物体進路予測方法、装置、およびプログラム
【課題】現実として起こりうる状況下においても安全性の確保を図ることができる物体進路予測方法、物体進路装置、および物体進路プログラムを提供する。
【解決手段】物体の位置および当該物体の速度を含む内部状態を記憶する記憶手段を備えたコンピュータが、前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成し、この生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行う。
【解決手段】物体の位置および当該物体の速度を含む内部状態を記憶する記憶手段を備えたコンピュータが、前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成し、この生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の位置および内部状態に基づいてその物体の進路を予測する物体進路予測方法、装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、四輪自動車等の移動体の自動運転を実現するために、さまざまな試みがなされてきている。移動体の自動運転を実現するためには、周囲に存在する車両、歩行者、または障害物などの物体の正確な検知と、この検知結果に基づいた走行中の危険の回避とが重要である。このうち、周囲の物体を精度よく検知するための技術として、各種センサや各種レーダを用いた物体検知技術が知られている。
【0003】
移動体の自動運転技術は、目的地を入力すれば自動的に出発地から目的地へと移動体を動かす技術である。この技術は、移動範囲が狭い場合には、移動範囲の地図を事前に作成し、動的な障害物の影響を事前予測することによって経路探索技術に帰着させることができる。しかしながら、移動体が自動車である場合のように、移動体の移動範囲が広範囲である場合には、自動運転技術を経路探索技術に帰着させることはできない。ここでいう広範囲とは、動的障害物を回避する上で必要な時間tと全工程を走行するために必要な時間τとが著しく異なるような範囲のことであり、例えばtが数秒程度であるのに対して、τが数時間程度であるような場合である。
【0004】
移動体の移動範囲が広範囲である場合、自動運転技術を経路探索技術に帰着させることはできないのには、主に二つの理由がある。まず、第1の理由を述べる。移動体が出発地を出発してから、例えば10t程度時間が経過した後の状況を考える。この場合には、動的な障害物の影響は道路全体に広がり、衝突しない経路を定義することができない。すなわち、移動体の移動範囲が広範囲である場合、出発地から目的地までの経路を事前に算出することは不可能となる。次に、第2の理由を述べる。移動体の移動範囲が広範囲である場合には、上述したように、全工程を走行するために必要な時間τはtと比べて非常に長い。このため、自動車に搭載されるコンピュータが、現実の衝突回避を実現可能な実用的な時間の内に必要な計算を終了することは不可能である。
【0005】
このように、自動車などの広範囲を移動する移動体の自動運転技術においては、少なくとも他の動的障害物の影響を考慮しないか、またはその影響を実用上必要とせずに行う経路探索技術に加えて、動的障害物との衝突回避に必要な計算を実用的な時間で終了し、走行中の危険を回避するための進路を算出する進路算出技術が必要となる。
【0006】
上述した進路算出技術として、複数の物体と自車とから成るシステムにおいて、自車の位置および速度に関する情報と、自車以外の複数の物体の位置および速度に関する情報とを用いることにより、自車を含む各物体の進路を生成し、システムを構成する物体のうちいずれか二つの物体が衝突する可能性を予測する技術が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。この技術では、システムを構成する全ての物体が取りうる進路を、確率概念を用いた同じ枠組みの操作系列によって予測して出力する。その後、得られた予測結果に基づいて、自車を含むシステム全体にとって最も安全な状況を実現する進路を求めて出力する。
【0007】
【非特許文献1】A. Broadhurst, S. Baker, and T. Kanade, "Monte Carlo Road Safety Reasoning", IEEE Intelligent Vehicle Symposium (IV2005), IEEE,(2005年6月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記非特許文献1に開示されている技術では、システムを構成する全ての物体が安全となるような進路を予測することを主眼としているため、そのような予測によって得られた進路が、特定の物体(例えば自車)にとっての安全性を十分に確保するものであるか否かは定かではなかった。
【0009】
この点についてより具体的に説明する。現実の道路状況においては、他車の運転者または歩行者が道路状況の認知ミスを起こし、本人が意識しないうちに自車を含む周囲の物体にとって好ましくない挙動を示す可能性がある。これに対して、上述した非特許文献1では、全ての物体は安全性を優先した挙動を示すということが暗黙裡に仮定されているため、ある物体が周囲の物体にとって好ましくない挙動を示す場合のように、現実として起こりうる状況下においても十分な安全性を確保することができるか否かは不明であった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、現実として起こりうる状況下においても安全性の確保を図ることができる物体進路予測方法、装置、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1記載の発明は、物体の位置と当該物体の速度を含む内部状態とを少なくとも記憶する記憶手段を備えたコンピュータが、前記物体の進路を予測する物体進路予測方法であって、前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成する軌跡生成ステップと、前記軌跡生成ステップで生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行う予測ステップと、を有することを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記軌跡生成ステップは、前記物体に対する操作を複数の操作から選択する操作選択ステップと、前記操作選択ステップで選択した操作を所定時間動作させる物体操作ステップと、前記物体操作ステップで前記選択した操作を動作させた後の前記物体の位置および内部状態が当該物体の制御に関する制御条件および当該物体の移動可能領域に関する移動条件を満たしているか否かを判定する判定ステップと、を含み、前記操作選択ステップから前記判定ステップに至る一連の処理を、軌跡を生成する軌跡生成時間に達するまで繰り返し行うことを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記操作選択ステップは、前記複数の操作の各々に付与された操作選択確率にしたがって操作を選択し、前記判定ステップで判定した結果、前記物体の位置および内部状態が前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて前記操作選択ステップに戻ることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記操作選択確率は、乱数を用いて定義されることを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項3または4記載の発明において、前記軌跡生成ステップで生成すべき軌跡の数が予め定められていることを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記判定ステップで判定した結果、前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて再帰呼出を行うことにより、選択可能な全ての操作を動作させることを特徴とする。
【0017】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項記載の発明において、前記記憶手段は、複数の物体の位置および内部状態を記憶し、前記軌跡生成ステップは、前記複数の物体の前記時空間における軌跡をそれぞれ生成することを特徴とする。
【0018】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記予測ステップは、前記複数の物体の中から一つの物体を特定し、この特定した物体以外の物体の前記時空間における存在確率を算出することを特徴とする。
【0019】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項記載の発明において、前記予測ステップにおける予測結果を含む情報を出力する出力ステップをさらに有することを特徴とする。
【0020】
請求項10記載の発明に係る物体進路予測装置は、物体の位置と当該物体の速度を含む内部状態とを少なくとも記憶する記憶手段と、前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成する軌跡生成手段と、前記軌跡生成手段で生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行う予測手段と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
請求項11記載の発明は、請求項10記載の発明において、前記軌跡生成手段は、前記物体に対する操作を複数の操作から選択する操作選択手段と、前記操作選択手段で選択した操作を所定時間動作させる物体操作手段と、前記物体操作手段で前記選択した操作を動作させた後の前記物体の位置および内部状態が当該物体の制御に関する制御条件および当該物体の移動可能領域に関する移動条件を満たしているか否かを判定する判定手段と、を含み、前記操作選択手段による操作選択処理から前記判定手段による判定処理に至る一連の処理を、軌跡を生成する軌跡生成時間に達するまで繰り返し行うことを特徴とする。
【0022】
請求項12記載の発明は、請求項11記載の発明において、前記操作選択手段は、前記複数の操作の各々に付与された操作選択確率にしたがって操作を選択し、前記判定手段で判定した結果、前記物体の位置および内部状態が前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて前記操作選択手段による操作選択処理に戻ることを特徴とする。
【0023】
請求項13記載の発明は、請求項12記載の発明において、前記操作選択確率は、乱数を用いて定義されることを特徴とする。
【0024】
請求項14記載の発明は、請求項12または13記載の発明において、前記軌跡生成手段で生成すべき軌跡の数が予め定められていることを特徴とする。
【0025】
請求項15記載の発明は、請求項11記載の発明において、前記判定手段で判定した結果、前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて再帰呼出を行うことにより、選択可能な全ての操作を動作させることを特徴とする。
【0026】
請求項16記載の発明は、請求項10〜15のいずれか一項記載の発明において、前記記憶手段は、複数の物体の位置および内部状態を記憶し、前記軌跡生成手段は、前記複数の物体の前記時空間における軌跡をそれぞれ生成することを特徴とする。
【0027】
請求項17記載の発明は、請求項16記載の発明において、前記予測手段は、前記複数の物体の中から一つの物体を特定し、この特定した物体以外の物体の前記時空間における存在確率を算出することを特徴とする。
【0028】
請求項18記載の発明は、請求項10〜17のいずれか一項記載の発明において、前記予測手段による予測結果を含む情報を出力する出力手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0029】
請求項19記載の発明に係る物体進路予測プログラムは、請求項1〜9のいずれか一項記載の物体進路予測方法を前記コンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、物体の位置および当該物体の速度を含む内部状態を記憶する記憶手段を備えたコンピュータが、前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成し、この生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行うことにより、現実として起こりうる状況下においても安全性の確保を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以後、「実施の形態」と称する)を説明する。
【0032】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る物体進路予測装置の機能構成を示すブロック図である。同図に示す物体進路予測装置1は、四輪自動車等の移動体に搭載され、自車の周囲の所定範囲に存在する物体を検知し、この検知した物体および自車の進路を予測する装置である。
【0033】
物体進路予測装置1は、各種情報が外部から入力される入力部2と、所定の範囲に存在する物体の位置や内部状態を検知するセンサ部3と、センサ部3が検知した結果に基づいて、物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成する軌跡生成部4と、軌跡生成部4で生成した軌跡を用いて物体の進路の確率的な予測を行う予測部5と、少なくとも予測部5で行われた予測結果を含む各種情報を出力する出力部6と、軌跡生成部4で生成された時空間上の軌跡や予測部5における予測結果を含む情報を記憶する記憶部7と、を備える。
【0034】
入力部2は、物体の進路を予測する際の各種設定情報等の入力を行う機能を有し、リモコン、キーボード(画面上での入力操作が可能なタッチパネル形式を含む)、ポインティングデバイス(マウス、トラックパッド等)などを用いて実現される。また、入力部2として、音声による情報の入力が可能なマイクロフォンを設けてもよい。なお、予め各種設定情報が定められる場合は、それらを格納したROM(Read Only Memory)等を有する記憶部7によって入力部2の機能を代替してもよい。
【0035】
センサ部3は、ミリ波レーダ、レーザレーダ、画像センサ等を用いることによって実現される。また、センサ部3は、速度センサ、加速度センサ、舵角センサ、角速度センサ等の各種センサを備えており、自車の移動状況を検知することもできる。なお、センサ部3が検知する物体の内部状態とは、物体の予測に用いることができるような有益な状態のことであり、好ましくは物体の速度(速さと向きを有する)や角速度(大きさと向きを有する)等の物理量である。なお、それらの物理量の値が0の場合(物体が停止している状態)も含まれることは勿論である。
【0036】
軌跡生成部4は、所定の時間が経過するまでに物体が取りうる軌跡を予測生成するものであり、物体をシミュレーション上で仮想的に動作させるための操作を複数の操作から選択する操作選択部41と、操作選択部41で選択した操作を所定の時間行う物体操作部42と、物体操作部42で操作した後の物体の位置および内部状態が所定の条件を満たしているか否かを判定する判定部43とを有する。
【0037】
予測部5は、軌跡生成部4から出力される物体ごとの軌跡を用いることによって物体進路の確率的な予測演算を行う予測演算部51と、予測演算部51における予測演算結果に応じて出力部6で表示出力する画像を生成する画像生成部52とを有する。
【0038】
出力部6は、予測部5の画像生成部52で生成された画像を表示出力する表示部61を有する。表示部61は、液晶、プラズマ、または有機EL(Electroluminescence)等のディスプレイを用いて実現される。本実施の形態1においては、表示部61として運転席の後方上部にプロジェクタを設置している。このプロジェクタは、四輪自動車のフロントガラスへの重畳表示を行う機能を有している。なお、出力部6として、音声情報を外部に出力するスピーカーを設けてもよい。
【0039】
記憶部7は、センサ部3での検知結果に加えて、軌跡生成部4で生成された軌跡、予測部5における予測結果、および軌跡生成部4の操作選択部41で選択する操作などを記憶する。この記憶部7は、所定のOS(Operation System)を起動するプログラムや本実施の形態1に係る物体進路予測プログラム等が予め記憶されたROM(Read Only Memory)、および各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)を用いて実現される。また、記憶部7は、物体進路予測装置1に対してコンピュータ読み取り可能な記録媒体を搭載可能なインタフェースを設け、このインタフェースに対応する記録媒体を搭載することによって実現することもできる。
【0040】
以上の機能構成を有する物体進路予測装置1は、演算および制御機能を有するCPU(Central Processing Unit)を備えた電子的な装置(コンピュータ)である。物体進路予測装置1が備えるCPUは、記憶部7が記憶、格納する情報および上述した物体進路予測プログラムを含む各種プログラムを記憶部7から読み出すことによって本実施の形態1に係る物体進路予測方法に関する演算処理を実行する。
【0041】
なお、本実施の形態1に係る物体進路予測プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、フラッシュメモリ、MOディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。
【0042】
次に、本発明の実施の形態1に係る物体進路予測方法について説明する。図2は、本実施の形態1に係る物体進路予測方法の処理の概要を示すフローチャートである。以下の説明においては、予測対象の物体は全て2次元平面上を移動するものと仮定して説明を行うが、本実施の形態1に係る物体進路予測方法は、3次元空間を移動する物体に対しても適用可能である。また、一つの物体が複数の自由度を有する場合(例えば6自由度を有するロボットアームのような物体)にも適用することができる。
【0043】
まず、センサ部3において、所定の範囲にある物体の自車に対する位置および内部状態を検知し、検知した情報を記憶部7に格納する(ステップS1)。以後、物体の位置は物体の中心の値であるとし、物体の内部状態は速度(速さv、向きθ)によって特定されるものとする。なお、このステップS1において、自車の内部状態も検知し、記憶部7に格納することは勿論である。
【0044】
次に、センサ部3によって入力された検知結果を用いることにより、軌跡生成部4が物体ごとに軌跡を生成する(ステップS2)。図3は、軌跡生成部4における軌跡生成処理の詳細を示すフローチャートである。同図においては、センサ部3で検知した物体の総数(自車を含む)をIとし、一つの物体Oi(1≦i≦I、iは自然数)に対して軌跡を生成する演算をNi回行うものとする(この意味で、IおよびNiはともに自然数)。また、軌跡を生成する時間(軌跡生成時間)をT(>0)とする。
【0045】
本実施の形態1では、軌跡生成時間T(および後述する操作時間Δt)を適切に定めることにより、実用的な計算時間で他車の進路など外界の変化の予測を行うことが可能となる。この点については、本発明の他の実施の形態に対しても共通していえることである。
【0046】
最初に、物体を識別するカウンタiの値を1とするとともに、同じ物体に対する軌跡生成回数を示すカウンタnの値を1とする初期化を行う(ステップS201)。
【0047】
次に、軌跡生成部4では、センサ部3で検知した結果を記憶部7から読み出し、この読み出した検知結果を初期状態とする(ステップS202)。具体的には、時間tを0とし、初期位置(xi(0)、yi(0))および初期内部状態(vi(0)、θi(0))を、それぞれセンサ部3からの入力情報(xi0、yi0)および(vi0、θi0)とする。
【0048】
続いて、操作選択部41が、その後の時間Δtの間に行う操作ui(t)を、選択可能な複数の操作の中から、各操作に予め付与された操作選択確率にしたがって一つの操作を選択する(ステップS203)。操作uicを選択する操作選択確率p(uic)は、例えばui(t)として選択可能な操作の集合{uic}の要素と所定の乱数とを対応付けることによって定義される。この意味で、操作uicごとに異なる操作選択確率p(uic)を付与してもよいし、操作集合{uic}の全要素に対して等しい確率を付与してもよい。後者の場合には、p(uic)=1/(選択可能な全操作数)となる。なお、操作選択確率p(uic)を、自車の位置および内部状態、ならびに周囲の道路環境に依存する関数として定義することも可能である。
【0049】
一般に、操作uicは複数の要素から構成され、物体Oiの種類によって選択可能な操作の内容が異なる。例えば、物体Oiが四輪自動車の場合、その四輪自動車の加速度や角速度はステアリングの切り具合やアクセルの踏み具合等によって決まる。このことに鑑みて、四輪自動車である物体Oiに対して施される操作uicは、加速度や角速度を含む要素によって決定される。これに対して、物体Oiが人である場合には、速度によって操作uicを指定することができる。
【0050】
より具体的な操作uicの設定例を挙げる。物体Oiが自動車の場合には、加速度を−10〜+30km/h/sec、操舵角を−7〜+7deg/secの範囲で取り(いずれも符号で向きを指定)、物体Oiが人の場合には、速さを0〜36km/h、向きを0〜360degの範囲で取る。なお、ここで記載した量は全て連続量である。このような場合には、適当な離散化を施すことによって各操作の要素数を有限とし、操作の集合{uic}を構成すればよい。
【0051】
この後、物体操作部42が、ステップS203で選択した操作uicを時間Δtの間動作させる(ステップS204)。この時間Δtは、精度の上では小さい方がより好ましいが、実用上は0.1〜0.5(sec)程度の値とすればよい。なお、以下の説明において、軌跡生成時間TはΔtの整数倍であるとするが、Tの値は物体Oiの速度に応じて可変としてもよく、Δtの整数倍でなくてもよい。
【0052】
続いて、判定部43では、ステップS204で操作uicを動作させた後の物体Oiの内部状態が所定の制御条件を満たしているか否かを判定する(ステップS205)とともに、操作uicを動作させた後の物体Oiの位置が移動可能領域内にあるか否かを判定する(ステップS206)。このうち、ステップS205で判定する制御条件は、物体Oiの種類に応じて定められ、例えば物体Oiが四輪自動車である場合には、ステップS204の動作後の速度の範囲や、ステップS204の動作後の加速度の最高車両G等によって定められる。他方、ステップS206で判定する移動可能領域とは、道路(車道、歩道を含む)等の領域を指す。以後、物体が移動可能領域に位置する場合を、「移動条件を満たす」と表現する。
【0053】
上述した判定部43における判定の結果、一つでも満足しない条件がある場合(ステップS205でNoまたはステップS206でNo)には、ステップS202に戻る。これに対して、判定部43における判定の結果、ステップS204における操作uic終了後の物体Oiの位置および内部状態が全ての条件を満足している場合(ステップS205でYesおよびステップS206でYes)には、時間をΔtだけ進め(t←t+Δt)、ステップS204の動作後の位置を(xi(t)、yi(t))、内部状態を(vi(t)、θi(t))とする(ステップS207)。
【0054】
以上説明したステップS202〜S207の処理は、軌跡生成時間Tに達するまで繰り返し行われる。すなわち、ステップS207で新たに定義された時間tがTに達していない場合(ステップS208でNo)、ステップS203に戻って処理を繰り返す。他方、ステップS207で新たに定義された時間tがTに達した場合(ステップS208でYes)、物体Oiに対する軌跡を出力し、記憶部7に格納する(ステップS209)。
【0055】
図4は、物体Oiに対して時間t=0、Δt、2Δt、・・・、TでステップS203からステップS207に至る一連の処理を繰り返すことによって生成された物体Oiの軌跡を模式的に示す図である。同図に示す軌跡Pi(m)(1≦m≦Ni、mは自然数)は、空間2次元(x、y)、時間1次元(t)の3次元時空間(x,y,t)を通過する。この軌跡Pi(m)をx−y平面上に射影すれば、2次元空間(x,y)における物体Oiの予測進路を得ることができる。
【0056】
ステップS209の後、カウンタnの値がNiに達していなければ(ステップS210でNo)、カウンタnの値を1増やし(ステップS211)、ステップS203に戻って上述したステップS203〜S208の処理を軌跡生成時間Tに達するまで繰り返し行う。
【0057】
ステップS210でカウンタnがNiに達した場合(ステップS210でYes)、物体Oiに対する全ての軌跡の生成が完了する。図5は、一つの物体Oiに対して生成されたNi個の軌跡Pi(1)、Pi(2)、・・・、Pi(Ni)から成る軌跡集合{Pi(n)}を3次元時空間上で模式的に示す説明図である。軌跡集合{Pi(n)}の要素をなす各軌跡の始点すなわち初期位置(xi0,yi0,0)は同じである(ステップS202を参照)。なお、図5はあくまでも模式図であり、Niの値としては、例えば数百〜数万程度の値をとることが可能である。
【0058】
ステップS210でカウンタnがNiに達した場合、物体識別用のカウンタiが物体の総数Iに達していなければ(ステップS212でNo)、そのカウンタiの値を1増やすとともに軌跡生成回数のカウンタnの値を1に初期化し(ステップS213)、ステップS202に戻って処理を繰り返す。これに対して物体のカウンタiがIに達した場合(ステップS212でYes)、全ての物体に対する軌跡生成が完了したことになるので、ステップS2の軌跡生成処理を終了し、続くステップS3に進む。
【0059】
このようにして、センサ部3で検知した全ての物体に対して所定の回数の軌跡生成処理を行うことにより、3次元時空間の所定の範囲内に存在する複数の物体が取りうる軌跡の集合から成る時空間環境Env(P)が形成される。図6は、時空間環境Env(P)の構成例を模式的に示す説明図である。同図に示す時空間環境Env(P)は、物体O1の軌跡集合{P1(n)}(図6では実線で表示)および物体O2の軌跡集合{P2(n)}(図6では破線で表示)から成る。より具体的には、時空間環境Env(P)は、二つの物体O1およびO2が、高速道路のような平坦かつ直線状の道路Rを+y軸方向に向かって移動している場合の時空間環境を示すものである。本実施の形態1においては、物体同士の相関は考慮せずに物体ごとに独立に軌跡生成を行っているため、異なる物体の軌跡同士が時空間上で交差することもある。
【0060】
図6において、時空間の各領域における軌跡集合{Pi(n)}(i=1,2)の単位体積当たりの密度は、その時空間の各領域における物体Oiの存在確率の密度(以後、「時空間確率密度」と称する)を与えている。したがって、ステップS2における軌跡生成処理によって構成された時空間環境Env(P)を用いることにより、物体Oiが3次元時空間上の所定の領域を通過する確率を求めることが可能となる。なお、上述した時空間確率密度は、あくまでも時空間上における確率概念であるため、一つの物体に対して時空間上でその値の総和を取ったときに1になるとは限らない。
【0061】
ところで、軌跡生成時間Tの具体的な値は、予め固定値として設定する場合には、その値Tを超えたところまで軌跡を生成すると時空間上の確率密度分布が一様になってしまい、計算しても意味がないような値とするのが好ましい。例えば、物体が四輪自動車であって、その四輪自動車が通常の走行を行っている場合には、たかだかT=5(sec)程度とすればよい。この場合、ステップS204における操作時間Δtを0.1〜0.5(sec)程度とすると、1本の軌跡Pi(m)を生成するために、ステップS203からステップS207に至る一連の処理を10〜50回繰り返すことになる。
【0062】
なお、高速道路、一般道、2車線道路などの道路の種類ごとに異なる軌跡生成時間Tを設定し、位置データを用いて現在走行中の道路の種類を地図データから読み取る方法や、画像認識等を応用した道路認識装置によって道路の種類を読み取る方法などによって切替を行うことは好ましい。
【0063】
また、軌跡生成時間Tまで算出した軌跡を用いることによって時空間上の確率密度分布を統計的に評価し、分布が一定となっている場合には軌跡生成時間Tを減らし、分布が一定となっていない場合には生成時間を増やすような適応制御を行うことも好ましい。
【0064】
さらには、自車の取り得る複数の進路を予め用意しておき、自車の進路と他の物体の進路との交差する確率が一定となる時間を軌跡生成時間Tとして予測を行うことも可能である。この場合、予測時間をΔtだけ増やしたときに自車の取り得る進路ごとのリスクの増分が一定となる場合をもって打ち切り条件としてもよい。かかる構成においては、安全を確保するために現在取るべき進路の判断材料を得るため、自車の取り得る進路の未来側の端点が空間的に広く分布するように設定されていることはいうまでもない。
【0065】
以上説明した物体ごとの軌跡生成処理の後、予測部5では、各物体が取りうる進路の確率的な予測を行う(ステップS3)。以下では、予測部5の予測演算部51における具体的な予測演算処理として、物体Oiに対して生成された軌跡集合{Pi(n)}の中で特定の軌跡Pi(m)が選ばれる確率を求める場合について説明するが、この予測演算が一例に過ぎないことは勿論である。
【0066】
物体Oiの軌跡がNi本生成されたとき、そのうちの1本の軌跡Pi(m)が実際の軌跡となる確率p(Pi(m))は、次のように算出される。まず、物体Oiの軌跡Pi(m)を実現するための操作列{uim(t)}が{uim(0),uim(Δt),uim(2Δt),・・・,uim(T)}であったとすると、時間tにおいて操作uim(t)が選択される確率はp(uim(t))であったので、t=0〜Tで操作列{uim(t)}が実行される確率は、
【数1】
と求められる。したがって、物体OiにNi本の軌跡集合{Pi(n)}が与えられたとき、物体Oiが取りうる一つの軌跡Pi(m)が選ばれる確率p(Pi(m))は、
【数2】
となる。
【0067】
ここで、全ての操作uim(t)が等確率p0(ただし、0<p0<1)で選択される場合、式(1)は、
【数3】
となる。ここで、sはt=0からTまでの操作時間Δtの総数すなわち操作回数である。したがって、物体Oiが取りうるNi本の軌跡に含まれる軌跡Pi(m)の確率の総和はNip0sとなり、そのうちの1本の軌跡Pi(m)が選ばれる確率p(Pi(m))は、式(3)を式(2)に代入することによって、
【数4】
となる。すなわち、確率p(Pi(m))は軌跡Pi(m)に依存しない。
【0068】
なお、式(4)において、全ての物体に対して生成する軌跡の数が同じ(N本)であるとすると、N1=N2=・・・=NI=N(定数)なので、p(Pi(m))=1/Nとなり、物体Oiによらず一定となる。この場合には、確率p(Pi(m))の値を1に規格化することによって予測演算部51における予測演算を簡素化し、より迅速に所定の予測演算を実行することが可能となる。
【0069】
予測演算部51では、物体Oi(i=1,2,・・・,I)ごとに算出した確率p(Pi(m))に基づいて、3次元時空間の各領域における単位体積当たりの物体Oiの存在確率を求める。この存在確率は、軌跡集合{Pi(n)}の3次元時空間上の時空間確率密度に対応しており、通過している軌跡の密度が高い領域は、存在確率が概ね大きい。
【0070】
ここまで説明してきた予測演算部51における演算の後、画像生成部52は、得られた演算結果に応じて出力部6の表示部61で表示する画像に関する画像情報を生成し、出力部6へ送出する。
【0071】
以上説明したステップS3に続いて、予測演算部51での演算結果に応じた情報すなわち予測結果を表示出力する(ステップS4)。図7は、表示部61における予測結果の表示出力例を示す図であり、二つの物体O1(自車)およびO2によって構成された時空間環境Env(P)(図6を参照)を用いて予測を行った場合の予測結果の表示出力例を模式的に示す図である。より具体的には、図7では、他の物体O2の所定時間後の存在確率が予め定めた閾値を超えるような領域を物体O1(自車)のフロントガラスFに半透明に重畳表示した場合を図示している。なお、半透明に表示されている二つの領域Daと領域Dbとでは照度が異なっている(領域Daの方が照度が高い)。このような照度の違いは、予測演算部51における予測結果を反映したものであり、求めた存在確率の値に応じて異なる照度を有する半透明領域がフロントガラスFに重畳表示される。
【0072】
上述した重畳表示は、物体O1の運転席の後方上部に設置されたプロジェクタ(出力部6の一部をなす、図示せず)から画像生成部52で生成された画像をフロントガラスFに投影することによって実現される。これにより、物体O1の運転者は、自車の前方を目視して運転しながら、近い将来に危険が生じる可能性のある領域を即座に認識することができる。したがって、その認識結果を運転に反映させることによって適確に危険を回避することが可能となる。
【0073】
なお、出力部6における表示出力例はこれに限られるわけではなく、例えばカーナビゲーションシステムの表示画面CN(図7を参照)に表示部61の機能を具備させることによって予測部5における予測結果を表示してもよい。この場合には、図8に示す領域DaおよびDbのように、表示画面CNに表示される2次元平面上で領域ごとに色の濃淡をつけて表示することも可能である。また、出力部6からマイクロフォンを介して音声を発生させることにより、周辺の道路状況に応じた情報や警報音または音声を出力するようにしてもよい。
【0074】
以上説明した本発明の実施の形態1によれば、物体の位置および当該物体の速度を含む内部状態を記憶する記憶手段を備えたコンピュータが、前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成し、この生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行うことにより、現実として起こりうる状況下においても安全性の確保を図ることが可能となる。
【0075】
また、本実施の形態1によれば、時間と空間から構成される時空間上に形成された時空間環境を用いて物体の進路予測を行うことにより、静的物体だけでなく動的物体の進路予測も精度よく行うことができる。
【0076】
さらに、本実施の形態1によれば、検知した物体の軌跡を互いに独立に生成しているため、特定の物体(例えば自車)と他の物体とを区別することができる。この結果、特定の物体とその他の物体との間で生じうる危険度を容易にかつ適確に、実用的な時間の内に予測することが可能となる。
【0077】
加えて、本実施の形態1によれば、時空間環境を用いて予測した結果を出力することによって危険度を含む情報の提示を行うことができるため、その情報の提示を受けた自車の運転者は、運転中の近い将来に起こりうる危険を迅速かつ適確に回避しながら運転することが可能となる。
【0078】
なお、本実施の形態1は、上述したように4次元時空間(空間3次元、時間1次元)においても適用可能である。この場合には、高低差のある道路を走行中の自動車に適用できるのは勿論のこと、他にも飛行機やヘリコプターのように、空中を移動する移動体が同じく空中を移動する他の移動体の進路予測を行う場合にも適用可能である。
【0079】
ここで、上記背景技術で引用した非特許文献1と本実施の形態1との差異について説明する。これら二つの技術は、ともに確率概念を用いた物体の進路予測を行っているが、非特許文献1では、所定の範囲内にある物体の進路を独立に予測しているわけではなく、相互の相関に基づいた確率計算を行っている。このため、複数の物体のうちいずれか二つの物体が衝突した場合、その二つの物体の進路予測は衝突した時点で終了する。これは、3次元時空間上で考えると、二つの異なる物体の軌跡は、交差した時点以後の衝突判定処理が行われないことを意味している。
【0080】
これに対して、本実施の形態1では、物体の軌跡は物体ごとに独立に生成されるため、3次元時空間上において異なる物体の軌跡が交差しても、衝突判定処理は所定時間経過するまで継続される。このように、非特許文献1で生成される時空間環境と本実施の形態1で生成される時空間環境とは全く異質なものである。また、本実施の形態1では、物体の相関を考慮することなく、物体ごとに独立な進路探索を行っているため、計算量も非特許文献1より少なくて済む。
【0081】
加えて、非特許文献1では、衝突という事象が予測できたとしても、それがいつの時点で起こるかまで把握することはできない。これは、非特許文献1が、時間の流れの中で物体が衝突する確率を求めているのではなく、各時間における状態ごとに衝突の有無を探索することを主眼としているためである。換言すれば、非特許文献1では、時空間環境といったものを明示的に用いていない上、時空間確率密度という概念には到達していない。
【0082】
このように、本実施の形態1と非特許文献1とは、ともに確率概念を用いた進路予測を行っているため、一見すると類似した技術であるかのような印象を与えかねないが、その技術的な思想の本質は全く異なっており、非特許文献1から本実施の形態1を想到することは、当業者といえども困難を極めるものである。
【0083】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2は、物体ごとの軌跡生成を行う際に、選択可能な全ての操作を動作させることによって軌跡を生成することを特徴とする。なお、本実施の形態2に係る物体進路予測装置の機能構成は、上述した実施の形態1に係る物体進路予測装置1の機能構成(図1を参照)と同じである。また、本実施の形態2に係る物体進路予測方法は、物体ごとの軌跡生成処理を除いて、上記実施の形態1に係る物体進路予測方法と同じである。
【0084】
図9は、本実施の形態2に係る物体進路予測方法における軌跡生成処理(図2のステップS2に相当)の概要を示すフローチャートである。同図に示す軌跡生成処理では、まず物体を識別するカウンタiの値を1とする初期化を行う(ステップS21)。本実施の形態2においても、軌跡生成を行うべき物体の総数をIとする。
【0085】
次に、軌跡生成部4は、センサ部3で検知した結果を記憶部7から読み出し、この読み出した検知結果を初期状態とする(ステップS22)。具体的には、時間tを0とし、初期位置(xi(0)、yi(0))および初期内部状態(vi(0)、θi(0))を、それぞれセンサ部3からの入力情報(xi0、yi0)および(vi0、θi0)とする。
【0086】
続いて、物体Oiの3次元時空間(x,y,t)における軌跡を生成する(ステップS23)。図10は、ステップS23の軌跡生成処理の詳細を示すフローチャートである。以下の説明においては、軌跡生成時間Tは、各操作を行う操作時間Δtを用いてT=KΔt(Kは自然数)と表されるものとする。
【0087】
まず、時間t=0におけるループ処理(Loop1)を開始する(ステップS231−1)。このLoop1では、t=0における操作ui(0)をΔtの間実行する。この際、操作ui(0)の具体的な内容は、上記実施の形態1と同様、物体Oiの種類に応じて決まる(車両の場合には、加速度や角速度によって指定される一方、人の場合には速度によって指定される)。操作の集合{uic}は有限個の要素から成り、選択可能な操作が連続量の場合には、適当な間隔で離散化することによって集合{uic}の要素が構成される。
【0088】
ステップS231−1のより具体的な処理を説明する。最初に、操作選択部41で一つの操作uic(0)を選択し、この選択した操作uic(0)を物体操作部42でΔtの間動作させる。この動作後、判定部43が、物体Oiの位置や内部状態が上記実施の形態1と同様の制御条件および移動条件を満たしているか否かを判定し、それらの条件を全て満たしている場合(OK)には、次の時間t=Δtにおけるループ処理(Loop2)に進む。これに対して、制御条件および移動条件のうちで一つでも満足しない条件がある場合(NG)には、ステップS233−1に進み、その直前に行った操作uic(0)をキャンセルする。なお、本実施の形態2においては、操作選択部41で全ての操作を選択するため、各操作の選択順は任意である。この点については、以後のループ処理(Loop2、Loop3、・・・、LoopK)においても同様である。
【0089】
以下、1本の軌跡が生成されるまでの処理を先に説明する。Loop2では、上述したLoop1と同様に、操作選択部41で操作を選択し、Δtの間だけ操作uic(Δt)を行う。そして、操作後の物体Oiの位置が上記同様の制御条件および移動条件を満たしていれば(OK)、時刻2Δtにおけるループ処理(Loop3)に移行する。他方、制御条件および移動条件のうち一つでも満足しない条件があれば(NG)、ステップS233−2に進み、その直前に行った操作uic(Δt)をキャンセルする。
【0090】
以後、上述したLoop1およびLoop2の各処理と同様の処理を繰り返すことによってK個のループ処理を連続して行う。すなわち、各時間3Δt、4Δt、・・・における操作を動作させた後の物体Oiが制御条件および移動条件を満たしている限り、Loop4、Loop5、・・・と順次進んでいく。そして、物体Oiが最後のLoopKに至るまで制御条件および移動条件を満たしている場合には、続くステップS232に進む。ステップS232では、t=0からt=T(=KΔt)に至る1本の軌跡が出力され、記憶部7に記憶、格納される。この軌跡は、図4に示す軌跡Pi(m)と同様に3次元時空間を通過する。
【0091】
ステップS232に続くステップS233−Kでは、最も遅い時間に動作させた操作
uic(T−Δt)=uic((K−1)Δt)をキャンセルし、LoopKを継続する場合(LoopK継続)には、再びステップS231−Kに戻る。他方、LoopKを終了する場合(LoopK終了)には、続くステップS233−(K−1)に進む。
【0092】
ステップS233−(K−1)では、Loop(K−1)で実行した操作uic(T−2Δt)をキャンセルし、Loop(K−1)を継続する場合(Loop(K−1)継続)、すなわち操作uic(T−2Δt)として実行すべき要素が残っている場合には、ステップS231−(K−1)に戻って処理を繰り返す。他方、Loop(K−1)を終了する場合(Loop(K−1)終了)、すなわち操作uic(T−2Δt)として実行すべき要素が残っていない場合には、続くステップS233−(K−2)に進む。
【0093】
以後、Loop(K−2)、・・・,Loop2、Loop1の順で上述したLoopKやLoop(K−1)における処理と同様の処理を繰り返し行う。この結果、最後にステップS233−1でLoop1を終了してステップS24の処理へ進む際には、物体Oiがとり得る全ての可能な軌跡が生成される。すなわち、図5に示すのと同様の軌跡集合{Pi(n)}が生成される。
【0094】
次に、ステップS231−1で制御条件および移動条件のいずれか一つが満たされない場合(NG)について説明する。この場合には、ステップS233−1に進み、その直前に行った操作uic(0)をキャンセルする。この後、Loop1を継続する場合にはステップS231−1に戻り、Loop1を終了する場合には、続くステップS24に進む。
【0095】
ステップS231−2、231−3、・・・、S231−Kで選択された操作を動作させた後、物体Oiが制御条件および移動条件のいずれかを満足しない場合にも、上述したステップS231−1の処理と同様の処理を行う。すなわち、一般にステップS231−k(k=2,3,・・・,K)で物体Oiが制御条件および移動条件のいずれかを満足しない場合には、ステップS233−kに進み、その直前に行った操作をキャンセルすればよい。このことによってある時間tiで条件を満足しない場合にはti以降の軌跡生成処理を省くことができ、計算量の削減を実現することができる。
【0096】
以上説明した軌跡生成処理のアルゴリズムは、縦型探索に基づいた再帰呼出を用いることによって全ての可能な操作を探索する際のアルゴリズムに等しい。したがってこの場合には、一つの物体Oiに対して最終的に生成される軌跡集合{Pi(n)}の要素数すなわち軌跡の本数は、その物体Oiに対する軌跡生成処理が終了するまで分からない。なお、上述した軌跡生成処理を行う代わりとして、横型探索を用いることによって全ての可能な操作を探索してもよい。このように、実行可能な操作を全探索することによって各物体が取りうる軌跡を生成する場合には、操作時間Δtにおける操作uic(t)の要素の数(操作uic(t)が連続量の場合には離散化の度合い)に応じて最適な計算量を有する探索方法を選択すればよい。
【0097】
以上説明したステップS23の軌跡生成処理の後、物体識別用のカウンタiがIに達していなければ(ステップS24でNo)、そのカウンタの値を1増やし(ステップS25)、ステップS22に戻ってセンサ部3の検知結果に基づく初期化を行い、上述した軌跡生成処理(ステップS23)を別の物体Oi+1に対して行う。他方、物体識別用のカウンタiがIに達した場合(ステップS24でYes)、所定の範囲に存在する全ての物体に対する軌跡生成処理が終了したことになるので、軌跡生成処理(図2のステップS2に相当)を終了する。この結果、図5に示すのと同様の時空間環境Env(P)が形成され、記憶部7において記憶、格納される。
【0098】
この後の処理、すなわち予測部5における物体の進路の確率的な予測(図2のステップS3に相当)および出力部6における予測結果の出力(図2のステップS4に相当)は、上記実施の形態1と同様である。
【0099】
以上説明した本発明の実施の形態2によれば、物体の位置および当該物体の速度を含む内部状態を記憶する記憶手段を備えたコンピュータが、前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成し、この生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行うことにより、上記実施の形態1と同様、現実として起こりうる状況下においても安全性の確保を図ることが可能となる。
【0100】
また、本実施の形態2によれば、時間と空間から構成される時空間上に形成された時空間環境を用いて物体の進路予測を行うことにより、静的物体だけでなく動的物体の進路予測も精度よく行うことができる。
【0101】
ところで、本発明の実施の形態2では、再帰呼出を用いた物体の時空間上での軌跡生成処理を行ったが、上述した実施の形態1における軌跡生成処理と比較した場合、どちらの計算量が少なくて済むかは一概にはいえない。換言すれば、如何なるアルゴリズムを用いることによって物体の時空間上の軌跡を生成するかは、操作時間Δt、軌跡生成時間T、操作集合の要素数等を含むさまざまな条件に応じて応じて変化する。このため、予測を行う条件に応じて、最も効率がよいアルゴリズムを採用すればよい。
【0102】
(その他の実施の形態)
ここまで、本発明を実施するための最良の形態として、実施の形態1および2を詳述してきたが、本発明はそれら二つの実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、本発明において、軌跡生成部の操作選択部では、自車に関してのみ現時点での操作を維持するものとしてもよい。この場合、自車では予測時点での内部状態が維持され、唯一つの操作が行われ続けることになるため、その操作を選択する操作選択確率は1であり、自車の軌跡集合として、時空間上には1本の軌跡のみが生成される。
【0103】
図11は、上記の如く自車の操作を維持した場合に生成された時空間環境を示すものであり、図6に対応する図である。図11に示す時空間環境Env'(P)おいては、3次元時空間における物体O1(自車)の軌跡集合は、直線状の1本の軌跡P1のみによって構成されている(物体O2に関しては図6と同様)。このように、自車の操作を維持するモデルを適用すれば、周囲の物体が多い場合などにおいて状況を単純化して予測を行うことが可能となり、軌跡生成部および予測部における計算量を少なくすることができる。なお、自車に対する操作選択確率は、入力部からの入力によって適宜設定できるようにしてもよい。
【0104】
また、本発明に係る物体進路予測方法においては、センサ部で検知した実在の物体に加えて、架空の物体を配置し、この配置した架空の物体の進路予測を行ってもよい。より具体的には、自車にとって好ましくない挙動を示すような架空の物体モデルを構成し、この物体モデルを所定の位置に配置して進路予測を行ってもよい。このような架空の物体モデルは、例えば遮蔽物等が存在して見通しが悪い交差点付近を走行する車両(自車)が進路予測を行う場合、その自車から検知できない位置に配置することによって、交差点から飛び出してくる可能性のある物体との衝突等の危険を予測することが可能となる。なお、架空の物体モデルの情報は予め記憶部で記憶しておき、入力部からの条件設定に応じてかかる物体モデルを所望の位置に配置するようにしてもよい。
【0105】
ところで、本発明に係る物体進路予測装置を、車両のみの走行が前提となる高速道路などの領域で適用する場合には、各車両に車車間通信用の通信手段をあわせて具備させることにより、互いに近くを走行している車両同士が、互いの走行状況を車車間通信によって交換し合うようにしてもよい。この場合には、各車両が操作履歴を各自の記憶部で記憶しておき、その操作履歴に基づいて操作ごとの操作選択確率を付与し、この操作選択確率に関する情報もあわせて他の車両に送信するようにしてもよい。これにより、進路予測の精度が高くなり、走行中の危険を一段と確実に回避することが可能となる。
【0106】
加えて、本発明に対してGPS(Global Positioning System)を位置検出手段として援用することも可能である。この場合には、GPSが記憶する3次元地図情報を参照することによってセンサ部で検知した物体の位置情報や移動情報の補正を行うことができる。さらには、GPSの出力を相互に通信することによってセンサ部として機能させることも可能である。いずれの場合にも、GPSを援用することによって高精度の進路予測を実現することができ、予測結果の信頼性をさらに向上させることができる。
【0107】
以上の説明からも明らかなように、本発明は、ここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施の形態1に係る物体進路予測装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る物体進路予測方法の概要を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態1に係る物体進路予測方法における軌跡生成処理の概要を示すフローチャートである。
【図4】3次元時空間に生成された軌跡を示す模式的に示す図である。
【図5】一つの物体に対して3次元時空間に生成された軌跡集合を模式的に示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る物体進路予測方法によって形成された時空間環境の構成を模式的に示す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る物体進路予測装置における予測結果の表示出力例を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係る物体進路予測装置における予測結果の表示出力例(第2例)を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係る物体進路予測方法の処理の概要を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態2に係る物体進路予測方法における軌跡生成処理の概要を示すフローチャートである。
【図11】自車の操作を維持するモデルを採用した場合に形成された時空間環境の構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0109】
1 物体進路予測装置
2 入力部
3 センサ部
4 軌跡生成部(軌跡生成手段)
5 予測部(予測手段)
6 出力部(出力手段)
7 記憶部(記憶手段)
41 操作選択部(操作選択手段)
42 物体操作部(物体操作手段)
43 判定部(判定手段)
51 予測演算部
52 画像生成部
61 表示部
CN 表示画面
Da、Db 領域
Env(P)、Env'(P) 時空間環境
F フロントガラス
O1、O2、Oi 物体
R 道路
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の位置および内部状態に基づいてその物体の進路を予測する物体進路予測方法、装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、四輪自動車等の移動体の自動運転を実現するために、さまざまな試みがなされてきている。移動体の自動運転を実現するためには、周囲に存在する車両、歩行者、または障害物などの物体の正確な検知と、この検知結果に基づいた走行中の危険の回避とが重要である。このうち、周囲の物体を精度よく検知するための技術として、各種センサや各種レーダを用いた物体検知技術が知られている。
【0003】
移動体の自動運転技術は、目的地を入力すれば自動的に出発地から目的地へと移動体を動かす技術である。この技術は、移動範囲が狭い場合には、移動範囲の地図を事前に作成し、動的な障害物の影響を事前予測することによって経路探索技術に帰着させることができる。しかしながら、移動体が自動車である場合のように、移動体の移動範囲が広範囲である場合には、自動運転技術を経路探索技術に帰着させることはできない。ここでいう広範囲とは、動的障害物を回避する上で必要な時間tと全工程を走行するために必要な時間τとが著しく異なるような範囲のことであり、例えばtが数秒程度であるのに対して、τが数時間程度であるような場合である。
【0004】
移動体の移動範囲が広範囲である場合、自動運転技術を経路探索技術に帰着させることはできないのには、主に二つの理由がある。まず、第1の理由を述べる。移動体が出発地を出発してから、例えば10t程度時間が経過した後の状況を考える。この場合には、動的な障害物の影響は道路全体に広がり、衝突しない経路を定義することができない。すなわち、移動体の移動範囲が広範囲である場合、出発地から目的地までの経路を事前に算出することは不可能となる。次に、第2の理由を述べる。移動体の移動範囲が広範囲である場合には、上述したように、全工程を走行するために必要な時間τはtと比べて非常に長い。このため、自動車に搭載されるコンピュータが、現実の衝突回避を実現可能な実用的な時間の内に必要な計算を終了することは不可能である。
【0005】
このように、自動車などの広範囲を移動する移動体の自動運転技術においては、少なくとも他の動的障害物の影響を考慮しないか、またはその影響を実用上必要とせずに行う経路探索技術に加えて、動的障害物との衝突回避に必要な計算を実用的な時間で終了し、走行中の危険を回避するための進路を算出する進路算出技術が必要となる。
【0006】
上述した進路算出技術として、複数の物体と自車とから成るシステムにおいて、自車の位置および速度に関する情報と、自車以外の複数の物体の位置および速度に関する情報とを用いることにより、自車を含む各物体の進路を生成し、システムを構成する物体のうちいずれか二つの物体が衝突する可能性を予測する技術が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。この技術では、システムを構成する全ての物体が取りうる進路を、確率概念を用いた同じ枠組みの操作系列によって予測して出力する。その後、得られた予測結果に基づいて、自車を含むシステム全体にとって最も安全な状況を実現する進路を求めて出力する。
【0007】
【非特許文献1】A. Broadhurst, S. Baker, and T. Kanade, "Monte Carlo Road Safety Reasoning", IEEE Intelligent Vehicle Symposium (IV2005), IEEE,(2005年6月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記非特許文献1に開示されている技術では、システムを構成する全ての物体が安全となるような進路を予測することを主眼としているため、そのような予測によって得られた進路が、特定の物体(例えば自車)にとっての安全性を十分に確保するものであるか否かは定かではなかった。
【0009】
この点についてより具体的に説明する。現実の道路状況においては、他車の運転者または歩行者が道路状況の認知ミスを起こし、本人が意識しないうちに自車を含む周囲の物体にとって好ましくない挙動を示す可能性がある。これに対して、上述した非特許文献1では、全ての物体は安全性を優先した挙動を示すということが暗黙裡に仮定されているため、ある物体が周囲の物体にとって好ましくない挙動を示す場合のように、現実として起こりうる状況下においても十分な安全性を確保することができるか否かは不明であった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、現実として起こりうる状況下においても安全性の確保を図ることができる物体進路予測方法、装置、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1記載の発明は、物体の位置と当該物体の速度を含む内部状態とを少なくとも記憶する記憶手段を備えたコンピュータが、前記物体の進路を予測する物体進路予測方法であって、前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成する軌跡生成ステップと、前記軌跡生成ステップで生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行う予測ステップと、を有することを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記軌跡生成ステップは、前記物体に対する操作を複数の操作から選択する操作選択ステップと、前記操作選択ステップで選択した操作を所定時間動作させる物体操作ステップと、前記物体操作ステップで前記選択した操作を動作させた後の前記物体の位置および内部状態が当該物体の制御に関する制御条件および当該物体の移動可能領域に関する移動条件を満たしているか否かを判定する判定ステップと、を含み、前記操作選択ステップから前記判定ステップに至る一連の処理を、軌跡を生成する軌跡生成時間に達するまで繰り返し行うことを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記操作選択ステップは、前記複数の操作の各々に付与された操作選択確率にしたがって操作を選択し、前記判定ステップで判定した結果、前記物体の位置および内部状態が前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて前記操作選択ステップに戻ることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記操作選択確率は、乱数を用いて定義されることを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項3または4記載の発明において、前記軌跡生成ステップで生成すべき軌跡の数が予め定められていることを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記判定ステップで判定した結果、前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて再帰呼出を行うことにより、選択可能な全ての操作を動作させることを特徴とする。
【0017】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項記載の発明において、前記記憶手段は、複数の物体の位置および内部状態を記憶し、前記軌跡生成ステップは、前記複数の物体の前記時空間における軌跡をそれぞれ生成することを特徴とする。
【0018】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記予測ステップは、前記複数の物体の中から一つの物体を特定し、この特定した物体以外の物体の前記時空間における存在確率を算出することを特徴とする。
【0019】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項記載の発明において、前記予測ステップにおける予測結果を含む情報を出力する出力ステップをさらに有することを特徴とする。
【0020】
請求項10記載の発明に係る物体進路予測装置は、物体の位置と当該物体の速度を含む内部状態とを少なくとも記憶する記憶手段と、前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成する軌跡生成手段と、前記軌跡生成手段で生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行う予測手段と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
請求項11記載の発明は、請求項10記載の発明において、前記軌跡生成手段は、前記物体に対する操作を複数の操作から選択する操作選択手段と、前記操作選択手段で選択した操作を所定時間動作させる物体操作手段と、前記物体操作手段で前記選択した操作を動作させた後の前記物体の位置および内部状態が当該物体の制御に関する制御条件および当該物体の移動可能領域に関する移動条件を満たしているか否かを判定する判定手段と、を含み、前記操作選択手段による操作選択処理から前記判定手段による判定処理に至る一連の処理を、軌跡を生成する軌跡生成時間に達するまで繰り返し行うことを特徴とする。
【0022】
請求項12記載の発明は、請求項11記載の発明において、前記操作選択手段は、前記複数の操作の各々に付与された操作選択確率にしたがって操作を選択し、前記判定手段で判定した結果、前記物体の位置および内部状態が前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて前記操作選択手段による操作選択処理に戻ることを特徴とする。
【0023】
請求項13記載の発明は、請求項12記載の発明において、前記操作選択確率は、乱数を用いて定義されることを特徴とする。
【0024】
請求項14記載の発明は、請求項12または13記載の発明において、前記軌跡生成手段で生成すべき軌跡の数が予め定められていることを特徴とする。
【0025】
請求項15記載の発明は、請求項11記載の発明において、前記判定手段で判定した結果、前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて再帰呼出を行うことにより、選択可能な全ての操作を動作させることを特徴とする。
【0026】
請求項16記載の発明は、請求項10〜15のいずれか一項記載の発明において、前記記憶手段は、複数の物体の位置および内部状態を記憶し、前記軌跡生成手段は、前記複数の物体の前記時空間における軌跡をそれぞれ生成することを特徴とする。
【0027】
請求項17記載の発明は、請求項16記載の発明において、前記予測手段は、前記複数の物体の中から一つの物体を特定し、この特定した物体以外の物体の前記時空間における存在確率を算出することを特徴とする。
【0028】
請求項18記載の発明は、請求項10〜17のいずれか一項記載の発明において、前記予測手段による予測結果を含む情報を出力する出力手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0029】
請求項19記載の発明に係る物体進路予測プログラムは、請求項1〜9のいずれか一項記載の物体進路予測方法を前記コンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、物体の位置および当該物体の速度を含む内部状態を記憶する記憶手段を備えたコンピュータが、前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成し、この生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行うことにより、現実として起こりうる状況下においても安全性の確保を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための最良の形態(以後、「実施の形態」と称する)を説明する。
【0032】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る物体進路予測装置の機能構成を示すブロック図である。同図に示す物体進路予測装置1は、四輪自動車等の移動体に搭載され、自車の周囲の所定範囲に存在する物体を検知し、この検知した物体および自車の進路を予測する装置である。
【0033】
物体進路予測装置1は、各種情報が外部から入力される入力部2と、所定の範囲に存在する物体の位置や内部状態を検知するセンサ部3と、センサ部3が検知した結果に基づいて、物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成する軌跡生成部4と、軌跡生成部4で生成した軌跡を用いて物体の進路の確率的な予測を行う予測部5と、少なくとも予測部5で行われた予測結果を含む各種情報を出力する出力部6と、軌跡生成部4で生成された時空間上の軌跡や予測部5における予測結果を含む情報を記憶する記憶部7と、を備える。
【0034】
入力部2は、物体の進路を予測する際の各種設定情報等の入力を行う機能を有し、リモコン、キーボード(画面上での入力操作が可能なタッチパネル形式を含む)、ポインティングデバイス(マウス、トラックパッド等)などを用いて実現される。また、入力部2として、音声による情報の入力が可能なマイクロフォンを設けてもよい。なお、予め各種設定情報が定められる場合は、それらを格納したROM(Read Only Memory)等を有する記憶部7によって入力部2の機能を代替してもよい。
【0035】
センサ部3は、ミリ波レーダ、レーザレーダ、画像センサ等を用いることによって実現される。また、センサ部3は、速度センサ、加速度センサ、舵角センサ、角速度センサ等の各種センサを備えており、自車の移動状況を検知することもできる。なお、センサ部3が検知する物体の内部状態とは、物体の予測に用いることができるような有益な状態のことであり、好ましくは物体の速度(速さと向きを有する)や角速度(大きさと向きを有する)等の物理量である。なお、それらの物理量の値が0の場合(物体が停止している状態)も含まれることは勿論である。
【0036】
軌跡生成部4は、所定の時間が経過するまでに物体が取りうる軌跡を予測生成するものであり、物体をシミュレーション上で仮想的に動作させるための操作を複数の操作から選択する操作選択部41と、操作選択部41で選択した操作を所定の時間行う物体操作部42と、物体操作部42で操作した後の物体の位置および内部状態が所定の条件を満たしているか否かを判定する判定部43とを有する。
【0037】
予測部5は、軌跡生成部4から出力される物体ごとの軌跡を用いることによって物体進路の確率的な予測演算を行う予測演算部51と、予測演算部51における予測演算結果に応じて出力部6で表示出力する画像を生成する画像生成部52とを有する。
【0038】
出力部6は、予測部5の画像生成部52で生成された画像を表示出力する表示部61を有する。表示部61は、液晶、プラズマ、または有機EL(Electroluminescence)等のディスプレイを用いて実現される。本実施の形態1においては、表示部61として運転席の後方上部にプロジェクタを設置している。このプロジェクタは、四輪自動車のフロントガラスへの重畳表示を行う機能を有している。なお、出力部6として、音声情報を外部に出力するスピーカーを設けてもよい。
【0039】
記憶部7は、センサ部3での検知結果に加えて、軌跡生成部4で生成された軌跡、予測部5における予測結果、および軌跡生成部4の操作選択部41で選択する操作などを記憶する。この記憶部7は、所定のOS(Operation System)を起動するプログラムや本実施の形態1に係る物体進路予測プログラム等が予め記憶されたROM(Read Only Memory)、および各処理の演算パラメータやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)を用いて実現される。また、記憶部7は、物体進路予測装置1に対してコンピュータ読み取り可能な記録媒体を搭載可能なインタフェースを設け、このインタフェースに対応する記録媒体を搭載することによって実現することもできる。
【0040】
以上の機能構成を有する物体進路予測装置1は、演算および制御機能を有するCPU(Central Processing Unit)を備えた電子的な装置(コンピュータ)である。物体進路予測装置1が備えるCPUは、記憶部7が記憶、格納する情報および上述した物体進路予測プログラムを含む各種プログラムを記憶部7から読み出すことによって本実施の形態1に係る物体進路予測方法に関する演算処理を実行する。
【0041】
なお、本実施の形態1に係る物体進路予測プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、フラッシュメモリ、MOディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。
【0042】
次に、本発明の実施の形態1に係る物体進路予測方法について説明する。図2は、本実施の形態1に係る物体進路予測方法の処理の概要を示すフローチャートである。以下の説明においては、予測対象の物体は全て2次元平面上を移動するものと仮定して説明を行うが、本実施の形態1に係る物体進路予測方法は、3次元空間を移動する物体に対しても適用可能である。また、一つの物体が複数の自由度を有する場合(例えば6自由度を有するロボットアームのような物体)にも適用することができる。
【0043】
まず、センサ部3において、所定の範囲にある物体の自車に対する位置および内部状態を検知し、検知した情報を記憶部7に格納する(ステップS1)。以後、物体の位置は物体の中心の値であるとし、物体の内部状態は速度(速さv、向きθ)によって特定されるものとする。なお、このステップS1において、自車の内部状態も検知し、記憶部7に格納することは勿論である。
【0044】
次に、センサ部3によって入力された検知結果を用いることにより、軌跡生成部4が物体ごとに軌跡を生成する(ステップS2)。図3は、軌跡生成部4における軌跡生成処理の詳細を示すフローチャートである。同図においては、センサ部3で検知した物体の総数(自車を含む)をIとし、一つの物体Oi(1≦i≦I、iは自然数)に対して軌跡を生成する演算をNi回行うものとする(この意味で、IおよびNiはともに自然数)。また、軌跡を生成する時間(軌跡生成時間)をT(>0)とする。
【0045】
本実施の形態1では、軌跡生成時間T(および後述する操作時間Δt)を適切に定めることにより、実用的な計算時間で他車の進路など外界の変化の予測を行うことが可能となる。この点については、本発明の他の実施の形態に対しても共通していえることである。
【0046】
最初に、物体を識別するカウンタiの値を1とするとともに、同じ物体に対する軌跡生成回数を示すカウンタnの値を1とする初期化を行う(ステップS201)。
【0047】
次に、軌跡生成部4では、センサ部3で検知した結果を記憶部7から読み出し、この読み出した検知結果を初期状態とする(ステップS202)。具体的には、時間tを0とし、初期位置(xi(0)、yi(0))および初期内部状態(vi(0)、θi(0))を、それぞれセンサ部3からの入力情報(xi0、yi0)および(vi0、θi0)とする。
【0048】
続いて、操作選択部41が、その後の時間Δtの間に行う操作ui(t)を、選択可能な複数の操作の中から、各操作に予め付与された操作選択確率にしたがって一つの操作を選択する(ステップS203)。操作uicを選択する操作選択確率p(uic)は、例えばui(t)として選択可能な操作の集合{uic}の要素と所定の乱数とを対応付けることによって定義される。この意味で、操作uicごとに異なる操作選択確率p(uic)を付与してもよいし、操作集合{uic}の全要素に対して等しい確率を付与してもよい。後者の場合には、p(uic)=1/(選択可能な全操作数)となる。なお、操作選択確率p(uic)を、自車の位置および内部状態、ならびに周囲の道路環境に依存する関数として定義することも可能である。
【0049】
一般に、操作uicは複数の要素から構成され、物体Oiの種類によって選択可能な操作の内容が異なる。例えば、物体Oiが四輪自動車の場合、その四輪自動車の加速度や角速度はステアリングの切り具合やアクセルの踏み具合等によって決まる。このことに鑑みて、四輪自動車である物体Oiに対して施される操作uicは、加速度や角速度を含む要素によって決定される。これに対して、物体Oiが人である場合には、速度によって操作uicを指定することができる。
【0050】
より具体的な操作uicの設定例を挙げる。物体Oiが自動車の場合には、加速度を−10〜+30km/h/sec、操舵角を−7〜+7deg/secの範囲で取り(いずれも符号で向きを指定)、物体Oiが人の場合には、速さを0〜36km/h、向きを0〜360degの範囲で取る。なお、ここで記載した量は全て連続量である。このような場合には、適当な離散化を施すことによって各操作の要素数を有限とし、操作の集合{uic}を構成すればよい。
【0051】
この後、物体操作部42が、ステップS203で選択した操作uicを時間Δtの間動作させる(ステップS204)。この時間Δtは、精度の上では小さい方がより好ましいが、実用上は0.1〜0.5(sec)程度の値とすればよい。なお、以下の説明において、軌跡生成時間TはΔtの整数倍であるとするが、Tの値は物体Oiの速度に応じて可変としてもよく、Δtの整数倍でなくてもよい。
【0052】
続いて、判定部43では、ステップS204で操作uicを動作させた後の物体Oiの内部状態が所定の制御条件を満たしているか否かを判定する(ステップS205)とともに、操作uicを動作させた後の物体Oiの位置が移動可能領域内にあるか否かを判定する(ステップS206)。このうち、ステップS205で判定する制御条件は、物体Oiの種類に応じて定められ、例えば物体Oiが四輪自動車である場合には、ステップS204の動作後の速度の範囲や、ステップS204の動作後の加速度の最高車両G等によって定められる。他方、ステップS206で判定する移動可能領域とは、道路(車道、歩道を含む)等の領域を指す。以後、物体が移動可能領域に位置する場合を、「移動条件を満たす」と表現する。
【0053】
上述した判定部43における判定の結果、一つでも満足しない条件がある場合(ステップS205でNoまたはステップS206でNo)には、ステップS202に戻る。これに対して、判定部43における判定の結果、ステップS204における操作uic終了後の物体Oiの位置および内部状態が全ての条件を満足している場合(ステップS205でYesおよびステップS206でYes)には、時間をΔtだけ進め(t←t+Δt)、ステップS204の動作後の位置を(xi(t)、yi(t))、内部状態を(vi(t)、θi(t))とする(ステップS207)。
【0054】
以上説明したステップS202〜S207の処理は、軌跡生成時間Tに達するまで繰り返し行われる。すなわち、ステップS207で新たに定義された時間tがTに達していない場合(ステップS208でNo)、ステップS203に戻って処理を繰り返す。他方、ステップS207で新たに定義された時間tがTに達した場合(ステップS208でYes)、物体Oiに対する軌跡を出力し、記憶部7に格納する(ステップS209)。
【0055】
図4は、物体Oiに対して時間t=0、Δt、2Δt、・・・、TでステップS203からステップS207に至る一連の処理を繰り返すことによって生成された物体Oiの軌跡を模式的に示す図である。同図に示す軌跡Pi(m)(1≦m≦Ni、mは自然数)は、空間2次元(x、y)、時間1次元(t)の3次元時空間(x,y,t)を通過する。この軌跡Pi(m)をx−y平面上に射影すれば、2次元空間(x,y)における物体Oiの予測進路を得ることができる。
【0056】
ステップS209の後、カウンタnの値がNiに達していなければ(ステップS210でNo)、カウンタnの値を1増やし(ステップS211)、ステップS203に戻って上述したステップS203〜S208の処理を軌跡生成時間Tに達するまで繰り返し行う。
【0057】
ステップS210でカウンタnがNiに達した場合(ステップS210でYes)、物体Oiに対する全ての軌跡の生成が完了する。図5は、一つの物体Oiに対して生成されたNi個の軌跡Pi(1)、Pi(2)、・・・、Pi(Ni)から成る軌跡集合{Pi(n)}を3次元時空間上で模式的に示す説明図である。軌跡集合{Pi(n)}の要素をなす各軌跡の始点すなわち初期位置(xi0,yi0,0)は同じである(ステップS202を参照)。なお、図5はあくまでも模式図であり、Niの値としては、例えば数百〜数万程度の値をとることが可能である。
【0058】
ステップS210でカウンタnがNiに達した場合、物体識別用のカウンタiが物体の総数Iに達していなければ(ステップS212でNo)、そのカウンタiの値を1増やすとともに軌跡生成回数のカウンタnの値を1に初期化し(ステップS213)、ステップS202に戻って処理を繰り返す。これに対して物体のカウンタiがIに達した場合(ステップS212でYes)、全ての物体に対する軌跡生成が完了したことになるので、ステップS2の軌跡生成処理を終了し、続くステップS3に進む。
【0059】
このようにして、センサ部3で検知した全ての物体に対して所定の回数の軌跡生成処理を行うことにより、3次元時空間の所定の範囲内に存在する複数の物体が取りうる軌跡の集合から成る時空間環境Env(P)が形成される。図6は、時空間環境Env(P)の構成例を模式的に示す説明図である。同図に示す時空間環境Env(P)は、物体O1の軌跡集合{P1(n)}(図6では実線で表示)および物体O2の軌跡集合{P2(n)}(図6では破線で表示)から成る。より具体的には、時空間環境Env(P)は、二つの物体O1およびO2が、高速道路のような平坦かつ直線状の道路Rを+y軸方向に向かって移動している場合の時空間環境を示すものである。本実施の形態1においては、物体同士の相関は考慮せずに物体ごとに独立に軌跡生成を行っているため、異なる物体の軌跡同士が時空間上で交差することもある。
【0060】
図6において、時空間の各領域における軌跡集合{Pi(n)}(i=1,2)の単位体積当たりの密度は、その時空間の各領域における物体Oiの存在確率の密度(以後、「時空間確率密度」と称する)を与えている。したがって、ステップS2における軌跡生成処理によって構成された時空間環境Env(P)を用いることにより、物体Oiが3次元時空間上の所定の領域を通過する確率を求めることが可能となる。なお、上述した時空間確率密度は、あくまでも時空間上における確率概念であるため、一つの物体に対して時空間上でその値の総和を取ったときに1になるとは限らない。
【0061】
ところで、軌跡生成時間Tの具体的な値は、予め固定値として設定する場合には、その値Tを超えたところまで軌跡を生成すると時空間上の確率密度分布が一様になってしまい、計算しても意味がないような値とするのが好ましい。例えば、物体が四輪自動車であって、その四輪自動車が通常の走行を行っている場合には、たかだかT=5(sec)程度とすればよい。この場合、ステップS204における操作時間Δtを0.1〜0.5(sec)程度とすると、1本の軌跡Pi(m)を生成するために、ステップS203からステップS207に至る一連の処理を10〜50回繰り返すことになる。
【0062】
なお、高速道路、一般道、2車線道路などの道路の種類ごとに異なる軌跡生成時間Tを設定し、位置データを用いて現在走行中の道路の種類を地図データから読み取る方法や、画像認識等を応用した道路認識装置によって道路の種類を読み取る方法などによって切替を行うことは好ましい。
【0063】
また、軌跡生成時間Tまで算出した軌跡を用いることによって時空間上の確率密度分布を統計的に評価し、分布が一定となっている場合には軌跡生成時間Tを減らし、分布が一定となっていない場合には生成時間を増やすような適応制御を行うことも好ましい。
【0064】
さらには、自車の取り得る複数の進路を予め用意しておき、自車の進路と他の物体の進路との交差する確率が一定となる時間を軌跡生成時間Tとして予測を行うことも可能である。この場合、予測時間をΔtだけ増やしたときに自車の取り得る進路ごとのリスクの増分が一定となる場合をもって打ち切り条件としてもよい。かかる構成においては、安全を確保するために現在取るべき進路の判断材料を得るため、自車の取り得る進路の未来側の端点が空間的に広く分布するように設定されていることはいうまでもない。
【0065】
以上説明した物体ごとの軌跡生成処理の後、予測部5では、各物体が取りうる進路の確率的な予測を行う(ステップS3)。以下では、予測部5の予測演算部51における具体的な予測演算処理として、物体Oiに対して生成された軌跡集合{Pi(n)}の中で特定の軌跡Pi(m)が選ばれる確率を求める場合について説明するが、この予測演算が一例に過ぎないことは勿論である。
【0066】
物体Oiの軌跡がNi本生成されたとき、そのうちの1本の軌跡Pi(m)が実際の軌跡となる確率p(Pi(m))は、次のように算出される。まず、物体Oiの軌跡Pi(m)を実現するための操作列{uim(t)}が{uim(0),uim(Δt),uim(2Δt),・・・,uim(T)}であったとすると、時間tにおいて操作uim(t)が選択される確率はp(uim(t))であったので、t=0〜Tで操作列{uim(t)}が実行される確率は、
【数1】
と求められる。したがって、物体OiにNi本の軌跡集合{Pi(n)}が与えられたとき、物体Oiが取りうる一つの軌跡Pi(m)が選ばれる確率p(Pi(m))は、
【数2】
となる。
【0067】
ここで、全ての操作uim(t)が等確率p0(ただし、0<p0<1)で選択される場合、式(1)は、
【数3】
となる。ここで、sはt=0からTまでの操作時間Δtの総数すなわち操作回数である。したがって、物体Oiが取りうるNi本の軌跡に含まれる軌跡Pi(m)の確率の総和はNip0sとなり、そのうちの1本の軌跡Pi(m)が選ばれる確率p(Pi(m))は、式(3)を式(2)に代入することによって、
【数4】
となる。すなわち、確率p(Pi(m))は軌跡Pi(m)に依存しない。
【0068】
なお、式(4)において、全ての物体に対して生成する軌跡の数が同じ(N本)であるとすると、N1=N2=・・・=NI=N(定数)なので、p(Pi(m))=1/Nとなり、物体Oiによらず一定となる。この場合には、確率p(Pi(m))の値を1に規格化することによって予測演算部51における予測演算を簡素化し、より迅速に所定の予測演算を実行することが可能となる。
【0069】
予測演算部51では、物体Oi(i=1,2,・・・,I)ごとに算出した確率p(Pi(m))に基づいて、3次元時空間の各領域における単位体積当たりの物体Oiの存在確率を求める。この存在確率は、軌跡集合{Pi(n)}の3次元時空間上の時空間確率密度に対応しており、通過している軌跡の密度が高い領域は、存在確率が概ね大きい。
【0070】
ここまで説明してきた予測演算部51における演算の後、画像生成部52は、得られた演算結果に応じて出力部6の表示部61で表示する画像に関する画像情報を生成し、出力部6へ送出する。
【0071】
以上説明したステップS3に続いて、予測演算部51での演算結果に応じた情報すなわち予測結果を表示出力する(ステップS4)。図7は、表示部61における予測結果の表示出力例を示す図であり、二つの物体O1(自車)およびO2によって構成された時空間環境Env(P)(図6を参照)を用いて予測を行った場合の予測結果の表示出力例を模式的に示す図である。より具体的には、図7では、他の物体O2の所定時間後の存在確率が予め定めた閾値を超えるような領域を物体O1(自車)のフロントガラスFに半透明に重畳表示した場合を図示している。なお、半透明に表示されている二つの領域Daと領域Dbとでは照度が異なっている(領域Daの方が照度が高い)。このような照度の違いは、予測演算部51における予測結果を反映したものであり、求めた存在確率の値に応じて異なる照度を有する半透明領域がフロントガラスFに重畳表示される。
【0072】
上述した重畳表示は、物体O1の運転席の後方上部に設置されたプロジェクタ(出力部6の一部をなす、図示せず)から画像生成部52で生成された画像をフロントガラスFに投影することによって実現される。これにより、物体O1の運転者は、自車の前方を目視して運転しながら、近い将来に危険が生じる可能性のある領域を即座に認識することができる。したがって、その認識結果を運転に反映させることによって適確に危険を回避することが可能となる。
【0073】
なお、出力部6における表示出力例はこれに限られるわけではなく、例えばカーナビゲーションシステムの表示画面CN(図7を参照)に表示部61の機能を具備させることによって予測部5における予測結果を表示してもよい。この場合には、図8に示す領域DaおよびDbのように、表示画面CNに表示される2次元平面上で領域ごとに色の濃淡をつけて表示することも可能である。また、出力部6からマイクロフォンを介して音声を発生させることにより、周辺の道路状況に応じた情報や警報音または音声を出力するようにしてもよい。
【0074】
以上説明した本発明の実施の形態1によれば、物体の位置および当該物体の速度を含む内部状態を記憶する記憶手段を備えたコンピュータが、前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成し、この生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行うことにより、現実として起こりうる状況下においても安全性の確保を図ることが可能となる。
【0075】
また、本実施の形態1によれば、時間と空間から構成される時空間上に形成された時空間環境を用いて物体の進路予測を行うことにより、静的物体だけでなく動的物体の進路予測も精度よく行うことができる。
【0076】
さらに、本実施の形態1によれば、検知した物体の軌跡を互いに独立に生成しているため、特定の物体(例えば自車)と他の物体とを区別することができる。この結果、特定の物体とその他の物体との間で生じうる危険度を容易にかつ適確に、実用的な時間の内に予測することが可能となる。
【0077】
加えて、本実施の形態1によれば、時空間環境を用いて予測した結果を出力することによって危険度を含む情報の提示を行うことができるため、その情報の提示を受けた自車の運転者は、運転中の近い将来に起こりうる危険を迅速かつ適確に回避しながら運転することが可能となる。
【0078】
なお、本実施の形態1は、上述したように4次元時空間(空間3次元、時間1次元)においても適用可能である。この場合には、高低差のある道路を走行中の自動車に適用できるのは勿論のこと、他にも飛行機やヘリコプターのように、空中を移動する移動体が同じく空中を移動する他の移動体の進路予測を行う場合にも適用可能である。
【0079】
ここで、上記背景技術で引用した非特許文献1と本実施の形態1との差異について説明する。これら二つの技術は、ともに確率概念を用いた物体の進路予測を行っているが、非特許文献1では、所定の範囲内にある物体の進路を独立に予測しているわけではなく、相互の相関に基づいた確率計算を行っている。このため、複数の物体のうちいずれか二つの物体が衝突した場合、その二つの物体の進路予測は衝突した時点で終了する。これは、3次元時空間上で考えると、二つの異なる物体の軌跡は、交差した時点以後の衝突判定処理が行われないことを意味している。
【0080】
これに対して、本実施の形態1では、物体の軌跡は物体ごとに独立に生成されるため、3次元時空間上において異なる物体の軌跡が交差しても、衝突判定処理は所定時間経過するまで継続される。このように、非特許文献1で生成される時空間環境と本実施の形態1で生成される時空間環境とは全く異質なものである。また、本実施の形態1では、物体の相関を考慮することなく、物体ごとに独立な進路探索を行っているため、計算量も非特許文献1より少なくて済む。
【0081】
加えて、非特許文献1では、衝突という事象が予測できたとしても、それがいつの時点で起こるかまで把握することはできない。これは、非特許文献1が、時間の流れの中で物体が衝突する確率を求めているのではなく、各時間における状態ごとに衝突の有無を探索することを主眼としているためである。換言すれば、非特許文献1では、時空間環境といったものを明示的に用いていない上、時空間確率密度という概念には到達していない。
【0082】
このように、本実施の形態1と非特許文献1とは、ともに確率概念を用いた進路予測を行っているため、一見すると類似した技術であるかのような印象を与えかねないが、その技術的な思想の本質は全く異なっており、非特許文献1から本実施の形態1を想到することは、当業者といえども困難を極めるものである。
【0083】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2は、物体ごとの軌跡生成を行う際に、選択可能な全ての操作を動作させることによって軌跡を生成することを特徴とする。なお、本実施の形態2に係る物体進路予測装置の機能構成は、上述した実施の形態1に係る物体進路予測装置1の機能構成(図1を参照)と同じである。また、本実施の形態2に係る物体進路予測方法は、物体ごとの軌跡生成処理を除いて、上記実施の形態1に係る物体進路予測方法と同じである。
【0084】
図9は、本実施の形態2に係る物体進路予測方法における軌跡生成処理(図2のステップS2に相当)の概要を示すフローチャートである。同図に示す軌跡生成処理では、まず物体を識別するカウンタiの値を1とする初期化を行う(ステップS21)。本実施の形態2においても、軌跡生成を行うべき物体の総数をIとする。
【0085】
次に、軌跡生成部4は、センサ部3で検知した結果を記憶部7から読み出し、この読み出した検知結果を初期状態とする(ステップS22)。具体的には、時間tを0とし、初期位置(xi(0)、yi(0))および初期内部状態(vi(0)、θi(0))を、それぞれセンサ部3からの入力情報(xi0、yi0)および(vi0、θi0)とする。
【0086】
続いて、物体Oiの3次元時空間(x,y,t)における軌跡を生成する(ステップS23)。図10は、ステップS23の軌跡生成処理の詳細を示すフローチャートである。以下の説明においては、軌跡生成時間Tは、各操作を行う操作時間Δtを用いてT=KΔt(Kは自然数)と表されるものとする。
【0087】
まず、時間t=0におけるループ処理(Loop1)を開始する(ステップS231−1)。このLoop1では、t=0における操作ui(0)をΔtの間実行する。この際、操作ui(0)の具体的な内容は、上記実施の形態1と同様、物体Oiの種類に応じて決まる(車両の場合には、加速度や角速度によって指定される一方、人の場合には速度によって指定される)。操作の集合{uic}は有限個の要素から成り、選択可能な操作が連続量の場合には、適当な間隔で離散化することによって集合{uic}の要素が構成される。
【0088】
ステップS231−1のより具体的な処理を説明する。最初に、操作選択部41で一つの操作uic(0)を選択し、この選択した操作uic(0)を物体操作部42でΔtの間動作させる。この動作後、判定部43が、物体Oiの位置や内部状態が上記実施の形態1と同様の制御条件および移動条件を満たしているか否かを判定し、それらの条件を全て満たしている場合(OK)には、次の時間t=Δtにおけるループ処理(Loop2)に進む。これに対して、制御条件および移動条件のうちで一つでも満足しない条件がある場合(NG)には、ステップS233−1に進み、その直前に行った操作uic(0)をキャンセルする。なお、本実施の形態2においては、操作選択部41で全ての操作を選択するため、各操作の選択順は任意である。この点については、以後のループ処理(Loop2、Loop3、・・・、LoopK)においても同様である。
【0089】
以下、1本の軌跡が生成されるまでの処理を先に説明する。Loop2では、上述したLoop1と同様に、操作選択部41で操作を選択し、Δtの間だけ操作uic(Δt)を行う。そして、操作後の物体Oiの位置が上記同様の制御条件および移動条件を満たしていれば(OK)、時刻2Δtにおけるループ処理(Loop3)に移行する。他方、制御条件および移動条件のうち一つでも満足しない条件があれば(NG)、ステップS233−2に進み、その直前に行った操作uic(Δt)をキャンセルする。
【0090】
以後、上述したLoop1およびLoop2の各処理と同様の処理を繰り返すことによってK個のループ処理を連続して行う。すなわち、各時間3Δt、4Δt、・・・における操作を動作させた後の物体Oiが制御条件および移動条件を満たしている限り、Loop4、Loop5、・・・と順次進んでいく。そして、物体Oiが最後のLoopKに至るまで制御条件および移動条件を満たしている場合には、続くステップS232に進む。ステップS232では、t=0からt=T(=KΔt)に至る1本の軌跡が出力され、記憶部7に記憶、格納される。この軌跡は、図4に示す軌跡Pi(m)と同様に3次元時空間を通過する。
【0091】
ステップS232に続くステップS233−Kでは、最も遅い時間に動作させた操作
uic(T−Δt)=uic((K−1)Δt)をキャンセルし、LoopKを継続する場合(LoopK継続)には、再びステップS231−Kに戻る。他方、LoopKを終了する場合(LoopK終了)には、続くステップS233−(K−1)に進む。
【0092】
ステップS233−(K−1)では、Loop(K−1)で実行した操作uic(T−2Δt)をキャンセルし、Loop(K−1)を継続する場合(Loop(K−1)継続)、すなわち操作uic(T−2Δt)として実行すべき要素が残っている場合には、ステップS231−(K−1)に戻って処理を繰り返す。他方、Loop(K−1)を終了する場合(Loop(K−1)終了)、すなわち操作uic(T−2Δt)として実行すべき要素が残っていない場合には、続くステップS233−(K−2)に進む。
【0093】
以後、Loop(K−2)、・・・,Loop2、Loop1の順で上述したLoopKやLoop(K−1)における処理と同様の処理を繰り返し行う。この結果、最後にステップS233−1でLoop1を終了してステップS24の処理へ進む際には、物体Oiがとり得る全ての可能な軌跡が生成される。すなわち、図5に示すのと同様の軌跡集合{Pi(n)}が生成される。
【0094】
次に、ステップS231−1で制御条件および移動条件のいずれか一つが満たされない場合(NG)について説明する。この場合には、ステップS233−1に進み、その直前に行った操作uic(0)をキャンセルする。この後、Loop1を継続する場合にはステップS231−1に戻り、Loop1を終了する場合には、続くステップS24に進む。
【0095】
ステップS231−2、231−3、・・・、S231−Kで選択された操作を動作させた後、物体Oiが制御条件および移動条件のいずれかを満足しない場合にも、上述したステップS231−1の処理と同様の処理を行う。すなわち、一般にステップS231−k(k=2,3,・・・,K)で物体Oiが制御条件および移動条件のいずれかを満足しない場合には、ステップS233−kに進み、その直前に行った操作をキャンセルすればよい。このことによってある時間tiで条件を満足しない場合にはti以降の軌跡生成処理を省くことができ、計算量の削減を実現することができる。
【0096】
以上説明した軌跡生成処理のアルゴリズムは、縦型探索に基づいた再帰呼出を用いることによって全ての可能な操作を探索する際のアルゴリズムに等しい。したがってこの場合には、一つの物体Oiに対して最終的に生成される軌跡集合{Pi(n)}の要素数すなわち軌跡の本数は、その物体Oiに対する軌跡生成処理が終了するまで分からない。なお、上述した軌跡生成処理を行う代わりとして、横型探索を用いることによって全ての可能な操作を探索してもよい。このように、実行可能な操作を全探索することによって各物体が取りうる軌跡を生成する場合には、操作時間Δtにおける操作uic(t)の要素の数(操作uic(t)が連続量の場合には離散化の度合い)に応じて最適な計算量を有する探索方法を選択すればよい。
【0097】
以上説明したステップS23の軌跡生成処理の後、物体識別用のカウンタiがIに達していなければ(ステップS24でNo)、そのカウンタの値を1増やし(ステップS25)、ステップS22に戻ってセンサ部3の検知結果に基づく初期化を行い、上述した軌跡生成処理(ステップS23)を別の物体Oi+1に対して行う。他方、物体識別用のカウンタiがIに達した場合(ステップS24でYes)、所定の範囲に存在する全ての物体に対する軌跡生成処理が終了したことになるので、軌跡生成処理(図2のステップS2に相当)を終了する。この結果、図5に示すのと同様の時空間環境Env(P)が形成され、記憶部7において記憶、格納される。
【0098】
この後の処理、すなわち予測部5における物体の進路の確率的な予測(図2のステップS3に相当)および出力部6における予測結果の出力(図2のステップS4に相当)は、上記実施の形態1と同様である。
【0099】
以上説明した本発明の実施の形態2によれば、物体の位置および当該物体の速度を含む内部状態を記憶する記憶手段を備えたコンピュータが、前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成し、この生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行うことにより、上記実施の形態1と同様、現実として起こりうる状況下においても安全性の確保を図ることが可能となる。
【0100】
また、本実施の形態2によれば、時間と空間から構成される時空間上に形成された時空間環境を用いて物体の進路予測を行うことにより、静的物体だけでなく動的物体の進路予測も精度よく行うことができる。
【0101】
ところで、本発明の実施の形態2では、再帰呼出を用いた物体の時空間上での軌跡生成処理を行ったが、上述した実施の形態1における軌跡生成処理と比較した場合、どちらの計算量が少なくて済むかは一概にはいえない。換言すれば、如何なるアルゴリズムを用いることによって物体の時空間上の軌跡を生成するかは、操作時間Δt、軌跡生成時間T、操作集合の要素数等を含むさまざまな条件に応じて応じて変化する。このため、予測を行う条件に応じて、最も効率がよいアルゴリズムを採用すればよい。
【0102】
(その他の実施の形態)
ここまで、本発明を実施するための最良の形態として、実施の形態1および2を詳述してきたが、本発明はそれら二つの実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、本発明において、軌跡生成部の操作選択部では、自車に関してのみ現時点での操作を維持するものとしてもよい。この場合、自車では予測時点での内部状態が維持され、唯一つの操作が行われ続けることになるため、その操作を選択する操作選択確率は1であり、自車の軌跡集合として、時空間上には1本の軌跡のみが生成される。
【0103】
図11は、上記の如く自車の操作を維持した場合に生成された時空間環境を示すものであり、図6に対応する図である。図11に示す時空間環境Env'(P)おいては、3次元時空間における物体O1(自車)の軌跡集合は、直線状の1本の軌跡P1のみによって構成されている(物体O2に関しては図6と同様)。このように、自車の操作を維持するモデルを適用すれば、周囲の物体が多い場合などにおいて状況を単純化して予測を行うことが可能となり、軌跡生成部および予測部における計算量を少なくすることができる。なお、自車に対する操作選択確率は、入力部からの入力によって適宜設定できるようにしてもよい。
【0104】
また、本発明に係る物体進路予測方法においては、センサ部で検知した実在の物体に加えて、架空の物体を配置し、この配置した架空の物体の進路予測を行ってもよい。より具体的には、自車にとって好ましくない挙動を示すような架空の物体モデルを構成し、この物体モデルを所定の位置に配置して進路予測を行ってもよい。このような架空の物体モデルは、例えば遮蔽物等が存在して見通しが悪い交差点付近を走行する車両(自車)が進路予測を行う場合、その自車から検知できない位置に配置することによって、交差点から飛び出してくる可能性のある物体との衝突等の危険を予測することが可能となる。なお、架空の物体モデルの情報は予め記憶部で記憶しておき、入力部からの条件設定に応じてかかる物体モデルを所望の位置に配置するようにしてもよい。
【0105】
ところで、本発明に係る物体進路予測装置を、車両のみの走行が前提となる高速道路などの領域で適用する場合には、各車両に車車間通信用の通信手段をあわせて具備させることにより、互いに近くを走行している車両同士が、互いの走行状況を車車間通信によって交換し合うようにしてもよい。この場合には、各車両が操作履歴を各自の記憶部で記憶しておき、その操作履歴に基づいて操作ごとの操作選択確率を付与し、この操作選択確率に関する情報もあわせて他の車両に送信するようにしてもよい。これにより、進路予測の精度が高くなり、走行中の危険を一段と確実に回避することが可能となる。
【0106】
加えて、本発明に対してGPS(Global Positioning System)を位置検出手段として援用することも可能である。この場合には、GPSが記憶する3次元地図情報を参照することによってセンサ部で検知した物体の位置情報や移動情報の補正を行うことができる。さらには、GPSの出力を相互に通信することによってセンサ部として機能させることも可能である。いずれの場合にも、GPSを援用することによって高精度の進路予測を実現することができ、予測結果の信頼性をさらに向上させることができる。
【0107】
以上の説明からも明らかなように、本発明は、ここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施の形態1に係る物体進路予測装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る物体進路予測方法の概要を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態1に係る物体進路予測方法における軌跡生成処理の概要を示すフローチャートである。
【図4】3次元時空間に生成された軌跡を示す模式的に示す図である。
【図5】一つの物体に対して3次元時空間に生成された軌跡集合を模式的に示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る物体進路予測方法によって形成された時空間環境の構成を模式的に示す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る物体進路予測装置における予測結果の表示出力例を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係る物体進路予測装置における予測結果の表示出力例(第2例)を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係る物体進路予測方法の処理の概要を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態2に係る物体進路予測方法における軌跡生成処理の概要を示すフローチャートである。
【図11】自車の操作を維持するモデルを採用した場合に形成された時空間環境の構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0109】
1 物体進路予測装置
2 入力部
3 センサ部
4 軌跡生成部(軌跡生成手段)
5 予測部(予測手段)
6 出力部(出力手段)
7 記憶部(記憶手段)
41 操作選択部(操作選択手段)
42 物体操作部(物体操作手段)
43 判定部(判定手段)
51 予測演算部
52 画像生成部
61 表示部
CN 表示画面
Da、Db 領域
Env(P)、Env'(P) 時空間環境
F フロントガラス
O1、O2、Oi 物体
R 道路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の位置と当該物体の速度を含む内部状態とを少なくとも記憶する記憶手段を備えたコンピュータが、前記物体の進路を予測する物体進路予測方法であって、
前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成する軌跡生成ステップと、
前記軌跡生成ステップで生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行う予測ステップと、
を有することを特徴とする物体進路予測方法。
【請求項2】
前記軌跡生成ステップは、
前記物体に対する操作を複数の操作から選択する操作選択ステップと、
前記操作選択ステップで選択した操作を所定時間動作させる物体操作ステップと、
前記物体操作ステップで前記選択した操作を動作させた後の前記物体の位置および内部状態が当該物体の制御に関する制御条件および当該物体の移動可能領域に関する移動条件を満たしているか否かを判定する判定ステップと、
を含み、
前記操作選択ステップから前記判定ステップに至る一連の処理を、軌跡を生成する軌跡生成時間に達するまで繰り返し行うことを特徴とする請求項1記載の物体進路予測方法。
【請求項3】
前記操作選択ステップは、前記複数の操作の各々に付与された操作選択確率にしたがって操作を選択し、
前記判定ステップで判定した結果、前記物体の位置および内部状態が前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて前記操作選択ステップに戻ることを特徴とする請求項2記載の物体進路予測方法。
【請求項4】
前記操作選択確率は、乱数を用いて定義されることを特徴とする請求項3記載の物体進路予測方法。
【請求項5】
前記軌跡生成ステップで生成すべき軌跡の数が予め定められていることを特徴とする請求項3または4記載の物体進路予測方法。
【請求項6】
前記判定ステップで判定した結果、前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて再帰呼出を行うことにより、選択可能な全ての操作を動作させることを特徴とする請求項2記載の物体進路予測方法。
【請求項7】
前記記憶手段は、複数の物体の位置および内部状態を記憶し、
前記軌跡生成ステップは、前記複数の物体の前記時空間における軌跡をそれぞれ生成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の物体進路予測方法。
【請求項8】
前記予測ステップは、前記複数の物体の中から一つの物体を特定し、この特定した物体以外の物体の前記時空間における存在確率を算出することを特徴とする請求項7記載の物体進路予測方法。
【請求項9】
前記予測ステップにおける予測結果を含む情報を出力する出力ステップをさらに有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の物体進路予測方法。
【請求項10】
物体の位置と当該物体の速度を含む内部状態とを少なくとも記憶する記憶手段と、
前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成する軌跡生成手段と、
前記軌跡生成手段で生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行う予測手段と、
を備えたことを特徴とする物体進路予測装置。
【請求項11】
前記軌跡生成手段は、
前記物体に対する操作を複数の操作から選択する操作選択手段と、
前記操作選択手段で選択した操作を所定時間動作させる物体操作手段と、
前記物体操作手段で前記選択した操作を動作させた後の前記物体の位置および内部状態が当該物体の制御に関する制御条件および当該物体の移動可能領域に関する移動条件を満たしているか否かを判定する判定手段と、
を含み、
前記操作選択手段による操作選択処理から前記判定手段による判定処理に至る一連の処理を、軌跡を生成する軌跡生成時間に達するまで繰り返し行うことを特徴とする請求項10記載の物体進路予測装置。
【請求項12】
前記操作選択手段は、前記複数の操作の各々に付与された操作選択確率にしたがって操作を選択し、
前記判定手段で判定した結果、前記物体の位置および内部状態が前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて前記操作選択手段による操作選択処理に戻ることを特徴とする請求項11記載の物体進路予測装置。
【請求項13】
前記操作選択確率は、乱数を用いて定義されることを特徴とする請求項12記載の物体進路予測装置。
【請求項14】
前記軌跡生成手段で生成すべき軌跡の数が予め定められていることを特徴とする請求項12または13記載の物体進路予測装置。
【請求項15】
前記判定手段で判定した結果、前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて再帰呼出を行うことにより、選択可能な全ての操作を動作させることを特徴とする請求項11記載の物体進路予測装置。
【請求項16】
前記記憶手段は、複数の物体の位置および内部状態を記憶し、
前記軌跡生成手段は、前記複数の物体の前記時空間における軌跡をそれぞれ生成することを特徴とする請求項10〜15のいずれか一項記載の物体進路予測装置。
【請求項17】
前記予測手段は、前記複数の物体の中から一つの物体を特定し、この特定した物体以外の物体の前記時空間における存在確率を算出することを特徴とする請求項16記載の物体進路予測装置。
【請求項18】
前記予測手段による予測結果を含む情報を出力する出力手段をさらに備えたことを特徴とする請求項10〜17のいずれか一項記載の物体進路予測装置。
【請求項19】
請求項1〜9のいずれか一項記載の物体進路予測方法を前記コンピュータに実行させることを特徴とする物体進路予測プログラム。
【請求項1】
物体の位置と当該物体の速度を含む内部状態とを少なくとも記憶する記憶手段を備えたコンピュータが、前記物体の進路を予測する物体進路予測方法であって、
前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成する軌跡生成ステップと、
前記軌跡生成ステップで生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行う予測ステップと、
を有することを特徴とする物体進路予測方法。
【請求項2】
前記軌跡生成ステップは、
前記物体に対する操作を複数の操作から選択する操作選択ステップと、
前記操作選択ステップで選択した操作を所定時間動作させる物体操作ステップと、
前記物体操作ステップで前記選択した操作を動作させた後の前記物体の位置および内部状態が当該物体の制御に関する制御条件および当該物体の移動可能領域に関する移動条件を満たしているか否かを判定する判定ステップと、
を含み、
前記操作選択ステップから前記判定ステップに至る一連の処理を、軌跡を生成する軌跡生成時間に達するまで繰り返し行うことを特徴とする請求項1記載の物体進路予測方法。
【請求項3】
前記操作選択ステップは、前記複数の操作の各々に付与された操作選択確率にしたがって操作を選択し、
前記判定ステップで判定した結果、前記物体の位置および内部状態が前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて前記操作選択ステップに戻ることを特徴とする請求項2記載の物体進路予測方法。
【請求項4】
前記操作選択確率は、乱数を用いて定義されることを特徴とする請求項3記載の物体進路予測方法。
【請求項5】
前記軌跡生成ステップで生成すべき軌跡の数が予め定められていることを特徴とする請求項3または4記載の物体進路予測方法。
【請求項6】
前記判定ステップで判定した結果、前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて再帰呼出を行うことにより、選択可能な全ての操作を動作させることを特徴とする請求項2記載の物体進路予測方法。
【請求項7】
前記記憶手段は、複数の物体の位置および内部状態を記憶し、
前記軌跡生成ステップは、前記複数の物体の前記時空間における軌跡をそれぞれ生成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の物体進路予測方法。
【請求項8】
前記予測ステップは、前記複数の物体の中から一つの物体を特定し、この特定した物体以外の物体の前記時空間における存在確率を算出することを特徴とする請求項7記載の物体進路予測方法。
【請求項9】
前記予測ステップにおける予測結果を含む情報を出力する出力ステップをさらに有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の物体進路予測方法。
【請求項10】
物体の位置と当該物体の速度を含む内部状態とを少なくとも記憶する記憶手段と、
前記物体の位置および内部状態を前記記憶手段から読み出し、この読み出した前記物体の位置および内部状態に基づいて、前記物体が時間の経過とともに取りうる位置の変化を時間および空間から構成される時空間上での軌跡として生成する軌跡生成手段と、
前記軌跡生成手段で生成した軌跡を用いることによって前記物体の進路の確率的な予測を行う予測手段と、
を備えたことを特徴とする物体進路予測装置。
【請求項11】
前記軌跡生成手段は、
前記物体に対する操作を複数の操作から選択する操作選択手段と、
前記操作選択手段で選択した操作を所定時間動作させる物体操作手段と、
前記物体操作手段で前記選択した操作を動作させた後の前記物体の位置および内部状態が当該物体の制御に関する制御条件および当該物体の移動可能領域に関する移動条件を満たしているか否かを判定する判定手段と、
を含み、
前記操作選択手段による操作選択処理から前記判定手段による判定処理に至る一連の処理を、軌跡を生成する軌跡生成時間に達するまで繰り返し行うことを特徴とする請求項10記載の物体進路予測装置。
【請求項12】
前記操作選択手段は、前記複数の操作の各々に付与された操作選択確率にしたがって操作を選択し、
前記判定手段で判定した結果、前記物体の位置および内部状態が前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて前記操作選択手段による操作選択処理に戻ることを特徴とする請求項11記載の物体進路予測装置。
【請求項13】
前記操作選択確率は、乱数を用いて定義されることを特徴とする請求項12記載の物体進路予測装置。
【請求項14】
前記軌跡生成手段で生成すべき軌跡の数が予め定められていることを特徴とする請求項12または13記載の物体進路予測装置。
【請求項15】
前記判定手段で判定した結果、前記制御条件および前記移動条件を満たしている場合には、時間を進めて再帰呼出を行うことにより、選択可能な全ての操作を動作させることを特徴とする請求項11記載の物体進路予測装置。
【請求項16】
前記記憶手段は、複数の物体の位置および内部状態を記憶し、
前記軌跡生成手段は、前記複数の物体の前記時空間における軌跡をそれぞれ生成することを特徴とする請求項10〜15のいずれか一項記載の物体進路予測装置。
【請求項17】
前記予測手段は、前記複数の物体の中から一つの物体を特定し、この特定した物体以外の物体の前記時空間における存在確率を算出することを特徴とする請求項16記載の物体進路予測装置。
【請求項18】
前記予測手段による予測結果を含む情報を出力する出力手段をさらに備えたことを特徴とする請求項10〜17のいずれか一項記載の物体進路予測装置。
【請求項19】
請求項1〜9のいずれか一項記載の物体進路予測方法を前記コンピュータに実行させることを特徴とする物体進路予測プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−233646(P2007−233646A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53879(P2006−53879)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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