電圧を算出する前に、燃料電池の目標電力又は目標電流の変化を制限することができる。従って、DC/DCコンバータに対する目標電圧の算出において前記制限を反映させる場合と比べて、演算を簡素化することが可能となる。
【0015】
前記燃料電池システムは、さらに、バッテリを備え、前記燃料電池の出力のみでは、前記燃料電池システムの出力要求を満たせないとき、前記出力要求の不足分を前記バッテリの出力により補償してもよい。これにより、燃料電池システムの出力要求について、燃料電池の出力では不足する分をバッテリにより補償することができるため、燃料電池システムの出力要求を満たしつつ、燃料電池の劣化を抑制することができる。
【0016】
上記に代えて、単に、単位時間当たりの前記燃料電池の電圧変化量に制限を設けることで前記燃料電池の出力を制限してもよい。これにより、簡易な制御で燃料電池の出力制御を効果的に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、燃料電池の電圧変化を制限することで燃料電池の劣化を抑制しつつ、燃料電池の出力を効果的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の第1実施形態に係る出力制御方法を実施する燃料電池システムを搭載した燃料電池車両の概略全体構成図である。
【図2】上記第1実施形態に係るDC/DCコンバータの詳細な構成を示す回路図である。
【図3】前記燃料電池車両に搭載されたDC/DCコンバータの基本制御のフローチャートである。
【図4】前記燃料電池車両に搭載された燃料電池の出力−電圧特性を示す図である。
【図5】上記第1実施形態における燃料電池の出力制御特性と、比較例における燃料電池の出力制御特性を示す説明図である。
【図6】上記第1実施形態における燃料電池の電圧−電圧変化量特性と、比較例における燃料電池の電圧−電圧変化量特性を示す説明図である。
【図7】比較例の燃料電池の出力と前記第1実施形態の燃料電池の出力について、出力変化と電圧変化を出力の大きさで分類した表である。
【図8】前記燃料電池車両が巡航している状態から全速力の状態に移行した場面における燃料電池の出力とバッテリの出力の関係の一例を模式的に示す図である。
【図9】単位時間当たりの燃料電池の出力変化量を制限するフローチャートである。
【図10】この発明の第2実施形態に係る出力制御方法を実施する燃料電池システムを搭載した燃料電池車両の概略全体構成図である。
【図11】前記第2実施形態において目標2次電圧を決定するフローチャートである。
【図12】前記第2実施形態において電流減算量の決定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.第1実施形態
1.全体的な構成の説明
[全体構成]
図1は、この発明の第1実施形態に係る出力制御方法を実施する燃料電池システム11を搭載した燃料電池車両10(以下「FC車両10」ともいう。)の概略全体構成図である。
【0020】
このFC車両10は、基本的には、1次側1Sに1次電圧V1を発生する第1直流電源装置としてのバッテリ12と2次側2Sに2次電圧V2を発生する第2直流電源装置としての燃料電池(Fuel Cell)14とから構成されるハイブリッド直流電源装置と、このハイブリッド直流電源装置から電力が供給される負荷である走行用のモータ16とから構成される。
【0021】
[燃料電池とそのシステム]
燃料電池14は、例えば固体高分子電解質膜をアノード電極とカソード電極とで両側から挟み込んで形成されたセルを積層したスタック構造にされている。燃料電池14には、反応ガス供給部18が配管を通じて接続されている。反応ガス供給部18は、一方の反応ガスである水素(燃料ガス)を貯留する水素タンクと、他方の反応ガスである空気(酸化剤ガス)を圧縮するコンプレッサを備えている。反応ガス供給部18から燃料電池14に供給された水素と空気の燃料電池14内での電気化学反応により生成された発電電流がダイオード13を介してモータ16とバッテリ12に供給される。
【0022】
燃料電池14の出力電圧(以下「FC電圧Vfc」という。)[V]は、電圧センサ19により検出される。
【0023】
燃料電池システム11は、燃料電池14及び反応ガス供給部18とこれらを制御する燃料電池制御部(FC制御部)44とから構成される。
【0024】
[DC/DCコンバータ]
DC/DCコンバータ20は、一方側が前記バッテリ12に接続され、他方側が燃料電池14とモータ16との接続点である2次側2Sに接続されたチョッパ型の電圧変換装置である。
【0025】
DC/DCコンバータ20は、1次電圧V1を2次電圧V2(V1≦V2)に電圧変換(昇圧変換)するとともに、2次電圧V2を1次電圧V1に電圧変換(降圧変換)する昇降圧型の電圧変換装置である。
【0026】
[インバータとモータ及びドライブ系]
インバータ22は、3相フルブリッジ型の構成とされて、直流/交流変換を行い、直流を3相の交流に変換してモータ16に供給する一方、回生動作に伴う交流/直流変換後の直流を2次側2SからDC/DCコンバータ20を通じて1次側1Sに供給し、バッテリ12を充電等する。
【0027】
モータ16は、トランスミッション24を通じて車輪26を回転する。なお、実際上、インバータ22とモータ16を併せて負荷23という。
【0028】
[高圧バッテリ]
1次側1Sに接続される高圧(High Voltage)のバッテリ12は、蓄電装置(エネルギストレージ)であり、例えばリチウムイオン2次電池又はキャパシタ等を利用することができる。第1実施形態ではリチウムイオン2次電池を利用している。
【0029】
[各種センサ、メインスイッチ及び通信線]
メインスイッチ(電源スイッチ)34と各種センサ36が統括制御部40に接続される。メインスイッチ34は、FC車両10及び燃料電池システム11をオン(起動又は始動)オフ(停止)するイグニッションスイッチとしての機能を有する。各種センサ36は、車両状態及び環境状態等の状態情報を検出する。通信線38としては、車内LANであるCAN(Controller Area Network)等が使用される。
【0030】
[制御部]
通信線38に対して、統括制御部40、FC制御部44、モータ制御部46、コンバータ制御部48、及びバッテリ制御部52が相互に接続される。DC/DCコンバータ20と、このDC/DCコンバータ20を制御するコンバータ制御部48とによりDC/DCコンバータ装置50が形成される。
【0031】
各制御部40、44、46、48、52は、それぞれマイクロコンピュータを含み、メインスイッチ34等の各種スイッチ及び各種センサ36の状態情報を検出するとともに制御部40、44、46、48、52同士で共有し、これらスイッチ及びセンサからの状態情報及び互いに他の制御部からの情報(指令等)を入力とし、各CPUがメモリ(ROM)に格納されたプログラムを実行することにより各種機能を実現する機能実現部(機能実現手段)として動作する。制御部40、44、46、48、52は、CPU、メモリの他、必要に応じて、タイマ、A/D変換器、D/A変換器等の入出力インタフェースを有する。
【0032】
2.詳細な構成の説明
[DC/DCコンバータ装置]
図2は、DC/DCコンバータ20の詳細な構成を示している。DC/DCコンバータ20は、1次側1Sと2次側2Sとの間に配される相アームUAと、リアクトル90とから構成される。
【0033】
相アームUAは、上アーム素子(上アームスイッチング素子81とダイオード83)と下アーム素子(下アームスイッチング素子82とダイオード84)とで構成される。
【0034】
上アームスイッチング素子81と下アームスイッチング素子82には、それぞれ例えばMOSFET又はIGBT等が採用される。
【0035】
リアクトル90は、相アームUAの中点(共通接続点)とバッテリ12の正極との間に挿入され、DC/DCコンバータ20により1次電圧V1と2次電圧V2との間で電圧を変換する際に、エネルギを放出及び蓄積する作用を有する。
【0036】
上アームスイッチング素子81は、コンバータ制御部48から出力されるゲート駆動信号(駆動電圧)UHのハイレベルによりオンにされ、下アームスイッチング素子82は、ゲートの駆動信号(駆動電圧)ULのハイレベルによりオンにされる。なお、コンバータ制御部48は、1次側の平滑コンデンサ94に並列に設けられた電圧センサ91により1次電圧V1を検出し、電流センサ101により1次電流I1を検出し、2次側の平滑コンデンサ96に並列に設けられた電圧センサ92により2次電圧V2を検出し、電流センサ102により2次電流I2を検出する。
【0037】
[DC/DCコンバータ装置の動作]
次に、DC/DCコンバータ装置50の動作について説明する。
【0038】
(DC/DCコンバータ装置50における基本的な電圧制御)
図3には、コンバータ制御部48により駆動制御されるDC/DCコンバータ20の基本制御のフローチャートが示されている。
【0039】
上述したように、統括制御部40は、燃料電池14の状態、バッテリ12の状態、及びモータ16の状態の他、各種スイッチ及び各種センサからの入力(負荷要求)に基づき決定したFC車両10の総負荷要求量Ltから、燃料電池14が負担すべき燃料電池分担負荷量(要求出力)Lfと、バッテリ12が負担すべきバッテリ分担負荷量(要求出力)Lbと、回生電源が負担すべき回生電源分担負荷量Lrの配分(分担)を調停しながら決定し、FC制御部44、モータ制御部46及びコンバータ制御部48に指令を送出する。
【0040】
ステップS1において、統括制御部40により、それぞれが負荷要求であるモータ16の電力要求と反応ガス供給部18(エアコンプレッサ等)の電力要求から総負荷要求量Ltが決定(算出)されると、ステップS2において、統括制御部40は、決定した総負荷要求量Ltを出力するための燃料電池分担負荷量Lfと、バッテリ分担負荷量Lbと、回生電源分担負荷量Lrの配分を決定する。
【0041】
次いで、ステップS3において、コンバータ制御部48により、燃料電池分担負荷量Lfに応じて燃料電池14の発電電圧(FC電圧Vfc)の目標値(目標FC電圧Vfc_tar)、ここでは、2次電圧V2の目標値(目標2次電圧V2_tar)が決定される。
【0042】
目標2次電圧V2_tarが決定されると、ステップS4において、コンバータ制御部48は、決定した目標2次電圧V2_tarとなるようにDC/DCコンバータ20を駆動制御する。そして、DC/DCコンバータ20は、昇圧動作、降圧動作等を行う。
【0043】
2次電圧V2及び1次電圧V1は、コンバータ制御部48によりDC/DCコンバータ20のフィードフォワード制御とフィードバック制御とを組み合わせたPID制御により制御する。
【0044】
(燃料電池14の出力制御)
第1実施形態では、燃料電池14の劣化を抑制しつつ、燃料電池14の出力(FC出力Pfc)[W]を効果的に利用するため、下記のような出力制御を行う。
【0045】
まず燃料電池14の出力特性(以下「出力特性Cfc」という。)について述べておくと、燃料電池14の出力特性Cfcは、一般的な燃料電池と同様、FC電圧Vfcが低くなるほど、FC出力Pfcは高くなる(図4参照)。そこで、第1実施形態では、DC/DCコンバータ装置50により2次電圧V2を制御することで、燃料電池14のFC電圧Vfcを制御し、これにより、燃料電池14のFC出力Pfcをも制御する。
【0046】
また、図4からもわかるように、FC出力Pfcが低くなるほど、FC電圧Vfcは2次関数的に変化する。そして、FC電圧Vfcの変化が大きいほど、燃料電池14の劣化が進む。
【0047】
この点を考慮し、第1実施形態では、図5に示すように、FC出力Pfcの増加に制限を加える。図5には、第1実施形態におけるFC出力Pfcが実線で、比較例における燃料電池14の出力(以下「FC出力Pfc_com」)[W]が破線で示されている。図5からわかるように、比較例のFC出力Pfc_comは、単位時間当たりのFC出力Pfc_comの変化量(以下「出力変化量ΔPfc_com」という。)[W/sec]が一定である。これに対し、第1実施形態では、単位時間当たりのFC電圧Vfcの変化量(以下「電圧変化量ΔVfc」という。)[V/sec]に制限値(以下「許容変化量α」[V/sec]という。)を設定し、電圧変化量ΔVfcが許容変化量α以上にならないように制御する。その結果、第1実施形態では、燃料電池14の電圧変化が抑制されるため、FC出力Pfcが低いとき、単位時間当たりのFC出力Pfcの変化量(以下「出力変化量ΔPfc」という。)[W/sec]が小さくなり、FC出力Pfcが高いとき、出力変化量ΔPfcが大きくなる。
【0048】
図6は、第1実施形態の出力制御と、比較例の出力制御を模式的に表した図である。すなわち、図6において破線で示される部分は、第1実施形態の出力制御において用いられるFC電圧Vfcと電圧変化量ΔVfcとの関係を示す特性(以下「出力制御特性Cv_ΔV」という。)である。また、図6において一点鎖線で示される部分は、比較例の出力制御において用いられるFC電圧Vfc_comと電圧変化量ΔVfc_comとの関係を示す特性(以下「出力制御特性Cv_ΔV_com」という。)である。図6に示すように、比較例の出力制御特性Cv_ΔV_comでは、FC電圧Vfc_comが高いときほど、電圧変化量ΔVfc_comの絶対値が大きく、FC電圧Vfc_comが低いときほど、電圧変化量ΔVfc_comの絶対値は小さい。これに対し、第1実施形態の出力制御特性Cv_ΔVでは、許容変化量αを用いるため、FC電圧Vfcが高いときでも、電圧変化量ΔVfcの絶対値は、許容変化量αに制限される。
【0049】
図7には、比較例のFC出力Pfc_comと第1実施形態のFC出力Pfcについて、出力変化[W/sec]と電圧変化[V/sec]を出力[W]の大きさで分類した表である。
【0050】
図7に示すように、比較例では、燃料電池14が低出力、中出力及び高出力のいずれのときも、出力変化(すなわち、出力変化量ΔPfc_com)が一定であり、電圧変化(すなわち、電圧変化量ΔVfc_com)は、低出力側から高出力側に向かうに連れて小さくなる。一方、第1実施形態では、燃料電池14の低出力側から高出力側に向かうに連れて出力変化(すなわち、出力変化量ΔPfc)が大きくなり、燃料電池14が低出力、中出力及び高出力のいずれのときも電圧変化(すなわち、電圧変化量ΔVfc)が一定である。
【0051】
(燃料車両10での出力制御)
上記のように、第1実施形態では、単位時間当たりのFC出力Pfcの変化量である出力変化量ΔPfcに制限を設けるため、FC車両10の総負荷要求量Ltが急激に上昇した場合(例えば、FC車両10が急加速した場合)には、燃料電池14からのFC出力Pfcだけでは、総負荷要求量Ltを満たすことができない。そこで、この場合、バッテリ12の出力(以下「バッテリ出力Pbat」ともいう。)[W]により不足分を補償する。
【0052】
図8は、FC車両10が巡航している状態から全速力の状態に移行した場面におけるFC出力Pfcとバッテリ出力Pbatの関係の一例を模式的に示すものである。図8に示すように、時点t0から時点t1まではFC車両10は巡航しており、FC車両10が必要とする出力(以下「全体必要出力Ptotal_req」)[W]は、巡航に必要な出力(以下「巡航必要出力P1」)[W]であった。
【0053】
時点t1において、FC車両10のスロットル(図示せず)が全開となり、いわゆるワイド・オープン・スロットル(WOT)の状態になると、急激に全体必要出力Ptotal_reqは増加する。しかし、燃料電池14の出力変化量ΔPfcは、許容変化量αを上回らないように制限されるため、FC出力Pfcは、全体必要出力Ptotal_reqの変化に追いつけない。そこで、バッテリ出力Pbatによりその不足分を補う。
【0054】
時点t2において、全体必要出力Ptotal_reqは、FC車両10が全速力になった際の最大必要出力P2[W]となる。時点t3において、FC出力Pfcが出力P2となり、全体必要出力Ptotal_reqと等しくなると、それ以降は、FC出力Pfcで全体必要出力Ptotal_reqを全て賄う。
【0055】
従って、図8の時点t1から時点t3までにおいて、全体必要出力Ptotal_reqとFC出力Pfcで囲まれた領域は、バッテリ12が負担する領域(以下「バッテリ負担領域Abat」)である。
【0056】
(具体的なフロー)
図9には、FC出力Pfcの出力変化量ΔPfcを制限するフローチャートが示されている。上述の通り、第1実施形態では、2次電圧V2を制御することによりFC電圧Vfcを制御する。
【0057】
ステップS11において、統括制御部40は、ドライバーからの要求を受け、FC電圧Vfcの指令値を演算し、コンバータ制御部48に送信する。ステップS12において、コンバータ制御部48は、統括制御部40からの指令値に基づくフィードフォワード項と、PID制御に基づくフィードバック項とを加算したFC電圧Vfcの仮目標値(仮目標FC電圧Vfc_tar_p)[V]を演算する。なお、以下では、説明の便宜のため、今回の処理で演算したものに「今回」と記載し、前回の処理で演算したものに「前回」と記載する。
【0058】
ステップS13において、コンバータ制御部48は、前回の処理において実際に用いたFC電圧Vfcの目標値{目標FC電圧Vfc_tar(前回)}と今回の仮目標FC電圧Vfc_tar_p(今回)の差として演算される電圧変化量ΔVfcの目標値{目標電圧変化量ΔVfc_tar(今回)}[V/sec]を演算する。なお、ここでいう仮目標FC電圧Vfc_tar_p(今回)は、出力変化量ΔPfcの制限処理を行う前の値であり、実際に用いる目標FC電圧Vfc(今回)は、出力変化量ΔPfcの制限処理を行った後の値である。従って、DC/DCコンバータ20に出力される駆動信号UH、ULは、直接的には目標FC電圧Vfc_tar(今回)に基づいて生成される。
【0059】
ステップS14において、コンバータ制御部48は、ステップS13で演算した目標電圧変化量ΔVfc_tar(今回)が許容変化量α以上であるかどうかを判定する。目標電圧変化量ΔVfc_tar(今回)が許容変化量α未満である場合(S14:NO)、ステップS15において、コンバータ制御部48は、ステップS12で演算した仮目標FC電圧Vfc_tar_p(今回)を、今回の処理で実際に用いる目標FC電圧Vfc_tar(今回)とする。目標電圧変化量ΔVfc_tar(今回)が許容変化量α以上である場合(S14:YES)、ステップS16において、コンバータ制御部48は、前回の目標FC電圧Vfc_tar(前回)に許容変化量αを加算したものを、今回の処理で実際に用いる目標FC電圧Vfc_tar(今回)とする。
【0060】
ステップS17において、コンバータ制御部48は、ステップS15又はステップS16で求めた目標FC電圧Vfc_tar(今回)に応じてDC/DCコンバータ20を動作させ、2次電圧V2が目標FC電圧Vfc_tar(今回)と等しくなるように1次電圧V1を昇圧する。
【0061】
なお、上述したように、第1実施形態では、FC電圧Vfcの制御を、DC/DCコンバータ装置50による2次電圧V2の制御により行う。従って、コンバータ制御部48における実際の制御は、上記仮目標FC電圧Vfc_tar_p及び目標FC電圧Vfc_tarの代わりに、統括制御部40からの指令に基づくフィードフォワード項と、PID制御に基づくフィードバック項とを加算した2次電圧V2の仮目標値(仮目標2次電圧V2_tar_p)[V]と、仮目標2次電圧V2_tar_pに対して目標出力変化量ΔPfc_tarの制限処理を行った後の値である目標2次電圧V2_tar[V]とを用いて行ってもよい。この場合、上記目標電圧変化量ΔVfc_tarは、前回の目標2次電圧V2_tarと今回の仮目標2次電圧V2_tar_pの差として演算される。
【0062】
3.第1実施形態の効果
以上説明したように、第1実施形態によれば、燃料電池14の劣化を抑制しつつ、FC出力Pfcの変化を完全には制限することなく、FC出力Pfcを効果的に利用することができる。
【0063】
すなわち、一般的な燃料電池と同様、燃料電池14の特性として、FC出力Pfcが低くなるほど2次関数的にFC電圧Vfcが変化する。換言すると、燃料電池14は、低出力になるほどFC出力Pfcの変化量に対するFC電圧Vfcの変化量が大きくなる。そして、FC電圧Vfcの変化が大きいほど、燃料電池14は劣化が進む。第1実施形態によれば、単位時間当たりのFC電圧Vfcの変化量(電圧変化量ΔVfc)に制限を設けることにより、FC出力Pfcが高いときに比べ、FC出力Pfcが低いとき、単位時間当たりの燃料電池14の許容出力変化量を小さく設定する。これにより、燃料電池14の電圧変化を制限し、燃料電池14の劣化を抑制することができる。
【0064】
その一方、上記とは反対に、燃料電池14は、高出力になるほどFC出力Pfcの変化量に対するFC電圧Vfcの変化量が小さくなる。従って、高出力側では、FC出力Pfcの変化を大きくしても、低出力側と比べて、FC電圧Vfcの変化はそれほど大きくならない。第1実施形態によれば、FC出力Pfcが低いときと比べ、FC出力Pfcが高いときは、単位時間当たりの燃料電池14の許容出力変化量を大きく設定することになる。これにより、FC出力Pfcの変化が比較的劣化につながらない高出力側では、燃料電池14の出力性能をより効率的に発揮させることが可能となる。従って、FC出力Pfcを効果的に利用することができる。
【0065】
第1実施形態では、FC出力Pfcのみでは、全体必要出力Ptotal_reqを満たせないとき、その不足分をバッテリ出力Pbatにより補償する。これにより、全体必要出力Ptotal_reqについて、FC出力Pfcでは不足する分をバッテリ12により補償することができるため、全体必要出力Ptotal_reqを満たしつつ、燃料電池14の劣化を抑制することができる。
【0066】
第1実施形態では、電圧変化量ΔVfcに制限を設けることでFC出力Pfcを制限する。これにより、簡易な制御で燃料電池14の出力制御を効果的に行うことができる。すなわち、図4に示すように、一般的な燃料電池と同様、FC出力Pfcは、FC電圧Vfcの2次関数的に変化する。このため、電圧変化量ΔVfcに制限を設けると、結果として、FC出力Pfcが低いときには、出力変化量ΔPfcが小さくなるように制限し、FC出力Pfcが高いときには、出力変化量ΔPfcが大きくても許容する。従って、電圧変化量ΔVfcを制限するための演算量が比較的少なくても済む。
【0067】
B.第2実施形態
1.構成の説明(第1実施形態との相違)
図10は、この発明の第2実施形態に係る出力制御方法を実施する燃料電池システム11Aを搭載した燃料電池車両10A(以下「FC車両10A」ともいう。)の概略全体構成図である。
【0068】
このFC車両10Aは、基本的には、第1実施形態のFC車両10と同様の構成を有する。以下では、第1実施形態と第2実施形態とで共通する構成要素には同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0069】
FC車両10Aは、燃料電池14の出力電流(FC電流Ifc)[A]を検出する電流センサ70と、燃料電池14の各セル(図示せず)の電圧(セル電圧Vcell)[V]を検出する電圧センサ72とを有し、コンバータ制御部48aがFC電流Ifc及びセル電圧Vcellを用いる点で、FC車両10と異なる。
【0070】
2.第2実施形態における制御
第2実施形態における各種制御は、基本的に、第1実施形態と同様であるが、目標2次電圧V2_tar(又は目標FC電圧Vfc_tar)の決定方法が異なる。換言すると、第1実施形態では、FC電圧Vfcが増加する場合及び減少する場合の両方についての制御であったのに対し、第2実施形態では、FC電圧Vfcが増加する場合に焦点を当てた制御である。
【0071】
図11には、第2実施形態において目標2次電圧V2_tarを決定するフローチャートが示されている。このフローチャートは、図3のステップS3の詳細に相当する。なお、図9と同様、以下では、説明の便宜のため、今回の処理で演算したものに「今回」と記載し、前回の処理で演算したものに「前回」と記載する。
【0072】
ステップS21において、統括制御部40が燃料電池分担負担量Lfを算出し、これをコンバータ制御部48aに送信する。続くステップS22において、コンバータ制御部48aは、受信した燃料電池分担負担量Lfに対応するFC電流Ifc{要求FC電流Ifc_req(今回)}を決定する。すなわち、燃料電池14の出力は、FC電圧VfcとFC電流Ifcとにより算出できるが、燃料電池14のI−V特性に基づいて燃料電池分担負担量Lfと要求FC電流Ifc_reqとの組合せをコンバータ制御部48aの図示しない記憶手段に記憶しておく。そして、燃料電池分担負担量Lfを用いて要求FC電流Ifc_reqを読み出す。
【0073】
ステップS23において、コンバータ制御部48aは、バッテリ制御部52に対し、バッテリ12の充電量SOC[%]が、閾値TH_soc以下であるかどうかを問い合わせる。閾値TH_socは、バッテリ12が過充電状態であるかどうかを判定するための充電量SOCの閾値であり、充電量SOCが閾値TH_socを超えるとき、バッテリ12が過充電状態であると判定する。
【0074】
充電量SOCが閾値TH_socを超えるとの回答がバッテリ制御部52からあった場合(S23:NO)、燃料電池14の出力低下を制限し、余剰出力をバッテリ12に充電すると、過充電によりバッテリ12が劣化するおそれがある。そこで、ステップS24において、コンバータ制御部48aは、燃料電池14の出力低下を制限せずに、要求FC電流Ifc_req(今回)を、FC電流Ifcの目標値(目標FC電流Ifc_tar)として設定する。そして、ステップS30に進む。
【0075】
充電量SOCが閾値TH_soc以下であるとの回答がバッテリ制御部52からあった場合(S23:YES)、燃料電池14の出力低下を制限し、余剰出力をバッテリ12に充電しても過充電によりバッテリ12が劣化するおそれはない。
【0076】
そこで、ステップS25において、コンバータ制御部48aは、DC/DCコンバータ20の出力を制限中であるかどうかを確認する。DC/DCコンバータ20の出力を制限する場合としては、例えば、DC/DCコンバータ20が故障中である場合や、上アームスイッチング素子81が過熱状態にある場合がある。DC/DCコンバータ20の出力を制限中である場合(S25:YES)、燃料電池14の出力低下を制限すると、余剰電力がDC/DCコンバータ20を介してバッテリ12に供給されることとなり、結果として、DC/DCコンバータ20の出力が増加してしまう。しかし、DC/DCコンバータ20の出力を制限中である場合、そのような処理を行うことができない。そこで、ステップS24において、コンバータ制御部48aは、燃料電池14の出力低下を制限せずに、要求FC電流Ifc_req(今回)を目標FC電流Ifc_tarとして設定する。
【0077】
DC/DCコンバータ20の出力を制限中でない場合(S25:NO)、燃料電池14の出力低下を制限し、DC/DCコンバータ20を介してバッテリ12に余剰出力を供給しても上記のような問題は生じない。そこで、ステップS26に進む。
【0078】
ステップS26において、コンバータ制御部48aは、電圧センサ72が検出したセル電圧Vcellが異常であるかどうかを判定する。セル電圧Vcellが異常であるとは、例えば、セルの劣化等によりセル電圧Vcellが、通常よりも低すぎる場合をいう。一般に、燃料電池14の劣化が進むと、FC電流Ifcが同じでもFC電圧Vfcが下がり、低負荷時のI−V特性の傾きが急になる(図12参照)。このため、燃料電池14の出力低下を制限すると、出力低下の速度を過度に制限することになってしまう。
【0079】
セル電圧Vcellが異常である場合(S26:YES)、ステップS24において、コンバータ制御部48aは、燃料電池14の出力低下を制限せずに、要求FC電流Ifc_req(今回)を目標FC電流Ifc_tarとして設定する。セル電圧Vcellが異常でない場合(S26:NO)、燃料電池14の出力低下を制限しても上記のような問題は生じない。そこで、ステップS27に進む。
【0080】
ステップS27において、コンバータ制御部48aは、要求FC電流Ifc_req(今回)が目標FC電流Ifc_tar(前回)未満であるかどうかを判定する。要求FC電流Ifc_req(今回)が目標FC電流Ifc_tar(前回)未満でない場合(S27:NO)、FC電圧Vfcの低下に伴う燃料電池14の劣化は生じず、燃料電池14の出力低下を制限する必要性は少ない。そこで、ステップS24において、コンバータ制御部48aは、燃料電池14の出力低下を制限せずに、要求FC電流Ifc_req(今回)を目標FC電流Ifc_tarとして設定する。
【0081】
要求FC電流Ifc_req(今回)が目標FC電流Ifc_tar(前回)未満である場合(S27:YES)、FC電圧Vfcの低下に伴う燃料電池14の劣化は生じる可能性があり、燃料電池14の出力低下を制限する必要性が生じる。
【0082】
そこで、まずステップS28において、コンバータ制御部48aは、目標FC電流Ifc_tar(前回)とFC電圧Vfc(今回)とに基づいて電流減算量Dis[A]を決定する。電流減算量Disは、1回の処理で許容されるFC電流Ifcの低下量を示す。
【0083】
図12は、電流減算量Disの決定方法を説明するための図である。図12において、曲線110は、劣化が生じていない燃料電池14のI−V特性であり、曲線112は、劣化後の燃料電池14のI−V特性である。
【0084】
図12に示すように、第2実施形態では、FC電流Ifcを3つの領域に分け、FC電流Ifcが低い領域(低負荷領域)では、単位時間当たりのFC電圧Vfcの変化量(電圧変化量ΔVfc)を10mV/secに制限する。また、FC電流Ifcが中くらいの領域(中負荷領域)では、電圧変化量ΔVfcを100mV/secに制限する。さらに、FC電流Ifcが高い領域(高負荷領域)では、電圧変化量ΔVfcに制限を設けない。燃料電池14の劣化は、FC電圧Vfcが高いほど、進み易いことから、上記のような制限を設けることにより、燃料電池14の劣化を防止するとともに、高負荷領域(及び中負荷領域)において燃料電池14の出力を有効に利用することが可能となる。
【0085】
また、図12に示すように、燃料電池14の劣化が進むと、FC電流Ifcが同じでもFC電圧Vfcが下がり、低負荷領域でのI−V特性の傾きは急になる。
【0086】
上記を踏まえ、第2実施形態では、燃料電池14の劣化に伴うI−V特性の変化を考慮しつつ、低負荷領域及び中負荷領域における電圧変化量ΔVfcの制限を一定化するため、目標FC電流Ifc_tar(前回)とFC電圧Vfc(今回)とに応じた電流減算量Disを予めマップ化して記憶しておく。目標FC電流Ifc_tar(前回)及びFC電圧Vfc(今回)と、電流減算量Disとの関係を規定するマップは、コンバータ制御部48aの図示しない記憶手段に記憶されている。
【0087】
燃料電池14の劣化にかかわらず、低負荷領域及び中負荷領域で電圧変化量ΔVfcを一定化するため、上記マップでは、目標FC電流Ifc_tar(前回)が小さくなるほど、また、FC電圧Vfc(今回)が低くなるほど、電流減算量Disを小さくする(図12参照)。なお、図12では、マップ中の具体的な数値の例は示されていないことに留意されたい。
【0088】
図11に戻り、ステップS29において、コンバータ制御部48aは、目標FC電流Ifc_tar(前回)から電流減算量Dis(今回)を差し引いたものを目標FC電流Ifc_tar(今回)として設定する。
【0089】
ステップS24又はステップS29の後、ステップS30において、コンバータ制御部48aは、目標FC電流Ifc_tar(今回)を次回の処理のために図示しない記憶手段に保持する。続くステップS31において、コンバータ制御部48aは、目標FC電流Ifc_tar(今回)に基づいて目標2次電圧V2_tarを決定する。なお、目標2次電圧V2_tarの算出に当たっては、PID制御等のフィードバック制御を併せて用いることで、2次電圧V2(FC電圧Vfc)を目標2次電圧V2_tar(目標FC電圧Vfc_tar)に合わせ込む。
【0090】
3.第2実施形態の効果
第2実施形態によれば、第1実施形態の効果に加え、以下のような効果を奏することができる。
【0091】
すなわち、第2実施形態では、低負荷領域において、単位時間当たりのFC電圧Vfcの変化量である電圧変化量ΔVfcが10mV/sec以内になるように目標FC電流Ifc_tar(今回)が決定され、中負荷領域において、電圧変化量ΔVfcが100mV/sec以内になるように目標FC電流Ifc_tar(今回)が決定され、高負荷領域において、電圧変化量ΔVfcの制限なしに目標FC電流Ifc_tar(今回)が決定される。これにより、燃料電池14の劣化により燃料電池14のI−V特性に変化が生じてFC電流Ifcの変化に対するFC電圧Vfcの変化が大きくなっても、電圧変化量ΔVfcを一定値以内に保持することが可能となる。
【0092】
第2実施形態では、目標2次電圧V2_tarを算出する前に、目標FC電流Ifc_tarの変化を制限する。これにより、目標2次電圧V2_tarの算出において前記制限を反映させる場合と比べて、演算を簡素化することが可能となる。特に、第2実施形態では、目標FC電流Ifc_tar(前回)及びFC電圧Vfc(今回)と、電流減算量Dis(今回)との関係をマップ化して利用することから、演算量をさらに減少させることができる。
【0093】
C.変形例
なお、この発明は、上記各実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下の構成を採用することができる。
【0094】
[搭載対象]
上記各実施形態では、燃料電池システム11、11AをFC車両10、10Aに搭載したが、これに限られず、別の対象に搭載してもよい。例えば、燃料電池システム11、11Aを船舶や航空機等の移動体に用いることもできる。或いは、燃料電池システム11、11Aを家庭用電力システムに適用してもよい。
【0095】
[DC/DCコンバータ]
上記各実施形態では、上アームスイッチング素子81及び下アームスイッチング素子82の数をそれぞれ1つとしたが、これに限られず、2つ以上としてもよい。
【0096】
[出力制御]
上記各実施形態では、2次電圧V2又はFC電圧Vfcを制御することにより、FC出力Pfcを制御したが、これに限られない。例えば、燃料電池14を構成する各セルのセル電圧Vcell[V]を制御することにより、各セルの出力を制御してもよい。
【0097】
上記各実施形態では、単位時間当たりのFC電圧Vfcの変化量(電圧変化量ΔVfc)に制限を設けることでFC出力Pfcを制限したが、FC出力Pfcの高出力側と低出力側とで許容される単位時間当たりの燃料電池14の出力変化量が異なっており、低出力側で許容される当該出力変化量が、高出力側で許容される当該出力変化量よりも小さければ、これに限られない。例えば、燃料電池14の出力−電圧特性(図4)を用いてFC電圧VfcからFC出力Pfcを求め、FC出力Pfc自体の単位時間当たりの変化量[W/sec]に制限を設けてもよい。この場合、単位時間当たりのFC出力Pfcの変化量に関する許容変化量(許容変化量β)[W/sec]を予め設定しておき、単位時間当たりのFC出力Pfcの変化量がこの許容変化量β以上とならないように制御してもよい。
【0098】
上記第2実施形態の図11では、バッテリ12の充電量SOCが閾値TH_SOCを超える場合(S23:NO)、DC/DCコンバータ20の出力制限中である場合(S25:YES)、セル電圧Vcellが異常である場合(S26:YES)、又は要求FC電流Ifc_req(今回)が目標FC電流Ifc_tar(前回)未満でない場合(S27:NO)、電流減算量Disを用いた制限を実行しなかったが、これらの場合のいずれかを用いない又は選択的に用いることも可能である。さらに、電流減算量Disを用いた制限を実行しないのではなく、電流減算量Disを増加させることで対応することもできる。
【0099】
上記第2実施形態の図11では、要求FC電流Ifc_req(今回)と目標FC電流Ifc_tar(前回)との比較(S27)の後に、電流減算量Disの決定(S28)を行ったが、ステップS28の処理をステップS27の前に行うこともできる。この場合、ステップS27では、要求FC電流Ifc_req(今回)が、目標FC電流Ifc_tar(前回)と電流減算量Dis(今回)の差より小さいかどうか{Ifc_req(今回)<Ifc_tar(前回)―Dis(今回)}を判定してもよい。これにより、目標FC電流Ifc_tar(前回)と要求FC電流Ifc_req(今回)との差が、電流減算量Disよりも小さいときに目標FC電流Ifc_tar(今回)をより細かく設定することが可能となる。
【符号の説明】
【0100】
10、10A…燃料電池車両 11、11A…燃料電池システム
12…バッテリ 14…燃料電池
16…モータ(負荷) Pbat…バッテリ出力
Pfc…FC出力 Ptotal_req…全体必要出力
Vfc…FC電圧
α…単位時間当たりのFC電圧の許容変化量
ΔVfc…単位時間当たりのFC電圧の変化量
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池と負荷とを備える燃料電池システムの出力制御方法に関する。より詳細には、燃料電池の劣化を抑制しつつ、燃料電池の出力を効率的に利用することができる燃料電池システムの出力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池の研究開発が盛んである。そのテーマの1つに燃料電池の出力制御があり、そのための技術が開発されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1では、セル電圧が閾値より低くなったとき燃料電池を停止させることで燃料電池の劣化抑制を図っている(例えば、特許文献1の要約参照)。
【0004】
特許文献2では、車両の運転性能(ドライバビリティ)に影響を与えることなく、燃料電池の出力制限を解除できるようにするために、燃料電池(20)の出力制限中に燃料電池の出力可能な電力量が燃料電池に要求される電力量を上回った場合に、出力制限を解除する(引用文献2の要約参照)。
【0005】
特許文献3では、燃料電池の保護等の観点から、燃料電池(30)の出力制限値(Wout)を設定し、この出力制限値に基づく出力制限を行う(例えば、特許文献3の段落[0003]、[0024])。前記出力制限値(Wout)は、燃料電池温度(Tfc)、セル間電圧(Vcel)、燃料電池の電圧(Vfc)、燃料電池の電流(Ifc)、エアコンプレッサ温度(Tac)等に基づいて計算される(特許文献3の段落[0024])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−243882号公報
【特許文献2】特開2006−202695号公報
【特許文献3】特開2005−304179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3における燃料電池の劣化抑制及び燃料電池の出力の効果的な利用の試みは十分ではない。
【0008】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、燃料電池の劣化を抑制しつつ、燃料電池の出力を効果的に利用することができる燃料電池システムの出力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る燃料電池システムの出力制御方法は、燃料電池と負荷とを備える燃料電池システムの出力制御方法であって、前記燃料電池の運転領域における第1出力領域と、前記第1出力領域より低出力側の第2出力領域とで許容される単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量が異なっており、前記第2出力領域で許容される前記単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量は、前記第1出力領域で許容される前記単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量よりも小さいことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、燃料電池の電圧変化を制限することで燃料電池の劣化を抑制しつつ、燃料電池の出力を効果的に利用することができる。
【0011】
すなわち、一般的な燃料電池の特性として、燃料電池の出力が低くなるほど2次関数的に電圧が変化する。換言すると、燃料電池は、低出力になるほど燃料電池の出力変化量に対する電圧変化量が大きくなる。そして、電圧変化が大きいほど、燃料電池は劣化が進む。この発明によれば、高出力側の第1出力領域と比べ、低出力側の第2出力領域では、許容される単位時間当たりの燃料電池の出力変化量が小さい。これにより、燃料電池の電圧変化を制限し、燃料電池の劣化を抑制することができる。
【0012】
その一方、上記とは反対に、燃料電池は、高出力になるほど燃料電池の出力変化量に対する電圧変化量が小さくなる。従って、高出力側では、燃料電池の出力変化を大きくしても、低出力側と比べて、電圧変化はそれほど大きくならない。この発明によれば、低出力側の第2出力領域と比べ、高出力側の第1出力領域では、許容される単位時間当たりの燃料電池の出力変化量が大きい。これにより、出力変化が比較的劣化につながらない高出力側では、燃料電池の出力性能をより効率的に発揮させることが可能となる。従って、燃料電池の出力を効果的に利用することができる。
【0013】
前記第2出力領域は、単位時間当たりの前記燃料電池の電圧変化量が一定値以内になるように前記単位時間当たりに許容される前記出力変化量が定まっており、前記第1出力領域は、前記単位時間当たりの前記電圧変化量が制限されていないか、又は前記一定値より大きい値以内になるように制限されていてもよい。これにより、燃料電池の劣化により燃料電池の電流−電圧特性に変化が生じて燃料電池の出力電流の変化に対する出力電圧の変化が大きくなっても、単位時間当たりの燃料電池の電圧変化量を一定値以内に保持することが可能となる。
【0014】
前記燃料電池システムは、前記燃料電池の目標電力又は目標電流に基づき前記燃料電池の目標電圧を決定し、DC/DCコンバータにより前記燃料電池の電圧を前記目標電圧に合わせ込むようにフィードバック制御するシステムであって、前記第1出力領域及び前記第2出力領域における前記燃料電池の出力は、前記目標電力又は前記目標電流を制限することで前記単位時間当たりの前記出力変化量が許容範囲内に収まるようにしてもよい。これにより、DC/DCコンバータに対する目標電圧を算出する前に、燃料電池の目標電力又は目標電流の変化を制限することができる。従って、DC/DCコンバータに対する目標電圧の算出において前記制限を反映させる場合と比べて、演算を簡素化することが可能となる。
【0015】
前記燃料電池システムは、さらに、バッテリを備え、前記燃料電池の出力のみでは、前記燃料電池システムの出力要求を満たせないとき、前記出力要求の不足分を前記バッテリの出力により補償してもよい。これにより、燃料電池システムの出力要求について、燃料電池の出力では不足する分をバッテリにより補償することができるため、燃料電池システムの出力要求を満たしつつ、燃料電池の劣化を抑制することができる。
【0016】
上記に代えて、単に、単位時間当たりの前記燃料電池の電圧変化量に制限を設けることで前記燃料電池の出力を制限してもよい。これにより、簡易な制御で燃料電池の出力制御を効果的に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、燃料電池の電圧変化を制限することで燃料電池の劣化を抑制しつつ、燃料電池の出力を効果的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の第1実施形態に係る出力制御方法を実施する燃料電池システムを搭載した燃料電池車両の概略全体構成図である。
【図2】上記第1実施形態に係るDC/DCコンバータの詳細な構成を示す回路図である。
【図3】前記燃料電池車両に搭載されたDC/DCコンバータの基本制御のフローチャートである。
【図4】前記燃料電池車両に搭載された燃料電池の出力−電圧特性を示す図である。
【図5】上記第1実施形態における燃料電池の出力制御特性と、比較例における燃料電池の出力制御特性を示す説明図である。
【図6】上記第1実施形態における燃料電池の電圧−電圧変化量特性と、比較例における燃料電池の電圧−電圧変化量特性を示す説明図である。
【図7】比較例の燃料電池の出力と前記第1実施形態の燃料電池の出力について、出力変化と電圧変化を出力の大きさで分類した表である。
【図8】前記燃料電池車両が巡航している状態から全速力の状態に移行した場面における燃料電池の出力とバッテリの出力の関係の一例を模式的に示す図である。
【図9】単位時間当たりの燃料電池の出力変化量を制限するフローチャートである。
【図10】この発明の第2実施形態に係る出力制御方法を実施する燃料電池システムを搭載した燃料電池車両の概略全体構成図である。
【図11】前記第2実施形態において目標2次電圧を決定するフローチャートである。
【図12】前記第2実施形態において電流減算量の決定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.第1実施形態
1.全体的な構成の説明
[全体構成]
図1は、この発明の第1実施形態に係る出力制御方法を実施する燃料電池システム11を搭載した燃料電池車両10(以下「FC車両10」ともいう。)の概略全体構成図である。
【0020】
このFC車両10は、基本的には、1次側1Sに1次電圧V1を発生する第1直流電源装置としてのバッテリ12と2次側2Sに2次電圧V2を発生する第2直流電源装置としての燃料電池(Fuel Cell)14とから構成されるハイブリッド直流電源装置と、このハイブリッド直流電源装置から電力が供給される負荷である走行用のモータ16とから構成される。
【0021】
[燃料電池とそのシステム]
燃料電池14は、例えば固体高分子電解質膜をアノード電極とカソード電極とで両側から挟み込んで形成されたセルを積層したスタック構造にされている。燃料電池14には、反応ガス供給部18が配管を通じて接続されている。反応ガス供給部18は、一方の反応ガスである水素(燃料ガス)を貯留する水素タンクと、他方の反応ガスである空気(酸化剤ガス)を圧縮するコンプレッサを備えている。反応ガス供給部18から燃料電池14に供給された水素と空気の燃料電池14内での電気化学反応により生成された発電電流がダイオード13を介してモータ16とバッテリ12に供給される。
【0022】
燃料電池14の出力電圧(以下「FC電圧Vfc」という。)[V]は、電圧センサ19により検出される。
【0023】
燃料電池システム11は、燃料電池14及び反応ガス供給部18とこれらを制御する燃料電池制御部(FC制御部)44とから構成される。
【0024】
[DC/DCコンバータ]
DC/DCコンバータ20は、一方側が前記バッテリ12に接続され、他方側が燃料電池14とモータ16との接続点である2次側2Sに接続されたチョッパ型の電圧変換装置である。
【0025】
DC/DCコンバータ20は、1次電圧V1を2次電圧V2(V1≦V2)に電圧変換(昇圧変換)するとともに、2次電圧V2を1次電圧V1に電圧変換(降圧変換)する昇降圧型の電圧変換装置である。
【0026】
[インバータとモータ及びドライブ系]
インバータ22は、3相フルブリッジ型の構成とされて、直流/交流変換を行い、直流を3相の交流に変換してモータ16に供給する一方、回生動作に伴う交流/直流変換後の直流を2次側2SからDC/DCコンバータ20を通じて1次側1Sに供給し、バッテリ12を充電等する。
【0027】
モータ16は、トランスミッション24を通じて車輪26を回転する。なお、実際上、インバータ22とモータ16を併せて負荷23という。
【0028】
[高圧バッテリ]
1次側1Sに接続される高圧(High Voltage)のバッテリ12は、蓄電装置(エネルギストレージ)であり、例えばリチウムイオン2次電池又はキャパシタ等を利用することができる。第1実施形態ではリチウムイオン2次電池を利用している。
【0029】
[各種センサ、メインスイッチ及び通信線]
メインスイッチ(電源スイッチ)34と各種センサ36が統括制御部40に接続される。メインスイッチ34は、FC車両10及び燃料電池システム11をオン(起動又は始動)オフ(停止)するイグニッションスイッチとしての機能を有する。各種センサ36は、車両状態及び環境状態等の状態情報を検出する。通信線38としては、車内LANであるCAN(Controller Area Network)等が使用される。
【0030】
[制御部]
通信線38に対して、統括制御部40、FC制御部44、モータ制御部46、コンバータ制御部48、及びバッテリ制御部52が相互に接続される。DC/DCコンバータ20と、このDC/DCコンバータ20を制御するコンバータ制御部48とによりDC/DCコンバータ装置50が形成される。
【0031】
各制御部40、44、46、48、52は、それぞれマイクロコンピュータを含み、メインスイッチ34等の各種スイッチ及び各種センサ36の状態情報を検出するとともに制御部40、44、46、48、52同士で共有し、これらスイッチ及びセンサからの状態情報及び互いに他の制御部からの情報(指令等)を入力とし、各CPUがメモリ(ROM)に格納されたプログラムを実行することにより各種機能を実現する機能実現部(機能実現手段)として動作する。制御部40、44、46、48、52は、CPU、メモリの他、必要に応じて、タイマ、A/D変換器、D/A変換器等の入出力インタフェースを有する。
【0032】
2.詳細な構成の説明
[DC/DCコンバータ装置]
図2は、DC/DCコンバータ20の詳細な構成を示している。DC/DCコンバータ20は、1次側1Sと2次側2Sとの間に配される相アームUAと、リアクトル90とから構成される。
【0033】
相アームUAは、上アーム素子(上アームスイッチング素子81とダイオード83)と下アーム素子(下アームスイッチング素子82とダイオード84)とで構成される。
【0034】
上アームスイッチング素子81と下アームスイッチング素子82には、それぞれ例えばMOSFET又はIGBT等が採用される。
【0035】
リアクトル90は、相アームUAの中点(共通接続点)とバッテリ12の正極との間に挿入され、DC/DCコンバータ20により1次電圧V1と2次電圧V2との間で電圧を変換する際に、エネルギを放出及び蓄積する作用を有する。
【0036】
上アームスイッチング素子81は、コンバータ制御部48から出力されるゲート駆動信号(駆動電圧)UHのハイレベルによりオンにされ、下アームスイッチング素子82は、ゲートの駆動信号(駆動電圧)ULのハイレベルによりオンにされる。なお、コンバータ制御部48は、1次側の平滑コンデンサ94に並列に設けられた電圧センサ91により1次電圧V1を検出し、電流センサ101により1次電流I1を検出し、2次側の平滑コンデンサ96に並列に設けられた電圧センサ92により2次電圧V2を検出し、電流センサ102により2次電流I2を検出する。
【0037】
[DC/DCコンバータ装置の動作]
次に、DC/DCコンバータ装置50の動作について説明する。
【0038】
(DC/DCコンバータ装置50における基本的な電圧制御)
図3には、コンバータ制御部48により駆動制御されるDC/DCコンバータ20の基本制御のフローチャートが示されている。
【0039】
上述したように、統括制御部40は、燃料電池14の状態、バッテリ12の状態、及びモータ16の状態の他、各種スイッチ及び各種センサからの入力(負荷要求)に基づき決定したFC車両10の総負荷要求量Ltから、燃料電池14が負担すべき燃料電池分担負荷量(要求出力)Lfと、バッテリ12が負担すべきバッテリ分担負荷量(要求出力)Lbと、回生電源が負担すべき回生電源分担負荷量Lrの配分(分担)を調停しながら決定し、FC制御部44、モータ制御部46及びコンバータ制御部48に指令を送出する。
【0040】
ステップS1において、統括制御部40により、それぞれが負荷要求であるモータ16の電力要求と反応ガス供給部18(エアコンプレッサ等)の電力要求から総負荷要求量Ltが決定(算出)されると、ステップS2において、統括制御部40は、決定した総負荷要求量Ltを出力するための燃料電池分担負荷量Lfと、バッテリ分担負荷量Lbと、回生電源分担負荷量Lrの配分を決定する。
【0041】
次いで、ステップS3において、コンバータ制御部48により、燃料電池分担負荷量Lfに応じて燃料電池14の発電電圧(FC電圧Vfc)の目標値(目標FC電圧Vfc_tar)、ここでは、2次電圧V2の目標値(目標2次電圧V2_tar)が決定される。
【0042】
目標2次電圧V2_tarが決定されると、ステップS4において、コンバータ制御部48は、決定した目標2次電圧V2_tarとなるようにDC/DCコンバータ20を駆動制御する。そして、DC/DCコンバータ20は、昇圧動作、降圧動作等を行う。
【0043】
2次電圧V2及び1次電圧V1は、コンバータ制御部48によりDC/DCコンバータ20のフィードフォワード制御とフィードバック制御とを組み合わせたPID制御により制御する。
【0044】
(燃料電池14の出力制御)
第1実施形態では、燃料電池14の劣化を抑制しつつ、燃料電池14の出力(FC出力Pfc)[W]を効果的に利用するため、下記のような出力制御を行う。
【0045】
まず燃料電池14の出力特性(以下「出力特性Cfc」という。)について述べておくと、燃料電池14の出力特性Cfcは、一般的な燃料電池と同様、FC電圧Vfcが低くなるほど、FC出力Pfcは高くなる(図4参照)。そこで、第1実施形態では、DC/DCコンバータ装置50により2次電圧V2を制御することで、燃料電池14のFC電圧Vfcを制御し、これにより、燃料電池14のFC出力Pfcをも制御する。
【0046】
また、図4からもわかるように、FC出力Pfcが低くなるほど、FC電圧Vfcは2次関数的に変化する。そして、FC電圧Vfcの変化が大きいほど、燃料電池14の劣化が進む。
【0047】
この点を考慮し、第1実施形態では、図5に示すように、FC出力Pfcの増加に制限を加える。図5には、第1実施形態におけるFC出力Pfcが実線で、比較例における燃料電池14の出力(以下「FC出力Pfc_com」)[W]が破線で示されている。図5からわかるように、比較例のFC出力Pfc_comは、単位時間当たりのFC出力Pfc_comの変化量(以下「出力変化量ΔPfc_com」という。)[W/sec]が一定である。これに対し、第1実施形態では、単位時間当たりのFC電圧Vfcの変化量(以下「電圧変化量ΔVfc」という。)[V/sec]に制限値(以下「許容変化量α」[V/sec]という。)を設定し、電圧変化量ΔVfcが許容変化量α以上にならないように制御する。その結果、第1実施形態では、燃料電池14の電圧変化が抑制されるため、FC出力Pfcが低いとき、単位時間当たりのFC出力Pfcの変化量(以下「出力変化量ΔPfc」という。)[W/sec]が小さくなり、FC出力Pfcが高いとき、出力変化量ΔPfcが大きくなる。
【0048】
図6は、第1実施形態の出力制御と、比較例の出力制御を模式的に表した図である。すなわち、図6において破線で示される部分は、第1実施形態の出力制御において用いられるFC電圧Vfcと電圧変化量ΔVfcとの関係を示す特性(以下「出力制御特性Cv_ΔV」という。)である。また、図6において一点鎖線で示される部分は、比較例の出力制御において用いられるFC電圧Vfc_comと電圧変化量ΔVfc_comとの関係を示す特性(以下「出力制御特性Cv_ΔV_com」という。)である。図6に示すように、比較例の出力制御特性Cv_ΔV_comでは、FC電圧Vfc_comが高いときほど、電圧変化量ΔVfc_comの絶対値が大きく、FC電圧Vfc_comが低いときほど、電圧変化量ΔVfc_comの絶対値は小さい。これに対し、第1実施形態の出力制御特性Cv_ΔVでは、許容変化量αを用いるため、FC電圧Vfcが高いときでも、電圧変化量ΔVfcの絶対値は、許容変化量αに制限される。
【0049】
図7には、比較例のFC出力Pfc_comと第1実施形態のFC出力Pfcについて、出力変化[W/sec]と電圧変化[V/sec]を出力[W]の大きさで分類した表である。
【0050】
図7に示すように、比較例では、燃料電池14が低出力、中出力及び高出力のいずれのときも、出力変化(すなわち、出力変化量ΔPfc_com)が一定であり、電圧変化(すなわち、電圧変化量ΔVfc_com)は、低出力側から高出力側に向かうに連れて小さくなる。一方、第1実施形態では、燃料電池14の低出力側から高出力側に向かうに連れて出力変化(すなわち、出力変化量ΔPfc)が大きくなり、燃料電池14が低出力、中出力及び高出力のいずれのときも電圧変化(すなわち、電圧変化量ΔVfc)が一定である。
【0051】
(燃料車両10での出力制御)
上記のように、第1実施形態では、単位時間当たりのFC出力Pfcの変化量である出力変化量ΔPfcに制限を設けるため、FC車両10の総負荷要求量Ltが急激に上昇した場合(例えば、FC車両10が急加速した場合)には、燃料電池14からのFC出力Pfcだけでは、総負荷要求量Ltを満たすことができない。そこで、この場合、バッテリ12の出力(以下「バッテリ出力Pbat」ともいう。)[W]により不足分を補償する。
【0052】
図8は、FC車両10が巡航している状態から全速力の状態に移行した場面におけるFC出力Pfcとバッテリ出力Pbatの関係の一例を模式的に示すものである。図8に示すように、時点t0から時点t1まではFC車両10は巡航しており、FC車両10が必要とする出力(以下「全体必要出力Ptotal_req」)[W]は、巡航に必要な出力(以下「巡航必要出力P1」)[W]であった。
【0053】
時点t1において、FC車両10のスロットル(図示せず)が全開となり、いわゆるワイド・オープン・スロットル(WOT)の状態になると、急激に全体必要出力Ptotal_reqは増加する。しかし、燃料電池14の出力変化量ΔPfcは、許容変化量αを上回らないように制限されるため、FC出力Pfcは、全体必要出力Ptotal_reqの変化に追いつけない。そこで、バッテリ出力Pbatによりその不足分を補う。
【0054】
時点t2において、全体必要出力Ptotal_reqは、FC車両10が全速力になった際の最大必要出力P2[W]となる。時点t3において、FC出力Pfcが出力P2となり、全体必要出力Ptotal_reqと等しくなると、それ以降は、FC出力Pfcで全体必要出力Ptotal_reqを全て賄う。
【0055】
従って、図8の時点t1から時点t3までにおいて、全体必要出力Ptotal_reqとFC出力Pfcで囲まれた領域は、バッテリ12が負担する領域(以下「バッテリ負担領域Abat」)である。
【0056】
(具体的なフロー)
図9には、FC出力Pfcの出力変化量ΔPfcを制限するフローチャートが示されている。上述の通り、第1実施形態では、2次電圧V2を制御することによりFC電圧Vfcを制御する。
【0057】
ステップS11において、統括制御部40は、ドライバーからの要求を受け、FC電圧Vfcの指令値を演算し、コンバータ制御部48に送信する。ステップS12において、コンバータ制御部48は、統括制御部40からの指令値に基づくフィードフォワード項と、PID制御に基づくフィードバック項とを加算したFC電圧Vfcの仮目標値(仮目標FC電圧Vfc_tar_p)[V]を演算する。なお、以下では、説明の便宜のため、今回の処理で演算したものに「今回」と記載し、前回の処理で演算したものに「前回」と記載する。
【0058】
ステップS13において、コンバータ制御部48は、前回の処理において実際に用いたFC電圧Vfcの目標値{目標FC電圧Vfc_tar(前回)}と今回の仮目標FC電圧Vfc_tar_p(今回)の差として演算される電圧変化量ΔVfcの目標値{目標電圧変化量ΔVfc_tar(今回)}[V/sec]を演算する。なお、ここでいう仮目標FC電圧Vfc_tar_p(今回)は、出力変化量ΔPfcの制限処理を行う前の値であり、実際に用いる目標FC電圧Vfc(今回)は、出力変化量ΔPfcの制限処理を行った後の値である。従って、DC/DCコンバータ20に出力される駆動信号UH、ULは、直接的には目標FC電圧Vfc_tar(今回)に基づいて生成される。
【0059】
ステップS14において、コンバータ制御部48は、ステップS13で演算した目標電圧変化量ΔVfc_tar(今回)が許容変化量α以上であるかどうかを判定する。目標電圧変化量ΔVfc_tar(今回)が許容変化量α未満である場合(S14:NO)、ステップS15において、コンバータ制御部48は、ステップS12で演算した仮目標FC電圧Vfc_tar_p(今回)を、今回の処理で実際に用いる目標FC電圧Vfc_tar(今回)とする。目標電圧変化量ΔVfc_tar(今回)が許容変化量α以上である場合(S14:YES)、ステップS16において、コンバータ制御部48は、前回の目標FC電圧Vfc_tar(前回)に許容変化量αを加算したものを、今回の処理で実際に用いる目標FC電圧Vfc_tar(今回)とする。
【0060】
ステップS17において、コンバータ制御部48は、ステップS15又はステップS16で求めた目標FC電圧Vfc_tar(今回)に応じてDC/DCコンバータ20を動作させ、2次電圧V2が目標FC電圧Vfc_tar(今回)と等しくなるように1次電圧V1を昇圧する。
【0061】
なお、上述したように、第1実施形態では、FC電圧Vfcの制御を、DC/DCコンバータ装置50による2次電圧V2の制御により行う。従って、コンバータ制御部48における実際の制御は、上記仮目標FC電圧Vfc_tar_p及び目標FC電圧Vfc_tarの代わりに、統括制御部40からの指令に基づくフィードフォワード項と、PID制御に基づくフィードバック項とを加算した2次電圧V2の仮目標値(仮目標2次電圧V2_tar_p)[V]と、仮目標2次電圧V2_tar_pに対して目標出力変化量ΔPfc_tarの制限処理を行った後の値である目標2次電圧V2_tar[V]とを用いて行ってもよい。この場合、上記目標電圧変化量ΔVfc_tarは、前回の目標2次電圧V2_tarと今回の仮目標2次電圧V2_tar_pの差として演算される。
【0062】
3.第1実施形態の効果
以上説明したように、第1実施形態によれば、燃料電池14の劣化を抑制しつつ、FC出力Pfcの変化を完全には制限することなく、FC出力Pfcを効果的に利用することができる。
【0063】
すなわち、一般的な燃料電池と同様、燃料電池14の特性として、FC出力Pfcが低くなるほど2次関数的にFC電圧Vfcが変化する。換言すると、燃料電池14は、低出力になるほどFC出力Pfcの変化量に対するFC電圧Vfcの変化量が大きくなる。そして、FC電圧Vfcの変化が大きいほど、燃料電池14は劣化が進む。第1実施形態によれば、単位時間当たりのFC電圧Vfcの変化量(電圧変化量ΔVfc)に制限を設けることにより、FC出力Pfcが高いときに比べ、FC出力Pfcが低いとき、単位時間当たりの燃料電池14の許容出力変化量を小さく設定する。これにより、燃料電池14の電圧変化を制限し、燃料電池14の劣化を抑制することができる。
【0064】
その一方、上記とは反対に、燃料電池14は、高出力になるほどFC出力Pfcの変化量に対するFC電圧Vfcの変化量が小さくなる。従って、高出力側では、FC出力Pfcの変化を大きくしても、低出力側と比べて、FC電圧Vfcの変化はそれほど大きくならない。第1実施形態によれば、FC出力Pfcが低いときと比べ、FC出力Pfcが高いときは、単位時間当たりの燃料電池14の許容出力変化量を大きく設定することになる。これにより、FC出力Pfcの変化が比較的劣化につながらない高出力側では、燃料電池14の出力性能をより効率的に発揮させることが可能となる。従って、FC出力Pfcを効果的に利用することができる。
【0065】
第1実施形態では、FC出力Pfcのみでは、全体必要出力Ptotal_reqを満たせないとき、その不足分をバッテリ出力Pbatにより補償する。これにより、全体必要出力Ptotal_reqについて、FC出力Pfcでは不足する分をバッテリ12により補償することができるため、全体必要出力Ptotal_reqを満たしつつ、燃料電池14の劣化を抑制することができる。
【0066】
第1実施形態では、電圧変化量ΔVfcに制限を設けることでFC出力Pfcを制限する。これにより、簡易な制御で燃料電池14の出力制御を効果的に行うことができる。すなわち、図4に示すように、一般的な燃料電池と同様、FC出力Pfcは、FC電圧Vfcの2次関数的に変化する。このため、電圧変化量ΔVfcに制限を設けると、結果として、FC出力Pfcが低いときには、出力変化量ΔPfcが小さくなるように制限し、FC出力Pfcが高いときには、出力変化量ΔPfcが大きくても許容する。従って、電圧変化量ΔVfcを制限するための演算量が比較的少なくても済む。
【0067】
B.第2実施形態
1.構成の説明(第1実施形態との相違)
図10は、この発明の第2実施形態に係る出力制御方法を実施する燃料電池システム11Aを搭載した燃料電池車両10A(以下「FC車両10A」ともいう。)の概略全体構成図である。
【0068】
このFC車両10Aは、基本的には、第1実施形態のFC車両10と同様の構成を有する。以下では、第1実施形態と第2実施形態とで共通する構成要素には同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0069】
FC車両10Aは、燃料電池14の出力電流(FC電流Ifc)[A]を検出する電流センサ70と、燃料電池14の各セル(図示せず)の電圧(セル電圧Vcell)[V]を検出する電圧センサ72とを有し、コンバータ制御部48aがFC電流Ifc及びセル電圧Vcellを用いる点で、FC車両10と異なる。
【0070】
2.第2実施形態における制御
第2実施形態における各種制御は、基本的に、第1実施形態と同様であるが、目標2次電圧V2_tar(又は目標FC電圧Vfc_tar)の決定方法が異なる。換言すると、第1実施形態では、FC電圧Vfcが増加する場合及び減少する場合の両方についての制御であったのに対し、第2実施形態では、FC電圧Vfcが増加する場合に焦点を当てた制御である。
【0071】
図11には、第2実施形態において目標2次電圧V2_tarを決定するフローチャートが示されている。このフローチャートは、図3のステップS3の詳細に相当する。なお、図9と同様、以下では、説明の便宜のため、今回の処理で演算したものに「今回」と記載し、前回の処理で演算したものに「前回」と記載する。
【0072】
ステップS21において、統括制御部40が燃料電池分担負担量Lfを算出し、これをコンバータ制御部48aに送信する。続くステップS22において、コンバータ制御部48aは、受信した燃料電池分担負担量Lfに対応するFC電流Ifc{要求FC電流Ifc_req(今回)}を決定する。すなわち、燃料電池14の出力は、FC電圧VfcとFC電流Ifcとにより算出できるが、燃料電池14のI−V特性に基づいて燃料電池分担負担量Lfと要求FC電流Ifc_reqとの組合せをコンバータ制御部48aの図示しない記憶手段に記憶しておく。そして、燃料電池分担負担量Lfを用いて要求FC電流Ifc_reqを読み出す。
【0073】
ステップS23において、コンバータ制御部48aは、バッテリ制御部52に対し、バッテリ12の充電量SOC[%]が、閾値TH_soc以下であるかどうかを問い合わせる。閾値TH_socは、バッテリ12が過充電状態であるかどうかを判定するための充電量SOCの閾値であり、充電量SOCが閾値TH_socを超えるとき、バッテリ12が過充電状態であると判定する。
【0074】
充電量SOCが閾値TH_socを超えるとの回答がバッテリ制御部52からあった場合(S23:NO)、燃料電池14の出力低下を制限し、余剰出力をバッテリ12に充電すると、過充電によりバッテリ12が劣化するおそれがある。そこで、ステップS24において、コンバータ制御部48aは、燃料電池14の出力低下を制限せずに、要求FC電流Ifc_req(今回)を、FC電流Ifcの目標値(目標FC電流Ifc_tar)として設定する。そして、ステップS30に進む。
【0075】
充電量SOCが閾値TH_soc以下であるとの回答がバッテリ制御部52からあった場合(S23:YES)、燃料電池14の出力低下を制限し、余剰出力をバッテリ12に充電しても過充電によりバッテリ12が劣化するおそれはない。
【0076】
そこで、ステップS25において、コンバータ制御部48aは、DC/DCコンバータ20の出力を制限中であるかどうかを確認する。DC/DCコンバータ20の出力を制限する場合としては、例えば、DC/DCコンバータ20が故障中である場合や、上アームスイッチング素子81が過熱状態にある場合がある。DC/DCコンバータ20の出力を制限中である場合(S25:YES)、燃料電池14の出力低下を制限すると、余剰電力がDC/DCコンバータ20を介してバッテリ12に供給されることとなり、結果として、DC/DCコンバータ20の出力が増加してしまう。しかし、DC/DCコンバータ20の出力を制限中である場合、そのような処理を行うことができない。そこで、ステップS24において、コンバータ制御部48aは、燃料電池14の出力低下を制限せずに、要求FC電流Ifc_req(今回)を目標FC電流Ifc_tarとして設定する。
【0077】
DC/DCコンバータ20の出力を制限中でない場合(S25:NO)、燃料電池14の出力低下を制限し、DC/DCコンバータ20を介してバッテリ12に余剰出力を供給しても上記のような問題は生じない。そこで、ステップS26に進む。
【0078】
ステップS26において、コンバータ制御部48aは、電圧センサ72が検出したセル電圧Vcellが異常であるかどうかを判定する。セル電圧Vcellが異常であるとは、例えば、セルの劣化等によりセル電圧Vcellが、通常よりも低すぎる場合をいう。一般に、燃料電池14の劣化が進むと、FC電流Ifcが同じでもFC電圧Vfcが下がり、低負荷時のI−V特性の傾きが急になる(図12参照)。このため、燃料電池14の出力低下を制限すると、出力低下の速度を過度に制限することになってしまう。
【0079】
セル電圧Vcellが異常である場合(S26:YES)、ステップS24において、コンバータ制御部48aは、燃料電池14の出力低下を制限せずに、要求FC電流Ifc_req(今回)を目標FC電流Ifc_tarとして設定する。セル電圧Vcellが異常でない場合(S26:NO)、燃料電池14の出力低下を制限しても上記のような問題は生じない。そこで、ステップS27に進む。
【0080】
ステップS27において、コンバータ制御部48aは、要求FC電流Ifc_req(今回)が目標FC電流Ifc_tar(前回)未満であるかどうかを判定する。要求FC電流Ifc_req(今回)が目標FC電流Ifc_tar(前回)未満でない場合(S27:NO)、FC電圧Vfcの低下に伴う燃料電池14の劣化は生じず、燃料電池14の出力低下を制限する必要性は少ない。そこで、ステップS24において、コンバータ制御部48aは、燃料電池14の出力低下を制限せずに、要求FC電流Ifc_req(今回)を目標FC電流Ifc_tarとして設定する。
【0081】
要求FC電流Ifc_req(今回)が目標FC電流Ifc_tar(前回)未満である場合(S27:YES)、FC電圧Vfcの低下に伴う燃料電池14の劣化は生じる可能性があり、燃料電池14の出力低下を制限する必要性が生じる。
【0082】
そこで、まずステップS28において、コンバータ制御部48aは、目標FC電流Ifc_tar(前回)とFC電圧Vfc(今回)とに基づいて電流減算量Dis[A]を決定する。電流減算量Disは、1回の処理で許容されるFC電流Ifcの低下量を示す。
【0083】
図12は、電流減算量Disの決定方法を説明するための図である。図12において、曲線110は、劣化が生じていない燃料電池14のI−V特性であり、曲線112は、劣化後の燃料電池14のI−V特性である。
【0084】
図12に示すように、第2実施形態では、FC電流Ifcを3つの領域に分け、FC電流Ifcが低い領域(低負荷領域)では、単位時間当たりのFC電圧Vfcの変化量(電圧変化量ΔVfc)を10mV/secに制限する。また、FC電流Ifcが中くらいの領域(中負荷領域)では、電圧変化量ΔVfcを100mV/secに制限する。さらに、FC電流Ifcが高い領域(高負荷領域)では、電圧変化量ΔVfcに制限を設けない。燃料電池14の劣化は、FC電圧Vfcが高いほど、進み易いことから、上記のような制限を設けることにより、燃料電池14の劣化を防止するとともに、高負荷領域(及び中負荷領域)において燃料電池14の出力を有効に利用することが可能となる。
【0085】
また、図12に示すように、燃料電池14の劣化が進むと、FC電流Ifcが同じでもFC電圧Vfcが下がり、低負荷領域でのI−V特性の傾きは急になる。
【0086】
上記を踏まえ、第2実施形態では、燃料電池14の劣化に伴うI−V特性の変化を考慮しつつ、低負荷領域及び中負荷領域における電圧変化量ΔVfcの制限を一定化するため、目標FC電流Ifc_tar(前回)とFC電圧Vfc(今回)とに応じた電流減算量Disを予めマップ化して記憶しておく。目標FC電流Ifc_tar(前回)及びFC電圧Vfc(今回)と、電流減算量Disとの関係を規定するマップは、コンバータ制御部48aの図示しない記憶手段に記憶されている。
【0087】
燃料電池14の劣化にかかわらず、低負荷領域及び中負荷領域で電圧変化量ΔVfcを一定化するため、上記マップでは、目標FC電流Ifc_tar(前回)が小さくなるほど、また、FC電圧Vfc(今回)が低くなるほど、電流減算量Disを小さくする(図12参照)。なお、図12では、マップ中の具体的な数値の例は示されていないことに留意されたい。
【0088】
図11に戻り、ステップS29において、コンバータ制御部48aは、目標FC電流Ifc_tar(前回)から電流減算量Dis(今回)を差し引いたものを目標FC電流Ifc_tar(今回)として設定する。
【0089】
ステップS24又はステップS29の後、ステップS30において、コンバータ制御部48aは、目標FC電流Ifc_tar(今回)を次回の処理のために図示しない記憶手段に保持する。続くステップS31において、コンバータ制御部48aは、目標FC電流Ifc_tar(今回)に基づいて目標2次電圧V2_tarを決定する。なお、目標2次電圧V2_tarの算出に当たっては、PID制御等のフィードバック制御を併せて用いることで、2次電圧V2(FC電圧Vfc)を目標2次電圧V2_tar(目標FC電圧Vfc_tar)に合わせ込む。
【0090】
3.第2実施形態の効果
第2実施形態によれば、第1実施形態の効果に加え、以下のような効果を奏することができる。
【0091】
すなわち、第2実施形態では、低負荷領域において、単位時間当たりのFC電圧Vfcの変化量である電圧変化量ΔVfcが10mV/sec以内になるように目標FC電流Ifc_tar(今回)が決定され、中負荷領域において、電圧変化量ΔVfcが100mV/sec以内になるように目標FC電流Ifc_tar(今回)が決定され、高負荷領域において、電圧変化量ΔVfcの制限なしに目標FC電流Ifc_tar(今回)が決定される。これにより、燃料電池14の劣化により燃料電池14のI−V特性に変化が生じてFC電流Ifcの変化に対するFC電圧Vfcの変化が大きくなっても、電圧変化量ΔVfcを一定値以内に保持することが可能となる。
【0092】
第2実施形態では、目標2次電圧V2_tarを算出する前に、目標FC電流Ifc_tarの変化を制限する。これにより、目標2次電圧V2_tarの算出において前記制限を反映させる場合と比べて、演算を簡素化することが可能となる。特に、第2実施形態では、目標FC電流Ifc_tar(前回)及びFC電圧Vfc(今回)と、電流減算量Dis(今回)との関係をマップ化して利用することから、演算量をさらに減少させることができる。
【0093】
C.変形例
なお、この発明は、上記各実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。例えば、以下の構成を採用することができる。
【0094】
[搭載対象]
上記各実施形態では、燃料電池システム11、11AをFC車両10、10Aに搭載したが、これに限られず、別の対象に搭載してもよい。例えば、燃料電池システム11、11Aを船舶や航空機等の移動体に用いることもできる。或いは、燃料電池システム11、11Aを家庭用電力システムに適用してもよい。
【0095】
[DC/DCコンバータ]
上記各実施形態では、上アームスイッチング素子81及び下アームスイッチング素子82の数をそれぞれ1つとしたが、これに限られず、2つ以上としてもよい。
【0096】
[出力制御]
上記各実施形態では、2次電圧V2又はFC電圧Vfcを制御することにより、FC出力Pfcを制御したが、これに限られない。例えば、燃料電池14を構成する各セルのセル電圧Vcell[V]を制御することにより、各セルの出力を制御してもよい。
【0097】
上記各実施形態では、単位時間当たりのFC電圧Vfcの変化量(電圧変化量ΔVfc)に制限を設けることでFC出力Pfcを制限したが、FC出力Pfcの高出力側と低出力側とで許容される単位時間当たりの燃料電池14の出力変化量が異なっており、低出力側で許容される当該出力変化量が、高出力側で許容される当該出力変化量よりも小さければ、これに限られない。例えば、燃料電池14の出力−電圧特性(図4)を用いてFC電圧VfcからFC出力Pfcを求め、FC出力Pfc自体の単位時間当たりの変化量[W/sec]に制限を設けてもよい。この場合、単位時間当たりのFC出力Pfcの変化量に関する許容変化量(許容変化量β)[W/sec]を予め設定しておき、単位時間当たりのFC出力Pfcの変化量がこの許容変化量β以上とならないように制御してもよい。
【0098】
上記第2実施形態の図11では、バッテリ12の充電量SOCが閾値TH_SOCを超える場合(S23:NO)、DC/DCコンバータ20の出力制限中である場合(S25:YES)、セル電圧Vcellが異常である場合(S26:YES)、又は要求FC電流Ifc_req(今回)が目標FC電流Ifc_tar(前回)未満でない場合(S27:NO)、電流減算量Disを用いた制限を実行しなかったが、これらの場合のいずれかを用いない又は選択的に用いることも可能である。さらに、電流減算量Disを用いた制限を実行しないのではなく、電流減算量Disを増加させることで対応することもできる。
【0099】
上記第2実施形態の図11では、要求FC電流Ifc_req(今回)と目標FC電流Ifc_tar(前回)との比較(S27)の後に、電流減算量Disの決定(S28)を行ったが、ステップS28の処理をステップS27の前に行うこともできる。この場合、ステップS27では、要求FC電流Ifc_req(今回)が、目標FC電流Ifc_tar(前回)と電流減算量Dis(今回)の差より小さいかどうか{Ifc_req(今回)<Ifc_tar(前回)―Dis(今回)}を判定してもよい。これにより、目標FC電流Ifc_tar(前回)と要求FC電流Ifc_req(今回)との差が、電流減算量Disよりも小さいときに目標FC電流Ifc_tar(今回)をより細かく設定することが可能となる。
【符号の説明】
【0100】
10、10A…燃料電池車両 11、11A…燃料電池システム
12…バッテリ 14…燃料電池
16…モータ(負荷) Pbat…バッテリ出力
Pfc…FC出力 Ptotal_req…全体必要出力
Vfc…FC電圧
α…単位時間当たりのFC電圧の許容変化量
ΔVfc…単位時間当たりのFC電圧の変化量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と負荷とを備える燃料電池システムの出力制御方法であって、
前記燃料電池の運転領域における第1出力領域と、前記第1出力領域より低出力側の第2出力領域とで許容される単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量が異なっており、
前記第2出力領域で許容される前記単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量は、前記第1出力領域で許容される前記単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量よりも小さい
ことを特徴とする燃料電池システムの出力制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムの出力制御方法において、
前記第2出力領域は、単位時間当たりの前記燃料電池の電圧変化量が一定値以内になるように前記単位時間当たりに許容される前記出力変化量が定まっており、
前記第1出力領域は、前記単位時間当たりの前記電圧変化量が制限されていないか、又は前記一定値より大きい値以内になるように制限されている
ことを特徴とする燃料電池システムの出力制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の燃料電池システムの出力制御方法において、
前記燃料電池システムは、
前記燃料電池の目標電力又は目標電流に基づき前記燃料電池の目標電圧を決定し、
DC/DCコンバータにより前記燃料電池の電圧を前記目標電圧に合わせ込むようにフィードバック制御するシステムであって、
前記第1出力領域及び前記第2出力領域における前記燃料電池の出力は、前記目標電力又は前記目標電流を制限することで前記単位時間当たりの前記出力変化量が許容範囲内に収まる
ことを特徴とする燃料電池システムの出力制御方法。
【請求項4】
請求項1記載の燃料電池システムの出力制御方法において、
前記燃料電池システムは、さらに、バッテリを備え、
前記燃料電池の出力のみでは、前記燃料電池システムの出力要求を満たせないとき、前記出力要求の不足分を前記バッテリの出力により補償する
ことを特徴とする燃料電池システムの出力制御方法。
【請求項5】
請求項1又は4記載の燃料電池システムの出力制御方法において、
単位時間当たりの前記燃料電池の電圧変化量に制限を設けることで前記燃料電池の出力を制限する
ことを特徴とする燃料電池システムの出力制御方法。
【請求項1】
燃料電池と負荷とを備える燃料電池システムの出力制御方法であって、
前記燃料電池の運転領域における第1出力領域と、前記第1出力領域より低出力側の第2出力領域とで許容される単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量が異なっており、
前記第2出力領域で許容される前記単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量は、前記第1出力領域で許容される前記単位時間当たりの前記燃料電池の出力変化量よりも小さい
ことを特徴とする燃料電池システムの出力制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムの出力制御方法において、
前記第2出力領域は、単位時間当たりの前記燃料電池の電圧変化量が一定値以内になるように前記単位時間当たりに許容される前記出力変化量が定まっており、
前記第1出力領域は、前記単位時間当たりの前記電圧変化量が制限されていないか、又は前記一定値より大きい値以内になるように制限されている
ことを特徴とする燃料電池システムの出力制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の燃料電池システムの出力制御方法において、
前記燃料電池システムは、
前記燃料電池の目標電力又は目標電流に基づき前記燃料電池の目標電圧を決定し、
DC/DCコンバータにより前記燃料電池の電圧を前記目標電圧に合わせ込むようにフィードバック制御するシステムであって、
前記第1出力領域及び前記第2出力領域における前記燃料電池の出力は、前記目標電力又は前記目標電流を制限することで前記単位時間当たりの前記出力変化量が許容範囲内に収まる
ことを特徴とする燃料電池システムの出力制御方法。
【請求項4】
請求項1記載の燃料電池システムの出力制御方法において、
前記燃料電池システムは、さらに、バッテリを備え、
前記燃料電池の出力のみでは、前記燃料電池システムの出力要求を満たせないとき、前記出力要求の不足分を前記バッテリの出力により補償する
ことを特徴とする燃料電池システムの出力制御方法。
【請求項5】
請求項1又は4記載の燃料電池システムの出力制御方法において、
単位時間当たりの前記燃料電池の電圧変化量に制限を設けることで前記燃料電池の出力を制限する
ことを特徴とする燃料電池システムの出力制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−257928(P2010−257928A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153777(P2009−153777)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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