説明

物質測定装置および物質測定方法

【課題】溶液または溶液中の物質を測定するための物質測定装置および該物質測定装置を用いた物質測定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の物質測定装置/物質測定方法は、素子側電磁界受信部を備えた弾性表面波素子を用いて、弾性表面波素子を伝搬する弾性表面波の伝搬状態を、被測定液体容器の周囲に設けられた外部電磁界送受信部にて、電気信号として取得することを特徴とする。このとき、弾性表面波素子について、基材は、球形状の一部であり弾性表面波が周回可能であって最大外周円を含む少なくとも1つの環状の弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液または溶液中の物質を測定するための物質測定装置および該物質測定装置を用いた物質測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液または溶液中の物質を測定するための物質測定装置として、弾性表面波を使用して液体を少量で精度良く検査することが出来る物質検査装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、球形状の一部であり弾性表面波が周回可能である少なくとも1つの環状の弾性表面波伝搬経路を備えた弾性表面波素子が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
弾性表面波素子では、弾性表面波伝搬経路に接した物質の質量により弾性表面波伝搬経路を周回する弾性表面波の速度や強度が変化する。従って、弾性表面波が弾性表面波伝搬経路を所定の回数、周回するのに要する時間を測定することにより、弾性表面波伝搬経路に接した物質の質量が判る。弾性表面波伝搬経路に特定の物質のみが接するようにし、弾性表面波周回素子を特定の物質を含む流体中に置き、上述した時間を測定すると特定の物質を含む流体中の特定の物質の濃度が判る。また、弾性表面波伝搬経路上に特定の物質と選択的に感応する感応部位を形成し、感応部位を通過した弾性表面波の伝搬状態を観測することで、感応部位に応じた特定の物質の物性を計測することが出来る。
【0005】
一方、高周波信号を印加してその出力を検出するさいに、結線を必要としない方法として、電磁界を利用した方法が知られている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−294713号公報
【特許文献2】国際公開 WO 01/45255 A1
【特許文献3】特開2005−159580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特に、医学或いは生体物質を用いる実験において、異なる濃度や異なる物質や異なる検体を含んだ溶液或いは溶液中に被測定用物質や分子を含んだ多数のサンプルの測定が求められる。このとき、通常は8個以上、場合によっては100以上のサンプルの測定が必要になることがしばしばである。上述のように多数の測定を行なう為には長時間の測定が必要になるが、生体物質を利用した測定においては時間的に変化するものもあり、極力短時間で多数の測定を完了できる測定装置が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、多種類の溶液または溶液中の物質を高速で測定することが出来る物質測定装置および該物質測定装置を用いた物質測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本発明は、弾性表面波が伝搬可能で圧電性を有した弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、
外部からの電磁界を受信して高周波電圧を生じる素子側電磁界送受信部と、
前記素子側電磁界送受信部と接続され、前記高周波電圧をもって前記弾性表面波伝搬路に弾性表面波として励起し、前記弾性表面波伝搬路を経由した該弾性表面波を検出するすだれ状電極と、
を備えた弾性表面波素子と、
前記弾性波表面波素子と、被測定液体と、を保持する被測定液体容器と、
前記被測定液体容器の周囲に設けられた外部電磁界送受信部と、
を備えたことを特徴とする物質測定装置である。
なお、本明細書において、「弾性表面波」とは、「漏洩弾性表面波」、「擬似漏洩弾性表面波」をも含むものとして定義する。
【0009】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の物質測定装置であって、
弾性表面波素子は、更に、弾性表面波伝搬経路上に、すだれ状電極で励起した弾性表面波を繰り返し反射する反射器を備えた弾性表面波素子であること
を特徴とする物質測定装置である。
【0010】
請求項3に記載の本発明は、請求項1に記載の物質測定装置であって、
弾性表面波素子について、基材は、球形状の一部であり弾性表面波が周回可能であって最大外周円を含む少なくとも1つの環状の弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材であること
を特徴とする物質測定装置である。
【0011】
請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の物質測定装置であって、
請求項3に記載の物質測定装置であって、
弾性表面波素子について、弾性表面波素子の重心は、
基材の形状の中心と異なること
を特徴とする物質測定装置である。
【0012】
請求項5に記載の本発明は、請求項1から4のいずれかに記載の物質測定装置であって、
外部電磁界送受信部/素子側電磁界受信部は、コイルアンテナを用いること
を特徴とする物質測定装置である。
【0013】
請求項6に記載の本発明は、請求項1から5のいずれかに記載の物質測定装置であって、
被測定液体容器と、外部電磁界送受信部と、が互いに物理的に分離すること
を特徴とする物質測定装置である。
【0014】
請求項7に記載の本発明は、溶液または溶液中の物質を測定する物質測定方法であって、
弾性表面波が伝搬可能で圧電性を有した弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、
外部からの電磁界を受信して高周波電圧を生じる素子側電磁界送受信部と、
前記素子側電磁界送受信部と接続され、前記高周波電圧をもって前記弾性表面波伝搬路に弾性表面波として励起し、前記弾性表面波伝搬路を経由した該弾性表面波を検出するすだれ状電極と、
を備えた弾性表面波素子と、
被測定液体と、
を被測定液体容器に投入する工程と、
前記被測定容器の外部から、外部電磁界送受信部を用いて高周波信号を電磁界として送信する工程と、
前記電磁界を前記素子側電磁界受信部で受信し、受信した前記電磁界に応じた高周波電圧を発生し、素子側電磁界受信部に接続された前記すだれ状電極により該高周波電圧を弾性表面波に励起し、該弾性表面波が弾性表面波伝搬経路を経由し、弾性表面波伝搬経路を経由した該弾性表面波をすだれ状電極により高周波信号に変換し、素子側電磁界送受信部により該高周波信号を電磁界として送信する工程と、
前記素子側電磁界送受信部から送信された電磁界を外部電磁界送受信部により受信し、前記弾性表面波伝搬経路を伝搬する弾性表面波の伝搬状態を高周波信号として取得する工程と、
を備えたことを特徴とする物質測定方法である。
【0015】
請求項8に記載の本発明は、請求項7に記載の物質測定方法であって、
弾性表面波素子は、
弾性表面波が伝搬可能で圧電性を有した弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、
外部からの電磁界を受信して高周波電圧を生じる素子側電磁界送受信部と、
前記素子側電磁界送受信部と接続され、高周波電圧を前記弾性表面波伝搬路に弾性表面波として励起し、前記弾性表面波伝搬路を経由した該弾性表面波を検出するすだれ状電極と、
前記弾性表面波伝搬経路上に形成され、前記すだれ状電極で励起した弾性表面波を繰り返し反射する反射器と、
を備えた弾性表面波素子であること
を特徴とする物質測定方法である。
【0016】
請求項9に記載の本発明は、請求項7に記載の物質測定方法であって、
弾性表面波素子は、
弾性表面波が伝搬可能で圧電性を有した弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、
外部からの電磁界を受信して高周波電圧を生じる素子側電磁界送受信部と、
前記素子側電磁界送受信部と接続され、高周波電圧を前記弾性表面波伝搬路に弾性表面波として励起し、前記弾性表面波伝搬路を経由した該弾性表面波を検出するすだれ状電極と、を備え、
前記基材は、球形状の一部であり弾性表面波が周回可能であって最大外周円を含む少なくとも1つの環状の弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材である弾性表面波素子であること
を特徴とする物質測定方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の物質測定装置/物質測定方法は、素子側電磁界受信部を備えた弾性表面波素子を用いて、弾性表面波素子を伝搬する弾性表面波の伝搬状態を、被測定液体容器の周囲に設けられた外部電磁界送受信部にて、高周波信号として取得することを特徴とする。本発明の構成では、弾性表面波素子を物理的に固定する必要がないため、測定する液体の数種/物性に応じて、液中へ投入する弾性表面波素子の数量を変更することで適宜対応することが出来る。よって、多種類の溶液および溶液中の物質を高速で測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の物質測定装置について説明を行う(図1)。
本発明の物質測定装置は、
弾性表面波が伝搬可能な弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、
前記基材表面上に形成され、外部からの電磁界を受信して高周波電圧を生じる素子側電磁界送受信部と、
前記素子側電磁界送受信部と接続され、高周波電圧を前記弾性表面波伝搬路に弾性表面波として励起し、前記弾性表面波伝搬路を経由した該弾性表面波を検出するすだれ状電極と、
を備えた弾性表面波素子と、
前記弾性波表面素子と、被測定液体と、を保持する被測定液体容器と、
前記被測定液体容器の周囲に設けられた外部電磁界送受信部と、
を備えたことを特徴とする。
【0019】
本発明の物質測定装置は、素子側電磁界受信部を備えた弾性表面波素子を備える。以下、本発明に用いる弾性表面波素子について説明を行う。
【0020】
<第一の弾性表面波素子の形態>
本発明の物質測定装置に備わった弾性表面波素子の一形態として、下記の弾性表面波素子を挙げる。
本発明の物質測定装置に備わった弾性表面波素子は、
弾性表面波が伝搬可能な弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、
前記基材表面上に形成され、外部からの電磁界を受信して高周波電圧を生じる素子側電磁界送受信部と、
前記素子側電磁界送受信部と接続され、高周波電圧を前記弾性表面波伝搬路に弾性表面波として励起し、前記弾性表面波伝搬路を経由した該弾性表面波を検出するすだれ状電極と、
前記弾性表面波伝搬経路上に形成され、前記すだれ状電極で励起した弾性表面波を繰り返し反射する反射器と、
を備えた弾性表面波素子である。
【0021】
基材は、弾性表面波が伝搬可能な弾性表面波伝搬経路を表面に含むことが求められる。
【0022】
また、基材は磁石などで吸着できることが好ましい。基材を磁石などで吸着できる材料とすること、または、磁石などで吸着できる材料を基材に固定することにより、液中に弾性表面波素子を投入し、測定した後、磁石などを用いて、物理的に非接触のまま液中から弾性表面波素子を取り出すことが出来る。
【0023】
素子側電磁界送受信部は、素子側電磁界送受信部との高周波信号を介した応答のために設けられる。また、素子側電磁界送受信部は、後述するすだれ状電極と接続され、外部電磁界送受信部から受け取った高周波信号を高周波電圧として、すだれ状電極に伝達する。また、すだれ状電極から伝達された高周波電圧を高周波信号として、外部電磁界送受信部に送信する。
【0024】
すだれ状電極は、素子側電磁界送受信部と接続され、かつ基材の弾性表面波伝搬経路上に設けられる。すだれ状電極は、外部電磁界送受信部から伝達された高周波電圧を弾性表面波として励起し、該弾性表面波を基材の弾性表面波伝搬経路に伝達する。また、すだれ状電極は、前記弾性表面波伝搬経路を経由した弾性表面波を検出し、該弾性表面波を高周波電圧として素子側電磁界受信部に伝達する。
【0025】
このとき、すだれ状電極にて励起する弾性表面波としては、SH波であることが好ましい。SH波は、伝搬表面に水平な振動をおこなう弾性表面波であり、液体中でも程度良く伝搬することが知られている。このため、溶液または溶液中の物質を測定するのに好適に用いることが出来る。
【0026】
反射器は、基材の弾性表面波伝搬経路上に設けられる。反射器は、すだれ状電極にて励起され、弾性表面波伝搬経路上に伝達されている弾性表面波を反射し、弾性表面波の伝達方向を変更させる。また、反射器は、弾性表面波を弾性表面波伝搬経路上に周回させるため、すだれ状電極を挟んで設けられる。これにより、弾性表面波を繰り返し反射し、弾性表面波の伝搬距離を長くすることが出来る。
【0027】
また、弾性表面波素子は弾性表面波伝搬経路上に特定の物質と選択的に感応する感応部位を形成することが好ましい。感応部位が特定の物質と感応することで、感応部位の弾性表面波の伝搬状態が変化し、感応部位を通過した該弾性表面波の伝搬状態を観測することで、感応部位に応じた特定の物質の物性を計測することが出来る。例えば、感応部位として、特定の物質に対して堅くなる薄膜を形成した場合、堅くなった薄膜を通過する弾性表面波は伝搬速度があがり共振周波数が大きくなるため、該弾性表面波を計測することで特定の物質のセンシングを行うことが出来る。
【0028】
図2に具体例として、第一の弾性表面波素子の形態の一例を示す。このとき、素子側電磁界送受信部は基材表面上に形成し、すだれ状電極と接続しても良い。
【0029】
<第二の弾性表面波素子の形態>
本発明の物質測定装置に備わった弾性表面波素子の別種の形態として、下記の弾性表面波素子を挙げる。
本発明の物質測定装置に備わった弾性表面波素子は、
弾性表面波が伝搬可能な弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、
前記基材表面上に形成され、外部からの電磁界を受信して高周波電圧を生じる素子側電磁界送受信部と、
前記素子側電磁界送受信部と接続され、高周波電圧を前記弾性表面波伝搬路に弾性表面波として励起し、前記弾性表面波伝搬路を経由した該弾性表面波を検出するすだれ状電極と、を備え、
前記基材は、球形状の一部であり弾性表面波が周回可能であって最大外周円を含む少なくとも1つの環状の弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材である弾性表面波素子である。
【0030】
第二の弾性表面波素子の形態において、基材は、球形状の一部であり弾性表面波が周回可能であって最大外周円を含む少なくとも1つの環状の弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材である。周回可能な環状の弾性表面波伝搬経路を備えることにより、反射器を備えなくとも弾性表面波の伝搬距離を長大にすることが出来る。上述した環状の弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材としては、例えば、圧電性を有する結晶群を用いることが出来、具体的には、水晶、ニオブ酸リチウム、ランガサイト、ランガサイトファミリーなどの材料を用いて良い。
【0031】
また、基材は磁石などで吸着できることが好ましい。基材を磁石などで吸着できる材料とすること、または、磁石などで吸着できる材料を基材に固定することにより、液中に弾性表面波素子を投入し、測定した後、磁石などを用いて、物理的に非接触のまま液中から弾性表面波素子を取り出すことが出来る。
【0032】
素子側電磁界送受信部、すだれ状電極は、上述した第一の弾性表面波素子の形態と同様のものを用いても良い。
【0033】
また、弾性表面波素子は弾性表面波伝搬経路上に特定の物質と選択的に感応する感応部位を形成することが望ましい。感応部位が特定の物質と感応することで、感応部位の弾性表面波の伝搬状態が変化し、感応部位を通過した該弾性表面波の伝搬状態を観測することで、感応部位に応じた特定の物質の物性を計測することが出来る。例えば、感応部位として、特定の物質に対して堅くなる薄膜を形成した場合、堅くなった薄膜を通過する弾性表面波は伝搬速度があがり共振周波数が大きくなるため、該弾性表面波を計測することで特定の物質のセンシングを行うことが出来る。
【0034】
このとき、弾性表面波素子について、弾性表面波素子の重心は、基材の形状の中心と異なることが好ましい。これにより、弾性表面波素子を液中に投入した場合、浮力により弾性表面波素子を一定方向に固定することが出来、基材上の弾性表面波伝搬経路が後述する被測定液体保持容器の側面と接触することを抑制することが出来る。特に、外部電磁界送受信部/素子側電磁界受信部に、コイルアンテナを用いる場合、弾性表面波素子を一定方向に固定することで、素子側電磁界受信部の配置方向を一定方向に固定することが出来、外部電磁界送受信部を素子側電磁界受信部と互いに平行な関係で配置することが出来る。これにより、外部電磁界送受信部/素子側電磁界受信部は、良好な応答を行うことが出来る。一般的にコイルアンテナは互いに平行に配置することで良好な応答が行えることが知られている。
【0035】
図3に具体例として、第二の弾性表面波素子の形態の一例を示す。
図3に示す弾性表面波素子は、弾性表面波が伝搬可能で圧電性を有した弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、素子側電磁界送受信部を備えた基板と、をすだれ状電極と導通する導通パターンAおよび導通パターンBにて接続する。
【0036】
図3に示す弾性表面波素子おいて、基材は上述した要件を満たすものであり、圧電性を有した弾性表面波伝搬経路上にすだれ状電極が形成されている。例えば、具体的には、基材は直径3.3mmの水晶球、すだれ状電極は21μm周期で10対、電極周期は150MHzであっても良い。このとき、すだれ状電極には後述する素子側電磁界送受信部を備えた基板と接続するための導通パターンAおよび導通パターンBを形成されている。
【0037】
また、図3に示す弾性表面波素子おいて、素子側電磁界送受信部として働くコイルアンテナは基板上に設けられる。基板には、導電パターンがコイルアンテナとして機能するようにパターニングされており、基材上のすだれ状電極と導通するために導通パターンAおよび導通パターンBを形成されている。
【0038】
一般的に、コイルアンテナを用いた磁界結合による高周波信号の送受では、コイルアンテナとコンデンサを並列に結線する(マッチングセクション)。
このため、図3に示す弾性表面波素子おいて、コンデンサはコイルアンテナと接続するように、基板に設けて良い。また、導電パターンの一部位にコンデンサとして働くパターニングを施しても良い。また、導電パターンは基板表面上に形成されるのみならず、多層のプリント基板とし該基板内部に形成するものであっても良い。また、例えば、具体的には、コイルアンテナは300nH、コンデンサは5pFであっても良い。
【0039】
図3に示す弾性表面波素子おいて、基板は導電パターンを形成することが出来るものであれば、特に限定されず、公知のプリント基板などを用いて良い。また、導通パターンAおよび導通パターンBを介して接続される基材を保持するために、基板は導通パターンAおよび導通パターンBに対応する部位がわずかに凹形状をなしていることが好ましい。
【0040】
また、上述の基板に重量のある錘を設けても良い。これにより、弾性表面波素子の重心を基材の形状の中心と異ならせることが出来る。錘を設ける部位は特に限定されず、例えば、基板の外縁部に枠状の設けても良い。
【0041】
図4に具体例として、第二の弾性表面波素子の形態の別の一例を示す。
図4に示す弾性表面波素子は、弾性表面波が伝搬可能な弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材上に素子側電磁界送受信部を備え、素子側電磁界送受信部を覆うように不導体パターンを形成し、該不導体パターン上に導通パターンCを形成し、すだれ状電極と素子側電磁界送受信部と電気的に接続する。
【0042】
図4に示す弾性表面波素子おいて、基材は上述の要件を満たすものであり、弾性表面波伝搬経路上にすだれ状電極が形成され、該すだれ状電極と接続するように素子側電磁界送受信部が形成されている。このとき、素子側電磁界送受信部は弾性表面波伝搬経路以外の基材部位であれば、特に限定されず形成してよい。
【0043】
また、図4示す弾性表面波素子において、すだれ状電極、素子側電磁界送受信部は、導電パターンをパターニングすることにより形成してよい。例えば、具体的には、クロムと金の2元蒸着を行い、フォトリソグラフィー手法によりパターニングすることにより形成しても良い。
【0044】
また、図4示す弾性表面波素子において、不導体パターンは、すだれ状電極と素子側電磁界送受信部とを短絡せずに接続するために設けられる。不導体パターンはすだれ状電極と素子側電磁界送受信部とを絶縁できるものであれば特に限定されるものではない。また、不導体パターンを形成することで、弾性表面波伝搬経路が被測定液体容器の壁面と接触することを抑制することが出来る。また、基材の直径より大きい不導体パターンとすることで、物理的な取り扱いを容易にすることが出来る(例えば、素子回収時にピンセットなどで機械的に取り扱い易くなる)。
【0045】
また、不導体パターンは、絶縁性発泡樹脂であることが好ましい。絶縁性発泡樹脂とすることで、弾性表面波素子の重心を基材の形状の中心と異ならせることが出来る。このため、液中に弾性表面波素子を投入した場合、浮力により、弾性表面波素子を一定方向に保持することが出来る。絶縁性発泡樹脂としては、例えば、加熱発泡した熱硬化型レジスト、発泡スチロールなどを用いても良い。
【0046】
また、図4示す弾性表面波素子において、前記不導体パターン上に導通パターンCを形成し、すだれ状電極と素子側電磁界送受信部と電気的に接続する
【0047】
被測定液体容器は、弾性波表面素子と、被測定液体と、を保持するために設けられる。材質・形状は特に限定されず、被測定液体の数種/物性、弾性波表面素子の形状/寸法に応じて適宜設計を行ってよい。例えば、多数の仕切りを備え、弾性波表面素子と被測定液体とを保持する部位をマトリックス状に備えた形状であっても良い。弾性波表面素子と被測定液体とを保持する部位をマトリックス状に備えることで、多種の被測定液体を保持することが出来る。
【0048】
外部電磁界送受信部は、素子側電磁界送受信部との高周波信号を介した応答のために、被測定液体容器の周囲に設けられる。
具体的には、例えば、図1に示すように被測定液体容器の底部に内蔵されるように設けても良い。
【0049】
また、被測定液体容器と、外部電磁界送受信部と、が互いに物理的に分離することが好ましい。このとき、被測定液体容器ごとに外部電磁界送受信部を設ける必要がない構成となり、被測定液体容器として、既存の容器を用いることが出来る。この場合、例えば、バイオ研究分野などで通常使い捨てとして用いるウエルと呼ばれる多数の被測定液体を保持できる容器を被測定液体容器として用いることが出来る。
本発明の物質測定装置/物質測定方法は、被測定液体毎に、弾性表面波素子を投入することで、多種の被測定液体を迅速に検査することが出来る。このため、特にウエルに保持された被測定液体を検査するのに好適に用いることが出来る。
【0050】
被測定液体容器と外部電磁界送受信部とが互いに物理的に分離する場合について、具体的に、図5に一例を示す。図5では、外部電磁界送受信部は被測定液体容器を搬送する台上に設けている。図5に示す台上に被測定液体容器を搬送することで、外部電磁界送受信部と素子側電磁界送受信部とが互いに応答することが出来る(図6)。
【0051】
被測定液体容器と外部電磁界送受信部とが互いに物理的に分離する場合について、具体的に、図7に一例を示す。図7では、直線状一次元に外部電磁界送受信部を配置し、被測定液体容器を横断させる構成を示す。このとき、各外部電磁界送受信部の間に、各外部電磁界送受信部の間隔を制御できる外部電磁界送受信部調整機構を設けることが望ましい。前記外部電磁界送受信部調整機構を設けることで、被測定液体容器の形状/寸法に併せて、外部電磁界送受信部の位置を変更することが出来る。
【0052】
また、外部電磁界送受信部/素子側電磁界受信部は、コイルアンテナを用いることが好ましい。高周波信号は電磁界として空中を伝搬する。このため、原理的には、電界を検出する方法と、磁界を検出する方法がある。本発明において、外部電磁界送受信部/素子側電磁界受信部の応答を検出する方法は、電界を検出する方法、磁界を検出する方法のいずれの方法を用いても良い。
このとき、磁界を検出する方法は、近距離での応答に優れること、アンテナを小型化できることなどの特徴が知られている。このため、外部電磁界送受信部/素子側電磁界受信部は、磁界を検出する方法として一般的なコイルアンテナを用いることが好ましい。コイルアンテナを用いる磁界結合による送受信は、周囲に電磁波を広範に伝えないため、被測定液体容器中の特定の弾性表面波素子にのみ送受信するのに適している。図8にコイルアンテナを使用して送受信を行う場合の回路の一例を示す。図8は、周波数150MHzの場合を例示している。
【0053】
以下、本発明の物質測定方法について説明を行う。
本発明の物質測定方法は、
溶液または溶液中の物質を測定する物質測定方法であって、
弾性表面波が伝搬可能な弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、
前記基材表面上に形成され、外部からの電磁界を受信して高周波電圧を生じる素子側電磁界送受信部と、
前記素子側電磁界送受信部と接続され、高周波電圧を前記弾性表面波伝搬路に弾性表面波として励起し、前記弾性表面波伝搬路を経由した該弾性表面波を検出するすだれ状電極と、
を備えた弾性表面波素子と、
被測定液体と、
を被測定液体容器に投入する工程と、
前記被測定容器の外部から、外部電磁界送受信部を用いて高周波信号を電磁界として送信する工程と、
前記電磁界を前記素子側電磁界受信部で受信し、受信した前記電磁界に応じた高周波電圧を発生し、素子側電磁界受信部に接続された前記すだれ状電極により該高周波電圧を弾性表面波に励起し、該弾性表面波が弾性表面波伝搬経路を経由し、弾性表面波伝搬経路を経由した該弾性表面波をすだれ状電極により検出し、該弾性表面波を高周波信号に変換し、素子側電磁界送受信部により該高周波信号を電磁界として送信する工程と、
前記素子側電磁界送受信部から送信された電磁界を外部電磁界送受信部により受信し、前記弾性表面波伝搬経路を伝搬する弾性表面波の伝搬状態を高周波信号として取得する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0054】
まず、弾性表面波素子と、被測定液体と、を被測定液体容器に投入する。
このとき、測定する液体の数種/物性に応じて、液中へ投入する弾性表面波素子の数量を変更することが出来る。このため、多数の仕切りを有する被測定液体容器を用いた場合であっても、区切られた被測定液体毎に弾性表面波素子を個別に投入することが出来る。また、測定する物性に応じて、異なるセンシングが出来る弾性表面波素子を、複数同一被測定液体内に投入することが出来る。よって、多種類の液体中の物質を高速で測定することが可能となる。
【0055】
弾性表面波素子と被測定液体とを被測定液体容器に投入する工程の後、使用する弾性表面波素子の特性に応じて、薬液を乾燥させても良い。例えば、弾性表面波として、レイリー波など基材表面に対して垂直方向に変位を持つ弾性表面波を伝搬させる場合は、弾性表面波伝搬経路を乾燥させた状態で測定することが好ましい。
【0056】
次に、外部電磁界送受信部を用いて高周波信号を電磁界として送信する。
【0057】
次に、外部電磁界送受信部から送信された電磁界を素子側電磁界受信部で受信する。受信された電磁界は、素子側電磁界受信部にて電磁界に応じた高周波電圧を発生し、該高周波電圧は素子側電磁界受信部に接続された前記すだれ状電極により弾性表面波に励起し、該弾性表面波は弾性表面波伝搬路を伝達する。
【0058】
このとき、弾性表面波の伝搬状態は、弾性表面波伝搬路の環境に影響される。例えば、弾性表面波伝搬経路上に特定の物質と選択的に感応する感応部位を形成した場合、感応部位が特定の物質と感応することで、感応部位の弾性表面波の伝搬状態が変化する。
【0059】
次に、弾性表面波伝搬経路を経由した弾性表面波をすだれ状電極により検出し、該弾性表面波を高周波電圧に変換し、素子側電磁界送受信部により該高周波電圧を該高周波信号に変換し、電磁界として、外部電磁界送受信部に送信する。
【0060】
次に、素子側電磁界送受信部より送信された電磁界を外部電磁界送受信部にて受信する。受信した電磁界から得られた高周波信号と、最初に送信した高周波信号を比較することで、弾性表面波素子上を伝搬した弾性表面波の伝搬状態の情報を取得することが出来る。弾性表面波の伝搬状態の情報から弾性表面波伝搬路の環境の情報を取得することが出来、弾性表面波伝搬路の周囲の溶液または溶液中の物質の物性を測定することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の物質測定装置/物質測定方法は、溶液または溶液中の物質を測定することに適しており、医療・バイオ分野のみならず、多種の溶液または溶液中の物質を測定することが求められる分野に関して広範に利用することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の物質測定装置の概略図である。
【図2】本発明の物質測定装置に備わった第一の弾性表面波素子の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の物質測定装置に備わった第ニの弾性表面波素子の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の物質測定装置に備わった第ニの弾性表面波素子の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の物質測定装置に備わった外部電磁界送受信部の配置の一例を示す図である。
【図6】本発明の物質測定装置に備わった外部電磁界送受信部および被測定液体容器の配置の一例を示す図である。
【図7】本発明の物質測定装置に備わった外部電磁界送受信部の配置の一例を示す図である。
【図8】本発明の物質測定装置に備わった外部電磁界送受信部/素子側電磁界受信部の回路の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1……弾性表面波素子
2……被測定液体容器
3……外部電磁界送受信部
4……すだれ状電極
5……反射器
6……弾性表面波伝搬経路
7……基板
8……素子側電磁界送受信部
9……コンデンサ
10……錘
11……不導体パターン
12……外部電磁界送受信部調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波が伝搬可能で圧電性を有した弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、
外部からの電磁界を受信して高周波電圧を生じる素子側電磁界送受信部と、
前記素子側電磁界送受信部と接続され、前記高周波電圧をもって前記弾性表面波伝搬路に弾性表面波として励起し、前記弾性表面波伝搬路を経由した該弾性表面波を検出するすだれ状電極と、
を備えた弾性表面波素子と、
前記弾性波表面波素子と、被測定液体と、を保持する被測定液体容器と、
前記被測定液体容器の周囲に設けられた外部電磁界送受信部と、
を備えたことを特徴とする物質測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物質測定装置であって、
弾性表面波素子は、更に、弾性表面波伝搬経路上に、すだれ状電極で励起した弾性表面波を繰り返し反射する反射器を備えた弾性表面波素子であること
を特徴とする物質測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の物質測定装置であって、
弾性表面波素子について、基材は、球形状の一部であり弾性表面波が周回可能であって最大外周円を含む少なくとも1つの環状の弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材であること
を特徴とする物質測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の物質測定装置であって、
弾性表面波素子について、弾性表面波素子の重心は、
基材の形状の中心と異なること
を特徴とする物質測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の物質測定装置であって、
外部電磁界送受信部/素子側電磁界受信部は、コイルアンテナを用いること
を特徴とする物質測定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の物質測定装置であって、
被測定液体容器と、外部電磁界送受信部と、が互いに物理的に分離すること
を特徴とする物質測定装置。
【請求項7】
溶液または溶液中の物質を測定する物質測定方法であって、
弾性表面波が伝搬可能で圧電性を有した弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、
外部からの電磁界を受信して高周波電圧を生じる素子側電磁界送受信部と、
前記素子側電磁界送受信部と接続され、前記高周波電圧をもって前記弾性表面波伝搬路に弾性表面波として励起し、前記弾性表面波伝搬路を経由した該弾性表面波を検出するすだれ状電極と、
を備えた弾性表面波素子と、
被測定液体と、
を被測定液体容器に投入する工程と、
前記被測定容器の外部から、外部電磁界送受信部を用いて高周波信号を電磁界として送信する工程と、
前記電磁界を前記素子側電磁界受信部で受信し、受信した前記電磁界に応じた高周波電圧を発生し、素子側電磁界受信部に接続された前記すだれ状電極により該高周波電圧を弾性表面波に励起し、該弾性表面波が弾性表面波伝搬経路を経由し、弾性表面波伝搬経路を経由した該弾性表面波をすだれ状電極により高周波信号に変換し、素子側電磁界送受信部により該高周波信号を電磁界として送信する工程と、
前記素子側電磁界送受信部から送信された電磁界を外部電磁界送受信部により受信し、前記弾性表面波伝搬経路を伝搬する弾性表面波の伝搬状態を高周波信号として取得する工程と、
を備えたことを特徴とする物質測定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の物質測定方法であって、
弾性表面波素子は、
弾性表面波が伝搬可能で圧電性を有した弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、
外部からの電磁界を受信して高周波電圧を生じる素子側電磁界送受信部と、
前記素子側電磁界送受信部と接続され、高周波電圧を前記弾性表面波伝搬路に弾性表面波として励起し、前記弾性表面波伝搬路を経由した該弾性表面波を検出するすだれ状電極と、
前記弾性表面波伝搬経路上に形成され、前記すだれ状電極で励起した弾性表面波を繰り返し反射する反射器と、
を備えた弾性表面波素子であること
を特徴とする物質測定方法。
【請求項9】
請求項7に記載の物質測定方法であって、
弾性表面波素子は、
弾性表面波が伝搬可能で圧電性を有した弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材と、
外部からの電磁界を受信して高周波電圧を生じる素子側電磁界送受信部と、
前記素子側電磁界送受信部と接続され、高周波電圧を前記弾性表面波伝搬路に弾性表面波として励起し、前記弾性表面波伝搬路を経由した該弾性表面波を検出するすだれ状電極と、を備え、
前記基材は、球形状の一部であり弾性表面波が周回可能であって最大外周円を含む少なくとも1つの環状の弾性表面波伝搬経路を表面に含む基材である弾性表面波素子であること
を特徴とする物質測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−216170(P2008−216170A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56825(P2007−56825)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】