説明

燐酸塩皮膜冷間圧造用のステンレス鋼線及びそれを利用した直結ネジ

【課題】 燐酸塩皮膜冷間圧造用のステンレス鋼線及びそれを利用した直結ネジを提供する。
【解決手段】冷間圧造用のステンレス鋼線であって、ステンレス鋼線の表面に燐酸塩皮膜が形成されており、燐酸塩皮膜量は、4.0g/mないし14.0g/mである冷間圧造用のステンレス鋼線である。これにより、ステンレス鋼線の表面に燐酸塩皮膜を形成させることによって冷間加工性を著しく向上させ、締結力を向上させ、かつ外観を改善して圧造後の後処理が不要である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧造用のステンレス鋼線及びそれを利用した直結ネジに係り、特に、燐酸塩の被膜された冷間圧造用のステンレス鋼線及びそれを利用した直結ネジに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、冷間圧造用のステンレス鋼線は、小ネジ、木ネジ、タッピングネジ、ボルトのように、冷間圧造工程を経て特定の形態を有する製品の製造に使用されるステンレス鋼線を言う。
【0003】
このような冷間圧造用のステンレス鋼線は、小ネジのように、特定の形態を有する製品の製造に使用されるので、冷間加工性に優れていなければならない。また、冷間圧造用のステンレス鋼線は、高速圧造機による過酷な圧造工程を経ねばならないので、圧造工程中に変形される部分に亀裂が発生してはならず、圧造機との潤滑性に優れていなければならない。
【0004】
特に、鉄板などを打ち抜けるように端部に鋭いバリの形成された直結ネジの製造に使用される冷間圧造用のステンレス鋼線は、冷間加工性、耐亀裂性、成形工具との潤滑性などがさらに必要となる。それは、直結ネジへ製造される冷間圧造用のステンレス鋼線は、圧造工程よりさらに過酷な条件を有するポインティング工程を経なければならないためである。
【0005】
直結ネジは、ドリルで溝を形成した後、その溝に螺合する従来のネジに比べて、溝を形成する必要なしに対象物に直接に結合される。したがって、直結ネジは、施工が簡便で、かつ結合力に優れて、Hビームなどにパネルを付着させた構造を含む工場、スチールハウス、競技場のような大型鉄構造物を建てるときに広く使用される。
【0006】
従来には、このような点を考慮して、冷間圧造用のステンレス鋼線に複合無機塩皮膜、銅メッキ皮膜、水酸塩皮膜などを施した状態で冷間圧造工程を実施した。
【0007】
複合無機塩皮膜ステンレス鋼線は、例えば、特許文献1に開示されているように、硫酸塩及び界面活性剤などを混合した水溶性皮膜剤を物理的に付着させたステンレス鋼線である。複合無機塩皮膜は、現在樹脂皮膜を代替する皮膜として広く普及して使用されている。複合無機塩皮膜は、ステンレス鋼線の表面との密着性が良く、乾式潤滑剤をダイス内へよく流入させることによって、ダイスの寿命を延長させうる。また、複合無機塩皮膜は、耐焼付性に優れて、高速伸線が可能であり、水溶性なのでアルカリ液で脱脂が可能である。ただし、複合無機塩の被膜されたステンレス鋼線は、その表面が粗く、潤滑性が足りなくて、極甚な加工を要求する冷間圧造加工には不適であるという問題点がある。
【0008】
銅メッキステンレス鋼線は、圧造機との潤滑性は良好であるが、メッキ工程で公害を誘発し、冷間圧造後に残留する銅メッキを除去する必要があるという問題点があった。
【0009】
水酸塩皮膜ステンレス鋼線は、圧造加工に耐え、潤滑剤をダイス内へよく流入させることによってダイスの摩耗を減らせる。しかし、水酸塩皮膜の作業時に人体に有害なフュームが多量発生し、6価クロムなどの重金属が発生する深刻な公害問題がある。
【0010】
一方、特許文献2には、ステンレス鋼板に燐酸塩皮膜を形成する方法について記載し、燐酸塩皮膜の形成されたステンレス鋼板を深絞り加工した場合について記載している。しかし、この公報には、単にステンレス鋼板に燐酸塩皮膜を形成する方法及びこのようなステンレス鋼板を深絞り加工した場合についてのみ記載しており、燐酸塩皮膜の形成されたステンレス鋼線及びこのようなステンレス鋼線を冷間圧造加工することについては全く開示していない。
【0011】
【特許文献1】韓国特許登録第210824号明細書
【特許文献2】国際公開第WO98/09006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、優れた冷間圧造加工性を有する燐酸塩皮膜冷間圧造用のステンレス鋼線を提供することを目的とする。
【0013】
本発明の他の目的は、ポインティングのような過酷な冷間圧造加工に耐えうる燐酸塩皮膜冷間圧造用のステンレス鋼線を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、締結力に優れて、締結時間が短く、外観が美麗で、かつ製造過程で公害物質を発生させない燐酸塩皮膜冷間圧造用のステンレス鋼線で製造された直結ネジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一側面は、冷間圧造用のステンレス鋼線として、前記ステンレス鋼線の表面に燐酸塩皮膜が形成されている冷間圧造用のステンレス鋼線を開示する。前記ステンレス鋼線の表面に形成された燐酸塩皮膜量は、4.0g/mないし14.0g/mでありうる。
【0016】
本発明の他の側面は、冷間圧造用のステンレス鋼線であって、前記ステンレス鋼線の表面に燐酸塩皮膜が形成されており、前記燐酸塩皮膜上には、ボンデルーベ(Bonde lube)皮膜が形成されている冷間圧造用のステンレス鋼線を開示する。前記ステンレス鋼線の表面に形成された燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜の量は、4.0g/mないし14.0g/mでありうる。前記ボンデルーベ皮膜は、前記燐酸塩皮膜上に形成されたステアリン酸亜鉛層と、前記ステアリン酸亜鉛層上に形成されたステアリン酸ソーダ層とを備えうる。
【0017】
本発明のさらに他の側面は、外周面にネジが形成されており、一端にバリが形成されているネジ部と、前記バリの形成された側の反対側にある前記ネジ部の他端に形成されたヘッド部とを備える直結ネジであって、前記ネジ部は、ステンレス鋼線と、前記ステンレス鋼線の表面に形成された燐酸塩皮膜とを備える直結ネジを開示する。 前記燐酸塩皮膜上には、ボンデルーベ皮膜がさらに形成されうる。前記ヘッド部は、ステンレス鋼線と、前記ステンレス鋼線の表面に形成された燐酸塩皮膜とを備えうる。前記ヘッド部の燐酸塩皮膜上には、ボンデルーベ皮膜がさらに形成されうる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の燐酸塩皮膜冷間圧造用のステンレス鋼線は、優れた冷間圧造加工性を有する。
【0019】
本発明の燐酸塩皮膜冷間圧造用のステンレス鋼線は、ポインティングのような過酷な冷間加工にも耐えられる。
【0020】
本発明の燐酸塩皮膜冷間圧造用のステンレス鋼線を利用した直結ネジは、締結力に優れて、締結時間が短く、かつ外観が美麗であり、製造過程で公害物質を発生させない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付された図面を参照して、本発明の一実施例であって、燐酸塩皮膜の形成された冷間圧造用のステンレス鋼線を説明する。
【0022】
化学成分が重量%でC 0.15%以下、Si 1.0%以下、Mn 1.0%以下、Cr 11.50〜13.50%、P 0.040%以下及びS 0.030%以下を含むステンレス鋼線であって、光輝焼鈍された中間線を用意する。このステンレス鋼線の引張強度は、550N/mm以下であることが望ましい。
【0023】
用意されたステンレス鋼線を、硫酸溶液を電解液として電解酸洗することによって、表面スケールを完全に除去する。その後、このステンレス鋼線を陰極とし、燐酸溶液を電解液とする皮膜槽に通過させつつ燐酸塩皮膜を形成させる。皮膜槽の電解液は、Ca+2 0.5〜100g/l、Zn+2 0.5〜100g/l、PO−3 5〜100g/l、NO−1 0〜100g/l、ClO−3 0〜100g/l、FまたはCl 0〜59g/lを含む。電解液の温度は、0〜95℃、PHは、0.5〜5.0、電流密度は、0.1〜250mA/cmとする。
【0024】
一般的に、ステンレス鋼線の表面には、不動態皮膜が形成されており、その表面に燐酸塩皮膜を形成することは不可能であるか、または非常に難しい。不動態皮膜の形成されたステンレス鋼線の表面は、炭素鋼線に一般的に使用される燐酸亜鉛系統の皮膜には侵食され得ないので、このような不動態皮膜の形成されたステンレス鋼線の表面に燐酸塩皮膜を形成することができない。また、ステンレス鋼線の表面に形成された不動態皮膜が侵食されるとしても、不動態皮膜の侵食されたステンレス鋼線の表面が空気に露出されれば、その表面に瞬間的に不動態皮膜が再び形成されるため、不動態皮膜の侵食されたステンレス鋼線の表面に燐酸塩皮膜を形成することも非常に難しい。しかし、前記のような方法によれば、ステンレス鋼線の表面に燐酸塩皮膜を容易に形成することができる。
【0025】
このように、表面に燐酸塩皮膜の形成されたステンレス鋼線は、表面に水酸塩皮膜が形成されたものに比べて、冷間加工性が著しく向上し、耐焼付性が向上する。また、表面に燐酸塩皮膜の形成されたステンレス鋼線は、潤滑剤の保有性が高く、優れた潤滑性能を有し、暗黒色の外観を改善した美麗な外観を有する。また、表面に燐酸塩皮膜の形成されたステンレス鋼線は、表面に水酸塩皮膜が形成されたことから発生する公害問題や、圧造後の後処理によって発生する公害問題を防止できるので、環境にやさしい。
【0026】
ステンレス鋼線の表面に燐酸塩皮膜を形成するとき、燐酸塩皮膜量を4.0g/mないし14.0g/mに調節する。
【0027】
このように、表面に燐酸塩皮膜が4.0g/mないし14.0g/m形成されたステンレス鋼線は、耐食性を有し、また圧造工程で破損されず、+字溝の成形パンチのような成形工具の摩耗を大幅に減らせる。このようなステンレス鋼線は、複数の工程を経て成形された機械部品を製造するか、または鋭いバリを形成するような非常に過酷な条件のポインティング工程を経て完成する直結ネジの製造にも使用されうる。
【0028】
前記のように、表面に燐酸塩皮膜の形成されたステンレス鋼線を水洗及び乾燥させた後、ステアリン酸ソーダ、ホウ砂などを含むボンデルーベ溶液を皮膜液とする皮膜槽に浸漬して、ボンデルーベ皮膜を形成させうる。ボンデルーベ溶液は、ステアリン酸ソーダを主成分とし、これに少量の添加剤が含まれている溶液をいう。このとき、ボンデルーベ皮膜槽の温度は、60〜80℃であり、浸漬時間は、1〜2分であり、濃度は、3.5〜4.5%、ガラスアルカリ度は、0〜0.5に調節する。ボンデルーベ皮膜の形成時には、燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜を含んで、全体皮膜付着量を4.0g/mないし14.0g/mに調節しうる。
【0029】
表面に燐酸塩皮膜の形成されたステンレス鋼線を、ボンデルーベ溶液を皮膜液とする皮膜槽に担持すれば、燐酸塩皮膜と、ボンデルーベ溶液の成分のうちステアリン酸ソーダとが反応することによって、燐酸塩皮膜層上に金属石鹸層であるステアリン酸亜鉛層が形成される。このようなステアリン酸亜鉛層が形成されることによって、ステンレス鋼線は、優れた潤滑性を表す。このステアリン酸亜鉛層上には、ステアリン酸ソーダ層が形成される。
【0030】
図1は、表面に燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜の形成されたステンレス鋼線の断面の一部を示す図面である。図1に示すように、燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜の形成されたステンレス鋼線10は、ステンレス鋼線11の表面に燐酸塩皮膜12が覆われており、その上にステアリン酸亜鉛層13aがあり、最上部にステアリン酸ソーダ層13bが存在する構造になっている。すなわち、図1に示すステンレス鋼線11は、燐酸塩皮膜12以外にステアリン酸亜鉛層13a及びステアリン酸ソーダ層13bを備える3層の皮膜を有する。ここで、ステアリン酸亜鉛層13a及びステアリン酸ソーダ層13bは、前述したように、ボンデルーベ溶液を皮膜液とする皮膜槽に、燐酸塩皮膜12の形成されたステンレス鋼線11を浸漬して形成されるボンデルーベ皮膜13を構成する。このようなボンデルーベ皮膜13は、均一な厚さを有し、ステンレス鋼線11の外観が銀灰色を帯びるようにする。また、ボンデルーベ皮膜13は、それ自体が潤滑性を有しているので、ステンレス鋼線11の加工性を向上させ、また、ステンレス鋼線11の表面に潤滑剤を容易に付着させることによって、ステンレス鋼線11の加工時に剪断抵抗を低下させうる。
【0031】
燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜の形成されたステンレス鋼線11を一つ以上のダイスに通過させて、断面積を基準に5〜15%の減面率でスキンパス伸線を行う。このように伸線されることによって、ステンレス鋼線11は、所定の寸法及び強度を有する。このような伸線過程でダイスに粉末潤滑剤を供給することによって、ステンレス鋼線の表面に潤滑剤を均一に付着させうる。このように付着された潤滑剤は、ステンレス鋼線の冷間圧造工程時に補助潤滑剤の役割を行うことによって、冷間圧造工具と鋼線との間に摩擦を低減させて、工具の寿命を延長させうる。
【0032】
前記のように完成したステンレス鋼線は、小ネジ、木ネジ、タッピングネジ、ボルトのように、冷間圧造工程を経て完成する特定の形態を有する機械要素製品の製造に使用されうる。
【0033】
図2は、本発明の他の実施例であって、燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜の形成されたステンレス鋼線を備える直結ネジを示す図面である。
【0034】
図2に示すように、本実施例の直結ネジ20は、ネジ部21及びヘッド部22を備える。ネジ部21は、円筒形であり、円周方向に沿って傾斜した山及び谷の形成されているネジ23を備える。ネジ部21の一端部には、ネジ23の山及び谷よりさらに傾斜して山及び谷が形成されてなるバリ24が形成されている。バリ24の端部25は、とがっている形状を有する。ネジ23は、直結ネジ20を対象物と締結させる役割を行い、バリ24は、対象物を貫く役割を行う。このようなバリ24は、後述するポインティング工程により形成される。
【0035】
ヘッド部22は、ネジ部21の他端部に一体に形成されており、−字または+字の溝26が形成されている。このようなヘッド部22は、ネジ部21の直径よりさらに大きい直径を有し、後述する冷間圧造工程により形成される。
【0036】
本実施例に関する直結ネジにおいては、ヘッド部22及びネジ部21が、その表面に燐酸塩皮膜の形成されたステンレス鋼線を備えている。燐酸塩皮膜量は、4.0g/mないし14.0g/mに調節されうる。さらに、ステンレス鋼線の表面に形成された燐酸塩皮膜上には、ボンデルーベ皮膜がさらに形成されうる。この場合には、燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜を含んで、全体皮膜付着量を4.0g/mないし14.0g/mに調節できる。
【0037】
本実施例に関する直結ネジ20は、燐酸塩皮膜の形成されるか、または燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜の形成されたたステンレス鋼線からなっているので、その表面が銀白色を帯びて美麗かつ綺麗であり、また、燐酸塩皮膜のステンレス鋼線に対する密着性に優れて、圧造工程による粉塵発生の恐れが全くない。
【0038】
また、本実施例に関する直結ネジ20は、燐酸塩皮膜が4.0g/mないし14.0g/m形成されているか、または燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜が4.0g/mないし14.0g/m形成されており、ポインティング加工性が良好であり、バリが鋭利であり、転造加工性も良好であり、イバリ除去が容易であり、かつ潤滑性能に優れている。このような直結ネジ20は、ダイスやパンチなどの工具の寿命を従来に比べてさらに延長させうる。また、このような直結ネジ20は、捻りトルクの試験結果が優秀であり、従来の直結ネジに比べてはるかに速い締結時間を表す。例えば、本実施例に関する直結ネジ20が2.0〜13.0mmの鋼板の貫通にかかる時間が、規定された制限時間よりはるかに短かった。また、このような直結ネジ20は、圧造工程やポインティング工程で、水酸塩皮膜のように公害を誘発する問題がないので、環境にやさしい皮膜となりうるということを表す。
【0039】
図3Aないし図3Fは、燐酸塩の被膜された冷間圧造用のステンレス鋼線が、ヘディング工程によりネジに製造される工程を示す図面である。図3Aに示すように、前述したように、燐酸塩皮膜の形成されたステンレス鋼線30をローラー31により移送して切断ダイス32を通過させつつ、切断ナイフ33を使用して所定の長さに切断する。図3Bに示すように、所定の長さに切断されたステンレス鋼線30を、ヘッド部の成形ダイス34の入口まで移送する。
【0040】
図3Cに示すように、ネジのヘッド部に対応する溝を有するパンチのような1次工具35で予備的にネジヘッド部37を成形する。その後、図3D及び図3Eに示すように、+字突起36aのような所定の突起を有するパンチのような2次工具36で加圧することによって、ヘッド部37に+字突起36aに対応する+字溝37aを形成する。このようなネジのヘッド部37に+字溝37aを形成する工程において、図4に示すように、ステンレス鋼線30と2次工具36の+字突起36aとの境界付近に位置したステンレス鋼線30の材料の流れが起こる。このようなステンレス鋼線30の材料の流れは、図4で矢印で表示されている。また、このようなネジのヘッド部37に+字溝37aを形成する工程において、ステンレス鋼線30と2次工具36との境界で激烈な摩擦が発生する。その結果、2次工具36の+字突起36aの端部Gが著しく摩耗または破損されうるが、2次工具36の+字突起36aと接する部分を含んで、ステンレス鋼線30の表面には燐酸塩皮膜31が形成されているので、このような+字突起36aの端部Gや+字突起36aそのものの摩耗や破損を防止しうる。このような燐酸塩皮膜31上にステアリン酸亜鉛層やステアリン酸ソーダ層を備えるボンデルーベ皮膜(図示せず)がさらに形成されうる。この場合には、+字突起36aの端部Gや+字突起36aそのものを備えて、2次工具36の摩耗や破損をさらに著しく防止しうる。図3Fに示すように、ノックアウトピン38にヘッド部37の完成したネジ39を排出させる。
【0041】
図5は、このように排出されたヘッド部37の完成したネジ39を示す。
【0042】
図6Aないし図6Cは、ヘッド部37の完成したネジ39が、ポインティング工程により直結ネジに製造される工程を示す図面である。
【0043】
図6Aに示すように、ヘッド部37の完成したネジ39が、移送レール40により回転板41へ移送される。回転板41へ移送されたネジ39は、図6Bに示すように、回転板41に固定された状態で回転して、一対のポインティングダイ42の間に対応する位置に移動する。このように移動したネジ39は、図6Cに示すように、一対のポインティングダイ42の作動によりバリ43が形成される。
【0044】
図7は、このように、ヘッド部37及びバリ43の形成されたネジ44であって、イバリ45の付着された状態を示し、図8は、ヘッド部37及びバリ43の形成されたネジ44であって、イバリの除去された状態を示す。
【0045】
イバリが除去された後には、ネジ加工を行った後にバレル研磨する。このようなバレル研磨を経た直結ネジの表面には、ボンデルーベ皮膜や燐酸塩皮膜が除去されて、その表面に存在する皮膜の量は、4.0g/mないし14.0g/m未満でありうる。図9は、ネジ加工まで行った後にバレル研磨した直結ネジを示す。
【試験例】
【0046】
以下では、本発明の試験例を説明する。
【0047】
まず、重量%でC 0.100%、Si 0.110%、Mn 0.390%、Cr 11.690%の化学成分を有する410ステンレス鋼線であって、光輝焼鈍された中間線3.46mmを用意する。これを硫酸電解液で電解酸洗して、表面のスケール及び汚物を完全に除去した後、ステンレス鋼線を陰極として下記表1の燐酸電解液に浸漬して、ステンレス鋼線の表面に燐酸塩皮膜を形成する。燐酸塩皮膜の形成後に潤滑性を増大させるために、ステアリン酸ナトリウム及びホウ砂などから構成されたボンデルーベ皮膜槽に浸漬した後に乾燥させて、燐酸塩皮膜上にボンデルーベ皮膜を形成する。同じ中間線を使用して、例えば、同じ電解液及び同じ線速で電流密度を変更し、燐酸塩皮膜の付着量を調整することによって、下記表2の実施例1ないし実施例 7、比較例1ないし比較例4の試製品を製造し、水酸塩皮膜の付着量を調整することによって、比較例5の試製品を製造する。
【0048】
【表1】








【0049】
【表2】

【0050】
表2は、実施例1ないし実施例7及び比較例1ないし比較例5のように被膜された3.46mmの中間線を単釜伸線機で3.37mmに引き抜いて最終線にした後、分当り200個の速度でヘディング及びポインティング作業を一機械に成形できる両打器で試験した結果を表す。
【0051】
表2から分かるように、ヘディングパンチの寿命が、実施例1ないし実施例7は全部52,000〜56,000個で、比較例5の水酸塩皮膜線と同等であるか、またはそれ以上の寿命を表した。しかし、比較例1ないし比較例4は、比較例5よりパンチ寿命が短かい結果を表した。
【0052】
ポインティングダイの寿命も、実施例1ないし実施例7は全部185,000〜230,000個で、比較例5の水酸塩皮膜線以上の寿命を表したが、比較例1ないし比較例4は、比較例5よりポインティングダイ寿命が短かった。
【0053】
燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜を含んで、全体皮膜付着量が4.0g/m未満である場合には、ヘディング及びポインティング潤滑性が足りなくて、パンチまたはポインティングダイの寿命が短縮し、燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜を含んで、全体皮膜付着量が14.0g/mを超えた場合には、パンチ及びポインティングダイの金型部位に皮膜がくっ付き、ヘディングまたはポインティングの潤滑を阻害することによって、パンチまたはポインティングダイの寿命を短縮させる。また、燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜を含んで、全体皮膜付着量が14.0g/mを超えたときには、燐酸塩皮膜の付着量を増加させるために、電流密度を高めねばならないが、これは、電流量の増加による製造コストの上昇を招く。さらに、燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜を含んで、全体皮膜付着量が14.0g/mを超える場合には、成形機の供給ローラーで摩擦により燐酸塩皮膜と関連した粉塵が発生して、作業環境を汚染させうる。したがって、このような点を考慮する場合には、燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜を含んで、全体皮膜付着量は4.0〜14.0g/mの範囲が適している。
【0054】
各試料から形成した直結ネジのうち30個ずつサンプルを採取して、荷重13.5kgf、厚さ2.30mmの鋼板に締結試験を行ったときの締結時間を測定した結果を表2に表した。もし、締結時間が4.51秒を超えれば、その直結ネジは、ポインティング加工に不適で、使用できないということを表す。表2に表すように、実施例1ないし実施例7の締結時間は、比較例5の水酸塩皮膜線と同様に、2.74〜2.80秒の範囲内に属する優れた性能を表した。しかし、比較例1ないし比較例4の締結時間は、締結制限時間である4.51秒を超えるか、または実施例1ないし実施例7の締結時間より1秒以上さらに超えると表れた。これは、燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜を含んで、全体皮膜付着量が4.0〜14.0g/mの範囲である場合には、皮膜の潤滑性能が優秀であり、ポインティング加工による直結ネジのバリが鋭利に成形されているということを表す。
【0055】
したがって、燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜を含んで、全体皮膜付着量が4.0〜14.0g/mの範囲である冷間圧造用のステンレス鋼線は、水酸塩皮膜の形成されたステンレス鋼線と同じであるか、またはそれ以上のヘディング特性、ポインティング特性を表しており、このようなステンレス鋼線を使用して製造された直結ネジも、水酸塩皮膜の形成されたステンレス鋼線で製造された直結ネジと同じであるか、またはそれ以上の捻りトルク特性、締結時間特性を表しているということが分かる。
【0056】
また、燐酸塩皮膜ステンレス鋼線の場合には、皮膜工程でスラッジの発生量が微量であり、水酸塩皮膜工程のような人体に有害なフュームが全く発生せず環境にやさしい。
【0057】
さらに、燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜を含んで、全体皮膜付着量が4.0〜14.0g/mの範囲である冷間圧造用のステンレス鋼線を使用して直結ネジを製造する場合に、冷間圧造過程で粉塵がほとんど発生せず、直結ネジの製造装置の汚染や工場環境を汚染させる恐れがほとんどない。
【0058】
以上のように、ステンレス鋼線の表面に燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜が何れも形成されている場合に表れる作用効果は、ステンレス鋼線の表面に燐酸塩皮膜が形成され、ボンデルーベ皮膜が形成されていない場合にも同じである。
【0059】
燐酸塩皮膜ステンレス鋼線を使用して製造された直結ネジは、銀白色を帯びて美麗かつ綺麗なので、圧造工程後にバレル研磨などの後処理が不要である。一方、水酸塩皮膜ステンレス鋼線で製造された直結ネジは、外観が暗黒色なので、圧造後にバレル研磨などの後処理が必要であるという問題点がある。
【0060】
本発明の実施例は、STS 410ステンレス鋼線で製造した燐酸塩皮膜ステンレス鋼線を例示的に提示したが、冷間圧造用のステンレス鋼線として使用される燐酸塩皮膜ステンレス鋼線の全鋼種、例えば、XM-7, 430などに適用されうるということは言うまでもない。
【0061】
本発明は、図面に示す実施例を参考として説明されたが、これは、例示的なものに過ぎず、当業者ならば、このような実施例から多様な変形及び均等な他の実施例が可能であるという点が理解できるであろう。したがって、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決まらねばならない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、ステンレス鋼線に関連した技術分野に好適に適用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施例に関する燐酸塩皮膜冷間圧造用のステンレス鋼線の部分断面を示す図面である。
【図2】本発明の他の実施例に関する燐酸塩皮膜冷間圧造用のステンレス鋼線を利用した直結ネジを示す図面である。
【図3A】燐酸塩の被膜された冷間圧造用のステンレス鋼線がヘディング工程によりネジに製造される工程を示す図面である。
【図3B】燐酸塩の被膜された冷間圧造用のステンレス鋼線がヘディング工程によりネジに製造される工程を示す図面である。
【図3C】燐酸塩の被膜された冷間圧造用のステンレス鋼線がヘディング工程によりネジに製造される工程を示す図面である。
【図3D】燐酸塩の被膜された冷間圧造用のステンレス鋼線がヘディング工程によりネジに製造される工程を示す図面である。
【図3E】燐酸塩の被膜された冷間圧造用のステンレス鋼線がヘディング工程によりネジに製造される工程を示す図面である。
【図3F】燐酸塩の被膜された冷間圧造用のステンレス鋼線がヘディング工程によりネジに製造される工程を示す図面である。
【図4】図3Aないし図3Fに示す工程で、ステンレス鋼線と工具との境界付近に位置したステンレス鋼線の材料の流れを示す図面である。
【図5】図3Aないし図3Fに示す工程により完成したネジを示す図面である。
【図6A】ヘッド部の完成したネジがポインティング工程により直結ネジに製造される工程を示す図面である。
【図6B】ヘッド部の完成したネジがポインティング工程により直結ネジに製造される工程を示す図面である。
【図6C】ヘッド部の完成したネジがポインティング工程により直結ネジに製造される工程を示す図面である。
【図7】図6Aないし図6Cに示す工程で、ヘッド部及びバリが形成されたネジであって、イバリの付着された状態を示す図面である。
【図8】図6Aないし図6Cに示す工程で、ヘッド部及びバリが形成されたネジであって、イバリの除去された状態を示す図面である。
【図9】図6Aないし図6Cに示す工程及びネジ加工後にバレル研磨した直結ネジを示す図面である。
【符号の説明】
【0064】
20 直結ネジ
21 ネジ部
22 ヘッド部
23 ネジ
24 バリ
25 バリの端部
26 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧造用のステンレス鋼線であって、
前記ステンレス鋼線の表面に燐酸塩皮膜が形成されている冷間圧造用のステンレス鋼線。
【請求項2】
前記ステンレス鋼線の表面に形成された燐酸塩皮膜量は、4.0g/mないし14.0g/mであることを特徴とする請求項1に記載の冷間圧造用のステンレス鋼線。
【請求項3】
前記燐酸塩皮膜上には、ボンデルーベ皮膜がさらに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の冷間圧造用のステンレス鋼線。
【請求項4】
前記ボンデルーベ皮膜は、燐酸塩皮膜上に形成されたステアリン酸亜鉛層と、前記ステアリン酸亜鉛層上に形成されたステアリン酸ソーダ層とを備えることを特徴とする請求項3に記載の冷間圧造用のステンレス鋼線。
【請求項5】
前記ステンレス鋼線の表面に形成された燐酸塩皮膜及びボンデルーベ皮膜の総量は、4.0g/mないし14.0g/mであることを特徴とする請求項3に記載の冷間圧造用のステンレス鋼線。
【請求項6】
外周面にネジが形成されており、一端にバリが形成されているネジ部と、前記バリの形成された側の反対側にある前記ネジ部の他端に形成されたヘッド部とを備える直結ネジであって、
前記ネジ部は、ステンレス鋼線と、前記ステンレス鋼線の表面に形成された燐酸塩皮膜とを備えることを特徴とする直結ネジ。
【請求項7】
前記燐酸塩皮膜上には、ボンデルーベ皮膜がさらに形成されている請求項6に記載の直結ネジ。
【請求項8】
前記ヘッド部は、ステンレス鋼線と、前記ステンレス鋼線の表面に形成された燐酸塩皮膜とを備えることを特徴とする請求項6に記載の直結ネジ。
【請求項9】
前記燐酸塩皮膜上には、ボンデルーベ皮膜がさらに形成されていることを特徴とする請求項8に記載の直結ネジ。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−208447(P2008−208447A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157709(P2007−157709)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(507198716)高麗商事 株式會社 (2)
【出願人】(507198727)
【Fターム(参考)】