説明

現像ローラ、現像ローラの製造方法及び現像ローラ製造装置

【課題】凝集が起こりやすい塗工液を用いても、長期間に渡って、表面状態を良好に維持し得る現像ローラ、製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】通電性軸芯体と、該通電性軸芯体上に積層された導電性弾性層と、主材樹脂、導電材及び樹脂粒子を有し該導電性弾性層上に積層された被覆層とからなる現像ローラの製造方法であって、該樹脂粒子を有する被覆層用塗工液を目開き50μm以下のメッシュで濾過する濾過工程と、該濾過工程で得た塗工液を所定の目開きのフィルタを通過させながら循環させる循環工程と、該導電性弾性層を積層した該通電性軸芯体を、該循環工程にある塗工液中に浸漬し、乾燥させる浸漬乾燥工程と、を有し、該被覆層に含まれる該樹脂粒子の最大粒径は、該フィルタの該所定の目開きの1/3以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置に用いる現像ローラ及びその製造方法並びに現像ローラの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真部品として用いられる現像ローラは、多くの場合、感光体に対して均一に圧接ないしは当接させ、感光体との間に電圧を印加してトナーを感光体上に現像する目的で使用される。
【0003】
かかる目的のため、通常の現像ローラは、導電性支持体(芯金)上に、電子導電剤やイオン導電剤を分散含有し所望の抵抗値に調整した弾性層を有し、その外周に表面被覆層をさらに有する。表面被覆層としては、トナー帯電性や搬送性を確保するために、ポリアミド、ウレタンなどの表層結着樹脂中に、所望の導電性を付与する導電剤や、適宣表面粗さを確保する樹脂粒子を添加する場合が多い。また、現像ローラは、抵抗安定化や弾性層からのブリード成分の染み出しによる感光体汚染の防止のため、抵抗調整層(中間層)をさらに有する場合もある。
【0004】
現像ローラの被覆層を形成させる方法には、上述の樹脂や導電剤、樹脂粒子といった材料を混合、分散して塗工液を調製し、これをディッピングやスプレーコート、静電塗装等によって弾性体上に塗布する方法がある。なかでも、均一な被覆層を得ることに優れたディップ塗工が多く用いられる。
【0005】
このような塗工液を調製する際、外部環境又は容器や分散機中に混入していた異物を含んでしまうことがある。さらに、分散が不十分であったフィラーや、凝集塊などの成分が塗工液中に存在している可能性もある。このような成分は、被覆層中に混入して突起となると、画像として点として現れるばかりか、感光体やブレードに傷をつけてしまう恐れがある。
【0006】
この問題を解決する方法の一つとして、特許文献1は、芯材上に弾性体層を形成し、この弾性体層の表面にコート膜を有する帯電ロールを開示する。特許文献1は、開口部100μm以下のフィルタを使用して濾過処理された塗料を、温度0〜30℃、湿度80%RH以下の環境下で塗装することにより、良好なコート膜が形成されると述べる。
【0007】
しかしながら、この開口部の範囲に包含される目開き95μmのフィルタを通過させた塗工液を用いて、温度23℃、湿度45%RH環境下で浸漬塗工により現像ローラの被覆層を作製すると、出来上がったローラの被覆層に目視外観上は問題が無かったが、この現像ローラをプリンタカートリッジに組み込み、ハーフトーン画像を出図したところ、がさつきのある画像となって現れた。これは導電材や粗し粒子の凝集物や異物などの除去がこれでは不十分であったものと考えられる。
【0008】
また、特許文献2は、メッシュ径が40〜100μmの内部捕獲型のフィルタを用い、且つポンプで加圧しないで自重で磁性塗料を通過させ、その後、メッシュ径の細かい精密フィルタで濾過した後、基板に塗布を行なう磁性塗料の製造方法を開示し、これにより、ゲル状未分散物の除去を確実に行なうと述べる。しかしながら、このメッシュ径の範囲に包含される100μm径のメッシュを用いて、自重で濾過処理を行った塗工液を、目開き40μmのフィルタを組み込んだ循環式塗工機を用いて浸漬塗工を行い現像ローラの被覆層を作製したところ、完成した現像ローラの表面粗さが、塗工液の経時的な循環により減少するという問題が発生した。さらには、ローラの抵抗値も、塗工液の経時的な循環により上昇するという結果となった。これは、循環塗工機に設置されるフィルタの目開きに対して樹脂粒子の粒径が大きく、フィルタに樹脂粒子が引っ掛かることがあり、その結果フィルタの通過面積が狭くなるためにフィルタ前での液圧が高くなり、塗工液のフィラー成分の凝集が促進され、さらに凝集したフィラーがこのフィルタに捕捉されたため、次第に塗工液からフィラー成分が減少していき、表面粗さの低下や被覆層の抵抗値が上昇したものと考えられる。
【特許文献1】特開2003−223039号公報
【特許文献2】特公平7−11860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みなされたものであり、凝集が起こりやすい塗工液を用いても、長期間に渡って、表面状態を良好に維持し得る現像ローラの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、被覆層表面に異物や凝集物の付着による欠陥がなく、さらには凝集したフィラーがフィルタにより捕捉されて塗工液の変質を起こすことも無く、従って被覆層の粗さの変動も無く、抵抗値が上昇する問題の無い現像ローラ、現像ローラの製造方法及び現像ローラの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による現像ローラの製造方法は:
通電性軸芯体と、該通電性軸芯体上に積層された導電性弾性層と、主材樹脂、導電材及び樹脂粒子を有し該導電性弾性層上に積層された被覆層とからなる現像ローラの製造方法であって、
該樹脂粒子を有する被覆層用塗工液を目開き50μm以下のメッシュで濾過する濾過工程と、
該濾過工程で得た塗工液を所定の目開きのフィルタを通過させながら循環させる循環工程と、
該導電性弾性層を積層した該通電性軸芯体を、該循環工程にある塗工液中に浸漬し、乾燥させる浸漬乾燥工程と、
を有し、
該被覆層に含まれる該樹脂粒子の最大粒径は、該フィルタの該所定の目開きの1/3以下である
ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明による現像ローラは、上述の方法により製造された現像ローラであることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明による現像ローラの製造装置は:
通電性軸芯体と、該通電性軸芯体上に積層された導電性弾性層と、主材樹脂、導電材及び樹脂粒子を有し該導電性弾性層上に積層された被覆層とからなる現像ローラの製造装置であって、
該樹脂粒子を有する被覆層用塗工液を攪拌する攪拌タンクと、
該被覆層用塗工液中の不純物を除去するフィルタと、
該導電性弾性層上に該被覆層用塗工液を塗工する塗工槽と、
を有し、
該フィルタの目開きは、該被覆層に含まれる該樹脂粒子の最大粒径の3倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、浸漬塗工法によって現像ローラの被覆層を得る際に、塗工液を循環塗工機に挿入する前に適正なメッシュを用いて濾過を行なうこと、粘度又は比重調節機能を備えた循環塗工機を採用すること、循環塗工機中に適正なフィルタを取り付けることで、被覆層表面に異物や凝集物の付着による欠陥の無い現像ローラを長期間に渡って得ることができる。さらには凝集したフィラーがフィルタにより捕捉されて塗工液の変質を起こすことも無く、従って粗さの変動も無く、抵抗値が上昇する問題も無い被覆層を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(現像ローラ)
図1は、本発明による現像ローラの概念的断面図を示し、図2は、本発明による現像ローラの概念的側面断面図を示す。本発明による現像ローラは、通電性軸芯体aと、この通電性軸芯体a上に積層された導電性弾性層bと、導電性弾性層b上に積層された被覆層cとを有する。本発明による現像ローラは、複数の導電性弾性層bと複数の被覆層cとを有してもよく、いずれの場合も、現像ローラの最外層は、被覆層cを有する構成であればよい。
【0015】
(a)通電性軸芯体aについて
本発明に用いられる通電性軸芯体aは、通電性を有する材料であれば、種々の材料で形成されればよく、通電性軸芯体aの材料として、例えば、鉄、銅、ステンレス等の金属材料等が挙げられる。また、防錆や耐傷性付与を目的として、これらの金属表面は、メッキ処理などの被覆処理が施されてもよい。通電性軸芯体aの形状は、電子写真装置用の現像ローラに用い得る形状であれば特に制限されないが、円柱状、円筒状などが挙げられる。
【0016】
(b)弾性層について
弾性層(b)の具体的な材料としては、例えば、天然ゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、及びクロロプレンゴム(CR)等の合成ゴム、更にはポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂及びシリコーン樹脂等も挙げられる。なかでもセット性に優れたシリコーンゴムが好ましい。これにカーボンブラック、グラファイト及び導電性金属酸化物等の電子伝導機構を有する導電剤及びアルカリ金属塩や四級アンモニウム塩等のイオン伝導機構を有する導電剤を適宣添加し所望の抵抗を有するように調整してもよい。
【0017】
(c)被覆層について
被覆層(c)(表面層)となる主材樹脂には、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、スチレン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(SEBC)及びオレフィン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(CEBC)等が用いられる。ここで用いられる主材樹脂は、熱可塑性、熱硬化性のどちらであってもよい。これらの樹脂に静摩擦係数を小さくする目的でグラファイト、雲母、二硫化モリブデン及びフッ素樹脂粉末等の固体潤滑材、フッ素系界面活性剤、ワックス又はシリコーンオイル等を添加してもよい。また、被覆層に導電性を持たせるために、導電材を有する。この導電材としては、導電性を有する材料であれば本技術分野公知の種々の材料を用いればよく、例えば、導電性カーボン、グラファイト、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉、及び金属酸化物である導電性酸化錫や導電性チタンなどが挙げられる。さらに、耐磨耗性やトナー搬送性を得るために、例えば球形の樹脂粒子を有する。この粒子の例には、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン等が挙げられ、その平均粒径は、3〜30μmであることが好ましい。
【0018】
さらに、樹脂粒子の最大粒径の範囲は、循環塗工機中の異物等を除去するために設置されるフィルタの目開きの1/3以下である。球形樹脂粒子の径は通常ある分布幅を持っており、平均粒径からかけ離れた大粒径成分が微量含まれていることがあるため、この微量成分でもって樹脂粒子粒径とフィルタの目開きとの相関を見ても効果的ではない。そこで、本発明では、真の最大径ではなく、体積粒度分布で上位1%を棄却し、残りの分布をなす粒径のうちの最大の粒径(つまり前述している粒径)を最大粒径として、この最大粒径を規定することで、効果的な相関関係を見出した。樹脂粒子の最大粒径がフィルタの目開きの1/3より大きい場合には、樹脂粒子がフィルタの目に引っ掛かり易くなる。粒子が引っ掛かるとフィルタの通過面積が狭くなるため、塗工液が流れにくくなり、フィルタ手前での液圧が高くなる。液圧が高くなると、塗工液のフィラー成分の凝集が促進され、さらに凝集したフィラーはフィルタで捕捉されるため、塗工液からフィラー成分が次第に減少していき、樹脂粒子欠乏による表面粗さの低下や、導電剤欠乏による被覆層の抵抗値の上昇を招く。
【0019】
この樹脂粒子の最大粒径は、循環塗工機に設置するフィルタの目開きが、例えば105μmである場合、35μm以下であり、74μmである場合、24.7μm以下である。
【0020】
なお、本願において、樹脂粒子の最大粒径とは、上述の樹脂粒子の体積粒度分布測定における粒径のうち、全粒度分布に占める割合が上側1%となる粒径を言う。
【0021】
(本発明による現像ローラの製造方法及び現像ローラ製造装置)
次に、本発明による現像ローラ製造装置の構造/動作を参照しながら、本発明による現像ローラの製造方法を説明する。
【0022】
本発明による現像ローラ製造装置は、被覆層を形成させる被覆層用塗工液を貯留する塗工槽11と、被覆されるべき導電性弾性層を有する通電性軸芯体を支持し、塗工槽11に貯留された塗工液にローラを上下に昇降させ得る昇降機12と、被覆すべき塗工液を攪拌羽根15により攪拌する攪拌タンク14と、所望の濃度の塗工液を得るのに適当な希釈剤を保持する希釈用溶剤タンク13と、攪拌タンク14から塗工槽11へと被覆すべき塗工液を送給する循環ポンプ16と、塗工液中に含まれる不純物を除去するフィルタ18とを有する。この構成を概略的に示したのが図3である。なお、この装置には、循環ポンプ16から送られてくる塗工液の脈動を抑制し、及び塗工液中の空気を除去するエアーチャンバー17を設けてもよい。
【0023】
本発明による現像ローラを構成する被覆層の形成に用いる被覆層用塗工液は、上述の主材樹脂と、上述の導電材と、上述の樹脂粒子と、有機溶剤とを有する。この有機溶剤としては、塗工液を構成するその他の成分を分散させこの塗工液の塗工に適した粘度に調整し得るものであれば特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンのケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族類、酢酸エチル、n−酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、エチルセロソルブ、テトラヒドロピラン等のエーテル類が挙げられる。浸漬塗工により被覆層を形成する場合には、塗工液の粘度を1〜250mPa・sの範囲にすることが好ましいが、粘度は膜厚に大きく影響するため、5〜30mPa・sの範囲に調整することがさらに好ましい。
【0024】
分散が完了した被覆層用塗工液は、金属や合成繊維等のメッシュを通過し濾過される。このとき、メッシュの目開きは、50μm以下である。ここで言う目開きとは、格子状に織り込まれたメッシュの、正方形に配置した開口部の一辺の長さを指す。メッシュの目開きが樹脂粒子の最大粒径より小さい場合には、目開きより大きい粒子はすべて除去されてしまうため、所望の表面形状が得られず、本来望むべき表面粗さが得られなくなる。
【0025】
また、メッシュの目開きが50μmを超える場合には、濾過が不十分となり、異物や凝集物が被覆層中に混入してしまう。これら異物や凝集物が被覆層表面に突起として存在すると、画像として点として現れるばかりか、感光体やブレードに傷をつけてしまう。さらには濾過が不十分な場合には、目視外観上では良好な被覆層であっても、この現像ローラをプリンタカートリッジに組み込みハーフトーン画像を出図すると、均一なハーフトーン画像とならず、薄い下地に濃い色の斑点が多数存在するのが確認出来るほどにがさつきのある画像になってしまう。
【0026】
次に、上述の通りメッシュでろ過された被覆層用塗工液を、例えば図3に記載の現像ローラ製造装置に導入する。この装置中、塗工液は、攪拌タンク14中で攪拌羽根15により攪拌され、循環ポンプ16の動力でフィルタ18を介して塗工槽11に送給される。この塗工液は、塗工槽11の上部より常時オーバーフローしており、この塗工液は攪拌タンク14に戻る。塗工液は、このような循環を繰り返している。塗工槽11において、昇降機12に支持された導電性弾性層を有する通電性軸芯体は、この弾性層が塗工槽11中の塗工液に浸漬されるように、昇降機12を介して昇降される。
【0027】
希釈用溶剤タンク13には、上述の所望の濃度/特性の塗工液を得るのに適当な希釈剤を有する。この希釈剤は、上述の有機溶剤を用い得る他、塗工液の特性に影響を与えないものであれば特に制約はない。
【0028】
この装置におけるフィルタ18は、塗工液中の異物の除去を目的とし、この目的を達成し得る限り、上述の樹脂粒子の最大粒径の3倍以上の目開き(つまり、樹脂粒子の最大粒径がフィルタの目開きの1/3以下)を有すればよい。フィルタの目開きが大き過ぎる場合には、異物や凝集物の除去という本来の目的を果たさなくなり、塗工液の装置中での循環期間が長くなるに従い、被覆層表面の異物不良や電子写真上での画像の荒れが発生してしまう。フィルタの材質は、塗工液の物理的/化学的特性を変化させないものであれば特に制限はないが、例えば、金属製、ステンレス製、樹脂製、ガラス繊維製などが挙げられ、なかでも、目開きの均一性の点で、ステンレス製が好ましい。さらに市販されているフィルタは、目開きの大きいもので、ステンレス製で目開き100μm強、樹脂繊維製で200μm程度である。これらを用いても被覆層への異物の巻き込み及び電子写真上の画像障害は発生しなかったことから、フィルタ目開きに対して樹脂粒子の最大粒径が小さ過ぎる場合については問題が無いため規定しない。
【0029】
本発明による現像ローラの製造方法において、所望の目開きのフィルタを通過させた塗工液を用いて、導電性弾性層が外周に積層された通電性軸芯体に浸漬し、乾燥させる浸漬乾燥工程をさらに有する。図3において、昇降機12に支持された導電性弾性層を積層した通電性軸芯体は、塗工液の液面が軸芯体の所望の位置に到達するまで、塗工槽11に充填された塗工液に浸漬される。所定時間後、一定の引き上げ速度で、塗工液から軸芯体を引き上げ、さらに所定時間風乾させる。さらに、一定時間、熱などにより被覆層を硬化させることにより、本発明による現像ローラを得る。
【0030】
また、この浸漬乾燥工程は、温度15℃以上25℃以下で、且つ湿度60%RH以下の環境下で行われることが好ましい。温度が25℃を超える場合には、塗膜表面での乾燥が急速に起こるため、塗工膜の表面で液の対流による渦模様状のムラが発生することがある。また、温度が25℃を越える場合には、乾燥速度が速くより、浸漬槽からの塗工液の吸収が促進されるため、膜厚が厚くなる傾向があり、均一な膜厚を得ることが困難になる。また15℃未満の場合には湿度及び塗工液の液温にも因るが、塗膜表面に結露が発生し易くなる。また、湿度が60%を越えると、温度に拘わらず結露が発生し易くなり、不都合である。温度15℃以上、湿度60%RH以下であれば、結露の発生は起こりにくい。塗工液の液温に関しては、浸漬乾燥工程を行なう環境温度に合わせることが好ましい。塗工液の液温が高すぎる場合には、塗工液中の溶剤の揮発量が多くなるため、希釈に用いる溶剤使用量が多くなってしまう。有機溶剤での希釈は分散工程を経た塗工液に対してはフィラーが凝集する原因ともなるため、この条件は好ましくない。また液温が低すぎる場合には現像ローラ製造装置に結露が発生しやすく、もし水分が塗工液中に混入すると、塗工液の抵抗変化やフィラー成分の凝集を招くことがある。浸漬乾燥工程での環境温度と塗工液の液温の差が大きくなることに関しても、前述のような理由から好ましくない。浸漬乾燥工程での環境温度と、塗工液の液温の温度差は5℃以内であることが好ましい。
【0031】
さらには、塗工液中に浸漬させる導電性弾性層を有する通電性軸芯体は、浸漬塗工の前に、表面上の付着物除去が行なわれていることが好ましい。具体的には、水や溶剤を高圧で噴射したり、ワイパーやブラシを用いて弾性層表面に付着した異物を除去する。粘着テープで異物を圧転する方法もある。塗工液中に含まれる異物や凝集物を濾過し、塗工環境を整えたとしても、ローラ表面に異物を付着させたまま塗工してしまえば、結局は現像ローラの表面欠陥となってしまう。
【実施例】
【0032】
以下に、具体的な実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明する。なお、「部」は、「質量部」を意味する。
【0033】
(実施例1)
下記の要領で現像ローラを作製した。
<導電性弾性層の形成>
外径φ8mmの鉄製軸芯体(通電性軸芯体)を内径φ16mmの円筒状金型内に同心となるように設置し、液状導電性シリコーンゴム(東レダウコーニング社製、体積固有抵抗10Ωcm)を注型後、130℃のオーブンに入れ20分加熱成型し、脱型後、200℃のオーブンで4時間二次硬化を行い、通電性軸芯体上に膜厚4mm、長さ240mmの導電性弾性層を有するローラを得た。
【0034】
<被覆層用塗工液の調製>
ウレタン塗料(商品名:ニッポランN5033、日本ポリウレタン社製)を、固形分濃度10%となるようにメチルエチルケトンで希釈し、導電剤として上述のウレタン塗料の固形分100部に対して20部のカーボンブラック(商品名:MA77、三菱化学製)と、樹脂粒子として上述のウレタン塗料の固形分100部に対して15部の架橋ウレタン粒子(商品名:アートパールC400透明、根上工業製、体積平均径16μm、最大粒径28μm(COULTER COUNTER Multisizer3(BECKMAN社製))を用いて測定した体積粒度分布のうち、上側1%を棄却してなる粒度分布に対応する粒径のうち最大となる粒径をいう)とを添加した後、十分に分散したものに、上述のウレタン塗料の固形分100部に対し10部の硬化剤(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製)を添加し、さらに攪拌して塗工液を得た。塗工液の粘度が10mPa・s(回転式粘度計(VISMETRON VDA、芝浦システム製)、No.1ロータ、回転速度60rpm、測定温度22℃)となるように、この塗工液に、さらにメチルエチルケトンを添加した。その後、メッシュ380(商品名:N−No.380T、目開き:32μm、材質:ナイロン66、東京スクリーン製)を自重で通過されることにより、濾過して被覆層用塗工液を得た。
【0035】
<被覆層の形成>
上述の通り調製した被覆層用塗工液を、粘度調節機能を備えた循環式塗工機に装入して、粘度が10mPa・s、液温が22±1℃を保つように設定した。循環式塗工機内にあるフィルタには、ステンレス製で目開き105μmのもの(EM500−105T、SMC製)を用い、上述の被覆層用塗工液を、所定期間(1日間又は7日間)、循環式塗工機内を循環させた。上述の導電性弾性層を有するローラは、所定期間循環された被覆層用塗工液の液面に対してローラの通電性軸芯体の中心線が垂直になるように保持され、液面に向かって10mm/sの速度で垂直に降下させて浸漬し、最下点まで降下させた。その後、この位置でローラを10秒間停止させた後、初速度(引き上げ開始時の速度)を7mm/秒とし、この速度を一次的に減少させながら、最終的に導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点で5mm/sとなるように、上述のローラを被覆層用塗工液から引き上げた。
【0036】
このようにして形成された塗工膜を室温にて30分間風乾し、150℃のオーブンに入れ1時間加熱硬化して被覆層を形成させ、現像ローラを得た。
【0037】
(実施例2)
実施例1においてメッシュ380の代わりに、メッシュ305(商品名:N−No.305T、目開き:48μm、材質:ナイロン66、東京スクリーン製)を用いた以外は、実施例1と同様に現像ローラを作製した。
【0038】
(実施例3)
以下の要領で現像ローラを作製した。
<導電性弾性層の形成>
実施例1の手順により導電性弾性層を形成した。
【0039】
<被覆層用塗工液の調製>
ウレタン塗料(商品名:ニッポランN5033、日本ポリウレタン社製)を、固形分濃度10%となるようにメチルエチルケトンで希釈し、導電剤として上述のウレタン塗料の固形分100部に対して20部のカーボンブラック(商品名:MA77、三菱化学製)と、樹脂粒子として上述のウレタン塗料の固形分100部に対して30部の架橋ウレタン粒子(商品名:アートパールC600透明、根上工業製、体積平均径11μm、最大粒径18μm、体積粒度分布の測定及び最大粒径の規定は実施例1と同じ)とを添加した後、十分に分散したものに、上述のウレタン塗料の固形分100部に対し10部の硬化剤(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製)を添加し、さらに攪拌して塗工液を得た。塗工液の粘度が10mPa・s(回転式粘度計(VISMETRON VDA、芝浦システム製)、No.1ロータ、回転速度60rpm、測定温度22℃)となるように、この塗工液に、さらにメチルエチルケトンを添加した。その後、メッシュ305(商品名:N−No.305T、目開き:48μm、材質:ナイロン66、東京スクリーン製)を自重により通過、濾過して被覆層用塗工液を得た。
【0040】
<被覆層の形成>
上述の通り調製した被覆層用塗工液を、粘度調節機能を備えた循環式塗工機に装入して、粘度が10mPa・s、液温が22±1℃を保つように設定した。循環式塗工機内にあるフィルタは、ステンレス製で目開き105μmのもの(商品名:マイクロメッシュエレメントEM500−105T、SMC製)を用い、上述の被覆層用塗工液を、所定期間(1日間又は7日間)、循環式塗工機内を循環させた。上述の導電性弾性層を有するローラは、所定期間循環された被覆層用塗工液の液面に対してローラの通電性軸芯体の中心線が垂直になるように保持され、液面に向かって10mm/sの速度で垂直に降下させて浸漬し、最下点まで降下させた。その後、この位置でローラを10秒間停止させた後、初速度(引き上げ開始時の速度)を7mm/秒とし、この速度を一次的に減少させながら、最終的に導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点で3mm/sとなるように、上述のローラを被覆層用塗工液から引き上げた。
【0041】
このようにして形成された塗工膜を室温にて30分間風乾し、150℃のオーブンに入れ1時間加熱硬化して被覆層を形成させ、現像ローラを得た。
【0042】
(実施例4)
実施例3において、メッシュ305の代わりに、メッシュ380(商品名:N−No.380T、目開き:32μm、材質:ナイロン66、東京スクリーン製)を用い、循環塗工機内に設置したフィルタをステンレス製で目開き105μmのもの(EM500−105T、SMC製)の代わりに、目開き74μm(商品名:マイクロメッシュエレメントEM500−074T;SMC製)のフィルタを用いた以外は、実施例3と同様にして、現像ローラを作製した。
【0043】
(比較例1)
実施例1においてメッシュ380の代わりに、メッシュ270(商品名:N−No.270T、目開き:59μm、材質:ナイロン66、東京スクリーン製)を用いた以外は、実施例1と同様に現像ローラを作製した。
【0044】
(比較例2)
実施例1において、循環塗工機内に設置したフィルタをステンレス製で目開き105μmのもの(EM500−105T;SMC製)の代わりに、目開き74μm(EM500−074T;SMC製)のフィルタを用いた以外は、実施例1と同様にして、現像ローラを作製した。
【0045】
(比較例3)
実施例4において、メッシュ380の代わりに、メッシュ270(商品名:N−No.270T、目開き:59μm、材質:ナイロン66、東京スクリーン製)を用いた以外は、実施例4と同様に現像ローラを作製した。
【0046】
(比較例4)
実施例4において、目開き74μm(EM500−074T;SMC製)のフィルタの代わりに、目開き40μm(商品名:マイクロメッシュエレメントEM500−040T;SMC製)のフィルタを用いた以外は、実施例4と同様にして、現像ローラを作製した。
【0047】
このようにして得た各現像ローラは、以下の方法により、評価した。
【0048】
<ブツ発生率>
上述の通り得た各現像ローラ(各80本)について、その被覆層表面の概観を目視にて判断した。なお、被覆層表面に1箇所でも異物または凝集物が付着していたものは、不良品として扱った。
【0049】
<画像評価>
各現像ローラをプリンタカートリッジに組み込み、ハーフトーン画像を出図して得た画像を目視にて評価した。
【0050】
その他、不具合があった条件に関しては、表中に記載した。結果を以下の表1に示す。
【0051】
【表1】

※ ブツ発生率は、5%(4本/80本)未満の条件は良好、それ以上は問題ありと判断した。
【0052】
実施例1及び2と、実施例3及び4とでは異なる種類の樹脂粒子を使用したが、どちらも本発明に含まれる。表1の通り、いずれの条件においても良好な結果が得られ、電子写真画像による確認でも良好な画像を得た。また、各実施例に従って得た、1日間循環後に塗工したローラと、7日間循環後に塗工したローラとにおいて、その膜厚や抵抗値は、ほとんど変化しなかった。
【0053】
さらに、実施例2(樹脂粒子最大粒径=28μm、濾過メッシュ目開き48μm)及び実施例3(樹脂粒子最大粒径=18μm、濾過メッシュ目開き48μm)で得た被覆層用塗工液を、ポリプロピレン製で濾過精度200μmのフィルタ(NXT200−10U、日本ポール(株)製)を装着した循環式塗工機に装入し、1日間循環した塗工液と7日間循環した塗工液とで現像ローラの被覆層を作製した。循環式塗工機に装着してフィルタの目開きの径に対する樹脂粒子の最大径の割合(表1の(A)/(B)に相当する値)は、それぞれ0.14、0.09となり、共に本発明の範囲である1/3以下であった。また、これにより得た現像ローラは、目視外観でブツなどの不具合は発生せず、電子写真画像による確認を行なったところ、良好な画像を得た。
【0054】
一方、比較例1では、濾過メッシュの目開きが59μmの濾過メッシュを用いたところ、ブツの発生が80本塗工したうちの7本に達した。さらに目視外観で問題の無かったローラをプリンタカートリッジに組み込み、ハーフトーン画像を出図したところ、がさつきのある画像が現れた。
【0055】
比較例2では、最大粒径が28μmの樹脂粒子を有する塗工液を、上述の通り、目開きが74μmのフィルタを装着した循環式塗工機に装入して各評価を行った。なお、樹脂粒子の最大粒径/メッシュ目開き=0.38となり、本発明の範囲である1/3以下を満たさなかった。このとき、1日間循環した塗工液で作製した現像ローラと、7日間循環した現像ローラとを比較すると、7日間循環した塗工液にて被覆層を作製した現像ローラのほうが、1日間循環品に比べて表面粗さRa(サーフコーダSE3500;(株)小坂研究所製、送り速さ0.1mm/sec、測定長さ2.5mmでの測定)が約20%低くなり、またローラ抵抗値も約0.5桁高くなった。同時に、1日間循環した塗工液と7日間循環した塗工液において、ポリエステルシート(ルミラー;商品名−東レ製)上に125μmのウェット膜厚となるドクターブレードを用いて塗布し、これを常温のオーブンに入れてから140℃で2時間の加熱をおこない抵抗測定用の模擬被覆層を作製した。この模擬被覆層の表面抵抗を測定機(ハイレスタ;商品名−三菱化学製)で測定したところ、7日間循環した塗工液のほうが1日間循環品に比べて約1桁抵抗が高くなった。これは樹脂粒子の最大粒径に対してフィルタの目開きが小さく、塗工液中のフィラーの凝集物が早い段階でフィルタの目を塞いでしまったために、塗工液が流れにくくなり、ポンプからフィルタの間での液圧が高くなってさらに凝集が促進した結果、塗工液中の導電材を含む固形分が減少してしまい、表面粗さの低下や高抵抗化を招いたものと考えられる。結果、電子写真画像評価において、7日間循環した塗工液で作製した現像ローラは濃度が低くなっていた。
【0056】
比較例3では、目開きが59μmの濾過メッシュを用いたところ、ブツの発生が80本塗工したうち9本に達した。さらに現像ローラの出図テストにおいても比較例1と同様にがさつきのある画像が現れた。
【0057】
比較例4では、最大粒径が18μmの樹脂粒子を有する塗工液を、上述の通り、目開きが40μmのフィルタを装着した循環式塗工機に装入して各評価を行った。なお、樹脂粒子の最大粒径/メッシュ目開き=0.45となり、本発明の範囲である1/3以下を満たさなかった。その結果、1日間循環した塗工液で作製した現像ローラと、7日間循環した現像ローラとを比較すると、7日間循環した塗工液にて被覆層を作製した現像ローラのほうが、1日間循環品に比べて表面粗さRaが約20%低くなり、またローラ抵抗値も約0.5桁高くなった。模擬被覆層の表面抵抗も、7日間循環した液のほうが1日間循環品に比べて約1桁抵抗が高くなっていた。画像評価の結果も、比較例2と同様に濃度が低くなっていた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明による現像ローラの概念的断面図である。
【図2】本発明による現像ローラの概念的側面断面図である。
【図3】本発明による現像ローラ製造装置の概略図である。
【符号の説明】
【0059】
a 通電性軸芯体
b 導電性弾性層
c 被覆層
11 塗工槽
12 昇降機
13 希釈用溶剤タンク
14 攪拌タンク
15 攪拌羽根
16 循環ポンプ
17 エアーチャンバー
18 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電性軸芯体と、該通電性軸芯体上に積層された導電性弾性層と、主材樹脂、導電材及び樹脂粒子を有し該導電性弾性層上に積層された被覆層とからなる現像ローラの製造方法であって、
該樹脂粒子を有する被覆層用塗工液を目開き50μm以下のメッシュで濾過する濾過工程と、
該濾過工程で得た塗工液を所定の目開きのフィルタを通過させながら循環させる循環工程と、
該導電性弾性層を積層した該通電性軸芯体を、該循環工程にある塗工液中に浸漬し、乾燥させる浸漬乾燥工程と、
を有し、
該被覆層に含まれる該樹脂粒子の最大粒径は、該フィルタの該所定の目開きの1/3以下である
ことを特徴とする現像ローラの製造方法。
【請求項2】
前記浸漬乾燥工程は、15℃以上25℃以下で、且つ湿度60%RH以下の環境下で行なわれる、請求項1に記載の現像ローラの製造方法。
【請求項3】
前記浸漬乾燥工程の前に、前記導電性弾性層の表面の付着物を除去する除去工程をさらに有する、請求項1又は2に記載の現像ローラの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の現像ローラの製造方法により得たことを特徴とする現像ローラ。
【請求項5】
通電性軸芯体と、該通電性軸芯体上に積層された導電性弾性層と、主材樹脂、導電材及び樹脂粒子を有し該導電性弾性層上に積層された被覆層とからなる現像ローラの製造装置であって、
該樹脂粒子を有する被覆層用塗工液を攪拌する攪拌タンクと、
該被覆層用塗工液中の不純物を除去するフィルタと、
該導電性弾性層上に該被覆層用塗工液を塗工する塗工槽と、
を有し、
該フィルタの目開きは、該被覆層に含まれる該樹脂粒子の最大粒径の3倍以上であることを特徴とする現像ローラ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−94106(P2007−94106A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284542(P2005−284542)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】