説明

物理量センサー、電子機器

【課題】直線加速度の影響及び検出軸以外の他軸の角速度の影響の少なくとも一方を受けることがない物理量センサーを提供する。
【解決手段】物理量センサー10は、基板と、基板上の空間平面に配置され、回転軸22,32を有した第1変位部及び第2変位部21,31と、基板の第1変位部及び第2変位部21,31の各々に対向する位置に設けられた固定電極部と、第1変位部及び第2変位部の各々の回転軸を支持する支持部40と、バネ部60を介して支持部40を支持する固定部50と、支持部40を振動方向に振動させる駆動部70と、を備え、第1変位部及び第2変位部は、回転軸を軸として空間平面に対して垂直方向に変位可能であり、回転軸の各々は、第1変位部又は第2変位部の重心からずれて設けられ、第1変位部21の回転軸22と第2変位部31の回転軸32とは、重心からのずれの方向が互いに反対である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量センサー、及びそれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーナビゲーションシステムや、ビデオカメラの手振れ補正などの姿勢制御に、角速度を検出する角速度センサーが多く用いられている。このような角速度センサーには、素子が形成された面内の軸まわりの角速度を検出する方式のものがある。
【0003】
特許文献1に開示の角速度センサーは、XY平面に円環状の駆動質量と、その中心に配置されたアンカーと、アンカーが固定された基板と、前記駆動質量のX軸方向に対向配置された一対の第1質量部と、前記駆動質量のY軸方向に対向配置された一対の第2質量部と、前記基板上で前記第1の質量部及び第2の質量部と対向して配置された検出電極と、から構成されている。
【0004】
このような構成により、駆動質量を、XY平面に垂直なZ軸方向のアンカー軸まわりに交互に繰り返す回動駆動させて、X軸まわり又はY軸まわりの角速度が加わったときに、コリオリ力が作用して、シーソー状の第1の質量部又は第2の質量部が回転することによる角速度を検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0100930号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の角速度センサーによれば、回動駆動によって遠心力が発生し、特に回転方向が変わる際に、シーソー状の検出電極が振動してしまうという問題がある。検出電極が振動すると出力が発生するため、角速度が加わっていない場合にも出力が生じてしまうという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、駆動によって検出電極が振動することがなく、例えばセンサーを角速度センサーとして用いたときに、出力値としての角速度以外の物理量である直線加速度の影響及び検出軸以外の他軸の角速度の影響の少なくとも一方を受けることがない物理量センサー、電子機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]基板と、前記基板上の空間平面に配置され、回転軸を有した第1変位部及び第2変位部と、前記基板の前記第1変位部及び第2変位部の各々に対向する位置に設けられた固定電極部と、前記第1変位部及び第2変位部の各々の前記回転軸を支持する支持部と、バネ部を介して前記支持部を支持する固定部と、前記支持部を振動方向に振動させる駆動部と、を備え、前記第1変位部及び第2変位部は、前記回転軸を軸として前記空間平面に対して垂直方向に変位可能であり、前記回転軸の各々は、前記第1変位部又は第2変位部の重心からずれて設けられ、前記第1変位部の前記回転軸と前記第2変位部の前記回転軸とは、前記重心からのずれの方向が互いに反対であることを特徴とする物理量センサー。
上記構成によれば、例えば、物理量センサーを角速度センサーとして用いた場合に、検出軸まわりの角速度のみを検出して、ノイズとなる検出軸以外の他軸の角速度が検出されない。従って物理量検出を高精度に行うことができる。
【0010】
[適用例2]前記回転軸の各々は、前記支持部の前記振動方向に平行に配置されたことを特徴とする適用例1に記載の物理量センサー。
上記構成によれば、例えば、物理量センサーを角速度センサーとして用いた場合に、検出軸回りに角速度が発生したときに各変位部を基板上の空間平面に対し垂直方向に変位し易くなり、物理量検出を高精度に行うことができる。
【0011】
[適用例3]前記第1及び第2変位部は、互いに対称となるように配置されたことを特徴とする適用例1又は適用例2に記載の物理量センサー。
上記構成によれば、各変位部の静電容量の絶対値が同じになり、差動検出により変位を検出することができる。
【0012】
[適用例4]基板と、前記基板上の空間平面に配置された第1振動体及び第2振動体と、を有し、前記第1振動体は、回転軸を有した第1変位部及び第2変位部と、前記第1変位部及び前記第2変位部の前記回転軸の各々を支持する第1支持部と、を備え、前記第2振動体は、回転軸を有した第3変位部及び第4変位部と、前記第3変位部及び前記第4変位部の前記回転軸の各々を支持する第2支持部と、を備え、前記基板の前記第1〜第4変位部の各々に対向する位置に設けられた固定電極部と、バネ部を介して前記第1支持部及び第2支持部の各々を支持する固定部と、前記第1支持部及び第2支持部の各々を振動させる駆動部と、を備え、前記第1振動体及び前記第2振動体は、互いに反対方向に振動し、前記第1〜第4変位部は、前記回転軸を軸として前記空間平面に対し垂直方向に変位可能であり、前記回転軸の各々は、前記第1〜第4変位部の各々の重心からずれて設けられ、前記第1変位部の前記回転軸と前記第2変位部の前記回転軸とは、前記重心からのずれの方向が互いに反対であり、且つ、前記第3変位部の前記回転軸と前記第4変位部の前記回転軸とは、前記重心からのずれの方向が互いに反対であることを特徴とする物理量センサー。
上記構成によれば、例えば、物理量センサーを角速度センサーとして用いた場合に、検出軸まわりの角速度のみを検出して、ノイズとなる検出軸以外の他軸の角速度及び直線加速度が検出されない。従って適用例1と比較して物理量検出を高精度に行うことができる。
【0013】
[適用例5]前記第1振動体及び第2振動体は、連結バネで互いに接続されていることを特徴とする適用例4に記載の物理量センサー。
上記構成によれば、第1振動体と第2振動体の振動効率を高めることができる。
【0014】
[適用例6]前記第1変位部とこれに対向する前記固定電極部との間の静電容量をC1とし、前記第2変位部とこれに対向する前記固定電極部との間の静電容量をC2とし、前記第3変位部とこれに対向する前記固定電極部との間の静電容量をC3とし、前記第4変位部とこれに対向する前記固定電極部との間の静電容量をC4としたときに、前記物理量センサーの出力値を(C1+C2)−(C3+C4)とすることを特徴とする適用例4又は適用例5に記載の物理量センサー。
上記構成によれば、差動容量出力を検出して、角速度を高精度に検出することができる。
【0015】
[適用例7]前記振動方向に対し平面視で直交する方向の軸回りに発生する角速度を検出することを特徴とする適用例1ないし適用例6のいずれか1例に記載の物理量センサー。
上記構成によれば、検出軸まわりの角速度のみを検出して、検出軸以外の他軸の角速度が検出されない。従って角速度を高精度で検出できる物理量センサーが得られる。
【0016】
[適用例8]適用例1ないし適用例7のいずれか1例に記載の物理量センサーを備えたことを特徴とする電子機器。
上記構成によれば、物理量を高精度で検出することができる物理量センサーを備えた電子機器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の物理量センサーの第1実施形態を示す構成概略図である。
【図2】図1におけるA−A断面拡大図である。
【図3】本発明の物理量センサーの第2実施形態を示す構成概略図である。
【図4】物理量センサーの作用の説明図である。
【図5】本発明の物理量センサーの第3実施形態を示す構成概略図である。
【図6】本発明の物理量センサーの第4実施形態を示す構成概略図である。
【図7】本発明の物理量センサーの第5実施形態を示す構成概略図である。
【図8】本発明の物理量センサーを備える電子機器を適用した携帯電話機の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の物理量センサー、電子機器の実施形態を添付の図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
図1は本発明の物理量センサーの第1実施形態を示す構成概略図である。図2は図1におけるA−A断面拡大図である。なお各図では、説明の便宜上、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、Z軸を図示している。また以下では、X軸(第1軸)に平行な方向をX軸方向、Y軸(第2軸)に平行な方向をY軸方向、Z軸(第3軸)に平行な方向をZ軸方向という。
【0019】
本発明の物理量センサー10は、振動系構造体12上に、第1及び第2変位部20,30と、回転軸22,32と、支持部40と、固定部50と、支持部40と固定部50を接続するバネ部60と、駆動部70と、を主な基本構成として形成されている。なお本実施形態の物理量センサー10は、X軸、Y軸又はZ軸のいずれか1軸まわりの角速度を検出可能なセンサーであり、以下、一例として、X軸方向に沿って振動可能とし、Y軸まわりに作用する回転を検出可能な角速度センサーの構成について説明する。
【0020】
振動系構造体12は、シリコンを主材料として構成されていて、シリコン基板(シリコンウエハ)上に薄膜形成技術(例えば、エピタキシャル成長技術、化学気相成長技術等の堆積技術)や各種加工技術(例えばドライエッチング、ウェットエッチング等のエッチング技術)を用いて所望の外形形状に加工することにより、前述した各部が一体的に形成されている。或いは、シリコン基板とガラス基板を張り合わせた後に、シリコン基板のみを所望の外形形状に加工することで、前述の各部を形成することもできる。振動系構造体12の主材料をシリコンとすることにより、優れた振動特性を実現できるとともに、優れた耐久性を発揮することができる。またシリコン半導体デバイス作製に用いられる微細な加工技術の適用が可能となり、物理量センサー10の小型化を図ることができる。
【0021】
第1及び第2変位部20,30は、Z軸を法線とするXY平面視において、矩形の板状に形成され、XY平面の空間平面をZ軸方向に変位する変位板21,31を備えている。変位板21,31は、回転軸22,32で支持部40に連結されている。回転軸22,32は、図2に示すように各変位板21,31の重心からずれた位置に形成している。回転軸22,32は共に、振動方向であるX軸方向に延在して設けられている。回転軸22,32は、外力が加わったときにその軸まわりにねじり変形させ変位板21,31をZ方向に回転させる。
【0022】
このような構成により、第1及び第2変位部20,30は、回転軸22,32に対し重力(Z軸方向の外力)による回転方向が互いに逆方向に回転するように取り付けている。換言すると、回転軸22の変位板21の重心からのずれの方向と、回転軸32の変位板31の重心からのずれの方向とは、互いに反対方向であるとも言える。
【0023】
支持部40は、第1及び第2変位部20,30を支持するフレームである。第1実施形態の支持部40は、第1及び第2変位部20,30の外周を囲む開口42を備え、変位板21,31の揺動側(自由端側)が互いに内側を向くように回転軸22,32を介して支持している。なお、支持部40の形状はフレーム形状に限定されずに、他の形状でも適用可能である。
【0024】
固定部50は、支持部40の外側に複数設けられている。本実施形態ではZ軸を法線とする平面視にて、矩形状に配置した固定部50a,50b,50c,50dで囲まれる領域の中に支持部40を設けている。
【0025】
バネ部60は、支持部40と固定部50とを連結している。第1実施形態のバネ部60は、第1及び第2バネ部62,64から構成されている。第1バネ部62は、一対のバネ部62a,62bから構成されており、各バネ部62a,62bはY軸方向に往復しながらX軸方向に延在する形状をなしている。またバネ部62a,62bは、Z軸を法線とする平面視にて、支持部40の中心と交わるY軸に対して対称的に設けられている。各バネ部62a,62bをこのような形状とすることにより、第1バネ部62をY軸方向及びZ軸方向への変形を抑制しつつ、振動方向であるX軸方向にスムーズに伸縮させることができる。また、第2バネ部64の構成は、支持部40の中心と交わるX軸に対して、第1バネ部62と対称的に設けられ、一対のバネ部64a,64bから構成されている。各バネ部64a,64bをこのような形状とすることにより、第2バネ部64をY軸方向及びZ軸方向への変形を抑制しつつ、振動方向であるX軸方向にスムーズに伸縮させることができる。
【0026】
駆動部70は、支持部40をX軸方向に所定の周波数で振動させる機能を備えている。すなわち駆動部70は、支持部40を+X軸方向に変位させる状態と、−X軸方向に変位させる状態とを繰り返すように振動させている。駆動部70a,70bは、図示しない駆動電極と固定電極から構成され、第1及び第2変位部20,30のそれぞれに形成しているが、支持部40をX方向に振動させることができる構成であれば、いずれか一方の変位部だけでも良い。固定電極は駆動電極を介してX軸方向に対向配置された櫛歯状の一対の電極片を有している。このような構成の駆動部70は、図示しない電源によって、電極片に電圧を印加することにより、各駆動電極と各電極片との間に静電力を発生させ、バネ部60を伸縮させつつ、支持部40を所定の周波数でX軸方向に振動させている。なお駆動部70は、静電駆動方式、圧電駆動方式、又は磁場のローレンツ力を利用した電磁駆動方式等を適用することができる。
【0027】
図2に示す基板74は、振動系構造体12を支持するものである。基板74は、シリコンを主材料として構成されているが、シリコンに限定されず、例えば、水晶や、各種ガラスであってもよい。基板74は板状であって、上面に固定部50を接合させている。これにより振動系構造体12を基板74上に固定・支持させることができる。なお基板74と振動系構造体12の隙間は、外力によって変位する第1及び第2変位部20,30が接触することがない距離に設定している。基板74と振動系構造体12の接合方法は、特に限定されず、直接接合や、陽極接合等の各種接合方法を用いて接合することができる。なお、固定部50は、基板74上に限定されず、基板74以外の部材(例えば、パッケージなど)に設けても良い。また基板74の上面であって、第1及び第2変位部20,30と対向する箇所には、下部電極(固定電極部)76を設けている。第1及び第2変位部20,30と、基板74に固定された第1及び第2変位部20,30とZ軸方向に離間して対向配置された下部電極76により、トランスデューサーが形成される。
【0028】
図3は本発明の物理量センサーの第2実施形態を示す構成概略図である。図示のように第2実施形態の物理量センサー100は、振動系構造体120上に2つの振動体と、各振動体に設けられた4つの変位部を備えている。具体的に物理量センサー100は、センサーの振動方向に沿って第1及び第2変位部20,30を有する第1振動体14と、第3及び第4変位部80,90を有する第2振動体16から構成されている。なお、振動系構造体120は、シリコンを主材料として構成されていて、シリコン基板(シリコンウエハ)上に薄膜形成技術や各種加工技術を用いて所望の外形形状に加工することにより、各部が一体的に形成されている。第1及び第2変位部20,30の構成は、第1実施形態の構成と同様であり、その詳細な説明を省略する。また第3及び第4変位部80,90の基本構成は、第1及び第2変位部20,30と同様である。但し、第1及び第2の変位部20,30と第3及び第4変位部80,90の間には、第3バネ部(連結バネ)66を形成している。第3バネ部66は、一対のバネ部66a,66bから構成されており、各バネ部66a,66bはY軸方向に往復しながらX軸方向に延在する形状をなしている。またバネ部66a,66bは、Z軸を法線とするXY平面視にて、第1支持部44と第2支持部46の中心と交わるX軸に対して対称的に設けられている。各バネ部66a,66bをこのような形状とすることにより、第1バネ部62をY軸方向及びZ軸方向への変形を抑制しつつ、X軸方向にスムーズに伸縮させることができる。
【0029】
また第2実施形態の物理量センサー100の駆動部72は、第1実施形態の駆動部70と基本構成は同じである。しかし、第1及び第2変位部20,30の駆動部72a,72bと、第3及び第4変位部80,90の駆動部72c,72dに対して、位相が180度ずれた交番電圧を印加することにより、各駆動電極と各電極片との間にそれぞれ静電力を発生させ、第1〜第3バネ部62,64,66をX軸方向に伸縮させつつ、第1及び第2変位部20,30と、第3及び第4変位部80,90が互いに逆位相でかつ所定の周波数でX軸方向に振動させている。なお、駆動部72a,72bは、どちらか一方のみ形成されていれば良い。駆動部72c,72dについても同様である。
【0030】
なお、第2実施形態の物理量センサー100は、第1〜第4変位部20,30,80,90のそれぞれに対向する下部電極76との間に発生する静電容量をそれぞれC1〜C4とした場合、その出力を、(C1+C2)−(C3+C4)となるように設定している。
【0031】
次に上記構成による本発明の物理量センサー10,100の作用について以下説明する。図4は物理量センサーの作用の説明図である。なお、図4では変位板に加わる力の状態によりA〜Gに場合分けして表記している。
【0032】
まず、物理量センサーに対する入力がゼロの場合(状態A)、第1〜第4変位部20,30,80,90の回転軸22,32,82,92の延びる方向と、振動方向が同じため、変位板の自重による傾き以外に第1〜第4変位部20,30,80,90は変動しない。従ってトランスデューサーの容量変化は起こらないため出力はゼロとなる。
【0033】
次に物理量センサーに対するX軸まわりの角速度が入力された場合(状態B)、第1〜第4変位部20,30,80,90の回転軸22,32,82,92の軸方向は、振動方向と同じ方向に形成されているため、コリオリ力は発生しない。従って、トランスデューサーの容量変化は起こらないため出力はゼロとなる。
【0034】
次に物理量センサーに対するY軸まわりの角速度が入力された場合(状態C)について説明する。ここで第1振動体14の第1及び第2変位部20,30が−X軸方向へ振動し、第2の振動体16の第3及び第4変位部80,90が+X軸方向へ振動し、Y軸まわりに角速度が入力されたと仮定する。一般にコリオリ力Fcoriは、
【数1】

であらわすことができる。ここでm:質量、v:速度、Ω:角速度をそれぞれ示している。
【0035】
第1及び第2変位部20,30では、−X軸方向へ振動させつつ、Y軸まわりの角速度Ωyが加わると、−Z軸方向のコリオリ力が作用して、変位板21,31が−Z軸方向に回転し、これにより、変位板21,31と下部電極76の間の静電容量C1,C2が変化する。また第3及び第4変位部80,90では、+X軸方向へ振動させつつ、Y軸まわりの角速度Ωyが加わると、+Z軸方向のコリオリ力が作用して、変位板21,31が+Z軸方向に回転し、これにより変位板81,91と下部電極76の間の静電容量C3,C4が変化する。このように第1及び第2変位部20,30と第3及び第4変位部80,90では、コリオリ力の向きが逆方向となり、第1〜第4変位部20,30,80,90の静電容量C1〜C4の出力は、(C1+C2)−(C3+C4)により、Y軸まわりの角速度に応じた容量変化を検出することができる。
【0036】
次に物理量センサーに対するZ軸まわりの角速度が入力された場合(状態D)について説明する。ここで第1振動体14の第1及び第2変位部20,30が−X軸方向へ振動し、第2振動体16の第3及び第4変位部80,90が+X軸方向へ振動し、Z軸まわりに角速度が入力されたと仮定する。
【0037】
第1及び第2変位部20,30では、−X軸方向へ振動させつつ、Z軸まわりの角速度Ωzが加わると、+Y軸方向のコリオリ力が作用する。このとき第1及び第2変位部20,30の回転軸22,32は、各変位板21,31の重心からずれた位置に形成し、重心からのずれの方向が互いに反対に形成している。このため、変位板21は−Z軸方向へ押下げられ、変位板31は+z軸方向へ押し上げられる。これにより、変位板21,31と下部電極76の間の静電容量C1,C2が変化する。
【0038】
第3及び第4変位部80,90では、+X軸方向へ振動させつつ、Z軸まわりの角速度Ωzが加わると、−Y軸方向のコリオリ力が作用する。このとき第3及び第4変位部80,90の回転軸82,92は、各変位板81,91の重心からずれた位置に形成し、重心からのずれの方向が互いに反対に形成している。このため、変位板81は+Z軸方向へ押し上げられ、変位板91は−Z軸方向へ押し下げられる。これにより変位板81,91と下部電極76の間の静電容量C3,C4が変化する。
【0039】
この結果、第1〜第4変位部20,30,80,90の静電容量C1〜C4の出力は、C1−C4=0及びC2−C3=0で、(C1+C2)−(C3+C4)=(C1−C4)−(C2−C3)=0となり、Z軸方向に作用するコリオリ力は検出されない。
【0040】
次に物理量センサーに対するX軸方向の加速度が入力された場合(状態E)、第1〜第4変位部20,30,80,90の回転軸22,32,82,92の軸方向は、X軸方向の加速度と同じ方向に形成されているため、変位部は変位しない。従って、トランスデューサーの容量変化は起こらないため出力はゼロとなる。
【0041】
次に物理量センサーに対する+Y軸方向の加速度が入力された場合(状態F)、第1及び第2変位部20,30では、−X軸方向へ振動させつつ、+Y軸方向の加速度が加わる。第1及び第2変位部20,30の回転軸22,32は、各変位板21,31の重心からずれた位置に形成し、重心からのずれの方向が互いに反対に形成している。このため、変位板21は+Z軸方向へ押し上げられ、変位板31は−Z軸方向へ押し下げられる。これにより、変位板21,31と下部電極76の間の静電容量C1,C2が変化する。
【0042】
また第3及び第4変位部80,90では、+X軸方向へ振動させつつ、+Y軸方向の加速度が加わる。第3及び第4変位部80,90の回転軸82,92は、各変位板81,91の重心からずれた位置に形成し、重心からのずれの方向が互いに反対に形成している。このため、変位板81は+Z軸方向へ押し上げられ、変位板91は−Z軸方向へ押し下げられる。これにより変位板81,91と下部電極76の間の静電容量C3,C4が変化する。
【0043】
この結果、第1〜第4変位部20,30,80,90の静電容量C1〜C4の出力はC1−C3=0、C2−C4=0となり、Y軸方向に作用する加速度は検出されない。なお物理量センサーに−Y軸方向の加速度が入力された場合でも、第1〜第4変位部20,30,80,90の静電容量C1〜C4の出力は、C1−C3=0及びC2−C4=0で、(C1+C2)−(C3+C4)=(C1−C3)+(C2−C4)=0となり、Y軸方向に作用する加速度は検出されない。
【0044】
最後に、物理量センサーに対する+Z軸方向の加速度が入力された場合(状態G)、第1及び第2変位部20,30では、−X軸方向へ振動させつつ、+Z軸方向の加速度が加わることにより、変位板21と変位板31が−Z軸方向に回転し、これにより変位板21,31と下部電極76の間の静電容量C1,C2が変化する。また第3及び第4変位部80,90では、+X軸方向へ振動させつつ、+Z軸方向の加速度が加わることにより、変位板81と変位板91が−Z軸方向に回転し、これにより変位板81,91と下部電極76の間の静電容量C3,C4が変化する。この結果、第1〜第4変位部20,30,80,90の静電容量C1〜C4は全て同じ値で、出力はC1+C2=C3+C4となり、+Z軸方向に作用する加速度は検出されない。なお物理量センサーに−Z軸方向の加速度が入力された場合でも、第1〜第4変位部20,30,80,90の静電容量C1〜C4は全て同じ値で、出力はC1+C2=C3+C4となり、Z軸方向に作用する加速度は検出されない。
【0045】
なお、回転軸と同じ軸方向を除く角速度及び加速度は、第2実施形態に係る物理量センサー100で適用することができるが、Z軸方向の加速度を除く場合であれば、第1実施形態に係る物理量センサーであっても適用することができる。
【0046】
このような物理量センサーによれば、検出軸まわりの角速度のみを検出して、ノイズとなる検出軸以外の他軸の角速度が検出されない。従って物理量検出を高精度に行うことができる。
【0047】
図5は本発明の物理量センサーの第3実施形態を示す構成概略図である。図示のように第3実施形態の物理量センサー100aは、第1及び第2変位部20a,30aの回転軸22a,32aが互いに近接する側であって、変位板21a,31aの揺動側(自由端側)が、外側を向くように第1支持部44に固定している。また第3及び第4変位部80a,90aの回転軸82a,92aが互いに近接する側であって、変位板81a,91aの揺動側(自由端側)が、外側を向くように第2支持部46に固定している。このとき第1〜第4変位部20a,30a,80a,90aの回転軸22a,32a,82a,92aの各々は、前記第1〜第4変位部20a,30a,80a,90aの各々の重心からずれて設けられている。また第1変位部20aの回転軸22aと第2変位部30aの回転軸32aとは、重心からのずれの方向が互いに反対となり、且つ、第3変位部80aの回転軸82aと第4変位部90aの回転軸92aとは、重心からのずれの方向が互いに反対となるように配置させている。その他の構成は第2実施形態の物理量センサー100の構成と同一であり、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0048】
このような構成の第3実施形態の物理量センサー100aによっても、物理量センサーを角速度センサーとして用いた場合に、検出軸まわりの角速度のみを検出して、ノイズとなる検出軸以外の他軸の角速度が検出されない。従って物理量検出を高精度に行うことができる。また第1及び第2変位部20a,30aの回転軸22a,32aが第1支持部44の内側に、第3及び第4変位部80a,90aの回転軸82a,92aが第2支持部46の内側にそれぞれ取り付けられた構成となり、変位板同士が接触して破損することのない形態とすることができる。
【0049】
図6は本発明の物理量センサーの第4実施形態を示す構成概略図である。図示のように第4実施形態の物理量センサー100bは、第1〜第4変位部20b,30b,80b,90bを、Z軸を法線とするXY平面視にて、X軸方向に並べて配置している。このとき、第1〜第4変位部20b,30b,80b,90bの回転軸22b,32b,82b,92bの各々は、前記第1〜第4変位部20b,30b,80b,90bの各々の重心からずれて設けられている。また第1変位部20bの回転軸22bと第2変位部30bの回転軸32bとは、重心からのずれの方向が互いに反対となり、且つ、第3変位部80bの回転軸82bと第4変位部90bの回転軸92bとは、重心からのずれの方向が互いに反対となるように配置させている。その他の構成は第2実施形態の物理量センサー100の構成と同一であり、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0050】
このような構成の第4実施形態の物理量センサー100bによっても、物理量センサーを角速度センサーとして用いた場合に、検出軸まわりの角速度のみを検出して、ノイズとなる検出軸以外の他軸の角速度が検出されない。従って物理量検出を高精度に行うことができる。
【0051】
図7は本発明の物理量センサーの第5実施形態を示す構成概略図である。図示のように第5実施形態の物理量センサー100cは、Z軸を法線とするXY平面視にて、第1及び第2支持部44a,46aを略H型形状に形成し、±Y軸方向の2つの凹部に第1〜第4変位部20c,30c,80c,90cを取り付けている。また駆動部70a,70bは、第1及び第2支持部44a,46aにそれぞれ取り付けた構成としている。このとき、第1〜第4変位部20c,30c,80c,90cの回転軸22c,32c,82c,92cの各々は、前記第1〜第4変位部20c,30c,80c,90cの各々の重心からずれて設けられている。また第1変位部20cの回転軸22cと第2変位部30cの回転軸32cとは、重心からのずれの方向が互いに反対となり、且つ、第3変位部80cの回転軸82cと第4変位部90cの回転軸92cとは、重心からのずれの方向が互いに反対となるように配置させている。その他の構成は第2実施形態の物理量センサー100の構成と同一であり、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0052】
このような構成の第5実施形態の物理量センサー100cによっても、物理量センサーを角速度センサーとして用いた場合に、検出軸まわりの角速度のみを検出して、ノイズとなる検出軸以外の他軸の角速度が検出されない。従って物理量検出を高精度に行うことができる。また第1〜第4変位部20c,30c,80c,90cが第1及び第2支持部44a,46aの外側に取り付けられた構成となり、変位板を支持部の枠内に配置した構成の物理量センサーよりも、配線の寄生容量を小さくすることができる。
【0053】
図8は本発明の物理量センサーを備える電子機器を適用した携帯電話機の説明図である。図示のように携帯電話機500は、複数の操作ボタン502、受話口504、および送信口506を備え、操作ボタン502と受話器504との間には、表示部508が配置されている。このような携帯電話機500には角速度検出手段(ジャイロセンサー)として機能する物理量センサー10,100,100a,100b,100cが内蔵されている。
【符号の説明】
【0054】
10,100,100a,100b,100c………物理量センサー、12,120………振動系構造体、14………第1振動体、16………第2振動体、20,20a,20b,20c………第1変位部、21,21a,21b,21c………変位板、22,22a,22b,22c………回転軸、30,30a,30b,30c………第2変位部、31,31a,31b,31c………変位板、32,32a,32b,32c………回転軸、40………支持部、42………開口、44,44a………第1支持部、46,46a………第2支持部、50………固定部、60………バネ部、62………第1バネ部、64………第2バネ部、66………第3バネ部(連結バネ)、70………駆動部、72………駆動部、74………基板、76………下部電極、80,80a,80b,80c………第3変位部、90,90a,90b,90c………第4変位部、500………携帯電話機、502………操作ボタン、504………受話口、506………送信口、508………表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上の空間平面に配置され、回転軸を有した第1変位部及び第2変位部と、
前記基板の前記第1変位部及び第2変位部の各々に対向する位置に設けられた固定電極部と、
前記第1変位部及び第2変位部の各々の前記回転軸を支持する支持部と、
バネ部を介して前記支持部を支持する固定部と、
前記支持部を振動方向に振動させる駆動部と、を備え、
前記第1変位部及び第2変位部は、前記回転軸を軸として前記空間平面に対して垂直方向に変位可能であり、
前記回転軸の各々は、前記第1変位部又は第2変位部の重心からずれて設けられ、
前記第1変位部の前記回転軸と前記第2変位部の前記回転軸とは、前記重心からのずれの方向が互いに反対であることを特徴とする物理量センサー。
【請求項2】
前記回転軸の各々は、前記支持部の前記振動方向に平行に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の物理量センサー。
【請求項3】
前記第1及び第2変位部は、互いに対称となるように配置されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の物理量センサー。
【請求項4】
基板と、
前記基板上の空間平面に配置された第1振動体及び第2振動体と、を有し、
前記第1振動体は、回転軸を有した第1変位部及び第2変位部と、前記第1変位部及び前記第2変位部の前記回転軸の各々を支持する第1支持部と、を備え、
前記第2振動体は、回転軸を有した第3変位部及び第4変位部と、前記第3変位部及び前記第4変位部の前記回転軸の各々を支持する第2支持部と、を備え、
前記基板の前記第1〜第4変位部の各々に対向する位置に設けられた固定電極部と、
バネ部を介して前記第1支持部及び第2支持部の各々を支持する固定部と、
前記第1支持部及び第2支持部の各々を振動させる駆動部と、を備え、
前記第1振動体及び前記第2振動体は、互いに反対方向に振動し、
前記第1〜第4変位部は、前記回転軸を軸として前記空間平面に対し垂直方向に変位可能であり、
前記回転軸の各々は、前記第1〜第4変位部の各々の重心からずれて設けられ、
前記第1変位部の前記回転軸と前記第2変位部の前記回転軸とは、前記重心からのずれの方向が互いに反対であり、
且つ、前記第3変位部の前記回転軸と前記第4変位部の前記回転軸とは、前記重心からのずれの方向が互いに反対であることを特徴とする物理量センサー。
【請求項5】
前記第1振動体及び第2振動体は、連結バネで互いに接続されていることを特徴とする請求項4に記載の物理量センサー。
【請求項6】
前記第1変位部とこれに対向する前記固定電極部との間の静電容量をC1とし、
前記第2変位部とこれに対向する前記固定電極部との間の静電容量をC2とし、
前記第3変位部とこれに対向する前記固定電極部との間の静電容量をC3とし、
前記第4変位部とこれに対向する前記固定電極部との間の静電容量をC4としたときに、
前記物理量センサーの出力値を
(C1+C2)−(C3+C4)
とすることを特徴とする請求項4又は5に記載の物理量センサー。
【請求項7】
前記振動方向に対し平面視で直交する方向の軸回りに発生する角速度を検出することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の物理量センサー。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の物理量センサーを備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−173055(P2012−173055A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33665(P2011−33665)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】