説明

現像装置および画像形成装置

【課題】現像剤を供給する現像装置において、現像剤保持体の表面に設けた溝部に保持される現像剤に対し、像保持体に形成される画像を乱す程の過度な電圧が印加されることを抑止する。
【解決手段】現像スリーブ650は、回転軸に垂直な断面においてV字型の形状をしている溝部651を有する。各溝部651の内壁面から中心軸650Cへ向かう方向の材質(以下、材質M1という)は、外周面650Sから中心軸650Cへ向かう方向の材質(以下、材質M0という)と異なっている。材質M0の電気抵抗は、現像剤のキャリアの電気抵抗よりも低く、材質M1の電気抵抗は、現像剤のキャリアの電気抵抗よりも高くなるように、それぞれの材質が選択されている。なお、現像剤のキャリアの電気抵抗は108Ω以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現像装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置において、磁性キャリアとトナーを含んだ二成分現像剤に対してマグネットローラが磁力を与えることで、磁性キャリアが磁力線に沿って配列され、現像剤を保持する現像剤保持体としての現像スリーブ上に、現像剤の束が立ち上がる現象が生じる。このような現像剤の束を磁性ブラシと呼んでいる。この磁性ブラシは、現像スリーブの回転に伴って感光体ドラム等の像保持体に接触してトナーを供給する。特許文献1には、現像スリーブに溝部を設けて、キャリアに現像スリーブに対する付着力を与える技術が開示されている。特許文献2には、現像スリーブに設けた溝部にキャリアがつまらないように、その溝部の形状を制限することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭61−30271号公報
【特許文献2】特開2004−21043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は磁性体付着の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本願の請求項1に係る現像装置は、磁界を発生させる磁界発生手段と、前記磁界発生手段の周囲を覆い、電圧が印加されて回転する筒状の現像剤保持体であって、回転軸方向に延びる複数の溝部を外周面に有し、前記磁界発生手段によって発生させられた磁界により、磁性体を含む現像剤を外周面に保持して、静電潜像を保持する像保持体に前記現像剤を供給する現像剤保持体とを具備し、前記溝部の表面における電気抵抗は、前記現像剤に含まれる磁性体の電気抵抗よりも高いことを特徴とする。
【0006】
また、本願の請求項2に係る現像装置は、請求項1に記載の態様において、前記現像剤保持体の表面のうち、前記溝部以外の部分の表面は、前記溝部の表面よりも滑らかであることを特徴とする。
【0007】
また、本願の請求項3に係る現像装置は、請求項1または2に記載の態様において、前記現像剤保持体に電圧が印加されると、前記溝部以外に保持された現像剤に対する印加電圧は、当該溝部に保持された現像剤に対する印加電圧よりも速く変化することを特徴とする。
【0008】
また、本願の請求項4に係る現像装置は、請求項1から3のいずれかに記載の態様において、前記現像剤保持体の表面のうち、前記溝部以外の部分の表面における電気抵抗は、前記溝部の表面における電気抵抗よりも低いことを特徴とする。
【0009】
また、本願の請求項5に係る画像形成装置は、請求項1から4のいずれかに記載の現像装置と、静電潜像を保持し、前記現像装置から前記現像剤を供給される像保持体と、前記現像装置から供給された現像剤で現像された像を前記像保持体から記録媒体に転写する転写手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願の請求項1に係る現像装置によれば、本構成を有しない場合に比べて、磁性体付着の発生を抑制することができる。
本願の請求項2に係る現像装置によれば、本構成を有さない場合に比べ、現像剤保持体外周面の現像剤の搬送性の変動を抑制することができる。
本願の請求項3、4に係る現像装置によれば、溝部に保持された現像剤に比べ、溝部以外の部分に保持される現像剤が予め定められた電圧に到達する速度が向上する。
本願の請求項5に係る画像形成装置によれば、現像剤保持体に設けた溝部の電気抵抗が、現像剤に含まれる磁性体の電気抵抗よりも低い場合に比べて、磁性体付着の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置の全体構成を示した概略図である。
【図2】画像形成部の構成を示した図である。
【図3】転写ユニットの構成を示した図である。
【図4】各色ごとに設けられた現像装置の内部構成を示す概略構成図である。
【図5】現像スリーブを拡大した図である。
【図6】現像スリーブから感光体ドラムへトナーが供給されるときの動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による実施形態を説明する。
ここでは、本発明の実施の一態様として、中間転写ベルトと、複数の像保持体を直列に配置した、いわゆるタンデムエンジンを備えた電子写真方式のプリンタ(画像形成装置)を例示して説明するが、本発明はこの態様に限定されるものではない。
【0013】
1 構成
(1)画像形成装置の全体構成
図1は、本発明の実施形態に係る画像形成装置100の全体構成を示した概略図である。同図に示すように、画像形成装置100は、制御部10と、記憶部20と、通信部30と、操作部40と、画像形成部50とを備えている。
【0014】
制御部10はCPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等(いずれも図示せず)を備えた演算装置である。制御部10は、ROMに記憶されたプログラムをRAMに読み込んで実行することによって画像形成装置100各部の動作を制御する。
記憶部20はHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であり、画像を表す画像データ等、画像形成に用いられる各種データが記憶される。
通信部30は、デジタルスチルカメラ、パーソナルコンピュータおよびスキャナ等の外部装置と画像データの授受を行うためのインターフェース装置である。
操作部40は、タッチパネルを備えた入力装置であり、画像形成に関する各種の情報を表示させると共にユーザからの指示を受けて指示情報を出力する。
画像形成部50は、通信部30を介して入力された画像データに基づいた画像をシート状の記録材(以下、「記録用紙」という)に形成する。この記録用紙には、いわゆる普通紙を始め、表面に樹脂等のコーティングが施された紙や紙以外の材質の記録材が含まれる。この画像形成部50は、具体的には以下の構成を備えている。
【0015】
(2)画像形成部の構成
図2は、画像形成部50の構成を示した図である。なお、同図において、二点鎖線は記録用紙の搬送経路を示している。画像形成部50は、複数の給紙トレイ501と、複数の用紙搬送ロール502と、露光装置503と、転写ユニット504Y,504M,504C,504Kと、中間転写ベルト505と、複数のベルト搬送ロール506と、二次転写ロール507と、バックアップロール508と、定着装置509と、排出口510と、排出用紙受511と、を備える。
【0016】
給紙トレイ501はそれぞれ予め定めた種類およびサイズを有する記録用紙を収容し、制御部10に指示されたタイミングで記録用紙を供給する。用紙搬送ロール502は給紙トレイ501により供給された記録用紙を二次転写ロール507とバックアップロール508とにより形成されるニップ領域に搬送する。露光装置503はレーザ発光源やポリゴンミラー等(いずれも図示せず)を備え、画像データに応じたレーザ光を転写ユニット504Y,504M,504C,504Kに向けて照射する。
【0017】
転写ユニット504Y、504M、504C、504Kは、それぞれ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)およびブラック(K)のカラートナーを用いて画像を形成し、これを中間転写ベルト505に転写するものである。転写ユニット504Y,504M,504C,504Kのそれぞれは、用いるトナーが異なるのみであって、その構成に大きな差異はない。以下、特に区別する必要がない場合には、トナーの色を示す符号末尾のアルファベットを省略して「転写ユニット504」とする。転写ユニット504の詳細は後述する。
【0018】
中間転写ベルト505は無端のベルト部材であり、ベルト搬送ロール506はこの中間転写ベルト505を張架する。ベルト搬送ロール506の少なくとも1つには駆動部(図示せず)が備えられており、中間転写ベルト505を図中の矢印Bの方向に移動させる。なお、駆動部を有さないベルト搬送ロール506は中間転写ベルト505の移動に従動して回転する。中間転写ベルト505が図中の矢印Bの方向に移動して回転することにより、転写ユニット504が転写した画像は二次転写ロール507とバックアップロール508とにより形成されるニップ領域に移動される。
【0019】
二次転写ロール507およびバックアップロール508は、中間転写ベルト505が記録用紙と対向する位置において予め定めた電位差を生じさせ、この電位差によって記録用紙に画像を転写させる。定着装置509は加熱ロール5091と加圧ロール5092とを備えており、これらのロール部材により記録用紙を加熱および加圧することで記録用紙に転写された画像を定着させる。画像が定着された記録用紙は、用紙搬送ロール502によって排出口510に導かれ、排出用紙受511に積み重ねられる。
【0020】
(3)転写ユニットの構成
図3は、転写ユニット504の構成を示した図である。同図に示すように、転写ユニット504は、感光体ドラム5041と、ローラ型帯電装置5042と、現像装置61と、一次転写ロール5044と、ドラムクリーナ5045と、除電装置5046を備えている。感光体ドラム5041は電荷発生層や電荷輸送層を有する像保持体であり、図示しない駆動部により図中の矢印Aの方向に回転させられる。ローラ型帯電装置5042は感光体ドラム5041表面を帯電させる。露光装置503は、制御部10の制御の下、記憶部20から読み出した画像データに応じて、感光体ドラム5041の表面の一部を露光する。その結果、露光された部分(以下、被露光部という)の電荷が変化し、感光体ドラム5041の表面に潜像が形成される。被露光部の電荷は、これ以外の部分よりも正に帯電する。現像装置61はY,M,C,Kのいずれかの色のトナーと、フェライト粉などの磁性キャリアを含む二成分現像剤を収容する。
【0021】
図4は各色ごとに設けられた現像装置61の内部構成を示す概略構成図である。各現像装置61は、現像ローラ65、現像剤攪拌搬送部材としてのスクリュ68、現像剤規制部材としての現像ドクタ73、現像ケーシング70、及び現像カバー70a等により構成されている。
各現像装置61は、磁性体であるキャリアと非磁性体であるトナーとを含む二成分現像剤(以下「現像剤」という)を使用する。そして、各現像装置61はその現像剤を攪拌しながら搬送して現像ローラ65に現像剤を供給付着させる攪拌部66と、その現像ローラ65に保持された現像剤のうちのトナーを感光体ドラム5041に転移させて現像を行う現像部67とで構成されている。攪拌部66は現像部67より低い位置にあり、この攪拌部66には平行な2本のスクリュ68が設けられている。2本のスクリュ68の間は、両端部を除いて仕切り板69で仕切られている。また、現像ケーシング70にはトナー濃度センサ71が取り付けられている。
【0022】
現像部67には、現像ケーシング70の開口を通して感光体ドラム5041と対向するように現像ローラ65が設けられている。この現像ローラ65は、磁界を発生させる磁界発生手段としてのマグネットローラ72と現像剤保持体としての現像スリーブ650から構成されている。マグネットローラ72は現像スリーブ650の内部に固定され、予め定められた角度位置に軸方向に沿って複数の磁極が形成されている。現像スリーブ650上の現像剤に対して、マグネットローラ72の磁極に応じた場所を通過するときに磁力が作用する。
【0023】
現像スリーブ650は、非磁性のスリーブであり、マグネットローラ72の外周面の周囲を覆い、電圧が印加されて回転する筒状の現像剤保持体である。この現像スリーブ650が、図示しない駆動部により図中の矢印Dの方向(以下、現像剤搬送方向という)に回転させられることによって、マグネットローラ72から磁力の作用を受けた現像剤が搬送される。マグネットローラ72の磁極配置と現像剤規制部材(現像ドクタ)により、現像剤搬送方向上流側に現像剤の滞留保持部を形成し、現像剤の摩擦帯電を促進している。この現像剤規制部材の先端付近には磁性体が設置されており、現像ローラ対向磁力の方向性を均一化して、搬送量のバラツキを抑えている。
【0024】
2本のスクリュ68は、現像剤を攪拌しながら搬送循環し、現像スリーブ650に供給する。供給されたこの現像剤は、マグネットローラ72が与える磁力により磁力線に沿って束状に配列していわゆる磁気ブラシを形成する。このように形成された磁気ブラシは、現像スリーブ650上に保持され、現像スリーブ650の回転とともに、現像ドクタ73が設けられた位置に移動する。そして、この磁気ブラシは、現像ドクタ73によって先端部分が切り落とされ、適正な量に調整される。ここで、適正な量とは、現像スリーブ650と感光体ドラム5041との間で現像剤が密集した状態となり得る程度に予め定められた量である。切り落とされた先端部分の現像剤は、攪拌部66に戻される。
【0025】
現像スリーブ650には、不図示の電源から予め定めた現像バイアス電圧が印加されている。この現像バイアス電圧は一例として、−600Vの直流電圧に、周波数が1kHz、交流成分振幅が1.0kV、デューティ比70%の交流電圧を重畳した電圧である。
【0026】
現像スリーブ650上の現像剤のうちトナーは、現像スリーブ650に印加されている現像バイアス電圧により負に帯電する。そして、感光体ドラム5041のうち正に帯電している被露光部に転移してその感光体ドラム5041上の潜像を可視像化する。可視像化の後、現像スリーブ650上に残った現像剤は、マグネットローラ72の磁力が他の部分に比べて低いところで現像スリーブ650から離れて攪拌部66に戻る。この繰り返しにより、攪拌部66内のトナー濃度が薄くなると、それをトナー濃度センサ71で検知して攪拌部66にトナーが補給される。すなわち、現像スリーブ650は、磁界発生手段の周囲を覆い、電圧が印加されて回転する筒状の現像剤保持体であって、回転軸方向に延びる複数の溝部を外周面に有し、磁界発生手段によって発生させられた磁界により、磁性体を含む現像剤を外周面に保持して、静電潜像を保持する像保持体に現像剤を供給する現像剤保持体の一例である。
【0027】
図3に戻って説明を続ける。一次転写ロール5044は中間転写ベルト505が感光体ドラム5041と対向する位置において予め定めた電位差を生じさせ、この電位差によって中間転写ベルト505に画像を転写する。ドラムクリーナ5045は、画像の転写後に感光体ドラム5041表面に残留している未転写のトナーを取り除く。除電装置5046は感光体ドラム5041表面を除電する。即ち、ドラムクリーナ5045および除電装置5046は、次の画像形成に備えて、感光体ドラム5041から不要なトナーや電荷を除去するものである。
【0028】
なお、感光体ドラム5041の直径は30mm、感光体ドラム5041の表面の速度(以下、ドラム表面速度という)が240mm/秒、現像スリーブ650の直径は18mm、現像スリーブ650の表面の速度(以下、スリーブ表面速度という)は600mm/秒、感光体ドラム5041と現像スリーブ650との間の最も短い距離(以下、現像ギャップという)は0.4mmである。
【0029】
(4)現像スリーブの構成
図5は、現像スリーブ650の表面近傍を拡大した断面図である。同図に示すように、現像スリーブ650の表面には、回転軸に垂直な断面においてV字型の形状をしている溝部651が設けられている。各溝部651の内壁面のうち現像スリーブ表面移動方向(図中E方向)の上流側に位置する内壁面を上流側内壁面651Aという。各溝部651の下流側に位置する内壁面を下流側内壁面651Bという。上流側内壁面651Aと、溝部651の頂部651Cを通り現像スリーブ表面移動方向に垂直な仮想平面650Pとの間に形成される傾斜角度αは45°以上かつ60°以下となっている。
【0030】
また、下流側内壁面651Bと、仮想平面650Pとの間に形成される傾斜角度βは0°以上となっている。なお、仮想平面650Pは、現像スリーブ650が円筒状の部材である場合、溝部651の頂部651Cと現像スリーブ650の中心軸650Cとを結ぶ仮想平面ということもできる。そして、溝部651の深さは0.1mmである。すなわち、頂部651Cは、現像スリーブ650の溝部651以外の外周面650Sよりも現像スリーブ650の中心軸650Cに0.1mm近い。
【0031】
外周面650Sは、感光体ドラム5041の外周面と最近接する部分であり、現像ニップ部(現像領域)は現像剤とのパッキング状態での擦れが生じている。そのため、現像スリーブ650の外周面650Sは摩耗を招き易い。そこで、現像スリーブ650の溝部651以外の外周面650Sの表面粗さは、JIS B0601 の平均粗さRaで0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.05μm以下が好ましい。この場合、現像スリーブ650の外周面650Sの摩耗による経持における搬送性の変動を防ぐことができる。なお、現像スリーブ650の溝部651の上流側内壁面651A、下流側内壁面651Bは感光体ドラム5041の外周面に対して角度を持っているため、パッキング状態での擦れは無く、表面の摩耗が発生しにくい。
【0032】
各溝部651の内壁面の材質(以下、材質M1という)は、外周面650Sの材質(以下、材質M0という)と異なっている。材質M0の電気抵抗は、現像剤のキャリアの電気抵抗よりも低く、材質M1の電気抵抗は、現像剤のキャリアの電気抵抗よりも高くなるように、それぞれの材質が選択されている。すなわち、溝部の表面における電気抵抗は、現像剤に含まれるキャリアの電気抵抗よりも高い。なお、現像剤のキャリアの電気抵抗は108Ω以下である。ただし、この測定は以下のように行う。
【0033】
まず、感光体ドラム5041の表面に電極を張り、現像剤層の形成された現像スリーブ650を実機と同じ現像ギャップ=0.4mmの間隔で、上記の感光体ドラム5041の表面に近接させ、静止状態で400Vの電圧を印加する。このとき、感光体に流れる電流を測定する。なお、測定は実機を用いるため測定時において、感光体ドラム5041の直径は30mmであり、現像スリーブ650の直径は18mmである。また、現像スリーブ650上の現像剤量は430g/m2(すなわち、1平方メートル当たりの現像剤の重量が430g)である。
【0034】
上述した感光体ドラム5041の表面と現像スリーブ650とが近接した間の領域(以下、ニップ領域という)では、現像剤層がつぶされており、外周面650Sから電流が流れるため、溝部651の抵抗は関係なく、現像剤そのものの抵抗を求めることができる。
【0035】
ここで、予め定めた電圧を現像スリーブ650に印加したときに、印加を開始した瞬間から、現像スリーブ650上に形成・保持される磁気ブラシの先端の、現像スリーブ650に対する電圧が、上記電圧のうち直流電圧に対して或る割合を乗じた電圧に到達するまでの時間を時定数という。この時定数は、キャリアの電気抵抗、静電容量、および粒形で定まる。ここでは上述したように、現像バイアス電圧のうち直流電圧は−600Vであり、その80%である−480Vという電圧に磁気ブラシの先端が到達する時間である時定数は2msecである。なお「1msec」とは1000分の1秒を意味する。
【0036】
また、溝部651から延びている磁気ブラシの場合は、溝部651の材質が上述したように、電気抵抗がキャリアの電気抵抗よりも高いため電荷が伝わり難い。そのため、溝部651から延びている磁気ブラシの時定数は、上述の外周面650Sから延びている磁気ブラシの時定数よりも大きな値である。すなわち、溝部651から延びている磁気ブラシは、外周面650Sから延びている磁気ブラシと比較して、その先端が予め定めた電圧に到達するまで長い時間がかかる。言い換えると、現像スリーブ650に電圧が印加されると、溝部651以外である外周面650Sに保持された現像剤に対する印加電圧は、溝部651に保持された現像剤に対する印加電圧よりも速く変化する。
【0037】
2 動作
図6は、画像形成装置100において、現像スリーブ650から感光体ドラム5041へトナーが供給されるときの動作を説明するための図である。同図に示すように、感光体ドラム5041は、240mm/秒のドラム表面速度で矢印A方向に回転しており、現像スリーブ650は、600mm/秒のスリーブ表面速度で矢印D方向に回転している。また、同図に示す現像剤の集合R1は、磁気ブラシである。この磁気ブラシは、現像ドクタ73により搬送量が調整され、現像スリーブ650の表面に保持されている。現像スリーブ650の溝部651以外の外周面650Sは、溝部651の内壁面と比較して滑らかであるため、現像剤と外周面650Sとの間に働く摩擦力は比較的低い。そのため、現像剤は現像スリーブ650の回転に伴って滑り易く、外周面650S上には、磁気ブラシが成長し難い。一方、現像スリーブ650の溝部651のうち、上流側内壁面651Aの法線ベクトルは、現像スリーブ650の回転方向と同じ方向を方向成分として有している。そのため、上流側内壁面651Aに保持された現像剤は、この法線ベクトルに沿った抗力を受けつつ、図中の矢印D方向に回転するため、溝部651の内壁面近傍に留まり易い。つまり、上流側内壁面651A上には、磁気ブラシが成長し易い。従って、同図に示すように、磁気ブラシは、感光体ドラム5041に接触する前の領域(以下、接触前領域という)において、主に溝部651から現像スリーブ650の径方向に延びて成長する。
【0038】
この溝部651を形成する材質M1は現像剤のキャリアよりも高い電気抵抗を有するから、溝部651に成長した磁気ブラシの時定数は大きく、外周面650S上に成長した磁気ブラシに比べて、現像スリーブ650の径方向に向かって緩やかに電圧が変化している。そのため、溝部651に成長した磁気ブラシが接触前領域において感光体ドラム5041の像形成部から受けるクーロン力は抑制され、その結果、接触前領域においてキャリアが感光体ドラム5041に向かって飛翔する、いわゆるキャリア付着(BCO:Beads Carry Over)という現象は生じ難い。
【0039】
一方、磁気ブラシが感光体ドラム5041に接触する領域においては、同図に示すように、磁気ブラシは崩され、現像剤が密集した状態となる。その結果、領域Qにおいて図示しているように、現像剤が現像スリーブ650の外周面650Sに接触する。外周面650Sを形成する材質M0は、現像剤のキャリアよりも電気抵抗が低く、この外周面650Sから延びる磁気ブラシの時定数は、上述したとおり、溝部651から延びている磁気ブラシよりもはるかに小さい。従って、感光体ドラム5041に接触中の磁気ブラシの先端は、感光体ドラム5041に接触する前よりも速く、予め定めた電圧に到達する。
【0040】
その後、磁気ブラシは感光体ドラム5041から離れるが、この磁気ブラシの電圧は感光体ドラム5041と接触しているときに素早く変化している。例えば、外周面650Sから延びる磁気ブラシの時定数は、上述したとおり、2msecであり、スリーブ表面速度が600mm/秒であるから、外周面650Sから延びる磁気ブラシの先端には、現像スリーブ650が1.2mmだけ回転移動する間に現像バイアス電圧の80%が印加されることとなる。現像スリーブ650の直径は18mmであり、外周は約57mmであるから、この1.2mmという距離は、現像スリーブ650の外周の約2%に過ぎない。そのため、感光体ドラム5041から離れた直後の磁気ブラシは、溝部651から延びているものであっても、現像バイアス電圧に近い電圧となっている。
【0041】
キャリアに付着していたトナーが感光体ドラム5041に移行することによって、そのキャリアには、いわゆるカウンターチャージと呼ばれる、トナーと反対の電荷が生じる現象が見られることがある。そして、接触後の磁気ブラシにカウンターチャージが生じると、一旦、感光体ドラム5041に移行したトナーがそのカウンターチャージに引き寄せられて戻るという、いわゆるスタベーションと呼ばれる現象が生じ、画像の一部が白く欠けるというように、像保持体に形成された画像が乱されることがある。
上述のように接触後の磁気ブラシの電圧は現像バイアス電圧に近い電圧となっており、接触後の磁気ブラシにカウンターチャージは生じ難くなっているから、像保持体に形成された画像が乱される可能性は小さくなる。
【0042】
3 変形例
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
(1)上述の実施形態において、現像スリーブ650に設けた溝部651は、回転軸、すなわち、現像スリーブ650の中心軸650Cに垂直な断面においてV字型の形状をした溝であったが、溝部の形状はこれに限られない。例えば、この溝の上記断面における形状は、矩形や台形等であってもよい。
【0043】
(2)上述の実施形態において、現像剤のキャリアよりも電気抵抗が高い材質M1が、現像スリーブ650に設けた溝部651の内壁面の材質として用いられていたが、溝部651の内壁面から中心軸650Cへ向かう方向の全てが材質M1であってもよい。要するに、現像スリーブ650に現像バイアス電圧を印加したときに、溝部651の内壁面に保持される現像剤へ電気が流入する途中の材質として、この材質M1が用いられていればよい。
【0044】
(3)上述の実施形態において、現像スリーブ650の製造方法については、特に言及しなかったが、現像スリーブ650は、表面にアルミニウムの陽極酸化皮膜を形成した後に、センターレス研磨等により回転研磨されて形成されてもよい。これにより、化学的に安定した現像剤保持体が比較的安価に製造される。また、溝部651に形成された上記の陽極酸化皮膜は、研磨されないようにしつつ、外周面650Sに形成された陽極酸化皮膜だけ研磨することで、両者の導電性は異なるように製造され得る。
【0045】
なお、このように現像スリーブ650が製造される場合において、外周面650Sを研磨して導電層を出す工程の前には、外周面650Sと溝部651に同じ抵抗層ができているので、この段階で上述の電圧を印加すれば、溝部651の抵抗が求まる。
【0046】
(4)上述の実施形態において、現像剤のキャリアの電気抵抗は108Ω以下としたが、現像剤のキャリアの電気抵抗は108Ωより高くてもよい。ただし、電圧印加に必要な電力を抑制し、かつ、キャリア付着等による画像の乱れを抑制しやすくなるため、現像剤のキャリアの電気抵抗は108Ω以下とすることが望ましい。
【0047】
(5)上述の実施形態において、外周面650Sの材質である材質M0の電気抵抗は、現像剤のキャリアの電気抵抗よりも低く、溝部651の内壁面の材質である材質M1の電気抵抗は、現像剤のキャリアの電気抵抗よりも高くなるように、それぞれの材質が選択されていたが、材質M0の電気抵抗は、少なくとも材質M1の電気抵抗よりも低ければよい。これにより、現像スリーブ650に電圧が印加されると、溝部651以外である外周面650Sに保持された現像剤に対する印加電圧は、溝部651に保持された現像剤に対する印加電圧よりも速く変化する。要するに、現像剤保持体の表面のうち、溝部以外の部分の表面における電気抵抗は、溝部の表面における電気抵抗よりも低ければよい。
【符号の説明】
【0048】
10…制御部、100…画像形成装置、20…記憶部、30…通信部、40…操作部、50…画像形成部、501…給紙トレイ、502…用紙搬送ロール、503…露光装置、504…転写ユニット、5041…感光体ドラム、5042…ローラ型帯電装置、5044…一次転写ロール、5045…ドラムクリーナ、5046…除電装置、504Y,504M,504C,504K…転写ユニット、505…中間転写ベルト、506…ベルト搬送ロール、507…二次転写ロール、508…バックアップロール、509…定着装置、5091…加熱ロール、5092…加圧ロール、510…排出口、511…排出用紙受、61…現像装置、65…現像ローラ、650…現像スリーブ、650C…中心軸、650P…仮想平面、650S…外周面、651…溝部、651A…上流側内壁面、651B…下流側内壁面、651C…頂部、66…攪拌部、67…現像部、68…スクリュ、69…板、70…現像ケーシング、71…トナー濃度センサ、72…マグネットローラ、73…現像ドクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界を発生させる磁界発生手段と、
前記磁界発生手段の周囲を覆い、電圧が印加されて回転する筒状の現像剤保持体であって、回転軸方向に延びる複数の溝部を外周面に有し、前記磁界発生手段によって発生させられた磁界により、磁性体を含む現像剤を外周面に保持して、静電潜像を保持する像保持体に前記現像剤を供給する現像剤保持体とを具備し、
前記溝部の表面における電気抵抗は、前記現像剤に含まれる磁性体の電気抵抗よりも高い
ことを特徴とする現像装置。
【請求項2】
前記現像剤保持体の表面のうち、前記溝部以外の部分の表面は、前記溝部の表面よりも滑らかである
ことを特徴とする請求項1に記載の現像装置。
【請求項3】
前記現像剤保持体に電圧が印加されると、前記溝部以外に保持された現像剤に対する印加電圧は、当該溝部に保持された現像剤に対する印加電圧よりも速く変化する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の現像装置。
【請求項4】
前記現像剤保持体の表面のうち、前記溝部以外の部分の表面における電気抵抗は、前記溝部の表面における電気抵抗よりも低い
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の現像装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の現像装置と、
静電潜像を保持し、前記現像装置から前記現像剤を供給される像保持体と、
前記現像装置から供給された現像剤で現像された像を前記像保持体から記録媒体に転写する転写手段と
を具備することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−69898(P2011−69898A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219409(P2009−219409)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】