説明

特に液圧式ピストンポンプのためのシールリング

シールリップ(16)が輪郭部(18)によりシール面(28)に接触し、シール面に対して移動可能である、流体によって満たされた圧力室(30)をシールするための、特に液圧式ピストンポンプ用のシールリング(10)において、シールリップ(16)の輪郭部(18)が、シール面(28)に対するシールリップ(16)の速度に適合されており、これにより、圧力室(30)から流体の所定の漏出量が得られるように調節されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールリップが輪郭部によりシール面に接触し、シール面に対して移動可能である、流体によって満たされた圧力室をシールするための、特に液圧式ピストンポンプのためのシールリングに関する。さらに本発明は、シールリングの使用法、ピストンポンプの製造方法、ピストンポンプおよび車両ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
液圧液により満たされた圧力室をシールするための液圧式ピストンポンプ用のシールリングは、一般に実質的に平滑な面を備え、この面は、円筒スペースで前進(進入)および後退(進出)可能なピストンに接触する。この場合、シールリングの面とピストンとの間に摩擦が生じ、これにより、シールリングに摩耗が生じる。
【0003】
ドイツ国特許出願公開第102006036442号により、ポンプのピストンにおける密閉のためのシールおよびガイド装置が既知である。このシールおよびガイド装置は、ガイドリング、支持リングおよびシール要素を備え、支持リングはシール要素とガイドリングとの間に配置されている。ガイドリングと支持リングとの接触面は、平面の外部でピストンの縦軸線に対して垂直に位置する少なくとも1つの領域を備え、この領域は平面に対して傾斜して配置されている。
【0004】
このシールおよびガイド装置は、シールの耐用寿命が高く、良好なシール性を提供する。なぜなら、ポンプの作動時にシール要素は平面に位置しない領域に対して押圧され、半径方向内側に向いた力が支持リングに加えられるからである。これにより、シール要素が支持リングとピストンとの間の領域で押圧されること、ひいてはシール要素が損傷され液漏洩が生じることが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ国特許出願公開第102006036442号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、摩耗発生の少ないシールリングを提供することである。さらにシールリングが、流体の漏洩を可能としないか、または所定量の漏洩を可能とするようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、流体によって満たされた圧力室をシールするための、特に液圧式ピストンポンプ用のシールリングが形成され、シールリップは輪郭部によりシール面に接触し、シール面に対して移動可能であり、シールリップの輪郭部は、シール面に対するシールリップの速度に適合されており、これにより、圧力室から流体の所定の漏出量が得られるように調節されている。
【0008】
有利には、液圧式ピストンポンプは、円筒状壁によって画定されている円筒状スペースと、円筒状スペースに進入および進出可能なピストンとを備える。円筒状壁とピストンとの間には流体によって満たされた圧力室をシールする本発明によるシールリングが配置されている。円筒状スペースからのピストンの進出時にピストンは流体を圧力室に吸い込み、進入時にはピストンは作業を行うために流体を圧力室から液圧システム内に圧送する。
【0009】
流体とは、ここではガスまたは液圧液、例えば、鉱油またはグリコールベースの液圧液である。
【0010】
本発明によるシールリングは、所定の輪郭部を有するシールリップを備える。シールリップは、圧力室をシールするための所定の輪郭部によってシール面、すなわち、ピストンの外周面または円筒状壁の内周面に接触する。ピストンが円筒状スペース内へ進入し、円筒状スペース外へ進出する場合に、シールリップとシール面とは互いに相対移動する。
【0011】
本発明によれば、シールリップの輪郭部は、シール面に対するシールリップの速度に適合されており、これにより、圧力室から流体の所定の漏出量が得られるように調節されている。
【0012】
漏出量は、一方では、シールリップに著しい摩耗が生じることなしにシール面が比較的わずかな摩擦によってシールリップに沿って滑動するように、所定の潤滑膜がシール面に提供されている。他方では、漏出量は、極めてわずかであるか、もしくはシール面から圧力室への流体の還流量が調節されており、したがって、隣接する構成部分の機能的損傷をもたらし得るような著しい漏出損失は生じない。
【0013】
特にシールリップの輪郭部は、ピストンの進入速度がピストンの進出速度と異なっている場合の速度に適合されている。
【0014】
ピストンの進入速度と進出速度との特定の比率を、ピストンを駆動する偏心器の非対称性によって調節することができる。流体の漏出もしくは還流される流体がない場合または極わずかな場合には、進入速度が進出速度よりも大きい比率が設定される。これに対して、例えば潤滑膜を形成するためにより多量の漏出が望まれる場合には、進入速度が進出速度よりも小さい比率が設定される。シールリップの輪郭部は、進入速度および進出速度のいずれの比率についても所定の漏出量が提供されているように適合されている。
【0015】
本発明によるシールリングの第1の有利な改良形態によれば、輪郭部は少なくとも1つの側面部を備える。
【0016】
本発明によるシールリングの一改良形態では、輪郭部は、有利には2つの側面部を備え、一方の側面部は、圧力室に向いた側に配置されており、他方の側面部は圧力室に向いていない方の側に配置されている。側面部はシール面と角度をなしている。圧力室に向いた側の側面部が圧力室に向いていない方の側の側面部よりもシール面とより大きい角度をなしている場合、有利であることが判明した。
【0017】
本発明によるシールリングの第2の有利な構成によれば、圧力室に向いた側の側面部はシール面と55°〜80°の角度をなしている。
【0018】
55°〜80°の角度は有利であると判明した。圧力室に向いた側の比較的大きい角度によって、シールリップの長い機能性およびシール性を提供することができる。
【0019】
本発明によるシールリングの第3の有利な構成によれば、圧力室に向いていない方の側の側面部はシール面と10°〜25°の角度をなしている。
【0020】
このような改良形態は、圧力室に向いていない方の側に、シールリップの比較的長い使用継続時間後にも著しく変化することがなく、したがって、流体の実質的に等しく保持された所定の漏出量または還流量を保障する輪郭部を提供する。
【0021】
本発明によるシールリングの第4の有利な改良形態によれば、輪郭部は、0.02mm〜0.5mmの曲率半径を有する第1湾曲区分と、実質的にシール面に対して平行に延在する0.01mm〜1mmの第2区分と、0.07mm〜0.5mmの曲率半径を有する第3湾曲区分とを備える。
【0022】
輪郭部は2つの側面部の間に配置されており、シール面に押し付けられる支持面を形成している。ピストンポンプの作動時に、支持面には最大の押圧力が加えられる。
【0023】
この改良形態によって、特にシール面に対するシールリップの速度に適合された輪郭部性およびわずかな漏出量をもたらす。このような輪郭部は、シールリップの作動時間が長い場合に高いシール性およびわずかな漏出量をもたらす。
【0024】
シール面に対して実質的に平行に延在する0.01mm〜1mmの第2区分は、流体内に生じ得る異物によってシールリップが損傷された場合にシールリップのいわゆる「自動的な再生」を可能にする。
【0025】
第3湾曲区分は、0.5mmよりも大きい曲率半径を備えていてもよい。しかしながら、シールリングの作動時間は、より小さい曲率半径を有する湾曲区分が付加的に提供する作動時間の分だけ低下する。
【0026】
さらに、輪郭部が、圧力室に向いた側の側面部と圧力室に向いていない方の側の側面部とを接続する0.03mm〜0.5mmの曲率半径を有する少なくとも1つの湾曲区分を提供することも可能である。
【0027】
本発明によるシールリングの第5の有利な改良形態によれば、輪郭部は、0.08mm〜0.12mmの半径を形成するように構成されている。
【0028】
半径とは、ここでは、2つの側面部の間、すなわち、圧力室に向いた側の側面部と圧力室に向いていない方の側の側面部との間に延在する領域である。
【0029】
このような改良形態では、特に、シールリップの長い作動時間もしくは耐用寿命を要求する液圧式ピストンポンプで使用することのできるシールリップが提供される。ここでは圧力室からの流体の漏出量が実質的に等しく保持され、わずかであることが保障される。
【0030】
さらに、液圧式ピストンポンプで所定の潤滑膜を生成するための本発明によるシールリングの使用法が提案されている。
【0031】
シールリングのシールリップの輪郭部はシール面に対するシールリップの速度に適合されており、これにより、圧力室から流体の所定の漏出量が得られるように調節されている。所定の潤滑膜をシール面に形成する漏出を生じさせるために、ピストンの進入速度は進出速度よりも小さくなっている。ここでは、進入速度は進出速度よりも係数3だけ小さい。このような場合、シールリップの輪郭部は、圧力室に向いた側の側面部と圧力室に向いていない方の側の側面部との間に0.01mmの長さの区分、もしくは0.01mmのいわゆる「半径」を形成するように構成されている。
【0032】
さらにピストンの進入速度を進出速度よりも係数6だけ小さくしてもよい。この場合、シールリップの輪郭部は、圧力室に向いた側の側面部と圧力室に向いていない方の側の側面部との間に0.1mmの長さの区分、もしくは0.1mmのいわゆる「半径」を形成するように構成されている。
【0033】
本発明によるシールリングを液圧式ピストンポンプで用いることによって、シールリップとシール面との間に潤滑膜を形成することができ、潤滑膜は、シール面に対するシールリップの比較的摩擦の少ない往復運動を確保する。シールリップの摩耗はわずかであり、シールリップは長い耐用寿命を有する。同時に、圧力室からの流体の漏出量はわずかであり、これにより、隣接した構成部分の機能損傷が防止される。
【0034】
シール作用がシールリップにより得られる本発明によるシールリングは、振動による負荷を受けるあらゆるシールに使用することができる。このようなシールリップの使用は、特にシール性および/または作動時間に高い要求が課される場合には有利である。
【0035】
さらに、シールリングが極めて密にピストンに接触している場合、特に5〜20%の範囲のいわゆる「過圧」が生じている場合には、本発明によるシールリングを使用することが有利であることが判明した。
【0036】
さらに、液圧式ピストンポンプを製造するための方法が提供される。この方法は、次のステップ:
シールリングを製造し、準備するステップと、
ピストン、および円筒状壁によって制限された円筒状スペースを準備するステップと、
ピストンが円筒状スペース内で進入および進出可能となるようにピストンを円筒状スペースに挿入するステップと、
シールリングのシールリップが輪郭部によってシール面に接触し、シール面に対して移動できるように、ピストンと円筒状壁との間にシールリングを挿入し、流体によって満たされた圧力室をシールするステップとを含む。
【0037】
本発明によれば、シールリングの製造時には、ピストンの進出速度よりも進入速度が小さい場合にシールリップとシール面との間で流体に所定の潤滑膜厚さが形成されるように輪郭部が調整される。
【0038】
この方法の利点は、シールリップとシール面とが摩擦になしに互いに沿って滑動できるのに十分に潤滑膜厚さが大きいことである。これにより、シールリップの摩耗は最小限となり、耐用寿命が最適化される。さらに、液圧式往復ピストンポンプの使用時に圧力室から流出する流体の漏出量はわずかであり、したがって、隣接した構成部分には機能損傷が生じない。
【0039】
さらに、本発明によるシールリングを備えるピストンポンプが提供される。
【0040】
本発明によるピストンポンプは、円筒状壁によって制限された円筒状スペースを備える。この円筒状スペースにはピストンが進入および進出可能に配置されている。シールリップおよび所定の輪郭部を備えるシールリングは、ピストンと円筒状壁との間に配置されており、流体によって満たされた圧力室を上記特徴によりシールする。
【0041】
さらに、本発明によるシールリングを有するピストンポンプを備える車両ブレーキシステムが提供される。
【0042】
このような車両ブレーキシステムは、例えば液圧式ブレーキ調節ユニット、アンチ・ロック・ブレーキシステム(ABS)またはエレクトロニック・スタビリティ・プログラム(ESP)を備えるブレーキシステムであってもよい。このようなブレーキシステムは、長い走行距離においてブレーキシステムの最適な機能を提供するためにピストンポンプの漏出量が所定の値を有するか、もしくは所定の潤滑膜がシール面に塗布されている場合には特に有利である。さらに、車両ブレーキシステムにおける漏出量が高すぎる値をとることはなく、ひいては隣接した構成部分における機能損傷が防止される。
【0043】
次に本発明による解決方法の実施例を添付の概略的な図面に基づき詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明によるシールリングを示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図2の部分IIIを示す拡大断面図である。
【図4】図3の部分IVを示す拡大断面図である。
【図5】進出速度が一定であり、進入速度を変化させた場合の潤滑膜厚さ差を示すグラフである。
【図6】走行距離が変化した場合のシールリップの摩耗を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、内周面12および外周面14を備える本発明によるシールリング10を示す。内周面12に、シールリング10は、所定の輪郭部18を有するシールリップ16を備える(図2参照)。
【0046】
図2は、液圧式ピストンポンプの円筒状スペースの円筒状壁20とピストン22との間に配置されたシールリング10を示す。シールリング10は外周面14によって円筒状壁20の内周壁24に接触しており、シールリップ16の所定の輪郭部18によってピストン22の外周面26に接触している。ピストン22は円筒スペース内で往復運動可能に構成されており、シールリップ16と外周面26との間の接触面に、シールリング10のシールリップ16に対して移動可能なシール面28を形成している。ここでは、シールリング10は、流体を充填した圧力室30をシールしている。
【0047】
シールリップ16の輪郭部18は、ここではシール面28に対するシールリップ16の速度に適合されており、これにより、圧力室30から流体の所定の漏出量が得られるように調節されている。
【0048】
図3には、シールリップ16の輪郭部18が示されている。輪郭部18は2つの側面部32,34を備え、一方の側面部32は圧力室30に向いた側に配置されており、他方の側面部34は圧力室30に向いていない方の側に配置されている。2つの側面部32,34は、これら側面部が出合う頂点に領域36を形成している。この領域36は、シールリップ16と、ピストン22の外周面26もしくは限定的にシール面28との間の接触面を形成している。側面部32は、圧力室30に向いた側で、ここではシール面28と約55°〜約80°の角度αをなしている。これに対して、側面部34は、圧力室30に向いていない方の側でシール面28と約10°〜約25°の角度βをなしている。
【0049】
この場合、シールリング10には側面部32,34もしくは角度α,βが簡単に区別できるように視覚的な特徴を設けている。この視覚的特徴は、特定の色、特定の表面状態またはラベルであってもよい。
【0050】
シールリング10の全幅は、ピストン行程の0.1〜3倍である。
【0051】
シールリップ16の本発明による輪郭部18は、シールリング10が新しい状態で実施してもよいし、または隣接した構成部分による力作用によってはじめて調整されるようにしてもよい。
【0052】
図4には領域36が示されている。シールリップ16の輪郭部18は、左側から右側に続けて見た場合にこの領域36に第1区分38、第2区分40および第3区分を備える。第1区分38は、ここではシール面28に対して約0.02mm〜0.5mmの曲率半径で凸状に湾曲されており、第2区分40は実質的にシール面28に対して平行に約0.01mm〜約1mmの長さで延在しており、第3区分42は、シール面28に対して約0.07mm〜0.5mmの曲率半径で凸状に湾曲されている。
【0053】
シールリップ16の輪郭部18は、作動時にはピストン22の進入および進出速度が等しくなるように適合されており、円筒室へのピストン22の進入時に著しい漏出なしにシール面28でシールリング10の長い作動時間にわたり高いシール性を確保する。実質的にシール面28に対して平行に延在する第2区分40は、この区分40で生じ得る異物により輪郭部18が損傷された場合にシールリップ16のいわゆる「再生」を可能にする。
【0054】
シールリング10は、液圧式ブレーキ調整ユニット、ABSまたはESPシステムを有するブレーキシステムのような車両ブレーキシステムのためのピストンポンプで使用される。
【0055】
図5は、2本の軸を有するグラフを示し、垂直方向のy軸には潤滑膜厚さ差がnmで記録されており、水平方向のx軸には円筒スペース内へのピストン22の進入速度がmm/sで記録されている。
【0056】
潤滑膜厚さとは、ピストン22が円筒スペース内に進入する際に圧力室30に向かい合った側で拭い取られずに、圧力室30に還流される潤滑膜の厚さである。したがって、潤滑膜厚さ差とは、排出された潤滑膜と漏出量との差であり、ピストン22の進入および進出プロセス間における流体の還流量の大きさである。
【0057】
図5に示したグラフは、異なる輪郭部18を有する4つのシールリップ10について、ピストン22の進入速度が変化した場合の対応した潤滑膜厚さ差を再現している。この場合、ピストン22の進出速度は、常に300nm/sであり、圧力室30と圧力室30に向いていない方の側との間には20Mpaの差圧が生じる。
【0058】
曲線44は、面28との異なる角度α,βをなす2つの側面部32,34を備えるシールリップ16に関する。圧力室30に向いた側に配置された側面部32とシール面28との間の角度αは、ここでは約55°〜約80°である。これに対して、圧力室30に向いていない方の側に配置された側面部34とシール面28との間の角度βは約10°〜約25°である。
【0059】
曲線46は、曲線44で示したシールリップ16に関係しており、シールリップ16は、約810kmの走行距離後に摩耗を有し、いわゆる「半径」、すなわち、圧力室30に向いた側の側面部32と圧力室30に向いていない方の側の側面部34との間の区分が0.1mmとなっている。
【0060】
曲線48は、曲線44で示したシールリップ16に関係しており、シールリップ16は、約300kmの走行距離を走行した。シールリップ16は、約300kmの走行距離後に摩耗を有し、いわゆる「半径」、すなわち、圧力室30に向いた側の側面部32と圧力室30に向いていない方の側の側面部34との間の区分が0.01mmとなっている。
【0061】
曲線50は、曲線44で示したシールリップ16に関係しており、シールリップ16は、約200kmの走行距離を走行した。シールリップ16は、約200kmの走行距離後に摩耗を有し、いわゆる「半径」、すなわち、圧力室30に向いた側の側面部32と圧力室30に向いていない方の側の側面部34との間の区分が0.003mmとなっている。
【0062】
図6には、図5に示したシールリップ16の輪郭部18の変化を様々な走行距離について再現したグラフが示されている。垂直方向のy軸には、いわゆる「半径」、すなわち、圧力室30に向いた側の側面部32と圧力室30に向いていない方の側の側面部34との間の区分が記録されており、水平方向のx軸には、輪郭部18が縦断面に関して概略的に記録されている。
【0063】
曲線52は、図5に曲線44で示した新しい状態の輪郭部18を示す。曲線54は、図5に曲線50で示した200kmの走行距離後の輪郭部18を示す。曲線56は、図5に曲線48で示した300kmの走行距離後の輪郭部18を示す。曲線58は、400kmの走行距離後の輪郭部18を示し、曲線60は、図5に曲線46で示した810kmの走行距離後の輪郭部18を示す。
【0064】
図5の曲線44によれば、ピストン22の進入速度が進出速度に等しい場合、すなわち、300mm/sの場合、正の潤滑膜厚さ差、すなわち、流体の還流量が35nmの高さに調節されている。
【0065】
300kmの走行距離後のシールリップ16では(例えば、図6の曲線56)、シールリップ16の輪郭部18は、約0.01mmのいわゆる「半径」を有する。これにより、潤滑膜厚さ差は約6nmに低下する。すなわち、このような摩耗時には流体の当初の還流量の1/7のみとなる(図5の曲線48)。
【0066】
約800kmの走行距離のシールリング10のでは、いわゆる「半径」は0.1mmに増大するか、または摩耗により、シール面28に対して平行に、約0.02〜1mmの長さの区分40が形成される(図6の曲線60を参照)。この場合、潤滑膜厚さ差は、驚くべきことに再び30nmの高さの値に、すなわち、当初の値の約6/7に増大している(図5の曲線46参照)。
【0067】
まず300kmの走行時間で潤滑膜厚さ差が減少する初期作用は、圧力室30に向いた側の側面部32とシール面28とによって形成される角度αの変化に起因する。これに対して、約810kmの走行距離後の約30nmへの潤滑膜厚さ差の増大は、いわゆる「半径」の0.01mmから0.1mmへの増大に起因する。このような半径増大は、流体の還流量を増大させる役割を果たす。
【0068】
輪郭部18の変化もしくはシールリップ16の摩耗は、実質的に側面部32,34が出合う領域36で生じる。特に、圧力室30に向いた側の側面部32とシール面28とによって形成された角度αが変化する。圧力室30に向いていない方の側の側面部34とシール面28とによって形成された角度βは、シールリップ16の摩耗時に著しく変化しない(図6の曲線52,56,60参照)。
【0069】
さらに、図5には潤滑を行うための所望の漏出量の調節‐負の潤滑膜さ差‐を示している。所定の漏出量を得るためには、ピストン22の進入速度が進出速度よりも小さく調節されている。進入速度が進出速度よりも係数3だけ小さい場合、負の潤滑膜厚さ差はいわゆる「半径」、すなわち、圧力室30に向いた側の側面部32と圧力室30に向いていない方の側の側面部34との間の区分が約0.01mmの場合に既に得られる(曲線48)。これに対して、進入速度が進出速度よりも係数6だけ小さい場合には、負の潤滑膜厚さ差は、いわゆる「半径」、すなわち、圧力室30に向いた側の側面部32と圧力室30に向いていない方の側の側面部34との間の区分が約0.1mmの場合にようやく得られる(曲線46参照)。
【0070】
上記例示的値は、円筒スペース内のピストン22の行程距離、ピストン22の表面特性、温度条件、流体の種類および使用される物質などの多様なパラメータに関係しており、これらのパラメータによって影響される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールリップ(16)が輪郭部(18)によりシール面(28)に接触し、該シール面に対して移動可能である、流体によって満たされた圧力室(30)をシールするための、特に液圧式ピストンポンプ用のシールリング(10)において、
前記シールリップ(16)の前記輪郭部(18)が、前記シール面(28)に対する前記シールリップ(16)の速度に適合されており、これにより、前記圧力室(30)から流体の所定の漏出量が得られるように調節されていることを特徴とする、シールリング(10)。
【請求項2】
前記輪郭部(18)が、少なくとも1つの側面部(32,34)を備える、請求項1に記載のシールリング(10)。
【請求項3】
前記圧力室(30)に向いた方の側の側面部(32)が、前記シール面(28)と55°〜80°の角度(α)をなしている、請求項2に記載のシールリング(10)。
【請求項4】
前記圧力室(30)に向いていない方の側の側面部(34)が、前記シール面(28)と10°〜25°の角度(β)をなしている、請求項2または3に記載のシールリング(10)。
【請求項5】
前記輪郭部(18)が、0.02mm〜0.5mmの曲率半径を有する第1湾曲区分(38)と、実質的に前記シール面に対して平行に延在する0.01mm〜1mmの第2区分(40)と、0.07mm〜0.5mmの曲率半径を有する第3湾曲区分(42)とを備える、請求項1から4までのいずれか一項に記載のシールリング(10)。
【請求項6】
前記輪郭部(18)が、前記2つの側面部の間に0.08mm〜0.12mmの長さの区分を形成するように構成されている、請求項1から4までのいずれか一項に記載のシールリング(10)。
【請求項7】
液圧式ピストンポンプで所定の潤滑膜を生成するために使用することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載のシールリング(10)の使用法。
【請求項8】
シールリング(10)を製造して設け、
ピストン(22)、および円筒状壁(20)によって画成された円筒状スペースを設け、
前記ピストン(22)が円筒状スペース内で前進および後退可能となるようにピストン(22)を円筒状スペースに挿入し、
前記シールリング(10)のシールリップ(16)が輪郭部(18)によってシール面(28)に接触し、該シール面に対して移動できるように、前記ピストン(22)と前記円筒状壁(20)との間に前記シールリング(10)を挿入し、流体によって満たされた圧力室(30)をシールすることを含む、液圧式ピストンポンプを製造するための方法において、
前記ピストン(22)の後退速度よりも前進速度が小さい場合に前記シールリップ(16)と前記シール面(28)との間で流体に所定の潤滑膜厚さが形成されるように、前記シールリング(10)の製造時に輪郭部を調整する、液圧式ピストンポンプを製造するための方法。
【請求項9】
請求項1から6までのいずれか一項に記載のシールリング(10)を備えることを特徴とする、ピストンポンプ。
【請求項10】
請求項9に記載のピストンポンプを備えることを特徴とする、車両ブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−511014(P2013−511014A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539241(P2012−539241)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064129
【国際公開番号】WO2011/060984
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】