説明

物体識別方法及び物体識別装置

【課題】反射物体が存在する場所においても、物体の誤認識を抑制することができる物体識別方法及び物体識別装置を提供する。
【解決手段】物体識別装置1は、車両前方の物体にレーザ光を照射し物体からのレーザ光の反射状態によって物体との距離を測定するレーザ装置3と、少なくとも上記レーザ光の波長帯域の光を受光させるフィルタ部5aを備えたカメラ5と、レーザ装置3で対象物との距離を測定すると共に、レーザ装置3のレーザ光の照射方向に撮像方向を略一致させてカメラ5で撮像を行い、カメラ5がレーザ光の照射軌跡を認識した場合には、レーザ装置3で測定された対象物との距離値を無効にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体との距離等を認識する物体識別方法及び物体識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に記載の車両用の走行支援装置が知られている。この走行支援装置では、カーブミラーと自車両前方のカーブミラーに映る死角物体を検出し、カーブミラーに映った死角物体の映像に関する情報に基づいて、当該死角物体と自車両とが衝突する可能性を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−199055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記走行支援装置では、カーブミラー自体を検出できない場合もあり得る。カーブミラーのように鏡面で光を反射する反射物体が存在する場所において、その反射物体を検出できない場合には、反射物体に映る物体を、反射物体の背後に位置する物体であると誤認識してしまうことが考えられる。走行支援においては、反射物体が存在する場所においてもより正確に物体を検出することが望まれる。
【0005】
そこで本発明は、反射物体が存在する場所においても、物体の誤認識を抑制することができる物体識別方法及び物体識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の物体識別方法は、物体にレーザ光を照射し物体からのレーザ光の反射状態によって物体との距離を測定する測距部と、少なくともレーザ光の波長帯域の光を受光させるフィルタ手段を備えた撮像部と、を用いて、測距部で対象物との距離を測定すると共に、測距部のレーザ光の照射方向に撮像方向を略一致させて撮像部で撮像を行い、撮像部がレーザ光の照射軌跡を認識した場合には、測距部で測定された対象物との距離値を無効にすることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の物体識別装置は、物体にレーザ光を照射し物体からのレーザ光の反射状態によって物体との距離を測定する測距部と、少なくともレーザ光の波長帯域の光を受光させるフィルタ手段を備えた撮像部と、を備え、測距部で対象物との距離を測定すると共に、測距部のレーザ光の照射方向に撮像方向を略一致させて撮像部で撮像を行い、撮像部がレーザ光の照射軌跡を認識した場合には、測距部で測定された距離値を無効にすることを特徴とする。
【0008】
この物体識別方法及び物体識別装置では、測距部が、レーザ光の反射状態によって物体との距離を測定する。ここで、測距処理の対象場所に鏡面をもつ反射物体が存在し、当該反射物体に他物体が映って見える場合を考える。このとき、レーザ光が反射物体に照射されれば、レーザ光は反射物体を介して上記他物体に照射され、その反射レーザ光が再び反射物体を介して測距部に戻ってくる。従ってこの場合、測距部は、反射物体に映った上記他物体を、反射物体の背後に存在する物体と誤認識してしまう可能性がある。また、このような場合、反射物体から上記他物体まで延びるように、レーザ光の照射軌跡が形成される。そこで、撮像方向をレーザ光照射方向に略一致させて撮像部による撮像を行えば、上記照射軌跡を光線の画像として認識することができる。すなわち、上記照射軌跡を撮像画面上で認識することで、測距部の測距処理に反射物体が関与していることを検出することができる。従って、レーザ光の照射軌跡を認識したときには、測距処理に反射物体が関与しているものとして、測定された上記他物体への距離値を無効にする。その結果、この物体識別方法及び物体識別装置では、反射物体が測距処理へ関与した場合の誤認識を抑制することができる。
【0009】
また、照射軌跡は、撮像部で得られる撮像画面上において、直線的に延びる光線の画像として認識されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の物体識別方法及び物体識別装置によれば、反射物体が存在する場においても、物体の誤認識を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の物体識別装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1の物体識別装置が用いられる自車両周囲の状況の一例を示す平面図である。
【図3】(a)、(b)は、図2における自車両前方の撮像画面であり、(c)は、その撮像画面から抽出される照射軌跡を示す図である。
【図4】図1の物体識別装置による処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る物体識別処理及び物体識別装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1に示す物体識別装置1は自動車に搭載されて用いられ、自車両前方の各物体への距離を測定する測距機能を有している。図1に示すように、物体識別装置1は、レーザ装置(測距部)3と、カメラ(撮像部)5と、制御ECU10と、を備えている。制御ECU10は、スキャニング部11と、距離算出部(測距部)13と、照射撮像同期部15と、軌跡検出部17と、鏡面反射物体検出部19と、環境マップ作成部21と、を備えている。
【0014】
制御ECU10は、物体識別装置1の全体の制御を行う電子制御ユニットであり、例えばCPU、ROM、RAMを含むコンピュータを主体として構成されている。スキャニング部11と、距離算出部13と、照射撮像同期部15と、軌跡検出部17と、鏡面反射物体検出部19と、環境マップ作成部21と、は、制御ECU10のCPU、RAM、ROM等のハードウエアが、所定のプログラムに従い協働して動作することによってソフトウエア的に実現される構成要素である。
【0015】
レーザ装置3は、左右上下に二次元的にスキャンしながら、自車両前方の一点ずつに向けてレーザ光を照射する。レーザ光のスキャン動作は、スキャニング部11及び照射撮像同期部15の制御下で行われる。スキャニング部11は、レーザ装置3によるレーザ光の照射方向を左右上下に変化させる。更に、レーザ装置3は、自車両前方の物体から反射してくる反射レーザ光を受光する。距離算出部13は、レーザ装置3からデータ信号を受信し、レーザ光が照射されてから反射レーザ光が戻るまでの時間に基づいて、自車両から物体までの距離を算出する。このように、レーザ装置3及び距離算出部13は、レーザ光の反射状態によって物体との距離を測定する測距部を構成する。以下、この測距処理に用いられるレーザ光を、「測距レーザ光」と呼ぶ場合がある。
【0016】
例えば、図2及び図3(a)に示すように、自車両M1の前方の交差点100付近に歩行者Wが存在する場合には、レーザ光が歩行者Wに照射され、歩行者Wで反射された反射レーザ光をレーザ装置3が受光する。そして、距離算出部13は、レーザ光が照射されてから反射レーザ光が戻るまでの時間に基づいて、自車両M1から歩行者Wまでの距離を算出する。同様にして、測距レーザ光がスキャンされる範囲内の各物体(他車両M3、自転車B、自車両M1前方に存在する壁など)についても、自車両M1からの距離がそれぞれ算出される。そして、環境マップ作成部21は、自車両M1前方の各物体への距離をマップ化した環境マップを作成する。当該環境マップは、更に後段のシステムに転送され、自車両M1前方のリスクマップ作成に利用される。
【0017】
ここで、測距レーザ光がスキャンされる範囲内に鏡面反射物体が存在する場合を考える。鏡面反射物体とは測距レーザ光を鏡面反射する反射面を有する物体である。例えば、道路に設置されるカーブミラー等が鏡面反射物体に該当する。以下、図2及び図3に示すように、上記交差点100にカーブミラー101が存在する状況を例として説明する。また、交差点100の交差方向の道路上には他車両M2が存在しており、自車両M1の位置から見て、他車両M2がカーブミラー101に映って見えるものとする。
【0018】
レーザ装置3からの測距レーザ光がカーブミラー101に照射された場合、測距レーザ光はカーブミラー101に反射して他車両M2に照射される。そして、他車両M2からの反射レーザ光が、同じ光路を辿って再びカーブミラー101を介しレーザ装置に戻ってくる。このとき、距離算出部13は、上記反射レーザ光が戻るまでの時間に基づいて、カーブミラー101の方向に存在する物体までの距離を算出するので、カーブミラー101に映った他車両M2を、カーブミラー101の背後に存在する物体であると誤認識して距離値を算出してしまう。すなわち、本来であればカーブミラー101自体との距離を取得すべきところ、誤ってカーブミラー101の奥側に形成される他車両M2の虚像M2’との距離値を算出することになる。このようにレーザ装置3による測距処理に鏡面反射物体が関与すれば、誤認識が発生してしまう。
【0019】
そこで、物体識別装置1は、上記のような鏡面反射物体に起因する誤認識を抑制するため、図1に示すように、カメラ5と、軌跡検出部17と、鏡面反射物体検出部19と、を備えている。カメラ5は、図3(a)に例示されるような自車両前方の映像を撮像する。軌跡検出部17は、カメラ5からの映像信号を受信し、撮像された画像の画像処理などを行う。鏡面反射物体検出部19は、軌跡検出部17の画像処理に基づき、後述する方法で自車両M1前方の鏡面反射物体を検出する。
【0020】
カメラ5は、レーザ装置3の直近に設置されていると共に、当該カメラ5の撮像の光軸方向(撮像方向)と上記測距レーザ光の照射光軸方向とが略同一方向になるように設置されている。カメラ5は、測距レーザ光の波長帯域の光を少なくとも受光可能とするフィルタ部(フィルタ手段)5aを備えている。このようなフィルタ部5aとしては、例えば、カメラ5のレンズの前に設置されると共に、測距レーザ光の波長帯域を選択的に透過させる光学的なフィルタを用いてもよい。また、照射撮像同期部15の制御により、カメラ5の撮像動作は、レーザ装置3による測距レーザ光の照射動作に同期する。すなわち、測距レーザ光のスキャン中においては、レーザ装置3が前方の一点に対してレーザ光を照射したとき、その照射のタイミングに同期してカメラ5による前方画像の1フレームの撮像が行われる。
【0021】
前述のように鏡面反射物体がレーザ装置3の測距処理に関与した場合には、当該鏡面反射物体から他物体まで延びるように、測距レーザ光の照射軌跡が形成される。例えば、図2及び図3の場合、カーブミラー101と他車両M2とを結ぶ直線として、レーザ光の照射軌跡L1が形成される。従って、撮像方向をレーザ光照射方向に略一致させてカメラ5による撮像を行えば、上記照射軌跡L1は、図3(b)に示されるように、撮像画面200上において画面内を横切るように直線的に延びる光線の画像として認識することができる。これは、カーブミラー101から他車両M2に向かう測距レーザ光の一部が、空気中の塵などの微粒子に反射してカメラ5に入射するからである。前述のように、測距レーザ光の波長帯域を選択的に透過させるフィルタ部5aをカメラ5が備えることで、図3(c)に示すように、カメラ5が、照射軌跡L1上の光線を選択的に認識することができ、照射軌跡L1をより認識し易くなる。
【0022】
なお、鏡面反射物体以外(例えば歩行者Wや自転車B)に測距レーザ光が照射された場合には、特定の一方向に偏って反射される反射レーザ光は発生しないので、撮像画面上で直線的に延びる照射軌跡は発生しない。また、レーザ装置3の照射光軸方向とカメラ5の撮像の光軸方向が略一致していることから、レーザ装置3から歩行者Wに向かうレーザ光路L2(図2)や、レーザ装置3からカーブミラー101に向かうレーザ光路L3(図2)は、カメラ5から見てほぼ一点に見える。従って、レーザ光路L2,L3は、撮像画面上で直線的に延びる照射軌跡L1とは容易に区別が可能である。また、自車両M1から見て、カーブミラー101に空や無限遠点が映っている状態では、反射レーザ光がレーザ装置3に戻ってこないので、そもそも距離値が算出不可能であり、距離値の誤認識の問題は発生しない。
【0023】
軌跡検出部17は、カメラ5による撮像画面200の画像処理によって、撮像画面200上で直線的に延びる照射軌跡L1を認識する。鏡面反射物体検出部19は、照射軌跡L1の検出に基づいて、レーザ装置3の測距処理に関与する鏡面反射物体(カーブミラー101)を検出する。鏡面反射物体検出部19は、鏡面反射物体を検出すれば、レーザ装置3の測距処理で得られた距離値が誤認識であると判断し、当該距離値を無効なものとして破棄する。
【0024】
続いて、物体識別装置1による具体的な処理を、図4のフローチャートを参照しながら説明する。まず、レーザ装置3が、自車両前方の一点の照射点に向けてレーザ光を照射すると共に、反射レーザ光を受光する(S101)。レーザ装置3は、レーザ光を照射してから反射レーザ光が戻るまでの時間に基づいて、自車両から上記照射点までの距離を算出する(S103)。また、このとき、スキャニング部11は、レーザ光の照射方向を示す照射方向情報を、鏡面反射物体検出部19に送信する。
【0025】
カメラ5は、レーザ装置3による上記のレーザ光照射に同期し、レンズの光軸方向を測距レーザ光の照射光軸方向に略一致させた状態で、自車両前方の映像の1フレームを撮像する(S105)。次に、軌跡検出部17は、カメラ5からの映像信号に基づく画像処理を行い、1フレームの撮像画面内から測距レーザ光の照射軌跡を検出する処理を行う(S107)。すなわち、軌跡検出部17は、撮像画面上で直線的に延びる光線の画像の検出を試みる。
【0026】
ここで、軌跡検出部17が照射軌跡を検出した場合には(S109でYes)、鏡面反射物体検出部19は照射点に存在する鏡面反射物体を検出したものとして、上記処理S103で得られた距離値を無効とする(S111)。そして、鏡面反射物体検出部19は、スキャニング部11からの照射方向情報と、上記距離値が無効である旨と、を示す情報信号を、環境マップ作成部21に送信する。一方、軌跡検出部17が照射軌跡を検出できなかった場合には(S109でNo)、照射点には鏡面反射物体が検出されないものとして、鏡面反射物体検出部19は、処理S103で得られた距離値を有効とする(S113)。そして、鏡面反射物体検出部19は、スキャニング部11からの照射方向情報と上記距離値とを関連付け、情報信号として環境マップ作成部21に送信する。その後、環境マップ作成部21は、鏡面反射物体検出部19の情報信号に基づいて、レーザ光の照射方向と当該照射方向における物体の距離とを認識する。以上のような処理S101〜S113が、照射点を一点ずつ左右上下に移動させながら繰り返し行われることで、自車両前方の環境マップが作成される。
【0027】
この処理の結果、物体識別装置1及び物体識別方法では、鏡面反射物体が測距処理へ関与した場合の誤った距離値を排除し、鏡面反射物体の存在に起因する誤認識を抑制することができる。
【0028】
道路上のカーブミラーを検出する他の手法としては、例えば、カーナビゲーションシステムの地図情報にカーブミラーの位置情報を含ませることで、カーブミラーの存在を認識することが考えられる。ところが、地図情報の容量が大きくなりすぎるといった問題点がある。また、この場合、カーブミラーを検出できたとしても、移動する鏡面反射物体などカーブミラー以外の鏡面反射物体は検出することはできない。また、撮像画面上でカーブミラーの支柱を検出することによってカーブミラーを検出することも考えられるが、支柱を有しないカーブミラーは検出することができないといった問題がある。これに対し、物体識別装置1による物体識別方法では、上記のような問題を解決することもできる。
【符号の説明】
【0029】
1…物体識別装置 3…レーザ装置(測距部) 5…カメラ(撮像部) 5a…フィルタ部 13…距離算出部(測距部) 15…照射撮像同期部 17…軌跡検出部 200…撮像画面 L1…照射軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体にレーザ光を照射し前記物体からの前記レーザ光の反射状態によって前記物体との距離を測定する測距部と、
少なくとも前記レーザ光の波長帯域の光を受光させるフィルタ手段を備えた撮像部と、を用いて、
前記測距部で対象物との距離を測定すると共に、前記測距部のレーザ光の照射方向に撮像方向を略一致させて前記撮像部で撮像を行い、
前記撮像部が前記レーザ光の照射軌跡を認識した場合には、前記測距部で測定された距離値を無効にすることを特徴とする物体識別方法。
【請求項2】
前記照射軌跡は、
前記撮像部で得られる撮像画面上において、直線的に延びる光線の画像として認識されることを特徴とする請求項1に記載の物体識別方法。
【請求項3】
物体にレーザ光を照射し前記物体からの前記レーザ光の反射状態によって前記物体との距離を測定する測距部と、
少なくとも前記レーザ光の波長帯域の光を受光させるフィルタ手段を備えた撮像部と、を備え、
前記測距部で対象物との距離を測定すると共に、前記測距部のレーザ光の照射方向に撮像方向を略一致させて前記撮像部で撮像を行い、
前記撮像部が前記レーザ光の照射軌跡を認識した場合には、前記測距部で測定された前記対象物との距離値を無効にすることを特徴とする物体識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−149856(P2011−149856A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11985(P2010−11985)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】