説明

燃料電池用燃料極触媒、電極/膜接合体、電極/膜接合体を備えた燃料電池および燃料電池システム

【課題】耐CO被毒性に優れた燃料電池用燃料極触媒、この燃料電池用燃料極触媒を用いた電極/膜接合体、この電極/膜接合体を備えた燃料電池および燃料電池システムの提供。
【解決手段】白金−ルテニウム第一合金触媒と白金−ルテニウム第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属で置換した第二合金触媒とを有する燃料電池用燃料極触媒を用いる。高分子電解質膜1側からガス拡散層13側に順に、第二合金触媒層3、第一合金触媒層4、ルテニウム触媒層5の3層が配置されている電極/膜接合体7を用いることにより課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐一酸化炭素(CO)被毒性に優れた燃料電池用燃料極触媒、電極/膜接合体、電極/膜接合体を備えた燃料電池および燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高効率の発電装置として燃料電池が注目を集めている。燃料電池は、用いる電解質の種類によりアルカリ型、高分子型、リン酸型などの低温作動燃料電池と、溶融炭酸塩型、固体酸化物型などの高温作動燃料電池とがある。これらの内、電解質としてイオン伝導性を有する高分子電解質膜を用いる高分子型燃料電池は、小型で高出力密度が得られることから家庭用も含めて各種用途の電源として注目されている。
【0003】
図7は、高分子型燃料電池の単セルの基本構成を示す分解断面図である。
高分子電解質膜31の両側の主面にそれぞれ白金カーボン担持触媒を使用して形成された空気極触媒層32および燃料極触媒層33を接合して電極/膜接合体が構成される。
空気極触媒層32および燃料極触媒層33と対向して、それぞれカーボンペーパーカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合物を塗布した構造を持つ空気極側ガス拡散層34および燃料極側ガス拡散層35が配置される。これによりそれぞれ空気極36および燃料極37が構成される。
これらのガス拡散層34およびガス拡散層35は、それぞれ酸化剤ガス(例えば空気)および燃料ガスとして主に水素、あるいはメタノールなどのアルコール系の燃料、あるいは天然ガス、都市ガス、LPG、ブタンなどの炭化水素系燃料を改質した主に水素を主体とする改質ガスを通過させると同時に、電流を外部に伝える働きをする。そして、ガス拡散層34およびガス拡散層35に面して反応ガス流通用のガス流路38を備え、相対する主面に冷却水流通用の冷却水流路39を備えた導電性でかつガス不透過性の材料よりなる一組のセパレータ40により挟持して単セル41が構成される。
【0004】
図8は、高分子型燃料電池スタックの基本構成を示す断面図である。多数の単セル41を積層し、集電板42、電気絶縁と熱絶縁を目的とする絶縁板43ならびに荷重を加えて積層状態を保持するための締付板44によって挟持し、ボルト45とナット47により締め付けられており、締め付け荷重は、皿バネ46により加えられている。
【0005】
燃料極37に水素を含む燃料ガス、空気極36に空気などの酸素を含む酸化剤ガスを供給すると、燃料極37では、水素分子を水素イオン(プロトン)と電子に分解する燃料極反応、空気極36では、酸素と水素イオンと電子から水を生成する以下の電気化学反応がそれぞれ行われ、燃料極から空気極に向かって外部回路を移動する電子により電力が負荷に供給されるとともに、空気極側に水が生成されることとなる。
【0006】
燃料極;H2 →2H+ +2e- (燃料極反応)
空気極;2H+ + (1/2) O2 +2e- →H2 O(空気極反応)
全体 ;H2 + (1/2) O2 →H2
【0007】
天然ガス、都市ガスなどの炭化水素系燃料中には硫黄が含まれており、またこれらを改質した主に水素を主体とする改質ガス中には一酸化炭素(CO)が含まれており、このような改質ガスを電池の燃料極に直接供給すると白金触媒が被毒する。触媒がCOによって被毒されると、燃料極の反応が阻害されて電池性能が低下する。
【0008】
このため、脱硫器と、改質器(RF)と、一酸化炭素を変成するCO変成器(SH)と、一酸化炭素を除去するCO除去器(PROX)と、得られた水素(改質ガス)と空気中の酸素などの酸化剤とを化学反応させて発電する燃料電池とを備えた小型電源としての燃料電池発電システムが提案されている(例えば特許文献1、2、3参照)。
【0009】
図9に、従来の燃料電池発電システムを示す。
図9に示すように、燃料電池発電システム51は、天然ガス、都市ガス、メタノール、LPG、ブタンなどの炭化水素系燃料ガスを、原燃料ガス開閉弁52を備えた原燃料ガス供給ライン53を経て供給して脱硫する脱硫器54を備えるとともに、脱硫器54で脱硫した脱硫燃料ガスを脱硫燃料ガス開閉弁55を備えた脱硫ガス供給ライン56を経て供給し、一方、水を閉止弁57を経て気化器58へ送って気化して逆止弁59を経て水蒸気を供給し、燃料ガスをCO濃度を低減した水素リッチな改質ガスに改質する燃料改質装置60[改質器(RF)/CO変成器(SH)/CO除去器(PROX)]を備えており、燃料改質装置60で得られた改質ガスを改質ガス開閉弁61を備えた改質ガス供給ライン62を経て燃料極(AN)に供給し、この改質ガスと空気極(CA)へ供給された空気中の酸素とを電気化学的に反応させて発電する燃料電池63を備えている。
【0010】
また、燃料電池発電システム51は、図9に示すように、原燃料ガス開閉弁52の下流において原燃料ガス供給ライン53の分岐部64から分岐して水蒸気改質による反応は吸熱反応であため改質反応を維持するための必要な熱量を供給するために原燃料ガスの一部を燃料改質装置60の燃焼部(バーナ)65へ供給する燃焼用原燃料ガス供給ライン66を備えている。また、燃料電池63から排出される水素ガス(オフガス)は閉止弁67を備えたオフガスライン68を経て燃焼部(バーナ)65に供給されるようになっている。
【0011】
一方、白金触媒のCOによる被毒を回避するために、COに被毒されにくい触媒、たとえば白金−ルテニウム触媒を燃料極の触媒として使用することが考えられる。ルテニウムはCOを酸化させる。このため、白金−ルテニウム触媒は白金と比較してCO被毒に対する耐性が格段に優れており、特にルテニウムが50重量%以上の白金−ルテニウム触媒では被毒による電圧低下を抑えることが可能である(特許文献4参照)。
【0012】
しかしながら、ルテニウムは白金に比べて本来の電極反応として要求される水素酸化の活性が低い。ルテニウムが50重量%以上の白金−ルテニウム触媒は耐CO被毒性に優れているが、白金触媒および純水素を用いた電池の電圧より低い電圧しか得られない。
そのため、高分子電解質膜に接触する側にルテニウムが50重量%未満の第1の白金−ルテニウム触媒層を備え、ガス拡散層側にルテニウムが50重量%以上の第2の白金−ルテニウム触媒層を備えた燃料極を具備した固体高分子型燃料電池が提案されている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開2003−217620号公報
【特許文献2】特開2003−217623号公報
【特許文献3】特開2000−277137号公報
【特許文献4】特開平7−183081号公報
【特許文献5】特開平10−270057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一方、COを含む燃料ガスを用いる燃料電池やメタノールなどの有機物燃料を用いる従来の燃料極触媒を備えた燃料電池は、運転中に燃料極の白金−ルテニウム触媒中のルテニウムが溶出して耐CO被毒性が劣化し、さらに溶解したルテニウムが空気極に達することにより、空気極反応である酸素還元を阻害する問題があった。
また、従来の電極/膜接合体およびそれを備えた燃料電池を用いた燃料電池発電システムは、ルテニウム溶出による耐CO被毒性に劣化と、空気極反応である酸素還元の阻害により、安定した発電を行うことができず、信頼性が低いという問題があった。
【0014】
本発明の第1の目的は、耐CO被毒性および耐CO性の劣化抑制に優れた燃料電池用燃料極触媒を提供することである。
本発明の第2の目的は、高分子電解質膜の両面に燃料極および空気極を配置して、前記電極と高分子電解質膜を接合して形成した電極/膜接合体であって、燃料極に耐CO被毒性および耐CO性の劣化抑制に優れた燃料電池用燃料極触媒を用いた電極/膜接合体を提供することである。
本発明の第3の目的は、この電極/膜接合体を備えた燃料電池を提供することである。
本発明の第4の目的は、燃料極に供給される燃料として改質ガスを用いる燃料電池システムを提供することである。
本発明の第5の目的は、燃料極に供給される燃料として有機物燃料を用いる燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するための本発明の請求項1記載の燃料電池用燃料極触媒は、白金−ルテニウム第一合金触媒と白金−ルテニウム第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属で置換した第二合金触媒とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項2記載の燃料電池用燃料極触媒は、請求項1記載の燃料電池用燃料極触媒において、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛化カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノオニオンからなる群から選択される少なくとも1種に担持されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項3記載の燃料電池用燃料極触媒は、請求項1あるいは請求項2記載の燃料電池用燃料極触媒において、前記ルテニウムより卑な金属が、コバルト、ニッケル、モリブデン、鉛、鉄、タングステン、クロムからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項4は、高分子電解質膜の両面に燃料極および空気極を配置して、前記電極と高分子電解質膜を接合して形成した電極/膜接合体であって、前記燃料極に請求項1から請求項3のいずれかに記載の燃料電池用燃料極触媒を用いたことを特徴とする電極/膜接合体である。
【0019】
本発明の請求項5記載の電極/膜接合体は、請求項4記載の電極/膜接合体において、前記高分子電解質膜側に白金−ルテニウム第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属で置換した第二合金触媒が多く含まれていることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項6記載の電極/膜接合体は、請求項4あるいは請求項5記載の電極/膜接合体において、前記高分子電解質膜側からガス拡散層側に順に、第二合金触媒層、第一合金触媒層、ルテニウム触媒層の3層が配置されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項7は、請求項4から請求項6のいずれかに記載の電極/膜接合体を備えたことを特徴とする燃料電池である。
【0022】
本発明の請求項8は、請求項4から請求項6のいずれかに記載の電極/膜接合体を備えた燃料電池の燃料極に供給される燃料として、改質ガスを用いることを特徴とする燃料電池システムである。
【0023】
本発明の請求項9は、請求項4から請求項6のいずれかに記載の電極/膜接合体を備えた燃料電池の燃料極に供給される燃料として、有機物燃料を用いることを特徴とする燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の請求項1記載の燃料電池用燃料極触媒は、白金−ルテニウム第一合金触媒と白金−ルテニウム第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属で置換した第二合金触媒とを有することを特徴とするものであり、
白金−ルテニウム第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属で置換した第二合金触媒が存在するため、運転中に燃料極のルテニウムより卑な金属が先に溶出するので、ルテニウムが溶出せず、燃料極触媒層中にトラップされてとどまるため燃料極の耐CO被毒性が劣化せず、触媒活性が維持されるとともに、ルテニウムが溶出しないので空気極反応である酸素還元が阻害されないという顕著な効果を奏する。
【0025】
本発明の請求項2記載の燃料電池用燃料極触媒は、請求項1記載の燃料電池用燃料極触媒において、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛化カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノオニオンからなる群から選択される少なくとも1種に担持されていることを特徴とするものであり、燃料極触媒層の電子伝導性が向上する、というさらなる顕著な効果を奏する。
【0026】
本発明の請求項3記載の燃料電池用燃料極触媒は、請求項1あるいは請求項2記載の燃料電池用燃料極触媒において、前記ルテニウムより卑な金属が、コバルト、ニッケル、モリブデン、鉛、鉄、タングステン、クロムからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするものであり、運転中に燃料極のルテニウムより卑なこれらの金属が先に溶出するので、ルテニウムが溶出せず、そのため燃料極の耐CO被毒性が劣化せず、触媒活性が維持されるとともに、ルテニウムが溶出しないので空気極反応である酸素還元が阻害されず、先に溶出したこれらの卑な金属が空気極反応である酸素還元を阻害しない、というさらなる顕著な効果を奏する。
【0027】
本発明の請求項4は、高分子電解質膜の両面に燃料極および空気極を配置して、前記電極と高分子電解質膜を接合して形成した電極/膜接合体であって、前記燃料極に請求項1から請求項3のいずれかに記載の燃料電池用燃料極触媒を用いたことを特徴とする電極/膜接合体であり、
燃料極触媒の耐CO被毒性が高く、触媒活性が維持されるとともに、空気極反応である酸素還元が阻害されない、という顕著な効果を奏する。
【0028】
本発明の請求項5記載の電極/膜接合体は、請求項4記載の電極/膜接合体において、前記高分子電解質膜側に白金−ルテニウム第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属で置換した第二合金触媒が多く含まれていることを特徴とするものであり、
燃料極触媒中のルテニウム含有量を多くしても、運転中にルテニウムより卑な金属が先に溶出するので、ルテニウムを燃料極触媒中によりおおくトラップできるため、燃料極の耐CO被毒性が劣化せず、触媒活性が維持され、空気極反応である酸素還元が阻害されない、とうさらなる顕著な効果を奏する。
【0029】
本発明の請求項6記載の電極/膜接合体は、請求項4あるいは請求項5記載の電極/膜接合体において、前記高分子電解質膜側からガス拡散層側に順に、第二合金触媒層、第一合金触媒層、ルテニウム触媒層の3層が配置されていることを特徴とするものであり、
ルテニウム触媒層のルテニウムが第二合金触媒層や第一合金触媒層へのルテニウムの補給源となるので、燃料極の耐CO被毒性の劣化がさらに抑制される、とうさらなる顕著な効果を奏する。
【0030】
本発明の請求項7は、請求項4から請求項6のいずれかに記載の電極/膜接合体を備えたことを特徴とする燃料電池であり、
この電極/膜接合体は燃料極触媒の耐CO被毒性が高く、触媒活性が維持されるとともに、空気極反応である酸素還元が阻害されず、安定した発電を行うことができ信頼性が高いという顕著な効果を奏する。
【0031】
本発明の請求項8は、請求項4から請求項6のいずれかに記載の電極/膜接合体を備えた燃料電池の燃料極に供給される燃料として、改質ガスを用いることを特徴とする燃料電池システムであり、
燃料極に供給される燃料として、改質ガスを用いても、燃料極触媒の耐CO被毒性が高く、触媒活性が維持されるとともに、空気極反応である酸素還元が阻害されないので、安定した発電を行うことができ信頼性が高いという顕著な効果を奏する。
【0032】
本発明の請求項9は、請求項4から請求項6のいずれかに記載の電極/膜接合体を備えた燃料電池の燃料極に供給される燃料として、有機物燃料を用いることを特徴とする燃料電池システムであり、
燃料極に供給される燃料として、メタノールなどの有機物燃料を用いても、燃料極触媒の耐CO被毒性が高く、触媒活性が維持されるとともに、空気極反応である酸素還元が阻害されず、安定した発電を行うことができ信頼性が高いという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に本発明を図を用いて実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の電極/膜接合体およびそれを備えた単セルの1例を模式的に説明する説明図である。
図1において、1は高分子電解質膜であり、高分子電解質膜1の空気極側の一主面に白金カーボン担持触媒を使用して形成された空気極触媒層2が接合されており、そして高分子電解質膜1の燃料極側の他の主面に白金−ルテニウム第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属で置換した第二合金触媒を使用して形成された第二合金触媒層3、その上に白金−ルテニウム第一合金触媒を使用して形成された第一合金触媒層4、その上にルテニウム触媒を使用して形成されたルテニウム触媒層5を積層した燃料極触媒層6が接合されて電極/膜接合体7が構成されている。
【0034】
空気極触媒層2および燃料極触媒層6と対向して、それぞれカーボンペーパーにカーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合物を塗布した構造を持つ空気極側ガス拡散層8および燃料極側ガス拡散層9が接合して配置される。これによりそれぞれ空気極10および燃料極11が構成される。
これらのガス拡散層8およびガス拡散層9は、それぞれ酸化剤ガス(例えば空気)および燃料ガスとして主に水素、あるいはメタノールなどのアルコール系の燃料、あるいは天然ガス、都市ガス、LPG、ブタンなどの炭化水素系燃料を改質した主に水素を主体とする改質ガスを通過させると同時に、電流を外部に伝える働きをする。
そして、ガス拡散層8およびガス拡散層9に面して反応ガス流通用のガス流路12を備え、相対する主面に冷却水流通用の冷却水流路13を備えた導電性でかつガス不透過性の材料よりなる一組のセパレータ14により挟持して単セル15が構成されている。
【0035】
ここで、燃料極11としては例えば次のような工程を経て形成されたものが用いられる。
すなわち、カーボンペーパなどのカーボン多孔質体の表面上にカーボン粉末とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)分散液とのスラリーを塗布し、これを大気中で焼結して燃料極側ガス拡散層9を形成する。
この燃料極側ガス拡散層9の一表面に、ルテニウムカーボン担持触媒とフッ素系高分子溶液と水とを混合して得たスラリーを塗布し、その上にルテニウム80質量%の白金−ルテニウム合金/カーボン担持触媒(第一合金触媒)とフッ素系高分子溶液と水とを混合して得たスラリーを塗布し、その上に第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属Mで置換した第二合金触媒とフッ素系高分子溶液と水とを混合して得たスラリーを塗布し、乾燥して燃料極側ガス拡散層9側から順にルテニウム触媒層5、第一合金触媒層4、第二合金触媒層3の3層を配置した燃料極11を形成する。
【0036】
一方、空気極10としては例えば次のような工程を経て形成されたものが用いられる。
すなわち、カーボンペーパなどのカーボン多孔質体の表面上にカーボン粉末とPTFE分散液とのスラリーを塗布し、これを大気中で焼結して空気極側ガス拡散層8を形成する。この空気極側ガス拡散層8の一表面に、白金/カーボン担持触媒とフッ素系高分子溶液と水とを混合して得たスラリーを塗布し乾燥して空気極触媒層2を備えた空気極10を形成する。
【0037】
このようにして得られた燃料極11の第二合金触媒金属層3が高分子電解質膜1の一方の面に接触し、空気極10の空気極触媒層2が高分子電解質膜1の他方の面に接触するように高分子電解質膜1を挟んでホットプレスし、形成された電極/膜接合体7を備えた構成体をさらに、ガス拡散層8およびガス拡散層9に面して反応ガス流通用のガス流路12を備え、相対する主面に冷却水流通用の冷却水流路13を備えた導電性でかつガス不透過性の材料よりなる一組のセパレータ14により図示しないシール材を介して挟持し、積層方向に締め付けて単セル15を形成する。
【0038】
本発明で用いる高分子電解質膜としては、具体的には、例えば、スルホン酸基を持つポリスチレン系の陽イオン交換膜をカチオン導電性膜としたもの、フロロカーボンスルホン酸とポリビニリデンフロライドの混合膜、フロロカーボンマトリックスにトリフロロエチレンをグラフト化したもの、及びパーフロロカーボンスルホン酸膜(米国デュポン社製、商品名ナフィオン膜)などを挙げることができる。これらの高分子電解質膜は分子中にプロトン交換基を有しており、含水量を飽和させると比抵抗が常温で20Ωcm2 以下となり、プロトン導電性電解質として機能する。
【0039】
本発明で用いるセパレータは導電性でかつガス不透過性の材料より形成されていれば特に限定されないが、導電性、強度、耐久性などに優れ、量産による低コスト化が可能となる加圧成形または射出成形ができるカーボン、カーボンとレジンからなる炭素複合材料などのカーボン系材料もしくは金属材料は好ましく使用できる。
ガス不透過性および機械的強度の観点から金属材料の場合のセパレータの厚さの例としては凡そ1〜2程度mm、カーボン系材料の場合のセパレータの厚さの例としては凡そ2〜5程度mmを挙げることができる。
【0040】
また上記の実施の形態においては、第一合金触媒金属層4と第二合金触媒金属層3を別々に積層した例を示したが、第一合金触媒と第二合金触媒を混合した混合触媒を用い、混合合金触媒層を一層設けて簡素化することができる。この場合第一合金触媒と第二合金触媒の混合比率(質量比)は、燃料極11に供給される燃料中のCOの濃度によって、第一合金触媒10:第二合金触媒1〜10が好ましい。
電極/膜接合体7を構成する高分子電解質膜1、空気極触媒層2、第二合金触媒層3、第一合金触媒層4、ルテニウム触媒層5などの各層の厚さ、触媒の含有量などは特に限定されるものではないが、各層の厚さは、第二合金触媒層3:第一合金触媒層4:ルテニウム触媒層5=1:10:1が好ましい。
【0041】
また上記の実施の形態においては、カーボン担持触媒を例示したが、カーボンとして、特にアセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛化カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノオニオンからなる群から選択される少なくとも1種は、燃料極触媒層の電子伝導性が向上するので本発明において好ましく使用できる。
なおカーボンナノオニオンとは、大部分がオニオン(玉ねぎ)状に積層発達したグラファイト類似構造の乱層構造を有し、他に無定形のアモルファス構造と少々の黒鉛化構造が少量含まれるものである。
【0042】
本発明の燃料電池システムにおいて、燃料電池の燃料極に供給される燃料として、改質ガスを用いても、本発明の電極/膜接合体は燃料極触媒の耐CO被毒性が高く、触媒活性が維持されるとともに、空気極反応である酸素還元が阻害されないので、安定した発電を行うことができ信頼性が高い。
【0043】
本発明の燃料電池システムにおいて、燃料電池の燃料極に供給される燃料として、有機物燃料として、メタノールなどの有機物燃料を用いても、本発明の電極/膜接合体は燃料極触媒の耐CO被毒性が高く、触媒活性が維持されるとともに、空気極反応である酸素還元が阻害されず、さらにルテニウムの代わりに溶出した卑な金属により白金の酸素還元能が増幅される効果も期待できるので、安定した発電を行うことができ信頼性が高い。
【0044】
(第1実施の形態)
次に、図2を用いて本発明の燃料電池システムの1例としての家庭用燃料電池コージェネレーションシステム100に用いられる燃料電池110について説明する。
図3は、ガス拡散層を備えた電極/膜接合体の断面説明図である。
【0045】
図2に示すように、家庭用燃料電池コージェネレーションシステム100は、LPGや都市ガスなどの原燃料(炭化水素系燃料)を改質し、水素(燃料)を約80%含有する改質ガスを生成する改質装置と、改質装置から供給される改質ガスと空気中の酸素(酸化剤)とにより発電を行う燃料電池110と、改質装置や燃料電池110などから発生する熱を、お湯(40℃以上の水)というかたちで熱回収して貯湯する貯湯装置と、を備えており、発電機能と給湯機能との両方を有するシステムである。
家庭に敷設されているLPGや都市ガスなどの原燃料は、通常、ガス漏れに対する安全対策として硫化物によって付臭されているが、この硫化物は改質装置内の触媒を劣化させてしまうので、改質装置では、はじめに脱硫器152によって原燃料中の硫化物を除去する。
【0046】
脱硫器152によって脱硫された原燃料は、次に水蒸気と混合され、改質器154によって水蒸気改質され、変成器156に導入される。そして、変成器156によって、水素(H2)約80%、二酸化炭素(CO2)約20%、一酸化炭素(CO)1%以下の改質ガスが生成されるが、COの影響を受けやすい低温(100℃以下)で運転される燃料電池110へ改質ガスを供給する本システム100では、さらに改質ガスと酸素とを混合して、CO除去器158によってCOを選択的に酸化する。CO除去器158により、改質ガス中のCO濃度を10ppm以下にすることができる。
【0047】
改質装置とは、少なくとも改質器154と変成器156とを含み、本システム100のように、家庭に敷設されているガスを原燃料とする場合には脱硫器152を、燃料電池110として固体高分子形燃料電池のような低温タイプの燃料電池110を用いる場合にはCO除去器158を、さらに含むものとする。
【0048】
水蒸気改質は吸熱反応であるため、改質器154にはバーナ160が設けられる。改質装置の起動時には、このバーナ160にも原燃料が供給されて改質器154を昇温し、本システム100が安定的に運転できるようになると、バーナ160への原燃料の供給はストップし、燃料電池110から排出される未反応の燃料をバーナ160に供給することで、改質器154へ熱を供給する。
【0049】
バーナ160により改質器154へ熱を供給した後の排気は、まだ大きな熱量をもっているため、この排気は熱交換器HEX01、HEX02にて貯湯タンク162内の水と熱交換される。
そして、この水は燃料電池110の空気極(カソード)114からの排ガスと熱交換(HEX03)し、さらに燃料極(アノード)122からの排ガスとも熱交換(HEX04)して貯湯タンク162に戻る。
【0050】
この熱交換器HEX01、HEX02、HEX03、HEX04を通る水配管164には、熱交換器HEX04を通った後の水(お湯)の温度によって、空気極(カソード)側加湿タンク166の昇温または冷却に利用できるように、分岐配管168が設けられている。
本システム100の起動時など、空気極(カソード)側加湿タンク166の温度が低いときには、水は熱交換器HEX04を通った後、分岐配管168を通って熱交換器HEX05にて空気極(カソード)側加湿タンク166に熱を供給してから貯湯タンク162に戻る。
【0051】
この空気極(カソード)側加湿タンク166は、冷却水タンクとしても機能しており、空気極(カソード)側加湿タンク166内の水は、燃料電池110を冷却して空気極(カソード)側加湿タンク166に戻る。
上記のように、本システム100の起動時など、燃料電池110の温度が低いときには、熱交換器HEX05によって温められた冷却水を燃料電池110へ供給することにより、燃料電池110を温めることもできる。
【0052】
また、冷却水が通る冷却水通路170は、燃料極(アノード)側加湿タンク172に設けられる熱交換器HEX06に接続され、冷却水は空気極(カソード)側加湿タンク166と燃料極(アノード)側加湿タンク172の温度をほぼ同一にする役割も果たしている。176は冷却部である。
【0053】
改質装置からの改質ガスは、この燃料極(アノード)側加湿タンク172にて、加湿(本システム100の場合はバブリング)されて燃料極(アノード)122へ供給される。燃料極(アノード)122にて発電に寄与しなかった未反応の燃料は、燃料電池110から排出されてバーナ160へ供給される。112は高分子電解質膜を示す。
この燃料電池110は通常70〜80℃の範囲で発電するように運転しており、燃料電池110から排出された排ガスは80℃程度の熱を持っているため、上記のように熱交換器HEX04にて熱交換した後、さらに熱交換器HEX07にて、空気極(カソード)側加湿タンク166および燃料極(アノード)側加湿タンク172へ供給される水を昇温した後に、バーナ160へ供給される。
【0054】
空気極(カソード)側加湿タンク166および燃料極(アノード)側加湿タンク172へ供給される水は、導電率が低く、有機物の混入が少ない清浄な水が望ましいので、上水からの水を水処理装置174にて、逆浸透膜とイオン交換樹脂による水処理を施してから供給される。
また、この水処理を施した水は、改質器154の水蒸気改質にも用いられる。上水は貯湯タンク162にも供給されるが、このとき上水は貯湯タンク162の下部から供給される。また、水配管164も貯湯タンク162の下部から温度の低い水を引出し、各熱交換器と熱交換した水を上部へ戻す。
HEX10は全熱交換器である。空気極(カソード)114にて発電に寄与しなかった未反応の酸素を含む排ガスは80℃程度の熱と反応によって生成された生成水を含んでいるため、全熱交換器HEX10にて空気極(カソード)114へ供給される空気へ熱と水分を供給する。
【0055】
空気極(カソード)114へ供給される空気は、さらに空気極(カソード)側加湿タンク166にて加湿(本システム100の場合はバブリング)されてから空気極(カソード)114へ供給され、一方、全熱交換器HEX10にて熱と水分とを供給した排ガスは、さらに熱交換器HEX03にて水と熱交換してから、本システム100の外部へ排出される構成となっている。
【0056】
本実施の形態の燃料電池110は、空気極(カソード)114および燃料極(アノード)122へ均一に反応ガスを供給できるようにするためと、空気極(カソード)114からの生成水や空気極(カソード)114および燃料極(アノード)122で凝縮した凝縮水を外部へすみやかに排出できるようにするためとの観点から、ガス拡散層120、128を備えている。
【0057】
ガス拡散層は、カーボンペーパ、カーボンの織布あるいは不織布を基材として、基材にカーボンブラックを主とする粘性の有るカーボンペーストを塗布して作製する。
【0058】
図3に示すように、ガス拡散層は生産性を考慮して、両ガス拡散層120、128の基材118、126に共通のカーボンペーパを用い、基材に塗布するガス拡散層ペーストを空気極(カソード)側と燃料極(アノード)側とで異なるものを用いる。
具体的には、空気極(カソード)側基材に空気極(カソード)側拡散層ペーストを塗布・乾燥・熱処理して作製された空気極(カソード)側充填層116は、燃料極(アノード)側より撥水性を低く(フッ素樹脂量を少なく)する。
一方、燃料極(アノード)側基材に燃料極(アノード)側拡散層ペーストを塗布・乾燥・熱処理して作製された燃料極(アノード)側充填層124は、撥水性を高く(フッ素樹脂量を多く)する。
しかし、一般的なフッ素樹脂(以下、高分子フッ素樹脂)は結着性を有するため、ガス拡散層ペースト中に多くの高分子フッ素樹脂を投入すると、混合作業や塗布作業により、粘性が高くなり、団子状になる。
そのため、塗布工程が非常に困難となる。そこで、高分子フッ素樹脂よりも平均分子量が小さく、結着性が非常に低い性質を有する低分子フッ素樹脂を用い、低分子フッ素樹脂に撥水性を、高分子フッ素樹脂に結着性を担わせることにより、それぞれのガス拡散層ペーストが、バランスよく撥水性と結着性とを持つようにする。
【0059】
具体的には、ガス拡散層の基材となるカーボンペーパ(東レ社製:TGPH060H)は、質量比でカーボンペーパ:FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)=95:5(空気極用)、60:40(燃料極用)となるように、FEP分散液に浸漬した後、60℃1時間の乾燥後、380℃15分間の熱処理(FEP撥水処理)を行う。これにより、カーボンペーパはほぼ均一に撥水処理される。
【0060】
次に、カーボンブラック(CABOT社製:Vulcan XC72R)と溶媒としてテルピネオール(キシダ化学社製)と非イオン性界面活性剤のトリトン(キシダ化学社製)とを、質量比がカーボンブラック:テルピネオール:トリトン=20:150:3となるように、万能混合機(DALTON社製)にて常温で60分間、均一になるように混合し、カーボンペーストを作製する。
低分子フッ素樹脂(ダイキン社製:ルブロンLDW40E)と高分子フッ素樹脂(デュポン社製:PTFE30J)とを、分散液中に含まれるフッ素樹脂の質量比が低分子フッ素樹脂:高分子フッ素樹脂=20:3となるように混合し、カソード用混合フッ素樹脂を作製する。
【0061】
ハイブリッドミキサ用容器に上記カーボンペーストを投入し、カーボンペーストが10〜12℃になるまで冷却する。冷却したカーボンペーストに上記空気極(カソード)用混合フッ素樹脂を、質量比がカーボンペースト:空気極(カソード)用混合フッ素樹脂(分散液中に含まれるフッ素樹脂成分)=31:1となるように投入し、ハイブリッドミキサ(キーエンス社製:EC500)の混合モードにて12〜18分間混合する。
混合停止のタイミングはペーストの温度が50〜55℃となるまでとし、混合時間を適宜調整する。ペーストの温度が50〜55℃に達した後、ハイブリッドミキサを混合モードから脱泡モードへ切換え、1〜3分間脱泡を行う。脱泡を終えたペーストを自然冷却してカソード用拡散層ペーストを完成させる。
【0062】
ハイブリッドミキサ用容器に上記カーボンペーストと上記低分子フッ素樹脂とを、質量比がカーボンペースト:低分子フッ素樹脂(以下、燃料極用フッ素樹脂とする)(分散液中に含まれるフッ素樹脂成分)=26:3となるように投入し、ハイブリッドミキサの混合モードにて15分間混合する。
混合した後、ハイブリッドミキサを混合モードから脱泡モードへ切換え、4分間脱泡を行う。脱泡を終えたペーストの上部に上澄み液が溜まった場合は、この上澄み液を廃棄し、ペーストを自然冷却して燃料極用拡散層ペーストを完成させる。
【0063】
常温まで冷却した各ガス拡散層ペーストを、FEP撥水処理を施した上記カーボンペーパの表面に、カーボンペーパ面内の塗布状態が均一になるように塗布し、熱風乾燥機(サーマル社製)にて60℃60分間乾燥する。最後に、360℃2時間熱処理を行い、ガス拡散層を完成させる。
【0064】
燃料極(アノード)122には、白金−ルテニウム第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属M(コバルト)で置換した第二合金触媒[Pt:Ru:Co(質量比1:0.9:0.1)/カーボン担持C]を用いる。
【0065】
第二合金触媒は、一般式Pt−RuX −M(1-X) で表されるが、図3に示したガス拡散層を備えた電極/膜接合体を備えた単セルを組み立て、これを用いて燃料電池としてセル温度70℃、燃料極に飽和加湿した模擬改質ガス(水素80%、二酸化炭素20%、一酸化炭素10ppm)、空気極に飽和加湿した空気を供給することにより、発電試験を行った。Mは、Mo、Co、W、Niで行った。その結果を図4に示す。
【0066】
図4は、電流密度0.3A/cm2 の条件でX(横軸)を0〜0.35の範囲とした時の電圧変化(縦軸)を示すグラフである。
図4に示すように、X≒0.01〜0.3の間で効果が発現することが分かった。
中でもX≒0.1、すなわちMの置換割合が0.1程度が好ましいことが分かった。
【0067】
燃料極(アノード)122にCOが混入してしまう燃料電池110の場合、COは改質ガス中に数ppm程度含まれており、このCOが触媒のPtに付着しやすい性質を有する。COがPtに付着してしまうと、Ptの触媒としての活性が低下して、燃料極(アノード)122が過電圧の状態(20mV〜30mV)となってしまう。
Ruは、改質ガスと共に供給される加湿水(H2O)などから、COを触媒に影響を及ぼさないCO2に変化させるのに必要なOあるいはOHを引出す性質を有しており、PtにCOが付着しても、近接するRuがOあるいはOHを引出し、COをCO2に変化させることが可能である。
【0068】
しかしながら、起動停止などの運転を繰り返し行うことによって、Pt−Ru中のRuの一部が溶解し単味のPtになってしまい耐CO性が劣化することがこれまでの研究でわかった。
【0069】
本実施例では、燃料極122として、高分子電解質膜112側の第1層にPt−Ru−Co第2合金[Pt:Ru:Co(質量比1:0.9:0.1)/カーボン担持]触媒、第2層にPt−Ru第1合金/カーボン担持触媒を用いることにより、耐CO性低下を抑制することに成功した。
【0070】
第1層は、Pt−Ru−Co第2合金[Pt:Ru:Co(質量比1:0.9:0.1)/カーボン担持触媒と電解質溶液とをPt−Ru−Co第2合金[Pt:Ru:Co/カーボン担持触媒:電解質溶液=3:8の割合で混合して燃料極スラリーを作製する。
第2層は、Pt−Ru第1合金[質量比Pt:Ru=1:1]/カーボン担持触媒と電解質溶液とをPt−Ru第1合金/カーボン担持触媒:電解質溶液=3:8の割合で混合して燃料極スラリーを作製する。
【0071】
この時に、第1層と第2層の厚さの割合は、第1層:第2層=1:100以上で、効果が発現する。第1層の厚さの割合が第2層の厚さに対して1/100未満になった場合には20000時間後の耐CO劣化抑制の効果の発現が1mVいかなくなり効果がほとんど認められなくなる。
【0072】
また、第1層と第2層の厚さの割合が、第1層:第2層=2:1以下に第1層を増やした場合には、初期性能が低くなることが確認されており、耐久性と初期性能、コストを考慮すると、第1層:第2層=1:50〜1:1が望ましい。さらに、第1層:第2層=1:10の時に最も高い効果を発現した。
【0073】
Pt/カーボン担持触媒と電解質溶液とをPt/カーボン担持触媒:電解質溶液=3:8の割合で混合して空気極スラリーを作製する。ガス拡散層120の基材118の上にガス拡散層ペーストを塗布して充填層116を形成した面に作製したこの空気極スラリーを塗布し、空気極を作製する。
【0074】
前記燃料極(アノード)と空気極(カソード)とで固体高分子膜112を挟持し、約140℃にてホットプレスすることにより燃料電池110を作製する。
【0075】
得られた燃料電池110について、セル温度70℃、燃料極に飽和加湿した模擬改質ガス(水素80%、二酸化炭素20%、一酸化炭素10ppm)、空気極に飽和加湿した空気を供給することにより、20000時間にわたる長時間の発電ができることが判った。
【0076】
ルテニウムより卑な金属Mとしてニッケルを用いた以外は上記と同様にして燃料電池110を作製し、セル温度70℃、燃料極に飽和加湿した模擬改質ガス(水素80%、二酸化炭素20%、一酸化炭素10ppm)、空気極に飽和加湿した空気を供給することにより、20000時間にわたる長時間の発電ができることが判った。
【0077】
比較のために、燃料極の触媒層が第一合金触媒金属層(すなわち白金−ルテニウム合金/カーボン担持触媒)のみである以外は、同様にして作製した燃料電池について、同様にして長時間の発電試験を行った。
その結果、約2500〜3000時間程度で電圧が低下してしまい、安定して長時間にわたり発電できないことが分かった。
比較のために、燃料極の触媒層が白金/カーボン担持触媒層のみである以外は、同様にして作製した燃料電池について、同様にして長時間の発電試験を行った結果、2500時間程度で電圧が低下してしまい、安定して長時間にわたり発電できなかった。
【0078】
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、図5を用いて本発明の燃料電池システムの他の例として携帯用燃料電池システム200に用いられる燃料電池210について説明する。
【0079】
燃料電池210は、燃料極(アノード)222(222a、222b、222c)にメタノール水溶液あるいは純メタノール(以下、「メタノール燃料」と記載する)が供給される直接メタノール供給形燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell:DMFC)であり、燃料電池210の発電部は拡散層を用いず、高分子電解質膜212が空気極(カソード)214(214a、214b、214c)と燃料極(アノード)222とに挟持され形成される触媒コーティング膜(Catalyst Coated Membrane:CCM)230となっている。
【0080】
燃料極(アノード)222へ供給されるメタノール燃料は、燃料電池210の外部より、図示しないメタノール燃料供給孔を通って燃料室254へ供給され、燃料室254に貯蔵されるメタノール燃料から各燃料極(アノード)222へ供給される。
燃料極(アノード)222では、下式に示したようなメタノールの反応が起こり、H+ が固体高分子膜212を介して空気極(カソード)214へ移動すると共に、空気極(カソード)214では、下式に示したような反応が起こり、電力が取出される。
【0081】
燃料極:CH3 OH;H+ +CO2 +e- (燃料極反応)
空気極;H+ + (1/2) O2 +e- ;H2 O(空気極反応)
【0082】
図6は、燃料極222における燃料極反応、空気極における空気極反応の状況を模式的に示す説明図である。
【0083】
上式からも明らかなように、この反応により、燃料極(アノード)222からは二酸化炭素が発生する。そこで、燃料室254と、携帯用燃料電池システム200の燃料極(アノード)側の筐体256aに設けられた複数の燃料極(アノード)側生成物排出孔258との間には、気液分離フィルタ260を配置する。
この気液分離フィルタ260は、気体成分を選択的に透過し、液体成分は透過させない微細な孔を有する平面状のフィルタであり、耐メタノール(アルコール)性を有する材料が適している。
【0084】
また、筐体256[燃料極(アノード)側筐体256a、空気極(カソード)側筐体256c]は、軽量で剛性を有し、かつ、耐食性を有する材料が適しており、合成樹脂やアルミニウム合金、チタン合金、ステンレス鋼などの金属が適している。また、強化ガラスやスケルトン樹脂でも良い。
【0085】
そして、気液分離フィルタ260と同様に、筐体256もメタノール燃料と接触する部分を有するので、特に、メタノール燃料と接触する部分では、上記合成樹脂あるいは金属にフッ素系合成樹脂を重ね合わせた複合材料を用いると良い。 さらに、262は、燃料室254を形成すると共に、CCM230を締め付ける支持部材であり、支持部材262もまた筐体256のメタノール燃料と接触する部分と同じ材料を用いると良い。
【0086】
空気極(カソード)214へは複数の空気極(カソード)側生成物排出孔264を通って空気が供給され、高分子電解質膜212を介して空気極(カソード)214へ移動してきたH+ と空気中の酸素との間で反応が起こり、生成水が生成される。
【0087】
空気極(カソード)214へ空気を供給すると共に、空気極(カソ−ド)214からの生成水を排出する空気極(カソード)側生成物排出孔264は、燃料極(アノード)側生成物排出孔258と総面積としては同等になるように設けられているが、燃料極(アノード)側生成物排出孔258よりも径の小さい孔を多数配している。
【0088】
また、空気極(カソード)側生成物排出孔264の内壁および空気極(カソード)側生成物排出孔264が設けられている部分の空気極(カソード)側の筐体256c表面は、酸化チタンなどの光触媒を含む機能性コーティング材にて被覆されている。
【0089】
小さい孔を多数配することにより、空気極(カソード)214より排出される生成水が滴下する虞がなく、また、内壁に機能性コーティング材を被覆することにより、生成水が孔を塞ぐことなく、内壁表面に薄く広がって蒸発しやすくなると共に、微生物の繁殖などを防ぐことができる。
【0090】
この機能性コーティング材には、携帯用燃料電池システム200に、太陽光など光触媒が機能する特定の波長を含む光が照射されないときにも、有機物分解機能あるいは抗菌機能が作用するように、銀、銅、亜鉛などの金属が含まれていると良い。
【0091】
さらに、筐体256の表面全体に、機能性コーティング材を被覆すれば、携帯用燃料電池システム200の利用者が、携帯用燃料電池システム200に触ることにより付着する有機物を分解し、携帯用燃料電池システム200に防汚機能あるいは抗菌機能を付与することができる。
【0092】
燃料極(アノード)222から空気極(カソード)214へメタノール燃料が流入することを防ぐため、CCM230を取り囲むように、Oリング266[燃料極(アノード)側Oリング266a、空気極(カソード)側Oリング266c)が配されている。
【0093】
本実施例では、空気極(カソード)側の筐体256cと支持部材262とによって押圧され、メタノール燃料が燃料極(アノード)222から空気極(カソード)214へ流入することを防止すると共に、燃料極(アノード)222へ酸素が流入することも防止している。このOリング266は柔軟性と耐食性を有するものが望ましい。
【0094】
燃料極(アノード)222には、Pt−Ru−Co第2合金[Pt:Ru:Co(質量比1:0.9:0.1)/カーボン担持]触媒を用い、これを高分子電解質膜212側の第1層に、Pt−Ru第1合金/カーボン担持触媒を第2層に用いる。この時の第1層と第2層の厚さの割合は、第1層:第2層=1:10になるように調整する。
【0095】
燃料極(アノード)222は、Pt−Ru−Co第2合金/カーボン担持触媒と電解質溶液とをPt−Ru−Co第2合金/カーボン担持触媒:電解質溶液=1:2の割合で混合して燃料極(アノード)スラリーを作製する。この燃料極(アノード)スラリーを高分子電化質膜(Nafion115(Dupont社製))212の一方の面に塗布する。
一方、空気極(カソード)214は、Pt/カーボン担持触媒と電解質溶液とをPt/カーボン担持触媒:電解質溶液=3:8の割合で混合して空気極(カソード)スラリーを作製する。この空気極(カソード)スラリーを高分子電解質膜212の他方の面に塗布することにより燃料電池210を作製する。
【0096】
このようにして作製した電極/膜接合体(MEA)を備えた燃料電池210を用いて、セル温度50℃、燃料極にメタノール、空気極に飽和加湿した空気を供給することにより、3500時間以上にわたる長時間の発電試験を行った。
長時間発電試験の結果、約3500時間にわたり、安定して発電できることが分かった。
【0097】
ルテニウムより卑な金属Mとしてニッケルを用いた以外は上記と同様にして燃料電池210を作製し、燃料電池210を用いて、セル温度50℃、燃料極にメタノール、空気極に飽和加湿した空気を供給することにより、3500時間以上にわたる長時間の発電試験を行った結果、3500時間以上にわたり、安定して発電できることが分かった。
【0098】
比較のために、燃料極の触媒層が第一合金触媒金属層(すなわち白金−ルテニウム合金/カーボン担持触媒)のみである以外は、同様にして作製した燃料電池について、同様にして長時間の発電試験を行った。
その結果、約1500時間程度で電圧が低下してしまい、安定して長時間にわたり発電できないことが分かった。
比較のために、燃料極の触媒層が白金/カーボン担持触媒層のみである以外は、同様にして作製した燃料電池について、同様にして長時間の発電試験を行った結果、1500時間程度で電圧が低下してしまい、安定して長時間にわたり発電できなかった。
【0099】
なお、上記実施形態の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮するものではない。又、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の燃料電池用燃料極触媒は、白金−ルテニウム第一合金触媒と白金−ルテニウム第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属で置換した第二合金触媒とを有することを特徴とするものであり、
白金−ルテニウム第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属で置換した第二合金触媒が存在するため、運転中に燃料極のルテニウムより卑な金属が先に溶出するので、ルテニウムが溶出せず、燃料極触媒層中にトラップされてとどまるため燃料極の耐CO被毒性が劣化せず、触媒活性が維持されるとともに、ルテニウムが溶出しないので空気極反応である酸素還元が阻害されず、さらにルテニウムの代わりに溶出した卑な金属により白金の酸素還元能が増幅されることもあり、顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の電極/膜接合体およびそれを備えた単セルの1例を模式的に説明する説明図である。
【図2】本発明の燃料電池システムの1例としての家庭用燃料電池コージェネレーションシステムに用いられる燃料電池を説明する説明図である。
【図3】ガス拡散層を備えた電極/膜接合体の断面説明図である。
【図4】電流密度0.3A/cm2 の条件でX(横軸)を0〜0.35の範囲とした時の電圧変化(縦軸)を示すグラフである。
【図5】本発明の燃料電池システムの他の例として携帯用燃料電池システムに用いられる燃料電池を説明する説明図である。
【図6】燃料極における燃料極反応、空気極における空気極反応の状況を模式的に示す説明図である。
【図7】高分子型燃料電池の単セルの基本構成を示す分解断面図である。
【図8】高分子型燃料電池スタックの基本構成を示す断面図である。
【図9】従来の燃料電池発電システムを示す説明図である。
【符号の説明】
【0102】
1、112、212 高分子電解質膜
2 空気極触媒層
3 第二合金触媒層
4 第一合金触媒層
5 ルテニウム触媒層
6 燃料極触媒層
7 電極/膜接合体
8、9、120、128 ガス拡散層
10、114、214(214a、214b、214c) 空気極
11、122、222(222a、222b、222c) 燃料極
12 ガス流路
13 冷却水流路
14 セパレータ
15 単セル
100 家庭用燃料電池コージェネレーションシステム
110、210 燃料電池
200 携帯用燃料電池システム
230 触媒コーティング膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金−ルテニウム第一合金触媒と白金−ルテニウム第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属で置換した第二合金触媒とを有することを特徴とする燃料電池用燃料極触媒。
【請求項2】
アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛化カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノオニオンからなる群から選択される少なくとも1種に担持されていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用燃料極触媒。
【請求項3】
前記ルテニウムより卑な金属が、コバルト、ニッケル、モリブデン、鉛、鉄、タングステン、クロムからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の燃料電池用燃料極触媒。
【請求項4】
高分子電解質膜の両面に燃料極および空気極を配置して、前記電極と高分子電解質膜を接合して形成した電極/膜接合体であって、前記燃料極に請求項1から請求項3のいずれかに記載の燃料電池用燃料極触媒を用いたことを特徴とする電極/膜接合体。
【請求項5】
前記高分子電解質膜側に白金−ルテニウム第一合金触媒のルテニウムの一部をルテニウムより卑な金属で置換した第二合金触媒が多く含まれていることを特徴とする請求項4記載の電極/膜接合体。
【請求項6】
前記高分子電解質膜側からガス拡散層側に順に、第二合金触媒層、第一合金触媒層、ルテニウム触媒層の3層が配置されていることを特徴とする請求項4あるいは請求項5記載の電極/膜接合体。
【請求項7】
請求項4から請求項6のいずれかに記載の電極/膜接合体を備えたことを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項4から請求項6記載の電極/膜接合体を備えた燃料電池の燃料極に供給される燃料として、改質ガスを用いることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項9】
請求項4から請求項6記載の電極/膜接合体を備えた燃料電池の燃料極に供給される燃料として、有機物燃料を用いることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−91102(P2008−91102A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268563(P2006−268563)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】