説明

燃料電池システム

【課題】高温条件下、かつ低加湿ないし無加湿条件下においても発電特性に優れる固体高分子形燃料電池を備えた燃料電池システムを提供する。
【解決手段】脂肪族環構造を有するペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位を有し、かつイオン交換基を有するポリマー(H)を触媒層に含む膜電極接合体10を有する固体高分子形燃料電池22と、固体高分子形燃料電池22の温度を調節する調温手段と、固体高分子形燃料電池22の温度を検知する温度センサ38と、温度センサ38からの温度情報に基づいて固体高分子形燃料電池22の最高温度が90〜140℃の範囲になるように調温手段を制御する制御装置40とを有する燃料電池システム20。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池を備えた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池用膜電極接合体の触媒層に含まれるプロトン伝導性ポリマーとしては、通常、下記のポリマー(1)が用いられる(特許文献1)。
下式(m14)で表される化合物に基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレン(以下、TFEと記す。)に基づく繰り返し単位とを有するポリマーの−SOF基をスルホン酸基(−SOH基)に変換したポリマー(1)。
CF=CF(OCFCFZ)(CFSOF ・・・(m14)。
ただし、Zは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、mは、0〜3の整数であり、pは、0または1であり、nは、1〜12であり、m+p>0である。
【0003】
固体高分子形燃料電池には、燃料電池システムの簡素化や低コスト化のために、高温(90℃以上)条件下、かつ反応ガス(燃料ガスおよび酸化剤ガス)の相対湿度が低い低加湿ないし無加湿条件下における運転が求められている。たとえば、固体高分子形燃料電池を低加湿ないし無加湿条件下で運転することにより、加湿器を小型化または省略できる。また、自動車用燃料電池システムでは、固体高分子形燃料電池を高温条件下で運転することにより、固体高分子形燃料電池を冷却するためのラジエータを小型化できる。また、家庭用燃料電池システムでは、固体高分子形燃料電池を高温条件下で運転することにより、固体高分子形燃料電池の冷却に用いた水が高温の温水として回収されるため、温水の用途が広くなる。
【0004】
しかし、ポリマー(1)を触媒層のプロトン伝導性ポリマーに用いた従来の固体高分子形燃料電池では、高温条件下、かつ低加湿ないし無加湿条件下における発電特性(出力電圧等)が不充分である。そのため、従来の固体高分子形燃料電池は、低温(80℃程度)、かつ高加湿条件下で運転せざるを得ない。そのため、従来の燃料電池システムには、比較的大型の加湿器が必要である。また、自動車用燃料電池システムでは、大型のラジエータが必要である。また、家庭用燃料電池システムでは、回収される温水の温度が低いため、温水の用途が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3675473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温条件下、かつ低加湿ないし無加湿条件下においても発電特性に優れる固体高分子形燃料電池を備えた燃料電池システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の燃料電池システムは、下記の膜電極接合体を有する固体高分子形燃料電池と、前記固体高分子形燃料電池の温度を調節する調温手段と、前記固体高分子形燃料電池の温度を検知する温度検知手段と、前記温度検知手段からの温度情報に基づいて、前記固体高分子形燃料電池の最高温度が90〜140℃の範囲になるように調温手段を制御する制御手段とを有する。
(膜電極接合体)
プロトン伝導性ポリマーを含む触媒層を有するアノードと、プロトン伝導性ポリマーを含む触媒層を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置される固体高分子電解質膜とを備え、前記カソードおよび前記アノードの少なくとも一方の触媒層に含まれるプロトン伝導性ポリマーが、脂肪族環構造を有するペルフルオロモノマーまたは環化重合により脂肪族環構造を形成し得るペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位を有し、かつイオン交換基を有するポリマー(H)であることを特徴とする膜電極接合体。
【0008】
本発明の燃料電池システムは、さらに、前記固体高分子形燃料電池に供給される酸化剤ガスの湿度を調節する調湿手段を有し、前記制御手段が、さらに、前記温度検知手段からの温度情報に基づいて、前記固体高分子形燃料電池に供給される酸化剤ガスの相対湿度が前記固体高分子形燃料電池の温度において30%以下になるように調湿手段を制御するものであることが好ましい。
または、本発明の燃料電池システムにおいては、前記固体高分子形燃料電池に供給される酸化剤ガスを加湿しないことが好ましい。
【0009】
前記ポリマー(H)は、イオン交換基を有するペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位(A)と、イオン交換基を有さないペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位(B)とを有し、前記繰り返し単位(A)および前記繰り返し単位(B)の少なくとも一方が、脂肪族環構造を有するポリマーであることが好ましい。
前記ポリマー(H)のイオン交換容量は、1.2〜2.8ミリ当量/g乾燥樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の燃料電池システムは、高温条件下、かつ低加湿ないし無加湿条件下においても発電特性に優れる固体高分子形燃料電池を備えているため、加湿器を小型化または省略できる。また、自動車用燃料電池システムでは、ラジエータを小型化できる。また、家庭用燃料電池システムでは、回収された温水の用途が広くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】膜電極接合体の一例を示す断面図である。
【図2】膜電極接合体の他の例を示す断面図である。
【図3】本発明の燃料電池システムの一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の燃料電池システムの他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書においては、式(u11)で表される繰り返し単位を単位(u11)と記す。他の式で表される繰り返し単位も同様に記す。
また、本明細書においては、式(m11)で表される化合物を化合物(m11)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
また、本明細書においては、式(g1)で表される基を基(g1)と記す。他の式で表される基も同様に記す。
【0013】
本明細書において繰り返し単位とは、モノマーが重合することによって形成された該モノマーに由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
また、モノマーとは、重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する化合物である。
また、イオン交換基とは、H、一価の金属カチオン、アンモニウムイオン等を有する基である。イオン交換基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、スルホンメチド基等が挙げられる。
また、前駆体基とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によりイオン交換基に変換できる基である。前駆体基としては、−SOF基等が挙げられる。
【0014】
<プロトン伝導性ポリマー>
プロトン伝導性ポリマーは、イオン交換基を有するポリマーである。
本発明においては、プロトン伝導性ポリマーとして、脂肪族環構造を有するペルフルオロモノマーまたは環化重合により脂肪族環構造を形成し得るペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位を有し、かつイオン交換基を有するポリマー(H)を用いる。
脂肪族環構造は、エーテル結合性酸素原子を1個または2個有してもよい環状のペルフルオロ脂肪族炭化水素基である。
脂肪族環構造は、ポリマー(H)の主鎖に存在してもよく、側鎖に存在してもよい。
【0015】
ポリマー(H)は、たとえば、脂肪族環構造を有するペルフルオロモノマーまたは環化重合により脂肪族環構造を形成し得るペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位を有し、かつイオン交換基の前駆体基を有するポリマー(F)の前駆体基をイオン交換基に変換することにより得られる。
【0016】
(ポリマー(F))
ポリマー(F)としては、イオン交換基の前駆体基を有するペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位(A’)と、イオン交換基を有さないペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位(B)と、必要に応じて他の繰り返し単位(C)とを有し、繰り返し単位(A’)および繰り返し単位(B)の少なくとも一方が、脂肪族環構造を有するものが好ましい。
【0017】
繰り返し単位(A’):
繰り返し単位(A’)は、イオン交換基の前駆体基を有するペルフルオロモノマー(以下、モノマー(a)とも記す。)に基づく繰り返し単位である。
【0018】
脂肪族環構造を有するモノマー(a)としては、たとえば、化合物(m11)〜(m13)が挙げられ、ポリマーの電極性能をより一層向上させる効果が高い点から、化合物(m11)または化合物(m12)が好ましく、モノマーの合成のしやすさの点から、化合物(m11)がより好ましい。
【0019】
【化1】

【0020】
11は、エーテル結合性酸素原子を有してもよい2価のペルフルオロ有機基である。有機基は、炭素原子を1個以上有する基である。2価のペルフルオロ有機基としては、ペルフルオロアルキレン基が好ましい。ペルフルオロアルキレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、該酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素−炭素結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0021】
12、R13、R15、R16は、それぞれ独立にエーテル結合性酸素原子を有してもよい1価のペルフルオロ有機基またはフッ素原子である。1価のペルフルオロ有機基としては、ペルフルオロアルキル基が好ましい。R15およびR16は、重合反応性が高い点から、少なくとも一方がフッ素原子であることが好ましく、両方がフッ素原子であることがより好ましい。
14は、エーテル結合性酸素原子を有してもよい1価のペルフルオロ有機基、フッ素原子、または−R11SOF基である。
【0022】
1価のペルフルオロ有機基としては、ペルフルオロアルキル基が好ましい。ペルフルオロアルキル基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、該酸素原子は、ペルフルオロアルキル基の炭素−炭素結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。化合物(m11)が2個のR11を有する場合、R11は、それぞれ同じ基であってもよく、それぞれ異なる基であってもよい。
【0023】
21は、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基または炭素−炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2〜6のペルフルオロアルキレン基である。ペルフルオロアルレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。ペルフルオロアルレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0024】
22は、フッ素原子、炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基、炭素−炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基、または−R21(SOX(SO基である。ペルフルオロアルキル基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。化合物(m12)が2個のR21を有する場合、R21は、それぞれ同じ基であってもよく、それぞれ異なる基であってもよい。
【0025】
31は、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基または炭素−炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2〜6のペルフルオロアルキレン基である。ペルフルオロアルレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。ペルフルオロアルレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0026】
32〜R35は、フッ素原子、炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基、または炭素−炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基である。ペルフルオロアルキル基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0027】
36は、単結合、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基または炭素−炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2〜6のペルフルオロアルキレン基である。ペルフルオロアルレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。ペルフルオロアルレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0028】
化合物(m11)としては、たとえば、化合物(m11−1)〜(m11−4)が挙げられ、合成が容易である点および重合反応性が高い点から、化合物(m11−1)が特に好ましい。
【0029】
【化2】

【0030】
化合物(m12)としては、たとえば、化合物(m12−1)または化合物(m12−2)が挙げられる。
【0031】
【化3】

【0032】
化合物(m13)としては、たとえば、化合物(m13−1)または化合物(m13−2)が挙げられる。
【0033】
【化4】

【0034】
化合物(m11)は、国際公開第2003/037885号パンフレット、特開2005−314388号公報、特開2009−040909号公報等に記載された方法により合成できる。
化合物(m12)は、特開2006−152249号公報等に記載された方法により合成できる。
化合物(m13)は、特開2006-241302号公報等に記載された方法により合成できる。
【0035】
脂肪族環構造を有さないモノマー(a)としては、たとえば、化合物(m14)、化合物(m15)が挙げられ、ポリマーの導電性を上げても含水率を低く抑えることができ、その結果、低加湿ないし無加湿条件下でも、高加湿条件下でもより一層高い発電性能を発現できるため、化合物(m15)が好ましい。
CF=CF(OCFCFZ)(CFSOF ・・・(m14)。
【0036】
【化5】

【0037】
Zは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、mは、0〜3の整数であり、pは、0または1であり、nは、1〜12であり、m+p>0である。
【0038】
は、エーテル結合性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。
は、単結合、またはエーテル結合性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。
【0039】
、Qのペルフルオロアルキレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、該酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素原子−炭素原子結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。
ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
ペルフルオロアルキレン基の炭素数は、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。炭素数が6以下であれば、原料の含フッ素モノマーの沸点が低くなり、蒸留精製が容易となる。また、炭素数が6以下であれば、ポリマー(H)のイオン交換容量の低下が抑えられ、プロトン伝導性の低下が抑えられる。
【0040】
は、エーテル結合性酸素原子を有してもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。Qがエーテル結合性酸素原子を有してもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であれば、Qが単結合である場合に比べ、長期にわたって固体高分子形燃料電池を運転した際に、発電性能の安定性に優れる。
、Qの少なくとも一方は、エーテル性の酸素原子を有する炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。エーテル性の酸素原子を有する炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基を有する含フッ素モノマーは、フッ素ガスによるフッ素化反応を経ずに合成できるため、収率が良好で、製造が容易である。
【0041】
Yは、フッ素原子または1価のペルフルオロ有機基である。
Yは、フッ素原子、またはエーテル性の酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6の直鎖のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
qは、0または1である。
【0042】
化合物(m14)としては、化合物(m14−1)〜(m14−3)が好ましい。
CF=CFO(CFn1SOF ・・・(m14−1)、
CF=CFOCFCF(CF)O(CFn2SOF ・・・(m14−2)、
CF=CF(OCFCF(CF))m3O(CFn3SOF ・・・(m14−3)。
ただし、n1、n2、n3は1〜8の整数であり、m3は1〜3の整数である。
【0043】
化合物(m15)としては、ポリマー(H)の製造が容易であり、工業的実施が容易である点から、化合物(m15−1)〜(m15−3)が好ましく、化合物(m15−1)が特に好ましい。
【0044】
【化6】

【0045】
化合物(m14)は、Prog.Polym.Sci.、第12巻、1986年、p.233−237;米国特許第4330654号明細書等に記載された方法により合成できる。
化合物(m15)は、国際公開第2007/013533号パンフレット、特開2008−202039号公報等に記載された方法により合成できる。
【0046】
繰り返し単位(B):
繰り返し単位(B)は、イオン交換基を有さないペルフルオロモノマー(以下、モノマー(b)とも記す。)に基づく繰り返し単位である。
【0047】
脂肪族環構造を有するモノマー(b)としては、たとえば、化合物(m21)〜(m23)が挙げられ、ポリマーの電極性能をより一層向上させる効果が高い点から、化合物(m21)または化合物(m22)が好ましい。
【0048】
【化7】

【0049】
41〜R46は、それぞれ独立にエーテル結合性酸素原子を有してもよい1価のペルフルオロ有機基またはフッ素原子である。1価のペルフルオロ有機基としては、ペルフルオロアルキル基が好ましい。ペルフルオロアルキル基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、該酸素原子は、ペルフルオロアルキル基の炭素−炭素結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
45およびR46は、重合反応性が高い点から、少なくとも一方がフッ素原子であることが好ましく、両方がフッ素原子であることがより好ましい。
【0050】
sは、0または1である。
51およびR52は、それぞれ独立にフッ素原子、炭素数1〜5のペルフルオロアルキル基、または互いに連結して形成されたスピロ環(ただし、sが0の場合)である。
53およびR54は、それぞれ独立にフッ素原子または炭素数1〜5のペルフルオロアルキル基である。
55は、フッ素原子、炭素数1〜5のペルフルオロアルキル基、または炭素数1〜5のペルフルオロアルコキシ基である。Rは、重合反応性が高い点から、フッ素原子が好ましい。
ペルフルオロアルキル基およびペルフルオロアルコキシ基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0051】
61〜R65は、フッ素原子、炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基、または炭素−炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2〜6のペルフルオロアルキル基である。ペルフルオロアルキル基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0052】
66は、単結合、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基または炭素−炭素結合間にエーテル結合性酸素原子を有する炭素数2〜6のペルフルオロアルキレン基である。ペルフルオロアルレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。ペルフルオロアルレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
【0053】
化合物(m21)としては、たとえば、化合物(m21−1)または化合物(m21−2)が挙げられ、合成が容易である点および重合反応性が高い点から、化合物(m21−1)が特に好ましい。
【0054】
【化8】

【0055】
化合物(m22)としては、たとえば、化合物(m22−1)〜(m22−11)が挙げられ、ポリマーの電極性能をより一層向上させる効果が高い点から、化合物(m22−1)が特に好ましい。
【0056】
【化9】

【0057】
化合物(m23)としては、たとえば、化合物(m23−1)または化合物(m23−2)が挙げられる。
【0058】
【化10】

【0059】
化合物(m21)は、国際公開第2000/056694号パンフレット;Izvestiya Akademii Nauk SSSR、Seriya Khimicheskaya、1989年、第4巻、p.938−42等に記載された方法により合成できる。
化合物(m22)は、Macromolecule、第26巻、第22号、1993年、p.5829−5834;特開平6−92957号公報等に記載された方法により合成できる。
化合物(m23)は、特開2006-241302号公報等に記載された方法により合成できる。
【0060】
環化重合により脂肪族環構造を形成し得るモノマー(b)としては、たとえば、化合物(m24)が挙げられる。
CF(R71)=C(R73)−O−CF(R76)−CF(R75)−C(R74)=CF(R72) ・・・(m24)。
【0061】
71〜R76は、それぞれ独立にエーテル結合性酸素原子を有してもよい1価のペルフルオロ有機基またはフッ素原子である。1価のペルフルオロ有機基としては、ペルフルオロアルキル基が好ましい。ペルフルオロアルキル基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、該酸素原子は、ペルフルオロアルキル基の炭素−炭素結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
71〜R74は、重合反応性が高い点から、フッ素原子であることがより好ましい。
【0062】
化合物(m24)としては、たとえば、化合物(m24−1)〜(m24−3)が挙げられ、モノマーの合成のし易さからの点から、化合物(m24−1)が特に好ましい。
CF=CF−O−CF−CF−CF=CF ・・・(m24−1)、
CF=CF−O−CF−CF(CF)−CF=CF ・・・(m24−2)、
CF=CF−O−CF(CF)−CF−CF=CF ・・・(m24−3)。
【0063】
化合物(m24)は、Macromol. Symp.、第98巻、1995年、p.753−767等に記載された方法により合成できる。
【0064】
脂肪族環構造を有さないモノマー(b)としては、TFE、ペルフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)、ペルフルオロα−オレフィン類(ヘキサフルオロプロピレン等)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)類等が挙げられる。モノマー(c)としては、TFEが特に好ましい。TFEは高い結晶性を有するため、ポリマー(H)が含水した際の膨潤を抑える効果があり、ポリマー(H)の含水率を低減できる。
【0065】
また、モノマー(b)として、重合反応性を有する炭素−炭素二重結合を2個以上有するペルフルオロモノマー(以下、モノマー(b”)とも記す。)を用いてもよい。モノマー(b”)を用いることにより、ポリマー(F)の分子量を上げることができる。
【0066】
モノマー(b”)としては、たとえば、化合物(m31)(ただし、化合物(m24)を除く。)、化合物(m32)が挙げられる。
【0067】
【化11】

【0068】
CF=CF−Q−CF=CF ・・・(m32)。
【0069】
は、単結合、酸素原子、またはエーテル結合性酸素原子を有してもよい炭素数1〜10のペルフルオロアルキレン基である。
は、酸素原子、または直鎖または分岐構造を有するエーテル結合性酸素原子を有してもよいペルフルオロアルキレン基である。
【0070】
化合物(m31)としては、合成が容易である点および重合反応性が高い点から、化合物(m31−1)〜(m31−6)が好ましい。
【0071】
【化12】

【0072】
化合物(m32)としては、合成が容易である点から、化合物(m32−1)〜(m32−3)が好ましい。
CF=CFOCF=CF ・・・(m32−1)、
CF=CFO(CFOCF=CF ・・・(m32−2)、
CF=CF[OCFCF(CF)]O(CF[OCF(CF)CFOCF=CF ・・・(m32−3)。
ただし、h、kは、2〜8の整数であり、i、jは、それぞれ独立に0〜5の整数であり、i+j≧1である。
【0073】
モノマー(b”)の添加量は、ポリマー(F)を構成する全モノマー(モノマー(a)およびモノマー(b)の合計)100モル%のうち、0.001〜20モル%が好ましい。0.001モル%未満では、分子量を上げる効果が充分でなく、また、20モル%より多いと、モノマー(a)、モノマー(b)との反応性の違いからポリマー(F)の製造が難しくなる。
【0074】
他の繰り返し単位(C):
他の繰り返し単位(C)は、モノマー(a)およびモノマー(b)以外の他のモノマー(以下、モノマー(c)とも記す。)に基づく繰り返し単位である。
モノマー(c)としては、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレン、プロピレン、(ペルフルオロアルキル)エチレン類((ペルフルオロブチル)エチレン等)、(ペルフルオロアルキル)プロペン類(3−ペルフルオロオクチル−1−プロペン等)等が挙げられる。
【0075】
ポリマー(F)の製造:
ポリマー(F)は、モノマー(a)、モノマー(b)、および必要に応じてモノマー(c)を重合することによって製造される。
【0076】
重合法としては、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法が挙げられる。また、液体または超臨界の二酸化炭素中にて重合を行ってもよい。
重合は、ラジカルが生起する条件で行われる。ラジカルを生起させる方法としては、紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法、ラジカル開始剤を添加する方法等が挙げられる。
重合温度は、通常、10〜150℃である。
【0077】
ラジカル開始剤としては、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド類、ジアルキルペルオキシジカーボネート類、ジアシルペルオキシド類、ペルオキシエステル類、アゾ化合物類、過硫酸塩類等が挙げられ、不安定末端基が少ないポリマー(F)が得られる点から、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド類等のペルフルオロ化合物が好ましい。
【0078】
溶液重合法にて用いる溶媒としては、20〜350℃の沸点を有する溶媒が好ましく、40〜150℃の沸点を有する溶媒がより好ましい。溶媒としては、ペルフルオロトリアルキルアミン類(ペルフルオロトリブチルアミン等)、ペルフルオロカーボン類(ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等)、ハイドロフルオロカーボン類(1H,4H−ペルフルオロブタン、1H−ペルフルオロヘキサン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン等)、ハイドロフルオロエーテル類(CFCHOCFCFH等)が挙げられる。
【0079】
溶液重合法においては、溶媒中にモノマー、ラジカル開始剤等を添加し、溶媒中にてラジカルを生起させてモノマーの重合を行う。モノマーおよび開始剤の添加は、一括添加であってもよく、逐次添加であってもよく、連続添加であってもよい。
【0080】
懸濁重合法においては、水を分散媒として用い、該分散媒中にモノマー、非イオン性のラジカル開始剤等を添加し、分散媒中にてラジカルを生起させてモノマーの重合を行う。
非イオン性のラジカル開始剤としては、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド類、ジアルキルペルオキシジカーボネート類、ジアシルペルオキシド類、ペルオキシエステル類、ジアルキルペルオキシド類、ビス(フルオロアルキル)ペルオキシド類、アゾ化合物類等が挙げられる。
分散媒には、助剤として前記溶媒;懸濁粒子の凝集を防ぐ分散安定剤として界面活性剤;分子量調整剤として炭化水素系化合物(ヘキサン、メタノール等)等を添加してもよい。
【0081】
(ポリマー(H))
ポリマー(H)は、ポリマー(F)の前駆体基をイオン交換基に変換したポリマーである。
ポリマー(H)としては、イオン交換基を有するペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位(A)と、イオン交換基を有さないペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位(B)と、必要に応じて他の繰り返し単位(C)とを有し、繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の少なくとも一方が、脂肪族環構造を有するものが好ましい。
【0082】
繰り返し単位(A):
繰り返し単位(A)は、繰り返し単位(A’)の前駆体基をイオン交換基に変換した繰り返し単位である。
イオン交換基は、基(g1)であることが好ましい。
−(SOX(SO ・・・(g1)。
【0083】
は、H、一価の金属カチオン、または1以上の水素原子が炭化水素基と置換されていてもよいアンモニウムイオンであり、高導電性の観点から、Hが好ましい。
は、エーテル結合性酸素原子を有してもよい直鎖または分岐のペルフルオロアルキル基である。ペルフルオロアルキル基の炭素数は、1〜8が好ましく、1〜6がより好ましい。2個以上のRを有する場合、Rは、それぞれ同じ基であってもよく、それぞれ異なる基であってもよい。
【0084】
Xは、酸素原子、窒素原子または炭素原子であって、Xが酸素原子の場合a=0であり、Xが窒素原子の場合a=1であり、Xが炭素原子の場合a=2である。
基(g1)としては、スルホン酸基(−SO基)、スルホンイミド基(−SON(SO基)、またはスルホンメチド基(−SOC(SO基)が挙げられる。
【0085】
脂肪族環構造を有する繰り返し単位(A)としては、たとえば、単位(u11)〜(u13)が挙げられ、ポリマーの電極性能をより一層向上させる効果が高い点から、単位(u11)または単位(u12)が好ましく、モノマーの合成のしやすさから、単位(u11)がより好ましい。
【0086】
【化13】

【0087】
11〜R13、R15、R16は、化合物(m11)において説明した通りである。
14は、エーテル結合性酸素原子を有してもよい1価のペルフルオロ有機基、フッ素原子、または−R11(SOX(SO基である。
21、R22は、化合物(m12)において説明した通りである。
31〜R36は、化合物(m13)において説明した通りである。
、X、aは、基(g1)において説明した通りである。
【0088】
単位(u11)としては、繰り返し単位(A)を構成するモノマー(a)の合成のしやすさから、単位(u11−1)が特に好ましい。
単位(u12)としては、たとえば、単位(u12−1)または単位(u12−2)が挙げられる。
【0089】
【化14】

【0090】
脂肪族環構造を有さない繰り返し単位(A)としては、たとえば、単位(u14)、単位(u15)が挙げられ、ポリマーの導電性を上げても含水率を低く抑えることができ、その結果、低加湿ないし無加湿条件下でも、高加湿条件下でもより一層高い発電性能を発現できるため、単位(u15)が好ましい。
【0091】
【化15】

【0092】
Z、m、p、nは、化合物(m14)において説明した通りである。
、Q、Y、qは、化合物(m15)において説明した通りである。
、X、aは、基(g1)において説明した通りである。
【0093】
単位(u15)としては、ポリマー(H)の製造が容易であり、工業的実施が容易である点から、単位(u1−1)〜(u1−3)が好ましく、単位(u1−1)が特に好ましい。
【0094】
【化16】

【0095】
繰り返し単位(B):
繰り返し単位(B)は、モノマー(b)に基づく繰り返し単位である。
【0096】
脂肪族環構造を有するモノマー(b)に基づく繰り返し単位としては、たとえば、単位(u21)〜(u23)が挙げられ、ポリマーの電極性能をより一層向上させる効果が高い点から、単位(u21)または単位(u22)が好ましい。
【0097】
【化17】

【0098】
41〜R46は、化合物(m21)において説明した通りである。
s、R51〜R55は、化合物(m22)において説明した通りである。
61〜R66は、化合物(m23)において説明した通りである。
【0099】
単位(u21)としては、モノマーの合成のし易さから、単位(u21−1)が特に好ましい。
単位(u22)としては、ポリマーの電極性能をより一層向上させる効果が高い点から、単位(u22−1)が特に好ましい。
【0100】
【化18】

【0101】
環化重合により脂肪族環構造を形成し得るモノマー(b)に基づく繰り返し単位としては、たとえば、単位(u24)が挙げられる。R71〜R76は、化合物(m24)において説明した通りである。
【0102】
【化19】

【0103】
単位(u24)としては、モノマーの合成のしやすさから、単位(u24−1)が特に好ましい。
【0104】
【化20】

【0105】
脂肪族環構造を有さないモノマー(b)に基づく繰り返し単位としては、ポリマー(H)の含水率を低減できる点から、TFEに基づく繰り返し単位が特に好ましい。
【0106】
他の繰り返し単位(C):
他の繰り返し単位(C)は、モノマー(c)に基づく繰り返し単位である。
【0107】
イオン交換容量:
ポリマー(H)のイオン交換容量は、1.2〜2.8ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、1.3〜2.3ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましい。イオン交換容量が1.2ミリ当量/g乾燥樹脂以上であれば、ポリマー(H)の導電性が高くなるため、固体高分子形燃料電池の触媒層のプロトン伝導性ポリマーとして用いた場合、充分な電池出力を得ることできる。イオン交換容量が2.8ミリ当量/g乾燥樹脂以下であれば、ポリマー(F)の合成が容易である。
【0108】
ポリマー(H)のイオン交換容量を1.2ミリ当量/g乾燥樹脂以上にするには、ポリマー(F)を合成する際のモノマー(a)の割合を調整する。具体的には、重合時のモノマー組成を制御することが重要であり、そのためには、モノマーの重合反応性を考慮した上で仕込み組成を決める必要がある。また、モノマーを2種以上反応させる場合は、より反応性の高いモノマーを逐次的または連続的に添加することで、一定の組成で反応を進めることができる。
【0109】
ポリマー(H)の製造:
ポリマー(H)は、ポリマー(F)の前駆体基をイオン交換基に変換することによって製造される。
【0110】
−SOF基をスルホン酸基(−SO基)に変換する方法としては、下記(i)の方法が挙げられ、−SOF基をスルホンイミド基(−SON(SO基)に変換する方法としては、下記(ii)の方法が挙げられる。
(i)ポリマー(F)の−SOF基を加水分解してスルホン酸塩とし、スルホン酸塩を酸型化してスルホン酸基に変換する方法。
(ii)ポリマー(F)の−SOF基をイミド化して塩型のスルホンイミド基とし、さらに酸型化して酸型のスルホンイミド基に変換する方法。
【0111】
(i)の方法:
加水分解は、たとえば、溶媒中にてポリマー(F)と塩基性化合物とを接触させて行う。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。溶媒としては、水、水と極性溶媒との混合溶媒等が挙げられる。極性溶媒としては、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
酸型化は、たとえば、スルホン酸塩を有するポリマーを、塩酸、硫酸等の水溶液に接触させて行う。
加水分解および酸型化は、通常、0〜120℃にて行う。
【0112】
(ii)の方法:
イミド化としては、下記の方法が挙げられる。
(ii−1)−SOF基と、RSONHMとを反応させる方法。
(ii−2)アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、MF、アンモニアまたは1〜3級アミンの存在下で、−SOF基と、RSONHとを反応させる方法。
(ii−3)−SOF基と、RSONMSi(CHとを反応させる方法。
ただし、Mは、アルカリ金属または1〜4級のアンモニウムである。
酸型化は、塩型のスルホンイミド基を有するポリマーを、酸(硫酸、硝酸、塩酸等)で処理することにより行う。
【0113】
なお、イオン交換基がスルホンイミド基であるポリマー(H)は、モノマー(a)の−SOF基をスルホンイミド基に変換したモノマー(a')と、モノマー(b)と、必要に応じてモノマー(c)とを重合させることによっても製造できる。
モノマー(a')は、モノマー(a)の炭素−炭素二重結合に塩素または臭素を付加し、−SOF基を(ii)の方法でスルホンイミド基に変換した後、金属亜鉛を用いて脱塩素または脱臭素反応を行うことにより製造できる。
【0114】
以上説明した本発明におけるポリマー(H)にあっては、脂肪族環構造を有するペルフルオロモノマーまたは環化重合により脂肪族環構造を形成し得るペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位を有するため、該ポリマー(H)を触媒層に含ませた膜電極接合体は、高温条件下、かつ低加湿ないし無加湿条件下においても充分な発電特性(出力電圧等)を発揮できる。
【0115】
<液状組成物>
本発明における液状組成物は、分散媒と、該分散媒に分散されたポリマー(H)とを含む組成物である。
【0116】
分散媒は、水酸基を有する有機溶媒を含む。
水酸基を有する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、4,4,5,5,5−ペンタフルオロ−1−ペンタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、3,3,3−トリフルオロ−1−プロパノール、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロ−1−ヘキサノール、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロ−1−オクタノール等が挙げられる。
水酸基を有する有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0117】
分散媒は、水を含むことが好ましい。
水の割合は、分散媒(100質量%)のうち、10〜99質量%が好ましく、40〜99質量%がより好ましい。水の割合を増やすことにより、分散媒に対するポリマー(H)の分散性を向上できる。
水酸基を有する有機溶媒の割合は、分散媒(100質量%)のうち、1〜90質量%が好ましく、1〜60質量%がより好ましい。
ポリマー(H)の割合は、液状組成物(100質量%)のうち、1〜50質量%が好ましく、3〜30質量%がより好ましい。
【0118】
液体組成物の調製方法については、いくつか報告がされており、たとえば、特公平4−35226号公報、特表2001−504872号公報、特開2005−82749号公報、国際公開第2006/38928号パンフレット、特開2004−519296号公報等に記載の調製方法に基づいて調製できる。
具体的な液状組成物の調製方法としては、大気圧下、またはオートクレーブ等で密閉した状態下において、分散媒中の電解質材料に撹拌等のせん断を加える方法が挙げられる。調製温度は、0〜250℃が好ましく、20〜150℃がより好ましい。必要に応じて、超音波等のせん断を付与してもよい。
【0119】
また、電解質材料と有機溶媒と水とを混合した混合液を撹拌等のせん断を加えて液状組成物にする場合、電解質材料に有機溶媒と水とを一度に全部加えた混合液に撹拌等のせん断を加えてもよいし、また、電解質材料に有機溶媒や水を複数回に分けて混合し、その合間に撹拌等のせん断を加えてもよい。たとえば、電解質材料に有機溶媒の一部と水の一部を加えた混合液に撹拌等のせん断を加え、その後に、その混合液に残りの有機溶媒や水を加えて再度撹拌等のせん断を加えるようにしてもよい。また、電解質材料に有機溶剤のみを加えて撹拌等のせん断を加え、その後に水のみを加えて再度、撹拌等のせん断を加えるようにしてもよい。
液状組成物は、後述の膜電極接合体における触媒層の形成に好適に用いられる。
【0120】
<膜電極接合体>
図1は、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(以下、膜電極接合体と記す。)の一例を示す断面図である。膜電極接合体10は、触媒層11およびガス拡散層12を有するアノード13と、触媒層11およびガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に、触媒層11に接した状態で配置される固体高分子電解質膜15とを具備する。
【0121】
(触媒層)
触媒層11は、触媒と、プロトン伝導性ポリマーとを含む層である。
触媒としては、カーボン担体に白金または白金合金を担持した担持触媒が挙げられる。
カーボン担体としては、カーボンブラック粉末が挙げられる。
【0122】
プロトン伝導性ポリマーとしては、本発明におけるポリマー(H)、公知のプロトン伝導性ポリマーが挙げられ、カソードおよびアノードの少なくとも一方の触媒層に含まれるプロトン伝導性ポリマーが、本発明におけるポリマー(H)であり、カソードの触媒層に含まれるプロトン伝導性ポリマーが、本発明におけるポリマー(H)であることがより好ましい。
【0123】
触媒層11は、フラッディングの抑制効果が高まる点から、撥水化剤を含んでいてもよい。撥水化剤としては、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。撥水化剤としては、触媒層11を撥水化処理しやすい点から、溶媒に溶解できる含フッ素ポリマーが好ましい。撥水化剤の量は、触媒層11(100質量%)中、0.01〜30質量%が好ましい。
【0124】
触媒層11の形成方法としては、下記の方法が挙げられる。
(i)触媒層形成用液を、固体高分子電解質膜15、ガス拡散層12、またはカーボン層16上に塗布し、乾燥させる方法。
(ii)触媒層形成用液を基材フィルム上に塗布し、乾燥させ触媒層11を形成し、該触媒層11を固体高分子電解質膜15上に転写する方法。
【0125】
触媒層形成用液は、プロトン伝導性ポリマーおよび触媒を分散媒に分散させた液である。触媒層形成用液は、たとえば、本発明における液状組成物と、触媒の分散液とを混合することにより調製できる。
【0126】
(ガス拡散層)
ガス拡散層12は、触媒層11に均一にガスを拡散させる機能および集電体としての機能を有する。
ガス拡散層12としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等が挙げられる。
ガス拡散層12は、ポリテトラフルオロエチレン等によって撥水化処理されていることが好ましい。
【0127】
(カーボン層)
膜電極接合体10は、図2に示すように、触媒層11とガス拡散層12との間にカーボン層16を有してもよい。カーボン層16を配置することにより、触媒層11の表面のガス拡散性が向上し、固体高分子形燃料電池の発電性能が大きく向上する。
【0128】
カーボン層16は、カーボンと非イオン性含フッ素ポリマーとを含む層である。
カーボンとしては、繊維径1〜1000nm、繊維長1000μm以下のカーボンナノファイバーが好ましい。
非イオン性含フッ素ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0129】
(固体高分子電解質膜)
固体高分子電解質膜15は、プロトン伝導性ポリマーを含む膜である。
プロトン伝導性ポリマーとしては、本発明におけるポリマー(H)、公知のプロトン伝導性ポリマーが挙げられる。公知のプロトン伝導性ポリマーとしては、化合物(m14)に基づく繰り返し単位とTFEに基づく繰り返し単位とを有するポリマーの−SOF基をスルホン酸基に変換したポリマー;化合物(m15)に基づく繰り返し単位とTFEに基づく繰り返し単位とを有するポリマーの−SOF基をスルホン酸基に変換したポリマー等が挙げられる。
【0130】
固体高分子電解質膜15は、たとえば、プロトン伝導性ポリマーの液状組成物を基材フィルムまたは触媒層11上に塗布し、乾燥させる方法(キャスト法)により形成できる。
液状組成物は、水酸基を有する有機溶媒および水を含む分散媒に、プロトン伝導性ポリマーを分散させた分散液である。
【0131】
固体高分子電解質膜15を安定化させるために、熱処理を行うことが好ましい。熱処理の温度は、プロトン伝導性ポリマーの種類にもよるが、130〜200℃が好ましい。熱処理の温度が130℃以上であれば、プロトン伝導性ポリマーが過度に含水しなくなる。熱処理の温度が200℃以下であれば、イオン交換基の熱分解が抑えられ、固体高分子電解質膜15のプロトン伝導率の低下が抑えられる。
固体高分子電解質膜15は、必要に応じて過酸化水素水で処理してもよい。
【0132】
固体高分子電解質膜15は、補強材で補強されていてもよい。補強材としては、多孔体、繊維、織布、不織布等が挙げられる。補強材の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
【0133】
固体高分子電解質膜15は、耐久性をさらに向上させるために、セリウムおよびマンガンからなる群から選ばれる1種以上の原子を含んでいてもよい。セリウム、マンガンは、固体高分子電解質膜15の劣化を引き起こす原因物質である過酸化水素を分解する。セリウム、マンガンは、イオンとして固体高分子電解質膜15中に存在することが好ましく、イオンとして存在すれば固体高分子電解質膜15中でどのような状態で存在してもかまわない。
固体高分子電解質膜15は、乾燥を防ぐための保水剤として、シリカ、ヘテロポリ酸(リン酸ジルコニウム、リンモリブデン酸、リンタングステン酸等)を含んでいてもよい。
【0134】
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体10は、たとえば、下記の方法にて製造される。
(i)固体高分子電解質膜15上に触媒層11を形成して膜触媒層接合体とし、該膜触媒層接合体をガス拡散層12で挟み込む方法。
(ii)ガス拡散層12上に触媒層11を形成して電極(アノード13、カソード14)とし、固体高分子電解質膜15を該電極で挟み込む方法。
【0135】
膜電極接合体10がカーボン層16を有する場合、膜電極接合体10は、たとえば、下記の方法にて製造される。
(i)基材フィルム上に、カーボンおよび非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層16を形成し、カーボン層16上に触媒層11を形成し、触媒層11と固体高分子電解質膜15とを貼り合わせ、基材フィルムを剥離して、カーボン層16を有する膜触媒層接合体とし、該膜触媒層接合体をガス拡散層12で挟み込む方法。
(ii)ガス拡散層12上に、カーボンおよび非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層16を形成し、固体高分子電解質膜15上に触媒層11を形成した膜触媒層接合体を、カーボン層16を有するガス拡散層12で挟み込む方法。
【0136】
以上説明した膜電極接合体10は、触媒層11が本発明におけるポリマー(H)を含んでいるため、高温条件下、かつ低加湿ないし無加湿条件下においても発電特性に優れる。
【0137】
<燃料電池システム>
(第1の実施形態)
図3は、本発明の燃料電池システムの一例を示す概略構成図である。
燃料電池システム20は、複数の膜電極接合体10を有する固体高分子形燃料電池22と、固体高分子形燃料電池22のカソード側に酸化剤ガス(空気等)を供給する酸化剤ガス供給流路24と、固体高分子形燃料電池22のアノード側に燃料ガス(水素ガス等)を供給する燃料ガス供給流路26と、固体高分子形燃料電池22のカソード側から排出されるカソード排ガスを排出するカソード排ガス流路28と、固体高分子形燃料電池22のアノード側から排出されるアノード排ガスを排出するアノード排ガス流路30と、固体高分子形燃料電池22の温度調節に用いる冷却水等の冷媒の温度を下げる放熱器32(調温手段)と、固体高分子形燃料電池22と放熱器32との間で冷媒を循環させる冷媒循環流路34(調温手段)と、冷媒循環流路34の途中に設けられたポンプ36(調温手段)と、冷媒循環流路34の固体高分子形燃料電池22出口付近の冷媒温度を測定する温度センサ38(温度検知手段)と、温度センサ38からの温度情報に基づいて、固体高分子形燃料電池22の温度が所定の温度範囲になるようにポンプ36の出力を制御する制御装置40(制御手段)とを有する。
【0138】
固体高分子形燃料電池22は、膜電極接合体10と、燃料ガスまたは酸化剤ガスの通路となる溝が形成されたセパレータ18とを交互に積層したスタック構造を有する。
放熱器32は、いわゆるラジエータであり、通常は空冷式である。
温度センサ38は、冷媒循環流路34の固体高分子形燃料電池22出口付近の冷媒温度を測定することによって、固体高分子形燃料電池22の内部の温度を検知するものである。
【0139】
制御装置40は、処理部とインターフェース部とを有して概略構成される。
インターフェース部は、ポンプ36および温度センサ38と、処理部との間を電気的に接続するものである。
処理部は、温度センサ38からの温度情報に基づいて、固体高分子形燃料電池22の温度をあらかじめ設定された温度範囲にするために必要な冷媒の流量を見積もり、該流量となるようにポンプ36の出力を制御するものである。
【0140】
処理部は、専用のハードウエアにより実現されるものであってもよく、メモリおよび中央演算装置(CPU)によって構成され、処理部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
また、制御装置40には、周辺機器として、入力装置、表示装置等が接続されていてもよい。入力装置としては、ディスプレイタッチパネル、スイッチパネル、キーボード等が挙げられ、表示装置としては、CRT、液晶表示装置等が挙げられる。
【0141】
燃料電池システム20の運転は、以下のように行われる。
酸化剤ガス供給流路24から固体高分子形燃料電池22のカソード側に酸化剤ガス(空気等)を供給すると同時に、燃料ガス供給流路26から固体高分子形燃料電池22のアノード側に燃料ガス(水素ガス等)を供給する。固体高分子形燃料電池22内において膜電極接合体10を介して酸化剤ガスと燃料ガスとを反応させることによって、発電を行う。
【0142】
固体高分子形燃料電池22のカソード側から排出されるカソード排ガスは、カソード排ガス流路28から排出され、固体高分子形燃料電池22のアノード側から排出されるアノード排ガスは、アノード排ガス流路30から排出される。アノード排ガスは未反応の燃料ガス(水素ガス等)を含むため、アノード排ガスの一部を燃料ガス供給流路26に返送してもよい。
【0143】
固体高分子形燃料電池22の運転を行う間、温度センサ38によって冷媒循環流路34の固体高分子形燃料電池22出口付近の冷媒温度を測定することで固体高分子形燃料電池22の内部の温度を検知し、温度情報を制御装置40に送る。
温度センサ38からの温度情報に基づいて、制御装置40の処理部において、固体高分子形燃料電池22の温度を所定の温度範囲にするために必要な冷媒の流量を見積もり、該流量となるようにポンプ36の出力を制御する。
【0144】
固体高分子形燃料電池22の最高温度は、90〜140℃の範囲になるように調整され、105〜120℃の範囲になるように調整されるのが好ましい。固体高分子形燃料電池22の最高温度が90℃以上であれば、放熱器32を小型化できる。膜電極接合体10の触媒層に含まれるポリマー(H)の耐熱性の点から、固体高分子形燃料電池22の最高温度は140℃以下とするのが好ましい。
【0145】
固体高分子形燃料電池22の温度は、運転時の発電の負荷により変化し、発電の負荷が大きくなると固体高分子形燃料電池22の温度は上昇していく。従来の燃料電池システムは、酸化剤ガス等が固体高分子形燃料電池の温度において高い相対湿度(70%程度以上)を有する必要があったために、温度が上昇していく固体高分子形燃料電池の最高温度が80℃程度以下となるように、固体高分子形燃料電池をラジエータ等で冷却することで、供給される酸化剤ガスの湿度が高くなるようにしていた。しかし、本発明の燃料電池システムでは、固体高分子形燃料電池に供給される酸化剤ガス等に加湿を行わない無加湿条件でも運転が可能になることから、この最高温度を90〜140℃の範囲まで高めることができる。これにより、固体高分子形燃料電池を冷却する負荷を大幅に下げることができる。
【0146】
燃料電池システム20においては、固体高分子形燃料電池22に供給される酸化剤ガスおよび燃料ガスを加湿するための加湿器等の調湿手段がなく、酸化剤ガスおよび燃料ガスは調湿されずに固体高分子形燃料電池22に供給される。このため、固体高分子形燃料電池22の温度における酸化剤ガスおよび燃料ガスの相対湿度はほぼ0%となる。
ただし、燃料ガスはアノード排ガス流路30から排出され、アノード排ガスは未反応の燃料ガスと同時に水蒸気を含む。このため、前記の通り、アノード排ガスの一部を燃料ガス供給流路26に返送することにより燃料ガスは加湿されて供給される。
【0147】
以上説明した燃料電池システム20にあっては、ポリマー(H)を膜電極接合体の触媒層に含まれるプロトン伝導性ポリマーとして用いているため、固体高分子形燃料電池22の温度が90℃以上の高温であり、かつ酸化剤ガスおよび燃料ガスの相対湿度が0%であっても、充分な発電特性が得られる。よって、加湿器を省略でき、また、放熱器32(ラジエータ)を小型化できる。
【0148】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の燃料電池システムの他の例を示す概略構成図である。
なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と同じ構成については図3と同じ符号を付して説明を省略する。
【0149】
燃料電池システム21は、複数の膜電極接合体10を有する固体高分子形燃料電池22と、固体高分子形燃料電池22のカソード側に酸化剤ガス(空気等)を供給する酸化剤ガス供給流路24と、酸化剤ガス供給流路24の途中に設けられた酸化剤ガス加湿器25(調湿手段)と、固体高分子形燃料電池22のアノード側に燃料ガス(水素ガス等)を供給する燃料ガス供給流路26と、燃料ガス供給流路26の途中に設けられた燃料ガス加湿器27(調湿手段)と、固体高分子形燃料電池22のカソード側から排出されるカソード排ガスを排出するカソード排ガス流路28と、固体高分子形燃料電池22のアノード側から排出されるアノード排ガスを排出するアノード排ガス流路30と、固体高分子形燃料電池22の温度調節に用いる冷却水等の冷媒の温度を下げる放熱器32(調温手段)と、固体高分子形燃料電池22と放熱器32との間で冷媒を循環させる冷媒循環流路34(調温手段)と、冷媒循環流路34の途中に設けられたポンプ36(調温手段)と、冷媒循環流路34の固体高分子形燃料電池22出口付近の冷媒温度を測定する温度センサ38(温度検知手段) と、温度センサ38からの温度情報に基づいて、固体高分子形燃料電池22の温度が所定の温度範囲になるようにポンプ36の出力を制御し、かつ温度検知手段38からの温度情報に基づいて、固体高分子形燃料電池22に供給される酸化剤ガスおよび燃料ガスの相対湿度が固体高分子形燃料電池22の温度において所定の相対湿度となるように酸化剤ガス加湿器25および燃料ガス加湿器27を制御する制御装置40(制御手段)とを有する。
【0150】
制御装置40は、処理部とインターフェース部とを有して概略構成される。
インターフェース部は、酸化剤ガス加湿器25、燃料ガス加湿器27、ポンプ36および温度センサ38と、処理部との間を電気的に接続するものである。
【0151】
処理部は、温度センサ38からの温度情報に基づいて、固体高分子形燃料電池22の温度をあらかじめ設定された温度範囲にするために必要な冷媒の流量を見積もり、該流量となるようにポンプ36の出力を制御するものである。
また、処理部は、温度センサ38からの温度情報に基づいて、固体高分子形燃料電池22の温度において酸化剤ガスおよび燃料ガスの相対湿度が、あらかじめ設定された相対湿度となるために必要な水分の量を見積もり、該量の水分を各ガスに供給するように、酸化剤ガス加湿器25および燃料ガス加湿器27を制御するものである。
【0152】
燃料電池システム21の運転は、以下のように行われる。
酸化剤ガス供給流路24から固体高分子形燃料電池22のカソード側に、酸化剤ガス加湿器25によって調湿された酸化剤ガス(空気等)を供給すると同時に、燃料ガス供給流路26から固体高分子形燃料電池22のアノード側に、燃料ガス加湿器27によって調湿された燃料ガス(水素ガス等)を供給する。固体高分子形燃料電池22内において膜電極接合体10を介して酸化剤ガスと燃料ガスとを反応させることによって、発電を行う。
【0153】
固体高分子形燃料電池22のカソード側から排出されるカソード排ガスは、カソード排ガス流路28から排出され、固体高分子形燃料電池22のアノード側から排出されるアノード排ガスは、アノード排ガス流路30から排出される。アノード排ガスは未反応の燃料ガス(水素ガス等)を含むため、アノード排ガスの一部を燃料ガス供給流路26に返送してもよい。
【0154】
固体高分子形燃料電池22の運転を行う間、温度センサ38によって冷媒循環流路34の固体高分子形燃料電池22出口付近の冷媒温度を測定し、固体高分子形燃料電池22の内部の温度を検知し、温度情報を制御装置40に送る。
温度センサ38からの温度情報に基づいて、制御装置40の処理部において、固体高分子形燃料電池22の温度を所定の温度範囲にするために必要な冷媒の流量を見積もり、該流量となるようにポンプ36の出力を制御する。
また、温度センサ38からの温度情報に基づいて、制御装置40の処理部において、固体高分子形燃料電池22の温度において酸化剤ガスおよび燃料ガスの相対湿度が、所定の相対湿度となるために必要な水分の量を見積もり、該量の水分を各ガスに供給するように、酸化剤ガス加湿器25および燃料ガス加湿器27を制御する。
【0155】
固体高分子形燃料電池22の最高温度は、90〜140℃の範囲になるように調整され、105〜120℃の範囲になるように調整されるのが好ましい。固体高分子形燃料電池22の最高温度が90℃以上であれば、放熱器32を小型化できる。膜電極接合体10の触媒層に含まれるポリマー(H)の耐熱性の点から、固体高分子形燃料電池22の最高温度は140℃以下とするのが好ましい。
【0156】
固体高分子形燃料電池22の温度は、運転時の発電の負荷により変化し、発電の負荷が大きくなると固体高分子形燃料電池22の温度は上昇していく。従来の燃料電池システムは、酸化剤ガス等が固体高分子形燃料電池の温度において高い相対湿度(70%程度以上)を有する必要があったために、温度が上昇していく固体高分子形燃料電池の最高温度が80℃程度以下となるように、固体高分子形燃料電池をラジエータ等で冷却することで供給される酸化剤ガスの湿度が高くなるようにしていた。しかし、本発明の燃料電池システムでは、固体高分子形燃料電池に供給される酸化剤ガス等の相対湿度が固体高分子形燃料電池22の温度において30%以下の低加湿条件でも運転が可能であることから、この最高温度を90〜140℃の範囲まで高めることができる。これにより、固体高分子形燃料電池を冷却する負荷を大幅に下げることができる。
【0157】
酸化剤ガスは、固体高分子形燃料電池22の温度において相対湿度が30%以下となるように調湿され、10%以下となるように調湿されることが好ましい。酸化剤ガスの相対湿度が固体高分子形燃料電池22の温度において30%以下であれば、酸化剤ガス加湿器25を小型化できる。
燃料ガスも、酸化剤ガスと同様に、固体高分子形燃料電池22の温度において相対湿度が30%以下となるように調湿されることが好ましく、10%以下となるように調湿されることがより好ましい。
【0158】
以上説明した燃料電池システム21にあっては、ポリマー(H)を膜電極接合体の触媒層に含まれるプロトン伝導性ポリマーとして用いているため、固体高分子形燃料電池22の温度が90℃以上の高温であり、かつ酸化剤ガスおよび燃料ガスの相対湿度が30%以下であっても、充分な発電特性が得られる。よって、各加湿器を小型化でき、また、放熱器32(ラジエータ)を小型化できる。
【0159】
(他の形態)
なお、本発明の燃料電池システムは、図示例のものに限定されない。
たとえば、家庭用燃料電池システムにおいては、放熱器32の代わりに冷却水供給手段(水道水タンク等)を設け、冷却水供給手段からの冷却水を固体高分子形燃料電池22の冷却に用い、固体高分子形燃料電池22から回収される温水を家庭用給湯等の用途に用いてもよい。
【実施例】
【0160】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。例1〜17は調製例であり、例18〜34は評価例である。
【0161】
(イオン交換容量)
ポリマー(H)のイオン交換容量は、下記方法により求めた。
ポリマー(H)をグローブボックス中に入れ、乾燥窒素を流した雰囲気中に24時間以上放置し、乾燥させた。グローブボックス中でポリマー(H)の乾燥質量を測定した。
ポリマー(H)を2モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、60℃で1時間放置した後、室温まで冷却した。ポリマー(H)を浸漬していた塩化ナトリウム水溶液を、0.5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定することにより、ポリマー(H)のイオン交換容量を求めた。
【0162】
(モノマー(a))
化合物(m11−1)の合成:
国際公開第2003/037885号パンフレットのp.37−42の実施例に記載の方法にしたがって、化合物(m11−1)を合成した。
【0163】
【化21】

【0164】
化合物(m12−1)の合成:
特開2006−152249号公報の例1に記載の方法にしたがって、化合物(m12−1)を合成した。
【0165】
【化22】

【0166】
化合物(m14−4):
【0167】
【化23】

【0168】
化合物(m14−5):
CF=CFO(CFSOF ・・・(m14−5)。
【0169】
化合物(m15−1)の合成:
特開2008−202039号公報の例1に記載の方法にしたがって、化合物(m1−15)を合成した。
【0170】
【化24】

【0171】
(モノマー(b))
化合物(m21−1):
【0172】
【化25】

【0173】
化合物(m22−1):
【0174】
【化26】

【0175】
(ラジカル開始剤)
化合物(i−1):
【0176】
【化27】

【0177】
化合物(i−2):
((CHCHOCOO) ・・・(i−2)。
化合物(i−3):
(CCOO) ・・・(i−3)。
【0178】
(溶媒)
化合物(s−1):
CClFCFCHClF ・・・(s−1)。
化合物(s−2):
CHCClF ・・・(s−2)。
【0179】
〔例1〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m11−1)の9.16g、化合物(m21−1)の5.67g、化合物(s−1)の5.0gおよび化合物(i−1)の2.4mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、65℃に昇温して、23.5時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−1)を得た。収量は6.35gであった。
【0180】
ポリマー(F−1)を、メタノールの20質量%および水酸化カリウムの15質量%を含む水溶液に40時間浸漬させることにより、ポリマー(F−1)中の−SO2F基を加水分解し、−SOK基に変換した。ついで、該ポリマーを、3モル/Lの塩酸水溶液に2時間浸漬した。塩酸水溶液を交換し、同様の処理をさらに4回繰り返し、ポリマー中の−SOK基がスルホン酸基に変換されたポリマー(H−1)を得た。該ポリマー(H−1)を超純水で充分に水洗した。ポリマー(H−1)のイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
【0181】
ポリマー(H−1)に、エタノールと水との混合溶媒(エタノール/水=70/30質量比)を加え、固形分濃度を15質量%に調整し、オートクレーブを用い125℃で8時間、撹拌した。さらに水を加え、固形分濃度を7.0質量%に調整し、ポリマー(H−1)が分散媒に分散した液状組成物(D−1)を得た。分散媒の組成は、エタノール/水=35/65(質量比)であった。
【0182】
〔例2〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m11−1)の9.38g、化合物(m21−1)の11.36g、化合物(s−1)の28.59gおよび化合物(i−1)の80.2mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、65℃に昇温して、5.6時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−2)を得た。収量は14.0gであった。
ポリマー(F−2)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−2)、液状組成物(D−2)を得た。また、ポリマー(H−2)のイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
【0183】
〔例3〕
内容積31mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m11−1)の7.2g、化合物(m21−1)の3.9g、化合物(s−1)の12.5g、TFEの2.0gおよび化合物(i−1)の5.9mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、65℃に昇温して、6時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−3)を得た。収量は6.1gであった。
ポリマー(F−3)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−3)、液状組成物(D−3)を得た。また、ポリマー(H−3)のイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
【0184】
〔例4〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m11−1)の5.97g、化合物(m22−1)の13.70g、化合物(s−1)の13.75gおよび化合物(i−1)の17.1mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、65℃に昇温して、6時間保持した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−4)を得た。収量は3.7gであった。
【0185】
ポリマー(F−4)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−4)を得た。ポリマー(H−4)のイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
ポリマー(H−4)に、エタノールと水との混合溶媒(エタノール/水=60/40質量比)を加え、固形分濃度を15質量%に調整し、オートクレーブを用い105℃で8時間、撹拌し、ポリマー(H−4)が分散媒に分散した液状組成物(D−4)を得た。
【0186】
〔例5〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m11−1)の11.17g、化合物(m22−1)の23.26g、化合物(s−1)の12.06gおよび化合物(i−1)の22.3mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、65℃に昇温して、18時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−5)を得た。収量は14.8gであった。
ポリマー(F−5)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−5)を得た。ポリマー(H−5)のイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
ポリマー(H−5)を用いて、例4と同様の方法で、液状組成物(D−5)を得た。
【0187】
〔例6〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m11−1)の22.26g、化合物(m22−1)の15.25g、化合物(s−1)の11.0gおよび化合物(i−1)の24mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気する。その後、TFEの3.0gを仕込んで、65℃に昇温して、18時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止する。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過する。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−6)を得る。収量は15.0gである。
ポリマー(F−6)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−6)を得る。ポリマー(H−6)のイオン交換容量を測定する。結果を表1に示す。
ポリマー(H−6)を用いて、例4と同様の方法で、液状組成物(D−6)を得る。
【0188】
〔例7〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m22−1)の15.0g、化合物(m12−1)の15.29g、化合物(s−1)の10.0gおよび化合物(i−1)の23mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気する。その後、65℃に昇温して、18時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止する。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過する。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−7)を得る。収量は12.0gである。
ポリマー(F−7)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−7)を得る。ポリマー(H−7)のイオン交換容量を測定する。結果を表1に示す。
ポリマー(H−7)を用いて、例4と同様の方法で、液状組成物(D−7)を得る。
【0189】
〔例8〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m22−1)の9.15g、化合物(m15−1)の45.65gおよび化合物(i−2)の6.4mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、40℃に昇温して、24.5時間保持した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−8)を得た。収量は4.5gであった。
ポリマー(F−8)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−8)を得た。ポリマー(H−8)のイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
ポリマー(H−8)を用いて、例4と同様の方法で、液状組成物(D−8)を得た。
【0190】
〔例9〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m22−1)の11.71g、化合物(m15−1)の95.15gおよび化合物(i−2)の33mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気する。その後、TFEの0.6gを仕込んで、40℃に昇温して、18時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止する。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過する。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−9)を得る。収量は11.5gである。
ポリマー(F−9)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−9)を得る。ポリマー(H−9)のイオン交換容量を測定する。結果を表1に示す。
ポリマー(H−9)を用いて、例4と同様の方法で、液状組成物(D−9)を得る。
【0191】
〔例10〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m22−1)の11.47g、化合物(m14−4)の66.9gおよび化合物(i−2)の23mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気する。その後、40℃に昇温して、24時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止する。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過する。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−10)を得る。収量は19.5gである。
ポリマー(F−10)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−10)、液状組成物(D−10)を得る。また、ポリマー(H−10)のイオン交換容量を測定する。結果を表1に示す。
【0192】
〔例11〕
内容積230mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m22−1)の27.84g、化合物(m14−4)の219.4gおよび化合物(i−2)の80mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、TFEの6.0gを仕込んで、40℃に昇温して、24時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−11)を得た。収量は28gであった。
ポリマー(F−11)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−11)、液状組成物(D−11)を得た。また、ポリマー(H−11)のイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
【0193】
〔例12〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m22−1)の24.4g、化合物(m14−5)の75.6gおよび化合物(i−2)の30mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気する。その後、40℃に昇温して、27時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止する。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過する。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−12)を得る。収量は25gである。
ポリマー(F−12)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−12)を得る。ポリマー(H−12)のイオン交換容量を測定する。結果を表1に示す。
ポリマー(H−12)を用いて、例4と同様の方法で、液状組成物(D−12)を得る。
【0194】
〔例13〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m22−1)の21.96g、化合物(m14−5)の84.0gおよび化合物(i−2)の32mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気する。その後、TFEの5.55gを仕込んで、40℃に昇温して24時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止する。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過する。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−13)を得る。収量は26gである。
ポリマー(F−13)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−13)を得る。ポリマー(H−13)のイオン交換容量を測定する。結果を表1に示す。
ポリマー(H−13)を用いて、例4と同様の方法で、液状組成物(D−13)を得る。
【0195】
〔例14〕
内容積1005mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m11−1)の30.36g、化合物(s−1)の665.8g、メタノールの279mgおよび化合物(i−2)の36.8mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、40℃に昇温してから、TFEの45.8gを仕込んで5時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−14)を得た。収量は22.8gであった。
ポリマー(F−14)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−14)、液状組成物(D−14)を得た。また、ポリマー(H−14)のイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
【0196】
〔例15〕
内容積230mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m11−1)の21.2g、化合物(s−1)の170gおよび化合物(i−2)の9.5mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気する。その後、TFEの20gを仕込んで、40℃に昇温して、7時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止する。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過する。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−15)を得る。収量は11.5gである。
ポリマー(F−15)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−15)、液状組成物(D−15)を得る。また、ポリマー(H−15)のイオン交換容量を測定する。結果を表1に示す。
【0197】
〔例16〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m14−4)の49.64g、化合物(s−1)の28.22gおよび化合物(s−1)に3.2質量%の濃度で溶解した化合物(i−3)の38.9mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、30℃に昇温して、TFEを系内に導入し、圧力を0.37MPaGに保持した。4.8時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これに化合物(s−2)を添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、化合物(s−2)で再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−16)を得た。収量は15.0gであった。
ポリマー(F−16)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−16)、液状組成物(D−16)を得た。また、ポリマー(H−16)のイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
【0198】
〔例17〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(m15−1)の45.9g、化合物(s−1)の16.5gおよび化合物(i−2)の12.65mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、40℃に昇温して、TFEを系内に導入し、圧力を0.55MPaGに保持した。40℃で4.3時間撹拌した後、系内のガスをパージし、オートクレーブを冷却して反応を終了した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これに化合物(s−2)を添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、化合物(s−2)で再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−17)を得た。収量は6.5gであった。
ポリマー(F−17)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−17)を得た。ポリマー(H−17)のイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
【0199】
ポリマー(H−17)に、エタノール、水および1−ブタノールの混合溶媒(エタノール/水/1−ブタノール=35/50/15質量比)を加え、固形分濃度を15質量%に調整し、オートクレーブを用い125℃で8時間、撹拌した。さらに水を加え、固形分濃度を9質量%に調整し、ポリマー(H−10)が分散媒に分散した液状組成物(D−10)を得た。分散媒の組成は、エタノール/水/1−ブタノール=20/70/10(質量比)であった。
【0200】
【表1】

【0201】
〔例18〕
カーボン粉末に白金を50質量%担持した担持触媒の10gに水の39gを加え、10分間超音波を照射し、触媒の分散液を得た。触媒の分散液に、液状組成物(D−1)の60gを加え、さらにエタノールの64gを加えて固形分濃度を8質量%とし、触媒層形成用液を得た。該液を別途用意したエチレンとTFEとの共重合体からなるシート(商品名:アフレックス100N、旭硝子社製、厚さ100μm)(以下、ETFEシートと記す。)上に塗布し、80℃で30分乾燥させ、さらに165℃で30分の熱処理を施し、白金量が0.35mg/cmの触媒層を形成した。
【0202】
液状組成物(D−17)をETFEシート上にダイコータにて塗布し、80℃で30分乾燥し、さらに190℃で30分の熱処理を施し、厚さ20μmの固体高分子電解質膜を形成した。
固体高分子電解質膜からETFEシートを剥離した後、固体高分子電解質膜を2枚のETFEシート付き触媒層で挟み、プレス温度160℃、プレス時間5分、圧力3MPaの条件にて加熱プレスし、固体高分子電解質膜の両面に触媒層を接合し、触媒層からETFEシートを剥離して、電極面積25cmの膜触媒層接合体を得た。
【0203】
カーボンペーパーからなるガス拡散層上に、カーボンとポリテトラフルオロエチレンとからなるカーボン層を形成した。
カーボン層と触媒層とが接するように、膜触媒層接合体をガス拡散層で挟み、膜電極接合体を得た。
膜電極接合体を発電用セルに組み込み、下記の2つの条件下で発電特性の評価を実施した。
【0204】
(発電条件1)
膜電極接合体の温度を95℃に維持し、アノードに水素(利用率50%)、カソードに空気(利用率50%)を、それぞれ175kPa(絶対圧力)に加圧して供給した。水素および空気ともに相対湿度20%RHに加湿して供給し、電流密度が1.0A/cmのときのセル電圧を記録し、下記基準にて評価した。結果を表2に示す。
○:セル電圧が0.65V以上。
△:セル電圧が0.6V以上 0.65V未満。
×:セル電圧が0.6V未満。
【0205】
(発電条件2)
膜電極接合体の温度を100℃に維持し、アノードに水素(利用率50%)、カソードに空気(利用率50%)を、それぞれ175kPa(絶対圧力)に加圧して供給した。水素および空気ともに加湿をせずに供給し、電流密度が1.0A/cmのときのセル電圧を記録し、下記基準にて評価した。結果を表2に示す。
◎:セル電圧が0.55V以上。
○:セル電圧が0.5V以上 0.55V未満。
△:セル電圧が0.45V以上 0.5V未満。
×:セル電圧が0.45V未満。
【0206】
〔例19〜34〕
触媒層を形成するのに用いた液状組成物(D−1)を、それぞれ液状組成物(D−2)〜(D−17)に変更した以外は、例18と同様の方法で膜電極接合体を作製し、発電特性の評価を実施する。評価結果を表2に示す。
【0207】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明の燃料電池システムは、簡素化や低コスト化された自動車用および家庭用燃料電池システムとして有用である。
【符号の説明】
【0209】
10 膜電極接合体
11 触媒層
13 アノード
14 カソード
15 固体高分子電解質膜
20 燃料電池システム
21 燃料電池システム
22 固体高分子形燃料電池
25 酸化剤ガス加湿器(調湿手段)
27 燃料ガス加湿器(調湿手段)
32 放熱器(調温手段)
34 冷媒循環流路(調温手段)
36 ポンプ(調温手段)
38 温度センサ(温度検知手段)
40 制御装置(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の膜電極接合体を有する固体高分子形燃料電池と、
前記固体高分子形燃料電池の温度を調節する調温手段と、
前記固体高分子形燃料電池の温度を検知する温度検知手段と、
前記温度検知手段からの温度情報に基づいて、前記固体高分子形燃料電池の最高温度が90〜140℃の範囲になるように調温手段を制御する制御手段と
を有する、燃料電池システム。
(膜電極接合体)
プロトン伝導性ポリマーを含む触媒層を有するアノードと、
プロトン伝導性ポリマーを含む触媒層を有するカソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置される固体高分子電解質膜とを備え、
前記カソードおよび前記アノードの少なくとも一方の触媒層に含まれるプロトン伝導性ポリマーが、脂肪族環構造を有するペルフルオロモノマーまたは環化重合により脂肪族環構造を形成し得るペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位を有し、かつイオン交換基を有するポリマー(H)であることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
さらに、前記固体高分子形燃料電池に供給される酸化剤ガスの湿度を調節する調湿手段を有し、
前記制御手段が、さらに、前記温度検知手段からの温度情報に基づいて、前記固体高分子形燃料電池に供給される酸化剤ガスの相対湿度が前記固体高分子形燃料電池の温度において30%以下になるように調湿手段を制御する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記固体高分子形燃料電池に供給される酸化剤ガスを加湿しない、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記ポリマー(H)が、イオン交換基を有するペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位(A)と、イオン交換基を有さないペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位(B)とを有し、前記繰り返し単位(A)および前記繰り返し単位(B)の少なくとも一方が、脂肪族環構造を有するポリマーである、請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記ポリマー(H)のイオン交換容量が、1.2〜2.8ミリ当量/g乾燥樹脂である、請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−34769(P2011−34769A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179064(P2009−179064)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】